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特許7331163偏波共用折り返しダイポール素子及びアンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】偏波共用折り返しダイポール素子及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20230815BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20230815BHJP
   H01Q 9/26 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q21/06
H01Q9/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022007806
(22)【出願日】2022-01-21
(65)【公開番号】P2023106837
(43)【公開日】2023-08-02
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】牧山 真之
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大岳
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-119551(JP,A)
【文献】特開2005-203841(JP,A)
【文献】特開2001-196846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0074339(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/24
H01Q 21/06
H01Q 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接して配置される4つの中央部と、該中央部の隣り合った異なる2つから互いに平行して延在する2本の平行線部および該2本の平行線部のそれぞれを遠位端において短絡している短絡部を含む素子部とを有し、該素子部により隣り合う2つの中央部が互いに物理的に接続されており、前記素子部が互いに90度の角度をもって前記中央部から略同一平面に四方に延びており、前記2本の平行線部は折り返しダイポール素子として動作するものである、偏波共用折り返しダイポール素子。
【請求項2】
前記中央部と前記素子部との一部の上に配置された無給電素子をさらに含む、請求項1に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
【請求項3】
前記無給電素子は略十字形状を有している、請求項2に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
【請求項4】
前記遠位端における前記2本の平行線部のそれぞれの幅は、当該中央部における前記2本の平行線部の幅よりも細くなっている、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
【請求項5】
前記中央部から前記遠位端までの長さは、下限周波数の波長をλとしてλ/4である、請求項1~4のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
【請求項6】
反射部と、
前記反射部に取り付けられた、少なくとも1つの請求項1~5のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子と
を含んでなり、
それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記平行線部が、前記中央部から偏波方向に対して±45度方向へと延在するように前記反射部に取り付けられていることを特徴とする、偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
【請求項7】
ーバンドとは異なる周波数帯域に対応し、前記反射部に取り付けられる別の放射素子をさらに含み、該別の放射素子は、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記偏波方向に配置されている、請求項6に記載の偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
【請求項8】
前記異なる周波数帯域はハイバンドである、請求項7に記載の偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
【請求項9】
反射部と、
水平方向及び垂直方向へと各放射素子が延在するように前記反射部に取り付けられた、少なくとも1つのローバンド放射素子と、
前記少なくとも1つのローバンド放射素子と所定の素子間隔で隣接して配置され、前記反射部に取り付けられた、請求項1~5のいずれか一項に記載の少なくとも1つの偏波共用折り返しダイポール素子であって、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記2本の平行線部が、前記水平方向及び前記垂直方向に対して±45度方向へと延在するように前記反射部に取り付けられている、少なくとも1つの偏波共用折り返しダイポール素子と
を含んでなる、偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
【請求項10】
前記所定の素子間隔は、前記偏波共用折り返しダイポール素子の下限周波数の波長をλとした場合に0.5λ以下である、請求項9に記載の偏波共用偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信システム等の基地局アンテナに関し、特に、偏波共用ダイポール素子とそれを含むアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムでは複数の広帯域な周波数帯を用いて運用するために各周波数帯の放射素子を1つに収納したアンテナを使用している。また、MIMO通信による通信速度向上のために複数の放射素子を用いることから、アンテナ内部で各放射素子が近接することにより指向性等の電気特性な影響を与えることになる。
【0003】
図13(A)に、従来の偏波共用ダイポール素子100’の一例を示す。ここで、偏波共用ダイポール素子100’は、半波長ダイポール構造である2つの直交する放射素子110a’及び110b’を有する。放射素子110a’及び110b ’は互いの中央部付近で直交している。直交する中央付近に設けられた給電部(図示せず)から放射素子110a’及び110b’にそれぞれ給電することによって、偏波共用ダイポール素子100’をローバンド放射素子(900MHz帯)として使用することができる。従来の±45°偏波共用ダイポール素子100’は半波長ダイポール構造である2つの直交する放射素子110a’及び110b’を有し、各放射素子110a’及び110b ’は偏波方向(図13(A)の左側の2つの矢印で示す±45度方向)に延在するように配置されている。図13(B)は、偏波共用ダイポール素子100’に偏波方向(±45度方向)で給電した場合の電流分布を示す。図13(B)から、偏波方向に給電した場合、偏波共用ダイポール素子100’の偏波方向に延在している放射素子110a’に電流が多く分布していることがわかる。一般に、半波長ダイポール構造を有する従来の偏波共用ダイポール素子100’のインピーダンスは、約73Ωである(このことは、例えば、非特許文献1の第51頁に記載がある)。ここで、従来の偏波共用ダイポール素子の構成で例えば、ローバンド(Low-band:900MHz帯)に対応したプリント基板の偏波共用ダイポール素子100’は2つの放射素子110a’及び110b’の各幅が20mmとした場合、従来の偏波共用ダイポール素子100’のインピーダンスは約60Ωである。図13(C)は、従来の偏波共用ダイポール素子100’のリターンロスを示すグラフである。図13(C)の破線で示すように、従来の偏波共用ダイポール素子100’は、リターンロス-10dB以下が720~780MHzの範囲となり比帯域が8%となる。なお、かかる比帯域は、例えば、放射素子110a’及び110b ’の形状やインピーダンスを変更することによって広くすることができる。
【0004】
次に、図14は、図13(A)の従来の偏波共用ダイポール素子100’一つに対して4つのハイバンド放射素子120a~120dとのセットを含み、4セットが反射部130に取り付けられた、従来の偏波共用アンテナを示す。図14では、4つのハイバンド放射素子120a~120dは、従来の偏波共用ダイポール素子100’の4つの放射素子110a’~110d’にそれぞれ隣接して配置されている。ここで、図14の従来の偏波共用アンテナは、ローバンド放射素子に対応する偏波共用ダイポール素子100’の4つの放射素子110a’及び110b’と、ハイバンド放射素子120a~120dとが、いずれも偏波方向(±45度方向)に配置されている(つまり、図14の従来の偏波共用アンテナでは、ローバンド放射素子110a’及び110b’とハイバンド放射素子120a’~120d ’とが放射方向において互いに重なりあっている)。そのため、図14の従来の偏波共用アンテナでは、アンテナの指向性等の電気特性が影響を受ける。
【0005】
次に、図15(A)は、ハイバンド放射素子120aを構成する4つの素子120a’~120d’の放射方向においてローバンド放射素子110a”及び110b”が重なっていない従来の別の偏波共用アンテナのセットを含み、4セットが反射部130に取り付けられた、従来の偏波共用アンテナの一例である。そのような従来の別の偏波共用アンテナや偏波共用アンテナの一例は、例えば、特許文献1の図4に記載されている。ここで、図15(A)に示す従来のVH偏波共用アンテナとハイブリット回路を用いた構成は、図14の従来の偏波共用ダイポール素子100’を偏波方向に対して45度回転したものとなっているため、ローバンド放射素子110a”及び110b”による影響が軽減される。しかし、図15(A)に示す従来のVH偏波共用アンテナで±45度偏波とするには、ローバンド放射素子110a”に0度の位相信号を入力し、放射素子110b”に180度位相差をかけて合成するために図15(B)に示されるハイブリッド回路を使用する必要がある。そのため、図15(A)の従来の別の偏波共用アンテナは、図14の従来の偏波共用アンテナよりも構成が複雑になる。また、図15(A)の従来の別の偏波共用アンテナは、ハイブリッド回路を使用することによって、偏波間結合量がハイブリッド回路のポート間結合量特性の影響を受ける。また、広帯域である場合に周波数によってハイブリッドの位相量に差異があることから、合成される指向性に違いが生じる。そのため、図15(A)の従来の別の偏波共用アンテナは、一般に、ハイブリッド回路を使用しない偏波共用アンテナより、偏波間結合量や指向性の電気特性が劣化する傾向にある。
【0006】
次に、図16(A)は、ハイブリッド回路を使用することなく、偏波方向(±45度方向)にハイバンド放射素子を配置する空間(4つの破線の円で示す)を確保した、従来のX形偏波共用ダイポール素子200の一例を示す。ここで、従来のX形偏波共用ダイポール素子200は、2つのX形のローバンド放射素子210a及び210bを互いに直交に配置している。図16(B)は、従来のX形偏波共用ダイポール素子200に偏波方向(図16(A)において矢印で示す方向)で給電した場合の電流分布を示す。図16(B)より、従来のX形偏波共用ダイポール素子200は、図13(B)の電流分布と同様、給電点から励振されて給電される素子(図16(A)のL字形のローバンド放射素子210a)について強い電流分布が発生している。そして、従来のX形偏波共用ダイポール素子200は、給電点から励振されて給電される素子(図16(A)のX形のローバンド放射素子210a)のみならず、かかる給電される素子に隣接する別の素子(図16(A)のX形のローバンド放射素子210b)にも、結合に起因する僅かな電流分布が見られる。かかる従来のX形偏波共用ダイポール素子200は、約60Ωのインピーダンスを有し、一般的なダイポール素子よりも広帯域な特性を得ることができる。また、偏波方向の空間を維持しつつ、さらに広帯域化を図るため無給電素子を配置することができる。図16(C)は、従来のX形偏波共用ダイポール素子200のリターンロスを示すグラフである。従来のX形偏波共用ダイポール素子200は、図16(C)に破線で示すように、リターンロス-10dB以下が670~790MHzの範囲となり比帯域が16%となる。
【0007】
次に、図17(A)は、従来のX形偏波共用ダイポール素子200をより広帯域化するために無給電素子240を追加した、従来の別のX形偏波共用ダイポール素子300を示す。そして、図17(A)の右の図は、従来の別のX形偏波共用ダイポール素子300を、図17(A)の左の図に示す断面をX’方向からみたときの断面図を示す。ここで、無給電素子240は、2つのX形のローバンド放射素子210a及び210bの上にそれぞれ延在する十字型をしている。そして、2つのX形のローバンド放射素子210a及び210bは、無給電素子240と反射部130との間に配置されている。
【0008】
図17(C)は、図16(B)で説明した従来のX形偏波共用ダイポール素子200の電流分布を簡略化したものである。ここで、図17(C)は、給電点から励振されて給電される素子(図16(A)のX形のローバンド放射素子210a)を流れる電流(実線で示す矢印)と、これらの給電される素子に隣接する別の素子(図16(A)のX形のローバンド放射素子210b)を流れる電流(不要波:破線で示す矢印)とを示している。一般に、無給電素子240は銅またはアルミニウムを含む。そのため、図17(A)の従来のX形偏波共用ダイポール素子300の場合、給電点から励振される放射素子の偏波成分の電流と、この放射素子に隣接して配置された別の放射素子から結合によって励振される電流(不要波)とが、無給電素子240において合成されることになる。
【0009】
図18は、図17(A)に示す従来のX形偏波共用ダイポール素子300のリターンロスを示すグラフである。従来のX形偏波共用ダイポール素子300は、リターンロス-10dB以下が(図18に破線で示される)680~770MHzの範囲となり比帯域が12%である。かかる比帯域の値(12%)は、無給電素子240を有しない図16(A)に示す従来のX形偏波共用ダイポール素子200の比帯域の値(16%)よりも低いものである。このように比帯域が低くなったのは、図16(A)のX形のローバンド放射素子210bを流れる電流(不要波)が無給電素子240において合成されたためと考えられる。これによって、図17(A)に示す従来のX形偏波共用ダイポール素子200におけるインピーダンス(60Ω)は約40Ωとやや低くなる。無給電素子240による励振のピークが小さくなったのは(図18の970MHz付近にみられるピークに対応する)、210bに励振された電流が無給電素子240に結合され、無給電素子240の励振による比帯域の拡大という効果が得られにくくなったためと考えられる。そのため、図17(A)に示す、従来のX形偏波共用ダイポール素子200に無給電素子240を単に追加した構成を採用したとしても、無給電素子240の励振による広帯域化を達成するのは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2017-508402号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】「入門アンテナおよび電波の伝わり方」 財団法人電気通信振興会 2007年4月初版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、偏波方向を±45度とした場合に、ハイバンドや他の周波数帯の放射素子をローバンド放射素子に近接配置したとしても、指向性の乱れ等の電気特性の影響を受けず、広帯域な特性を有する偏波共用アンテナを提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、2つのL字形の折り返しダイポール素子を含む偏波共用折り返しダイポール素子を提供する。
すなわち、本発明は、互いに隣接して配置される4つの中央部と、該中央部の隣り合った異なる2つから互いに平行して延在する2本の平行線部および該2本の平行線部のそれぞれを遠位端において短絡している短絡部を含む素子部とを有し、該素子部により隣り合う2つの前記中央部が互いに物理的に接続されており、前記素子部が互いに90度の角度をもって前記中央部から略同一平面内に四方に延びており、前記2本の平行線部は折り返しダイポール素子として動作するものである、偏波共用折り返しダイポール素子を提供する。
また、上記の偏波共用折り返しダイポール素子は、前記中央部と前記素子部との一部の上に配置された無給電素子をさらに含む態様であってもよい。ここで、前記無給電素子は略十字形状を有している態様であることが好ましい。さらに、前記遠位端における前記2本の平行線部のそれぞれの幅は、当該中央部における前記2本の平行線部の幅よりも細くなっている態様であってもよい。ここで、記中央部から前記遠位端までの長さは、下限周波数の波長をλとしてλ/4であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の偏波共用折り返しダイポール素子を含む偏波共用折り返しダイポールアンテナも提供する。
すなわち、本発明は、
反射部と、
前記反射部に取り付けられた、少なくとも1つの上記の偏波共用折り返しダイポール素子であって、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記2本の平行線部が、前記中央部から偏波方向に対して±45度方向へと延在するように前記反射部に取り付けられている、少なくとも1つの請求項1~5のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子と
を含んでなる、偏波共用折り返しダイポールアンテナを提供する。
また、上記の偏波共用折り返しダイポールアンテナは、ーバンドとは異なる周波数帯域に対応し、前記反射部に取り付けられる別の放射素子をさらに含み、該別の放射素子は、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記偏波方向に配置されている態様であってもよい。ここで、前記異なる周波数帯域はハイバンドである態様であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明は、同じ周波数帯に対応する従来の放射素子と組み合わされた偏波共用折り返しダイポール素子を含む偏波共用折り返しダイポールアンテナも提供する。
すなわち、本発明は、 反射部と、 水平方向及び垂直方向へと各放射素子が延在するように前記反射部に取り付けられた、少なくとも1つのローバンド放射素子と、
前記少なくとも1つのローバンド放射素子と所定の素子間隔で隣接して配置され、前記反射部に取り付けられた、上記の少なくとも1つの偏波共用折り返しダイポール素子であって、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記2本の平行線部が、前記水平方向及び前記垂直方向に対して±45度方向へと延在するように前記反射部に取り付けられている、上記の少なくとも1つの偏波共用折り返しダイポール素子と を含んでなる、偏波共用折り返しダイポールアンテナを提供する。
ここで、前記所定の素子間隔は、前記偏波共用折り返しダイポール素子の下限周波数の波長をλとした場合に0.5λ以下である態様であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の偏波共用ダイポール素子によれば、従来のダイポール素子とは異なり偏波方向に放射素子を伸ばさない構成を採用しているため、±45度の偏波方向に他の周波数帯の放射素子を配置することができる。そのため、本発明の偏波共用ダイポール素子は、他の放射素子との近接による電気的な影響を軽減することができ、ハイブリッドを含んだ構成ではないことから周波数による指向性の違いが少なく、良好な偏波間結合量の特性を得ることができる。
また、本発明の偏波共用ダイポール素子によれば、従来のローバンド放射素子と交互に配置した場合に、同一偏波でありながら、従来のローバンド放射素子の素子間隔よりも短い素子間隔で高密度に配置することができる。そのため、本発明の偏波共用ダイポール素子によれば、電気チルトをかける際に発生するグレーティングローブを広帯域にわたって抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施態様である偏波共用折り返しダイポール素子1の概略図である。
図2】(A)は、一般的な折り返しダイポール素子2’の概略図である。(B)は、折り返しダイポール素子2’を中央部で変形した、2つのL字形の折り返しダイポール素子1及び2を略十字形状となるように配置した偏波共用折り返しダイポール素子1に対して、偏波方向45度で給電点から給電した場合に、偏波共用折り返しダイポール素子1の2本の平行線部をそれぞれ流れる偏波成分の電流を示す。
図3】偏波共用折り返しダイポール素子1の電流分布を示す。
図4】偏波共用折り返しダイポール素子1のリターンロスを示すグラフである。
図5】(A)は、偏波共用折り返しダイポール素子1に無給電素子4を追加した、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aを示す概略図である。(B)は、図5(A)に示す断面をX方向からみたときの、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの断面図である。
図6】別の偏波共用折り返しダイポール素子1aでのリターンロスを示すグラフである。
図7】別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの素子単体としてのリターンロスと偏波間結合量との実測値を示すグラフである。
図8】(A)は、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aと偏波方向に配置された4つのハイバンド放射素子120a~120dとが反射部130に取り付けられたアンテナセットを複数個含む、偏波共用アンテナ10を示す。(B)は、2つのローバンド放射素子110a’及び110b’と4つのハイバンド放射素子120a’~120d’とが、いずれも偏波方向に配置されて反射部130’に取り付けられたアンテナセットを複数個含む、従来の偏波共用アンテナ1000’を示す。
図9】(A)は、図8(A)に示す従来の構成でのハイバンドのリターンロスを示すグラフである。(B)は、ローバンド(900MHz帯)に対応する、図8(B)に示す本発明の偏波共用折り返しダイポール素子に無給電素子を追加した構成のハイバンドのリターンロスを示すグラフである。(C)は、図8(A)及び図8(B)の構造からローバンド放射素子を取り除いてハイバンド放射素子のみとした構造でのリターンロスを示すグラフである。
図10】(A)は、図8(A)の従来の構造と図8(B)に示す本発明の構造とについて、ハイバンド(2000MHz帯)での水平面内指向性を示すグラフである。(B)は、図8(A)の従来の構造と図8(B)に示す本発明の構造とについて、ハイバンド(2000MHz帯)での垂直面内指向性を示すグラフである。
図11】(A)は、水平垂直偏波方向に配置された従来のローバンド放射素子100と、VH水平垂直偏波方向から45度回転して配置された別の偏波共用折り返しダイポール素子1a’とを交互に素子間隔D’で配置した、本発明の一実施態様であるアンテナ10’を示す。(B)は、水平垂直偏波方向に素子間隔Dで配置された複数の従来のローバンド放射素子100を含む、従来のアンテナ1100を示す。
図12】電気チルト30度となる位相を各素子に給電した場合であって、下限周波数の波長をλとした場合に、4つの放射素子を素子間隔0.5λと0.7λとなるようにそれぞれ配置したときに発生するグレーティングローブの違いを示すグラフである。
図13】(A)は、従来の偏波共用ダイポール素子100’の一例である。(B)は、従来の偏波共用ダイポール素子100’に給電した場合の電流分布である。(C)は、従来の偏波共用ダイポール素子100’のリターンロスを示すグラフである。
図14】従来の偏波共用ダイポール素子100’と従来のハイバンド放射素子120a~120dとを含む従来の偏波共用アンテナのセットを含む、従来の偏波共用アンテナの一例である。
図15】(A)は、従来のハイバンド放射素子120aを構成する各素子120a’~120b’の放射方向において従来のローバンド放射素子110a”及び110b”が重なっていない従来の別の偏波共用アンテナのセットを含む、従来の別の偏波共用アンテナの一例である。(B)は、(A)に示す従来の別の偏波共用アンテナの従来のローバンド放射素子110a”に0度位相を入力し110b”に180度位相差をかけて合成するために使用されるハイブリッド回路を示す。
図16】(A)は、ハイブリッド回路を使用することなく偏波方向である±45度方向に別の放射素子を配置する空間を確保した、従来のX形偏波共用ダイポール素子200を示す。(B)は、偏波方向である±45度方向で給電した場合の従来のX形偏波共用ダイポール素子200の電流分布を示す。(C)は、従来のX形偏波共用ダイポール素子200のリターンロスを示すグラフである。
図17】(A)は、従来のX形偏波共用ダイポール素子200に無給電素子240を追加した、従来の別のX形偏波共用ダイポール素子300を示す。(B)は、図17(A)に示す断面をX’方向からみたときの、従来の別のX形偏波共用ダイポール素子300の断面図である。(C)は、図16(B)に示す従来のX形偏波共用ダイポール素子200の電流分布を簡略化したものである。
図18】従来のX形偏波共用ダイポール素子300のリターンロスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本発明の一実施態様である偏波共用折り返しダイポール素子1を示す。偏波共用折り返しダイポール素子1は、金属平板である反射部3に取り付けられている。そして、偏波共用折り返しダイポール素子1は、4つの互いに隣接して配置される中央部20と、中央部20の隣り合った異なる2つから互いに平行して延在する2本の平行線部22、23及び2本の平行線部22、23のそれぞれを遠位端において短絡している短絡部24を含む素子部とを有する。ここで、偏波共用折り返しダイポール素子1は、4つの素子部によって隣り合った前記中央部が互いに物理的に接続されており、各素子部は互いに90度の角度をもって中央部20から略同一平面内に四方に延びている。このように、偏波共用折り返しダイポール素子1は、全体として略十字形状を有するので、ハイバンドなどの他の周波数帯の放射素子を、図1において4つの丸い破線で示すように、偏波方向(±45度方向)に配置できる空間を有している。また、2本の平行線部22、23の幅は、短絡部24の近傍でいずれも細くなっている。短絡部24の近傍で2本の平行線部22、23の幅を細くすることによって、偏波共用折り返しダイポール素子1のインピーダンス整合が容易となる。なお、図1では、反射部3は金属平板としたが、これに限らず、例えば、反射部3は金属メッシュであってもよい。
【0019】
まず、図2(A)を参照して、給電部がある中央部20’と、中央部20’から遠位端へと延在する2本の平行線部22’及び23’と、2本の平行線部22’及び23’を遠位端で短絡する短絡部24’とを含む、一般的な折り返しダイポール素子2’の動作原理を説明する。ここで、隣接する2本の平行線部22’及び23’の間隔がアンテナの基本波長と比べて十分に小さい場合、隣接する2本の平行線部22’及び23’を流れる電流は、各線上で位相が等しく、2本の平行線部22’及び23’を一括して流れるという特性を有する。かかる特性は、例えば、非特許文献1の77頁から78頁に記載されている。このような一般的な折り返しダイポールアンテナ2’のインピーダンスは約300Ωである。
【0020】
次に、図2(B)を参照して、偏波方向45度で中央部20から給電した場合、図1(A)に示す偏波共用折り返しダイポール素子1の2本の平行線部22、23を流れる偏波成分の電流について説明する。ここで、偏波共用折り返しダイポール素子1は、図2(A)に示す折り返しダイポール素子2’を中央部20’でL字形に変形した、(図2(B)においてそれぞれ破線で囲まれた)2つのL字形の折り返しダイポール素子2a及び2bに分けて考えることができる。そのため、図2(B)において2つの矢印で示すように、2つのL字形の折り返しダイポール素子2a及び2bのそれぞれの2本の平行線部22、23が励振するように動作する。そして、図2(B)に示すように、2つのL字形の折り返しダイポール素子2a及び2bのそれぞれの2線の平行線部分22、23を流れる偏波成分の電流は、位相及び大きさが等しく2線を一括して流れることになる。なお、偏波共用折り返しダイポール素子1のインピーダンスは、2つのL字形の折り返しダイポール素子2a及び2bを含むことから約200Ωとなる。
【0021】
図3は、偏波方向45度で給電した場合における、偏波共用折り返しダイポール素子1の電流分布を示す。偏波共用折り返しダイポール素子1は、2線の平行線部分22、23の全体にわたって同一方向に強い電流分布を有している。そのため、偏波共用折り返しダイポール素子1は、素子全体として放射していることがわかる。
【0022】
図4は、偏波共用折り返しダイポール素子1のリターンロスを示すグラフである。偏波共用折り返しダイポール素子1は、(図4の破線で示される)リターンロス-10dB以下の範囲が740~780MHzとなり比帯域が5%となる。
【0023】
図5(A)は、偏波共用折り返しダイポール素子1に無給電素子4を追加した、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aを示す。ここで、無給電素子4は、偏波共用折り返しダイポール素子1の中央部20と2線の平行線部分22、23との上に配置された金属板でありうる。例えば、無給電素子4は銅またはアルミニウムを含みうる。そして、無給電素子4は、偏波共用折り返しダイポール素子1の中央部20から、2線の平行線部分22、23の遠位端へとそれぞれ延在している。そのため、無給電素子4は、全体として略十字形状を有する。また、図5(B)は、図5(A)に示す断面をX方向からみたときの、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの断面図を示す。偏波共用折り返しダイポール素子1aの2線の平行線部分22、23が、いずれも無給電素子4と反射部3との間に配置されている。
ここで、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aは、例えば、偏波共用折り返しダイポール素子1の素子部の各遠位端へと延在する無給電素子4の長さを調整することによって、(図6の970MHz付近のピーク位置に対応する)無給電素子4に起因するピーク位置を調整することができる。図2(B)において説明したように、偏波共用折り返しダイポール素子1では、2つのL字形の折り返しダイポール素子2a及び2bのそれぞれの2線の平行線部分22、23を流れる電流は、位相及び大きさが等しく2線を一括して流れる(つまり、偏波共用折り返しダイポール素子1では、図16(B)や図17(B)で説明した結合に起因する不要波が発生しない)。このことは、(偏波共用折り返しダイポール素子1を含む)別の偏波共用折り返しダイポール素子1aにも同様に当てはまる。そのため、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aのインピーダンスを、上記の不要波の影響を受けることなく、所定の値に維持することができる。なお、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aのインピーダンスは、無給電素子4を追加したことにより200Ωから約150Ωとなり、無給電素子がない時よりマッチングが取れやすくなる。
【0024】
図6は、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aのリターンロスを示すグラフである。別の偏波共用折り返しダイポール素子1aによれば、リターンロス-10dBが760~1000MHzの範囲となり比帯域が27%となるため、広帯域化が実現されている。これは、偏波共用折り返しダイポール素子1と無給電素子4との間で共振が得られたことによって、無給電素子4に起因するピーク(図6の970MHz付近のピーク)が大きくなったことによるものと考えられる。
【0025】
図7(A)~図7(C)は、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの素子単体としての実測値を示す。ここで、図7(A)は、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの素子単体としての+45度偏波のリターンロスの実測値を示すグラフである。また、図7(B)は、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの素子単体としての-45度偏波のリターンロスの実測値を示すグラフである。図7(A)及び図7(B)に実線で示すように、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aは、素子単体として、リターンロス-10dB以下が650~950MHzの範囲となり比帯域が37%となる。また、図7(C)は、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aの素子単体としての偏波間結合量の実測値を示すグラフである。図7(C)に実線で示すように、別の偏波共用折り返しダイポール素子1aは、素子単体として、リターンロス-10dB以下が650~950MHzの範囲となり、偏波間結合量が-25dB程度となる。
【0026】
ここまでは、偏波共用折り返しダイポール素子1と、偏波共用折り返しダイポール素子1に無給電素子4を追加した別の偏波共用折り返しダイポール素子1aとの素子単体としての特徴について説明してきた。次に、図8(A)及び図8(B)を参照して、ローバンドやハイバンドなどの互いに異なる周波数帯に対応する異なる放射素子を含む偏波共用アンテナについて説明する。
ここで、図8(A)は、図5(A)及び図5(B)に示す別の偏波共用折り返しダイポール素子1aと偏波方向(図8(B)の下側に2つの矢印で示す±45度方向)に配置された4つのハイバンド放射素子120a~120dとが反射部130に取り付けられたアンテナセットを複数個含む、偏波共用アンテナ10を示す。また、図8(A)との比較のために、図8(B)は、2つのローバンド放射素子110a’及び110b’と4つのハイバンド放射素子120a’~120d’とが、いずれも偏波方向(図8(B)の下側に2つの矢印で示す±45度方向)に配置されて反射部130’に取り付けられたアンテナセットを複数個含む、従来の偏波共用アンテナ1000’を示す。ここで、図8(B)では、(図14において説明したのと同様に)従来の偏波共用アンテナ1000’の各セットは、2つのローバンド放射素子110a’及び110b’と4つのハイバンド放射素子120a’~120d ’とが放射方向において互いに重なりあっている。そのため、偏波共用アンテナ1000’は、ハイバンド放射素子120a’~120d’がローバンド放射素子110a’~110b ’との干渉によって顕著な影響を受ける。
【0027】
次に、図9(A)及び図9(B)を参照して、図8(A)及び図8(B)において破線でそれぞれ囲まれたハイバンド放射素子(いずれも左列の上から5番目に配置されたハイバンド放射素子)について、+45度偏波で給電した場合のリターンロス特性を比較したグラフを示す。図9(A)は、図8(A)において破線で囲まれたハイバンド放射素子の素子単体としてのリターンロスを示すグラフである。かかるハイバンド放射素子のリターンロスは、(図9(A)において破線で囲まれた)2.5GHz付近ではローバンド放射素子の影響を受けているものの、それ以外の周波数帯ではローバンド放射素子による影響が軽減されている。一方、図9(B)は、図8(B)において破線で囲まれたハイバンド放射素子の素子単体としてのリターンロスを示すグラフである。かかるハイバンド放射素子のリターンロスは、(図9(B)において破線で囲まれた)2GHz~3GHzの範囲にわたって、ローバンド放射素子による影響を受けている。なお、図9(C)は、比較のために、図8(B)に示す従来の偏波共用アンテナ1000’からローバンド放射素子を全て取り除き、ハイバンド放射素子のみとしたアンテナセットでのリターンロスを示すグラフである。ここで、図9(A)及び図9(C)の2GHz~3GHzの範囲と、図9(B)及び図9(C)の2GHz~3GHzの範囲とを比較すると、図9(A)のハイバンド放射素子のリターンロス特性は、図9(B)のリターンロス特性よりも、図9(C)のリターンロス特性に近い。つまり、図8(A)に示す偏波共用アンテナセット10は、図8(B)の従来のアンテナセット1000’と比較して、ローバンド放射素子による影響、つまり結合量に与える影響が軽減されている。
【0028】
図10(A)は、図8(A)の偏波共用アンテナ10と図8(B)の従来の偏波共用アンテナ1000’とについて、ハイバンド(2000MHz帯)での水平面内指向性を示すグラフである。また、図10(B)は、図8(A)の偏波共用アンテナ10と図8(B)の従来の偏波共用アンテナ1000’とについて、ハイバンド(2000MHz帯)での垂直面内指向性を示すグラフである。なお、比較のために、図10(A)及び図10(B)は、図8(B)の従来の偏波共用アンテナ1000’から全てのローバンド放射素子を取り除いた構造について、ハイバンド(2000MHz帯)での水平面内指向性及び垂直面内指向性も点線で示している。図10(A)及び図10(B)において実線で示される偏波共用アンテナ10は、図10(A)及び図10(B)において破線で示される従来の偏波共用アンテナ1000’と比較して、水平面内指向性及び垂直面内指向性の劣化が軽減されている。特に、偏波共用アンテナ10は、図10(A)において破線で囲まれた30度~90度付近と、図10(B)において破線で囲まれた45度~60度付近において、従来の偏波共用アンテナ1000’よりも水平面内指向性及び垂直面内指向性の劣化が軽減されている。なお、(図10(A)及び図10(B)において点線で示される)従来の偏波共用アンテナ1000’から全てのローバンド放射素子を取り除いた構造と、従来の偏波共用アンテナ1000’とを比較すると、従来の偏波共用アンテナ1000’は、水平面内指向性及び垂直面内指向性についてローバンド放射素子の影響を受けていることがわかる。
【0029】
次に、図11(A)及び図11(B)を参照して、水平、垂直偏波(VH偏波共用)において、ローバンドなどの所定の周波数帯に対応する放射素子を複数個含むアンテナについて説明する。一般に、図11(B)に示すように、従来の放射素子100の素子長Lは、下限周波数の波長をλとして約0.5λの長さとすることが好ましい。そのため、水平、垂直偏波において、所定の周波数帯に対応する同じ放射素子を複数個含むアンテナの場合、放射素子同士の機械的な接触を避けるために、図11(B)に示すように、放射素子の素子間隔Dは、素子長Lと同程度である約0.5λとする必要がある。
なお、下限周波数の波長λからみた素子間隔Dは0.5λ程度であるが、上限周波数の波長λからみた素子間隔Dは、波長比で0.5よりも大きくなる。例えば、周波数帯域が700~1000MHz(比帯域:35%)の場合、下限周波数の波長λが700MHz(波長λ:428mm)であり、上限周波数の波長λが1000MHz(波長λ:300mm)である。そのため、放射素子の素子長L(L=220mm)は、波長λ及び波長λを用いて0.51λまたは0.73λと表せる。つまり、広帯域であって比帯域の周波数が高くなるほど、上限周波数の波長λで表される素子間隔Lは、下限周波数λとの波長比で大きくなることに留意する必要がある。
【0030】
図11(A)は、水平垂直偏波方向に配置された従来のローバンド放射素子100と、水平垂直偏波方向から45度回転して配置された別の偏波共用折り返しダイポール素子1a’とを交互に素子間隔D’で配置した、本発明の一実施態様であるアンテナ10’を示す。一方、図11(B)は、水平垂直偏波方向に素子間隔Dで配置された複数の従来のローバンド放射素子100を含む、従来の偏波共用アンテナ1100を示す。図11(A)の偏波共用アンテナ10’では、別の偏波共用折り返しダイポール素子1a’が水平垂直偏波方向から45度回転して配置されているため、図11(A)の素子間隔D’は、図11(B)の素子間隔Dよりも短くすることができる。すなわち、図11(A)の偏波共用アンテナ10’は、図11(B)の従来の偏波共用アンテナ1100よりも、ローバンド放射素子を反射板130上に高密度に配置することができる。そのため、図11(A)の偏波共用アンテナ10’は、広帯域にわたってグレーティングローブを抑制することが可能になる。なお、複数のローバンド放射素子の素子間隔を短く配置(つまり、高密度に配置)することによってグレーティングローブを抑制することができることについては、図12を用いて説明する。
【0031】
図12は、電気チルト30度となる位相を各素子に給電した場合であって、下限周波数の波長をλとし、4つの同じローバンド放射素子の素子間隔をそれぞれ0.5λと0.7λとなるように配置した場合に発生するグレーティングローブの違いを示すグラフである。図12から、素子間隔が0.5λよりも0.7λの方が+30度付近のメインローブとは異なる方向で多くのグレーティングローブが発生している。つまり、ローバンド放射素子の素子間隔が短い方(高密度に配置する方)がグレーティングローブの発生が抑制されている。なお、このようなグレーティングローブのレベルは、より大きな電気チルトを与えることによってより高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
移動体通信システム等の基地局アンテナの一例として本発明について説明してきた。しかしながら、当業者であれば、そのような移動体通信システム等の基地局アンテナに限らず、あらゆる用途のアンテナについて本発明を適用できることについて理解できるであろう。
なお、本願の出願当初の開示事項を維持するために、本願の出願当初の請求項1~10の記載内容を以下に追加する。
(請求項1)
互いに隣接して配置される4つの中央部と、該中央部の隣り合った異なる2つから互いに平行して延在する2本の平行線部および該2本の平行線部のそれぞれを遠位端において短絡している短絡部を含む素子部とを有し、該素子部により隣り合う2つの中央部が互いに物理的に接続されており、前記素子部が互いに90度の角度をもって前記中央部から略同一平面に四方に延びている、偏波共用折り返しダイポール素子。
(請求項2)
前記中央部と前記素子部との一部の上に配置された無給電素子をさらに含む、請求項1に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
(請求項3)
前記無給電素子は略十字形状を有している、請求項2に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
(請求項4)
前記遠位端における前記2本の平行線部のそれぞれの幅は、当該中央部における前記2本の平行線部の幅よりも細くなっている、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
(請求項5)
前記中央部から前記遠位端までの長さは、下限周波数の波長をλ としてλ /4である、請求項1~4のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子。
(請求項6)
反射部と、
前記反射部に取り付けられた、少なくとも1つの請求項1~5のいずれか一項に記載の偏波共用折り返しダイポール素子と
を含んでなり、
それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記平行線部が、前記中央部から偏波方向に対して±45度方向へと延在するように前記反射部に取り付けられていることを特徴とする、偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
(請求項7)
前記ローバンドとは異なる周波数帯域に対応し、前記反射部に取り付けられる別の放射素子をさらに含み、該別の放射素子は、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記偏波方向に配置されている、請求項6に記載の偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
(請求項8)
前記異なる周波数帯域はハイバンドである、請求項7に記載の偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
(請求項9)
反射部と、
水平方向及び垂直方向へと各放射素子が延在するように前記反射部に取り付けられた、少なくとも1つのローバンド放射素子と、
前記少なくとも1つのローバンド放射素子と所定の素子間隔で隣接して配置され、前記反射部に取り付けられた、請求項1~5のいずれか一項に記載の少なくとも1つの偏波共用折り返しダイポール素子であって、それぞれの前記偏波共用折り返しダイポール素子の前記2本の平行線部が、前記水平方向及び前記垂直方向に対して±45度方向へと延在するように前記反射部に取り付けられている、少なくとも1つの偏波共用折り返しダイポール素子と
を含んでなる、偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
(請求項10)
前記所定の素子間隔は、前記偏波共用折り返しダイポール素子の下限周波数の波長をλ とした場合に0.5λ 以下である、請求項9に記載の偏波共用偏波共用折り返しダイポールアンテナ。
【符号の説明】
【0033】
1 偏波共用折り返しダイポール素子
1a 別の偏波共用折り返しダイポール素子
20 中央部
22、23 平行線部
24 短絡部
3、130、130’ 反射部
4、240 無給電素子
10、10’偏波共用アンテナ
100、100’、100” 偏波共用ダイポール素子(従来例)
110a’~110d’、110a”~110d” ローバンド放射素子(従来例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18