(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】超音波処置具、及び超音波処置具の制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/32 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
A61B17/32 510
(21)【出願番号】P 2022015785
(22)【出願日】2022-02-03
【審査請求日】2022-02-03
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦葉 裕
(72)【発明者】
【氏名】前田 康博
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 稔
(72)【発明者】
【氏名】長尾 圭将
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特許第6084349(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/163450(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/088012(WO,A1)
【文献】特開2001-087274(JP,A)
【文献】特表2007-520255(JP,A)
【文献】特開2002-143772(JP,A)
【文献】米国特許第05397293(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
17/22
17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を生成するトランスデューサと、
遠位端部に処置部が設けられ、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達するために前記トランスデューサに接続される伝達ロッドと、
前記処置部の処置面に対して開位置から閉位置まで相対的に移動可能なジョーと、
絶縁材料によって構成され、前記伝達ロッドに発生する横振動を減衰させる減衰機構と、を備え、
前記減衰機構は、
前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記伝達ロッドに接触し、
前記ジョーが前記閉位置にあるときに、前記伝達ロッドから離隔される、
超音波処置具。
【請求項2】
前記減衰機構は、樹脂によって構成されている、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項3】
前記減衰機構は、ゴムによって構成されている、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項4】
前記減衰機構は、前記処置面に対して垂直に前記伝達ロッドを覆う、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項5】
前記減衰機構は、前記処置部の遠位端から近位端方向に前記超音波振動の半波長以内に配置される、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項6】
前記減衰機構は、前記ジョーの支
点に配置される、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項7】
前記伝達ロッドは、
前記ジョーが前記開位置から前記閉位置に移動することに合わせて、前記ジョーが閉じる方向に変位する、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項8】
前記減衰機構と前記伝達ロッドとの間の前記接触は、前記横振動の節では発生しない、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項9】
前記減衰機構と前記伝達ロッドとの間の前記接触は、前記超音波振動である縦振動の腹では発生しない、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項10】
前記減衰機構と前記伝達ロッドとの間の前記接触は、前記横振動の腹で発生する、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項11】
前記処置部は、生体組織を処置するように構成されている、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項12】
前記処置部は、高周波電流を使用した処置のための電極として構成されている、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項13】
前記減衰機構は、前記伝達ロッドと前記超音波処置具の他の部分との間の短絡を防止する、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項14】
前記処置部は、湾曲した形状を有する、請求項1に記載の超音波処置具。
【請求項15】
超音波振動を生成するトランスデューサと、
遠位端部に処置部が設けられ、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達するために前記トランスデューサに接続される伝達ロッドと、
前記処置部の処置面に対して開位置から閉位置まで相対的に移動可能なジョーと、
前記伝達ロッドと平行な方向に移動するスライダと、
を備え、
前記スライダ及び前記ジョーは、
前記スライダが前記伝達ロッドの近位端部に向かって移動すると、前記ジョーが前記開位置に移動し、前記スライダが前記伝達ロッドの前記遠位端部に向かって移動すると、前記ジョーが前記閉位置に移動するように構成されており、
前記スライダは、前記伝達ロッドに発生する横振動を減衰させる減衰機構を有し、
前記減衰機構は、
前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記伝達ロッドに接触し、
前記ジョーが前記閉位置にあるときに、前記伝達ロッドから離隔される、
超音波処置具。
【請求項16】
前記減衰機構は、前記スライダと一体的に移動する、請求項
15に記載の超音波処置具。
【請求項17】
超音波処置具の制御方法であって、
超音波振動を生成することと、
処置部を含む伝達ロッドをトランスデューサに接続して、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達することと、
前記処置部の処置面に対してジョーを移動させて開閉させることと、
を含み、
前記ジョーが開位置にあるときに、
絶縁材料によって構成された減衰機構が前記伝達ロッドに接触し、
前記ジョーが閉位置にあるときに、前記減衰機構が前記伝達ロッドから離隔される、
超音波処置具の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組織を切開及び凝固するために使用される超音波処置具、及び超音波処置具の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波処置具は、電力を超音波振動に変換する圧電素子を含む超音波トランスデューサを備える。この超音波振動は、血管シーリングなどの患者の生体組織の処置を実行するために、ジョーとの間で当該生体組織を把持する処置部を含む伝達ロッドに伝達される。この伝達ロッドは、望ましくない横振動を生じさせ、血管のシーリング性能の劣化、発熱、異常応力、及び異音などの問題を引き起こすことがある。
【0003】
図12は、関連技術(例えば、特許文献1参照)における超音波処置具の図である。関連技術の外科手術システム1は、ハンドピース2、出力制御装置である本体装置3、フットスイッチ4、及び対極板5から構成されている。ハンドピース2は、超音波と高周波電流の両方を使用した処置が可能な超音波処置具である。ハンドピース2は、着脱可能なケーブル2aを介して本体装置3に接続される。ハンドピース2は、挿入部分2b及びハンドル部分2cを有する。コネクタ部分3aは、ハンドピース2を本体装置3と接続する。本体装置3は、超音波振動及び高周波電流の少なくとも一方の出力を制御する。本体装置3は、ハンドピース2の性能を制御するための複数のディスプレイ3b、及び複数の各種操作ボタン3cを有する。フットスイッチ4は、ケーブル4aを介して本体装置3に接続され、超音波振動を使用した処置、高周波電流を使用した処置、または両方を使用した処置のいずれかのモードに切り換える。対極板5は、ケーブル5aを介して本体装置3に接続される。対極板5は、高周波電流の単極出力時に被検者を通過する電流を戻すための戻り電極である。
【0004】
図13は、関連技術(例えば、特許文献2参照)における超音波処置具の一部分の図である。関連技術の超音波処置具は、超音波振動を伝達する伝達ロッド86を含む。伝達ロッド86は、減衰シース160で覆われている。減衰シース160は、細長い管状部材174でさらに覆われている。直径方向に対向する開口部162b,162c、ならびに縦方向のスリット164が、減衰シース160上に形成されている。コンプライアント部材190b,190c(Oリング及びフェンダー)が減衰シース160の外周に配置され、これらは、所望の縦振動の減衰を最小化するために、好ましくは節の周囲に配置される。
【0005】
減衰シース160は、伝達ロッド86の軸方向運動または縦振動からのエネルギーの散逸を最小化するために、好ましくは摩擦係数の低い高分子材料で構成される。減衰シース160は、好ましくは伝達ロッド86と軽く接触して、伝達ロッド86の非軸方向もしくは横方向の左右振動を減衰または制限する。減衰シース160は、所望の縦振動の節及び腹に対して伝達ロッド86の長さに沿ってランダムに位置する望ましくない振動の横方向運動を減衰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8,696,666号明細書
【文献】米国特許第5,989,275号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伝達ロッド86を振動させた際に発生する横振動は、血管のシーリング性能の低下、発熱、異常応力、及び異音などの問題につながる可能性がある。関連技術の超音波処置具では、減衰シース160などの構造体を有していても、そのような減衰シース160は、非軸方向もしくは横方向の左右振動を減衰または制限する必要がない領域では、常に伝達ロッド86の全体に接触している。例えば、関連技術の超音波処置具が操作され、処置手順中に人体組織などの被検体を把持する場合、処置部と人体組織または他の把持機構との間で生じる直接接触が横振動の減衰をもたらすので、伝達ロッド86で発生する横振動を減衰させる必要性が減少する。さらに、減衰シース160と伝達ロッド86が接触することで、縦振動を使用した処置手順中の電力及び摩擦熱の上昇を引き起こす。したがって、処置部を把持に使用しない場合には減衰が発生するが、処置部を人体組織の把持に使用する場合には減衰が発生しない構成が好ましい。
【0008】
本開示の目的は、伝達ロッドの横振動から生じる発熱、異常応力、及び異音などの問題を効率よく抑制することができる超音波処置具、及び超音波処置具の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波処置具は、超音波振動を生成するトランスデューサと、遠位端部に処置部が設けられ、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達するために前記トランスデューサに接続される伝達ロッドと、前記処置部の処置面に対して開位置から閉位置まで相対的に移動可能なジョーと、絶縁材料によって構成され、前記伝達ロッドに発生する横振動を減衰させる減衰機構と、を備え、前記減衰機構は、前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記伝達ロッドに接触し、前記ジョーが前記閉位置にあるときに、前記伝達ロッドから離隔される。
【0010】
また、本開示に係る超音波処置具は、超音波振動を生成するトランスデューサと、遠位端部に処置部が設けられ、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達するために前記トランスデューサに接続される伝達ロッドと、前記処置部の処置面に対して開位置から閉位置まで相対的に移動可能なジョーと、前記伝達ロッドと平行な方向に移動するスライダと、を備え、前記スライダ及び前記ジョーは、前記スライダが前記伝達ロッドの近位端部に向かって移動すると、前記ジョーが前記開位置に移動し、前記スライダが前記伝達ロッドの前記遠位端部に向かって移動すると、前記ジョーが前記閉位置に移動するように構成されており、前記スライダは、前記伝達ロッドに発生する横振動を減衰させる減衰機構を有し、前記減衰機構は、前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記伝達ロッドに接触し、前記ジョーが前記閉位置にあるときに、前記伝達ロッドから離隔される。
【0011】
また、本開示に係る超音波処置具の制御方法は、超音波振動を生成することと、処置部を含む伝達ロッドをトランスデューサに接続して、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達することと、前記処置部の処置面に対してジョーを移動させて開閉させることと、を含み、前記ジョーが開位置にあるときに、絶縁材料によって構成された減衰機構が前記伝達ロッドに接触し、前記ジョーが閉位置にあるときに、前記減衰機構が前記伝達ロッドから離隔される。
【0012】
本発明の他のシステム、方法、特徴及び利点は、以下の図及び詳細な説明を検討することによって、当業者には明らかであるか、または明らかになるであろう。全てのそのような追加的なシステム、方法、特徴及び利点は、本明細書の説明に含まれ、本開示の範囲内にあり、下記の請求項によって保護されることを意図している。本節のいかなる内容も、それらの請求項を制限するものとして取られるべきではない。さらなる態様及び利点は、開示された超音波処置具の実施形態と関連して以下に説明される。開示された超音波処置具の前述の一般的な説明と以下の詳細な説明の両方は、例であり、特許請求されるような開示された超音波処置具のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されよう。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る超音波処置具、及び超音波処置具の制御方法によれば、伝達ロッドの横振動から生じる発熱、異常応力、及び異音などの問題を効率よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る処置具を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、横振動が発生した処置部を模式的に示す上面図である。
【
図4B】
図4Bは、横振動が発生した処置部を模式的に示す側面図である。
【
図5】
図5は、横振動が発生した処置部を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、ジョーが開位置にある処置具の処置端部の拡大概略図である。
【
図7】
図7は、プローブホルダを示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、ジョーが開いた状態における処置具の処置端部を側方から見た断面図である。
【
図9A】
図9Aは、ジョーが閉じた状態における処置具の処置端部を側方から見た断面図である。
【
図13】
図13は、従来の超音波処置具の一部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本体302、シース304、及び処置端部306を含む超音波処置具300の説明図である。本体302は、可動ハンドル308、グリップ310、及びトランスデューサ312を含む。可動ハンドル308はグリップ310と共に使用され、処置端部306を操作する。トランスデューサ312は、超音波処置具300を使用した超音波処置及び高周波処置の少なくとも一方に使用される電力を供給する電源に接続される。電源は、有線または無線の電源とすることができる。シース304は、処置端部306を操作するために使用されるワイヤ及び部材が内部に収納され、当該ワイヤ及び部材を保護する。
【0016】
図2は、超音波処置具300の処置端部306の拡大図である。処置端部306は、ジョー402及び処置部404から構成される。ジョー402は、処置のために生体組織及び他の被検体を把持するために、可動ハンドル308の操作を介して、処置部404の処置面4041(
図3A参照)に対して垂直方向に開閉するように、矢印Mの方向に移動する。処置部404は、シース304内に挿通された伝達ロッド502(
図3A参照)の遠位端部に設けられ、伝達ロッド502を介して超音波振動が伝達される。処置部404に伝達される超音波振動である縦振動(矢印406の方向の振動)は、組織の切開などの処置目的に使用される摩擦熱、ならびに減衰部材などの被検体に接触することによって引き起こされる摩擦熱を生じさせる。処置部404は、湾曲した形状を有していてもよく、高周波電流を使用した処置のための電極として機能してもよい。
【0017】
図3Aは、ジョー402の開閉方向である垂直方向から見た処置部404を示す。また、
図3Aは、シース304内に延在してトランスデューサ312に接続する伝達ロッド502を示す。伝達ロッド502は、超音波エネルギー及び高周波エネルギーの少なくとも一方をトランスデューサ312から処置部404に伝達するように構成されており、遠位端部に湾曲した形状の処置部404を有する。
図3Aの図では、処置部404は、静止状態、すなわち、超音波振動及び高周波電流のいずれも、処置部404に加わっていない状態である。
【0018】
図3Bは、ジョー402の開閉方向である垂直方向から見た処置部404を示す。また、
図3Bは、処置部404に横振動が発生している状態を示す。
【0019】
処理手順における処置部404の使用を考慮すると、縦振動が望ましい超音波振動であろう。それに対して、横振動及びねじり振動は、処置手順中に問題を引き起こし得る望ましくない超音波振動であろう。縦振動は処置部404の中心軸に平行に発生し、望ましくない横振動は超音波プローブの中心軸及び縦振動に直交する方向に発生する。処置部404は、処置手順中の視認性を向上させる目的で水平方向に湾曲しているので、超音波振動が処置部404に加わると、処置部404の水平方向における軸方向のアンバランスにより、実質的な横振動が発生することがある。
図3Bに示す場合、超音波振動により、処置部404の長さに沿って周期的に腹(
図3Bでは、局所的な最大値及び最小値において破線504で示す)を含む横振動を引き起こす。横振動は、発熱、異常応力、及び異音などの問題につながり、したがって減衰させる必要がある。
【0020】
図4Aは、
図3A及び
図3Bで言及した垂直方向と直交する方向である水平方向から見た処置部404を示す。また、
図4Aは、シース304内に延在して、トランスデューサ312に接続する伝達ロッド502を示す。
図4Aの図では、処置部404は、静止状態、すなわち、超音波振動及び高周波電流のいずれも、処置部404に加わっていない状態である。また、
図4Bは、水平方向から見た処置部404を示す。
図4Bは、処置部404に横振動が発生している状態を示す。処置部404は水平方向に湾曲しており垂直方向に湾曲していないので、処置部404の水平方向における軸方向のアンバランスと比較して、垂直方向における軸方向のアンバランスは極めて小さい。したがって、超音波振動が加わったときに腹504で発生し得る望ましくない横振動は、
図3Bに開示したような水平方向の横振動と比較して弱い。また、
図5は、横振動が発生している処置部404の斜視図を示す。
【0021】
図6は、ジョー402が開いた状態における超音波処置具300の処置端部306の斜視図である。ジョー402は、処置部404に面する上部把持面604を含み、処置部404は、ジョー402に面する処置面4041を含む下部把持面606を含む。上部把持面604及び下部把持面606は、切開及び凝固の少なくとも一方の処置のために生体組織を把持するために、典型的にはジョー402が支点610に位置する軸を中心に旋回することによって、互いに相対的に移動する。矢印Mに示す方向の相対移動は、可動ハンドル308及びシース304内に組み込まれたスライダ608などの運動機構の操作を通じて作動される。ジョー402は、プローブホルダ700及びシース304に回転可能に結合されている。プローブホルダ700は、樹脂またはゴムなどの電気的に絶縁された材料から作製されてもよく、処置面4041に対して垂直に処置部404の外周面を少なくとも部分的に取り囲む。プローブホルダ700は、処置部404を摺動可能に保持し、本明細書で説明するように、ジョー402の開方向への協調移動に伴い、プローブホルダ700の領域706(本明細書では上部保持部分とも呼ぶ)が処置部404の表面に、線接触または面接触のいずれかで接触し、特に処置部404が無負荷状態、すなわち、生体組織と接触していない、及び、ジョー402と接触していない状態の少なくとも一方の、特にジョー402の上部把持面604と接触していないときの、異音及び他の望ましくない効果を引き起こす横振動を含む超音波振動を減衰する。このため、プローブホルダ700は、本発明に係る減衰機構に相当する。また、プローブホルダ700と伝達ロッド502との間の接触は、横振動の節では発生せず、横振動の腹504(
図3B,
図4B)または腹504の近傍で発生することが好ましい。さらに、プローブホルダ700と伝達ロッド502との間の接触は、超音波振動である縦振動の腹では発生しない。
【0022】
図7は、プローブホルダ700を示す。プローブホルダ700の穴702は、ジョー402の基部における支点610または他の構造体を受容する。突起部704は、プローブホルダ700をシース304に接続するための構造を提供する。例えば、突起部704は、シース304の内面上の対応する凹部または穴にスナップ嵌めすることができる。そして、プローブホルダ700は、処置部404の遠位端(処置部404の先端(
図3A,
図4Aの左側端面)から近位端方向(
図3A,
図4Aの右方向)に超音波振動の半波長以内に配置される。
【0023】
図8Aは、ジョーが開いた状態における超音波処置具300の処置端部306の側断面図である。処置部404は、プローブホルダ700及びシース304を通って延在する。ジョー402は、スライダ608を使用して開かれる。スライダ608は、支点802に作用して支点610(図示せず)を中心にジョー402を枢動可能に移動させる。この開いたジョーの位置では、プローブホルダ700の領域706、例えば、上部保持部分は、処置面4041に対して垂直に、処置部404の表面と直接接触する。当該直接接触は、処置部404が振動状態にあるときに横振動を含む超音波振動を減衰する役割を果たす。また、プローブホルダ700の電気絶縁は、高周波電流処置手順中に処置部404と、支点802、ジョー402、スライダ608、またはシース304などの処置端部306の他の部分との間で電流が短絡することを防止する。
【0024】
図8Bは、
図8AのA-A´線の断面図である。処置部404は、プローブホルダ700及びシース304を通って延在し、これらは、支点610でジョー402上の戻り止め804及び806によって結合されている。第1の戻り止め804及び第2の戻り止め806は、
図8Bに示すようにジョー402と一体的に形成することができ、またはジョー402に貼り付けられた別個の構造体とすることができる。また、
図8Bは、上部のジョー402を開閉するために使用される、スライダ608及び支点802を示す。負荷がかからないことにより、処置部404は、プローブホルダ700の領域706、例えば、上部保持部分に付勢されて接触し、処置部404が振動状態にあるときに横振動を含む超音波振動を減衰する役割を果たす。同時に、処置部404は、処置部404が領域706に接触している位置から180度にある処置部404の円周位置において、プローブホルダ700及びシース304から離隔され、例えば、
図8BにおいてSで示す領域において処置部404の外周面と、プローブホルダ700及びシース304との間に空間が存在する。
【0025】
図9Aは、ジョーが閉じた状態における超音波処置具300の処置端部306の側断面図である。ジョー402は、スライダ608を使用して閉じられ、スライダ608は、支点802に作用して支点610(図示せず)を中心にジョー402を枢動可能に移動させる。閉位置では、上部把持面604が処置部404の下部把持面606に接触し、下方向の力902を加える。ジョー402によって処置部404に加えられる下方向の力902により、処置部404の全体が、
図8BのSで示す空間に向かって下方向に変位して押し出され、その結果、処置部404の表面とプローブホルダ700との間に隙間(矢印Gで表す)が形成される。特に、処置部404の表面は、もはやプローブホルダ700の領域706、例えば、上部保持部分706に接触しない。領域706は処置部404と直接接触しないので、
図8A及び
図8Bに図示された、ジョー402が開いた状態におけるこれらの機構の配置とは対照的に、プローブホルダ700を使用した超音波振動の減衰は行われない。しかしながら、上部把持面604と下部把持面606との直接接触、または下部把持面606と処置される生体組織(単数または複数)との直接接触を介して、処置部404の減衰は依然として発生する。
【0026】
図9Bは、
図9AのB-B´線の断面図である。ジョー402は、支点610を中心にジョー402を枢動可能に移動させるために、支点802(図示せず)に作用するスライダ608を使用して閉じられる。上述した下向きの力902から生じる隙間Gは、処置部404とプローブホルダ700との間、特に処置部404の表面とプローブホルダ700の領域702(すなわち、上部保持部分)との間に図示されている。上部保持部分706は処置部404と直接接触していないので、プローブホルダ700を使用した超音波振動の減衰は行われない。しかしながら、上部把持面604と下部把持面606の直接接触、または下部把持面606と処置される生体組織(単数または複数)との直接接触を介して、処置部404の減衰は依然として発生する。
【0027】
(実施の形態2)
図10Aは、実施の形態2のジョー402が開いた状態における超音波処置具300のスライダ608及び処置部404の内部配置を概略的に示す。ジョー402が開く時点で、スライダ608は、処置部404に対して近位方向(すなわち、矢印1002で示す方向)に移動する。スライダ608は、スライダ608と共に移動するゴム及び樹脂などの絶縁材料からなる弾性クッションなどの減衰機構1004を含む。減衰機構1004の電気絶縁は、高周波電流処置手順中に処置部404と処置端部306の他の部分との間で電流が短絡することを防止する。減衰機構1004は、正方形または長方形の形状を有してもよく、スライダ608に貼り付けることができるか、またはスライダ608と一体的に形成することができる。ジョー402が開いた状態で、減衰機構1004が伝達ロッド502における他の部分に対して径寸法が大きい大径部5021に直接接触すると、処置部404が振動状態にあるときにノイズを引き起こす横振動が減衰される。また、減衰機構1004と伝達ロッド502の大径部5021との間の接触は、横振動の節では発生せず、横振動の腹504(
図3B,
図4B)または腹504の近傍で発生することが好ましい。さらに、減衰機構1004と伝達ロッド502の大径部5021との間の接触は、超音波振動である縦振動の腹では発生しない。
【0028】
図10Bは、実施の形態2のジョー402が閉じた状態における超音波処置具300のスライダ608及び処置部404の内部配置を概略的に示す。ジョー402が閉じる時点で、スライダ608は、処置部404に対して遠位方向(すなわち、矢印1006で示す方向)に移動する。減衰機構1004は、伝達ロッド502の大径部5021から離れるので、処置部404または伝達ロッド502に直接接触しなくなり、処置部404が振動状態にあるときにノイズを引き起こす横振動をもはや減衰させなくなる。しかしながら、
図9A及び
図9Bに示されるように、処置部404の減衰は、このジョー402が閉じた状態において、上部把持面604と下部把持面606との直接接触、または下部把持面606と処置される生体組織(単数または複数)との直接接触によって達成される。
【0029】
(実施の形態3)
図11Aは、実施の形態3のジョー402が開いた状態における超音波処置具300のスライダ608及び処置部404の内部配置を概略的に示す。ジョー402が開く時点で、スライダ608は、処置部404に対して近位方向(すなわち、矢印1002で示す方向)に移動する。スライダ608は、スライダ608と共に移動する、弾性クッションなどの、減衰機構1004を含む。減衰機構1004は、三角形の形状を有してもよく、スライダ608に貼り付けることができるか、またはスライダ608と一体的に形成することができる。この構成により、減衰機構1004は、伝達ロッド502における近位端に向かうにしたがって径寸法が大きくなるテーパー状の大径部5021に接触して半径方向に力を加えることができ、横方向の振動を効果的に減衰させ得る。減衰機構1004が、伝達ロッド502の大径部5021にジョーが開いた状態で直接接触すると、処置部404が振動状態にあるときにノイズを引き起こす横振動が減衰される。また、減衰機構1004と伝達ロッド502の大径部5021との間の接触は、横振動の節では発生せず、横振動の腹504(
図3B,
図4B)または腹504の近傍で発生することが好ましい。さらに、減衰機構1004と伝達ロッド502の大径部5021との間の接触は、超音波振動である縦振動の腹では発生しない。
【0030】
図11Bは、実施の形態3のジョー402が閉じた状態における超音波処置具300のスライダ608及び処置部404の内部配置を概略的に示す。ジョー402が閉じる時点で、スライダ608は、処置部404に対して遠位方向(すなわち、矢印1006で示す方向)に移動する。減衰機構1004は、伝達ロッド502の大径部5021から離れるので、伝達ロッド502に直接接触しなくなり、処置部404が振動状態にあるときにノイズを引き起こす横振動をもはや減衰させなくなる。しかしながら、
図9A及び9Bに示されるように、処置部404の減衰は、このジョー402が閉じた状態において、上部把持面604と下部把持面606との直接接触、または下部把持面606と処置される生体組織(単数または複数)との直接接触によって達成される。
【0031】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)超音波振動を生成するトランスデューサと、
遠位端部に処置部が設けられ、前記トランスデューサによって生成された超音波振動を前記処置部に伝達するために前記トランスデューサに接続される伝達ロッドと、
前記処置部の処置面に対して開位置から閉位置まで相対的に移動可能なジョーと、
前記伝達ロッドと平行な方向に移動するスライダと、
を備え、
前記スライダ及び前記ジョーは、
前記スライダが前記伝達ロッドの近位端部に向かって移動すると、前記ジョーが前記開位置に移動し、前記スライダが前記伝達ロッドの前記遠位端部に向かって移動すると、前記ジョーが前記閉位置に移動するように構成されており、
前記スライダは、前記伝達ロッドに発生する横振動を減衰させる減衰機構を有し、
前記減衰機構は、
前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記伝達ロッドに接触し、
前記ジョーが前記閉位置にあるときに、前記伝達ロッドから離隔される、
超音波処置具。
(2)前記減衰機構は、絶縁材料によって構成されている、前記(1)に記載の超音波処置具。
(3)前記減衰機構は、樹脂によって構成されている、前記(1)に記載の超音波処置具。
(4)前記減衰機構は、ゴムによって構成されている、前記(1)に記載の超音波処置具。
(5)前記減衰機構は、前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記伝達ロッドに接触して半径方向に力を加える、前記(1)に記載の超音波処置具。
(6)前記減衰機構と前記伝達ロッドとの間の前記接触は、前記横振動の節では発生しない、前記(1)に記載の超音波処置具。
(7)前記減衰機構と前記伝達ロッドとの間の前記接触は、前記超音波振動である縦振動の腹では発生しない、前記(1)に記載の超音波処置具。
(8)前記減衰機構と前記伝達ロッドとの間の前記接触は、前記横振動の腹で発生する、前記(1)に記載の超音波処置具。
(9)前記処置部は、生体組織を処置するように構成されている、前記(1)に記載の超音波処置具。
(10)前記処置部は、高周波電流を使用した処置のための電極として構成されている、前記(1)に記載の超音波処置具。
(11)前記減衰機構は、前記伝達ロッドと前記超音波処置具の他の部分との間の短絡を防止する、前記(1)に記載の超音波処置具。
(12)前記処置部は、湾曲した形状を有する、前記(1)に記載の超音波処置具。
(13)前記伝達ロッドは、他の部分に対して径寸法が大きい大径部を有し、
前記減衰機構は、前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記大径部に接触する、前記(1)に記載の超音波処置具。
(14)前記伝達ロッドは、近位端に向かうにしたがって径寸法が大きくなる大径部を有し、
前記減衰機構は、前記ジョーが前記開位置にあるときに、前記大径部に接触する、前記(1)に記載の超音波処置具。
【0032】
本発明は、その好ましい実施形態に関連して説明されてきたが、具体的に説明されていない追加、削除、変更、及び置換が、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われ得ることは、当業者によって理解されるであろう。
【符号の説明】
【0033】
300 超音波処置具
312 トランスデューサ
402 ジョー
404 処置部
502 伝達ロッド
608 スライダ
610 支点
700 プローブ機構
4041 処置面