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特許7331212フェニル-2-ヒドロキシ-アセチルアミノ-2-メチル-フェニル化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】フェニル-2-ヒドロキシ-アセチルアミノ-2-メチル-フェニル化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20230815BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/4965
A61K31/519
A61P35/00
A61P1/18
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022115300
(22)【出願日】2022-07-20
(62)【分割の表示】P 2019556703の分割
【原出願日】2018-04-11
(65)【公開番号】P2022141835
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】17382207.3
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】シフエンテス-ガルシア, マルタ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-パレデス, マリア クリスティナ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-524631(JP,A)
【文献】特表2009-506979(JP,A)
【文献】国際公開第2017/019442(WO,A1)
【文献】特表2005-530760(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136463(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07D
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインキナーゼR様小胞体キナーゼ(PERK)が関与する疾患又は障害の治療用に使用される、以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩の有効量を含む組成物。
Rは、以下からなる群から選択され、
XはCH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項2】
癌の治療に使用される、以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩の有効量を含む組成物。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項3】
プロテインキナーゼR様小胞体キナーゼ(PERK)を阻害することにより抗腫瘍活性を与えるために使用される、以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩の有効量を含む組成物。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項4】
化合物が以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩である請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項5】
Rが、以下の基である請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、メチル又はイソプロピルである請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
Rが以下の基である請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
化合物が、以下の式で表される3-アミノ-6-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
化合物が、以下の式で表される2-アミノ-5-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
化合物が、以下の式で表される(2R)-N-[4-(4-アミノ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)-3-メチル-フェニル]-2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセトアミド又はその薬学的に許容される塩である請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
プロテインキナーゼR様小胞体キナーゼ(PERK)が関与する疾患又は障害を治療するための医薬の製造に用いられる、以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩の使用。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項12】
癌を治療するための医薬の製造に用いられる、以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩の使用。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項13】
プロテインキナーゼR様小胞体キナーゼ(PERK)を阻害することにより抗腫瘍活性を与えるための医薬の製造に用いられる、以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩の使用。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項14】
化合物が以下の式で表される化合物又はその薬学的に受容可能な塩である請求項11~13のいずれかに記載の使用。
Rは、以下からなる群から選択され、
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、C~Cのアルキル基である。
【請求項15】
Rが、以下の基である請求項11~14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
Xは、CH又はNであり、
は、水素又はフッ素原子であり、
は、メチル又はイソプロピルである請求項11~14のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
Rが以下の基である請求項11~14のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
化合物が、以下の式で表される3-アミノ-6-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である請求項11~14のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
化合物が、以下の式で表される2-アミノ-5-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド又はその薬学的に許容される塩である請求項11~14のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
化合物が、以下の式で表される(2R)-N-[4-(4-アミノ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)-3-メチル-フェニル]-2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセトアミド又はその薬学的に許容される塩である請求項11~14のいずれかに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフェニル-2-ヒドロキシ-アセチルアミノ-2-メチル-フェニル化合物、上記化合物を含む薬学的組成物、上記化合物を使用して、生理学的障害を処置するための方法、ならびに上記化合物の合成において有用な中間体およびプロセスに関する。
【0002】
本発明は、がん、ならびにプロテインキナーゼR(PKR)様小胞体キナーゼ(PERK)が関わる他の疾患および障害の処置の分野にある。異常タンパク質応答(unfolded protein response)(UPR)に関与するeIF2キナーゼであるPERKは、タンパク質合成を調節し、細胞が小胞体ストレスの影響を軽減することを助け、腫瘍発生およびがん細胞生存に関与している。
【背景技術】
【0003】
腫瘍細胞は、栄養素および酸素制限、高い代謝要求、ならびに酸化的ストレスによって主に引き起こされる都合の悪い微小環境において育つ。これらのストレスは、小胞体(ER)のタンパク質折りたたみ能力を妨害することが公知であり、これは、異常タンパク質応答(UPR)として公知の細胞改善応答(cellular remediation
response)を誘発する。ERストレスは、がん細胞のより大きな腫瘍形成可能性、腫瘍転移、腫瘍薬物抵抗性、およびがん細胞が効果的な免疫応答を回避する能力に寄与する。
【0004】
UPRの3つの主要なER膜貫通センサーが存在する:1)イノシトール要求酵素(IRE1α/IRE1β(それぞれ、ERN1およびERN2によってコードされる));2)PKR様ERキナーゼ(EIF2AK3によってコードされるPERK(PEKとしても公知));および3)活性化転写因子6α(ATF6によってコードされる)。これらの3つのセンサーの各々は、ER内腔シャペロンタンパク質GRP78またはBiP(HSPA5によってコードされる)の結合を通じて同様に調節される。ERのタンパク質折りたたみ要求が能力を超える場合、低減したBiP結合がこれらのERセンサータンパク質の活性化を生じ、協調したシグナル伝達経路の誘導を生じて、ERの折りたたみ能力を増大させ、根底にあるストレスを軽減する。効果的な応答は、細胞適応および生存をもたらす一方で、回復できないERストレスは、細胞死およびアポトーシスの引き金を引く。
【0005】
PERKは、I型膜貫通セリン/スレオニンキナーゼであり、真核生物翻訳開始因子2α(eIF2-α)をリン酸化し、翻訳開始を調節するキナーゼのファミリーのメンバーである。他のファミリーメンバーとしては、HRI(EIF2AK1)、PKR(EIF2AK2)、およびGCN2(EIF2AK4)が挙げられる。各eIF2キナーゼは、種々の細胞ストレスシグナルに応答して、全般的な翻訳および遺伝子特異的翻訳制御を調節する。eIF2のリン酸化は、ERに入るタンパク質の量(および従って、タンパク質折りたたみ負荷)ならびにATPの翻訳要求を減少させるeIF2B交換因子活性における低減に起因して、全般的な翻訳の開始の低減を生じる。eIF2のリン酸化はまた、転写因子ATF4を含む遺伝子特異的様式で、いくつかのmRNAの翻訳を増大させる。ATF4転写標的は、タンパク質折りたたみ、栄養素取り込み、アミノ酸代謝、レドックスホメオスタシス、およびオートファジーに関与するいくつかを含め、細胞適応および生存に関与する多くの遺伝子を含む(4)。UPRのPERKアームの選択的阻害は、腫瘍細胞増殖および生存に顕著に影響を与えることが予測される。よって、PERKを阻害する
化合物は、がんを処置するにあたって有用であると考えられる。
【0006】
医学的処置の現在の状態では、膵臓がんを発生させている患者はしばしば、その疾患が早期に検出される場合にすら、予後不良である。よって、膵臓がんを処置するために、新たなかつ効果的な治療の重大な必要性が未だにある。本発明の化合物は、PERKのインヒビターであり、がん、特に、膵臓がんを処置するにあたって有用であると考えられる。
国際公開第2015/136463号は、PERK阻害活性を有するある種のピロリジノン誘導体を開示し、さらには、その化合物を、膵臓がんを含む、活性化された異常タンパク質応答と関連するがんおよび疾患を処置するにあたって有用であるとして開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015136463号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、式Iの化合物:
【化1】
またはその薬学的に受容可能な塩を提供し、ここで
Rは、以下からなる群:
【化2】
より選択され;
Xは、CHまたはNであり;
は、水素またはフルオロであり;そして
は、C~Cアルキルである。
【0009】
さらに、本発明は、式Iaの化合物:
【化3】
またはその薬学的に受容可能な塩を提供し、ここで
Rは、以下からなる群:
【化4】
より選択され、
Xは、CHまたはNであり;
は、水素またはフルオロであり;そして
は、C~Cアルキルである。
【0010】
さらに、本発明は、Rが、
【化5】
である、式IまたはIaの化合物を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、Xは、CHまたはNであり;Rは、水素またはフルオロであり;そしてRは、メチルまたはイソプロピルである、式IもしくはIaの化合物;またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、Rが、
【化6】
である式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、以下の式:
【化7】
によって表され得る化合物3-アミノ-6-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミド、またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、以下の式:
【化8】
によって表され得る化合物2-アミノ-5-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド、またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、以下の式:
【化9】
によって表され得る化合物(2R)-N-[4-(4-アミノ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)-3-メチル-フェニル]-2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセトアミド、またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。
【0016】
本発明は、がんの処置の必要性のある患者においてがんを処置するための方法を提供し、上記方法は、上記患者に、有効量の式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩を投与する工程を包含する。本発明はまた、PERK活性を阻害し、抗腫瘍活性を生じる処置の必要性のある患者において抗腫瘍活性を生じるための方法を提供し、上記方法は、上記患者に、有効量の式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩を投与する工程を包含する。
【0017】
本発明はまた、膵臓がんの処置の必要性のある患者において膵臓がんを処置するための方法を提供し、上記方法は、上記患者に、有効量の式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩を投与する工程を包含する。
【0018】
さらに、本発明は、治療における使用のための、特に、膵臓がんの処置のための、式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。さらに、本発明は、膵臓がんの処置における使用のための、式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、膵臓がんの処置のための医薬の製造のための、本発明の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩の使用を提供する。
【0019】
本発明はさらに、本発明の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩と、1またはこれより多くの薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤とを含む薬学的組成物を提供する。さらなる実施形態において、上記組成物はさらに、1またはこれより多くの他の治療剤を含む。本発明はさらに、薬学的組成物を調製するためのプロセスを提供し、上記プロセスは、式IもしくはIaの化合物、またはその薬学的に受容可能な塩と、1またはこれより多くの薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤とを混合する工程を包含する。本発明はまた、式IおよびIaの化合物の合成のための新規な中間体およびプロセスを包含する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「処置する(treating)」または「処置すること(to treat)」とは、既存の症状または障害の進行または重篤度を抑制する、遅らせる、停止させる、または逆転させる(reversing)ことを包含する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「有効量(effective amount)」とは、患者への単一用量もしくは複数用量の投与の際に、診断または処置の下にある患者において所望の効果を提供する、本発明の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩の量または用量をいう。
【0022】
有効量は、公知の技術の使用によって、および類似の状況下で得られる結果を観察することによって、当業者によって容易に決定され得る。患者にとっての有効量を決定するにあたって、多くの要因が考慮される(以下が挙げられるが、これらに限定されない:患者の種;そのサイズ、年齢、および全身的な健康状態;関わる具体的な疾患または障害;その疾患または障害の程度または併発(involvement)または重篤度;個々の患者の応答;投与される特定の化合物;投与様式;投与される調製物のバイオアベイラビリティー特性;選択される投与レジメン;同時の薬物療法の使用;ならびに他の関連する状況)。
【0023】
本発明の化合物は、広い投与量範囲にわたって概して有効である。例えば、1日あたりの投与量は通常、約0.1~約50mg/kg体重の範囲内に入る。場合によっては、前述の範囲の下限を下回る投与量レベルが、十二分であることもある一方で、他の場合には、さらにより大きい用量が、受容可能な副作用とともに使用されることもあるので、上記の投与量範囲は、本発明の範囲を限定するとは如何様にしても意図されない。実際に投与されるその化合物の量は、関連する状況(処置されるべき状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物(単数または複数)、個々の患者の年齢、体重および応答、ならびにその患者の症状の重篤度が挙げられる)に鑑みて、医師によって決定されることが理解される。
【0024】
本発明の化合物は好ましくは、その化合物を生体利用可能にする任意の経路(経口経路、静脈内経路および経皮経路が挙げられる)によって投与される薬学的組成物として製剤化される。最も好ましくは、このような組成物は、経口投与のためのものである。このような薬学的組成物およびこれを調製するためのプロセスは、当該分野で周知である(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,L.V.Allen編,第22版,Pharmaceutical Press,2012を参照のこと)。
【0025】
式Iの化合物が立体異性体として存在し得ることは、理解される。本発明の実施形態は、全てのエナンチオマー、ジアステレオマーおよびこれらの混合物を含む。式Iの化合物の特定のエナンチオマーは、式Iaの化合物:
【化10】
によって表され、ここでRおよびRは、先に定義されるとおりである。
【0026】
当業者はまた、全てのキラル中心に関してカーン-インゴールド-プレローグの(R)または(S)指定が、その特定の化合物の置換パターンに依存して変動することを認識する。その単一のエナンチオマーまたはジアステレオマーは、キラル試薬で開始して、または立体選択的もしくは立体特異的な合成技術によって、調製され得る。あるいは、その単一のエナンチオマーまたはジアステレオマーは、本発明の化合物の合成における任意の都合の良い時点で、標準的なキラルクロマトグラフィーまたは結晶化技術によって混合物から単離され得る。例えば、J.Jacquesら,「Enantiomers,Racemates,and Resolutions」,John Wiley and Sons,Inc.,1981、ならびにE.L.ElielおよびS.H.Wilen,「Stereochemistry of Organic Compounds」,Wiley-Interscience,1994を参照のこと。本発明の化合物の単一のエナンチオマーは、本発明の好ましい実施形態である。
【0027】
本発明の化合物の薬学的に受容可能な塩は、例えば、本発明の化合物の適切な遊離塩基および適切な薬学的に受容可能な酸を、当該分野で周知の標準的な条件下で適切な溶媒中で反応させることによって形成され得る。このような塩の形成は、当該分野で周知であり認識されている。例えば、Gould,P.L.,「Salt selection for basic drugs」,International Journal of
Pharmaceutics,33:201-217(1986);Bastin,R.J.ら,「Salt Selection and Optimization Procedures for Pharmaceutical New Chemical
Entities」,Organic Process Research and Development,4:427-435(2000);およびBerge,S.M.ら,「Pharmaceutical Salts」,Journal of Pharmaceutical Sciences,66:1-19,(1977)を参照のこと。
【0028】
PERK酵素活性(単離された)のインビトロ阻害
組換えヒトEIF2AK2(PKR)触媒ドメイン(アミノ酸252~551)、EIF2AK3(PERK)触媒ドメイン(アミノ酸536~1116)、GFP-eIF2α基質、およびテルビウム標識ホスホ-eIF2α抗体を得る(Invitrogen,Carlsbad,CA)。HIS-SUMO-GCN2触媒ドメイン(アミノ酸584~1019)を、E.coliから発現および精製する。TR-FRETキナーゼアッセイを、50mMのHEPES(pH7.5)、10mMのMgCl、1.0mMのEGTA、および0.01%のBrij-35からなる反応緩衝液中のインヒビター、ならびに100~200nMのGFP-eIF2α基質の非存在下または存在下で行う。PKRアッセイは、14ng/mLの酵素および2.5μMのATP(Km,みかけ上約2.5μM)を含み、PERKアッセイは、62.5ng/mLの酵素および1.5μMのATP(Km,みかけ上約1.5μM)を含み、GCN2アッセイは、3nMの酵素および90μMのATP(Km,みかけ上約200μM)を含む。試験化合物を添加し、酵素の添加によって反応を開始させ、室温において45分間インキュベートする。EDTAを最終濃度10mMになるように添加することによってその反応を停止させ、テルビウム標識ホスホ-eIF2α抗体を最終濃度2nMにおいて添加し、90分間インキュベートする。その得られる蛍光を、EnVison(登録商標)Multilabelリーダー(PerkinElmer,Waltham,MA)においてモニターする。TR-FRET比および得られるIC50値を、以下に示されるとおりの4パラメーター非線形ロジスティック方程式を使用して決定する:Y=(A+((B-A)/(1+((C/x)^D))))ここでY=%特異的阻害であり、A=曲線の底であり、B=曲線の頂点であり、C=絶対IC50(50%阻害を引き起こす濃度)であり、D=ヒルの式の傾き(hill slope)である。
【0029】
実施例1、5および9の化合物を、本質的に上記で記載されるとおりに試験したところ、表1に示されるIC50値を示した。これらのデータは、実施例1、5および9の化合物が、単離されたPERK酵素活性をインビトロで阻害することを示す。
【表1】
【0030】
PERK酵素活性(全細胞)のインビトロ阻害
【0031】
GFP-eIF2αを発現するGripTiteTM 293細胞(Invitrogen,Carlsbad,CA)を、10,000細胞/ウェルで、384ウェルプレートに播種し、一晩付着させる。細胞を試験化合物で1時間、予め処理する。ツニカマイシン(1μM)を添加して、PERK活性を誘導し、そのプレートを37℃において2時間インキュベートする。その培養培地を除去し、20mMのTris-HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、5mMのEDTA、1%のNP-40、5mMのNaF、プロテアーゼインヒビター(Sigma,St.Louis,MO)、ホスファターゼインヒビター(Sigma,St.Louis,MO)、および2nMのテルビウム標識抗ホスホ-eIF2抗体(Invitrogen,Carlsbad,CA)からなる緩衝液中でその細胞を溶解する。その細胞溶解物を、2時間、遮光して室温においてインキュベートし、EnVison(登録商標)Multilabelリーダー(PerkinElmer,Waltham,MA)で蛍光をモニターする。TR-FRET比および得られるIC50値を、コントロールとしての誘導していない(100%阻害)および誘導した(0%阻害)ウェルを使用してフィットさせた阻害曲線から決定する。
【0032】
実施例1、5および9の化合物を、本質的に上記で記載されるとおりに試験したところ、表2に示されるIC50値を示した。これらのデータは、実施例1、5および9の化合物が、全細胞PERK酵素活性をインビトロで阻害することを示す。
【表2】
【0033】
膵臓がん(マウス異種移植片モデル)のインビボ阻害
【0034】
雌性無胸腺ヌードマウス(Harlan Laboratories)に、5×10のBxPC-3細胞含有マトリゲルを、右側腹部に皮下移植し、腫瘍増殖をカリパスでモニターした。腫瘍が約250mmに達したときに化合物投与を開始し、強制経口投与によって1日あたり2回、28日間、マウスに投与する(8匹の動物/群)。それぞれ、実施例5および9の30化合物に関して、0.05%の消泡剤または20%のCaptisolを25mMのNaPO緩衝液(pH2)中に含む10%のアカシアの中に化合物を製剤化する。コントロール動物をアカシアビヒクル単独で処置する。腫瘍容積を、式l×w×(π/6)を使用して概算する(ここでlは測定された大きい方の直径であり、wは、垂直をなす小さい方の直径である)。式100×[(T-T)/(C-C)]を使用してパーセントΔT/Cを、および式100×[(T-T)/T]を使用してパーセント回帰を計算する。ここでTおよびCは、それぞれ、処置群およびコントロール群の平均腫瘍容積である。TおよびCは、その相当するベースライン平均腫瘍容積である。パーセントΔT/CをパーセントΔ腫瘍増殖阻害(TGI)へと、式100-パーセントΔT/Cを使用して変換する。統計分析のために、腫瘍容積データをlog10スケールに変換して、時間および処置群に対して分散を一様にする。そのlog10容積データを、SASソフトウェアパッケージ(Version 9.3)中のMIXED手順を使用して、時間および処置によって、反復測定の二元配置分散分析(two-way repeated measures analysis of variance)(Spatial Power相関モデル)で分析する。各時点において処置群をコントロール群に対して比較する。
【0035】
実施例5および9の化合物を、本質的に上記で記載されるとおりに試験したところ、それぞれ、表3および表4に示される腫瘍増殖阻害値を示した。これらのデータは、実施例5および9の化合物が、膵臓腫瘍増殖をインビボで阻害することを示す。
【表3】
a)幾何平均腫瘍容積の標準誤差
b)100×[(T-T)/(C-C)]を使用して計算した。ここでTおよびCは、それぞれ、処置群およびコントロール群の平均腫瘍容積であり、TおよびCは、その相当するベースライン平均腫瘍容積である。
c)TCIは、100-%T/Cを使用して計算した腫瘍増殖阻害である。
d)無作為化および処置開始の日
有意、p<0.05
【表4】
a)幾何平均腫瘍容積の標準誤差
b)100×[(T-T)/(C-C)]を使用して計算した。ここでTおよびCは、それぞれ、処置群およびコントロール群の平均腫瘍容積であり、TおよびCは、その相当するベースライン平均腫瘍容積である。
c)TCIは、100-%T/Cを使用して計算した腫瘍増殖阻害である。
d)無作為化および処置開始の日
有意、p<0.05
【0036】
本発明の化合物またはその塩は、当業者に公知の種々の手順によって調製され得、そのうちのいくつかは、以下のスキーム、調製および実施例の中で例証される。当業者は、記載される経路の各々に関するその具体的な合成工程が、本発明の化合物またはその塩を調製するために、異なる方法で、または異なるスキームからの工程とともに、組み合わされ得ることを認識する。以下のスキームの中の各工程の生成物は、当該分野で周知の従来の方法(抽出、エバポレーション、沈殿、クロマトグラフィー、濾過、磨砕、および結晶化が挙げられる)によって回収され得る。以下のスキームにおいて、別段示されなければ、全ての置換基は、以前に定義されるとおりである。その試薬および出発物質は、当業者に容易に入手可能である。本発明の範囲を限定することなく、以下のスキーム、調製、および実施例は、本発明をさらに例証するために提供される。さらに、当業者は、式Iaの化合物が、当業者によって調製され得るその相当する立体化学的配置を有する出発物質を使用することによって調製され得ることを認識する。例えば、以下のスキームは、式Iaに最終的に相当する配置を有する出発物質を利用する。
【0037】
一般に、式Iの化合物は、式IIIの化合物から調製され得る(スキーム1)。より具体的には、式IIIの化合物は、式IIの化合物および適切なカップリング試薬(例えば、HATU(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート))と、適切なアミン塩基(例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミンまたはトリメチルアミン)の存在下で反応される。式Iの化合物は、キラルクロマトグラフィーによってその異性体へと分離され得る。
【0038】
対応して、式Iaの化合物は、式IIaの化合物から調製され得る。より具体的には、式IIIの化合物は、式IIaの化合物および適切なカップリング試薬(例えば、HATU(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート))と、適切なアミン塩基(例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミンまたはトリメチルアミン)の存在下で反応される。式IIaの化合物は、脂肪分解酵素(例えば、Lipase PS Amano SD)を用いて式IIの化合物から調製され得る。この光学分割技術に関するさらなる情報は、Mendiola,J.ら,Org.Process Res.Dev.2012,16,1312-1316に見出され得る。
スキーム1
【化11】
【0039】
一般に、式IIIの化合物は、式IVの化合物から調製され得る。式IIIの化合物は、式R-Brの化合物を、3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリンで、塩基(例えば、KCO)およびパラジウム触媒(例えば、Pd(dppf)Cl)の存在下で処理することによって得られ得る。
スキーム2
【化12】
【0040】
式R-Brの化合物(式VIまたはVIIの化合物によって表される)は、化学分野で公知の手順ならびに以下の調製および実施例に記載される手順によって調製され得る。
【0041】
調製1
4-クロロ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジンの合成
【化13】
【0042】
CsCO(845g,2.60mol)を15℃において、N-メチル-2-ピロリドン(1.20L)中の4-クロロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(200g,1.29mol)の溶液に添加する。23℃へと加温し、MeI(202g,1.43mol)を30分間かけて滴下により添加し、4時間撹拌する。この時間の後、氷水(2.00L)上に注ぎ、30分間撹拌する。濾過し、次いで、物質をHO(1.00L)中でスラリーにする。濾過し、乾燥させて、標題化合物(180g,81%)を得る。ES/MS m/z(35Cl)168.0(M+H)。
【0043】
調製2
5-ブロモ-4-クロロ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジンの合成
【化14】
【0044】
N-ブロモスクシンイミド(418g,2.35mol)を、20分間かけて15℃において、ジクロロメタン(3.19L)中の4-クロロ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(355g,2.12mol)の溶液に少しずつ添加し、23℃において3時間撹拌する。この時間の後に、濾過し、HO(5.32L)で洗浄し、乾燥させて、標題化合物(448g,86%)を白色固体として得る。ES/MS m/z(35
l,79Br)245.9(M+H)。
【0045】
調製3
5-ブロモ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミンの合成
【化15】
【0046】
アンモニア(HO中30%,3.63L)中の5-ブロモ-4-クロロ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(454g 1.84mol)の懸濁物を、120℃において、HastelloyTM耐圧容器の中で18時間撹拌する。20℃へと冷却し、濾過し、HO(1.80L)およびメタノール(900mL)で洗浄し、乾燥させて、標題化合物(351g,82%)を白色固体として得る。ES/MS m/z(79Br)227.2(M+H)。
【0047】
調製4
3-アミノ-6-ブロモ-ピラジン-2-カルボン酸の合成
【化16】
【0048】
3-アミノピラジン-2-カルボン酸(50.0g,369.4mmol)を、N-ブロモスクシンイミド(61.2g,377.3mmol)およびジメチルホルムアミド(236.3g,3.2mol)の溶液に、0℃において添加する。室温において1時間後、橙色固体が形成される。その固体残渣を酢酸エチル(500mL)で洗浄し、それを廃棄する。その有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、標題化合物を白色固体として得る(32.0g,146.7mmol,41%)。ES/MS m/z(79Br/81Br)217.1/219.0(M+H)。
【0049】
調製5
3-アミノ-6-ブロモ-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミドの合成
【化17】
【0050】
ジメチルホルムアミド(1.07L)中の3-アミノ-6-ブロモ-ピラジン-2-カルボン酸(214g,983mmol)の溶液を、メチルアミン塩酸塩(79.7g,1.18mol)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(445g,3.44mol)で23℃において処理する。その得られる懸濁物に、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(449g,1.18mol)を30分間かけて添加する。30分後、HO(4.29L)を2時間かけて添加する。23℃において30分間撹拌し、次いで、1時間、10℃において撹拌する。濾過し、その固体をHOで洗浄し(2×4
28mL)、乾燥させて、標題化合物(227g,82%)を得る。ES/MS m/z(79Br)231.0(M+H)。
【0051】
調製6
2-アミノ-5-ブロモ-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミドの合成
【化18】
【0052】
プロパン-2-アミン(42.5g,0.719mol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(127g,0.664mol)およびヒドロキシベンゾトリアゾール(89.7g,0.660mol)を、テトラヒドロフラン(1.2L)中の2-アミノ-5-ブロモ-ピリジン-3-カルボン酸(120g,0.553mol)の懸濁物に、12℃において添加する。その混合物を23℃において一晩撹拌する。酢酸エチル(250mL)および水性飽和NaHCO(250mL)を添加し、相を分離し、水層を酢酸エチルで抽出する(2×150mL)。合わせた有機相をHO(300mL)および水性飽和NaCl(300mL)で洗浄し、減圧下で濃縮して、標題化合物を得る(125g,88%)。ES/MS m/z(79Br)258.0(M+H)。
【0053】
調製7
(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-酢酸の単離
【化19】
【0054】
200gの珪藻土および200gのリパーゼPS Amano SD(Mendiola,J.ら,Org.Process Res.Dev.2012,16,1312-1316を参照のこと)を混合することによって、使用前に、リパーゼPS Amanoを珪藻土に担持する。HOを添加して、その固体を覆い、その混合物を混合する。オーブン中で4ミリバールおよび40℃において16時間、HOを除去する。水分決定のためのカールフィッシャー滴定により、HOが1%未満であることをチェックする。
【0055】
担持されたリパーゼPS amano SD(250g)および酢酸ビニル(312mL;3.36mol)を、メチルtert-ブチルエーテル(2.50L)中のラセミ化合物2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ酢酸(125g,664mmol)の懸濁物に添加し、その混合物を26℃において72時間撹拌する。この時間の後、濾過し、その固体をメチルtert-ブチルエーテル(1.50L)ですすぎ、合わせた濾液を減圧下で濃縮する。その残渣を、ジクロロメタン(160mL)中で、23℃において4時間にわたってスラリーにする。濾過し、その固体を石油エーテル(150mL)で洗浄し、乾燥させて、標題化合物(47.0g,36%)を得る。H NMR(d-DMSO)δ5.11(s,1H),6.20(bs,1H),7.11-7.21(m,3H),12.8(bs,1H)。絶対配置を、振動円二色性によって決定する(Freedman T.Bら,Chirality,2003年11月,15(9),743-758を参照のこと)。キラルHPLC:Rt=7.39分(UV);カラム:C
hiralpak(登録商標)AD 4.6×150mm 5μm;n-ヘキサン(0.05%のTFA)中5%のEtOHの均一濃度;流速:1.5mL/分,ee>98%。
【0056】
調製8
(2R)-2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-酢酸の単離
【化20】
【0057】
100gの珪藻土および100gのリパーゼPS Amano SD(Mendiola,J.ら,Org.Process Res.Dev.2012,16,1312-1316を参照のこと)を混合することによって、使用前に、リパーゼPS Amano SDを珪藻土に担持する。HOを添加して、その固体を覆い、その混合物を混合する。オーブン中、4ミリバールおよび40℃において16時間にわたってHOを除去する。水分決定のためのカールフィッシャー滴定により、HOが1%未満であることをチェックする。
【0058】
担持されたリパーゼPS amano SD(200g)および酢酸ビニル(269mL;2.90mol)を、メチルtert-ブチルエーテル(2.00L)中のラセミ化合物2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ酢酸(96g,560mmol)の懸濁物に添加し、その混合物を26℃において90時間撹拌する。この時間の後、濾過し、その固体をメチルtert-ブチルエーテル(1.50L)ですすぎ、合わせた濾液を減圧下で濃縮する。その残渣をジクロロメタン(160mL)中23℃において4時間にわたってスラリーにする。濾過し、その固体を石油エーテル(150mL)で洗浄し、乾燥させて、標題化合物(31.0g,32%)を得る。H NMR(d-DMSO)δ5.07(s,1H),6.17(bs,1H),7.12(m,1H),7.23(m,1H),7.39(m,1H),12.8(bs,1H)。[α] 20=-119°(C=2.83,アセトン)。キラルHPLC:Rt=10.22分(UV);カラム:Chiralpak(登録商標)AD 4.6×150mm 5μm;n-ヘキサン(0.05%のTFA)中の5%のEtOHの均一濃度;流速:1.5mL/分,ee>98%。
【0059】
調製9
3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリンの合成
【化21】
【0060】
1,4-ジオキサン(2.98L)中のトリシクロヘキシルホスフィン(59.85g,213mmol)の懸濁物を95℃において10分間、溶液が得られるまで加熱する。次いで、4-ブロモ-3-メチルアニリン(752g,2.67mol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(745.17g,2.93mol)、酢酸カリウム(524g,5.34mol)、および酢酸パラジウム(II)(23.96g,107mmol)を添加し
、その混合物を95℃において4時間加熱し続ける。この時間の後、23℃へと冷却し、メチルtert-ブチルエーテル(2.5L)で希釈し、珪藻土を通して濾過し、その固体をメチルtert-ブチルエーテル(1L)ですすぐ。濾液を合わせ、HO(1.5L)および水性飽和NaCl(1.2L)で洗浄し、減圧下で濃縮して、標題化合物(593g,95%)を得る。分析サンプルを得るために、ヘキサン(1.6mL/g)で40℃において2時間にわたってスラリーにし、次いで、23℃へと冷却し、濾過し、固体をヘキサンで洗浄する(2×0.5mL/g)。ES/MS m/z 234.1(M+H)。
【0061】
調製10
2-アミノ-5-(4-アミノ-2-メチル-フェニル)-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミドの合成
【化22】
【0062】
3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリン(93.6g,0.401mol)、KCO(119g,0.860mol)、およびPd(dppf)Cl(10.6g,140mmol)を、ジオキサン(888mL)およびHO(296mL)中の2-アミノ-5-ブロモ-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド(74.0g,0.287mol)の溶液に添加し、その混合物を55℃において一晩加熱する。23℃へと冷却し、酢酸エチル(150mL)を添加し、その得られる懸濁物を珪藻土を通して濾過し、固体を酢酸エチル(50mL)ですすぐ。合わせた濾液をHO(30mL)および水性飽和NaCl(300mL)で洗浄し、減圧下で濃縮して、標題化合物(78.0g,96%)を得る。ES/MS m/z 285.1(M+H)。
【0063】
調製11
3-アミノ-6-(4-アミノ-2-メチルフェニル)-N-メチルピラジン-2-カルボキサミドの合成
【化23】
【0064】
3-アミノ-6-ブロモ-N-メチルピラジン-2-カルボキサミド(99.1g,429mmol)、NaCO(HO中2M,500mL,1.00mol)、および1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(II)クロリド(19g,22.8mmol)を、1,4-ジオキサン(3.00L)中の3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリン(122g,450mmol)の溶液に添加し、その混合物を85℃へと32時間加熱した。30℃へと冷却し、酢酸エチル(4.00L)を添加し、シリカゲルパッドを通して濾過し、その固体を酢酸エチルですすぐ(3×1.00L)。合わせた濾液をHOで洗浄し(2×1.50L)、減圧下で濃縮する。残渣をクロマトグラフィー(溶離液:石油エーテル/酢酸エチル 5:1から1:1)によって精製して、標題化合物(80g,7
2%)を黄色固体として得る。ES/MS m/z 258.1(M+H)。
【0065】
調製12
5-(4-アミノ-2-メチル-フェニル)-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミンの合成
【化24】
【0066】
酢酸Pd(II)(635mg,2.83mmol)、cataCXium ATM(2.03g,5.65mmol)、および水性飽和NaHCO(186mL,188mmol)を、2-メチル-テトラヒドロフラン(214mL)中の5-ブロモ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(21.4g,94.3mmol)および3-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリン(28.6g,123mmol)の懸濁物に23℃において添加し、その混合物を密閉した管の中で100℃において3時間撹拌する。23℃へと冷却し、珪藻土のパッドを通して濾過し、その固体をHO(50mL)および酢酸エチル(100mL)ですすぐ。その有機層を分離し、これを水性飽和NaCl(50mL)で洗浄し、減圧下で濃縮する。その残渣をクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/アセトン 0から100%)によって精製して、標題化合物(12.1g,51%)を黄色固体として得る。ES/MS m/z 254.1(M+H)。
【実施例
【0067】
実施例1
2-アミノ-5-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミドの合成
【化25】
【0068】
テトラヒドロフラン(960mL)中の(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ酢酸(29.0g,0.154mol)、2-アミノ-5-(4-アミノ-2-メチル-フェニル)-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド(43.83g,0.154mol)、およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(39.8g,0.308mol)の混合物を、(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート)(87.9g,0.231mol)で、0℃において30分間にわたって処理し、次いで、20℃へと加温し、2時間撹拌する。酢酸エチル(50mL)を添加し、その混合物を濾過する。その濾液を減圧下で濃縮し、その残渣をクロマトグラフィー(溶離液:2:1の石油エーテル/酢酸エチル)によって精製し、次いで、超臨界流体クロマトグラフィー、SFC(カラム:Chiralpak(登録商標)IC 30×250m
m 5μm(Daicel);MeOH/CO=30:70の均一濃度;流速:80g/分;背圧:100バール;カラム温度:40℃)によって精製して、標題化合物(27.5g,39%)を白色固体として得る。ES/MS m/z 455.2(M+H)。
【0069】
実施例2
2-アミノ-5-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミドの合成
【化26】
【0070】
2-アミノ-5-(4-アミノ-2-メチル-フェニル)-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド(1000.5mg,3.5mmol)を、テトラヒドロフラン(7.9g,93.6mol)中の2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-酢酸(793mg,4.2mmol)、(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート)(1.7g,4.6mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(909.5mg,7.0mmol)の溶液に添加する。室温において2時間後、3mLの酢酸エチルを添加し、反応物を10分間撹拌する。その固体を濾別し、その有機相を減圧下で減少させる。その残渣を水性飽和NaHCO(10mL)で洗浄し、DCMで抽出する(2×10mL)。その有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。
【0071】
その残渣をHPLC(Rt(保持時間)=2.036分(UV)、LCカラム:XTerra MS C18(2.1×50mm,3.5μm;HO:アセトニトリル;勾配
5%Bで0.25分;3分間で5%Bから100%B;100%Bで0.25分持続;カラム温度:50℃;流速1.1mL/分)によって精製して、標題化合物を異性体1および異性体2の混合物として白色固体形態で得る(0.97g,60%)。ES/MS(m/z):455.4(M+H)。
【0072】
実施例3および4
2-アミノ-5-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミドの、異性体1および異性体2への分離
【0073】
異性体1および異性体2の混合物を、Chiralcel(登録商標)OD-H(4.6×100mm,5μm)、CO中20%のMeOH-DMEA(0.2%))、2.5mL/分、100バールの出口圧力、35℃の温度を使用して分離して、個々の異性体1および異性体2を白色固体として得る。
【0074】
実施例3:2-アミノ-5-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド異性体1。Rt(保持時間)=1.131分(430mg,ee>98%),ES/MS m/z 455.4(M+H)。
【0075】
実施例4:2-アミノ-5-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒ
ドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-イソプロピル-ピリジン-3-カルボキサミド異性体2。Rt(保持時間)=1.823分(404mg,ee>98%),ES/MS m/z 455.4(M+H)。
【0076】
実施例5
3-アミノ-6-[4-[[(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミドの合成
【化27】
【0077】
N,N-(15.3mL 87.5mmol)および1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(33.2g,87.5mmol)を、テトラヒドロフラン(90.0mL)中の3-アミノ-6-(4-アミノ-2-メチルフェニル)-N-メチルピラジン-2-カルボキサミド(18.0g,70.0mmol)および(2R)-2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-酢酸(13.2g,70.0mmol)の溶液に添加し、その混合物を23℃において5時間撹拌する。この時間の後、その混合物を減圧下で濃縮し、その残渣を酢酸エチル(100mL)中で15分間にわたってスラリーにし、濾過し、その固体を酢酸エチルですすぐ(2×25mL)。合わせた濾液を減圧下で濃縮し、その残渣をクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/アセトン 2:1、次いで、ヘキサン/エタノール 4:1)によって精製する。物質をメタノール(115mL)中に溶解し、シリカ-チオール樹脂(0.4g/g)を添加し、その得られる懸濁物を23℃において8時間撹拌する。この時間の後、濾過し、その固体をメタノールで洗浄する(2×12mL)。合わせた濾液を減圧下で濃縮する。SFC(カラム:Chiralpak(登録商標)IC 4.6×100mm 5μm;CO中35%のメタノール(0.2%のN,N-ジメチルエチルアミン)の均一濃度;流速:2.5mL/分;背圧:100バール;カラム温度:40℃)によって精製して、標題化合物(19.7g,62%)を得る。ES/MS m/z 428.1(M+H)。
【0078】
実施例6
3-アミノ-6-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミドの合成
【化28】
【0079】
3-アミノ-6-(4-アミノ-2-メチル-フェニル)-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミド(800.0mg,3.2mmol)を、テトラヒドロフラン(7.9g,93.6mol)中の2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-酢酸(701.9mg,3.4mmol)、(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホ
スフェート)(1.7g,4.6mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(803.2mg,6.3mmol)の溶液に添加する。室温において2時間後に、3mLの酢酸エチルを添加し、反応物を10分撹拌する。その固体を濾別し、その有機相を減圧下で減少させる。その残渣を水性飽和NaHCO(10mL)で洗浄し、ジクロロメタンで抽出する(2×10mL)。その有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。その残渣を、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって酢酸エチル:ヘキサン(30:70)で溶離して精製して、標題化合物を異性体1および異性体2の混合物として褐色固体の形態で得る(0.72g,1.6mmol)。ES/MS(m/z):428.3(M+H)。
【0080】
実施例7および8
3-アミノ-6-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミドの、異性体1および異性体2への分離
【0081】
異性体1および異性体2の混合物を、Chiralpak(登録商標)OD(4.6×50mm,5μm)、CO中20%のMeOH-DMEA(0.2%))、5mL/分、100バールの出口圧力、35℃の温度を使用して分離して、個々の異性体1および異性体2を得る。
【0082】
実施例7.3-アミノ-6-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミド異性体1。Rt(保持時間)=1.610分(258mg,ee>98%)、ES/MS m/z 428.3(M+H)。
【0083】
実施例8.3-アミノ-6-[4-[[2-(3,5-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセチル]アミノ]-2-メチル-フェニル]-N-メチル-ピラジン-2-カルボキサミド異性体2。Rt(保持時間)=2.410分(278mg,ee>98%),ES/MS m/z 428.3(M+H)。
【0084】
実施例9
(2R)-N-[4-(4-アミノ-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)-3-メチル-フェニル]-2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-アセトアミドの合成
【化29】
【0085】
テトラヒドロフラン(56mL)中の5-(4-アミノ-2-メチル-フェニル)-7-メチル-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(15.5g,44.1mmol)および(2R)-2-(3-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-酢酸(8.25g,48.5mmol)の溶液を、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(9.22mL,52.9mmol)および1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(20.1g,52.9mmol)で23℃において3.5時間処理する。この時間の後、その混合物を減圧下で濃縮して、酢酸エチル(100mL)中で15分間にわたってスラ
リーにする。濾過し、その固体を酢酸エチルですすぎ(2×15mL)、合わせた濾液を減圧下で濃縮する。その残渣をクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/メタノール 0から10%)によって精製し、次いで、SFC(カラムサイズ:5μm,2×25cm;固定相タイプ:2-エチルピリジン;移動相タイプ:CO(A)/メタノール-N,N-ジメチルエチルアミン(0.2%)(B);移動相組成(すなわち、A/B比):均一濃度 72/25のA/B;流速:65mL/分;装填:70mg/4.35分)によって精製して、標題化合物(11.7g,65%)を得る。ES/MS m/z 406.1(M+H)。