(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】シュートの発根方法
(51)【国際特許分類】
A01H 3/04 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
A01H3/04
(21)【出願番号】P 2018188357
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明里
(72)【発明者】
【氏名】谷 千春
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038564(WO,A1)
【文献】特表平11-501034(JP,A)
【文献】特開2016-140318(JP,A)
【文献】特開2005-110506(JP,A)
【文献】特開平11-266728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 3/00 - 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hevea属に属する植物の組織を、植物ホルモン及び炭素源を含む誘導培地で培養することにより、シュートを誘導、形成させる誘導工程と、
オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液に
前記誘導工程により得られたシュートを浸漬する浸漬処理工程と、
前記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養する培養工程と
を含み、
前記オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度が3.0mg/L以上であるHevea属に属する植物のシュートの発根方法。
【請求項2】
前記浸漬処理工程を24~168時間行う請求項1記載のシュートの発根方法。
【請求項3】
前記オーキシン系植物ホルモンが、インドール-3-酪酸及び1-ナフタレン酢酸である請求項1又は2記載のシュートの発根方法。
【請求項4】
前記オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度が15mg/L以下である請求項1~3のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【請求項5】
前記オーキシン溶液がグルタチオンを含有する請求項1~4のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【請求項6】
前記グルタチオンが還元型グルタチオンである請求項5記載のシュートの発根方法。
【請求項7】
前記オーキシン溶液中のグルタチオンの濃度が10~500μmol/Lである請求項5又は6記載のシュートの発根方法。
【請求項8】
前記浸漬処理工程に供されるシュートの長さが10~100mmである請求項1~7のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【請求項9】
前記発根誘導培地中の植物ホルモンの濃度が0.1mg/L以下である請求項1~8のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【請求項10】
シュートをオーキシン溶液に浸漬する際、シュートの切片の端部がオーキシン溶液に浸かる状態で浸漬されている請求項1~9のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【請求項11】
前記シュートがパラゴムノキのシュートである請求項1~10のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【請求項12】
オーキシン溶液中のインドール-3-酪酸の濃度が1.0mg/L~10mg/Lであり、オーキシン溶液中の1-ナフタレン酢酸の濃度が1.0mg/L~10mg/Lである請求項1~11のいずれかに記載のシュートの発根方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュートの発根方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業用ゴム製品に用いられている天然ゴム(ポリイソプレノイドの1種)は、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)や桑科植物のインドゴムノキ(Ficus elastica)などのゴム産生植物を栽培し、その植物体が有する乳管細胞で天然ゴムを生合成させ、該天然ゴムを植物から手作業により採取することにより得られる。
【0003】
現状、工業用天然ゴムは、パラゴムノキをほぼ唯一の採取源としている。またゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。しかしながら、パラゴムノキは東南アジアや南米などの限られた地域でのみ生育可能な植物である。更に、パラゴムノキは、植樹からゴムの採取が可能な成木になるまでに7年程度を要し、また、採取出来る季節が限られる場合がある。また、成木から天然ゴムを採取できる期間は20~30年に限られる。
【0004】
今後、開発途上国を中心に天然ゴムの需要の増大が見込まれており、天然ゴム資源の枯渇が懸念されていることから、安定的な天然ゴムの供給源が望まれている。
【0005】
このような状況下において、パラゴムノキによる天然ゴムの増産を図る動きが見られる。パラゴムノキは、播種により実生苗を育成させ成長させた後台木とし、クローン苗から得た芽を台木に接ぎ木することで苗を増殖させる。
【0006】
また従来のクローン苗から得たクローン増殖技術である接ぎ芽は、元の木がもつ病気を一緒に継いでしまう可能性があり、罹病した苗を増殖させる可能性がある。
【0007】
更に接ぎ穂は、台木の影響を受ける場合があるため、真のクローン苗とはならない。
【0008】
一方、組織培養を利用したクローン苗を増殖させる方法としてマイクロプロパゲーションがある。マイクロプロパゲーション技術では無菌での組織培養で苗を増殖させる。具体的には、増殖させようとする植物の個体から採取した芽、茎端等の組織を培養してシュートを誘導し、最終的にシュートを発根させる必要がある。何れの組織培養においてもクローン苗を作るためには、シュートを発根させる工程が必要となる。そのため、木本植物などの発根率が低い植物種においては、クローン苗を商業的に利用しようとした場合、発根率の低さが大きな問題となる。そのため、シュートの発根率を向上させることは非常に重要と言える。
【0009】
例えば、特許文献1では、培養組織と、根を共存培養することにより発根率の向上が図られているが、他の方法の提供も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記課題を解決し、良好な発根率が得られるシュートの発根方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
組織培養における発根には、通常オーキシン系植物ホルモンが必要であると言われており、オーキシン系植物ホルモンを含有する培地でシュートを長期間培養することが技術常識であった。しかし、本発明者らは、植物ホルモンの添加方法や期間により、発根能が変化する可能性があることに着目し、シュートから効率的に発根させる方法を検討した。
そこでまずシュートから発根誘導させるため、効率的にオーキシン系植物ホルモンを与える方法を検討した。本発明者らは、鋭意検討した結果、オーキシン系植物ホルモンを含有する溶液にシュートを浸漬した後に、植物培養培地で培養することで発根誘導効率が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する浸漬処理工程と、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養する培養工程とを含むシュートの発根方法に関する。
【0014】
上記浸漬処理工程を24~168時間行うことが好ましい。
【0015】
上記オーキシン系植物ホルモンが、インドール-3-酪酸及び1-ナフタレン酢酸であることが好ましい。
【0016】
上記オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度が15mg/L以下であることが好ましい。
【0017】
上記オーキシン溶液がグルタチオンを含有することが好ましい。
【0018】
上記グルタチオンが還元型グルタチオンであることが好ましい。
【0019】
上記オーキシン溶液中のグルタチオンの濃度が10~500μmol/Lであることが好ましい。
【0020】
上記浸漬処理工程に供されるシュートの長さが10~100mmであることが好ましい。
【0021】
上記発根誘導培地中の植物ホルモンの濃度が0.1mg/L以下であることが好ましい。
【0022】
上記シュートが木本植物のシュートであることが好ましい。
【0023】
上記シュートがHevea属に属する植物のシュートであることが好ましい。
【0024】
上記シュートがパラゴムノキのシュートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシュートの発根方法は、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する浸漬処理工程と、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養する培養工程とを含むため、良好な発根率が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のシュートの発根方法は、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する浸漬処理工程と、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養する培養工程とを含む。
これにより、シュートの発根率の向上が可能となるため、例えば、効率的にクローン苗を作成することが可能となる。特に、木本植物などの発根率が低い植物においても、効率的にクローン苗を作成することが可能となる。
【0027】
本明細書においてシュートとは、頂芽、腋芽、不定芽の他、多芽体又は苗条原基より分化してきた芽、及びこれらの芽が伸長した状態のものを意味する。
【0028】
本発明の方法が適用できる植物(シュートの由来植物)は、特に限定されないが、木本植物であることが好ましい。
上記木本植物としては、特に制限されず、落葉樹、常緑樹の広い範囲の種類及び品種の木本植物を挙げることができるが、特に、ゴムを資源として採取できるゴムノキであることが好ましく、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のHevea属;イチジク(Ficus carica)、インドゴムノキ(Ficus elastica)、オオイタビ(Ficus pumila L.)、イヌビワ(Ficus erecta Thumb.)、ホソバムクイヌビワ(Ficus ampelas Burm.f.)、コウトウイヌビワ(Ficus benguetensis Merr.)、ムクイヌビワ(Ficus irisana Elm.)、ガジュマル(Ficus microcarpa L.f.)、オオバイヌビワ(Ficus septica Burm.f.)、ベンガルボダイジュ(Ficus benghalensis)等のFicus属;グアユール(Parhenium argentatum)がより好ましい。更に好ましくは、Hevea属に属する植物等のトウダイグサ科(Euphorbiaceae)に属する植物であり、特に好ましくは、Hevea属に属する植物である。なかでも、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)が最も好ましい。
【0029】
上記シュートを誘導するための材料としては、植物の葉柄、葉片、体細胞胚の胚軸、節、腋芽、頂芽等の植物の組織が挙げられる。なかでも、シュートを安定的に誘導することが可能であることから、節、腋芽、又は頂芽を含む組織が好ましい。具体的には、成木や幼木、苗木、クローン苗、又は試験管内で実生苗から生育させた無菌苗(無菌実生苗)由来の上記組織などが挙げられる。
【0030】
成木や幼木、苗木、又はクローン苗由来の上記組織を使用する場合には、適宜必要な大きさに切断した後、表面を殺菌又は滅菌することで使用することができるが、試験管内で実生苗から生育させた無菌苗(無菌実生苗)由来の上記組織を使用する場合には、適宜必要な大きさに切断した後に使用することが可能である。
【0031】
成木や幼木、苗木、又はクローン苗由来の上記組織を用いる場合、後述する誘導培地で培養する前にまず、組織の表面を洗浄する。例えば、磨き粉で洗浄したり、柔らかいスポンジで洗浄したりしても良いが、流水で洗浄するのが好ましい。当該洗浄用の水は、界面活性剤を約0.1質量%含むものであってもよい。
【0032】
次に、組織を殺菌又は滅菌する。殺菌又は滅菌は、周知の殺菌剤、滅菌剤を用いて行うことができるが、エタノール、塩化ベンザルコニウム、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が好ましい。なお、殺菌又は滅菌処理の後、更に滅菌水で洗浄してもよい。
【0033】
上記洗浄、殺菌又は滅菌処理を行う具体例として例えば以下の手順が挙げられる。流水で組織の表面を洗浄した後、エタノールで洗浄。次いで次亜塩素酸ナトリウム水溶液で必要に応じて撹拌しながら滅菌。その後、滅菌水を用いて洗浄。
【0034】
シュートの誘導方法は特に限定されないが、上記組織などからシュートを誘導する誘導工程の一例について説明する。
【0035】
(誘導工程)
誘導工程では、上記組織を、植物ホルモン及び炭素源を含む誘導培地で培養することにより、シュートを誘導、形成させる。なお、誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地に上記組織を差し込んで培養することでシュートを誘導しやすくなるため、固体培養が好ましい。また、誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
また、殺菌又は滅菌処理を行った組織を用いる場合には、殺菌剤、滅菌剤の影響を除くため切り口を切除して培養に用いるのが好ましい。
【0036】
植物ホルモン(植物生長ホルモン)としては、例えば、オーキシン系植物ホルモン及び/又はサイトカイニン系植物ホルモンが挙げられる。中でも、サイトカイニン系植物ホルモンを用いることが好ましい。
【0037】
オーキシン系植物ホルモンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸、4-フルオロフェノキシ酢酸、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸、2-フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等が挙げられる。なかでも、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸が好ましく、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸がより好ましい。
【0038】
サイトカイニン系植物ホルモンとしては、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチン、ベンジルアミノプリン、イソペンテニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリボシド、ジヒドロゼアチン等が挙げられる。なかでも、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチンが好ましく、ベンジルアデニン、カイネチンがより好ましく、ベンジルアデニンが更に好ましい。
【0039】
炭素源としては、特に限定されず、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース等の糖類が挙げられる。なかでも、スクロースが好ましい。
【0040】
誘導培地は、上記組織への成長阻害物質の蓄積を防止するために、更に活性炭を含むことが好ましい。また、シュートの形成を促進するために、更に硝酸銀を含むことが好ましい。更には、シュートの形成を促進するために、ココナッツウォーター(ココナッツミルク)を含んでもよい。
【0041】
誘導培地としては、Whiteの培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Hellerの培地(Heller R, Bot.Biol.Veg.Paris 14 1-223(1953))、SH培地(SchenkとHildebrandtの培地)、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Gamborg培地、B5培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、MB培地(Biotechnology in Agriculture and Forestry volum5(TreesII)p222-245に記載)、WP培地(Woody Plant:木本類用)等の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に植物ホルモンを加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、B5培地、WP培地、MB培地に植物ホルモンを加えたものが好ましく、MS培地、その組成に変更を加えたMS改変培地、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に植物ホルモンを加えたものがより好ましい。
【0042】
誘導培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、アガー、フィタゲル等が挙げられる。
【0043】
好適な誘導培地の組成及び培養条件は、植物種により異なり、また培地が液体培地であるか固体培地であるかによっても異なるが、通常は(特に、ゴムノキの場合は)以下の組成である。
【0044】
誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0045】
誘導培地にオーキシン系植物ホルモンを実質的に加えないことが好ましく、誘導培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、具体的には、好ましくは1.0mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下、特に好ましくは0.01mg/L以下である。
【0046】
誘導培地にサイトカイニン系植物ホルモンを加える場合の、誘導培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上、特に好ましくは0.8mg/L以上、最も好ましくは3.0mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは8.0mg/L以下、より好ましくは7.0mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下である。
特に、上記サイトカイニン系植物ホルモンとしてベンジルアデニンを使用する場合の、該ベンジルアデニンの濃度は、4.0~6.0mg/Lであることが好ましく、最も好ましくは、5.0mg/Lである。他方、上記サイトカイニン系植物ホルモンとしてカイネチンを使用する場合の、該カイネチンの濃度は、0.8~1.2mg/Lであることが好ましく、最も好ましくは、1.0mg/Lである。
【0047】
誘導培地中の活性炭の濃度は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上である。該活性炭の濃度は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0048】
誘導培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0049】
誘導培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
なお、本明細書において、固体培地のpHは、固形化剤を除く全成分を添加した培地のpHを意味する。
【0050】
誘導工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、12.5μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、3~5週間がより好ましい。
【0051】
固体培地の場合、誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0052】
上述の条件のなかでも、植物ホルモンがサイトカイニン系植物ホルモン(特に、ベンジルアデニン、又はカイネチン)で、その濃度が3.0~8.0mg/Lであり、培養温度が25~35℃であることが特に好ましい。
【0053】
以上のように、上記組織を上記誘導培地で培養することにより、シュートを誘導、形成することが可能である。
【0054】
(浸漬処理工程)
浸漬処理工程では、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する。
具体的には、誘導工程等により得られたシュート(例えば、2cm程度のシュートの切片)をオーキシン溶液に浸漬すればよい。
シュートをオーキシン溶液に浸漬する際、シュートの切片の端部、すなわち、シュートの切り口がオーキシン溶液に浸かる状態で浸漬することが好ましい。
また、シュートをオーキシン溶液に浸漬する際、シュートを静置して行ってもよく、シュートを振とうして行ってもよい。
【0055】
上記浸漬処理工程を行う時間は、好ましくは24時間以上、より好ましくは40時間以上、更に好ましくは60時間以上、特に好ましくは70時間以上であり、好ましくは168時間以下、より好ましくは150時間以下、更に好ましくは130時間以下、特に好ましくは100時間以下、最も好ましくは90時間以下、より最も好ましくは80時間以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0056】
浸漬処理工程は、温度、照明時間等が管理された制御環境下で行われることが好ましい。例えば、浸漬処理工程を行う温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。浸漬処理工程は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、5~20μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。
【0057】
浸漬処理工程に供されるシュートとしては、特に限定されず、どのような方法により形成されたシュートであっても用いることができ、例えば、上記誘導工程等により得られたシュートが挙げられる。
また、浸漬処理工程に供されるシュートとしては、シュートの切片であることが好ましい。例えば、シュートを誘導するための材料として用いられた腋芽等の組織から切断されたシュートの切片が好ましい。
また、誘導培地で培養した期間が6ヶ月以内のシュートを用いることも好ましい。
【0058】
浸漬処理工程に供されるシュート(シュートの切片)の長さは、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、更に好ましくは20mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは80mm以下、更に好ましくは50mm以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0059】
オーキシン溶液が含有するオーキシン系植物ホルモンとしては、上記誘導培地に用いられるオーキシン系植物ホルモンと同様のものを用いることができる。なかでも、インドール-3-酪酸、1-ナフタレン酢酸が好ましく、インドール-3-酪酸及び1-ナフタレン酢酸を併用することがより好ましい。
【0060】
オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは15mg/L以下、より好ましくは12mg/L以下であり、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは3.0mg/L以上、更に好ましくは5.0mg/L以上、特に好ましくは8.0mg/L以上である。これにより、より良好な発根率が得られる。
ここで、複数のオーキシン系植物ホルモンを使用する場合、オーキシン系植物ホルモンの濃度とは、オーキシン系植物ホルモンの合計濃度を意味する。
【0061】
オーキシン系植物ホルモンとして、インドール-3-酪酸及び1-ナフタレン酢酸を併用する場合、
オーキシン溶液中のインドール-3-酪酸の濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは7.5mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下であり、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは2.5mg/L以上、更に好ましくは3.0mg/L以上、特に好ましくは4.0mg/L以上であり、
オーキシン溶液中の1-ナフタレン酢酸の濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは7.5mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下であり、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは2.5mg/L以上、更に好ましくは3.0mg/L以上、特に好ましくは4.0mg/L以上である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0062】
オーキシン溶液は、オーキシン系植物ホルモンを含有していればよく、オーキシン系植物ホルモンを溶解させる分散媒としては、特に限定されないが、水、等張液、緩衝液、組織培養用培地などが挙げられる。等張液としては、例えばKCl、NaCl、CaCl2、MgCl2などの無機塩を添加して0.01~7M、好ましくは、0.5~2Mにした液体が挙げられる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、MES緩衝液などが挙げられる。組織培養用培地としては、上述の培地などが挙げられる。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、水が好ましい。すなわち、オーキシン溶液が、オーキシン系植物ホルモンを水に溶解させた水溶液であることが好ましい。
【0063】
オーキシン系植物ホルモン以外にオーキシン溶液に配合できる成分は特に限定されないが、グルタチオンが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンを構成アミノ酸とするトリペプチドで、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン(グルタチオンジスルフィド)、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、還元型グルタチオンが好ましい。
【0064】
オーキシン溶液中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0065】
オーキシン溶液にはオーキシン系植物ホルモン以外の植物ホルモンを使用することも可能である。オーキシン溶液に使用できるサイトカイニン系植物ホルモンとしては、上記誘導培地に用いられるサイトカイニン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、オーキシン溶液にはオーキシン系植物ホルモン以外の植物ホルモンを使用しないことが好ましい。
【0066】
オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモン以外の植物ホルモンの濃度は、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0067】
(培養工程)
培養工程では、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養することにより発根させる。
なお、発根誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地にシュートを差し込んで培養することで発根させやすくなるため、固体培養が好ましい。また、発根誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0068】
培養工程に供されるシュートは、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートであれば特に限定されない。なかでも、上記浸漬処理工程においてシュートを浸漬することにより、シュートの基部に組織塊が形成されたシュートが好ましい。更には、シュートの基部に既に組織塊が形成されているシュートを上記浸漬処理工程に用いることもより好ましい。
【0069】
発根誘導培地は、炭素源を含むものである。
【0070】
発根誘導培地に用いられる植物ホルモンとしては、特に限定されず、上記誘導培地に用いられる植物ホルモン(オーキシン系植物ホルモン、サイトカイニン系植物ホルモン)と同様のものを用いることができる。
【0071】
発根誘導培地に用いられる炭素源としては、特に限定されず、上記誘導培地に用いられる炭素源と同様のものを用いることができるが、なかでもスクロースが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0072】
発根誘導培地は、上記誘導培地同様、更に、活性炭、硝酸銀を含むことが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0073】
発根誘導培地は、上記オーキシン溶液同様、更に、グルタチオンを含むことが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
グルタチオンとしては、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、還元型グルタチオンが好ましい。
【0074】
発根誘導培地としては、上記誘導培地として用いられる基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に炭素源を加えた同様のものを用いることができるが、なかでも、MS培地、B5培地、WP培地、MB培地に炭素源を加えたものが好ましく、MS培地、その組成に変更を加えたMS改変培地、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に炭素源を加えたものがより好ましく、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に炭素源を加えたものが更に好ましい。
【0075】
発根誘導培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、アガー、フィタゲル等が挙げられる。
【0076】
好適な発根誘導培地の組成及び培養条件は、植物種により異なり、また培地が液体培地であるか固体培地であるかによっても異なるが、通常は(特に、ゴムノキの場合は)以下の組成である。
【0077】
発根誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。
【0078】
発根誘導培地中の植物ホルモンの濃度は、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0079】
発根誘導培地中の活性炭の濃度は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上である。該活性炭の濃度は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0080】
発根誘導培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0081】
発根誘導培地中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。
【0082】
発根誘導培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
【0083】
培養工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、5~20μmol/m2/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、4~8週間がより好ましい。
【0084】
なお、本明細書において、培養工程の培養時間については、発根誘導培地に上記浸漬処理工程により浸漬されたシュート(シュートの切片)を移植したときを培養開始(0時間)とし、培養期間3週間目は、培養開始後504時間、培養期間9週間目は、培養開始後1512時間を意味し、新たな発根誘導培地に移植した(植え替えた)際は培養期間をリセットせずに、培養期間を累積加算することとする。
【0085】
固体培地の場合、発根誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.75質量%以下である。
【0086】
上述の条件のなかでも、植物ホルモンの濃度が低いこと(実質的に含有しないこと)、グルタチオンを含有することが好ましく、植物ホルモンの濃度が低く(実質的に含有せず)、かつ、グルタチオンを含有することがより好ましい。
【0087】
以上のように、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを上記発根誘導培地で培養することにより、発根させることが可能であり、発根させたシュート(本明細書において、発根したシュートを「幼植物」とも称する。)が得られ、完全な植物体であるクローン苗が形成される。この幼植物は、直接土壌に移植してもよいが、馴化させてから土壌に移植してもよい。馴化させる方法は特に限定されない。
なお、上記形成されたクローン苗を用いて、誘導工程、浸漬処理工程、培養工程を繰り返し実施することにより、優良品種のクローン苗を大量に安定的に生産することも可能である。
【実施例】
【0088】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0089】
以下、実施例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
BA:ベンジルアデニン
KI:カイネチン
硝酸銀:メルク社製の硝酸銀
ゲル化剤(固形化剤):シグマアルドリッチ社製のPhytagel
消毒剤:ユナイテッド ドラッグ(The United Drug)社製、ピラッド-ポビドン(Pyrad-Povidone)(商品名)(ポビドンヨード溶液)
【0090】
<誘導工程>
パラゴムノキの苗木から腋芽を含む組織を採取した。
次に、苗木から採取した腋芽を含む組織を流水で洗浄し、更に70質量%エタノールで洗浄した後、約5~10体積%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液で滅菌し、滅菌水で洗浄した。
【0091】
次に、滅菌した組織を誘導培地(固体培地)に差し込み、培養を行った(誘導工程)。誘導培地は、MB培地に、ベンジルアデニン5.0mg/L、硝酸銀1.0mg/L、スクロース3.0質量%、活性炭0.05質量%を添加し、培地のpHを5.7に調整した後、ゲル化剤を0.275質量%となるように添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0092】
パラゴムノキの上記組織を誘導培地(固体培地)に差し込み、培養温度28℃、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間の明時間という条件で培養し、シュートを誘導した。なお、4週間ごとに同じ組成の誘導培地に移植する植え継ぎを行った。
誘導工程により誘導されたシュートを20mm程度に切り出し、全ての葉を切り落としてシュートの切片を調製し、以下の実施例、比較例において使用した。
なお、各例はそれぞれ10回実施した。
【0093】
(実施例1)
オーキシン溶液(5.0mg/L 1-ナフタレン酢酸、5.0mg/L インドール-3-酪酸、100μmol/L 還元型グルタチオン)にシュートの切り口を72時間浸漬した(浸漬処理工程、温度:28℃、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間日長)。次に、MB基本培地に3.0質量%スクロース、0.01質量%活性炭、1.0mg/L硝酸銀、100μmol/L 還元型グルタチオン、0.275質量%固形化剤を含むホルモンフリー(植物ホルモンの濃度0mg/L)の固形培地(pH5.7)に、浸漬処理工程により浸漬処理されたシュートの切り口面を挿し込み培養した(培養工程)。培養は、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間日長、温度25~28℃で8週間培養した。ホルモンフリーの培地で培養を開始後2週間目から根が確認できる個体があり、その後8週目までに伸長し、側根も良好に形成された。その後、培養土の入った鉢に植え替え、馴化処理を行い馴化も成功した。
なお、オーキシン溶液は、上記成分を蒸留水に溶解することにより調製した。
また、培地は、基本培地に、固形化剤を除く上記各成分を添加し、培地のpHを5.7に調整した後、固形化剤を0.275質量%となるように添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
なお、培養工程では、3週間ごとに同じ組成の培地に移植する植え継ぎを行った。そして、培養中1週間(168時間)経過毎に観察、写真撮影を行い、根の形成状態の確認、根の伸長、茎及び新芽の伸長、葉の枯れの有無などを観察し、地上部の生育状態と根の形成状態を評価した。
【0094】
〔発根率の評価〕
培養工程において、培養開始0週目から8週目までに発根が確認できた個体数を数えた。
発根率=(0~8週目で発根を確認した個体数)/全個体数×100
【0095】
〔馴化率の評価〕
発根が見られた個体のうち、根の根端数が5個以上、根の全長(全ての根の長さの合計)が10cm以上となった段階で、馴化処理を開始した。
馴化処理の開始から、新葉が展開し銅色から緑色になった段階で馴化完了とした。
馴化率=(馴化完了した個体数)/(馴化処理を開始した個体数)×100
【0096】
〔総合評価〕
発根率及びその後の馴化率、馴化完了時の地上部の生育状態を考慮して、総合的に発根に適した条件であるか否かを判断した。
◎:発根誘導率 80%以上、馴化率75%以上、生育良好
○:発根誘導率 60%以上、馴化率60%以上、生育良好
×:発根誘導率指定なし、馴化率10%未満
【0097】
(実施例2)
実施例1のオーキシン溶液をオーキシン溶液(5.0mg/L 1-ナフタレン酢酸、5.0mg/L インドール-3-酪酸、50μmol/L 酸化型グルタチオン)に変更した点を除いて、実施例1と同様に行った。その結果、ホルモンフリーの培地で培養を開始後2週間目から根が確認できる個体があり、その後8週目までに伸長し、側根の形成も見られた。その後、培養土の入った鉢に植え替え、馴化処理を行い馴化も成功した。
【0098】
(実施例3)
実施例1のオーキシン溶液をオーキシン溶液(5.0mg/L 1-ナフタレン酢酸、5.0mg/L インドール-3-酪酸)に変更した点を除いて、実施例1と同様に行った。その結果、ホルモンフリーの培地で培養を開始後2週間目から根が確認できる個体があり、その後8週目までに伸長し、側根の形成も見られた。その後、培養土の入った鉢に植え替え、馴化処理を行い馴化も成功した。
【0099】
(比較例1)
1.0mg/Lインドール-3-酪酸を含むMB基本培地に3.0質量%スクロース、0.01質量%活性炭、1.0mg/L硝酸銀、0.275質量%固形化剤を含む固形培地(pH5.7)にシュートの切り口面を挿し込み培養した。培養は、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間日長、温度25~28℃で8週間培養した。一部の個体で根の形成が確認できた段階でホルモンフリーの培地に植え替え培養を継続したが根は細く側根の形成が少なかった。発根が見られた個体をその後、馴化処理を行ったが枯死した。
【0100】
(比較例2)
1.0mg/Lインドール-3-酪酸、0.5mg/lベンジルアデニンを含むMB基本培地に3.0質量%スクロース、0.01質量%活性炭、1.0mg/L硝酸銀、0.275質量%固形化剤を含む固形培地(pH5.7)にシュートの切り口面を挿し込み培養した。培養は、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間日長、温度25~28℃で8週間培養した。一部の個体で根の形成が確認できた段階でホルモンフリーの培地に植え替え培養を継続したが根は細く側根の形成が少なかった。発根が見られた個体をその後、馴化処理を行ったが枯死した。
【0101】
(比較例3)
5.0mg/Lインドール-3-酪酸を含むMB基本培地に3.0質量%スクロース、0.01質量%活性炭、1.0mg/L硝酸銀、0.275質量%固形化剤を含む固形培地(pH5.7)にシュートの切り口面を挿し込み培養した。培養は、12.5μmol/m2/sの照明の下、16時間日長、温度25~28℃で8週間培養した。一部の個体で根の形成が確認できた段階でホルモンフリーの培地に植え替え培養を継続したが根は細く側根の形成が少なかった。発根が見られた個体をその後、馴化処理を行ったが枯死した。
【0102】
実施例、比較例における、評価結果等を表1に示す。
なお、表1において、植物齢とは、誘導培地で培養した期間を意味する。
【0103】
【0104】
表1より、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する浸漬処理工程と、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養する培養工程とを含む実施例は、発根率を向上できることが分かった。
また、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する浸漬処理工程と、上記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養する培養工程とを含むことにより、その後の馴化処理の成功率が向上することも分かった。