(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】集中配向磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 7/02 20060101AFI20230816BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230816BHJP
H01F 1/057 20060101ALN20230816BHJP
H02K 15/03 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
H01F7/02 C
H01F7/02 E
H01F41/02 G
H01F1/057 170
H02K15/03 C
(21)【出願番号】P 2019004598
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-11-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】宇根 康裕
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152977(WO,A1)
【文献】特開平06-188136(JP,A)
【文献】特開2011-073019(JP,A)
【文献】特開2010-200459(JP,A)
【文献】特開2005-259977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/02
H01F 41/02
H01F 1/057
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集中配向性を付与し、かつ、変形および圧密化を円滑に行う潤滑剤を0.05~0.3質量%含む磁石用粉末をモールドへ充填し、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させて、特定方向Xへ配向した充填率Aが31.8~50.0%である前駆体を得る予備工程と、
前記前駆体の配向が集中するように前記前駆体における前記特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、各々、応力を加えて前記前駆体を変形し、同時に圧密化して、前記前駆体の充填率Bを36.8~55.0%としてなる成形体を得た後、
脱バインダー工程を経ることなく前記成形体を焼結することで集中配向磁石を得る集中配向工程と、を備え、
前記予備工程における充填率Aと前記集中配向工程における充填率Bとの差(充填率B-充填率A)が5.0%以上であ
り、
前記予備工程において前記前駆体が板形状であり、その主面の法線方向と前記特定方向Xが平行であり、
前記集中配向工程において前記前駆体が板形状であり、前記二面が前記前駆体の端面であり、
前記集中配向工程において前記集中配向磁石が板形状であり、その端面のうち、前記応力を加えていない二面の端面形状が台形である、集中配向磁石の製造方法。
【請求項2】
前記予備工程において分解可能な前記モールドを用い、
前記集中配向工程の前に、前記モールドにおける前記二面と接する部分を別のパーツに変更することで、前記前駆体における前記特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、前記前駆体の配向が集中するように、各々、応力を加えて前記前駆体を変形し、同時に圧密化する、請求項
1に記載の集中配向磁石の製造方法。
【請求項3】
前記集中配向工程における前記前駆体の変形および圧密化の前において、前記前駆体の前記二面と、これと接する前記モールドにおける前記別のパーツの各面とが、前記前駆体の前記二面と垂直な断面においてなす角度Dが、いずれも10~60度である、請求項
2に記載の集中配向磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集中配向磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに使用される永久磁石は、モータの出力向上や小型化などの観点から、体積あたりの磁力が強いこと、保磁力が強いことなどが求められる。さらに、トルク向上などの観点から、磁束の集中度が高いことも求められる。そして、このような永久磁石を製造する方法のひとつとして、粉末焼結法が知られている。
【0003】
粉末焼結法により表面磁束密度が高い集中配向磁石を製造する方法としては、例えば、特許文献1および特許文献2において、磁石粉末とバインダー(樹脂)とが混合された混合物を生成する工程と、前記混合物に対して、設定されたエリアに磁化容易軸が集束するように成形および磁場の印加を行って磁場配向する工程と、磁場配向された前記混合物の成形体を焼成温度で保持することにより焼結する工程とを有する永久磁石の製造方法が開示され、この方法により、磁石端部の配向が制御された、中心部に磁束が集中する永久磁石が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-42531号公報
【文献】特開2016-42763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、磁石粉末に対するバインダー(樹脂)の添加量が多くなることから、得られる磁石の磁気特性を確保するために脱バインダー(脱樹脂)工程を行う必要があり、この脱バインダー工程が磁石の生産性を阻害する要因となり得るという課題がある。また、バインダー成分と磁石粉末が反応して、炭素や酸素といった不純物の混入が多くなるため、得られる磁石において保磁力等の磁気特性が劣化する可能性があるという課題もある。
さらに、これらの方法では、樹脂成分と磁石粉末の混合成形体をほぼ同体積のまま塑性変形させているため、配向方向の変化率が小さく、このため、磁束の集中度を大きく高めることが難しいという課題もある。
【0006】
なお、モータに使用する永久磁石における磁束の集中配向は、モータにおいてハルバッハ配列磁気回路の使用やV字配置を行うことによっても達成できるが、ハルバッハ配列磁気回路は着磁後の接着などの製造工程が困難であり工業的に作製することが難しく、V字配置は磁石体積が増えるためコスト増となる。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち本発明の目的は、磁束の集中度が高く、且つ磁束が集中する箇所の表面磁束密度が高い集中配向磁石の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(5)である。
(1)添加剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填し、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させて、特定方向Xへ配向した充填率Aが31.8~50.0%である前駆体を得る予備工程と、
前記前駆体における前記特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、前記前駆体の配向が集中するように、各々、応力を加えて前記前駆体を変形し、同時に圧密化して、前記前駆体の充填率Bを36.8~55.0%とし、その後、焼結することで集中配向磁石を得る集中配向工程と、を備え、
前記予備工程における充填率Aと前記集中配向工程における充填率Bとの差(充填率B-充填率A)が5.0%以上である、集中配向磁石の製造方法。
(2)前記予備工程において前記前駆体が板形状であり、その主面の法線方向と前記特定方向Xが平行であり、
前記集中配向工程において前記前駆体が板形状であり、前記二面が前記前駆体の端面である、(1)に記載の集中配向磁石の製造方法。
(3)前記集中配向工程において前記集中配向磁石が板形状であり、その端面のうち、前記応力を加えていない二面の端面形状が台形である、(2)に記載の集中配向磁石の製造方法。
(4)前記予備工程において分解可能な前記モールドを用い、
前記集中配向工程の前に、前記モールドにおける前記二面と接する部分を別のパーツに変更することで、前記前駆体における前記特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、前記前駆体の配向が集中するように、各々、応力を加えて前記前駆体を変形し、同時に圧密化する、(1)~(3)のいずれかに記載の集中配向磁石の製造方法。
(5)前記集中配向工程における前記前駆体の変形および圧密化の前において、前記前駆体の前記二面と、これと接する前記モールドにおける前記別のパーツの各面とが、前記前駆体の前記二面と垂直な断面においてなす角度Dが、いずれも10~60度である、(4)に記載の集中配向磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、磁束の集中度が高く、且つ磁束が集中する箇所の表面磁束密度がより高い集中配向磁石を効率的に得ることができる。そして、本発明の製造方法により得られた集中配向磁石をモータに使用することによって、トルクが向上し、且つコギングトルクが低減されたモータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の集中配向磁石を製造する方法の一例を、工程図(モールドの断面図により示した工程図)として表したものである。
【
図2】本発明の集中配向磁石を製造する方法における集中配向工程において、変形および圧密化の前における前駆体と、この前駆体と接するモールドを、前駆体の応力を加える二面と垂直な断面により示した模式図である。なお、図中のDは、前駆体の応力を加える二面と、これと接するモールドのパーツの各面とが、前駆体の応力を加える二面と垂直な断面においてなす角度を表す。
【
図3】実施例において作製した前駆体の外観写真である(図面代用写真)。上段から順に、充填密度が1.6g/cm
3である前駆体、1.9g/cm
3である前駆体、2.1g/cm
3である前駆体、2.4g/cm
3である前駆体の外観写真である。
【
図4】実施例1および比較例1から切り出した、表面磁束密度測定に用いる直方体の試料を模式的に示した図である。
【
図5】実施例1および比較例1から切り出した直方体の試料において、y軸中心位置(
図4におけるy軸座標10mm位置)におけるx軸の表面磁束分布を示すグラフである。なお、太線グラフが実施例1の測定データ、細線グラフが比較例1の測定データであり、実線は試料表面(
図4におけるz軸座標0mm)からプローブまでの距離が0.2mm(z軸GAP0.2mm)、一点鎖線は試料表面からプローブまでの距離が1.0mm(z軸GAP1.0mm)、破線は試料表面からプローブまでの距離が2.0mm(z軸GAP2.0mm)における測定データを表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の集中配向磁石の製造方法について説明する。
本発明の集中配向磁石の製造方法は、添加剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填し、磁場をかけて前記磁石用粉末を配向させて、特定方向Xへ配向した充填率Aが31.8~50.0%である前駆体を得る予備工程と、前記前駆体における前記特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、前記前駆体の配向が集中するように、各々、応力を加えて前記前駆体を変形し、同時に圧密化して、前記前駆体の充填率Bを36.8~55.0%とし、その後、焼結することで集中配向磁石を得る集中配向工程と、を備え、前記予備工程における充填率Aと前記集中配向工程における充填率Bとの差(充填率B-充填率A)が5.0%以上である、集中配向磁石の製造方法である。以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0012】
本発明の製造方法の製造工程を、以下において、
図1を用いて詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法では、まず、磁石用粉末を調製する。この磁石用粉末の調製方法としては、磁石原料である母合金を物理的に粉砕し、あるいは溶解した母合金を回転ロール上に噴射し、超急冷することにより微細な結晶組織を持つ薄帯を得て、この薄帯を150μm以下程度に粉砕して粉末とし、さらに添加剤をこの粉末に対して0.05~0.3質量%程度配合して磁石用粉末を得る方法が例示される。磁石原料としては、希土類系(ネオジム系、サマリウムコバルト系)、フェライト系、アルニコ系など公知のものを使用できる。
【0014】
なお、本発明の製造方法においては、充填性、配向性、成形性などを付与し、且つ後述する変形および圧密化を円滑に行うことができるようにするために、添加剤を含む磁石用粉末を調製することが必要である。この添加剤としては、潤滑剤、樹脂等を使用することができ、潤滑剤としてはステアリン酸亜鉛、脂肪酸エステルなど、樹脂としてはポリイソブチレン、ポリイソプレンなどが具体例として示される。特に、潤滑剤であるラウリン酸メチルおよび/またはオクタン酸メチルを使用するのが好適である。この添加剤の配合量は、上記した0.05~0.3質量%が好ましく、0.1~0.2質量%がより好ましい。この添加剤の配合量が多すぎると、焼結後の磁石における酸素量や炭素量が増加して、保磁力などの磁気特性を低下させる可能性がある。
【0015】
そして、本発明の製造方法では、この磁石用粉末を使用して予備工程を行う。具体的には、添加剤を含む磁石用粉末をモールド(一定形状の空洞が設けられた容器)へ充填し、必要であればモールドに蓋をして、この状態において磁場をかけて磁石用粉末を特定の方向(特定方向X)に配向させ、充填率Aが31.8~50.0%である前駆体を得る。これは、
図1の(a)および(b)の工程である。なお、この配向では、磁束を特定方向Xへ配向させるだけでなく、着磁された粉末の消磁も同時に行われる。
ここで、この前駆体の充填率Aは、添加剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填する際に調整しても良く、あるいは、前記配向と同時に圧密化を行って調整してもよい。例えば、充填率Aが上記した範囲内となるように添加剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填して、その後、圧密化することなく磁場をかけて配向させるPLP(Pressless Process)により前駆体を得ても良く、あるいは、添加剤を含む磁石用粉末をモールドへ充填してから、静磁場プレスをかけて配向および圧密化を行い、充填率Aが上記した範囲内である前駆体を得てもよい。
【0016】
なお、本発明において「充填率」とは、下記式により表されるものを意味する。
充填率(%)=(充填密度(g/cm3)/真密度(g/cm3))×100
そして、磁石用粉末の真密度は、その組成により決定される。
【0017】
また、磁場配向は、交流電源あるいは直流電源によるパルス磁場により行うのが好ましく、簡便性などの観点から、交流電源によるパルス磁場により行うのがより好ましい。
【0018】
なお、この前駆体の充填率Aが31.8%より小さい場合には、配向後における前駆体の保形性が悪く、前駆体が崩壊したりクラックが入ったりする傾向があるため好ましくない。また、充填率Aが50.0%より大きい場合には、変形がし難くなるため、後述する集中配向工程における集中配向が不十分になったり、変形後の磁石が割れたりする傾向があるためこれも好ましくない。
【0019】
さらに、使用するモールドに設けられた磁石用粉末充填部である空洞の形状は、特段限定されないが、モータへの利用という観点から、板形状である(板形状の前駆体を得ることができる形状である)のが好ましい。また、この板形状である前駆体を得る場合、その配向方向(特定方向X)は、板形状である前駆体主面の法線方向と平行であるのが、後述する集中配向工程における集中配向のし易さという点において好ましい。
【0020】
次に、本発明の製造方法では、集中配向工程を行う。具体的には、上記した予備工程により得られた前駆体の配向方向である特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、前駆体の配向方向が集中するように、各々、応力を加えて前駆体を変形し、同時に前駆体の充填率Bを36.8~55.0%とするように圧密化を行い、その後、焼結して集中配向磁石を得る。このような応力を加えて変形および圧密化することにより、磁束を集中させることができ、さらに磁束が集中する箇所の表面磁束密度をより高めることができる。これは、
図1の(e)および(f)の工程である。
【0021】
なお、前駆体が上記した板形状であって、その主面の法線方向と特定方向X(配向方向)が平行である場合、この板形状である前駆体の特定方向Xと垂直ではない向かい合う側面(端面)に応力を加えて変形および圧密化を行うと、配向が乱れにくく集中配向させやすいため好ましい。そして、この場合において、予備工程において得られた板形状の前駆体を、集中配向工程において、特定方向Xに垂直ではない向かい合う端面に応力を加えて変形および圧密化し、板形状であって、その端面のうち、応力を加えていない二面の端面形状が台形である集中配向磁石を得るのが、モータへの利用という観点からより好ましい。
ここで、
図2の(I)および(II)に示したのは、いずれも、その主面の法線方向と配向方向が平行である板形状の前駆体において、配向方向に垂直ではない向かい合う端面二面に応力を加える具体例である。
図2の(I)では、主面の法線方向と配向方向が平行である直方体の前駆体について、その配向方向に平行な向かい合う端面二面に応力を加える例を示し、
図2の(II)では、主面の法線方向と配向方向が平行であるが直方体ではない板形状の前駆体について、その配向方向に垂直ではない向かい合う端面二面に応力を加える例を示している。
【0022】
なお、上記した充填率Bは、36.8%より小さいと成形体の保形性が悪く、その搬送等におけるハンドリングが困難となる傾向があるため好ましくない。また、充填率Bが55.0%より大きいと、変形および圧密化におけるプレス圧力が高すぎる状態において成形されたものであるため、スプリングバック(変形が戻る現象)などにより成形体に割れが発生し易くなる傾向があり好ましくない。
【0023】
そして、このような変形および圧密化により得られた成形体を焼結して集中配向磁石を得るが、この焼結は磁石組成に適した温度域で行うことが好ましく、例えば、ネオジム磁石の場合であれば950~1100℃程度の温度において行うことが好ましい。
また、得られる集中配向磁石の形状については、板形状、円弧形状(ラジアル配向)など、その用途等に応じてモールドの空洞形状や変形方向などを設計して決定すれば良いが、モータに利用する場合には、上記した応力を加えていない二面の端面形状が台形である板形状や、直方体あるいは直方体に近い形状である集中配向磁石とすると、加工体積を低減でき材料ロスを少なくできることから好ましい。
【0024】
ここで、本発明の製造方法においては、予備工程における充填率Aと集中配向工程における充填率Bとの差(充填率B-充填率A)が5.0%以上である必要がある。この差が5.0%より小さいと、前駆体から集中配向磁石への圧密において、その圧密度合いが均一でなくなる可能性が高いため好ましくない。
【0025】
さらに、本発明の製造方法においては、予備工程において分解可能なモールドを用い、集中配向工程の前に、モールドにおける応力を加える二面と接する部分(例えばモールドの側板)を別のパーツに変更することにより、前駆体における特定方向Xに垂直ではない向かい合う二面へ、前駆体の配向が集中するように、各々、応力を加えて前駆体を変形および圧密化するのが、集中配向を制御しやすく、変形および圧密化も容易となるため好ましい。この例は、
図1の(c)および(d)の工程である。
【0026】
また、本発明の製造方法においては、集中配向工程における前駆体の変形および圧密化の前において、この前駆体の応力を加える二面と、これと接する上記したモールドの別のパーツの各面とが、前駆体の応力を加える二面と垂直な断面においてなす角度Dが、いずれも10~60度であるのが、集中配向をより制御し易いため好ましい。
【0027】
なお、本発明における「角度D」とは、前述したように、「集中配向工程における前駆体の変形および圧密化の前において、この前駆体の応力を加える二面と、モールドにおけるこの二面と接する別のパーツの各面とが、前駆体の応力を加える二面と垂直な断面においてなす角度」を意味するが、例えば、前駆体が板形状である場合、
図2にDとして示す部分の角度である。
図2の(I)の例であれば、直方体である前駆体の応力を加える二面(配向方向と平行な向かい合う二つの端面)と、これと接するモールドにおける別パーツ(側板)の各面とが、変形および圧密化の前に、前駆体の応力を加える二面と垂直な断面においてなす角度Dが、いずれも10~60度であるのが好ましく(言い換えれば、得られる集中配向磁石の台形形状である端面において、その配向が集中する箇所と逆側に存在する2つの角が、いずれも30~80度となるような角度であることが好ましく)、さらにこれら2つの角が等しいことがより好ましい。また、
図2の(II)の例であれば、板形状である前駆体の応力を加える二面(配向方向と垂直ではない向かい合う二つの端面)と、これと接するモールドにおける側板の各面(前駆体の配向方向と平行な各面)とが、変形および圧密化の前に、前駆体の応力を加える二面と垂直な断面においてなす角度Dが、いずれも10~60度であるのが好ましく、さらにこれら2つの角が等しいことがより好ましい。このような設計とすることにより、磁石中心付近に磁束が集中した、表面磁束分布がより正弦波に近い集中配向磁石を容易に得ることができるからである。
この角度Dが10度より小さい場合、得られる磁石の配向角度が浅く、磁束の集中度が高まらず、表面磁束密度も十分向上しない傾向がある。また、この角度Dが60度より大きい場合、成形体形成時の変形が大きいため、磁石中心付近の配向が乱れる傾向があり、また、機械設計工程上好ましくない可能性がある。
【0028】
そして、本発明の製造方法における各工程は大気中で行っても良いが、ネオジム磁石をはじめとする希土類磁石を製造する場合には、酸化抑制の観点から、各工程の少なくとも1以上をアルゴン等の不活性ガス雰囲気中、あるいは真空下で行うのが好ましい。
【0029】
このような本発明の製造方法によって、配向の集中度が高く、且つ磁束が集中する箇所の表面磁束密度が同一組成、同一形状の平行配向磁石よりも高い集中配向磁石を製造することができる。また、本発明の製造方法により得られる集中配向磁石は、中心付近の表面磁束密度が高いだけでなく、表面磁束分布が正弦波に近いことも特徴である。そして、このような集中配向磁石をモータに使用することによって、トルクが向上し、且つコギングトルクが低減されたモータを得ることができる。
なお、本発明において「表面磁束密度」とは、磁石表面から離れた所定の箇所における1平方センチメートル当りの磁束密度(G:ガウス)を意味する。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0031】
(前駆体の比較試験)
Ndを26.1質量%、Prを4.61質量%、Coを0.96質量%、Bを0.95質量%、AlおよびCuを0.23質量%含み、残部がFeである合金を物理的に粉砕して粉末化し、添加剤としてオクタン酸メチルを0.1質量%配合して、磁石用粉末を得た。そして、この磁石用粉末を4つに分割し、それぞれ充填密度1.6g/cm3、1.9g/cm3、2.1g/cm3および2.4g/cm3となるように、モールドに設けられた直方体の空洞に均一に充填し、モールドに蓋をして、その状態において5T(テスラ)の交流パルス磁場により配向を行い、4種類の前駆体を得た。
【0032】
得られた各前駆体について、その外観を目視確認し、判定を行った。また、この磁石用粉末の真密度は7.55g/cm
3であり、この真密度と上記した充填密度から得られた各前駆体の充填率Aも算出した。これらの結果を下記表1に示した。また、これらの外観写真を
図3に示した。
【0033】
【0034】
この結果、充填率Aが31.8%より小さい場合、配向後における前駆体の保形性が悪く、中心部分にクラックが発生してしまい、好ましい状態ではないことが明らかとなった(表1および
図3)。つまり、本発明の製造方法においては、この充填率Aを31.8%以上とすることが必要であることが明らかとなった。
【0035】
(実施例1)
Ndを26.1質量%、Prを4.61質量%、Coを0.96質量%、Bを0.95質量%、AlおよびCuを0.23質量%含み、残部がFeである合金を物理的に粉砕して粉末化し、添加剤としてオクタン酸メチルを0.1質量%配合して、磁石用粉末を得た。
【0036】
得られた磁石用粉末を、予備工程として、モールドに設けられた直方体の充填部に充填密度2.9g/cm3となるように均一に充填し、モールドに蓋をして、その状態において5T(テスラ)の交流パルス磁場により配向を行い、前駆体を得た。この磁石用粉末の真密度は7.55g/cm3であり、得られた前駆体の充填率Aは、(2.9/7.55)×100=38.4%であった。
【0037】
そして、集中配向工程として、モールドの充填部における2つの対面する側板を取り除き、接する前駆体の各端面に対して、この各端面と垂直な断面においてなす角度が30度である面が向かい合う側板に変更して、これを前駆体の中心を基準として線対称に配置し、互いに同じ速度で前駆体の中心方向に向かって応力を加えて変形および圧密化を行った。
この工程により、前駆体の形状を、直方体から、応力を加えていない端面が、配向が集中する箇所と逆側に存在する2つの角がいずれも60度の台形形状である板形状に圧密成形し、充填率Bが51.4%まで向上した成形体を得た。成形前後の充填率の差(充填率B-充填率A)は、51.4-38.4=13.0(%)であった。そして、この成形体を980度において4時間真空焼結して、集中配向磁石である実施例1の磁石を得た。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様に磁石用粉末を作製し、充填密度が3.4g/cm3となるようにモールドに設けられた直方体の充填部に均一に充填したのち、実施例1と同様の磁場配向を実施して前駆体を得た。その後、得られた前駆体を、そのまま980度において4時間真空焼結して、直方体の平行配向磁石である比較例1の磁石を得た。
【0039】
(表面磁束密度の測定)
実施例1の磁石から、試料として
図4に示すような20mm(x軸方向)×20mm(y軸方向)×3mm(z軸方向)の直方体を切り出した。なお、この試料の切り出しは、実施例1の磁石主面と切り出す試料の直方体主面とが平行となるように行った。また、比較例1の磁石から、実施例1の磁石と同様に同じ形状の試料を切り出して、それぞれの表面磁束密度を測定した。
表面磁束密度の測定は、高精度マグネットアナライザー(日本電磁測器社製)により、y中心位置(
図4におけるy軸座標10mmの中心位置)において、試料表面(
図4におけるz軸座標0mm)からプローブまでの距離が0.2mmの位置(z軸GAP0.2mm)、1.0mmの位置(z軸GAP1.0mm)、2.0mmの位置(z軸GAP2.0mm)の3点におけるx軸方向の表面磁束密度を測定した。この表面磁束分布の測定結果を
図5に示した。
【0040】
この結果、いずれの測定位置においても、x軸座標5~15mmにおいて実施例1の磁石のほうが比較例1の磁石より表面磁束密度が高いことが明らかとなり、実施例1の磁石は磁束が中央に集中していることが明らかとなった。なお、試料表面からプローブまでの距離が0.2mmの位置におけるxおよびy中心位置(x軸座標10mm、y軸座標10mm)の表面磁束密度は、比較例1の磁石が150Gであったのに対し、実施例1の磁石は278Gと非常に高く、また、分布全体として見たとき、実施例1の磁石の表面磁束分布は比較例1の磁石より正弦波に近かった(
図5)。