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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 207
B41J2/01 213
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019052467
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020151964
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】荒金 覚
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-226772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0060707(US,A1)
【文献】特開2012-161990(JP,A)
【文献】特開2013-215900(JP,A)
【文献】特開2018-079633(JP,A)
【文献】特開2010-120254(JP,A)
【文献】特開2006-069226(JP,A)
【文献】特開2012-192727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
液体を吐出する複数のノズルが前記搬送方向に配列されたノズル列を有するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動可能なキャリッジと、
制御部と、
を備え、
前記搬送機構は、
前記ヘッドの前記搬送方向の下流側に配置され、記録媒体を挟持して前記搬送方向に搬送する搬送ローラ対を有しており、
前記制御部は、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、画像データに基づいて、前記ノズルから液体を吐出させる単位記録動作と、前記搬送機構により記録媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録し、
さらに、前記制御部は、
前記ノズル列における、液体を正常に吐出させることができない異常ノズルについての異常ノズル情報を取得し、
取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記ノズル列における、前記異常ノズル、及び前記異常ノズルに対して前記搬送方向の上流側にある全ての前記ノズルを特定ノズルに設定し、
前記画像を記録する際には、
前記単位記録動作において、前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
液体を吐出する複数のノズルが前記搬送方向に配列されたノズル列を有するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動可能なキャリッジと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、画像データに基づいて、前記ノズルから液体を吐出させる単位記録動作と、前記搬送機構により記録媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録し、
さらに、前記制御部は、
前記ノズル列における、液体を正常に吐出させることができない異常ノズルについての異常ノズル情報を取得し、
取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記ノズル列における、前記異常ノズル、並びに、当該異常ノズルに対して前記搬送方向の上流側、及び前記搬送方向の下流側のいずれか一方にある全ての前記ノズルを特定ノズルに設定し、
前記画像を記録する際には、
前記単位記録動作において前記異常ノズルを使用したときに、当該異常ノズルから液体を吐出させる必要があるか否かを前記画像データに基づいて判定し、
前記異常ノズルから液体を吐出させる必要があると判定した場合には、
前記単位記録動作において、前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用し、
前記異常ノズルから液体を吐出させる必要がないと判定した場合には、
前記単位記録動作において、前記特定ノズル以外の前記ノズルに加えて、前記特定ノズルも使用することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
液体を吐出する複数のノズルが前記搬送方向に配列されたノズル列を有するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動可能なキャリッジと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、画像データに基づいて、前記ノズルから液体を吐出させる単位記録動作と、前記搬送機構により記録媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録し、
さらに、前記制御部は、
前記ノズル列における、液体を正常に吐出させることができない異常ノズルについての異常ノズル情報を取得し、
取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記ノズル列における、前記異常ノズル、並びに、当該異常ノズルに対して前記搬送方向の上流側、及び前記搬送方向の下流側のいずれか一方にある全ての前記ノズルを特定ノズルに設定し、
前記画像を記録する際において、前記単位記録動作を複数回実行し、且つ、
前記画像を記録する際には、
前記単位記録動作のそれぞれについて、当該単位記録動作において前記異常ノズルを使用したときに、前記異常ノズルから液体を吐出させる必要があるか否かを前記画像データに基づいて判定し、
前記異常ノズルから液体を吐出させる必要があると判定した前記単位記録動作においては、前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用し、
前記異常ノズルから液体を吐出させる必要がないと判定した前記単位記録動作においては、前記特定ノズル以外の前記ノズルに加えて、前記特定ノズルも使用することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
液体を吐出する複数のノズルが前記搬送方向に配列されたノズル列を有するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動可能なキャリッジと、
制御部と、
を備え、
前記ヘッドは、液体供給口と、前記液体供給口から前記複数のノズルの各々に至る共通流路とを有しており、前記ノズル列において、前記搬送方向の一端側に配置された前記ノズルほど、前記液体供給口からの共通流路の距離が長く、
前記制御部は、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、画像データに基づいて、前記ノズルから液体を吐出させる単位記録動作と、前記搬送機構により記録媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録し、
さらに、前記制御部は、
前記ノズル列における、液体を正常に吐出させることができない異常ノズルについての異常ノズル情報を取得し、
取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記ノズル列における、前記異常ノズル、並びに、当該異常ノズルに対して前記搬送方向の上流側、及び前記搬送方向の下流側のいずれか一方にある全ての前記ノズルを特定ノズルに設定し、
前記画像を記録する際には、
前記単位記録動作において、前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用し、且つ、
前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用して前記単位記録動作を行うときには、
前記ノズル列における、前記特定ノズルに設定され、且つ前記異常ノズルではない前記ノズルを対象ノズルとして、当該対象ノズルから液体を吐出させず当該対象ノズルに形成されたメニスカスを振動させる非吐出フラッシングを前記ヘッドに行わせ、且つ、前記対象ノズルが、前記液体供給口からの前記共通流路の距離が長い前記ノズルであるほど、前記非吐出フラッシングの実行回数を多くすることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
液体を吐出する複数のノズルが前記搬送方向に配列されたノズル列を有するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動可能なキャリッジと、
制御部と、
を備え、
前記ヘッドは、
前記ノズル列として、第1液体を吐出する第1ノズル列と、前記第1液体とは種類が異なる第2液体を吐出する第2ノズル列とを有しており、前記第1ノズル列と前記第2ノズル列とは前記走査方向に並んでおり、
前記制御部は、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、画像データに基づいて、前記ノズルから液体を吐出させる単位記録動作と、前記搬送機構により記録媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録し、
さらに、前記制御部は、
前記ノズル列における、液体を正常に吐出させることができない異常ノズルについての異常ノズル情報を取得し、
取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記ノズル列における、前記異常ノズル、並びに、当該異常ノズルに対して前記搬送方向の上流側、及び前記搬送方向の下流側のいずれか一方にある全ての前記ノズルを特定ノズルに設定し、
前記画像を記録する際には、
前記単位記録動作において、前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用し、且つ、
前記制御部は、
前記異常ノズル情報として、前記第1ノズル列における前記異常ノズルについての情報を取得し、
取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記第1ノズル列における前記特定ノズルを設定し、
且つ、前記第2ノズル列における、前記第1ノズル列の前記特定ノズルと前記搬送方向の位置が同じ位置にある前記ノズルを前記特定ノズルに設定することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記画像を記録する際には、
前記単位記録動作において、前記第1ノズル列の前記異常ノズルを使用したときに、当該第1ノズル列の前記異常ノズルから液体を吐出させる必要があるか否かを前記画像データに基づいて判定し、
前記第1ノズル列の前記異常ノズルから液体を吐出させる必要があると判定した場合には、
前記単位記録動作においては、前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列それぞれにおける前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用し、
前記第1ノズル列の前記異常ノズルから液体を吐出させる必要がないと判定した場合には、
前記単位記録動作においては、前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列それぞれにおける、前記特定ノズル以外の前記ノズルに加えて、前記特定ノズルも使用することを特徴とする請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記特定ノズルを設定する際には、
前記単位記録動作で使用可能な前記ノズルの数が最も多くなるように前記特定ノズルを設定することを特徴とする請求項2~6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記制御部は、
連続する2回の前記単位記録動作の間に行う前記搬送動作において、
前記連続する2回の前記単位記録動作の、当該単位記録動作で使用される前記ノズルにより走査される記録媒体上の走査領域同士が、重ならずに前記搬送方向に隣接するように、前記搬送機構により記録媒体を搬送することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記画像を記録する際において、
前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用して前記単位記録動作を行うときには、
前記ノズル列における、前記特定ノズルに設定され、且つ前記異常ノズルではない前記ノズルを対象ノズルとして、当該対象ノズルから液体を吐出させず当該対象ノズルに形成されたメニスカスを振動させる非吐出フラッシングを前記ヘッドに行わせることを特徴とする請求項1~3、5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記ノズル列における、前記異常ノズルを検出可能な検出装置をさらに備え、
前記制御部は、
前記検出装置の検出結果を、前記異常ノズル情報として取得することを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体吐出装置として、複数のノズルを有する記録ヘッド(ヘッド)を搭載したキャリッジを主走査方向に移動させつつ、ノズルからインクを吐出させる走査(単位記録動作)と、主走査方向と交差する搬送方向に記録媒体を搬送する動作(搬送動作)とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1のインクジェット記録装置では、インクが吐出されない不吐出ノズル(異常ノズルの一例)を検知し、不吐出ノズルにより記録できなかった部分の記録を補う不吐出補完が行われている。詳細には、第1の走査を行った後に、この第1の走査で不吐出ノズルによって記録されなかった白抜け部に、不吐出ノズル以外のノズルが対応するように記録媒体を搬送する。そして、第2の走査において、第1の走査の白抜け部に対して、不吐出ノズル以外のノズルによって記録を行うことで、白抜け部の記録を補完している。
【0004】
以上より、特許文献1のインクジェット記録装置では、第1の走査の記録可能領域と、第2の走査の記録可能領域とは、部分的にオーバーラップする。また、オーバーラップしている部分については、白抜け部のみ、第2の走査で記録を行い、残りは第1の走査で記録を行っている。このため、特許文献1のインクジェット記録装置では、第1の走査で画像が記録される記録領域は、白抜け部により複数の記録領域に分けられる。そして、第1の走査で画像が記録される、白抜け部を搬送方向に挟む2つの記録領域の間に、第2の走査で画像が記録される記録領域が配置されることになる。従って、第1の走査及び第2の走査を行うと、第1の走査で画像が記録される記録領域、及び、第2の走査で画像が記録される記録領域が、不吐出ノズルの数(白抜け部の数)に応じて、搬送方向に交互に繰り返し配置されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-160802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、種々の要因により、搬送動作における記録媒体の搬送に、搬送誤差が生じる場合がある。特許文献1のインクジェット記録装置において、搬送誤差が生じると、第1の走査で画像が記録される記録領域と、第2の走査で画像が記録される記録領域との搬送方向の位置関係が、所望の位置関係からずれることになる。このため、第2の走査で、第1の走査の白抜け部に対する記録の補完を適切に行うことができず、白抜け部に対して記録が行われない場合も生じ得る。その結果として、第2の走査が終了した後も、不吐出ノズルの数だけ、記録媒体上に白抜け部が残ったままになることで、記録媒体に記録される画像の品質が大きく劣化する虞がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ノズル列に異常ノズルがある場合でも、記録媒体に画像を記録することができ、且つ、記録媒体に記録される画像の品質が劣化することを抑制可能な液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の液体吐出装置は、記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、液体を吐出する複数のノズルが前記搬送方向に配列されたノズル列を有するヘッドと、前記ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動可能なキャリッジと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、画像データに基づいて、前記ノズルから液体を吐出させる単位記録動作と、前記搬送機構により記録媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録媒体に画像を記録し、さらに、前記制御部は、前記ノズル列における、液体を正常に吐出させることができない異常ノズルについての異常ノズル情報を取得し、取得した前記異常ノズル情報に基づいて、前記ノズル列における、前記異常ノズル、並びに、当該異常ノズルに対して前記搬送方向の上流側、及び前記搬送方向の下流側のいずれか一方にある全ての前記ノズルを特定ノズルに設定し、前記画像を記録する際には、前記単位記録動作において、前記特定ノズル以外の前記ノズルを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、単位記録動作では、ノズル列における、異常ノズルだけでなく、異常ノズルに対して搬送方向の上流側及び前記搬送方向の下流側のいずれか一方にある全てのノズルも使用されない。これにより、単位記録動作において、画像が記録される記録領域は、搬送方向に複数の領域に分けられずに、搬送方向に一繋がりの領域となる。つまり、本発明によれば、連続する2回の単位記録動作における、先行する単位記録動作で画像が記録される記録領域、及び、後続する単位記録動作で画像が記録される記録領域が、搬送方向に交互に繰り返して配置されることはない。これにより、搬送動作における記録媒体の搬送に搬送誤差が生じていたとしても、記録媒体に記録される画像の品質が劣化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
図2】インクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
図3】(a)はインクジェットヘッドの平面図であり、(b)は(a)のA部拡大図であり、(c)は(b)のB-B線断面図である。
図4】画像データのドット要素データについて示す図である。
図5】連続する2回の単位記録動作の走査領域について説明する図である。
図6】ノズル検査処理について説明するフローチャートである。
図7】(a)は、異常ノズルを使用した場合に、当該異常ノズルからインクを吐出させる必要があるときに単位記録動作で使用するノズルについて説明する図であり、(b)は、異常ノズルを使用した場合に、当該異常ノズルからインクを吐出させる必要がないときに単位記録動作で使用するノズルについて説明する図である。
図8】インクジェットプリンタの記録処理に関連する一連の流れについて説明するフローチャートである。
図9】(a)は比較例に係る、搬送誤差が生じていないときの連続する2回の単位記録動作の走査領域について説明する図であり、(b)は比較例に係る、搬送誤差が生じているときの連続する2回の単位記録動作の走査領域について説明する図であり、(c)は本実施形態に係る搬送誤差が生じていたときの連続する2回の単位記録動作の走査領域について説明する図である。
図10】(a)は変形例に係る、特定ノズルの設定方法について説明する図であり、(b)及び(c)は、異常ノズル及び異常ノズルに対して搬送方向の下流側にある全てのノズルを特定ノズルに設定したときの説明図であり、(d)及び(e)は、異常ノズル及び異常ノズルに対して搬送方向の上流側にある全てのノズルを特定ノズルに設定したときの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態に係るインクジェットプリンタ1(「液体吐出装置」に相当)の概略構成について説明する。図1に示すように、プリンタ1は、略直方体形状の筐体1aを有する。この筐体1a内には、プラテン2、キャリッジ3、ホルダ4、ヘッドユニット5、搬送機構6、メンテナンス機構8、ノズル検査装置40(「検出装置」に相当)、及び制御装置100(「制御部」に相当)などが収容される。尚、以下では、図1の紙面手前側をプリンタ1の「上方」、紙面向こう側をプリンタ1の「下方」と定義する。また、図1に示す前後方向及び左右方向を、プリンタ1の「前後方向」及び「左右方向」と定義する。以下、前後、左右、上下の各方向語を適宜使用して説明する。
【0012】
プラテン2の上面には、記録媒体である用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール15,16が設けられる。
【0013】
キャリッジ3は、2本のガイドレール15,16に取り付けられ、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール15,16に沿って走査方向に往復移動可能である。また、キャリッジ3には、駆動ベルト17が取り付けられている。駆動ベルト17は、2つのプーリ18,19に巻き掛けられた無端状のベルトである。一方のプーリ18はキャリッジ駆動モータ20(図2参照)に連結されている。キャリッジ駆動モータ20によってプーリ18が回転駆動されることで駆動ベルト17が走行し、これにより、キャリッジ3が走査方向に往復移動する。より具体的には、キャリッジ3は、キャリッジ駆動モータ20が正転すると右端から左端に向かうFWD方向に移動し、キャリッジ駆動モータ20が逆転すると左端から右端に向かうRVS方向に移動する。
【0014】
ホルダ4は、キャリッジ3よりも前方に配置されている。ホルダ4には、4つのインクカートリッジ42が着脱可能に装着される。4つのインクカートリッジ42には、それぞれ、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが貯留されている。
【0015】
ヘッドユニット5は、プラテン2との間に隙間を有する状態でキャリッジ3に搭載されており、キャリッジ3とともに走査方向に往復移動する。ヘッドユニット5は、インクジェットヘッド30(以下、単にヘッド30)と、ヘッド30の上面に設けられ、ヘッド30に供給するインクを一時的に貯留するためのバッファタンク35とを有する。バッファタンク35には、可撓性を有する4本のインク供給チューブ45それぞれの一端が着脱可能に接続されている。4本のインク供給チューブ45それぞれの他端は、ホルダ4に接続されている。ホルダ4に装着された4つのインクカートリッジ42内のインクは、この4本のインク供給チューブ45を介して、バッファタンク35にそれぞれ供給される。
【0016】
ヘッド30は、図3(a)に示すように、複数のノズル10及び複数のノズル10にそれぞれ連通する複数の圧力室83が形成された流路ユニット31と、流路ユニット31の上面に配置されたアクチュエータ32とを備えている。流路ユニット31は、金属材料からなり、グランドに接続されている。
【0017】
また、図3(c)に示すように、流路ユニット31は4枚のプレートが積層された構造を有する。この流路ユニット31の下面は複数のノズル10が開口したノズル面30aである。ノズル面30aは水平面と平行である。図1に示すように、複数のノズル10は、走査方向と直交する前後方向(用紙Pの搬送方向)に一定の配列間隔Gで長さLにわたって配列されることによりノズル列9を形成している。また、ヘッド30は、走査方向に並んだ4つのノズル列9を有している。4列のノズル列9は、それぞれ、同数のノズル10を有している。また、4列のノズル列9は、各ノズル10の搬送方向(前後方向)における形成位置が互いに同じである。
【0018】
4列のノズル列9は、右側に位置するものから順に、ブラックインクを吐出するブラックノズル列9K(以下、ノズル列9K)、イエローインクを吐出するイエローノズル列9Y(以下、ノズル列9Y)、シアンインクを吐出するシアンノズル列9C(以下、ノズル列9C)、マゼンタインクを吐出するマゼンタノズル列9M(以下、ノズル列9M)である。この4列のノズル列9のうちの1列のノズル列9が「第1ノズル列」に相当し、他のノズル列が「第2ノズル列」に相当する。
【0019】
図3(a)に示すように、複数の圧力室83は、複数のノズル10と同様に4列に配列されている。さらに、図3(a)及び図3(b)に示すように、流路ユニット31には、それぞれ前後方向に延在する4本のマニホールド84(「共通流路」に相当)が形成されている。4本のマニホールド84は、4列の圧力室列に、4色のインクをそれぞれ供給する。また、4本のマニホールド84は、流路ユニット31の上面に形成された4つのインク供給口85(「液体供給口」に相当)に接続されている。4つのインク供給口85には、バッファタンク35から4色のインクがそれぞれ供給される。以上の構成より、流路ユニット31内には、各マニホールド84から分岐して、圧力室83を経てノズル10に至る個別流路が複数形成されている。また、各ノズル列9において、搬送方向の下流側のノズル10ほど、インク供給口85からの流路の距離が長い。
【0020】
図3(c)に示すように、アクチュエータ32は、複数の圧力室83を覆う振動板87と、この振動板87の上面に配置された圧電層88と、複数の圧力室83に対応した複数の個別電極89とを備えている。圧電層88の上面に位置する複数の個別電極89は、アクチュエータ32を駆動するドライバIC90とそれぞれ電気的に接続されている。
【0021】
圧電層88の下面に位置する振動板87は金属材料で形成されており、圧電層88を挟んで複数の個別電極89と対向する共通電極の役割を果たす。尚、この振動板87はドライバIC90のグランド線に接続されて常にグランド電位に保持される。
【0022】
以上の構成において、ドライバIC90から個別電極89に対して所定の駆動波形を有する駆動信号が入力されることにより、これに対応する圧電層88の容積が変形して圧力室83内のインクに圧力(吐出エネルギー)が付与され、ノズル10からインクの液滴が吐出される。
【0023】
以上のように、本実施形態では、ノズル10からインクを吐出させる吐出エネルギーをインクに付与する手段は、ノズル10に連通する圧力室83の容積を変化させてインクに吐出エネルギーを付与するアクチュエータであったが、これに限定されるものではない。例えば、加熱により圧力室内に気泡を発生させてインクに吐出エネルギーを付与するヒータであってもよい。
【0024】
図1に戻って、搬送機構6は、2つの搬送ローラ対6a,6bを有する。搬送ローラ対6aは、ヘッド30よりも搬送方向の上流側に配置されている。搬送ローラ対6bは、ヘッド30よりも搬送方向の下流側に配置されている。これら搬送ローラ対6a,6bは、搬送モータ21(図2参照)によって同期して駆動され、プラテン2に載置された用紙Pを挟持して搬送方向(前方)に搬送する。
【0025】
メンテナンス機構8は、ヘッド30の吐出特性の維持、回復のためのメンテナンス動作を行うためのものであり、キャップユニット50、吸引ポンプ51、廃液タンク52等を備えている。
【0026】
キャップユニット50は、プラテン2よりも右側の位置に配置されており、キャリッジ3が右端位置である待機位置に位置付けられたときには、このキャップユニット50と上下に対向する。また、キャップユニット50は、キャップ駆動モータ22(図2参照)により駆動されて、上下方向に昇降可能である。このキャップユニット50は、ヘッド30に接触して装着可能なキャップ55を備えている。
【0027】
キャリッジ3が待機位置に位置付けられたときには、キャップ55がノズル面30aと対向する。そして、キャリッジ3とキャップユニット50とが対向した状態でキャップユニット50が上昇すると、キャップ55がヘッド30に装着される。その結果として、キャップ55により、4列のノズル列9に属する全てのノズル10は共通に覆われる。プリンタ1の待機中においては、ノズル10内のインクの増粘を抑制するために、キャップ55により全てのノズル10が覆われたキャッピング状態にされる。吸引ポンプ51は、キャップ55に接続されている。
【0028】
プリンタ1では、制御装置100による制御の下、メンテナンス動作として、吸引パージをメンテナンス機構8に行わせることができる。吸引パージは、ノズル10からインクを強制的に排出させるパージである。吸引パージを行う際には、キャップ55でノズル10を覆った状態で、吸引ポンプ51を駆動させる。これにより、キャップ55内が負圧となることで、各ノズル10からインクが強制的に排出される。吸引パージによって、ヘッド30からキャップ55内に排出されたインクは、吸引ポンプ51に接続された廃液タンク52に送られる。
【0029】
ノズル検査装置40は、ノズル10の吐出状態を検査するための装置であり、検出用電極61、高圧電源回路62、及び判定回路63を備えている。
【0030】
検出用電極61は、平板状の電極であり、キャップ55内に配置されている。キャリッジ3が待機位置に位置付けられた際には、検出用電極61は、上下方向を対向方向として4列のノズル列9と間隔をあけて対向する。そして、キャリッジ3が待機位置に位置付けられた状態で、ノズル10からインクを吐出させると、検出用電極61にインクが着弾する。
【0031】
また、検出用電極61は、不図示の抵抗を介して高圧電源回路62に接続されている。高圧電源回路62は、制御装置100による制御の下、検出用電極61を所定の正電位にすることが可能である。その結果、グランドに接続されたヘッド30と、検出用電極61との間に所定の電位差が発生する。
【0032】
判定回路63は、検出用電極61から出力された電圧信号の電圧値と、所定の閾値とを比較し、その判定結果を制御装置100に出力する。制御装置100は、この判定回路63からの判定結果に基づいて、各ノズル10の吐出状態に関するノズル状態情報(「異常ノズル情報」に相当)を取得する。
【0033】
図2に示すように、制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、フラッシュメモリ104、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)105等を含む。ROM102には、CPU101が実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAM103には、プログラム実行時に必要なデータや画像データIMが一時的に記憶される。ASIC105には、ヘッド30、キャリッジ駆動モータ20、搬送モータ21、通信インターフェース110等、プリンタ1の様々な装置あるいは駆動部が接続されている。
【0034】
尚、制御装置100は、CPU101のみが各種処理を行うものであってもよいし、ASIC105のみが各種処理を行うものであってもよいし、CPU101とASIC105とが協働して各種処理を行うものであってもよい。また、制御装置100は、1つのCPU101が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のCPU101が処理を分担して行うものであってもよい。また、制御装置100は、1つのASIC105が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のASIC105が処理を分担して行うものであってもよい。
【0035】
制御装置100は、ROM102に格納されたプログラムに従い、CPU101及びASIC105により各種処理を実行する。例えば、制御装置100は、通信インターフェース110を介して外部装置200から記録指令を受信すると、用紙Pに画像を記録する記録処理を行う。記録処理では、制御装置100は、キャリッジ3とともにヘッド30を走査方向に移動させつつ、ヘッド30のノズル10からインクを吐出させる単位記録動作と、搬送機構6によって用紙Pを搬送方向に搬送する搬送動作とを、交互に複数回実行することで、用紙Pに所望の画像を記録する。以上のように、本実施形態のプリンタ1は、シリアル式のインクジェットプリンタである。
【0036】
尚、本実施形態では、キャリッジ3を走査方向の一方側と他方側(RVS方向とFWD方向)のいずれに移動させるときにも、複数のノズル10からインクを吐出させて上記単位記録動作を行う。変形例として、キャリッジ3を走査方向の片側に移動させるときのみノズル10からインクを吐出させて上記単位記録動作を行ってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、単位記録動作において、1記録周期内にノズル10から吐出可能なインクの液滴サイズ(インクの吐出量)は4種類(大玉、中玉、小玉、非吐出)である。「非吐出」は、液滴サイズが零であり、インクは吐出されない。「大玉」、「中玉」、「小玉」は、この順に液滴サイズが大きく、インクの吐出量が多い。尚、1記録周期は、用紙Pに記録する画像の走査方向解像度に対応する単位距離だけヘッド30が移動するのに要する時間である。単位記録動作では、RAM103に記憶された画像データIMに基づいて、記録周期の各々において、ヘッド30の各ノズル10から上記4種類の液滴サイズの何れかの液滴サイズのインクが吐出される。
【0038】
画像データIMは、4列のノズル列9(4色のインク)にそれぞれ対応した、4つのドット要素データEDを有している。各ドット要素データEDは、図4に示すように、用紙P上に形成される複数のドット(インクが着弾しないドットを含む)に対応する複数のドット要素Dを有している。詳細には、ドット要素データEDは、互いに直交するX方向及びY方向に並んだ複数のドット要素Dによって形成される。X方向及びY方向は、それぞれ、走査方向及び搬送方向に対応している。
【0039】
各ドット要素Dには、対応するドットを形成する際にノズル10から吐出させるインクの液滴サイズ(吐出量)が設定されている。詳細には、各ドット要素Dに対しては、1記録周期内にノズル10から吐出可能な上記4種類(大玉、中玉、小玉、非吐出)の液滴サイズのいずれかが設定されている。尚、図4に示すドット要素データEDでは、各ドット要素Dに対して設定される4種類の液滴サイズそれぞれを、「00」、「01」、「10」、「11」として示している。「00」は「非吐出」、「01」は「小玉」、「10」は「中玉」、「11」は「大玉」にそれぞれ対応している。
【0040】
各ドット要素データEDは、複数行分のラスターデータLを有している。ラスターデータLとは、用紙P上において走査方向に沿って配列される複数のドットに対する複数のドット要素Dが、これら複数のドット要素Dに対応する複数のドットの走査方向に沿った配列順に従った順に配列されたデータである。そして、各ラスターデータLは、それぞれ、対応するノズル列9のノズル10のいずれかに割り当てられる。つまり、ラスターデータLは、複数のドットが、走査方向に沿って配列された1ラインのドット列に対応するデータである。
【0041】
また、本実施形態では、連続する2回の単位記録動作の間に行われる搬送動作では、ヘッド30の全てのノズル10が、インクを正常に吐出させることができる正常ノズルである場合には、ノズル列9の長さL分だけ用紙Pを搬送する。従って、図5に示すように、連続する2回の単位記録動作において、先行の単位記録動作により走査される用紙P上の走査領域Kと、後続の単位記録動作により走査される用紙P上の走査領域Kとは、互いに重ならずに搬送方向に隣接して並ぶことになる。従って、先行の単位記録動作で画像が記録される(インクが着弾する)記録領域Iと、後続の単位記録動作で画像が記録される記録領域Iも、互いに重なることはない。ここで、走査領域Kとは、ノズル列9のうち、単位記録動作において使用するノズル10が走査する用紙P上の領域である。尚、説明の便宜上、図5、並びに、後で参照する図7及び図9では、搬送方向に本来移動する用紙Pを固定し、搬送方向に本来移動しないヘッド30が移動したように示している。
【0042】
ところで、ヘッド30のノズル10は、当該ノズル10内のインクの乾燥による増粘等に起因して、インクを正常に吐出させることができなくなる場合がある。記録処理の単位記録動作において、このようなインクを正常に吐出させることができないノズル10(以下、異常ノズル11a)を使用すると、用紙Pに記録される画像が大きく劣化する虞がある。尚、「ノズル10を使用する」とは、当該ノズル10に対してラスターデータLを割り当てて、単位記録動作において、割り当てられたラスターデータLの各ドット要素Dに設定された液滴サイズのインクを当該ノズル10から吐出させることを意味する。そして、単位記録動作で異常ノズル11aを使用した際に、当該異常ノズル11aに割り当てられたラスターデータLに「大玉」、「中玉」、及び「小玉」の何れかの液滴サイズが設定されたドット要素Dが含まれていると、用紙Pに記録される画像の品質が劣化することになる。より詳細には、「大玉」、「中玉」、及び「小玉」の何れかの液滴サイズが設定されたドット要素Dに対応するドットを形成する際に、ノズル10から正常にインクが吐出されないことで、白抜け等が生じる
【0043】
そこで、本実施形態では、制御装置100は、ヘッド30及びノズル検査装置40等を制御して、ヘッド30の各ノズル10が、正常ノズルであるか異常ノズルであるかを検査(検出)し、その検査結果を示すノズル状態情報を取得するノズル検査処理を実行する。そして、制御装置100は、取得したノズル状態情報に基づいて、異常ノズル11aを含む一部のノズル10を特定ノズル11に設定し、単位記録動作では、特定ノズル11を使用せずに特定ノズル11以外のノズル10(以下、常用ノズル12とも称す)を使用して行う。以下、ノズル検査処理、及び、特定ノズル11の設定について詳細に説明する。
【0044】
まず、図6を参照してノズル検査処理について説明する。このノズル検査処理を実行するタイミングは、特に限定されるものではないが、例えば、記録指令を受信したタイミングが挙げられる。また、ノズル検査処理の開始時において、キャリッジ3は待機位置に位置付けられている。
【0045】
図6に示すように、制御装置100は、まず、高圧電源回路62を制御して、ヘッド30と、検出用電極61との間に電位差を発生させる(B1)。この後、制御装置100は、ヘッド30のノズル10のうちの1つを検査対象に設定する(B2)。続いて、制御装置100は、ヘッド30の検査対象以外の各ノズル10を対象ノズルとした、非吐出フラッシングが開始されるようにヘッド30を駆動させる(B3)。非吐出フラッシングは、対象ノズルからインクを吐出させずに対象ノズル内に形成されたメニスカスを振動させる動作である。この非吐出フラッシングを行うことで、ノズル検査処理の実行中において、検査対象以外の各ノズル10内のインクが乾燥により増粘することを抑制することができる。続いて、制御装置100は、検査対象のノズル10のみから所定発数のインクが吐出されるようヘッド30を駆動させる(B4)。
【0046】
このとき、上述したように、ヘッド30と、検出用電極61との間には電位差が生じているため、検査対象のノズル10から吐出されたインクは帯電している。この帯電したインクが検出用電極61に近づき着弾する際に、検出用電極61に電気的な変化が生じる。このため、検出用電極61から出力される電圧信号の電圧値は、検出用電極61に生じた電気的な変化に応じて変化する。即ち、ヘッド30の駆動期間において、検出用電極61から出力される電圧信号の電圧値は、ヘッド30が駆動されていないときの電圧値(以下、基準電圧値)と比べて高くなる、一方で、検査対象のノズル10からインクが吐出されていない場合には、ヘッド30の駆動期間において、検出用電極61から出力される電圧信号の電圧値は、基準電圧値と実質的に同じとなる。そこで、判定回路63は、これらを区別するための閾値を設定する。そして、判定回路63は、ヘッド30の駆動期間において検出用電極61から出力される電圧信号の電圧値と、上記閾値とを比較し、その判定結果を制御装置100に出力する。
【0047】
以上より、判定回路63が、ヘッド30の駆動期間における検出用電極61の電圧信号の電圧値が、上記閾値以上であると判定している場合(B5:YES)には、制御装置100は、検査対象のノズル10が正常ノズルであると判定し(B6)、B8の処理に移る。一方で、判定回路63が、ヘッド30の駆動期間における検出用電極61の電圧信号の電圧値が、閾値未満であると判定している場合(B5:NO)には、制御装置100は、検査対象のノズル10が、インクを吐出させることができない異常ノズル11a(不吐出ノズル)であると判定し(B7)、B8の処理に移る。
【0048】
B8の処理では、制御装置100は、ヘッド30の全てのノズル10を検査対象に設定したか否かを判定する。検査対象に設定していないノズル10があると判定した場合(B8:NO)には、未だ検査対象に設定していない何れかのノズル10を検査対象に設定すべく、B2の処理に戻る。一方で、全てのノズル10を検査対象に設定したと判定した場合(B8:YES)には、制御装置100は、全てのノズル10の検査結果(判定結果)を、ノズル状態情報として取得し(B9)、本処理を終了する。
【0049】
以上のように、制御装置100は、ノズル検査処理を実行することで、ヘッド30のノズル10それぞれについて、正常ノズルであるか異常ノズルであるかを示すノズル状態情報を取得することができる。
【0050】
制御装置100は、この取得したノズル状態情報を参照して、特定ノズル11の設定を行う。以下、主に、4列のノズル列9のうち、ノズル列9Kに異常ノズル11aが含まれていた場合を例にして説明する。
【0051】
制御装置100は、図7(a)に示すように、ノズル列9Kにおいて、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側及び下流側のいずれか一方にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定する。具体的には、ノズル列9Kにおいて、単位記録動作で使用可能となる、常用ノズル12の数が最も多くなるように特定ノズル11を設定する。例えば、ノズル列9Kの異常ノズル11aが、ノズル列9Kの搬送方向の中心位置よりも搬送方向の上流側にある場合には、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定する。尚、図7(a)、並びに、後で参照する図7(b)、図9(c)及び図10(a)では、常用ノズル12を白色塗りで図示している。また、特定ノズル11のうちの異常ノズル11aを黒色塗りで図示し、特定ノズル11のうちの、正常ノズルであるノズル11bを灰色塗りで図示している。
【0052】
また、ノズル列9Kに、複数の異常ノズル11aが含まれていた場合には、ノズル列9Kにおける、異常ノズル11aのそれぞれ、及び、当該異常ノズル11aのそれぞれにおける搬送方向の上流側及び下流側のいずれか一方にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定する。このときも、ノズル列9Kにおいて、単位記録動作で使用可能となる、常用ノズル12の数が最も多くなるように特定ノズル11を設定する。
【0053】
ノズル列9K以外の、3列のノズル列9Y,9C,9Mについては、図7(a)に示すように、ノズル列9Kにおける特定ノズル11と、搬送方向の位置が同じ位置にあるノズル10それぞれを、特定ノズル11に設定する。
【0054】
尚、複数のノズル列9に異常ノズル11aがある場合には、異常ノズル11aがあるノズル列9のそれぞれにおいて、当該異常ノズル11a、及び異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側及び下流側のいずれか一方にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定する。そして、4列のノズル列9のそれぞれにおいて、何れかのノズル列9で設定された特定ノズル11と、搬送方向の位置が同じ位置にあるノズル10それぞれも、特定ノズル11に設定する。このときも、ノズル列9の各々において、単位記録動作で使用可能となる、常用ノズル12の数が最も多くなるように特定ノズル11を設定する。
【0055】
以上のように特定ノズル11を設定すると、各ノズル列9において、特定ノズル11以外の常用ノズル12が、搬送方向に連続して並ぶことになる。記録処理における単位記録動作のそれぞれにおいては、特定ノズル11以外の常用ノズル12のみを使用する。その結果として、図7(a)に示すように、各単位記録動作において、常用ノズル12が走査する用紙P上の走査領域Kは、搬送方向に一繋がりの領域となる。
【0056】
また、連続する2回の単位記録動作の間に行われる搬送動作では、搬送方向に連続する常用ノズル12の搬送方向の長さ分だけ用紙Pを搬送する。従って、先行の単位記録動作の走査領域Kと、後続の単位記録動作の走査領域Kとは、互いに重ならずに搬送方向に隣接して並ぶことになる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、記録処理における単位記録動作において、特定ノズル11を使用せずに、常用ノズル12のみを使用することで、ヘッド30に異常ノズル11aがある場合でも、用紙Pに画像を記録することができる。即ち、記録処理の開始前に、吸引パージ等によりヘッド30の全てのノズル10を正常ノズルに回復させなくても、用紙Pに画像を記録することができる。その結果として、記録指令を受信してから記録処理が開始されるまでの時間を短くすることができる。
【0058】
ところで、単位記録動作で特定ノズル11を使用しない場合には、走査領域Kの搬送方向の長さは、単位記録動作でノズル列9の全てのノズル10を使用する場合(図5参照)と比べて、短くなる。このため、単位記録動作で特定ノズル11を使用しない場合には、走査領域Kの搬送方向の長さが短くなる分、単位記録動作の実行回数が多くなり、記録処理の処理時間が長くなる。
【0059】
ここで、単位記録動作で異常ノズル11aを使用したとしても、当該異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がない場合には、用紙Pに記録される画像の品質が劣化する虞はない。即ち、異常ノズル11aに割り当てられたラスターデータLの全てのドット要素Dに設定された液滴サイズが「非吐出」の場合には、異常ノズル11aを使用したとしても、特に問題は生じない。
【0060】
そこで、本実施形態では、制御装置100は、単位記録動作のそれぞれについて、当該単位記録動作において異常ノズル11aを使用したときに、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があるか否かを画像データIMに基づいて判定する。具体的には、異常ノズル11aに割り当てられたラスターデータLに、「大玉」、「中玉」、及び「小玉」の何れかの液滴サイズが設定されたドット要素Dが含まれている場合には、制御装置100は、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があると判定する。一方で、異常ノズル11aに割り当てられたラスターデータLの全てのドット要素Dに設定された液滴サイズが「非吐出」の場合には、制御装置100は、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がないと判定する。
【0061】
そして、制御装置100は、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があると判定した単位記録動作においては、図7(a)に示すように、特定ノズル11以外の常用ノズル12を使用する。一方で、制御装置100は、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がないと判定した単位記録動作においては、図7(b)に示すように、常用ノズル12に加えて、特定ノズル11も使用する。即ち、各ノズル列9の全てのノズル10を使用する。
【0062】
以上のように、単位記録動作の各々において、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があるか否かに応じて、特定ノズル11を使用するか否かが変更される。これにより、全ての単位記録動作において特定ノズル11を使用しない場合と比べて、単位記録動作の実行回数を少なくすることができ、その結果として、記録処理の処理時間を短くすることができる。
【0063】
尚、ヘッド30に複数の異常ノズル11aがあるときには、制御装置100は、単位記録動作で全ての異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がないと判定した場合に、当該単位記録動作では、常用ノズル12に加えて特定ノズル11も使用する。一方で、制御装置100は、単位記録動作で、少なくとも何れか1つの異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があると判定した場合には、当該単位記録動作では、常用ノズル12のみを使用する。
【0064】
変形例として、複数の異常ノズル11aに、単位記録動作でインクを吐出させる必要がある異常ノズル11aと必要がない異常ノズル11aが混在する場合には、当該単位記録動作で、常用ノズル12に加えて、一部の特定ノズル11も使用するように構成されていてもよい。具体的には、単位記録動作でインクを吐出させる必要がない異常ノズル11aを、例外的に正常ノズルとみなして、特定ノズル11を設定した際に、当該設定で常用ノズル12となるノズル10については単位記録動作で使用するように構成されていてもよい。
【0065】
次に、記録処理に関連する一連の処理動作について、図8を参照しつつ説明する。
【0066】
制御装置100は、外部装置200から記録指令を受信する(S1:YES)と、上述したノズル検査処理を実行する(S2)。そして、制御装置100は、S2のノズル検査処理で取得したノズル状態情報に基づいて、ノズル列9それぞれに対して、特定ノズル11を設定する(S3)。
【0067】
ここで、先に触れたように、特定ノズル11の数が多くなるほど、単位記録動作の実行回数が多くなり、記録処理の処理時間が長くなる。このため、ヘッド30に含まれる特定ノズル11の数が所定数以上のときは、このまま特定ノズル11を使用せずに記録処理を実行する場合と比べて、記録処理の開始前に吸引パージを行なって、ヘッド30の全てのノズル10を正常ノズルに回復してから記録処理を実行する場合の方が、記録指令を受信してから記録処理が終了するまでの時間を短くすることができる可能性が高い。
【0068】
そこで、制御装置100は、ヘッド30の特定ノズル11の数が所定数以上か否かを判定する(S4)。そして、特定ノズル11の数が所定数以上であると判定した場合(S4:YES)には、制御装置100は、メンテナンス機構8に吸引パージを実行させる(S5)。この吸引パージにより、ヘッド30の各ノズル10の吐出状態が回復する。このS5の処理が終了すると、S2の処理に戻る。変形例として、吸引パージにより、全てのノズル10が正常ノズルに回復したとみなして、S2の処理に戻らず、記録処理を開始してもよい。この場合、記録処理の各単位記録動作では、全てのノズル10が使用されることになる。
【0069】
S4の処理で、特定ノズル11の数が所定数未満であると判定した場合(S4:NO)には、制御装置100は、変数Nを1にセットする(S6)。続いて、制御装置100は、画像データIMに基づいて、N番目の単位記録動作で異常ノズル11aを使用した場合に、当該異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があるか否かを判定する(S7)。異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があると判定した場合(S7:YES)には、N番目の単位記録動作では、特定ノズル11を使用しないと決定する(S8)。このS8の処理が終了すると、S10の処理に移る。一方で、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がないと判定した場合(S7:NO)には、N番目の単位記録動作では、特定ノズル11を使用すると決定する(S9)。このS9の処理が終了すると、S10の処理に移る。
【0070】
S10の処理では、制御装置100は、変数Nが1であるか否かを判定する。そして、変数Nが1であると判定した場合(S10:YES)には、制御装置100は、ノズル列9における、N番目の単位記録動作(1番目の単位記録動作)で使用可能なノズル10のうちの、搬送方向の最も下流側のノズル10と、用紙Pにおける搬送方向の最も下流側の記録位置とが対向するように、不図示の給送部により、用紙Pを給送する(S11)。一方で、変数Nが1ではないと判定した場合(S10:NO)には、制御装置100は、N-1番目の単位記録動作の走査領域Kと、N番目の単位記録動作の走査領域Kとが、重ならずに搬送方向に隣接するように、搬送機構6により用紙Pを搬送する搬送動作を実行する(S12)。
【0071】
そして、S11又はS12の処理の後、S9の処理によりN番目の単位記録動作で特定ノズル11を使用すると決定している場合(S13:YES)には、制御装置100は、常用ノズル12に加えて特定ノズル11も使用してN番目の単位記録動作を実行する(S14)。
【0072】
一方で、S8の処理によりN番目の単位記録動作で特定ノズル11を使用しないと決定している場合(S13:NO)には、制御装置100は、特定ノズル11以外の常用ノズル12を使用してN番目の単位記録動作を実行する(S15)。このS15の処理において、制御装置100は、さらに、特定ノズル11に設定されたノズル10のうち、異常ノズル11a以外のノズル11bを対象ノズルに設定し、当該対象ノズルに対して、非吐出フラッシングが行われるようにヘッド30を駆動する。この非吐出フラッシングを行うことで、単位記録動作中において、上記対象ノズル内のインクが増粘して、当該対象ノズルの吐出特性が悪化することを抑制することができる。変形例として、ノズル11bに加えて異常ノズル11aも非吐出フラッシングの対象ノズルに設定してもよい。この場合、異常ノズル11aの吐出特性がさらに悪化することを抑制することができる。
【0073】
ここで、ノズル10内のインクの粘度は、ノズル10の形成位置によって異なる場合がある。例えば、各ノズル列9では、インク供給口85からノズル10までの流路の距離はノズル10毎に異なる。また、インクは、通常、ヘッド30の流路に滞在する期間が長くなるほど、溶媒の揮発等により、その粘度が増加する。このため、インク供給口85からの流路の距離が長いノズル10ほど、吐出特性が悪化しやすい。そこで、制御装置100は、単位記録動作中において、対象ノズルが、インク供給口85からの流路の距離が長いノズル10であるほど、非吐出フラッシングの実行回数を多くする。より詳細には、対象ノズルが、インク供給口85からの流路の距離が長いノズル10であるほど、非吐出フラッシングの実行間隔を短くする。これにより、対象ノズルの吐出特性が悪化することをより確実に抑制することができる。
【0074】
S14又はS15の処理の後、制御装置100は、1頁の用紙Pへの画像の記録が終了したか否かを判定する(S16)。1頁の用紙Pへの画像の記録が終了していないと判定した場合(S16:NO)には、制御装置100は、変数Nを[N+1]に更新して(S17)、S7の処理に戻る。一方で、1頁の用紙Pへの画像の記録が終了していると判定した場合(S16:YES)には、制御装置100は、搬送機構6を制御して、画像が記録された用紙Pを不図示の排紙トレイに排出する(S18)。この後、制御装置100は、記録指令に係る画像の記録が終了したか否かを判定する(S19)。画像の記録が終了したと判定した場合(S19:YES)には、S1の処理に戻る。一方で、画像の記録が終了していないと判定した場合(S19:NO)には、制御装置100は、次の用紙Pへの画像の記録を実行すべく、S6の処理に戻る。
【0075】
以上、本実施形態によると、記録処理における単位記録動作において、特定ノズル11を使用せずに、常用ノズル12のみを使用することで、ヘッド30に異常ノズル11aがある場合でも、用紙Pに画像を記録することができる。
【0076】
ところで、ヘッド30に異常ノズル11aがある場合でも、用紙Pに画像を記録可能な方法は、本実施形態の方法以外にもある。例えば、先行する単位記録動作で異常ノズル11aにより記録できなかった部分を、後続の単位記録動作の記録で補完する方法(以下、比較例とする)がある。以下、比較例について、詳細に説明する。また、以下では、便宜上、ノズル列9の搬送方向の両端のノズル10以外のノズル10が、異常ノズル11aである場合を例にして説明する。
【0077】
図9(a)に示すように、比較例では、連続する2回の単位記録動作において、先行する単位記録動作では、異常ノズル11a、及び異常ノズル11aと搬送方向の位置が同じノズル10を不使用ノズル13に設定し、それ以外のノズル10を使用ノズル14に設定する。そして、先行する単位記録動作では、不使用ノズル13を使用せずに、使用ノズル14のみを使用する。従って、先行する単位記録動作では、不使用ノズル13(異常ノズル11a)に対して搬送方向の上流側及び下流側の両側に使用ノズル14が配置されることになる。このため、先行する単位記録動作において、使用ノズル14により走査される走査領域K(以下、「走査領域KP」と称す)は、異常ノズル11aの数に応じて、搬送方向に複数の領域に分けられる。
【0078】
この後、先行する単位記録動作で不使用ノズル13によって記録されなかったドット列(以下、「未記録ドット列」と称す)に対して、各ノズル列9の正常ノズルが対応するように用紙Pを搬送する。そして、後続する単位記録動作において、先行する単位記録動作の未記録ドット列に対して、各ノズル列9の正常ノズルを使用して記録をする。このとき、後続する単位記録動作では、先行する単位記録動作で記録が行われたドット列に対応するノズル10については、不使用ノズル13に設定して使用しない。このため、後続する単位記録動作でも、不使用ノズル13に対して搬送方向の上流側及び下流側の両側に使用ノズル14が配置されることになる。このため、後続する単位記録動作において、使用ノズル14により走査される走査領域K(以下、「走査領域KL」と称す)も、搬送方向に複数の領域に分けられる。
【0079】
以上より、連続する2回の単位記録動作を行うと、走査領域KPと走査領域KLが、異常ノズル11aの数に応じて、搬送方向に交互に繰り返し配置されることになる。このため、先行の単位記録動作の記録領域I(以下、「記録領域IP」と称す)と、後続の記録領域I(以下、「記録領域IL」と称す)も、搬送方向に交互に繰り返し配置されることになる。尚、図9(a)及び図9(b)では、使用ノズル14を白色塗りで図示している。また、不使用ノズル13のうちの異常ノズル11aを黒色塗りで図示し、不使用ノズル13のうちの正常ノズルを灰色塗りで図示している。
【0080】
以上のように、比較例では、先行する単位記録動作で異常ノズル11aにより記録できなかった部分を、後続の単位記録動作の記録で補完するため、ヘッド30に異常ノズル11aがある場合でも用紙Pに画像を記録することが可能である。
【0081】
ところで、種々の要因により、搬送動作における用紙Pの搬送に、搬送誤差が生じる場合がある。比較例において、このような搬送誤差が生じると、走査領域KPと走査領域KLとの搬送方向の位置関係が、所望の位置関係からずれることになる。このため、図9(b)に示すように、後続の単位記録動作において、先行の単位記録動作の未記録ドット列に対する記録の補完を適切に行うことができず、未記録ドット列に対して記録が行われない場合も生じ得る。その結果として、後続の単位記録動作が終了した後も、異常ノズル11aの数に応じて、用紙P上に走査方向に沿ったスジ状の濃度ムラ(白スジ等)が残ったままになる。つまり、先行の単位記録動作の記録領域IPと、後続の単位記録動作の記録領域ILとの各つなぎ目部分において濃度ムラが生じることになる。その結果として、用紙Pに記録される画像の品質が大きく劣化する虞がある。
【0082】
これに対して、本実施形態では、図9(c)に示すように、単位記録動作のそれぞれの走査領域Kは、搬送方向に複数の領域に分けられずに、搬送方向に一繋がりの領域となる。つまり、本実施形態によれば、連続する2回の単位記録動作における、先行する単位記録動作の走査領域KPと、後続する単位記録動作の走査領域KLが、搬送方向に交互に繰り返して配置されることはない。従って、先行の単位記録動作の記録領域IPと、後続の単位記録動作の記録領域ILとが、搬送方向に交互に繰り返し配置されることもない。即ち、本実施形態では、先行の単位記録動作の記録領域IPと、後続の単位記録動作の記録領域ILと間のつなぎ目の数は1つであり、比較例と比べてつなぎ目の数が少ない。このため、本実施形態では、搬送動作における記録媒体の搬送に搬送誤差が生じて、走査領域KPと走査領域KLとの搬送方向の位置関係が、所望の位置関係からずれたとしても、比較例と比べて、用紙Pに記録される画像の品質が劣化することはない。
【0083】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態では、特定ノズル11を設定する際には、単位記録動作で使用可能となる、常用ノズル12の数が最も多くなるように、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側及び下流側のいずれか一方にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定していたが、これに限定されるものではない。例えば、図10(a)に示すように、一律、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定するように構成されていてもよい。以下、その効果を説明するに先立って、前提となる事項について説明する。
【0084】
用紙Pは、インクが着弾するとインクが浸透して膨潤する。従って、連続する2回の単位記録動作において、先行する単位記録動作で用紙Pの或る領域にインクを着弾させた後、後続する単位記録動作において、上記或る領域に対して搬送方向の上流側で隣接する隣接領域へインクを吐出させるときには、或る領域の膨潤により、当該隣接領域と、ヘッド30との間の距離(以下、ギャップ)が所望値からずれる虞がある。ギャップが所望値からずれると、単位記録動作におけるインクの着弾位置が走査方向にずれるため、用紙Pに記録される画像の品質が劣化する。
【0085】
ここで、図10(b)及び(c)に示す例のように、特定ノズル11を設定する際に、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の下流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定した場合、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にあるノズル10が、常用ノズル12となる。
【0086】
従って、連続する2回の単位記録動作において、先行する単位記録動作で常用ノズル12を使用して画像を記録(図10(b)参照)した後に、後続する単位記録動作を行う際には、図10(c)に示すように、先行する単位記録動作の記録領域Iは、搬送ローラ対6bに挟まれずに、ヘッド30と対向する位置に配置される可能性が高い。このため、図10(b)及び(c)に示す例では、後続する単位記録動作を行う際において、先行する単位記録動作の記録領域Iの膨潤の影響を比較的受けやすく、上記ギャップが所望値からずれやすい。
【0087】
一方で、図10(d)及び(e)に示す例のように、特定ノズル11を設定する際に、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定した場合、異常ノズル11aに対して搬送方向の下流側にあるノズル10が、常用ノズル12となる。
【0088】
従って、連続する2回の単位記録動作において、先行する単位記録動作で常用ノズル12を使用して画像を記録(図10(d)参照)した後に、後続する単位記録動作を行う際には、図10(e)に示すように、先行する単位記録動作の記録領域Iは、搬送ローラ対6bに挟まれた状態となる可能性が高い。このため、図10(d)及び(e)に示す例では、後続する単位記録動作を行う際において、先行する単位記録動作の記録領域Iの膨潤の影響を比較的受け難く、上記ギャップが所望値からずれ難い。
【0089】
以上より、図10(a)に示すように、一律、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定することで、用紙Pの膨潤の影響を比較的受け難くすることができるため、用紙Pに記録される画像の品質が劣化することを抑制することができる。
【0090】
変形例として、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定したときの常用ノズル12の数である第1値と、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の下流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定したときの常用ノズル12の数である第2値をそれぞれ算出する。そして、第2値が第1値よりも所定の値以上大きいときには、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の下流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定する。一方で、第2値が第1値よりも上記所定の値以上大きくないときには、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定してもよい。この場合、記録処理の処理時間が長くなることを抑制することができる。加えて、第1値と第2値との差が小さいときには、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定することで、用紙Pに記録される画像の品質が劣化することを抑制することができる。
【0091】
また、記録処理を、複数の記録モードで実行可能である場合、その記録モードに応じて、特定ノズル11の設定方法を変更してもよい。例えば、通常記録モードと、通常記録モードよりも記録速度が速い高速記録モードで記録処理を実行可能である場合、通常記録モードのときには、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定する。一方で、高速記録モードのときには、単位記録動作で使用可能となる、常用ノズル12の数が最も多くなるように、異常ノズル11a、並びに、異常ノズル11aに対して搬送方向の上流側及び下流側のいずれか一方にある全てのノズル11bを特定ノズル11に設定してもよい。
【0092】
以下、その他の変形例について説明する。
【0093】
上述の実施形態では、単位記録動作において、異常ノズル11aを使用したときに、当該異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がない場合には、当該単位記録動作において特定ノズル11も使用していたが、これに限定されるものではない。即ち、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要の有無に関わらず、全ての単位記録動作において特定ノズル11を使用しないように構成されていてもよい。
【0094】
また、上述の実施形態では、異常ノズル11aを使用したときに、異常ノズル11aからインクを吐出させる必要が有るか否かの判定を、単位記録動作毎に行っていたがこれに限定されるものではない。例えば、一頁の用紙Pに画像を記録する際に異常ノズル11aを使用したときに、全ての単位記録動作で異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がないか、少なくとも1回の単位記録動作で異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があるかを判定してもよい。この場合、全ての単位記録動作で異常ノズル11aからインクを吐出させる必要がないと判定した場合には、全ての単位記録動作において常用ノズル12に加えて特定ノズル11を使用する。一方で、少なくとも1回の単位記録動作で異常ノズル11aからインクを吐出させる必要があると判定した場合には、全ての単位記録動作において常用ノズル12のみを使用してもよい。
【0095】
また、記録モードに応じて、単位記録動作で特定ノズル11を使用するか否かを決定してもよい。例えば、制御装置100は、ブラックインクのみを使用して記録を行うモノクロ記録モードと、4色のインクを使用して記録を行うカラー記録モードで記録処理を実行可能にされている。そして、ノズル列9Kに異常ノズル11aがなく、3列のノズル列9Y,9C,9Mの少なくとも何れかに異常ノズル11aがあるときには、記録モードがモノクロ記録モードの場合には、特定ノズル11を使用すると決定し、カラー記録モードの場合には、特定ノズル11を使用しないと決定してもよい。
【0096】
また、上述の実施形態では、ノズル検査処理の際には、ヘッド30と検出用電極61との間に電位差を発生させていたが、電位差を発生させなくてもよい。これらの間に電位差を発生していない場合でも、ノズル10から吐出されるインクは、ノズル面30aから離れる際に、若干ではあるが帯電する。従って、この帯電したインクが検出用電極61に近づき着弾する際には、検出用電極61から出力される電圧信号が、基準電圧値よりも高くなる。従って、ヘッド30と検出用電極61との間に電位差を発生させない場合でも、上述の実施形態と比べて精度は低下する虞はあるものの、ノズル10の吐出状態を検査することは可能である。
【0097】
また、上述の実施形態では、異常ノズルは、インクが吐出させることができない不吐出ノズルとしていたが、これに限定されるものではない。例えば、ノズル10から吐出されるインクの体積が低下すれば、その分だけ検出用電極61から出力される電圧信号の電圧値は低くなる。従って、判定回路63における閾値を適切に設定すれば、所望の体積のインクを吐出させることができないノズル10も判定することは可能である。従って、不吐出ノズルに加えて、所望の体積のインクを吐出させることができないノズルも異常ノズルとしてもよい。
【0098】
また、異常ノズル情報を取得する方法は、上述の実施形態の方法に限定されるものではない。例えば、特開2010-069872号公報に記載されているように、レーザ光を利用した検出装置により異常ノズル情報を取得してもよい。即ち、レーザ出射部から出射されるレーザ光をノズルと対向する位置に配置する。そして、ノズルから正常にインクが吐出されたときに、レーザ出射部から出射されるレーザ光がインクにより遮断される現象を利用して、レーザ出射部から出射されたレーザ光を受光するレーザ受光部の受光結果に基づいて、異常ノズル情報を取得してもよい。また、異常ノズルを検出可能なテストパターンを用紙に記録し、その記録結果をスキャナで読み取る、もしくは、ユーザーに入力してもらうことで、異常ノズル情報を取得してもよい。
【0099】
また、上述の実施形態では、制御装置100は、異常ノズル情報として、4列のノズル列9それぞれの異常ノズル11aについての情報を取得していたが、これに限定されるものではない。例えば、1列のノズル列9の異常ノズル11aについての情報のみ異常ノズル情報として取得してもよい。例えば、ブラックインクが顔料インクであり、他の3色のカラーインクが染料インクである場合、通常、ブラックインクの方が増粘しやすい。従って、ノズル列9Kの各ノズル10の方が、ノズル列9Y,9C,9Mの各ノズル10よりも異常ノズル11aになり易い。従って、制御装置100は、ノズル列9Kの異常ノズル11aについての情報のみ異常ノズル情報として取得してもよい。
【0100】
また、上述の実施形態では、連続する2回の単位記録動作の間に行われる搬送動作では、先行の単位記録動作の走査領域KPと、後続の単位記録動作の走査領域KLとが、重ならずに搬送方向に隣接するように用紙Pを搬送していたが、これに限定されるものではない。例えば、搬送動作では、連続する2回の単位記録動作において、先行の単位記録動作の走査領域KPと、後続の単位記録動作の走査領域KLとが、部分的に重なるように用紙Pを搬送してもよい。
【0101】
また、上述の実施形態では、搬送機構の用紙Pの搬送方式は、搬送ローラ対を用いたローラ搬送方式であったが、これに限定されるものではなく、他の搬送方式であってもよい。例えば、搬送方式は、搬送ベルトを用いたベルト搬送方式であってもよい。このベルト搬送方式では、用紙Pを搬送ベルトに吸着させて搬送させてよい。用紙Pの吸着方法としては、例えば、搬送ベルトの表面に静電気を発生させて、用紙Pを吸着する静電吸着方法や、搬送ベルトの厚み方向に貫通した複数の貫通孔を設け、当該貫通孔からエアを吸引して用紙Pを吸着するエア吸着方法などが挙げられる。
【0102】
また、搬送機構の搬送方式は、搬送ローラ対及び搬送ベルトの両方を用いて用紙Pを搬送する方式であってもよい。また、記録媒体は、ロール状に巻かれた連続紙であるロール紙であってもよい。この場合、搬送機構は、インクジェットヘッド(キャリッジ)よりも搬送方向の下流側において、ロール紙を巻き取る巻き取り機構を有するものであってもよい。
【0103】
また、ノズルからインクを吐出して用紙に画像を記録するプリンタに本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。用紙P以外の記録媒体に対して液体を吐出する液体吐出装置に適用することも可能である。例えば、記録媒体は、Tシャツ、屋外用広告用のシート等であってもよい。また、配線基板に対して、配線パターンの材料等のインク以外の液体を吐出して記録を行う液体吐出装置に適用することも可能である。また、スマートフォン等の携帯端末のケース、段ボール、樹脂等に対してインクを吐出して記録する液体吐出装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 インクジェットプリンタ
3 キャリッジ
6 搬送機構
9 ノズル列
10 ノズル
11 特定ノズル
11a 異常ノズル
30 インクジェットヘッド
100 制御装置
図1
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