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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20230816BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230816BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B62D5/04
F16H25/22 Z
F16H25/20 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019092359
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020185921
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
(72)【発明者】
【氏名】尾形 俊明
(72)【発明者】
【氏名】岸田 文夫
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-030368(JP,A)
【文献】特開2012-045978(JP,A)
【文献】特開2013-123984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0042411(US,A1)
【文献】特開2005-067296(JP,A)
【文献】特開2003-226249(JP,A)
【文献】特開2017-177996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
F16H 25/22
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第1の雄ねじ溝を有し、かつ左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第2の雄ねじ溝を有し、軸方向に移動することで左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第1の雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持された第1のナットと、
前記第2の雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持された第2のナットと、
第1の駆動力を発生する第1の駆動源と、
前記第1の駆動源とは独立して作動して第2の駆動力を発生する第2の駆動源と、
前記第1の駆動源及び前記第2の駆動源を制御する制御装置と、
前記第1の駆動力を前記第1のナットに伝達し、前記第1のナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第1の動力伝達部と、
前記第2の駆動力を前記第2のナットに伝達し、前記第2のナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第2の動力伝達部と、を備え、
前記ハウジングには、前記転舵軸の外周面において前記第1の雄ねじ溝及び前記第2の雄ねじ溝が設けられていない位置に付された複数の標識を読み取って前記転舵軸の軸方向位置を検出する位置検出センサが取り付けられており、
前記制御装置は、前記位置検出センサの検出結果を用いて前記第1の駆動源及び前記第2の駆動源を制御
前記複数の標識は、前記転舵軸が中立位置にあることを示す中立位置標識と、前記転舵軸が右方向及び左方向への最大移動位置にあることを示す第1及び第2のラックエンド位置標識と、前記中立位置標識と前記第1及び第2のラックエンド位置標識との間に等間隔に設けられた複数の目盛標識とを含み、
前記中立位置標識ならびに前記第1及び第2のラックエンド位置標識と、前記複数の目盛標識とは、太さ又は大きさが異なり、
前記位置検出センサは、前記中立位置標識、前記第1及び第2のラックエンド位置標識、ならびに前記複数の目盛標識の太さ又は大きさを識別して前記制御装置に前記転舵軸の位置の検出信号を出力する、
ステアリング装置。
【請求項2】
前記複数の標識は、前記転舵軸の外周面において周方向に延びる直線からなり、前記転舵軸の軸方向に並んでおり、
前記中立位置標識ならびに前記第1及び第2のラックエンド位置標識と、前記複数の目盛標識とは、前記転舵軸の軸方向における太さが異なる、
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記複数の標識は、前記転舵軸の軸方向に並ぶ点状であり、
前記中立位置標識ならびに前記第1及び第2のラックエンド位置標識と、前記複数の目盛標識とは、それぞれの大きさが異なる、
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記第1の駆動源及び前記第2の駆動源は、互いに協働して前記転舵軸を移動させるように、前記第1の駆動力及び前記第2の駆動力を前記第1の動力伝達部及び前記第2の動力伝達部を介して前記転舵軸に伝達するように構成されている、
請求項1乃至の何れか1項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が操作するステアリングホイールと、車両の左右の転舵輪を転舵させる転舵軸とが機械的に連結されていないステアバイワイヤ方式のステアリング装置が知られている。このような方式のステアリング装置は、車速や加速度センサの検出値等の車両状態情報に基づいてステアリングホイールの操舵量に対する転舵輪の転舵量の比であるステアリングギヤ比を変えることが可能であり、例えば駐車時にステアリングギヤ比を高くしてステアリングホイールの操舵量を少なくすること等により運転者の負担を軽減することができる。
【0003】
特許文献1に記載のステアバイワイヤ式操舵装置は、運転者が操作するステアリングホイールと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、左右一対の転舵モータと、左車輪を転舵させる左側の操舵軸と、左側の転舵モータの出力を左側の操舵軸に伝達する左側の出力伝達機構と、右車輪を転舵させる右側の操舵軸と、右側の転舵モータの出力を右側の操舵軸に伝達する右側の出力伝達機構とを有している。左右の出力伝達機構は、操舵軸のボールねじ軸部と、ボールねじ軸部に複数のボールを介して螺合するボールナットと、転舵モータの出力軸に設けられた出力ギヤと、ボールナットの外径面に固定されて出力ギヤに噛み合う入力ギヤとで構成されている。左右の転舵モータは、操舵角センサによって検出された操舵角に基づいて、電気制御ユニットのステアリング制御部によって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-214978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のステアバイワイヤ式操舵装置において、ステアリング制御部は、例えば転舵モータに設けられたエンコーダ等の回転角検出装置の検出値に基づいて転舵輪の転舵角を推定し、その推定値に基づいて転舵モータを制御することでステアリングギヤ比を調節することができる。しかし、転舵モータの出力軸と左右の操舵軸との間には、出力ギヤ、入力ギヤ、ボールナット、及び複数のボールが介在しているので、これらの部材間の隙間(ガタ)に起因するバックラッシ等によって転舵角の推定精度が低下してしまう。特に、ステアリングホイールの操舵角がゼロで車両が直進しようとする際に転舵角の推定値に誤差があると、車両の直進性に悪影響を及ぼしてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、転舵角の推定精度を高めることが可能なステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、中空状のハウジングと、前記ハウジングの内部に収容され、左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第1の雄ねじ溝を有し、かつ左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第2の雄ねじ溝を有し、軸方向に移動することで左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、前記第1の雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持された第1のナットと、前記第2の雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持された第2のナットと、第1の駆動力を発生する第1の駆動源と、前記第1の駆動源とは独立して作動して第2の駆動力を発生する第2の駆動源と、前記第1の駆動源及び前記第2の駆動源を制御する制御装置と、前記第1の駆動力を前記第1のナットに伝達し、前記第1のナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第1の動力伝達部と、前記第2の駆動力を前記第2のナットに伝達し、前記第2のナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第2の動力伝達部と、を備え、前記ハウジングには、前記転舵軸の外周面において前記第1の雄ねじ溝及び前記第2の雄ねじ溝が設けられていない位置に付された複数の標識を読み取って前記転舵軸の軸方向位置を検出する位置検出センサが取り付けられており、前記制御装置は、前記位置検出センサの検出結果を用いて前記第1の駆動源及び前記第2の駆動源を制御前記複数の標識は、前記転舵軸が中立位置にあることを示す中立位置標識と、前記転舵軸が右方向及び左方向への最大移動位置にあることを示す第1及び第2のラックエンド位置標識と、前記中立位置標識と前記第1及び第2のラックエンド位置標識との間に等間隔に設けられた複数の目盛標識とを含み、前記中立位置標識ならびに前記第1及び第2のラックエンド位置標識と、前記複数の目盛標識とは、太さ又は大きさが異なり、前記位置検出センサは、前記中立位置標識、前記第1及び第2のラックエンド位置標識、ならびに前記複数の目盛標識の太さ又は大きさを識別可能である、ステアリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のステアリング装置によれば、転舵角の推定精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るステアリング装置の概略の構成例を示す模式図である。
図2】転舵装置の構成を示す断面図である。
図3】第1の移動機構及びその周辺部を示す図2の部分拡大図である。
図4】ラックシャフトに付された複数の標識からなる被読み取り部の一例を示す説明図である。
図5A-5C】第1乃至第3の変形例に係る被読み取り部を示す説明図である。
図6A-6C】図6Aは、本発明の第2の実施の形態に係る位置検出センサ及び回転軸を示す断面図である。図6Bは、回転軸とラックシャフトとの噛み合い部を示す断面図である。図6Cは、位置検出センサの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るステアバイワイヤ方式のステアリング装置の概略の構成例を示す模式図である。なお、以降の説明において、「左」「右」とは、ステアリング装置が搭載された車両の車幅方向の左右をいう。
【0012】
このステアリング装置1は、運転者が操作する操舵部材としてのステアリングホイール11と、ステアリングホイール11と一体に回転するステアリングシャフト12と、ステアリングホイール11の操舵角を検出する操舵角センサ13と、ステアリングホイール11に加えられた操舵トルクを検出するトルクセンサ14と、ステアリングシャフト12に操舵反力を与える反力アクチュエータ15と、転舵輪である左右の前輪6L,6Rを左右のリンク機構7L,7Rを介して転舵させる転舵装置2と、反力アクチュエータ15及び転舵装置2を制御する制御装置10とを備えている。
【0013】
ステアリング装置1は、ステアリングホイール11の操作に応じて、転舵装置2によって左右の前輪6L,6Rを転舵させる。制御装置10は、操舵角センサ13及びトルクセンサ14によって検出された操舵角及び操舵トルク、ならびに横方向及び前後方向の加速度を検出する加速度センサの検出値や車速等の車両状態情報に基づいて反力アクチュエータ15及び転舵装置2を制御する。
【0014】
左右のリンク機構7L,7Rは、タイロッド71及びナックルアーム72と第1及び第2のボールジョイント73,74とをそれぞれ有している。左側のリンク機構7Lは、タイロッド71の一端が後述する転舵装置2のラックシャフト20の左端部に第1のボールジョイント73によって揺動可能に連結され、タイロッド71の他端が左前輪6Lを転向するナックルアーム72に第2のボールジョイント74によって揺動可能に連結されている。
【0015】
右側のリンク機構7Rは、タイロッド71の一端がラックシャフト20の右端部に第1のボールジョイント73によって揺動可能に連結され、タイロッド71の他端が右前輪6Rを転向するナックルアーム72に第2のボールジョイント74によって揺動可能に連結されている。左右のリンク機構7L,7Rの第1のボールジョイント73は、ボールジョイントソケット731にタイロッド71の一端に設けられた球状のボール部711を収容して構成されている。
【0016】
転舵装置2は、車幅方向に沿った軸方向の移動により左右の前輪6L,6Rを転舵する転舵軸としてのラックシャフト20と、互いに独立した第1及び第2の移動機構3,4と、第1の移動機構3を動作させる第1の電動モータ21と、第2の移動機構4を動作させる第2の電動モータ22と、ラックシャフト20を収容する中空状のハウジング5とを備えている。第1及び第2の移動機構3,4は、ラックシャフト20をハウジング5に対して軸方向に移動させる。
【0017】
第1及び第2の電動モータ21,22は、制御装置10によって制御される。第1及び第2の電動モータ21,22は、例えば三相モータであり、固定子及び回転子からなる駆動部211,221と、固定子に対する回転子の回転角を検出するための回転角検出装置212,222を有している。制御装置10は、回転角検出装置212,222の検出信号を取得し、回転角の検出値が指令値と一致するように第1及び第2の電動モータ21,22を制御する。
【0018】
ハウジング5は、車体に対して固定されており、ラックシャフト20の両端部がハウジング5から左右方向に突出している。ボールジョイントソケット731は、ラックシャフト20よりも大径であり、ハウジング5に対するラックシャフト20の軸方向の移動量は、ボールジョイントソケット731がハウジング5の端部に当接することにより制限される。
【0019】
図2は、転舵装置2の構成を示す断面図である。図3は、第1の移動機構3及びその周辺部を示す図2の部分拡大図である。
【0020】
第1の移動機構3は、第1の電動モータ21によって回転する第1のボールねじナット31と、第1のボールねじナット31とラックシャフト20との間で循環転動する複数のボール32と、第1のボールねじナット31をハウジング5に対して回転可能に支持する軸受33と、第1の電動モータ21の回転力を第1のボールねじナット31に伝達するベルト34とを有している。
【0021】
同様に、第2の移動機構4は、第2の電動モータ22によって回転する第2のボールねじナット41と、第2のボールねじナット41とラックシャフト20との間で循環転動する複数のボール42と、第2のボールねじナット41をハウジング5に対して回転可能に支持する軸受43と、第2の電動モータ22の回転力を第2のボールねじナット41に伝達するベルト44とを有している。第1のボールねじナット31及び第2のボールねじナット41は、ハウジング5の内部に回転可能に支持されている。
【0022】
図3に拡大して示すように、第1のボールねじナット31の内周面には、複数のボール32が転動する転動溝310が螺旋状に形成されている。ラックシャフト20の外周面には、第1のボールねじナット31との間で複数のボール32が転動する第1の転動溝201が螺旋状に形成されている。また、第1のボールねじナット31には、ベルト34に噛み合う複数の噛み合い歯311が外周面に形成されている。ベルト34は、第1の電動モータ21のモータ軸213に固定されたプーリ214及び第1のボールねじナット31に掛け回され、第1の電動モータ21の回転力を減速して第1のボールねじナット31に伝達する。
【0023】
第2の移動機構4は、第1の移動機構3と同様に構成されているが、各構成部材が第1の移動機構3とは左右対称に配置されている。ラックシャフト20の外周面には、第2のボールねじナット41との間で複数のボール42が転動する第2の転動溝202が螺旋状に形成されている。ラックシャフト20の第1の転動溝201及び第2の転動溝202は、雄ねじ溝であると共に、螺旋の捩じれ方向が互いに逆向きであり、両転動溝201,202は逆ねじの関係にある。
【0024】
すなわち、ラックシャフト20は、左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第1の雄ねじ溝としての第1の転動溝201を有し、かつ左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第2の雄ねじ溝としての第2の転動溝202を有し、軸方向に移動することで左右の前輪6L,6Rを転舵する。第1のボールねじナット31は、複数のボール32を介して第1の転動溝201に螺合し、第2のボールねじナット41は、複数のボール42を介して第2の転動溝202に螺合している。
【0025】
第1の電動モータ21は、第1のボールねじナット31を回転させる第1の駆動力を発生する第1の駆動源であり、第2の電動モータ22は、第2のボールねじナット41を回転させる第2の駆動力を発生する第2の駆動源である。第1の電動モータ21と第2の電動モータ22とは、互いに独立して作動可能である。第1の移動機構3のベルト34は、第1の駆動力を第1のボールねじナット31に伝達する第1の動力伝達部として、第1のボールねじナット31を回転させてラックシャフト20に軸力を付与する。第2の移動機構4のベルト44は、第2の駆動力を第2のボールねじナット41に伝達する第2の動力伝達部として、第2のボールねじナット41を回転させてラックシャフト20に軸力を付与する。
【0026】
第1の電動モータ21及び第2の電動モータ22は、互いに協働してラックシャフト20を移動させるように、第1の駆動力及び第2の駆動力をベルト34,44を介してラックシャフト20に伝達するように構成されている。
【0027】
ハウジング5は、第1乃至第3のハウジング部材51~53をボルト締結して構成されている。第1のハウジング部材51は、主として第1及び第2のボールねじナット31,41と、第1及び第2のボールねじナット31,41の間のラックシャフト20とを収容している。第2のハウジング部材52は、主として第1のボールねじナット31よりも左側のラックシャフト20を収容している。第3のハウジング部材53は、主として第2のボールねじナット41よりも右側のラックシャフト20を収容している。
【0028】
第1のハウジング部材51の左端部には、複数のボルト54によって第2のハウジング部材52が固定されると共に、複数のボルト55によって第1の電動モータ21が固定されている。また、第1のハウジング部材51の右端部には、複数のボルト56によって第3のハウジング部材53が固定されると共に、複数のボルト57によって第2の電動モータ22が固定されている。図2では、複数のボルト55~57のうち、それぞれ一つのボルト55~57を示している。また、第1のハウジング部材51には、車体側への取り付けのための複数の取付部511が設けられている。
【0029】
ハウジング5には、ラックシャフト20の軸方向位置を検出するための位置検出センサ8が取り付けられている。本実施の形態では、位置検出センサ8を収容するための収容部50が第1のハウジング部材51の中央部に設けられているが、位置検出センサ8の取付位置はこれに限らず、第1及び第2の転動溝201,202が形成されていない部分のラックシャフト20の外周面と対向する位置に位置検出センサ8が固定されていればよい。
【0030】
位置検出センサ8は、ラックシャフト20に付された標識(後述)を読み取ってラックシャフト20の軸方向位置を検出し、この検出信号を制御装置10に出力する。制御装置10は、位置検出センサ8の検出結果を用いて第1及び第2の電動モータ21,22を制御する。
【0031】
図4は、ラックシャフト20に付された複数の標識81からなる被読み取り部80の一例を示す説明図である。本実施の形態では、それぞれの標識81がラックシャフト20の外周面20aにおいて周方向に延びる直線からなる。また、本実施の形態では、有色の塗料を吹きつけ又は転写することによりそれぞれの標識81が形成されているが、例えばシート状のラベルを張り付けることにより標識81を形成してもよい。また、ラックシャフト20の外周面20aを削ったり窪ませたりすることにより標識81が形成してもよい。
【0032】
複数の標識81は、左右の前輪6L,6Rの転舵角がゼロで車両が直進する場合のラックシャフト20の位置である中立位置を示す中立位置標識810と、被読み取り部80の左右両端部に設けられた第1及び第2のラックエンド位置標識811,812と、中立位置標識810と第1のラックエンド位置標識811との間、及び中立位置標識810と第2のラックエンド位置標識812との間に等間隔に設けられた複数の目盛標識813とを含んでいる。標識81は、中立位置標識810、第1及び第2のラックエンド位置標識811,812、ならびに複数の目盛標識813の総称である。
【0033】
中立位置標識810ならびに第1及び第2のラックエンド位置標識811,812は、複数の目盛標識813よりも太い太線である。また、中立位置標識810の太さと第1及び第2のラックエンド位置標識811,812の太さとは異なっており、図4の図示例では第1及び第2のラックエンド位置標識811,812の太さが中立位置標識810の太さよりも太い。なお、図4の図示例では、第1及び第2のラックエンド位置標識811,812の太さが同じであるが、これらを異ならせてもよい。
【0034】
第1のラックエンド位置標識811は、ラックシャフト20の位置が、左側のリンク機構7Lのボールジョイントソケット731がハウジング5の右端部に当接する右方向への最大移動位置(ラックエンド位置)付近である場合に位置検出センサ8によって読み取られる位置に設けられている。第2のラックエンド位置標識812は、ラックシャフト20の位置が、右側のリンク機構7Rのボールジョイントソケット731がハウジング5の左端部に当接する左方向への最大移動位置付近である場合に位置検出センサ8によって読み取られる位置に設けられている。
【0035】
位置検出センサ8は、被読み取り部80に向かって読み取り光を照射し、この読み取り光が被読み取り部80で反射した反射光を受光することによって標識81を読み取る。この読み取りの結果を示す信号は、ラックシャフト20の位置の検出信号として制御装置10に出力される。この標識81の読み取り動作は、微小時間間隔で繰り返し実行される。
【0036】
位置検出センサ8は、少なくとも中立位置標識810及び第1及び第2のラックエンド位置標識811,812の太さよりも広い範囲を一時に読み取り可能であり、標識81の線の太さを識別可能である。制御装置10に出力される検出信号には、この標識81の線の太さの情報が含まれる。なお、読み取り光は可視光であってもよいし、例えば赤外線等の不可視光であってもよい。
【0037】
制御装置10は、位置検出センサ8から出力される検出信号によってラックシャフト20の中立位置を検出可能である。そして、この中立位置を検出した後に位置検出センサ8の読み取り範囲を通過する目盛標識813を計数することにより、ラックシャフト20のハウジング5に対する軸方向位置を把握することができる。また、制御装置10は、ラックシャフト20の軸方向位置から前輪6L,6Rの転舵角を推定することができる。
【0038】
制御装置10は、前輪6L,6Rの転舵角が操舵角センサ13によって検出された操舵角にステアリングギヤ比を考慮した値となるように、第1及び第2の電動モータ21,22を制御する。なお、ステアリングギヤ比は、ヨーレイトや車両前後方向及び横方向の各方向の加速度センサの検出値、ならびに車速や操舵角等の車両状態情報に基づいて、最適な値が設定される。
【0039】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の第1の実施の形態によれば、ハウジング5に取り付けられた位置検出センサ8の検出信号によりラックシャフト20の軸方向位置を検出することができ、このラックシャフト20の軸方向位置から前輪6L,6Rの転舵角を推定することができる。このため、例えば第1及び第2の電動モータ21,22の回転角検出装置212,222の検出信号のみによって前輪6L,6Rの転舵角を推定する場合に比較して、高い精度で前輪6L,6Rの転舵角を推定することができる。
【0040】
(被読み取り部80の変形例)
次に、被読み取り部80の変形例について、図5A乃至図5Cを参照して説明する。
【0041】
図5Aは、第1の変形例に係る被読み取り部80Aを示す説明図である。この被読み取り部80Aは、第1の実施の形態に係る被読み取り部80における複数の目盛標識813を省略したものである。すなわち、被読み取り部80Aは、中立位置標識810と第1及び第2のラックエンド位置標識811,812とからなる。
【0042】
この第1の変形例に係る被読み取り部80Aによっても、中立位置標識810によってラックシャフト20の中立位置を正確に検出可能である。また、第1及び第2のラックエンド位置標識811,812によってラックシャフト20のラックエンド位置を正確に検出可能である。中立位置とラックエンド位置との間におけるラックシャフト20の軸方向位置は、中立位置もしくはラックエンド位置を検出したときからの第1及び第2の電動モータ21,22の回転角検出装置212,222の検出信号の変化に基づいて検出することができる。
【0043】
なお、被読み取り部80Aにおいて、第1及び第2のラックエンド位置標識811,812をさらに省略してもよい。この場合でも、ラックシャフト20の中立位置を正確に検出可能であるので、前輪6L,6Rの転舵角の推定誤差によって車両の直進性が低下してしまうことを抑制することができる。
【0044】
図5Bは、第2の変形例に係る被読み取り部80Bを示す説明図である。この被読み取り部80Bは、第1の実施の形態に係る被読み取り部80における線状の複数の標識81を点状の複数の標識82としたものである。複数の標識82は、それぞれ大きさが異なる中立位置標識820、第1及び第2のラックエンド位置標識821,822、ならびに複数の目盛標識823を含んでいる。
【0045】
この第2の変形例に係る被読み取り部80Bによっても、第1の実施の形態に係る被読み取り部80を用いた場合と同様の効果が得られる。また、この被読み取り部80Bにおいて、複数の目盛標識823、もしくは複数の目盛標識823ならびに第1及び第2のラックエンド位置標識821,822を省略してもよい。
【0046】
図5Cは、第3の変形例に係る被読み取り部80Cを示す説明図である。この被読み取り部80Cは、位置検出センサ8により、中立位置付近の所定範囲において、ラックシャフト20の絶対位置を検出可能としたものである。被読み取り部80Cは、第1の実施の形態に係る被読み取り部80における複数の目盛標識813を省略すると共に、中立位置標識810に替えてラックシャフト20の中立位置付近における絶対位置を示すコード情報を含むコード画像83を付したものである。なお、ここで絶対位置とは、例えば前回の標識81の読み取り動作時からどれだけ移動したかといった相対的な位置ではなく、ハウジング5に対するラックシャフト20の中立位置からの変位量(絶対変位)を具体的に特定可能な位置のことをいう。
【0047】
コード画像83は、ラックシャフト20の外周面20aにおいて左右方向に延びる帯状に形成されている。コード画像83には、図5Cの上下方向に対応するラックシャフト20の周方向に見た場合に、着色された部分(図5Cにおける黒色の部分)と着色されていない部分(図5Cにおける白色の部分)とがそれぞれ1ビットの情報(0/1)を示す二進数の数値情報、つまり、絶対位置エンコーダのコードパターンによってラックシャフト20の絶対位置が示されている。位置検出センサ8は、コード画像83をラックシャフト20の周方向に走査(スキャン)することで、ラックシャフト20の中立位置付近における絶対位置を検出することができる。
【0048】
この第3の変形例に係る被読み取り部80Cによれば、中立位置の周辺部においてもラックシャフト20の軸方向の絶対位置を正確に検出することができる。なお、コード画像83を一方のラックエンド位置から他方のラックエンド位置までの全体に対応して設けてもよい。この場合には、ラックシャフト20の移動範囲の全体にわたってラックシャフト20の軸方向の絶対位置を正確に検出することができる。
【0049】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図6A乃至図6Cを参照して説明する。本実施の形態は、ラックシャフト20の軸方向への移動によって回転する回転軸90がハウジング5に支持されており、ラックシャフト20の軸方向位置を検出するためにハウジング5に取り付けられた位置検出センサ9が回転軸90の回転角を検出する構成が第1の実施の形態とは異なっている。
【0050】
図6Aは、本発明の第2の実施の形態に係る位置検出センサ9及び回転軸90を示す断面図である。図6Bは、回転軸90とラックシャフト20との噛み合い部を示す断面図である。図6Cは、位置検出センサ9の構成例を示す構成図である。
【0051】
回転軸90は、軸方向の一端部が位置検出センサ9に保持され、軸方向の他端部が軸受58によってハウジング5の第1のハウジング部材51に支持されている。位置検出センサ9は、第1のハウジング部材51に設けられた収容部59に収容されている。回転軸90は、外周面にピニオン歯部901が形成されており、このピニオン歯部901がラックシャフト20のラック歯部203に噛み合っている。
【0052】
位置検出センサ9は、図6Cに示すように、収容部59に保持されたセンサケース91と、回転軸90と一体に回転する主動歯車92と、主動歯車92に噛み合って回転する第1及び第2の従動歯車93,94と、第1及び第2の従動歯車93,94のそれぞれに取り付けられた棒状の第1及び第2の永久磁石95,96と、第1及び第2の永久磁石95,96の磁界を検出する第1及び第2の磁気センサ97,98と、信号処理部99とを有している。
【0053】
第1及び第2の従動歯車93,94は、それぞれの歯数が異なっており、主動歯車92が角度θだけ回転したときの第1の従動歯車93の回転角αと第2の従動歯車94の回転角βとは互いに異なる値となる。第1及び第2の従動歯車93,94の歯数は、最小公倍数が大きな値となるように設定されており、ラックシャフト20が一方のラックエンド位置から他方のラックエンド位置まで移動しても、回転角α及び回転角βが共に同じとなる局面が発生しないようになっている。
【0054】
信号処理部99は、第1及び第2の磁気センサ97,98の検出信号を入力し、検出された磁界の向き及び強度に基づいて回転軸90の回転角を検出する。信号処理部99は、回転軸90の回転角を示す信号を制御装置10に出力する。ラックシャフト20の軸方向の絶対位置は、この回転軸90の回転角によって示される。なお、信号処理部99の信号処理機能を制御装置10が有していてもよい。この場合、第1及び第2の磁気センサ97,98の検出信号が制御装置10に出力される。
【0055】
この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られると共に、ラックシャフト20の軸方向の絶対位置を常に検出することができる。
【0056】
(付記)
以上、本発明を第1の実施の形態及びその変形例ならびに第2の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0057】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、運転者が操作するステアリングホイール11の操作に応じて左右の前輪6L,6Rを転舵させるステアバイワイヤ方式のステアリング装置1に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、例えばステアリングホイール11を有しない自動運転車に本発明のステアリング装置を適用することも可能である。
【0058】
また、第1の実施の形態では、位置検出センサ8が読み取り光を照射し、この読み取り光が被読み取り部80で反射した反射光を受光することによって標識81を読み取る場合について説明したが、位置検出センサが磁気的手段によって被読み取り部の標識を読み取るようにしてもよい。この場合、被読み取り部が例えば位置標識の目盛を磁気記録した磁気テープからなり、位置検出センサが磁気ヘッドからなる。
【符号の説明】
【0059】
1…ステアリング装置 10…制御装置
20…ラックシャフト(転舵軸) 21…第1の電動モータ
22…第2の電動モータ 3…第1の移動機構
4…第2の移動機構 5…ハウジング
6L,6R4…左右の前輪(転舵輪) 8,9…位置検出センサ
81,82…標識 90…回転軸
図1
図2
図3
図4
図5A-5C】
図6A-6C】