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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】十字軸継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/41 20060101AFI20230816BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20230816BHJP
【FI】
F16D3/41 E
F16D3/41 J
F16J15/3232 201
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019110108
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020200928
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】刈屋 翔太
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-127725(JP,A)
【文献】特開2009-257477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/41
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
十字状に配置された4本の軸部を有する十字軸と、前記軸部に複数のころを介して回動自在に外嵌されており、軸方向一方側で開口する有底円筒状の外輪と、前記軸部と前記外輪との間を密封するシールと、を備える十字軸継手であって、
前記シールは、前記軸部の基端部に固定された環状部と、前記環状部から軸方向他方側に延びるとともに先端部に前記外輪に接触するリップ部を有する環状の1又は複数のリップ本体と、を備え、
前記1又は複数のリップ本体には、前記外輪に接触可能な補助リップ部が前記リップ部の先端側面から突出して設けられており、
前記1又は複数のリップ本体は、前記軸部に対する前記外輪の軸方向位置の変化に応じて変形し、変形したときの前記1又は複数のリップ本体の状態には、少なくとも、前記リップ部が前記外輪に接触し前記補助リップ部が前記外輪に接触しない第1状態と、前記リップ部及び前記補助リップ部の両方が前記外輪に接触する第2状態とが含まれ、
前記外輪は、前記複数のころが転動する内周面を有する円筒部と、前記円筒部の軸方向一方側の端部から径方向内側へ延びる環状の側板部と、前記円筒部及び前記側板部を繋ぐ湾曲部と、を有し、
前記複数のリップ本体は、
前記リップ部が前記湾曲部の外面又は前記円筒部の外周面に接触する第1リップ本体と、
前記第1リップ本体よりも径方向内側に設けられ、前記リップ部が前記湾曲部の外面又は前記側板部の外面に接触する第2リップ本体と、を含み、
前記第1リップ本体及び前記第2リップ本体の両方が前記第1状態にある場合から前記外輪が軸方向一方側へ変位した場合に、前記第1リップ本体の前記補助リップ部及び前記第2リップ本体の前記補助リップ部が前記外輪に接触し、前記第1リップ本体及び前記第2リップ本体の両方が前記第1状態から前記第2状態に遷移する
字軸継手。
【請求項2】
十字状に配置された4本の軸部を有する十字軸と、前記軸部に複数のころを介して回動自在に外嵌されており、軸方向一方側で開口する有底円筒状の外輪と、前記軸部と前記外輪との間を密封するシールと、を備える十字軸継手であって、
前記シールは、前記軸部の基端部に固定された環状部と、前記環状部から軸方向他方側に延びるとともに先端部に前記外輪に接触するリップ部を有する環状の1又は複数のリップ本体と、を備え、
前記1又は複数のリップ本体には、前記外輪に接触可能な補助リップ部が前記リップ部の先端側面から突出して設けられており、
前記1又は複数のリップ本体は、前記軸部に対する前記外輪の軸方向位置の変化に応じて変形し、変形したときの前記1又は複数のリップ本体の状態には、少なくとも、前記リップ部が前記外輪に接触し前記補助リップ部が前記外輪に接触しない第1状態と、前記リップ部及び前記補助リップ部の両方が前記外輪に接触する第2状態とが含まれ、
前記外輪は、前記複数のころが転動する内周面を有する円筒部と、前記円筒部の軸方向一方側の端部から径方向内側へ延びる環状の側板部と、前記円筒部及び前記側板部を繋ぐ湾曲部と、を有し、
前記複数のリップ本体は、
前記リップ部が前記湾曲部の外面又は前記円筒部の外周面に接触する第1リップ本体を含み、
前記複数のリップ本体が前記第1状態にある場合から前記外輪が軸方向一方側へ変位した場合に、前記第1リップ本体の前記補助リップ部は、前記第1リップ本体以外の他のリップ本体の前記補助リップ部よりも先に前記外輪に接触するように設けられている
字軸継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵装置のインターミディエイトシャフト等に用いられる十字軸継手に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵装置は、ハンドル側のコラムシャフトと、ステアリングギヤ側のステアリングシャフトとを連結するインターミディエイトシャフトを備える。コラムシャフトとインターミディエイトシャフトとの間、及びステアリングシャフトとインターミディエイトシャフトの間には、それぞれ十字軸継手が設けられており、各シャフトは傾動自在に連結されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、上記従来の十字軸継手を示す図である。図5に示すように、十字軸継手100は、4本の軸部102を有する十字軸104と、複数のころ106を介して軸部102に外嵌する有底筒状の外輪108と、軸部102と外輪108との間を密封するシール部材110とを備える。シール部材110は、外輪108内部に泥水等が侵入するのを防止するために設けられている。
【0004】
図6(a)は、図5中、シール部材110の部分を拡大した断面図である。
図6(a)中、外輪108は、内周面が複数のころ106の転動面となる円筒部108aと、円筒部108aの軸方向一方側の端部から径方向内側へ延びる環状の側板部108bとを有する。
シール部材110は、軸部102の外周面102aに外嵌する環状部112と、環状部112から突出するダストリップ114と、メインリップ116とを備える。
ダストリップ114は、環状部112の径方向外側から軸方向へ突出している。ダストリップ114の先端側には、外輪108に接触するリップ部114aが設けられている。また、メインリップ116は、環状部112においてダストリップ114よりも径方向内側から軸方向へ突出している。メインリップ116の先端側には、側板部108bに接触するリップ部116aが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-154414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記シール部材110において、ダストリップ114及びメインリップ116は、環状部112から軸方向他方側へ突出し、外輪108に線接触する。よって、ダストリップ114及びメインリップ116は、主として、外輪108に対して軸方向に締めしろを有し、軸方向に外輪108を押圧する。
【0007】
ここで、製造上生じる各部品寸法のばらつきや、動作時に作用する荷重の影響等によって、外輪108と軸部102との軸方向の相対位置に、ばらつきが生じ、外輪108と軸部102との軸方向の相対位置が設計上定められた適切な位置からずれることがある。
【0008】
例えば、図6(a)に示す外輪108の位置が適切な位置としたとき、図6(b)に示すように、外輪108が適切な位置から軸方向一方側へずれた場合、各リップ114,116の締めしろが増加し、各リップ114,116が変形することで各リップ部114a,116aの先端側面114b,116bが外輪108に面接触してしまう、所謂、腹当たりが生じ、各リップ部114a,116aの外輪108に対する面圧が低下することがある。
各リップ部114a,116aの面圧が低下すれば、シール部材110の密封性は低下し、耐泥水性能が低下してしまう。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、軸部に対する外輪の軸方向位置に変化が生じたとしても、密封性能の低下を抑制することができる十字軸継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明である十字軸継手は、十字状に配置された4本の軸部を有する十字軸と、前記軸部に複数のころを介して回動自在に外嵌されており、軸方向一方側で開口する有底円筒状の外輪と、前記軸部と前記外輪との間を密封するシールと、を備える十字軸継手であって、前記シールは、前記軸部の基端部に固定された環状部と、前記環状部から軸方向他方側に延びるとともに先端部に前記外輪に接触するリップ部を有する環状の1又は複数のリップ本体と、を備え、前記1又は複数のリップ本体には、前記外輪に接触可能な補助リップ部が前記リップ部の先端側面から突出して設けられている。
【0011】
上記構成の十字軸継手によれば、軸部に対する外輪の軸方向位置の変化によりリップ本体に変形が生じ、リップ部の先端側面が外輪に面接触しリップ部の面圧が低下したとしても、先端側面から突出した補助リップ部が外輪に接触し、補助リップ部によって密封性能を維持できる。この結果、シールの密封性能の低下を抑制することができる。
【0012】
また、上記十字軸継手において、前記1又は複数のリップ本体は、前記軸部に対する前記外輪の軸方向位置の変化に応じて変形し、変形したときの前記1又は複数のリップ本体の状態には、少なくとも、前記リップ部が前記外輪に接触し前記補助リップ部が前記外輪に接触しない第1状態と、前記補助リップ部が前記外輪に接触する第2状態とが含まれることが好ましい。
この場合、リップ部が外輪に接触することで補助リップ部を機能させる必要がない場合には、補助リップ部を外輪に接触させず、必要なときだけ補助リップ部を外輪に接触させることができる。
【0013】
また、上記十字軸継手において、前記外輪は、前記複数のころが転動する内周面を有する円筒部と、前記円筒部の軸方向一方側の端部から径方向内側へ延びる環状の側板部と、前記円筒部及び前記側板部を繋ぐ湾曲部と、を有し、前記複数のリップ本体は、前記リップ部が前記湾曲部の外面又は前記円筒部の外周面に接触する第1リップ本体と、前記第1リップ本体よりも径方向内側に設けられ、前記リップ部が前記湾曲部の外面又は前記側板部の外面に接触する第2リップ本体と、を含み、前記第1リップ本体及び前記第2リップ本体の両方が前記第1状態にある場合から前記外輪が軸方向一方側へ変位した場合に、前記第1リップ本体の前記補助リップ部及び前記第2リップ本体の前記補助リップ部が前記外輪に接触し、前記第1リップ本体及び前記第2リップ本体の両方が前記第1状態から前記第2状態に遷移することが好ましい。
湾曲部の外面又は円筒部の外周面に接触する第1リップ本体は、軸部に対する外輪の軸方向位置の僅かな変化によってリップ部の先端側面が外輪に接触し、外輪に対するリップ部の面圧低下が容易に生じるおそれがある。これに対して、第1リップ本体に補助リップ部を設けることで、リップ部の面圧低下が容易に生じたとしても密封性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0014】
また、上記十字軸継手において、前記外輪は、前記複数のころが転動する内周面を有する円筒部と、前記円筒部の軸方向一方側の端部から径方向内側へ延びる環状の側板部と、前記円筒部及び前記側板部を繋ぐ湾曲部と、を有し、前記複数のリップ本体は、前記リップ部が前記湾曲部の外面又は前記円筒部の外周面に接触する第1リップ本体を含み、前記複数のリップ本体が前記第1状態にある場合から前記外輪が軸方向一方側へ変位した場合に、前記第1リップ本体の前記補助リップ部は、前記第1リップ本体以外の他のリップ本体の前記補助リップ部よりも先に前記外輪に接触するように設けられていることが好ましい。
上述したように、円筒部の外周面に接触する第1リップ本体のリップ部の面圧低下は容易に生じるおそれがあり、外輪が軸方向一方側に変位した場合に、第1リップ本体の方が他のリップ本体よりも早いタイミングでリップ部の面圧低下が生じるおそれがある。これに対して、外輪が軸方向一方側に変位した場合に、第1リップ本体の補助リップ部を、他のリップ本体の補助リップ部よりも先に外輪に接触するように設けたので、第1リップ本体のリップ部の面圧低下が第2リップ本体に先行して生じたとしても、第1リップ本体の補助リップ部を適切なタイミングで機能させることができる。この結果、第1リップ本体の補助リップ部及び他のリップ本体の補助リップ部を適切に機能させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軸部に対する外輪の軸方向位置に変化が生じたとしても、密封性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、車両の操舵装置に用いられるインターミディエイトシャフトの側面図である。
図2図2は、図1中、II-II線矢視断面図であり、実施形態に係る十字軸継手を示している。
図3図3は、外輪の要部を拡大した断面図である。
図4図4(a)は、シール部材を拡大した断面図、図4(b)は、図4(a)の状態から外輪が軸方向一方側へ移動し、外輪26の軸方向位置が変化した状態を示す断面図である。
図5図5は、従来の十字軸継手を示す図である。
図6図6(a)及び図6(b)は、シールの部分を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
〔全体構成について〕
図1は、車両の操舵装置に用いられるインターミディエイトシャフトの側面図である。
図1中、インターミディエイトシャフト2の一端には、車両のステアリングホイールが取り付けられるコラムシャフト4が連結される。また、インターミディエイトシャフト2の他端には、ステアリングギヤボックス等を介して車輪を操舵するためのステアリングシャフト6が連結される。
インターミディエイトシャフト2とコラムシャフト4との間には、両シャフト2,4を傾動自在に連結する十字軸継手10が設けられている。また、インターミディエイトシャフト2とステアリングシャフト6との間にも、両シャフト2,6を傾動自在に連結する十字軸継手10が設けられている。
【0018】
インターミディエイトシャフト2とコラムシャフト4との間に設けられた十字軸継手10は、インターミディエイトシャフト2の端部に設けられた一対のヨーク12と、コラムシャフト4の端部に設けられた一対のヨーク14と、一対のヨーク12及び一対のヨーク14を組み合わせた状態で繋ぐ十字軸20とを備える。
インターミディエイトシャフト2とステアリングシャフト6との間に設けられた十字軸継手10も、インターミディエイトシャフト2の端部に設けられた一対のヨーク12と、ステアリングシャフト6の端部に設けられた一対のヨーク14と、一対のヨーク12及び一対のヨーク14を組み合わせた状態で繋ぐ十字軸20とを備える。
インターミディエイトシャフト2の両端に設けられる十字軸継手10は、共に同様の構成である。よって、以下の説明では、インターミディエイトシャフト2とステアリングシャフト6との間の十字軸継手10について説明する。
【0019】
図2は、図1中、II-II線矢視断面図である。
ステアリングシャフト6に設けられた一対のヨーク14の端部には、互いに同一の軸線を有する軸受孔14aが設けられている。また、インターミディエイトシャフト2に設けられた一対のヨーク12の端部にも、互いに同一の軸線を有する軸受孔12aが設けられている。
【0020】
十字軸20は、胴体部22と、胴体部22から4方へ十字状に突出した4本の軸部24とを有する。十字軸20は、機械構造用鋼等を用いて形成された部材であり、胴体部22と軸部24とが鍛造等により一体に形成される。
各軸部24の外周面24aには、外周面24aを転動する複数の針状ころ28が配列されている。
【0021】
また、各軸部24には、外輪26が複数の針状ころ28を介して外嵌されている。
外輪26は、機械構造用鋼等を用いて形成された部材であり、軸方向一方側が開口する有底筒状に形成されている。外輪26は、円筒部40と、円筒部40の軸方向他方側の開口を塞ぐ底部42とを有する。
複数の針状ころ28は、円筒部40の内周面40aと軸部24の外周面24aとの間に転動自在に配列されている。これにより、外輪26は、軸部24に対して回動自在に外嵌される。
【0022】
図2に示すように、各外輪26は、ヨーク12,14の軸受孔12a,14aに圧入されている。よって、十字軸20は、ヨーク12,14に対して回動自在となり、ヨーク12とヨーク14とは互いに傾動自在となる。これにより、十字軸継手10は、インターミディエイトシャフト2とステアリングシャフト6とを傾動自在に連結する。
【0023】
〔シール部材について〕
また、外輪26の内周面側には、外輪26と軸部24との隙間を密封するシール部材30が設けられている。
図3は、外輪の要部を拡大した断面図である。
外輪26は、上述の円筒部40の他、円筒部40の軸方向一方側の端部から径方向内側へ延びる環状の側板部44と、円筒部40と側板部44とを繋ぐ湾曲部46とを有する。
【0024】
側板部44は、複数の針状ころ28の端面28aに接触可能に設けられており、複数の針状ころ28が側板部44よりも軸方向一方側へ移動するのを制限する。つまり、複数の針状ころ28の軸方向の位置は、底部42と、側板部44とによって規定されている。
【0025】
シール部材30は、軸部24の外周面24aに固定されている。
シール部材30は、軸部24の外周面24aに外嵌固定された環状部32と、外輪26に接触するダストリップ34(第1リップ本体)と、ダストリップ34よりも径方向内側に設けられ、外輪26に接触するメインリップ36(第2リップ本体)とを有する。
なお、図3では、ダストリップ34及びメインリップ36は自由状態である場合の形状を示している。
【0026】
環状部32は、環状の芯金32aと、ニトリルゴム等の弾性素材からなる弾性体部32bとを有する。環状部32は、軸部24の外周面24aに外嵌固定されている。また、環状部32は、軸部24において外周面24aから立ち上がる段差面24bに当接しており、軸部24の基端部に固定されている。
芯金32aは、鋼板等をプレス成形することによって形成された部材であり、外周筒部32a1と、外周筒部32a1の内周側に位置する内周筒部32a2と、これらを連結する環状の連結部32a3とを有している。連結部32a3は、軸方向一方側が露出しており、段差面24bに当接している。
【0027】
弾性体部32bは、芯金32aの外面に加硫成形されており、環状とされている。弾性体部32bは、芯金32aの内周筒部32a2と外周面24aとの間に介在して環状部32を軸部24に固定する固定部32b1を有している。環状部32が外周面24aに外嵌した状態で、固定部32b1は弾性的に圧縮されており、その反発力によって軸部24を締め付けている。環状部32は、固定部32b1の締め付け力によって外周面24aに強固に固定される。
【0028】
ダストリップ34及びメインリップ36は、弾性体部32bの内周面32b2から軸方向他方側へ延びている。ダストリップ34の径方向位置は、芯金32aの外周筒部32a1の径方向位置にほぼ一致するように設けられている。また、メインリップ36の径方向位置は、芯金32aの内周筒部32a2の径方向位置にほぼ一致するように設けられている。これにより、ダストリップ34及びメインリップ36が変形したときの影響が、環状部32に及ぶのを抑制することができ、ダストリップ34及びメインリップ36を安定して変形させることができる。
【0029】
ダストリップ34及びメインリップ36は、ニトリルゴム等の弾性素材によって環状に形成されている。ダストリップ34及びメインリップ36は、弾性体部32bに一体に形成されている。
メインリップ36は、主として外輪26の内周側の空間を密封し、空間内部のグリースが外部に流出するのを抑制するとともに、泥水等が外部から外輪26の内周側の空間内に侵入するのを抑制する。
ダストリップ34は、メインリップ36よりも径方向外側に設けられ、メインリップ36が外部からの塵埃や泥水等に直接暴露されるのを抑制する。
【0030】
ダストリップ34は、先端側に設けられて外輪26に接触するリップ部50と、ダストリップ34の内周側に設けられ外輪26に接触する補助リップ部52とを有する。
リップ部50は、ダストリップ34の先端側に設けられている。リップ部50は、断面山形に形成され、径方向内側に突出して設けられている。リップ部50の先端50aは、湾曲部46の外面46a又は円筒部40の外周面40bに線接触する。
補助リップ部52は、ダストリップ34の内周側であって、リップ部50よりも根元側(軸方向一方側)に設けられている。補助リップ部52は、断面山形に形成され、径方向内側に突出して設けられている。また、補助リップ部52は、リップ部50の先端側面50bから突出して設けられている。補助リップ部52の先端52aは、後述するように、外輪26の軸方向位置の変化により生じるダストリップ34の変形に応じて外輪26に線接触する。
【0031】
メインリップ36は、先端部に設けられたリップ部54と、メインリップ36の内周側に設けられた補助リップ部56とを有する。
リップ部54は、メインリップ36の先端側に設けられている。リップ部54は、断面山形に形成され、軸方向一方側に突出して設けられている。リップ部54の先端54aは、側板部44の外面44aに線接触する。
補助リップ部56は、メインリップ36の内周側であって、リップ部54よりも根元側(軸方向一方側)に設けられている。補助リップ部56は、断面山形に形成され、径方向内側に突出して設けられている。また、補助リップ部56は、リップ部54の先端側面54bから突出して設けられている。補助リップ部56の先端56aは、後述するように、外輪26の軸方向位置の変化により生じるメインリップ36の変形に応じて外輪26に線接触する。
【0032】
図4(a)は、シール部材30を拡大した断面図であり、ダストリップ34のリップ部50、及びメインリップ36のリップ部54が線接触している状態を示している。
【0033】
図4(a)に示す状態では、ダストリップ34のリップ部50の先端50a、及びメインリップ36のリップ部54の先端54aが線接触しているが、ダストリップ34の補助リップ部52、及びメインリップ36の補助リップ部56は、外輪26に接触していない。
【0034】
図4(b)は、図4(a)の状態から外輪26が軸方向一方側へ移動し、外輪26の軸方向位置が変化した状態を示している。
図4(b)に示す状態では、ダストリップ34及びメインリップ36に対する締めしろが大きくなっている。このため、ダストリップ34は、外輪26の円筒部40に乗り上げるように変形している。このため、リップ部50の先端側面50bが外輪26に面接触しリップ部50の先端50aの面圧が低下してしまう。
しかし、ダストリップ34の変形に応じて、先端側面50bから突出した補助リップ部52の先端52aは、外輪26の湾曲部46の外面46aに対して線接触している。これにより、リップ部50の面圧が低下したとても、ダストリップ34としての密封性能を維持することができる。
【0035】
また、図4(b)において、メインリップ36は、径方向外側へ起立するように変形している。このため、リップ部54の先端側面54bが外輪26に面接触しリップ部54の先端54aの面圧が低下してしまう。
しかし、メインリップ36の変形に応じて、先端側面54bから突出した補助リップ部56の先端56aは、外輪26の側板部44の外面44aに対して線接触している。これにより、リップ部54の面圧が低下したとしても、メインリップ36としての密封性能を維持することができる。
【0036】
以上のように、本実施形態では、軸部24に対する外輪26の軸方向位置が変化することで生じるダストリップ34(メインリップ36)の変形によって、リップ部50の先端側面50b(リップ部54の先端側面54b)が外輪26に面接触しリップ部50(リップ部54)の面圧が低下したとしても、補助リップ部52(補助リップ部56)が外輪26に線接触し、補助リップ部52(補助リップ部56)によって密封性能を維持できる。この結果、シール部材30の密封性能の低下を抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態では、図4(a)及び図4(b)で示したように、軸部24に対する外輪26の軸方向位置の変化に応じてダストリップ34(メインリップ36)が変形したときのダストリップ34(メインリップ36)の状態には、少なくとも、リップ部50(54)が外輪26に線接触し補助リップ部52(56)が外輪26に接触しない第1状態(図4(a))と、補助リップ部52(56)が外輪26に線接触する第2状態(図4(b))とが含まれる。
【0038】
つまり、ダストリップ34及びメインリップ36の両方が前記第1状態にある場合から外輪26の位置が軸方向一方側に変位したときに、ダストリップ34の補助リップ部52及びメインリップ36の補助リップ部56は外輪26に接触するように設けられている。よって、ダストリップ34及びメインリップ36の両方が前記第1状態にある場合から外輪26の位置が軸方向一方側に変位したときに、ダストリップ34及びメインリップ36は前記第1状態から前記第2状態に遷移する。
これにより、リップ部50,54が外輪26に線接触することで補助リップ部52,56を機能させる必要がない場合には、補助リップ部52,56を外輪26に接触させず、必要なときだけ補助リップ部52,56を外輪26に線接触させることができる。
【0039】
また、ダストリップ34は、湾曲部46の外面46a又は円筒部40の外周面40bに接触するため、軸部24に対する外輪26の軸方向位置の僅かな変化によってリップ部50の先端側面50bが外輪26に接触し、外輪26に対するリップ部50の面圧低下が容易に生じるおそれがある。これに対して、ダストリップ34に補助リップ部52を設けることで、ダストリップ34のリップ部50の面圧低下が容易に生じたとしても密封性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0040】
また、上述のように、ダストリップ34のリップ部50の面圧低下は容易に生じるおそれがあり、外輪26が軸方向一方側に変位した場合に、ダストリップ34の方がメインリップ36よりも早いタイミングでリップ部50の面圧低下が生じるおそれがある。
これに対して、本実施形態では、ダストリップ34及びメインリップ36の両方が前記第1状態にある場合から外輪26が軸方向一方側に変位したときに、ダストリップ34の補助リップ部52は、メインリップ36の補助リップ部56よりも先に外輪26に線接触するように設けられている。
これにより、ダストリップ34のリップ部50の面圧低下がメインリップ36に先行して生じたとしても、ダストリップ34の補助リップ部52を適切なタイミングで機能させることができる。この結果、ダストリップ34の補助リップ部52及びメインリップ36の補助リップ部56を適切に機能させることができる。
【0041】
〔その他〕
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることはない。
上記実施形態では、シール部材30がダストリップ34及びメインリップ36を備える場合を例示したが、シール部材30は、少なくともいずれか一つのリップを備えていればよい。また、3つ以上のリップを備えていてもよい。
【0042】
また、上記実施形態にて示したダストリップ34及びメインリップ36のリップ部50,54の形状や、補助リップ部52,56の形状は、あくまで例示であり、軸部24に対する外輪26の軸方向位置の変化によりダストリップ34及びメインリップ36に変形が生じ、リップ部50,54の先端側面50b,54bが外輪26に面接触しリップ部50,54の面圧が低下したとしても、先端側面50b,54bから突出し、外輪26に線接触可能に設けられていれば、その形状は適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0043】
2 インターミディエイトシャフト 4 コラムシャフト
6 ステアリングシャフト 10 十字軸継手 12 ヨーク
12a 軸受孔 14 ヨーク 14a 軸受孔
20 十字軸 22 胴体部 24 軸部
24a 外周面 24b 段差面 26 外輪
28 針状ころ 28a 端面 30 シール部材
32 環状部 32a 芯金 32b 弾性体部
32a1 外周筒部 32a2 内周筒部 32a3 連結部
32b1 固定部 32b2 内周面 34 ダストリップ
36 メインリップ 40 円筒部 40a 内周面
40b 外周面 42 底部 44 側板部
44a 外面 46 湾曲部 46a 外面
50 リップ部 50a 先端 50b 先端側面
52 補助リップ部 52a 先端 54 リップ部
54a 先端 54b 先端側面 56 補助リップ部
56a 先端
図1
図2
図3
図4
図5
図6