(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】摩擦ダンバー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230816BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20230816BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20230816BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F7/08
F16B5/02 F
E04H9/02 351
(21)【出願番号】P 2019111983
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-150181(JP,A)
【文献】特開2012-102809(JP,A)
【文献】特開2014-088916(JP,A)
【文献】特開2007-024259(JP,A)
【文献】特開2012-067806(JP,A)
【文献】特開2009-041585(JP,A)
【文献】特開2003-097636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 7/08
F16B 5/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に重ねられた第1可動板、摩擦板、滑り板及び第2可動板と、
前記第1可動板、前記摩擦板、前記滑り板及び前記第2可動板を締め付ける締結体と、を備え、
前記摩擦板が前記第1可動板に固定され、前記滑り板が前記第2可動板に固定され、前記摩擦板と前記滑り板が相互に摺動可能であり、
前記摩擦板及び前記第1可動板の組と前記滑り板及び前記第2可動板の組とのうち一方の組に長孔が形成され、他方の組にボルト孔が形成され、
前記締結体が、
前記長孔及び前記ボルト孔に挿通されたボルトと、
前記ボルトに螺合したナットと、
前記ボルトが通され、前記長孔及び前記ボルト孔に収容されたパイプと、を有し、
前記パイプは、
可撓性を有し、前記ボルトが前記長孔の長手方向に移動する際の前記ボルトの回転を防止する
摩擦ダンパー。
【請求項2】
前記パイプが低摩擦係数の材料からなる
請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項3】
前記パイプが合成樹脂からなる
請求項1又は2に記載の摩擦ダンパー。
【請求項4】
前記パイプがステンレス鋼からなる
請求項1又は2に記載の摩擦ダンパー。
【請求項5】
前記パイプと前記ボルトとの間に遊びが存在する
請求項1から4の何れか一項に記載の摩擦ダンパー。
【請求項6】
前記パイプと前記長孔の内面との間に遊びが存在するとともに、前記パイプと前記ボルト孔の内面との間に遊びが存在する
請求項1から5の何れか一項に記載の摩擦ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物又は構造物等の振動を減衰させる摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、互いに相対的に移動する2つの部材間に設けられ、これら部材の相対的な移動による振動を減衰させる摩擦ダンパーが開示されている。以下、特許文献1に用いられた参照符号を括弧書きで用いて、特許文献1に開示された摩擦ダンパーについて簡単に説明する。
【0003】
特許文献1に記載されているように、順に外板(30)、摩擦板(40)、中板(20)、摩擦板(40)及び外板(30)が積み重ねられており、これらがボルト(50bh)及びナット(50)によって締結されている。外板(30)には貫通孔(30h)が形成されており、中板(20)には長孔(20h)が形成されており、摩擦板(40)には長孔(40h)が形成されている。この摩擦ダンパーによって連結された2つの部材が互いに相対的な移動した場合、外板(30)が中板(20)に対して相対的に移動し、ボルト(50bh)が外板(30)と一緒に長孔(20h,40h)の長手方向に移動する。そうすると、摩擦板(40)と外板(30)の接触面や摩擦板(40)と中板(20)の接触面で摩擦力が発生するので、外板(30)と中板(20)の相対的な移動による振動が減衰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の摩擦ダンパーを土木構造物に適用する場合、その摩擦ダンパーの両端を対象物にピン接合する必要があるとともに、長孔(20h,40h)の長手方向に長くすることによってボルト(50bh)のストローク長を長くする必要がある。そうした場合、ボルト(50bh)が長孔(20h,40h)の内面に対して接触してしまう。このような接触は以下のような2つの悪影響の原因となる。
第一に、ボルト(50bh)にトルクが作用してしまい、ボルト(50bh)が緩んでしまう。
第二に、ボルト(50bh)が摩耗してしまい、ボルトの防錆処理が損傷し、摩擦ダンパーの耐久性の低下を招く。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、摩擦ダンパーのボルトの緩みを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するべく、摩擦ダンパーが、順に重ねられた第1可動板、摩擦板、滑り板及び第2可動板と、前記第1可動板、前記摩擦板、前記滑り板及び前記第2可動板を締め付ける締結体と、を備え、前記摩擦板が前記第1可動板に固定され、前記滑り板が前記第2可動板に固定され、前記摩擦板と前記滑り板が相互に摺動可能であり、前記摩擦板及び前記第1可動板の組と前記滑り板及び前記第2可動板の組とのうち一方の組に長孔が形成され、他方の組にボルト孔が形成され、前記締結体が、前記長孔及び前記ボルト孔に挿通されたボルトと、前記ボルトに螺合したナットと、前記ボルトが通され、前記長孔及び前記ボルト孔に収容されたパイプと、を有し、前記パイプは、前記ボルトが前記長孔の長手方向に移動する際の前記ボルトの回転を防止する。
【0008】
以上によれば、ボルトが長孔の長手方向に移動する際に、パイプがボルトの回転を防止するため、ボルトの緩みを防止することができる。
【0009】
前記パイプが低摩擦係数の材料からなると、パイプが長孔の内面若しくはボルトの外周面又はこれらの両方に対して滑りやすい。そのため、パイプが長孔の内面とボルトの外周面との間に挟まれた状態で、パイプ及びボルトが長孔の長手方向に移動しても、長孔の内面からボルトへトルクが伝わらない。よって、パイプとボルトの共回りを防止できるとともに、ボルトの緩みを防止できる。
【0010】
前記パイプが合成樹脂からなると、パイプはボルト又は長孔の内面に対して滑りやすくなる。そのため、パイプが長孔の内面とボルトの外周面との間に挟まれた状態でボルトが長孔の長手方向に移動する際に、長孔の内面からボルトへトルクが伝わらず、ボルトの緩みを防止することができる。
【0011】
前記パイプが可撓性を有すると、長孔及びボルト孔の内面がパイプによって傷つき難い。
【0012】
好ましくは、前記パイプと前記ボルトとの間に遊びが存在する。
好ましくは、前記パイプと前記長孔の内面との間に遊びが存在するとともに、前記パイプと前記ボルト孔の内面との間に遊びが存在する。
以上ようにパイプの内側や外側に遊びが存在すれば、がボルトの外周面と長孔の内面との間に挟まれた状態が頻繁に起こることがない。そのため、パイプ及びボルトが長孔の長手方向に移動する際に、長孔の内面からボルトへトルクが伝わらず、ボルトの緩みを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボルトの緩みを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】橋梁に設置された摩擦ダンパーの側面図である。
【
図4】
図3の切断面に直交する切断面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
図1は、橋梁の端部における制振構造を示した側面図であり、
図2は、その制振構造が備える摩擦ダンパー10を示した側面図である。
制振構造は可動支承4及び摩擦ダンパー10を有する。可動支承4が橋台3上に設置され、橋桁2が可動支承4上に支持されている。可動支承4は、橋台3に対する橋桁2の相対的な水平振動を所定範囲内で許容しつつ、橋桁2からの鉛直荷重を橋台3に伝達する。可動支承4は例えば積層ゴム支承又はローラ支承である。摩擦ダンパー10は橋台3と橋桁2との間に設置されている。摩擦ダンパー10は橋桁2の水平振動による運動エネルギーを熱エネルギーに変換することによって、橋桁2の振動を減衰させる。なお、可動支承4及び摩擦ダンパー10が橋台3の代わりに橋脚に適用されてもよい。
【0017】
橋台3の側面にはブラケット5が固定され、摩擦ダンパー10の一端部はピン接合構造6によって鉛直軸回りに回転可能にブラケット5に連結されている。橋桁2の下面にはブラケット9が固定され、摩擦ダンパー10の他端部はピン接合構造8によって鉛直軸回りに回転可能にブラケット9に連結されている。このように摩擦ダンパー10の両端がピン接合されているため、振動・衝撃等によって橋軸方向の変位のみならず、橋軸直角方向の変位も摩擦ダンパー10に生じ得る。なお、橋軸直角方向とは、
図1及び
図2の紙面に対して垂直な方向のことである。
【0018】
図3は、
図2に示す切断箇所III-IIIを矢印方向(橋軸方向)に見て示す断面図である。
図4は、摩擦ダンパー10の締結体20において
図3の断面に直交する切断面の断面図である。
図3及び
図4に示すように、摩擦ダンパー10は、下部可動板11,摩擦板12、滑り板13、中部可動板14、滑り板15、摩擦板16、上部可動板17及び複数の締結体20を備える。各締結体20は高張力ボルト21、ナット22、座金23、座金24、皿バネ積層体25、ブッシュ26、座金27及び丸パイプ28を有する。皿バネ積層体25は複数の皿バネ25aを積み重ねたものである。なお、下部可動板11又は上部可動板17が特許請求の範囲に記載された第1可動板に相当し、中部可動板14が特許請求の範囲に記載された第2可動板に相当する。
【0019】
下部可動板11、摩擦板12、滑り板13、中部可動板14、滑り板15、摩擦板16及び上部可動板17は、順に積み重ねられて、複数の締結体20によって締め付けられている。以下、下部可動板11、摩擦板12、滑り板13、中部可動板14、滑り板15、摩擦板16、上部可動板17及び締結体20について詳細に説明する。
【0020】
中部可動板14は、その端部がピン接合構造6によって鉛直軸回りに回転可能にブラケット5に連結され、ピン接合構造6からピン接合構造8に向かって延びている。一方、可動板11,17は、その端部がピン接合構造8によって鉛直軸回りに回転可能にブラケット9に連結され、ピン接合構造8からピン接合構造6に向かって延びている。中部可動板14が下部可動板11と上部可動板17との間に配置されて、これら可動板11,14,17が互いに平行となっている。可動板11,14,17は帯板状であり、
図3の紙面に直交する方向の長さが
図1、
図2及び
図4の紙面に直交する方向の幅よりも長い。
図3の紙面に直交する方向はピン接合構造6からピン接合構造8に向かう方向であり、その方向を可動板11,14,17の長手方向ともいう。なお、H鋼のウエブを中部可動板14として用い、溝型鋼のウエブを可動板11.17として用いてもよい。
【0021】
中部可動板14の両面には滑り板13,15がそれぞれ重ねられている。滑り板13,15はボルト・ナット等の留め具によって中部可動板14に固定されている。滑り板13,15はステンレス鋼、チタン合金といった耐食性金属からなる。
【0022】
滑り板13と下部可動板11との間には摩擦板12が挟まれている。摩擦板12はボルト・ナット等の留め具によって下部可動板11に固定されている。滑り板15と上部可動板17との間には摩擦板16が挟まれている。摩擦板16はボルト・ナット等の留め具によって上部可動板17に固定されている。摩擦板12,16は有機系摩擦材又は無機系摩擦材からなる。摩擦板12が滑り板13に接触し、摩擦板12と滑り板13との間に滑り・動摩擦が発生し得る。摩擦板16が滑り板15に接触し、摩擦板16と滑り板15との間に滑り・動摩擦が発生し得る。
【0023】
中部可動板14には長孔14aが形成されている。長孔14aは、
図3の紙面に直交する方向、つまり中部可動板14の長手方向に長く設けられている。同様に、滑り板13,15にも、中部可動板14の長手方向に長く設けられた長孔13a,15aがそれぞれ形成されている。これら長孔13a,14a,15aは上下に重なっている。
【0024】
下部可動板11には、複数の丸形のボルト孔11aが形成されている。これらボルト孔11aは長孔13a,14a,15aの長手方向に所定間隔を置いて配列されており、これらボルト孔11aの中心軸を結ぶ平面は長孔13a,14,15aの幅方向のほぼ中心を通る。同様に、摩擦板12、摩擦板16及び上部可動板17にも複数のボルト孔12a,16a,17aがそれぞれ形成されている。ボルト孔11a、ボルト孔12a、ボルト孔16a及びボルト孔17aは上下に重なっている。
【0025】
各高張力ボルト21が座金23、ボルト孔17a、ボルト孔16a、長孔15a、長孔14a、長孔13a、ボルト孔12a、ボルト孔11a、座金24、皿バネ積層体25、ブッシュ26及び座金27に挿通されて、ナット22に螺合されている。長孔13a,14a,15aが中部可動板14の長手方向に長く設けられているため、高張力ボルト21の軸部が長孔13a,14a,15a内でこれらの長手方向に移動可能である。特に、摩擦ダンパー10が橋梁に用いられるため、長孔13a,14a,15aの長手方向への高張力ボルト21の軸部のストローク長が長くなるように、長孔13a,14a,15aの長手方向の長さが長い。
【0026】
座金23が高張力ボルト21の頭部と上部可動板17との間に挟み込まれ、座金24が下部可動板11と皿バネ積層体25との間に挟み込まれ、ブッシュ26が皿バネ積層体25に挿入され、皿バネ積層体25がブッシュ26のフランジと座金24との間に挟まれ、座金27がブッシュ26とナット22との間に挟まれている。
【0027】
高張力ボルト21がナット22に螺合されることによって、高張力ボルト21及びナット22は座金23、上部可動板17、摩擦板16、滑り板15、中部可動板14、滑り板13、摩擦板12、下部可動板11、座金24、皿バネ積層体25、ブッシュ26のフランジ及び座金27を締め付けている。高張力ボルト21とナット22の締め付け軸力により皿バネ積層体25が弾性的に変形することによって、締め付け軸力にほぼ相等するバネ反力が皿バネ積層体25から高張力ボルト21及びナット22に作用する。皿バネ積層体25は高張力ボルト21及びナット22の緩みを防止するとともに、振動又は衝撃等による締め付け軸力の急激な又は特異的な変化を抑えて締め付け軸力を安定させる。締め付け軸力に応じた摩擦力が摩擦板12と滑り板13との間に生じるととともに、摩擦板16と滑り板15との間に生じる。
【0028】
振動・衝撃等によって下部可動板11及び摩擦板12が滑り板13及び中部可動板14に対して相対的に中部可動板14の長手方向に移動すると、摩擦板12と滑り板13との間に滑りが生じる。これにより、摩擦板12と滑り板13との間に動摩擦力が発生して、熱エネルギーが発生する。同様に、摩擦板16と滑り板15との間に滑りが生じると、摩擦板12と滑り板13との間に動摩擦力が発生し、これにより熱エネルギーが発生する。そのため、下部可動板11、摩擦板12、摩擦板16及び上部可動板17に対する滑り板13、中部可動板14及び滑り板15の相対的な水平振動が減衰する。
【0029】
高張力ボルト21が丸パイプ28に挿通された状態で、その丸パイプ28がボルト孔17a、ボルト孔16a、長孔15a、長孔14a、長孔13a、ボルト孔12a、ボルト孔11a、座金24の孔及びブッシュ26の孔に収容されている。丸パイプ28は、高張力ボルト21の軸部に対して相対的に回転し得る。更に、丸パイプ28は、ボルト孔17a、ボルト孔16a、長孔15a、長孔14a、長孔13a、ボルト孔12a、ボルト孔11a、座金24の孔及びブッシュ26の孔の内面に対しても回転し得る。
【0030】
丸パイプ28の内径(直径)は高張力ボルト21の軸部の直径よりも長く、高張力ボルト21の外周面と丸パイプ28の内周面との間には僅かな遊びが存在する。丸パイプ28の外径(直径)はボルト孔11a、ボルト孔12a、ボルト孔16a、ボルト孔17a、座金24の孔及びブッシュ26の孔の直径よりも短く、ボルト孔11a、ボルト孔12a、ボルト孔16a、ボルト孔17a、座金24の孔及びブッシュ26の孔の内面と丸パイプ28の外周面との間には僅かな遊びが存在する。更に、丸パイプ28の外径(直径)は長孔15a、長孔14a及び長孔13aの幅よりも短く、長孔15a、長孔14a及び長孔13aの内面と丸パイプ28の外周面との間には僅かな遊びが存在する。
【0031】
丸パイプ28は、高張力ボルト21に対して摩擦係数の低い摺動材料からなるか、又は滑り板13,中部可動板14及び滑り板15に対して摩擦係数の低い摺動材料からなる。又は、丸パイプ28は、高張力ボルト21に対しても、滑り板13,中部可動板14及び滑り板15に対しても摩擦係数の低い材料からなる。丸パイプ28は特に自己潤滑性を有する材料からなってもよい。このような丸パイプ28は高張力ボルト21の回転を防止して、高張力ボルト21の緩みを防止する。以下より具体的に説明する。
【0032】
中部可動板14が下部可動板11及び上部可動板17に対して相対的に橋軸直角方向に変位すると、丸パイプ28が高張力ボルト21の軸部の外周面と長孔13a,14a,15aの内面との間に挟まれる。丸パイプ28が高張力ボルト21の軸部の外周面と長孔13a,14a,15aの内面との間に挟まれた状態で高張力ボルト21が中部可動板14の長手方向に移動すると、丸パイプ28が長孔13a,14a,15aの内面で転動する。そうした場合、丸パイプ28が高張力ボルト21に対して摩擦係数の低い摺動材料からなると、丸パイプ28の内面が高張力ボルト21の外周面に対して滑る。そのため、滑り板13、中部可動板14及び滑り板15から高張力ボルト21へトルクが伝わらず、高張力ボルト21と丸パイプ28の共回りを防止できる。よって、高張力ボルト21の緩みを防止できる。
【0033】
丸パイプ28が滑り板13,中部可動板14及び滑り板15に対して摩擦係数の低い摺動材料からなる場合、丸パイプ28が高張力ボルト21の軸部の外周面と長孔13a,14a,15aの内面との間に挟まれた状態で高張力ボルト21が中部可動板14の長手方向に移動すると、丸パイプ28が長孔13a,14a,15aの内面に対して滑る。そのため、滑り板13、中部可動板14及び滑り板15から高張力ボルト21へトルクが伝わらず、高張力ボルト21と丸パイプ28の共回りを防止できる。よって、高張力ボルト21の緩みを防止できる。
【0034】
ところで、丸パイプ28が高張力ボルト21の軸部の外周面と長孔13a,14a,15aの内面との間に挟まれた状態であると、滑り板13、中部可動板14及び滑り板15から高張力ボルト21にトルクが伝わり易い環境にある。しかしながら、丸パイプ28の外側及び内側には遊びが存在するため、丸パイプ28が高張力ボルト21の軸部の外周面と長孔13a,14a,15aの内面との間に挟まれた状態は頻繁に発生することがない上、その状態が長く続くこともない。つまり、トルクが滑り板13、中部可動板14及び滑り板15から高張力ボルト21に伝わる状態の発生頻度が低い。そのため、滑り板13、中部可動板14及び滑り板15から高張力ボルト21へトルクが伝わり難く、高張力ボルト21と丸パイプ28の共回りを防止できる。よって、高張力ボルト21の緩みを防止できる。
【0035】
丸パイプ28が可撓性材料からなるものとしてもよい。そのため、丸パイプ28がボルト孔17a、ボルト孔16a、長孔15a、長孔14a、長孔13a、ボルト孔12a及びボルト孔11aの内面に衝突等した場合でも、これらの内面が傷つき難い。
【0036】
丸パイプ28の素材の例としては、合成樹脂(例えば、フッ素樹脂又はフェノール樹脂)、ゴム、ステンレス鋼又は紙が挙げられる。特に、丸パイプ28がフッ素樹脂からなる場合、丸パイプ28の摩擦係数が低い。丸パイプ28がフェノール樹脂からなる場合、丸パイプ28の摩擦係数が低い上、丸パイプ28の耐熱性が高い。丸パイプ28がステンレス鋼からなる場合、ボルト孔17a、ボルト孔16a、長孔15a、長孔14a、長孔13a、ボルト孔12a及びボルト孔11aの傷付きを抑えやすい。
【0037】
上記実施形態では、摩擦ダンパー10が橋梁に利用されたが、他の土木構造物(例えば、高架橋)に用いてもよい。また、摩擦ダンバー10が建築構造物に利用されてもよい。
上記実施形態では、下部可動板11、摩擦板12、滑り板13、中部可動板14、滑り板15、摩擦板16及び上部可動板17がこれらの順に積み重ねられ、滑り板13,15が中部可動板14に固定され、摩擦板12が下部可動板11に固定され、摩擦板16が上部可動板17に固定されていた。それに対して、下部可動板11、滑り板13、摩擦板12、中部可動板14、摩擦板16、滑り板15、上部可動板17の順にこれらが積み重ねられ、摩擦板12,16が中部可動板14に固定され、滑り板13が下部可動板11に固定され、滑り板15が可動板17に固定されていてもよい。この場合、摩擦板12,16に長孔が形成され、滑り板13,15に複数のボルト孔が形成されている。また、この場合、中部可動板14が特許請求の範囲に記載の第1可動板に相当し、下部可動板11又は可動板17が特許請求の範囲に記載の第2可動板に相当する。
また、皿バネ積層体25の代わりに他の弾性部材を用いてもよい。例えば、ブッシュ26がコイルスプリングの内側に挿入され、コイルスプリングがブッシュ26のフランジと座金24との間に挟まれ、高張力ボルト21とナット22の締め付け軸力によってコイルスプリングが圧縮されることによって反力がコイルスプリングから高張力ボルト21及びナット22に作用してもよい。
また、皿バネ積層体25等の弾性部材が設けられず、更に必要に応じてブッシュ26若しくは座金27又はこれら両方も設けられていなくてもよい。この場合、高張力ボルト21とナット22が座金23、上部可動板17、摩擦板16、滑り板15、中部可動板14、滑り板13、摩擦板12、下部可動板11、座金24、ブッシュ26及び座金27(但し、ブッシュ26若しくは座金27又はこれら両方が無い場合もある。)を締め付けている。
【符号の説明】
【0038】
11,14,17…可動板
12,16…摩擦板
13,15…滑り板
13a,14a,15a…長孔
11a,12a,16a,17a…ボルト孔
28…丸パイプ