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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】砥石による研削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/08 20060101AFI20230816BHJP
   B23F 21/02 20060101ALI20230816BHJP
   B24B 19/02 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B23F5/08
B23F21/02
B24B19/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019130069
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021013988
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130795(JP,A)
【文献】特開2015-058505(JP,A)
【文献】特開平02-303715(JP,A)
【文献】実開昭60-113831(JP,U)
【文献】特開2013-039659(JP,A)
【文献】特開2008-110427(JP,A)
【文献】特開2021-013989(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0200814(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/08,21/02;
B24B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に同軸的に連結された軸部材を介して回転駆動されると共に環状の工作物に対して前記工作物の中心軸線の方向に相対的に前進及び後進が可能であり、且つ、中心軸線の方向の成分を有する一以上の突条の加工部を備える砥石を用いて、回転駆動される前記工作物に創成された溝形状の被加工部に研削加工を施す、砥石による研削加工方法であって、
前記加工部は、外周面を研削部位として構成され、前記軸部材側となる後方端部から中心軸線の方向にて前記後方端部と反対側となる前方端部に至る範囲の径が等しい円筒状外接面を有するように形成されており、
前記加工部の前記研削部位を前記被加工部に接触させるために、前記砥石の中心軸線と前記工作物の中心軸線とが所定の交差角を有するように前記砥石を傾斜させ、且つ、前記砥石を前記工作物の周方向に沿って移動させてオフセット角を有するようにオフセットさせた状態とし、更に、前記工作物が前記加工部の前記研削部位よりも前記主軸側となる加工初期位置に前記工作物及び前記砥石を配置する配置工程と、
前記工作物及び前記砥石を同期して回転させた状態で、前記加工初期位置に配置された前記砥石を前記工作物に対して相対的に後進させることにより、前記加工部を前記被加工部に接触させて前記被加工部に研削加工を施す研削加工工程と、を備え
前記被加工部は、前記工作物の内周面及び外周面のうちの少なくとも一方に創成され、
前記オフセット角は、
前記被加工部が前記工作物の前記内周面に創成されている場合、前記被加工部に接触している前記研削部位における前記後方端部から前記工作物の中心軸線に延ばした第一垂線の長さは、前記被加工部に接触している前記研削部位における前記前方端部から前記工作物の中心軸線に延ばした第二垂線の長さよりも小さくなるように決定され、
前記被加工部が前記工作物の前記外周面に創成されている場合、前記第一垂線の長さは、前記第二垂線の長さよりも大きくなるように決定される、砥石による研削加工方法。
【請求項2】
前記交差角は、前記加工部と前記被加工部との間の逃げ角を含み、
前記研削加工工程において、前記前方端部で前記被加工部を研削する、請求項1に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項3】
前記被加工部の前記溝形状は、前記工作物の歯幅方向に延設される、請求項1又は請求項2に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項4】
前記被加工部の前記溝形状は、歯形である、請求項1-3のうちの何れか一項に記載の砥石による研削加工方法。
【請求項5】
前記工作物は、前記内周面に内歯の創成された内歯車又は前記外周面に外歯の創成された外歯車である、請求項1-4の何れか一項に記載の研削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石による研削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許第5222125号公報に開示された内歯車加工用樽型ねじ状工具(以下、「従来の工具」と称呼する。)が知られている。この従来の工具は、砥石であり、加工時に工作物に対して交差角が与えられた状態で噛み合わせて工作物を研削するようになっている。このため、砥石は、軸方向中間部から軸方向両端部に向かうに従って、径が漸次小さくなるような樽型且つ砥石歯がねじ状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5222125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の工具においては、加工時における工作物の被加工部との干渉を回避する必要があるために、砥石を工作物の加工状態に応じた樽形状やねじ状の歯を形成する必要がある。これにより、砥石を工作物の加工状態ごとに応じて製造したり調整したりする必要があり、砥石の製造コストが増大する場合がある。
【0005】
ここで、砥石の製造コストを低減するために、単純形状の安価な砥石を用いることが考えられる。しかしながら、単純形状の砥石を用いた場合には、研削加工において、砥石の工作物に最初に接触する端部側にて工作物の被加工部と無用な干渉を生じる可能性があり、又、最初に接触する端部側の加工量が大きくなる。その結果、砥石の寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、安価な砥石の寿命を延ばすことが可能な砥石による研削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、工作機械の主軸に同軸的に連結された軸部材を介して回転駆動されると共に環状の工作物に対して前記工作物の中心軸線の方向に相対的に前進及び後進が可能であり、且つ、中心軸線の方向の成分を有する一以上の突条の加工部を備える砥石を用いて、回転駆動される前記工作物に創成された溝形状の被加工部に研削加工を施す、砥石による研削加工方法であって、
前記加工部は、外周面を研削部位として構成され、前記軸部材側となる後方端部から中心軸線の方向にて前記後方端部と反対側となる前方端部に至る範囲の径が等しい円筒状外接面を有するように形成されており、
前記加工部の前記研削部位を前記被加工部に接触させるために、前記砥石の中心軸線と前記工作物の中心軸線とが所定の交差角を有するように前記砥石を傾斜させ、且つ、前記砥石を前記工作物の周方向に沿って移動させてオフセット角を有するようにオフセットさせた状態とし、更に、前記工作物が前記加工部の前記研削部位よりも前記主軸側となる加工初期位置に前記工作物及び前記砥石を配置する配置工程と、
前記工作物及び前記砥石を同期して回転させた状態で、前記加工初期位置に配置された前記砥石を前記工作物に対して相対的に後進させることにより、前記加工部を前記被加工部に接触させて前記被加工部に研削加工を施す研削加工工程と、を備え
前記被加工部は、前記工作物の内周面及び外周面のうちの少なくとも一方に創成され、
前記オフセット角は、
前記被加工部が前記工作物の前記内周面に創成されている場合、前記被加工部に接触している前記研削部位における前記後方端部から前記工作物の中心軸線に延ばした第一垂線の長さは、前記被加工部に接触している前記研削部位における前記前方端部から前記工作物の中心軸線に延ばした第二垂線の長さよりも小さくなるように決定され、
前記被加工部が前記工作物の前記外周面に創成されている場合、前記第一垂線の長さは、前記第二垂線の長さよりも大きくなるように決定される、砥石による研削加工方法にある。
【0008】
これによれば、砥石を傾斜させると共に工作物の周方向に沿ってオフセットさせた状態で、更に砥石における円筒状研削部位の後方端部が工作物に対向する加工初期位置に工具を配置することができる。そして、工作物及び砥石を同期して回転させた状態で、後方端部から前方端部に向けて砥石を工作物に対して相対移動させることにより、工作物の被加工部に研削加工を施すことができる。
【0009】
これにより、工作物の周方向においてオフセットされた加工初期位置から研削加工を開始することにより、単純形状の砥石を用いた場合でも、研削加工時における砥石と被加工部との無用な干渉を回避することができる。このため、工作物の被加工部に応じた複雑な形状の砥石を製造する必要がなく、砥石の製造コストを低減することができる。又、研削部位を被加工部に対して後方端部から前方端部に向けて徐々に接触させることができる。これにより、砥石の研削部位の一部にのみ著しい摩耗が生じることを防止することができるため、砥石の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】歯車研削盤の構成を概略的に示す概略平面図である。
図2】内歯車の構成を概略的に示す概略斜視図である。
図3A】砥石と工作物の基準位置を説明するための平面図である。
図3B図3Aの背面図である。
図4A】砥石と工作物との間の交差角を説明するための平面図である。
図4B図4Aの背面図である。
図5A】砥石と工作物の加工初期位置を説明するための平面図である。
図5B図5Aの背面図である。
図6A】研削加工の終了状態を説明するための平面図である。
図6B図6Aの背面図である。
図7】砥石の構成を説明するための図である。
図8】砥石の他例の構成を説明するための図である。
図9】研削加工方法を説明するためのフローチャートである。
図10】研削加工の状態を説明するための図5BのH-H線断面図である。
図11】比較例による研削加工の状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.砥石による研削加工方法の概要)
以下、本発明の砥石による切削加工方法を、図1から図11を用いて説明する。本発明の砥石による研削加工方法は、工作機械である歯車研削盤10の工具主軸11に同軸的に連結された軸部材であるアーバ21を介して回転駆動されると共に環状の工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に前進及び後進が可能であり、且つ、中心軸線Ctの方向の成分を有する一以上の突条の加工部である砥石歯部23を備える砥石20を用いて、回転駆動される工作物Wに創成された溝形状の被加工部Wwに研削加工を施す。
【0012】
本発明の砥石による研削加工方法における適用対象の工作機械として歯車研削盤10は、環状の工作物である内歯車や外歯車を製造する際にスカイビングオフセット加工が可能なマシニングセンタを利用することができる。又、本発明の砥石による研削加工方法における適用対象の環状の工作物Wは、溝形状の被加工部Wwが内周面及び外周面のうちの少なくとも一方に創成されるものであり、一例として被加工部の溝形状が歯形である内歯の創成された内歯車や外歯の創成された外歯車を挙げることができる。尚、内歯車や外歯車の場合、工作物Wの中心軸線Cwの方向の成分を有していれば、溝形状がスプライン溝や、はす歯溝、ねじり角溝を有することも可能である。
【0013】
更に、本発明の砥石による研削加工方法における砥石20は、砥石歯部23を構成する一以上の突条である砥石歯23aを備えている。砥石歯23aは、例えば、外周面であり歯先面である歯先部23dと、歯先部23dに対して回転方向両側に設けられた歯面である歯側部23eと、歯底面である歯底部23fと、アーバ21側の端面である後方端部23bと、中心軸線の方向にてアーバ21と反対側の端面である前方端部23cと、からなっている。砥石歯23aは、砥石20の中心軸線Ctに対して傾斜したねじれ角αを有している。そして、歯側部23eは、工作物Wの被加工部Wwであって、例えば、歯車の歯における歯先と歯底とを除く歯面Weの研削を行う研削部位である。ここで、砥石歯部23(歯側部23e)は、後方端部23bから前方端部23cに至る範囲までの径が等しい円筒状外接面を有するように形成されている。
【0014】
ここで、砥石20としては、後方端部23bから前方端部23cに至る範囲までの径が等しい円柱状や円筒状の単純形状を有する砥石本体22の周面に砥石歯部23を備えたものを挙げることができる。又、砥石20としては、鉄又はアルミニウム等の金属の砥石本体22に形成された歯の表面、特に歯側部23eに砥粒を電着した電着工具を用いることができる。
【0015】
そして、本発明の砥石による研削加工方法では、配置工程において、砥石歯23aのねじれ角αに応じて、しかも砥石歯23aの歯側部23eと工作物Wの被加工部Ww(歯面We)との間に逃げ角を確保するために、砥石20の中心軸線Ctと工作物Wの中心軸線Cwとが所定の交差角θを有するように砥石20を傾斜させる。加えて、砥石歯23aが接触している工作物Wの歯があり、図5Bにてこの歯の右隣りの歯を砥石歯23aからみて下方へ逃がす必要があるために、X軸線、Y軸線及びZ軸線の方向に砥石20と工作物Wとを相対させあたかも工作物Wの周方向に沿って砥石20を移動させたかのように、オフセット角φを有するようにオフセットさせた状態にする。更に、工作物Wが工具主軸11側の歯先部23dと対応する加工初期位置に工作物W及び砥石20を配置する。従って、一例として工作物が内歯車の場合においては、砥石20は、歯車研削盤10の工具主軸11を基準として見た状態でアーバ21が内歯車を通過するように配置される。
【0016】
そして、本発明の砥石による研削加工方法では、研削加工工程において、加工初期位置に工作物W及び砥石20を配置した後、工作物W及び砥石20を砥石20の砥石歯23aと工作物Wの被加工部Ww(歯面We)とが互いに噛み合うように同期して回転させた状態で、加工初期位置に配置された砥石20を工作物Wに向けて相対的に後進させることにより、研削部位である歯側部23eを前方端部23cで後方端部23b側から被加工部Ww(歯面We)に接触させて被加工部Ww(歯面We)に研削加工を施す。この場合、加工初期位置から研削加工を施すため、本発明の砥石による研削加工方法における加工経路は、例えば、工具等を前進させる周知のスカイビングオフセット加工の加工経路に対して逆向きになる。
【0017】
A軸線の回りにターンテーブル12bを回転させることにより、砥石20は工作物Wの被加工部Ww(歯面We)に対して交差角θを有している。又、工作物Wの周方向に沿って砥石20を移動させたかのように、X軸、Y軸及びZ軸の方向に砥石20と工作物Wを相対移動させることにより、砥石20は工作物Wに対してオフセット角φを有している。
【0018】
ここで、オフセット角φは、被加工部Wwが工作物Wの内周面に創成されている場合、被加工部Wwに接触している歯側部23eにおける後方端部23b側から工作物Wの中心軸線Cwに延ばした第一垂線D1の長さは、被加工部Wwに接触している歯側部23eにおける前方端部23c側から工作物Wの中心軸線Cwに延ばした第二垂線D2の長さよりも小さくなるように決定される。一方、被加工部Wwが工作物Wの外周面に創成されている場合、第一垂線D1の長さは、第二垂線D2の長さよりも大きくなるように決定される。
【0019】
このように、砥石20が交差角θ及びオフセット角φを有することにより、工作物Wの歯面Weの断面形状を最適なものにすることができ、砥石歯23aが接触している工作物Wの歯の右隣りの歯を図5Bにて砥石歯23aから見て下方に逃がすことができる。即ち、砥石20を工作物Wに対して相対移動させた場合、砥石20においては、先ず、歯面Weに対して、前方端部23c側が被加工部Ww(歯面We)に接触するようになる。ここで、研削加工工程において、歯側部23eを被加工部Ww(歯面We)に接触させる際に、後方端部23bの軸方向端面は被加工部Ww(歯面We)に接触しない。
【0020】
その結果、砥石歯部23即ち歯側部23eにおける局所的な摩耗の進行が防止される。そして、砥石20が円柱状や円筒状等の単純形状であっても、砥石20の砥石歯部23(歯側部23e)と工作物Wの被加工部Ww(歯面We)とが無用に干渉することを防止して研削加工を施すことができる。従って、砥石20の製造に伴う製造コストを低減することが可能であると共に、砥石20の寿命を延ばすことが可能となる。
【0021】
(2.歯車研削盤10の構成)
歯車研削盤10について図面を参照しながら説明する。歯車研削盤10は、図1に示すように、例えば、直交三軸(X軸線、Y軸線、Z軸線)方向の移動、C軸線(工作物Wの中心軸線Cw及び砥石20の中心軸線Ct)回りの回転、及び、A軸線回りの回転が可能な五軸マシニングセンタである。歯車研削盤10は、図2に示すように、内歯車である工作物Wの内周面に被加工部Wwである歯面Weを砥石20によって研削加工するものである。
【0022】
歯車研削盤10は、工具側主軸装置Mと、工作物側主軸装置Nと、研削の動作制御を行う制御装置15とを備えている。尚、図示を省略するが、歯車研削盤10は、複数の工具を収容可能な工具マガジンや、複数種類の砥石20を交換する砥石交換装置等を備えることができる。
【0023】
工具側主軸装置Mは、砥石20を支持して回転可能な工具主軸11を備えている。工具主軸11は、チャック11aを介して砥石20の中心軸線Ctの回りに回転可能に支持する。又、工具側主軸装置Mは、図示省略のベッド上にてY軸線方向に移動可能なコラム13により、Z軸線方向に移動可能に支持されている。従って、砥石20は、中心軸線Ctの回りに回転可能であり、且つ、ベッドに対してY軸線方向及びZ軸線方向に移動可能となる。
【0024】
工作物側主軸装置Nは、工作物Wを支持して回転可能であり、工具主軸11と相対移動可能な工作物主軸12を備えている。工作物主軸12は、保持具12aを介して工作物WをC軸線回り、即ち、工作物Wの中心軸線Cwの回りに回転可能に支持する。又、工作物側主軸装置Nは、工作物主軸12をA軸線の回りに回転可能(チルト(傾斜)可能)に支持するターンテーブル12bと、ターンテーブル12bをベッド上にてX軸線方向に移動に支持するX軸テーブル14と、を備えている。従って、工作物Wは、工作物Wの中心軸線Cwの回りに回転可能となり、ベッドに対してA軸線の回りに回転可能且つX軸線方向即ち砥石20に対して相対移動可能となる。
【0025】
制御装置15は、工具主軸11の移動用の図示省略のボールねじ機構及び駆動モータ(コラム13に設けられている)を駆動制御して、工具主軸11に支持される砥石20をY軸線方向及びZ軸線方向に移動させる。又、制御装置15は、工具主軸11の回転用の図示省略の駆動モータ(工具側主軸装置Mに設けられている)を制御して、工具主軸11に支持される砥石20を中心軸線Ctの回りに回転させる。
【0026】
又、制御装置15は、工作物主軸12の移動用の図示省略のボールねじ機構及び駆動モータ(X軸テーブル14に設けられている)を駆動制御して、工作物主軸12に支持される工作物WをX軸線方向に移動させる。又、制御装置15は、工作物主軸12の回転用の図示省略の駆動モータ(工作物側主軸装置Nに設けられている)を制御して、工作物主軸12に支持される工作物Wを中心軸線Cwの回りに回転させる。更に、制御装置15は、ターンテーブル12b用の駆動モータを駆動制御して、ターンテーブル12bに支持される工作物WをA軸線の回りに回転させる。
【0027】
尚、工作物Wを工具主軸11即ち砥石20に対して相対的にA軸線の回りに回転させることに代えて、砥石20を工作物Wに対してA軸線の回りに回転させるように構成することも可能である。この場合には、工具主軸11は、ターンテーブルに支持されるように構成される。
【0028】
そして、制御装置15は、工作物Wに研削加工を施す際には、図3A及び図3Bに示すように、工具主軸11に支持される砥石20の中心軸線Ctと工作物主軸12に支持される工作物Wの中心軸線Cwとを平行な位置(基準位置)にする。尚、以下の説明において、中心軸線Ct及び中心軸線Cwを通る平面を基準平面BPとする。
【0029】
又、制御装置15は、工作物Wが砥石20よりも工具主軸11側になるように砥石20を配置する。そして、制御装置15は、ターンテーブル12b用の駆動モータを駆動制御して、ターンテーブル12bに支持される工作物WをA軸線の回りに回転させる。これにより、制御装置15は、図4A及び図4Bに示すように、基準平面BPから垂直な方向に向かって工具主軸11に支持されている砥石20の中心軸線Ctを交差角θだけ傾斜させる。この交差角θは、工作物Wである内歯車の歯面Weのねじれ角αに基づいて調整され、且つ、砥石20の研削部位である歯側部23eと工作物Wの歯面Weとの間の逃げ角を確保するように決定される。
【0030】
又、制御装置15は、図5A及び図5Bに示すように、交差角θを有した状態で砥石20を基準平面BP上の基準位置から工作物Wの周方向にオフセット角φだけずらして、工作物W及び砥石20を加工初期位置に配置する。ここで、この砥石20のオフセット角φは、図5Bにて砥石歯23aが接触している工作物Wの歯の右隣りの歯を砥石歯23aから見て下方へ逃がすように決定される。
【0031】
そして、制御装置15は、砥石20を加工初期位置から工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に図6A及び図6Bに示す加工終了位置まで後進させ、工作物Wの研削加工を行う。即ち、砥石による研削加工においては、通常広く行われているような工具等を前進させるスカイビング加工とは逆向きの加工経路となる。
【0032】
具体的に、制御装置15は、砥石20を加工初期位置に配置した状態で、工具主軸11の回転用の駆動モータを駆動制御する。そして、制御装置15は、工具主軸11に支持された砥石20を中心軸線Ctの回りに回転させる。又、制御装置15は、工作物主軸12の回転用の駆動モータを駆動制御して、工作物主軸12に支持された工作物Wを中心軸線Cwの回りに回転させる。このとき、制御装置15は、砥石20の砥石歯23aと工作物Wの歯面Weとが互いに噛み合って同期して回転するように、工具主軸11及び工作物主軸12の各回転用の駆動モータを駆動制御する。
【0033】
そして、制御装置15は、工具主軸11及び工作物主軸12の各移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御する。これにより、制御装置15は、工具主軸11に支持された砥石20を、工作物主軸12に支持された工作物Wに対して相対移動させる。そして、制御装置15は、図5A及び図5Bに示すように、加工点Pcを実現する加工初期位置に砥石20を配置し、工作物Wの歯面Weを研削加工(仕上げ加工)する制御を行う。
【0034】
(3.砥石20の構成)
砥石20は、図7に示すように、軸部材としてのアーバ21と、円柱状の砥石本体22と、砥石歯部23と、を備える。アーバ21は、歯車研削盤10の工具主軸11に対してチャック11aを介して支持される。砥石本体22は、砥石を用いて円柱状に形成されており、アーバ21の先端側、即ち、チャック11aによって支持される基端側と反対側に固定されている。
【0035】
加工部としての砥石歯部23は、砥石本体22の外周面側に砥石本体22に一体に中心軸線Ctに沿って延設された溝によって形成される複数の突条の砥石歯23aを有している。ここで、砥石歯部23における砥石歯23aは、例えば、工作物Wの歯面Weの形状に基づいて、図7に示すように、中心軸線Ctに沿って直線状に形成された形状である。尚、砥石歯23aの形状については、図8に示すように、工作物Wの歯面Weがねじれ角αを有していなければ、ねじれ角を有することになる。
【0036】
砥石歯23aは、図7及び図8に示すように、アーバ21側の端面である後方端部23bと、アーバ21と中心軸線Ctの方向にて反対側の端面である前方端部23cとを備えている。そして、砥石歯23aは、後方端部23bと前方端部23cとの間において、外周面であり歯先面である歯先部23dと、歯先部23dに対して回転方向両側に設けられた歯面である歯側部23eと、歯底面である歯底部23fと、を備えている。ここで、歯側部23eの外周面は、研削部位として構成される。尚、砥石歯部23(歯側部23e)は、後方端部23bから前方端部23cに至る範囲までの径が等しい円筒状外接面を有するように形成される。
【0037】
砥石による研削加工方法においては、オフセット角φを有する加工初期位置に砥石20を配置して研削加工を行う。このように、砥石20が工作物Wに対してオフセット角φを有することにより、研削加工において、加工部である砥石歯部23の歯側部23eを工作物Wの歯面Weに対して前方端部23c側で後方端部23b側から前方端部23c側に向けて徐々に切込みを増やしながら接触させることができる。又、砥石歯部23の歯側部23eと接触している工作物Wの歯の右隣りの歯(図5Bを参照)との無用な干渉を回避することができる。このため、砥石20は、単純形状である円柱状の砥石本体22の周面に砥石歯部23を有するように構成することができる。
【0038】
これにより、砥石20を製造する場合、例えば、上述した従来の砥石のように、工作物Wの被加工部Wwである歯面Weの形状ごとに干渉が生じないように砥石本体22や砥石歯部23(砥石歯23a)の形状を変更する必要がない。従って、砥石20の汎用性を高めることができ、その結果、製造コストを低減することができる。
【0039】
ここで、砥石20をアーバ21と一体に工具主軸11に向けて移動させる、即ち、砥石歯部23の後方端部23bを工作物Wに向けて相対的に移動させることを「後進」と称呼する。更に、砥石20をアーバ21と一体に工具主軸11から離間するように移動させる、即ち、砥石歯部23の前方端部23cを工作物Wに向けて或いは工作物Wを通過させて相対的に移動させることを「前進」と称呼する。
【0040】
尚、砥石20として電着工具を用いることも可能である。この場合、例えば、超硬質合金から砥石歯部23を有するように砥石本体22を形成する。そして、砥石歯部23のそれぞれの砥石歯23a特に歯側部23eに対して砥粒を電着し、電着工具を製造する。電着工具を用いた場合でも、工作物Wの歯面Weを研削することができる。
【0041】
(4.砥石による研削加工方法の詳細)
次に、研削加工方法の詳細について、制御装置15によって実行される図9の「加工プログラム」を参照しながら説明する。尚、工作物主軸12には、歯車加工方法の一つであるスカイビング加工方法によって円筒部材に内歯車の歯面We(内歯)が被加工部Wwとして創成された工作物Wが回転駆動可能に支持されているものとする。
【0042】
制御装置15は、研削加工プログラムの実行をステップS10にて開始する。続いて、制御装置15は、ステップS11にて、砥石20を加工初期位置に配置する(配置工程)。具体的に、制御装置15は、図3A及び図3Bに示すように、砥石20及び工作物Wを基準位置にする。そして、制御装置15は、図4A及び図4Bに示すように、基準位置から砥石20を工作物Wの中心軸線Cwに沿って工作物Wに向けて前進させ、砥石20を工作物Wに対し交差角θを有する状態にする。
【0043】
そして、制御装置15は、砥石20及び工作物Wを加工初期位置に配置する。具体的に、制御装置15は、図5A及び図5Bに示すように、交差角θを保持した状態で、オフセット角φを有するように砥石20を工作物Wの周方向に配置することにより、砥石20を加工初期位置に配置する。
【0044】
これにより、制御装置15は、図5A及び図5Bに示すように、加工初期位置において、砥石20が交差角θ及びオフセット角φを有するように配置する。又、制御装置15は、加工初期位置において、アーバ21が工作物Wの内部を通過し、且つ、砥石歯部23(歯側部23e)における後方端部23bが工作物Wと対向するように配置する。
【0045】
続いて、制御装置15は、ステップS12にて、砥石20と工作物Wとを図5Bにて時計回りにほぼ同期回転させる(研削加工工程)。具体的に、制御装置15は、工具主軸11の回転用の駆動モータと、工作物主軸12の回転用の駆動モータとを、砥石歯23aと歯面Weとが接触する点における工作物Wの回転方向において砥石20の回転周速度が工作物Wの回転周速度より若干早くなるように、砥石20と工作物Wとを図5Bにて時計回りに回転制御する。交差角θにより、工作物Wの歯面Weに沿って歯側部23eが工作物Wの歯幅(歯すじ)方向に移動しながら、工作物Wの歯が砥石20の砥石歯23aより回転方向にて遅れる状態になる。
【0046】
そして、制御装置15は、ステップS13にて、砥石20を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に後進させると、工作物Wの歯面Weに沿って歯側部23eが工作物Wの歯幅(歯すじ)方向に移動しながら、工作物Wの歯が砥石20の砥石歯23aより回転方向にて先行する。回転方向における先行と遅れとによって互いにキャンセルされて、工作物Wの歯(歯面We)と砥石20の砥石歯23aとが互いに噛み合った状態となり、工作物Wの歯面Weを研削加工する(研削加工工程)。具体的に、制御装置15は、工具主軸11の移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御することにより、図6A及び図6Bに示すように、砥石20を工作物Wに対して工作物Wの中心軸線Cwの方向に相対的に後進させて加工初期位置から工作物Wの内部を通過させる。これにより、砥石20の砥石歯部23の砥石歯23a即ち歯側部23eが工作物Wの歯面Weと接触し、その結果、歯面Weが研削される。
【0047】
尚、この場合、制御装置15は、工具主軸11の移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御することに代えて、工作物主軸12の移動用のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御することもできる。この場合には、工作物Wが砥石20に対して相対的に移動することにより、砥石20が工作物Wに対して相対的に後進するため、砥石20を加工初期位置から工作物Wの内部を通過させることができる。従って、この場合にも、砥石20の砥石歯部23の砥石歯23a即ち歯側部23eが工作物Wの歯面Weと接触し、歯面Weに沿って工作物Wの歯幅(歯すじ)方向に歯側部23eを移動させることによって、歯面Weが研削される。
【0048】
又、砥石20が研削加工を行う際に、砥石20からクーラントを供給する、所謂、スルークーラントを行うことも可能である。これにより、スルークーラントを行うことにより、簡単な構造によって工作物Wの被加工部Ww(歯面We)及び砥石20の砥石歯23a(歯側部23e)に効率よくクーラントを供給することができる。従って、研削加工における研削品質及び研削精度を向上させることが可能になる。
【0049】
制御装置15は、ステップS13にて砥石20を後進させて工作物Wの歯面Weに研削加工を施すと、ステップS14にて加工プログラムの実行を終了する。そして、制御装置15は、次の工作物Wが工作物主軸12に固定された後、再び、ステップS10にて加工プログラムを実行する。
【0050】
(5.砥石による研削加工方法の効果)
上述したように、本発明の砥石による研削加工方法に従って工作物Wに研削加工を行う場合、砥石20は、加工初期位置から研削加工を行う。加工初期位置に砥石20が配置された場合、砥石20は交差角θ及びオフセット角φを有する。ここで、図10に示すように、オフセット角φは、第一垂線D1の長さが第二垂線D2の長さよりも短くなるように決定される。このため、図10に示すように、砥石20は、工作物Wの被加工部Wwである歯面Weに対して研削部位である砥石歯23aの歯側部23eの前方端部23c側で接触する。歯側部23eの歯面Weに対する工作物Wの回転方向の切込みは、前方端部23c側で深く、後方端部23bに向かって徐々に浅くなる。前方端部23cの後方端部23b側から切り込まれるので、前方端部23cの摩耗が抑えられる。
【0051】
ここで、比較例として、図11に示すように、例えば、従来から広く行われているスカイビング加工と同様に、砥石20を工作物Wに向けて前進させて工作物Wの歯面Weを研削する場合を想定する。この場合、砥石20の砥石歯部23を構成する砥石歯23aの前方端部23cから歯側部23eの歯面Weに対する工作物Wの回転方向の切込みが最も深い状態で切り込まれる。そして、歯側部23eの歯面Weに対する工作物Wの回転方向の切込みが、後方端部23bに向かって急激に浅くなる。
【0052】
このため、前方端部23cが工作物Wを研削するときの研削量(仕事量)は、著しく大きくなる。従って、砥石20を前進させて研削加工を行う場合は、砥石歯部23(砥石歯23a)の前方端部23cの摩耗が著しく大きくなって、異常摩耗が生じる。
【0053】
これ対して、本発明の加工方法においては、砥石20に摩耗の偏りを少なくすることができる。従って、砥石20の耐久性を向上させることができ、その結果、砥石20の寿命を延ばす、即ち、砥石20の高寿命化を達成することができる。
【符号の説明】
【0054】
10…歯車研削盤(工作機械)、11…工具主軸(主軸)、11a…チャック、12…工作物主軸、12a…保持具、12b…ターンテーブル、13…コラム、14…X軸テーブル、15…制御装置、20…砥石(工具)、21…アーバ、22…砥石本体、23…砥石歯部(加工部)、23a…砥石歯、23b…後方端部、23c…前方端部、23d…歯先部、23e…歯側部(研削部位)、23f…歯底部、W…工作物、Ww…被加工部、We…歯面、Pc…加工点、Ct…(工具の)中心軸線、Cw…(工作物の)中心軸線、θ…交差角、φ…オフセット角、D1…第一垂線、D2…第二垂線、M…工具側主軸装置、N…工作物側主軸装置
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11