(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】転がり軸受用樹脂製保持器及び転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/49 20060101AFI20230816BHJP
F16C 19/28 20060101ALI20230816BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
F16C33/49
F16C19/28
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2019133176
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】山本 健
(72)【発明者】
【氏名】本條 隼樹
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-222141(JP,A)
【文献】特開2012-250381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に複数の転動体が配置された転がり軸受に組み込まれ、溶融した熱可塑性の合成樹脂を射出成形することによって形成された樹脂製保持器であって、
環状体と、前記環状体の軸方向一の側に設けた第1側面から軸方向一の側に延在する複数のつのを備え、周方向に隣り合う二つの前記つのの間にそれぞれ前記転動体を保持するポケットが形成されており、
前記環状体の内周面から径方向外方側に窪むとともに前記環状体の軸方向他の側に設けた第2側面から軸方向一の側に窪む環状の凹部を有し、
前記凹部を確定する凹部画定面は、前記内周面と第1曲面でつながるとともに前記第2側面と第2曲面でつながっており、
前記第1曲面及び前記第2曲面は、前記樹脂製保持器の中心軸を含む断面において径方向内方に凸の曲線で形成されており、
前記凹部画定面は、前記第2側面よりも軸方向一の側にあるとともに前記内周面よりも径方向外方側にあ
り、
前記凹部画定面に設けられたゲート痕は、前記第2側面よりも軸方向一の側にあるとともに前記内周面よりも径方向外方側にある、又は、前記環状体の中心軸を軸として前記第1曲面と前記第2曲面とに接する仮想円錐面を超えて径方向内方に形成されないことを特徴とする転がり軸受用樹脂製保持器。
【請求項2】
前記凹部画定面は、前記環状体の中心軸を軸として前記第1曲面と前記第2曲面とに接する仮想円錐面を超えて径方向内方に形成されないことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受用樹脂製保持器。
【請求項3】
外周に内側軌道面が形成された内輪と、
内周に外側軌道面が形成された外輪と、
前記内側軌道面と前記外側軌道面との間に転動可能に配設される複数の転動体と、
複数の前記転動体を保持する樹脂製保持器とを有し、
前記樹脂製保持器は、請求項1
又は2に記載する樹脂製保持器であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
外周に複列の内側軌道面が形成された内輪と、
内周に複列の外側軌道面が形成された外輪と、
軸方向一方側の第1の前記内側軌道面と軸方向一方側の第1の前記外側軌道面との間に転動可能に配設される複数の第1の転動体と、
請求項1
又は2に記載する樹脂製保持器であって、前記第1の転動体の軸方向他方側に沿って前記環状体が配置され、前記ポケットに前記第1の転動体を保持する第1の樹脂製保持器と、
軸方向他方側の第2の前記内側軌道面と軸方向他方側の第2の前記外側軌道面との間に転動可能に配設される複数の第2の転動体と、
請求項1
又は2に記載する樹脂製保持器であって、前記第2の転動体の軸方向一方側に沿って前記環状体が配置され、前記ポケットに前記第2の転動体を保持する第2の樹脂製保持器と、を有することを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製保持器及び樹脂製保持器を使用した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、それぞれ軌道面を有する外輪及び内輪と、複数の転動体とを備えており、転動体は、保持器によって軌道面に沿って周方向に等しい間隔で保持されている。
工作機械では、高い加工精度を得るために、転動体として二列の円筒ころが組込まれた転がり軸受で主軸を支持して、ラジアル方向の剛性を高くした主軸の支持構造が知られている(特許文献1)。この転がり軸受では各列に保持器が組み込まれており、各列において複数の円筒ころが周方向に等しい間隔で保持されている。
【0003】
近年、工作機械では主軸の回転数が高くなっており、転がり軸受には樹脂製の保持器が使用されている。通常、樹脂製の保持器は、ガラス繊維や炭素繊維を含有させた、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性の合成樹脂を金型内に射出成形することによって製造される。このとき、合成樹脂を金型内に射出する射出口(ゲート)の数を一点或いは多点にすると、分流した樹脂材が金型内で再び合流することによって、周方向の一箇所または複数箇所にウエルド部が形成される。このウエルド部は強度が低いため、転がり軸受が過酷な条件で使用されたり不適当な樹脂材料が使用された場合には、ウエルド部を起点として保持器が破断するおそれがある。
そこで、保持器を成形する金型では、射出口が周方向につながったディスクゲートが使用される場合がある(特許文献2)。ディスクゲートによると、溶融した樹脂材が金型内を一方向に流れるためウエルド部が形成されないので、一様な強度を有する保持器を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-228037号公報
【文献】特開平11-108063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出成形で成形した保持器を金型から取り出したときは、保持器を形成する部分の樹脂材とランナーの部分の樹脂材とがつながった状態で固化している。このため、成形後にランナーの部分を切り離す必要がある。しかしながらディスクゲートを用いた金型では、保持器とランナーとが全周にわたってつながっているので切り離し作業が困難である。また、切り離した後のゲート痕が保持器の表面から突出するため、このゲート痕が転がり軸受の回転中に内輪と接触したり、二列の樹脂製保持器が組込まれた転がり軸受では、一方の保持器のゲート痕が他方の保持器と接触することによって転がり軸受が発熱したり、保持器が摩耗しやすくなってしまう。
【0006】
上記の事情に鑑み、本発明は、樹脂製保持器をディスクゲートを用いた射出成形によって製造するときに、ランナーと保持器を切り離したときのゲート痕が、製品としての保持器の表面から突出しないようにして、転がり軸受の発熱や保持器の破損を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、外輪と内輪との間に複数の転動体が配置された転がり軸受に組み込まれ、溶融した熱可塑性の合成樹脂を射出成形することによって形成された樹脂製保持器であって、環状体と、前記環状体の軸方向一の側に設けた第1側面から軸方向一の側に延在する複数のつのを備え、周方向に隣り合う二つの前記つのの間にそれぞれ前記転動体を保持するポケットが形成されており、前記環状体の内周面から径方向外方側に窪むとともに前記環状体の軸方向他の側に設けた第2側面から軸方向一の側に窪む環状の凹部を有し、前記凹部を確定する凹部画定面は、前記内周面と第1曲面でつながるとともに前記第2側面と第2曲面でつながっており、前記第1曲面及び前記第2曲面は、前記樹脂製保持器の中心軸を含む断面において径方向内方に凸の曲線で形成されており、前記凹部画定面は、前記第2側面よりも軸方向一の側にあるとともに前記内周面よりも径方向外方側にあり、前記凹部画定面に設けられたゲート痕は、前記第2側面よりも軸方向一の側にあるとともに前記内周面よりも径方向外方側にある、又は、前記環状体の中心軸を軸として前記第1曲面と前記第2曲面とに接する仮想円錐面を超えて径方向内方に形成されないことを特徴としている。
【0008】
本発明の第2の形態は、第1の形態の軸受用樹脂製保持器であって、前記凹部画定面は、前記環状体の中心軸を軸として前記第1曲面と前記第2曲面とに接する仮想円錐面を超えて径方向内方に形成されないことを特徴としている。
【0009】
本発明の第3の形態は、外周に内側軌道面が形成された内輪と、内周に外側軌道面が形成された外輪と、前記内側軌道面と前記外側軌道面との間に転動可能に配設される複数の転動体と、複数の前記転動体を保持する樹脂製保持器とを有し、前記樹脂製保持器は、第1又は第2の形態の樹脂製保持器であることを特徴とする転がり軸受である。
【0010】
本発明の第4の形態は、外周に複列の内側軌道面が形成された内輪と、内周に複列の外側軌道面が形成された外輪と、軸方向一方側の第1の前記内側軌道面と軸方向一方側の第1の前記外側軌道面との間に転動可能に配設される複数の第1の転動体と、第1又は第2の形態の樹脂製保持器であって、前記第1の転動体の軸方向他方側に沿って前記環状体が配置され、前記ポケットに前記第1の転動体を保持する第1の樹脂製保持器と、軸方向他方側の第2の前記内側軌道面と軸方向他方側の第2の前記外側軌道面との間に転動可能に配設される複数の第2の転動体と、第1又は第2の形態の樹脂製保持器であって、前記第2の転動体の軸方向一方側に沿って前記環状体が配置され、前記ポケットに前記第2の転動体を保持する第2の樹脂製保持器と、を有することを特徴とする転がり軸受である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、樹脂製保持器を射出成形によって製造するときに、ディスクゲートを用いた金型で成形した場合であっても、ゲート痕の高さを抑制して、保持器の表面から突出しないようにすることができる。このため、転がり軸受の回転中に、ゲート痕が内輪と接触するのを防止し、また、二列の樹脂製保持器が組込まれた転がり軸受では、一方の保持器のゲート痕が他方の保持器と接触するのを防止して、転がり軸受の発熱を抑制するとともに保持器の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の転がり軸受の軸方向断面図である。
【
図3】
図2において矢印Yで示す向きで軸方向に見たときの、保持器の周方向の一部の形態を示す部分正面図である。
【
図4】射出成形による保持器の製造工程を説明する説明図である。
図4(a)は金型の形態を模式的に示す断面図で、
図4(b)は成形直後の成形品の形態を示す断面図で、
図4(c)はランナーの部分を切り離したときの形態を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態の保持器のゲート部分の要部拡大図である。
【
図6】従来の保持器を射出成形したときのゲート部分の要部拡大図で、
図6(a)は成形直後の形態を示しており、
図6(b)はランナーの部分を切り離したときの形態を示している。
【
図7】第2実施形態の保持器のゲート部分の要部拡大図である。
【
図8】第3実施形態の保持器のゲート部分の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態(第1実施形態)について図を用いて詳細に説明する。
図1は、第1実施形態としての転がり軸受10の軸方向断面図である。転がり軸受10は、汎用旋盤、CNC旋盤、マシニングセンタ、フライス盤等の工作機械の主軸を回転支持する用途で使用され、高速回転する主軸を高い剛性で支持することが可能である。主軸は、直径が50~150ミリメートル程度であり、最大10000~15000rpm程度の回転速度で回転する。
以下の説明では、転がり軸受10の回転中心である中心軸mの方向を軸方向といい、中心軸mと直交する方向を径方向、中心軸mの周りを周回する方向を周方向という。また、説明の便宜上、
図1の右方を軸方向一方側といい、左方を軸方向他方側という。
【0014】
転がり軸受10は、外輪11、内輪12、複数の転動体としての円筒ころ13、二つの保持器21、21を備えている。
【0015】
外輪11は、環状で、SUJ2等の高炭素クロム鋼やSNCM等のニッケルクロムモリブデン鋼などで製造されている。外周面は中心軸mと同軸の円筒形状で、軸方向両側にそれぞれ中心軸mと直交する向きに側面が形成されている。内周には、全周にわたって二列の外側軌道面14、14が形成されている。二列の外側軌道面14、14は、中心軸mと同軸の円筒形状で、直径は互いに同一である。
【0016】
内輪12は、環状で、SUJ2等の高炭素クロム鋼やSNCM等のニッケルクロムモリブデン鋼などで製造されている。内周面は中心軸mと同軸の円筒形状で、軸方向両側にそれぞれ中心軸mと直交する向きで側面が形成されている。外周には、外側軌道面14、14と径方向に対向する二列の内側軌道面15、15が、互いに軸方向に離れて全周にわたって形成されている。各内側軌道面15、15は、いずれも中心軸mと同軸の円筒形状で、直径は互いに同一である。軸方向他方側の内側軌道面15の軸方向両側につば16a、16bが形成されており、軸方向一方側の内側軌道面15の軸方向両側につば16b、16cが形成されている。
【0017】
円筒ころ13は、SUJ2等の高炭素クロム鋼やSNCM等のニッケルクロムモリブデン鋼、或いは窒化ケイ素などのセラミック材で製造されている。外周面は円筒形状で、軸方向の両端にそれぞれ軸と直交する向きの端面が形成されている。両端面間の軸方向の寸法は、各内側軌道面15、15の軸方向両側に形成されたつば16aと16b及び16bと16cの内幅寸法よりわずかに小さい。このため各内側軌道面15、15に配置された円筒ころ13、13は、転がり軸受10の回転時につば16a、16b、16cで案内されて、各内側軌道面15、15に沿って周方向に転動することができる。
【0018】
図1、
図2及び
図3を参照しつつ、保持器21について説明する。
図1の転がり軸受10では、同一形状の二つの保持器21、21が、互いに軸方向で逆向きに組み込まれている。
図2は、
図1の軸方向一方側の列に組み込まれている保持器21の斜視図である。
図3は、
図2に記載した矢印Yで示す向きに軸方向に見たときの、保持器21の周方向の一部を示す正面図である。以下の説明では、特に断らない場合は、
図1の軸方向一方側の保持器21を例にして説明する。なお、
図2においても
図1と同様に、右方を軸方向一方側といい左方を軸方向他方側という。
【0019】
図2に示すように、保持器21は、中心軸nを中心とする環状であって、円板形状の環状体23と、複数のつの22を備えている。保持器21は、ガラス繊維や炭素繊維を含有させたポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性の合成樹脂を射出成型することによって製造されている。
【0020】
図1を参照する。保持器21の環状体23は、軸方向の断面が略長方形で、軸方向に所定の厚さを有している。軸方向一方側の側面(以下、「第1側面24」という)と軸方向他方側の側面(以下、「第2側面25」という)は、それぞれ中心軸nと直交する向きに形成されており互いに平行な面となっている。
つの22は、環状体23の第1側面24から軸方向一方側に向けて延在しており、
図2に示すように、複数のつの22が周方向に等しい間隔で配置されている。互いに隣接するつの22とつの22とで周方向に挟まれた空間を「ポケット27」という。各ポケット27には、円筒ころ13がその中心軸を転がり軸受10の中心軸mと平行となる向きで一つずつ組み込まれる。
保持器21は、環状体23の内周面28と第2側面25とがつながる部分に形成した凹部43の形態に特徴がある。この特徴部分については、転がり軸受10のその他の形態を説明した後で、射出成形による製造方法を説明するときに詳細に説明する。
【0021】
図3を参照する。
図3では、ポケット27に組み込まれた円筒ころ13を二点鎖線で示している。
各つの22の周方向両側にころ案内面26、26が形成されている。各ころ案内面26は、円筒ころ13の外周面に沿って湾曲した曲面であって、
図3に示すように、中心軸nの向きに見たときのころ案内面26の曲率半径は、円筒ころ13の外周面の曲率半径よりわずかに大きく、円筒ころ13はポケット27の内側で自在に回転することができる。
【0022】
転がり軸受10は、
図1に示すように外輪11と内輪12とが同軸に組み合わされて、2列の外側軌道面14、14と2列の内側軌道面15、15との間にそれぞれ複数の円筒ころ13が転動可能に組み込まれている。各列の円筒ころ13は、保持器21のポケット27に組み込まれて周方向に等しい間隔で保持されている。
二つの保持器21、21は、それぞれの中心軸nを転がり軸受10の中心軸mと同軸に配置して、互いに逆向きに組み込まれている。
すなわち、軸方向一方側の列に組み込まれた保持器21は、環状体23が、軸方向一方側の列の円筒ころ13の軸方向他方側に沿って配置され、環状体23の軸方向一方側にポケット27が形成されている。各ポケット27に、軸方向一方側の列の円筒ころ13が保持されている。
軸方向他方側の列に組み込まれた保持器21は、環状体23が、軸方向他方側の列の円筒ころ13の軸方向一方側に沿って配置され、環状体23の軸方向他方側にポケット27が形成されている。各ポケット27に、軸方向他方側の列の円筒ころ13が保持されている。こうして、二つの保持器21、21は、それぞれの第2側面25が軸方向に互いに向き合った状態で配置されている。
【0023】
転がり軸受10の回転時には、円筒ころ13が各軌道面14、15を転動し、中心軸mの回りで公転する。保持器21は、各列において円筒ころ13とともに中心軸mの回りで回転する。転がり軸受10の負荷状態等によって各列の円筒ころ13の公転速度に差が生じた場合には、二つの保持器21、21は、互いに周方向に位置ずれし得る状態で回転することができる。
【0024】
環状体23の外周は、中心軸nと同軸の略円筒形状で、外輪11の内周との間で径方向に僅かなすきまを持って組み込まれている。これにより、環状体23の外周が外輪11の内周に案内されて、保持器21は外輪11と同軸に回転することができる。また、環状体23の内周面28の直径は、内輪中央のつば16bの外径より大きく、保持器21の内周と内輪12のつば16bの外周との間には径方向にすきまが設けられている。
【0025】
次に、射出成形によって保持器21を製造する方法について説明する。
図4は、射出成形によって樹脂製品(第1実施形態では保持器21である)が成形される一般的な工程を説明する説明図である。
図4(a)は、樹脂製品を成形する金型の形態を模式的に示す軸方向の断面図である。
図4(b)は、
図4(a)の金型から取り出した直後の成形品の軸方向断面図であり、
図4(c)は、
図4(b)の成形品からスプルー33等の樹脂材が除去される様子を示す模式図である。
【0026】
図4(a)を参照する。金型は、互いに軸方向(中心軸mと平行な方向である)に分離可能な上型31と下型32とを備えている。上型31には、樹脂材料の流入通路であるスプルー33が、径方向の中央で中心軸mの方向に形成されている。スプルー33の径方向外方に、樹脂製品が成形されるキャビティCが設けられている。樹脂材料をキャビティCに向けて射出するゲート34(射出ゲート)が、キャビティCの内周に設けられている。ゲート34は、全周にわたってキャビティCに開口しており、上型31と下型32の互いに軸方向に対向する面が軸方向に離れて配置されることによって形成されている。このように、周方向につながったゲートをディスクゲート(フィルムゲートともいう)という。
スプルー33とゲート34は、径方向に設けられたランナー35でつながっている。
【0027】
射出成形時には、高温に加熱されて溶融した樹脂材が、スプルー33から高圧で注入される。第1実施形態の保持器21では、樹脂材料としてポリアミド樹脂が好適に使用されるが、これに限定されるものではなく、転がり軸受10の使用環境等に応じてポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂等、その他の樹脂材料を適宜選択することができる。溶融した樹脂材は、ランナー35を通ってゲート34からキャビティCに射出される。ゲート34が全周にわたって周方向につながっているので、樹脂材はキャビティCの全周から同時に射出される。このため、溶融した樹脂材が金型内で一方向に流れるのでウエルドラインが形成されず、全周にわたって均一な強度を有する樹脂製品(保持器21)を成形することができる。
【0028】
キャビティCに射出、充填された樹脂材は、金型の中で冷却されて固化する。その後、上型31と下型32が軸方向に分離して、
図4(b)に示すように固化した成形品Kが取り出される。金型から取り出した直後の成形品Kは、保持器21を形成する部分(以下、保持器形成部M1という)と、ランナー35やスプルー33及びゲート34の内部に残留していた樹脂材料が固化した部分(以下、ランナー形成部M2という)とがつながった状態となっている。
なお、成形品Kを金型から取り出す時に、熱収縮等によって、成形品Kが金型に固着して取出しが困難な場合がある。このため、上型31又は下型32に軸方向に伸縮する押し出しピンを設けて(図示を省略)、成形品Kを軸方向に付勢して金型から分離する場合がある。
【0029】
次に、
図4(c)に示すように、切断工具45を押し付けてランナー形成部M2を切り離し、樹脂製品としての保持器21を形成している。保持器形成部M1とランナー形成部M2はゲート34の位置で切断されており、樹脂製品としての保持器21にはゲート34の一部が残留して、保持器21の外周から突出したゲート痕37が形成されている。なお、切断工具45の形態は例示であって、ランナー形成部M2は、その他の方法によって適宜切り離すことができる。
【0030】
図5は、第1実施形態の保持器21について、金型から取り出した直後の成形品Kの形態を示す、
図4(b)と同様の軸方向断面図である。
図5では、
図4(b)のAで示す部分を拡大して示している。
図5においても、図の右側を軸方向一方側といい、左側を軸方向他方側という。
保持器21は、内周面28の軸方向他方側に内周面28より大径の第1内周面39が形成されている。第1内周面39の軸方向他方側の端部は、第2曲面42によって第2側面25とつながっている。第2曲面42は、中心軸nと同軸に形成された環状の曲面で、軸方向断面では径方向内方に凸の曲線となっている。第1内周面39の軸方向一方側の端部は径方向内方に延在する第1段面40とつながっている。第1段面40の径方向内方の端部は、第1曲面41によって内周面28とつながっている。第1曲面41は、中心軸nと同軸に形成された環状の曲面で、軸方向断面では径方向内方に凸の曲線となっている。
【0031】
こうして、保持器21の環状体23には、第1内周面39と第1段面40で画定されて、内周面28から径方向外方側に窪むとともに、第2側面25から軸方向一方側に窪む環状の凹部43が形成されている。以下、凹部43を画定する面(第1実施形態では第1内周面39と第1段面40である。)を「凹部画定面」という場合がある。
このような構成とすることによって、凹部画定面は、第2側面25よりも軸方向一方側にあるとともに内周面28よりも径方向外方側にある。また、第2曲面42と第1曲面41に接して中心軸nを中心とする円錐面S1(仮想円錐面)を仮定したときに、凹部43を画定する凹部画定面は、常に円錐面S1より径方向外方に形成されており、円錐面S1を超えて径方向内方に形成されることがない。
【0032】
第1実施形態の保持器21では、ゲート34は、凹部画定面を構成する第1内周面39に設けられている。すなわち、ゲート34がキャビティC(
図4参照)に開口する開口部Pは、第1内周面39に形成されており、円錐面S1より径方向外方に形成されている。
このため、
図5に一点鎖線Xで示すように、成形品Kの保持器形成部M1とランナー形成部M2とが、ゲート34の開口部Pからわずかに離れた位置で切り離されたときに、ゲート痕37が、第2側面25よりも軸方向一方側で、かつ、内周面28よりも径方向外方側に残存する。更に、ゲート痕37は、円錐面S1より径方向の外側、かつ、軸方向の一方側にのみ位置しており、円錐面S1を超えて径方向内方に形成されない。
【0033】
したがって、第1実施形態の保持器21では、第1内周面39のゲート痕37が、内周面28より径方向内方に突出しない。また、ゲート痕37は、径方向内方に向けて延在しており、軸方向に延在しないので、第2側面25より軸方向他方側に突出しない。
また、径方向内方側に突出したゲート痕37を切削等によって除去する場合であっても、ゲート痕37を内周面28から径方向内方側に突出しない程度に削除すればよく、第1内周面39と面一に仕上げる必要がない。このため、ゲート痕37を切り離す作業が容易になる。
【0034】
本発明の効果を説明するための比較例として、ディスクゲートを使用して従来の保持器91を射出成形したときの形態について説明する。
図6(a)は、従来の保持器91について、金型から取り出した直後の成形品Kの形態であって、
図4(b)のAに対応する部分の断面を拡大して示している。
図6(b)は、
図4(c)と同様にランナー形成部M2を切り離した状態を示している。
【0035】
従来の保持器91は、第1実施形態の保持器21と比較して、凹部43を有していない点が異なっている。すなわち、内周面28と第2側面25とが直接つながっている。このため、保持器91では、ゲート34が内周面28に形成されている。
このため、ランナー形成部M2がゲート34の位置(一点鎖線Xで示す)で切り離されると、
図6(b)に示すように、ゲート痕37が内周面28から径方向内方に向けて突出する。このため、転がり軸受10の回転中にゲート痕37が内輪12のつば16bの外周と接触する虞がある。これにより、保持器91が滑らかに回転しないので、転がり軸受10が発熱を生じたり、保持器91そのもの、特にゲート痕37が摩耗して、潤滑不良を生ずる場合がある。
また、ゲート痕37を切削等によって除去する場合には、ゲート痕37の高さをできるだけ小さくするために内周面28と面一に仕上げる必要があり、ゲート痕37を切り離す作業が煩雑になる。
【0036】
これに対して第1実施形態の保持器21では、ゲート痕37が、円錐面S1より径方向外方の第1内周面39に形成されているので、内周面28より径方向内方に突出しない。このため、転がり軸受10の回転中にゲート痕37と内輪12のつば16bとが接触しない。また、ゲート痕37が、第2側面25を越えて軸方向他方側に突出しないので、軸方向一方側の保持器21のゲート痕37が軸方向他方側の保持器21と接触することがない。これにより、転がり軸受10の発熱を抑制するとともに保持器21の破損を防止することができる。
また、径方向内方に突出したゲート痕37を切削等によって除去する場合であっても、ゲート痕37を内周面28から径方向内方に突出しない程度に削除すればよく、第1内周面39と面一に仕上げる必要がない。このため、ゲート痕37を切り離す作業が容易になる。
【0037】
図7は、第2実施形態の転がり軸受10aに組み込まれた保持器21aの軸方向断面における
図5と同様の要部拡大図である。
図7においても、図の右側を軸方向一方側といい、左側を軸方向他方側という。なお、第1実施形態と共通する構成については、第1実施形態と同一の番号を付している。
第2実施形態の保持器21aは、第1実施形態の保持器21と同様に、内周面28の軸方向他方側に内周面28より大径の第1内周面39aが形成されており、第1内周面39aの軸方向他方側の端部は、中心軸nと同軸に形成された第2曲面42aによって第2側面25とつながっている。また、第1内周面39aの軸方向一方側の端部は径方向内方に延在する第1段面40aとつながっており、第1段面40aの径方向内方の端部は、中心軸nと同軸に形成された第1曲面41aによって内周面28とつながっている。第2曲面42aと第1曲面41aは、それぞれ軸方向断面では径方向内方に凸の曲線となっている。
【0038】
こうして、保持器21aの環状体23には、内周面28から径方向外方側に窪むとともに、第2側面25から軸方向一方側に窪む環状の凹部43aが形成されており、凹部43aは、第1内周面39aと第1段面40aで構成される凹部画定面で画定されている。
第1実施形態の保持器21と同様に、凹部画定面は、第2側面25よりも軸方向一方側にあるとともに内周面28よりも径方向外方側にある。また、第2曲面42aと第1曲面41aに接して中心軸nを中心とする円錐面S2(仮想円錐面)を仮定したときに、凹部画定面は常に円錐面S2より径方向外方に形成されており、円錐面S2を超えて径方向内方に形成されることがない。
【0039】
第2実施形態では、ゲート34aは、凹部画定面を構成する第1段面40aに設けられている。すなわち、ゲート34aがキャビティC(
図4参照)に開口する開口部Pは、第1段面40aに形成されており、円錐面S2より径方向外方に形成されている。
このため、
図7に一点鎖線Xで示すように、成形品Kの保持器形成部M1とランナー形成部M2とが、ゲート34aの開口部Pからわずかに離れた位置で切り離されたときに、ゲート痕37aが、第2側面25よりも軸方向一方側で、かつ、内周面28よりも径方向外方側に残存する。更に、ゲート痕37aは、円錐面S2より径方向の外側、かつ、軸方向の一方側にのみ位置しており、円錐面S2を超えて径方向内方に形成されない。
【0040】
従って、第2実施形態の保持器21aでは、第1段面40aのゲート痕37aが、第2側面25より軸方向他方側に突出しない。また、ゲート痕37aは、軸方向他方側に向けて延在しており径方向に延在しないので、内周面28より径方向内方に突出しない。
また、軸方向他方側に突出したゲート痕37aを切削等によって除去する場合であっても、ゲート痕37aを第2側面25から軸方向他方側に突出しない程度に削除すればよく、第1段面40aと面一に仕上げる必要がない。このため、ゲート痕37aを切り離す作業が容易になる。
【0041】
こうして、第2実施形態の保持器21aでは、ゲート痕37aが、内周面28より径方向内方に突出しないので、転がり軸受10aの回転中にゲート痕37aと内輪12のつば16bとが接触しない。また、ゲート痕37aが、第2側面25を越えて軸方向他方側に突出しないので、軸方向一方側の保持器21aのゲート痕37aが軸方向他方側の保持器21aと接触することがない。これにより、転がり軸受10aの発熱を抑制するとともに保持器21aの破損を防止することができる。
【0042】
図8は、第3実施形態の転がり軸受10bに組み込まれた保持器21bの軸方向断面における
図5と同様の要部拡大図である。
図8においても、図の右側を軸方向一方側といい、左側を軸方向他方側という。
第3実施形態の保持器21bは、内周面28と第2側面25とをつなぐ傾斜面73を有している。傾斜面73は、径方向外方に向かうにしたがって軸方向他方側に向けて傾斜している。傾斜面73の軸方向他方側の端部は、中心軸nと同軸に形成された第2曲面42bによって第2側面25とつながっている。また、傾斜面73の径方向内方の端部は、中心軸nと同軸に形成された第1曲面41bによって内周面28とつながっている。第2曲面42bと第1曲面41bは、それぞれ軸方向断面では径方向内方に凸の曲線となっている。
【0043】
こうして、保持器21bの環状体23には、凹部画定面としての傾斜面73で画定されて、内周面28から径方向外方側に窪むとともに、第2側面25から軸方向一方側に窪む環状の凹部43bが形成されている。したがって、凹部画定面は、第2側面25よりも軸方向一方側にあるとともに内周面28よりも径方向外方側にある。
第3実施形態の保持器21bでは、中心軸nを中心とし第2曲面42bと第1曲面41bに接する円錐面S3(仮想円錐面)を仮定したときに、凹部43bを画定する傾斜面73は、円錐面S3と一致しており、凹部画定面が円錐面S3を超えて径方向内方に形成されることがない。
【0044】
第3実施形態では、ゲート34bは、凹部画定面を構成する傾斜面73に設けられている。すなわち、ゲート34bがキャビティC(
図4参照)に開口する開口部Pは、傾斜面73に形成されている。
図8に一点鎖線Xで示すように、成形品Kの保持器形成部M1とランナー形成部M2とが、ゲート34bの開口部Pからわずかに離れた位置で切り離されたときに、ゲート痕37bが、内周面28から径方向外方側に離れた位置で、かつ、第2側面25から軸方向一方側に離れた位置に残存する。これにより、ゲート痕37bは第2側面25より軸方向他方側に突出しない。同時に、ゲート痕37bは内周面28より径方向内方に突出しない。
また、ゲート痕37bが第2側面25より軸方向他方側に突出した場合や、内周面28より径方向内方に突出した場合に、突出した部分を切削等によって除去する場合であっても、ゲート痕37bが、第2側面25から軸方向他方側に突出しない程度に削除するとともに、内周面28から径方向内方に突出しない程度に削除すればよい。傾斜面73と面一に仕上げる必要がないので、ゲート痕37bを切り離す作業が容易になる。
【0045】
こうして、第3実施形態の保持器21bでは、転がり軸受10bの回転中にゲート痕37bと内輪12のつば16bとが接触しない。また、ゲート痕37bが、第2側面25を越えて軸方向他方側に突出しないので、軸方向一方側の保持器21bのゲート痕37bが軸方向他方側の保持器21bと接触することがない。これにより、転がり軸受10bの発熱を抑制するとともに保持器21bの破損を防止することができる。
【0046】
以上説明したように、本発明によると、樹脂製保持器を射出成形によって製造するときに、ディスクゲートを用いた金型で成形した場合であっても、ゲート痕が保持器の表面から突出しない。このため、転がり軸受の回転中に、ゲート痕が内輪と接触するのを防止し、また、二列の樹脂製保持器が組込まれた転がり軸受では、一方の保持器のゲート痕が他方の保持器と接触するのを防止して、転がり軸受の発熱を抑制するとともに保持器の破損を防止することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
例えば、各実施形態の凹部画定面が、軸方向断面において中心軸nと平行な直線等で形成されているが、これらに限定されるものではなく、軸方向断面が曲線で形成されるものであってもよい。また、各実施形態では、転動体として円筒ころを使用した例について説明したが、これに限定されるものではなく、球面ころや円すいころ等、その他の形態にも適用できる。
また、第1実施形態と第2実施形態において、ゲート痕は、仮想円錐面より径方向の外側かつ、軸方向の一方側にのみ位置しているが、仮想円錐面より径方向の内側かつ、軸方向の他方側に突出しても、第2側面より軸方向他方側に突出せず、内周面28から径方向内方側に突出しないようにすればよい。
また、上記の実施形態では、ディスクゲートを用いて射出成形する場合を説明したが、周方向に1箇所または複数のゲートを有するピンゲートを用いて射出成形する保持器に適用することを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0048】
10、10a、10b :転がり軸受
11 :外輪
12 :内輪
14 :外側軌道面
15 :内側軌道面
16a、16b、16c :つば
21、21a、21b :保持器
23 :環状体
24 :第1側面
25 :第2側面
26 :案内面
27 :ポケット
28 :内周面
31 :上型
32 :下型
33 :スプルー
34、34a、34b :ゲート
35 :ランナー
37、37a、37b :ゲート痕
39、39a :第1内周面
40、40a :第1段面
41、41a、41b :第1曲面
42、42a、42b :第2曲面
43、43a、43b :凹部
73 :傾斜面
91 :保持器
C :キャビティ
K :成形品
P :開口部
S1、S2、S3 :円錐面