(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】異物対策装置及び送電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/60 20160101AFI20230816BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20230816BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230816BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20230816BHJP
B60M 7/00 20060101ALN20230816BHJP
B60L 5/00 20060101ALN20230816BHJP
B60L 53/124 20190101ALN20230816BHJP
【FI】
H02J50/60
H02J50/12
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
H01F38/14
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/124
(21)【出願番号】P 2019158568
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】大村 直輝
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-039369(JP,A)
【文献】特開2012-075200(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067575(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
B60L 1/00-13/00
B60L 15/00-58/40
H01F 38/14
B60M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電装置の送電部から受電装置の受電部への非接触給電における前記送電部の異物の影響を低減する異物対策装置であって、
前記送電部が前記送電部の表面に形成する給電磁場の方向に交差する方向の制御磁場を前記送電部の前記表面に印加する磁場印加部を備え
、
前記磁場印加部は、前記送電部の前記表面に印加する前記制御磁場の前記送電部の前記表面での位置及び方向のいずれかを変更可能である、異物対策装置。
【請求項2】
前記磁場印加部は、前記送電部が前記送電部の前記表面に形成する前記給電磁場の方向に直交する方向の前記制御磁場を前記送電部の前記表面に印加する、請求項1に記載の異物対策装置。
【請求項3】
前記送電部の前記表面のいずれかの位置の内部に磁心が配置されている前記送電部に対して、前記送電部の前記表面の内部に磁心が配置されていない位置に前記磁場印加部は配置されている、請求項1又は2に記載の異物対策装置。
【請求項4】
前記送電部の前記表面のいずれかの位置の内部に巻線が配置されている前記送電部に対して、前記送電部の前記表面の内部に巻線が配置されていない位置に前記磁場印加部は配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の異物対策装置。
【請求項5】
前記磁場印加部は、前記送電部が前記送電部の前記表面に前記給電磁場を形成するときに前記送電部の前記表面に前記制御磁場を印加し、前記送電部が前記送電部の前記表面に前記給電磁場を形成しないときに前記送電部の前記表面に前記制御磁場を印加しない、請求項1~
4のいずれか1項に記載の異物対策装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の異物対策装置と、前記送電部とを備えた送電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物対策装置及び送電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電装置の送電部から受電装置の受電部への非接触給電に関する技術が知られている。送電装置の送電部の表面に金属の異物が存在すると、非接触給電の電力伝送効率が低下することがある。そこで、例えば、特許文献1には、第1のコイルとの間で非接触で電力を送電する第2のコイルと、第1のコイルと第2のコイルとの間の異物を検出する異物検出手段と、第2のコイルから第1のコイルへ送電される送電電力を制御する電力制御手段とを備えた非接触給電装置が開示されている。特許文献1の非接触給電装置では、電力制御手段は、異物検出手段により異物を検出した場合には、送電電力を下げて、第2のコイルから前記第1のコイルへ電力を給電する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記技術では、異物検出手段により異物を検出した場合には、送電電力を下げて給電するので第1のコイルの受電電力が低下する。また、異物検出手段により実際には存在している異物を検出できなかった場合には、非接触給電の磁場が金属の異物に鎖交し、渦電流損失が発生し、非接触給電の電力伝送効率が低下するので、送電電力が一定であっても第1のコイルの受電電力は低下する。つまり、上記技術では、異物が存在する場合には受電電力が低下するため、例えば受電電力で蓄電池を充電する場合、蓄電池が満充電されるまでの時間が増加し、利便性が低下する。特に、磁性を有する透磁率の高い金属異物(例えば、鉄など)は、異物の鎖交磁束密度が高くなるため、上記損失が大きくなり、非磁性金属体に比べ給電への影響が大きくなる。
【0005】
そこで本発明は、異物の影響を低減することができる異物対策装置及び送電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、送電装置の送電部から受電装置の受電部への非接触給電における送電部の異物の影響を低減する異物対策装置であって、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場の方向に交差する方向の制御磁場を送電部の表面に印加する磁場印加部を備えた異物対策装置である。
【0007】
この構成によれば、送電装置の送電部から受電装置の受電部への非接触給電における送電部の異物の影響を低減する異物対策装置において、磁場印加部により、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場の方向に交差する方向の制御磁場が送電部の表面に印加される。このため、異物が磁性を有する場合、磁場印加部により印加される制御磁場による引力・斥力により磁性を有する異物の方向が制御され、送電部の表面に形成される給電磁場の方向と異物の長手方向とが互いに交差するようになり、送電部の表面に形成される給電磁場の方向と異物の長手方向とが平行となることによる非接触給電の電力伝送効率の低下が最大となることが抑制され、異物の影響を低減することができる。
【0008】
この場合、磁場印加部は、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場の方向に直交する方向の制御磁場を送電部の表面に印加してもよい。
【0009】
この構成によれば、磁場印加部により、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場の方向に直交する方向の制御磁場が送電部の表面に印加される。このため、異物が磁性を有する場合、磁場印加部により印加される制御磁場による引力・斥力により磁性を有する異物の方向が制御され、送電部の表面に形成される給電磁場の方向と異物の長手方向とが互いに直交するようになり、非接触給電の電力伝送効率の低下が最小となり、異物の影響をさらに低減することができる。
【0010】
また、送電部の表面のいずれかの位置の内部に磁心が配置されている送電部に対して、送電部の表面の内部に磁心が配置されていない位置に磁場印加部は配置されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、送電部の表面のいずれかの位置の内部に磁心が配置されている送電部に対して、送電部の表面の内部に磁心が配置されていない位置に磁場印加部は配置されている。このため、磁場印加部により印加される制御磁場が磁心に与える影響を低減することができる。
【0012】
また、送電部の表面のいずれかの位置の内部に巻線が配置されている送電部に対して、送電部の表面の内部に巻線が配置されていない位置に磁場印加部は配置されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、送電部の表面のいずれかの位置の内部に巻線が配置されている送電部に対して、送電部の表面の内部に巻線が配置されていない位置に磁場印加部は配置されている。このため、巻線から発生する給電磁場が磁場印加部に与える影響を低減することができる。
【0014】
また、磁場印加部は、送電部の表面に印加する制御磁場の送電部の表面での位置及び方向のいずれかを変更可能であってもよい。
【0015】
この構成によれば、磁場印加部は、送電部の表面に印加する制御磁場の送電部の表面での位置及び方向のいずれかを変更可能であるため、送電部の表面の様々な位置に存在する異物への対応が向上する。
【0016】
また、磁場印加部は、送電部が送電部の表面に給電磁場を形成するときに送電部の表面に制御磁場を印加し、送電部が送電部の表面に給電磁場を形成しないときに送電部の表面に制御磁場を印加しなくともよい。
【0017】
この構成によれば、磁場印加部は、送電部が送電部の表面に給電磁場を形成するときに送電部の表面に制御磁場を印加し、送電部が送電部の表面に給電磁場を形成しないときに送電部の表面に制御磁場を印加しないため、非接触給電が行われておらず、送電部が送電部の表面に給電磁場を形成しないときに、磁場印加部により印加される制御磁場により送電部の表面に異物が引き付けられることを低減することができる。
【0018】
一方、本発明の他側面は、上記本発明の一側面の異物対策装置と、送電部とを備えた送電装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面の異物対策装置及び本発明の他側面の送電装置によれば、異物の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る異物対策装置及び送電装置を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る異物対策装置及び送電部を示す斜視図である。
【
図3】(A)は第1実施形態に係る異物対策装置及び送電部を示す平面図であり、(B)は(A)のα線による縦断面図である。
【
図4】異物に鎖交する磁束密度を示す平面図である。
【
図5】(A)は異物が長さ13mmの鉄線である場合の異物の長手方向に対する渦電流損失比率を示すグラフであり、(B)は異物が屈曲された鉄線により構成されたクリップである場合の異物の長手方向に対する渦電流損失比率を示すグラフである。
【
図6】第1実施形態において、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場と、異物対策装置の磁場印加部が送電部の表面に形成する制御磁場とを示す平面図である。
【
図7】第2実施形態において、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場と、異物対策装置の磁場印加部が送電部の表面に形成する制御磁場とを示す平面図である。
【
図8】第3実施形態において、送電部が送電部の表面に形成する給電磁場と、異物対策装置の磁場印加部が送電部の表面に形成する制御磁場とを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示されるように、第1実施形態に係る送電装置10は、異物対策装置1Aと送電部15とを備える。送電装置10は、路面Sに設置された送電装置10の送電部15から、路面Sを走行する車両30の車体下面32に設置された受電装置20の受電部21に非接触給電により電力を供給する。送電装置10は、例えば駐車場の駐車スペースP等に設置されている。以下、異物対策装置1A及び送電部15について詳述する前に、送電装置10及び受電装置20の概略について説明する。
【0022】
車両30は、例えば、電気自動車である。送電装置10は、駐車場の駐車スペースP等に到着した電気自動車等の車両30に搭載された受電装置20に対し、磁界共鳴方式又は電磁誘導方式等のコイル間の磁気結合を利用して、電力を供給するように構成されている。なお、車両30は、電気自動車ではなく、プラグインハイブリッド車、水中航走体及びドローンなどの各種移動体であってもよい。また、車両30は、有人移動体ではなく、各種の無人移動体であってもよい。例えば、車両30は、有人車両ではなく、無人搬送車(AGV:Automated guided vehicle)でもよい。
【0023】
図1に示されるように、送電装置10は、異物対策装置1A、コンバータ12、インバータ13、送電制御部14及び送電部15を備える。送電装置10は、外部の電源11から電力を供給される。電源11は、車両30に送電すべき電力を生成するために必要となる電力を供給し、例えば商用交流電源のような単相交流電力を供給する。なお、この電源11は、単相交流電源に限られることはなく、三相交流電力を供給する電源であってもよい。
【0024】
コンバータ12は、電源11から供給される交流電力を整流して直流電力に変換するAC/DCコンバータである。コンバータ12は、PFC[Power Factor Correction]機能や昇降圧機能を有していてもよい。なお、電源11としては燃料電池や太陽電池など直流電源を利用することも可能であり、その場合には、コンバータ12を省略することができる。また、電源11が直流電源である場合は、コンバータ12の代わりにDC/DCコンバータを設けてもよい。インバータ13は、コンバータ12からの直流電力を電源11の交流電力よりも周波数が高い交流電力(高周波電力)に変換して送電部15に供給する。
【0025】
送電制御部14は、例えば、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等を含む電子制御ユニットである。送電制御部14は、送電装置10の送電部15から受電装置20の受電部21への電力供給を制御する。送電制御部14は、送電装置10の送電部15から受電装置20の受電部21へ送電される電力の大きさを変更するようにコンバータ12及びインバータ13の動作を制御する。
【0026】
送電部15は、駐車場の駐車スペースP等の路面Sに設置されたコイル装置である。受電装置20の受電部21は、車両30の車体下面32に設置されたコイル装置である。送電部15と受電部21とが近接させられることで、電磁結合回路が形成される。この電磁結合回路は、送電部15と受電部21とが電磁気的に結合して送電部15から受電部21への非接触給電により送電が行われる回路を意味する。なお、送電部15及び受電部21は、電磁誘導方式により非接触給電を行ってもよく、磁界共鳴方式で非接触給電を行ってもよい。また、送電部15及び受電部21は、アンテナ装置であってもよい。送電部15の詳細については後述する。
【0027】
なお、本実施形態の送電装置10は、送電部15の異物を検知する構成を備えていてもよい。また、本実施形態の送電装置10は、送電部15の異物を除去する構成を備えていてもよい。
【0028】
一方、車両30に搭載された受電装置20は、受電部21、整流器22を備える。受電装置20は、送電装置10の送電部15から電力を受け取り、車両30のバッテリ23等の負荷に電力を供給する装置である。受電部21は、車両30の車体下面32の4つの車輪31の間に取り付けられたコイル装置である。送電部15で発生した磁束が受電部21に鎖交することによって、受電部21は誘導電流を発生させる。これにより、受電部21は、非接触で送電部15からの電力を受け取る。整流器22は、受電部21が送電部15から受け取った交流電力を整流して直流電力に変換する。整流器22により変換された直流電力は、車両30のバッテリ23等の負荷に供給される。
【0029】
以下、異物対策装置1A及び送電部15について詳述する。本実施形態の異物対策装置1Aは、送電装置10の送電部15から受電装置20の受電部21への非接触給電における送電部15の異物の影響を低減する。異物は、送電部15と受電部21との間で給電電力の損失の原因となり得る磁性を有する金属である。異物は、例えば、鉄製の裁縫用の針や、ステープラ用つづり針及び屈曲された鉄線により構成されたクリップ等の金属の小片である。
【0030】
図2、
図3(A)及び
図3(B)に示されるように、異物対策装置1Aの各構成は、送電部15の表面16に敷かれたシート状格納部2に格納されている。また、送電部15は、表面16の内部に磁心17、巻線18A及びアルミニウム板19を有している。なお、
図2、
図3(A)及び
図3(B)では、説明の便宜のために、異物対策装置1Aのシート状格納部2及び送電部15の表面16が透明である状態で示される。
【0031】
送電部15の表面16は、路面Sと連続した滑らかな平面である。巻線18Aは、平面視で複数の同心円の形状を有する同心円型コイルである。磁心17は、軟磁性材料から形成されており、例えば、フェライトコアである。磁心17は、巻線18Aよりも表面16の内部の側に配置されている。磁心17は、平面視で中心から外側に向けて8方向に延在する放射線状の形状を有する。平面視で、磁心17と巻線18Aとの中心は略一致する。アルミニウム板19は、磁心17よりも表面16の内部の側に配置されている。
【0032】
異物対策装置1Aは、シート状格納部2の内部に複数の磁場印加部3Aを備える。シート状格納部2は、例えば、合成樹脂、合成ゴム等から形成された、例えば、厚さ5mm~30mm程度の柔軟性を有する板状体である。シート状格納部2の表裏面は滑らかな平面である。シート状格納部2は、シート状格納部2の上を車両30の車輪31が通過したときに、磁場印加部3Aが破損しない程度の強度を有する。異物対策装置1Aは、送電部15の表面16にシート状格納部2をその位置を合わせつつ敷くことにより容易に設置できる。また、異物対策装置1Aは、送電部15の表面16から容易に撤去できる。
【0033】
磁場印加部3Aは、磁性を有する異物の方向を制御する制御磁場として、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場の方向に交差する方向の静磁場を送電部15の表面16に印加する。より詳細には、複数の磁場印加部3Aは、制御磁場として、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場の方向に直交する方向の静磁場を制御磁場として送電部15の表面16に印加する。磁場印加部3Aには、例えば、フェライト磁石、ネオジム磁石、耐熱性のネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石及びアルニコ磁石等の永久磁石を適用することができ、本実施形態では、200℃までの実使用温度を有する耐熱性のネオジム磁石が適用される。また、例えば、磁場印加部3Aが磁石である場合は、給電磁場による消磁の可能性を低減させるため、給電磁場に対して、十分大きい保磁力(抗磁力)を有するものであってよい。
【0034】
磁場印加部3Aの静磁場の強さは、例えば、鉄製の裁縫用の針や、ステープラ用つづり針及び屈曲された鉄線により構成されたクリップ等の磁性を有する金属の異物の方向を磁場印加部3Aのネオジム磁石の静磁場の方向に揃えることが可能な程度の強さにできる。また、磁場印加部3Aの静磁場の強さは、例えば、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場の強さより大きくでき、また異物の保持力よりも大きい強さにできる。すなわち、磁場印加部3Aが磁石である場合は、例えば、磁石は送電部15の表面に形成される給電磁場に対し十分大きい残留磁束密度を有するものであってよい。
【0035】
磁場印加部3Aは、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場による影響が少ない位置に配置されている。送電部15の表面16のいずれかの位置の内部に巻線18Aが配置されている送電部15に対して、送電部15の表面16の内部に巻線18Aが配置されていない位置に磁場印加部3Aは配置されている。本実施形態では、平面視で複数の同心円の形状を有する巻線18Aに対し、複数の磁場印加部3Aは、平面視で巻線18Aの外周部を囲繞し、平面視で巻線18Aよりも径が大きい同心円をなすように配置されている。
【0036】
送電部15の表面16のいずれかの位置の内部に磁心17が配置されている送電部15に対して、送電部15の表面16の内部に磁心17が配置されていない位置に磁場印加部3Aは配置されている。本実施形態では、平面視で中心から外側に向けて8方向に延在する放射線状の形状を有する磁心17に対し、複数の磁場印加部3Aは、磁心17の互いに隣接する放射線の間に配置されている。
【0037】
平面視で円をなすように配置された複数の磁場印加部3Aは、それらのネオジム磁石のN極及びS極のそれぞれが当該円の接線方向に向くように配置されている。また、平面視で円をなすように配置された複数の磁場印加部3Aは、当該円の円周上で互いに隣接する磁場印加部3Aのネオジム磁石のそれぞれのN極とS極とが互いに対向するように配置されている。
【0038】
以下、本実施形態の異物対策装置1Aの作用について説明する。異物による給電電力の損失は、以下の式(1)(2)に示されるように、異物への鎖交磁束密度の大きさに依存する。なお、式(1)(2)において、Weは渦電流損失であり、Whはヒステリシス損失であり、Ke,Khは比例係数であり、fは周波数であり、Bmは鎖交磁束密度である。
We=Ke×f2×Bm2 …(1)
Wh=Kh×f×Bm1.6 …(2)
【0039】
以下、説明の簡略化のため、渦電流損失のみ記載するが、磁性を有する金属異物により生じる損失は、式(1)(2)に示されるように、渦電流損失及びヒステリシス損失のいずれも鎖交磁束密度Bmに依存する。
【0040】
また、磁気抵抗Rm、磁気回路長lm、磁束鎖交面積A、真空の透磁率μ0及び比透磁率μrの関係は、以下の式(3)で示される。また、磁束Φ、起磁力Fm及び磁気抵抗Rmの関係は、以下の式(4)で示される。
Rm=lm/μ0μrA …(3)
Φ=Fm/Rm …(4)
【0041】
図4に示されるように、簡易化のために二次元で考える。異物Fの磁気抵抗Rm、磁気回路長lm、磁束鎖交面積A、真空の透磁率μ
0及び比透磁率μ
rの関係は、上記の式(3)により算出される。外部磁場Hに対し、鎖交磁束密度Bmは、外部磁場Hの方向と異物Fの長手方向とのなす角度θに依存する。つまり、鎖交磁束密度Bmは、異物Fの長手方向に依存する。なお、異物Fの長手方向の長さが短手方向の長さより十分長く、比透磁率μ
rは1よりも十分に大きいと仮定する。鎖交磁束密度Bmは、以下の式(5)より示される。
Bm≒μ
0×μ
r×H×cosθ=B×cosθ …(5)
【0042】
式(1)及び式(5)により、異物Fによる渦電流損失Weは、以下の式(6)により示される。
図5(A)に異物Fが長さ13mmの鉄線である場合について示され、
図5(B)に異物Fが屈曲された鉄線により構成されたクリップである場合について示されているように、式(6)により示される計算値、すなわちcos
2θの値と有限要素法による実際の金属異物の形状・物性値等を考慮した解析値とは損失比率が互いに合致していることが判る。つまり、外部磁場Hの方向と金属の異物Fの長手方向とのなす角度θが0°のときに、異物への鎖交磁束密度が最大となるため、異物Fによる渦電流損失Weは最大となる。また、外部磁場Hの方向と金属の異物Fの長手方向とのなす角度θが90°のときに、異物への鎖交磁束密度が最小となるため、異物Fによる渦電流損失Weは最小となる。
We=Ke×f
2×B
2×cos
2θ …(6)
【0043】
図6に示されるように、本実施形態では、平面視で複数の同心円の形状を有する巻線18Aに破線矢印で示す方向の電流が流れると、送電部15の表面16には、当該同心円の外周から中心へと向かう方向への給電磁場Mが形成される。一方、平面視で巻線18Aの外周部を囲繞する円をなすように配置された複数の磁場印加部3Aは、それらのネオジム磁石のN極及びS極のそれぞれが当該円の接線方向に向き、当該円の円周上で互いに隣接する磁場印加部3Aのネオジム磁石のそれぞれのN極とS極とが互いに対向するように配置されている。そのため、複数の磁場印加部3Aは、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に直交する方向の制御磁場mを送電部15の表面16に印加する。
【0044】
例えば、平面上に置かれた磁性を有する異物Fに対し、制御磁場mに対する鎖交断面積Sa、異物の質量ma、重力加速度g、摩擦係数ηとした場合、鎖交断面積Saの磁束密度Baを一様と仮定すると、式(7)が成立している場合、磁気吸引力(磁気吸着力)が摩擦力を上回るため、異物を磁気引力方向へ移動させることができる。すなわち、磁場印加部3Aにより印加された制御磁場mによって、磁性を有する金属の異物Fは、制御磁場mの方向と異物Fの長手方向とが一致する方向に向けようとする力が加わるため、その長手方向が送電部15により形成される給電磁場Mの方向と直交するように向けられる。
Sa×Ba
2/(2×μ0)>ma×g×η …(7)
【0045】
送電部15により形成される給電磁場Mの方向と異物Fの長手方向とのなす角度θが90°となり、鎖交磁束密度が最小となるため、異物Fによる渦電流損失Weは最小となる。したがって、送電部15の表面16に存在する異物Fが検知されず、表面16から異物Fが除去されなくとも、異物Fの影響を最小限に留めることができる。
【0046】
本実施形態の異物対策装置1Aが使用される際には、例えば、送電装置10により非接触給電が行われる前に、送電部15の表面16にシート状格納部2をその位置を合わせつつ敷くことにより異物対策装置1Aが設置される。上記のように、異物対策装置1Aにより、非接触給電中の異物Fの影響が低減される。非接触給電が中断されているときに、異物対策装置1Aは送電部15の表面16から適宜撤去され、シート状格納部2の異物Fが洗浄等により除去される。これにより、異物対策装置1Aを繰り返して使用することができる。
【0047】
本実施形態によれば、送電装置10の送電部15から受電装置20の受電部21への非接触給電における送電部15の異物Fの影響を低減する異物対策装置1Aにおいて、磁場印加部3Aにより、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に交差する方向の制御磁場mが送電部15の表面16に印加される。このため、異物Fが磁性を有する場合、磁場印加部3Aにより印加される制御磁場mによる引力・斥力により磁性を有する異物Fの方向が制御され、送電部15の表面16に形成される給電磁場Mの方向と異物Fの長手方向とが互いに交差するようになり、送電部15の表面16に形成される給電磁場Mの方向と異物Fの長手方向とが平行となることによる非接触給電の電力伝送効率の低下が最大となることが抑制され、異物Fの影響を低減することができる。
【0048】
つまり、本実施形態によれば、異物Fの検知及び除去の可否によらず、異物Fの影響を低減することができる。また、異物Fの影響を低減することができるため、非接触給電を停止し、異物Fを除去する労力が低減され、利便性が向上する。
【0049】
また、本実施形態によれば、磁場印加部3Aにより、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に直交する方向の制御磁場mが送電部15の表面16に印加される。このため、異物Fが磁性を有する場合、磁場印加部3Aにより印加される制御磁場mによる引力・斥力により磁性を有する異物Fの方向が制御され、送電部15の表面16に形成される給電磁場Mの方向と異物Fの長手方向とが互いに直交するようになり、非接触給電の電力伝送効率の低下が最小となり、異物Fの影響をさらに低減することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、送電部15の表面16のいずれかの位置の内部に磁心17が配置されている送電部15に対して、送電部15の表面16の内部に磁心17が配置されていない位置に磁場印加部3Aは配置されている。このため、磁場印加部3Aにより印加される制御磁場mが磁心17に与える影響を低減することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、送電部15の表面16のいずれかの位置の内部に巻線18Aが配置されている送電部15に対して、送電部15の表面16の内部に巻線18Aが配置されていない位置に磁場印加部3Aは配置されている。このため、巻線18Aから発生する給電磁場Mが磁場印加部3Aに与える影響を低減することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、送電部15の表面16は路面Sと連続した滑らかな平面であり、シート状格納部2の表裏面は滑らかな平面である。そのため、本実施形態の異物対策装置1A及び送電装置10は、送電部15の表面16及びシート状格納部2の表裏面に傾斜面又は凹凸を有する場合に比べて耐荷重に優れ、異物Fの除去の容易さにも優れる。
【0053】
以下、本実施形態の第2実施形態について説明する。
図7に示されるように、本実施形態の異物対策装置1Bでは、送電部15の巻線18Bは、平面視で中心を共通にする複数の長方形の形状を有する矩形型コイルである。平面視で中心が一致する複数の長方形の形状を有する巻線18Bに対し、複数の磁場印加部3Bは、平面視で巻線18Bの外周部を囲繞し、平面視で巻線18Bと中心が一致する長方形の形状をなすように配置されている。なお、巻線18B及び磁場印加部3Bは、楕円形の形状を有していてもよい。また、巻線18Bは、ソレノイド型コイルであってもよい。以上の事項以外については、上記第1実施形態と同様である。
【0054】
本実施形態の異物対策装置1Bでは、送電部15の巻線18Bが矩形型コイル、楕円型コイル及びソレノイド形コイルであっても、異物Fの影響を低減することができる。
【0055】
以下、本実施形態の第3実施形態について説明する。
図8に示されるように、本実施形態の異物対策装置1Cでは、シート状格納部2の内部で移動可能な単数の磁場印加部3Cを備える。シート状格納部2は内部空間を有し、磁場印加部3Cはシート状格納部2の内部空間を移動自在であり、方向変更自在である。そのため、磁場印加部3Cは、送電部15の表面16に印加する制御磁場mの送電部15の表面16での位置及び方向を変更可能である。
【0056】
また、磁場印加部3Cは電磁石により制御磁場mを送電部15の表面16に印加する。磁場印加部3Cは、送電部15が送電部15の表面16に給電磁場Mを形成するときに送電部15の表面16に制御磁場mを印加し、送電部15が送電部15の表面16に給電磁場Mを形成しないときに送電部15の表面16に制御磁場mを印加しない。
【0057】
磁場印加部3Cは、例えば、電磁石を搭載し、シート状格納部2の内部空間を移動する小型無人移動体として構成することができる。磁場印加部3Cは、例えば、シート状格納部2の内部空間の各位置に規則的に移動する。磁場印加部3Cは、制御磁場mを印加する前に、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に交差する方向の制御磁場mを送電部15の表面16に印加するように方向を変更する。
【0058】
図8の例では、送電部15の巻線18Aの外周部に位置していた磁場印加部3Cは、送電部15の巻線18Aの中心付近に移動する。磁場印加部3Cは、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に交差する方向の制御磁場mを送電部15の表面16に印加するように方向を変更する。これにより、送電部15の給電磁場Mの方向と送電部15の巻線18Aの中心付近に存在する異物Fの長手方向とが互いに直交するようになり、異物Fの影響を低減することができる。以上の事項以外については、上記第1実施形態と同様である。
【0059】
本実施形態によれば、磁場印加部3Cは、送電部15の表面16に印加する制御磁場mの送電部15の表面16での位置及び方向を変更可能であるため、送電部15の表面16の様々な位置に存在する異物Fへの対応が向上する。また、本実施形態によれば、少ない数量の磁場印加部3Cにより、送電部15の表面16の様々な位置に存在する異物Fに対応することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、磁場印加部3Cは、送電部15が送電部15の表面16に給電磁場Mを形成するときに送電部15の表面16に制御磁場mを印加し、送電部15が送電部15の表面16に給電磁場Mを形成しないときに送電部15の表面16に制御磁場mを印加しないため、非接触給電が行われておらず、送電部15が送電部15の表面16に給電磁場Mを形成しないときに、磁場印加部3Cにより印加される制御磁場mにより送電部15の表面16に異物Fが引き付けられることを低減することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、磁場印加部3A,3B,3Cにより送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に直交する方向の制御磁場mが送電部15の表面16に印加される態様を中心に説明したが、例えば、磁場印加部3A,3B,3Cにより送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に対して45°以上の角度をなす方向の制御磁場mが送電部15の表面16に印加されれば、異物Fの影響を大きく低減する効果が得られる。
【0062】
また、上記実施形態では、磁場印加部3A,3B,3Cにより送電部15の表面16に平行な方向の制御磁場mが印加されたが、磁場印加部3A,3B,3Cにより送電部15の表面16に交差する方向の制御磁場mが印加されることによって、送電部15が送電部15の表面16に形成する給電磁場Mの方向に交差する方向の制御磁場mが送電部15の表面16に印加され、送電部15の給電磁場Mの方向と異物Fの長手方向とが平行となることが防がれてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、複数の磁場印加部3A,3Bが送電部15に対して固定されている態様を中心に説明したが、例えば、磁場印加部3A,3Bは、送電部15に対して固定された単数の電磁石から構成されていてもよい。また、磁場印加部3A,3B,3Cの寸法及び形状は適宜変更可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、異物対策装置1A,1B、Cは、送電部15の表面16にシート状格納部2をその位置を合わせつつ敷くことにより設置されたが、たとえば、異物対策装置1Aは、送電部15及びシート状格納部2が一体構造であってもよいし、分離可能な構造であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1A,1B,1C 異物対策装置
2 シート状格納部
3A,3B,3C 磁場印加部
10 送電装置
11 電源
12 コンバータ
13 インバータ
14 送電制御部
15 送電部
16 表面
17 磁心
18A,18B 巻線
19 アルミニウム板
20 受電装置
21 受電部
22 整流器
23 バッテリ
30 車両
31 車輪
32 車体下面
P 駐車スペース
S 路面
F 異物
H 外部磁場
Bm 鎖交磁束密度
M 給電磁場
m 制御磁場