(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】適応等化器、これを用いた光受信器、及び光伝送システム
(51)【国際特許分類】
H04B 3/10 20060101AFI20230816BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20230816BHJP
H04B 10/2507 20130101ALI20230816BHJP
H03H 21/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H04B3/10 C
H04B10/61
H04B10/2507
H03H21/00
(21)【出願番号】P 2019210775
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 久雄
(72)【発明者】
【氏名】小泉 伸和
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161367(JP,A)
【文献】特開2017-225078(JP,A)
【文献】特開2014-060708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/10
H04B 10/61
H04B 10/2507
H03H 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンボルレートの1倍より大きく、2倍より小さいサンプリングレートでフラクショナルサンプリングされたデータを一時的に保存するサンプルバッファと、
前記サンプリングレートをf、前記データに挿入されたトレーニングシーケンスに含まれる符号パターンのシンボル長をTとすると、(f×T)個の第1サンプルセットと、前記第1サンプルセットに引き続く次の(f×T)個の第2サンプルセットとの相関値に基づいて前記データの中の前記トレーニングシーケンスの位置を特定する同期部と、
特定された前記トレーニングシーケンスに基づいて、適応等化フィルタのタップに設定されるタップ係数の初期値を計算する係数演算部と、
を有し、前記シンボル長は、f×Tが整数になるように変更可能に設定されていることを特徴とする適応等化器。
【請求項2】
前記同期部は、前記サンプルバッファの選択位置を1サンプルずつずらしながら所定範囲のサンプルデータを読み出し、前記第1サンプルセットと前記第2サンプルセットの間の相関値が最大となるバッファ選択位置を前記トレーニングシーケンスの開始位置に決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の適応等化器。
【請求項3】
前記トレーニングシーケンスの各パターン対は、2つの同じ符号パターンを有し、異なるパターン対は異なる符号パターンを有することを特徴とする請求項1または2に記載の適応等化器。
【請求項4】
光伝送路から受信した光信号をアナログ電気信号に変換する光電気変換回路と、
前記アナログ電気信号を、前記サンプリングレートでフラクショナルサンプリングするアナログ-デジタル変換器と、
前記フラクショナルサンプリングされたデータに適応等化を施す請求項1~3のいずれか1項に記載の適応等化器と、
を有する光受信器。
【請求項5】
前記f×Tを整数にする前記サンプリングレートと前記シンボル長の組み合わせを記述した対応情報を保存するメモリ、
をさらに有し、
前記光受信器は、前記アナログ-デジタル変換器の前記サンプリングレートに応じたシンボル長のパターンが含まれる前記トレーニングシーケンスを受信することを特徴とする請求項4に記載の光受信器。
【請求項6】
前記光受信器は、前記アナログ-デジタル変換器の前記サンプリングレートに応じたシンボル長の値をネットワークから受信することを特徴とする請求項4に記載の光受信器。
【請求項7】
光送信器と光受信器を有する光伝送システムにおいて、
前記光送信器は、データ中にm個(mは自然数)のパターン対を含むトレーニングシーケンスが挿入された光信号を送信し、前記パターン対にはシンボル長Tの2つの同じ符号パターンが含まれ、
前記光受信器は、光伝送路から受け取る前記光信号を検波して、シンボルレートの1倍より大きく、2倍より小さいサンプリングレートfでデジタルサンプリングし、
前記サンプリングレートfと前記シンボル長Tの積(f×T)が整数になるように、前記シンボル長Tは変更可能に選択されていることを特徴とする光伝送システム。
【請求項8】
前記光送信器と前記光受信器に接続されるネットワーク管理装置、
を有し、
前記シンボル長Tは、前記
光受信器の前記サンプリングレートfに応じて、前記積(f×T)が整数になるように、前記ネットワーク管理装置によって設定されることを特徴とする請求項7に記載の光伝送システム。
【請求項9】
前記光受信器は、前記サンプリングレートfと前記シンボル長Tの組み合わせを記述した対応情報を有し、
前記サンプリングレートfに応じた前記シンボル長Tを選択し、選択した前記シンボル長Tを前記光送信器に通知することを特徴とする請求項7に記載の光伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応等化器、これを用いた光受信器、及び光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルコヒーレント光伝送技術では、光搬送波の位相にデータが重畳された受信光をアナログ/デジタル変換(以下、「A/D変換」と呼ぶ。)し、デジタル信号処理で波形歪みを補償して、受信信号から送信データを復元する。デジタル信号プロセッサ(以下、「DSP」と呼ぶ。)の適応等化部で伝送路の逆特性(タップ係数)を求め、伝送波形の歪を補償する。
【0003】
エイリアシングを回避して正しい波形を回復するために、通常はシンボルレートの2倍のオーバーサンプリングが行われている。この場合、等化器のタップ数が2倍に増え、処理量も増大する。近年の通信トラフィックの増大により、光ネットワークでの消費電力の軽減が望まれており、デジタル信号処理においても、消費電力と回路規模の削減が求められている。
【0004】
この要請に応じて、シンボルレートの1倍よりも大きく、2倍よりも小さい分数値でサンプリングを行うフラクショナルサンプリングが検討されている。フラクショナルサンプリングは2倍のオーバーサンプリングよりもサンプリング回数が少なく、タップ数を低減して等価回路を小型化し、消費電力を低減することができる。
【0005】
伝送路の特性は伝送路の設置条件で決まり、通信中も変動し続ける。適応等化器は、通信中の伝送路特性の変動に追従してタップ係数を更新し、入力されたデジタルデータに対して、伝送路変動の影響を補償する。通信中の適応的なタップ係数の更新とは別に、光受信器の立ち上げ時、再起動時などに、チャネル推定などに基づいてタップ係数の初期値を決定し、適応等化器の各タップに初期値を設定する。
【0006】
送信信号中に設けられたトレーニングシーケンスを用いて、最適値により近い等化器初期タップ係数を決定する手法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知のタップ係数初期値の決定方法では、ナイキスト(Nyquist)サンプリング定理に基づくサンプリングレートの離散信号を用いてトレーニングシーケンスの波形を記述する。
【0009】
発明者らは、フラクショナルサンプリングを導入する場合、トレーニングシーケンスからタップ係数初期値を決定する従来の手法は、正しく機能しない場合があることを見いだした。
【0010】
本発明は、フラクショナルサンプリングを行う場合に、トレーニングシーケンスを用いて適切なタップ係数初期値を設定することのできる適応等化技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの態様では、適応等化器は、
シンボルレートの1倍より大きく、2倍より小さいサンプリングレートでフラクショナルサンプリングされたデータを一時的に保存するサンプルバッファと、
前記サンプリングレートをf、前記データに挿入されたトレーニングシーケンスに含まれる符号パターンのシンボル長をTとすると、(f×T)個の第1サンプルセットと、前記第1サンプルセットに引き続く次の(f×T)個の第2サンプルセットとの相関値に基づいて前記データの中の前記トレーニングシーケンスの位置を特定する同期部と、
特定された前記トレーニングシーケンスに基づいて、適応等化フィルタのタップに設定されるタップ係数の初期値を計算する係数演算部、
を有し、前記シンボル長は、f×Tが整数になるように変更可能に設定されている。
【発明の効果】
【0012】
フラクショナルサンプリングを行う場合に、適応等化器に適切なタップ係数初期値を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】トレーニングシーケンスの2倍のオーバーサンプリングを示す図である。
【
図2】トレーニングシーケンスのフラクショナルサンプリングで生じる問題を説明する図である。
【
図4】シンボルパターンすなわちシンボル長の変更が不要な例を示す図である。
【
図5】シンボルパターンすなわちシンボル長の変更が不要な例を示す図である。
【
図6】サンプリングレートfとシンボル長Tの対応関係を記述した対応情報の一例である。
【
図8】トレーニングシーケンスが挿入されたデータの送受信の模式図である。
【
図9】シンボル長設計方法のフローチャートである。
【
図11】トレーニングシーケンスを用いた相関演算を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、受信信号に含まれるトレーニングシーケンスと、そのサンプリングを示す。ここでは、一般的な2倍のオーバーサンプリングを示している。送信側で、あらかじめデータとデータの間にトレーニングシーケンスTSが挿入されている。データ部分はペイロードとも呼ばれる。システム、あるいは光送受信器の立ち上げ時には、ペイロードにテストデータが配置されてもよい。トレーニングシーケンスTSの前後はゼロでパディングされていてもよい。
【0015】
トレーニングシーケンスTSは、m個(mは自然数)のパターン対を含む。ひとつのパターン対は2つの同じ符号パターン(以下、単に「パターン」とする)を含み、異なるパターン対は、別々のパターンを有する。たとえば、パターン1とパターン1'は同じパターンを有し、パターンmとパターンm'は同じパターンを有するが、パターン対同士は、互いに異なるパターンを有する。隣接するパターン対は、サイクリックプレフィクス(CP)で区切られている。
【0016】
順次デジタルサンプリングされ、バッファリングされるサンプル値のうち、どの部分がトレーニングシーケンスTSのシンボルに相当するのか、光受信器は知らない。そこで、各パターン対に同じ2つのパターンが含まれることを利用して、連続する2つのパターンの間の相関が最大になるときのバッファ選択位置を、トレーニングシーケンスTSの開始位置と決める。トレーニングシーケンスTSの開始位置がわかると、トレーニングシーケンスTSの長さは既知なので、データ中のトレーニングシーケンスの位置がわかり、チャネル推定することができる。トレーニングシーケンスTSの開始位置を特定する処理を、「TS同期」と呼ぶ。
【0017】
トレーニングシーケンスTSに含まれる各パターンのシンボル長をT、サンプリングレートをfとすると、(f×T)個のサンプルごとに、次の(f×T)個のサンプルとの相関値が計算される。
図1の例では、T=4,f=2である。サンプリングレートが2倍なので、サンプル間隔は0.5シンボルとなり、各パターンで2×4個、すなわち8個のサンプルが得られる。各サンプル点のサンプル値S(n)は、実数部aと虚数部biで表される複素信号の振幅または強度である。
【0018】
図1のように、f×Tの値が整数のときは、連続する2つのパターンの間でサンプル位置とサンプル点の数が同じであり、パターン同士の相関度から、TS同期をとることができる。
【0019】
図2は、フラクショナルサンプリングの例を示す。各パターンのシンボル長Tは、
図1と同じくT=4、サンプリングレートfは4/3である。この場合、シンボルレートの1.33…倍の頻度でデジタルサンプリングが行われ、0.75シンボル間隔でサンプルデータが得られる。f×Tの値は16/3となり、整数値にならない。
【0020】
連続するパターン1とパターン1'で、サンプル点、及び/または、サンプル数が異なる。パターン1では、6個のサンプル点が得られるが、パターン1'では、パターン1と異なる時間位置で、5個のサンプル点が得られる。パターン1とパターン1'の間で相関値を正しく計算することができず、TS同期によるバッファ選択位置の探索に誤りが生じる。
【0021】
図3は、
図2で生じる問題を解決するための実施形態の手法または構成を示す。実施形態では、f×Tの値が整数にならない場合に、トレーニングシーケンスTSを構成する各パターンのシンボル長Tを変更して、f×Tを整数にする。
【0022】
一例として、サンプリングレートfが4/3の場合、トレーニングシーケンスTSに含まれる各パターンのシンボル長を、T=4からT=6に変更する。これにより、f×T=24/3=8になって、各パターンで8つのサンプル点が同じ位置で確保される。T=3に変更することによっても整数値は得られるが、1つのパターンのサンプル点の数が不十分になり、連続する2つのパターン間の相関演算の精度が低下することがあり得る。
【0023】
逆に、Tの値が大きすぎると、データとトレーニングシーケンスTSを合わせたフレーム長が固定の場合に、データ伝送量が低下するおそれがある。
【0024】
Tの値は、データ伝送量への影響を最小にできる範囲で、相関演算の精度が維持されるように選択されることが望ましい。
【0025】
図4と
図5は、シンボルパターンすなわちシンボル長Tの変更が不要な例を示す。
図4で、サンプリングレートfは3/2であり、シンボルレートの1.5倍のフラクショナルサンプリングが行われる。トレーニングシーケンスTSに含まれる各パターンのシンボル長Tは4シンボル(T=4)である。f×T=4×3/2=6となり、隣接するパターン1とパターン1'の双方で、同じサンプル位置で6個のサンプルデータが得られる。この場合、シンボル長Tを変更する必要はない。
【0026】
図5で、サンプリングレートfは5/4であり、シンボルレートの1.25倍のフラクショナルサンプリングが行われる。トレーニングシーケンスTSに含まれる各パターンのシンボル長Tは4シンボル(T=4)である。f×T=4×5/4=5となり、隣接するパターン1とパターン1'の双方で、同じサンプル位置で5個のサンプルデータが得られる。この場合も、シンボル長Tを変更する必要はない。
【0027】
図6は、サンプリングレートfとシンボル長Tの対応関係を記述した対応情報5の一例である。対応情報5は、ネットワーク側で保持して、光受信器のADCの設定に応じて適切なシンボル長Tを選択して光受信器と光送信器に通知してもよい。あるいは、光受信器と光送信器の少なくとも一方が対応情報5を保持し、光受信器のADCの設定に応じて、適切なシンボル長を選択してもよい。
【0028】
f×Tを整数にするシンボル値Tは、分数値のサンプリングレートfの分母のn倍(nは自然数)である。
【0029】
サンプリングレートfが3/2の場合、シンボル長Tは、2、4、6、…である。
【0030】
サンプリングレートfが4/3の場合、シンボル長Tは、3、6、9、…である。
【0031】
サンプリングレートfが5/4の場合、シンボル長Tは、4、8、12、…である。以下、同様に、サンプリングレートfが6/5(1.2倍のフラクショナルサンプリング)のときは、シンボル長Tは、5、10、15、…である。
【0032】
上述したように、シンボル長Tが大きすぎると、トレーニングシーケンス全体の長さが増大して、データレートが低下するおそれがあるので、データレートに影響しない範囲、または許容範囲内でTの値を選択するのが望ましい。
【0033】
図7は、実施形態の光伝送システム1の模式図である。光伝送システム1は、ネットワーク管理装置2と、光送信器10と、光受信器20を含む。光送信器10と光受信器20は、光伝送路7により相互に接続され、かつ、監視ネットワークでネットワーク管理装置2に接続されている。
【0034】
図7では、便宜上、光送信器10から光受信器20へ、トレーニングシーケンスTSが挿入された光信号が送信される例が描かれているが、一般的に、光通信機器は送信機能と受信機能の双方を有し、光トランシーバとして構成される。
【0035】
光送信器10は、DSP11と、光源(図中、「LD」と表記されている)12と、デジタル-アナログ変換器14(以下、「DAC14」と称する)と、電気光変換回路(図中、「E/O」と表記されている)13を有す。DSP11は、TS付加部111を有し、ユーザデータに既知のトレーニングシーケンスTSを挿入した(
図1参照)デジタルデータを出力する。DAC14は、DSP11から出力されるデジタルデータをアナログ電気信号に変換する。電気光変換回路13は、送信フロントエンド回路であり、DSP11からDAC14を介して入力されるデータ信号に基づいて、光源12からの光を変調し、変調光信号を光伝送路7に出力する。
【0036】
光受信器20は、光伝送路7から受信した光信号を電気信号に変換する光電気変換回路(図中、「O/E」と表記)21と、光電気変換回路21から出力されるアナログ電気信号をデジタル信号に変換するADC22と、DSP23と、メモリ24を有する。
【0037】
光電気変換回路21は、一例として、局発光を用いて、位相・偏波ダイバーシティを利用したホモダイン検波を行う。局発光と同相で検波されたX偏波の成分(X-I成分)と、90°の位相差で検波された成分(X-Q成分)と、局発光と同相で検波されたY偏波の成分(Y-I成分)と、90°の位相差で検波された成分(Y-Q成分)が、光電気変換回路21から出力される。
【0038】
ADC22は、シンボルレートの1倍よりも大きく、2倍よりも小さいサンプリングレートfで、アナログ電気信号をデジタルサンプリングする。デジタルサンプリングされたデータは、順次DSP23に入力され、適応等化器30で適応等化処理を受ける。
【0039】
適応等化器30は、通信中に光伝送路7の偏波変動に追従して、分離した各偏波に伝送路の逆特性であるタップ係数を乗算し、偏波分散による歪みを補償する。
【0040】
通信中の適応等化に先立って、適応等化器30の各フィルタのタップ係数に初期値が設定される。適応等化器30に適切な係数初期値を設定するために、デジタルサンプリングされた受信データ中のトレーニングシーケンスTSの開始位置を正しく特定して、トレーニングシーケンスTSから伝送路の特性を推定する。実施形態では、フラクショナルサンプリングが採用される場合でも、f×Tが整数になるようにTSパターンのシンボル長Tが調整されているので、適切にTS同期をとることができる。
【0041】
なお、
図2と
図3で示したように、フラクショナルサンプリングでf×Tを整数値にするために、シンボル長TをT=4からT=6に変更する場合、各パターンのサンプル点の数は、6サンプルから8サンプルに増える。適応等化器30の各フィルタのタップ数は、サンプル数によって決まるが、シンボル長Tを1.5倍に増やしても、従来の2倍のオーバーサンプリングのときのサンプル数と同じであり、従来のフィルタ回路を使用することが可能である。
【0042】
ネットワーク管理装置2は、サンプリングレートfと、トレーニングシーケンスTSに含まれるパターンのシンボル長Tとの関係を記述した対応情報5を有していてもよい。ネットワーク管理装置2は、光送信器10と光受信器20の少なくとも一方が新設、または再起動される場合や、光受信器20のADC22のサンプリングレートfが変更される場合などに、フラクショナルサンプリングレートに応じたシンボル長Tを、光送信器10と光受信器20に設定する。シンボル長Tは、f×Tが整数になるように、対応情報5から選択されてもよい。
【0043】
ネットワーク管理装置2とともに、あるいはネットワーク管理装置2に替えて、光受信器20が対応情報25を有していてもよい。光受信器20に組み込まれたADC22のサンプリングレートに応じて、DSP23に所望のシンボル長Tを設定可能に設計されてもよい。また、顧客の要望に合わせて、ADC22のサンプリングレートとシンボル長Tを変更できるように設計されていてもよい。
【0044】
この場合は、光受信器20から光送信器10に、監視ネットワークを介してシンボル長Tが通知されてもよい。光送信器10は、あらかじめ複数種類のシンボル長Tの符号パターンを有していてもい。
【0045】
図8は、トレーニングシーケンスTSを用いた適応等化器30のタップ係数初期値の決定を説明する図である。送信側で、あらかじめデータとデータの間に既知のトレーニングシーケンスTSが挿入される。挿入されるトレーニングシーケンスTSはすべて同じであり、各トレーニングシーケンスにm個のパターン対が含まれている。データとトレーニングシーケンスTSを合わせた長さ、すなわちフレーム長Lは一定である。各トレーニングシーケンスに含まれるパターン対の各パターンのシンボル長Tは、あらかじめ受信側のフラクショナルなサンプリングレートがfのときに、f×Tが整数となるように設定されている。
【0046】
受信側では、時間的に先に送信された光信号から順に受信する。データとトレーニングシーケンスTSを含む光信号をアナログ電気信号に変換し、アナログ電気信号をデジタルサンプリングする。サンプリングレートfが分数値であっても、シンボル長Tがあらかじめ調整されているので、適切にTS同期をとって、データ中のトレーニングシーケンスTSの位置が特定される。
【0047】
受信側で特定されたトレーニングシーケンスTSは、光伝送路7の変動の影響を受けている。適応等化器30は、光伝送路7から受信したトレーニングシーケンスTSと、送信側で挿入された既知のトレーニングシーケンスとに基づいて光伝送路7の特性を推定し、フィルタのタップ係数の初期値を設定する。たとえば二乗誤差を最小にするMMSE法等によりチャネル推定を行って、光伝送路7の伝達関数の逆特性を表わす係数初期値を算出する。
【0048】
図9は、シンボル長設計方法のフローチャートである。この制御フローは、ネットワーク管理装置2で行われてもよいし、光受信器20のDSP23によって行われてもよい。
【0049】
まず、フラクショナルサンプリングのサンプリングレートfと、トレーニングシーケンスTSに含まれる各パターンのシンボル長Tの積が整数であるか否かが判断される(S11)。f×Tが整数であれば、シンボル長Tを変更する必要がないので、処理は終了する。
【0050】
f×Tが整数でない場合、f×Tが整数となるようにシンボル長Tを調整する。
図2のように、サンプリングレートfが4/3で、1.33…倍のフラクショナルサンプリングが行われる場合、各パターンで一定程度のサンプル点を確保するために、一例として、T=4からT=6に変更される。この場合、ひとつのパターンのシンボル長Tが、もともとのシンボル長の1.5倍になる。
【0051】
トレーニングシーケンスTSにm個のパターン対が含まれるとすると、各パターンで2シンボルずつ増えると、トレーニングシーケンスTSのトータルの長さは、2m×(f×T)になる。各バターンのシンボル長が1.5倍になると、トレーニングシーケンスのトータルの長さも1.5倍になる。
【0052】
トレーニングシーケンスTSとデータブロックで構成される1つのフレームのフレーム長Lが固定だとすると(
図8参照)、シンボル長Tの変更によって、データ長が短くなり、Tの値によっては、送信レートが落ちることが考えられる。そこで、シンボル長Tの変更により、トレーニングシーケンスTSのトータルの長さが許容範囲を超える場合は、トレーニングシーケンスTSに含まれるパターン対の数を減らす。
【0053】
ステップS13で、変更後のTの値で、2m×(f×T)が閾値Thよりも大きいか否かを判断し、閾値Thを超える場合は、パターン対の数mをひとつ減らして(S14)、処理を終了する。パターン対の数mの値をひとつ減らしても、各パターンで十分な数のサンプル点が得られるので、TS同期のための自己相関とその総和を精度良く計算できる。結果として、フラクショナルサンプリングを採用することで、DSP23の処理量と消費電力を低減することができる。
【0054】
図10は、適応等化器30の模式図である。適応等化器30は、AEQ(Adaptive Equalization:適応等化)フィルタ31と、係数初期値生成部32を有する。DSP23に入力されてXチャネルとYチャネルに分離された信号は、通信中はAEQフィルタ31に入力されて、適応等化処理を受ける。通信中の光伝送路7の変動に追従するために、AEQフィルタ31の各フィルタのタップ係数は、伝送路特性に応じて更新される。
【0055】
一方、システムの立ち上げ時、再起動時などに、データ通信に先立って、係数初期値生成部32は、入力されるトレーニングシーケンスTSに基づいて、タップ係数の初期値を決定する。
【0056】
係数初期値生成部32は、サンプルバッファ33と、TS同期部34と、係数演算部35を有する。サンプルバッファ33は、フラクショナルサンプリングされた各チャネルのサンプルデータを順次、蓄積する。
【0057】
TS同期部34は、サンプルバッファ33内のある位置から、TS同期処理が可能なサンプル数のサンプルデータを読み出す。このときの読み出し位置は、必ずしもトレーニングシーケンスTSの開始位置とは限らない。そのため、1サンプルずつずらしながらバッファ選択領域を変えて、連続する2つのパターンの間の相関が最も高くなるときの読み出し位置を、トレーニングシーケンスの開始位置として特定する。
【0058】
図11は、TS同期のための相関値の計算を説明する図である。厳密には、トレーニングシーケンスTSに含まれる各パターン対だけではなく、パターン対を区切るサイクリングプレフィクスCPもデジタルサンプリングされるが、説明を簡単にするために、サイクリングプレフィクスCPがない状態に基づいて説明する。
【0059】
TS同期部34は、サンプルバッファ33の任意の位置から読み出したデータのうち、(f×T)個のサンプルセットごとに、次の(f×T)個のサンプルセットとの自己相関値を計算する。サンプリングレートfが1よりも大きく、2よりも小さい分数値であっても、(f×T)が整数になるようにあらかじめTの値が調整されている。前半の(f×T)個のデータと、引き続く(f×T)個のデータで、同じサンプル位置、同じ数のサンプル点が得られ、自己相関値の計算が可能になる。
【0060】
一例として、4つのパターン対に相当するサンプルデータとして、4×(2×f×T)個の連続するサンプルデータをサンプルバッファ33の任意の位置から読み出す。
【0061】
各サンプルセットにおける自己相関値は、式(1)で計算される。
【0062】
【数1】
ここで、SバーはサンプルSの複素共役である。nは、(f×T)個のサンプルセットにおけるn番目のデータであり、0から(f×T-1)までの整数である。
【0063】
(f×T)個のサンプルセットごとに、式(1)に基づいて、連続する次の(f×T)個のサンプルセットとの自己相関値を計算し、得られる自己相関値の総和を求める。総和は、すべてのサンプルセットで自己相関値を計算した後に足し合わせてもよいし、サンプルセットごとに計算される自己相関値を、順次加算してもよい。
【0064】
パターン対の区切りで(f×T)個のサンプルデータが選択されると、そのサンプルセットの自己相関値は最大になる。さらに、バッファ選択位置が、トレーニングシーケンスTSの先頭位置と一致するときに、自己相関値の総和は最大になる。
【0065】
相関演算結果の例Aでは、サンプルバッファ33の選択開始位置がトレーニングシーケンスTSの格納されているバッファ位置よりも前方にあり、3つのパターン対の自己相関値が計算されている。
【0066】
例Bでは、バッファ選択位置が、例AよりもトレーニングシーケンスTSの開始位置に近づいているが、異なるパターン同士の自己相関演算が行われている。
【0067】
例Cでは、4つのサンプルセットのすべてで、対を成すパターン同士の自己相関が得られている。
【0068】
例D、E、Fでは、バッファ選択位置が、トレーニングシーケンスTSの途中から始まり、得られる自己相関結果の数が少なくなる。例Dと例Fでは、異なるパターン間で自己相関が計算されている。
【0069】
自己相関値の総和で求まる相関演算結果では、例Cで最大ピークが得られ、このときのバッファ選択開始位置が、トレーニングシーケンスの開始位置と判断される。例Aと例Eでは、対を成すパターン同士の自己相関が得られているが、自己相関値の数が少ないので総和のピークが例Cよりも小さい。例B、D、Fは、異なるパターン同士の自己相関値が計算されているので、総和は最小である。
【0070】
フラクショナルサンプリングが行われる場合でも、f×Tが整数になるようにあらかじめシンボル長Tが調整されているので、式(1)を用いて自己相関値を正しく計算することができる。
【0071】
サンプルバッファ33中のトレーニングシーケンスTSの開始位置がわかると、トレーニングシーケンスTSの長さは既知なので、データ中のトレーニングシーケンスTSの位置がわかる。また、データブロックの長さ、またはトレーニングシーケンスとデータブロックを含むフレームの長さは既知なので、ひとつのトレーニングシーケンスTSの位置が分かると、2番目以降のトレーニングシーケンスTSの位置もわかる。
【0072】
係数演算部35は、特定されたトレーニングシーケンスTSと、既知のトレーニングシーケンスとに基づいて伝送路の特性を推定し、AEQフィルタ31のタップ係数の初期値を設定する。たとえば二乗誤差を最小にするMMSE法等によりチャネル推定を行って、伝送路の伝達関数の逆特性を表わす係数初期値を算出する。
【0073】
この方法により、フラクショナルサンプリングが行われる場合でも、相関演算に基づいてトレーニングシーケンスTSの挿入位置を正しく特定して、適応等化器30に適切なタップ係数初期値を設定することができる。その結果、適応等化器30の回路規模と消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 光伝送システム
2 ネットワーク管理装置
5、25 対応情報
7 光伝送路
10 光送信器
111 TS付加部
20 光受信器
22 ADC
23 DSP
30 適応等化器
31 AEQフィルタ
32 係数初期値生成部
33 サンプルバッファ
34 TS同期部
35 係数演算部