(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】接着方法
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20230816BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20230816BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J5/00
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2019217246
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018226562
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 達雄
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 正和
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-298780(JP,A)
【文献】特開平08-259903(JP,A)
【文献】特開2010-116530(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02930219(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性基を有する熱可塑性樹脂を含む接着主剤と、前記架橋性基に由来する架橋の形成を促進する触媒とを用いて2つの被着材を接着する接着方法であって、
前記接着主剤からなる主剤層を形成する主剤層形成工程と、
前記触媒を、前記主剤層の表面に接触させ、浸透させる触媒接触工程と、を備え
、
前記接着主剤の溶解度パラメーターをSP
1
とし、前記触媒の溶解度パラメーターをSP
2
とした場合に、|SP
1
-SP
2
|≦5を満たすことを特徴とする接着方法
(但し、複数の紙葉と背表紙とを貼り合わせる製本方法は除く)。
【請求項2】
一方の被着材の被着面に前記主剤層を形成する主剤層形成工程と、
前記触媒を、前記主剤層に塗布する触媒塗布工程と、
触媒付き主剤層と他方の被着材の被着面とが当接されるように、前記一方の被着材と前記他方の被着材とを積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
一方の被着材の被着面に、前記触媒を塗布する触媒塗布工程と、
前記触媒が塗布された塗布面に前記主剤層を形成する主剤層形成工程と、
触媒付き主剤層と他方の被着材の被着面とが当接されるように、前記一方の被着材と前記他方の被着材とを積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える請求項1に記載の接着方法。
【請求項4】
一方の被着材の被着面に前記主剤層を形成する主剤層形成工程と、
他方の被着材の被着面に、前記触媒を塗布する触媒塗布工程と、
前記主剤層と前記他方の被着材の触媒塗布面とが当接されるように、前記一方の被着材と前記他方の被着材とを積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える請求項1に記載の接着方法。
【請求項5】
前記接着主剤からなる主剤膜を形成する主剤膜形成工程と、
前記触媒を、前記主剤膜の少なくとも一方の面に塗布する触媒塗布工程と、
前記2つの被着材の間に、触媒付き主剤膜が配置されるように積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える請求項1に記載の接着方法。
【請求項6】
前記接着主剤からなる主剤膜を形成する主剤膜形成工程と、
前記触媒を、前記2つの被着材のうちの少なくとも一方の被着材の被着面に塗布する触媒塗布工程と、
少なくとも一方が触媒付きである前記2つの被着材の間に、前記主剤膜が配置されるように積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える請求項1に記載の接着方法。
【請求項7】
前記触媒が分子量500以下の化合物である請求項1乃至
6のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項8】
前記触媒がアミン系化合物である請求項1乃至
7のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項9】
前記アミン系化合物がbis-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン及びN,N-ジメチルドデシルアミンのうちの少なくとも1種である請求項
8に記載の接着方法。
【請求項10】
前記主剤層の厚さが10~500μmである請求項1乃至
9のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性基を有する熱可塑性樹脂を含む接着主剤を用いて2つの被着材を接着する接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の被着材を接合させるために種々の接着剤が用いられている。また、被着材の材質、接合体の用途等により、ホットメルト接着剤(例えば、特許文献1等参照。)、水性接着剤、溶剤系接着剤等が選択され、所要の接着強度により、接着剤の主剤となる合成樹脂等が選択されている。更に、接着剤は、被着材への塗布方法、被着材を接合するときの温度、圧力、及びポットライフ、オープンタイム等によっても、適宜選択され、用いられている。
【0003】
また、上述の各種の接着剤のうち、ホットメルト接着剤は略全量が固形分であり、輸送効率が極めて高い。一方、水性接着剤、溶剤系接着剤では、固形分が高々50質量%程度のものが多く、輸送効率が低い。更に、溶剤系接着剤では、被着材に塗布した後の乾燥工程等において、有機溶剤が蒸散し、環境面で好ましくないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホットメルト接着剤は、輸送効率が高く、有機溶剤による環境面での問題も全くなく、このような観点で好ましい接着剤である。また、ホットメルト接着剤には、反応型と非反応型とがあり、反応型では、反応硬化型の主剤が硬化することにより接着剤として機能する。そのため、ポットライフを長くすると、硬化に長時間必要となり、ポットライフと養生時間とが背反する傾向がある。
【0006】
一方、非反応型では、溶融した熱可塑性樹脂等が固化することにより接着剤として機能する。更に、非反応型では、溶融した接着剤が被着材に塗布されるが、溶融した接着剤は、溶融した熱可塑性樹脂であることが多く、溶融粘度が極めて高い。そのため、押出成形機等により溶融した樹脂を被着材に塗布する等、塗布方法が限られている。また、耐熱性の高い接合体とするためには、融点の高い熱可塑性樹脂を用いる必要があるが、この場合、一方の被着材に接着剤を塗布した後、可能な限り速やかに他方の被着材を接合させなければならない。即ち、オープンタイムが短くなり、接着剤の耐熱性とオープンタイムとが背反する傾向がある。
【0007】
本発明は上述の従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、接着主剤を含む主剤層又は主剤膜等に触媒を接触させ、浸透させる反応型ホットメルト接着剤を使用し、所期の接着強度が発現されるまでの養生時間を短縮することができる接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.架橋性基を有する熱可塑性樹脂を含む接着主剤と、前記架橋性基に由来する架橋の形成を促進する触媒とを用いて2つの被着材を接着する接着方法であって、
前記接着主剤からなる主剤層を形成する主剤層形成工程と、
前記触媒を、前記主剤層の表面に接触させ、浸透させる触媒接触工程と、を備えることを特徴とする接着方法。
2.一方の被着材の被着面に前記主剤層を形成する主剤層形成工程と、
前記触媒を、前記主剤層に塗布する触媒塗布工程と、
触媒付き主剤層と他方の被着材の被着面とが当接されるように、前記一方の被着材と前記他方の被着材とを積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える前記1.に記載の接着方法。
3.一方の被着材の被着面に、前記触媒を塗布する触媒塗布工程と、
前記触媒が塗布された塗布面に前記主剤層を形成する主剤層形成工程と、
触媒付き主剤層と他方の被着材の被着面とが当接されるように、前記一方の被着材と前記他方の被着材とを積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える前記1.に記載の接着方法。
4.一方の被着材の被着面に前記主剤層を形成する主剤層形成工程と、
他方の被着材の被着面に、前記触媒を塗布する触媒塗布工程と、
前記主剤層と前記他方の被着材の触媒塗布面とが当接されるように、前記一方の被着材と前記他方の被着材とを積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える前記1.に記載の接着方法。
5.前記接着主剤からなる主剤膜を形成する主剤膜形成工程と、
前記触媒を、前記主剤膜の少なくとも一方の面に塗布する触媒塗布工程と、
前記2つの被着材の間に、触媒付き主剤膜が配置されるように積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える前記1.に記載の接着方法。
6.前記接着主剤からなる主剤膜を形成する主剤膜形成工程と、
前記触媒を、前記2つの被着材のうちの少なくとも一方の被着材の被着面に塗布する触媒塗布工程と、
少なくとも一方が触媒付きである前記2つの被着材の間に、前記主剤膜が配置されるように積層する積層工程と、
得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する加熱加圧工程と、を備える前記1.に記載の接着方法。
7.前記接着主剤の溶解度パラメーターをSP1とし、前記触媒の溶解度パラメーターをSP2とした場合に、|SP1-SP2|≦5を満たす前記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
8.前記触媒が分子量500以下の化合物である前記1.乃至7.のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
9.前記触媒がアミン系化合物である前記1.乃至8.のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
10.前記アミン系化合物がbis-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン及びN,N-ジメチルドデシルアミンのうちの少なくとも1種である前記9.に記載の接着方法。
11.前記主剤層の厚さが10~500μmである前記1.乃至10.のうちのいずれか1項に記載の接着方法。
尚、溶解度パラメーター(SP値)の単位は(cal/cm3)1/2である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の接着方法によれば、架橋性基を有する熱可塑性樹脂を含む主剤層又は主剤膜と触媒とが接触すると、主剤層又は主剤膜に接着性が発現するため、2つの被着材を接着させることができる。
【0010】
また、接着主剤の溶解度パラメーターをSP1とし、触媒の溶解度パラメーターをSP2とした場合に、|SP1-SP2|≦5を満たす場合は、接着主剤を含む主剤層又は主剤膜に、触媒がより容易に浸透する。
更に、触媒が分子量500以下の化合物である場合は、接着主剤を含む主剤層又は主剤膜に、触媒が均等に浸透、拡散され、より容易に接着層を形成することができる。
また、触媒がアミン系化合物である場合は、分子量が小さい化合物を容易に選択することができ、接着主剤を含む主剤層又は主剤膜に容易に浸透させることができる触媒の選択肢が広い。
更に、アミン系化合物が前記の各種の化合物のうちの少なくとも1種である場合は、特に、分子量が小さく、接着主剤を含む主剤層又は主剤膜に、触媒として容易に浸透させることができる。
また、主剤層又は主剤膜の厚さが10~500μmである場合は、触媒を接触させたときに、これを浸透、拡散させることがより容易であり、十分な接着強度を有する接合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものである。本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に、本発明の構造的な詳細を示すことを意図するものではなく、以下の説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
[1]接着方法
本発明の接着方法は、架橋性基を有する熱可塑性樹脂を含む接着主剤からなる主剤層を形成する主剤層形成工程と、架橋基に由来する架橋の形成を促進する触媒を、主剤層の表面に接触させ、浸透させる触媒接触工程と、を備える。
【0013】
また、より具体的な接着方法として、下記の形態(1)~(5)の接着方法が挙げられる。
形態(1);一方の被着材の表面に主剤層を形成する工程と、主剤層に触媒を塗布する工程と、主剤層と他方の被着材とを面接触させる工程と、得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する工程と、を備える。
形態(2);一方の被着材に触媒を塗布する工程と、塗布面に主剤層を形成する工程と、主剤層の表面に他方の被着材を面接触させる工程と、得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する工程と、を備える。
形態(3);一方の被着材の表面に主剤層を形成する工程と、他方の被着材に触媒を塗布する工程と、2つの被着材を主剤層と触媒塗布面とで面接触させる工程と、得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する工程と、を備える。
形態(4);接着主剤からなる主剤膜を形成する工程と、主剤膜に触媒を塗布する工程と、2つの被着材の間に主剤膜を配置する工程と、得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する工程と、を備える。
形態(5);接着主剤からなる主剤膜を形成する工程と、被着材に触媒を塗布する工程と、2つの被着材の間に主剤膜を配置する工程と、得られた積層体を、加熱し、層厚方向へ加圧する工程と、を備える。
【0014】
上述のように、形態(1)~(3)では、主剤層が被着材面、又は触媒が塗布された被着材面に形成される。一方、形態(4)、(5)では、主剤層となる主剤膜が形成され、この主剤膜が2つの被着材の間に配置されるように積層される。また、形態(2)及び形態(3)では、触媒の全塗布量等を勘案しつつ、主剤層に更に触媒を塗布してもよい。更に、形態(4)では、触媒は、全塗布量等を勘案しつつ、主剤膜の一面のみに塗布してもよく、両面に塗布してもよい。また、形態(5)では、触媒は、全塗布量等を勘案しつつ、2つの被着材のうちの一方の被着材のみに塗布してもよく、一方及び他方の被着材に塗布してもよい。
【0015】
被着材の被着面、又は被着材の触媒が塗布された被着面に、主剤層を形成するために接着主剤を塗布する方法は特に限定されず、ロールコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、カーテンフローコーター等を用いる塗布方法が挙げられる。また、主剤膜は、押出成形機等を用いて接着主剤を含むシート状物を、ポリテトラフルオロエチレン等の接着性に乏しいフィルム面に押出成形した後、固化させ、次いで、主剤膜とフィルムとを剥離する等の方法により形成することができる。
【0016】
更に、主剤層又は主剤膜の表面、及び被着材の被着面に、触媒を塗布する方法も特に限定されず、スキャット法、エアースプレー等のスプレー法等を用いることができ、刷毛塗りであってもよい。
【0017】
形態(1)~(5)の接着方法では、主剤層又は主剤膜が形成され、その後、主剤層、主剤膜又は被着材と、触媒とが接触し、次いで、積層体が形成され、その後、積層体が加熱、加圧されて接合体が製造される。このような工程において、接着主剤は温度低下等による硬化に加え、触媒との接触によって架橋反応が促進されて硬化が更に進む。そのため、主剤層又は主剤膜が形成された後、2つの被着材間に介装させて、加熱、加圧し、接合させるまでの時間、即ち、オープンタイムには制限がある。
【0018】
オープンタイムが短時間であると、主剤層又は主剤膜の形成、被着材等の積層、積層体の加熱、加圧の全てを所定の箇所で実施しなければならず、例えば、主剤層を形成した被着材、又は形成した主剤膜を、他の箇所に移送し、その後、積層、加熱、加圧するというようなことはできない。このような理由等により、オープンタイムは少なくとも2時間以上、特に4時間程度であることが好ましい。
【0019】
更に、アプリケーター内の接着主剤を、被着材の被着面、又は被着材の触媒が塗布された被着面に塗布し、主剤層又は主剤膜を形成するまでの時間、即ち、ポットライフにも制限があり、オープンタイムとともにポットライフを考慮した時間制限もある。
【0020】
また、積層体が加熱、加圧された後、所期の剥離強度等の接着強度が発現されるまでの時間、即ち、養生時間は特に限定されないが、産業面での実用的な観点では、短時間であるほど好ましい。この養生時間は、通常、主剤層及び主剤層となる主剤膜が厚ければ長時間を要し、薄ければ短時間でよい。例えば、主剤層及び主剤膜の厚さが10~500μm、特に70~200μm、更に70~150μm程度である場合、養生時間は240時間以下、特に150時間以下、更に120時間以下程度であることが好ましい。
【0021】
[2]接着主剤
接着主剤は、架橋性基を有する熱可塑性樹脂を含む。架橋性基としてはアルコキシシリル基、オキサゾリン基、酸無水物基、カルボジイミド基等が挙げられる。これらのうち、結合力の小さいアルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルメトキシエトキシシリル基等が挙げられる。これらのうち、硬化速度等の観点でも、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等が好ましい。
【0022】
また、熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル樹脂等を骨格とすることが好ましい。ポリオレフィンの場合、単独重合体及び共重合体のいずれでもよく、その骨格となるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のオレフィンモノマーが挙げられる。架橋性基を有するポリオレフィンは、好ましくは、これらのオレフィンモノマーの重合体にアルコキシシラン等の架橋性基が結合されたものである。
【0023】
尚、オレフィン単独重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが多用され、共重合体としては、エチレンと、1-ブテン、プロピレン、1-へキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等との共重合体が挙げられる。更に、共重合体としてはエチレンとプロピレンとの共重合体が用いられることが多く、ランダム共重合体とブロック共重合体とがあるが、耐衝撃性に優れるという観点からブロック共重合体が好ましい。これらのポリオレフィンは1種のみ用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
架橋性基を有する熱可塑性樹脂は、好ましくは、アルコキシシリル基を有するポリオレフィンである。この場合、接着主剤における含有量は、特に限定されず、接着主剤を100質量%とした場合に、好ましくは10質量%以上(100質量%であってもよい)、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。
【0025】
[3]触媒
架橋性基に由来する架橋の形成を促進する触媒としては、架橋性基及び熱可塑性樹脂の各々の種類によって、適宜選定して用いることができる。例えば、架橋性基がアルコキシシリル基であり、熱可塑性樹脂がポリオレフィンである場合、アルコキシシリル基に由来するシロキサン架橋の形成を促進する触媒としては、例えば、アミン系化合物及び金属触媒が挙げられ、アミン系化合物としては、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、環状アミン化合物、アルコールアミン化合物、エーテルアミン化合物、及びこれらの化合物における構造の一部がポリイソシアネートと反応するように、ヒドロキシル化又はアミノ化されてなる反応型アミン系化合物等を用いることができる。
【0026】
アミン系化合物の具体例としては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、N-メチルメタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルプロパノールアミン、N,N-ジメチルメタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジプロピルエタノールアミン、N,N-ジメチルブタノールアミン、N,N-ジエチルブタノールアミン、N,N-ジプロピルブタノールアミン、N-(アミノメチル)メタノールアミン、N-(アミノメチル)エタノールアミン、N-(アミノメチル)プロパノールアミン、N-(アミノエチル)メタノールアミン、N-(アミノエチル)エタノールアミン、N-(アミノエチル)プロパノールアミン等が挙げられる。
【0027】
また、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン、N,N-ジポリオキシエチレンステアリルアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチル-N’-(2-ジメチルアミノ)-エチルピペラジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)-モルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール等が挙げられる。これらのアミン系化合物からなる触媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
更に、アミン系化合物としては、例示した各種の化合物を用い得るが、アミン系化合物としては、3級アミンが好ましく、3級アミンの窒素原子に結合する置換基はメチル基が好ましく、ポリアミンが好ましい。このようなアミン系化合物としては、例えば、bis-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル(SP値;8.1、分子量;160.0)、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン(SP値;8.0、分子量;172.3)、1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジン(SP値;8.9、分子量;171.3)、N,N-ジメチルドデシルアミン(SP値;8.0、分子量;213.4)、N,N’,N"-トリス(3-ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-s-トリアジン(SP値;8.9、分子量;342.6)等が挙げられる。
【0029】
金属触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト、チタン等の金属のカルボン酸塩等の有機金属化合物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、触媒の塗布量は、ポリオレフィンの種類、アルコキシシリル基の種類又はその結合量、触媒の種類、及び所期の剥離強度等の接着強度等を勘案し、設定することができる。触媒の塗布量は、通常、ポリオレフィンと触媒との合計を100質量%とした場合に、好ましくは0.1~5.0質量%、特に好ましくは0.5~2.0質量%である。触媒の塗布量が0.1質量%未満であると、シロキサン架橋が十分に形成されず、所期の剥離強度等の接着強度が発現されないことがある。尚、所要量を超えて塗布しても意味がない。
【0031】
触媒は、接着主剤を含む主剤層、主剤となる主剤膜、又は被着材の被着面に塗布されるが、いずれの場合であっても、触媒が主剤層又は主剤膜に接触した後、速やかに、且つ均等に浸透し、拡散することが好ましい。このように触媒を主剤層又は主剤膜に速やかに、且つ均等に浸透させ、拡散させるためには、接着主剤の溶解度パラメーターSP値と、触媒のSP値との差の絶対値が小さいことが好ましい。
【0032】
SP値の差の絶対値は、接着主剤の溶解度パラメーターをSP1とし、触媒の溶解度パラメーターをSP2とした場合に、好ましくは|SP1-SP2|≦5、より好ましくは|SP1-SP2|≦4、更に好ましくは|SP1-SP2|≦3、特に好ましくは|SP1-SP2|≦2である。
尚、SP値は、Fedors法(Polymer Engineering and Science,Feburuary,1974,Vol.14、No.2 P.147~154)に記載の方法で算出される値である。
【0033】
更に、触媒の分子量が小さいほど拡散が容易になるため、触媒としての機能が低下しない範囲で、触媒の分子量は小さいことが好ましい。触媒の分子量は、触媒の種類にもよるが、好ましくは500以下、より好ましくは320以下、更に好ましくは270以下、特に好ましくは230以下である。更に、触媒の分子量は、好ましくは35以上、より好ましくは55以上、更に好ましくは80以上、特に好ましくは100以上である。このような範囲の分子量を有する触媒であれば、接着主剤を含む主剤層又は主剤膜に、触媒が均等に浸透し、拡散され易く、より容易に均質な接着層を形成することができる。但し、沸点が低く、接着主剤を含む主剤層等に塗布した後、速やかに蒸散してしまうような触媒は、通常、揮発を抑制する使用環境(例えば、加圧環境)において用いることが好ましい。
【0034】
上述のように、触媒としては、接着主剤の溶解度パラメーターとの差が小さい溶解度パラメーターを有し、且つ分子量が小さい触媒が好ましい。触媒の溶解度パラメーター(SP2)は、接着主剤の種類にもよるが、通常、5~14、好ましくは5~12、より好ましくは6~11、更に好ましくは6~10.5、特に好ましくは7~9.5である。このような溶解度パラメーターを有する触媒であれば、容易に、多用される架橋性基を有するポリオレフィンの溶解度パラメーターとの差が小さく、優れた性能の触媒を選択することができる。
【0035】
尚、主剤層及び主剤層となる主剤膜の厚さは、被着材の種類、得られる接合体の用途等によって適宜設定することができ、例えば、20~500μm、特に50~300μm、更に70~200μmとすることができる。更に、主剤層及び主剤層となる主剤膜の厚さは、オープンタイム、及び所期の剥離強度等の接着強度を発現させるために要する時間、即ち、養生時間を勘案して設定する必要もある。
【0036】
[4]被着材
2つの被着材は特に限定されず、各種の被着材を用いることができる。被着材としては、例えば、ファブリック、天然皮革、合成皮革、及び熱可塑性樹脂シート等を用いることができる。布地、織物、編物等のファブリックに用いられる繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等の合成樹脂繊維、及びこれらの繊維を用いた複合化繊維、混綿等が挙げられる。
【0037】
更に、熱可塑性樹脂シートの形成に用いる熱可塑性樹脂は特に限定されず、押出成形、射出成形等によりシート状に成形することができる樹脂が好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂等が挙げられる。
【0038】
[5]接合体の用途
本発明の接着方法により形成される接合体は、車両関連分野及び建築関連分野等の広範な製品分野において用いることができる。車両関連分野においては、車両の内装材、外装材及び構造材等として好適である。例えば、ドアトリム、ピラーガーニッシュ、シートバックボード、ルーフトリム、インストルメントパネル、コンソールボックス、ダッシュボード及びデッキトリム等として用いられる。また、鉄道車両、船舶及び飛行機等の各種移動手段及び輸送手段等においても同様に利用することができる。
【0039】
建築関連分野においては、各種建築物の内装材、外装材及び構造材等として好適である。例えば、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材等として用いられる。
【実施例】
【0040】
試験例(触媒の接着主剤を含む主剤層への拡散、浸透性の評価)
接着主剤として、SP値が8.0のアルコキシシリル基を有するポリオレフィンを使用し、厚さ600μmの主剤膜を形成し、16時間経過後、触媒として、(1)SP値8.0、分子量172.3のN,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、(2)SP値8.9、分子量171.3の1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジン、及び(3)SP値8.9、分子量631.6のジブチルジラウリレートスズを、それぞれ35g/m2の塗布量となるように塗布した。
【0041】
塗布してから72時間養生させた後、イメージング赤外分光光度計により、触媒が浸透し、拡散して、接着主剤が硬化した厚さを評価した。その結果、触媒(1)では主剤膜の表面から略500μmまでの厚さ、触媒(2)では主剤膜の表面から略500μmまでの厚さ、触媒(3)では主剤膜の表面から略200μmまでの厚さまで硬化していた。このように、製品(接合体)での主剤層の厚さを100μmとした場合、いずれの触媒も十分な性能を有することが分かる。尚、触媒を塗布しないときは、72時間の養生では、全く硬化しなかったが、1ヶ月間静置すれば、湿気硬化反応の作用によって全厚さに亘って硬化した。
【0042】
実施例1
2つの被着材として、厚さ20mmのポリプロピレンシートと、厚さ25mmのポリオレフィン系エラストマーシートとを用いた。これらのうち、ポリオレフィン系エラストマーシートの被着面に、ロールコーターにより、SP値が8.0であり、アルコキシシリル基を有する変性ポリオレフィン樹脂を含む接着剤(H.B.Fuller社製、商品名「Swiftlock2003」)を、温度150℃、塗布量100g/m2の条件で塗着させ、厚さ100μmの主剤層を形成した。そして、30分経過後、主剤層の表面に触媒として上記試験例における触媒(1)を0.1g/m2の塗布量となるように、エアースプレーにより平面方向に均等になるように塗布した。また、触媒を塗布してから30分後に、80℃に加熱したポリプロピレンシートと、100℃に加熱した主剤層が形成されたポリオレフィン系エラストマーシートとを積層し、0.1MPaの圧力で15秒間圧締し、接合シートを得た。次いで、100時間養生させた後、JIS K 6854-2(剥離強さ 100℃下)に準拠し、200mm/分の引張速度で180°剥離強度を測定した。その結果、8.4N/25mmと十分な強度であった。
【0043】
実施例2及び比較例1
触媒(1)に代えて、上記試験例における触媒(2)を用いた他は、実施例1と同様にして、主剤層の表面に触媒(2)を塗布し、同一の条件で2つの被着材を積層、圧締し、養生させ、実施例2の接合シートを得た。そして、剥離強度を測定した。その結果、7.9N/25mmと十分な強度であった。一方、触媒を塗布しなかった以外は実施例1と同様にして、2つの被着材を積層、圧締し、養生させ、比較例1の接合シートを得た。そして、剥離強度を測定したところ、5.4N/25mmであり、劣っていることが分かった。
【0044】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態を挙げて説明したが、本発明の記述において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施形態を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の接着方法は、種々の技術分野において利用することができる。具体的には、自動車及び鉄道車両等の車両用内装材、外装材、航空機、船舶、建築物等の内装材、外装材等の各種産業において用いられる接合体が関わる技術分野において好適に利用することができる。