(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 65/00 20060101AFI20230816BHJP
H01J 61/16 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01J65/00 B
H01J61/16 Z
(21)【出願番号】P 2020006878
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-114197(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157211(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 65/00
H01J 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの面に光取り出し面が形成されたランプハウスと、
前記ランプハウス内において前記光取り出し面に対して第一方向に離間した位置に収容され、主たる発光波長が190nm以上、225nm以下に属する第一波長帯に属する紫外線を発するエキシマランプと、
前記エキシマランプの発光管に電圧を印加するための一対の電極と、
前記光取り出し面に配置され、前記第一波長帯の紫外線を実質的に透過する一方、波長240nm以上、300nm以下の紫外線を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記ランプハウス内において、少なくとも一部分が前記第一方向に関して前記光学フィルタよりも前記エキシマランプ側に位置するように配置され、入射された光を拡散反射させる光拡散体とを備え、
前記一対の電極は、それぞれの一部分が前記エキシマランプの発光管の管壁に接触するように、前記発光管の管軸方向に離間して配置された、一対の電極ブロックで構成され、
前記光拡散体は、少なくとも1つの前記電極ブロックの、前記光学フィルタに対向する領域の表面に形成されていることを特徴とする
、紫外線照射装置。
【請求項2】
前記光拡散体は、前記電極ブロックの表面に形成された凹凸領域で構成されていることを特徴とする、請求項
1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
少なくとも1つの面に光取り出し面が形成されたランプハウスと、
前記ランプハウス内において前記光取り出し面に対して第一方向に離間した位置に収容され、主たる発光波長が190nm以上、225nm以下に属する第一波長帯に属する紫外線を発するエキシマランプと、
前記エキシマランプの発光管に電圧を印加するための一対の電極と、
前記光取り出し面に配置され、前記第一波長帯の紫外線を実質的に透過する一方、波長240nm以上、300nm以下の紫外線を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記ランプハウス内において、少なくとも一部分が前記第一方向に関して前記光学フィルタよりも前記エキシマランプ側に位置するように配置され、入射された光を拡散反射させる光拡散体とを備え、
前記ランプハウス内の、前記第一方向に関して前記光取り出し面とは反対側であって、前記一対の電極に挟まれた位置に配置された、前記光拡散体としての第一光拡散板を備えることを特徴とす
る、紫外線照射装置。
【請求項4】
少なくとも1つの面に光取り出し面が形成されたランプハウスと、
前記ランプハウス内において前記光取り出し面に対して第一方向に離間した位置に収容され、主たる発光波長が190nm以上、225nm以下に属する第一波長帯に属する紫外線を発するエキシマランプと、
前記エキシマランプの発光管に電圧を印加するための一対の電極と、
前記光取り出し面に配置され、前記第一波長帯の紫外線を実質的に透過する一方、波長240nm以上、300nm以下の紫外線を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記ランプハウス内において、少なくとも一部分が前記第一方向に関して前記光学フィルタよりも前記エキシマランプ側に位置するように配置され、入射された光を拡散反射させる光拡散体とを備え、
前記ランプハウス内において、前記第一方向から見たときに前記光学フィルタを挟む又は取り囲むように配置された、前記光拡散体としての第二光拡散板を備えることを特徴とす
る、紫外線照射装置。
【請求項5】
前記エキシマランプは、KrCl又はKrBrを含む発光ガスが封入されていることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DNAは、波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことが知られている。また、低圧水銀ランプは、波長254nm付近に高い発光スペクトルを示す。このため、従来、低圧水銀ランプからの紫外線を照射して殺菌を行う技術が広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、波長254nm近傍の光は、人体に照射されると悪影響を及ぼすおそれがある。下記特許文献2には、医療現場において波長207nm以上、220nm以下の紫外線を用いることで、人体へのリスクを回避しながら殺菌処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-048968号公報
【文献】特許第6025756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献2は、波長207nm以上、220nm以下の紫外線が医療現場における殺菌処理に利用可能であることを言及するのみであり、非医療現場において一般消費者や他業種の従業員が汎用的に殺菌処理を行うことについては想定されていない。例えば、自宅の居間、トイレ、台所、浴室、会議室、ホテルの客室などの空間殺菌の用途に、上記波長帯の紫外線を利用することを想定した場合、この紫外線を発する光源が一般消費者や一般企業の従業員が目にする場所に設置される可能性が高い。従って、このような紫外線光源としては、人体への影響が充分に抑制された光源であることが要求される。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、人体に対して及ぼす影響の程度が抑制された、紫外線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る紫外線照射装置は、
少なくとも1つの面に光取り出し面が形成されたランプハウスと、
前記ランプハウス内において前記光取り出し面に対して第一方向に離間した位置に収容され、主たる発光波長が190nm以上、225nm以下に属する第一波長帯に属する紫外線を発するエキシマランプと、
前記エキシマランプの発光管に電圧を印加するための電極と、
前記光取り出し面に配置され、前記第一波長帯の紫外線を実質的に透過する一方、波長240nm以上、300nm以下の紫外線を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記ランプハウス内において、前記第一方向に関して前記光学フィルタよりも前記エキシマランプ側に配置され、入射された光を拡散反射させる光拡散体とを備えることを特徴とする。
【0008】
本明細書において「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。例えばKrCl、KrBr、ArFを含む発光ガスが封入されているエキシマランプなどのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ光強度を示す光源においては、通常は、相対強度が最も高い波長(主たるピーク波長)をもって、主たる発光波長として構わない。
【0009】
本明細書において、光学フィルタが「紫外線を実質的に透過する」とは、光学フィルタを透過した紫外線の強度が、光学フィルタに入射された紫外線の強度に対して60%以上であることを意味する。また、本明細書において、「紫外線を実質的に透過しない」とは、光学フィルタを透過した紫外線の強度が、光学フィルタに入射された紫外線の強度に対して20%未満であることを意味する。
【0010】
なお、光学フィルタは、波長240nm以上300nm以下の紫外線を実質的に反射するものとしても構わない。ここで、本明細書において、「紫外線を実質的に反射する」とは、光学フィルタを反射した紫外線の強度が、光学フィルタに入射された紫外線の強度に対して80%以上であることを意味する。
【0011】
実際には、光学フィルタに対して入射される紫外線の入射角に応じて、光学フィルタにおける紫外線の透過率や反射率が変化する。ここで、エキシマランプから出射される紫外線は、一定の発散角を有して進行するものの、進行する全ての光線のうち光出射面に対して0°近傍の角度で進行する光線の強度が最も強く、発散角が0°から離れるに連れて強度が低下する。このため、入射角が20°以内で光学フィルタに入射された紫外線の強度に対して60%以上の透過率を示す光学フィルタは、前記紫外線を実質的に透過するものとして取り扱って構わない。同様に、入射角が20°以内で光学フィルタに入射された紫外線の強度に対して20%未満の透過率を示す光学フィルタは、前記紫外線を実質的に透過しないものとして取り扱って構わない。同様に、入射角が20°以内で光学フィルタに入射された紫外線の強度に対して90%以上の反射率を示す光学フィルタは、前記紫外線を実質的に反射するものとして取り扱って構わない。
【0012】
主たる発光波長が第一波長帯に属する紫外線を発するエキシマランプにおいても、極めて小さい強度ではあるが、人体に影響を及ぼすおそれのある波長帯(波長240nm以上、300nm以下)の紫外線が出射され得る。
図1は、発光ガスにKrClを含んでなるエキシマランプ(主たるピーク波長が222nm近傍)の発光スペクトルの一例を示す図面である。
【0013】
図1によれば、ごくわずかながら240nm以上の波長帯においても、光出力が確認される。なお、発光ガスとしてKrClを含むエキシマランプに限らず、発光ガスとしてKrBrを含むエキシマランプ(主たるピーク波長が207nm)や、発光ガスとしてArFを含むエキシマランプ(主たるピーク波長が193nm)など、主たる発光波長が第一波長帯に属する紫外線を発する他のエキシマランプにおいても、同様に波長240nm以上、300nm以下の紫外線が出射され得る。
【0014】
前記のように、本発明に係る紫外線照射装置は、第一波長帯の紫外線を実質的に透過し、波長240nm以上、300nm以下の紫外線を実質的に反射する光学フィルタが、光取り出し面側に配置されている。このため、エキシマランプから出射された紫外線に含まれる、波長240nm以上、300nm以下の成分については、光学フィルタにおいて実質的に反射されるため、紫外線照射装置の外部に取り出される量は低下する。つまり、かかる光学フィルタを設けることで、(そもそも光出力の小さい波長帯の成分ではあるが)更に外部に取り出される光量が削減されるため、人体に対する影響が更に抑制される。
【0015】
ところで、上述したように、光学フィルタに対して入射される紫外線の入射角に応じて、光学フィルタにおける紫外線の透過率や反射率は変化する。紫外線照射装置から取り出されることが想定されている第一波長帯の紫外線においても、光学フィルタに対する入射角が極めて大きくなると、透過率が低下し反射率が増加する。このため、エキシマランプから出射された第一波長帯の紫外線のうち、光学フィルタに対して比較的大きな入射角(例えば30°以上)で入射された紫外線については、その一部が光学フィルタで反射されてエキシマランプ側に戻される。この結果、紫外線照射装置の外部には取り出されず、光学フィルタを設けない場合に比べて、光取り出し効率が一定程度低下してしまう。
【0016】
これに対し、本発明に係る紫外線照射装置は、ランプハウス内において、第一方向に関して光学フィルタよりもエキシマランプ側に配置された、入射された光を拡散反射させる光拡散体を備える。このため、エキシマランプから出射され、光学フィルタに対して比較的大きな入射角で入射された第一波長帯の紫外線が、光学フィルタで反射しても、少なくとも一部の紫外線は光拡散体に入射されることで、この光拡散体において拡散反射される。この拡散光の少なくとも一部は、比較的小さな入射角で光学フィルタに入射されるため、そのまま光学フィルタを透過して光取り出し面からランプハウス外へと取り出される。
【0017】
つまり、上記構成によれば、光拡散体を備えない場合と比べて光学フィルタを透過する紫外線の割合が上昇し、紫外線照射装置から取り出される第一波長帯の紫外線の出力が増加する。
【0018】
なお、「光学フィルタが光取り出し面に配置される」とは、光学フィルタが光取り出し面に対して完全に一体化されて配置されている場合の他、光学フィルタが光取り出し面に対して第一方向に微小な距離(例えば数mm~十数mm)だけ離間した位置に配置されている場合を含む。
【0019】
光拡散体の設置場所は、種々の態様が可能である。
【0020】
例えば、前記一対の電極は、それぞれの一部分が前記エキシマランプの発光管の管壁に接触するように、前記発光管の管軸方向に離間して配置された、一対の電極ブロックで構成され、
前記光拡散体は、少なくとも1つの前記電極ブロックの、前記光学フィルタに対向する領域の表面に形成されているものとしても構わない。
【0021】
この場合において、前記光拡散体は、前記電極ブロックの表面に形成された凹凸領域で構成されるものとしても構わない。
【0022】
別の一例として、前記紫外線照射装置は、前記ランプハウス内の、前記第一方向に関して前記光取り出し面とは反対側であって、前記一対の電極に挟まれた位置に配置された、前記光拡散体としての第一光拡散板を備えるものとしても構わない。
【0023】
この第一光拡散板としては、アルミナやシリカなどの無機系材料の微粒子や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂材料の微粒子からなるシート材やコート膜で構成することができる。
【0024】
別の一例として、前記紫外線照射装置は、前記ランプハウス内において、前記第一方向から見たときに前記光学フィルタを挟む又は取り囲むように配置された、前記光拡散体としての第二光拡散板を備えるものとしても構わない。
【0025】
この第二光拡散板についても、上述した第一光拡散板と同様、アルミナやシリカなどの無機系材料の微粒子や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂材料の微粒子からなるシート材やコート膜で構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、第一紫外線の光取り出し効率の低下を抑制しながらも、人体に対して及ぼす影響の程度が抑制された、紫外線照射装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】発光ガスにKrClが含まれるエキシマランプの発光スペクトルの一例である。
【
図2】紫外線照射装置の第一実施形態の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図2から、紫外線照射装置のランプハウスの本体ケーシング部と蓋部とを分解した斜視図である。
【
図4】紫外線照射装置が備える電極ブロック及びエキシマランプの構造を模式的に示す斜視図である。
【
図6】電極ブロックの構造を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図4の斜視図を+Z方向に見たときの模式的な平面図である。
【
図8】光学フィルタの透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図9】光学フィルタに対する紫外線の入射角を説明するための模式的な図面である。
【
図10】光学フィルタの反射スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図11】第一実施形態の紫外線照射装置を、XZ平面に平行な面で切断したときの模式的な断面図である。
【
図12】第二実施形態の紫外線照射装置の模式的な分解斜視図である。
【
図13】
図12に示す紫外線照射装置が備える電極ブロック及びエキシマランプの構造を模式的に示す斜視図である。
【
図15】
図13に示すエキシマランプを+X方向に見たときの模式的な平面図である。
【
図16】光拡散板の機能を模式的に説明するための一部拡大図である。
【
図17A】第三実施形態の紫外線照射装置を、XZ平面に平行な面で切断したときの模式的な断面図である。
【
図17B】第三実施形態の紫外線照射装置を、XY平面に平行な面で切断したときの模式的な断面図である。
【
図18】第三実施形態の紫外線照射装置を、XZ平面に平行な面で切断したときの別の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る紫外線照射装置の各実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致していない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致していない。
【0029】
[第一実施形態]
紫外線照射装置の第一実施形態について説明する。
【0030】
図2は、紫外線照射装置の第一実施形態の外観を模式的に示す斜視図である。
図3は、
図2から、紫外線照射装置1のランプハウス2の本体ケーシング部2aと蓋部2bとを分解した斜視図である。
【0031】
以下の各図では、紫外線L1の取り出し方向をX方向とし、X方向に直交する平面をYZ平面とした、X-Y-Z座標系を参照して説明される。より詳細には、
図3以下の図面を参照して後述されるように、エキシマランプ3の管軸方向をY方向とし、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とする。X方向が「第一方向」に対応する。
【0032】
図2及び
図3に示すように、紫外線照射装置1は、一方の面に光取り出し面10が形成されたランプハウス2を備える。ランプハウス2は、本体ケーシング部2aと蓋部2bとを備え、本体ケーシング部2a内には、エキシマランプ3と、電極ブロック(11,12)とが収容されている。
【0033】
図2及び
図3に示すように、ランプハウス2の一部を構成する蓋部2bの光取り出し面10を構成する領域には、光学フィルタ21が設けられている。光学フィルタ21の特性については、後述される。
【0034】
本実施形態では、ランプハウス2内に4本のエキシマランプ3(3a,3b,3c,3d)が収容されている場合を例に挙げて説明するが(
図4参照)、エキシマランプ3の本数は1本でも構わないし、2本、3本又は5本以上でも構わない。電極ブロック(11,12)は、給電線8と電気的に接続されており、各エキシマランプ3に対して給電するための電極を構成する。
【0035】
図4及び
図5は、
図3からランプハウス2の一部を構成する本体ケーシング部2aの図示を省略し、電極ブロック(11,12)、及びエキシマランプ3(3a,3b,3c,3d)を抽出して図示した斜視図である。
図4と
図5は、見る方向が異なっている。なお、
図5では、電極ブロック(11,12)とエキシマランプ3とを保持するための保持部材9についても図示されている。
図4では、図示の都合上、保持部材9は省略されている。
【0036】
また、
図6は、
図5から電極ブロック(11,12)のみを抽出して図示した斜視図である。
【0037】
図3~
図5に示すように、本実施形態の紫外線照射装置1は、Z方向に離間して配置された4本のエキシマランプ3(3a,3b,3c,3d)を備える。また、それぞれのエキシマランプ3の発光管の外表面に接触するように、2つの電極ブロック(11,12)が配置されている。
【0038】
電極ブロック(11,12)は、Y方向に離間した位置に配置されている。
図6に示す例では、電極ブロック11は、エキシマランプ3の発光管の外表面の曲面に沿う形状を呈してエキシマランプ3が載置される載置領域11aを有している。電極ブロック12についても、同様に、エキシマランプ3が載置される載置領域12aを有している。
【0039】
本実施形態では、電極ブロック11の光取り出し面10に対向する領域のうち、載置領域11a以外の領域には、光拡散面11bが形成されている。同様に、電極ブロック12の光取り出し面10に対向する領域のうち、載置領域12a以外の領域には、光拡散面12bが形成されている。
【0040】
光拡散面11b及び光拡散面12bは、エキシマランプ3から出射される紫外線L1が入射されると、拡散反射するように形成されている。一例として、光拡散面(11b,12b)は、電極ブロック(11,12)を構成する金属材料の表面に対して凹凸加工がされた領域とすることができる。また、別の一例として、光拡散面(11b,12b)は、電極ブロック(11,12)の面上に、アルミナやシリカなどの無機系材料の微粒子や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂材料の微粒子からなるシート材やコート膜が形成された領域とすることができる。
【0041】
この光拡散面(11b,12b)の機能は、光学フィルタ21の特性と共に、後述される。
【0042】
なお、
図6の例では、電極ブロック11において、光取り出し面10に対向する領域のうち、載置領域11a以外の全ての領域に光拡散面11bが形成されているように図示されているが、載置領域11a以外の領域の少なくとも一部分に光拡散面11bが形成されていればよい。光拡散面12bについても同様である。
【0043】
電極ブロック(11,12)は、導電性の材料からなり、好ましくは、エキシマランプ3から出射される紫外線に対する反射性を示す材料からなる。一例として、電極ブロック(11,12)は、共に、Al、Al合金、ステンレスなどで構成される。
【0044】
電極ブロック(11,12)は、いずれも各エキシマランプ3(3a,3b,3c,3d)の発光管の外表面に接触しつつ、Z方向に関して各エキシマランプ3に跨るように配置されている。
【0045】
図7は、エキシマランプ3と、電極ブロック(11,12)との位置関係を模式的に示す図面であり、エキシマランプ3を+Z方向に見たときの模式的な平面図に対応する。なお、
図7では、4本のエキシマランプ3(3a,3b,3c,3d)のうち、最も-Z側に位置しているエキシマランプ3aのみが図示されており、他のエキシマランプ(3b,3c,3d)の図示が省略されているが、上述したように、エキシマランプ(3b,3c,3d)についても+Z方向に並べられている。
【0046】
エキシマランプ3はY方向を管軸方向とした発光管を有し、Y方向に離間した位置において、エキシマランプ3の発光管の外表面が各電極ブロック(11,12)に対して接触している。エキシマランプ3の発光管には、発光ガス3Gが封入されている。各電極ブロック(11,12)の間に、給電線8(
図1参照)を通じて、例えば10kHz~5MHz程度の高周波の交流電圧が印加されると、エキシマランプ3の発光管を介して発光ガス3Gに対して前記電圧が印加される。このとき、発光ガス3Gが封入されている放電空間内で放電プラズマが生じ、発光ガス3Gの原子が励起されてエキシマ状態となり、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。
【0047】
発光ガス3Gは、エキシマ発光時に、主たる発光波長が190nm以上、225nm以下の第一波長帯に属する紫外線L1を出射する材料からなる。一例として、発光ガス3Gとしては、KrCl、KrBr、ArFが含まれる。なお、前記のガス種に加えて、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)などの不活性ガスが混合されていても構わない。
【0048】
例えば、発光ガス3GにKrClが含まれる場合には、エキシマランプ3から主たるピーク波長が222nm近傍の紫外線L1が出射される。発光ガス3GにKrBrが含まれる場合には、エキシマランプ3からは、主たるピーク波長が207nm近傍の紫外線L1が出射される。発光ガス3GにArFが含まれる場合には、エキシマランプ3からは、主たるピーク波長が193nm近傍の紫外線L1が出射される。発光ガス3GにKrClが含まれる、エキシマランプ3から出射される紫外線L1のスペクトルについては、
図1を参照して上述した通りである。
【0049】
図1に示すように、発光ガス3GにKrClが含まれる場合、紫外線L1のスペクトルには、ほぼ主たるピーク波長である222nm近傍に光出力が集中しているが、人体に対する影響が懸念される240nm以上の波長帯についても、ごくわずかながら光出力が認められる。このため、光取り出し面10を構成する領域に、かかる波長帯の光成分を遮断する目的で光学フィルタ21が設けられている。
【0050】
図8は、光学フィルタ21の透過スペクトルの一例を示すグラフであり、光学フィルタ21に対して入射した光の強度と、光学フィルタ21から出射された光の強度の比率を波長毎に測定したものである。なお、
図8では、紫外線L1が光学フィルタ21に対して入射するときの入射角θ別に、透過スペクトルが示されている。ここで、入射角θは、
図9に示すように、光学フィルタ21の入射面に対する法線21Nと、光学フィルタ21の入射面に入射される紫外線L1との角度で定義される。
【0051】
図8に示す特性を有する光学フィルタ21は、エキシマランプ3の発光ガス3GがKrClを含む場合、すなわち、エキシマランプ3が主たるピーク波長222nmの紫外線L1を発する場合を想定して設計されたものである。すなわち、この光学フィルタ21は、
図8に示すように、波長222nm近傍、より詳細には218nm以上、226nm以下の波長帯の紫外線L1を実質的に透過しつつ、240nm以上300nm以下の紫外線L1を実質的に透過しない。光学フィルタ21は、エキシマランプ3から出射される紫外線L1のうち、主たるピーク波長近傍の波長成分の紫外線L1を実質的に透過させつつ、240nm以上300nm以下の紫外線L1を実質的に透過させないように設計されるものとして構わない。
【0052】
図8に示す光学フィルタ21によれば、240nm以上の300nm以下の紫外線L1は入射角θが0°~40°の範囲内においては、5%以下の透過率を示し、入射角θが50°の場合であっても10%以下の透過率を示す。
【0053】
このように、入射される紫外線L1の波長によって異なる透過率を示す光学フィルタ21は、屈折率の異なる複数の誘電体多層膜で実現される。一方、このような屈折率の異なる複数の誘電体多層膜で光学フィルタ21を構成した場合、光学フィルタ21に対する紫外線L1の入射角θに応じて、透過率が不可避的に変化してしまう。この結果、
図8に示すように、主たるピーク波長(この例では222nm)近傍の成分についても、紫外線L1の光学フィルタ21に対する入射角θによっては、透過率が低下してしまう。例えば、
図8の例によれば、入射角θが40°以上の場合、222nm近傍の紫外線L1に対する透過率は20%を下回る。
【0054】
なお、紫外線L1のうち、光学フィルタ21を透過しなかった紫外線L1の一部は、光学フィルタ21で反射される。
図10は、光学フィルタ21の反射スペクトルの一例を示すグラフであり、光学フィルタ21に対して入射した光の強度と、光学フィルタ21で反射された光の強度の比率を波長毎に測定したものである。ただし、発光部と受光部を同じ光軸上に配置できないため、
図10のグラフにおいて入射角θが0°の場合のデータは図示されていない。
【0055】
図10に示す光学フィルタ21によれば、240nm以上の300nm以下の紫外線L1は入射角θが10°以上、40°以下の範囲内においては95%以上の反射率を示し、入射角θが50°の場合であっても90%以上の反射率を示す。
【0056】
次に、電極ブロック(11,12)の表面に設けられている、光拡散面(11b,12b)が有する効果について、図面を参照して説明する。
図11は、本実施形態の紫外線照射装置1を、所定のY座標の位置においてXZ平面に平行な面で切断したときの模式的な断面図である。
図11には、エキシマランプ3から出射されて光学フィルタ21に向かう紫外線L1の進行の様子が模式的に示されている。
図11では、各エキシマランプ3から出射される紫外線L1のうちの、エキシマランプ3cから出射される紫外線L1が、代表的に図示されている。なお、
図11における符号L1a,L1b,L1b1,L1b2は、いずれも紫外線L1の一部を示している。
【0057】
各エキシマランプ3から出射される紫外線L1は、所定の発散角を有して光学フィルタ21に向かって進行する。紫外線L1のうち、光学フィルタ21に対する入射角が比較的小さい紫外線L1aに関しては、主たるピーク波長近傍の成分が光学フィルタ21を実質的に透過する。しかし、光学フィルタ21に対する入射角が比較的大きい紫外線L1bについては、主たるピーク波長近傍の成分であっても、ある割合で光学フィルタ21によって反射され、光取り出し方向とは反対側(-X方向)に進行してしまう(紫外線L1b1)。
【0058】
ここで、本実施形態の紫外線照射装置1では、電極ブロック11の表面に光拡散面11bが形成されている。このため、紫外線L1b1の一部はこの光拡散面11bに入射されて、拡散反射する(紫外線L1b2)。拡散反射された紫外線L1b2の一部は、紫外線L1bよりも小さい入射角で光学フィルタ21に対して入射される。この結果、紫外線L1b2の一部は、光学フィルタ21を透過して、紫外線照射装置1の外側に取り出される。これにより、光拡散面11bが設けられていない場合に比べて、光取り出し効率が向上する。なお、電極ブロック12側における光拡散面12bについても同様である。
【0059】
[実施例]
電極ブロック11の光取り出し面10側の表面にPTFEシートを設置して光拡散面11bを形成し、同様に、電極ブロック12の光取り出し面10側の表面にPTFEシートを設置して光拡散面12bを形成してなる、紫外線照射装置1を実施例1とした。各電極ブロック(11,12)の表面に対してPTFEシートを設置しなかった紫外線照射装置を参考例1とした。実施例1及び参考例1の紫外線照射装置を点灯させ、光取り出し面10の外側に設置された照射面上における照度を照度計で測定すると、下記表1のようになった。
【0060】
【0061】
また、電極ブロック11の光取り出し面10側の表面を粒度#500の研磨材で荒らして凹凸領域とすることで光拡散面11bを形成し、同様に、電極ブロック12の光取り出し面10側の表面を凹凸領域とすることで光拡散面12bを形成してなる、紫外線照射装置1を実施例2とした。参考例1は、上記と同様に、電極ブロック(11,12)の表面に光拡散面(11b,12b)が形成されていない紫外線照射装置であり、詳細には、電極ブロック(11,12)の表面が鏡面状態である。実施例2及び参考例1の紫外線照射装置を点灯させ、光取り出し面10の外側に設置された照射面上における照度を測定すると、下記表2のようになった。
【0062】
【0063】
表1及び表2の結果からも、電極ブロック(11,12)の光取り出し面10側の表面に、光拡散面(11b,12b)が形成されることで光取り出し効率が向上することが確認される。
【0064】
[第二実施形態]
紫外線照射装置の第三実施形態につき、主として第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。本実施形態の紫外線照射装置1は、第一実施形態と比較して、光拡散面の設置位置のみが異なっている。
【0065】
図12は、本実施形態の紫外線照射装置の分解斜視図を、
図3にならって表示した図面である。
図13及び
図14は、
図12からランプハウス2の一部を構成する本体ケーシング部2aの図示を省略し、電極ブロック(11,12)、及びエキシマランプ3(3a,3b,3c,3d)を抽出して図示した斜視図であり、それぞれ
図4及び
図5にならって図示されている。また、
図15は、
図13に示すエキシマランプ3を+X方向に見たときの模式的な平面図に対応する。
【0066】
図12~
図15に示すように、本実施形態の紫外線照射装置1は、電極ブロック11と電極ブロック12との間に、光拡散板25を備える。この光拡散板25は、「第一光拡散板」に対応する。光拡散板25は、例えばガラス部材の表面にアルミナやシリカなどの無機系材料の微粒子や、PTFEなどのフッ素系樹脂材料の微粒子からなるシート材やコート膜が形成されたものとすることができる。
【0067】
図16は、光拡散板25の機能を模式的に説明するための一部拡大図である。第一実施形態において上述したように、光学フィルタ21に対する入射角が比較的大きい紫外線L1bは、一部が光学フィルタ21で反射されて光取り出し方向とは反対側(-X方向)、すなわち電極ブロック(11,12)側に進行する(紫外線L1b1)。
【0068】
本実施形態では、電極ブロック11と電極ブロック12との間に、光拡散板25を備える。このため、紫外線L1b1の一部はこの光拡散板25に入射されて、拡散反射する(紫外線L1b2)。拡散反射された紫外線L1b2の一部は、紫外線L1bよりも小さい入射角で光学フィルタ21に対して入射される。この結果、紫外線L1b2の一部は、光学フィルタ21を透過して、紫外線照射装置1の外側に取り出される。これにより、光拡散板25が設けられていない場合に比べて、光取り出し効率が向上する。
【0069】
なお、本実施形態の紫外線照射装置1においても、第一実施形態と同様に、電極ブロック(11,12)の表面に光拡散面(11b,12b)を備えていても構わない。
【0070】
[第三実施形態]
紫外線照射装置の第三実施形態につき、主として第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。本実施形態の紫外線照射装置1は、第一実施形態と比較して、光拡散面の設置位置のみが異なっている。
【0071】
図17A及び
図17Bは、本実施形態の紫外線照射装置1の構成を模式的に示す断面図である。
図17Aは、
図11と同様に、紫外線照射装置1を所定のY座標の位置においてXZ平面に平行な面で切断したときの模式的な断面図である。また、
図17Bは、紫外線照射装置1を所定のZ座標の位置においてXY平面に平行な面で切断したときの模式的な断面図である。
【0072】
図17A及び
図17Bに示すように、本実施形態の紫外線照射装置1は、ランプハウス2の内側面に光拡散板26を備える。この光拡散板26は、「第二光拡散板」に対応する。光拡散板26は、上述した光拡散板25と同様、例えばガラス部材の表面にアルミナやシリカなどの無機系材料の微粒子や、PTFEなどのフッ素系樹脂材料の微粒子からなるシート材やコート膜が形成されたものとすることができる。
【0073】
本実施形態では、ランプハウス2の内側面に沿って、X方向に見たときに光学フィルタ21を取り囲むように光拡散板26が配置されている。
【0074】
第一実施形態において上述したように、光学フィルタ21に対する入射角が比較的大きい紫外線L1bは、一部が光学フィルタ21で反射されて光取り出し方向とは反対側(-X方向)に進行する(紫外線L1b1)。本実施形態では、ランプハウス2の内側面に光拡散板26が配置されているため、紫外線L1b1の一部はこの光拡散板26に入射されて、拡散反射する(紫外線L1b2)。拡散反射された紫外線L1b2の一部は、紫外線L1bよりも小さい入射角で光学フィルタ21に対して入射される。この結果、紫外線L1b2の一部は、光学フィルタ21を透過して、紫外線照射装置1の外側に取り出される。これにより、光拡散板26が設けられていない場合に比べて、光取り出し効率が向上する。
【0075】
上記実施形態では、光拡散板26がX方向に見て光学フィルタ21を取り囲むように配置されているものとしたが、必ずしも四方を取り囲むように光拡散板26が配置されていなくても構わない。例えば、光拡散板26は、X方向に見たときに、Y方向に光学フィルタ21を挟むように配置されていても構わないし、Z方向に光学フィルタ21を挟むように配置されていても構わない。
【0076】
ところで、
図18に示すように、光学フィルタ21を含む光取り出し面10をランプハウス2に設置するために、ランプハウス2は、X方向に突出した凸部領域で形成された、嵌め込み用の載置部2cを備えることができる。この場合には、載置部2cの内側面にも光拡散板26を設けるものとしても構わない。かかる構成によれば、エキシマランプ3と光拡散板26とのYZ平面方向の離間距離を近づけることができるため、光学フィルタ21で反射された紫外線L1b1を、高い割合で光拡散板26に入射させることができる。ただし、
図18において、ランプハウス2の内側面には光拡散板26を設けずに、載置部2cの内側面にのみ光拡散板26を設けるものとしても構わない。
【0077】
なお、本実施形態の紫外線照射装置1においても、第一実施形態と同様に、電極ブロック(11,12)の表面に光拡散面(11b,12b)を備えていても構わないし、第二実施形態と同様に、電極ブロック11と電極ブロック12との間に光拡散板25を備えていても構わない。
【0078】
[別実施形態]
上記実施形態における紫外線照射装置1は、エキシマランプ3(3a~3d)が表面に載置される、電極ブロック(11,12)を備えるものとして説明した。しかし、第二実施形態及び第三実施形態の紫外線照射装置1では、電極がブロック型である必要はない。例えば、エキシマランプ3の外表面に、電極を構成する導電性部材が貼り付けられたものであっても構わない。
【符号の説明】
【0079】
1 :紫外線照射装置
2 :ランプハウス
2a :本体ケーシング部
2b :蓋部
2c :載置部
3,3a,3b,3c,3d :エキシマランプ
3G :発光ガス
8 :給電線
9 :保持部材
10 :光取り出し面
11 :電極ブロック
11a :載置領域
11b :光拡散面
12 :電極ブロック
12a :載置領域
12b :光拡散面
21 :光学フィルタ
21N :法線
25 :光拡散板
26 :光拡散板