(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】電子鍵盤楽器、楽音発生方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 1/00 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
G10H1/00 C
(21)【出願番号】P 2020046437
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】坂田 吾朗
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-204599(JP,A)
【文献】特表平09-501513(JP,A)
【文献】特開平06-282271(JP,A)
【文献】特開2015-184392(JP,A)
【文献】特開2012-203280(JP,A)
【文献】特開平03-098096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低音域側の複数の低音域鍵と、前記複数の低音域鍵より高音域側の複数の中高音域鍵と、を含む鍵盤と、
プロセッサと、
前記鍵盤の鍵数より少ない数の発音チャンネルに対して、ダイナミックアサイン方式でアサインする音源と、
を備え、
前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記鍵盤に含まれるいずれかの第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記第1鍵に対応する発音チャンネルである第1チャンネルに含まれる、基本とその倍音とが連なった弦音を発生させる信号循環回路を有する弦音モデルチャンネルと、弦音の間隙部分に発生する打撃音を発生させる打撃音発生チャンネルと、をダイナミックにアサインするとともに、前記複数の低音域鍵に対応する複数の低音域チャンネルと、をダイナミックにアサインし、
前記第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた
前記第1チャンネルに
含まれる前記弦音モデルチャンネルに入力
するとともに、前記打撃音の打撃音信号データを前記打撃音発生チャンネルに入力し、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、前記複数の中高音域鍵それぞれに対応する各中高音域チャンネルには入力させずに、前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力し、
前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力
し、
前記複数の低音域チャンネルは、低音の弦から順次アサインされる、
電子鍵盤楽器。
【請求項2】
前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域励振信号データを、前記各低音域チャンネルに入力しない、
請求項1に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項3】
前記プロセッサによるダンパオフ非検出時における前記第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた第1チャンネルに入力し、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力せずに、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力する、
請求項1または2に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項4】
前記複数の低音域鍵は、最低音域1オクターブ分のみの低音域鍵である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
【請求項5】
前記第1鍵に対応する基音成分及び倍音成分の間の周波数成分を補完する打撃音の打撃音信号データを前記各低音域チャンネルに入力する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
【請求項6】
前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記複数の低音域鍵中のいずれかの第2鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記第2鍵に対応する第2励振信号データを、前記第2鍵に応じた第2チャンネルに入力し、
前記第2励振信号データの入力に応じて前記第2チャンネルが出力する第2チャンネル出力データを、前記第2鍵を除く複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力し、
前記第2チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第2チャンネルが出力する第2チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第2鍵に応じた楽音データとして出力する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
【請求項7】
低音域側の複数の低音域鍵と、前記複数の低音域鍵より高音域側の複数の中高音域鍵と、を含む鍵盤と、前記鍵盤の鍵数より少ない数の発音チャンネルに対して、ダイナミックアサイン方式でアサインする音源と、を備える電子鍵盤楽器のコンピュータに、
ダンパオフ検出時における前記鍵盤に含まれるいずれかの第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、前記第1鍵に対応する発音チャンネルである第1チャンネルに含まれる、基本とその倍音とが連なった弦音を発生させる信号循環回路を有する弦音モデルチャンネルと、弦音の間隙部分に発生する打撃音を発生させる打撃音発生チャンネルと、をダイナミックにアサインさせるとともに、前記複数の低音域鍵に対応する複数の低音域チャンネルと、をダイナミックにアサインさせ、
第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた
前記第1チャンネルに
含まれる前記弦音モデルチャンネルに入力させ
るとともに、前記打撃音の打撃音信号データを前記打撃音発生チャンネルに入力させ、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、複数の中高音域鍵それぞれに対応する各中高音域チャンネルには入力させずに、複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力させ、
前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力させ
、
前記複数の低音域チャンネルは、低音の弦から順次アサインされる、
楽音発生方法。
【請求項8】
低音域側の複数の低音域鍵と、前記複数の低音域鍵より高音域側の複数の中高音域鍵と、を含む鍵盤と、前記鍵盤の鍵数より少ない数の発音チャンネルに対して、ダイナミックアサイン方式でアサインする音源と、を備える電子鍵盤楽器のコンピュータに、
ダンパオフ検出時における前記鍵盤に含まれるいずれかの第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、前記第1鍵に対応する発音チャンネルである第1チャンネルに含まれる、基本とその倍音とが連なった弦音を発生させる信号循環回路を有する弦音モデルチャンネルと、弦音の間隙部分に発生する打撃音を発生させる打撃音発生チャンネルと、をダイナミックにアサインさせるとともに、前記複数の低音域鍵に対応する複数の低音域チャンネルと、をダイナミックにアサインさせ、
第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた
前記第1チャンネルに
含まれる前記弦音モデルチャンネルに入力させ
るとともに、前記打撃音の打撃音信号データを前記打撃音発生チャンネルに入力させ、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、複数の中高音域鍵それぞれに対応する各中高音域チャンネルには入力させずに、複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力させ、
前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力させ
、
前記複数の低音域チャンネルは、低音の弦から順次アサインされる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子鍵盤楽器、楽音発生方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックピアノの共鳴音をより忠実に模擬できる共鳴音生成装置の技術が提案されている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピアノの演奏中にダンパペダルを踏むと、ピアノが備えるすべての弦が共鳴可能状態になるため、ダンパペダルを踏んでいる場合と踏んでいない場合とで、発生する音に差が出る。ダンパペダルを踏んでいるときに発生する独特な共鳴音を、ダンパレゾナンスと称する。
【0005】
ディレイとフィードバックを含めた閉ループを用いた弦のモデルによるピアノ音源において前述したダンパレゾナンスの効果を実現する場合、ダンパペダルが踏まれた際ピアノの88鍵に対応するすべてのモデリングチャンネルを用いて共鳴音を生成する方法が、アコースティックピアノの構造に忠実な処理方法と考えられる。
【0006】
しかしながら、実際に音源チャンネルの数をピアノの88鍵すべてをカバーする数だけ設けるとすると、演算処理数が増大し、消費電流と発熱量が共に増大するという不具合を有する。一方で、音源チャンネルの数がピアノの88鍵すべてをカバーする数より少ない場合には、モデリングチャンネルの割り当てや共鳴効果を得るための方法が問題となる。
【0007】
本発明は前記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、良好なダンパレゾナンスを発生させることが可能な電子鍵盤楽器、楽音発生方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る電子鍵盤楽器は、低音域側の複数の低音域鍵と、前記複数の低音域鍵より高音域側の複数の中高音域鍵と、を含む鍵盤と、プロセッサと、前記鍵盤の鍵数より少ない数の発音チャンネルに対して、ダイナミックアサイン方式でアサインする音源と、を備え、前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記鍵盤に含まれるいずれかの第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、前記第1鍵に対応する発音チャンネルである第1チャンネルに含まれる、基本とその倍音とが連なった弦音を発生させる信号循環回路を有する弦音モデルチャンネルと、弦音の間隙部分に発生する打撃音を発生させる打撃音発生チャンネルと、をダイナミックにアサインするとともに、前記複数の低音域鍵に対応する複数の低音域チャンネルと、をダイナミックにアサインし、前記第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた前記第1チャンネルに含まれる前記弦音モデルチャンネルに入力するとともに、前記打撃音の打撃音信号データを前記打撃音発生チャンネルに入力し、前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、前記複数の中高音域鍵それぞれに対応する各中高音域チャンネルには入力させずに、前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力し、前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力し、前記複数の低音域チャンネルは、低音の弦から順次アサインされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好なダンパレゾナンスを発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電子鍵盤楽器の基本的なハードウェア回路の構成を示すブロック図。
【
図2】同実施形態に係る弦音を発生する音源チャンネル全体の概念構成を例示するブロック図。
【
図3】同実施形態に係る実装レベルで弦音と打撃音のチャンネル出力データから楽音データを発生させる実装レベルでの機能構成を説明するブロック図。
【
図4】同実施形態に係る主として弦音モデルチャンネルの詳細な回路構成を示すブロック図。
【
図5】同実施形態に係る主として打撃音発生チャンネルの詳細な回路構成を示すブロック図。
【
図6】同実施形態に係る波形読出し部の回路構成を示すブロック図。
【
図7】同実施形態に係る
図4のオールパスフィルタの詳細な回路構成を示すブロック図。
【
図8】同実施形態に係る
図4のローパスフィルタの詳細な回路構成を示すブロック図。
【
図9】同実施形態に係るダンパオフ信号受信時の音源DSPでの処理内容を示すフローチャート。
【
図10】同実施形態に係るダンパオン信号受信時の音源DSPでの処理内容を示すフローチャート。
【
図11】同実施形態に係るアコースティックピアノの周波数スペクトルを例示する図。
【
図12】同実施形態に係る
図11の周波数スペクトルから弦音の波形成分を除去した打撃音の周波数スペクトルを例示する図。
【
図13】同実施形態に係る弦音の周波数スペクトルを例示する図。
【
図14】同実施形態に係るピアノの楽音を構成する各波形と加算合成されたピアノの楽音の波形の具体例を示す図。
【
図15】同実施形態に係る基音と倍音の波形の関係を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を電子鍵盤楽器に適用した場合の一実施形態について図面を参照して説明する。
[構成]
図1は、本実施形態を電子鍵盤楽器10に適用した場合の基本的なハードウェア回路の構成を示すブロック図である。同図で、演奏操作子である鍵盤部11での操作に応じた、ノートナンバー(音高情報)と音量情報としてのベロシティ値(押鍵速度)とを含む操作信号s11と、ダンパペダル12での操作に応じたダンパオン/オフの操作信号s12とが、LSI13のCPU13Aに入力される。
【0012】
LSI13は、バスBを介してCPU13A、第1のRAM13B、音源DSP(デジタルシグナルプロセッサ)13C、D/A変換部(DAC)13Dを接続している。
【0013】
また、音源DSP13Cは、LSI13外部の第2のRAM14と接続される。さらに、バスBには、LSI13外部のROM15が接続される。
【0014】
CPU13Aは、電子鍵盤楽器10全体の動作を制御する。ROM15は、CPU13Aが実行する動作プログラムや演奏のための励振信号データ等を記憶する。第1のRAM13Bは、閉ループ回路など、楽音を発生する信号遅延のためのバッファメモリとして機能する。
【0015】
第2のRAM14は、CPU13A、音源DSP13Cが動作プログラムを展開して記憶するワークメモリである。CPU13Aは、演奏動作時に音源DSP13Cに対して、ノートナンバーやベロシティ値、音色に伴う共鳴パラメータ(ダンパレゾナンスのレベルやストリングレゾナンスのレベルを示す共鳴レベル)などのパラメータを与える。
【0016】
音源DSP13Cは、ROM15に記憶される動作プログラムや固定データを読み出してワークメモリとなる第2のRAM14上に展開して記憶させた上で動作プログラムを実行する。具体的に、音源DSP13Cは、CPU13Aから与えられたパラメータに応じて、ROM15から必要な弦音を発生させるための励振信号データを読出し、閉ループ回路での処理に加算して、複数の閉ループ回路の出力データを合成して弦音の信号データを生成する。
【0017】
また音源DSP13Cは、弦音とは別の打撃音の信号データをROM15から読み出し、発音するノートに割り当てられたチャンネル毎にベロシティに応じて振幅、音質を調整した出力データを発生させる。
【0018】
さらに音源DSP13Cは、発生した弦音と打撃音の各出力データを合成し、合成した楽音データs13cをD/A変換部13Dへ出力する。
【0019】
D/A変換部13Dは、楽音データs13cをアナログ信号化(s13d)して、LSI13外部のアンプ(amp.)16へ出力する。アンプ16で増幅されたアナログの楽音信号s16により、スピーカ17が楽音を拡声放音する。
【0020】
なお、
図1に示したハードウェア回路構成をソフトウェアにより実現することが可能である。パーソナルコンピュータ(PC)で実現する際には、機能的なハードウェアの回路構成は、
図1で示した内容とは異なる。
【0021】
図2は、ダイナミックアサインによるチャンネルの割り当てを採用しない、音源DSP13Cによる弦音の音源チャンネル全体の原理的な概念構成を説明するブロック図である。
【0022】
一般的なピアノの鍵(ノート)数88に対応して、88ノート分の閉ループ処理を行なう弦モデルチャンネル(CH)21-01~21-88に対し、ノートオン/オフ、ベロシティ、ダンパオン/オフの各情報からなるコントロール信号が与えられる。
図2では、図中の下側に位置するほど低音側、図中の上側に位置するほど高域側となるものとする。
【0023】
なお、ここではピアノの1ノート分を3弦(中音域および高音域)(低音域では1弦または2弦)を含むモデルチャンネルとする。
【0024】
各弦モデルチャンネル21-01~21-88のうち、押鍵によりノートオンとされたチャンネルが、発音すべき音高および音量で信号データを発生し、それらの出力が加算器22で加算されて、弦音の出力データとして出力される。
【0025】
さらに加算器22が出力する弦音の出力データは、ネガティブフィードバックのためのアンプ23により適宜減衰されて、各弦モデルチャンネル21-01~21-88に帰還入力されることで、共鳴音を発生することができる。
【0026】
加えて、後述する打撃音の出力データが、同様に各弦モデルチャンネル21-01~21-88に帰還入力される。
【0027】
なお、本実施形態で打撃音には、例えば、アコースティックピアノにおいて、押鍵によってピアノ内部でハンマーが弦に衝突する際の衝突音、ハンマーの動作音、ピアノ奏者の指による打鍵音、鍵盤がストッパに当たって止まる際の音、といった音の成分を含み、純粋な弦音の成分(各鍵の基音成分及び倍音成分)を含まない。なお打撃音は、必ずしも押鍵時に生じる物理的な打撃動作そのものの音には限らないものとする。
【0028】
なお、
図2中に破線IIで囲んで示す、最低音側の12ノート分の1オクターブの弦モデルチャンネル21-01~21-12を、ダンパペダル12が踏まれるダンパオフ時に弦音を発生するノートエリアとする。
【0029】
弦音の出力データと打撃音の出力データとを合成した楽音データを完成されたピアノの楽音とするため、
図2に示した如く、弦音の出力データと打撃音の出力データをともに弦モデルに入力して共鳴音としての楽音データを生成させるが、出力された弦音の出力データにはフィードバックをかける一方で、打撃音の出力データはPCM音源として発生させるためにフィードバックではなく、フィードフォワード(直列接続)で入力するため、それぞれの経路が異なる。
【0030】
打撃音の出力データに関しては、フィードフォワード構造で入力するために、異常発振への対応を行なう必要がない。
【0031】
弦モデルチャンネル21-01~21-88への打撃音の出力データの入力は、本来は全弦モデルのチャンネルで行なうのが基本であるが、本実施形態では、
図2のノートエリアIIで示した最低音側の1オクターブ分のみで良いものとする。
【0032】
ただし、ダイナミックアサイン方式を考慮すると、すべての弦モデルチャンネルを同等に取り扱うことができる構造とすることで、構造を統一できるメリットを生じる。
【0033】
また仮に、弦モデルのチャンネルが88鍵分あれば、ダイナミックアサイン方式を採用する必要がなく、各弦モデルチャンネル21-01~21-88の発音ノートをスタティックアサイン方式の構造として固定化できる。
【0034】
一方で、弦モデルのチャンネルが88より少ない数、例えば32であれば、ダイナミックアサイン方式を採用し、与えられるノートオン/オフ信号に従って最大32のモデルチャンネルを動的にアサインすることになる。この場合は、当然ながら全88ノート分の楽音を同時に発生することができない。
【0035】
ダンパペダル12の踏み込みに伴ってダンパオフ信号が発生した場合、本来はすべての弦のダンパをオフ状態として、共鳴し易い状態を再現する必要がある。
【0036】
本実施形態では、ダンパオフ信号が発生した場合に、部分的なスタティックアサイン方式の構成を採って、最低音域1オクターブのダンパのみをオフ状態とすることで、ダンパレゾナンスの共鳴音を発生させる。
【0037】
すなわち、全体ではダイナミックアサインのシステム構成ながら、ダンパオフ信号が発生した場合には、順次最低ノートから1オクターブ分、12ノートをアサインし、同様にダンパをオフとすることで、ダンパレゾナンス音を発生させる。
【0038】
この際、該当する最低音域1オクターブ中に該当するノートが既に押鍵されていた場合、当該ノートでは既にダンパオフ状態にあるために、当該ノートでダンパオフとする処理をスキップする。モデルチャンネルの数、各鍵のノートオン/オフにより、空いているチャンネルの状態も変化するため、どのような状態でも正確なダンパレゾナンス音が発生できるものではないが、低音の弦から順次アサインすることで、最低限のリソースでダンパレゾナンス音を発生させることができるように動作する。そのための処理制御に関しては後述する。
【0039】
次に、最低音1オクターブ分のみのダンパオフ処理で、ダンパレゾナンス音が得られる理由について説明する。
最低ノートから限られたノートエリア、例えば1オクターブ分のダンパオフによってダンパレゾナンス音が発生できる理由は、低音弦が、より高いノートの倍音をすべて含んでいることによる。例えば、A0の倍音は、A1、A2、A3、‥‥という同一音名でより高いノートの倍音を含んでいる。そこで、A0、A0♯、B0、C1、C1♯、‥‥、G1、G1♯というように、1オクターブ分の最も低い音域をダンパオフすることにより、全ノートのダンパオフ時の倍音を発生させることができるため、結果として全ノートをダンパオフした場合に近い共鳴音を発生させることができる。
【0040】
次に、全弦をダンパオフした場合と最低音域1オクターブ分をダンパオフした場合の効果の相違について説明する。
インハーモニシティ(非調和性による倍音の周波数のずれ。倍音の周波数が整数倍からずれる現象)や、ストレッチチューン(高い音をより高く、低い音をより低く調律することで、インハーモニシティに調和したピアノ音とする一般的なチューニング法)を要因として、倍音やオクターブ関係にある周波数の倍率が正確な整数とはならないために、全弦で発生する共鳴音と、最低音域1オクターブ分のダンパオフ処理で発生する共鳴音とは、正確には異なるものとなる。しかしながら、倍音を構成する周波数成分特性は近く、倍音数がとても多いために、電子楽器のユーザが実用上では知覚するのが困難となるほどに、音質は十分なものとなる。
【0041】
図3は、ダイナミックアサイン方式で弦音と打撃音のチャンネル出力データから楽音データを発生させる、音源DSP13Cによる実装レベルでの機能構成を説明するブロック図である。
【0042】
弦音と打撃音とを合成した楽音を、完成したピアノの楽音とするために、弦音と打撃音とでそれぞれ複数チャンネル、例えば各32チャンネルずつ有するものとする。
【0043】
具体的には、ノートオン信号に応じて励振信号波形メモリ61から弦音の励振信号データs61が読み出され、最大32チャンネルの弦音モデルチャンネル63にてそれぞれ閉ループ処理により弦音のチャンネル出力データs63が発生されて、加算器65Aへ出力される。加算器65Aで合成された加算結果が弦音の出力データs65aとして、アンプ66AによりCPU13Aからの弦音レベルに応じて減衰された後、加算器69へ入力される。
【0044】
また、加算器65Aの出力する弦音の出力データs65aは、遅延保持部67Aにより1サンプリング周期分だけ(Z-1)遅延された後に、アンプ68AでCPU13Aからのダンパレゾナンス弦音レベルに応じて減衰されて、弦音モデルチャンネル63に帰還入力される。
【0045】
一方、ノートオン信号により打撃音波形メモリ62から打撃音の信号データs62が読み出され、最大32チャンネルの打撃音発生チャンネル64にてそれぞれ打撃音のチャンネル出力データs64が発生されて、加算器65Bへ出力される。加算器65Bで合成された加算結果が打撃音の出力データs65bとして、アンプ66BによりCPU13Aからの打撃音レベルに応じて減衰された後、加算器69へ入力される。
【0046】
また、加算器65Bの出力する打撃音の出力データs65bは、アンプ68BでCPU13Aからのダンパレゾナンス打撃音レベルに応じて減衰されて、弦音モデルチャンネル63に入力される。
【0047】
加算器69は、アンプ66Aを介して入力される弦音の出力データs66aと、アンプ66Bを介して入力される打撃音の出力データs66bとを加算処理により合成し、合成した楽音データs69を出力する。
【0048】
CPU13Aがアンプ66Aへ出力する、減衰率を指定する弦音レベルの信号s13a1と、同じくアンプ66Bへ出力する、減衰率を指定する打撃音レベルの信号s13a2は、すなわち弦音と打撃音の加算比を示すものであり、プリセットされたピアノ音色や、ユーザの好みによって設定されるパラメータである。
【0049】
また、CPU13Aがアンプ68Aへ出力するダンパレゾナンス弦音レベルの信号s13a3と、同じくアンプ68Bへ出力するダンパレゾナンス打撃音レベルの信号s13a4は、前述の弦音レベルの信号、打撃音レベルの信号とは異なる設定が可能なパラメータである。
【0050】
これは、実際のアコースティックピアノでは、主音として発音される音が、ピアノ弦のブリッジ、響板、ボディといった全体を通して発生される音であり、弦同士の共鳴の主な伝達路であるブリッジを通過して発音される共鳴音とで音質に差が生じる。そのため、その差を調整できる構造としている。一般には、ブリッジ伝送路で伝わる音は、打撃音成分を大きめの設定とすることで、ダンパレゾナンス音をアコースティックピアノと良く似た音として生成できる。
【0051】
また、ダンパペダル12が踏まれていない時に発生するストリングレゾナンス量、ダンパペダル12が踏まれている時のダンパレゾナンス量を別々に設定したい場合、ダンパペダル12の踏み方の状態に応じて、ダンパレゾナンス(打撃音・弦音)のレベルをそれぞれ変化させるように制御しても良い。
【0052】
例えば、ダンパペダル12が踏まれていないダンパオン時の共鳴音(ストリングレゾナンス)の場合、共鳴音としては純音に近い音が発生するので、打撃音を少なめとする設定が考えられる。また、ダンパペダル12が踏まれたダンパオフ時の共鳴音(ダンパレゾナンス)の場合、共鳴音としては、打撃音に励起された広い周波数帯域を持った音が発生するので、打撃音を多めに設定することが考えられる。
【0053】
図4は、主として
図3の弦音モデルチャンネル63の詳細な回路構成を示すブロック図である。
図4は、後述するノートイベント処理部31および励振信号波形メモリ61(ROM15)を除いて、図中に破線で囲んで示す範囲63A~63Cが1チャンネルに相当する。
【0054】
すなわち、電子鍵盤楽器10では、実際のアコースティックピアノに準じて、1鍵当たりで1本(最低音域)、2本(低音域)または3本(中音域以上)の弦モデルの信号循環回路を有するものとする。
図4では、ダイナミックアサイン対応により、3本の弦モデルに対応した共通の信号循環回路を有するものとしている。
【0055】
以下、3本の弦モデルの信号循環回路の1つ、弦音モデルチャンネル63Aを例にとって説明する。
ノートイベント処理部31は、CPU13Aからノートのオン/オフ信号s13a5、とベロシティ信号s13a6、Decay(減衰)/Release(余韻)のレート設定信号s13a7、共鳴レベル設定値信号s13a8、ダンパのオン/オフ信号s13a9が与えられ、波形読み出し部32に発音開始信号s311を、アンプ34にベロシティ信号s312を、アンプ39に帰還量信号s313を、エンベロープジェネレータ(EG)42に共鳴値信号s314を、ディレイ回路36にピッチに応じた弦長ディレイの整数部Pt_r[n]を、オールパスフィルタ(APF)37に同小数部Pt_f[n]を、ローパスフィルタ(LPF)38にカットオフ周波数Fc[n]をそれぞれ送出する。
【0056】
ノートイベント処理部31からの発音開始信号s311を受けた波形読み出し部32は、励振信号波形メモリ61から窓掛け処理済の励振信号データs61を読み出してアンプ34へ出力する。アンプ34は、ノートイベント処理部31からのベロシティ信号s312に応じた減衰量で励振信号データs61のレベルを調整して加算器35へ出力する。
【0057】
加算器35にはまた、加算器41からの和出力として、弦音と打撃音とを加算した出力データs41が入力されており、加算の結果として得た和出力を、弦音のチャンネル出力データs35(s63)として次段の加算器65Aへ直接出力すると共に、閉ループ回路を構成するディレイ回路36へ出力する。
【0058】
ディレイ回路36は、アコースティックピアノにおいて、当該弦が振動した際に出力される音の1波長の整数部に応じた値(例えば、高音の鍵に対応している場合は20、低音の鍵に対応している場合は2000といった整数値)として、ノートイベント処理部31から弦長ディレイPt_r[n]が設定されており、その弦長ディレイPt_f[n]分だけチャンネル出力データs35を遅延して、オールパスフィルタ(APF)37へ出力する。
【0059】
オールパスフィルタ37は、当該1波長の小数部に応じた値として、ノートイベント処理部31から弦長ディレイPt_f[n]が設定されており、その弦長ディレイPt_f[n]分だけディレイ回路36の出力データs36を遅延して、ローパスフィルタ(LPF)38へ出力する。つまり、ディレイ回路36及びオールパスフィルタ37により、ノートナンバー情報(音高情報)に応じて決定されている時間(1波長分の時間)が遅延される。
【0060】
ローパスフィルタ38は、その弦長の周波数に対してノートイベント処理部31から設定された広域減衰用のカットオフ周波数Fc[n]より、オールパスフィルタ37の出力データs37の低域側を通過させて、アンプ39および遅延保持部40へ出力する。
【0061】
アンプ39は、ノートイベント処理部31から与えられる帰還量信号s313に応じてローパスフィルタ38からの出力データs38を減衰させた後に加算器41へ出力する。この帰還量信号s313は、押鍵状態かつダンパオフ状態ではDecay(減衰)のレートに従った値に応じて設定される一方で、非押鍵状態かつダンパオン状態ではRelease(余韻)のレートに従った値に応じて設定される。当該帰還量信号s313は、Release(余韻)の比率が高い場合に、より小さくなり、音の減衰が早く、弦音の共鳴の度合いも低いものとなる。
【0062】
遅延保持部40は、ローパスフィルタ38が出力した波形データを1サンプリング周期分(Z-1)だけ保持した上で、減算器44へ減数として出力する。
【0063】
減算器44にはまた、アンプ68Aから全弦モデルを重畳した、1サンプリング周期前の共鳴音用の弦音の出力データs68aが入力されており、遅延保持部40を介したローパスフィルタ38の出力である、自身の弦モデルの出力データs40を減数として、その差の出力データs44が加算器45に出力される。
【0064】
加算器45にはまた、アンプ68Bからの打撃音の出力データs68bが入力されており、それらの加算による和出力の出力データs45がアンプ43へ与えられる。アンプ43は、エンベロープジェネレータ42から与えられる、ノートイベント処理部31からの共鳴値に対応して時間的に変化するADSR(Attach(立ち上がり)/Decay(減衰)/Sustain(減衰後の保持)/Release(余韻))の段階に応じた音量を示す信号s42に基づいた減衰処理を実行し、減衰処理後の出力データs43を加算器41へ出力する。
【0065】
加算器41は、アンプ39の出力である、自身の弦モデルの出力データs39とアンプ43の出力である、全体の弦音および打撃音の共鳴音の出力データs43とを加算して、その和出力の出力データs41を加算器35に与えることで、共鳴音の閉ループ回路へのフィードバック入力を行なう。
【0066】
ノートイベント処理部31へノートオン信号s13a5が入力される場合、発音開始前に、アンプ34へベロシティ信号s312、ピッチに応じたディレイ回路36への遅延時間の整数部Pt_r[n]、オールパスフィルタ37への同小数部弦長ディレイPt_f[n]、ローパスフィルタ38のカットオフ周波数Fc[n]、アンプ39への帰還量信号s313、エンベロープジェネレータ42への共鳴値信号s314をそれぞれ所定のレベルに設定する。
【0067】
波形読み出し部32に発音開始信号s311が入力されると、所定のベロシティ信号s312に応じた出力データs34が閉ループ回路に与えられて、設定された音色変化、遅延時間にしたがって発音を開始する。
【0068】
その後、当該ノートでのノートオフ信号s13a5により、所定のRelease(余韻)の比率に応じた帰還量信号s313がアンプ39に与えられて、消音動作に移行する。
【0069】
押鍵状態およびダンパオフ状態では、エンベロープジェネレータ42に与えられる帰還量信号s314が、ディレイ回路36、オールパスフィルタ37での遅延量にしたがった値となる。
【0070】
一方で非押鍵状態およびダンパオン状態では、エンベロープジェネレータ42に与えられる帰還量信号s314が、Release(余韻)時の音量に応じた値となる。
【0071】
エンベロープジェネレータ42に与える帰還量信号s314の制御として、非押鍵状態およびダンパオン状態の方が小さくなり、音の減衰が早く、共鳴もあまりしないものとする。
【0072】
また、非押鍵状態でダンパオフ状態にある場合、つまりダンパペダル12が踏まれた状態では、ダンパオン/オフ信号s13a9に従って、前述したノートオン時の一連のパラメータが設定されるが、波形読み出し部32への発音開始信号s311は送られず、波形読み出し部32およびアンプ34を介しての加算器35への出力データs34の入力がない動作となる。
【0073】
また、押鍵状態でダンパオフ状態にある場合には、弦音の出力データs68aの入力や打撃音の出力データs68bの入力により、ディレイ回路36、オールパスフィルタ37、ローパスフィルタ38とアンプ39、アンプ43、加算器41を含む閉ループ回路を励振して、共鳴音を発生する。
【0074】
弦音モデルチャンネル63A~63Cは、前述したようにピアノのノート1チャンネル当たり3弦分が配置されるもので、ダイナミックアサインの場合は、3弦に固定しておき、すべてのチャンネルの出力データ(s63)の処理動作を統一しておくと、処理のプログラム構造上、またハードウェアの回路構造上の単純化と、弦構造のダイナミックな変更が必要なく、メリットを有するものとなる。
【0075】
この点は、本実施形態で最低音のノート1オクターブ等に限られた音域の音源処理のみを行わない場合に、本来は必要ない打撃音の出力データの入力においても統一したことと同じ理由である。
【0076】
各弦モデルのチャンネル構成を3弦のモデルに統一した場合で、3弦モデルが、2弦、1弦の領域のノートにアサインされた場合には、発音について励振信号データを出力する開始処理の段階で制御しても良いし、弦の音程(ユニゾン(デチューン))を表す微妙な音程差を無くす設定とすることでも簡単に対応できる。
【0077】
また、弦モデルを例えば88ノート分用意して各ノートを固定的にアサインするスタティックアサインを実行する場合は、この限りではない。
【0078】
本願発明をさらに具体的な実施例で説明すれば、ダンパペダル12を踏み込みながら鍵盤11に含まれる最低音域1オクターブに含まれる鍵を除くいずれかの第1鍵が押鍵された場合、第1鍵に応じた第1チャンネルからの第1出力データを、最低音域1オクターブに応じた12個の低音域チャンネル(21-01~21-12)に入力する。
【0079】
ここで、最低音域1オクターブに応じたいずれの低音域チャンネルにも励振信号データ(低音域励振信号データ)は入力されない。すなわち、12個の低音域チャンネルそれぞれに含まれる波形読み出し部32は、励振信号波形メモリ61から励振信号データ(低音域励振信号データ)を読み出さない。
【0080】
ダンパペダル12が踏み込まれることで(ダンパがオフされることで)、最低音域1オクターブに応じた12個の低音域チャンネルを、押鍵された第1鍵の共鳴弦としての音を生成するために使用するだけであって、最低音域1オクターブに含まれる鍵が押鍵されたわけではなく、これらの鍵の押鍵に応じた音を生成するために、これらの低音域チャンネルを使用するわけではないからである。
【0081】
本発明の実施形態では、この12個の低音域チャンネルそれぞれの出力データと、押鍵された第1鍵に対応するチャンネルからの出力データと、を加算器22で加算(マージ)することで、押鍵された第1鍵に対応する、ダンパオフ時の共鳴音を含む楽音データを生成する。
【0082】
ここで、ダンパペダル12を踏み込みながら鍵盤11に含まれる最低音域1オクターブに含まれるいずれかの第2鍵が押鍵された場合、第2鍵に対応する第2チャンネルからの出力データを、最低音域1オクターブに応じた12個の低音域チャンネルのなかの第2チャンネルを除く11個の低音域チャンネルに入力し、11個の低音域チャンネルからの出力データと、第2チャンネルからの出力データと、を加算器22で加算(マージ)することで、押鍵された第2鍵に対応する、ダンパオフ時の共鳴音を含む楽音データを生成する。
【0083】
なお、この場合、低音域チャンネルである第2チャンネルに対応する波形読み出し部32は、励振信号波形メモリ61から励振信号データ(低音域励振信号データ)を読み出す。一方、残りの11個の低音域チャンネルそれぞれに含まれる波形読み出し部32は、励振信号波形メモリ61から励振信号データ(低音域励振信号データ)を読み出していない。
【0084】
図5は、主として
図3の打撃音発生チャンネル64の詳細な回路構成を示すブロック図である。打撃音発生チャンネル64においては、ダイナミックアサイン方式への対応により32チャンネルの信号発生回路を有するものとしている。
【0085】
以下、打撃音発生チャンネル64の1つを例にとって説明する。
ノートイベント処理部31は、CPU13Aからノートオン/オフ信号s13a5が与えられて、波形読み出し部91に発音制御信号s315を、エンベロープジェネレータ(EG)42にノートオン/オフとベロシティを指示する信号s317を、さらにローパスフィルタ(LPF)92にベロシティに応じたカットオフ周波数Fcを指示する信号s316をそれぞれ送出する。
【0086】
ノートイベント処理部31からの発音制御信号s315を受けた波形読み出し部91は、PCM音源として打撃音の信号データs62が記憶された打撃音波形メモリ62(ROM15)から指示された信号データs62を読み出してローパスフィルタ92へ出力する。
【0087】
ローパスフィルタ92は、打撃音の信号データs62に対して、ノートイベント処理部31から与えられるカットオフ周波数Fcより低域側の成分を通過させることで、ベロシティに応じた音色の変化を与えて、アンプ93へ出力する。
【0088】
アンプ93は、エンベロープジェネレータ42から与えられる、ノートイベント処理部31からのベロシティに対応して時間的に変化するADSRの段階に応じた音量を示す信号s42に基づいた音量調整処理を実行し、処理後の打撃音のチャンネル出力データs93(s64)を後段の加算器65Bへ出力する。
【0089】
図3にも示した如く、最大32チャンネル分の打撃音のチャンネル出力データs64が加算器65Bで合成されて取り纏められ、アンプ66Bを介して加算器69へ出力される一方で、アンプ68Bを介して弦音の楽音信号を取扱う弦音モデルチャンネル63側へも出力される。
【0090】
図6は、
図4の弦音モデルチャンネル63内で弦音の励振信号データs61を読み出す波形読み出し部32、および
図5の打撃音発生チャンネル64内で打撃音信号データs62を読み出す波形読み出し部91の共通した回路構成を示すブロック図である。
鍵盤部11での押鍵があった場合、発音すべきノートナンバーとベロシティ値とに応じた先頭アドレスを示すオフセットアドレスが、オフセットアドレスレジスタ51に保持される。このオフセットアドレスレジスタ51の保持内容s51が加算器52に出力される。
【0091】
一方、発音初期時にリセットされて「0(ゼロ)」となるカレントアドレスカウンタ53のカウント値s53が、加算器52、補間部56、加算器55に出力される。
【0092】
カレントアドレスカウンタ53は、インパルスの再生ピッチを保持するピッチレジスタ54の保持値s54と、自身のカウント値s53とが加算器55で加算された結果s55により、順次カウント値を増加させるカウンタとなる。
【0093】
ピッチレジスタ54の設定値であるインパルスの再生ピッチは、通常の場合、励振信号波形メモリ61または打撃音波形メモリ62内の信号データのサンプリングレートが弦モデルと一致していれば「1.0」となる一方、マスタチューニングやストレッチチューニング、音律等によりピッチが変更された場合には「1.0」から加減された値が与えられる。
【0094】
カレントアドレスカウンタ53からのカレントアドレスs53にオフセットアドレスレジスタ51からのオフセットアドレスs51を加算する加算器52の出力(アドレス整数部)s52が、読出しアドレスとして励振信号波形メモリ61(または打撃音波形メモリ62)に出力され、励振信号波形メモリ61(または打撃音波形メモリ62)から対応する弦音の励振信号データs61(または打撃音の信号データs62)が読出される。
【0095】
読出された信号データs61(またはs62)は、補間部56において、カレントアドレスカウンタ53の出力する、ピッチに応じたアドレス小数部に応じて補間処理された後に、インパルス出力として出力される。
【0096】
図7は、
図4のオールパスフィルタ37の詳細な回路構成を示すブロック図である。前段のディレイ回路36からの出力s36が、減算器71に入力される。減算器71は、アンプ72が出力する、1サンプリング周期前の波形データを減数として減算を実行し、その差となる出力データを遅延保持部73及びアンプ74へ出力する。アンプ74は、弦長ディレイPt_fに応じて減衰させた出力データを加算器75へ出力する。
【0097】
遅延保持部73は、送られてきた出力データを保持し、1サンプリング周期分(Z-1)遅延してアンプ72及び加算器75へ出力する。アンプ72は、弦長ディレイPt_fに応じて減衰させた出力データを減算器71へ減数として出力する。加算器75の和出力が、前段のディレイ回路36での遅延動作と合わせて、入力されたノートナンバー情報(音高情報)に応じて決定されている時間(1波長分の時間)分だけ遅延した出力データs37として、後段のローパスフィルタ38へ送出される。
【0098】
図8は、
図4のローパスフィルタ38の詳細な回路構成を示すブロック図である。前段のオールパスフィルタ37からの遅延された出力データs37が減算器81に入力される。減算器81には、アンプ82が出力する、カットオフ周波数Fc以上の出力データが減数として与えられるもので、その差として、カットオフ周波数Fc未満の低域側の出力データが算出され、加算器83に出力される。
【0099】
加算器83には、遅延保持部84が出力する、1サンプリング周期前の同出力データが合わせて入力され、その和となる出力データが遅延保持部84へ出力される。遅延保持部84は、加算器83から送られてきた出力データを保持し、1サンプリング周期分(Z-1)遅延して、このローパスフィルタ39の出力データs38とする一方で、アンプ82、加算器83へも出力する。
【0100】
結果としてローパスフィルタ38は、その弦長の周波数に対して設定された広域減衰用のカットオフ周波数Fcより低域側の波形データを通過させて、後段のアンプ39および遅延保持部40へ出力する。
【0101】
閉ループ回路の中では、出力データが繰り返し通過するためにローパスフィルタ38での除去能力が高まるので、アンプ82に与えられるカットオフ周波数Fcとしては、通常高めの値の周波数を採ることが多い。
【0102】
[動作]
次に前記実施形態の動作について説明する。
図9は、ダンパペダル12が踏まれ、ダンパオフの信号s12がCPU13Aで受信されて、CPU13Aが最低音域1オクターブ分、12ノートのダンパオフを指示する各種信号をノートイベント処理部31に出力する場合の処理内容を示すフローチャートである。
【0103】
処理当初にCPU13Aは、その時点での演奏状態により32チャンネル分の弦音モデルチャンネル63の中で、空きチャンネルとなっているチャンネル番号を検索する(ステップS101)。
【0104】
なお、空きチャンネルとなっているチャンネル番号に加えて、その時点で楽音を発生しているチャンネルで、発生している楽音の音圧を示すチャンネル出力データs63の波高値が、予め定められるしきい値に達していないチャンネルや、その時点で最も高い楽音の音圧を示すチャンネル出力データs63の波高に比して、所定の割合よりチャンネル出力データs63の波高値が低いチャンネルも、空きチャンネルと見做して検索するものとしてもよい。
【0105】
次にCPU13Aは、その時点で鍵盤部11で押鍵中であるノートの番号の情報を、弦音モデルチャンネル63での使用状況を検索して収集する(ステップS102)。
【0106】
次にCPU13Aは、最低音域のA0~G1♯の1オクターブ分、12ノートのダンパオフ制御を開始する(ステップS103)。
【0107】
その後、CPU13Aはその時点で32チャンネル中に楽音を発生していない空きチャンネルがあるか否かを判断する(ステップS104)。
【0108】
ここで空きチャンネルがあると判断した場合(ステップS104のYES)、続いてCPU13Aは、最低音域のA0~G1♯の1オクターブ、12ノート分についての処理を終了したか否かを判断する(ステップS105)。
【0109】
最低音域の1オクターブ分についての処理が終了していないと判断した場合(ステップS105のNO)、CPU13Aは、最初はそれらの中でも最も低いA0のノートを選択して判断対象とした上で、鍵盤部11で当該ノートが押鍵中であるか否かを判断する(ステップS106)。
【0110】
当該ノートが押鍵中ではないと判断した場合(ステップS106のNO)、CPU13Aは当該ノートを空きチャンネルに割り当て、当該チャンネルについてダンパオフとして楽音の共鳴音を発生させる処理を開始させる(ステップS107)。
【0111】
その後、処理対象を1ノート上に移動するよう設定した上で(ステップS108)、ステップS104からの処理に戻る。
【0112】
またステップS106において、鍵盤部11で当該ノートが押鍵中であると判断した場合(ステップS106のYES)、すでのそのノートでのダンパオフ処理は実行されているものとして、CPU13Aは当該ノートでの追加処理をスキップした上で、処理対象を1ノート上に移動するよう設定し(ステップS109)、その後にステップS104からの処理に戻る。
【0113】
こうしてステップS107、S108の処理、またはステップS109の処理を最低音域の12のノート、1オクターブ分実行する。
【0114】
ステップS104において、楽音を発生していない空きチャンネルがないと判断した場合(ステップS104のNO)、およびステップS105において、最低音域の1オクターブ分についての処理が終了したと判断した場合(ステップS105のYES)、CPU13Aは、その時点で
図9での処理を終了する。
【0115】
続く
図10は、ダンパペダル12が踏まれた状態から戻され、ダンパオンの信号s12がCPU13Aで受信されて、CPU13Aがダンパオンを指示する各種信号をノートイベント処理部31に出力する場合の処理内容を示すフローチャートである。
【0116】
処理当初にCPU13Aは、その時点で押鍵中であるノートの番号の情報を、弦音モデルチャンネル63での使用状況を検索して収集する(ステップS201)。
【0117】
次にCPU13Aは、最低音域のA0~G1♯の1オクターブ分、12ノートのダンパオン制御を開始する(ステップS201)。
【0118】
その後、最低音域の12のノートのうちの1つ、最初はそれらの中でも最も低いA0のノートを選択した状態から、最低音域のA0~G1♯の1オクターブ、12ノート分についての処理を終了したか否かを判断する(ステップS203)。
【0119】
最低音域の1オクターブ分についての処理が終了していないと判断した場合(ステップS203のNO)、CPU13Aは、その時点で選択している最低音域のノートが押鍵中であるか否かを判断する(ステップS204)。
【0120】
鍵盤部11で当該ノートが押鍵中であると判断した場合(ステップS204のYES)、CPU13Aは当該ノートでの追加処理をスキップした上で、処理対象を1ノート上に移動するよう設定し(ステップS205)、その後にステップS203からの処理に戻る。
【0121】
こうして最低音域のA0~G1♯の1オクターブ分、12ノートについて、それぞれ当該ノートが押鍵中であれば、ステップS205の処理を繰り返し実行することにより、ダンパオフの状態を維持する。
【0122】
またステップS204において、最低音域の12のノート中、鍵盤部11で当該ノートが押鍵中ではないと判断した場合(ステップS204のNO)、CPU13Aは順次最低音域のノートから該当する弦音モデルチャンネル63にダンパオンの信号を送出して、共鳴音を減衰させる処理を実行する(ステップS206)。
【0123】
その後、処理対象を1ノート上に移動するよう設定した上で(ステップS207)、ステップS203からの処理に戻る。
【0124】
ステップS203において、最低音域の1オクターブ分についての処理が終了したと判断した場合(ステップS107のYES)、CPU13Aは、その時点で
図10での処理を終了する。
【0125】
次に、弦音の波形データと打撃音の波形データの加算合成を行なう構成について
図11乃至
図14を用いて説明する。
図11は、アコースティックピアノの発生する、ある音高f0のノートが押鍵された場合に発生する楽音の周波数スペクトルを例示する図である。図示するように、ピーク状の基本f0とその倍音f1、f2、‥‥とが連なった弦音と、それらピーク状の弦音の間隙部分XI、XI、‥‥に発生する打撃音とで周波数スペクトルが構成されている。本実施形態では、弦音の波形の信号データと打撃音の波形の信号データを別に発生させた上で、それらを加算合成することで、より自然なピアノの楽音データを発生させる。
【0126】
図12は、
図11の周波数スペクトルから弦音の波形成分を除去した、打撃音の周波数スペクトルを例示する図である。このような波形を有する打撃音の信号データが、打撃音波形メモリ62に記憶されており、
図5で示したように打撃音発生チャンネル64で波形読み出し部91により読み出される。
【0127】
一方で、
図13に示すように、ピーク状の基本f0とその倍音f1、f2、‥‥とが連なった周波数スペクトルを有する弦音の信号データが励振信号波形メモリ61に記憶されており、
図4で示したように弦音モデルチャンネル63で波形読み出し部32により読み出される。
【0128】
図14は、ピアノの楽音を構成する各波形と加算合成されたピアノの楽音の波形の具体例を示す図である。
図14(A)に示す周波数スペクトルを有する弦音の出力データs66aと、
図14(B)に示すような周波数スペクトルを有する打撃音の出力データs66bとを加算合成することで、
図14(C)に示すような、きわめてアコースティックピアノの楽音に近い、自然なピアノに近似した楽音データs69を発生させることができる。
【0129】
なお、実際に弦音と打撃音とを加算する際の加算比に関して説明する。
弦音が、ピアノの弦が有する物理的基本特性により発生する音であるのに対し、本実施形態で定義した打撃音は、前述した如く、押鍵によってピアノ内部でハンマーが弦に衝突する際の衝突音、ハンマーの動作音、ピアノ奏者の指による打鍵音、鍵盤がストッパに当たって止まる際の音、その他、純粋な弦音の成分を除いた他の音の成分を含めており、種々の要素を含んでいる。
【0130】
弦音と打撃音の加算比は、合成したい音やピアノの種類、想定するピアノとの距離等に応じて変化させる。
【0131】
例えば、打撃音がより大きく聞こえるのは、ピアノの演奏をより近い位置から聞いた場合であるので、ピアノからの距離を近いものとして設定する場合には、打撃音の加算比を大きくし、反対に遠くからピアノの演奏を聞くものとして設定する場合には、打撃音の加算比を小さくする。
【0132】
加えて、例えばダンパペダル12が踏まれていない状態の共鳴音、すなわちダンパレゾナンスのない、ストリングレゾナンスのみの共鳴音を発生させる場合には、共鳴音は純音に近いものとして、打撃音の加算比を小さくする一方で、ダンパペダル12が踏まれた状態での共鳴音は、ダンパレゾナンスが発生し、全体の共鳴音が打撃音に励起された広い周波数帯域を有する音が発生するものとして、打撃音の加算比を大きくするような設定が考えられる。
【0133】
実際のアコースティックピアノの弦の音が、ブリッジに通じている共鳴板で増幅されて当該ピアノの外側に出力されるのに対して、弦の共鳴動作は、主にブリッジを通じて、弦同士が共振することで発生するため、共鳴板で響く弦音とは異なって、共鳴音は打撃音の成分が多くなるとともに、ピアノの種類、機種等によっても成分比が異なる。
【0134】
そこで本実施形態では、共鳴用のブリッジ伝達音の成分が、ピアノの合成音とは別の比率で合成できるものとして構成している。
【0135】
このようにピアノの種類、機種や、ユーザの好み等により、具体的には各アンプでの増幅率(減衰率)を変えて設定することで、発生する共鳴音の音質を調整できるような構成とした。
【0136】
最後に、あらためてダンパペダル12が踏まれた時に発生する共鳴音であるダンパレゾナンスの原理構成について説明しておく。
【0137】
図15は、
図15(A)に示す基音に対し、
図15(B)に示す1オクターブ高い倍音、
図15(C)に示す2オクターブ高い倍音、
図15(D)に示す3オクターブ高い倍音の各波形の関係を例示している。
【0138】
基音の周波数に対してそれぞれオクターブ離れた関係にある、例えばC0、C1、C2、‥‥のように音名が同じ弦の倍音は、最も長い弦がその倍音すべてを含んでいる。したがって、ダンパペダル12が踏まれた場合に、最低音域の1オクターブ分、12ノートにより共鳴音を発生させることで、すべての音域の倍音を含んだ共鳴音を発生させることができる。
【0139】
以上詳述した如く本実施形態によれば、良好なダンパレゾナンスを発生させることが可能となる。
【0140】
本実施形態では、最低音域の連続する複数のノートに基づいてダンパレゾナンス音を発生させるため、それらの基音と各倍音を含んだ、より精緻なダンパレゾナンス音を得ることができる。
【0141】
この点で特に本実施形態では、最低音域の1オクターブ、12ノート分によりダンパレゾナンス音を発生させるため、それらの基音と各倍音により、すべての音高を含んだ、本来のダンパレゾナンス音に十分近似した共鳴音を発生させることかできる。
【0142】
また本実施形態では、弦音の楽音信号と打撃音の楽音信号とを帰還入力するものとしたため、アコースティックピアノを始めとして、弦打楽器のより自然な楽音を発生させることができる。
【0143】
最低音域のノートを弦音のモデルチャンネルに割り当てるに当たっては、可聴周波数範囲内でより多くの倍音を内在している低音側のノートから順に空きチャンネルに割り当てるものとしたので、効率的にチャンネルの振り当てを実施できる。
【0144】
また本実施形態でも説明したが、空きチャンネルに加えて、予め設定した音圧未満の発音中のチャンネルなども、仮想的な空きチャンネルと見做して最低音域のノートを割り当てる対象としても良く、マスキング効果を考慮して音源のチャンネルを有効に活用できる。
【0145】
さらに本実施形態では、その時点で押鍵に対応して発音中のチャンネルへはあらたなノートへの割り当ては行わないものとしたので、発音中の楽音を乱すことなく、チャンネルへの割り当て処理を効率的に処理できる。
【0146】
また本実施形態では、最低音域のノートで押鍵状態にあるものは、当該ノートに対応するダンパオフ処理がすでに行われているものとして、チャンネルへの割り当て処理をスキップするようにしたので、チャンネルへの割り当て処理を効率的に処理できる。
【0147】
さらに本実施形態では、複数の弦音の発生チャンネルに加えて、複数の打撃音の発生チャンネルを有して、弦音と打撃音とを加算合成して楽音信号を生成するものとしたので、アコースティックピアノなどの弦打楽器の楽音を単に忠実に再現できるだけでなく、楽器の機種や、楽器の位置とその楽音を聞く者の距離や位置関係、好みの音なども考慮して発生させる楽音を設定できるなど、より自由度の高い設定による演奏を楽しむことができる。
【0148】
この場合、打撃音の楽音信号は、弦音の楽音信号のようにオクターブ周期でピーク特性を有するものではなく、それらピーク特性間で変動する波形として与えられ、弦音と打撃音とで比率や特性等を異ならせるなどの取り扱いを容易としている。
【0149】
また本実施形態では、弦音を発生させる音源の複数のチャンネルを共通構造とすることで、ノートの音域によって1チャンネル当たりで発生させる弦音の数が異なるアコースティックピアノの楽音を発生させる場合などでも効率的にチャンネルの割り当てを実施できる。
【0150】
また本実施形態では、弦音の楽音信号を閉ループ回路でネガティブフィードバックさせるような構成としたことにより、少ない回路規模で共鳴音を効率的に発生させることができる。
【0151】
加えて本実施形態では、各閉ループ回路で、各弦音の楽音信号の加算結果から、当該チャンネルの当該閉ループ回路の出力を減算した弦音の楽音信号をネガティブフィードバックするものとしたので、回路規模を増大することなく、異常発振を抑制しながら共鳴音を生成することが可能となる。
【0152】
なお、前述した如く、本実施形態は電子鍵盤楽器に適用した場合について説明したものであるが、本発明は楽器や特定のモデルに限定されるものではない。
【0153】
その他、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0154】
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[請求項1]
第1鍵と、低音域側の複数の低音域鍵と、を含む鍵盤と、
プロセッサと、
音源と、
を備え、
前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた第1チャンネルに入力し、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力し、
前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力する、
電子鍵盤楽器。
[請求項2]
前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域励振信号データを、前記各低音域チャンネルに入力しない、
請求項1に記載の電子鍵盤楽器。
[請求項3]
前記プロセッサによるダンパオフ非検出時における前記第1鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた第1チャンネルに入力し、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、前記複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力せずに、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力する、
請求項1または2に記載の電子鍵盤楽器。
[請求項4]
前記複数の低音域鍵は、少なくとも1オクターブ分の低音域鍵を含む、
請求項1乃至3のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
[請求項5]
前記第1励振信号データを前記第1チャンネルに入力するとともに、前記第1鍵に対応する基音成分及び倍音成分の間の周波数成分を補完する打撃音の打撃音信号データを前記第1チャンネルに入力する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
[請求項6]
前記プロセッサによるダンパオフ検出時における前記複数の低音域鍵中のいずれかの第2鍵の押鍵検出に応じて、前記音源は、
前記第2鍵に対応する第2励振信号データを、前記第2鍵に応じた第2チャンネルに入力し、
前記第2励振信号データの入力に応じて前記第2チャンネルが出力する第2チャンネル出力データを、前記第2鍵を除く複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力し、
前記第2チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第2チャンネルが出力する第2チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第2鍵に応じた楽音データとして出力する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
[請求項7]
電子鍵盤楽器のコンピュータに、
第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた第1チャンネルに入力させ、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力させ、
前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力させる、
楽音発生方法。
[請求項8]
電子鍵盤楽器のコンピュータに、
第1鍵に対応する第1励振信号データを、前記第1鍵に応じた第1チャンネルに入力させ、
前記第1励振信号データの入力に応じて前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データを、複数の低音域鍵それぞれに対応する各低音域チャンネルにそれぞれ入力させ、
前記第1チャンネル出力データの入力に応じて前記各低音域チャンネルがそれぞれ出力する各低音域チャンネル出力データと、前記第1チャンネルが出力する第1チャンネル出力データと、に基づいて生成される楽音データを、前記第1鍵に応じた楽音データとして出力させる、
プログラム。
【符号の説明】
【0155】
10…電子鍵盤楽器
11…鍵盤部
12…ダンパペダル
13…LSI
13A…CPU
13B…第1のRAM
13C…音源DSP
13D…D/A変換部(DAC)
14…第2のRAM
15…ROM
16…アンプ(amp.)
17…スピーカ
21-01~21-88…(1ノート分の)弦モデルチャンネル
22…加算器
23…(ネガティブフィードバック用)アンプ
31…ノートイベント処理部
32…波形読み出し部
34…アンプ
35…加算器
36…ディレイ回路
37…オールパスフィルタ(APF)
38…ローパスフィルタ(LPF)
39…アンプ
40…遅延保持部(Z-1)
41…加算器
42…エンベロープジェネレータ(EG)
43…アンプ
44…減算器
45…加算器
51…オフセットアドレスレジスタ
52…加算器
53…カレントアドレスカウンタ
54…ピッチレジスタ
55…加算器
56…補間部
61…励振信号波形メモリ
62…打撃音波形メモリ
63、63A~63C…弦音モデルチャンネル
64…打撃音発生チャンネル
65A、65B…加算器
66A、66B…アンプ
67A…遅延保持部(Z-1)
68A、68B…アンプ
69…加算器
71…減算器
72…アンプ
73…遅延保持部(Z-1)
74…アンプ
75…加算器
81…減算器
82…アンプ
83…加算器
84…遅延保持部(Z-1)
91…波形読み出し部
92…ローパスフィルタ(LPF)
93…アンプ
B…バス