(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】機械制御システム、波形生成装置、波形生成方法、および波形生成プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
G05B13/02 C
(21)【出願番号】P 2020092062
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】萩原 淳
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-45957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して生成された第2波形を記憶する波形記憶部と、
前記第2波形に基づいて前記機械を動作させる機械制御部と、
を備える機械制御システム。
【請求項2】
前記実数kは0.5以上である、
請求項1に記載の機械制御システム。
【請求項3】
前記第1波形に基づいて前記第2波形を生成し、該生成された第2波形を前記波形記憶部に格納する波形生成部をさらに備える請求項1または2に記載の機械制御システム。
【請求項4】
前記波形生成部は、
前記第1波形を前記機械の目標値に基づいて正規化し、
該正規化された第1波形を前記実数kでべき乗して中間波形を生成し、
該中間波形と前記目標値とに基づいて前記第2波形を生成する、
請求項3に記載の機械制御システム。
【請求項5】
前記波形生成部は、前記第2波形の導関数がすべての周波数成分を含むように前記第2波形を生成する、
請求項3または4に記載の機械制御システム。
【請求項6】
前記第1波形および前記第2波形のそれぞれは、前記機械の位置の経時変化を表し、
前記機械制御部は、前記第2波形に基づいて前記機械を動作させる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の機械制御システム。
【請求項7】
前記機械の速度、加速度、および加加速度の少なくとも一つを表す基本波形を積分することで前記第1波形を生成する積分部をさらに備える請求項6に記載の機械制御システム。
【請求項8】
前記機械制御部による前記機械の動作を示す応答値に基づいて、前記機械の特性を示す機械特性値を特定するシステム同定部をさらに備える請求項1~7のいずれか一項に記載の機械制御システム。
【請求項9】
前記機械制御部による前記機械の動作を示す応答値に基づいて、前記機械制御部による制御に用いられるゲインを調整するゲイン調整部をさらに備える請求項1~8のいずれか一項に記載の機械制御システム。
【請求項10】
機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成する波形生成部と、
前記第2波形を記憶する波形記憶部と、
を備える波形生成装置。
【請求項11】
少なくとも一つのプロセッサを備える波形生成装置によって実行される波形生成方法であって、
機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成するステップと、
前記第2波形を波形記憶部に記憶するステップと、
を含む波形生成方法。
【請求項12】
機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成するステップと、
前記第2波形を波形記憶部に記憶するステップと、
をコンピュータに実行させる波形生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、機械制御システム、波形生成装置、波形生成方法、および波形生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、M系列信号が加算されたモータ駆動信号をモータに印加したときの当該モータの応答に基づいてモータパラメータを同定するパラメータ同定手段を含むモータ制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機械を動作させるための適切な指令信号を生成することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る機械制御システムは、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して生成された第2波形を記憶する波形記憶部と、第2波形に基づいて機械を動作させる機械制御部とを備える。
【0006】
本開示の一側面に係る波形生成装置は、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成する波形生成部と、第2波形を記憶する波形記憶部とを備える。
【0007】
本開示の一側面に係る波形生成方法は、少なくとも一つのプロセッサを備える波形生成装置によって実行される波形生成方法であって、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成するステップと、第2波形を波形記憶部に記憶するステップとを含む。
【0008】
本開示の一側面に係る波形生成プログラムは、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成するステップと、第2波形を波形記憶部に記憶するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一側面によれば、機械を動作させるための適切な指令信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】機械制御システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】機械制御システムで用いられるコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】機械制御システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1波形から第2波形を生成する一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
[システムの概要]
実施形態に係る機械制御システム1は、機械2を制御するコンピュータシステムである。機械とは、動力を受けて目的に応じた所定の動作を行って、有用な仕事を実行する装置をいう。機械2の例として、任意の種類のロボットと、任意の種類の工作機械とが挙げられるが、機械2の種類はこれらに限定されない。機械制御システム1は任意の機械を制御するために用いることができる。
【0013】
機械制御システム1は機械2を制御するための指令信号を機械2に向けて出力する。機械2はこの指令信号に基づいて動作する。指令信号とは、機械2を制御するための命令である指令を示すデータ信号をいう。指令信号の例としてトルク指令および電流指令が挙げられる。しかし、指令信号の種類はこれらに限定されない。
【0014】
一例では、機械制御システム1はシステム同定およびゲイン調整のうちの少なくとも一つのために、すべての周波数成分を含む指令信号を出力する。この指令信号を生成する従来技術として、チャープ(chirp)信号およびM系列信号が挙げられる。しかし、これらの特殊な信号を用いる場合には、周波数範囲、入力時間、振幅などのパラメータを試行錯誤しながら設定する必要がある。そのため、システム同定またはゲイン調整のための指令信号の準備が煩雑であり、且つその準備に専門的知識を要する。また、その従来技術では機械の動作音がうるさくなるので、機械2のユーザにストレスを与える可能性がある(例えば、機械2が壊れるのではないかという不安をユーザに抱かせるかもしれない)。機械制御システム1はこのような従来技術とは全く異なる手法で、すべての周波数成分を含む指令信号を出力する。
【0015】
[システムの構成]
図1は機械制御システム1の構成の一例を示す図である。機械制御システム1は機械2と接続される。
図1では一つの機械2を示す。しかし、機械2の個数は限定されず、機械制御システム1は複数の機械2と接続してもよい。
【0016】
一例では、機械制御システム1は生成装置10、制御装置20、同定装置30、および調整装置40を備える。生成装置10は、すべての周波数成分を含む信号波形を制御装置20に提供する装置である。信号波形とは、機械の制御に用いられる信号の経時変化を示す情報をいい、より具体的には、その信号で表される物理量の経時変化を示す情報をいう。本開示では「信号波形」を単に「波形」ともいう。生成装置10は波形生成装置の一例である。制御装置20はその信号波形に基づいて機械2を制御する装置である。例えば、制御装置20はその信号波形に基づいて機械2を動作させる。一例では、制御装置20は機械2からの応答に基づくフィードバック制御を実行する。制御装置20は、制御部(機械制御部)という機能モジュールの一例である。同定装置30は機械の特性を示す機械特性値を特定する装置である。本開示では、機械特性値を特定する処理を「システム同定」ともいう。同定装置30は、同定部(システム同定部)という機能モジュールの一例である。調整装置40は、制御装置20による機械2の制御に用いられるゲインを調整する装置である。ゲインとは、指令に対する機械の応答(追従)に関連するパラメータをいう。本開示では、ゲインを調整する処理を「ゲイン調整」ともいう。調整装置40は、調整部(ゲイン調整部)という機能モジュールの一例である。
【0017】
図1は生成装置10の機能構成の一例も示す。生成装置10は生成部11、記憶部12、および出力部13を備える。生成部11は、すべての周波数成分を含む信号波形を生成する機能モジュール(波形生成部)である。記憶部12はその信号波形を一時的にまたは非一時的に記憶する機能モジュール(波形記憶部)である。出力部13はその信号波形を制御装置20に出力する機能モジュールである。
【0018】
機械制御システム1を構成する各種の装置として機能するコンピュータは限定されない。一例では、そのコンピュータは、パーソナルコンピュータ、業務用サーバなどの汎用コンピュータでもよいし、特定の処理を実行する専用装置に組み込まれてもよい。
【0019】
図2は、機械制御システム1で用いられるコンピュータ100のハードウェア構成の一例を示す図である。この例では、コンピュータ100は本体110、モニタ120、および入力デバイス130を備える。
【0020】
本体110はコンピュータの主たる機能を実行する装置である。本体110は回路160を有し、回路160は、少なくとも一つのプロセッサ161と、メモリ162と、ストレージ163と、入出力ポート164と、通信ポート165とを有する。ストレージ163は、本体110の各機能モジュールを構成するためのプログラムを記録する。ストレージ163は、ハードディスク、不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等の、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。メモリ162は、ストレージ163からロードされたプログラム、プロセッサ161の演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ161は、メモリ162と協働してプログラムを実行することで、各機能モジュールを構成する。入出力ポート164は、プロセッサ161からの指令に応じて、モニタ120または入力デバイス130との間で電気信号の入出力を行う。入出力ポート164は他の装置との間で電気信号の入出力を行ってもよい。通信ポート165は、プロセッサ161からの指令に従って、通信ネットワークNを介して他の装置との間でデータ通信を行う。
【0021】
モニタ120は、本体110から出力された情報を表示するための装置である。モニタ120は、グラフィック表示が可能であればいかなるものであってもよく、その具体例としては液晶パネル等が挙げられる。
【0022】
入力デバイス130は、本体110に情報を入力するための装置である。入力デバイス130は、所望の情報を入力可能であればいかなるものであってもよく、その具体例としてはキーパッド、マウス、操作コントローラ等の操作インタフェースが挙げられる。
【0023】
モニタ120および入力デバイス130はタッチパネルとして一体化されていてもよい。例えばタブレットコンピュータのように、本体110、モニタ120、および入力デバイス130が一体化されていてもよい。
【0024】
[機械制御方法および波形生成方法]
本開示に係る機械制御方法および波形生成方法の一例として、
図3を参照しながら、機械制御システム1により実行される一連の処理手順の一例を説明する。
図3は機械制御システム1の動作の一例を処理フローS1として示すフローチャートである。すなわち、機械制御システム1は処理フローS1を実行する。
【0025】
ステップS11では、生成装置10の生成部11が第1波形を示す第1関数を取得する。第1波形とは、機械2を動作させるための指令(機械2の動作の指令)を表す信号波形をいう。一例では、第1波形は、機械2の初期設定または調整を実行するために用いられる信号波形ではなく、機械2に有用な仕事を実際に実行させるために用いられる信号波形である。すなわち、第1波形は、メンテナンス用の信号波形ではなく通常運用のための信号波形である。あるいは、第1波形は、システム同定またはゲイン調整を実行するために用いられる信号波形でもよい。例えば、第1波形は、システム同定またはゲイン調整を短時間で実行したり、その実行における機械2の動作範囲を狭く抑えたりするための専用の信号波形でもよい。これらのような第1波形では一部の周波数成分が0であり、すなわち、第1波形はすべての周波数成分を含まない。第1関数とは第1波形の数学的表現をいい、機械2への指令に関する複数の変数同士の関係(例えば、時間と位置との関係)を示す。一例では、第1波形(第1関数)は機械2の位置の経時変化を表し、言い換えると、機械2の位置を決めるための指令を表すといえる。機械の位置は、機械の構成要素の位置でもよいし、機械そのものの位置でもよい。
【0026】
第1関数の取得方法は限定されない。例えば、生成部11はユーザによって入力された第1関数を取得してもよいし、他のコンピュータから第1関数を受信してもよいし、所定の記憶装置(例えばストレージ163)に予め記憶されている第1関数を読み出してもよい。あるいは、生成部11は第1波形を任意の手法で取得し、その第1波形を解析することで第1関数を特定してもよい。一例では、生成部11は、機械2の位置の変化の程度を表す基本波形(言い換えると、該基本波形を示す基本関数)を取得し、この基本波形(基本関数)を積分することで第1波形(第1関数)を生成してもよい。したがって、生成部11は積分部として機能してもよい。基本関数は第1関数の導関数といえる。一例では、基本波形(基本関数)は機械2の速度、加速度、および加加速度(躍度)の少なくとも一つを表し、より具体的には、機械2の速度、加速度、および加加速度の経時変化を表す。
【0027】
ステップS12では、生成部11が、第1波形を示す第1関数を実数kでべき乗して、第2波形を示す第2関数を生成する。本開示ではこの処理を端的に「第1波形を実数kでべき乗して第2波形を生成する」ともいう。第2波形も、第1波形と同様に、機械2を動作させるための指令を表す信号波形である。しかし、第2波形はすべての周波数成分を含む点で第1波形と異なる。実数kは、0および1以外の値である。0および1と異なる限り、実数kの具体的な数値は限定されない。一例では、実数kは0.5以上に設定される。
【0028】
一例では、生成部11は第1波形(第1関数)を正規化した上でべき演算を実行してもよい。具体的には、生成部11は第1波形(第1関数)を機械2の目標値に基づいて正規化する。本開示において正規化とは、信号波形(関数)の従属変数の値が所与の数値範囲内に収まるように該信号波形(該関数)を変形する処理をいう。機械2の目標値とは、機械2が動作することで到達すべき該機械2の最終的な状態を示す物理量である。例えば、その目標値は機械2の最終的な位置(これを「目標位置」ともいう)を示してもよい。オリジナルの第1波形(第1関数)は目標値を示す。この目標値は様々な数値を取り得るので、生成部11は正規化によって計算を単純化する。例えば、生成部11は目標値を1に変換するように第1波形(第1関数)を正規化してもよい。生成部11は正規化された第1関数を実数kでべき乗して中間波形(言い換えると、該中間波形を示す中間関数)を生成する。そして、生成部11はその中間波形(中間関数)と機械2の目標値とに基づいて第2波形(第2関数)を生成する。この第2波形(第2関数)は目標値を示す。正規化を含むこの一連の処理は、例えば下記の式(1)によって表される。
f_new(t)=D・(f(t)/D)k …(1)
【0029】
ここで、f(t)は機械2の位置の経時変化を示す第1関数である。Dは機械2の目標値である。f_new(t)は機械2の位置の経時変化を示す第2関数である。
【0030】
別の例では、生成部11は上記の正規化を実行することなく、第1関数を実数kでべき乗して第2波形(第2関数)を生成してもよい。例えば、生成部11は第1関数f(t)を実数kでべき乗し、その結果にD/Dkを乗ずることで第2関数f_new(t)を生成してもよい。すなわち、生成部11は下記の式(2)によって第2波形(第2関数)を生成してもよい。
f_new(t)=D/Dk・f(t)k …(2)
【0031】
第1波形(第1関数)を正規化するか否かに拘わらず、第1関数のべき演算は下記式(3)によって表すことができる。すなわち、第1関数のべき演算は指数関数および自然対数を用いて表現できる。
f(t)k=exp{k・ln(f(t))} …(3)
【0032】
図4は第1波形(第1関数)から第2波形(第2関数)を生成する一例を示す図である。この例では、第1波形(第1関数)および第2波形(第2関数)は、いずれも機械2の位置の経時変化を示す。波形201は第1関数の一階導関数により表され、したがって、機械2の速度の経時変化を示す。波形201の周波数特性211から明らかなように、第1波形(第1関数)ではパワーが0の周波数(10Hz、20Hz、30Hz、40Hz、および50Hz)が存在する。すなわち、第1波形は一部の周波数成分を含まない。
【0033】
波形202は、第1関数を実数kでべき乗することで得られる第2関数の一階導関数により表される。波形202も機械2の速度の経時変化を示す。波形202の周波数特性212から明らかなように、第2波形(第2関数)はすべての周波数成分を含む。すなわち、生成部11は、第2関数の導関数がすべての周波数成分を含むように第2波形(第2関数)を生成する。
【0034】
波形201,202の比較から分かるように、機械2の速度が最終的に0になる時点、すなわち機械2が目標値に達する時点は、第1波形(第1関数)と第2波形(第2関数)とで変わらない。これは、生成部11が、すべての周波数成分を含む第2波形(第2関数)を、機械2の動作時間および移動距離を変えることなく生成することを意味する。すなわち、生成部11は、当初に意図された機械2の動作を変えることなく、すべての周波数成分を含む信号波形を生成することができる。
【0035】
第2関数が機械2の位置の経時変化を示す場合には、導関数の従属変数(速度、加速度、または加加速度)は0で始まり0で終わる。
図4の例は、機械2が目標値に達して初めて速度が0に戻るので、機械2の位置を示す第2波形は単調増加を示す。しかし、第2波形は単調増加に限定されない。いずれにしても、生成部11は、第1波形(第1関数)が通常運用での機械2の様々な動作の混合(例えば、加速、減速、定速、および一旦停止から選択される任意の2以上の組合せ)を示す場合にも、すべての周波数成分を含む第2波形(第2関数)を生成することができる。
【0036】
図3に戻って、ステップS13では、生成部11が第2波形または第2関数を記憶部12に格納する。この結果、記憶部12は第2波形または第2関数を記憶する。生成部11は第2波形そのものを示す情報を格納してもよいし、第2関数を格納してもよい。第2関数は第2波形を示すので、第2関数の格納は第2波形の格納の一例である。
【0037】
ステップS14では、制御装置20が第2波形に基づいて機械2を制御する。具体的には、生成装置10の出力部13が記憶部12から第2波形(第2関数)を読み出し、該第2波形(第2関数)を制御装置20に送信する。一例では、第2波形(第2関数)は機械2の位置の経時変化を表し、したがって位置指令であるといえる。制御装置20は機械2を動作させるための指令信号(例えば、位置指令に基づくトルク指令)をその第2波形に基づいて生成し、該指令信号を機械2に送信する。機械2はその指令信号に従って動作する。
【0038】
ステップS15では、同定装置30がシステム同定を実行する。同定装置30は、制御装置20から送信された指令信号と、その操作信号よる機械2の動作を示す応答値とを取得する。応答値とは、指令に対する出力である応答を示す物理量をいう。応答とは、より具体的には機械2の動作または状態をいう。動作または状態は任意のデータ項目によって表されてよく、例えば、位置、姿勢、速度、加速度、トルク、力、および電流値のうちの少なくとも一つによって表されてもよい。応答値の取得方法は限定されない。例えば、同定装置30は機械2の各種のセンサデータを応答値として取得してもよい。センサの種類は限定されず、例えば、位置センサ(例えばエンコーダ)、速度センサ、加速度センサ、電圧センサ、電流センサ、温度センサ、ジャイロセンサ、カメラ、圧力センサ、ToF(Time-of-Flight)センサなどの各種のセンサが用いられてよい。あるいは、同定装置30はフィードバックデータ、または制御ループ内の指令の変化を示すデータを取得してもよい。
【0039】
一例では、同定装置30は指令信号および応答値に基づいて機械特性値を特定する。これは、同定装置30が、すべての周波数成分を含む第2波形に基づいてシステム同定を実行することを意味する。同定装置30は任意の種類の機械特性値を特定してよい。例えば、同定装置30はイナーシャ(慣性モーメント)、粘性摩擦係数、剛性、共振周波数、反共振周波数、および一定外乱(例えば、粘性摩擦、クーロン摩擦、重力など)のうちの少なくとも一つを同定してもよい。
【0040】
同定の際に、制御装置20はフィードバック制御を行わず、フィードフォワード制御のみを行ってもよい。例えば、制御装置20は位置指令を2回微分し、その微分結果にイナーシャを乗じて生成したトルク指令信号を指令信号として用いてもよい。あるいは、生成装置10が、加速度指令にイナーシャを乗じたトルク指令を第2波形として提供し、制御装置20がその第2波形をそのまま指令信号として機械2に入力してもよい。
【0041】
同定装置30は特定された機械特性値を任意の手法で出力する。例えば、同定装置は機械特性値を、モニタ120上に出力してもよいし、ストレージ163に格納してもよいし、他のコンピュータに送信してもよい。
【0042】
ステップS16では、調整装置40がゲイン調整を実行する。調整装置40は、出力部13から送信された第2波形(第2関数。例えば位置指令)と、該第2波形に基づく機械2の動作を示す応答値とを取得する。調整装置40は同定装置30と同様に応答値を取得することができる。一例では、調整装置40は第2波形および応答値に基づいてゲインを調整する。これは、同定装置30が、すべての周波数成分を含む第2波形に基づいてゲイン調整を実行することを意味する。調整装置40は任意の種類のゲインを調整してよい。一例として、調整装置40はPID制御において、比例ゲインKp、積分ゲインKi、および微分ゲインKvを調整する。調整装置40は調整されたゲインを制御装置20に送信して、制御装置20が所望の特性を得るように(例えば振動を抑えつつできるだけ早く機械2を制御するように)制御装置20の動作を調整する。
【0043】
システム同定(ステップS15)およびゲイン調整(ステップS16)は必須の処理ではない。機械制御システム1はこれらの二つの処理のうちの一つのみを実行してもよいし、双方を実行しなくてもよい。
【0044】
[プログラム]
機械制御システム1の各機能モジュールは、プロセッサ161またはメモリ162の上に機械制御プログラムを読み込ませてプロセッサ161にそのプログラムを実行させることで実現される。機械制御プログラムは、機械制御システム1の各機能モジュールを実現するためのコードを含む。プロセッサ161は機械制御プログラムに従って入出力ポート164または通信ポート165を動作させ、メモリ162またはストレージ163におけるデータの読み出しおよび書き込みを実行する。このような処理により機械制御システム1の各機能モジュールが実現される。
【0045】
一例では、機械制御プログラムは、生成装置10に対応するコード(波形生成プログラム)と、制御装置20に対応するコードと、同定装置30に対応するコードと、調整装置40に対応するコードとを含む。これらの個々のコードは個々のコンピュータに分散して提供される。
【0046】
機械制御プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの非一時的な記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、機械制御プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0047】
[効果]
以上説明したように、本開示の一側面に係る機械制御システムは、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して生成された第2波形を記憶する波形記憶部と、第2波形に基づいて機械を動作させる機械制御部とを備える。
【0048】
本開示の一側面に係る波形生成装置は、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成する波形生成部と、第2波形を記憶する波形記憶部とを備える。
【0049】
本開示の一側面に係る波形生成方法は、少なくとも一つのプロセッサを備える波形生成装置によって実行される波形生成方法であって、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成するステップと、第2波形を波形記憶部に記憶するステップとを含む。
【0050】
本開示の一側面に係る波形生成プログラムは、機械の動作の指令を表す第1波形を0および1以外の実数kでべき乗して第2波形を生成するステップと、第2波形を波形記憶部に記憶するステップとをコンピュータに実行させる。
【0051】
このような側面においては、べき演算によって指令そのものにすべての周波数成分を含ませることができるので、機械を動作させるための適切な指令信号が得られる。加えて、この指令信号を用いることで、チャープ信号、M系列信号などの従来の信号を用いる場合よりも機械の動作音を低減させることができる。
【0052】
他の側面に係る機械制御システムでは、実数kは0.5以上であってもよい。この場合には、指令が急峻になるのを防ぐことができる。
【0053】
他の側面に係る機械制御システムでは、第1波形に基づいて第2波形を生成し、該生成された第2波形を波形記憶部に格納する波形生成部をさらに備えてもよい。この場合には、すべての周波数成分を含む第2波形を任意の第1波形から生成することができる。
【0054】
他の側面に係る機械制御システムでは、波形生成部は、第1波形を機械の目標値に基づいて正規化し、該正規化された第1波形を実数kでべき乗して中間波形を生成し、該中間波形と目標値とに基づいて第2波形を生成してもよい。正規化によって具体的な目標値を取り除いた波形をべき乗し、そのべき乗により得られる波形(中間波形)に該目標値を適用することで、第2波形を簡単に算出することができる。したがって、その分だけ指令信号を短時間で生成できる。
【0055】
他の側面に係る機械制御システムでは、波形生成部は、第2波形の導関数がすべての周波数成分を含むように、第2波形を生成してもよい。この場合には、機械の位置を変化させるための部品の動作に関連する波形(例えば、モータの動きを直接にまたは間接的に表す波形)においてすべての周波数成分が含まれる。導関数がこのような性質を持つ第2波形を用いることで、適切な指令信号を得ることができる。その結果、例えば、機械の動作音を低減させることが可能になる。
【0056】
他の側面に係る機械制御システムでは、第1波形および第2波形のそれぞれは、機械の位置の経時変化を表し、機械制御部は、第2波形に基づいて機械を動作させてもよい。この場合には、機械の位置を制御するための適切な指令信号を生成することができる。
【0057】
他の側面に係る機械制御システムでは、機械の速度、加速度、および加加速度の少なくとも一つを表す基本波形を積分することで第1波形を生成する積分部をさらに備えてもよい。この場合には、速度、加速度、または加加速度に関する指令を用いて第2波形を得ることができる。
【0058】
他の側面に係る機械制御システムでは、機械制御部による機械の動作を示す応答値に基づいて、機械の特性を示す機械特性値を特定するシステム同定部をさらに備えてもよい。第2波形に基づく応答値を用いることで、機械の動作音を低減させつつ、すべての周波数成分を考慮して機械の特性を特定することができる。
【0059】
他の側面に係る機械制御システムでは、機械制御部による機械の動作を示す応答値に基づいて、機械制御部による制御に用いられるゲインを調整するゲイン調整部をさらに備えてもよい。第2波形に基づく応答値を用いることで、機械の動作音を低減させつつ、すべての周波数成分を考慮してゲインを調整することができる。
【0060】
[変形例]
以上、本開示の実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0061】
機械制御システムの構成は上記実施形態に限定されない。例えば、機械制御システムにおいて同定装置30および調整装置40は必須ではなく、これらの装置の少なくとも一つが他のコンピュータシステムに属してもよい。機械制御システム1は生成部11を備えなくてもよく、この場合には、記憶部12は他のコンピュータシステムにおいて生成された第2波形または第2関数を格納する。生成装置10、制御装置20、同定装置30、および調整装置40のうちの任意の2以上が一つの装置に集約されてもよい。
【0062】
システムのハードウェア構成は、プログラムの実行により各機能モジュールを実現する態様に限定されない。例えば、上記実施形態における機能モジュールの少なくとも一部が、その機能に特化した論理回路により構成されていてもよいし、該論理回路を集積したASIC(ApplicationSpecific Integrated Circuit)により構成されてもよい。
【0063】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される方法の処理手順は上記実施形態での例に限定されない。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0064】
コンピュータシステムまたはコンピュータ内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらを用いてもよく、「以下」および「未満」という二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。
【符号の説明】
【0065】
1…機械制御システム、2…機械、10…生成装置、11…生成部、12…記憶部、13…出力部、20…制御装置、30…同定装置、40…調整装置。