(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】圧延機の蛇行制御装置
(51)【国際特許分類】
B21B 37/58 20060101AFI20230816BHJP
B21B 37/28 20060101ALI20230816BHJP
B21B 38/12 20060101ALI20230816BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B21B37/58 B
B21B37/28 130
B21B38/12
B21C51/00 L
(21)【出願番号】P 2020132499
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡
(72)【発明者】
【氏名】高木 山河
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-007819(JP,A)
【文献】特開2006-150414(JP,A)
【文献】特開2004-074207(JP,A)
【文献】特開2016-203190(JP,A)
【文献】特開2020-011256(JP,A)
【文献】特開平06-007818(JP,A)
【文献】特開2013-128983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧下レベリング装置を有する第1圧延スタンドと、圧延材の流れの方向において前記第1圧延スタンドの上流に位置する第2圧延スタンドと、前記第1圧延スタンドと前記第2圧延スタンドとの間に配置されて前記圧延材の蛇行量を検出する蛇行量検出装置と、を有する圧延機の蛇行制御装置であって、
前記第1圧延スタンドの圧下レベリング量と、前記第1圧延スタンドの圧延差荷重と、前記第2圧延スタンドの出側の板厚ウェッジとに基づいて、前記第1圧延スタンドの入側及び出側の板厚ウェッジを推定する板厚ウェッジ推定部と、
前記圧延材の尾端が前記第2圧延スタンドを通過後、前記蛇行量検出装置で検出された蛇行量と、前記板厚ウェッジ推定部で推定された前記第1圧延スタンドの少なくとも入側の板厚ウェッジとに基づいて、前記第1圧延スタンドの圧下レベリング修正量を算出する圧下レベリング修正量演算部と、
前記圧下レベリング修正量演算部から出力された前記圧下レベリング修正量に基づいて、前記圧下レベリング装置を操作する圧下レベリング制御部と、を備え、
前記圧下レベリング修正量演算部は、
前記蛇行量検出装置で検出された蛇行量に基づいて、同蛇行量を低減する第1圧下レベリング修正量を算出する蛇行補償部と、
前記板厚ウェッジ推定部で推定された前記第1圧延スタンドの入側の板厚ウェッジに基づいて、同入側の板厚ウェッジが前記圧延材の回転に作用する影響を補償する第2圧下レベリング修正量を算出する入側板厚ウェッジ補償部と、
前記第1圧延スタンドの圧延差荷重に基づいて、同圧延差荷重による前記第1圧延スタンドの変形が前記第1圧延スタンドの出側の板厚ウェッジへ与える影響を補償する第3圧下レベリング修正量を算出する圧延機変形補償部とを有し、
前記圧下レベリング修正量は、前記第1圧下レベリング修正量と前記第2圧下レベリング修正量と前記第3圧下レベリング修正量とを含む
ことを特徴とする圧延機の蛇行制御装置。
【請求項2】
圧下レベリング装置を有する第1圧延スタンドと、圧延材の流れの方向において前記第1圧延スタンドの上流に位置する第2圧延スタンドと、前記第1圧延スタンドと前記第2圧延スタンドとの間に配置されて前記圧延材の蛇行量を検出する蛇行量検出装置と、を有する圧延機の蛇行制御装置であって、
前記第1圧延スタンドの圧下レベリング量と、前記第1圧延スタンドの圧延差荷重と、前記第2圧延スタンドの出側の板厚ウェッジとに基づいて、前記第1圧延スタンドの入側及び出側の板厚ウェッジを推定する板厚ウェッジ推定部と、
前記圧延材の尾端が前記第2圧延スタンドを通過後、前記蛇行量検出装置で検出された蛇行量と、前記板厚ウェッジ推定部で推定された前記第1圧延スタンドの少なくとも入側の板厚ウェッジとに基づいて、前記第1圧延スタンドの圧下レベリング修正量を算出する圧下レベリング修正量演算部と、
前記圧下レベリング修正量演算部から出力された前記圧下レベリング修正量に基づいて、前記圧下レベリング装置を操作する圧下レベリング制御部と、
前記圧延材の尾端が前記第2圧延スタンドを通過するより前に、前記第1圧延スタンドの圧延差荷重が所定の値となるように前記圧下レベリング装置を操作するゼロ点調整動作部と、
前記ゼロ点調整動作部が前記圧下レベリング装置の操作に用いた圧下レベリング操作量に基づいて、前記圧下レベリング装置の圧下レベリング誤差を推定する圧下レベリング誤差推定部と、を備え
前記板厚ウェッジ推定部は、前記圧下レベリング誤差推定部で推定された前記圧下レベリング誤差に基づいて前記第1圧延スタンドの出側の板厚ウェッジの推定値を補正する
ことを特徴とする圧延機の蛇行制御装置。
【請求項3】
前記圧下レベリング修正量演算部は、
前記蛇行量検出装置で検出された蛇行量に基づいて、同蛇行量を低減する第1圧下レベリング修正量を算出する蛇行補償部と、
前記板厚ウェッジ推定部で推定された前記第1圧延スタンドの入側の板厚ウェッジに基づいて、同入側の板厚ウェッジが前記圧延材の回転に作用する影響を補償する第2圧下レベリング修正量を算出する入側板厚ウェッジ補償部と、を有し、
前記圧下レベリング修正量は、少なくとも前記第1圧下レベリング修正量と前記第2圧下レベリング修正量とを含む
ことを特徴とする
請求項2に記載の圧延機の蛇行制御装置。
【請求項4】
前記圧下レベリング修正量演算部は、
前記第1圧延スタンドの圧延差荷重に基づいて、同圧延差荷重による前記第1圧延スタンドの変形が前記第1圧延スタンドの出側の板厚ウェッジへ与える影響を補償する第3圧下レベリング修正量を算出する圧延機変形補償部をさらに有し、
前記圧下レベリング修正量は、前記第3圧下レベリング修正量をさらに含む
ことを特徴とする
請求項3に記載の圧延機の蛇行制御装置。
【請求項5】
前記圧延機は、最終圧延スタンドの出側に配置されて前記圧延材の板厚ウェッジを検出する板厚ウェッジ検出装置を有し、
前記蛇行制御装置は、前記板厚ウェッジ検出装置で検出された板厚ウェッジに基づいて前記圧延材の左右温度差に起因する温度要因差荷重比率を推定する温度要因差荷重比率算出部をさらに備え、
前記圧下レベリング誤差推定部は、前記温度要因差荷重比率算出部で推定された温度要因差荷重比率に基づいて、前記圧延材の左右温度差の前記圧下レベリング量への影響を補償する補正量を算出し、同補正量によって前記圧下レベリング誤差を補正する
ことを特徴とする
請求項2乃至4の何れか1項に記載の圧延機の蛇行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧延スタンドで構成される熱間仕上圧延機で圧延材を圧延する際に、尾端付近で発生する圧延材の蛇行を抑制するように圧下レベリングを制御する蛇行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間仕上圧延機など、複数の圧延スタンドから構成される圧延装置では、圧延材を圧延するに際して発生する蛇行の抑制が課題となっている。蛇行とは、圧延材が圧延ロール幅方向中心位置からずれ、左右何れかの方向に移動する現象をいう。
【0003】
圧延材の尾端が圧延スタンドを抜け、圧延材に後方張力による拘束が無くなったとき、圧延中に生じた左右(駆動側と作業側)の伸びの差は、次の圧延スタンドの入側において圧延材の曲がりとなって現れる。これを圧延することで急激に蛇行が進行するため、蛇行現象の多くは、圧延材の尾端付近で発生する
【0004】
また、蛇行量が大きい場合、圧延スタンド入側に備えられたサイドガイドに圧延材が衝突し、部分的に折れ曲がった状態の圧延材が圧延スタンドに進入することがある。これを絞り込みと呼ぶ。絞り込みが発生すると、圧延ロールに傷が生じ、圧延ロールの交換作業などが行われるため生産性が低下する。
【0005】
圧延機で生じる蛇行を抑制する方法として、一般的には、各圧延スタンドの圧下レベリングを調整する措置がとられている。しかし、オペレータが蛇行発生を確認し、迅速かつ適切に圧下レベリングを制御するには、オペレータには熟練したスキルが求められる。このため、近年、スタンド間に蛇行検出用のカメラを設置し、検出した蛇行量に基づいて圧下レベリングを自動調整することで、蛇行を防止する制御技術が実用化されている。
【0006】
ところで、発生した蛇行を抑制するように圧下レベリングを操作すると、圧延スタンド出側の圧延材には圧下レベリングの操作に応じた板厚ウェッジが付くこととなる。熱間仕上圧延機のように複数段の圧延スタンドで構成される圧延機の場合、ある圧延スタンドで付いた板厚ウェッジは下流側の圧延スタンドの入側の板厚ウェッジとなり、蛇行を生じさせる要因となる。板厚が薄くなる後段の圧延スタンドほど、外乱による蛇行は生じやすく、入側板厚ウェッジの影響も大きくなる。
【0007】
このような問題に関して、特許文献1には、蛇行量と圧下レベリング量を変数とした評価関数が最小となるように、蛇行を抑制するための圧下レベリング修正量を算出する技術が記載されている。さらに、特許文献1には、蛇行量を抑制するために圧下レベリングが操作された圧延スタンドの下流側の各圧延スタンドにおいて、板厚ウェッジ比率が一定となるように圧下レベリング修正量を算出する方法が提案されている。また、特許文献2には、最終圧延スタンドの出側に配置された板厚ウェッジ検出装置で検出された板厚ウェッジ比率に基づいて、各圧延スタンドの圧下レベリング修正量を算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4016761号公報
【文献】特許第6044194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、蛇行を抑制するための圧下レベリング修正量を算出する際、入側の板厚ウェッジは考慮されていない。このため、圧延スタンド入側において圧延材の板厚ウェッジが急峻に変化する場合は、蛇行が適切に制御できない可能性がある。また、特許文献1の技術では、板厚ウェッジ比率を一定にするための圧下レベリング修正量は、上流側圧延スタンドの圧下レベリング量に影響係数を乗算することで決められている。ここでは板厚ウェッジは圧下レベリング量に比例することが前提とされている。しかし、実際の板厚ウェッジは、圧延中のロールバイトの左右間隙差で決まり、圧延差荷重による圧延機ハウジングの伸び、圧延ロールの撓み、ロール偏平などの影響も受ける。
【0010】
特許文献2の技術では、各圧延スタンドの入側と出側の板厚ウェッジ比率を一定にするための圧下レベリング修正量に加え、圧延差荷重に基づく補正も考慮されている。しかし、圧延ロールの不均一摩耗などにより、圧下レベリングの基準点(ゼロ点)にズレが生じた場合、各圧延スタンドの板厚ウェッジが正しく推定できず、蛇行制御が不安定になることがある。通常、圧延ロールは組み替え後、圧下レベリングのゼロ点調整が行われる。ところが、同一圧延ロールの使用を続けるにつれ、圧延ロールに不均一な摩耗が生じ、圧下レベリングと圧延ロール間の間隙差の関係が変化することがある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧延材が上流側の圧延スタンドを抜けた後の尾端部の蛇行を低減するように圧下レベリングを修正できる圧延機の蛇行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る圧延機の蛇行制御装置は、圧下レベリング装置を有する第1圧延スタンドと、圧延材の流れの方向において第1圧延スタンドの上流に位置する第2圧延スタンドと、第1圧延スタンドと第2圧延スタンドとの間に配置されて圧延材の蛇行量を検出する蛇行量検出装置と、を有する圧延機のための蛇行制御装置である。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る圧延機の蛇行制御装置は、板厚ウェッジ推定部と、圧下レベリング修正量演算部と、圧下レベリング制御部と、を備える。
【0014】
板厚ウェッジ推定部は、第1圧延スタンドの圧下レベリング量と、第1圧延スタンドの圧延差荷重と、第2圧延スタンドの出側の板厚ウェッジとに基づいて、第1圧延スタンドの入側及び出側の板厚ウェッジを推定するように構成される。圧下レベリング修正量演算部は、圧延材の尾端が第2圧延スタンドを通過後、蛇行量検出装置で検出された蛇行量と、板厚ウェッジ推定部で推定された第1圧延スタンドの少なくとも入側の板厚ウェッジとに基づいて、第1圧延スタンドの圧下レベリング修正量を算出するように構成される。圧下レベリング制御部は、圧下レベリング修正量演算部から出力された圧下レベリング修正量に基づいて、圧下レベリング装置を操作するように構成される。
【0015】
圧下レベリング修正量演算部は、蛇行補償部と、入側板厚ウェッジ補償部とを有してもよい。蛇行補償部は、蛇行量検出装置で検出された蛇行量に基づいて、同蛇行量を低減する第1圧下レベリング修正量を算出するように構成される。入側板厚ウェッジ補償部は、板厚ウェッジ推定部で推定された第1圧延スタンドの入側の板厚ウェッジに基づいて、同入側の板厚ウェッジが圧延材の回転に作用する影響を補償する第2圧下レベリング修正量を算出するように構成される。この場合、圧下レベリング修正量は、少なくとも第1圧下レベリング修正量と第2圧下レベリング修正量とを含む。
【0016】
さらに、圧下レベリング修正量演算部は、圧延機変形補償部を有してもよい。圧延機変形補償部は、第1圧延スタンドの圧延差荷重に基づいて、同圧延差荷重による第1圧延スタンドの変形が第1圧延スタンドの出側の板厚ウェッジへ与える影響を補償する第3圧下レベリング修正量を算出するように構成される。この場合、圧下レベリング修正量は、第1圧下レベリング修正量と第2圧下レベリング修正量に加えて、第3圧下レベリング修正量をさらに含む。
【0017】
本発明に係る圧延機の蛇行制御装置は、ゼロ点調整動作部と、圧下レベリング誤差推定部とをさらに備えてもよい。ゼロ点調整動作部は、圧延材の尾端が第2圧延スタンドを通過するより前に、第1圧延スタンドの圧延差荷重が所定の値となるように圧下レベリング装置を操作するように構成される。圧下レベリング誤差推定部は、ゼロ点調整動作部が圧下レベリング装置の操作に用いた圧下レベリング操作量に基づいて、圧下レベリング装置の圧下レベリング誤差を推定するように構成される。この場合、板厚ウェッジ推定部は、圧下レベリング誤差推定部で推定された圧下レベリング誤差に基づいて第1圧延スタンドの出側の板厚ウェッジの推定値を補正してもよい。
【0018】
圧延機は、最終圧延スタンドの出側に配置されて圧延材の板厚ウェッジを検出する板厚ウェッジ検出装置を有してもよい。また、本発明に係る圧延機の蛇行制御装置は、板厚ウェッジ検出装置で検出された板厚ウェッジに基づいて、圧延材の左右温度差に起因する温度要因差荷重比率を推定する温度要因差荷重比率算出部をさらに備えてもよい。この場合、圧下レベリング誤差推定部は、温度要因差荷重比率算出部で推定された温度要因差荷重比率に基づいて、圧延材の左右温度差の圧下レベリング量への影響を補償する補正量を算出し、同補正量によって前記圧下レベリング誤差を補正してもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように構成される本発明に係る蛇行制御装置によれば、圧延材が上流側の第2圧延スタンドを抜けた後に増大する圧延材の尾端部の蛇行を低減し、下流側の第1圧延スタンドを通過する際も、蛇行が生じないよう安定して圧延材を通板することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る蛇行制御装置を適用する圧延装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る蛇行制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る板厚ウェッジ推定部の圧延機の左右非対称の変形と板厚ウェッジとの関係を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係る圧下レベリング修正量演算部について説明するための図である。
【
図5】本発明の実施の形態2に係る蛇行制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態3に係る蛇行制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】蛇行制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面及び数式を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
1.蛇行制御装置が適用される圧延装置の構成例
図1は本実施の形態に係る蛇行制御装置が適用される圧延装置の構成例を示す図である。圧延材1は、圧延スタンドF
1、F
2、…、F
Nから構成される複数段の圧延機を図の左側から右側に移動しながら、所定の板厚に圧延される。各圧延スタンドF
iは荷重検出装置M
i、ロール回転速度検出装置R
i、及び圧下レベリング装置V
iを備えている。圧延スタンドF
1、F
2、…、F
Nの各スタンド間には、蛇行量検出装置D
iが設置される。蛇行量検出装置D
iは、圧延スタンドF
iの上流側に距離LD
i離隔して設置され、この位置での圧延材の蛇行量を検出する。最終圧延スタンドF
Nの出側には、板厚ウェッジ検出装置W
Nが設置されている。板厚ウェッジ検出装置W
Nは、その設置位置での圧延材の板厚ウェッジを検出する。
【0023】
蛇行制御装置X2、X3、…、XNは、二段目の圧延スタンドF2から最終圧延スタンドFNまでのそれぞれの圧延スタンドF2、F3、…、FNに対して設けられている。各蛇行制御装置Xiには、その入側に設置された蛇行量検出装置Diで検出された蛇行量と、荷重検出装置Miで検出された圧延差荷重が入力される。また、最終圧延スタンドFNには、その出側に設置された板厚ウェッジ検出装置WNで検出された板厚ウェッジが入力される。
【0024】
セットアップ装置10は、各蛇行制御装置Xiにおいて必要とされる各種セットアップ値を計算する。セットアップ値には、各圧延スタンドFiにおける、圧延材の板厚、板幅、影響係数、圧延スタンドFiの圧延ロール胴長、各種ばね定数などが含まれる。セットアップ装置10は、圧延スタンドFiでの圧延材の圧延開始前に、セットアップ値を蛇行制御装置Xiに出力する。
【0025】
蛇行制御装置Xiは、後述する計算処理によって圧下レベリング修正量を計算し、計算された圧下レベリング修正量を操作量として圧下レベリング装置Viを操作する。圧下レベリング修正量の計算には、セットアップ装置10から取得したセットアップ値と、蛇行量検出装置Diから取得した蛇行量と、ロール回転速度検出装置Riから取得したロール回転速度と、荷重検出装置Miから取得した圧延差荷重とが用いられる。
【0026】
2.実施の形態1に係る蛇行制御装置の構成
図2は本発明の実施の形態1に係る蛇行制御装置の構成を示すブロック図である。ここで、圧延スタンドF
iに適用される蛇行制御装置X
iを例に、蛇行制御装置を構成する機能を詳細に説明する。本実施の形態を含む各実施の形態では、圧延スタンドF
iが第1圧延スタンドに相当し、圧延スタンドF
iの上流に位置する上流側圧延スタンドF
i-1が第2圧延スタンドに相当する。蛇行制御装置X
iが有する機能は、
図2においてブロックで表されている。すなわち、板厚ウェッジ推定部20、圧下レベリング修正量演算部30、及び圧下レベリング制御部40が、蛇行制御装置X
iが有する機能である。蛇行制御装置X
iは、制御周期Tの経過毎に、それぞれの機能における処理を順次実施する。
【0027】
板厚ウェッジ推定部20は、セットアップ装置10から圧延スタンドの後進率を取得し、且つ、圧延スタンドFiのロール回転速度検出装置Riからロール回転速度を取得する。板厚ウェッジ推定部20は、取得した情報に基づいて、上流側圧延スタンドFi-1の蛇行制御装置Xi-1の板厚ウェッジ推定部20で算出された板厚ウェッジΔh*
i-1を圧延スタンドFiまでトラッキングする。板厚ウェッジ推定部20は、上流側圧延スタンドFi-1の出側板厚ウェッジΔh*
i-1を圧延スタンドFiの入側板厚ウェッジΔH*
iとして用いる。なお、本明細書では、符号の上付き記号は“*”は推定値であることを意味する。
【0028】
つぎに、板厚ウェッジ推定部20は、圧延スタンドの出側板厚ウェッジΔh
*
iを推定する。この推定には、圧延スタンドF
iの圧下レベリング量ΔS
i、荷重検出装置M
iから取得した圧延差荷重ΔP
i、及び入側板厚ウェッジΔH
*
iが用いられる。ここで、
図3は、圧延機の左右非対称の変形と板厚ウェッジとの関係を説明するための図である。出側板厚ウェッジは、圧延中のロールバイト間隙の左右差に等しく、圧延差荷重と圧下レベリング量で決まる。圧延差荷重は、圧延スタンドのハウジングの伸び、圧延ロールの撓み、及びロール偏平の左右差を生じさせ、ロールバイト間隙の左右差に影響する。
【0029】
圧延材の各演算点における圧延スタンド出側の板厚ウェッジは、式(1)、式(2)、及び式(3)に示すように、入側板厚ウェッジ、圧下レベリング量、圧延差荷重の線形和の形で推定することができる。
【数1】
【数2】
【数3】
ここで、
Δh
*:出側の板厚ウェッジ
Δh
D:圧延スタンドの変形により形成される出側の板厚ウェッジ
Δh
S:圧下レベリング量により形成される出側の板厚ウェッジ
ΔH
*:入側の板厚ウェッジ
ΔS:圧下レベリング量
ΔP:圧延差荷重
K
Hh:出側板厚ウェッジへの入側板厚ウェッジの影響係数
K
Sh:出側板厚ウェッジへの圧下レベリングの影響係数
K
Ph:出側板厚ウェッジへの圧延差荷重の影響係数
【0030】
なお、最上流圧延スタンドの入側板厚ウェッジは0とする。各影響係数は、セットアップ装置10から取得される、ミル定数、ロール扁平のバネ定数、圧延材の影響係数、圧延材の板幅、圧延ロール胴長などに基づいて決定される。例えば、各影響係数は、以下に示す、式(4)、式(5)、及び式(6)のように算出することができる。
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、
K
H:ハウジングの撓みばね定数
K
F:バックアップロールとワークロール間偏平のばね定数
k
f:ロールバイト間偏平のばね定数
l
S:左右荷重点間距離
l
R:ロール胴長
b:板幅
δP/δH:入側板厚の荷重への影響係数
δP/δh:出側板厚の荷重への影響係数
【0031】
次に、
図4を参照して、圧下レベリング修正量演算部30における、圧下レベリング修正量の決定方法について説明する。圧下レベリング修正量演算部30は、蛇行補償部31、入側板厚ウェッジ補償部32、及び圧延機変形補償部33を有する。
【0032】
蛇行補償部31は、蛇行量検出装置D
iで検出された蛇行量を低減するための圧下レベリング修正量(第1圧下レベリング修正量)を算出する。圧下レベリングと蛇行量との関係は線形とみなすことができるので、第1圧下レベリング修正量の計算にはPD制御器やPID制御器を用いることができる。具体的には、例えば、式(7)に示すPD制御器で第1圧下レベリング修正量を算出することができる。
【数7】
ここで、
ΔS
C1:蛇行補償部による第1圧下レベリング修正量
ΔY:蛇行量検出値
K
T,K
P,K
D:制御ゲイン
s:ラプラス演算子
【0033】
入側板厚ウェッジ補償部32は、入側板厚ウェッジに起因する圧延材の回転を生じさせないための圧下レベリング修正量(第2圧下レベリング修正量)を算出する。圧延材の回転は、出側板厚ウェッジ率と入側板厚ウェッジ率の差によって生じることが知られている。つまり、圧延スタンドの変形により形成される出側の板厚ウェッジがΔh
D=0のとき、式(8)を満たせば、圧延材の回転は生じない。
【数8】
ここで、
h:出側板厚
H:入側板厚
【0034】
式(8)と式(3)とから、出側板厚ウェッジ率を入側板厚ウェッジ率に一致させるための第2圧下レベリング修正量を算出する式(9)が得られる。
【数9】
ここで、
ΔS
C2:入側板厚ウェッジ補償部による第2圧下レベリング修正量
【0035】
圧延機変形補償部33は、圧延差荷重により生じる圧延スタンドのハウジング伸び、及び圧延ロールの変形の出側ウェッジへの影響を補償するような圧下レベリング修正量(第3圧下レベリング修正量)を算出する。式(1)、式(2)、及び式(3)に示した、出側板厚ウェッジと、圧延差荷重、圧下レベリング量、及び入側板厚ウェッジとの関係式から、出側板厚ウェッジはΔh*=0となる。
【0036】
具体的には、圧延機変形補償部33は、例えば、式(10)に示す式で第3圧下レベリング修正量を算出する。また、式(11)の様に近似的に単純化した式を用いることもできる。
【数10】
【数11】
ここで、
ΔS
C3:圧延機変形補償部による第3圧下レベリング修正量
K
M:圧延スタンド全体のたて剛性係数(ミル定数)
【0037】
圧下レベリング修正量演算部30は、上述の3つの圧下レベリング修正量ΔSC1,ΔSC2,及びΔSC3を合計する。圧下レベリング修正量演算部30は、その合計値を圧下レベリング修正量として圧下レベリング制御部40へ出力する。圧下レベリング制御部40は、圧下レベリング修正量演算部30で算出された圧下レベリング修正量に基づいて、圧下レベリング装置Viを操作する。
【0038】
以上の構成によれば、蛇行補償部31、入側板厚ウェッジ補償部32、及び圧延機変形補償部33のそれぞれで計算された圧下レベリング修正量が、圧下レベリング装置Viの操作に反映される。蛇行補償部31で計算された第1圧下レベリング修正量によれば、上流側で生じた蛇行量を低減することがでる。入側板厚ウェッジ補償部32で計算された第2圧下レベリング修正量によれば、入側板厚ウェッジに起因する圧延材の回転を抑えることができる。圧延機変形補償部33で計算された第3圧下レベリング修正量によれば、圧延差荷重により生じる圧延スタンドのハウジング伸び、及び圧延ロールの変形の出側ウェッジへの影響が補償される。したがって、本実施の形態に係る蛇行制御装置によれば、圧延材が上流側圧延スタンドを抜けた後に増大する圧延材の尾端部の蛇行を低減し、下流側の圧延スタンドを通過する際も、蛇行が生じないよう安定して圧延材を通板することができる。
【0039】
3.実施の形態2に係る蛇行制御装置の構成
図5は本発明の実施の形態2に係る蛇行制御装置の構成を示すブロック図である。ここも、圧延スタンドF
iに適用される蛇行制御装置X
iを例に、本実施の形態に係る蛇行制御装置を構成する機能を説明する。本実施の形態と上述の実施の形態1との相違点は、本実施の形態に係る蛇行制御装置はゼロ点調整動作部50と圧下レベリング誤差推定部60とを備えていることである。
【0040】
ゼロ点調整動作部50は、圧延材が圧延スタンドF
iに進入してから圧延材の尾端部が上流側圧延スタンドF
i-1を抜けるより前までの間の指定した期間において、圧延スタンドF
iの圧延差荷重が所定の値となるように圧下レベリングを操作する。この動作をゼロ点調整動作という。具体的には、圧延材の蛇行による差荷重の増加分を減じた圧延差荷重が0となるように圧下レベリングが操作される。ゼロ点調整動作は、例えば、式(12)に示すような制御器を用いて実現することができる。
【数12】
ここで、
P
SU:圧延荷重設定値
K:ゲイン
【0041】
圧下レベリング誤差推定部60は、ゼロ点調整動作部50によるゼロ点調整動作の実行期間において、所定の周期で圧下レベリング操作量ΔS
Z[j]を収集する。次に、圧下レベリング誤差推定部60は、式(13)に示すように、収集した圧下レベリング操作量の平均値を算出し、算出された平均値を圧下レベリング誤差とする。このように算出された圧下レベリング量は、圧延ロールの不均一摩耗などによる圧下レベリングの基準点ズレと考えることができる。
【数13】
ここで、
Z
S
CUR:圧下レベリング誤差今回値
ΔS
Z:ゼロ点調整操作量
n
Z:ゼロ点調整収集点数
【0042】
式(13)により算出された圧下レベリング誤差は、前回記憶された圧下レベリング誤差と平滑化することができる。平滑化処理は式(14)のように実施される。平滑化後の圧下レベリング誤差が更新値として記憶装置に記憶される。
【数14】
ここで、
Z
S
NEW:圧下レベリング誤差更新値
Z
S
CUR:圧下レベリング誤差今回値
Z
S
OLD:圧下レベリング誤差前回値
β:平滑化ゲイン
【0043】
圧下レベリング誤差推定部60は、次圧延材を圧延する際に、記憶装置に記憶されている圧下レベリング誤差を読み出し、板厚ウェッジ推定部20に出力する。なお、圧延スタンドFiの圧延ロールが交換された場合は、記憶されている圧下レベリング誤差は0に初期化される。
【0044】
本実施の形態では、板厚ウェッジ推定部20は、圧下レベリング誤差推定部60から出力された圧下レベリング誤差を考慮して、圧延スタンドF
iの出側の板厚ウェッジを推定する。具体的には、板厚ウェッジ推定部20は、式(1)を変更した式(15)のような式を用いて板厚ウェッジを推定する。
【数15】
【0045】
以上述べたように、本実施の形態に係る蛇行制御装置によれば、板厚ウェッジの推定において圧下レベリング誤差を考慮することで、圧延スタンド出側の板厚ウェッジをより正確に推定することができる。また、本実施の形態に係る蛇行制御装置によれば、圧延ロールに不均一摩耗がある場合でも、安定した蛇行制御を実現することができる。その結果、圧延材のサイドガイドへの衝突や、絞りなどのトラブルを回避することができる。
【0046】
4.実施の形態3に係る蛇行制御装置の構成
図6は本発明の実施の形態3に係る蛇行制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る蛇行制御装置は、最終圧延スタンドF
Nに備えられた蛇行制御装置X
Nである。本実施の形態に係る蛇行制御装置は、ゼロ点調整動作部50と圧下レベリング誤差推定部60に加えて、さらに温度要因差荷重比率算出部70を備えている。
【0047】
温度要因差荷重比率算出部70は、圧延材が最終圧延スタンドFNに進入してから圧延材の尾端部が上流側圧延スタンドFN-1を抜けるより前までの間の指定した期間において、所定の周期で情報を収集する。収集される情報は、荷重検出装置MNで検出された圧延差荷重、蛇行検出装置DNで検出された蛇行量、板厚ウェッジ検出装置WNで検出された出側板厚ウェッジ、及び推定された入側板厚ウェッジである。温度要因差荷重比率算出部70は、収集されたこれらの情報に基づいて、圧延材の左右温度差に起因する温度要因差荷重比率を推定する。
【0048】
各収集タイミングにおける、最終圧延スタンドF
Nの温度要因差荷重は、式(16)に示すように、最終圧延スタンドF
Nの圧延差荷重から、蛇行要因の圧延差荷重と、出側板厚ウェッジ要因の差荷重と、入側板厚ウェッジ要因の差荷重とを減じて算出される。圧延材の温度要因差荷重比率は、式(17)に示すように、最終圧延スタンドF
Nにおける温度要因差荷重の平均値を圧延荷重設定値で除算して算出される。
【数16】
【数17】
ここで、
ΔP
T
N:最終圧延スタンドの温度要因差荷重
γ
T:温度要因差荷重比率
Δh
N:最終圧延スタンド出側板厚ウェッジ検出値
n
T:収集点数
【0049】
圧延材の左右温度差に起因する圧延差荷重は、各圧延スタンドにおいて、圧延荷重に対し同程度の大きさの比率で生じると考えられる。各圧延スタンドにおける温度要因差荷重を推定するため、温度要因差荷重比率算出部70で算出された温度要因差荷重比率は、各圧延スタンドの蛇行制御装置X2、X3、…、XNに出力される。
【0050】
蛇行制御装置X2、X3、…、XNの圧下レベリング誤差推定部60は、式(13)に示したように、ゼロ点調整動作の実行期間に収集した圧下レベリング操作量の平均値を算出する。しかし、このように算出された圧下レベリング量には、圧下レベリング誤差の他、圧延材の左右温度差による圧延差荷重の影響が含まれる。
【0051】
そこで、本実施の形態では、圧下レベリング誤差推定部60は、圧延材の左右温度差による影響を考慮して、圧下レベリング誤差を推定する。具体的には、圧下レベリング誤差推定部60は、式(13)を変更した式(18)のような式を用いて、圧延材の左右温度差による影響が補正された圧下レベリング誤差を推定する。
【数18】
【0052】
以上述べたように、本実施の形態に係る蛇行制御装置によれば、圧下レベリング誤差を推定する際に、圧延材の左右温度差による差荷重の影響を補正することで、圧延スタンド出側の板厚ウェッジをより正確に推定することができる。
【0053】
5.蛇行制御装置のハードウェア構成例
図7は、上記各実施の形態に係る蛇行制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
図7は、
図2、
図5、及び
図6に示す蛇行制御装置の各機能は処理回路90により実現される。一態様として、処理回路90は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路90は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0054】
処理回路90がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェア及びファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0055】
処理回路90が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 圧延材
10 セットアップ装置
20 板厚ウェッジ推定部
30 圧下レベリング修正量演算部
31 蛇行補償部
32 入側板厚ウェッジ補償部
33 圧延機変形補償部
40 圧下レベリング制御部
50 ゼロ点調整動作部
70 温度要因差荷重比率算出部
90 処理回路
91 プロセッサ
92 メモリ
93 ハードウェア
F1、F2、…、FN 圧延スタンド
M1、M2、…、MN 荷重検出装置
V1、V2、…、VN 圧下レベリング装置
R1、R2、…、RN ロール回転速度検出装置
X2、X3、…、XN 蛇行制御装置
D2、D3、…、DN 蛇行量検出装置
WN 板厚ウェッジ検出装置