(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】Btk阻害活性を有する化合物を有効成分として含む自己免疫疾患の予防および/または治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/522 20060101AFI20230816BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20230816BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230816BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230816BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230816BHJP
C07D 473/34 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
A61K31/522
A61K31/519
A61K31/505
A61K31/4985
A61K31/506
A61K31/517
A61K45/00
A61P9/00
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P37/02
A61P13/12
A61P37/06
A61P43/00 105
C07D473/34 311
(21)【出願番号】P 2020515621
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2019018054
(87)【国際公開番号】W WO2019208805
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018085972
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】有座 夕子
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/152351(WO,A1)
【文献】LEE A.et al.,Successful use of Bruton's kinase inhibitor, ibrutinib, to control paraneoplastic pemphigus in a patient with paraneoplastic autoimmune multiorgan syndrome and chronic lymphocytic leukaemia,Australasian Journal of Dermatology,2017年,58,e240-e242
【文献】RANKIN A.L.et al.,Selective inhibition of BTK prevents murine lupus and antibody-mediated glomerulonephritis,J Immunol.,2013年,191,pp.4540-4550
【文献】KIM Y.et al.,HM71224, a selective Bruton's tyrosine kinase inhibitor, attenuates the development of murine lupus,Arthritis Research & Therapy,2017年,19,211, pp.1-11
【文献】MURREL D.et al.,A pilot study of the efficacy of a bruton's tyrosine kinase inhibitor in the treatment of dogs with pemphigus foliaceus,Australasian Journal of Dermatology,2017年,58(S1),p.73
【文献】CHALMERS S.A.et al.,Highly selective inhibition of Bruton's tyrosine kinase attenuates skin and brain disease in murine,Arthritis Research & Therapy,2018年01月25日,20,10, pp.1-11
【文献】MUSUMECI F.et al.,Pyrrolo[2,3-d]pyrimidines active as Btk inhibitors,Expert Opinion on Therapeutic Patents,2017年,27(12),pp.1305-1318
【文献】Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.,2018年03月08日,315,L52-L58
【文献】石津 明洋,抗好中球細胞質抗体と好中球細胞外トラップ,医学のあゆみ,2016年03月19日,256(12),p.1209-1213
【文献】石津 明洋,好中球細胞外トラップの異常とMPO-ANCA関連血管炎,日本小児腎臓病学会雑誌,2014年,27(2),p.81-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Btk阻害活性を有する化合物を含有する、
ANCA関連血管炎
の予防および/または治療剤
であって、
Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、イブルチニブ、スペブルチニブ、アカラブルチニブ、エヴォブルチニブ、ポセルチニブ、フェネブルチニブ、ヴェカブルチニブ、ザヌブルチニブ、PRN-1008、BMS-986142およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上である、剤。
【請求項2】
ANCA関連血管炎が、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chug-Strauss症候群)、および腎限局型血管炎からなる群から選択される1種以上である請求項1
に記載の剤。
【請求項3】
ANCA関連血管炎が、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chug-Strauss症候群)、および腎限局型血管炎からなる群から選択される1種以上である請求項1
又は2に記載の剤。
【請求項4】
ANCA関連血管炎が、MPO-ANCA陽性および/またはPR3-ANCA陽性のANCA関連血管炎である請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、またはその塩である請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の剤。
【請求項6】
ANCA関連血管炎
の予防および/または治療剤を製造するための、Btk阻害活性を有する化合物の使用
であって、
Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、イブルチニブ、スペブルチニブ、アカラブルチニブ、エヴォブルチニブ、ポセルチニブ、フェネブルチニブ、ヴェカブルチニブ、ザヌブルチニブ、PRN-1008、BMS-986142およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上である、使用。
【請求項7】
ANCA関連血管炎が、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chug-Strauss症候群)、および腎限局型血管炎からなる群から選択される1種以上である請求項6に記載の使用。
【請求項8】
ANCA関連血管炎が、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chug-Strauss症候群)、および腎限局型血管炎からなる群から選択される1種以上である請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
ANCA関連血管炎が、MPO-ANCA陽性および/またはPR3-ANCA陽性のANCA関連血管炎である請求項6ないし8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、またはその塩である請求項6ないし9のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一態様において、Btk阻害活性を有する化合物を有効成分として含む自己免疫疾患の予防および/または治療剤であって、前記Btk阻害活性を有する化合物がイブルチニブ、アカラブルチニブ、チラブルチニブ、エヴォブルチニブ、またはそれらの薬学的に許容される塩等である自己免疫疾患の予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton’s tyrosine kinase;以下、Btkと略記する。)は、非受容体型チロシンキナーゼであるTecファミリーキナーゼに属し、B細胞系および骨髄球系の細胞に選択的に発現する。Btkは、B細胞のシグナル伝達に重要な役割を担い、B細胞の生存、分化、増殖および活性化等に寄与する因子である。B細胞抗原受容体(B-cell antigen receptor;BCR)を介したB細胞のシグナルは、広範囲に亘る生物学的な反応を誘導し、そのシグナル伝達が異常な場合には、B細胞の異常な活性化や病原性の自己抗体の形成等が引き起こされる。BtkはこのBCRを介したB細胞へのシグナル伝達経路の一部を担っていると考えられている。近年、様々な自己免疫疾患を対象とした、Btk阻害活性を有する化合物が開発されており、例えば、エヴォブルチニブ(Evobrutinib)が、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE;systemic lupus erythematosus)の患者で臨床試験を行っていること(非特許文献1参照)や、PRN-1008が、天疱瘡、特発性血小板減少性紫斑病の患者で臨床試験を行っていることが報告されている(非特許文献2、3参照)。
【0003】
ところで、自己免疫疾患の一類型であるANCA関連血管炎(AAV:ANCA-associated vasculitis)とは、免疫の異常等により、好中球に対する自己抗体、抗好中球細胞質抗体(ANCA:anti-neutrophil cytoplasmic antibody)が産生され、様々な部位での血管炎を引き起こす疾患である。AAVは、全身諸臓器に血管炎を発症する全身型と、一つの臓器のみに血管炎を発症する臓器限局型に分類される。全身型AAVには、顕微鏡的多発血管炎(MPA:microscopic polyangiitis)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA:granulomatosis with polyangiitis)(Wegener肉芽腫症(WG:Wegnener’s granulomatosis)とも言う)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA:eosinophilic granulomatosis with polyangiitis)(Churg-Strauss症候群(CSS:Churg-Strauss syndrome)とも言う)の3疾患がある。臓器限局型AAVには、腎臓にのみ血管炎を発症する腎限局型血管炎(RLV:renal-limited vasculitis)が知られている。
【0004】
また、ANCAの産生の原因として、好中球細胞外トラップ(NETs:neutrophil extracellular traps)の異常が関与していることが知られている(非特許文献4参照)。
【0005】
一方、これまでにBtk阻害活性を有する化合物に関する出願が複数公開されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、Btk阻害活性を有する化合物のNETsに対する作用は知られておらず、Btk阻害活性を有する化合物のANCA関連血管炎に対する効果も不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/152351号パンフレット
【文献】国際公開第2013/081016号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】ABSTRACT NUMBER: 2565、ACR/ARHP Annual Meeting、2017年
【文献】ClinicalTrials.gov Identifier: NCT02704429
【文献】ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03395210
【文献】日本小児腎臓病学会雑誌、第27巻、第2号、11-15ページ、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、有効な自己免疫疾患の予防および/または治療剤を見出し、医薬品として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Btk阻害活性を有する化合物を有効成分として含有する医薬品が、前記課題を解決できることを見出した。
【0010】
本発明は、その実施形態として、例えば、
[1] Btk阻害活性を有する化合物を含有する、天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎、IgG4関連疾患、ネフローゼ症候群および皮膚エリテマトーデスからなる群から選択される自己免疫疾患の予防および/または治療剤、
[2] 自己免疫疾患が、天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎またはネフローゼ症候群である前記[1]記載の剤、
[3] 自己免疫疾患が、ANCA関連血管炎である前記[1]または[2]記載の剤、
[4] ANCA関連血管炎が、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chug-Strauss症候群)、および腎限局型血管炎からなる群から選択される1種以上である前記[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の剤、
[5] ANCA関連血管炎が、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chug-Strauss症候群)、および腎限局型血管炎からなる群から選択される1種以上である前記[1]ないし[4]のいずれか一項に記載の剤、
[6] ANCA関連血管炎が、MPO-ANCA陽性および/またはPR3-ANCA陽性のANCA関連血管炎である前記[1]ないし[5]のいずれか一項に記載の剤、
[7] Btk阻害活性を有する化合物を含有する、NETs(好中球細胞外トラップ)形成抑制剤、
[8] Btk阻害活性を有する化合物が、一般式(I)
【化1】
(式中、Lは(1)-O-、(2)-S-、(3)-SO-、(4)-SO
2-、(5)-NH-、(6)-C(O)-、(7)-CH
2-O-、(8)-O-CH
2-、(9)-CH
2-、または(10)-CH(OH)-を表し、
R
1は(1)ハロゲン原子、(2)C1~4アルキル基、(3)C1~4アルコキシ基、(4)C1~4ハロアルキル基、または(5)C1~4ハロアルコキシ基を表し、
ring1は(1)ハロゲン原子、(2)C1~4アルキル基、(3)C1~4アルコキシ基、(4)ニトリル、(5)C1~4ハロアルキル基および(6)C1~4ハロアルコキシ基からなる群より各々独立に選択される1~5個の置換基で置換されていてもよい4~7員の環状基を表し、ただし、ring1上の置換基が2個以上のとき、当該置換基はそれらが結合するring1を構成する原子と一緒になって4~7員の環状基を形成してもよく、
ring2は1~3個の-K-R
2で置換されていてもよい4~7員の飽和ヘテロ環を表し、
Kは(1)結合手、(2)C1~4アルキレン、(3)-C(O)-、(4)-C(O)-CH
2-、(5)-CH
2-C(O)-、(6)-C(O)O-、または(7)-SO
2-を表し(ただし、左側の結合手がring2と結合するものとする。)、
R
2は(1)NR
3R
4、(2)ハロゲン原子、(3)CONR
5R
6、(4)CO
2R
7および(5)OR
8からなる群より各々独立に選択される1~5個の置換基で置換されていてもよい、(1)C1~4アルキル、(2)C2~4アルケニル、または(3)C2~4アルキニル基を表し、
R
3およびR
4はそれぞれ独立して、(1)水素原子、または(2)OR
9またはCONR
10R
11で置換されていてもよいC1~4アルキル基を表し、
R
3およびR
4は結合する窒素原子と一緒になって、オキソ基または水酸基で置換されていてもよい4~7員の含窒素飽和ヘテロ環を形成してもよく、
R
5およびR
6はそれぞれ独立して(1)水素原子、(2)C1~4アルキル基、または(3)フェニル基を表し、
R
7は(1)水素原子、または(2)C1~4アルキル基を表し、
R
8は(1)水素原子、(2)C1~4アルキル基、(3)フェニル基、または(4)ベンゾトリアゾリル基を表し、
R
9は(1)水素原子、または(2)C1~4アルキル基を表し、
R
10およびR
11はそれぞれ独立して、(1)水素原子、または(2)C1~4アルキル基を表し、
nは0~4の整数を表し、
mは0~2の整数を表し、
nが2以上のとき、R
1は同じでも異なっていてもよい。)で示される化合物、またはその塩である前記[1]ないし[7]のいずれか一項に記載の剤、
[9] Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、イブルチニブ、アカラブルチニブ、エヴォブルチニブ、フェネブルチニブ/GDC-0853、ポセルチニブ/LY3337641、スペブルチニブ、ヴェカブルチニブ/SNS-062、ザヌブルチニブ/BGB-3111、PRN1008、BMS-986142、ブラネブルチニブ/BMS-986195、LOU-064、M-7583、AC-058、DTRMWXHS-12、TAS-5315、TAK-020、ARQ-531、BMS-935177、PCI-45292、PRN-2246、SHR-1459、ABBV-105、CT-1530、ICP022、LOXO-305、JNJ-64264681、HWH-486およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上である前記[1]ないし[7]のいずれか一項に記載の剤、
[10] Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、イブルチニブ、スペブルチニブ、アカラブルチニブ、エヴォブルチニブ、ポセルチニブ、フェネブルチニブ、ヴェカブルチニブ、ザヌブルチニブ、PRN-1008、BMS-986142およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上である前記[1]ないし[7]または[9]のいずれか一項に記載の剤、
[11] Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、イブルチニブ、アカラブルチニブ、フェネブルチニブ、BMS-986142、エヴォブルチニブ、ポセルチニブ、およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上である前記[1]ないし[7]または[9]もしくは[10]のいずれか一項に記載の剤、
[12] Btk阻害活性を有する化合物が、チラブルチニブ、またはその塩である前記[1]ないし[11]のいずれか一項に記載の剤、
[13] 天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎、IgG4関連疾患、ネフローゼ症候群および皮膚エリテマトーデスからなる群から選択される自己免疫疾患の予防および/または治療剤を製造するための、Btk阻害活性を有する化合物の使用、
[14] Btk阻害活性を有する化合物の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎、IgG4関連疾患、ネフローゼ症候群および皮膚エリテマトーデスからなる群から選択される自己免疫疾患の予防および/または治療方法、
[15] 天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎、IgG4関連疾患、ネフローゼ症候群および皮膚エリテマトーデスからなる群から選択される自己免疫疾患の予防および/または治療における使用のための、Btk阻害活性を有する化合物、
[16] Btk阻害活性を有する化合物を含有する、特発性蕁麻疹、重症喘息、および好酸球性副鼻腔炎からなる群から選択される炎症・アレルギー性疾患の予防および/または治療剤、
等の実施態様を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、自己免疫疾患の予防および/または治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[Btk阻害活性を有する化合物]
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、一態様として低分子化合物が挙げられ、その一態様として、特許文献1(国際公開第2011/152351号パンフレット)に記載された下記一般式(I)
【化2】
(式中、各可変基(L、R
1、ring1、ring2、nおよびm)は特許文献1に記載の定義と同じ意味を表す。)で示される化合物その光学異性体またはそれらの混合物、その塩、その溶媒和物、そのN-オキシド体、またはそれらのプロドラッグが挙げられる。
【0013】
一般式(I)の当該各可変基は、具体的には以下を表す。すなわち、Lは(1)-O-、(2)-S-、(3)-SO-、(4)-SO2-、(5)-NH-、(6)-C(O)-、(7)-CH2-O-、(8)-O-CH2-、(9)-CH2-、または(10)-CH(OH)-を表し;R1は(1)ハロゲン原子、(2)C1~4アルキル基、(3)C1~4アルコキシ基、(4)C1~4ハロアルキル基、または(5)C1~4ハロアルコキシ基を表し;ring1は(1)ハロゲン原子、(2)C1~4アルキル基、(3)C1~4アルコキシ基、(4)ニトリル、(5)C1~4ハロアルキル基および(6)C1~4ハロアルコキシ基からなる群より各々独立に選択される1~5個の置換基で置換されていてもよい4~7員の環状基を表し、ただし、ring1上の置換基が2個以上のとき、当該置換基はそれらが結合するring1を構成する原子と一緒になって4~7員の環状基を形成してもよく;ring2は1~3個の-K-R2で置換されていてもよい4~7員の飽和ヘテロ環を表し;Kは(1)結合手、(2)C1~4アルキレン、(3)-C(O)-、(4)-C(O)-CH2-、(5)-CH2-C(O)-、(6)-C(O)O-、または(7)-SO2-を表し(ただし、左側の結合手がring2と結合するものとする。);R2は(1)NR3R4、(2)ハロゲン原子、(3)CONR5R6、(4)CO2R7および(5)OR8からなる群より各々独立に選択される1~5個の置換基で置換されていてもよい、(1)C1~4アルキル、(2)C2~4アルケニル、または(3)C2~4アルキニル基を表し;R3およびR4はそれぞれ独立して、(1)水素原子、または(2)OR9またはCONR10R11で置換されていてもよいC1~4アルキル基を表し;R3およびR4は結合する窒素原子と一緒になって、オキソ基または水酸基で置換されていてもよい4~7員の含窒素飽和ヘテロ環を形成してもよく;R5およびR6はそれぞれ独立して(1)水素原子、(2)C1~4アルキル基、または(3)フェニル基を表し;R7は(1)水素原子、または(2)C1~4アルキル基を表し;R8は(1)水素原子、(2)C1~4アルキル基、(3)フェニル基、または(4)ベンゾトリアゾリル基を表し;R9は(1)水素原子、または(2)C1~4アルキル基を表し;R10およびR11はそれぞれ独立して、(1)水素原子、または(2)C1~4アルキル基を表し;nは0~4の整数を表し;mは0~2の整数を表し;nが2以上のとき、R1は同じでも異なっていてもよい。
【0014】
本発明において、ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味する。
【0015】
本発明において、C1~4アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル等の直鎖状または分岐鎖状のC1~4アルキル基を意味する。
【0016】
本発明において、C1~4アルキレン基とは、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびそれらの異性体等を意味する。
【0017】
本発明において、C1~4アルコキシ基とは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、tert-ブトキシ等の直鎖状または分岐鎖状のC1~4アルコキシ基を意味する。
【0018】
本発明において、C2~4アルケニル基とは、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタジエニル等の直鎖状または分岐鎖状のC2~4アルケニル基を意味する。
【0019】
本発明において、C2~4アルキニル基とは、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1,3-ブタジイニル等の直鎖状または分岐鎖状のC2~4アルキニル基を意味する。
【0020】
本発明において、C1~4ハロアルキル基とは、C1~4アルキル基が1又は2以上のハロゲン原子によって置換されてなる基を意味し、例えば、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、2-クロロエチル基、ペンタフルオロエチル基、1-フルオロプロピル基、2-クロロプロピル基、3-フルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、4-ブロモブチル基等が挙げられる。
【0021】
本発明において、C1~4ハロアルコキシ基とは、C1~4アルコキシ基が1又は2以上のハロゲン原子によって置換されてなる基を意味し、例えば、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、フルオロメトキシ基、ヨードメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジブロモメトキシ基、2-クロロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,2-トリクロロエトキシ基、3-ブロモプロポキシ基、3-クロロプロポキシ基、2,3-ジクロロプロポキシ基、1-フルオロブトキシ基、4-フルオロブトキシ基、1-クロロブトキシ基等が挙げられる。
【0022】
本発明において、4~7員の環状基とは、C4~7の炭素環、または4~7員のヘテロ環を意味する。
【0023】
本発明において、C4~7の炭素環とは、C4~7の単環式の脂肪族または芳香族の炭素環を意味する。脂肪族の場合は、その一部または全部が飽和されていてもよい。例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロブタジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0024】
本発明において、4~7員のヘテロ環とは、4~7員の不飽和ヘテロ環、または4~7員の飽和ヘテロ環を意味する。
【0025】
本発明において、4~7員の不飽和ヘテロ環とは、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択される1~5個のヘテロ原子を含む、不飽和の4~7員の単環ヘテロ環を意味し、例えば、ピロール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、アゼピン、ジアゼピン、フラン、ピラン、オキセピン、チオフェン、チオピラン、チエピン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、オキサジアゾール、オキサジン、オキサジアジン、オキサゼピン、オキサジアゼピン、チアジアゾール、チアジン、チアジアジン、チアゼピン、チアジアゼピン等が挙げられる。
【0026】
本発明において、4~7員の飽和ヘテロ環とは、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から各々独立に選択される1~5個のヘテロ原子を含む、一部または全部飽和された4~7員の単環ヘテロ環を意味し、例えば、アゼチジン、ピロリン、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、トリアゾリン、トリアゾリジン、テトラゾリン、テトラゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジン、ピペリジン、ジヒドロピラジン、テトラヒドロピラジン、ピペラジン、ジヒドロピリミジン、テトラヒドロピリミジン、パーヒドロピリミジン、ジヒドロピリダジン、テトラヒドロピリダジン、パーヒドロピリダジン、ジヒドロアゼピン、テトラヒドロアゼピン、パーヒドロアゼピン、ジヒドロジアゼピン、テトラヒドロジアゼピン、パーヒドロジアゼピン、オキセタン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ジヒドロオキセピン、テトラヒドロオキセピン、パーヒドロオキセピン、チエタン、ジヒドロチオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジヒドロチオピラン、テトラヒドロチオピラン、ジヒドロチエピン、テトラヒドロチエピン、パーヒドロチエピン、ジヒドロオキサゾール、テトラヒドロオキサゾール(オキサゾリジン)、ジヒドロイソオキサゾール、テトラヒドロイソオキサゾール(イソオキサゾリジン)、ジヒドロチアゾール、テトラヒドロチアゾール(チアゾリジン)、ジヒドロイソチアゾール、テトラヒドロイソチアゾール(イソチアゾリジン)、ジヒドロフラザン、テトラヒドロフラザン、ジヒドロオキサジアゾール、テトラヒドロオキサジアゾール(オキサジアゾリジン)、ジヒドロオキサジン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロオキサジアジン、テトラヒドロオキサジアジン、ジヒドロオキサゼピン、テトラヒドロオキサゼピン、パーヒドロオキサゼピン、ジヒドロオキサジアゼピン、テトラヒドロオキサジアゼピン、パーヒドロオキサジアゼピン、ジヒドロチアジアゾール、テトラヒドロチアジアゾール(チアジアゾリジン)、ジヒドロチアジン、テトラヒドロチアジン、ジヒドロチアジアジン、テトラヒドロチアジアジン、ジヒドロチアゼピン、テトラヒドロチアゼピン、パーヒドロチアゼピン、ジヒドロチアジアゼピン、テトラヒドロチアジアゼピン、パーヒドロチアジアゼピン、モルホリン、チオモルホリン、オキサチアン、ジオキソラン、ジオキサン、ジチオラン、ジチアン等が挙げられる。
【0027】
本発明において、4~7員の含窒素飽和ヘテロ環とは、4~7員の飽和ヘテロ環のうち、必ず1個以上の窒素原子を含むものをいう。例えば、アゼチジン、ピロリン、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、トリアゾリン、トリアゾリジン、テトラゾリン、テトラゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジン、ピペリジン、ジヒドロピラジン、テトラヒドロピラジン、ピペラジン、ジヒドロピリミジン、テトラヒドロピリミジン、パーヒドロピリミジン、ジヒドロピリダジン、テトラヒドロピリダジン、パーヒドロピリダジン、ジヒドロアゼピン、テトラヒドロアゼピン、パーヒドロアゼピン、ジヒドロジアゼピン、テトラヒドロジアゼピン、パーヒドロジアゼピン、ジヒドロオキサゾール、テトラヒドロオキサゾール(オキサゾリジン)、ジヒドロイソオキサゾール、テトラヒドロイソオキサゾール(イソオキサゾリジン)、ジヒドロチアゾール、テトラヒドロチアゾール(チアゾリジン)、ジヒドロイソチアゾール、テトラヒドロイソチアゾール(イソチアゾリジン)、ジヒドロフラザン、テトラヒドロフラザン、ジヒドロオキサジアゾール、テトラヒドロオキサジアゾール(オキサジアゾリジン)、ジヒドロオキサジン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロオキサジアジン、テトラヒドロオキサジアジン、ジヒドロオキサゼピン、テトラヒドロオキサゼピン、パーヒドロオキサゼピン、ジヒドロオキサジアゼピン、テトラヒドロオキサジアゼピン、パーヒドロオキサジアゼピン、ジヒドロチアジアゾール、テトラヒドロチアジアゾール(チアジアゾリジン)、ジヒドロチアジン、テトラヒドロチアジン、ジヒドロチアジアジン、テトラヒドロチアジアジン、ジヒドロチアゼピン、テトラヒドロチアゼピン、パーヒドロチアゼピン、ジヒドロチアジアゼピン、テトラヒドロチアジアゼピン、パーヒドロチアジアゼピン、モルホリン、チオモルホリン等が挙げられる。
【0028】
特許文献1に記載の化合物のうち、好ましい態様としては、実施例19(2)に記載される、下記構造を有するチラブルチニブ(tirabrutinib;CAS登録番号:1351636-18-4)(6-アミノ-9-[(3R)-1-(ブタ-2-イノイル)ピロリジン-3-イル]-7-(4-フェノキシフェニル)-7,9-ジヒドロ-8H-プリン-8-オンとも言う。)、またはその塩が挙げられる。
【化3】
【0029】
特に好ましい態様としては、チラブルチニブ塩酸塩(CAS登録番号:1439901-97-9)が挙げられる。
【0030】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物の別の態様として、国際公開第2008/039218号パンフレット、国際公開第2008/121742号パンフレット、国際公開第2013/010868号パンフレット、国際公開第2012/170976号パンフレット、国際公開第2013/067274号パンフレット、国際公開第2011/162515号パンフレット、国際公開第2009/158571号パンフレット、国際公開第2013/185084号パンフレット、国際公開第2014/173289号パンフレット、国際公開第2014/039899号パンフレット、国際公開第2014/210085号パンフレット、国際公開第2016/065226号パンフレット等に記載されている実施例化合物が挙げられる。より具体的な態様として、イブルチニブ(ibrutinib;CAS登録番号:936563-96-1)、アカラブルチニブ(acalabrutinib;CAS登録番号:1420477-60-6)、エヴォブルチニブ(evobrutinib)/M2951(CAS登録番号:1415823-73-2)、フェネブルチニブ(fenebrutinib)/GDC-0853(CAS登録番号:1434048-34-6)、ポセルチニブ(poseltinib)/LY3337641(CAS登録番号:1353552-97-2)、スペブルチニブ(spebrutinib;CAS登録番号:1202757-89-8)、ヴェカブルチニブ(vecabrutinib)/SNS-062(CAS登録番号:1510829-06-7)、ザヌブルチニブ(zanubrutinib)/BGB-3111(CAS登録番号:1691249-45-2)、PRN1008、BMS-986142、ブラネブルチニブ(branebrutinib)/BMS-986195、LOU-064、M-7583、AC-058、DTRMWXHS-12、TAS-5315、TAK-020、ARQ-531、BMS-935177、PCI-45292、PRN-2246、SHR-1459、ABBV-105、CT-1530、ICP022、LOXO-305、JNJ-64264681、HWH-486またはそれらの塩等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれをすべて包含する。例えば、アルキル基には直鎖のものおよび分枝鎖のものが含まれる。さらに、二重結合、環、縮合環における幾何異性体(E体、Z体、シス体、トランス体)、不斉炭素原子の存在等による光学異性体(R、S体、α、β配置、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、クロマトグラフ分離による極性体(高極性体、低極性体)、平衡化合物、回転異性体、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、すべて本発明に含まれる。また、本発明においては、互変異性体による異性体をもすべて包含する。
【0032】
また、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物における光学異性体は、100%純粋なものだけでなく、50%未満のその他の光学異性体が含まれていてもよい。
【0033】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、公知に方法で塩に変換することができる。そのような塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、水溶性のものも好ましい。適当な薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N-メチル-D-グルカミン等)の塩、酸付加物塩(無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等)等)等が挙げられる。
【0034】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物、またはその塩は、水和物に変換することもできる。
【0035】
さらに、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は同位元素(例えば、2H、3H、11C、13C、14C、13N、15N、15O、17O、18O、35S、18F、36Cl、123I、125I等)等で標識されていてもよい。
【0036】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、各特許文献に記載された実施例に従い製造することができる。例えば、チラブルニチブは、特許文献1に記載の実施例19(2)にしたがって製造することができる。
【0037】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、通常、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。経口剤としては、例えば、内服用液剤(例えば、エリキシル剤、シロップ剤、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤)、内服用固形剤(例えば、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、ゼラチンカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、トローチ剤)等が挙げられる。非経口剤としては、例えば、液剤(例えば、注射剤(皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤等)、点眼剤(例えば、水性点眼剤(水性点眼液、水性懸濁点眼液、粘性点眼液、可溶化点眼液等)、非水性点眼剤(非水性点眼液、非水性懸濁点眼液等))等)、外用剤(例えば、軟膏(眼軟膏等))、点耳剤等が挙げられる。これらの製剤は、速放性製剤、徐放性製剤などの放出制御剤であってもよい。これらの製剤は公知の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。
【0038】
経口剤としての内服用液剤は、例えば、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物を一般的に用いられる希釈剤(例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化させることにより製造される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
経口剤としての内服用固形剤は、例えば、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物を賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(例えば、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合し、常法に従って製剤化される。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。
【0039】
非経口剤としての外用剤は公知の方法または通常使用されている処方により製造される。例えば、軟膏剤は本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物を基剤に研和、または溶融させて製造される。軟膏基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高級脂肪酸または高級脂肪酸エステル(例えば、アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステル等)、ロウ類(例えば、ミツロウ、鯨ロウ、セレシン等)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等)、高級アルコール(例えば、セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等)、シリコン油(例えば、ジメチルポリシロキサン等)、炭化水素類(例えば、親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等)、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マクロゴール等)、植物油(例えば、ヒマシ油、オリーブ油、ごま油、テレピン油等)、動物油(例えば、ミンク油、卵黄油、スクワラン、スクワレン等)、水、吸収促進剤、かぶれ防止剤から選ばれるもの単独または2種以上を混合して用いられる。さらに、保湿剤、保存剤、安定化剤、抗酸化剤、着香剤等を含んでいてもよい。
【0040】
非経口剤としての注射剤には溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤が包含される。注射剤は、例えば本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0041】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人当たり、一回につき、1ngから1000mgの範囲で一日一回から数回経口投与されるか、または成人一人当たり、一回につき、0.1ngから100mgの範囲で一日一回から数回非経口投与されるか、または一日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん前記したように、投与量は種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて投与の必要な場合もある。
【0042】
[毒性]
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物の毒性は十分に低いものであり、医薬品として安全に使用することができる。
【0043】
[医薬品への適用]
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、例えば、Btk阻害活性、B細胞からの抗体産生抑制作用等を有するため、哺乳動物、特にヒトにおいて、自己免疫疾患または炎症・アレルギー性疾患の予防および/または治療剤として使用することができる。
【0044】
本発明における自己免疫疾患の態様として、天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎、IgG4関連疾患、ネフローゼ症候群、皮膚エリテマトーデスが挙げられる。自己免疫疾患の好ましい態様として、天疱瘡、類天疱瘡、ANCA関連血管炎、ネフローゼ症候群が挙げられ、特に好ましい態様としては、ANCA関連血管炎が挙げられる。
【0045】
本発明における炎症・アレルギー性疾患の態様として、特発性蕁麻疹、重症喘息、好酸球性副鼻腔炎が挙げられる。
【0046】
本発明における天疱瘡の態様として、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、腫瘍随伴性天疱瘡、増殖性天疱瘡、紅斑状天疱瘡、疱疹状天疱瘡、薬剤誘発性天疱瘡が挙げられる。
【0047】
本発明における類天疱瘡の態様として、水泡性類天疱瘡、粘膜類天疱瘡、後天性表皮水泡症が挙げられる。
【0048】
本発明におけるANCA関連血管炎の態様として、顕微鏡的多発血管炎(MPA:microscopic polyangiitis)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA:granulomatosis with polyangiitis)(Wegener肉芽腫症(WG:Wegnener’s granulomatosis)とも言う)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA:eosinophilic granulomatosis with polyangiitis)(Churg-Strauss症候群(CSS:Churg-Strauss syndrome)とも言う)、腎限局型血管炎(RLV:renal-limited vasculitis)が挙げられる。好ましい態様として、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、腎限局型血管炎が挙げられる。
【0049】
本発明におけるIgG4関連疾患の態様として、自己免疫性膵炎、涙腺唾液腺炎(ミクリッツ病)、IgG4関連硬化性胆管炎、IgG4関連腎臓病、IgG4関連眼疾患、IgG4関連呼吸器疾患が挙げられる。
【0050】
本発明におけるネフローゼ症候群の態様として、一次性(原発性)ネフローゼ症候群、二次性(続発性)ネフローゼ症候群が挙げられる。一次性ネフローゼ症候群の態様としては、微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS:minimal change nephrotic syndrome)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS:focal segmental glomerulosclerosis)、膜性腎症(MN:membranous nephropathy)、増殖性糸球体腎炎(メサンギウム増殖型、管内性増殖型、膜性増殖型、半月体成型に分けられる)が挙げられる。また、二次性ネフローゼ症候群の態様としては、自己免疫疾患、代謝性疾患、感染症、アレルギー・過敏性疾患、腫瘍、薬剤、遺伝性疾患等に起因して発症する疾患を意味する。
【0051】
本発明における一次性ネフローゼ症候群には、小児の一次性ネフローゼ症候群も含まれる。
【0052】
また、好中球細胞外トラップ(NETs:neutrophil extracellular traps)はANCA関連血管炎の病態形成に関与している。本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、NETsの形成を抑制するため、ANCA関連血管炎、例えば、ミエロペルオキシダーゼ(MPO:myeloperoxidase)陽性のANCA関連血管炎、プロテイナーゼ3(PR3:proteinase3)陽性のANCA関連血管炎の予防および/または治療剤として使用することができる。
【0053】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、(1)その治療効果の補完および/または増強、(2)動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)副作用の軽減のために、さらに他の薬物と組み合わせて、投与してもよい。
【0054】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物と他の薬物との併用薬は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物を先に投与し、他の薬物を後に投与してもよいし、他の薬物を先に投与し、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
【0055】
上記併用薬は、特に限定されないが、本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物の自己免疫疾患または炎症・アレルギー性疾患の予防および/または治療効果を補完および/または増強できる薬物であればよい。
【0056】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物の天疱瘡に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、例えば、ステロイド、免疫抑制薬、抗CD20抗体、ガンマグロブリンが挙げられる。
【0057】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物の類天疱瘡に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、例えば、テトラサイクリン系抗生物質およびニコチン酸アミドとの併用、ステロイド、免疫抑制薬、抗CD20抗体、ガンマグロブリンが挙げられる。
【0058】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物のANCA関連血管炎に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、例えば、ステロイド、免疫抑制薬、抗CD20抗体、ガンマグロブリン、抗TNF-α製剤、抗胸腺細胞グロブリン(ATG:antithymocyte globulin)、抗CD52抗体、C5a受容体拮抗剤が挙げられる。
【0059】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物のネフローゼ症候群に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、例えば、ステロイド、免疫抑制薬、抗CD20抗体、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が挙げられる。
【0060】
ステロイドの例としては、アムシノニド、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、メチルコハク酸プレドニゾロンナトリウム、シクレソニド、ジフルプレドナート、プロピオン酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、デフラザコート、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ハルシノニド、パルミチン酸デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、ブチル酢酸プレドニゾロン、ブデソニド、硫酸プラステロン、フロ酸モメタゾン、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、フルドロキシコルチド、フルニソリド、プレドニゾロン、プロピロン酸アルクロメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸デキサメタゾン、プロピオン酸デプロドン、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタゾン、メチルプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンスレプタネート、メチルプレドニゾロンナトリウムスクシネート、リン酸デキサメタゾンナトリウム、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、リン酸プレドニゾロンナトリウム、吉草酸ジフルコルトロン、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、酢酸コルチゾン、酢酸ジフロラゾン、酢酸デキサメタゾン、酢酸トリアムシノロン、酢酸パラメサゾン、酢酸ハロプレドン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、酪酸クロベタゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾンが挙げられる。
【0061】
免疫抑制薬の例としては、アザチオプリン、アスコマイシン、エベロリムス、サラゾスルファピリジン、シクロスポリン、シクロホスファミド、シロリムス、タクロシムス、ブシラミン、メトトレキサート、レフルノミド、ミゾリビン、ミコフェノレート・モフェテイル(MMF:mycophenolate mofetil)、ダブソン、15-デオキシスペルグアリン(DSG:deoxyspergualin)が挙げられる。
【0062】
抗CD20抗体の例としては、リツキシマブ、イブリツモマブ、オクレリズマブ、オファツズマブ、オビヌツズマブが挙げられる。
【0063】
テトラサイクリン系抗生物質の例としては、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンが挙げられる。
【0064】
抗TNF-α製剤の例としては、抗TNF-α抗体、可溶性TNF-α受容体、抗TNF-α受容体抗体、可溶性TNF-α結合タンパク質が挙げられ、特に、インフリマキシブ、エタネルセプトが挙げられる。
【0065】
抗CD52抗体の例としては、アレムツズマブが挙げられる。
【0066】
C5a受容体拮抗剤の例としては、アバコパンが挙げられる。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の例としては、アラセプリル、塩酸イミダプリル、塩酸キナプリル、塩酸テモカプリル、塩酸デラプリル、塩酸ベナゼプリル、カプトプリル、トランドラプリル、ペリンドプリル エルブミン、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル水和物、シラザプリル水和物が挙げられる。
【0067】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬の例としては、ロサルタン(カリウム)、カンデサルタン(シレキセチル)、バルサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン(メドキソミル)テルミサルタン、アジルサルタンが挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
生物学的実施例1:ヒト好中球の活性化の測定
96ウェルプレートにヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma)を固相化させた後、抗HSA抗体(Sigma)を添加して免疫複合体を形成させた。10%ウシ胎児血清(FBS)でブロッキングし、本プレートを好中球の活性化に使用した。
【0070】
被験化合物として各種Btk阻害活性を有する化合物を用いた。被験化合物をDMSOに溶解した後、RPMI1640培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有)で希釈して最終濃度の11倍濃度の被験化合物溶液を調製した。11倍濃度の被験化合物溶液、または媒体(1.1%DMSO)20μLに、培地で希釈したヒト好中球の懸濁液180μLを添加し、室温で1時間インキュベーションした。
【0071】
次に免疫複合体を固相化したプレートに、50μMのSYTOX Green溶液(Thermo Fisher scientific)を20μL添加し、そこに上記にて被験化合物を処置した好中球の懸濁液を180μL(1×105細胞/ウェル)添加して、37℃、5%CO2で4時間インキュベーションした。好中球のNETsに結合したSYTOX Greenの相対蛍光単位をマイクロプレートリーダ(Molecular Devices)を用いて、励起波長475nm、蛍光波長523nmの条件で測定した。被験化合物の阻害率(%)は、以下の式を用いて算出した。Prism(ver 5.04、GraphPad Software)を用いて阻害率をグラフにプロットし、IC50値を算出した。
【0072】
【数1】
A:被験化合物添加時の相対蛍光単位
B:刺激時の相対蛍光単位
C:非刺激時の相対蛍光単位
【0073】
各被験化合物の好中球のNETs形成に対するIC50値は、例えば、チラブルチニブについては、0.022μMであった。また、イブルチニブ、アカラブルチニブ、フェネブルチニブ、BMS-986142(国際公開第2014/210085号パンフレットに記載の実施例28の化合物)、エヴォブルチニブおよび国際公開第2011/162515号パンフレットに記載の実施例1の化合物のIC50値は、それぞれ、0.0036μM、0.084μM、0.062μM、0.044μM、0.057μMおよび0.285μMであった。これらすべてのBtk阻害活性を有する化合物には、好中球の活性化を阻害する作用、すなわちNETsの形成を抑制する作用があることがわかった。
【0074】
生物学的実施例2:抗GBM抗体惹起腎炎モデルを用いた有効性評価
各被験化合物のネフローゼ症候群の治療における有効性は、抗GBM(glomerular basement membrane;糸球体基底膜)抗体を用いて惹起した腎炎モデルを用いて評価することができる。この抗GBM抗体惹起腎炎モデルは、当業者であれば明らかなように、例えば、J. Immunol., 183: 3980-3988 (2009)、J. Immunol., 191: 4540-4550 (2013)等に記載の実験方法によって作製することができる。
【0075】
各被験化合物は、抗GBM抗体で惹起された腎炎を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に用いられるBtk阻害活性を有する化合物は、自己免疫疾患、なかでもANCA関連血管炎の予防および/または治療剤として有用である。