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特許7331883物品搬送設備、経路設定方法、及び経路設定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】物品搬送設備、経路設定方法、及び経路設定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230816BHJP
   B65G 1/00 20060101ALI20230816BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20230816BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20230816BHJP
   H01L 21/02 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
G05D1/02 G
B65G1/00 501H
G01C21/34
G08G1/00 D
G08G1/00 X
H01L21/02 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021073568
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167634
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】河野 誠
(72)【発明者】
【氏名】武野 敬輔
(72)【発明者】
【氏名】岩満 和哲
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-30724(JP,A)
【文献】特開2019-80411(JP,A)
【文献】特開2020-194345(JP,A)
【文献】特開昭63-255711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
G01C 21/34
G08G 1/00
B65G 1/00
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備であって、
前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、
前記制御装置は、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストに基づいて設定する経路設定制御を実行し、
前記リンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、
前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、
前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、
前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、
前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、
前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、
前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、
前記制御装置は、前記経路設定制御において、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求め、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求め、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定し、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求め、前記候補経路のそれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定する、物品搬送設備。
【請求項2】
前記走行目的には、前記物品を受け取り又は前記物品を引き渡すために設定された前記目的地へ向かって走行する搬送関連走行と、他の前記物品搬送車に経路を譲るために設定された前記目的地へ向かって走行する退避走行と、が含まれ、
前記退避走行についての前記優先度調整値が、前記搬送関連走行についての前記優先度調整値よりも大きく設定されている、請求項1に記載の物品搬送設備。
【請求項3】
前記走行目的には、前記目的地が前記物品の使用場所である第1搬送関連走行と、前記目的地が前記物品の保管場所である第2搬送関連走行と、が含まれ、
前記第2搬送関連走行についての前記優先度調整値が、前記第1搬送関連走行についての前記優先度調整値よりも大きく設定されている、請求項1又は2に記載の物品搬送設備。
【請求項4】
前記走行目的には、
前記物品を引き渡すために前記物品の使用場所を前記目的地として走行する第1引き渡し走行と、
前記物品を受け取るために前記物品の使用場所を前記目的地として走行する第1受け取り走行と、
前記物品を引き渡すために前記物品の保管場所を前記目的地として走行する第2引き渡し走行と、
前記物品を受け取るために前記物品の保管場所を前記目的地として走行する第2受け取り走行と、
他の前記物品搬送車に経路を譲るために設定された前記目的地へ向かって走行する退避走行と、が含まれ、
前記優先度調整値は、記載の順が後になるに従って大きくなるように設定されている、請求項1から3の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項5】
前記制御装置は、前記対象リンクを通過する、前記設定経路が既に設定されている前記他車を、前記対象他車とする、請求項1から4の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項6】
前記制御装置は、前記設定車の前記設定時点における位置から前記対象リンクまでの経路に基づいて推測される前記設定車の前記対象リンクへの到達時刻と、前記他車の前記設定時点における位置から前記対象リンクまで経路に基づいて推測される前記他車の前記対象リンクへの到達時刻とに基づいて、前記設定車と同時期に前記設定車に対して前方を走行することになる前記他車を、前記対象他車とする、請求項1から4の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項7】
前記制御装置は、前記対象他車の数を前記対象リンク内に存在し得る前記物品搬送車の台数の最大値で除算した値を密度値として求め、前記密度値を前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整密度値を求め、前記経路設定制御において、前記密度値が高くなるに従って前記リンクコストが高くなるように前記リンクコストを補正する、請求項1から6の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項8】
前記物品搬送車に電力を供給するための給電線が前記走行可能経路に沿って設けられており、
前記走行可能経路を複数に区分した給電エリアごとにエリア内上限台数が設定されて、前記給電エリアのそれぞれで前記エリア内上限台数以下の前記物品搬送車に電力を供給することができるように構成され、
前記制御装置は、複数の前記給電エリアの1つを対象給電エリアとして、前記対象給電エリアに存在するとみなす前記他車の台数が、当該対象給電エリアの前記エリア内上限台数以上となっている場合には、前記経路設定制御において、前記対象給電エリアに含まれる前記リンクの前記リンクコストを、前記対象給電エリアに含まれない前記リンクの前記リンクコストよりも高くするように補正する給電エリア補正処理を実行する、請求項1から7の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項9】
規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備において、前記制御装置に経路設定制御を実行させて、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を設定する経路設定方法であって、
前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、
前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、
前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、
前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、
前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、
前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、
前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、
前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、
前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求めるステップと、
前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求めるステップと、
前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定するステップと、
前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求めるステップと、
前記候補経路のぞれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定するステップと、を備える経路設定方法。
【請求項10】
規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備において、前記制御装置に経路設定制御を実行させて、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を設定する機能を前記制御装置に実現させる経路設定プログラムであって、
前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、
前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、
前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、
前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、
前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、
前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、
前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、
前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、
前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求める機能と、
前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求める機能と、
前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定する機能と、
前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求める機能と、
前記候補経路のぞれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定する機能と、を前記制御装置に実現させる経路設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する物品搬送車と、物品搬送車を制御する制御装置とを備えた物品搬送設備、物品搬送設備における経路設定方法及び経路設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
このような物品搬送設備として、例えば、特開2019-080411号公報に記載されたものが知られている。この物品搬送設備の制御装置は、物品搬送車を現在位置から走行可能経路上の目的地に走行させるための経路である設定経路を設定する経路設定制御を実行する。例えば、物品を搬送元から搬送先に搬送する場合において、物品搬送車が搬送元に対応する位置に存在している場合は、制御装置は、経路設定制御において、搬送元に対応する位置を現在位置とし、搬送先に対応する位置を目的地とした設定経路を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-080411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような物品搬送設備では、上述のように経路設定制御において設定経路を設定するにあたり、物品搬送車の現在位置から目的地までの設定経路の候補となる候補経路が複数ある場合も有り得る。このような場合に、制御装置は、経路設定制御において、例えば、複数の候補経路のうちの経路の長さが最も短い候補経路や、目的地までの所要時間が最も短くなる候補経路を設定経路として設定することが考えられる。一方、物品搬送設備においては、多くの場合、複数の物品搬送車が走行している。それぞれの物品搬送車の走行目的には、物品搬送設備にとって優先度の高いものから低いものまで様々な目的がある。それぞれの物品搬送車の設定経路を画一的な設定基準で設定すると、優先度の低い物品搬送車の方が優先度の高い物品搬送車よりも、短い設定経路や所要時間の短い設定経路が設定される場合が生じ得る。これは、物品搬送設備の全体の稼働効率を低下させる要因となり得る。
【0005】
そこで、優先度が高い走行目的の物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いように、複数の候補経路のうちから適切に設定経路を設定できる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備は、前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、前記制御装置は、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストに基づいて設定する経路設定制御を実行し、前記リンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、前記制御装置は、前記経路設定制御において、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求め、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求め、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定し、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求め、前記候補経路のそれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定する。
【0007】
この構成によれば、設定車の走行目的に応じて、目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って調整変動コストが大きくなるように調整される。これにより、優先度が低い走行目的の設定車の場合、対象他車の数が多く混雑する可能性があるリンクを通る候補経路のコストが、優先度が高い走行目的の設定車に比べて大きくなる。そのため、優先度が低い走行目的の物品搬送車が混雑する可能性があるリンクを避けた経路を通り易くなり、当該混雑する可能性があるリンクの実際の混雑度を低く抑え易くなる。その結果、優先度が高い走行目的の物品搬送車の設定経路の自由度を高め易い。従って、優先度が高い走行目的の物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いように、複数の候補経路のうちから適切に設定経路を設定できる。
【0008】
上述した物品搬送設備の種々の技術的特徴は、物品搬送設備における経路設定方法や経路設定プログラムにも適用可能である。以下にその代表的な態様を例示する。例えば、経路設定方法は、上述した物品搬送設備の特徴を備えた各種のステップを有することができる。また、経路設定プログラムは、上述した物品搬送設備の特徴を備えた各種の機能をコンピュータとしての制御装置に実現させることが可能である。当然ながらこれらの経路設定方法及び経路設定プログラムも、上述した物品搬送設備の作用効果を奏することができる。さらに、物品搬送設備の好適な態様として、下記の実施形態の説明において例示する種々の付加的特徴も、これら経路設定方法や経路設定プログラムに組み込むことが可能であり、当該方法及び当該プログラムはそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。
【0009】
1つの好適な態様として、経路設定方法は、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備において、前記制御装置に経路設定制御を実行させて、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を設定する経路設定方法であって、前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求めるステップと、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求めるステップと、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定するステップと、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求めるステップと、前記候補経路のぞれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定するステップと、を備える。
【0010】
また、1つの好適な態様として、経路設定プログラムは、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備において、前記制御装置に経路設定制御を実行させて、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を設定する機能を前記制御装置に実現させる経路設定プログラムであって、前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求める機能と、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求める機能と、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定する機能と、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求める機能と、前記候補経路のぞれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定する機能と、を前記制御装置に実現させる。
【0011】
物品搬送設備、物品搬送設備における経路設定方法及び経路設定プログラムのさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】物品搬送設備の平面図
図2】走行可能経路のノードとリンクとを示す図
図3】物品搬送車の側面図
図4】物品搬送車の正面図
図5】制御ブロック図
図6】搬送制御のフローチャート
図7】経路設定制御のフローチャート
図8】物品搬送車の設定経路及び候補経路の例を示す図
図9】空走行状態における対象車が対象リンクに進入する状態を示す図
図10】空走行状態における対象車が対象リンクから退出する状態を示す図
図11】実走行状態における対象車が対象リンクに進入する状態を示す図
図12】実走行状態における対象車が対象リンクから退出する状態を示す図
図13】対象リンクに存在するとみなす他車を示す図
図14】対象リンクの上流側部分と下流側部分とを示す図
図15】候補経路と対象他車の設定経路との関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
物品搬送設備、物品搬送設備における経路設定方法及び経路設定プログラムの実施形態について図面に基づいて説明する。図1に示すように、物品搬送設備は、規定の走行可能経路1に沿って走行して物品Wを搬送する物品搬送車3と、物品搬送車3を制御する制御装置H(図5参照)とを備えている。本実施形態では、規定の走行可能経路1に沿って走行レール2(図2及び図3参照)が設置され、物品搬送車3が複数備えられており、複数の物品搬送車3のそれぞれは、走行レール2上を走行可能経路1に沿って一方向に走行する。図4に示すように、走行レール2は、左右一対のレール部2Aによって構成されている。尚、本実施形態では、物品搬送車3は、半導体基板を収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)を物品Wとして搬送する。
【0014】
図1に示すように、走行可能経路1は、2つの主経路4と、複数の物品処理装置Pを経由する複数の副経路5とを備えている。2つの主経路4及び複数の副経路5のそれぞれは、環状に形成されている。2つの主経路4は、2重の環状となる状態で設けられている。これら2つの環状の主経路4は、物品搬送車3が同じ方向周り(反時計回り)で走行する経路である。尚、図1においては、物品搬送車3の走行方向を矢印にて示している。
【0015】
2つの主経路4のうち、内側の主経路4を第1主経路4Aとし、外側の主経路4を第2主経路4Bとする。第1主経路4Aは、複数の保管部Rを経由するように設定されている。第1主経路4Aは、保管部Rとの間で物品Wを移載するために物品搬送車3を停止させる物品移載用の経路として用いられる。一方、第2主経路4Bは、物品搬送車3を連続して走行させる連続走行用の経路として用いられる。
【0016】
走行可能経路1には、短絡経路6、分岐経路7、合流経路8、及び、乗継経路9が備えられている。短絡経路6は、第1主経路4Aにおける互いに平行で且つ直線状に延びる一対の部分のそれぞれに接続されている。この短絡経路6は、第1主経路4Aにおける直線状に延びる一対の部分の一方から他方又は他方から一方に物品搬送車3を走行させるための経路である。分岐経路7は、第2主経路4Bと副経路5とに接続されており、第2主経路4Bから副経路5に物品搬送車3を走行させるための経路である。合流経路8は、副経路5と第2主経路4Bとに接続されており、副経路5から第2主経路4Bに物品搬送車3を走行させるための経路である。乗継経路9は、第1主経路4Aと第2主経路4Bとに接続されており、第1主経路4Aから第2主経路4B又は第2主経路4Bから第1主経路4Aに物品搬送車3を走行させるための経路である。
【0017】
図2に示すように、走行可能経路1は、経路が分岐又は合流するノードNと、一対のノードNを接続する経路部分であるリンクLと、をそれぞれ複数備えている。本実施形態では、ノードNは、2つの経路が分岐又は合流する接続点Cから上流側及び下流側に規定の範囲の経路部分としている。図2に示した第2主経路4Bの一部を例に説明すると、第2主経路4Bに対して乗継経路9が分岐又は合流する点を接続点Cとして、第2主経路4B及び乗継経路9における接続点Cから規定の範囲をノードNとしている。また、第2主経路4Bから分岐経路7が分岐する点を接続点Cとして、第2主経路4B及び分岐経路7における接続点Cから規定の範囲をノードNとしている。また、第2主経路4Bに合流経路8が合流する点を接続点Cとして、第2主経路4B及び合流経路8における接続点Cから規定の範囲をノードNとしている。そして、第2主経路4Bにおける一対のノードNの間にあり、これら一対のノードNに接続されている経路部分をリンクLとしている。本実施形態では、接続点Cから規定の範囲は、後述するように、走行可能経路1に沿って複数設置された被検出体Tの位置を基準として設定されている。言い換えると、ノードNとリンクLとの境界となる位置に被検出体Tが設置されている。
【0018】
図3及び図4に示すように、物品搬送車3は、天井から吊り下げ支持された走行レール2上をその走行レール2に沿って走行する走行部11と、走行レール2の下方に位置して走行部11に吊り下げ支持された本体部12と、走行可能経路1に沿って配設された給電線20から供給される駆動用電力を非接触で受電する受電部90とを備えている。本体部12には、物品Wを吊り下げ状態で支持する支持機構13と、支持機構13を本体部12に対して上下方向に沿って移動させる昇降機構14とが備えられている。そして、物品搬送車3は、物品処理装置Pや保管部Rを移載対象場所15(図1参照)として、搬送元の移載対象場所15に対応する位置まで走行した後、搬送元の移載対象場所15にある物品Wを支持して移載対象場所15から本体部12内に移載する。その後、搬送先の移載対象場所15に対応する位置まで走行し、支持機構13が支持している物品Wを本体部12内から移載対象場所15に移載する。これにより、搬送元の移載対象場所15から搬送先の移載対象場所15に物品Wを搬送する。この際、本実施形態では、物品搬送車3は、直線状の経路を走行する場合は第1速度で走行し、曲線状の経路を走行する場合は第1速度より低速の第2速度で走行する。
【0019】
図4に示すように、給電線20は、走行レール2を構成する一対のレール部2Aのそれぞれに支持されて、走行可能経路1(走行レール2)に沿って配設されている。本実施形態では、給電線20は、受電部90に対して、水平方向に沿うと共に走行可能経路1(走行レール2)の延在方向に直交する方向の両側に配置されている。受電部90は、本実施形態では、HID(High Efficiency Inductive Power Distribution Technology)と称されるワイヤレス給電技術を用いて、物品搬送車3に駆動用電力を供給する。具体的には、誘導線である給電線20に高周波電流を流し、給電線20の周囲に磁界を発生させる。受電部90は、ピックアップコイル91を備えて構成されており、磁界からの電磁誘導によってピックアップコイル91に交流電圧が誘起される。受電部90は、全波整流回路や平滑コンデンサを有した受電回路(不図示)を備えており、誘起された交流電圧が直流電圧に整流される。
【0020】
物品搬送設備100の全域に亘って1つの系統で電力を供給すると、電力の損失が大きくなったり、給電線20や給電線20に電力を供給する給電装置PW(図1参照)に障害が発生した場合に全域に亘って電圧降下や停電が生じたりすることがある。このため、図1に示すように、本実施形態では、物品搬送設備100における走行可能経路1が、複数の給電エリアEに区分されている。それぞれの給電エリアEにはエリア内上限台数が設定されており、それぞれの給電エリアEにおいてエリア内上限台数以下の物品搬送車3に電力が供給される。制御装置Hは、それぞれの給電エリアEにおける物品搬送車3の台数が、それぞれの給電エリアEに設定されたエリア内上限台数以下となるように、物品搬送車3の走行を制御する。
【0021】
尚、図1では、簡略化のために、副経路5の内の1つに給電エリアEを示しているが、本実施形態では、それぞれの副経路5に対して1つの給電エリアEが設定されている。また、同様に簡略化のために、副経路5に設定された給電エリアEに給電装置PWが備えられている形態を例示しているが、それぞれの給電エリアEに対して少なくとも1つの給電装置PWが備えられている。
【0022】
図5に示すように、物品搬送車3は、検出装置16と送受信装置17と制御部18とを備えている。検出装置16は、走行可能経路1に沿って複数設置された被検出体T(図2及び図4参照)を検出する。被検出体Tには、当該被検出体Tが設置されている位置を示す位置情報が保持されており、検出装置16は、被検出体Tに保持されている位置情報を読み取るように構成されている。被検出体Tは、走行可能経路1に沿って複数設置されており、ノードNとリンクLとの接続箇所や、移載対象場所15に対応する位置等に設置されている。送受信装置17は、検出装置16によって被検出体Tの位置情報を読み取り、その読み取った位置情報Sを随時、制御装置Hの送受信部21に送信する。つまり、物品搬送車3は、リンクLに進入する際、リンクLから退出する際、及び、移載対象場所15に対応する位置に到達した際に、位置情報Sを制御装置Hに送信する。この物品搬送車3が制御装置Hに送信する位置情報Sが、自車の位置を示す位置情報Sに相当する。そして、複数の物品搬送車3のそれぞれが、自車の位置を示す位置情報Sを制御装置Hに送信する。また、送受信装置17は、制御装置Hの送受信部21から送信された情報を受信する。
【0023】
制御装置Hは、上述したような走行可能経路1を構成するリンクL及びノードNの情報を走行可能経路1のマップ情報Mとして記憶する記憶部22を備えている。記憶部22は、さらに、複数の物品搬送車3のそれぞれから受信した位置情報Sを時刻Dに関連付けて記憶する。本実施形態では、制御装置Hは、物品搬送車3の送受信装置17から位置情報Sを受信した時刻Dを、当該位置情報Sに関連付けて記憶する。尚、物品搬送車3が被検出体Tの位置情報Sを読み取った時刻Dを示す時刻情報を、位置情報Sと共に制御装置Hへ送信する構成である場合には、制御装置Hは、当該時刻情報に示された時刻Dと位置情報Sとを関連付けて記憶部22に記憶してもよい。そして、制御装置Hは、記憶部22に記憶された情報から求められる、物品搬送車3のそれぞれの各時点での位置に基づいて、台数情報を取得する。制御装置Hは、複数の物品搬送車3のそれぞれから受信した位置情報Sに基づいて、複数の物品搬送車3のそれぞれの走行可能経路1の位置を取得することができる。
【0024】
例えば、制御装置Hは、物品搬送車3がリンクLに進入した場合(当該リンクLの手前のノードNを退出した場合)に送信される位置情報Sを受信してから、当該リンクLを退出する場合に送信される位置情報Sを受信するまでは、受信した位置情報Sを入口とするリンクLに物品搬送車3が存在していると判断できる。また、リンクL内に移載対象場所15が存在する場合に、当該リンクL内に存在していると判断している物品搬送車3から移載対象場所15に到達した場合に送信される位置情報Sを受信していない場合は、物品搬送車3はリンクL内おける移載対象場所15より上流側に存在していると判断でき、この位置情報Sを受信した場合は、物品搬送車3はリンクL内における移載対象場所15又はそれより下流側に存在していると判断できる。このように、制御装置Hは、複数の物品搬送車3のそれぞれの各時点での位置に基づいて、複数のリンクLのそれぞれに位置している物品搬送車3の台数を取得する。また、この際、移載対象場所15が存在するリンクLについては、リンクLにおける移載対象場所15の上流側に位置している物品搬送車3の台数と、リンクLにおける移載対象場所15の下流側に位置している物品搬送車3の台数とをそれぞれ取得する。
【0025】
上述したように、制御装置Hは、マップ情報Mを記憶部22に記憶している。マップ情報Mは、走行可能経路1における複数のリンクL及び複数のノードNの位置及び接続関係を示す情報、複数のリンクL及び複数のノードNのそれぞれの属性を示す属性情報、並びに、複数のリンクLのそれぞれの形状及び複数のノードNのそれぞれの形状を示す情報を含む、基本マップ情報を含んでいる。また、マップ情報は、基本マップ情報に、走行可能経路1の複数地点のそれぞれの位置情報S等、物品搬送車3の走行に必要な各種情報を関連付けた走行制御用情報も含んでいる。
【0026】
制御装置Hは、搬送元から搬送先に物品Wを搬送する場合、図6の搬送制御のフローチャートに示すように、基本マップ情報に基づいて現在位置から搬送元の移載対象場所15に対応する位置(目的地)に物品搬送車3を走行させるための第1設定経路を設定する第1経路設定制御#1、第1設定経路に沿って物品搬送車3を走行させて物品搬送車3を搬送元の移載対象場所15に対応する位置まで走行させる第1走行制御#2、搬送元の移載対象場所15にある物品Wを本体部12内に移載する第1移載制御#3、基本マップ情報に基づいて現在位置から搬送先の移載対象場所15に対応する位置(目的地)に物品搬送車3を走行させるための第2設定経路を設定する第2経路設定制御#4、第2設定経路に沿って物品搬送車3を走行させて物品搬送車3を搬送先の移載対象場所15に対応する位置まで走行させる第2走行制御#5、本体部12内の物品Wを搬送先の移載対象場所15に移載する第2移載制御#6を順に実行する。
【0027】
尚、第1経路設定制御#1及び第2経路設定制御#4は同様の制御であり、両者を区別しない場合には、単に、経路設定制御#10と称する。即ち、経路設定制御#10には、第1経路設定制御#1及び第2経路設定制御#4が含まれる。従って、設定経路1Aには、上述した第1設定経路及び第2設定経路が含まれる。
【0028】
図8に示すように、現在位置から目的地へ向かう経路は複数存在する。つまり、設定経路1Aの候補である候補経路1Bは複数存在する。図8には、第1候補経路1B1、第2候補経路1B2、第3候補経路1B3、第4候補経路1B4の4つの候補経路1Bを例示している。このように複数の候補経路1Bが存在する場合、制御装置Hは、複数の候補経路1Bの中から1つの設定経路1Aを決定する。図8に示す例では、第1候補経路1B1が設定経路1Aとして設定されている。
【0029】
制御装置Hは、物品搬送車3を現在位置から走行可能経路1上の目的地に走行させるための経路である設定経路1A(例えば、図8に破線で示した第1候補経路1B1)を、リンクLのそれぞれに設定されたリンクコストLCに基づいて設定する経路設定制御#10を実行する。リンクコストLCには、静的な(固定的な)コストである基準コストSTと、動的なコストである変動コストDYとが含まれており、リンクコストLCは下記式(1)により算出される。リンクコストLCについては後述する。
【0030】
LC=ST+DY ・・・(1)
【0031】
本実施形態では、図7の経路設定制御のフローチャートに示すように、制御装置Hは、設定車3Cの現在位置の情報と目的地の情報とマップ情報とに基づいて、現在位置から目的地まで走行可能な経路を候補経路1Bとして、1以上の候補経路1Bを設定する(#11)。次に、設定された候補経路1Bが2以上であるか否かが判定される(#12)。設定された候補経路1Bが1つのみの場合、制御装置Hは、その候補経路1Bを設定経路1Aとして設定する(#15)。設定された候補経路1Bが2以上の場合、制御装置Hは、まず、候補経路1Bに属する全てのリンクLのそれぞれについて台数値nを決定する(#13)。この台数値nの決定方法については後述する。次に、制御装置Hは、候補経路1Bに属する全てのリンクLのそれぞれについて、基準コストSTと台数値nに応じた変動コストDYとに基づいてリンクコストLCを決定する(#14)。そして、制御装置Hは、候補経路1Bに属するリンクLのそれぞれのリンクコストLCに基づいて、それぞれの候補経路1Bの全体のコストである経路コストTCを求め(#15)、それぞれの候補経路1Bの経路コストTCに基づいて、2以上の候補経路1Bから1つの設定経路1Aを設定する(#16)。
【0032】
制御装置Hは、経路設定制御#10を、少なくとも一定時間ごとに繰り返し実行する。設定車3Cが対象リンクLAに近づくに従って、実際の他車3Bの影響が現実の状態に近づく。このため、経路設定制御#10が、一定時間ごとに繰り返し実行されると、設定車3Cが移動する途中において経路設定を見直すことができ、より高精度に他車3Bの影響を考慮して経路設定を行うことができる。
【0033】
以下、リンクコストLC及び台数値nについて説明する。ここで、経路設定制御#10により設定経路1Aが設定される対象の物品搬送車3を設定車3Cとする。また、設定車3Cの候補経路1B上のリンクLを通過する物品搬送車3を対象車3Aとし、対象車3Aが通過するリンクLを対象リンクLAとする。また、対象車3A以外の物品搬送車3を他車3Bとする。
【0034】
それぞれのリンクLにおける基準コストSTは、対象リンクLAに他車3Bが存在しない状態で、対象車3Aが対象リンクLAを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値である。本実施形態では、制御装置Hは、図9に示すように、対象リンクLAに他車3Bが存在しない空走行状態において、対象リンクLAに進入する対象車3Aから送信された位置情報Sを受信した場合に、対象リンクLAに進入する対象車3Aから送信された位置情報Sを受信した時刻Dと、図10に示すように、対象リンクLAから退出する対象車3Aから送信された位置情報Sを受信した時刻Dとの差から基準通過時間を算出する。そして、制御装置Hは、この基準通過時間に基づいて基準コストSTを設定する。例えば、基準コストSTは、基準通過時間の秒数とすることができる。
【0035】
ここでは、基準コストSTの指標としての精度を高めるため、制御装置Hは、対象リンクLAに他車3Bが存在しない状態で対象車3Aに対象リンクLAを複数回走行させ、各回の走行において基準通過時間を取得し、取得した複数の基準通過時間に基づいて基準コストSTを設定する。本実施形態では、基準コストSTは、各回の走行における基準通過時間の平均値であり、制御装置Hは、基準通過時間の合計を走行の回数で除算して基準コストSTを設定する。例えば、2回走行させて基準コストSTを設定する場合において基準通過時間が5秒と8秒であった場合は、5秒と8秒との合計である13秒を走行の回数である2で除算した秒数である6.5を基準コストSTとする。本実施形態では、基準コストSTの設定は、物品搬送設備において物品Wを搬送する運用開始前に、走行可能経路1の全体に亘って対象車3Aを複数回走行させることで、走行可能経路1に属する全てのリンクLのそれぞれに対して予め行っている。つまり、制御装置Hが最初の経路設定制御#10を実行する前(ここでは物品搬送設備100の運用開始前)に、走行可能経路1に属する全てのリンクLのそれぞれに対して基準コストSTが設定される。
【0036】
また、走行可能経路1に属する全てのノードNに対して、経路設定制御#10を実行する前(本実施形態では物品搬送設備100の運用開始前)に、ノードコストが設定される。このノードコストは、ノードNのそれぞれに対して設定されるコストである。本実施形態では、制御装置Hは、ノードNの区間内に物品搬送車3が1台しか進入できないように制御するため、物品搬送車3がノードNの区間を通過する通過時間はほぼ一定となる。そこで、本例では、ノードコストは、変動成分を有しない固定値とされている。ここでは、ノードコストは、ノードNのそれぞれの形状に応じた値に設定されている。尚、これに限らず、ノードコストを、上述した基準コストSTと同様に、他車3Bが存在しない状態で対象車3Aが対象のノードNを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値としても好適である。或いは、ノードコストを、その形状等に関わらず、全てのノードNについて一律の値としてもよい。
【0037】
このように、ノードコストは、固定値であるから、候補経路1BにおけるノードNの数に応じて一義的に定まる値である。つまり、物品搬送車3の搬送状態に応じて変動する値ではない。従って、上述したリンクLに関する基準コストSTにノードコストを加算して、基準コストSTとしてもよい。
【0038】
変動コストDYは、対象リンクLAに他車3Bが存在する状態で対象車3Aが対象リンクLAを走行する実走行状態における通過時間(実通過時間)に応じた値であり、他車3Bの台数によって変動する値である。対象リンクLAに存在する他車3Bの台数が多いほど、実通過時間は長くなる。ここで、対象リンクLAに存在する他車3Bが1台増加するごとに増加する通過時間を「台数起因増加時間ΔTn」と称する。変動コストDYは、対象リンクLAに他車3Bが存在する状態で対象車3Aが対象リンクLAを走行する実走行状態において、対象車3Aが対象リンクLAを通過するのに要する時間である実通過時間が、基準通過時間に対して、対象リンクLAに存在する他車3Bの台数に応じて増加する時間(台数起因増加時間ΔTn(実通過時間の増加量))に基づいて設定される値である。他車3Bが1台増加するごとに増加する実通過時間の増加量であるから、台数起因増加時間ΔTnは、「他車コスト」に相当する。
【0039】
ここでは、変動コストDYの指標としての精度を高めるため、制御装置Hは、対象リンクLAに他車3Bが存在する状態で対象車3Aに対象リンクLAを複数回走行させ、各回の走行において、対象リンクLAに存在していた他車3Bの台数を示す台数情報と実通過時間とを取得し、基準通過時間に対する実通過時間の増加量と台数情報との相関に基づいて台数起因増加時間ΔTnを求める。具体的には、制御装置Hは、基準通過時間に対する実通過時間の増加量を、台数情報に示される台数で除算して求められる、他車1台あたりの実通過時間の増加量を台数起因増加時間ΔTnとしている。そして、対象車3Aに対象リンクLAを複数回走行させて得られた台数起因増加時間ΔTnの平均値を、最終的な台数起因増加時間ΔTnとしている。
【0040】
本実施形態では、制御装置Hは、図11に示すように、対象リンクLAに他車3Bが存在する実走行状態において、対象リンクLAに進入する対象車3Aから送信された位置情報Sを受信した場合に、対象リンクLAに進入する対象車3Aから送信された位置情報Sを受信した時刻Dと、図12に示すように、対象リンクLAから退出する対象車3Aから送信された位置情報Sを受信した時刻Dとの差、から実通過時間を算出する。そして、制御装置Hは、基準通過時間(例えば5秒)に対する実通過時間(例えば15秒)の増加量(例えば10秒)を、台数情報に示される台数(図11においては2台)で除算することで、台数起因増加時間ΔTn(例えば5秒)を求める。
【0041】
本実施形態では、このような台数起因増加時間ΔTnの算出は、物品搬送設備100において物品Wの搬送を開始する前である運用開始前と、運用開始後との双方で行う。すなわち、制御装置Hは、まず運用開始前に、走行可能経路1の全体に亘って対象車3A及び他車3Bとなる複数の物品搬送車3を走行させることで、走行可能経路1に属する全てのリンクLのそれぞれにおける台数起因増加時間ΔTnを求める。つまり、制御装置Hは、最初の経路設定制御を実行する前(ここでは運用開始前)に、走行可能経路1に属する全てのリンクLのそれぞれに対して初期の台数起因増加時間ΔTnを設定する。
【0042】
さらに、制御装置Hは、物品搬送設備において物品Wの搬送を開始した後である運用開始後にも、走行可能経路1を走行する複数の物品搬送車3のそれぞれを対象車3A及び他車3Bとして、走行可能経路1に属するリンクLのそれぞれにおける台数起因増加時間ΔTnを求め、それに基づいて台数起因増加時間ΔTnを随時更新する。この際、制御装置Hは、それぞれの対象リンクLAを対象車3Aが通過する毎に台数起因増加時間ΔTnを求め、求めた台数起因増加時間ΔTnと過去に求めた台数起因増加時間ΔTnとに基づいて、台数起因増加時間ΔTnを更新する。このような台数起因増加時間ΔTnの更新は、物品搬送設備の運用中、継続的に行われると好適である。そして、経路設定制御に用いる変動コストDYは、最新の台数起因増加時間ΔTnを用いて設定されると好適である。
【0043】
但し、本実施形態では、制御装置Hは、障害が発生した対象車3Aの走行による台数情報及び実通過時間、及び、障害の発生により走行が制限されている対象リンクLAを通過する対象車3Aの走行による台数情報及び実通過時間は、台数起因増加時間ΔTn(他車コスト)の設定に用いる台数情報及び実通過時間から除外する。他車3Bの異常停止や対象リンクLAを通行するにあたっての障害物等により、対象車3Aの対象リンクLAの通過が妨げられたり、対象車3Aに異常が生じて停止や減速が生じたりした場合には、対象車3Aが対象リンクLAを通過する実通過時間が著しく大きくなる。即ち、このような走行時における台数情報及び実通過時間を台数起因増加時間ΔTn(他車コスト)の設定に用いると、他車コストが本来よりも大きい値に設定されることになる。このような走行による第数情報及び実通過時間が他車コストの設定に用いる対象から除外されることで、より適切な他車コストを設定することができる。
【0044】
制御装置Hは、経路設定制御において、対象リンクLAに存在するとみなす他車3Bの台数である台数値nを決定し、当該台数値nに応じて対象リンクLAの変動コストDYを設定する。制御装置Hは、上記のようにして求めた対象リンクLAの台数起因増加時間ΔTn(他車1台あたりの実通過時間の増加量)に、対象リンクLAの台数値nを乗算した値を変動コストDYとして設定することができる。つまり、変動コストDYは、下記式(2)に示すように、台数起因増加時間ΔTnに台数値nを乗算して得られる秒数として設定することができる。
【0045】
DY=ΔTn・n ・・・(2)
【0046】
例えば、対象リンクLAの台数値nが4、台数起因増加時間ΔTnが5秒である場合は、変動コストDYとして20が設定される。このように、変動コストDYは、対象リンクLAに存在するとみなされる他車3Bの台数の増加に伴って増加すると予想される、対象リンクLAの実通過時間の増加量を表す指標となっている。そして、制御装置Hは、経路設定制御を実行する場合に、設定車3Cの現在位置から目的地までの設定経路1Aの候補となる候補経路1Bに属する全てのリンクLのそれぞれに対して変動コストDYを設定する。
【0047】
制御装置Hは、このように設定される変動コストDYと基準コストSTとに基づいて、設定車3Cの現在位置から目的地までの設定経路1Aの候補となる候補経路1BにおけるリンクLのそれぞれのリンクコストLCを決定する。そして、当該リンクコストLCに基づいて候補経路1Bの全体のコストである経路コストTCを求め、候補経路1Bのそれぞれの経路コストTCに基づいて設定経路1Aを設定する。
【0048】
ここで、台数値nの決定方法について説明する。制御装置Hは、対象リンクLAに実際に存在していると判断している他車3Bを、対象リンクLAに存在するとみなして、台数値nを決定する。このような他車3Bの台数は、現在台数値naである。更に、本実施形態では、制御装置Hは、対象リンクLAを通過する設定経路1Aが既に設定されている他車3Bを、当該他車3Bの現在位置に関わらず対象リンクLAに存在するとみなして、台数値nを決定する。尚、対象リンクLAを通過する設定経路1Aが既に設定されている他車3Bには、対象リンクLA内を目的地とする設定経路1Aが既に設定されている他車3Bも含まれる。このような他車3Bの台数は、将来台数値nbである。即ち、台数値nは、下記式(3)に示すように、現在台数値naと将来台数値nbとの和である。
【0049】
n=na+nb・・・(3)
【0050】
つまり、本実施形態では、制御装置Hは、設定車3Cの経路設定制御#10を実行する時点で、対象リンクLAに存在していると判断している他車3B(図13に示す例では2台)に加えて、経路設定制御#10を実行する時点で、対象リンクLAに存在していないと判断している他車3Bであっても、対象リンクLAの全体又は一部を設定経路1Aとして既に設定されている他車3B(図13に示す例では2台)を、対象リンクLAに存在するとみなして台数値n(図13に示す例では4)を決定する。制御装置Hは、このようにして複数の候補経路1Bのそれぞれに属するリンクLを対象リンクLAとし、複数の対象リンクLAのそれぞれについての台数値nを決定する。
【0051】
このように台数値nを決定することで、設定車3Cの経路設定制御を行う時点での対象リンクLAの実際の混雑度(図13に示す例では他車3Bが2台)だけでなく、将来における対象リンクLAの混雑度も考慮して対象リンクLAのリンクコストLCを決定することができる。具体的には、経路設定制御を行う時点で対象リンクLAに存在しない他車3Bであっても、対象リンクLAを通過する予定となっている場合には、設定車3Cが対象リンクLAを通過する前後で対象リンクLAに存在する可能性があるため、対象リンクLAの混雑度を高める可能性がある。また、設定車3Cが対象リンクLAを通過する前後で対象リンクLAに存在しない他車3Bであっても、対象リンクLAを通過する予定となっている他車3Bが多い場合には、対象リンクLAの将来的な混雑度は高くなる可能性が高い。本実施形態の構成によれば、このような対象リンクLAの将来の混雑度も考慮して対象リンクLAのリンクコストLCを決定することができるため、設定車3Cの設定経路1Aを適切に設定し易くなっている。
【0052】
そして、制御装置Hは、候補経路1Bを構成する複数の対象リンクLAのそれぞれについてのリンクコストLCを決定する。下記式(4)に示すように、リンクコストLCは、基準コストSTと台数値nに応じた変動コストDYとに基づいて決定される。
【0053】
LC=ST+DY=ST+(ΔTn・n)=ST+(ΔTn・(na+nb))・・・(4)
【0054】
基準コストSTは、基準通過時間に基づいて設定される値であり、本実施形態では基準通過時間の秒数である。よって、例えば基準通過時間が10秒である場合は、基準コストSTは「10」とされる。また、変動コストDYは、台数起因増加時間ΔTnに基づいて設定される値であり、本実施形態では、台数値nに他車1台あたりの増加時間を示す台数起因増加時間ΔTnを乗算した値に基づいて設定される秒数である。よって、例えば台数値nが4、台数起因増加時間ΔTnが5秒である場合は、変動コストDYは「20」とされる。これらの例のように基準コストST及び変動コストDYが設定されている場合、基準コストST「10」に変動コストDY「20」を加えた「30」が対象リンクLAのリンクコストLCとして決定される。制御装置Hは、このようなリンクコストLCの決定を、候補経路1Bを構成する複数の対象リンクLAのそれぞれについて行う。
【0055】
尚、台数値nには、現在台数値naと将来台数値nbとが含まれているため、変動コストDYは、式(4)の右辺第2項を展開して下記式(5)のように表すこともできる。現在台数値naに基づく変動コストDY(右辺第1項)と、将来台数値nbに基づく変動コストDY(右辺第2項)とを区別する場合には、前者を第1変動コストDYa、後者を第2変動コストDYbと称する。この場合、式(4)に示すリンクコストLCは下記式(6)のように表される。
【0056】
DY=ΔTn・na+ΔTn・nb=DYa+DYb・・・(5)
LC=ST+DY=ST+DYa+DYb ・・・(6)
【0057】
尚、制御装置Hは、設定車3Cの設定時点における位置から対象リンクLAまでの経路に基づいて推測される設定車3Cの対象リンクLAへの到達時刻と、他車3Bの設定時点における位置から対象リンクLAまで経路に基づいて推測される他車3Bの対象リンクLAへの到達時刻とに基づいて、設定車3Cと同時期に設定車3Cに対して前方を走行することになる他車3Bを、対象他車3Dとするとよい。設定車3Cと同時期に設定車3Cよりも前方を走行することになる他車3Bは、当該設定車3Cの走行に与える影響が大きい。対象リンクLAにおける設定車3Cと他車3Bとの位置関係に基づいて対象車3Aが設定されることで、設定経路1Aをより適切に設定することができる。
【0058】
但し、そのように対象リンクLAにおける設定車3Cと他車3Bとの位置関係を全ての対象リンクLA及び全ての他車3B(対象車3Aとなり得る他車3B)について演算すると演算負荷が増大する可能性がある。従って、上記のように対象リンクLAにおける設定車3Cと他車3Bとの位置関係に拘わらず、対象車3Aが設定されてもよい。
【0059】
ところで、それぞれの物品搬送車3の走行目的は同じではない。例えば、図6を参照して上述したように、第1走行制御#2では物品搬送車3を搬送元の移載対象場所15に対応する位置まで走行させており、第2走行制御#5では物品搬送車3を搬送元の移載対象場所15に対応する位置まで走行させている。つまり、第1経路設定制御#1で設定される設定経路1Aの走行目的と、第2経路設定制御#4で設定される設定経路1Aの走行目的とは異なっている。
【0060】
また、上述したように、物品搬送設備100には、複数の物品処理装置Pと、複数の保管部Rとが備えられている。本実施形態の物品搬送設備100は、例えば半導体の製造設備であり、それぞれの物品処理装置Pは、半導体基板に対して種々の製造処理を施す生産装置であり、搬送対象の物品Wの使用場所である。また、保管部Rは、材料としての半導体基板の保管部、或いは製造途中の半導体(いくつかの工程による処理が施された半導体基板)の保管部であり、搬送対象の物品Wの保管場所である。従って、搬送元には、物品処理装置Pと保管部Rとが含まれ、搬送先にも物品処理装置Pと保管部Rとが含まれる。
【0061】
半導体製造設備としての物品搬送設備100においては、物品Wの搬送効率が半導体装置の生産効率に影響する。つまり、半導体装置の生産効率の向上には、物品Wの搬送効率を向上させることが好ましい。換言すれば、物品処理装置Pに長時間、物品Wが滞留することは、物品処理装置Pの稼働率の観点から好ましくなく、物品処理装置Pに対して迅速に物品Wを搬送し、物品処理装置Pから迅速に物品Wを引き取ることが好ましい。従って、例えば、保管部Rを搬送元とする場合に比べて、物品処理装置Pを搬送元とする場合の方が優先されることが好ましく、保管部Rを搬送先とする場合に比べて、物品処理装置Pを搬送先とする場合の方が優先されることが好ましい。
【0062】
このため、本実施形態では、同じ対象リンクLAであっても、走行目的の優先度が低い設定車3Cの方が、走行目的の優先度が高い設定車3Cに比べてリンクコストLCが高くなるようにして、走行目的の優先度が低い設定車3Cに、当該対象リンクLAを含む経路が設定経路1Aとして決定されにくくなるようにしている。即ち、制御装置Hは、物品搬送車3の走行目的に応じて設定された値であって、目的地に早く到着することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された優先度調整値Yを設定している。そして、制御装置Hは、上述した経路設定制御#10において、変動コストDYを設定車3Cの走行目的に応じた優先度調整値Yに基づいて調整し、調整変動コストDYcを演算する。リンクコストLCは、上述した式(1)より、下記式(7)となる。
【0063】
LC=ST+DY・Z=ST+DYy・・・(7)
【0064】
制御装置Hは、経路設定制御#10を実行する時点を設定時点として、この調整変動コストDYcと基準コストSTとに基づいて、設定車3Cの設定時点における位置から目的地までの候補経路1BにおけるリンクLのそれぞれのリンクコストLCを決定する。そして、制御装置Hは、リンクコストLCに基づいて候補経路1Bのコストである経路コストTCを求め、候補経路1Bのそれぞれの経路コストTCに基づいて設定経路1Aを設定する。
【0065】
ところで、走行目的には、上述したような物品Wの搬送を目的としたものには限らず、物品Wの搬送を行わない物品搬送車3が他の物品搬送車3の走行の妨げとならないように、退避する「退避走行」も含まれる。つまり、退避走行は、他の物品搬送車3に経路を譲るために設定された目的地へ向かって走行することである。これは、物品Wを搬送する他の物品搬送車3から見た場合には、当該物品搬送車3を追い出すものでもあり、「追い出し走行」と称される場合もある。当然ながら、この退避走行は、物品Wを搬送する走行に比べて走行目的の優先度が低い。ここで、この物品Wを搬送する走行を、物品Wを受け取り又は物品Wを引き渡すために設定された目的地へ向かって走行する「搬送関連走行」とする。退避走行についての優先度調整値Yは、搬送関連走行についての優先度調整値Yよりも大きく設定されている。
【0066】
また、上述したように、保管部Rを搬送元とする場合に比べて、物品処理装置Pを搬送元とする場合の方が優先されることが好ましく、保管部Rを搬送先とする場合に比べて、物品処理装置Pを搬送先とする場合の方が優先されることが好ましい。ここで、目的地が物品Wの使用場所(例えば物品処理装置P)である走行を「第1搬送関連走行」と称し、目的地が物品Wの保管場所(例えば保管部R)である走行を「第2搬送関連走行」と称する。本実施形態では、走行目的に第1搬送関連走行と第2搬送関連走行とが含まれる場合、第2搬送関連走行についての優先度調整値Yが、第1搬送関連走行についての優先度調整値Yよりも大きく設定されている。
【0067】
また、走行目的には、物品Wを引き渡すための走行(引き渡し走行)と、物品Wを受け取るための走行(受け取り走行)とがある。そして、1つの目的地に対して、それぞれ引き渡し走行と、受け取り走行とがある。つまり、目的地が使用場所である第1搬送関連走行における引き渡し走行と受け取り走行とがあり、目的地が保管場所である第2搬送関連走行における引き渡し走行と受け取り走行とがある。具体的には、走行目的には、物品Wを引き渡すために物品Wの使用場所を目的地として走行する「第1引き渡し走行」と、物品Wを受け取るために物品Wの使用場所を目的地として走行する「第1受け取り走行」と、物品Wを引き渡すために物品Wの保管場所を目的地として走行する「第2引き渡し走行」と、物品Wを受け取るために物品Wの保管場所を目的地として走行する「第2受け取り走行」とが含まれる。また、走行目的には、さらに、他の物品搬送車3に経路を譲るために設定された目的地へ向かって走行する「退避走行」も含まれる。
【0068】
そして、これら5つの走行目的においては、優先度調整値Yは、「第1引き渡し走行」が最も小さく、「退避走行」が最も大きくなるように設定されている。具体的には、優先度調整値Yは、「第1引き渡し走行」、「第1受け取り走行」、「第2引き渡し走行」、「第2受け取り走行」、「退避走行」の順に値が大きくなるように設定されている。即ち、優先度調整値Yは、下記表1において下方へ行くほど大きくなるように設定されている。例えば、最も値が小さい「第1引き渡し走行」の優先度調整値Yを「1」とすると、「第1受け取り走行」における値を「1.5」、「第2引き渡し走行」における値を「2」、「第2受け取り走行」における値を「2.5」、「退避走行」における値を「3~4」とすることができる。
【0069】
【表1】
【0070】
上記においては、「第1引き渡し走行」、「第1受け取り走行」、「第2引き渡し走行」、「第2受け取り走行」、「退避走行」の順に優先度調整値Yが大きくなる形態を例示したが、表1に示すように、例えば、「第1引き渡し走行」と「第1受け取り走行」との優先度調整値Yが同じ値であってもよい。同様に、「第2引き渡し走行」と「第2受け取り走行」との優先度調整値Yが同じ値であってもよい。また、例示は省略するが、優先度調整値Yは、「第1引き渡し走行」の値よりも「第1受け取り走行」の値の方が大きく、「第2引き渡し走行」の値よりも「第2受け取り走行」の値の方が大きく、「第1受け取り走行」の値と「第2引き渡し走行」の値とが同じであることを妨げるものではない。即ち、優先度調整値Yは、「第1引き渡し走行」、「第1受け取り走行」、「第2引き渡し走行」、「第2受け取り走行」の順に、前の走行目的の値以上となるように設定されるものであってもよい。尚、この場合であっても、優先度調整値Yは、搬送関連走行(第1引き渡し走行、第1受け取り走行、第2引き渡し走行、第2受け取り走行)よりも退避走行の方が大きい値に設定されている。
【0071】
尚、優先度調整値Yは、上記において例示したように、「1」、「1.5」、「2」、「2.5」、「4」のように段階的な値として設定されていてもよいし、さらに目的地となる物品処理装置Pや保管部Rに応じた係数を乗じて連続的な値として設定されていてもよい。例えば、目的地となる物品処理装置Pに、製造工程等に基づく優先度が割り当てられている場合、上記において例示した優先度調整値Yに製造工程に基づく優先度を乗じた値を最終的な優先度調整値Yとしてもよい。具体的には、第1受け取り走行の目的地として、第1の物品処理装置Pと第2の物品処理装置Pとがあり、第1の物品処理装置Pの優先度が」「0.8」、第2の物品処理装置Pの優先度が「1.1」の場合には、第1の物品処理装置Pを目的地とする優先度調整値Yが「0.8」に設定され、第2の物品処理装置Pを目的地とする優先度調整値Yが「1.1」に設定されてもよい。
【0072】
このように、優先度調整値Yにより変動コストDYを調整してリンクコストLCを演算する本実施形態では、制御装置Hは、対象リンクを通過する設定経路1Aが既に設定されている他車3Bを、対象他車3Dとする。設定経路1Aは、1台の物品搬送車3に対して1つ設定されるので、比較的簡単な処理により、他車3Bの設定経路1Aに含まれ、且つ設定車3Cの候補経路1Bに含まれるリンクLを対象リンクLAに設定することができる。
【0073】
尚、それぞれの物品搬送車3に対して設定される設定経路1Aは、走行可能経路1の使用状況に応じて、物品搬送車3が設定経路1Aに沿って走行している間に変更される場合もある。従って、他車3Bの設定経路1Aに含まれていないリンクLが対象リンクLAとして設定されることを妨げるものではない。例えば、他車3Bの候補経路1Bの内、距離の短い方から上位3つまでの経路に含まれ、且つ設定車3Cの候補経路1Bに含まれるリンクLが対象リンクLAに設定されてもよい。
【0074】
また、本実施形態では、制御装置Hは、変動コストDY(調整変動コストDYc)を密度値dによってさらに補正する。制御装置Hは、経路設定制御#10において、密度値dが高くなるに従ってリンクコストLCが高くなるようにリンクコストLCを補正する。ここで、密度値dは、下記式(8)に示すように、台数値nを、対象リンクLA内に存在し得る物品搬送車3の台数の最大値Zで除算した値である。リンクコストLCは、下記式(9)に示すように変動コストDY(調整変動コストDYc)が密度値dによって補正されることによって補正される。
【0075】
d=n/Z ・・・(8)
LC=ST+d・DY ・・・(9)
【0076】
例えば、対象リンクLAに存在し得る物品搬送車3の台数の最大値が5台であり、上記のとおり決定された台数値nが6台である場合は、密度値dは1.2となる。また例えば、対象リンクLAに存在し得る物品搬送車3の台数の最大値が5台であり、上記のとおり決定された台数値nが4台である場合は、密度値dは0.8となる。
【0077】
そして、例えば、基準コストSTを「10」、変動コストDY(調整変動コストDYc)を「20」、密度値dを「1.2」とすると、式(9)に示すように、制御装置Hは、基準コストSTと、変動コストDYに密度値dを乗算して補正した値である「24」との和である「34」をリンクコストLCとする。なお、密度値dを考慮しない場合、リンクコストLCは、「10」と「20」との和である「30」となる。つまり、制御装置Hは、密度値dを用いて、経路設定制御において、密度値dが高くなるに従ってリンクコストLCが高くなるようにリンクコストLCを補正する。制御装置Hは、このような密度値dによるリンクコストLCの補正を、候補経路1Bを構成する複数の対象リンクLAのそれぞれについて行う。
【0078】
このようなリンクコストLCの補正を行うことにより、対象リンクLA内に存在し得る物品搬送車3の台数の最大値(対象リンクLAの経路長)に応じた対象リンクLAの混雑度をリンクコストLCに反映させることができる。そして、密度値dが高くなるに従ってリンクコストLCが高くなるように補正することにより、密度値dが高いリンクLが含まれる候補経路1Bが設定経路1Aとして設定され難くなる。そのため、各リンクLに存在する物品搬送車3の密度の平均化を図り易くすることができ、特定のリンクLにおいて頻繁に渋滞が発生する可能性を低減することができる。
【0079】
この密度値dについても、優先度調整値Yを考慮することができる。制御装置Hは、密度値dを設定車3Cの走行目的に応じた優先度調整値Yを用いて調整した調整密度値dcを求める(下記式(10)参照)。
【0080】
dc=Y・(n/Z) ・・・(10)
【0081】
式(10)を展開すると分子は、台数値nを優先度調整値Yに応じて調整した台数(調整台数値)に相当する。換言すれば、調整密度値dcは、調整台数値を対象リンクLAに存在し得る物品搬送車3の台数の最大値Zで除算した値である。つまり、対象リンクLAに存在するとみなす物品搬送車3(他車3B)の台数を調整することによって、対象リンクLAにおけるリンクコストLCを調整している。
【0082】
また、本実施形態では、候補経路1Bに属するリンクLにおける現在位置のリンクL及び目的地のリンクLのリンクコストLCを補正している。図14に示すように、現在位置のリンクLについては、リンクLにおける目的地より下流側の領域(下流側領域LL)の割合から、基準通過時間及び実通過時間を補正する。つまり、基準通過時間が5秒、実通過時間が20秒、下流側領域LLが40%の場合は、基準通過時間を2秒、実通過時間を8秒と補正し、物品搬送車3は対象リンクLA内おける現在位置より下流側に存在するとみなした他車3Bのみを対象リンクLAに存在するとみなして現在台数値naを調整することで台数値nを補正している。また、目的地のリンクLについては、リンクLにおける目的地より上流側の領域(上流側領域LU)の割合から、基準通過時間及び実通過時間を補正する。つまり、基準通過時間が5秒、実通過時間が20秒、上流側領域LUが60%の場合は、基準通過時間を3秒、実通過時間を12秒と補正し、物品搬送車3は対象リンクLA内における現在位置より上流側に存在するとみなした他車3Bのみを対象リンクLAに存在するとみなして現在台数値naを調整することで台数値nを補正している。このように、現在位置のリンクL及び目的地のリンクLについては、補正した基準通過時間(基準コストST)、実通過時間、及び台数値nを補正してリンクコストLCを補正している。
【0083】
即ち、制御装置Hは、現在位置のリンクL及び目的地のリンクLにおける基準通過時間及び実通過時間を候補経路1Bにおける始点及び終点のリンクLにおいて設定車3Cが走行する走行領域係数kによって補正している。図14に示した例のように、現在位置のリンクLにおいて下流側領域LLが40%の場合には、「k=0.4」と設定され、目的地のリンクLにおいて上流側領域LUが60%の場合には、「k=0.6」と設定される。その他のリンクLにおいては、「k=1」である。従って、下記式(11)のように表すことができる。当然ながら、式(11)における変動コストDYは、優先度調整値Yを用いて調整された調整変動コストDYcであってもよいし、さらに密度値d(又は調整密度値dc)によって調整されていてもよい。
【0084】
LC=k(ST+DY) ・・・(11)
【0085】
以下、具体例を示して説明する。図15は、設定車3Cの複数の候補経路1Bと対象他車3Dの設定経路1A(対象他車経路1Aa)との関係の一例を示している。複数の候補経路1Bの内、第1候補経路1B1は、第1リンクL1、第2リンクL2を通る経路である。第2候補経路1B2は、第3リンクL3、第4リンクL4、第5リンクL5を通る経路である。また、第1候補経路1B1及び第2候補経路1B2は、共に第6リンクL6を通る経路である。第3候補経路1B3は、第3リンクL3、第7リンクL7、第8リンクL8、第9リンクL9、第10リンクL10を通る経路である。ここで、第2リンクL2及び第6リンクL6は、対象他車3Dの設定経路1Aである対象他車経路1Aaに含まれるリンクLであり、設定車3Cの経路設定制御#10における対象リンクLAに相当する。また、対象他車3Dの走行目的は、上述した第1引き渡し走行であり、最も優先度が高い走行目的である。一方、設定車3Cの走行目的は、退避走行であり、最も優先度が低い走行目的である。
【0086】
第1候補経路1B1における対象リンクLAとしての第2リンクL2のリンクコストLCの演算に際しては、制御装置Hは、退避走行に係る優先度調整値Yとして例えば「4」を設定し、第2リンクL2の変動コストDYを調整する。さらに、第1候補経路1B1において第2リンクL2の次のリンクLである第6リンクL6も対象リンクLAであり、第6リンクL6のリンクコストLCの演算に際しても、制御装置Hは、優先度調整値Yとして「4」を設定し、第6リンクL6の変動コストDYを調整する。その結果、第1候補経路1B1の経路コストTCが大きくなり、第1候補経路1B1に対して迂回経路である第2候補経路1B2よりも経路コストTCが高くなると、制御装置Hは、第2候補経路1B2を設定車3Cの設定経路1Aとして設定し易くなる。
【0087】
但し、第2候補経路1B2も対象リンクLAである第6リンクL6を含んでいる。一方、第2候補経路1B2よりもさらに迂回経路である第3候補経路1B3は、対象リンクLAを含んでおらず、優先度調整値YによりリンクコストLCが増大しない。このため、第2候補経路1B2に比べて第3候補経路1B3の方が、経路コストTCが小さくなる場合があり、この場合には、第3候補経路1B3が設定車3Cの設定経路1Aとして設定される。このように、優先度調整値Yにより変動コストDYが調整されることで、走行目的に応じた優先度の高い対象他車3Dが通る経路(リンクL)を走行する物品搬送車3の台数が抑制され、対象他車3Dの走行が妨げられる可能性を低減させることができる。
【0088】
尚、上述したように、制御装置Hは、経路設定制御#10を、少なくとも一定時間ごとに繰り返し実行する。このため、例えば、対象リンクLAとしての第6リンクL6のリンクコストLCが優先度調整値Yによって高くなり、一旦、設定経路1Aとして第3候補経路1B3が設定されていたとしても、第6リンクL6を対象他車3Dが通過して、第6リンクL6が対象リンクLAではなくなる場合がある。この時、設定車3Cが、第8リンクL8や第9リンクL9を走行している場合には、第10リンクL10ではなく、第11リンクL11、第5リンクL5を通って第6リンクL6を通る経路も選択可能である。そして、第6リンクL6のリンクコストLCが対象リンクLAではなくなったことにより低下している場合には、第3候補経路1B3ではなく、第11リンクL11を経由して第6リンクL6を通る経路が設定経路1Aとして設定されてもよい。
【0089】
ところで、上記したように、物品搬送設備100には、物品搬送車3に電力を供給するための給電線20が走行可能経路1に沿って設けられ、走行可能経路1を複数に区分して給電エリアEが設定されている。それぞれの給電エリアEには、給電エリアEごとにエリア内上限台数が設定されており、給電エリアEのそれぞれでエリア内上限台数以下の物品搬送車3に電力を供給することができるように構成されている。制御装置Hは、異なる給電エリアEに属するリンクLのリンクコストLCの算出に際して、以下のように、異なる重み付けを与えることができる。
【0090】
ここで、複数の給電エリアEの1つを対象給電エリアとする。制御装置Hは、対象給電エリアに存在するとみなす他車3Bの台数が、当該対象給電エリアのエリア内上限台数以上となっている場合に、給電エリア補正処理を実行する。具体的には、制御装置Hは、経路設定制御#10において、対象給電エリアに含まれるリンクLのリンクコストLCを、対象給電エリアに含まれないリンクLのリンクコストLCよりも高くするように補正する給電エリア補正処理を実行する。例えば、エリア補正係数を「Ek」として、下記式(12)のように、リンクコストLCが補正される。
【0091】
LC=Ek(ST+DY) ・・・(12)
【0092】
尚、簡略化のため、省略しているが、式(12)における右辺は、密度値dや走行領域係数k等によって調整された後の値であってもよい。このように、式(12)では、エリア補正係数Ekが、リンクコストLCの全体(基準コストST及び変動コストDY)を調整する形態を例示したが、優先度調整値Yや密度値dと同様に、下記式(13)に示すように、エリア補正係数Ekは変動コストDYを調整してもよい。当然ながらこの場合も、密度値dや走行領域係数k等による他の調整と併用可能である。
【0093】
LC=ST+Ek・DY ・・・(13)
【0094】
以上のように決定したリンクコストLCに基づいて、制御装置Hは、複数の候補経路1Bのそれぞれの経路コストTCを決定する。経路コストTCは、設定車3Cが候補経路1Bを走行するのに要する時間の推定値を表すコストである。本実施形態では、制御装置Hは、候補経路1Bに属する全てのリンクLのそれぞれについてのリンクコストLCと、候補経路1Bに属する全てのノードNのそれぞれについてのノードコストと加算することで候補経路1Bの経路コストTCを決定する。そして、制御装置Hは、複数の候補経路1Bの夫々に対して決定した経路コストTCを比較して、複数の候補経路1Bのうちの経路コストTCが最も低い候補経路1Bを設定経路1Aとして設定する。これにより、走行可能経路1に存在する他車3Bの影響を適切に考慮して、実際の走行状況において、目的地に到達するまでの時間が最も短い経路を設定経路1Aとして設定できる可能性を高めることができる。
【0095】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0096】
(1)上記においては、対象リンクLAに他車3Bが存在しない状態で、対象車3Aが実際に対象リンクLAを走行した場合の通過時間に基づいて、基準コストSTを設定する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、対象リンクLAの経路長及び形状に基づいて、実際に対象車3Aを走行させることなく基準コストSTを設定する構成としてもよい。具体的には、対象リンクLAの形状に基づいて物品搬送車3の各位置での理想的な走行速度を求め、当該各位置での走行速度と対象リンクLAの経路長とに基づいて、物品搬送車3による対象リンクLAの基準通過時間を求め、当該基準通過時間に基づいて基準コストSTを設定することができる。
【0097】
(2)上記においては、制御装置Hが最初の経路設定制御を実行する前に走行可能経路1に属する全てのリンクLのそれぞれに対して基準コストSTを設定する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、物品搬送設備において物品Wの搬送を開始した後(運用開始後)にも、他車3Bが存在しない状態で物品搬送車3が対象リンクLAを走行した場合には、当該走行による対象リンクLAの通過時間を基準通過時間として取得し、基準コストSTを随時更新する構成としても好適である。
【0098】
(3)上記においては、対象リンクLAに他車3Bが存在する場合に、基準通過時間に対する実通過時間の増加量を台数情報に示される台数で除算して求められる、他車3Bの1台あたりの実通過時間の増加量を台数起因増加時間ΔTnとする構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、対象リンクLAに他車3Bが存在しない場合にも同様に台数起因増加時間ΔTnを求める構成とし、台数情報に示される台数が1以上の場合は、台数情報に示される台数で増加量を除算して台数起因増加時間ΔTnを求め、台数情報に示される台数が0の場合は、分母が0となることを避けるために台数情報に示される台数を1として台数起因増加時間ΔTnを求める構成としてもよい。或いは、台数情報に示される台数に1を加えた台数を常に用い、当該台数で増加量を除算して台数起因増加時間ΔTnを求める構成としてもよい。
【0099】
(4)上記においては、基準通過時間に対する他車3Bの1台あたりの実通過時間の増加量を台数起因増加時間ΔTnとする構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、台数起因増加時間ΔTnを、基準通過時間に対する実通過時間の増加量と台数情報との相関マップ又は相関式として表す構成としても好適である。具体例として、横軸を他車3Bの台数、縦軸を基準通過時間に対する実通過時間の増加量とし、これらの相関関係を線形又は非線形のグラフや数値テーブルとして表した相関マップ、或いはそのような関係を数式で表した相関式も、台数起因増加時間ΔTnとし得る。これらの構成とした場合、例えば、台数情報に示される台数が1台の場合3秒、2台の場合8秒、3台の場合15秒とする等、台数の増加に伴って実通過時間の増加割合が次第に大きくなるような非線形の相関を表すように台数起因増加時間ΔTnを設定することが可能となる。
【0100】
(5)上記においては、リンクコストLCを密度値dよって補正する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、密度値dよるリンクコストLCの補正を行わない構成としてもよい。また、例えば、対象リンクLAの経路長を表す値によってリンクコストLCを補正する構成としてもよい。この場合、例えば、対象リンクLAの経路長が長くなるに従ってリンクコストLCが低くなるようにリンクコストLCを補正する構成としてもよい。或いは、これら以外の指標値によってリンクコストLCを補正する構成としてもよい。
【0101】
(6)上記においては、式(9)に示すように、密度値dを変動コストDYに乗じる形態を例示した。しかし、密度値dが大きくなる場合には、基準コストSTに対して変動コストDYの方が十分に大きくなるため、リンクコストLCにおける基準コストSTの影響は相対的に低くなる。従って、制御装置Hは、基準コスト(例えば10)に変動コスト(例えば20)を加えた値に、密度値(例えば1.2)を乗算して補正した値(例えば36)をリンクコストLCとしてもよい。つまり、式(9)に代えて「LC=d・(ST+DY)」としてもよい。
【0102】
(7)上記においては、候補経路1Bの経路コストTCを決定する場合に、候補経路1Bに属するリンクLのリンクコストLCに、候補経路1Bに属するノードNのノードコストを加算する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、候補経路1Bの経路コストTCを決定する場合に、ノードコストを考慮しない構成としてもよい。この場合、ノードNが経路長を有しない接続点Cのみであり、隣り合う一対の接続点Cの間を繋ぐ経路部分の全体がリンクLである構成としても好適である。
【0103】
(8)上記においては、制御装置Hが、候補経路1Bに属する全てのリンクLのリンクコストLCを用いて候補経路1Bの経路コストTCを決定する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、設定車3Cの現在位置があるリンクLのリンクコストLCと目的地があるリンクLのリンクコストLCとを経路コストTCに含めない等、候補経路1Bに属するリンクLの一部のリンクコストLCに基づいて経路コストTCを求める構成としてもよい。
【0104】
(9)上記においては、候補経路1Bに属する全てのリンクLのそれぞれに対して、リンクコストLCを決定する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、制御装置Hが、経路コストTCを決定するために候補経路1Bに属するリンクLのそれぞれのリンクコストLCを決定しつつ、候補経路1Bに沿って当該リンクコストLCを積算していく構成であってもよい。その場合、リンクコストLCの積算の途中において積算値が規定のしきい値以上となった場合には、その候補経路1Bは設定経路1Aの候補ではなくなったと判定し、その後のリンクコストLCの演算を中止する構成であってもよい。尚、規定のしきい値としては、現在位置から目的地までの距離に応じて設定されていると好適である。
【0105】
(10)上記においては、複数の候補経路1Bがある場合に全ての候補経路1Bについて経路コストTCを求める構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、複数の候補経路1Bの中に、当該候補経路1Bの全体の経路長が、最短の候補経路1Bに対して規定の倍数以上の距離がある候補経路1Bについては、設定経路1Aの候補ではないとして経路コストTCを求めないようにしてもよい。
【0106】
(11)上記においては、物品搬送車3の位置情報Sが、被検出体Tから読み取った位置情報Sである構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。物品搬送車3の位置情報Sが、被検出体T読み取った位置の情報に加えて、当該位置からの物品搬送車3の走行距離の情報も含む構成であっても良い。この構成では、制御装置Hは、物品搬送車3の詳細な位置を取得することができる。また、物品搬送車3が、例えばGPS(グローバル・ポジショニング・システム)等の他の位置検出装置を備えている場合には、当該位置検出装置により取得した位置情報Sを制御装置Hに送信する構成とされていてもよい。
【0107】
(12)上記においては、天井から吊り下げ支持された走行レール2上を物品搬送車3が走行する構成を例として説明した。しかし、このような構成には限定されない。例えば、床面上等の天井からの吊り下げ支持以外の状態で設置された走行レール2上を物品搬送車3が走行する構成としてもよい。また、走行レール2上ではなく、床面上を直接走行する等の無軌道の状態で物品搬送車3が走行する構成としてもよい。
【0108】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した物品搬送設備の概要について説明する。
【0109】
1つの態様として、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備は、前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、前記制御装置は、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストに基づいて設定する経路設定制御を実行し、前記リンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、前記制御装置は、前記経路設定制御において、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求め、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求め、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定し、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求め、前記候補経路のそれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定する。
【0110】
この構成によれば、設定車の走行目的に応じて、目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って調整変動コストが大きくなるように調整される。これにより、優先度が低い走行目的の設定車の場合、対象他車の数が多く混雑する可能性があるリンクを通る候補経路のコストが、優先度が高い走行目的の設定車に比べて大きくなる。そのため、優先度が低い走行目的の物品搬送車が混雑する可能性があるリンクを避けた経路を通り易くなり、当該混雑する可能性があるリンクの実際の混雑度を低く抑え易くなる。その結果、優先度が高い走行目的の物品搬送車の設定経路の自由度を高め易い。従って、優先度が高い走行目的の物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いように、複数の候補経路のうちから適切に設定経路を設定できる。
【0111】
この物品搬送設備の種々の技術的特徴は、物品搬送設備における経路設定方法や経路設定プログラムにも適用可能である。以下にその代表的な態様を例示する。例えば、経路設定方法は、上述した物品搬送設備の特徴を備えた各種のステップを有することができる。また、経路設定プログラムは、上述した物品搬送設備の特徴を備えた各種の機能をコンピュータとしての制御装置に実現させることが可能である。当然ながらこれらの経路設定方法及び経路設定プログラムも、上述した物品搬送設備の作用効果を奏することができる。さらに、物品搬送設備の好適な態様として、下記に示す種々の付加的特徴も、これら経路設定方法や経路設定プログラムに組み込むことが可能であり、当該方法及び当該プログラムはそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。
【0112】
1つの好適な態様として、経路設定方法は、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備において、前記制御装置に経路設定制御を実行させて、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を設定する経路設定方法であって、前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求めるステップと、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求めるステップと、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定するステップと、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求めるステップと、前記候補経路のぞれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定するステップと、を備える。
【0113】
また、1つの好適な態様として、経路設定プログラムは、規定の走行可能経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車を制御する制御装置と、を備えた物品搬送設備において、前記制御装置に経路設定制御を実行させて、複数の前記物品搬送車の内の1つである設定車を前記走行可能経路上の目的地まで走行させるための経路である設定経路を設定する機能を前記制御装置に実現させる経路設定プログラムであって、前記走行可能経路は、経路が分岐又は合流する箇所であるノードと、一対の前記ノードを接続する経路部分であるリンクと、をそれぞれ複数備え、前記リンクのそれぞれに設定されたリンクコストには、基準コストと、変動コストと、が含まれ、前記リンクを通過する何れかの前記物品搬送車を対象車とし、前記対象車が通過する前記リンクを対象リンクとし、前記対象車以外の前記物品搬送車を他車とし、前記基準コストは、前記対象リンクに前記他車が存在しない状態で、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間である基準通過時間に基づいて設定される値であり、前記経路設定制御を実行する時点を設定時点とし、前記対象リンクに存在する前記他車の1台あたりの、前記対象車が前記対象リンクを通過するのに要する時間の増加分に応じて設定された値を他車コストとし、前記対象リンクに存在すると見なす前記他車を対象他車とし、前記物品搬送車の走行目的に応じて設定された値であって、前記目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って連続的又は段階的に大きくなるように設定された値を優先度調整値として、前記対象他車の数と前記他車コストとに基づいて前記変動コストを求める機能と、前記変動コストを前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整変動コストを求める機能と、前記調整変動コストと前記基準コストとに基づいて、前記設定車の前記設定時点における位置から前記目的地までの前記設定経路の候補となる候補経路における前記リンクのそれぞれの前記リンクコストを決定する機能と、前記リンクコストに基づいて前記候補経路のコストである経路コストを求める機能と、前記候補経路のぞれぞれの前記経路コストに基づいて前記設定経路を設定する機能と、を前記制御装置に実現させる。
【0114】
ここで、前記走行目的には、前記物品を受け取り又は前記物品を引き渡すために設定された前記目的地へ向かって走行する搬送関連走行と、他の前記物品搬送車に経路を譲るために設定された前記目的地へ向かって走行する退避走行と、が含まれ、前記退避走行についての前記優先度調整値が、前記搬送関連走行についての前記優先度調整値よりも大きく設定されていると好適である。
【0115】
物品を搬送していない退避走行は、一般的に、搬送関連走行に比べて、目的地に早く到達する必要性が低い。つまり、退避走行は搬送関連走行に比べて、目的地に早く到達することの優先度が低い。本構成によれば、追い出し走行を走行目的とする物品搬送車が混雑する可能性があるリンクを避けた経路を通り易くなり、当該混雑する可能性があるリンクの実際の混雑度を低く抑え易くなる。その結果、搬送関連走行を走行目的とする物品搬送車の設定経路の自由度を高め易い。従って、搬送関連走行を走行目的とする物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いようにすることができる。
【0116】
また、前記走行目的には、前記目的地が前記物品の使用場所である第1搬送関連走行と、前記目的地が前記物品の保管場所である第2搬送関連走行と、が含まれ、前記第2搬送関連走行についての前記優先度調整値が、前記第1搬送関連走行についての前記優先度調整値よりも大きく設定されていると好適である。
【0117】
一般的に、物品の保管場所へ向かう走行は、物品の使用場所へ向かう走行に比べて、目的地に早く到達する必要性が低い。つまり、物品の保管場所へ向かう走行は、物品の使用場所へ向かう走行に比べて、目的地に早く到達することの優先度が低い。本構成によれば、物品の保管場所へ向かう走行である第2搬送関連走行を走行目的とする物品搬送車が混雑する可能性があるリンクを避けた経路を通り易くなり、当該混雑する可能性があるリンクの実際の混雑度を低く抑え易くなる。その結果、物品の使用場所へ向かう走行である第1搬送関連走行を走行目的とする物品搬送車の設定経路の自由度を高め易い。従って、より優先されるべき第1搬送関連走行を走行目的とする物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いようにすることができる。
【0118】
また、前記走行目的には、前記物品を引き渡すために前記物品の使用場所を前記目的地として走行する第1引き渡し走行と、前記物品を受け取るために前記物品の使用場所を前記目的地として走行する第1受け取り走行と、前記物品を引き渡すために前記物品の保管場所を前記目的地として走行する第2引き渡し走行と、前記物品を受け取るために前記物品の保管場所を前記目的地として走行する第2受け取り走行と、他の前記物品搬送車に経路を譲るために設定された前記目的地へ向かって走行する退避走行と、が含まれ、前記優先度調整値は、記載の順が後になるに従って大きくなるように設定されていると好適である。
【0119】
この構成によれば、目的地に早く到達することの優先度が低くなるに従って調整変動コストが大きくなるように、設定車の走行目的に応じて、変動コストを適切に調整することができる。即ち、優先度が高い走行目的の物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いように、より適切に複数の候補経路のうちから適切に設定経路を設定できる。
【0120】
また、前記制御装置は、前記対象リンクを通過する、前記設定経路が既に設定されている前記他車を、前記対象他車とすると好適である。
【0121】
設定経路は、1台の物品搬送車に対して1つ設定されるので、比較的簡単な処理により、他車の設定経路に含まれ、且つ設定車の候補経路に含まれるリンクを対象リンクに設定することができる。
【0122】
また、前記制御装置は、前記設定車の前記設定時点における位置から前記対象リンクまでの経路に基づいて推測される前記設定車の前記対象リンクへの到達時刻と、前記他車の前記設定時点における位置から前記対象リンクまで経路に基づいて推測される前記他車の前記対象リンクへの到達時刻とに基づいて、前記設定車と同時期に前記設定車に対して前方を走行することになる前記他車を、前記対象他車とすると好適である。
【0123】
本構成によれば、実際に設定車の走行に影響を与える可能性が高い他車を対象他車として適切に設定することができる。
【0124】
また、前記制御装置は、前記対象他車の数を前記対象リンク内に存在し得る前記物品搬送車の台数の最大値で除算した値を密度値として求め、前記密度値を前記設定車の前記走行目的に応じた前記優先度調整値を用いて調整した調整密度値を求め、前記経路設定制御において、前記密度値が高くなるに従って前記リンクコストが高くなるように前記リンクコストを補正すると好適である。
【0125】
この構成によれば、対象リンク内に存在し得る物品搬送車の台数の最大値に応じた対象リンクの混雑度をリンクコストに反映させることができる。つまり、密度値が高くなるに従ってリンクコストが高くなるようにリンクコストを補正することができるため、密度値が高いリンクが含まれる候補経路が設定経路として設定され難くなり、特定のリンクにおいて頻繁に渋滞が発生する可能性を低減することができる。本構成では、さらに、優先度調整値により調整された調整密度値が高くなるに従ってリンクコストが高くなるようにリンクコストを補正することができるため、目的地に早く到達することの優先度が低い設定車ほど、当該リンクを通る経路が設定経路として選択され難くなる。その結果、当該リンクが混雑する可能性が低減され、優先度が高い走行目的の物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いようにすることができる。
【0126】
また、前記物品搬送車に電力を供給するための給電線が前記走行可能経路に沿って設けられており、前記走行可能経路を複数に区分した給電エリアごとにエリア内上限台数が設定されて、前記給電エリアのそれぞれで前記エリア内上限台数以下の前記物品搬送車に電力を供給することができるように構成され、前記制御装置は、複数の前記給電エリアの1つを対象給電エリアとして、前記対象給電エリアに存在するとみなす前記他車の台数が、当該対象給電エリアの前記エリア内上限台数以上となっている場合には、前記経路設定制御において、前記対象給電エリアに含まれる前記リンクの前記リンクコストを、前記対象給電エリアに含まれない前記リンクの前記リンクコストよりも高くするように補正する給電エリア補正処理を実行すると好適である。
【0127】
本構成によれば、給電エリア内の物品搬送車の台数が給電可能台数以上となる可能性がある場合に、当該給電エリアを通る経路が設定される可能性を低減できる。給電エリア内の物品搬送車の台数が給電可能台数に達すると、当該給電エリア内への進入が制限され、当該給電エリアの直前で物品搬送車が当該給電エリアに入れずに停止させられる場合がある。しかし、本構成によれば、対象給電エリアに存在するとみなす他車の台数が、当該対象給電エリアのエリア内上限台数以上となっている場合に、当該対象給電エリア内のリンクのリンクコストが高くなるように、給電エリア補正処理が実行されるので、上記のように、物品搬送車が給電エリアへの進入を制限される可能性を低減させることができる。その結果、優先度が高い走行目的の物品搬送車が優先的に効率的な経路を通って早く目的地に到達し易いようにすることができる。
【符号の説明】
【0128】
1 :走行可能経路
1A :設定経路
1B :候補経路
3 :物品搬送車
3A :対象車
3B :他車
3C :設定車
3D :対象他車
20 :給電線
100 :物品搬送設備
DY :変動コスト
DYc :調整変動コスト
E :給電エリア
H :制御装置
L :リンク
LA :対象リンク
LC :リンクコスト
N :ノード
P :物品処理装置(物品の使用場所)
R :保管部(物品の保管場所)
ST :基準コスト
TC :経路コスト
W :物品
Y :優先度調整値
Z :最大値(リンク内に存在し得る物品搬送車の台数の最大値)
d :密度値
dc :調整密度値
ΔTn :台数起因増加時間(他車コスト)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図15