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特許7331936車両用の動力伝達方法及び車両用の動力伝達装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】車両用の動力伝達方法及び車両用の動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20230816BHJP
   B60K 6/383 20071001ALI20230816BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20230816BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20230816BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20230816BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20230816BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20230816BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20230816BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20230816BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20230816BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/383
B60K6/442 ZHV
B60L50/16
B60L50/61
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W20/17
B60W20/20
F16H61/66
F16H63/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021550709
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 IB2019001144
(87)【国際公開番号】W WO2021064437
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 隆行
(72)【発明者】
【氏名】古閑 雅人
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111459(WO,A1)
【文献】特開2017-056836(JP,A)
【文献】特開2008-222067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00-58/40
F16H 61/66
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の動力により駆動される発電機と、
前記発電機で発電した電力により駆動輪を駆動する走行用モータと、
前記走行用モータと前記駆動輪との間で動力を伝達する第1動力伝達経路と、
前記第1動力伝達経路の動力伝達を断続する第1噛み合いクラッチ機構と、
前記内燃機関の動力を機械的に前記駆動輪に伝達する第2動力伝達経路と、
前記第2動力伝達経路の動力伝達を断続する第2噛み合いクラッチ機構と、
を備え、
前記駆動輪は、前記内燃機関の動力又は前記走行用モータの動力により駆動され、
前記第1動力伝達経路に配置された前記走行用モータと、前記第2動力伝達経路に配置された前記内燃機関と前記発電機とが動力源を構成する、
車両用の動力伝達方法であって、
前記第1動力伝達経路及び前記第2動力伝達経路のうち一方から他方への動力伝達経路の切り替えの際に、
前記第1噛み合いクラッチ機構及び前記第2噛み合いクラッチ機構のうち切り替え後の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構である切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結タイミング後、且つ、切り替え前の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構である切り替え前の噛み合いクラッチ機構の解放タイミング前に、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴ってドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが小さい期間の少なくとも一部において、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、前記動力源のうち前記切り替え後の動力伝達経路に配置された動力源である切り替え後の動力源のトルク増加の傾きを、前記切り替え前の動力伝達経路に配置された動力源である切り替え前の動力源のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくすること、及び、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴って前記ドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが大きい期間の少なくとも一部において、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、前記切り替え前の動力源のトルク減少の傾きを、前記切り替え後の動力源のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくすること、
のうち少なくともいずれかを行う、
車両用の動力伝達方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用の動力伝達方法であって、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴って前記ドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが小さく且つ減少する期間の少なくとも一部において、
前記切り替え後の動力源のトルク増加の傾きを、前記切り替え前の動力源のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくする、
車両用の動力伝達方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用の動力伝達方法であって、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴って前記ドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが大きく且つ増加する期間の少なくとも一部において、
前記切り替え前の動力源のトルク減少の傾きを、前記切り替え後の動力源のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくする、
車両用の動力伝達方法。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用の動力伝達方法であって、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴って前記ドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが減少する期間の少なくとも一部において、
前記切り替え後の動力源のトルクを減少させない、
車両用の動力伝達方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項に記載の車両用の動力伝達方法であって、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構が締結する直前の当該噛み合いクラッチ機構の入力回転速度及び出力回転速度の回転速度差に応じて、前記切り替え前の動力源のトルク減少の傾きを変化させる、
車両用の動力伝達方法。
【請求項6】
内燃機関の動力により駆動される発電機と、
前記発電機で発電した電力により駆動輪を駆動する走行用モータと、
前記走行用モータと前記駆動輪との間で動力を伝達する第1動力伝達経路と、
前記第1動力伝達経路の動力伝達を断続する第1噛み合いクラッチ機構と、
前記内燃機関の動力を機械的に前記駆動輪に伝達する第2動力伝達経路と、
前記第2動力伝達経路の動力伝達を断続する第2噛み合いクラッチ機構と、
を備え、
前記駆動輪は、前記内燃機関の動力又は前記走行用モータの動力により駆動され、
前記第1動力伝達経路に配置された前記走行用モータと、前記第2動力伝達経路に配置された前記内燃機関と前記発電機とが動力源を構成する、
車両用の動力伝達装置であって、
前記第1動力伝達経路及び前記第2動力伝達経路のうち一方から他方に動力伝達経路を切り替える際に、
前記第1噛み合いクラッチ機構及び前記第2噛み合いクラッチ機構のうち切り替え後の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構である切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結タイミング後、且つ、切り替え前の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構である切り替え前の噛み合いクラッチ機構の解放タイミング前に、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴ってドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが小さい期間の少なくとも一部において、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、前記動力源のうち前記切り替え後の動力伝達経路に配置された動力源である切り替え後の動力源のトルク増加の傾きを、前記切り替え前の動力伝達経路に配置された動力源である切り替え前の動力源のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくすること、及び、
前記切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴って前記ドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、前記動力伝達経路の切り替え開始時よりも前記ドライブシャフトが伝達するトルクが大きい期間の少なくとも一部において、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、前記切り替え前の動力源のトルク減少の傾きを、前記切り替え後の動力源のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくすること、
のうち少なくともいずれかを行う制御部を備える車両用の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の動力伝達に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2008-222067Aには、クラッチを係合する際に駆動軸に作用し得る振動をモータ制御により抑制する技術が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
走行用モータを動力源としたシリーズHEV走行つまりシリーズハイブリッド走行、及び内燃機関を動力源としたエンジン走行を行う車両として、次のような構成の車両がある。
【0004】
すなわち、駆動輪は第1の動力伝達経路を介した走行用モータの動力、又は第2の動力伝達経路を介した内燃機関の動力により駆動される。また、発電機は内燃機関の動力により駆動される。走行用モータは第1の動力伝達経路に配置された動力源を構成し、内燃機関及び発電機は第2の動力伝達経路に配置された動力源を構成する。
【0005】
このような車両では、動力伝達経路を切り替えることにより、シリーズHEV走行とエンジン走行とを切り替えることができ、動力伝達経路切り替えの際における切り替え前の動力伝達経路と切り替え後の動力伝達経路とでは動力源が異なる。
【0006】
このためこのような車両では、切り替え後の動力伝達経路に配置された動力源により、回転速度を調整した上でクラッチ締結を行うことが可能である。このことから、第1動力伝達経路及び第2の動力伝達経路それぞれには、コスト面等で有利な噛み合いクラッチ機構が設けられる。
【0007】
動力伝達経路の切り替えの際には、第1動力伝達経路及び第2動力伝達経路のうち切り替え前の動力伝達経路がトルクを減少させる側、切り替え後の動力伝達経路がトルクを増加させる側となって、トルクの掛け替えが行われる。この際にはまず、切り替え後の動力伝達経路においてクラッチ締結が行われる。
【0008】
噛み合いクラッチ機構の締結時には、回転方向のずれにより噛み合いが阻止されることがないよう、互いに締結される締結部材間にいくらかの差回転が必要とされる。このため、噛み合いクラッチ機構の締結時には、このような差回転に起因してドライブシャフトで振動が発生する場合がある。
【0009】
ドライブシャフトの振動は、ドライブシャフトにトルクを伝達可能な動力源のトルクを増減させることにより抑制できる。このため、ドライブシャフトの振動を抑制するには例えば、トルクを増加させる側の動力源のトルクを減少させることが考えられる。しかしながらこの場合、トルクの増加が遅れてしまい、増加させるべきトルクが掛け替え完了後のトルクに到達するまでの時間、つまりトルクの掛け替えが完了するまでの時間が長くなってしまうことになる。
【0010】
また、ドライブシャフトの振動を抑制するには、トルクを減少させる側の動力源のトルクを増加させることも考えられる。しかしながらこの場合、トルクの減少が遅れてしまい、減少させるべきトルクが掛け替え完了後のトルクに到達するまでの時間、つまりトルクの掛け替えが完了するまでの時間が長くなってしまうことになる。
【0011】
つまり、これらの場合には動力伝達経路の切り替えに必要な時間が長くなってしまうことになる。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ遅滞なく動力伝達経路を切り替えることを目的とする。
課題を解決するための手段
【0013】
本発明のある態様の車両用の動力伝達方法は、内燃機関の動力により駆動される発電機と、発電機で発電した電力により駆動輪を駆動する走行用モータと、走行用モータと駆動輪との間で動力を伝達する第1動力伝達経路と、第1動力伝達経路の動力伝達を断続する第1噛み合いクラッチ機構と、内燃機関の動力を機械的に駆動輪に伝達する第2動力伝達経路と、第2動力伝達経路の動力伝達を断続する第2噛み合いクラッチ機構と、を備え、駆動輪は、内燃機関の動力又は走行用モータの動力により駆動され、第1動力伝達経路に配置された走行用モータと、第2動力伝達経路に配置された内燃機関と発電機とが動力源を構成する車両で用いられる。当該車両用の動力伝達方法は、第1動力伝達経路及び第2動力伝達経路のうち一方から他方への動力伝達経路の切り替えの際に、第1噛み合いクラッチ機構及び第2噛み合いクラッチ機構のうち切り替え後の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構である切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結タイミング後、且つ、切り替え前の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構である切り替え前の噛み合いクラッチ機構の解放タイミング前に、切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴ってドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが小さい期間の少なくとも一部において、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、動力源のうち切り替え後の動力伝達経路に配置された動力源である切り替え後の動力源のトルク増加の傾きを、切り替え前の動力伝達経路に配置された動力源である切り替え前の動力源のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくすること、及び、切り替え後の噛み合いクラッチ機構の締結に伴ってドライブシャフトが振動している期間であって、かつ、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが大きい期間の少なくとも一部において、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、切り替え前の動力源のトルク減少の傾きを、切り替え後の動力源のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくすること、のうち少なくともいずれかを行う方法とされる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、上記車両用の動力伝達方法に対応する車両用の動力伝達装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、車両用の動力伝達装置の概略構成図である。
図2図2は、シリーズハイブリッドモードにおける動力伝達状態を示す図である。
図3図3は、内燃機関直結モードにおける動力伝達状態を示す図である。
図4図4は、実施形態の制御の第1の例をフローチャートで示す図である。
図5図5は、第1の例の処理の一部をサブルーチンで示す図である。
図6図6は、第1の例で用いられるマップデータの一例を示す図である。
図7図7は、第1の例で用いられるマップデータの一例を示す図である。
図8図8は、第1の例で用いられるマップデータの一例を示す図である。
図9図9は、第1の例に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図10図10は、実施形態の制御の第2の例をフローチャートで示す図である。
図11図11は、第2の例の処理の一部をサブルーチンで示す図である。
図12図12は、第2の例で用いられるマップデータの一例を示す図である。
図13図13は、第2の例で用いられるマップデータの一例を示す図である。
図14図14は、第2の例で用いられるマップデータの一例を示す図である。
図15図15は、第2の例に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態にかかる車両用の動力伝達装置の概略構成図である。車両1は、内燃機関3と、発電用モータ4と、バッテリ5と、走行用モータ2と、コントローラ7と、を備える。
【0018】
内燃機関3は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。内燃機関3は、車両1における動力源を構成する。
【0019】
発電用モータ4は、内燃機関3の動力によって駆動されることで発電する。発電用モータ4は、後述するバッテリ5の電力により力行することで内燃機関3をモータリングする機能も有する。発電用モータ4は、発電機を構成するとともに車両1における動力源を構成する。
【0020】
バッテリ5には、発電用モータ4で発電された電力と、後述する走行用モータ2で回生された電力と、が充電される。
【0021】
走行用モータ2は、バッテリ5の電力により駆動されて、駆動輪6を駆動する。また、走行用モータ2は、減速時等に駆動輪6の回転に伴って連れ回されることにより減速エネルギを電力として回生する、いわゆる回生機能も有する。走行用モータ2は、車両1における動力源を構成する。
【0022】
コントローラ7は、走行用モータ2、内燃機関3及び発電用モータ4の制御を行う。コントローラ7は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ7を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。コントローラ7には、車速VSPを検出するための車速センサや、アクセル開度APOを検出するためのアクセル開度センサや、後述するモータクラッチ19やエンジンクラッチ21の作動状態を検出するためのクラッチセンサや、モータクラッチ19やエンジンクラッチ21の入出力回転速度を検出するための回転速度センサ等を含む各種センサ・スイッチ類からの信号が入力される。
【0023】
車両1は、第1動力伝達経路24と第2動力伝達経路25と第3動力伝達経路26とを有する。第1動力伝達経路24は、走行用モータ2と駆動輪6との間で動力を伝達する。第2動力伝達経路25は、内燃機関3の動力を機械的に駆動輪6に伝達することにより、内燃機関3と駆動輪6との間で動力を伝達する。第3動力伝達経路26は、内燃機関3と発電用モータ4との間で動力を伝達する。
【0024】
第1動力伝達経路24は、走行用モータ2の回転軸2aに設けられた第1減速ギヤ8と、第1減速ギヤ8と噛み合う第2減速ギヤ9と、デファレンシャルケース11に設けられたデファレンシャルギヤ12と、第2減速ギヤ9と同軸上に設けられてデファレンシャルギヤ12と噛み合う第3減速ギヤ10と、で構成される。第1動力伝達経路24には、第1噛み合いクラッチ機構であるモータクラッチ19が設けられている。
【0025】
モータクラッチ19は、回転軸2aに対して相対回転可能な状態と相対回転不可能な状態とで第1減速ギヤ8の状態を切り替える。モータクラッチ19は、回転軸2aに軸方向に摺動可能に支持された第1スリーブ20と、第1減速ギヤ8に設けられた係合部8aとで構成された、いわゆるドグクラッチである。
【0026】
すなわち、第1スリーブ20が第1減速ギヤ8の方向に移動し、第1スリーブ20に設けられた複数の凸部と係合部8aに設けられた複数の凸部とが、回転方向において互い違いに配置されて噛み合うことで、モータクラッチ19は締結状態となる。またこの状態から、第1スリーブ20が第1減速ギヤ8とは反対方向に移動して、両者の凸部の噛み合いが解消されることで、モータクラッチ19は解放状態となる。第1スリーブ20の移動は電動アクチュエータにより行なわれ、モータクラッチ19の締結、解放動作はコントローラ7により制御される。
【0027】
モータクラッチ19が締結状態であれば、走行用モータ2の動力は駆動輪6に伝達される。一方、モータクラッチ19が解放状態であれば、走行用モータ2の回転軸2aの回転は第1減速ギヤ8に伝達されないので、走行用モータ2から駆動輪6への動力伝達は遮断される。第1動力伝達経路24において、走行用モータ2はモータクラッチ19の上流に位置する動力源を構成する。
【0028】
第2動力伝達経路25は、内燃機関3の出力軸3aに設けられた第4減速ギヤ16と、第4減速ギヤ16と噛み合う第5減速ギヤ17と、第5減速ギヤ17と噛み合うデファレンシャルギヤ12と、で構成される。第2動力伝達経路25には、第2噛み合いクラッチ機構であるエンジンクラッチ21が設けられている。
【0029】
エンジンクラッチ21は、出力軸3aに対して相対回転可能な状態と相対回転不可能な状態とで第4減速ギヤ16の状態を切り替える。エンジンクラッチ21は、出力軸3aに軸方向に摺動可能に支持された第2スリーブ22と、第4減速ギヤ16に設けられた係合部16aとで構成された、いわゆるドグクラッチである。
【0030】
すなわち、第2スリーブ22が第4減速ギヤ16の方向に移動し、第2スリーブ22に設けられた複数の凸部と係合部16aに設けられた複数の凸部とが、回転方向において互い違いに配置されて噛み合うことで、エンジンクラッチ21は締結状態となる。またこの状態から、第2スリーブ22が第4減速ギヤ16とは反対方向に移動して、両者の凸部の噛み合いが解消されることで、エンジンクラッチ21は解放状態となる。第2スリーブ22の移動は電動アクチュエータにより行なわれ、エンジンクラッチ21の締結、解放動作はコントローラ7により制御される。
【0031】
エンジンクラッチ21が締結状態であれば、内燃機関3の動力は駆動輪6に伝達される。以下の説明において、この状態をエンジン直結状態ともいう。一方、エンジンクラッチ21が解放状態であれば、内燃機関3の出力軸3aの回転は第4減速ギヤ16に伝達されないので、内燃機関3から駆動輪6への動力伝達は遮断される。
【0032】
第3動力伝達経路26は、内燃機関3の出力軸3aに設けられた第6減速ギヤ13と、第6減速ギヤ13と噛み合う第7減速ギヤ14と、発電用モータ4の回転軸4aに設けられ、第7減速ギヤ14と噛み合う第8減速ギヤ15と、で構成される。第3動力伝達経路26は、動力伝達を遮断する要素を備えていない。すなわち、第3動力伝達経路26は常に動力が伝達される状態になっている。
【0033】
第2動力伝達経路25は、第3動力伝達経路26をさらに含む構成とされる。従って、第2動力伝達経路25は、内燃機関3の動力をさらに発電用モータ4に伝達する経路とされる。このような第2動力伝達経路25において、内燃機関3と発電用モータ4とは、エンジンクラッチ21の上流に位置する動力源を構成する。
【0034】
上述した構成の車両1は、第1動力伝達経路24により駆動輪6に動力を伝達して走行するシリーズHEVモードと、エンジン直結状態にして第2動力伝達経路25により駆動輪6に動力を伝達して走行するエンジン直結モードと、を切り替え可能である。コントローラ7は、シリーズHEVモードとエンジン直結モードとを運転状態、具体的には車速VSPと駆動力とに応じて切り替える。
【0035】
図2は、シリーズHEVモードにおける動力伝達状態を示す図である。シリーズHEVモードでは、第1動力伝達経路24により駆動輪6に動力が伝達される。すなわち、シリーズHEVモードでは、モータクラッチ19が締結状態になることで、走行用モータ2が発生した動力が駆動輪6に伝達される。このとき、エンジンクラッチ21は解放状態となる。
【0036】
また、シリーズHEVモードにおいても内燃機関3の動力は第3動力伝達経路26を介して発電用モータ4に伝達され、発電用モータ4は発電を行い、発電された電力はバッテリ5に充電される。ただし、発電用モータ4で発電するか否かはバッテリ5の充電量に応じて定まり、バッテリ5に充電する必要がない場合には内燃機関3は停止する。
【0037】
図3は、エンジン直結モードにおける動力伝達状態を示す図である。エンジン直結モードでは、第2動力伝達経路25により駆動輪6に動力が伝達される。すなわち、内燃機関直結モードでは、エンジンクラッチ21が締結状態になることで、内燃機関3が発生した動力が駆動輪6に伝達される。
【0038】
エンジン直結モードでは、モータクラッチ19は解放状態となる。仮に、エンジン直結モードにおいてモータクラッチ19を締結状態にすると、駆動輪6の回転に伴って走行用モータ2が連れ回り、誘起起電力が発生する。バッテリ5の充電容量に余裕がある場合には、発生した電力をバッテリ5に充電することでエネルギを回生することになる。しかし、バッテリ5の充電容量に余裕がない場合には、発電抵抗が駆動輪6の回転を妨げるフリクションとなり、燃費性能低下の要因となる。これに対し本実施形態では、エンジン直結モードにおいてモータクラッチ19は解放状態になるので、上述した走行用モータ2の連れ回りによる燃費性能の低下を抑制できる。
【0039】
シリーズHEVモードとエンジン直結モードとでの走行モード切り替え時には、第1動力伝達経路24と第2動力伝達経路25とで動力伝達経路の切り替えが行われる。そして、動力伝達経路切り替えの際には、切り替え前の動力伝達経路と切り替え後の動力伝達経路とで動力源が異なる。
【0040】
このため車両1では、切り替え後の動力伝達機構に配置された動力源により、回転速度を調整した上でクラッチ締結を行うことが可能である。このことから、車両1ではコスト面等で有利な噛み合いクラッチ機構であるモータクラッチ19及びエンジンクラッチ21が、第1動力伝達経路24及び第2動力伝達経路25に用いられる。
【0041】
動力伝達経路の切り替えの際には、第1動力伝達経路24及び第2動力伝達経路25のうち切り替え前の動力伝達経路がトルクを減少させる側、切り替え後の動力伝達経路がトルクを増加させる側となって、トルクの掛け替えが行われる。この際にはまず、切り替え後の動力伝達経路においてクラッチ締結が行われる。
【0042】
例えば、シリーズHEVモードからエンジン直結モードへの走行モード切り替え時、つまり第1動力伝達経路24から第2動力伝達経路25への動力伝達経路の切り替えの際には、まず第2動力伝達経路25に設けられたエンジンクラッチ21の締結が行われる。
【0043】
エンジンクラッチ21の締結時には、回転方向のずれにより噛み合いが阻止されることがないよう、互いに締結される締結部材である第2スリーブ22及び第4減速ギヤ16間にいくらかの差回転ΔNRが必要とされる。このため、エンジンクラッチ21の締結時には、差回転ΔNRに起因してドライブシャフトで振動が発生する場合がある。
【0044】
ドライブシャフトの振動は、ドライブシャフトにトルクを伝達可能な動力源のトルクを増減させることにより抑制できる。このため、ドライブシャフトの振動を抑制するには例えば、トルクを増加させる側の動力源、従って、第1動力伝達経路24から第2動力伝達経路25への動力伝達経路の切り替えの際には、発電用モータ4のトルクを減少させることが考えられる。しかしながらこの場合、トルクの増加が遅れてしまい、増加させるべきトルクが掛け替え完了後のトルクに到達するまでの時間、つまりトルクの掛け替えが完了するまでの時間が長くなってしまうことになる。
【0045】
また、ドライブシャフトの振動を抑制するには、トルクを減少させる側の動力源、従って、第1動力伝達経路24から第2動力伝達経路25への動力伝達経路の切り替えの際には、走行用モータ2のトルクを増加させることも考えられる。しかしながらこの場合、トルクの減少が遅れてしまい、減少させるべきトルクが掛け替え完了後のトルクに到達するまでの時間、つまりトルクの掛け替えが完了するまでの時間が長くなってしまうことになる。
【0046】
つまり、これらの場合には動力伝達経路の切り替えに必要な時間が長くなってしまうことになる。このことは、第2動力伝達経路25から第1動力伝達経路24へ動力伝達経路を切り替える場合についても同様である。
【0047】
このような事情に鑑み、本実施形態では次に説明するようにコントローラ7が制御を行う。
【0048】
図4図5は、コントローラ7が行う制御の第1の例をフローチャートで示す図である。コントローラ7は、本フローチャートに示す処理を実行するようにプログラムされており、本フローチャートに示す処理を実行することで制御部を有した構成とされる。
【0049】
ステップS1で、コントローラ7はエンジン直結モードへの切り替え要求があるか否かを判定する。ステップS1では、走行モードの切り替えマップに基づき、シリーズHEVモードからエンジン直結モードへの走行モードの切り替え要求があるか否かが判定される。ステップS1で否定判定であれば処理は一旦終了し、ステップS1で肯定判定であれば処理はステップS2に進む。
【0050】
ステップS2で、コントローラ7は動力伝達経路の切り替えを開始する。この例では、第1動力伝達経路24から第2動力伝達経路25への動力伝達経路の切り替えが開始される。
【0051】
ステップS3で、コントローラ7は発電用モータ4に回転同期指令を行う。これにより、切り替え後の第2動力伝達経路25に配置された発電用モータ4を動力源として、エンジンクラッチ21の回転同期が図られる。
【0052】
ステップS4で、コントローラ7は回転同期が完了したか否かを判定する。回転同期は、差回転ΔNRの大きさが所定値ΔNR1未満になったときに完了したと判定される。差回転ΔNRは、切り替え後の動力伝達経路に配置された噛み合いクラッチ機構の入力回転速度及び出力回転速度の回転速度差、従ってこの例ではエンジンクラッチ21の入力回転速度及び出力回転速度の回転速度差である。
【0053】
所定値ΔNR1は、締結を行う際に噛み合いクラッチ機構に適度の差回転ΔNRが残るように予め設定することができる。所定値ΔNR1は、後述するエンジン直結モードからシリーズHEVモードへの走行モード切り替え時に行われる回転同期判定と同じ値とされてもよく、異なる値とされてもよい。ステップS4で否定判定であれば処理はステップS4に戻り、ステップS4で肯定判定であれば処理はステップS5に進む。
【0054】
ステップS5で、コントローラ7はエンジンクラッチ21の締結指令を行う。これにより、エンジンクラッチ21の締結が開始される。
【0055】
ステップS6で、コントローラ7はエンジンクラッチ21の締結が完了したか否かを判定する。ステップS6では、クラッチセンサに基づきエンジンクラッチ21の締結が完了したか否かが判定される。つまり、クラッチセンサは、エンジンクラッチ21の締結完了時点を判定するために用いられる。ステップS6で否定判定であれば処理はステップS6に戻り、ステップS6で肯定判定であれば処理はステップS7に進む。
【0056】
ステップS7で、コントローラ7は発電用モータ4の制振制御を行う。ステップS7では、発電用モータ4の制振制御がFF制御つまりフィードフォワード制御により行われ、且つ、FB制御つまりフィードバック制御とともには行われない。
【0057】
ステップS8で、コントローラ7はエンジンクラッチ21における差回転ΔNRを算出する。差回転ΔNRは、エンジンクラッチ21を締結する直前の差回転ΔNRである。エンジンクラッチ21を締結する直前とは、クラッチセンサに基づき締結完了時点が判定される直前(例えば、エンジンクラッチ21の締結完了を判定する制御周期において、締結完了が判定された制御周期の一つ前の制御周期)を意味する。エンジンクラッチ21を締結する直前は、エンジンクラッチ21を作動するアクチュエータに締結動作を指示する直前とされてもよく、この場合、制御周期はアクチュエータへの指示についての制御周期とすることができる。
【0058】
ステップS9で、コントローラ7はトルク掛替前半の発電用モータ4のトルク掛替目標時間を設定する。ステップS10で、コントローラ7はトルク掛替前半の発電用モータ4の保持トルクを設定する。ステップS11で、コントローラ7はトルク掛替後半の走行用モータ2のトルク掛替目標時間を設定する。これらのパラメータにつき、図6から図8を用いて説明する。
【0059】
図6から図8は、各種マップデータを示す図である。図6から図8では、各種パラメータとして、GEN前半掛替目標時間と保持トルクとMG後半掛替目標時間とが設定される。GEN前半掛替目標時間は、トルク掛替前半の発電用モータ4のトルク掛替目標時間であり、GENは発電用モータ4を示す。保持トルクは、トルク掛替前半の発電用モータ4の保持トルクである。MG後半掛替目標時間は、トルク掛替後半の走行用モータ2のトルク掛替目標時間であり、MGは走行用モータ2を示す。図6から図8では、差回転ΔNRに応じた各種パラメータの変化傾向を示す。本実施形態では、ドライブシャフトのトルク変動態様に照らし、トルクの掛け替えが掛替前半と掛替後半とに分けられる場合を例示する。
【0060】
ここで、トルク掛替の前半掛替目標時間は例えば、ドライブシャフトの振動周期の半分に相当し、振動周期は動力源と駆動輪6とを結ぶ振動系である動力伝達経路の固有振動数によって定まる。このことから、トルク掛替の前半掛替目標時間は、噛み合いクラッチ機構毎に予め設定することができる。
【0061】
その一方で、ドライブシャフトの振動を抑制するためには、走行用モータ2及び発電用モータ4間で、トルク掛替前半のトルクの傾きの絶対値の差を大きくする必要がある。そして、予期されるドライブシャフトトルクの変動の振幅は、差回転ΔNRにより指標される。
【0062】
このことから、走行用モータ2及び発電用モータ4間のトルクの傾きの絶対値の差は、予期されるドライブシャフトトルクの変動の振幅、つまり差回転ΔNRに基づき設定することができる。上記を踏まえ、本実施形態では、トルク掛替前半における発電用モータ4のトルク増加の傾きが次のように算出される。
【0063】
すなわち、トルク掛替前半の走行用モータ2のトルク減少の傾きは、上記固有振動数の観点から振動の1周期後にモータクラッチ19を解放するための傾きに別途算出される。そして、トルク掛替前半における発電用モータ4のトルク増加の傾きは、上述した走行用モータ2及び発電用モータ4間のトルクの傾きの絶対値の差、及びトルク掛替前半の走行用モータ2のトルク減少の傾きに基づき算出される。さらに、予期されるドライブシャフトトルクの変動の振幅は、差回転ΔNRが大きいほど大きくなる。
【0064】
このことから、GEN前半掛替目標時間は、図6に示すように差回転ΔNRが大きいほど短くなるように設定され、これにより発電用モータ4のトルク増加の傾きが、さらに差回転ΔNRに応じて変化する。
【0065】
差回転ΔNRが大きくなるほど発電用モータ4のトルク増加の傾きを決定付けるGEN前半掛替目標時間が短くなることから、発電用モータ4のトルク増加の傾きは、差回転ΔNRが大きくなるほど絶対値で大きくなる。GEN前半掛替目標時間は、上記固有振動数の観点から例えば振動周期の1/4周期相当の時間など一定の時間に設定されてもよい。このような設定を行う場合も、ドライブシャフトトルクの変動に基づくことに含まれる。
【0066】
保持トルクは、トルク掛替前半において、ドライブシャフトの振動の振幅が最大を迎えた際に発電用モータ4のトルクを保持するためのトルクであり、予め設定される。図7に示すように、保持トルクはさらに、差回転ΔNRが大きいほどつまり予期されるドライブシャフトトルクの振動の振幅が大きいほど、大きくなるように設定される。発電用モータ4のトルクは、このように設定される保持トルク以上になることにより保持トルクに保持される。
【0067】
ドライブシャフトの振動を抑制するためには、トルク掛替後半における走行用モータ2のトルク減少の傾きは、トルク掛替前半における発電用モータ4のトルク増加の傾きと同様に算出される。さらに、予期されるドライブシャフトトルクの振動の振幅は、差回転ΔNRが大きいほど大きくなる。
【0068】
このことから、MG後半掛替目標時間は、図8に示すように差回転ΔNRが大きいほど短くなるように設定され、これにより走行用モータ2のトルク減少の傾きが、さらに差回転ΔNRに応じて変化する。
【0069】
差回転ΔNRが大きくなるほど走行用モータ2のトルク減少の傾きを決定付けるMG後半掛替目標時間が短くなることから、走行用モータ2のトルク減少の傾きは、差回転ΔNRが大きいほど絶対値で大きくなる。
【0070】
なお、ドライブシャフトの振動の減衰度合いは車両によって異なる。このため、本実施形態における掛替後半で生じる振動に続いて、本実施形態における掛替前半で生じる態様の振動が再度繰り返されるなど、本実施形態における掛替前半で生じる態様の振動、及びこの例における掛替後半で生じる態様の振動の回数は、車両によって異なってくる。
【0071】
図4に示すフローチャートのステップS9からステップS11では、これらのマップデータを参照することにより、GEN前半掛替目標時間、トルク掛替前半の発電用モータ4の保持トルク、及びMG後半掛替目標時間の設定が行われる。
【0072】
処理がステップS12に移行すると、コントローラ7は駆動トルク掛替指令の処理を開始し、これによりトルクの掛け替えが開始される。ステップS12の処理は、エンジンクラッチ21の締結が完了したことに応じて、図5に示すサブルーチンにより行われる。
【0073】
図5に示すように、ステップS101で、コントローラ7は走行用モータ2の駆動トルク掛替指令を行う。ステップS101では、MG前半指令トルクが演算され、演算されたMG前半指令トルクに基づき駆動トルク掛替指令が行われる。MG前半指令トルクは、走行用モータ2のトルク掛替前半の指令トルクであり、次の数1により演算される。
【数1】
【0074】
数1におけるMG前半目標トルクは、切り替え前の動力伝達経路である第1動力伝達経路24に配置された走行用モータ2のトルクを減少させるために、動力伝達経路の切り替え開始時のトルク、つまり元のトルクよりも低く設定される。MG前半掛替目標時間は、走行用モータ2と駆動輪6とを結ぶ振動系である第1動力伝達経路24の固有振動数に基づき予め設定される。
【0075】
数1における「MG前半目標トルク-MG前半指令トルク前回値」は、MG前半目標トルクに到達するまでの残りのトルクを示す。「MG前半掛替目標時間-MG前半掛替経過時間」は、MG前半掛替目標時間に到達するまでの残りの時間を示す。従って、「(MG前半目標トルク-MG前半指令トルク前回値)/(MG前半掛替目標時間-MG前半掛替経過時間)」は、時々刻々増加させるトルクを示し、走行用モータ2のトルク変化の傾きに対応する。
【0076】
時々刻々増加させるトルクをMG前半指令トルクの前回値に加算することにより、次に指示すべきMG前半指令トルクが得られる。但し、MG前半指令トルクは、MG前半目標トルクを超えるトルクではない。このため、数1では、次に指示すべきMG前半指令トルクとMG前半目標トルクとのうち小さいほうが新たなMG前半指令トルクとして演算される。MG前半指令トルク等のトルクは、動力源とドライブシャフトとを結ぶ動力伝達経路に設定されたギア比(入力回転速度/出力回転速度)を乗じることによりドライブシャフトにおけるトルクに換算でき、これによりドライブシャフトにおけるトルクとすることができる。MG前半指令トルクは、数1を演算する制御周期毎に制御され、これによりトルク掛替前半における走行用モータ2のトルク減少の傾きが、振動の1周期後にモータクラッチ19を解放するための傾きに形成、算出される。
【0077】
ステップS102で、コントローラ7はMG前半掛替経過時間がMG前半掛替目標時間以上になったか否かを判定する。このような判定は、時間の代わりに例えばトルクや回転速度を用いて行われてもよい。ステップS102で否定判定であれば、処理はステップS101に戻る。ステップS102で肯定判定であれば、トルク掛替前半における走行用モータ2のトルク掛替が完了したと判断され、処理はステップS103に進む。
【0078】
ステップS103で、コントローラ7は走行用モータ2の駆動トルク掛替指令を行う。ステップS103では、走行用モータ2のトルク掛替後半の指令トルクであるMG後半指令トルクが演算され、演算されたMG後半指令トルクに基づき駆動トルク掛替指令が行われる。MG後半指令トルクは次の数2により演算される。
【数2】
【0079】
第2動力伝達経路25への動力伝達経路の切り替え完了後には、走行用モータ2のトルクは不要になる。このため、数2におけるMG後半目標トルクは例えばゼロに設定される。MG後半掛替目標時間は、前述した図8に示すマップデータにより予め設定されている。
【0080】
ステップS103の処理は、MG後半掛替目標時間が経過するまで繰り返し実行され、これによりトルク掛替後半における走行用モータ2のトルク掛替が完了する。MG後半指令トルクは、数2を演算する制御周期毎に制御され、これにより予期されるドライブシャフトトルクの変動の振幅に応じた走行用モータ2のトルク減少の傾きが形成、算出される。このように形成される走行用モータ2のトルク減少の傾きは、後述する数4に基づき形成される発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し、絶対値で大きくなる。
【0081】
ステップS104で、コントローラ7はモータクラッチ19の解放指令を行う。これにより、モータクラッチ19の解放が開始される。モータクラッチ19の解放指令は、トルク掛替後半における走行用モータ2のトルク掛替が完了すると、後述するトルク掛替後半における発電用モータ4のトルク掛替の完了を待たずに行われ、その分、動力伝達経路の切り替えが速やかに行われることになる。
【0082】
ステップS105で、コントローラ7はモータクラッチ19の解放が完了したか否かを判定する。ステップS105で否定判定であれば、処理はステップS105に戻る。ステップS105で肯定判定であれば、動力伝達経路の切り替えが完了したと判断され、処理はステップS106に進む。
【0083】
ステップS106で、コントローラ7は発電用モータ4の制振制御を行う。ステップS106では、発電用モータ4の制振制御がFF制御及びFB制御により行われ、これによりドライブシャフトの制振が図られる。
【0084】
ステップS101からステップS106の処理は、ステップS107からステップS111の処理、さらにはステップS112の処理と並行して行われる。本フローチャートでは説明の便宜上これらの処理を互いに並列に示しているが、これらの処理は実質的に互いに並行して行われるように構成されればよい。
【0085】
ステップS107で、コントローラ7は発電用モータ4の駆動トルク掛替指令を行う。ステップS107では、GEN前半指令トルクが演算され、演算されたGEN前半指令トルクに基づき駆動トルク掛替指令が行われる。GEN前半指令トルクは、発電用モータ4のトルク掛替前半の指令トルクであり、次の数3により演算される。
【数3】
【0086】
数3におけるGEN前半目標トルクは、切り替え後の動力源である発電用モータ4のトルクを増加させるために、元のトルクよりも高く設定される。GEN前半掛替目標時間は、前述した図6に示すマップデータに予め設定されている。GEN前半指令トルクは、数3を演算する制御周期毎に制御され、これにより予期されるドライブシャフトトルクの変動の振幅に応じた発電用モータ4のトルク増加の傾きが形成、算出される。このように形成される発電用モータ4のトルク増加の傾きは、数1に基づき形成される走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し、絶対値で大きくなる。
【0087】
ステップS108で、コントローラ7はGEN前半指令トルクが保持トルク以上か否かを判定する。ステップS108で否定判定であれば、処理はステップS107に戻る。ステップS108で肯定判定であれば、トルク掛替前半における発電用モータ4のトルク掛替が完了したと判断され、処理はステップS109に進む。
【0088】
ステップS109で、コントローラ7はGEN前半指令トルクを保持トルクに設定する。これにより、発電用モータ4のトルクが保持トルクに保持される。
【0089】
ステップS110で、コントローラ7は、MG前半掛替経過時間がMG前半掛替目標時間以上になったか否かを判定する。ステップS110で否定判定であれば、処理はステップS110に戻る。ステップS110で肯定判定であれば、処理はステップS111に進む。
【0090】
ステップS111で、コントローラ7は発電用モータ4の駆動トルク掛替指令を行う。ステップS111では、GEN後半指令トルクが演算され、演算されたGEN後半指令トルクに基づき駆動トルク掛替指令が行われる。GEN後半指令トルクは次の数4により演算される。
【数4】
【0091】
数4におけるGEN後半目標トルクは、発電用モータ4のトルクを増加させるために保持トルクよりも高く設定される。GEN後半掛替目標時間は、発電用モータ4と駆動輪6とを結ぶ振動系である第2動力伝達経路25の固有振動数に基づき予め設定される。ステップS111の処理は、GEN後半掛替目標時間が経過するまで繰り返し実行され、これによりトルク掛替後半における発電用モータ4のトルク増加の傾きが、振動の1周期後にモータクラッチ19を解放するための傾きに形成、算出される。
【0092】
ステップS112では、コントローラ7が内燃機関3の駆動トルク掛替指令を行う。ステップS112では、ICE指令トルクが演算され、演算されたICE指令トルクに基づき駆動トルク掛替指令が行われる。ICE指令トルクは、内燃機関3のトルク掛替の指令トルクであり、ICEは内燃機関3を示す。ICE指令トルクは次の数5により演算される。
【数5】
【0093】
本実施形態では、第2動力伝達経路25側では発電用モータ4がトルクの掛け替えを担う。このため、ICE目標トルクは、動力伝達経路の切り替え開始時のトルクとされる。結果、数5によりICE指令トルクは動力伝達経路の切り替え開始時のトルクに維持される。ICE掛替目標時間は例えば、予め設定した一定値とすることができる。ステップS112の処理は、ICE掛替目標時間が経過するまで繰り返し実行され、これにより内燃機関3に対するトルク掛替処理が完了する。
【0094】
図5に示すサブルーチンは、走行用モータ2、発電用モータ4及び内燃機関3の駆動トルク掛替指令それぞれが完了すると終了し、これにより図4に示すフローチャートの処理も終了する。
【0095】
図9は、図4図5に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。走行用モータ2、内燃機関3及び発電用モータ4のトルクは、ドライブシャフトにおけるトルクを示す。
【0096】
タイミングT11よりも前では、走行モードがシリーズHEVモードになっている。シリーズHEVモードでは、走行用モータ2においてFF制御及びFB制御による制振制御が行われる。駆動輪6との動力伝達が遮断されている発電用モータ4では、制振制御は行われない。
【0097】
タイミングT11では、シリーズHEVモードからエンジン直結モードへの走行モードの切り替え要求が行われる。このため、動力伝達経路の切り替えが開始され、エンジンクラッチ21の回転同期のために発電用モータ4のトルクが増加し始める。これにより、エンジンクラッチ21の入力回転速度が上昇し始め、回転同期が開始される。
【0098】
エンジンクラッチ21における差回転ΔNRの大きさ、つまりエンジンクラッチ21の入力回転速度と出力回転速度との差回転ΔNRの大きさが所定値ΔNR1未満になると、これに応じてエンジンクラッチ21の締結が開始される。これにより、エンジンクラッチ21を作動するアクチュエータに締結するための作動が指令され、実際にアクチュエータ、エンジンクラッチ21が作動し、エンジンクラッチ21が締結する。そして、エンジンクラッチ21が締結すると、クラッチセンサからの信号によりエンジンクラッチ21の締結完了が判定される。
【0099】
タイミングT12は、このようにしてエンジンクラッチ21の締結完了が判定されたタイミングであり、タイミングT12からは、トルクの掛け替えが開始される。これにより、走行用モータ2のトルクは減少し始め、発電用モータ4のトルクは増加し始める。内燃機関3のトルクは一定とされる。
【0100】
タイミングT12ではさらに、FF制御による発電用モータ4の制振制御が開始される。これにより、トルク掛替中に走行用モータ2で行われるFB制御とのFB制御の干渉を回避しつつ、発電用モータ4の制振を図ることができる。また、このようにしてトルク掛替中に発電用モータ4の制振を図ることにより、ドライブシャフトの制振を図ることができる。
【0101】
タイミングT13では、発電用モータ4のトルクが保持トルクに到達する。これにより、掛替前半における発電用モータ4のトルク掛替が完了し、発電用モータ4のトルクが保持トルクに保持される。
【0102】
タイミングT14では、タイミングT12からMG前半掛替目標時間が経過し、トルク掛替後半となる。結果、走行用モータ2のトルクはトルク掛替前半よりも急な傾きで減少し始める。また、保持トルクとされていた発電用モータ4のトルクが再び増加し始める。
【0103】
タイミングT15では、掛替後半における走行用モータ2のトルク掛替が完了し、走行用モータ2のトルクがゼロになる。これにより、ドグクラッチであるモータクラッチ19の解放が可能になり、モータクラッチ19が解放される。結果、動力伝達経路の切り替えが完了し、走行モードがエンジン直結モードに設定される。
【0104】
タイミングT15からは、駆動輪6が切り替え前の動力源である走行用モータ2により駆動されなくなる。このため、タイミングT15からは、走行用モータ2の制振制御は中止され、発電用モータ4の制振制御がFF制御及びFB制御により行われる。
【0105】
この例では、タイミングT12からタイミングT15までが、モータクラッチ19及びエンジンクラッチ21のうち切り替え後のクラッチ(締結側クラッチ)を構成するエンジンクラッチ21の締結タイミング後、且つ、切り替え前のクラッチ(解放側クラッチ)を構成するモータクラッチ19の解放タイミング前となる。
【0106】
発電用モータ4のトルクはタイミングT15後も増加し続け、タイミングT14からGEN後半掛替目標時間が経過したタイミングT16で一定になる。
【0107】
ここで、タイミングT16は、振動系の固有振動数から定まるドライブシャフト振動の1周期が終わるタイミングとなっている。このようなドライブシャフトの振動の1周期が終わるタイミングは、振動に伴うドライブシャフトのねじり角度がゼロになるタイミングとなっている。
【0108】
従って、このようなタイミングT16でモータクラッチ19が伝達するトルクをゼロとし、かつ、ドライブシャフトの振動を抑制するという2つの要素を同時に実現する傾き、つまり振動の1周期後にモータクラッチ19を解放するための傾きに、走行用モータ2及び発電用モータ4のトルクの傾きを制御すれば、エンジンクラッチ21を解放しても、振動に伴うドライブシャフトのねじり角度がゼロとなり、エンジンクラッチ21の解放後にねじり角度が急変することはない。
【0109】
このようなエンジンクラッチ21の解放に適したタイミングは0.5周期毎に生じるため、例えば十分に長い周期で振動するドライブシャフトを使用した車両の場合は、0.5周期に相当するタイミングT14でエンジンクラッチ21を解放することもできる。
【0110】
本実施形態では、トルク掛替前半における発電用モータ4のトルク増加の傾き及びトルク掛替後半における走行用モータ2のトルク減少の傾きを上述してきたように制御する。これにより、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ、タイミングT16よりも早いタイミングT15で速やかにエンジンクラッチ21を解放することが可能になる。このことは、具体的には以下のように説明される。
【0111】
本実施形態の傾きの制御が適用されない比較例の場合、エンジンクラッチ21が締結されたことに伴い、タイミングT12から一点破線L2で示すようにドライブシャフトトルクが低下する結果、ドライブシャフトが振動する。この例では、タイミングT12からタイミングT14までが、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時であるタイミングT11よりもドライブシャフトが伝達するトルクが小さい期間となる。
【0112】
本実施形態の場合は、エンジンクラッチ21締結直前の差回転ΔNRを介してこのようなドライブシャフトのトルク変動に基づくことにより、トルク掛替前半つまりタイミングT12からタイミングT14までの期間において、発電用モータ4のトルク増加の傾きが走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくされる。
【0113】
これにより、破線L1で示す走行用モータ2、内燃機関3及び発電用モータ4の各動力源の合計トルクをドライブシャフトに対して付与することができる。また、この際の発電用モータ4のトルク増加の傾きは差回転ΔNRに応じて変更されるので、各駆動源の合計トルクをドライブシャフトに対し適切に付与することができる。結果、実線で示すようにドライブシャフトトルクの変動が適切に抑制され、ドライブシャフトの振動が適切に抑制される。
【0114】
発電用モータ4のトルク増加の傾きは、タイミングT12からタイミングT14までの期間の少なくとも一部において、走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくされてよい。少なくとも一部において、とは、制御応答性等により当該期間と傾きを変化させる期間とが完全に一致しない場合を許容することを含む。
【0115】
比較例の場合、一点破線L2で示すようにタイミングT13でドライブシャフトトルクの低下側の振幅が最大になり、ドライブシャフトトルクの変動が低下から上昇に転じる。
【0116】
本実施形態の場合、タイミングT13で発電用モータ4のトルクが保持トルクに到達し、保持トルクに保持される。これにより、一点破線L2で示されるドライブシャフトトルクの上昇に応じて、各動力源の合計トルクを低下させることができる。結果、実線で示すようにドライブシャフトトルクの変動が適切に抑制され、ドライブシャフトの振動が適切に抑制される。また、この際の保持トルクは差回転ΔNRに応じて変更されるので、各駆動源の合計トルクをドライブシャフトに対し適切に付与することができる。ドライブシャフトの振動は、発電用モータ4のトルクを保持トルクに保持することを含め、トルク掛替前半において発電用モータ4のトルクを減少させないことにより抑制可能になる。
【0117】
発電用モータ4のトルクは、タイミングT12からタイミングT14までの期間の少なくとも一部において、減少させないようにしてもよい。少なくとも一部において、とは前述したのと同様である。
【0118】
トルク掛替前半で上記のようにしてドライブシャフトの振動を抑制した場合、トルク掛替後半でドライブシャフトの振動に対処しない場合であっても、比較例の場合と同様、タイミングT16で動力伝達経路の切り替えを完了することができる。結果この場合には、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ、比較例の場合に対し遅滞なく動力伝達経路の切り替えを行うことができる。或いは、十分に長い周期で振動するドライブシャフトを使用した車両の場合は、振動の0.5周期後となるタイミングT14でモータクラッチ19を解放するための傾きに走行用モータ2及び発電用モータ4の傾きを制御することを前提とした上で、発電用モータ4のトルクの増加傾きを走行用モータ2のトルク減少の傾きよりも絶対値で大きくなるように制御することにより、比較例の場合よりも速やかに動力伝達経路に切り替えを行うこともできる。
【0119】
比較例の場合、トルク掛替後半となるタイミングT14で、一点破線L2で示すドライブシャフトトルクが元のドライブシャフトトルクよりも高い側に変動する。この例では、タイミングT14からタイミングT16までが、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが大きい期間となる。
【0120】
本実施形態では、差回転ΔNRを介してこのようなドライブシャフトのトルク変動に基づくことにより、トルク掛替後半つまりタイミングT14からタイミングT15までにおいて、走行用モータ2のトルク減少の傾きが発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくされる。
【0121】
これにより、破線L1で示す各動力源の合計トルクを元のドライブシャフトトルクよりも減少させてドライブシャフトに付与することができる。また、この際の走行用モータ2のトルク減少の傾きは差回転ΔNRに応じて変更されるので、各駆動源の合計トルクをドライブシャフトに対し適切に付与することができる。結果、実線で示すようにドライブシャフトトルクの変動が適切に抑制され、ドライブシャフトの振動が適切に抑制される。
【0122】
走行用モータ2のトルク減少の傾きは、タイミングT14からタイミングT16までの期間の少なくとも一部において、発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくされてよい。少なくとも一部において、とは前述したのと同様である。
【0123】
比較例の場合、一点破線L2で示すようにタイミングT15でドライブシャフトトルクの増加側の振幅が最大になり、ドライブシャフトトルクの変動が上昇から下降に転じる。
【0124】
本実施形態の場合、タイミングT15で走行用モータ2のトルクがゼロになる。このため、各動力源の合計トルクは破線L1で示すようにタイミングT15から上昇に転じる。結果、実線で示すようにドライブシャフトトルクの変動が適切に抑制され、ドライブシャフトの振動が適切に抑制される。
【0125】
トルク掛替後半で上記のようにドライブシャフトの振動を抑制した場合、トルク掛替前半でドライブシャフトの振動に対処しない場合であっても、タイミングT15、タイミングT16間の時間分、比較例の場合よりも動力伝達経路の切り替え時間を短くすることができる。結果この場合には、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ、比較例の場合よりも速やかに動力伝達経路の切り替えを行うことができる。
【0126】
本実施形態では、発電用モータ4のトルク増加の傾きを走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくするとともに、トルク掛替後半において走行用モータ2のトルク減少の傾きを発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくする。これにより、実線で示すようにトルク掛替時全般に亘ってドライブシャフトトルクの変動を抑制でき、且つ比較例の場合よりも速やかに動力伝達経路の切り替えを行うことができる。
【0127】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0128】
ここで、噛み合いクラッチ機構の解放は、噛み合いクラッチ機構が伝達しているトルクがゼロ付近まで減少することにより可能となる。このため、速やかに噛み合いクラッチ機構を解放するためには、減少させるべきトルクが掛け替え完了後のトルクつまりゼロ付近に遅延なく到達する必要がある。
【0129】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法は、内燃機関3の動力により駆動される発電用モータ4と、発電用モータ4で発電した電力により駆動輪6を駆動する走行用モータ2と、走行用モータ2と駆動輪6との間で動力を伝達する第1動力伝達経路24と、第1動力伝達経路24の動力伝達を断続するモータクラッチ19と、内燃機関3の動力を機械的に駆動輪6に伝達する第2動力伝達経路25と、第2動力伝達経路25の動力伝達を断続するエンジンクラッチ21と、を備え、駆動輪6は、内燃機関3の動力又は走行用モータ2の動力により駆動され、第1動力伝達経路24に配置された走行用モータ2と、第2動力伝達経路25に配置された内燃機関3と発電用モータ4とが動力源を構成する車両で用いられる。本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法では、第1動力伝達経路24から第2動力伝達経路25への動力伝達経路の切り替えの際に、エンジンクラッチ21の締結タイミング後、且つ、モータクラッチ19の解放タイミング前に、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが小さい期間に、ドライブシャフトのトルク変動に基づいて、発電用モータ4のトルク増加の傾きを走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくすること、及び、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが大きい期間に、発電用モータ4のトルク減少の傾きを走行用モータ2のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくすること、を行う。
【0130】
このような方法によれば、発電用モータ4のトルク増加の傾きを走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくすることにより、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ遅滞なく動力伝達経路の切り替えを行うことが可能になる。また、このような方法によれば、走行用モータ2のトルク減少の傾きを発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくすることにより、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ速やかに動力伝達経路の切り替えを行うことが可能になる。さらに、このような方法によれば、これらの両者を行うことにより、トルク掛替時全般に亘ってドライブシャフトの振動を抑制し、且つ減少させるべきトルクが掛け替え完了後のトルクつまりゼロ付近に速やかに到達するので、速やかに動力伝達経路の切り替えを行うことが可能になる。
【0131】
つまり、このような方法によれば、第1動力伝達経路24に設けられたモータクラッチ19を速やかに或いは遅滞なく解放することが可能になるので、ドライブシャフトの振動を抑制しつつ遅滞なく動力伝達経路を切り替えることが可能になる。
【0132】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法では、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが小さく且つ減少する期間に、発電用モータ4のトルク増加の傾きを、走行用モータ2のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくする。
【0133】
上記期間は、前述の図9に示すタイミングT12からタイミングT13の期間に対応し、当該期間は、ドライブシャフトのねじり角度が周期的に増加する期間となっている。このため、このような方法によれば、当該期間に発電用モータ4のトルク増加の傾きを上記のように大きくすることにより、ドライブシャフトの振動を抑制しつつモータクラッチ19を速やかに或いは遅滞なく解放することが可能になる。
【0134】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法では、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが大きく且つ増加する期間に、走行用モータ2のトルク減少の傾きを、発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくする。
【0135】
上記期間は、前述の図9に示すタイミングT14からタイミングT15の期間に対応し、当該期間は、ドライブシャフトのねじり角度が周期的に増加する期間となっている。このため、このような方法によれば、当該期間に走行用モータ2のトルク減少の傾きを上記のように小さくすることにより、ドライブシャフトの振動を抑制しつつモータクラッチ19を速やかに解放することが可能になる。
【0136】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法では、エンジンクラッチ21の締結に伴ってドライブシャフトが振動し、動力伝達経路の切り替え開始時よりもドライブシャフトが伝達するトルクが減少する期間に、発電用モータ4のトルクを減少させない。
【0137】
このような方法によれば、トルク掛替前半においてドライブシャフトが伝達するトルクが動力伝達経路の切り替え開始時よりも減少することに照らし、ドライブシャフトの振動を抑制することが可能になる。
【0138】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法では、差回転ΔNRに応じて走行用モータ2のトルク減少の傾きを変化させる。
【0139】
このような方法によれば、差回転ΔNRに起因して発生するドライブシャフトの振動の振幅に応じて、ドライブシャフトの振動を適切に抑制することができる。
【0140】
ここで、FF制御及びFB制御による振動抑制制御は走行用モータ2、発電用モータ4で個別にドライブシャフトの振動を抑制することを目的としたものである。つまり双方のモータによる協調した振動抑制は考慮されておらず、動力伝達経路を切り替える場合においては互いに干渉することが懸念される。また発電用モータ4ではFF制御及びFB制御のうちFF制御のみを用いてドライブシャフトの振動を抑制することで干渉を避けたとしても、遅滞なく動力伝達経路を切り替えることができない。
【0141】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法では、発電用モータ4と走行用モータ2とのうち走行用モータ2では、FF制御とFB制御とを用いてドライブシャフトの振動を抑制し、発電用モータ4ではFF制御及びFB制御のうちFF制御のみを用いてドライブシャフトの振動を抑制する。また、動力伝達経路の切り替えを開始する以前は走行用モータ2では、FF制御とFB制御とを用いてドライブシャフトの振動を抑制し、動力伝達経路の切り替えが完了した以降は発電用モータ4では、FF制御とFB制御とを用いてドライブシャフトの振動を抑制する。
【0142】
このような構成によれば、トルク掛替中に走行用モータ2で行われるFB制御とのFB制御の干渉を回避しつつ、動力伝達経路の切り替えを開始する以前の、および、動力伝達経路の切り替えが完了した以降のドライブシャフトの振動を抑制することにより、ドライブシャフトの振動を適切に抑制することができる。
【0143】
本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法は、第2動力伝達経路25から第1動力伝達経路24へ動力伝達経路を切り替える場合、つまりシリーズHEVモードへの走行モードの切り替えが行われる場合にも適用できる。
【0144】
図10図11は、シリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合にコントローラ7が行う制御の一例をフローチャートで示す図であり、第2動力伝達経路25へ動力伝達経路を切り替える場合の制御例を示す図4図5に対応する。
【0145】
図10図11からわかるように、シリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合には、エンジン直結モードへ走行モードを切り替える場合において発電用モータ4に対して行われていた処理が、走行用モータ2に対して行われる。同様に、走行用モータ2に対して行われていた処理は発電用モータ4に対して行われる。また、エンジンクラッチ21に対して行われていた処理はモータクラッチ19に対して行われ、モータクラッチ19に対して行われていた処理はエンジンクラッチ21に対して行われる。
【0146】
シリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合には、MG前半指令トルク及びMG後半指令トルクの代わりにGEN前半指令トルク及びGEN後半指令トルクが、ステップS201及びステップS203で演算される。また、GEN前半指令トルク及びGEN後半指令トルクの代わりにMG前半指令トルク及びMG後半指令トルクが、ステップS207及びステップS211で演算される。これらの演算は、数1から数4においてMGとGENとを入れ替えることにより行うことが可能である。
【0147】
図12から図14は、シリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合に参照される各種マップデータを示す図であり、第2動力伝達経路25へ動力伝達経路を切り替える場合に参照される各種マップデータを示す図6から図8に対応する。
【0148】
MG前半指令トルクを演算する際には、図6に示すマップデータの代わりに図12に示すマップデータが用いられ、GEN後半指令トルクを演算する際には、図8に示すマップデータの代わりに図14に示すマップデータが用いられる。保持トルクの演算には、図7に示すマップデータの代わりに図13に示すマップデータが用いられ、図13に示すマップデータでは、トルク掛替前半の発電用モータ4の保持トルクの代わりにトルク掛替前半の走行用モータ2の保持トルクが設定される。
【0149】
図15は、シリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合のタイミングチャートの一例を示す図であり、第2動力伝達経路25へ動力伝達経路を切り替える場合のタイミングチャートの一例を示す図9に対応する。
【0150】
シリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合には、トルク掛替前半、つまりタイミングT22からタイミングT24までにおいて、走行用モータ2のトルク増加の傾きが発電用モータ4のトルク減少の傾きに対し絶対値で大きくされる。また、トルク掛替後半、つまりタイミングT24からタイミングT25までにおいて走行用モータ2のトルク減少の傾きが発電用モータ4のトルク増加の傾きに対し絶対値で大きくされる。
【0151】
トルク掛替前半では、走行用モータ2のトルクを保持トルクに保持することを含め、発電用モータ4のトルクは減少されない。タイミングT25では、走行用モータ2へのトルク掛替を担う発電用モータ4のトルクと内燃機関3のトルクとが相殺され、走行用モータ2へのトルク掛替が完了し、解放すべきエンジンクラッチ21が伝達するトルクがゼロ付近になる。そしてこのときにエンジンクラッチ21が解放されることにより、動力伝達経路の切り替えが完了する。
【0152】
このようにシリーズHEVモードへ走行モードを切り替える場合でも、本実施形態にかかる車両用の動力伝達方法は、エンジン直結モードへ走行モードを切り替える場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0153】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0154】
上述した実施形態では、第2動力伝達経路25に配置された切り替え後の動力源に発電用モータ4を用いる場合について説明した。しかしながら、第2動力伝達経路25に配置された切り替え後の動力源には、内燃機関3が用いられてもよい。
【0155】
上述した実施形態では、車両用の動力伝達方法及び制御部が、単一のコントローラ7により実現される場合について説明した。しかしながら、車両用の動力伝達方法及び制御部は例えば、複数のコントローラの組み合わせにより実現されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15