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特許7331974Fe基アモルファス合金薄帯、鉄心、及び変圧器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】Fe基アモルファス合金薄帯、鉄心、及び変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20230816BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20230816BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20230816BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230816BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230816BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20230816BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20230816BHJP
   B22D 11/06 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
H01F1/153 108
H01F1/153 141
H01F27/245 155
H01F30/10 A
H01F41/02 C
C21D8/12 H
C22C45/02 A
C21D6/00 C
B22D11/06 360B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022026130
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2020563569の分割
【原出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022084618
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019121525
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019178568
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020024119
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020054544
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】板垣 肇
(72)【発明者】
【氏名】黒木 守文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳
(72)【発明者】
【氏名】中島 晋
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-233804(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030907(WO,A1)
【文献】特開2012-031498(JP,A)
【文献】特開2012-174824(JP,A)
【文献】特表2003-500541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153、27/245-27/25、30/10、41/02
B22D 11/06
C21D 1/34、6/00、8/12
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面とを有するFe基アモルファス合金薄帯であって、
前記Fe基アモルファス合金薄帯の合金組成は、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が81.0原子%以上であり、Bの含有量が10原子%以上であり、Siの含有量が6.0原子%以下であり、
少なくとも前記第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有し、
前記線状レーザ照射痕は、前記Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられたCW(連続波)発振方式による線状レーザ照射痕であり
前記第1面における前記線状レーザ照射痕の前記鋳造方向の長さである幅WAが28.5μm以上90μm以下である、Fe基アモルファス合金薄帯。
【請求項2】
前記線状レーザ照射痕は、表面に凹凸を有し、前記凹凸を前記鋳造方向に評価したとき、前記Fe基アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との高低差HLが0.20μm以上である、請求項1に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
【請求項3】
複数の前記線状レーザ照射痕のうち、互いに隣り合う線状レーザ照射痕間の間隔をライン間隔とした場合に、前記ライン間隔が2mm~200mmである、請求項1又は請求項2に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
【請求項4】
前記線状レーザ照射痕が設けられた部分は、非晶質である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
【請求項5】
前記鋳造方向に直交する方向を幅方向としたとき、前記幅方向において、前記Fe基アモルファス合金薄帯の長さ全体に占める前記線状レーザ照射痕の長さの割合が、前記Fe基アモルファス合金薄帯の前記幅方向の中心から前記幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%~50%の範囲内である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
【請求項6】
複数の請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯が積層され、又は少なくとも1つの請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯が巻回されて構成される、鉄心。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯を用いた鉄心と、
前記鉄心に巻き回されたコイルと、
を備える、変圧器。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2019年6月28日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2019-121525号に基づく優先権、2020年2月17日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2020-024119号に基づく優先権、2020年3月25日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2020-054544号に基づく優先権、及び2019年9月30日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2019-178568号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2019-121525号、日本国特許出願第2020-024119号、日本国特許出願第2020-054544号、及び日本国特許出願第2019-178568号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、Fe基アモルファス合金薄帯及びその製造方法、鉄心、並びに変圧器に関する。
【背景技術】
【0003】
Fe基アモルファス(非晶質)合金薄帯は、例えば、変圧器の鉄心材料として、その普及が進みつつある。
【0004】
Fe基アモルファス合金薄帯の異常渦電流損失を低減する方法として、Fe基アモルファス合金薄帯の表面を機械的にスクラッチする方法、Fe基アモルファス合金薄帯の表面にレーザ光を照射することにより局部的に溶解・急冷凝固させて磁区を細分化するレーザスクライビング法等が知られている。
【0005】
レーザスクライビング法として、例えば特公平3-32886号公報には、パルスレーザをアモルファス合金薄帯の幅方向に照射することにより、アモルファス合金薄帯の表面を局部的かつ瞬間的に溶解し、次いで急冷凝固させてアモルファス化させたスポットを点列状に形成することにより磁区を細分化する方法が開示されている。
【0006】
特開昭61-258404号公報には、薄帯の表面温度が300℃以上にある間にレーザ光を薄帯の幅方向に掃引しながら照射することが開示されている。
【0007】
特公平2-53935号公報には、薄帯を局部的に加熱することにより、この薄帯の長手方向に、2~100mmの間隔で、しかも該薄帯幅方向となす角度θが30゜以下で列状に並ぶ条状の結晶化領域を形成すると同時に、各領域の板厚方向の平均深さdと薄帯の厚さDとの比d/Dが0.1以上となるようにすると共に、それらの領域が占める薄帯中での割合が8体積%以下となるようにすることが開示されている。
【0008】
また、変圧器は、小型から大型のものまで、多種多様な構成を有し、生活環境のあらゆる場面で使用されている。そして、その使用量の多さから、電力損失の大きな一因ともなっており、常に変圧器での損失を抑制する要求が存在する。このため、世界各国では、その損失を抑制するための規格を定めている。その代表的なものとしては、日本のトップランナー規格JIS C 4304:2013及びJIS C 4306:2013、米国のDOE規格US Department of Energy 10 CFR Part 431.196、EU規格Commotions Regulation(EU) No.548/2014、中国国家規格GB 20052-2013、インド規格IS 1180(Part 1):2018などがあり、いずれも定期的な改定作業の都度、許
容される損失、あるいはエネルギー効率が厳格化されている。このため、これらの規格に対応する形で、より損失が少ない高効率変圧器が普及している。
【0009】
変圧器は、鉄心と巻線とを主な構成要素として構成され、鉄心として、一般的には方向性電磁鋼板が多く用いられている。しかし、方向性電磁鋼板よりも低損失な材料として、Fe基アモルファス合金薄帯も存在し、このFe基アモルファス合金薄帯を用いた鉄心も使用されている。
【0010】
変圧器の損失は、大きく分けると、鉄心で発生しその負荷電流に関わらず常に一定量発生する無負荷損(鉄損)と、巻線で発生しその負荷電流の2乗に比例して発生する負荷損(銅損)とが存在する。それぞれ損失を低減する検討が繰り返し行われ、損失の改善はみられるものの、更なる損失の低減が求められている。
【0011】
変圧器の無負荷損を低減するため、いくつかの方法が提案されている。
【0012】
特開2017-54896号公報では、無負荷損を低減した効率の良い鉄心を得るため、内周側の接合構造をオーバーラップ接合とし、外周側の接合構造をステップラップ接合とし、内周側に配置されたオーバーラップ構造の鉄心の割合を32~62%としたアモルファス材料を用いた巻鉄心を採用する。
【0013】
特開2008-71982号公報では、アモルファス合金薄帯を複数層に環状に成形した鉄心と励磁用の巻線を備えて成る変圧器であって、該鉄心を形成するアモルファス合金薄帯の表面に絶縁性の薄膜が形成されていて、このアモルファス合金薄帯表面に絶縁性の薄膜を形成することで、渦電流損の増加を抑制し、変圧器の無負荷損を低減することができる。
【0014】
特開2005-72160号公報では、三相五脚巻鉄心変圧器において、巻鉄心の磁性材料にアモルファス合金薄帯と電磁鋼板を同時に用いた構造とする。具体的には、三相五脚巻鉄心変圧器において、外側の一つの巻線とのみ鎖交する巻鉄心を電磁鋼板とし、二つの巻線と鎖交する中央の巻鉄心をアモルファス合金薄帯とする構造である。これにより、巻線を押さえる補強材を不要とし、構造をコンパクトにすることで、組立作業の工数や材料費を低減し、また磁性材料が電磁鋼板のみの場合よりも無負荷損を低減するアモルファス合金薄帯巻鉄心及び三相五脚巻鉄心変圧器を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特公平3-32886号公報
【文献】特開昭61-258404号公報
【文献】特公平2-53935号公報
【文献】特開2017-54896号公報
【文献】特開2008-71982号公報
【文献】特開2005-72160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来、Fe基アモルファス合金薄帯の鉄損を測定する場合、磁束密度1.3Tの条件で測定することが一般的であった(例えば、特公平3-32886号公報、特開昭61-258404号公報、特公平2-53935号公報の各々における実施例参照)。
【0017】
しかし、近年では、Fe基アモルファス合金薄帯を用いて作製される変圧器の小型化等
の観点から、磁束密度1.3Tの条件における鉄損ではなく、磁束密度1.45Tの条件における鉄損を低減させることが求められる場合がある。
【0018】
また、従来のレーザ光を照射する方法は、パルスレーザが用いられており、点状の照射痕を形成する方法であった。パルスレーザを用いる方法では、生産性に課題があり、コスト増となるといった課題があった。
【0019】
また、レーザ照射によりアモルファス合金薄帯の表面形態が大きく変形することがある。変形が大きい場合、アモルファス合金薄帯を巻き回したり、積層したりして磁心を構成した場合のアモルファス合金薄帯の占積率が低くなる。このようなアモルファス合金薄帯の表面形態の大きな変形は、磁心特性においては好ましい形態ではない。また、薄帯を局部的に加熱することにより、結晶化領域を形成すると、結晶化により、所望の特性が得られない。
【0020】
また、上述したとおり、変圧器の損失は、鉄心で発生する無負荷損と、巻線で発生する負荷損とが主な損失を構成している。変圧器の無負荷損を低減するため、鉄損の小さいFe基アモルファス合金薄帯を用いることが考えられる。特に、配電用変圧器の場合、高木、山本、山地:「柱上変圧器負荷パターン作成モデルを用いたアモルファス変圧器の評価」P885~892、電学論B、128巻6号、2008年、あるいはFinal Report, LOT 2: Distribution and power transformers Tasks 1-7 2010/ETE/R/106, January 2011に記載されるようにその年間を通じての負荷率の実効値に相当する平均等価負荷率は15%程度と低いことが知られており、無負荷損の小さなFe基アモルファス合金薄帯を用いた変圧器が省エネルギーとCO排出量削減の観点から極めて有効である。
【0021】
変圧器の鉄心用のFe基アモルファス合金薄帯としては、JIS C 2534:2017(対応IEC規格IEC60404-8-11)の表1と表2に記載されるように普通材と高磁束密度材の2種類に大別され、その鉄損の最大値と占積率の最小値を基準として、各々、16種類存在する。最も鉄損の小さなもので、その周波数50Hz、磁束密度1.3Tにおける鉄損の最大値は0.08W/kg、その周波数60Hz、磁束密度1.3Tにおける鉄損の最大値は0.11W/kgとなっている。しかし、より高効率の変圧器を得るためには、これよりも小さな鉄損のFe基アモルファス合金薄帯を鉄心に使用する必要がある。
【0022】
アモルファス合金薄帯の低鉄損化のため、前述したレーザスクライビング法が試みられているが、その鉄損は上記JIS C 2534:2017の表1と表2に記載される最低鉄損値に達していない(例えば、特公平3-32886号公報、特開昭61-258404号公報、特公平2-53935号公報の各々における実施例参照)。
【0023】
そこで本開示の一態様は、磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減されるFe基アモルファス合金薄帯を提供することが好ましい。また、要求される特性が得られるとともに、変形の少ないFe基アモルファス合金薄帯が得られ、また、生産性の高い製造方法を提供することが好ましい。
【0024】
また、本開示の他の一態様は、上記一態様に係るFe基アモルファス合金薄帯を用い、優れた性能を備えた鉄心及び変圧器を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本開示の一態様は、第1面と第2面とを有するFe基アモルファス合金薄帯である。F
e基アモルファス合金薄帯は、少なくとも第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有する。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。線状レーザ照射痕は、表面に凹凸を有し、凹凸を鋳造方向に評価したとき、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との高低差HLと、第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAとから算出される高低差HL×幅WAが6.0~180μmである。
【0026】
本開示の一態様では、幅WAが28μm以上であってもよい。
【0027】
本開示の一態様では、高低差HLが0.20μm以上であってもよい。
【0028】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕は、第1面へのレーザ照射により溶融凝固した溶融凝固部であり、第1面から第2面まで達していてもよい。幅WAと、第2面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下であってもよい。
【0029】
本開示の別の態様は、第1面と第2面とを有するFe基アモルファス合金薄帯である。Fe基アモルファス合金薄帯は、少なくとも第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有する。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。線状レーザ照射痕は、第1面へのレーザ照射により溶融凝固した溶融凝固部であり、第1面から第2面まで達している。第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAと第2面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下である。
【0030】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕は、表面に凹凸を有し、凹凸を鋳造方向に評価したとき、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との高低差HLと、幅WAとから算出される高低差HL×幅WAが6.0~180μmであってもよい。
【0031】
本開示の一態様では、高低差HLが0.20μm以上であってもよい。
【0032】
本開示の別の態様は、第1面と第2面とを有するFe基アモルファス合金薄帯である。Fe基アモルファス合金薄帯は、少なくとも第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有する。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAが28.5μm以上90μm以下である。
【0033】
本開示の一態様では、複数の線状レーザ照射痕のうち、互いに隣り合う線状レーザ照射痕間の間隔をライン間隔とした場合に、ライン間隔が2mm~200mmであってもよい。
【0034】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕が設けられた部分は、非晶質であってもよい。
【0035】
本開示の一態様では、鋳造方向に直交する方向を幅方向としたとき、幅方向において、Fe基アモルファス合金薄帯の長さ全体に占める線状レーザ照射痕の長さの割合が、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%~50%の範囲内であってもよい。
【0036】
本開示の一態様は、第1面及び第2面として自由凝固面及びロール面を有してもよい。自由凝固面における線状レーザ照射痕以外の部分の最大断面高さRtが、3.0μm以下
であってもよい。
【0037】
本開示の一態様では、厚さが18μm~35μmであってもよい。
【0038】
本開示の一態様では、Fe基アモルファス合金薄帯の合金組成は、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が78原子%以上であり、Bの含有量が10原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%~22原子%であってもよい。
【0039】
本開示の一態様では、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.150W/kg以下であってもよい。
【0040】
本開示の一態様では、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における鉄損が8.6W/kg以下であり、励磁電力VAが8.7VA/kg以下であってもよい。
【0041】
本開示の一態様では、最大印加磁場800A/mで測定した直流B-H曲線の保磁力Hcが5.0A/m以下であってもよい。
【0042】
本開示の一態様では、最大印加磁場800A/mで測定した直流B-H曲線の角型比〔残留磁束密度Br/最大磁束密度Bm〕が40%以下であってもよい。
【0043】
本開示の別の態様は、第1面と第2面とを有するFe基アモルファス合金薄帯の少なくとも第1面に対し、CW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射して、複数の線状レーザ照射痕を有するFe基アモルファス合金薄帯を得るFe基アモルファス合金薄帯の製造方法である。CW(連続波)発振方式を用いたレーザのレーザ密度が、5J/m以上35J/m以下である。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。
【0044】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕は、表面に凹凸を有し、凹凸を鋳造方向に評価したとき、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との高低差HLと、第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAとから算出される高低差HL×幅WAが6.0~180μmであってもよい。
【0045】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕は、第1面から第2面まで達していてもよい。第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAと第2面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下であってもよい。
【0046】
本開示の一態様では、第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAが28μm以上であってもよい。
【0047】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕は、表面に凹凸を有し、凹凸を鋳造方向に評価したとき、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との高低差HLが0.20~2.0μmであってもよい。
【0048】
本開示の一態様では、線状レーザ照射痕が設けられた部分は、非晶質であってもよい。
【0049】
本開示の一態様では、複数の線状レーザ照射痕のうち、互いに隣り合う線状レーザ照射痕間の間隔をライン間隔とした場合に、ライン間隔が2mm~200mmであってもよい。
【0050】
本開示の別の態様は、複数の上記Fe基アモルファス合金薄帯が積層され、又は少なくとも1つの上記Fe基アモルファス合金薄帯が巻回されて構成される鉄心である。
【0051】
本開示の一態様は、積層された複数のFe基アモルファス合金薄帯が曲げられてオーバーラップ巻きされて構成されてもよい。周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.240W/kg以下であってもよい。
【0052】
本開示の別の態様は、上記Fe基アモルファス合金薄帯を用いた鉄心と、鉄心に巻き回されたコイルと、を備える変圧器である。
【0053】
本開示の一態様では、鉄心は、積層された複数のFe基アモルファス合金薄帯が曲げられてオーバーラップ巻きされて構成され、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.240W/kg以下であってもよい。
【0054】
本開示の一態様は、単相変圧器であり、50Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損が0.15W/kg以下、又は60Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損が0.19W/kg以下であってもよい。
【0055】
本開示の一態様は、3相変圧器であり、50Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損が0.19W/kg以下、又は60Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損が0.24W/kg以下であってもよい。
【0056】
本開示の一態様では、定格容量が10kVA以上であってもよい。
【発明の効果】
【0057】
本開示の一態様によれば、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が提供される。また、本開示の一態様によれば、要求される特性が得られるとともに、レーザ照射による変形度合いが小さく、また、生産性の高いFe基アモルファス合金薄帯及びその製造方法が提供される。
【0058】
本開示の他の一態様によれば、上記一態様に係るFe基アモルファス合金薄帯を用いることにより、優れた性能を備える鉄心及び変圧器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯片(薄帯10)の自由凝固面を概略的に示す概略平面図である。
図2】線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図3】線状レーザ照射痕の表面の凹凸状態の概略図である。
図4】高低差HL×幅WAと鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図5】幅WAと鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図6】高低差HL×幅WAと励磁電力VA(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図7】高低差HL×幅WAと保磁力Hc(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図8】鉄心の一例を示す平面図である。
図9】鉄心の一例を示す側面図である。
図10】鉄心に一次巻線(N1)と二次巻線(N2)とを巻いて変圧するための回路を示す回路図である。
図11】実施例3の鉄心と比較例2の鉄心とにおける周波数50Hzでの磁束密度と鉄損との関係を示す図である。
図12】実施例3の鉄心と比較例2の鉄心とにおける周波数60Hzでの磁束密度と鉄損との関係を示す図である。
図13】No.54のレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図14】No.54のレーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図15】No.*44のレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図16】No.*44のレーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図17図17Aは、実施例1のNo.13の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真であり、図17Bは、実施例1のNo.17の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真であり、図17Cは、実施例1のNo.20の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真であり、図17Dは、実施例1のNo.24の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図18図18Aは、実施例1のNo.26の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真であり、図18Bは、実施例1のNo.28の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真であり、図18Cは、実施例1のNo.34の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真であり、図18Dは、実施例1のNo.36の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図19】幅WAと励磁電力VA(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図20】幅WAと保磁力Hc(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図21】ライン間隔LP1と鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図22】幅比WB/WAと鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図23】高低差HLと鉄損CL(1kHz、1T)との関係を示す図である。
図24】高低差HLと励磁電力VA(1kHz,1T)との関係を示す図である。
図25】高低差HL×幅WAと鉄損CL(1kHz、1T)との関係を示す図である。
図26】高低差HL×幅WAと励磁電力VA(1kHz,1T)との関係を示す図である。
図27】レーザ密度と鉄損CL(1kHz、1T)との関係を示す図である。
図28】レーザ密度と励磁電力VA(1kHz,1T)との関係を示す図である。
図29】レーザ密度と鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図30】レーザ密度と励磁電力VA(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図31】レーザ密度と保磁力Hc(60Hz,1.45T)との関係を示す図である。
図32】実施例2の線状レーザ照射痕の顕微鏡写真である。
図33】本実施形態の変圧器の一例を示す概略図である。
図34】本実施形態の変圧器の別の例を示す概略図である。
図35】本実施形態の変圧器の更に別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な
記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0061】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0062】
本明細書において、Fe基アモルファス合金薄帯とは、Fe基アモルファス合金からなる薄帯を指す。
【0063】
本明細書において、Fe基アモルファス合金とは、Fe(鉄)を主成分とするアモルファス合金を指す。ここで、主成分とは、含有比率(質量%)が最も高い成分を指す。
【0064】
以下、本開示に関する実施形態について記載する。なお、本開示は、以下に記載の実施形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0065】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、レーザ照射により合金薄帯に歪を導入し、磁区を細分化して磁気特性を向上させるものである。
【0066】
本開示では、Fe基アモルファス合金薄帯にCW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射して、線状レーザ照射痕を形成する。この線状レーザ照射痕は、レーザ照射により溶融し凝固した溶融凝固部であり、CW(連続波)発振方式のレーザが照射されることにより、連続した線状に形成される。
【0067】
本開示は、このレーザ照射を行うことにより、磁気特性の向上を図るものであるが、レーザ照射によるエネルギーが強すぎても、弱すぎても、目的とする磁気特性を得ることができない。そこで、本開示では、適切なレーザ照射により、適切な線状レーザ照射痕を形成するものであり、その適切な線状レーザ照射痕の形態を提供するものである。
【0068】
〔Fe基アモルファス合金薄帯〕
本開示の第一実施形態のFe基アモルファス合金薄帯は、第1面と第2面とを有する。Fe基アモルファス合金薄帯は、少なくとも第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有する。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。線状レーザ照射痕は、表面に凹凸を有し、凹凸を鋳造方向に評価したとき、Fe基アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との高低差HLと、第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAとから算出される高低差HL×幅WAが6.0~180μmである。
【0069】
高低差HL×幅WAが6.0~180μmであることにより、目的とする磁気特性が得られる。例えば、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.150W/kg以下であるFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
【0070】
この高低差HL×幅WAは、178μm以下が好ましく、更に175μm以下が好ましい。また、この高低差HL×幅WAは、6.4μm以上が好ましく、更に好ましくは10μm以上である。
【0071】
本開示の実施形態において、幅WAが28μm以上であることが好ましい。更に、幅WAが28.5μm以上であることが好ましく、更に、29μm以上であることが好ましく、更に、30μm以上であることが好ましい。
【0072】
また、本開示の実施形態において、高低差HLが0.20μm以上であることが好ましい。更に、高低差HLが0.21μm以上であることが好ましく、更に好ましくは0.24μm以上であり、更に好ましくは0.25μm以上であり、更に好ましくは0.30μm以上である。また、高低差HLは、2.0μm以下が好ましい。更に好ましくは、2.0μm未満であり、更に好ましくは、1.9μm以下であり、更に好ましくは、1.8μm以下であり、さらに好ましくは、1.7μm以下である。
【0073】
また、本開示の実施形態において、幅WAと、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下(0を含む)であることが好ましい。更に、幅比WB/WAは0.55以下が好ましく、更に、0.54以下が好ましく、更に0.52以下が好ましく、更に0.50以下が好ましい。この幅比WB/WAは0であってもよい。この幅比WB/WAが0であるとは、レーザ照射された面Aの裏面Bに線状レーザ照射痕が観察されない状態である。
【0074】
本開示の第二実施形態のFe基アモルファス合金薄帯は、第1面と第2面とを有する。Fe基アモルファス合金薄帯は、少なくとも第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有する。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。線状レーザ照射痕は、第1面へのレーザ照射により溶融凝固した溶融凝固部であり、第1面から第2面まで達している。第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAと第2面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下である。
【0075】
幅WAと幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下(0を含む)であることにより、目的とする磁気特性が得られる。例えば、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.150W/kg以下であるFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
【0076】
本開示の第三実施形態のFe基アモルファス合金薄帯は、第1面と第2面とを有する。Fe基アモルファス合金薄帯は、少なくとも第1面に、連続した線状のレーザ照射痕を複数有する。線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられる。第1面における線状レーザ照射痕の鋳造方向の長さである幅WAが28.5μm以上90μm以下である。
【0077】
上記した幅WAが28.5μm以上90μm以下であることにより、目的とする磁気特性が得られる。例えば、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.150W/kg以下であるFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
【0078】
Fe基アモルファス合金薄帯のレーザ照射された面Aに、レーザ照射による線状レーザ照射痕が形成される際、レーザのエネルギーが所定以上となると、面Aに照射されたレーザのエネルギーが裏面Bまで伝わり、裏面Bでも線状レーザ照射痕が形成される。
【0079】
この裏面Bの線状レーザ照射痕について観察すると、レーザのエネルギーが大きすぎる場合、裏面Bの線状レーザ照射痕の縁に応力皺が形成される。この応力皺が形成された状態では、低損失のFe基アモルファス合金薄帯が得られなかった。
【0080】
したがって、この応力皺が形成されないように適切なエネルギーでレーザを照射し、裏面Bの線状レーザ照射痕の縁に応力皺が形成されないようにすることが好ましい。
【0081】
そのため、裏面Bの線状レーザ照射痕の縁に応力皺が形成されない状態が得られる線状レーザ照射痕について検討した。
【0082】
その結果、Fe基アモルファス合金薄帯のレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の幅WAと、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下(0を含む)であれば、裏面Bの線状レーザ照射痕の縁に応力皺が形成されない状態が得られることが分かった。
【0083】
上記した第一の形態、第二の形態、又は第三の形態を得るために、照射するレーザのエネルギーを適切な値とする。この照射するレーザのエネルギーは、レーザの走査速度、合金薄帯の厚さを考慮して、適宜設定する。例えば、レーザ密度を5J/m以上35J/m以下とすることが好ましい。
【0084】
本開示では、CW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射することにより線状レーザ照射痕が形成される。線状レーザ照射痕は、レーザ照射により、溶融凝固しており、レーザ照射されていない部分と比べると、見かけの状態(色合い、形状)が変化している。つまり、この見かけの状態が変化している部分が線状レーザ照射痕(溶融凝固部)である。
【0085】
その見かけの状態が変化している部分の幅(連続した線状の伸びる方向に直交する方向の長さ)を線状レーザ照射痕(溶融凝固部)の幅とする。
【0086】
このCW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射することにより形成される線状レーザ照射痕は、パルスレーザを用いた点状のレーザ照射痕の集まりとは異なる。
【0087】
従来、レーザ照射により、磁区を細分化する方法は知られているが、それらはパルスレーザを用いて、点状のレーザ照射痕を形成する方法が一般的であった。しかし、パルスレーザを用いた方法では、次のような点で、生産性に課題があり、低コストでの生産には不向きであった。
【0088】
例えば、高速で加工する場合、発振周波数をあげる必要があるが、パルスエネルギー及びパルス幅を維持したまま、発振周波数をあげることが出来ない。
【0089】
CW(連続波)発振方式を用いたレーザ加工の場合、連続的にレーザを発振するだけで、発振機の出力を上げれば容易に生産性を高くすることができる。これにより、高コストとなることなく、所望の特性のFe基アモルファス合金薄帯が得られる。例えば、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減されたFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
【0090】
本開示において、線状レーザ照射痕は、CW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射することにより形成されたものであり、連続した線状に形成されたものであるが、部分的に途切れていても差し支えない。少なくとも5mm以上、連続したものであればよい。
【0091】
また、パルスレーザによる点状のレーザ照射痕と、CW(連続波)発振方式を用いた線状レーザ照射痕とは、レーザ照射痕を観察することにより、見分けられる。
【0092】
本実施形態のFe基アモルファス合金薄帯(以下、単に「薄帯」ともいう。)では、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損CLが低減される。また、保磁力Hc(60Hz,1.45T)も低減されたFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
【0093】
また、励磁電力VA(60Hz,1.45T)の増加を抑制することができる。また、レーザ照射による変形度合いが小さいFe基アモルファス合金薄帯が得られる。また、高い生産性を備える、レーザ照射によるFe基アモルファス合金薄帯が得られる。
【0094】
また、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における鉄損CL(1kHz,1T)が低減される。また、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における励磁電力VA(1kHz,1T)も低減することができる。これにより、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、高周波用途にも有用となる。
【0095】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、自由凝固面及びロール面を有するFe基アモルファス合金薄帯である。
【0096】
自由凝固面及びロール面を有するFe基アモルファス合金薄帯は、単ロール法によって製造(鋳造)される薄帯である。鋳造時、冷却ロールに接して急冷凝固された面がロール面であり、ロール面に対して反対側の面(即ち、鋳造時、雰囲気に暴露されていた面)が、自由凝固面である。
【0097】
単ロール法については、国際公開第2012/102379号等の公知文献を適宜参照できる。
【0098】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、鋳造後、カットされていない状態の薄帯(例えば、鋳造後にロール状に巻き取られたロール体)であってもよいし、鋳造後、所望とする大きさに切り出された薄帯片であってもよい。
【0099】
本実施形態のFe基アモルファス合金薄帯の模式図を図1に示す。図1は、Fe基アモルファス合金薄帯10の自由凝固面(もしくはロール面)に線状レーザ照射痕12が複数形成されている。図1において、左右方向(L1の矢印方向)が鋳造方向に相当し、上下方向(W1の矢印方向)が薄帯の幅方向に相当する。線状レーザ照射痕12は、薄帯の鋳造方向に直交する幅方向に向かう方向に沿って設けられている。L1は、薄帯の長さを示し、W1は薄帯の幅を示し、LP1は線状レーザ照射痕のライン間隔を示している。
【0100】
また、連続した線状のレーザ照射痕は、直線状であることが好ましい。CW発振方式を用いたレーザ照射を走査して形成するため、多少のゆらぎは生じるが、ほぼ直線状の線状レーザ照射痕が形成される。
【0101】
また、本開示の溶融凝固部は、非晶質であることが好ましい。溶融凝固部が結晶化してしまうと、磁気特性が劣化する。
【0102】
本開示において、線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する幅方向に向かう方向に沿って設けられる。また、線状レーザ照射痕は、後述する「幅方向の中央部」を含むように、薄帯の幅方向に形成されていることが好ましい。ここで、「鋳造方向」とは、Fe基アモルファス合金薄帯を鋳造する際の冷却ロールの周方向に対応する方向であり、言い換えれば、鋳造後、カットされる前のFe基アモルファス合金薄帯の長手方向に対応する方向である。そして、その長手方向に直交する方向が薄帯の幅方向となる。
【0103】
なお、切り出された薄帯片においても、薄帯片の自由凝固面及び/又はロール面を観察することにより、「鋳造方向」がどの方向であるかを確認できる。例えば、薄帯片の自由凝固面及び/又はロール面には、鋳造方向に沿った薄いスジが観測される。また、鋳造方向に直交する方向が幅方向である。
【0104】
実施形態のFe基アモルファス合金薄帯では、複数の線状レーザ照射痕のうち、互いに隣り合う線状レーザ照射痕間の、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する幅方向の中央部における間隔をライン間隔とした場合に、ライン間隔は2mm~200mmで
あることが好ましい。このライン間隔は、レーザ照射された面Aでのライン間隔である。
【0105】
なお、幅方向とは、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向である。
【0106】
また、線状レーザ照射痕が薄帯の自由凝固面及びロール面の両面でレーザ照射されて形成されている場合、ライン間隔は、薄帯を透過的に見た場合の両面の線状レーザ照射痕を対象に、測定される。例えば、線状レーザ照射痕が、薄帯の鋳造方向で、両面に交互にレーザ照射されて、形成されている場合、「互いに隣り合う線状レーザ照射痕」は、一方の面に照射された線状レーザ照射痕と、他方の面に照射され、かつ鋳造方向に隣接する線状レーザ照射痕とが対象となる。
【0107】
ライン間隔が2mm未満であると、鉄損の低減が見込めない。
【0108】
ライン間隔が200mm以下であることにより、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損を低減させる効果に優れる。
【0109】
ライン間隔は、より好ましくは3.5mm以上であり、更に好ましくは5mm以上であり、更に好ましくは10mm以上である。また、より好ましくは100mm以下であり、更に好ましくは80mm以下であり、更に好ましくは60mm以下である。更に50mm以下、40mm以下、30mm以下と狭くすることができる。
【0110】
複数の線状レーザ照射痕の方向は、略平行であることが好ましいが、略平行であることに限定されない。複数の線状レーザ照射痕の方向は、平行であってもよいし平行でなくてもよい。
【0111】
Fe基アモルファス合金薄帯の「幅方向の中央部」とは、幅方向の中心から幅方向両端に向かってある程度の幅をもった部分とすることができる。例えば、幅方向の中心から幅方向両端に向かって、上記「ある程度の幅」が幅全体の1/5(中心から一方端までの1/5であり、幅方向の中央部の長さが幅方向全体の1/5)となる領域の範囲を中央部とすることができる。したがって、幅方向の中心から幅方向両端に向かって、それぞれ中心から端までの1/5までの領域、つまり、幅方向の中央部の長さが幅全体の1/5となる領域の範囲において、ライン間隔が2mm~200mmの範囲となっていることが好ましい。好ましくは、幅方向の中央部の長さが、幅全体の1/4となる領域の範囲において、ライン間隔が2mm~200mmの範囲となっていることが好ましい。さらに好ましくは、幅方向の中央部の長さが、幅全体の1/2となる領域の範囲において、ライン間隔が2mm~200mmの範囲となっていることが好ましい。
【0112】
本開示の実施形態として、複数の線状レーザ照射痕の各々の方向が、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する幅方向に対して、互いに平行でない配置関係を有していてもよい。
【0113】
つまり、複数の線状レーザ照射痕の各々の方向とFe基アモルファス合金薄帯の幅方向とのなす角度を10°超として鋳造方向に対して鋭角又は鈍角の傾斜角をもって交差していてもよい。
【0114】
本開示の実施形態として、複数の線状レーザ照射痕の各々の方向が、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向及び厚さ方向に直交する方向に対して、略平行であることが好ましい。
【0115】
複数の線状レーザ照射痕の各々の方向がFe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向及び厚
さ方向に直交する方向に対して略平行であるとは、複数の線状レーザ照射痕の各々の方向と、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向及び厚さ方向に直交する方向と、のなす角度が10°以下であることを意味する。
【0116】
但し、複数の線状レーザ照射痕が略平行であることに限定されない。
【0117】
また、本開示の実施形態として、複数の線状レーザ照射痕の各々の方向は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向に対して、略平行であることが好ましい。
【0118】
複数の線状レーザ照射痕の各々の方向がFe基アモルファス合金薄帯の幅方向に対して略平行であるとは、複数の線状レーザ照射痕の各々の方向とFe基アモルファス合金薄帯の幅方向とのなす角度が10°以下であることを意味する。
【0119】
但し、複数の線状レーザ照射痕が略平行であることに限定されない。
【0120】
上記のとおり、線状レーザ照射痕の方向は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に平行でなくてもよく、線状レーザ照射痕の方向とFe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向とのなす角度が10°超の傾斜角をもっていてもよい。このように、10°超の傾斜角をもっていても、線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向に沿って設けられていると解釈する。この傾斜角は45°未満が好ましく、さらに40°以下が好ましく、さらに30°以下が好ましく、さらに20°以下が好ましい。最も好ましくは10°以下である。
【0121】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、線状レーザ照射痕を薄帯の幅方向に1つ有する態様でもよいし、薄帯の幅方向に2つ以上有する態様でもよい。なお、幅方向に複数の線状レーザ照射痕を有する場合であって、その複数の線状レーザ照射痕が一直線状に並ぶ場合は、一つの線状レーザ照射痕として扱うことができる。
【0122】
具体的には、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数の線状レーザ照射痕の列を、鋳造方向に直交する幅方向において、(1)一列有する態様(以下、単一群という。)でもよいし、(2)複数列有する態様(以下、複数群という。)でもよい。
【0123】
以下、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数の線状レーザ照射痕の列を「照射痕の群」ともいう。
【0124】
後者の複数群では、照射痕の群が薄帯の幅方向に複数存在し、複数の群間において、線状レーザ照射痕の各々の位置が幅方向の同一線上にある必要はなく、線状レーザ照射痕の各々が鋳造方向にずれた位置関係となっていてもよい。例えば、薄帯の幅方向に照射痕の群が2つ存在する場合、一方の群中に並ぶ複数の線状レーザ照射痕と他方の群中に並ぶ複数の線状レーザ照射痕とが、鋳造方向に一定の距離ずらして互いに交互に存在する位置関係となっていてもよい。
【0125】
本開示におけるライン間隔は、以下のようにして求められる値である。
【0126】
上記(1)のように、鋳造方向に設けられた複数の線状レーザ照射痕の列を、鋳造方向に直交する幅方向に一列有する(単一群)場合、ライン間隔は、鋳造方向に互いに隣り合う2つの線状レーザ照射痕間の間隔を任意に5箇所選択して測定し、測定値の平均値とすることができる。この場合、単一群を構成する複数の線状レーザ照射痕は、一定の間隔をおいて存在することが好ましいが、任意の間隔で存在してもよい。
【0127】
また、上記(2)のように、鋳造方向に設けられた複数の線状レーザ照射痕の列を、鋳造方向に直交する幅方向に、複数列有する(複数群)場合、ライン間隔は、複数群中の各「照射痕の群」ごとに上記方法と同様にして求めた値(平均値)を更に平均した値とすることができる。この場合、各「照射痕の群」を構成する複数の線状レーザ照射痕は、一定の間隔をおいて存在することが好ましいが、任意の間隔で存在してもよい。なお、複数群のうちのひとつが幅方向の中央部に達していない場合は、その線状レーザ照射痕を幅方向の中央部まで仮に延長して、幅方向の中央部における間隔を求めることができる。
【0128】
また、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体に占める、線状レーザ照射痕の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%~50%であることが好ましい。なお、ここでの「%」は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体を100%としている。
【0129】
なお、線状レーザ照射痕の方向が幅方向に対して傾きを持つ場合は、傾きを持った線状レーザ照射痕自体の長さではなく、線状レーザ照射痕が形成されている部分において薄帯の幅方向における長さに換算した値を線状レーザ照射痕の幅方向の長さとする。
【0130】
上記幅方向の長さの割合が50%であるとは、線状レーザ照射痕が、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の中央を起点とし、幅方向に一端及び他端にまで到達していることを意味する。つまり、線状レーザ照射痕が薄帯の幅方向において、一端から他端まで形成されている状態である。
【0131】
例えば、線状レーザ照射痕の方向とFe基アモルファス合金薄帯の幅方向とが平行である場合、Fe基アモルファス合金薄帯の線状レーザ照射痕の幅方向の長さ全体は、Fe基アモルファス合金薄帯の全幅に対応する。
【0132】
また、上記幅方向の長さの割合が10%とは、線状レーザ照射痕が、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の中央を起点とし、幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%ずつの長さを有していること、即ち、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の長さの20%の長さの線状レーザ照射痕を、Fe基アモルファス合金薄帯の中心領域に有していることをいう。換言すると、線状レーザ照射痕が、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の両端に、幅方向の全体の長さに対して40%ずつの余白を残して形成されていることを意味する。Fe基アモルファス合金薄帯の線状レーザ照射痕の、薄帯の幅方向の長さ全体に占める線状レーザ照射痕の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ25%以上であることがより好ましい。
【0133】
また、線状レーザ照射痕は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向を8等分した8個の領域から両端の2個の領域を除く、幅方向中央の6個の領域内に少なくとも形成されていることが好ましい。
【0134】
また、線状レーザ照射痕の列が複数群設けられている場合は、その複数群を合わせ、もっとも幅方向両端側に位置するところで、薄帯の幅方向の長さ全体に占める、線状レーザ照射痕の長さとして評価すればよい。
【0135】
なお、本開示の線状レーザ照射痕は、上記した特徴を備えるものであるが、例えば、Fe基アモルファス合金薄帯において、多数の線状レーザ照射痕が形成されている場合、その全ての線状レーザ照射痕が上記した本開示の構成を備えていなくても本開示の効果を得ることはできる。全ての線状レーザ照射痕のうち、60%以上の線状レーザ照射痕が上記した本開示の構成を備えていることが好ましい。さらに、70%以上の線状レーザ照射痕
が上記した本開示の構成を備えていることが好ましい。さらに、80%以上の線状レーザ照射痕が上記した本開示の構成を備えていることが好ましい。さらに、90%以上の線状レーザ照射痕が上記した本開示の構成を備えていることが好ましい。さらに、全ての線状レーザ照射痕が上記した本開示の構成を備えていることが好ましい。
【0136】
<自由凝固面の粗さ(最大断面高さRt)>
ところで、例えば国際公開第2012/102379号に記載のとおり、従来、自由凝固面に波状凹凸を設けることにより、鉄損を低減させることが行われていた。
【0137】
しかし、本発明者等の検討によると、波状凹凸は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を招く場合があることがわかった。
【0138】
従って、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制する観点からみて、波状凹凸は、極力低減されていることが好ましい。
【0139】
具体的には、自由凝固面における複数の線状レーザ照射痕以外の部分における最大断面高さRtは、3.0μm以下であることが好ましい。
【0140】
最大断面高さRtが3.0μm以下であるとは、自由凝固面に波状凹凸が無いか、又は、波状凹凸が低減されていることを意味する。
【0141】
本明細書中において、自由凝固面における複数の線状レーザ照射痕以外の部分における最大断面高さRtは、自由凝固面における複数の線状レーザ照射痕以外の部分について、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定(評価)する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向とする。また、評価長さを4.0mmとする上記測定は、詳細には、カットオフ値0.8mmにて連続して5回測定することにより行う。
【0142】
自由凝固面における複数の線状レーザ照射痕以外の部分における最大断面高さRtは、より好ましくは2.5μm以下である。
【0143】
また、最大断面高さRtの下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、最大断面高さRtの下限は、好ましくは0.8μmであり、より好ましくは1.0μmである。
【0144】
<化学組成>
本開示のFe基アモルファス合金薄帯の化学組成には特に制限はなく、Fe基アモルファス合金の化学組成(即ち、Fe(鉄)を主成分とする化学組成)であればよい。但し、本開示のFe基アモルファス合金薄帯による効果をより効果的に得る観点から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯の化学組成は、以下の化学組成Aであることが好ましい。好ましい化学組成である化学組成Aは、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が78原子%以上であり、Bの含有量が10原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%~22原子%である化学組成である。
【0145】
以下、化学組成Aについて、より詳細に説明する。
【0146】
化学組成Aにおいて、Feの含有量は78原子%以上である。
【0147】
Fe(鉄)は、アモルファス構造であっても最も磁気モーメントが大きい遷移金属の一つであり、Fe-Si-B系のアモルファス合金では磁性の担い手となる。
【0148】
Feの含有量は78原子%以上である場合には、Fe基アモルファス合金薄帯の飽和磁束密度(Bs)を高くすることができる(例えば、1.6T程度のBsを実現できる)。更に、好ましい磁束密度B0.1(1.52T以上)を達成し易くなる。
【0149】
Feの含有量は、好ましくは80原子%以上であり、さらに好ましくは80.5原子%以上であり、更に好ましくは81.0原子%以上である。また、好ましくは82.5原子%以下であり、更に好ましくは82.0原子%以下である。
【0150】
化学組成Aにおいて、Bの含有量は、10原子%以上である。
【0151】
B(ホウ素)は、アモルファス形成に寄与する元素である。Bの含有量が10原子%以上である場合には、アモルファス形成能がより向上する。
【0152】
また、Bの含有量が10原子%以上である場合には、鋳造方向に磁区が配向しやすく、磁区幅が広くなることにより磁束密度(B0.1)が向上しやすい。
【0153】
Bの含有量は、好ましくは11原子%以上であり、さらに好ましくは12原子%以上である。
【0154】
Bの含有量の上限は、後述するB及びSiの合計含有量にもよるが、好ましくは16原子%である。
【0155】
化学組成Aにおいて、B及びSiの合計含有量は、17原子%~22原子%である。
【0156】
Si(ケイ素)は、溶湯状態で表面に偏析し、溶湯の酸化を防ぐ効果を有する元素である。さらに、Siは、アモルファス形成の助剤として作用し、ガラス転移温度を上昇させる効果があり、より熱的に安定なアモルファス相を形成させる元素でもある。
【0157】
B及びSiの合計含有量が17原子%以上である場合には、上述したSiの効果が効果的に発揮される。
【0158】
また、B及びSiの合計含有量が22原子%以下である場合には、磁性の担い手であるFeの量を多く確保できるので、飽和磁束密度Bsの向上及び磁束密度B0.1の向上の点で有利である。好ましくは、B及びSiの合計含有量が20原子%以下であり、Feの含有量との関係により適宜決定できる。
【0159】
Siの含有量は、好ましくは2.0原子%以上であり、より好ましくは2.4原子%以上であり、更に好ましくは3.5原子%以上である。
【0160】
Siの含有量の上限は、B及びSiの合計含有量にもよるが、好ましくは6.0原子%である。
【0161】
上記化学組成Aの中でも、後述する鉄損及び励磁電力をより向上させる観点からは、Fe基アモルファス合金薄帯のより好ましい化学組成は、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が80原子%以上であり、Bの含有量が12原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%~20原子%である。
【0162】
化学組成Aは、不純物を含有する。
【0163】
この場合、化学組成Aに含有される不純物は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0164】
不純物としては、Fe、Si、及びB以外のあらゆる元素が挙げられるが、具体的には、例えば、C、Ni、Co、Mn、O、S、P、Al、Ge、Ga、Be、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、希土類元素などが挙げられる。
【0165】
これらの元素は、Fe、Si、及びBの総質量に対し、総量で1.5質量%以下の範囲で含有することができる。これらの元素の総含有量の上限は、好ましくは1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.75質量%以下である。なお、この範囲で、これらの元素は添加されていてもかまわない。
【0166】
<厚さ>
本開示のFe基アモルファス合金薄帯の厚さには特に制限なはいが、厚さは、好ましくは18μm~35μmである。
【0167】
厚さが18μm以上であることは、Fe基アモルファス合金薄帯のうねり抑制、ひいては占積率向上の点で有利である。より好ましくは厚さが20μm以上である。
【0168】
厚さが35μm以下であることは、Fe基アモルファス合金薄帯の脆化抑制、磁気的飽和性の点で有利である。より好ましくは厚さが30μm以下である。
【0169】
<鉄損CL>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、線状レーザ照射痕の形成による磁区の細分化により、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損CLが低減される。
【0170】
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損CLは、好ましくは0.150W/kg以下であり、より好ましくは0.140W/kg以下であり、更に好ましくは0.130W/kg以下である。
【0171】
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損CLの下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、鉄損CLの下限は、好ましくは0.050W/kgである。
【0172】
また、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における鉄損CLも低減される。周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における鉄損CLは、好ましくは8.6W/kg以下である。より好ましくは8.0W/kg以下であり、更に好ましくは7.0W/kg以下である。
【0173】
さらに、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、周波数50Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損CLも低減される。本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、周波数50Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損CLが0.120W/kg以下であることが好ましい。
【0174】
Fe基アモルファス合金薄帯における鉄損CLの測定は、JIS 7152(1996年版)に従い測定される。
【0175】
<励磁電力VA>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における励磁電力VAの上昇が抑制される。線状レーザ照射痕の高低差が大きくなっていくと、この励磁電力VAも大きくなっていく傾向にある。例えば、高低差が2.5μm以下とすることにより、大幅な励磁電力VAの増大を抑制することができる。
【0176】
また、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における励磁電力VAが低減される。周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件における励磁電力VAは、好ましくは8.7VA/kg以下である。より好ましくは8.0VA/kg以下であり、更に好ましくは7.5VA/kg以下である。
【0177】
<保磁力Hc>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における保磁力Hcが低減される。
【0178】
<比率〔動作磁束密度Bmax/飽和磁束密度Bs〕>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、従来の条件である磁束密度1.3Tよりも高い磁束密度である、磁束密度1.45Tの条件における鉄損及び励磁電力を低く抑えることができる。
【0179】
このため、比率〔動作磁束密度Bmax/飽和磁束密度Bs〕(以下、「Bmax/Bs比」ともいう)が従来よりも高い条件の動作磁束密度Bmaxにて用いた場合においても、鉄損及び励磁電力を抑制できる。
【0180】
この点に関し、従来の一例に係るFe基アモルファス合金薄帯は、飽和磁束密度Bsが1.56Tであり、かつ、動作磁束密度Bmaxが1.35Tの条件(即ち、Bmax/Bs比=0.87)で用いられていた(例えば、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS Vol44, No11, Nov.2008, pp.4104-4106(特に、p.4106)参照)。
【0181】
これに対し、本開示のFe基アモルファス合金薄帯において、例えば、後述の実施例の化学組成(Fe82Si14)を有するFe基アモルファス合金薄帯のBsは、1.63Tである。Bsは、化学組成によってほぼ一義的に定まる。この場合の本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、1.43T以上(好ましくは1.45T~1.50T)のBmaxにて用いることが可能である。Bmaxが1.43Tである場合のBmax/Bs比は、0.88であり、Bmaxが1.50Tである場合のBmax/Bs比は、0.92である。
【0182】
以上の理由により、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、Bmax/Bs比が0.88~0.94(好ましくは0.89~0.92)であることを満足する動作磁束密度Bmaxにて用いられる用途に特に好適である。
【0183】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、Bmax/Bs比が0.88~0.94(好ましくは0.89~0.92)であることを満足する動作磁束密度Bmaxにて用いた場合においても、鉄損及び励磁電力の増大を抑制できる。
【0184】
上記した特性(鉄損CL、励磁電力VA、保磁力Hc)は、Fe基アモルファス合金薄帯に磁場を薄帯長手方向に印加した熱処理を行って得た値である。このFe基アモルファ
ス合金薄帯の磁場中熱処理は、内部応力を緩和させること、薄帯長手方向に磁化がそろいやすくすることを目的とし、所望の特性を得るために適宜行われる。熱処理条件としては、おおよそ300℃~400℃で、一定時間保持することで行うことができる。保持時間は24時間以内が好ましく、更には4時間以内が好ましい。熱処理中の磁場は、400A/m以上が好ましく、更には800A/m以上が好ましい。また、大気中やアルゴンガス、窒素ガス、ヘリウム等の不活性ガス中あるいは真空中で行うことができる。なお、鉄心を構成後に熱処理することもできる。
【0185】
また、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、線状レーザ照射痕を形成した後であって、熱処理を行う前の状態で優れた特性を備えることが好ましい。
【0186】
例えば、熱処理前において、最大印加磁場800A/mで測定した直流B-H曲線の保磁力Hcが5.0A/m以下であることが好ましい。好ましくは保磁力Hcが4.9A/m以下であり、さらに好ましくは4.8A/m以下である。また、そのときの角型比〔残留磁束密度Br/最大磁束密度Bm〕が40%以下であることが好ましい。
【0187】
このように熱処理を行う前の状態が優れている場合、熱処理時の保持時間を短くすることができ、熱処理後の脆化が起こりにくい。これにより変圧器鉄心作製時のハンドリング性が良くなる。また、大型の鉄心や電子部品用積層鉄心では脆化の問題から熱処理無しで使用される場合もある。その場合、熱処理を行う前の状態で特性が優れていることは有利である。
【0188】
<Fe基アモルファス合金薄帯の製造方法>
上述した本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、好ましくは以下の製法によって製造することができる。
【0189】
実施形態の製法は、
Fe基アモルファス合金からなり、自由凝固面及びロール面を有する素材薄帯の自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に対し、CW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射して、複数の線状レーザ照射痕を有するFe基アモルファス合金薄帯を得るFe基アモルファス合金薄帯の製造方法であり、
CW(連続波)発振方式を用いたレーザのレーザ密度が、5J/m以上35J/m以下であり、
線状レーザ照射痕は、連続した線状であり、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する幅方向に向かう方向に沿って設けられる、Fe基アモルファス合金薄帯の製造方法である。
【0190】
以下、CW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射することにより、連続した線状のレーザ照射痕を複数形成する工程を「レーザ加工工程」ともいう。
【0191】
本実施形態の製法では、必要に応じ、レーザ加工工程以外のその他の工程を有していてもよい。例えば、レーザ加工工程の前に、素材薄帯を準備する工程(素材準備工程)を有しても良い。また、素材準備工程が素材薄帯の鋳造工程を備える場合、その素材薄帯の鋳造工程とレーザ加工工程が連続していてもよい。
【0192】
<素材準備工程>
本実施形態では、レーザ加工工程の前に、素材準備工程を設けても良い。素材準備工程は、自由凝固面及びロール面を有する素材薄帯を準備する工程である。
【0193】
ここでいう素材薄帯は、鋳造後、カットされていない状態の薄帯(例えば、鋳造後にロ
ール状に巻き取られたロール体)であってもよいし、鋳造後、所望とする大きさに切り出された薄帯片であってもよい。なお、切り出された薄帯片も本開示におけるFe基アモルファス合金薄帯に相当する。
【0194】
素材薄帯は、いわば、線状レーザ照射痕が形成される前の段階の、本開示のFe基アモルファス合金薄帯である。
【0195】
素材薄帯における自由凝固面及びロール面は、それぞれ、本開示のFe基アモルファス合金薄帯における自由凝固面及びロール面と同義である。
【0196】
素材薄帯の好ましい態様(例えば好ましい化学組成、好ましいRt)は、線状レーザ照射痕の有無を除けば、本開示のFe基アモルファス合金薄帯の好ましい態様と同様である。
【0197】
素材準備工程は、予め鋳造された(即ち、既に完成した)素材薄帯を、レーザ加工工程に供するために単に準備するだけの工程であってもよいし、素材薄帯を新たに鋳造する工程であってもよい。
【0198】
また、素材準備工程は、素材薄帯の鋳造、及び、素材薄帯からの薄帯片の切り出しの少なくとも一方を行う工程であってもよい。
【0199】
<レーザ加工工程>
本実施形態におけるレーザ加工工程では、素材薄帯の自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に対し、CW(連続波)発振方式を用いたレーザ加工により(即ち、CW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射することにより)、連続した線状のレーザ照射痕を複数形成する。
【0200】
レーザ加工工程によって形成される線状レーザ照射痕の好ましい態様(好ましい、ライン間隔、高低差等)は、前述した本開示のFe基アモルファス合金薄帯における線状レーザ照射痕の好ましい態様と同様である。
【0201】
前述のとおり、複数の線状レーザ照射痕の各々は、レーザ照射によってエネルギーが付与された痕跡であり、レーザ照射による鉄損低減の効果が得られる。
【0202】
従って、レーザ加工工程におけるレーザの条件には特に制限はないが、好ましい条件は以下のとおりである。
【0203】
レーザ光の照射エネルギーをFe基アモルファス合金薄帯の厚みに対して制御することにより、線状レーザ照射痕の幅や表面の凹凸状態を制御することができる。
【0204】
レーザ加工工程において、線状レーザ照射痕を形成するためのレーザ密度(「レーザ線密度」ともいう)は、5J/m以上35J/m以下であることが好ましい。より好ましい下限は6J/mであり、更に好ましくは7J/mであり、更に好ましくは8J/mであり、更に好ましくは10J/mである。また、より好ましい上限は31J/mであり、更に好ましくは30J/mであり、更に好ましくは28J/mであり、更に好ましくは25J/mである。
【0205】
レーザ加工では、レーザ照射痕の形成にあたり、CWレーザ光を薄帯幅方向に走査して照射する。
【0206】
レーザ光源としては、YAGレーザ、COガスレーザ、ファイバーレーザ、ダイオードレーザなどを利用することができる。中でも、高品位のレーザ光を長時間に亘り安定的に照射することができる点で、ファイバーレーザが好ましい。シングルモードファイバーレーザの場合、ビーム品質をあらわすM2(エムスクエア)はおおむね1.3以下である。
【0207】
ファイバーレーザでは、ファイバーに導入されたレーザ光が、ファイバー両端の回折格子によりFBG(Fiber Bragg grating)の原理で発振する。レーザ光は、細長いファイバー中で励起されるので、結晶内部に生じる温度勾配によりビーム品質が低下する熱レンズ効果の問題がない。更に、ファイバーコアは、数ミクロンと細いので、レーザ光は高出力でもシングルモードで伝播可能であり、ビーム径が絞られ、高エネルギー密度のレーザ光が得られる。その上、焦点深度が深いので、幅広(例えば、薄帯の幅が200mm以上)の薄帯にも精度良くレーザ照射痕を形成できる。
【0208】
レーザ光の波長は、レーザ光源により、約250nm~10600nmであるが、900~1100nmの波長が、合金薄帯において十分吸収されるため好適である。
【0209】
レーザ光のビーム径としては、10μm以上500μm以下が好ましく、さらに25μm以上100μm以下がより好ましい。
【0210】
また、レーザ加工工程は、単ロール法による鋳造後であって巻取り前の素材薄帯に対してレーザ加工を施す工程であってもよいし、巻取り後の素材薄帯(ロール体)から巻き出された素材薄帯に対しレーザ加工を施す工程であってもよいし、巻取り後の素材薄帯から切り出された薄帯片に対しレーザ加工を施す工程であってもよい。
【0211】
レーザ加工工程が、単ロール法による鋳造後であって巻取り前の素材薄帯に対してレーザ加工を施す工程である場合、例えば、冷却ロールと巻取りロールとの間に、レーザ加工装置が配置されたシステムを用いて実施することができる。
【0212】
また、CWレーザ光の走査速度はCWレーザ光出力の安定性から0.2m/秒以上が好ましく、素材薄帯に熱加工を行う点で4000m/秒以下が好ましい。
【0213】
<鉄心>
本開示の鉄心は、既述の本開示のFe基アモルファス合金薄帯を複数重ねて積層したものであり、具体的には、Fe基アモルファス合金薄帯が積層され、積層されたFe基アモルファス合金薄帯が曲げられてオーバーラップ巻きされたものである。そして、本開示の鉄心は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.240W/kg以下である。好ましくは0.230W/kg以下であり、より好ましくは0.200W/kg以下であり、更に好ましくは0.180W/kg以下である。
【0214】
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損の下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、鉄損の下限は、好ましくは0.050W/kgであり、より好ましくは0.080W/kgである。
【0215】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯の詳細については、既述の通りであり、その詳細な説明は省略する。
【0216】
オーバーラップ巻きの方法は、公知の方法を適用することができる。
【0217】
本開示の鉄心の形状としては、円形、矩形等のいずれでもよい。
【0218】
また、鉄心に巻き回されるコイルの種類等には、制限はなく、公知のものから適宜選択すればよい。
【0219】
鉄心を製造した場合、素材(Fe基アモルファス合金薄帯)の鉄損値がそのまま維持されるのではなく、鉄心の鉄損値は素材の鉄損値よりも大きくなる。これはビルディングファクタとも呼ばれている。例えば、鉄心を製造する際に素材に応力が加わることなどから、鉄損値が大きくなる。しかしながら、本開示の鉄心では、素材時よりも鉄損値が大きくなるものの、それでもなお極めて低鉄損の鉄心を得ることができる。特に、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件において低鉄損の鉄心を得ることができる。さらに、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件以外の条件においても低鉄損の鉄心を得ることができる。
【0220】
また、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、上記した鉄心構造に限らず、その他の構造の鉄心や電子部品に用いることもできる。例えば、巻鉄心であるとか、積層鉄心であっても良い。例えば、電子部品用巻磁心、巻鉄心でギャップを構成するカットコア、ラミネート材などに用いることもできる。これらの鉄心は、本開示のFe基アモルファス合金薄帯を積層したり、巻回したりして、構成することができる。
【0221】
<変圧器>
本開示の変圧器は、既述の本開示のFe基アモルファス合金薄帯を用いた鉄心と、鉄心に巻き回されたコイルと、を備えており、鉄心は、積層されたFe基アモルファス合金薄帯が曲げられてオーバーラップ巻きされており、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.240W/kg以下である。
【0222】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯及び鉄心の詳細については、既述の通りであり、その詳細な説明は省略する。
【0223】
本開示における鉄心は、既述の本開示のFe基アモルファス合金薄帯を複数重ねて積層し、積層されたFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きしたものである。オーバーラップ巻きの方法は、公知の方法を適用することができる。
【0224】
本開示の変圧器において、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損は、0.240W/kg以下であり、好ましくは0.230W/kg以下であり、より好ましくは0.200W/kg以下であり、更に好ましくは0.180W/kg以下である。
【0225】
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損の下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、鉄損の下限は、好ましくは0.050W/kgであり、より好ましくは0.080W/kgである。
【0226】
オーバーラップ巻きされたFe基アモルファス合金薄帯を備えた本開示の変圧器における鉄損の測定は、実施例にて後述する。
【0227】
本開示の変圧器における鉄心の形状は、円形、矩形等のいずれでもよい。また、鉄心に巻き回されたコイルの種類等には、制限はなく、公知のものから適宜選択すればよい。
【0228】
また、本開示の変圧器における鉄心は、積層されたFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きした鉄心に限られるものではない。変圧器の鉄心は、用途に応じて適宜設計でき、積層鉄心、巻鉄心等とすることができる。
【0229】
変圧器が単相変圧器の場合、50Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損は0.15W/kg以下が好ましい。また、60Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損は0.19W/kg以下が好ましい。
【0230】
変圧器が3相変圧器の場合、50Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損は0.19W/kg以下が好ましい。また、60Hzにおける鉄心の重量当たりの無負荷損は0.24W/kg以下が好ましい。
【0231】
以下、本開示の実施例を示す。但し、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0232】
〔実施例1〕
<素材薄帯(レーザ加工される前のFe基アモルファス合金薄帯)の製造>
単ロール法により、Fe82Si14の化学組成を有し、厚さが25μmであり、幅が210mmである素材薄帯(即ち、レーザ加工される前のFe基アモルファス合金薄帯)を製造した。
【0233】
ここで、「Fe82Si14の化学組成」とは、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が82原子%であり、Bの含有量が14原子%であり、Siの含有量が4原子%である化学組成を意味する。
【0234】
以下、素材薄帯の製造の詳細を説明する。
【0235】
素材薄帯の製造は、Fe82Si14の化学組成を有する溶湯を1300℃の温度に保持し、次いでこの溶湯をスリットノズルから、軸回転する冷却ロールの表面に噴出した。噴出された溶湯を冷却ロールの表面で急冷凝固させ、素材薄帯を得た。
【0236】
このとき、冷却ロールの表面における、溶湯のパドルが形成されるスリットノズルの直下の周辺の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気とした。
【0237】
スリットノズルにおける、スリット長さは210mmとし、スリット幅は0.6mmとした。
【0238】
冷却ロールの材質はCu系合金とし、冷却ロールの周速は27m/sとした。
【0239】
溶湯を噴出する圧力及びノズルギャップ(即ち、スリットノズル先端と冷却ロール表面とのギャップ)は、製造される素材薄帯の自由凝固面における最大断面高さRt(詳細には、素材薄帯の鋳造方向に沿って測定された最大断面高さRt)が、3.0μm以下となるように調整した。
【0240】
<レーザ加工>
素材薄帯からサンプル片を切り出し、切り出したサンプル片に対してレーザ加工を施すことにより、レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯片を得た。
【0241】
以下、詳細を説明する。
【0242】
図1は、レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯片(薄帯10)の自由凝固面を概略的に示す概略平面図である。
【0243】
図1に示す薄帯10の長さL1(即ち、素材薄帯から切り出すサンプル片の長さ)は120mmとし、薄帯10の幅W1(即ち、素材薄帯から切り出すサンプル片の幅)は25mmとした。サンプル片は、サンプル片の長さ方向と素材薄帯の長さ方向(鋳造方向)とが一致し、かつ、サンプル片の幅方向と素材薄帯の幅方向とが一致する向きに切り出した。
【0244】
切り出したサンプル片の自由凝固面にCW(連続波)発振方式を用いたレーザを照射することにより、複数の線状レーザ照射痕12を形成し、薄帯10を得た。
【0245】
詳細には、サンプル片(レーザ加工前の薄帯10。以下同じ。)の自由凝固面に、複数の線状レーザ照射痕12を、サンプル片の幅方向に対して平行な方向に形成した。線状レーザ照射痕12は、サンプル片の幅方向の全域にわたって形成した。即ち、線状レーザ照射痕12のサンプル片の幅方向についての長さが、サンプル片の全幅に対して100%となるようにした。つまり、Fe基アモルファス合金薄帯10の幅方向の長さ全体に占める、線状レーザ照射痕12の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ50%である。
【0246】
複数の線状レーザ照射痕12の方向は、互いに平行となるようにした。
【0247】
レーザ加工の条件を変えて、複数のサンプル片を作製した。レーザ加工の条件を表1、3に示す。この表1、3では、ライン間隔LP1(mm)、CW(連続波)発振方式のレーザの走査速度(m/sec)、レーザ密度(J/m)を示している。なお、レーザ密度は、レーザの発振機の出力を走査速度で除したものであり、単位長さ当りのレーザの強さを表した指標である。
【0248】
CW(連続波)発振方式のレーザの照射条件は、以下の通りとした。
【0249】
(CWレーザの照射条件)
レーザ発振器としては、IPGフォトニクス社のファイバーレーザ(YLR-150-1500-QCW)を使用した。このレーザ発振器のレーザ媒質はYbドープのガラスファイバーであり、発振波長は1064nmである。
【0250】
一方、サンプル片の自由凝固面におけるレーザのスポット径は、37.0μmとなるように調整した。ビーム径の調整は、光学部品であるコリメータレンズ:f100mmと、fθレンズ:焦点距離254mm/加工点距離297mmと、を用いて行った。
【0251】
ビームモードM2は1.05(シングルモード)とした。
【0252】
レーザの出力は0~275Wとし、Focusは0mmとした。
【0253】
ここで、Focusとは、集光レンズの加工点距離(297mm)と、集光レンズから薄帯の自由凝固面までの実際の距離と、の差(絶対値)を意味する。
【0254】
また、入射径Dとスポット径D0との間に、D0=4λf/πD(ここで、λはレーザの波長を表し、fは焦点距離を表す)の関係が成り立つことから、コリメータレンズの焦点距離が大きくなるにつれ(即ち、入射径Dが大きくなるにつれ)、スポット径D0が小さくなる傾向となる。
【0255】
<測定及び評価>
レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯(図1中の薄帯10)について、370℃、20分、3000A/mの条件で磁場中熱処理(窒素雰囲気)を行い、その後、以下の測定及び評価を行った。結果を表1~4に示す。
【0256】
<非レーザ加工領域の最大断面高さRt>
レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面中、線状レーザ照射痕12以外の部分(即ち、非レーザ加工領域)について、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として、最大断面高さRtを測定した。なお、最大断面高さRtの測定は、レーザ加工前に行うこともできる。ここで、評価長さの方向は、素材薄帯の鋳造方向となるように設定した。評価長さを4.0mmとする上記測定は、詳細には、カットオフ値0.8mmにて連続して5回測定することにより行った。
【0257】
評価長さを4.0mmとする上記測定を、非レーザ加工領域中の3箇所について行い、得られた3つの測定値の平均値を、本実施例における最大断面高さRt(μm)とした。
【0258】
この結果、各サンプル片の最大断面高さRtは、1.0~2.5μmの範囲であった。
【0259】
<鉄損CLの測定>
レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、鉄損CLを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0260】
<励磁電力VAの測定>
レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、励磁電力VAを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0261】
<保磁力Hcの測定>
レーザ加工されたFe基アモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、保磁力Hcを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0262】
<線状レーザ照射痕(溶融凝固部)の幅の測定と応力皺の観察>
レーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕とレーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕とをレーザ顕微鏡で観察し、レーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕(溶融凝固部)の幅WAと、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の幅WBとを測定した。なお、線状レーザ照射痕(溶融凝固部)は、溶融凝固したことにより、見かけの状態が変化している部分であり、この見かけの状態が変化している部分の幅を線状レーザ照射痕(溶融凝固部)の幅とした。なお、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕は観察されないものもあった。その場合、幅WBは0μmとした。
【0263】
また、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕(溶融凝固部)の縁の応力皺の有無を確認した。
【0264】
なお、顕微鏡写真は倍率1000倍で撮影した。
【0265】
具体的には、カラー3Dレーザ顕微鏡VK-8710(株式会社KEYENCE製)を用いて、50倍対物レンズCF IC EPI Plan 50X(株式会社ニコン製)を使用して表面形状を撮影した(倍率は1000倍(対物レンズ50倍×モニター倍率2
0倍))。
【0266】
ここで、測定した幅WA、幅WB、及び応力皺の有無を表1~6に示す。なお、幅WB及び応力皺の観察の結果は表5,6に示している。表5,6に示しているものは、表1~4に示した結果の一部において、幅WB及び応力皺を観察したものであり、Noは表1~4と同じ試料については、同じNoを付している。
【0267】
本実施例では、幅WA及び幅WBは、おおよそ最大値が得られる部分を測定した。なお、おおよそ最大値が得られる部分を3か所測定して平均値を求めた。
【0268】
<線状レーザ照射痕(溶融凝固部)の凹凸状態>
レーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕(溶融凝固部)は、表面に凹凸が形成されていた。この表面の凹凸状態を溶融凝固部の幅方向(鋳造方向に相当する)に観察した。観察方法は、レーザ顕微鏡(上記したカラー3Dレーザ顕微鏡VK-8710、倍率も同じ)を用いた。具体的には、レーザ顕微鏡で線状レーザ照射痕の幅方向のプロファイルを計測する。図2に、線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を示す。図2に示すように、線状レーザ照射痕の幅WAに対し、それぞれ略30μmの幅を前後に加え、その間(30μm+幅WA+30μm)のプロファイルを計測する。このプロファイルは、図3に示したような形態である。このプロファイルから高低差HLを測定した。なお、プロファイルが傾いている場合は、前後に加えた30μmの範囲を利用して、水平方向となるように傾きを直線補正して、測定した。
【0269】
その表面の凹凸状態は、おおむね図3に示すAタイプ、Bタイプ、Cタイプの形態に分けられた。図3の各タイプは、実際には細かな凹凸が存在しているが、大きな形状の変化を概略的に示したものである。図3に示す形状は、Fe基アモルファス合金薄帯の断面の表面状態に相当する。この凹凸部において、最高点(薄帯の厚さ方向での最高点に相当し、図中最上部に相当する)と最低点(薄帯の厚さ方向での最低点に相当し、図中最下部に相当する)との高低差HLを上記のとおり、プロファイルから測定した。なお、高低差HLは、各線状レーザ照射痕で3か所測定して平均値を求めた。
【0270】
その結果の高低差HL、及び高低差HL×幅WAの結果を表1~6に示す。
【0271】
表1~6に示すNo.54のレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を図13に、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を図14に示す。図13,14には、それぞれの線状レーザ照射痕の幅WAと幅WBとをそれぞれ図に示す。No.54のFe基アモルファス合金薄帯では、レーザ照射された面Aには、直線状の線状レーザ照射痕が形成されている。さらに、レーザ照射された面Aの裏面Bにも直線状の線状レーザ照射痕が形成されている。また、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の縁には、応力皺が観察されなかった。
【0272】
また、表1~6に示すNo.*44のレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を図15に、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を図16に示す。図15,16には、それぞれの線状レーザ照射痕の幅WAと幅WBとをそれぞれ図に示す。No.*44のFe基アモルファス合金薄帯では、レーザ照射された面Aには、直線状の線状レーザ照射痕が形成されている。このレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕は、線状方向にややうねりが生じており、レーザが強すぎることがうかがえる。また、レーザ照射された面Aの裏面Bにも直線状の線状レーザ照射痕が形成されている。レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の縁には応力皺1が形成されていた。
【0273】
また、表1~6のNo.13、17、20、24のそれぞれのレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を図17に、No.26、28、34、36のそれぞれのレーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の顕微鏡写真を図18に示す。No.13は図17A、No.17は図17B、No.20は図17C、No.24は図17D、No.26は図18A、No.28は図18B、No.34は図18C、No.36は図18Dである。他の実施例も観察したが、それぞれ図17,18に示す形態に類似したものであった。なお、顕微鏡写真は倍率1000倍で撮影した。図17,18に示すように、実施例の線状レーザ照射痕は、直線状(図中の横方向に伸びている)となっている。
【0274】
〔比較例1〕
レーザ加工を行わなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0275】
結果を表1~6のNo.*1に示す。
【0276】
【表1】
【0277】
【表2】
【0278】
【表3】
【0279】
【表4】
【0280】
【表5】
【0281】
【表6】
【0282】
表1~4に示す各サンプルの高低差HL×幅WAと鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を図4に示す。表1~4及び図4に示すとおり、高低差HL×幅WAが6.0~180μmであるとき、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られている。具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。
【0283】
また、表1~4に示すとおり、幅WAが28μm以上であり、高低差HL×幅WAが6.0~180μmであるとき、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られている。
具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。
【0284】
また、表1~4に示すとおり、高低差HLが0.20以上であり、高低差HL×幅WAが6.0~180μmであるとき、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られている。
【0285】
具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。
【0286】
表1~4に示す各サンプルの高低差HL×幅WAと励磁電力VA(60Hz,1.45T)との関係を図6に示す。表1~4及び図6に示すとおり、高低差HL×幅WAの値が大きくなると、励磁電力VAが増加する傾向にある。しかしながら、高低差HL×幅WAが180μm以下であれば、励磁電力VAの大幅な増加を抑制することができる。
【0287】
表1~4に示す各サンプルの高低差HL×幅WAと保磁力Hc(60Hz,1.45T)との関係を図7に示す。表1~4及び図7に示すとおり、高低差HL×幅WAが6.0~180μmであるとき、保磁力を低減できている。
【0288】
また、表5,6に示すとおり、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の縁に応力皺が無い場合、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られている。具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。
【0289】
この応力皺が無い場合とは、倍率1000倍で撮影した顕微鏡写真において、確認した結果である。
【0290】
また、図22に、表5,6に示す幅比WB/WAと鉄損(60Hz,1.45T)との関係を示す。ここで、No.*1は除いている。この図22、表5,6に示すとおり、レーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の幅WAと、レーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下(0を含む)であれば、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られることが分かる。具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。
【0291】
表1~4に示す各サンプルの幅WAと鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を図5に示す。表1~4及び図5、並びに表5,6に示すとおり、レーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の幅WAのみに着目したとき、幅WAが28.5μm以上90μm以下であれば、低損失のFe基アモルファス合金薄帯が得られる。そして、幅WAとレーザ照射された面Aの裏面Bの線状レーザ照射痕の幅WBとの幅比WB/WAが0.57以下(0を含む)であるとき、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られる。具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。
【0292】
また、表1~4及び図5に示すとおり、幅WAが28.26μmであっても、幅WAが121.30μmであっても、高低差HL×幅WAが所定の値であれば、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られている。具体的には、このとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.15W/kg以下が得られている。つまり、高低差HL×幅WAが所定の値であれば、幅WAが28μm以上において、低鉄損のFe基アモルファス合金薄帯が得られている。
【0293】
表1~4に示す各サンプルの幅WAと励磁電力VA(60Hz,1.45T)との関係
図19に示す。表1~4及び図19に示すとおり、幅WAの値が大きくなると、励磁電力VAが増加する傾向にある。しかしながら、幅WAが90.0μm以下であれば、励磁電力VAの大幅な増加を抑制することができる。なお、高低差HL×幅WAが所定の値であれば、幅WAが121.30μmであっても、励磁電力VAの大幅な増加を抑制することができている。
【0294】
表1~4に示す各サンプルの幅WAと保磁力Hc(60Hz,1.45T)との関係を図20に示す。表1~4及び図20に示すとおり、幅WAのみに着目したとき、幅WAが28.5~90.0μmであるとき、保磁力を低減できている。なお、高低差HL×幅WAが所定の値であれば、幅WAが121.30μmであっても、保磁力を低減できている。
【0295】
また、表1~4に示す実施例(比較例を除く)のライン間隔LP1と鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を図21に示す。表1~4及び図21から、ライン間隔が2mm以上60mm以下のとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.150W/kg以下となり、60Hz,1.45Tにおいて低損失なFe基アモルファス合金薄帯が得られている。この図21から、ライン間隔LP1を長くしても鉄損が急激に増加する傾向はみられない。ライン間隔は60mmを越えて、80mm、100mm、200mmとしても、鉄損CL(60Hz,1.45T)が低いFe基アモルファス合金薄帯が得られるものと考えられる。
【0296】
<熱処理前の特性>
表1~4に示す試料を用いて、熱処理を行う前の特性を評価した。その結果を表7に示す。なお、表7のNoは表1~4のNoに対応している。この特性の評価は、最大印加磁場800A/mで測定した直流B-H曲線から求めた値である。
【0297】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、熱処理前において、保磁力Hcが5.0A/m以下となっている。また、このときの角型比も、No.48は41.5%であるが、他の本開示の実施例のものでは40%以下が得られている。レーザ照射により熱処理前の薄帯に対しても磁区の細分化効果が得られており、磁化しやすい状態となっている。
【0298】
【表7】
【0299】
<周波数1kHz及び磁束密度1Tでの特性>
実施例1の試料を用いて、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、鉄損CL、励磁電力VAを評価した。その結果を表8に示す。なお、表8のNoは表1~4のNoに対応
している。
【0300】
このときの高低差HLと鉄損CL(1kHz、1T)との関係を図23に示す。表8及び図23から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、8.6W/kg以下の鉄損が得られ、本開示の線状レーザ照射痕を形成することにより、高周波での鉄損を低減できることがわかる。また、高低差が大きい方が鉄損(1kHz、1T)が低減される傾向がある。
【0301】
また、高低差HLと励磁電力VA(1kHz,1T)との関係を図24に示す。表8及び図24から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、8.7VA/kg以下の励磁電力が得られ、本開示の線状レーザ照射痕を形成することにより、高周波での励磁電力を低減できることがわかる。また、高低差が大きい方が励磁電力(1kHz、1T)が低減される傾向がある。
【0302】
次に、高低差HL×幅WAと鉄損CL(1kHz、1T)との関係を図25に示す。
【0303】
表8及び図25から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、8.6W/kg以下の鉄損が得られ、本開示の線状レーザ照射痕を形成することにより、高周波での鉄損を低減できることがわかる。また、高低差HL×幅WAが大きい方が鉄損CL(1kHz、1T)が低減される傾向がある。
【0304】
また、高低差HL×幅WAと励磁電力VA(1kHz,1T)との関係を図26に示す。表8及び図26から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、8.7VA/kg以下の励磁電力が得られ、本開示の線状レーザ照射痕を形成することにより、高周波での励磁電力を低減できることがわかる。
【0305】
次に、レーザ密度と鉄損CL(1kHz、1T)との関係を図27に示す。表8及び図27から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、8.6W/kg以下の鉄損が得られ、本開示の線状レーザ照射痕を形成することにより、高周波での鉄損を低減できることがわかる。また、レーザ密度が大きい方が鉄損CL(1kHz、1T)が低減される傾向がある。
【0306】
また、レーザ密度と励磁電力VA(1kHz,1T)との関係を図28に示す。表8及び図28から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、周波数1kHz及び磁束密度1Tの条件で、8.7VA/kg以下の励磁電力が得られ、本開示の線状レーザ照射痕を形成することにより、高周波での励磁電力を低減できることがわかる。
【0307】
以上のとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、高周波用としても、有用であることがわかる。
【0308】
【表8】
【0309】
表1~4に示す各サンプルのレーザ密度と鉄損CL(60Hz,1.45T)との関係を図29に示す。表1~4及び図29から、レーザ密度が5J/m以上35J/m以下のとき、鉄損CL(60Hz,1.45T)が0.150W/kg以下となり、60Hz,
1.45Tにおいて低損失なFe基アモルファス合金薄帯が得られた。
【0310】
次に、表1~4に示す各サンプルのレーザ密度と励磁電力VA(60Hz,1.45T)との関係を図30に示す。表1~4及び図30から、レーザ密度が35J/mを越えると、励磁電力VAが急激に増加することがわかる。したがって、レーザ密度を35J/m以下とすることにより、励磁電力VAの大幅な増加を抑制することができる。また、レーザ密度が31J/m以下で、励磁電力VAの増加がより抑制されている。
【0311】
また、表1~4に示す各サンプルのレーザ密度と保磁力Hc(60Hz,1.45T)との関係を図31に示す。表1~4及び図31から、レーザ密度が35J/mを越えると、保磁力Hcが急激に増加することがわかる。したがって、レーザ密度を35J/m以下とすることにより、保磁力Hcを低減することができる。また、レーザ密度が5J/m~35J/mで、3.0A/m以下の保磁力Hcが得られている。
【0312】
〔実施例2〕
<線状レーザ照射痕をロール面に形成>
実施例1で用いた素材薄帯と同じ素材薄帯を用い、ライン間隔LP1を20mm、走査速度を5m/sec、レーザ密度を10J/mの条件で、素材薄帯のロール面に線状レーザ照射痕を形成した。この線状レーザ照射痕の観察写真を図32に示す。なお、熱処理条件は実施例1と同様である。
【0313】
実施例2の高低差HLは1.04μmであり、幅WAは38.56μmであり、高低差HL×幅WAは40.10μmであった。また、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件での鉄損CL、励磁電力VA、保磁力Hcは、それぞれ0.0979W/kg、0.2413VA/kg、2.0868A/mであり、線状レーザ照射痕の形態や得られる特性は、実施例1の線状レーザ照射痕を自由凝固面に形成したFe基アモルファス合金薄帯の場合と同様であった。したがって、線状レーザ照射痕は、自由凝固面及びロール面のいずれに形成しても、ほぼ同等の特性が得られることがわかる。
【0314】
〔実施例3〕
実施例1と同様にして、Fe基アモルファス合金薄帯(化学組成:Fe82Si14、厚さ:25μm、幅:142mm)を得て、ライン間隔LP1が20mm、走査速度が8m/sec、レーザ密度が17J/mの条件で線状レーザ照射痕を形成し、Fe基アモルファス合金薄帯片を作成した。線状レーザ照射痕の状態を表9に示す。実施例3では、幅WAが70.5μmで、幅WBは0μmであった。また、レーザ照射された面Aの線状レーザ照射痕の凹凸状態は、高低差HLが0.44μmであり、高低差HL×幅WAは31.02μmであった。また、レーザ照射された面Aの裏面Bでは、線状レーザ照射痕が観察されず、応力皺は無かった。
【0315】
得られた薄帯片を複数積層して積層体とし、積層体をU字形に曲げ、更にその両端同士をオーバーラップ巻きにすることで、図8及び図9に示す構造の鉄心とした。鉄心の形状は、図8及び図9に示すように、窓枠高さAが163mmであり、窓枠幅Bが72mmであり、リボン積層厚さCが25.3mmであり、高さDが142mmである。また、鉄心の占積率は88%であり、重さは13kgである。
【0316】
なお、この鉄心は、図8の下側の部分でオーバーラップ巻きがなされている。また、複数の薄帯片を積層して積層体とした際、薄帯片同士が離間しないように、積層体の中腹部における積層面に樹脂コーティングrを施した。
【0317】
得られた鉄心に対し、鉄損CLと励磁電力VAを測定した。
【0318】
図10に示すように、鉄心にコイルとして一次巻線(N1)と二次巻線(N2)とを巻き、周波数を60Hzとし、磁束密度を1.45T及び1.5Tとした。また、一次巻線の巻き数は10ターンとし、二次巻線の巻き数は2ターンとした。このようにして、変圧可能な回路を作製した。
【0319】
電力計で読み取る電圧E(V)、最大磁束密度Bm(T)の換算及び規定の磁束密度Bm(T)における励磁電力(VA/kg)、並びに、鉄損(W/kg)の算出は、下記の式1、式2、式3により行った。測定結果を表10に示す。
【0320】
〔比較例2〕
また、比較例2として、線状レーザ照射痕を形成しなかった薄帯片を用いたこと以外、上記と同様にして製造した鉄心に対して同様の測定、評価を行った。
【0321】
式1:電圧E(V)=4.443LF・C・W・N・f・Bm×10-6
式2:励磁電力(VA/kg)=E・I/M
式3:鉄損(W/kg)=Watt/M
なお、式1~式3中の記号の詳細は、以下の通りである。
【0322】
E :電力計測定実効電圧(V)
LF:占積率(=0.88)
C :コア積厚(mm)
W :使用リボン公称幅(mm)
:励磁コイル巻回数
f :測定周波数(Hz)
Bm:最大磁束密度又は規定の磁束密度
I :電力計測定実効電流(A)
M :コア重量(kg)
Watt:電力計測定電力(W)
【0323】
【表9】
【0324】
【表10】
【0325】
表9、10に示されるように、1.45T、60Hzで測定した鉄損CLは、線状レーザ照射痕を形成しなかった薄帯片を用いた鉄心では0.284W/kgであるのに対し、本実施形態の線状レーザ照射痕を形成した薄帯片を用いた鉄心では0.197W/kgと、約3割低減した数値となった。
【0326】
鉄心において、鉄損CLを0.240W/kg以下に低減することは、従来から全く到達し得なかったものである。そのため、本実施形態の鉄心にコイルを設けることにより、電力損失が極めて低い変圧器を得ることができる。
【0327】
また、1.50T、60Hzで測定した鉄損CLは、線状レーザ照射痕を形成しなかった薄帯片を用いた鉄心では0.310W/kgであるのに対し、本実施形態の線状レーザ照射痕を形成した薄帯片を用いた鉄心では0.220W/kgと、約3割低減した数値となった。
【0328】
上記した実施例3の鉄心と比較例2の鉄心とを用いて、周波数50Hzと60Hzとにおいて磁束密度を変えて鉄損を評価した。その結果を表11に示す。また、周波数50Hzでの磁束密度と鉄損との関係を図11に、周波数60Hzでの磁束密度と鉄損との関係を図12に示す。
【0329】
表11、図11図12に示すように、本実施形態の鉄心によれば、周波数50Hzと60Hzとにおいて磁束密度が変わっても極めて低鉄損の鉄心を得ることができた。
【0330】
【表11】
【0331】
<実施例4>
本実施形態の変圧器の鉄心と巻線の構成の1例を図33に示す。この変圧器は、積層された複数枚のFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きされた周回状の鉄心21と、鉄心に巻き回された巻線22とを備える。この第1の実施形態の鉄心は、1つの周回状の鉄心(単相2脚巻鉄心)から構成されている。この実施形態の鉄心を用いたJIS C 4304:2013に準拠した本開示による単相50Hz、定格容量10kVAの油入り変圧器(以下、実施例4)の主な特性と重量を従来例1との比較で表12に示す。ここで、実施例4に使用したFe基アモルファス合金薄帯は上記特性を有することから、JIS C 2534:2017の「5アモルファス帯の種類の記号」の定義に従い25AMP06-88と表記した。従来例1で使用したFe基アモルファス合金薄帯は25AMP08-88である。なお、以下の実施例4から実施例11の特性は、シミュレーションによる解析で得られた数値である。
【0332】
実施例4に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、厚さ25μm、幅142.2mmであり、自由凝固面に形成された線状レーザ照射痕の最高点と最低点との差HLが0.62μmであり、周波数50Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.075W/kg、周波数60Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.095W/kgである。
【0333】
また、従来例1に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、厚さ25μm、幅142.2mmであり、レーザ照射痕が形成されていなく、周波数50Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.130W/kg、周波数60Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.167W/kgである。
【0334】
この実施例4及び従来例1において、周回状の鉄心21は、積層数が1875枚であり、その重量は表12に示す。
【0335】
この変圧器の一次巻線は、直径0.9mmの銅線を用い、3143ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の3.2mm×6.0mmの平角線を用い、一つ100ターンの巻線を並列接続とした。
【0336】
【表12】
【0337】
表12から、実施例4では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.149W/kgと従来例1の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.197W/kgに比べ約25%低減されていることが分かる。
【0338】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例1が0.73の比(表12の「エネルギー消費効率比」に記載。以下、同様。)であるのに対し、実施例4では0.70に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約17%改善されることが分かる。このことは、表12に記載の「負荷率15%とした場合の年間CO排出量比」が0.83となっていることから分かる(以下、同様)。
【0339】
<実施例5>
図33に示す本実施形態の鉄心と巻線の構成の変圧器の第2の実施例として、JIS C 4304:2013に準拠した本開示による単相60Hz、定格容量10kVAの油入り変圧器(以下、実施例5)の主な特性と重量を従来例2との比較で表13に示す。
【0340】
実施例5に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、実施例4と同一であり、従来例2に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、従来例1と同一である。
【0341】
この実施例5及び従来例2において、周回状の鉄心21は、積層数が1785枚であり、その重量は表13に示す。
【0342】
この変圧器の一次巻線は、直径0.9mmの銅線を用い、2776ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の2.6mm×6.0mmの平角線を用い、一つ88ターンの巻線を並列接続とした。
【0343】
【表13】
【0344】
表13から、実施例5では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.180W/kgと従来例2の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.259W/kgに比べ約30%低減されていることが分かる。
【0345】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例2が0.72の比であるのに対し、実施例5では0.67に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約20%改善されることが分かる。
【0346】
<実施例6>
図33に示す本実施形態の鉄心と巻線の構成の変圧器の第3の実施例として、JIS C 4304:2013に準拠した本開示による単相50Hz、定格容量30kVAの油入り変圧器(以下、実施例6)の主な特性と重量を従来例3との比較で表14に示す。
【0347】
実施例6に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、厚さ25μm、幅213.4mmであり、自由凝固面に形成された線状レーザ照射痕の最高点と最低点との差HLが0.52μmであり、周波数50Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.076W/kg、周波数60Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.097W/kgである。
【0348】
また、従来例3に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、厚さ25μm、幅213.4mmであり、レーザ照射痕が形成されていなく、周波数50Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.132W/kg、周波数60Hz、磁束密度1.45Tにおける鉄損が0.168W/kgである。
【0349】
この実施例6及び従来例3において、周回状の鉄心21は、積層数が3015枚であり、その重量は表14に示す。
【0350】
この変圧器の一次巻線は、直径1.4mmの銅線を用い、1509ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の3.2mm×15mmの平角線を用い、一つ44ターンの巻線を並列接続とした。
【0351】
【表14】
【0352】
表14から、実施例6では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.126W/kgと従来例3の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.197W/kgに比べ約36%低減されていることが分かる。
【0353】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例3が0.72の比であるのに対し、実施例6では0.67に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約22%改善されることが分かる。また、実施例4の鉄心の重量当たりの無負荷損が0.149W/kgだったのに対し、実施例6では0.126W/kgと0.023W/kg改善されている。この理由は、鉄心の大型化により鉄心の磁路長に対する曲線部の長さの比が小となり、鉄心曲線部の残留応力による無負荷損加が抑制されたためである。
【0354】
<実施例7>
図33に示す本実施形態の鉄心と巻線の構成の変圧器の第4の実施例として、JIS C 4304:2013に準拠した本開示による単相60Hz、定格容量30kVAの油入り変圧器(以下、実施例7)の主な特性と重量を従来例4との比較で表15に示す。
【0355】
実施例7に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、実施例6と同一であり、従来例4に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、従来例3と同一である。
【0356】
この実施例7及び従来例4において、周回状の鉄心21は、積層数が2715枚であり、その重量は表15に示す。
【0357】
この変圧器の一次巻線は、直径1.3mmの銅線を用い、1509ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の4.0mm×13mmの平角線を用い、一つ44ターンの巻線を並列接続とした。
【0358】
【表15】
【0359】
表15から、実施例7では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.161W/kgと従来例4の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.256W/kgに比べ約37%低減されていることが分かる。
【0360】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例4が0.72の比であるのに対し、実施例7では0.66に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約24%改善されることが分かる。また、実施例5の鉄心の重量当たりの無負荷損が0.180W/kgだったのに対し、実施例7では0.161W/kgと0.019W/kg改善されている。これは、実施例6で説明した理由により、減少している。
【0361】
<実施例8>
本実施形態の変圧器の鉄心と巻線の構成の別の例を図34に示す。この変圧器は、積層された複数枚のFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きされた周回状の鉄心21を組み合わせた3相3脚巻鉄心(3つの周回状の鉄心の組み合わせ)と、鉄心に巻き回された3組の巻線22とを備える。この実施形態の鉄心を用いたJIS C 4304:2013に準拠した本開示による3相50Hz、定格容量100kVAの油入り変圧器(以下、実施例8)の主な特性と重量を従来例5との比較で表16に示す。
【0362】
実施例8に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、実施例6と同一であり、従来例5に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、従来例3と同一である。
【0363】
この実施例8及び従来例5において、周回状の鉄心21は、それぞれ積層数が3480枚であり、その重量(3つの周回状の鉄心の合計)は表16に示す。
【0364】
この実施例8の一次巻線は、直径2.2mmの銅線を用い、星形結線で653ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の0.4mm×247mmの平角線を用い、三角結線で36ターンの巻線とした。また、従来例5の一次巻線は、直径2.2mmの銅線を用い、星形結線で653ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の0.4mm×248mmの平角線を用い、三角結線で36ターンの巻線とした。
【0365】
【表16】
【0366】
表16から、実施例8では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.188W/kgと従来例5の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.269W/kgに比べ約30%低減されていることが分かる。
【0367】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例5が0.78の比であるのに対し、実施例8では0.72に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約21%改善されることが分かる。
【0368】
<実施例9>
図34に示す本実施形態の鉄心と巻線の構成の変圧器の別の実施例として、JIS C
4304:2013に準拠した本開示による3相60Hz、定格容量100kVAの油入り変圧器(以下、実施例9)の主な特性と重量を従来例6との比較で表17に示す。
【0369】
実施例9に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、実施例6と同一であり、従来例6に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、従来例3と同一である。この実施例9及び従来例6において、周回状の鉄心21は、積層数が2895枚であり、その重量は表17に示す。
【0370】
この変圧器の一次巻線及び二次巻線は、実施例8及び従来例5と同じとした。
【0371】
【表17】
【0372】
表17から、実施例9では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.238W/kgと従来例6の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.339W/kgに比べ約30%低減されていることが分かる。
【0373】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例6が0.81の比であるのに対し、実施例9では0.76に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約21%改善されることが分かる。
【0374】
<実施例10>
図34に示す本実施形態の鉄心と巻線の構成の変圧器の別の実施例として、JIS C
4304:2013に準拠した本開示による3相50Hz、定格容量500kVAの油入り変圧器(以下、実施例10)の主な特性と重量を従来例7との比較で表18に示す。
【0375】
実施例10に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、実施例6と同一であり、従来例7に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、従来例3と同一である。
【0376】
この実施例10及び従来例7において、周回状の鉄心21は、実施例10の積層数が5685枚、従来例7が5955枚であり、その重量(3つの周回状の鉄心の合計)は表18に示す。
【0377】
この実施例10の一次巻線は、3.5mm×4.5mmの平角銅線を用い、星形結線で399ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の1.3mm×438mmの平角線を用い、三角結線で22ターンの巻線とした。また、従来例7の一次巻線は、3.2mm×5.0mmの平角銅線を用い、星形結線で381ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の1.4mm×383mmの平角線を用い、三角結線で21ターンの巻線とした。
【0378】
【表18】
【0379】
表18から、実施例10では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.163W/kgと従来例7の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.246W/kgに比べ約34%低減されていることが分かる。
【0380】
また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効
率規格値に対し、従来例7が0.93の比であるのに対し、実施例10では0.90に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間CO排出量も約18%改善されることが分かる。また、実施例8の鉄心の重量当たりの無負荷損が0.188W/kgだったのに対し、実施例10では0.163W/kgと0.025W/kg改善されている。この理由は、鉄心の大型化により鉄心の磁路長に対する曲線部の長さの比が小となり、鉄心曲線部の残留応力による無負荷損加が抑制されたためである。
【0381】
<実施例11>
本実施形態の変圧器の鉄心と巻線の構成の別の例を図35に示す。この変圧器は、積層された複数枚のFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きされた周回状の鉄心21を組み合わせた3相5脚巻鉄心と、鉄心に巻き回された3組の巻線22とを備える。
【0382】
この実施形態の鉄心を用いたJIS C 4304:2013に準拠した本開示による3相50Hz、定格容量1000kVAの油入り変圧器(以下、実施例11)の主な特性と重量を従来例8との比較で表19に示す。
【0383】
実施例11に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、実施例6と同一であり、従来例8に使用したFe基アモルファス合金薄帯は、従来例3と同一である。
【0384】
この実施例11及び従来例8において、周回状の鉄心21は、それぞれ積層数が2610枚の鉄心を図35の垂直方向に2つ重ねたものであり、その重量(8つの周回状の鉄心の合計)は表19に示す。
【0385】
この実施例11の一次巻線は、2.8mm×7.0mmの平角銅線を用い、三角結線で377ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の3.0mm×305mmの平角線を用い、三角結線で12ターンの巻線とした。また、従来例8の一次巻線は、2.8mm×7.0mmの平角銅線を用い、三角結線で377ターン巻かれており、二次巻線は、アルミニウム製の3.2mm×306mmの平角線を用い、三角結線で12ターンの巻線とした。
【0386】
【表19】
【0387】
表19から、実施例11では鉄心の重量当たりの無負荷損失が0.179W/kgと従来例8の鉄心の重量当たりの無負荷損失0.269W/kgに比べ約33%低減されていることが分かる。また、これに対応してJIS C 4304:2013で定められるエネルギー消費効率規格値に対し、従来例8が1.00の比であるのに対し、実施例11では0.99に改善できており、配電用変圧器の平均等価負荷率15%としたときの年間C
排出量も約16%改善されることが分かる。
【0388】
以上説明したように、本開示の変圧器は、無負荷損を低減することができるので、特に、平均等価負荷率の低い配電用変圧器などの低損失化及びCO排出量削減に効果的である。なお、本実施例では巻鉄心変圧器への適用に関し詳細に説明したが、積鉄心変圧器の場合にも無負荷損の低減効果が得られることは言うまでもない。
【0389】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35