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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】地盤評価システム及び地盤評価方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20230816BHJP
   E21B 7/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
E02D1/00
E21B7/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022126301
(22)【出願日】2022-08-08
(62)【分割の表示】P 2018040538の分割
【原出願日】2018-03-07
(65)【公開番号】P2022145813
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和博
(72)【発明者】
【氏名】森尾 義彦
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160550(JP,A)
【文献】特開2002-133391(JP,A)
【文献】特開2018-017570(JP,A)
【文献】特開平09-303071(JP,A)
【文献】特開平07-208060(JP,A)
【文献】特開2017-141598(JP,A)
【文献】特開平05-280031(JP,A)
【文献】特開2000-019261(JP,A)
【文献】特開2002-348868(JP,A)
【文献】特開平11-280055(JP,A)
【文献】特開2018-112010(JP,A)
【文献】特開2018-112011(JP,A)
【文献】特開2009-243186(JP,A)
【文献】米国特許第6490527(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/115
E21B 1/00-19/24
E21B 44/00-44/10
E02D 7/00-13/10
G06N 3/00-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深度毎に、評価を行なう現場の地盤に対して掘削装置により孔を掘削する掘削時の掘削負荷を示す指標値と、前記地盤におけるボーリング調査において取得した標準貫入試験データに基づいて作成された深度毎のN値とを関連付けて記憶した測定値記憶部と、
前記測定値記憶部に記憶した前記現場の前記深度と前記指標値とを入力要素とする入力層として用い、前記深度における前記N値を出力層として用いた教師データを用いた機械学習を行なって、地盤評価モデルを生成する学習処理を実行する学習部と、
前記地盤評価モデルと、前記現場の地盤に対して掘削装置を用いて孔を形成するときに取得した評価対象の入力要素とを用いて、前記評価対象のN値を推定する推定処理を実行する算出部とを備え、
前記学習処理及び前記推定処理において、前記指標値として、掘削に用いる水の流量を少なくとも用いることを特徴とする地盤評価システム。
【請求項2】
前記学習処理及び前記推定処理において、前記指標値として、前記掘削装置に供給される電流値、掘削時間及び掘削距離から算出される掘削速度、前記電流値の積分電流値、掘削時に発生する振動についての振動特性値の内の入力要素を更に用いることを特徴とする請求項1に記載の地盤評価システム。
【請求項3】
深度毎に、評価を行なう現場の地盤に対して掘削装置により孔を掘削する掘削時の掘削負荷を示す指標値と、前記地盤におけるボーリング調査において取得した標準貫入試験データに基づいて作成された深度毎のN値とを関連付けて記憶した測定値記憶部と、
前記現場の前記指標値を用いて地盤評価モデルを生成する学習部と、
前記地盤評価モデルを用いてN値を推定する算出部とを備えた地盤評価システムを用いて、地盤を評価する方法であって、
前記学習部が、前記測定値記憶部に記憶した前記現場の前記深度と前記指標値とを入力要素とする入力層として用い、前記深度における前記N値を出力層として用いた教師データを用いた機械学習を行なって、前記地盤評価モデルを生成する学習処理を実行し、
前記算出部が、前記地盤評価モデルと、前記現場の地盤に対して掘削装置を用いて孔を形成するときに取得した評価対象の入力要素とを用いて、前記評価対象のN値を推定する推定処理を実行し、
前記学習処理及び前記推定処理において、前記指標値として、掘削に用いる水の流量を少なくとも用いることを特徴とする地盤評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭を設置する地盤の支持層を評価する地盤評価システム及び地盤評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を建設する場合、複数の杭を地中にある硬質な地層に打ち込み、杭を介して、この硬質な地層において構造物の荷重を支える工法がある。構造物を支えるのに適した硬質な層を支持層という。このため、杭を挿入する杭孔を支持層にまで必ず到達させる。しかし、掘削工法の制約上、支持層への到達確認は、経験による主観的判断に依存することが多く、客観的な判定が難しい。
【0003】
通常、構造物を建設する前に、支持層の深さ(位置)等を特定するための地盤調査が行なわれている。そして、地盤調査における標準貫入試験によって、地盤の固さを示す指標のN値を取得する。
【0004】
しかし、構造物を建設する現場全体において、地質構造が同じとは限らない。また、地盤調査には費用や手間がかかるため、すべての杭孔位置で地盤調査を行なうことは難しい。
【0005】
そこで、従来、掘削時の地盤の固さを示す指標として、削孔トルクを出力するための電流値を削孔深度毎に積分した値(積分電流値)を用いて、杭孔の支持層到達を判定する技術が検討されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1においては、地盤を削孔する掘削機のオーガを駆動するオーガ駆動用モータの掘削時における電流値を検出し、オーガの上下方向移動距離を検出する。そして、掘削機による掘削開始と同時にオーガの電流データと掘削深度の測定を開始し、これらの測定値を同一画面に表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-287721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に示すように、積分電流値の変化を用いて支持層の判定を行なうこともある。しかし、積分電流値の変化がN値の変化と連動していない場合もある。このため、積分電流値に基づいてN値を特定した場合には、N値が適切でない場合もある。
【0008】
なお、本出願人は、杭孔の掘削時の掘削速度についての速度指標値や掘削時の振動の周波数分析を用いて判定する方法を発明し、特願2017-003676、特願2017-003677及び特願2017-153621を出願している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための地盤評価システムは、深度毎に、評価を行なう現場の地盤に対して掘削装置により孔を掘削する掘削時の掘削負荷を示す指標値と、前記地盤におけるボーリング調査において取得した標準貫入試験データに基づいて作成された深度毎のN値とを関連付けて記憶した測定値記憶部と、前記測定値記憶部に記憶した前記現場の前記深度と前記指標値とを入力要素とする入力層として用い、前記深度における前記N値を出力層として用いた教師データを用いた機械学習を行なって、地盤評価モデルを生成する学習
処理を実行する学習部と、前記地盤評価モデルと、前記現場の地盤に対して掘削装置を用いて孔を形成するときに取得した評価対象の入力要素とを用いて、前記評価対象のN値を推定する推定処理を実行する算出部とを備え、前記学習処理及び前記推定処理において、前記指標値として、掘削に用いる水の流量を少なくとも用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、的確に地盤を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態における杭孔を掘削する掘削装置の説明図であって、(a)は掘削装置の概略断面図、(b)は削孔管理システムの構成を示す構成図。
図2】実施形態の測定値記憶部に記憶されたデータ構成の説明図。
図3】実施形態における学習部の処理を説明する概略説明図。
図4】実施形態における全体処理の処理手順を説明する流れ図。
図5】実施形態における深度との関連付け処理を説明する説明図であって、(a)は実測値グラフ、(b)は削孔時間帯を抽出したグラフ、(c)は削孔時間帯の実測値を連結したグラフ、(d)は処理手順の流れ図。
図6】実施形態における深度に対応するデータの説明図であり、(a)は掘削時間、(b)は電流値、(c)は水の流量、(d)は削孔速度、(e)は積分電流値を示す。
図7】実施形態において深度に対応する推定N値とN値のグラフの説明図であり、(a)は深度、速度、電流値、水量及び積分電流値を用いて推定N値を算出した場合、(b)は速度、電流値、水量及び積分電流値を用いて推定N値を算出した場合を示す。
図8】変更例における振動を考慮した場合の説明図であり、(a)は深度に対応する振動特性値、(b)は深度、速度、電流値、水量、積分電流値及び振動特性値を用いて推定N値を算出した場合、(c)は速度、電流値、水量、積分電流値及び振動特性値を用いて推定N値を算出した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1図7を用いて、地盤評価システム及び地盤評価方法を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、支持層になる固さの地盤か否かを評価する。この評価には、建築物を建てる地盤を評価する地盤評価情報を用いる。ここで、地盤評価情報としてN値を用いる。この地盤評価情報は、掘削時の掘削負荷を示す指標値を用いて推定する。本実施形態では、掘削負荷を示す指標値としては、掘削をしている深度に対応する経過時間、掘削機に供給される(瞬間)電流値、掘削機のヘッドに供給する掘削水の流量及びこれらの計測値(深度、電流値、水量)から算出される計算値(削孔速度及び積分電流値)を用いる。
【0013】
図1(a)には、建物の杭を設置する杭孔h0を掘削する掘削装置としての掘削機10を示している。掘削機10は、ベースマシン11、マスト14、及びオーガマシン16を備えている。ベースマシン11は、クローラ12を含む下部走行体と、操作室13を含む上部旋回体とを備えている。
【0014】
マスト14は、ベースマシン11に立設されている。マスト14内には、深度・速度計計測用のワイヤが設けられている。マスト14には、昇降可能にオーガマシン16が取り付けられている。オーガマシン16は、ボックス内に収容された駆動モータと、この駆動モータで回転駆動される掘削ロッド17とを備えている。掘削ロッド17の先端(下端)には、掘削ヘッド18が取り付けられている。掘削ヘッド18は、揺動する一対(2つ)の掘削腕の先端に掘削刃が形成されている。なお、掘削ヘッド18の昇降は、操作室13の操作者により制御される。
【0015】
また、掘削機10には、掘削ヘッド18に掘削水を供給する掘削水供給装置(図示せず)が連結されている。この掘削水の水量は、掘削状況に応じて、操作室13の操作者の指示より、掘削水供給装置(図示せず)の操作者によって調整される。
【0016】
図1(b)に示すように、掘削機10は、削孔管理システム20を備える。この削孔管理システム20は、コンピュータ端末30、削孔深度計測器21、流量計測器22、電流計測器23、入力部25及び表示部26を備えている。各計測器(21~23)は、常時、計測を行ない、計測した実測値をコンピュータ端末30に送信する。
【0017】
削孔深度計測器21は、マスト14内のワイヤの繰り出し量を計測し、掘削ヘッド18の位置に応じた削孔深度(深さ)を計測する。
流量計測器22は、掘削水供給装置(図示せず)から供給した掘削水の注入流量(水量)を計測する。
電流計測器23は、オーガマシン16の駆動モータの負荷電流(瞬間電流値)を計測する。
【0018】
入力部25は、操作室13内に配置されるキーボードやポインティングデバイス等を備え、各種データをコンピュータ端末30に入力するために用いる。
表示部26は、操作室13内に配置されるディスプレイ等を備え、各種データを表示する。
【0019】
コンピュータ端末30は、各計測器(21~23)からの各実測値データを取得する。コンピュータ端末30は、制御部(CPU、RAM、ROM等)及び測定値記憶部35、学習結果記憶部36を備え、後述する処理(管理段階、N値学習段階及びN値算出段階等の各処理)を行なう。そのために、メモリに記憶された削孔管理プログラムを実行することにより、コンピュータ端末30の制御部は、管理部31、N値学習部32及びN値算出部33として機能する。
【0020】
管理部31は、入力部25からの開始指示や各計測器(21~23)からの各実測値(深度、水量、電流値)をメモリ31aに蓄積する。更に、管理部31は、所定時間毎の計測値に基づいて計算値を算出する。具体的には、管理部31は、実際に掘り進んだ時間帯(削孔時間帯)における削孔速度、積分電流値を算出する。掘削ヘッド18は、固い地層等においては、掘り下げる直前に一旦、引き揚げられることがある。このため、掘削ヘッド18の実際の削孔深度は、図5(a)に示すように、経過時間に従って削孔深度が単調に増加するとは限らない。そこで、管理部31は、掘削ヘッド18の引き揚げや停止の期間(図5(b)の網掛けの時間帯)を全体の作業時間から削除し、削孔のために実質的に用いられた削孔時間帯の計測値を特定する。管理部31は、特定した削孔時間帯における計測値を連結して、図5(c)に示すグラフを生成する。
【0021】
更に、管理部31は、N値学習部32及びN値算出部33を制御する。
N値学習部32は、教師データを用いて、地盤評価モデルとしてのN値算出モデルを生成する。N値学習部32は、掘削負荷を示す指標値や深度を入力要素とする入力層とし、N値を出力層として用いた深層学習(機械学習)によって、N値算出モデルを推定する。ここで、掘削負荷を示す指標値としては、掘削に用いる水の流量、掘削時の(瞬間)電流値、削孔速度、積分電流値を用いる。
【0022】
N値算出部33は、N値算出モデルと、深度(深さ)で関連付けた入力要素(掘削負荷を示す指標値や深度)とを用いて、N値を算出する処理を実行する。
【0023】
図2に示すように、測定値記憶部35は、測定値情報350を記憶する。この測定値情
報350には、現場識別子に関連付けて、柱状図351、深度に応じたN値データ352、杭孔識別子353、計測値データ355及び計算値データ356が含まれる。
【0024】
現場識別子は、各現場を特定するための識別子である。
柱状図351は、杭孔を掘削する工事現場において、ボーリング調査において取得した土試料に基づいて作成される。深度に応じたN値データ352は、このボーリング調査において取得した標準貫入試験データに基づいて作成される。
【0025】
杭孔識別子353は、削孔した杭孔を特定するための識別子である。
計測値データ355及び計算値データ356は、掘削負荷を示す指標値である。計測値データ355は、掘削時に実測された指標値である。この計測値データ355は、計測値を取得したときに生成されて記録される。計測値データ355には、深度に応じた経過時間データR1、深度に応じた電流値データR2、深度に応じた単位時間あたりの水量(流量)データR3が含まれる。
【0026】
図6(a)~(c)には、深度に応じた経過時間データR1、深度に応じた(瞬間)電流値データR2、深度に応じた単位時間あたりの水量(流量)データR3の一例を示している。
【0027】
計算値データ356は、計測値データ355を用いて算出される指標値である。本実施形態では、この計算値データ356には、深度に応じた削孔速度データR11及び深度に応じた積分電流値データR21が含まれる。
【0028】
図6(d)及び図6(e)には、深度に応じた削孔速度データR11、深度に応じた積分電流値データR21の一例を示している。
削孔速度データR11は、経過時間データR1を用いて、一定掘削範囲(例えば、深さ0.5m)毎を、この一定掘削範囲の削孔に要した時間で除算することにより算出される。
積分電流値データR21は、電流値データR2を用いて、一定掘削範囲(例えば、深さ0.5m)毎を掘削するのに要した時間分だけ電流値を合計することにより算出される。
【0029】
図3に示すように、学習結果記憶部36は、N値学習部32が学習により生成した学習結果(N値算出モデル)を記憶する。この学習結果は、掘削負荷を示す指標値や深度を入力要素とする入力層を用い、N値を出力層として用いた機械学習(深層学習)によって生成される。
【0030】
(掘削)
次に、図4図7に従って、以上のように構成された掘削機10を用いて、杭孔の掘削処理について説明する。
【0031】
<ボーリング調査工程>
まず、図4に示すように、掘削を行なう前に、ボーリング調査工程を実行する。このボーリング調査工程においては、公知のように、工事現場の敷地において、地質調査を行なう。この地質調査の際に取得した土試料の種類に応じて柱状図を生成する。また、予め定めた所定深度毎のN値を取得し、N値データを生成する。
【0032】
そして、コンピュータ端末30の管理部31を用いて、柱状図とN値の登録処理を実行する(ステップS1-1)。具体的には、管理部31は、地盤情報登録画面を表示部26に出力する。この地盤情報登録画面には、柱状図に関するデータと、深度に応じたN値データとを登録する入力欄が含まれる。建築現場の管理者は、地盤情報登録画面に、現場識
別子、柱状図及び深度に応じたN値のグラフを入力する。コンピュータ端末30の管理部31は、入力された現場識別子、柱状図351及び深度に応じたN値データ352を含む測定値情報350を生成し、測定値記憶部35に記録する。
【0033】
<試掘工程>
その後、試掘工程を行なう。この試掘工程においては、例えば、ボーリング調査を行なった地点の近傍の杭孔を掘削し、このときの掘削負荷を示す指標値を取得する。
【0034】
ここで、まず、削孔管理システム20のコンピュータ端末30の制御部は、入力部25を用いて入力された掘削開始を取得する。制御部の管理部31は、オーガマシン16の駆動モータの回転を開始し、掘削ヘッド18を地中に挿入させて削孔を開始する。この場合、管理部31は、表示部26のディスプレイに、深度に対応させた柱状図351及びN値データ352を含む出力画面を表示する。この出力画面には、深度に応じた経過時間、電流値、水量、削孔速度及び積分電流値を表示する表示領域が含まれる。
【0035】
そして、削孔中、コンピュータ端末30の管理部31は、実測値の取得処理を実行する(ステップS2-1)。具体的には、管理部31は、所定時間毎に、各計測器(21~23)において計測された実測値を取得する。
【0036】
次に、コンピュータ端末30の制御部は、深度との関連付け処理を実行する(ステップS2-2)。具体的には、制御部の管理部31は、各計測器(21~23)から取得した各実測値のうち、実際に削孔していない時間を除いた削孔時間帯における実測値を、評価対象の計測値として特定する。この処理の詳細については、後述する。
【0037】
次に、コンピュータ端末30の制御部は、削孔速度及び積分電流値の算出処理を実行する(ステップS2-3)。具体的には、制御部の管理部31は、ステップS2-2において特定した削孔時間帯における時間(掘削時間)に応じた掘削距離(深度)を用いて、一定掘削範囲毎を、この一定掘削範囲の削孔に要した時間で除算して、削孔速度を算出する。更に、管理部31は、削孔時間帯における時間に応じた深度及び電流値を用いて、削孔時間帯において一定掘削範囲毎を掘削するのに要した時間分だけ電流値を合計して、積算電流値を算出する。そして、管理部31は、算出した削孔速度及び積分電流値を、メモリ31aに記録する。
【0038】
そして、削孔中に、随時、実測値を取得する度に(ステップS2-1の処理を実行する度に)、コンピュータ端末30の制御部は、ステップS2-2,S2-3の処理を実行する。
【0039】
その後、柱状図351やN値データ352を用いて、所定の深さまで削孔したと判定した場合には、コンピュータ端末30の制御部は、掘削ヘッド18を杭孔から引き抜くために上昇させる。ここで、制御部の管理部31は、入力部25を介して掘削ヘッド18の上昇指示を取得した場合には、削孔を終了したと判定する。削孔の終了と判定した場合には、メモリ31aに記憶していた深度に応じた経過時間、電流値、水量、削孔速度及び積分電流値を、各データ(R1,R2,R3,R11,R21)として、測定値記憶部35に記録する。なお、削孔の終了の判定は、他のタイミングでもよい。例えば、掘削ヘッド18の引上げが完了してオーガマシン16を停止する直前等でもよい。
【0040】
〔深度との関連付け処理〕
次に、図5を用いて、上述した深度との関連付け処理(ステップS2-2)の詳細について説明する。
【0041】
まず、図5(d)に示すように、管理部31は、掘削ヘッドの削孔深度の取得処理を実行する(ステップS5-1)。具体的には、図5(a)に示すように、管理部31は、削孔深度計測器21から計測した削孔深度を取得し、取得した計測時刻とともにメモリ31aに一時記憶する。
【0042】
そして、制御部の管理部31は、削孔時間帯の抽出処理を実行する(ステップS5-2)。具体的には、図5(b)に示すように、管理部31は、この削孔において、メモリ31aに一時記憶された削孔深度において、過去の削孔深度の中で最大値以上の深度で、深度が単調増加している削孔時間帯(図5(b)の網掛け部分以外の領域)を特定する。なお、掘削ヘッド18を引き揚げた場合には、再度、掘削ヘッド18が孔底に達した時刻から削孔時間帯に加える。
【0043】
次に、制御部の管理部31は、削孔時間帯の計測値の特定処理を実行する(ステップS5-3)。具体的には、図5(c)に示すように、管理部31は、削孔時間帯における削孔深度を連結して、削孔深度に応じた経過時間を算出する。そして、管理部31は、削孔時間帯における時間(掘削時間)に対応付けて、深度、電流値及び水量を、メモリ31aに記憶する。
【0044】
<学習工程>
次に、図4に示すように、試掘工程で取得した計測値及び計算値を教師データとして、N値算出モデルを学習する学習工程を実行する。
【0045】
ここで、まず、コンピュータ端末30の制御部は、教師データの取得処理を実行する(ステップS3-1)。具体的には、モデル生成実行画面を表示部26に出力する。このモデル生成実行画面には、N値を算出する現場を特定する現場識別子を入力する入力欄と、実行ボタンとが含まれる。建築現場の管理者は、モデル生成実行画面の入力欄に現場識別子を入力し実行ボタンを選択する。コンピュータ端末30の管理部31は、入力された現場識別子とともに、学習処理の実行指示を取得する。
【0046】
この場合、N値学習部32は、現場識別子に関連付けられたN値データ352、計測値データ355及び計算値データ356を、測定値記憶部35において抽出する。そして、N値学習部32は、計測値データ355の経過時間データR1、電流値データR2及び水量データR3と、計算値データ356の削孔速度データR11及び積分電流値データR21と(深度と)を、入力層の入力要素として特定する。これら各データ(R1,R2,R3,R11,R21)は、深度に関連付けられている。更に、N値学習部32は、入力層として特定した各データ(R1,R2,R3,R11,R21)の深度に関連付けたN値データ352を出力層として特定する。
【0047】
次に、コンピュータ端末30の制御部は、N値算出の学習処理を実行する(ステップS3-2)。具体的には、制御部のN値学習部32は、入力層と、出力層とを用いて、機械学習(深層学習)を行なって、N値算出モデルを生成する。
【0048】
次に、コンピュータ端末30の制御部は、学習結果の記憶処理を実行する(ステップS3-3)。具体的には、制御部のN値学習部32は、生成したN値算出モデルを、学習結果記憶部36に記憶する。
【0049】
<掘削工程>
次に、図4を用いて、掘削工程について説明する。この掘削処理において、算出したN値算出モデルを用いて、掘削時に掘削ヘッド18の先端に位置する地盤のN値を推定する。削孔管理システム20のコンピュータ端末30は、試掘工程と同様に、オーガマシン1
6の駆動モータの回転を開始させて、掘削ヘッド18を地中に挿入させて削孔を開始する。この場合、表示部26に、推定結果表示領域が含まれる出力画面を表示する。この推定結果表示領域は、後述する推定処理において算出したN値が表示される領域である。
【0050】
そして、コンピュータ端末30の制御部は、ステップS2-1~S2-3と同様に、実測値の出力処理(ステップS4-1)、深度との関連付け処理(ステップS4-2)及び削孔速度及び積分電流値の算出処理(ステップS4-3)を実行する。
【0051】
次に、コンピュータ端末30の制御部は、N値の推定処理を実行する(ステップS4-4)。具体的には、制御部のN値算出部33は、学習結果記憶部36に記憶したN値算出モデル、取得した計測値及び算出した計算値を用いてN値を算出する。ここでは、メモリ31aに記憶していた深度(評価対象)に応じた電流値、水量、削孔速度及び積分電流値を含む入力要素を入力層とし、その深度(評価対象)における出力層としてのN値を推定する。
【0052】
そして、コンピュータ端末30の制御部は、N値の出力処理を実行する(ステップS4-5)。具体的には、制御部の管理部31は、出力画面の推定結果表示領域に、推定したN値を出力する。
【0053】
そして、操作者が、出力画面に表示された柱状図351、深度、算出したN値を用いて、支持層に到達したかどうかを判定する。なお、ステップS4-2~S4-5の処理は、実測値の取得処理(ステップS4-1)を実行する度に実行される。
【0054】
次に、コンピュータ端末30の制御部は、支持層への到達判定処理を実行する(ステップS4-6)。具体的には、制御部の管理部31は、支持層に到達したと判定した操作者により、削孔停止の指示を受信する。更に、管理部31は、試掘工程と同様に、掘削ヘッド18を杭孔から引き抜くために、掘削ヘッド18の上昇指示を受信する。そして、管理部31は、メモリに記憶していた深度に応じた各データを測定値記憶部35に記録する。
【0055】
〔N値算出モデルと推定N値〕
図7(a)は、入力層として、深度、速度、電流値、水量、積分電流値の各値により生成したN値算出モデルを用いて推定したN値を示している。また、図7(b)は、図7(a)において深度値を用いず、速度、電流値、水量及び積分電流値の各値により生成したN値算出モデルを用いて推定したN値を示している。図7(a)及び図7(b)において、破線は実測したN値、実線は推定したN値を評価するために、統計的手法(最小二乗法や最急降下法)を用いて作成した評価曲線である。本実施形態では、評価曲線としてBスプライン曲線を用いる。なお、この評価曲線としては、Bスプライン曲線に限定されず、N値を補完可能な他の曲線(ベジェ曲線、移動平均曲線等)を用いてもよい。
評価曲線とN値の分布とを比較すると、図7(a)に示すように、深度を入力層に含めたN値算出モデルを用いて推定したN値のほうが、バラつきが小さく、安定して支持層を判定することができる。なお、入力層として、計測値及び計算値の何れか1つを用いたN値算出モデルよりも、複数の計測値や計測値を用いたN値算出モデルのほうが、実際のN値により近い結果を算出することができた。なお、図7(a)及び図7(b)においては、24mの深度より浅いところについて算出したN値は、表示していない。
【0056】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、コンピュータ端末30のN値算出部33は、削孔時の各計測器(21~23)の計測値等を、掘削負荷を示す指標値を入力要素とする入力層とし、学習結果記憶部36に記憶されたN値算出モデルを用いて、N値を算出する。これにより、N値を推定することができ、地盤の固さを評価することができる。
【0057】
(2)本実施形態では、コンピュータ端末30のN値学習部32は、試掘工程で取得した計測値データ355及び計算値データ356と、これに対応するN値データとを教師データとして用いて、機械学習を行なってN値算出モデルを生成する。これにより、計測値を加工した数値を用いてN値算出モデルを生成することができる。
【0058】
(3)本実施形態では、コンピュータ端末30のN値学習部32は、経過時間データR1から特定される深度、電流値データR2、水量データR3、削孔速度データR11、積分電流値データR21を入力要素として用いて、N値算出モデルを生成する。これにより、掘削負荷を多面的に計測した値を用い、的確なN値を推定することができる。
【0059】
(4)本実施形態では、コンピュータ端末30のN値学習部32は、同じ現場識別子を有する測定値情報350を用いてN値算出モデルを生成する。これにより、評価対象の地盤と同じ現場の実測値を用いて的確なN値算出モデルを生成することができる。
【0060】
(5)本実施形態では、掘削工程において、コンピュータ端末30のN値算出部33は、実測値の取得処理(ステップS4-1)、N値の推定処理(ステップS4-4)を実行する。これにより、削孔中に、支持層への到達を判定することができる。
【0061】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、コンピュータ端末30のN値学習部32は、深度、速度、(瞬間)電流値、水量、積分電流値を入力要素とする入力層として用いて、N値算出モデルを生成した。入力層として用いる掘削負荷を示す指標値は、これらに限られない。例えば、計測値の深度、電流値、水量、これらから算出した削孔速度、積分電流値、掘削抵抗値等の複数(少なくとも2つ以上)を入力要素として用いたN値算出モデルを生成してもよい。
【0062】
更に、入力要素として用いる掘削負荷を示す指標値として、孔の形成時の振動情報を用いてもよい。この場合、操作室13内、操作室13の屋根や操作室13内の操作レバーに取り付けられた振動計測器を用いる。この振動計測器は、取付場所における振動(例えば、水平方向の振動)を計測する。
【0063】
そして、コンピュータ端末30の管理部31は、振動計測器から取得した振動の周波数分析を行なうことにより振動特性の解析処理を実行する。具体的には、管理部31は、測定した水平方向振動の周波数帯毎に、振動の大きさ(例えば、最大振幅等)を算出する。
【0064】
そして、管理部31は、算出した振動の大きさと、このときのN値と深度とを関連付けた振動特性値データを生成する。この場合、振動解析により算出した振動の大きさとN値と相関が強い周波数の振動特性値を用いる。
具体的には、図8(a)に示すように、管理部31は、深度と、最大振幅(振動周波数:5Hz)とを関連付けた振動特性値データを生成し、この振動特性値データを計測値データ355として測定値記憶部35に記憶する。
なお、図8(a)において、実線が振動特性値(5Hzの周波数における最大振幅)であり、二点鎖線がN値である。
【0065】
N値学習部32は、各深度に応じた振動特性値を教師データの一つとして用いて学習し、その学習結果(N値算出モデル)を、学習結果記憶部36に記憶する。
そして、N値算出部33は、N値の推定処理を実行する(ステップS4-4)。この場合、N値算出部33は、管理部31が算出した振動特性値も、掘削負荷を示す指標値として用いて、N値を推定する。
【0066】
例えば、図8(b)は、入力層において深度、速度、電流値、水量、積分電流値及び振動特性値の各値により生成したN値算出モデルを用いて推定したN値を示している。また、図8(c)は、図8(b)において深度値を用いず、速度、電流値、水量、積分電流値及び振動特性値の各値により生成したN値算出モデルを用いて推定したN値を示している。これらの図において、破線は、実測したN値、実線は、推定したN値を評価するために、統計的手法を用いて作成した評価曲線である。なお、24mの深度より浅いところではN値を表示していない。
図7(a)及び図7(b)で用いたN値算出モデルで算出したN値よりも、図8(b)及び図8(c)に用いたN値算出モデルで算出したN値のほうが、バラつきが小さく、安定して支持層を判定することができる。
【0067】
また、N値算出の入力層に用いた振動特性値は、水平方向の5Hzの振動周波数における最大振幅に限定されない。例えば、上下方向の振動を用いてもよいし、全周波数の振動の大きさの統計値(例えば平均値)を用いてもよい。この場合、N値と相関が強いと判定される振動に関する値(振動特性値)であればよい。
【0068】
・上記実施形態では、コンピュータ端末30のN値学習部32は、出力層とする地盤評価情報としてN値を用いた。出力する地盤評価情報は、土の固さを評価するN値に限定されず、推定したN値及び柱状図351から推定される地質の情報(地質を特定する情報)であってもよい。また、N値を推定する代わりに、杭の支持層とする固さの地盤であることを示す情報であってもよい。この場合には、例えば、杭の支持層であると判定する判定条件を記憶しておく。そして、掘削負荷を示す指標値に基づいて記憶した判定条件を満たすか否か判定し、判定結果を表示部26に表示する。
【0069】
・上記実施形態では、コンピュータ端末30のN値学習部32は、深さに応じた計測値データ355及び計算値データ356を用いた機械学習によって、N値算出モデルを生成した。この場合、所定の深さより深い領域の指標値のみを用いた機械学習によって、N値算出モデルを生成してもよい。浅い部分において指標値が安定しないことがある。例えば、図6(d)に示す削孔速度では、23mよりも浅い部分においては変動が大きい。そこで、変動が小さい基準深度(例えば、24m)より深い部分の数値のみを用いて機械学習を行なうことにより、より的確なN値算出モデルを生成することができる。
【0070】
・上記実施形態では、掘削工程における削孔時に、各計測器(21~23)から実測値を取得し、N値を算出した。N値の算出のタイミングは、削孔時に限られない。例えば、削孔終了後に、地盤評価のためにN値を算出してもよい。具体的には、削孔時に取得した計測値データ355及び計算値データ356を入力層としてN値算出モデルを用いて、深度に応じたN値を推定する。
【0071】
・上記実施形態では、試掘において取得した計測値データを教師データとしてN値算出モデルを生成した。N値算出モデルの生成に用いる計測値データは、試掘のときに取得した値に限定されない。杭を設ける支持層を含む地盤に孔を形成した際の掘削負荷を示す指標値データであればよく、例えば、ボーリング調査において孔を形成する場合等に取得されたデータを用いてもよい。
・上記実施形態では、コンピュータ端末30は、N値学習部32及びN値算出部33を備えた。固さ算出モデルを生成する学習部と、地盤評価情報を推定する処理を実行する算出部とは、異なるコンピュータ端末に設けてもよい。
【符号の説明】
【0072】
h0…杭孔、R1…経過時間データ、R2…電流値データ、R3…水量データ、R11
…削孔速度データ、R21…積分電流値データ、10…掘削機、11…ベースマシン、12…クローラ、13…操作室、14…マスト、16…オーガマシン、17…掘削ロッド、18…掘削ヘッド、20…削孔管理システム、21…削孔深度計測器、22…流量計測器、23…電流計測器、25…入力部、26…表示部、30…コンピュータ端末、31…制御部としての管理部、31a…メモリ、32…制御部としてのN値学習部、33…制御部としてのN値算出部、35…測定値記憶部、36…学習結果記憶部、350…測定値情報、352…N値データ、353…杭孔識別子、355…計測値データ、356…計算値データ。
図1
図2
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図6
図7
図8