(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20230816BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20230816BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H05K3/38 B
H01L23/14 S
H01L23/12 Q
(21)【出願番号】P 2019002834
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】513114571
【氏名又は名称】株式会社マテリアル・コンセプト
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 淳一
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/191288(WO,A1)
【文献】特開2002-151810(JP,A)
【文献】特開2011-192608(JP,A)
【文献】特開2005-209404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H01L 23/14
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含むペーストを無機基板上に塗布する塗布工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点未満且つ前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する焼結工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、を含む、
電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記ペーストにおける前記酸化物粒子の含有量は、前記銅粒子に対し、0.1質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
銅粒子銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する第1の塗布工程と、
銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1重量%以下である第2のペーストを塗布する第2の塗布工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点未満且つ前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する焼結工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、を含む、
電子部品の製造方法。
【請求項4】
銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する第1の塗布工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点未満且つ前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する第1の焼結工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、
銅粒子と前記酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である第2のペーストを塗布する第2の塗布工程と、
不活性ガス雰囲気下、前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する第2の焼結工程と、を含む、
電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物粒子の軟化点が、550℃以上750℃以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記無機酸化物粒子は、B,Al,Si,Zn,Ba,Bi,Ca,Mg,Sr,Hf,K,Zr,Ti及びNaからなる群から選択される3種以上の金属元素を含む,
請求項1~5のいずれか1項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部と、
無機基板と、
を備え、
前記接着電極部において、前記無機基板に接する側半分における前記無機酸化物の含有量が、その余の半分における前記無機酸化物の含有量よりも多
く、
前記多孔質体が、前記無機基板に接して付着している、
電子部品。
【請求項8】
銅を含む電極部と、
銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部と、
無機基板と、
を備え、
前記接着電極部において、前記無機基板に接する側半分における前記無機酸化物の含有量が、その余の半分における前記無機酸化物の含有量よりも多
く、
前記多孔質体が、前記無機基板に接して付着している、
電子部品。
【請求項9】
銅を含む電極部と、
銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部と、
無機基板と、
を備え、
前記接着電極部において、前記無機基板に接する側半分における前記無機酸化物の含有量が、その余の半分における前記無機酸化物の含有量よりも多く、
前記無機酸化物は、B,Al,Si,Zn,Ba,Bi,Ca,Mg,Sr,Hf,K,Zr,Ti及びNaからなる群から選択される3種以上の金属元素を含む、
電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品及びその製造方法に関し、より詳しくは、銅電極と無機基板とが強固な密着性を有し、低抵抗且つ安価な電極を有する電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子部品に用いる代表的な基板材料として、酸化物基板(ガラス、水晶、酸化アルミ、酸化ガリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト酸化物等)、窒化物基板(窒化アルミ、窒化ケイ素、窒化ガリウム等)、炭化物基板(炭化ケイ素等)のようなセラミックス基板が挙げられる。このようなセラミックス基板は、無線通信デバイスや電力変換デバイス等、広範な用途の電子部品に用いられている。
【0003】
電子部品は、このようなセラミックス基板の表面に平面電極を形成することにより、電子部品用の基板を形成する。
【0004】
セラミックス基板上に電極を形成する方法としては、導電性ペーストを印刷し、焼結する方法が挙げられる。このような方法により安価な電子部品を提供し得る。また、導電性ペーストとして銅ペーストを用いることで、さらに安価な電子部品を提供し得る。
【0005】
しかしながら、銅はセラミックスとの密着性に乏しいため、電子部品の作製工程中の応力負荷、又は電子部品として使用中の温度サイクル等に起因する応力負荷によって、銅電極がセラミックス基板から剥離することがある。このような剥離を防止するため、様々な検討がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、誘電率の異なる2種類の強誘電体酸化物の界面に銅の内部電極を形成するに際し、少なくとも1種類の酸化物の添加成分と共通する成分を内部電極に含むことによって剥離の発生が抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献1においては、電極に隣接する酸化物の添加成分を電極に加えて界面密着強度を確保するため、800~1000℃という高温で焼結される。しかし、焼結温度から室温に冷却する過程で、大きい温度差に対応して発現する熱応力が大きくなり、セラミックス基板が容易に破壊するおそれがあるため、銅電極とセラミックス基板との密着性が充分なものではない。銅電極とセラミックス基板との密着性を高めるためには、なお改良の余地がある。
【0009】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、銅電極と無機基板とが強固な密着性を有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含むペーストを無機基板上に塗布した後、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成し、次いで不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程を経て得られた電子部品では、安価な銅電極を主として用いた場合でも、その金属電極と無機基板とが強固な密着性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1)銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含むペーストを無機基板上に塗布する塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点未満且つ前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する焼結工程と、不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、を含む、電子部品の製造方法。
【0012】
(2)前記ペーストにおける前記酸化物粒子の含有量は、前記銅粒子に対し、0.1質量%以上10質量%以下である、(1)に記載の電子部品の製造方法。
【0013】
(3)銅粒子銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する第1の塗布工程と、銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である第2のペーストを塗布する第2の塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点未満且つ前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する焼結工程と、不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、を含む、電子部品の製造方法。
【0014】
(4)銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する第1の塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点未満且つ前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する第1の焼結工程と、不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、銅粒子と前記酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である第2のペーストを塗布する第2の塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、前記銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する第2の焼結工程と、を含む、電子部品の製造方法。
【0015】
(5)前記無機酸化物粒子の軟化点が、550℃以上750℃以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【0016】
(6)前記無機酸化物粒子は、B,Al,Si,Zn,Ba,Bi,Ca,Mg,Sr,Hf,K,Zr,Ti及びNaからなる群から選択される3種以上の金属元素を含む,(1)~(5)のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【0017】
(7)銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部と、無機基板と、を備え、前記接着電極部において、前記無機基板に接する側半分における前記無機酸化物の含有量が、その余の半分における前記無機酸化物の含有量よりも多い、電子部品。
【0018】
(8)銅を含む電極部と、銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部と、無機基板と、を備え、前記接着電極部において、前記無機基板に接する側半分における前記無機酸化物の含有量が、その余の半分における前記無機酸化物の含有量よりも多い、
電子部品。
【0019】
(9)前記無機酸化物は、B,Al,Si,Zn,Ba,Bi,Ca,Mg,Sr,Hf,K,Zr,Ti及びNaからなる群から選択される3種以上の金属元素を含む、(7)又は(8)に記載の電子部品。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、銅電極と無機基板とが強固な密着性を有する電子部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
<第1の態様の製造方法>
第1の態様の製造方法は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含むペーストを無機基板上に塗布する塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する焼結工程と、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、を含むものである。
【0024】
なお、本明細書において、「銅電極」とは、銅を主たる成分(60質量%以上)とする電極をいい、電極としての機能を果たす場合において、他の金属等の含有を排除するものではない。
【0025】
〔塗布工程〕
塗布工程は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含むペーストを無機基板上に塗布する工程である。
【0026】
なお、「軟化点」は、DTAを用いてその有無及び温度を求めることができる。
【0027】
[無機基板]
無機基板は、例えば半導体基板であり、少なくともその表面に酸化物を有する。無機基板の表面に酸化物を有することにより、後述する軟化工程において無機酸化物粒子が軟化されて無機基板と無機酸化物粒子に由来する成分(無機酸化物粒子が軟化されて、多孔質の銅焼結体の細孔に充填されているものをいう。)とが反応する。無機酸化物粒子に由来する成分は、銅粒子並びに銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子が焼結して生成する多孔質体(電極)の空隙に含まれているため、上述のようにして無機基板と反応することにより、多孔質体である電極と、無機基板との密着性を高めることができる。
【0028】
無機基板13の表面に存在する酸化物としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、二酸化ケイ素等の絶縁体又はリチウムニオブ酸化物、チタンバリウム酸化物等の強誘電体が挙げられる。
【0029】
基板13の表面以外は、絶縁材料で構成されていればよく、例えば窒化ケイ素、窒化アルミ、炭化ケイ素、等が挙げられる。
【0030】
[ペースト]
ペーストは、少なくとも銅粒子並びに銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含んでいるものである、銅粒子並びに銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子は焼結により、導電性金属の多孔質体となり得られる電子部品の電極として作用するものである。
【0031】
このようなペーストの一例としては、銅粒子と、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子と、バインダー樹脂と、溶剤とを含む。なお、以下、主としてバインダー樹脂及び溶剤等から構成される有機成分を「有機ビヒクル」と呼ぶ。
【0032】
(銅粒子)
銅粒子としては、特に限定されないが、例えばガスアトマイズ法、水アトマイズ法、または液相還元析出法等の方法で製造された粒子であり、50%粒子径が70nm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0033】
銅粒子の粒径としては、特に限定されないが、例えば0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。銅粒子の平均粒径が、0.3μm以上であることにより焼結した銅粒子間に隙間を形成することができる。0.3μm未満であると焼結工程で緻密に焼結された銅粒子間の隙間が小さくなり、その後の軟化工程において無機酸化物が界面に到達せず、密着性が乏しくなる。0.5μm以上では密着強度はさらに高くなる。なお、銅粒子の平均粒形は、マイクロトラック等のレーザー回折式粒度分布計によって測定される値である。
【0034】
(銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子)
銅酸化物粒子は、亜酸化銅及び酸化銅の少なくともいずれかを含んでなるものである。また、ニッケル酸化物粒子は、酸化ニッケルを含んでなるものである。これらの酸化物粒子は、酸化物形成標準自由エネルギーが小さいため、容易に還元されて導電性金属となる。
【0035】
上述したとおり、ペースト中にはバインダーとして樹脂が含まれる。ここでバインダーが焼結後も電極内に残存すると、その電極の導電性を低下させ得る。したがってこのようなバインダーを除去する必要がある。しかしながら、本実施形態に係る製造方法において、加熱は全て不活性雰囲気下で行う必要がある。そこで、ガス雰囲気以外で酸素の供給が必要となる。ここで、ペースト中に銅酸化物粒子やニッケル酸化物粒子を添加して当該ペーストを焼結すると、不活性ガス雰囲気であっても加熱により樹脂に対し酸化物粒子から酸素が供給されて分解除去される。その結果、銅粒子の良好な焼結体を得ることができる。
【0036】
ペースト中の銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の含有量(両金属酸化物粒子の合計)としては、特に限定されないが、例えば銅粒子の質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の含有量が0.1質量%以上であることにより、樹脂に供給する酸素量を十分にして樹脂の分解をより促進することができる。一方で、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の含有量としては、10質量%以下であることが好ましく、9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の含有量が10質量%以下であることにより、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子を完全に還元することができ、多孔質体(電極)の電気抵抗をより低くすることができる。なお、必要な量の酸化物粒子を秤量するとき、ペースト中の樹脂含有量は微量であるため、ペースト中の主成分である銅粒子の質量を基準にして酸化物粒子を秤量することで、適正量の酸化物粒子を高精度に含有することができる。
【0037】
銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、例えばレーザー回折式粒度分布における50%平均粒径(D50)で0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の平均粒径が0.1μm以上であることにより、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子同士の凝集を防止してより多くの銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子を分解に寄与させることができる。また、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の平均粒径としては、10μm以下であることが好ましく、9μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることがさらに好ましく、7μm以下であることが特に好ましい。銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子の平均粒形が10μm以下であることにより、銅ペーストの印刷性をより高めることができる。
【0038】
(無機酸化物粒子)
無機酸化物粒子は、軟化点を有するものである。このように、無機酸化物が軟化点を有することにより、後述する軟化工程において軟化させて多孔質の焼結体の内部を、細孔を経由して無機基板付近まで移動させることができる。
【0039】
この無機酸化物粒子は、B,Al,Si,Zn,Ba,Bi,Ca,Mg,Sr,Hf,K,Zr,Ti及びNaからなる群から選択される3種以上の金属元素を含むものであることが好ましい。このように複数の金属元素の酸化物が含まれることにより、軟化点が生じやすくなる。
【0040】
無機酸化物粒子の軟化点としては、特に限定されないが、例えば550℃以上であることが好ましく、570℃以上であることがより好ましく、590℃以上であることがさらに好ましく、600℃以上であることが特に好ましい。550℃以上であることにより、銅粒子の焼結温度との差を設け、焼結工程において軟化を抑制することができる。一方で、軟化点としては、750℃以下であることが好ましく、740℃以下であることがより好ましく、720℃以下であることがさらに好ましく、700℃以下であることがさらに好ましい。750℃以下であることにより、無機酸化物粒子に由来する成分と無機基板とが反応して気体を放出し、界面にバブル状の空隙を形成することを防止することでき、これにより銅粒子の焼結により生成する銅の多孔質体と、無機基板との密着強度をより高めることができる。
【0041】
ペースト中の無機酸化物粒子の含有量としては、特に限定されないが、例えば銅粒子の質量に対して0.4質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。無機酸化物粒子の含有量が0.4質量%以上であることにより、軟化工程において無機基板との界面に移動する無機酸化物量を多くし無機基板との密着強度を確保できる。また、無機酸化物粒子の含有量を1.0質量%以上とすることで、密着強度をより高めることができる。一方で、無機酸化物粒子の含有量としては、20質量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、4.8質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。無機酸化物粒子の含有量が20質量%以下であることにより、密着強度を確保できる。また、特に無機酸化物粒子の含有量が4.8質量%以下であることにより、密着強度を維持しながら電気抵抗を低減することができる。
【0042】
無機酸化物粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、例えばレーザー回折式粒度分布における50%粒径(D50)で0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、1.5μm以上であることが特に好ましい。無機酸化物粒子の平均粒径が0.5μm以上であることにより、粒子の凝集を防止して、ペーストの印刷性を向上させることができ、また、焼結体中に球状の空隙を形成を防止して、当該電子部品の力学的強度を高めることができる。一方で、無機酸化物粒子の平均粒形としては、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。無機酸化物粒子の平均粒形が7μm以下であることにより、ガラスに熱を均一且つ充分に付与することができ、後述する軟化工程において、軟化しない無機酸化物粒子を抑制することができる。そしてこれにより、銅の焼結により生成する多孔質体と無機基板の密着強度を高めることができる。
【0043】
(バインダー樹脂)
有機ビヒクル中のバインダー樹脂の含有量量%としては、0.05質量%以上17質量%以下であることが好ましい。バインダー樹脂は加熱により分解される樹脂であれば特に限定されないが、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。その中でも、酸素や一酸化炭素と反応してペースト中から容易に消失する傾向があるセルロース系樹脂を用いることが好ましく、セルロース系樹脂の中でも、エチルセルロースを用いることがより好ましい。
【0044】
不活性雰囲気下で導電性金属酸化物とともに加熱することにより、バインダー樹脂が導電性金属酸化物と反応し、焼結後の配線中に残留する樹脂量を極力低減し、樹脂の残留による配線抵抗の上昇が抑制される。ただし、それでもバインダー樹脂成分が配線中に残留し、焼結性が悪化するとともに配線抵抗が上昇するおそれがあるため、有機ビヒクル中のバインダー樹脂の含有量を17.0質量%より小さくすることによって、焼結後に配線中に残留するバインダー樹脂成分が配線抵抗に与える影響を無視できるようにすることができる。一方で、有機ビヒクル中のバインダー樹脂の含有量が0.05質量%未満であると、ペーストの粘度が小さくなり、印刷性が悪化するおそれがある。
【0045】
(溶剤)
導電性ペーストに含有される溶剤としては、適正な沸点、蒸気圧、粘性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭化水素系溶剤、塩素化炭化水素系溶剤、環状エーテル系溶剤、アミド系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系化合物、多価アルコールのエステル系溶剤、多価アルコールのエーテル系溶剤、テルペン系溶剤及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中で、沸点が200℃近傍にあるテキサノール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオールを用いることが好ましい。
【0046】
(その他の有機ビヒクル中の成分)
有機ビヒクルとは、バインダー樹脂、溶媒及びその他必要に応じて添加される有機物を全て混合した液体のことである。本発明に記載の雰囲気中で焼結する場合は、バインダー樹脂と溶剤を混合して作製した有機ビヒクルを用いることで十分であるが、必要に応じて金属塩とポリオールを混合して用いることができる。金属塩の例としては、例えば第1の金属元素としてCuを用いる場合には、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、ビス(アセチルアセトナート)銅(II)等が挙げられる。また、ポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコールが挙げられる。これらを添加することで、焼結時にポリオールが金属塩を還元して、還元された金属が粒子間の空隙に析出するので、粒子間の電気伝導性を高める作用をする。
【0047】
ペーストに含有される上記有機ビヒクルの含有量としては、特に限定されないが、例えば3質量%以上19質量%以下であることが好ましく、8質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
ペーストに含有される有機ビヒクルの含有量を、3質量%以上19質量%以下とすることで、配線形状を良好に保つことができる。有機ビヒクルの含有量19質量%超であると、ペーストの粘性が小さくなるため、印刷した配線形状に垂れが生じるおそれがある。一方で、有機ビヒクルの含有量が3質量%未満であると、ペーストの粘性が大きくなり過ぎるため、一様な形状の配線を形成することができなくなるおそれがある。
【0049】
[ペーストの製造方法]
ペーストは、上述したバインダー樹脂と溶媒を混合し、さらに銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子を添加して、遊星ミキサー等の装置を用いて混練することができる。また、必要に応じて三本ロールミルを用いてこれらの粒子の分散性を高めることもできる。
【0050】
また、ペーストの塗布方法としては、特に限定されず、例えばインクジェット法、ディスペンシング法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
【0051】
また、ペーストを塗布した後の無機基板は、適宜室温又は高温下で乾燥させて溶剤を所定量除去することが好ましい。
【0052】
〔焼結工程〕
焼結工程は、上述した塗布工程で得られたペースト塗布後の無機基板を、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する工程である。
【0053】
このようにしてペーストの焼結を行うと、銅粒子並びに銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物は焼結して、それらの粒子の表面が連結して多孔質体を形成する。すなわち、このようにして得られる多孔質体は、銅からなるか(ニッケル酸化物を用いなかった場合))、銅とニッケルとからなる(ニッケル酸化物を用いた場合)ものである(以下、便宜上、ニッケルも含む場合も含めて、「銅多孔質体」という。)。なお、この際に加熱により銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物からペーストに由来して存在する樹脂に酸素が供給されて、樹脂が分解される。一方で、軟化点未満で加熱するため、この時点では無機酸化物粒子に変化が起こらない。
【0054】
焼結工程における加熱温度としては特に限定されないが、、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上であれば特に限定されないが、例えば400℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましく、470℃以上であることがさらに好ましく、500℃以上であることが特に好ましい。一方、加熱温度としては、750℃未満であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることがさらに好ましく、620℃以下であることが特に好ましい。
【0055】
また、焼結工程における加熱温度としては、特に限定されないが、無機酸化物粒子の軟化点に対し、30℃以上低いことが好ましく、50℃以上低いことがより好ましく、70℃以上低いことがさらに好ましく、100℃以上低いことが特に好ましい。加熱温度が無機酸化物粒子の軟化点に対し、30℃以上低いことにより、この焼結工程において無機酸化物粒子の軟化が生じることをより確実に防止できる。
【0056】
焼結工程における加熱時間としては、特に限定されないが、例えば5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。また、加熱時間としては、60分以下であることが好ましく、45分以下であることがより好ましい。加熱時間が以上の範囲にあることにより、銅粒子を充分に焼結できる。
【0057】
不活性雰囲気としては、酸化性ガスや還元性ガスを実質的に含まない雰囲気であればよく、例えば窒素雰囲気、ヘリウム雰囲気、アルゴン雰囲気等を用いることができる。その中でも、コストの観点から窒素雰囲気であることが好ましい。なお、不活性雰囲気とは言っても、実施を行うための装置には酸化性ガスや還元性ガスを排除するために限度があるため、例えばそれぞれ100ppm以下の酸化性ガスや還元性ガスを含有することまでは許容される。
【0058】
なお、無機酸化物粒子については、1種の組成の無機酸化物粒子を単独で、又は複数種の組成の無機酸化物粒子を混合して用いることができる。複数種の無機酸化物を用いる場合において、「無機酸化物粒子の軟化点未満」とは、当該複数種の無機酸化物のうち、最も低い軟化点を有するものを基準とする。
【0059】
〔軟化工程〕
軟化工程は、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する工程である。
【0060】
このようにして加熱すると、無機酸化物粒子は軟化して、銅多孔質体の細孔を通路にして無機基板付近まで移動する。そして、無機酸化物粒子に由来する成分は、無機基板と反応して一体化されて、銅多孔質体と無機基板との密着強度を高める。
【0061】
不活性雰囲気としては、上述した焼結工程と同様に、酸化性ガスや還元性ガスを実質的に含まない雰囲気であればよく、例えば窒素雰囲気、ヘリウム雰囲気、アルゴン雰囲気等を用いることができる。その中でも、コストの観点から窒素雰囲気であることが好ましい。なお、不活性雰囲気とは言っても、実施を行うための装置には酸化性ガスや還元性ガスを排除するために限度があるため、例えばそれぞれ100ppm以下の酸化性ガスや還元性ガスを含有することまでは排除されない。
【0062】
軟化工程における加熱温度としては、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば600℃以上であることが好ましく、620℃以上であることがより好ましく、650℃以上であることがさらに好ましい。加熱温度が600℃以上であることにより、無機基板と無機酸化物粒子に由来する成分を一体化させることができ、無機基板と銅焼結体の密着性をより高めることができる。また、加熱温度としては、900℃以下であることが好ましく、870℃以下であることがより好ましく、850℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度が900℃以下であることにより、金属成分の蒸発によりバブルが生じて、無機基板と銅焼結体の密着性が低下することを抑制することができる。
【0063】
また、軟化工程における加熱温度としては、無機酸化物粒子の軟化点に対し、30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、70℃以上高いことがさらに好ましい。加熱温度が無機酸化物粒子の軟化点に対し、30℃以上高いことにより、無機酸化物粒子の軟化が生じやすくすることができる。
【0064】
軟化工程における加熱時間としては、特に限定されないが、例えば5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。また、加熱時間としては、60分以下であることが好ましく、45分以下であることがより好ましい。加熱時間が以上の範囲にあることにより、軟化した無機酸化物粒子を無機基板付近に充分に移動させることができる。
【0065】
なお、無機酸化物粒子については、1種又は複数種の無機酸化物を用いることができるか、複数種の無機酸化物を用いる場合において、「無機酸化物粒子の軟化点以上」とは、当該複数種の無機酸化物のうち、最も高い軟化点を有するものを基準とする。
【0066】
<第2の態様の製造方法>
第2の態様の製造方法は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する第1の塗布工程と、銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である第2のペーストを塗布する第2の塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する焼結工程と、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、を含むものである。
【0067】
すなわち、第2の態様の製造方法は、上述した第1の態様の製造方法と比較して、第2の塗布工程を含むものである。
【0068】
〔第1の塗布工程〕
第1の塗布工程は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する工程である。この第1の塗布工程は、第1の態様の製造方法における塗布工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。なお、この場合において、第1の態様の製造方法における「ペースト」を「第1のペースト」と読み替えるものとする。
【0069】
〔第2の塗布工程〕
第2の塗布工程は、銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である第2のペーストを塗布する工程である。この第2の塗布工程は、第1の態様の製造方法における塗布工程と、第2のペースト(第1の態様の製造方法における「ペースト」に相当する。)が軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、その含有量が第2のペーストに対し0.1質量%未満である点で相違するのみであるため、第2のペースト以外のここでの詳細な説明は省略する。
【0070】
第2のペーストにより形成される電極部(銅電極)は、電気的に接続される複数の配線同士を電気的に接続することを目的として配置するものである。したがって、導電性は高い方がよく、第2のペーストとしては、軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である(僅少量である)ペーストを用いる。
【0071】
第2のペーストに含まれないか、又はその含有量が第2のペーストに対し0.1質量%未満であるとする「無機酸化物成分」は、第1の塗布工程において用いた「軟化点を有する無機酸化物粒子」を構成する成分に限られず、軟化点を有する無機酸化物粒子あらゆるものを包含する概念である。なお、銅及び/又はニッケルを含む酸化物粒子は軟化点を有しないため、無機酸化物成分から除外される。
【0072】
〔焼結工程〕
焼結工程は、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する工程である。この焼結工程は、第1の態様の製造方法における焼結工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0073】
〔軟化工程〕
軟化工程は、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する工程である。この軟化工程は、第1の態様の製造方法における軟化工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0074】
このように、第2の態様の製造方法においては、第1の態様の製造方法にさらに、第2の塗布工程を有するものである。そして、この第2の工程において、銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか又は少量しか含まないペーストを塗布すると、軟化点を有する無機酸化物成分を有しない銅骨格体が形成される。この部分により、形成される電子部品の導電性をより高めることができる。
【0075】
<第3の態様の製造方法>
第2の態様の製造方法と同様の電子部品、すなわち、軟化点を有する無機酸化物成分を有しない銅骨格体を有する電子部品は、次の方法でも製造することができる。具体的に、第3の態様の製造方法は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する第1の塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する第1の焼結工程と、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する軟化工程と、銅粒子と酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分を含まないか、又は銅粒子並びに銅及び/若しくはニッケルを含む酸化物粒子を含み、且つ軟化点を有する無機酸化物成分の含有量が0.1質量%未満である第2のペーストを塗布する第2の塗布工程と、不活性ガス雰囲気下、銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する第2の焼結工程と、を含むものである。
【0076】
すなわち、この第3の態様の製造方法は、第1のペーストを塗布した後に焼結を行い、次いで第2のペーストを塗布した後にも焼結を行う製造方法であり、ペーストの焼結を2回行う。これに対し、上述した第2の態様の製造方法は、第1のペーストを塗布した後には焼結を行わずに、第2のペーストを塗布し、第1のペーストと第2のペーストを同時に焼結する。
【0077】
〔第1の塗布工程〕
第1の塗布工程は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを無機基板上に塗布する工程である。この第1の塗布工程は、第2の態様の製造方法における第1の塗布工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0078】
〔第1の焼結工程〕
第1の焼結工程は、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点未満且つ銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する工程である。この第1の焼結工程は、第1の態様の製造方法における焼結工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0079】
〔第2の塗布工程〕
第2の塗布工程は、銅粒子、銅酸化物粒子及び/又はニッケル酸化物粒子並びに軟化点を有する無機酸化物粒子を含む第1のペーストを基板上に塗布する工程である。この第1の塗布工程は、第2の態様の製造方法における第2の塗布工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0080】
〔軟化工程〕
軟化工程は、不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粒子の軟化点以上の温度で加熱する工程である。この軟化工程は、第1の態様の製造方法における軟化工程と同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0081】
〔第2の焼結工程〕
第2の焼結工程は、不活性ガス雰囲気下、銅粒子の焼結温度以上の温度で加熱して、少なくとも銅を含む焼結体を形成する工程である。この第2の焼結工程は、第1の態様の製造方法における焼結工程と、加熱温度以外同様である。
【0082】
第2の焼結工程における加熱温度としては、銅粒子の焼結温度以上の温度であれば特に限定されない。また、第1の焼結工程のように、無機酸化物粒子の軟化点未満である必要もない。ただし、第2の加熱焼結工程における加熱温度としては、例えば1の態様の製造方法における焼結工程と同様であってよく、例えば400℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましく、470℃以上であることがさらに好ましく、500℃以上であることが特に好ましい。また、加熱温度としては、700℃以下であることが好ましく、670℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることがさらに好ましく、620℃以下であることが特に好ましい。
【0083】
<第1の態様の電子部品>
上述した第1の態様の製造方法で得られる電子部品(以下、「第1の態様の電子部品」という。)の特徴について説明する。
図1は、第1の態様の電子部品の断面概略図である。第1の態様の電子部品1は、銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部12と、無機基板13と、を備える。このような電子部品1においては、接着電極部12及び無機基板13が積層されて構成される。そして、密着電極部12において、無機基板13に接する側半分における無機酸化物の含有量が、その余の半分における無機酸化物の含有量よりも多い。
【0084】
〔接着電極部〕
接着電極部12は、銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含むものである。そして、この接着電極部12において、後述する無機基板13に接する側半分における無機酸化物の含有量が、電極部に接する側半分における無機酸化物の含有量よりも多い。なお、ここにおける「接着」の語は、無機基板に接して付着していることを意図したものであり、例えば特定の値以上の密着強度を要することを意図したものではない。
【0085】
多孔質体は、少なくとも銅を含む骨格体である。多孔質体は、その他の元素としてニッケルを含むことができる。すなわち、多孔質体は、銅から構成されるか、銅とニッケルから構成されるものである。なお、「銅から構成される」又は「銅とニッケルから構成される」には、最大5質量%程度の不純物や酸化によって結合する酸素を含むものも含まれる。また、この多孔質体は、例えば粒子状の金属の表面が相互に連結されて構成される焼結体であってもよい。
【0086】
無機酸化物を構成する元素としては、特に限定されないが、例えば、B,Al,Si,Zn,Ba,Bi,Ca,Mg,Sr,Hf,K,Zr,Ti及びNaからなる群から選択される3種以上の金属元素を含むことが好ましい。これらの元素は、それぞれが酸化物を形成するが、これらのうち3種以上の金属元素を含む酸化物となることで、550℃以上750℃の範囲内に軟化点が調整できるため、密着強度を高めることができる。
【0087】
また、無機酸化物を構成する金属元素は、酸化物として後述する無機基板13と反応して一体となっていることが好ましい。このように無機酸化物を構成する金属元素が無機基板13と一体化していることにより、当該接着電極部12と無機基板13の密着強度を向上させることができる。
【0088】
無機酸化物の含有量としては、特に限定されないが、電子部品1中に含まれる無機酸化物粒子の含有量が、電極総断面積に対して面積占有率で10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。10%以下であることによって電極の機械的信頼性を高めるとともに電極の電気抵抗率が低減する。また、5%以下であることによって電気抵抗率はさらに低減する。ここで無機酸化物の面積占有率は以、電極の長手方向に垂直に、その長手方向の中点で切断し研磨したサンプルを準備し、走査電子顕微鏡を用いて断面観察及びX線エネルギー分光装置を用いて組成分布マップを取得し、電極断面全体の面積を電極総断面積とし、この総断面積に対して無機酸化物が存在する箇所の面積を測定することで得ることができる。
【0089】
接着電極部12の厚さとしては、特に限定されないが、例えば10μm以上であることが好ましい。接着電極部12の厚さが10μm以上であることにより、銅粒子のD50より充分に厚いため、銅粒子形状に起因する表面凹凸が電極厚さに比べて相対的に小さくなり、良好な形状の配線を得ることができる。
【0090】
〔無機基板〕
基板13は、少なくとも表面に酸化物を含む基板である。なお、ここで「表面」とは、少なくとも接着電極部12に接する側の全てをいう。詳細は上述したものと同様のものを用いることができるので、ここでの説明は省略する。
【0091】
<第2の態様の電子部品>
上述した第2及び第3の態様の製造方法で得られる電子部品(以下、総称して「第2の態様の電子部品」という。)の特徴について説明する。
図2は、第2の態様の電子部品の断面概略図である。第2の態様の電子部品2は、銅を含む電極部21と、銅を含む多孔質体の間隙に無機酸化物を含む接着電極部22と、無機基板23と、を備え、接着電極部22において、無機基板23に接する側半分における無機酸化物の含有量が、その余の(電極部21に接する側)半分における無機酸化物の含有量よりも多い。
【0092】
すなわち、第2の態様の電子部品は、第1の態様の電子部品の接着電極部12上にさらに電極部を備える構造を有するものである。したがって、第2の態様の電子部品における接着電極部22は、上述した第1の態様の電子部品における接着電極12と同様である。また、第2の態様の電子部品における無機基板23は、第1の態様の電子部品における無機基板13と同様である。したがって、ここでは、接着電極部22及び無機基板23についての説明は省略する。
【0093】
〔電極部〕
電極部21は、当該電極部21に電気的に接続される複数の配線同士を電気的に接続するものである。
【0094】
この電極部21は、少なくとも銅を含む。その他の元素としてニッケルを含むことができる。すなわち、電極部21は、銅から構成されるか、銅とニッケルから構成されるものである。
【0095】
電極部21は、多孔質構造を有する多孔質体(骨格体)であってもよい。また、この多孔質体は、例えば粒子状の金属の表面が相互に連結されて構成される焼結体であってもよい。このように、電極部21が多孔質構造を有することにより、電子部品2に付与された応力のうち一定程度の応力を吸収することができ、電子部品2全体として剥離に対する耐性をより高めることができる。
【0096】
電極部21が多孔質構造を有する場合、その空隙の体積分率としては、特に限定されないが、例えば2体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることがさらに好ましい。また、空隙の体積分率としては、40体積%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
【0097】
電極部21は、銅及びニッケルの酸化物以外の無機酸化物を含有しないことが好ましい。電極部21中に無機酸化物粒子が含有されると、導電性が低下する。なお、電極部21は、金属として少なくとも銅を含み、またニッケルを含み得るが、これらの銅やニッケルは金属の状態では大気中でも酸化され得る。したがって、銅やニッケルの酸化物は、導電性が担保される範囲(例えば5質量%以下)までは許容される。
【0098】
また、電極部21の厚さとしては、特に限定されないが、後述する接着電極部12の厚さよりも厚いことが好ましい。電極部21の厚さが接着電極部22の厚さよりも厚いことにより、多孔質構造を有する電極部21による応力緩和が顕著となり、電子部品全体としての密着強度を高めることができる。
【0099】
以上で説明した電子部品は、例えば、パワーモジュール用大電流基板、LED用絶縁放熱基板等に使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0101】
D50が1.0μmの略球状の銅粒子100質量%、D50が0.3μmのCu2O粒子を2質量%及びD50が3μmの軟化点を有する無機酸化物粒子所定量を、ビヒクルと混錬し、銅ペーストを作製した。この銅ペーストを、スクリーン印刷法でアルミナ基板に約150μmの厚さに印刷し、110℃、10分の大気乾燥工程の後に窒素雰囲気中で焼結工程、軟化工程を経て電極とした。得られた試料を用いて、電極上部表面に引張冶具をハンダ合金を用いて接合し、冶具を引っ張って電極と基板との剥離強度を測定した。さらに、直流四探針法を用いて電気抵抗率を測定した。表1に、無機酸化物粒子中の含有元素(酸素を除く)、無機酸化物粒子の添加量(質量%)、無機酸化物粒子の軟化点(℃)、焼結工程の加熱温度(℃)、軟化工程の加熱温度(℃)、得られた電極の剥離強度(MPa)及び電気抵抗率(μΩ・cm)を下記表1に示す。なお、焼結工程の加熱時間は10分、軟化工程の加熱時間は30分とした。また、軟化点と軟化工程における加熱温度との関係から実際には軟化されていない試料も存在するが、便宜上「軟化工程」と呼ぶものとする。
【0102】
【符号の説明】
【0103】
1,2 電子部品
12,22 接着電極部
13,23 無機基板
21 電極部