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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】光断層画像撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019061545
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020156909
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年5月19日、第2回日本近視学会総会、ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンター(大阪府大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館B2F) 〔刊行物等〕 平成31年2月3日、Photonics West 2019、モスコーニセンター(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ ハワードストリート747)
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山成 正宏
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-140316(JP,A)
【文献】特開2016-028666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0273557(US,A1)
【文献】特開2018-068778(JP,A)
【文献】特開2017-074325(JP,A)
【文献】特開2018-121888(JP,A)
【文献】特開2016-057197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光感受型の光断層画像撮影装置であって、
被検眼の断層画像を撮影する撮影部と、
演算部と、を備えており、
前記断層画像は、前記被検眼に第1の偏光波を照射することで撮影された第1断層画像と、前記被検眼に前記第1の偏光波とは異なる振動方向を有する第2の偏光波を照射することで撮影された第2断層画像と、を含んでおり、
前記演算部は、前記第1断層画像と前記第2断層画像に基づいて、少なくとも前記被検眼の強膜及び篩状板における線維の走行態様を特定する特定処理を実行可能に構成されている、光断層画像撮影装置。
【請求項2】
前記被検眼の強膜のアンファス画像を表示する表示部をさらに備えており、
前記表示部は、前記被検眼の強膜のアンファス画像とともに、前記強膜のアンファス画像の対応する位置に前記走行態様を重ねて表示する、請求項1に記載の光断層画像撮影装置。
【請求項3】
前記表示部に前記強膜のアンファス画像及び前記走行態様が重ねて表示されたときに、その表示された画像内において前記被検眼の深さ方向の断面の位置を指定する指定部をさらに備えており、
前記表示部は、前記指定部によって前記深さ方向の断面の位置が指定されたときに、前記指定された断面の位置における前記被検眼の眼底の断面画像を表示する、請求項2に記載の光断層画像撮影装置。
【請求項4】
前記撮影部は、980nm以上かつ1120nm以下の波長の光を用いて前記被検眼の眼底を撮影する、請求項1~3のいずれか一項に記載の光断層画像撮影装置。
【請求項5】
前記撮影部は、円偏光による前記第1の偏光波及び前記第2の偏光波を前記被検眼に照射する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光断層画像撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、偏光感受型の光断層画像撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光断層画像撮影装置は、非侵襲、非接触であるため、生体組織の断層画像を取得する方法として眼科装置等に広く利用されている。
【0003】
偏光状態を変化させる複屈折は分子や繊維組織が一定方向に配列する組織において生じる。眼底における網膜では網膜神経繊維層、網膜色素上皮層、血管壁、強膜、篩状板に強い複屈折性が存在する。この複屈折性を利用したこれら組織の可視化のため、機能性の光断層画像撮影装置の一つである偏光感受型の光断層画像撮影装置が開発されている。例えば、特許文献1に、偏光感受型の光断層画像撮影装置の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-57197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書は、偏光感受型の光断層画像撮影装置による新たな画像診断に寄与する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する光断層画像撮影装置は、偏光感受型の光断層画像撮影装置である。光断層画像撮影装置は、被検眼の断層画像を撮影する撮影部と、演算部と、を備えている。断層画像は、被検眼に第1の偏光波を照射することで撮影された第1断層画像と、被検眼に第1の偏光波とは異なる振動方向を有する第2の偏光波を照射することで撮影された第2断層画像と、を含んでいる。演算部は、第1断層画像と第2断層画像に基づいて、少なくとも被検眼の強膜及び篩状板における線維の走行態様を特定する特定処理を実行可能に構成されている。
【0007】
上記の光断層画像撮影装置では、第1断層画像と第2断層画像に基づいて、少なくとも被検眼の強膜及び篩状板における線維の走行態様を特定することができる。これによって、被検眼の強膜や篩状板における線維の走行態様を把握することができ、新たな画像診断に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例に係る光断層画像撮影装置の光学系の概略構成を示す図。
図2】実施例に係る光断層画像撮影装置の制御系を示すブロック図。
図3】サンプリングトリガー/クロック発生器の構成を示すブロック図。
図4】被検眼の強膜における線維の走行態様を特定する処理の一例を示すフローチャート。
図5】光源から出力される光の波長帯の性質を説明するための図。
図6】(a)は被検眼の眼底の断層画像であり、(b)は被検眼の網膜のEn-face画像と網膜の線維の走行態様を示し、(c)は被検眼の強膜のEn-face画像と強膜の線維の走行態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0010】
(特徴1)本明細書が開示する光断層画像撮影装置は、被検眼の強膜のアンファス画像を表示する表示部をさらに備えていてもよい。表示部は、被検眼の強膜のアンファス画像とともに、強膜のアンファス画像の対応する位置に走行態様を重ねて表示してもよい。このような構成によると、検査者が被検眼の強膜の線維の走行態様をより容易に把握することができる。
【0011】
(特徴2)本明細書が開示する光断層画像撮影装置は、表示部に強膜のアンファス画像及び走行態様が重ねて表示されたときに、その表示された画像内において被検眼の深さ方向の断面の位置を指定する指定部をさらに備えていてもよい。表示部は、指定部によって深さ方向の断面の位置が指定されたときに、指定された断面の位置における被検眼の眼底の断面画像を表示してもよい。このような構成によると、検査者が、被検眼の強膜の線維の走行態様において注目する領域について、それに対応する断面画像を容易に確認することができる。このため、被検眼の状態をより正確に把握することができる。
【0012】
(特徴3)本明細書が開示する光断層画像撮影装置では、撮影部は、980nm以上かつ1120nm以下の波長の光を用いて被検眼の眼底を撮影してもよい。このような構成によると、被検眼の眼底を好適に撮影することができる。
【0013】
(特徴4)本明細書が開示する光断層画像撮影装置では、撮影部は、円偏光による第1の偏光波及び第2の偏光波を被検眼に照射してもよい。このような構成によると、強膜や篩状板の線維がどの方向を向いていても測定することができ、線維の走行方向をより確実に特定することができる。
【実施例
【0014】
以下、実施例に係る光断層画像撮影装置について説明する。本実施例の光断層画像撮影装置は、波長掃引型の光源を用いた波長掃引型のフーリエドメイン方式(swept-source optical coherence tomography:SS-OCT)で、被検物の偏光特性を捉えることが可能な偏光感受型OCT(polarization-sensitive OCT:PS-OCT)の装置である。
【0015】
図1に示すように、本実施例の光断層画像撮影装置は、光源11と、光源11の光から測定光を生成する測定光生成部(21~29、31、32)と、光源11の光から参照光を生成する参照光生成部(41~46、51)と、測定光生成部で生成される被検眼500からの反射光と参照光生成部で生成される参照光とを合波して干渉光を生成する干渉光生成部60、70と、干渉光生成部60、70で生成された干渉光を検出する干渉光検出部80、90を備えている。
【0016】
(光源)
光源11は、波長掃引型の光源であり、出射される光の波長(波数)が所定の周期で変化する。被検眼500に照射される光の波長が変化(掃引)するため、被検眼500からの反射光と参照光との干渉光から得られる信号をフーリエ解析することで、被検眼500の深さ方向の各部位から反射される光の強度分布を得ることができる。
【0017】
なお、光源11には、偏光制御装置12及びファイバカプラ13が接続され、ファイバカプラ13にはPMFC(偏波保持ファイバカプラ)14及びサンプリングトリガー/クロック発生器100が接続されている。したがって、光源11から出力される光は、偏光制御装置12及びファイバカプラ13を介して、PMFC14及びサンプルトリガー/クロック発生器100のそれぞれに入力される。サンプリングトリガー/クロック発生器100は、光源11の光を用いて、後述する信号処理器83、93それぞれのサンプリングトリガー及びサンプリングクロックを生成する。
【0018】
(測定光生成部)
測定光生成部(21~29、31、32)は、PMFC14に接続されたPMFC21と、PMFC21から分岐する2つの測定光路S1、S2と、2つの測定光路S1、S2を接続する偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25と、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25に接続されるコリメータレンズ26、光路延長部306、ガルバノミラー27、28及びレンズ29を備えている。測定光路S1には、光路長差生成部22とサーキュレータ23が配置されている。測定光路S2には、サーキュレータ24のみが配置されている。したがって、測定光路S1と測定光路S2との光路長差ΔLは、光路長差生成部22によって生成される。光路長差ΔLは、被検眼500の深さ方向の測定範囲よりも長く設定してもよい。これにより、光路長差の異なる干渉光が重なることを防止できる。光路長差生成部22には、例えば、光ファイバが用いられてもよいし、ミラーやプリズム等の光学系が用いられてもよい。本実施例では、光路長差生成部22に、1mのPMファイバを用いている。また、測定光生成部は、PMFC31、32をさらに備えている。PMFC31は、サーキュレータ23に接続されている。PMFC32は、サーキュレータ24に接続されている。
【0019】
上記の測定光生成部(21~29、31、32)には、PMFC14で分岐された一方の光(すなわち、測定光)が入力される。PMFC21は、PMFC14から入力する測定光を、第1測定光と第2測定光に分割する。PMFC21で分割された第1測定光は測定光路S1に導かれ、第2測定光は測定光路S2に導かれる。測定光路S1に導かれた第1測定光は、光路長差生成部22及びサーキュレータ23を通って偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25に入力される。測定光路S2に導かれた第2測定光は、サーキュレータ24を通って偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25に入力される。PMファイバ304は、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25に、PMファイバ302に対して円周方向に90度回転した状態で接続される。これにより、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25に入力される第2測定光は、第1測定光に対して直交する偏光成分を持った光となる。測定光路S1に光路長差生成部22が設けられているため、第1測定光は第2測定光に対して光路長差生成部22の距離だけ遅延している(すなわち、光路長差ΔLが生じている)。偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25は、入力される第1測定光と第2測定光を重畳する。偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25から出力される光(第1測定光と第2測定光が重畳された光)は、コリメータレンズ26、ガルバノミラー27、28及びレンズ29を介して被検眼500に照射される。被検眼500に照射される光は、ガルバノミラー27、28によってx-y方向に走査される。
【0020】
被検眼500に照射された光は、被検眼500によって反射する。ここで、被検眼500で反射される光は、被検眼500の表面や内部で散乱する。被検眼500からの反射光は、入射経路とは逆に、レンズ29、ガルバノミラー28、27及びコリメータレンズ26を通って、SMFC26に入力され、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25に入力される。偏光ビームコンバイナ/スプリッタ25は、入力される反射光を、互いに直交する2つの偏光成分に分割する。ここでは便宜上それらを水平偏光反射光(水平偏光成分)と垂直偏光反射光(垂直偏光成分)と呼ぶ。そして、水平偏光反射光は測定光路S1に導かれ、垂直偏光反射光は測定光路S2に導かれる。
【0021】
水平偏光反射光は、サーキュレータ23により光路が変更され、PMFC31に入力される。PMFC31は、入力される水平偏光反射光を分岐して、PMFC61、71のそれぞれに入力する。したがって、PMFC61、71に入力される水平偏光反射光には、第1測定光による反射光成分と、第2測定光による反射光成分が含まれている。垂直偏光反射光は、サーキュレータ24により光路が変更され、PMFC32に入力される。PMFC32は、入力される垂直偏光反射光を分岐して、PMFC62、72に入力する。したがって、PMFC62、72に入力される垂直偏光反射光には、第1測定光による反射光成分と、第2測定光による反射光成分が含まれている。
【0022】
(参照光生成部)
参照光生成部(41~46、51)は、PMFC14に接続されたサーキュレータ41と、サーキュレータ41に接続された参照遅延ライン(42、43)と、サーキュレータ41に接続されたPMFC44と、PMFC44から分岐する2つの参照光路R1、R2と、参照光路R1に接続されるPMFC46と、参照光路R2に接続されるPMFC51を備えている。参照光路R1には、光路長差生成部45が配置されている。参照光路R2には、光路長差生成部は設けられていない。したがって、参照光路R1と参照光路R2との光路長差ΔL’は、光路長差生成部45によって生成される。光路長差生成部45には、例えば、光ファイバが用いられる。光路長差生成部45の光路長ΔL’は、光路長差生成部22の光路長ΔLと同一としてもよい。光路長差ΔLとΔL’を同一にすることで、後述する複数の干渉光の被検眼500に対する深さ位置が同一となる。すなわち、取得される複数の断層像の位置合わせが不要となる。
【0023】
上記の参照光生成部(41~46、51)には、PMFC14で分岐された他方の光(すなわち、参照光)が入力される。PMFC14から入力される参照光は、サーキュレータ41を通って参照遅延ライン(42、43)に入力される。参照遅延ライン(42、43)は、コリメータレンズ42と参照ミラー43によって構成されている。参照遅延ライン(42、43)に入力された参照光は、コリメータレンズ42を介して参照ミラー43に照射される。参照ミラー43で反射された参照光は、コリメータレンズ42を介してサーキュレータ41に入力される。ここで、参照ミラー43は、コリメータレンズ42に対して近接又は離間する方向に移動可能となっている。本実施例では、測定を開始する前に、被検眼500からの信号がOCTの深さ方向の測定範囲内に収まるように、参照ミラー43の位置を調整している。
【0024】
参照ミラー43で反射された参照光は、サーキュレータ41により光路が変更され、PMFC44に入力される。PMFC44は、入力する参照光を、第1参照光と第2参照光に分岐する。第1参照光は参照光路R1に導かれ、第2参照光は参照光路R2に導かれる。第1参照光は、光路長差生成部45を通ってPMFC46に入力される。PMFC46に入力された参照光は、第1分岐参照光と第2分岐参照光に分岐される。第1分岐参照光は、コリメータレンズ47、レンズ48を通ってPMFC61に入力される。第2分岐参照光は、コリメータレンズ49、レンズ50を通って、PMFC62に入力される。第2参照光は、PMFC51に入力され、第3分岐参照光と第4分岐参照光に分割される。第3分岐参照光は、コリメータレンズ52、レンズ53を通って、PMFC71に入力される。第4分岐参照光は、コリメータレンズ54、レンズ55を通って、PMFC72に入力される。
【0025】
(干渉光生成部)
干渉光生成部60、70は、第1干渉光生成部60と、第2干渉光生成部70を備えている。第1干渉光生成部60は、PMFC61、62を有している。上述したように、PMFC61には、測定光生成部より水平偏光反射光が入力され、参照光生成部より第1分岐参照光(光路長差ΔL’を有する光)が入力される。ここで、水平偏光反射光には、第1測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有する光)と、第2測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有しない光)が含まれている。したがって、PMFC61では、水平偏光反射光のうち第1測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有する光)と、第1分岐参照光とが合波されて第1干渉光(水平偏光成分)が生成される。
【0026】
また、PMFC62には、測定光生成部より垂直偏光反射光が入力され、参照光生成部より第2分岐参照光(光路長差ΔL’を有する光)が入力される。ここで、垂直偏光反射光には、第1測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有する光)と、第2測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有しない光)が含まれている。したがって、PMFC62では、垂直偏光反射光のうち第1測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有する光)と、第2分岐参照光とが合波されて第2干渉光(垂直偏光成分)が生成される。
【0027】
第2干渉光生成部70は、PMFC71、72を有している。上述したように、PMFC71には、測定光生成部より水平偏光反射光が入力され、参照光生成部より第3分岐参照光(光路長差ΔL’を有しない光)が入力される。したがって、PMFC71では、水平偏光反射光のうち第2測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有しない光)と、第3分岐参照光とが合波されて第3干渉光(水平偏光成分)が生成される。
【0028】
また、PMFC72には、測定光生成部より垂直偏光反射光が入力され、参照光生成部より第4分岐参照光(光路長差ΔL’を有しない光)が入力される。したがって、PMFC72では、垂直偏光反射光のうち第2測定光による反射光成分(光路長差ΔLを有しない光)と、第4分岐参照光とが合波されて第4干渉光(垂直偏光成分)が生成される。第1干渉光と第2干渉光は測定光路S1を経由した測定光に対応しており、第3干渉光と第4干渉光は測定光路S2を経由した測定光に対応している。
【0029】
(干渉光検出部)
干渉光検出部80、90は、第1干渉光生成部60で生成された干渉光(第1干渉光及び第2干渉光)を検出する第1干渉光検出部80と、第2干渉光生成部70で生成された干渉光(第3干渉光及び第4干渉光)を検出する第2干渉光検出部90を備えている。
【0030】
第1干渉光検出部80は、バランス型光検出器81、82(以下、単に「検出器81,82」ともいう)と、検出器81、82に接続された信号処理器83を備えている。検出器81にはPMFC61が接続されており、検出器81の出力端子には信号処理器83が接続されている。PMFC61は、第1干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器81に入力する。検出器81は、PMFC61から入力する位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第1干渉信号)に変換し、第1干渉信号を信号処理器83に出力する。すなわち、第1干渉信号は、水平偏光測定光による被検眼500からの水平偏光反射光と参照光の干渉信号HHである。同様に、検出器82にはPMFC62が接続されており、検出器82の出力端子には信号処理器83が接続されている。PMFC62は、第2干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器82に入力する。検出器82は、位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第2干渉信号)に変換し、第2干渉信号を信号処理器83に出力する。すなわち、第2干渉信号は、水平偏光測定光による被検眼500からの垂直偏光反射光と参照光の干渉信号HVである。
【0031】
信号処理器83は、第1干渉信号が入力される第1信号処理部84と、第2干渉信号が入力される第2信号処理部85を備えている。第1信号処理部84は、サンプリングトリガー/クロック発生器100から信号処理器83に入力されるサンプリングトリガー及びサンプリングクロックに基づいて、第1干渉信号をサンプリングする。また、第2信号処理部85は、サンプリングトリガー/クロック発生器100から信号処理器83に入力されるサンプリングトリガー及びサンプリングクロックに基づいて、第2干渉信号をサンプリングする。第1信号処理部84及び第2信号処理部85でサンプリングされた第1干渉信号と第2干渉信号は、後述する演算部202に入力される。信号処理器83には、公知のデータ収集装置(いわゆる、DAQ)を用いることができる。
【0032】
第2干渉光検出部90は、第1干渉光検出部80と同様に、バランス型光検出器91、92(以下、単に「検出器91、92」ともいう)と、検出器91、92に接続された信号処理器93を備えている。検出器91にはPMFC71が接続されており、検出器91の出力端子には信号処理器93が接続されている。PMFC71は、第3干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器91に入力する。検出器91は、位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第3干渉信号)に変換し、第3干渉信号を信号処理器93に出力する。すなわち、第3干渉信号は、垂直偏光測定光による被検眼500からの水平偏光反射光と参照光の干渉信号VHである。同様に、検出器92にはPMFC72が接続されており、検出器92の出力端子には信号処理器93が接続されている。PMFC72は、第4干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器92に入力する。検出器92は、位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第4干渉信号)に変換し、第4干渉信号を信号処理器93に出力する。すなわち、第4干渉信号は、垂直偏光測定光からによる被検眼500の垂直偏光反射光と参照光の干渉信号VVである。
【0033】
信号処理器93は、第3干渉信号が入力される第3信号処理部94と、第4干渉信号が入力される第4信号処理部95を備えている。第3信号処理部94は、サンプリングトリガー/クロック発生器100から信号処理器93に入力されるサンプリングトリガー及びサンプリングクロックに基づいて、第3干渉信号をサンプリングする。また、第4信号処理部95は、サンプリングトリガー/クロック発生器100から信号処理器93に入力されるサンプリングトリガー及びサンプリングクロックに基づいて、第4干渉信号をサンプリングする。第3信号処理部94及び第4信号処理部95でサンプリングされた第3干渉信号と第4干渉信号とは、後述する演算部202に入力される。信号処理器93にも、公知のデータ収集装置(いわゆる、DAQ)を用いることができる。このような構成によると、被検眼500の4つの偏光特性を表す干渉信号を取得することができる。なお、本実施例では、2つの信号処理部を備える信号処理器83,93用いているが、このような構成に限定されない。例えば、4つの信号処理部を備える1つの信号処理器を用いてもよいし、1つの信号処理部を備える信号処理器を4つ用いてもよい。
【0034】
次に、本実施例に係る光断層画像撮影装置の制御系の構成を説明する。図2に示すように、光断層画像撮影装置は演算装置200によって制御される。演算装置200は、演算部202と、第1干渉光検出部80と、第2干渉光検出部90によって構成されている。第1干渉光検出部80と、第2干渉光検出部90と、演算部202は、測定部10に接続されている。演算部202は、測定部10に制御信号を出力し、ガルバノミラー27及び28を駆動することで測定光の被検眼500への入射位置を走査する。第1干渉光検出部80は、測定部10から入力される干渉信号(干渉信号HHと干渉信号HV)に対して、サンプリングトリガー1をトリガーにして、測定部10から入力されるサンプリングクロック1に基づいて、第1サンプリングデータを取得し、演算部202に第1サンプリングデータを出力する。演算部202は、第1サンプリングデータにフーリエ変換処理等の演算処理を行い、HH断層画像とHV断層画像を生成する。第2干渉光検出部90は、サンプリングトリガー2をトリガーにして、測定部10から入力される干渉信号(干渉信号VHと干渉信号VV)に対して、測定部10から入力されるサンプリングクロック2に基づいて、第2サンプリングデータを取得し、演算部202に第2サンプリングデータを出力する。演算部202は、第2サンプリングデータにフーリエ変換処理等の演算処理を行い、VH断層画像とVV断層画像を生成する。ここで、HH断層画像と、VH断層画像と、HV断層画像と、VV断層画像とは、同一位置の断層画像である。このため、演算部202は、被検眼500のジョーンズ行列を表す4つの偏光特性(HH、HV、VH、VV)の断層画像を生成することができる。
【0035】
図3に示すように、サンプリングトリガー/クロック発生器100は、ファイバカプラ102と、サンプリングトリガー発生器(140~152)と、サンプリングクロック発生器(160~172)を備えている。光源11からの光は、ファイバカプラ13とファイバカプラ102を介して、サンプリングトリガー発生器140及びサンプリングクロック発生器160にそれぞれ入力される。
【0036】
(サンプリングトリガー発生器)
サンプリングトリガー発生器140は、例えば、FBG(Fiber Bragg Grating)144を用いて、サンプリングトリガーを生成してもよい。図3に示すように、FBG144は、光源11から入射される光の特定の波長のみを反射して、サンプリングトリガーを生成する。生成されたサンプリングトリガーは、分配器150に入力される。分配器150は、サンプリングトリガーを、サンプリングトリガー1とサンプリングトリガー2に分配する。サンプリングトリガー1は、信号遅延回路152を介して、演算部202に入力される。サンプリングトリガー2は、そのまま演算部202に入力される。サンプリングトリガー1は、第1干渉光検出部80から演算部202に入力される干渉信号(第1干渉信号と第2干渉信号)のトリガー信号となる。サンプリングトリガー2は、第2干渉光検出部90から演算部202に入力される干渉信号(第3干渉信号と第4干渉信号)のトリガー信号となる。信号遅延回路152は、サンプリングトリガー1がサンプリングトリガー2に対して、光路長差生成部22の光路長差ΔLの分だけ時間が遅延するように設計されている。これにより、第1干渉光検出部80から入力される干渉信号のサンプリングを開始する周波数と、第2干渉光検出部90から入力される干渉信号のサンプリングを開始する周波数を同じにすることができる。ここで、サンプリングトリガー1だけを生成してもよい。光路長差ΔLが既知であるので、第2干渉光検出部90から入力される干渉をサンプリングする際、サンプリングトリガー1から光路長差ΔLの分だけ時間を遅延するようにサンプリングを開始すればよい。
【0037】
(サンプリングクロック発生器)
サンプリングクロック発生器は、例えば、マッハツェンダー干渉計で構成されていてもよい。図3に示すように、サンプリングクロック発生器は、マッハツェンダー干渉計を用いて、等周波数のサンプリングクロックを生成する。マッハツェンダー干渉計で生成されたサンプリングクロックは、分配器172に入力される。分配器172は、サンプリングクロックを、サンプリングクロック1とサンプリングクロック2に分配する。サンプリングクロック1は、信号遅延回路174を通って、第1干渉光検出部80に入力される。サンプリングクロック2は、そのまま第2干渉光検出部90に入力される。信号遅延回路174は、光路長差生成部22の光路長差ΔLの分だけ時間が遅延するように設計されている。これにより、光路長差生成部22の分だけ遅延している干渉光に対しても、同じタイミングでサンプリングすることができる。これにより、取得する複数の断層画像の位置ずれが防止できる。本実施例では、サンプリングクロックを生成するのに、マッハツェンダー干渉計を用いている。しかしながら、サンプリングクロックを生成するのに、マイケルソン干渉計を用いてもよいし、電気回路を用いてもよい。また、光源に、サンプリングクロック発生器を備えた光源を用いて、サンプリングロックを生成してもよい。
【0038】
次に、図4図6を参照して、被検眼500の強膜における線維の走行態様を特定する処理について説明する。図4は、本実施例の光断層画像撮影装置を用いて被検眼500の強膜における線維の走行態様を特定する処理の一例を示すフローチャートである。
【0039】
図4に示すように、まず、演算部202は、被検眼500の眼底の断層画像を取得する(S12)。被検眼500の眼底の断層画像を取得する処理は、以下の手順で実行する。まず、検査者は図示しないジョイスティック等の操作部材を操作して、被検眼500に対して光断層画像撮影装置の位置合わせを行う。すなわち、演算部202は、検査者の操作部材の操作に応じて、図示しない位置調整機構を駆動する。これによって、被検眼500に対する光断層画像撮影装置のxy方向(縦横方向)の位置とz方向(進退動する方向)の位置が調整される。
【0040】
次いで、演算部202は、被検眼500の眼底の断層画像を撮影する。ここで、本実施例における被検眼500の眼底の撮影条件について説明する。本実施例では、被検眼500の強膜の線維の走行態様を特定するため、被検眼500の眼底の断層画像を撮影する際には、強膜まで含むように撮影する必要がある。眼底の強膜を測定するには、光が網膜と脈絡膜を透過する必要がある。さらに、眼の前房や水晶体、硝子体が持つ水の光吸収による光の減衰が低いことが望ましい。これらの条件を満たす光波長として、800nm前後の波長帯と1060nm前後の波長帯が知られている。ここで、図5を参照して具体的に説明する。図5のグラフG1は、矢印で示すように、光の波長及び水の吸収率(Absorption coefficient of water)の関係を示しており、グラフG2は、矢印で示すように、光の波長及び比視感度(Log quantal luminosity efficiency)の関係を示している。図5に示すように、800nm前後の波長帯(A)はおおよそ760~910nmの波長帯であり、近赤外光の中では水による光吸収が小さいため(グラフG1参照)光が眼底によく到達し、視細胞の比視感度も小さいため(グラフG2参照)被検者が眩しさを感じにくい、といった性質を持つ。また、図5で1060nm前後の波長帯(B)はおおよそ980~1120nmの波長帯であり、(A)よりも長波長帯の中では水による光吸収が小さく(グラフG1参照)、さらに視細胞が光を感受しないため(グラフG2参照)被検者は眩しさを全く感じない、といった性質を持つ。これらの波長帯のうち、長波長である1060nm前後の波長帯のほうが光散乱強度が小さいため生体組織への深達度が高いことが知られている。特に、眼底の強膜や視神経乳頭の篩状板、加齢黄斑変性などによって発生する線維性瘢痕組織を測定するには、通常のOCTだけでなく偏光OCTにおいても1060nm前後の波長帯が有利である。このため、本実施例では、光源11から中心波長が1060nmの光を出射して、被検眼500の眼底の断層画像を撮影する。
【0041】
なお、本実施例では、眼底の断層画像を撮影しているが、本実施例の技術を用いて、眼底以外の眼球の線維組織を特定するための画像を撮影することもできる。例えば、波長1310nm帯や1550nm帯、1700nm帯、あるいは可視域の波長帯を用いて前眼部の線維組織を測定することが可能である。
【0042】
前眼部の線維組織としては、たとえば角膜実質、線維柱帯、結膜実質、強膜、外眼筋、瞳孔括約筋、瞳孔散大筋、毛様体筋などが挙げられる。疾患眼の線維組織としては翼状片、線維柱帯切除術によって形成された濾過胞の瘢痕組織が挙げられる。また、緑内障濾過手術で用いられる樹脂製インプラントや白内障手術で用いられる樹脂製人工眼内レンズといった人工物にも複屈折を持つ材質が使われることがあり、偏光OCTで測定が可能である。ほかに、前眼部や眼底の部位によらず、一般に血管壁には平滑筋、弾性線維、コラーゲン繊維が存在しており、偏光OCTでそれら線維組織の複屈折が測定できる。
【0043】
また、OCTの原理としては、参照光の光路長を走査するタイムドメイン方式、分光器を用いるスペクトラルドメイン方式、波長掃引光源を用いるスウェプトソース方式すべてにおいて、上述の各波長帯を用いたOCTが実装可能である。
【0044】
光源11から出射される光は、右回り又は左回りの円偏光によって被検眼500に入射させる。被検眼500への入射偏光状態として、右回りまたは左回り円偏光を用いると、測定対象物(すなわち、強膜)の線維がどの方向を向いていても線維の複屈折を測定できる。これは、円偏光ならば、偏光を線維の複屈折が持つ軸に並行な成分と垂直な成分に分解したとき、偏光を両方の軸方向に分解した各成分が同じ振幅となり、各軸方向の偏光成分間に発生する位相遅延を確実に測定できるためである。
【0045】
なお、本実施例では眼底の強膜を測定するため、光が強膜に到達する前に角膜や視神経線維によって入射偏光状態が変化し、入射偏光状態が強膜の線維方向と一致もしくは直交した直線偏光となる可能性がある。その場合、強膜の複屈折を正確に測定することができない。この現象は、眼底の強膜に限らず、一般に生体のどの部位の測定でも起こりうる。上記の可能性を排除するために、2種類またはそれ以上の異なる入射偏光を用いて対象物のジョーンズ行列を測定する方法がある。偏光OCTでジョーンズ行列を測定すれば、入射偏光状態に関係なく対象物の複屈折を確実に測定することが可能である。
【0046】
また、本実施例では、ラスタースキャンを用いて眼底の断層画像を撮影する。なお、眼底の強膜の線維を測定するために眼底の断層画像を撮影する方法としては、ラスタースキャンに限られない。例えば、放射状スキャン、同心円状スキャン等、どのような横方向スキャンを用いても構わないが、強膜の線維が円周方向を向いている視神経乳頭の近傍を含むスキャンであることが望ましい。視神経乳頭近傍の視神経線維と強膜は、視神経乳頭を中心としてそれぞれ放射状・同心円状の線維方向を持つことが知られている。ほかには、正常な網膜中心禍近傍のHenle's fiberは中心禍を中心として放射状の線維方向を持っているため、網膜中心禍をスキャン範囲に含めても良い。このように解剖学的に線維方向が明確な部位をスキャン範囲に含めることで、測定に大きなエラーがないかどうかを確認することができる。
【0047】
次に、演算部202は、ステップS12で取得した断層画像から強膜を特定する(S14)。強膜を特定する処理は、以下の手順で実行する。網膜の複屈折・線維走行を測定するには、まず偏光OCTのデータから網膜の内境界膜と視細胞内節外節結合部を決定する必要がある。強膜の複屈折・線維走行を測定するには、まず偏光OCTのデータから網膜の視細胞内節外節結合部と脈絡膜/強膜境界面を決定する必要がある。具体的には、OCT強度画像に対して画像の強度勾配やしきい値による二値化を適用し、適切なパーティクルフィルタを画像に適用することで、上述の各組織・界面を求めることができる。
【0048】
なお、強膜を特定する方法は、上記の方法に限定されない。例えば、OCT強度画像に対して上述の各組織・界面について手動でセグメンテーションを行い、深層学習などの手法を用いて教師あり機械学習を行い、任意のOCT強度画像について自動でセグメンテーションを行っても良い。
【0049】
また、そのほかの手法として、脈絡膜/強膜境界面を決定するために、脈絡膜と強膜の特性の違いを利用することも可能である。たとえば、生きた脈絡膜には血液が充満し常に血流が存在する一方、強膜内部に血液は充満していない。眼底の同じ位置で偏光OCTのBスキャンを繰り返し行うと、血流の存在する脈絡膜ではOCTのスペックルパターンが経時変化する。この経時変化をOCT強度または複素信号の経時的な相互相関関数によってパラメーター化・画像化し、OCT強度画像に対するセグメンテーションと同様な画像処理技術を適用することで脈絡膜/強膜界面を決定できる。ここで、相互相関関数の代わりに、偏光OCTで測定されたジョーンズベクトルまたは行列の経時変化を共分散行列によって表し、その時間的または空間的アンサンブル平均を求め、アンサンブル平均された共分散行列の固有値からエントロピーを求めて画像化することも可能である。
【0050】
また、正常な脈絡膜はメラニン色素を含むのに対し、強膜はほとんどメラニン色素を含まない。メラニン色素は偏光状態をランダムにする偏光解消性を持つため、それを用いて脈絡膜/強膜境界面を決定しても良い。偏光解消性は、ストークスパラメーターで定義されるdegree of polarization uniformity や Cloude-Pottier decompositionによって算出されるジョーンズ行列の乱雑さを示す指標である偏光エントロピーなどのパラメーターによって定義・可視化することが可能である。
【0051】
また、強膜はコラーゲン線維束による強い複屈折を示すのに対し、脈絡膜は強い複屈折を示さない。偏光OCTで測定できる位相遅延量が脈絡膜と強膜では異なるため、そのコントラストを用いて脈絡膜/強膜境界面を決定しても良い。
【0052】
上記のように、内境界膜、視細胞内節外節結合部、脈絡膜/強膜境界面はOCTもしくは偏光OCTで得られる様々なパラメーターやコントラストから決定することが可能である。それらセグメンテーションにあたっては、単一の画像、例えばOCT強度画像だけを用いても構わないし、複数の画像やデータ・コントラストを組み合わせてセグメンテーションを行っても構わない。
【0053】
演算部202は、断層画像から特定した強膜を示す領域を抽出し、強膜のみで構成されるEn-face(アンファス)画像を生成する。具体的には、3次元データについて、Aスキャン毎に深さ方向で最大値や平均値などを算出し、3次元データを2次元のEn-face画像に圧縮する。
【0054】
次に、演算部202は、ステップS14で特定した強膜について、線維の走行態様を特定する(S16)。強膜における線維の走行態様を特定する処理は、以下の手順で実行する。
【0055】
上記のステップS14において強膜を特定する際に測定された網膜の内境界膜のジョーンズ行列を以下の数1のように定義し、視細胞内節外節結合部のジョーンズ行列を以下の数2のように定義する。
【0056】
【数1】
【0057】
【数2】
【0058】
ここで、Jinは、偏光OCTの光が光源11から内境界膜を照射するまでのすべての偏光特性を表すジョーンズ行列であり、Joutは、内境界膜から反射または散乱した光が参照光と干渉するまでに受けるすべての偏光特性を表すジョーンズ行列である。JILMは、内境界膜における局所的な偏光特性を表すジョーンズ行列である。JPRは、内境界膜から視細胞内節外節結合部の間の偏光特性を表すジョーンズ行列である。上付き文字のtは、行列転置を表す。
【0059】
このとき、内境界膜から視細胞内節外節結合部までの局所的ジョーンズ行列は、次のように求められる。
【0060】
【数3】
【0061】
ここで、UPRILMinは、(KILM)-1PRの固有ベクトルで構成される行列であり、ΛPRは、JPRの位相遅延量を含む固有値で構成される対角行列である。UPRILMinとΛPRはともに(KILM)-1PRを固有値分解することで求められる。
【0062】
PRの固有ベクトルで構成される回転行列RPRを用いると、UPRILMinは、以下のように記述することができる。
【0063】
【数4】
【0064】
視細胞内節外節結合部の深さにおいて、横方向のある任意の位置(x1,y1)に対して相対的な複屈折軸は、次式を利用して求めることができる。
【0065】
【数5】
【0066】
ここで、U(x,y)は、UPRILMin(x1,y1)(UPRILMin)-1(x1,y1)の固有ベクトルで構成される行列であり、Λ(x-x1,y-y1)は、その相対的な複屈折軸θを(exp(iθ),0;0,exp(-iθ)) という形で含む対角行列である。上記のように、ジョーンズ行列を、例えば3次の回転群であるストークスパラメーターに変換することなく、2次の特殊ユニタリ群の形式を保ったまま、内境界膜から視細胞内節外節結合部の間に存在する複屈折軸の方向を求めることができる。
【0067】
強膜の複屈折軸についても上記と類似したアルゴリズムで求めることができる。偏光OCTで測定された脈絡膜/強膜境界膜直下の強膜が持つジョーンズ行列を次のように定義する。
【0068】
【数6】
【0069】
視細胞内節外節結合部から脈絡膜/強膜境界膜直下の強膜の間の局所的ジョーンズ行列は、次のように求められる。
【0070】
【数7】
【0071】
ここで、以下の数8が成立する。
【0072】
【数8】
【0073】
視細胞内節外節結合部から脈絡膜/強膜境界膜の間には、メラニン色素を持つ網膜色素細胞層と脈絡膜が存在する。メラニン色素からの後方散乱光は偏光解消性を持つことが知られているが、透過光については偏光解消性がない。そのため、網膜色素細胞層と脈絡膜を透過する光は偏光状態が変化せず、ジョーンズ行列は単位行列であると考えることができる。脈絡膜/強膜境界膜直下の強膜が存在する深さにおいて、横方向のある任意の位置(x1,y1)に対して相対的な複屈折軸は、次式を利用して求めることができる。
【0074】
【数9】
【0075】
前述の視細胞内節外節結合部の場合と同様に、上記の数9で示す式の固有値が横方向のある任意の位置(x1,y1)に対して相対的な強膜の複屈折軸の方向を示す。
【0076】
原理的には、上述の手法によって網膜あるいは強膜が持つ複屈折軸から線維方向・線維走行を求めることができる。しかしながら、偏光OCTで測定されたジョーンズ行列の生データはスペックルノイズを含むため、ノイズ低減処理を適用することが望ましい。
【0077】
ジョーンズ行列のノイズ低減処理として、たとえばCloude-Pottier decompositionを用いることができる。この方法では、ジョーンズ行列の各要素を4行1列のベクトルに再配置し、そのベクトルから4行4列の共分散行列を求め、ある規定されたカーネルサイズ内のピクセルについてその共分散行列のアンサンブル平均を求め、アンサンブル平均された共分散行列の固有値を求めると、そのカーネルサイズ内のジョーンズ行列を最尤推定することができる。またほかに、グローバル位相で規格化したジョーンズ行列の平均を求める手法も用いることができる。本実施例では、最初にグローバル位相で規格化したジョーンズ行列の平均を、KILMについては深さ5ピクセルについて求め、KScについては深さ20ピクセルについて求める。その後、KILM、KPR及びKScは、各組織深さにおけるEn-face平面上において横方向にカーネルサイズ21×11ピクセルの範囲でCloude-Pottier decompositionを用いてジョーンズ行列のノイズ低減処理を行う。その後、上述の複屈折軸を算出するアルゴリズムを適用し、線維方向を導出する。
【0078】
次に、演算部202は、ステップS16で特定した強膜の線維の走行態様をモニタ120に表示させる(S18)。具体的には、図6(c)に示すように、演算部202は、ステップS14で生成した強膜のEn-face画像と共に、強膜のEn-face画像の対応する位置にステップS16で特定した強膜の線維の走行態様を重ねてモニタ120に表示させる。
【0079】
複屈折軸方向を画像として可視化する方法として、軸方向を任意の疑似カラーマップに対応させて表示することが可能である。しかしながら、カラーマップの色から軸方向を直感的に読解することは必ずしも容易ではない。そこで、軸方向に対応した曲線、いわゆるストリームラインを描出することが可能である。一般にストリームラインを描出するアルゴリズムやソフトウェアは容易に入手可能である。例えば、National Instruments社のLabVIEWへのアドオンとして提供されている、Heliosphere Research LCC社のAdvanced Plotting Toolkitを用いて複屈折軸方向のストリームラインを描出することができる。ほかにも、オープンソースソフトウェアのMatplotlibを用いて同様の処理を行ってもよい。このようにして描出したストリームラインをそれ単体で画像として提示することも可能であるし、ほかの偏光OCT画像に重畳して表示することも可能である。特に、複屈折軸方向を疑似カラーマップで可視化した画像の上にストリームラインを重畳して表示すると、撮影者がデータを直感的に理解するために効果的である。
【0080】
また、モニタ120に表示された強膜のEn-face画像内の位置を指定すると、その位置に対応する断層画像が表示されてもよい。このとき、モニタ120には、対応する断層画像と強膜のEn-face画像が並んで表示されてもよいし、強膜のEn-face画像から対応する断層画像に表示が切り替わってもよい。指定した位置の断層画像を表示することによって、強膜の線維の走行態様から病変等が疑われる位置について、眼底の断面の状態を確認することができる。このため、病変が疑われる部分の状態をより正確に把握することができる。
【0081】
上述の例では偏光OCTで測定された眼底のデータを元にして、網膜内境界膜・視細胞内節外節結合部・脈絡膜/強膜境界膜の各層をセグメンテーションし、網膜内層と強膜の線維走行を可視化する例を示した。この手法は網膜内層や強膜だけでなく、どのような線維組織に対しても適用することができる。たとえば、視神経乳頭内部の篩状板の線維走行を可視化する場合には、上述の視細胞内節外節結合部を視神経線維/篩状板境界と読み替え、脈絡膜/強膜境界膜についても視神経線維/篩状板境界と読み替えることで、篩状板より上部の視神経線維の線維走行および篩状板内部の線維走行を可視化することができる。なお、上述の強膜の例と異なり、この篩状板の例の場合は篩状板の上方に存在する線維である視神経線維が篩状板に接しているため、線維走行の計算に用いるセグメンテーションされた層の数は3層ではなく2層で十分である。
【0082】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0083】
10:測定部
11:光源
43:参照ミラー
60、70:干渉光生成部
80、90:干渉光検出部
81、82、91、92:バランス型光検出器
83、93:信号処理器
84、85、94、95:信号処理部
100:サンプリングトリガー/クロック発生器
140:サンプリングトリガー発生器
160:サンプリングロック発生器
200:演算装置
202:演算部
500:被検眼
S1、S2:測定光路
R1、R2:参照光路
図1
図2
図3
図4
図5
図6