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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】表面処理装置及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/08 20060101AFI20230816BHJP
   E04B 1/66 20060101ALI20230816BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20230816BHJP
   B05B 13/02 20060101ALI20230816BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20230816BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20230816BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20230816BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
E04F21/08 X
E04B1/66 A
E04B1/76 400H
B05B13/02
B05D1/02 A
B05D1/36 Z
B05D5/06 104M
B05D7/00 L
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019099304
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020193476
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】506430026
【氏名又は名称】株式会社トヨコー
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】豊澤 一晃
(72)【発明者】
【氏名】臼木 和臣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康博
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526121(JP,A)
【文献】特開平11-207221(JP,A)
【文献】特開平10-034044(JP,A)
【文献】特開昭53-037749(JP,A)
【文献】実開昭54-116561(JP,U)
【文献】特開昭61-187965(JP,A)
【文献】特開2010-168878(JP,A)
【文献】特開2008-069563(JP,A)
【文献】特開2015-063807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/00-21/32
E04B 1/66
E04B 1/76
E04D 1/00-3/40
E04D 13/00-15/07
B05B 13/02
B05D 1/02
B05D 1/36
B05D 5/06
B05D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の表面に沿って移動可能な移動体と、
前記移動体に設けられ、前記処理対象物の表面に発泡性を有する第1の材料を噴射する第1の噴射装置と、
前記移動体に設けられ、前記処理対象物の表面における前記第1の噴射装置から前記第1の材料が噴射された後の領域に前記第1の材料の表面を被覆する第2の材料を噴射する第2の噴射装置と
を備え
前記表面における前記移動体との接触箇所、前記第1の噴射装置のノズル軸心の指向箇所、前記第2の噴射装置のノズル軸心の指向箇所が、前記移動体の前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に相互に離間して順次配列され、
前記第1の噴射装置による前記第1の材料の噴射と同時に前記第2の噴射装置による前記第2の材料の噴射が行われること
特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置された屋根であり、
前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の傾斜方向に沿って移動する状態で噴射を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置されるとともに、上方に突出した凸部であり一方向に沿って延びて形成された山部、及び、前記山部に挟まれた凹部である谷部が平行に順次配列された屋根であり、
前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の前記山部及び前記谷部の長手方向に沿って移動する状態で噴射を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記移動体は、前記屋根の前記谷部に沿って走行する転動体を有すること
を特徴とする請求項3に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記屋根は、前記山部と前記谷部との境界部に設けられ前記山部の突端面及び前記谷部の底面に対してそれぞれ傾斜した斜面部を有し、
前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方のノズル軸心は前記斜面部を指向して配置されること
を特徴とする請求項3又は請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方は、前記ノズル軸心が前記谷部の一方側に隣接する前記斜面部を指向する第1の状態と、前記ノズル軸心が前記谷部の他方側に隣接する前記斜面部を指向する第2の状態との間で推移可能であること
を特徴とする請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記移動体は、前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に、前記表面に沿って移動可能であること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記表面と接するとともに、前記移動体を前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に、前記表面に沿って移動するよう案内するレール部と、
前記移動体と前記レール部との間に設けられ、前記移動体と前記レール部との間隔を、前記移動体が前記表面から離間する方向に変化させる移動体離間部とを備えること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記第2の噴射装置は、前記第1の噴射装置により前記第1の材料が噴射された領域に、前記第2の材料を複数回噴射する機能を有すること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項10】
前記移動体は、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置が前記表面に前記第1の材料及び前記第2の材料を噴射する領域に対して、噴射を行う際の前記移動体の移動方向と直交する方向における一方側のみで前記表面に接すること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項11】
処理対象物の表面に沿って移動可能な移動体に設けられた第1の噴射装置を用いて、前記移動体を移動させた状態で前記処理対象物の表面に発泡性を有する第1の材料を噴射するとともに、
前記移動体に設けられた第2の噴射装置を用いて、前記移動体を移動させた状態で前記処理対象物の表面における前記第1の材料が噴射された後の領域を被覆する第2の材料を噴射し、
前記表面における前記移動体との接触箇所、前記第1の噴射装置のノズル軸心の指向箇所、前記第2の噴射装置のノズル軸心の指向箇所が、前記移動体の前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に相互に離間して順次配列され、
前記第1の噴射装置による前記第1の材料の噴射と同時に前記第2の噴射装置による前記第2の材料の噴射が行われること
を特徴とする表面処理方法。
【請求項12】
前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置された屋根であり、
前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の傾斜方向に沿って移動する状態で噴射を行うこと
を特徴とする請求項11に記載の表面処理方法。
【請求項13】
前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置されるとともに、上方に突出した凸部であり一方向に沿って伸びて形成された山部、及び、前記山部に挟まれた凹部である谷部が平行に順次配列された屋根であり、
前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の前記山部及び前記谷部の長手方向に沿って移動する状態で噴射を行うこと
を特徴とする請求項11に記載の表面処理方法。
【請求項14】
前記移動体は、前記屋根の前記谷部に沿って走行する転動体を有すること
を特徴とする請求項13に記載の表面処理方法。
【請求項15】
前記屋根は、前記山部と前記谷部との境界部に設けられ前記山部の突端面及び前記谷部の底面に対してそれぞれ傾斜した斜面部を有し、
前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方のノズル軸心は前記斜面部を指向して配置されること
を特徴とする請求項13又は請求項14に記載の表面処理方法。
【請求項16】
前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方を、前記ノズル軸心が前記谷部の一方側に隣接する前記斜面部を指向する第1の状態と、前記ノズル軸心が前記谷部の他方側に隣接する前記斜面部を指向する第2の状態との間で推移させ、前記第1の状態及び前記第2の状態であるときにそれぞれ前記移動体を移動させた状態で噴射を行うこと
を特徴とする請求項15に記載の表面処理方法。
【請求項17】
前記移動体は、第1の方向に移動しながら前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行い、前記第1の方向における終端部において、前記第1
の方向と異なる第2の方向へ移動されること
を特徴とする請求項11から請求項16までのいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項18】
前記表面と接するとともに、前記移動体を前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に、前記表面に沿って移動するよう案内するレール部を設け、
前記移動体と前記レール部との間隔を、前記移動体が前記表面から離間する方向に変化させた状態で、前記移動体を前記レール部に沿った方向へ移動すること
を特徴とする請求項17に記載の表面処理方法。
【請求項19】
前記第2の噴射装置は、前記第1の噴射装置により前記第1の材料が噴射された領域に、前記第2の材料を複数回噴射すること
を特徴とする請求項11から請求項18までのいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項20】
前記移動体は、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置が前記表面に前記第1の材料及び前記第2の材料を噴射する領域に対して、噴射を行う際の前記移動体の移動方向と直交する方向における一方側のみで前記表面に接し、
前記移動体を前記一方側に順次移動させながら前記第1の材料及び前記第2の材料の噴射を行うこと
を特徴とする請求項11から請求項19までのいずれか1項に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築物の屋根などの処理対象物の表面に発泡材料、及び、これを被覆する他の材料を施工する表面処理装置及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工場、倉庫、商業施設等の大型建築物の金属製折板屋根においては、金属部分を保護して防水性、防錆性、断熱性などを確保するため、所定の期間ごとに塗装を行うことが必要となる。
近年、発泡性を有する樹脂材料を屋根に吹き付けて、屋根の表面上で断熱発泡層を形成することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、屋根等の表面に樹脂製発泡剤で構成された断熱発泡層を吹付により形成し、この断熱発泡層の表面に防水性等を有する高強度樹脂製の補強防水層を吹付により形成することが記載されている。
また、屋根の塗装等の自動化に関する従来技術として、例えば特許文献2には、金属板を周期的に凹凸に曲げ加工して形成した折板屋根の谷部に沿って走行する台車にノズルを取り付けた折板屋根の塗装装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-168878号公報
【文献】特開平11-207221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、特許文献1に記載されたような発泡性を有する材料を用いた表面処理は、作業者がノズルを有するスプレーガンを手持ちして屋根上に上がり、施工を行っていた。
この場合、作業者は屋根の上に仮設の足場を載置し、この上に立って所定範囲に発泡性樹脂を噴射した後、足場を移動して隣接する領域の施工を行うことになる。
しかし、この場合、先に施工した領域と、後に施工した領域との境界部は、発泡性樹脂が二重に重ねて吹き付けられ、発泡断熱層の厚みが局所的に大きくなってしまう場合があった。
このように局所的に発泡性樹脂の塗布厚みが大きくなると、原材料のロスとなり、さらに屋根の傾斜方向と直交する方向に沿ってこのような箇所が形成された場合には、屋根の上方から流下する雨水が堰き止められ、排水性や防水性が悪化する原因となっていた。
また、発泡性樹脂からなる断熱発泡層は、吹付後の時間経過とともに、表面の反応基が減少し、紫外線による表面劣化が進行してコート剤との付着力が低下する。また、紫外線の影響により変色し、表面が脆くなってフォームの物性が劣化する。このため、発泡性樹脂を噴射してこれが発泡した後に、直ちに(例えば数時間以内に)コート層の施工を行うことが好ましいが、上述した作業者の手作業による施工では、発泡性樹脂の噴射後、コート層の塗装までにある程度の時間を要することは避けられなかった。
【0006】
一方、引用文献2に記載されたような自走式の塗装装置を用いて発泡性材料からなる断熱発泡層を施工し、さらにその表面に補強防水層を形成することも考えられるが、この塗装装置では複数種類の液剤を噴射することが考慮されておらず、断熱発泡層及び補強防水層をそれぞれ独立した塗装装置を用いて形成する場合には施工工程が著しく煩雑となり、さらに、断熱発泡層の施工後補強防水層の施工までに時間がかかってしまうことは避けられない。
また、引用文献2では、図5に記載されたように折板屋根の山部の頂面を指向するようノズルが配置されているが、このようにして発泡性を有する材料を噴射した場合、山部の頂面において局所的に断熱発泡層が厚くなり、いわゆるキノコ状に膨らんだ断面形状となって原材料を浪費し、かつ雨水の排水性等に悪影響を及ぼすことも懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、発泡性を有する材料を用いた表面処理の施工品質を改善した表面処理装置及び表面処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、処理対象物の表面に沿って移動可能な移動体と、前記移動体に設けられ、前記処理対象物の表面に発泡性を有する第1の材料を噴射する第1の噴射装置と、前記移動体に設けられ、前記処理対象物の表面における前記第1の噴射装置から前記第1の材料が噴射された後の領域に前記第1の材料の表面を被覆する第2の材料を噴射する第2の噴射装置とを備え、前記表面における前記移動体との接触箇所、前記第1の噴射装置のノズル軸心の指向箇所、前記第2の噴射装置のノズル軸心の指向箇所が、前記移動体の前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に相互に離間して順次配列され、前記第1の噴射装置による前記第1の材料の噴射と同時に前記第2の噴射装置による前記第2の材料の噴射が行われることを特徴とする表面処理装置
である。
これによれば、移動体を処理対象物の表面に沿って移動させながら第1の材料、第2の材料を噴射することによって、各材料の塗布厚さのばらつき(ムラ)を抑制することができる。
また、第1の噴射装置及び第2の噴射装置を同一の移動体に設けることにより、第1の材料の塗布後、短時間のうちに第2の材料を塗布することが容易であり、表面処理の施工品質を向上することができる。
また、移動体の同一の移動行程において第1の噴射装置と第2の噴射装置が異なった山部あるいは谷部に噴射を行うことにより、第1の材料を噴射した後に適度な時間間隔をおいて第2の材料を噴射することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置された屋根であり、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の傾斜方向に沿って移動する状態で噴射を行うことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置である。
これによれば、第1の材料、第2の材料を噴射する際の移動体の送り方向を、屋根の傾斜方向に沿って配置することにより、これと直交する方向(典型的には水平方向)に延在するムラが形成されることを防止し、雨水等の排水性を確保することができる。
なお、本明細書、特許請求の範囲において、屋根の傾斜方向とは、屋根の上部に設けられる棟側から、屋根の下部に設けられる軒先側へ向かう方向(雨水等の排水方向)を意味し、水平面に対する屋根の傾斜が最大となる方向を含む。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置されるとともに、上方に突出した凸部であり一方向に沿って延びて形成された山部、及び、前記山部に挟まれた凹部である谷部が平行に順次配列された屋根であり、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の前記山部及び前記谷部の長手方向に沿って移動する状態で噴射を行うことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置である。
これによれば、折板屋根の山部及び谷部の長手方向に沿って移動しながら第1の材料、第2の材料を噴射することにより、上述した効果を確実に得ることができる。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記移動体は、前記屋根の前記谷部に沿って走行する転動体を有することを特徴とする請求項3に記載の表面処理装置である。
これによれば、折板屋根の谷部を移動体の移動を案内するレールとして利用することにより、簡単な構成により十分な精度で移動体を移動させることができる。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記屋根は、前記山部と前記谷部との境界部に設けられ前記山部の突端面及び前記谷部の底面に対してそれぞれ傾斜した斜面部を有し、前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方のノズル軸心は前記斜面部を指向して配置されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の表面処理装置である。
これによれば、十分な塗布厚さを確保しにくい斜面部を指向して第1の材料、第2の材料を噴射することによって、斜面部における十分な塗布厚さを確保するとともに、突端面において塗布厚さが過度に大きくなることを防止できる。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方は、前記ノズル軸心が前記谷部の一方側に隣接する前記斜面部を指向する第1の状態と、前記ノズル軸心が前記谷部の他方側に隣接する前記斜面部を指向する第2の状態との間で推移可能であることを特徴とする請求項5に記載の表面処理装置である。
これによれば、異なった方向に傾斜した斜面部への噴射を、噴射装置の状態を推移させながら共通の噴射装置で行うことにより、装置の構成を簡素化することができる。
特に、塗装を加圧して送出するコンプレッサ等の構成を簡素化することができ、例えば屋根に施工する場合に地上に準備する機材を少なくすることができる。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記移動体は、前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に、前記表面に沿って移動可能であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の表面処理装置である。
これによれば、移動体を移動させながら第1の材料、第2の材料を噴射した後に、このときの移動方向とは異なった方向に移動体を送り、同様の処理を繰り返すことにより、広範囲の施工を簡単かつ高い品質で行うことができる。
請求項8に係る発明は、前記表面と接するとともに、前記移動体を前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に、前記表面に沿って移動するよう案内するレール部と、前記移動体と前記レール部との間に設けられ、前記移動体と前記レール部との間隔を、前記移動体が前記表面から離間する方向に変化させる移動体離間部とを備えることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の表面処理装置である。
これによれば、軽量かつ簡単な構成により上述した効果を適切に得ることができる。
【0014】
請求項9に係る発明は、前記第2の噴射装置は、前記第1の噴射装置により前記第1の材料が噴射された領域に、前記第2の材料を複数回噴射する機能を有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の表面処理装置である。
これによれば、発泡性を有する材料の表面上に例えば防水性などを有する材料を十分な塗布厚さとなるまで塗布することができ、施工品質をより向上することができる。
【0016】
請求項10に係る発明は、前記移動体は、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置が前記表面に前記第1の材料及び前記第2の材料を噴射する領域に対して、噴射を行う際の前記移動体の移動方向と直交する方向における一方側のみで前記表面に接することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の表面処理装置である。
これによれば、移動体が噴射済みの領域から遠ざかる方向に順次送られることにより、発泡性を有する材料が噴射された領域の表面を移動体が走行することを防止でき、処理済みの表面を保護して施工品質をよりいっそう向上することができる。
【0017】
請求項11に係る発明は、処理対象物の表面に沿って移動可能な移動体に設けられた第1の噴射装置を用いて、前記移動体を移動させた状態で前記処理対象物の表面に発泡性を有する第1の材料を噴射するとともに、前記移動体に設けられた第2の噴射装置を用いて、前記移動体を移動させた状態で前記処理対象物の表面における前記第1の材料が噴射された後の領域を被覆する第2の材料を噴射し、前記表面における前記移動体との接触箇所、前記第1の噴射装置のノズル軸心の指向箇所、前記第2の噴射装置のノズル軸心の指向箇所が、前記移動体の前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に相互に離間して順次配列され、前記第1の噴射装置による前記第1の材料の噴射と同時に前記第2の噴射装置による前記第2の材料の噴射が行われることを特徴とする表面処理方法である。
請求項12に係る発明は、前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置された屋根であり、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の傾斜方向に沿って移動する状態で噴射を行うことを特徴とする請求項11に記載の表面処理方法である。
請求項13に係る発明は、前記処理対象物が水平面に対して傾斜して配置されるとともに、上方に突出した凸部であり一方向に沿って伸びて形成された山部、及び、前記山部に挟まれた凹部である谷部が平行に順次配列された屋根であり、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置は、前記移動体が前記屋根の前記山部及び前記谷部の長手方向に沿って移動する状態で噴射を行うことを特徴とする請求項11に記載の表面処理方法である。
請求項14に係る発明は、前記移動体は、前記屋根の前記谷部に沿って走行する転動体を有することを特徴とする請求項13に記載の表面処理方法である。
請求項15に係る発明は、前記屋根は、前記山部と前記谷部との境界部に設けられ前記山部の突端面及び前記谷部の底面に対してそれぞれ傾斜した斜面部を有し、前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方のノズル軸心は前記斜面部を指向して配置されることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の表面処理方法である。
請求項16に係る発明は、前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方を、前記ノズル軸心が前記谷部の一方側に隣接する前記斜面部を指向する第1の状態と、前記ノズル軸心が前記谷部の他方側に隣接する前記斜面部を指向する第2の状態との間
で推移させ、前記第1の状態及び前記第2の状態であるときにそれぞれ前記移動体を移動させた状態で噴射を行うことを特徴とする請求項15に記載の表面処理方法である。
請求項17に係る発明は、前記移動体は、第1の方向に移動しながら前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行い、前記第1の方向における終端部において、前記第1の方向と異なる第2の方向へ移動されることを特徴とする請求項11から請求項16までのいずれか1項に記載の表面処理方法である。
請求項18に係る発明は、前記表面と接するとともに、前記移動体を前記第1の噴射装置と前記第2の噴射装置との少なくとも一方が噴射を行う際の移動方向とは異なった方向に、前記表面に沿って移動するよう案内するレール部を設け、前記移動体と前記レール部との間隔を、前記移動体が前記表面から離間する方向に変化させた状態で、前記移動体を前記レール部に沿った方向へ移動することを特徴とする請求項17に記載の表面処理方法である。
請求項19に係る発明は、前記第2の噴射装置は、前記第1の噴射装置により前記第1の材料が噴射された領域に、前記第2の材料を複数回噴射することを特徴とする請求項11から請求項18までのいずれか1項に記載の表面処理方法である
求項20に係る発明は、前記移動体は、前記第1の噴射装置及び前記第2の噴射装置が前記表面に前記第1の材料及び前記第2の材料を噴射する領域に対して、噴射を行う際の前記移動体の移動方向と直交する方向における一方側のみで前記表面に接し、前記移動体を前記一方側に順次移動させながら前記第1の材料及び前記第2の材料の噴射を行うことを特徴とする請求項11から請求項19までのいずれか1項に記載の表面処理方法である。
これらの各発明においても、上述した表面処理装置に係る発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、発泡性を有する材料を用いた表面処理の施工品質を改善した表面処理装置及び表面処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した表面処理装置の第1実施形態の外観斜視図である。
図2図1のII-II部矢視図である。
図3図1のIII-III部矢視図である。
図4】第1実施形態の表面処理装置における折板屋根の表面処理方法を模式的に示す図である。
図5】第1実施形態の表面処理装置における噴射箇所のパスを模式的に示す図である。
図6】本発明を適用した表面処理装置の第2実施形態の外観斜視図である。
図7図6のVII-VII部矢視図である。
図8図6のVIII-VIII部矢視図である。
図9】第2実施形態の表面処理装置において台車をジャッキにより上昇させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した表面処理装置及び表面処理方法の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の表面処理方法及び表面処理方法は、例えば、工場、倉庫、商業施設等の大型の建築物に設けられ、鋼板などの金属板を所定のピッチで曲げ加工して形成された折板屋根に、発泡性を有する樹脂材料からなる断熱発泡層(フォーム層)、及び、断熱層に上塗りされ防水性を有する補強防水層(コート層)を形成するものである。
【0021】
図1は、第1実施形態の表面処理装置の外観斜視図である。
図2は、図1のII-II部矢視図である。
図3は、図1のIII-III部矢視図である。
【0022】
第1実施形態の表面処理装置1は、台車10、ノズルステー20、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40、ノズル駆動装置50、ダクト60、カバーフレーム70等を有する。
処理対象物の屋根100は、その傾斜が最大となる方向(上下方向)に沿って伸びた頂面110、第1斜面120、底面130、第2斜面140を、順次配列して構成された折板屋根である。
以下の説明において、ある頂面110とこれに隣接する第1斜面120、第2斜面140の上半部によって構成される凸面部を山部、ある底面130とこれに隣接する第1斜面120、第2斜面140の下半部を谷部と称して説明する。
【0023】
台車10は、表面処理装置1の基部となる部分であって、屋根100の上を折板屋根の山部、谷部の長手方向に沿って自走する機能を有する。
台車10の本体部は、屋根100の主平面の法線方向から見た平面形が、図1図3に示すように、矩形のボード状に形成されている。
台車10は、車輪11、駆動用モータユニット12を有する。
【0024】
車輪11は、台車10から下方に突出したステーに取り付けられ、屋根100の表面に沿って転動する転動体である。
車輪11は、台車10の四隅にそれぞれ設けられ、その走行方向は屋根100の底面130の長手方向に沿って配置されている。
一対の車輪11は、屋根100の谷部における底面130の第1斜面120側の端部近傍に設けられ、他の一対の車輪11は、隣接する他の谷部における底面130の第2斜面140側の端部近傍に設けられている。
このような構成により、台車10は、折板屋根の谷部をレールとして、これに案内され走行することが可能となっている。
【0025】
駆動用モータユニット12は、車輪11に駆動力を伝達するアクチュエータである。
駆動用モータユニット12は、台車10が屋根100の端部に到達した際に自動的に停止する自動停止機能を有する。
発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40は、駆動用モータユニット12の自動停止に応じて、噴射を停止する機能を備えている。
【0026】
ノズルステー20は、台車10の本体部から、屋根100の上方にオーバーハングするよう突出して配置された片持ち梁状の部材である。
ノズルステー20は、台車10から、折板屋根の山部、谷部の長手方向(塗装時における台車10の走行方向)と実質的に直交する方向に延在している。
ノズルステー20は、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40が取り付けられる部材である。
ノズルステー20は、台車10に対して、その長手方向に沿って相対変位可能に支持されている。
【0027】
発泡剤噴射装置30は、屋根100の表面に発泡性を有する樹脂材料(第1の材料)を、スプレーSfとして噴射し、断熱発泡層を形成するものである。
この材料(発泡剤・フォーム剤)として、例えば、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、又は、これらの混合物等の樹脂製発泡剤を用いることができる。
例えば、主剤としてポリオール、ポリプレングリコール(PPG)を主成分とする樹脂を用いることができる。
また、フェノール系樹脂、又は、ノボラック系熱可塑性樹脂を主成分としたフェノール系樹脂の主剤、又は、それらの混合物を主剤として用いることもできる。
これらの主剤に対し、イソシアネート等の架橋剤を、混合比略1:1で混合して発泡させ、充填剤、添加剤等を加えて噴射用の材料とする。
イソシアネートはノンフロン発泡剤の一種であり、水との反応により二酸化炭素ガスを発生し、材料を発泡させる機能を有する。
この材料が屋根100の表面に噴射されると、直ちに発泡を開始して、例えば数十秒程度で断熱発泡層が形成される。
【0028】
コート剤噴射装置40は、屋根100の表面における断熱発泡層が形成された領域に、補強防水層を構成する樹脂材料(第2の材料)を、スプレーScとして噴射するものである。
この材料(コート剤)の主剤として、例えば、ポリオール、ポリプレングリコール(PPG)を主成分とするポリウレタン系樹脂を用いることができる。
この主剤に対し、イソシアネート等の架橋剤を、混合比略1:1で混合し、充填剤、添加剤等を加えて、コート剤とすることができる。
【0029】
発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40は、ノズルが屋根100を指向する姿勢において、ノズルステー20に取り付けられている。
発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40は、台車10側から順次設けられている。
屋根の横方向(山部、谷部の長手方向と直交する側)における発泡剤噴射装置30とコート剤噴射装置40との間隔は、屋根100における隣接する山部の頂面110の間隔と実質的に同等に設定されている。
各噴射装置のノズル軸心の配置(指向方向及びその推移)など詳細は後に詳しく説明する。
発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40は、そのノズル部が揺動(首振り)することにより、発泡剤噴射装置30及びコート剤噴射装置40のノズル軸心が、屋根100の第1斜面120を指向する第1の状態と、第2斜面140を指向する第2の状態とを切り替える機能を備えている。
【0030】
ノズル駆動装置50は、ノズルステー20をその長手方向に沿って台車10に対して相対移動させ、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40が第1の状態、第2の状態を切り替えた際に、ノズル軸心が適正な位置となるように各噴射装置の位置を調整するものである。
ノズル駆動装置50は、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40の第1の状態から第2の状態への切替と連動して、ノズルステー20を台車10側へ繰り出す方向に駆動するとともに、第2の状態から第1の状態への切替と連動して、ノズルステー20を台車10から引き込む方向に駆動する。
このような機能により、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40は、図4に示すような挙動が可能となっている。
【0031】
ダクト60は、例えば地上に設置された図示しない材料供給手段から、加圧され送出された発泡剤及びコート剤を、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40に供給する管路である。
ダクト60は、例えば、可撓性を有するフレキシブルなチューブ状に形成され、本体部10に対してノズルステー20が突出した側とは反対側の領域で取り回されている。
【0032】
カバーフレーム70は、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40を被覆する図示しないカバー部材が取り付けられる構造体である。
カバーフレーム70は、台車10の車輪11による走行方向、及び、これと直交する方向から見た平面形が、それぞれ矩形となる枠状に形成されている。
カバーフレーム70は、台車10の走行方向から見たときに、台車10から各噴射装置側へ、片持ち支持により張り出して配置されている。
【0033】
以下、第1実施形態の表面処理装置を用いた表面処理方法について説明する。
図4は、第1実施形態の表面処理装置における折板屋根の表面処理方法を模式的に示す図である。
図5は、第1実施形態の表面処理装置における噴射箇所のパスを模式的に示す図である。
【0034】
図4において、図4(a)乃至図4(d)は、時系列における各噴射装置の噴射状態を示している。
発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40のノズル部は、発泡剤からなるスプレーSf、コート剤からなるスプレーScが、頂面110に対して台車10側とは反対側の第2斜面140を指向する第1の状態と、頂面110に対して台車10側の第1斜面120を指向する第2の状態とを切換可能となっている。
例えば、発泡剤噴射装置30のノズル部と、コート剤噴射装置の40のノズル部とは、台車10の走行方向に沿って配置された回転軸回りに、ノズルステー20に対して回動(揺動)可能となっている。
また、ノズル駆動装置50は、各ノズルの回動に応じて、ノズルステー20を長手方向に沿って移動させることにより、各ノズルの軸心方向が所定の斜面を適切に指向するよう調整する機能を備えている。
【0035】
先ず、図4(a)に示すように、発泡剤噴射装置30のノズル軸心を、第1斜面120に指向させ、コート剤噴射装置40のノズル軸心を、隣接する他の谷部の第1斜面120に指向させる。
この状態で発泡剤噴射装置30からスプレーSfを噴射し、コート剤噴射装置40からスプレーScを噴射することにより、各ノズルが指向する第1斜面120及びこれと隣接する頂面110、底面130に発泡剤、コート剤をそれぞれ噴射することができる。
この状態で、図5に示すように、台車10を屋根100の一方向(例えば、図5における上向き方向)に走行させる。
【0036】
次に、台車10が屋根100の端部に到達した際に、台車10を停止させ、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40の噴射を停止させた状態で、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40のノズル方向を変換するとともにノズル駆動装置50でノズルステー20を繰り出し、ノズル軸心が第2斜面140を指向する状態とする。
この状態で、図4(b)に示すように、発泡剤噴射装置30からスプレーSfを噴射し、コート剤噴射装置40からスプレーScを噴射することにより、第2斜面120及びこれと隣接する頂面110、底面130に発泡剤、コート剤をそれぞれ噴射することができる。
この状態で、図5に示すように、台車10を屋根100の他方向(例えば、図5における下向き方向)に走行させる。
【0037】
以上の処理により、発泡剤噴射装置30の下方にある谷部を挟んだ第1斜面120、第2斜面140、及び、これと隣接する頂面110、底面130に、発泡剤を噴射することができる。
発泡剤は、噴射された後短時間(例えば数十秒)で発泡し、硬化して断熱発泡層Fを形成する。
また、コート剤噴射装置40の下方にある谷部を挟んだ第1斜面120、第2斜面140、及び、これと隣接する頂面110、底面130に、コート剤を噴射することができる。
当該コート剤は、発泡剤を噴射した後、当該発泡剤が発泡する前に噴射してもよいが、発泡した後に噴射することが好ましい。
コート剤は、既に形成された断熱発泡層の表面に噴射されるが、コート剤は複数回噴射を行うことが好ましいため、以下説明するコート剤のみの噴射を行う。
【0038】
図4(b)の状態で噴射を行いつつ台車10を走行させ、屋根100の端部に到達した際に、台車10を停止させ、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40の噴射を停止させた状態で、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40のノズル方向を変換するとともにノズル駆動装置50でノズルステー20を引き込み、ノズル軸心が第1斜面120を指向する状態とする。
この状態で、図4(c)に示すように、コート剤噴射装置40のみ噴射を行い、台車10を図5における上方へ走行させる。
その後、台車10が図5における屋根100の上端部に到達した後に、台車10を停止させ、コート剤噴射装置40の噴射を停止させた状態で、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40のノズル方向を変換するとともにノズル駆動装置50でノズルステー20を繰り出し、ノズル軸心が第2斜面140を指向する状態とする。
この状態で、図4(d)に示すように、コート剤噴射装置40のみ噴射を行い、台車10を図5における下方へ走行させる。
このようなコート剤噴射装置40のみを用いた噴射を繰り返すことにより、コート剤を所定の回数だけ重ね吹きし、所望の補強防水層(コート層)Cの厚さを得ることができる。
【0039】
上述したように、コート剤を所定の回数(例えば2~4回程度)だけ重ね吹きした後、表面処理装置1は、例えば作業者あるいはクレーンなどの外部機器により、台車10が屋根100の山部を一山跨ぐよう、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40側から見て台車10側(図5等における右側)へ移動される。
その後、図4(a)以降の処理を順次繰り返すことにより、折板屋根である屋根100の表面に、断熱発泡層及び補強防水層を良好な品質で迅速に施工することができる。
【0040】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)台車10を屋根100の表面に沿って移動させながら発泡剤、コート剤を噴射することによって、発泡剤、コート剤の塗布厚さのばらつき(ムラ)を抑制し、断熱発泡層及び補強防水層の厚さを均一化することができる。
また、発泡剤噴射装置30及びコート剤噴射装置40を、共通の台車10に設けることにより、発泡剤の塗布後、短時間のうちにコート剤を塗布することが容易であり、表面処理の施工品質を向上することができる。
(2)発泡剤、コート剤を噴射する際の台車10の走行方向を、屋根100の上下方向(最大斜度方向)に沿って配置することにより、これと直交する方向に延在するムラが形成されることを防止し、雨水等の排水性を確保することができる。
(3)台車10が屋根100の山部及び谷部の長手方向に沿って走行しながら発泡剤、コート剤を噴射することにより、上述した効果を確実に得ることができる。
(4)折板屋根の谷部を、台車10の車輪11を案内するレールとして利用することにより、簡単な構成により十分な精度で台車10を走行させることができる。
(5)十分な塗布厚さを確保しにくい第1斜面部120、第2斜面部140を指向して発泡剤、コート剤を噴射することによって、第1斜面部120、第2斜面部140における十分な塗布厚さを確保するとともに、頂面110において塗布厚さがキノコ状に過度に大きくなることを防止できる。
(6)異なった方向に傾斜した第1斜面120、第2斜面140への噴射を、発泡剤噴射装置30、コート剤噴射装置40の状態を推移させながら共通の噴射装置で行うことにより、装置の構成を簡素化することができる。
特に、塗装を加圧して送出するコンプレッサ等の構成を簡素化することができ、屋根に施工する場合に地上に準備する機材を少なくすることができる。
(7)折板屋根の山部、谷部に沿って台車10を走行させながら発泡剤、コート剤を噴射した後に、山部、谷部を跨ぐ方向に台車10を送り、同様の処理を繰り返すことにより、広範囲の施工を簡単かつ高い品質で行うことができる。
(8)発泡剤を噴射せずコート剤のみを噴射する行程を設けることにより、断熱発泡層の表面に補強防水層を十分な塗布厚さとなるまで塗布することができ、施工品質をより向上することができる。
(9)台車10の同一の移動行程において発泡剤噴射装置30とコート剤噴射装置40とが異なった山部あるいは谷部に噴射を行うことにより、発泡剤を噴射した後に適度な時間間隔をおいてコート剤を噴射することができる。
(10)各噴射装置を支持するノズルステー20が台車10から片持ち支持され、台車10が噴射済みの領域から遠ざかる方向に順次送られることにより、断熱発泡層が形成された領域の表面を台車10の車輪11が走行することを防止でき、断熱発泡層を保護して施工品質をよりいっそう向上することができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した表面処理装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図6は、第2実施形態の表面処理装置の外観斜視図である。
図7は、図6のVII-VII部矢視図である。
図8は、図6のVIII-VIII部矢視図である。
【0042】
図6乃至図8に示すように、第2実施形態の表面処理装置1Aは、第1実施形態の表面処理装置1の構成に、横走車輪80、ジャッキ90、レールRを付加したものである。
なお、図6乃至図9において、ダクト60、カバーフレーム70は図示を省略する。
また、第2実施形態においては、ノズルステー20の基部から上方に突出したブラケット21と、ノズルステー20との間に張線22を設けて、ノズルステー20の支持強度の補強を図っている。
横走車輪80、ジャッキ90、レールRは、表面処理装置1Aを屋根100の山部を跨ぐ方向へ移動させる際(横走させる際)に用いられるものである。
【0043】
レールRは、屋根100の上部に着脱可能に載置され、表面処理装置1Aの横走を案内する部材である。
レールRは、例えば、平行に配置された一対の案内部材を両端部で結合することにより、矩形の枠状に形成されている。
レールR自体は比較的軽量であることから、作業者が手作業により屋根100の複数の頂面110を跨ぐように載置することが可能である。
レールRは、案内部材が折板屋根の山部、谷部の延在方向と直交する方向となるように配置される。
【0044】
横走車輪80は、表面処理装置1Aの横走時に、レールRの案内部材上を走行する転動体である。
横走車輪80は、台車10の本体部の下方に突出したブラケットの下端部に設けられている。
横走車輪80は、台車10に対して上下方向に相対変位可能に取り付けられている。
【0045】
ジャッキ90は、横走車輪80を、台車10に対して上下方向に相対変位させる駆動装置(移動体離間部)である。
ジャッキ90は、横走車輪80の下側にレールRを設置し、横走車輪80を台車10から下方に突き出すことにより、台車10をレールRに対して上昇させる機能を有する。
ジャッキ90は、例えば、電動式、油圧式などのアクチュエータにより昇降する構成とすることができる。
【0046】
図9は、第2実施形態の表面処理装置において台車をジャッキにより上昇させた状態を示す図である。
図9に示す状態においては、台車10の車輪11が屋根100の頂面110よりも高い状態まで上昇しており、台車10はレールRに沿って屋根100の山部、谷部を跨ぐ方向に移動することができる。
台車10の横走方向の移動が終了した後、ジャッキ90により、車輪11が屋根100の底面130に接し、かつ横走車輪80がレールRから離間するまで、横走車輪80を台車10に対して上昇(台車10を屋根100に対して下降)させた後、レールRは例えば作業者の手作業により移動またはすることができる。
【0047】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、軽量かつ簡単な構成により、屋根の山部、谷部を跨ぐ方向の移動を、容易かつ省力化して行うことができる。
【0048】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用した表面処理装置の第3実施形態について説明する。
図示しない第3実施形態の表面処理装置においては、発泡剤噴射装置30とコート剤噴射装置40とを、台車10の走行方向(屋根100の山部、谷部の長手方向)に沿って配列している。
第3実施形態の表面処理装置1においては、先ず発泡剤噴射装置30から発泡剤を噴射した状態で台車10を屋根100の山部、谷部に沿って1行程走行させ、その後、コート剤噴射装置40からコート剤を噴射した状態で同じ軌跡に沿って1行程又は複数行程走行させることにより、断熱発泡層及び補強防水層の施工を順次行う。
以上説明した第3実施形態によれば、表面処理装置の構成をコンパクト化して装置の可搬性などを向上することができる。
【0049】
<第4実施形態>
次に、本発明を適用した表面処理装置の第4実施形態について説明する。
図示しない第4実施形態の表面処理装置においては、第1実施形態における方向可変式のノズルを有する発泡剤噴射装置30及びコート剤噴射装置40に代えて、屋根100の第1斜面120、第2斜面140をそれぞれ指向する複数のノズルを有する発泡剤噴射装置30及びコート剤噴射装置40を備えている。
以上説明した第4実施形態によれば、噴射される材料の供給装置の構成は複雑化するものの、装置の可動部分を減らして耐久性、信頼性を向上することができる。
【0050】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)表面処理装置及び表面処理方法の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
(2)各実施形態においては、1台の表面処理装置に発泡剤噴射装置及びコート剤噴射装置を一組ずつ搭載しているが、1台の表面処理装置に、複数の発泡剤噴射装置、複数のコート剤噴射装置を設けてもよい。
また、コート剤からなる補強防水層をさらに被覆する他の材料を噴射する噴射装置を設けてもよい。
(3)表面処理装置が山部、谷部を跨ぐ方向の移動を行う移動装置の構成は、第2実施形態の構成に限らず、適宜変更することが可能である。
(4)各実施形態においては、表面処理を行う対象物は一例として折板屋根であったが、本発明はこれに限定されず、例えばスレート屋根などの折板屋根以外の屋根や、建物の壁面など、他の対象物の表面処理にも適用することができる。
(5)各実施形態において、処理対象物の屋根100は、その傾斜が最大となる方向に沿って頂面110、第1斜面120、底面130、第2斜面140が延びる構成を示したが、必ずしも傾斜が最大となる方向でなくてもよく、この場合、表面処理装置1は、屋根の傾斜方向に沿って移動するものであればよく、傾斜が最大となる方向に沿って移動するものである必要はない。
【符号の説明】
【0051】
1,1A 表面処理装置 10 台車
11 車輪 12 駆動用モータユニット
20 ノズルステー 21 ブラケット
22 張線 30 発泡剤噴射装置
40 コート剤噴射装置 50 ノズル駆動装置
60 ダクト 70 カバーフレーム
80 横走車輪 90 ジャッキ
R レール
100 屋根 110 頂面
120 第1斜面 130 底面
140 第2斜面
Sf 発泡剤のスプレー Sc コート剤のスプレー
F 断熱発泡層 C 補強防水層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9