(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】二核化配位子又は二核金属錯体
(51)【国際特許分類】
C07D 257/02 20060101AFI20230816BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20230816BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230816BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C07D257/02 CSP
A61P35/00
A61K31/555
A61K31/395
A61P35/02
A61P35/04
(21)【出願番号】P 2019167715
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 政人
(72)【発明者】
【氏名】角谷 優樹
(72)【発明者】
【氏名】畑 真知
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)で示されることを特徴とする二核化配位子(下記式において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基であり、R
7は、多環式芳香族複素環
基又は多環式芳香族炭化水素
基であり、nは1~8の整数である。)。
【化1】
【請求項2】
前記多環式芳香族複素環
基は、アクリジン、キサンテン、カルバゾールまたはポルフィリンおよびその誘導体であることを特徴とする請求項1記載の二核化配位子。
【請求項3】
前記多環式芳香族炭化水素
基は、フェナントレン、ピレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン又はオバレンであることを特徴とする請求項
1記載の二核化配位子。
【請求項4】
下記化学式(II)で示されることを特徴とする請求項1に記載の二核化配位子。
【化2】
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の二核化配位子を有することを特徴とする核酸切断剤。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の二核化配位子を有することを特徴とする抗がん剤。
【請求項7】
下記化学式(III)で示されることを特徴とする二核金属錯体(下記式において、(i)Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、又はCeであり、(ii)Rは、多環式芳香族複素環
基又は多環式芳香族炭化水素
基であり、nは1~8の整数である。)。
【化3】
【請求項8】
下記化学式(IV)で示されることを特徴とする請求項7に記載の二核金属錯体。
【化4】
【請求項9】
請求項7又は8項に記載の二核金属錯体を有することを特徴とする核酸切断剤。
【請求項10】
請求項7又は8項に記載の二核金属錯体を有することを特徴とする抗がん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二核化配位子又はその二核化配位子を有する二核金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する化学療法剤として臨床に用いられている金属錯体にシスプラチンがある。シスプラチンは、細胞のDNAに結合してDNAの立体構造をゆがませることにより抗がん作用を示す。しかし、シスプラチンは正常細胞のDNAにも作用し、嘔吐や腎毒性といった副作用を示す場合があり、また近年では白金耐性がんも報告されている。これらの問題点を解決する為、シスプラチンに代わる抗がん剤の開発が求められる。
【0003】
例えばブレオマイシンは、がん細胞の中で鉄と結びついて酸素を活性化させ、それによってDNA鎖を切断してがん細胞の増殖を抑制する(非特許文献1)。ブレオマイシンは、人の皮膚、頭頸部、子宮頸部等の扁平上皮がんや悪性リンパ腫に対する優れた化学療法剤として臨床医学で広く使用されている。しかし、ブレオマイシンは、放線菌Streptomyces Verticillusから得られる水溶性の糖ペプチド抗生物質であり、微生物に依存しない簡易な合成法により得られる化学療法薬が求められる。
【0004】
ブレオマイシンの活性中心を模倣したN4Py配位子の鉄錯体は、過酸化水素と反応して活性種を形成し、それがDNAを酸化的に切断して抗がん活性を示すことが報告されている(非特許文献2)。しかし、この鉄錯体は過酸化水素が存在しない条件下でも高いDNA切断活性を示す為、正常細胞とがん細胞の選択性を示さない。そこで、正常細胞とがん細胞の選択性を有する金属錯体の開発が必要である。
【0005】
がん細胞は正常細胞に比べて過酸化水素(H2O2)などのROS濃度が高い。そこで、正常細胞に作用せず、がん細胞を選択的に死滅させる副作用のない抗がん剤の開発に向けてH2O2によるDNA酸化切断を促進する金属錯体が注目される。発明者らはp-cresolの2,6-位にアミド結合でcyclenを導入した新規二核化配位子の二核銅錯体[Cu2(μ-OH)(bcamide)](ClO4)2(1)を開発し、H2O2によるDNAの酸化切断に成功した(特許文献1)。しかし、この錯体はがん細胞であるHeLa細胞に対する細胞毒性が低く、改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】H. Umezawa, K. Maeda, T. Takeuchi, Y. Okami, J. Antibiot., 19 A, 200 (1966).
【文献】Q. Li, M. G. P. Wijst, H. G. Kazemier, M. G. Rots, G. Roelfes, ACS Chem. Biol., 9, 1044-1051 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、簡易に合成でき的確な抗がん作用を有する、二核化配位子又はその二核化配位子を有する二核金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる二核化配位子は下記化学式(I)で示される。
【0010】
【0011】
ここで、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基である。R7は、R多環式芳香族複素環化合物又は多環式芳香族炭化水素化合物であり、nは1~8の整数である。
【0012】
本発明にかかる二核金属錯体は下記化学式(III)で示される。
【0013】
【0014】
ここで、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、又はCeである。Rは、多環式芳香族複素環化合物又は多環式芳香族炭化水素化合物であり、nは1~8の整数である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正常細胞に影響が少なく、がん細胞の核酸切断作用を的確に有する二核化配位子又は二核金属錯体を簡易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明にかかる二核化配位子の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】本発明にかかる二核金属錯体のESI-MSを示す図である。
【
図3】本発明にかかる二核金属錯体のDNA酸化切断活性を示す図である。
【
図4】本発明にかかる二核金属錯体のDNA酸化切断活性を示す図である。
【
図5】本発明にかかる二核金属錯体の細胞毒性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0018】
本発明者は、鋭意研究の結果、下記式にかかる二核化配位子が高い核酸切断作用を有することを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0019】
【0020】
ここで、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基である。R7は、多環式芳香族複素環化合物又は多環式芳香族炭化水素化合物である。多環式芳香族複素環化合物は、三環式以上でかつ複素環を一つ以上含む化合物であり、π共役系の平面性の高い構造を有する化合物である。多環式芳香族炭化水素化合物は、ヘテロ原子を含まない芳香環が縮合した炭化水素化合物であり、好ましくは三環式以上の化合物である。nは1~8の整数であるが、好ましくは1~3であり、更に好ましくは2である。
【0021】
R7は、錯体の細胞導入を促進し、錯体によるH2O2のDNA酸化切断を促進させるために設定される。多環式芳香族複素環化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリジン、キサンテン又はカルバゾールであり、好ましくは下記に示されるアクリジンである。多環式芳香族複素環化合物の結合部位は特に限定されるものではなく、例えば下記に示すようにアクリジンでは1位~9位までの置換基導入可能な炭素原子があるが何れの炭素原子も結合部位とすることができ、好ましくは9位、1位又は8位の炭素原子である。
【0022】
【0023】
多環式芳香族炭化水素化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、フェナントレン、ピレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン又はオバレンであり、好ましくは下記に示されるフェナントレンである。多環式芳香族炭化水素化合物の結合部位は特に限定されるものではなく、例えば下記に示すようにフェナントレンでは1位~10位までの置換基導入可能な炭素原子があるが何れの炭素原子も結合部位とすることができ、好ましくは後述の実施例に示されるように9位又は10位の炭素原子である。
【0024】
【0025】
なお、R7は、錯体の細胞導入を促進し、錯体によるH2O2のDNA酸化切断を促進させるために設定されるが、多環式芳香族複素環化合物又は多環式芳香族炭化水素化合物以外に、マイナーグルーブバインダー(minor groove binder)とすることも可能であり、具体的にはdistamycin Aやnetropsin等が挙げられる。DNA二重らせんのminor grooveにおいて結合する分子は、配列選択性を持つ。そのため異常を起こした遺伝子に選択的に作用させることが可能であり、抗がん剤による副作用の軽減につながる。
【0026】
上記式に示される二核化配位子は、化合物構造中にアミド結合を有している新規構造の化合物である。後述するように、本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、化合物とH2O2との反応だけで核酸の切断が可能であるが、アミド結合部分はH2O2によって酸化分解されないため本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は安定して核酸の切断が可能である。
【0027】
本発明においては、下記化学式(II)で示される二核化配位子が好ましい。
【0028】
【0029】
また、本発明者は、下記式にかかる二核金属錯体が高い核酸切断作用を有することを新知見として見出した。ここでMは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、又はCeであり、好ましくはCuである。
【0030】
【0031】
本発明においては、下記化学式(VI)で示される二核金属錯体が好ましい。
【0032】
【0033】
上述において、切断される核酸は、DNA又はRNAである。
【0034】
また、本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、がん細胞の核酸を切断できるため、抗がん剤として使用できる。がん細胞はミトコンドリアの機能不全や異常代謝のために正常細部に比べてH2O2濃度が高い。また正常細胞ではH2O2の分解酵素であるカタラーゼがH2O2濃度を低下させている。しかし、がん細胞ではカタラーゼが少なく、正常細胞のようにH2O2を分解できない。またスーパーオキシドイオンを不均化してH2O2を産生するスーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase、 SOD)の活性化が高く、がん細胞は正常細胞と比較してH2O2濃度が高い。本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、化合物とH2O2との反応だけで核酸の切断が可能で有り、がん細胞の核酸を特異的に切断可能である。そのため、本発明によれば、正常細胞に対する影響が少ない。また本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、2つの金属イオン(例えば2つの銅イオン)でH2O2を結合するので、H2O2親和性が高い。そのため生体内で用いられた場合でも微量のH2O2と反応して高い核酸切断活性を示す。
【0035】
また、p-cresolの2、6位にアミド基でcyclenを導入した新規二核化配位子の二核銅錯体だけではH2O2によるDNAの酸化切断は高いものの、癌細胞であるHela細胞に対する細胞毒性が低かったが、上述の化学式(I)で示される二核化配位子において、R7に細胞導入・DNA標的となるフェナントレン、ピレン、アクリジンなどの芳香族基を導入することにより高い細胞毒性及び高いDNAの酸化切断活性を示す。
【0036】
本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、種々のがんに対して使用可能で有り、特に限定されるものではないが、例えば、大腸がん、胃がん、食道がん、結腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、胆嚢がん、胆管がん、胆道がん、直腸がん、卵巣がん、子宮がん、腎がん、膀胱がん、前立腺がん、骨肉腫、脳腫瘍、白血病、筋肉腫、皮膚がん、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、舌がん、骨髄腫、甲状腺がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫等の治療に用いることができる。
【0037】
本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体を有する抗がん剤の投与形態は、特に限定されるものではなく、経口又は非経口のいずれの投与形態でもよい。また、投与形態に応じて適当な剤形とすることができ、例えば注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤等の経口剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水性坐剤等の各種製剤に調製することができる。
【0038】
各種製剤は、薬理的に許容される添加剤、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、界面活性剤、流動性促進剤等を適宜添加して調製できる。賦形剤として、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット等、結合剤として、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等、滑沢剤として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール等、崩壊剤として、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム等、界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等、流動性促進剤として、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を使用可能である。
【0039】
本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体を有する抗がん剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別、症状の程度等を考慮して適宜決定されるが、例えば、成人1日当り10~800mg好ましくは100~200mgで、これを1日1回又は数回に分けて投与できる。
【実施例】
【0040】
(1-1) 1,10-ditosyl-1,4,7,10-tetraoxadecane
2000 mL三口反応容器に回転子、triethylene glycol (31.0 mL、 0.233 mol)、p-toluenesulfonyl chloride (87.0 g、 0.456 mol)、 CH2Cl2(750 mL)を加えた。これを氷浴に浸して攪拌させ、そこに粉状にしたKOH (110 g、 1.96 mol)を少しずつ加え、N2を封入したバルーンを取り付け、0°Cに保ったまま3時間攪拌した。反応容器にH2O (450 mL)を加え、これをCH2Cl2 (3 × 225 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCH2Cl2で洗い込み濾液を集めて、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮すると白色固体を得た。これをhot acetoneに溶解させて再結晶させると白色固体が得られた(92.5 g、 Yield 88%)。
【0041】
【0042】
(1-2) 1,8-diazido-3,6-dioxaoctane
300 mLナスフラスコに回転子、1,10-ditosyl-1,4,7,10-tetraoxadecane (46.7 g、 0.102 mol)、 tetrabutylammonium iodide (TBAI、 1.94 g、 5.26 mmol)、 sodium azide (27.1 g、 0.417 mol)、DMF (150 mL)を入れて遮光し、脱気及び窒素置換した後、80°Cで24時間攪拌した。反応容器を室温に戻した後、DMFをロータリーエバポレーターで除去した。Et2O (340 mL)を加えて不溶塩をヌッチェで濾過し、濾液をH2O (3 × 135 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のEt2Oで洗い込み、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮すると黄色の油状物質が得られた (18.5 g、 Yield 91%)。
【0043】
【0044】
(1-3) 1-amino-8-azido-3,6-dioxaoctane
1000 mLナスフラスコに回転子、1,8-diazido-3,6-dioxaoctane (18.5 g、 92.4 mmol)、EtOAc (130 mL)、1 M HCl (164 mL)を加えた。これに200 mL等圧滴下漏斗を取り付け、そこにtriphenylphosphine (PPh3、 23.2 g、 88.5 mmol)をEtOAc (130 mL)に溶解させた溶液を入れ、激しく攪拌させながらゆっくり滴下した。15時間後、EtOAc層を取り除き、残った水層をEtOAc (3 × 100 mL)で分液した。EtOAc層を取り除き、この水層のpHを1 M NaOH水溶液で14にした後、CHCl3(3 × 240 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を入れて脱水した後、ヌッチェで濾過し、ロータリーエバポレーターで濾液を濃縮すると黄色の油状物質 (13.6 g、 Yield 84%)を得た。
【0045】
【0046】
(1-4) 3,5-diformyl-4-hydroxybenzoic acid
1L三口反応容器に回転子、CF3COOH (TFA、 180 mL)、 4-hydroxybezoic acid (10.1 g、 73.1 mmol)、 hexamethylenetetramine (HNT、 84.1 g、 0.600 mol)を加え、110°Cの油浴で遮光して2日間還流した。室温に戻した後、4 M HCl (450 mL)を加えて30°Cで一晩攪拌し、H2Oで洗浄しながらヌッチェで濾過するとオレンジ色の濾液が得られた。真空乾燥すると黄色の固体が得られた (9.88 g、 Yield 70%)。
【0047】
【0048】
(1-5) N-(8-azido-3,6-dioxaoctyl)-3,5-diformyl-4-hydroxybenzamide
2L三口反応容器に三方コック、バルーンを取り付け、氷浴に浸し、回転子、3,5-diformyl-4-hydroxybenzoic acid (4.57 g、 23.5 mmol)、CHCl3 (700 mL)を加え溶かした。1-amino-8-azido-3,6-dioxaoctane (13.6 g、 78.1 mmol)をCHCl3 (100 mL)に溶かして加え、EDC・HCl (15.0 g、 78.2 mmol)、Et3N (10.7 mL、 76.8 mmol)を加えた。CHCl3 (120 mL)を加えて脱気及び窒素置換した後、24時間攪拌した。その後、1 M HCl (480 mL)を加え室温で激しく攪拌した。TLC (シリカゲル、展開溶媒:EtOAc/MeOH = 10 : 1)で反応追跡して副生成物がほとんどないことを確認した後、2L分液漏斗に移して有機層を取り出し、Na2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCHCl3で洗いこみ濾液を集めてロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥した。これをCHCl3 (120 mL)に溶解させ、H2O (3 × 40 mL)で分液洗浄した。有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥すると茶褐色の固体が得られた(6.52 g、 Yield 79%)。
【0049】
【0050】
(1-6) 5-(8-azido-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-2-hydroxyisophthalic acid
300 mLナスフラスコに回転子、Ag2O (13.1 g、 56.4 mmol)、 N-(8-azido-3,6-dioxaoctyl)-3,5-diformyl-4-hydroxybenzamide (6.52 g、 18.6 mmol)を入れ、ここにH2O (130 mL)に溶解させたNaOH (6.34 g、 158 mmol)を加えて60°Cで一晩攪拌した。これを最小量のhot H2O (25 mL)で洗浄しながら桐山漏斗で濾過し、濾液を氷浴に浸しながら12 M HClを用いてpHを1にすると、白色の沈殿が得られた。これを桐山漏斗で濾過、真空乾燥すると白色固体が得られた(4.72 g、 Yield 66%)。
【0051】
【0052】
(1-7) N,O,O-tritosyl diethanolamine
300 mLナスフラスコに回転子を入れ、三方コック、バルーンを取り付けて真空乾燥した。反応容器を氷浴に浸し、p-toluenesulfonyl chloride (57.4 g、 0.301 mol)、CH2Cl2(70 mL)を加えて溶解させた。これに200 mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け、2,2’-iminodiethanol (10.7 g、 0.102 mol)、benzyltriethylammonium chloride (9.14 g、 40.1 mmol)、 NaOH (12.0 g、 0.300 mol)をH2O (75 mL)に溶解させた溶液を等圧滴下漏斗にいれ、ゆっくり滴下した。滴下終了後、発熱が収まるまで室温で攪拌した。反応溶液を300 mL分液漏斗に移し、有機層を取り、これをH2O (3 × 50 mL)で分液洗浄した。有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCH2Cl2で洗い込み、濾液を集めてロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥すると透明な油状物質を得た。これに適量のMeOHを加えて激しく攪拌すると白色固体が析出したので、これをヌッチェで濾過すると白色固体が得られた(35.1 g、 Yield 61%)。
【0053】
【0054】
(1-8) 1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetratosylate
1L三口反応容器に回転子を入れ、200 mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付けて真空乾燥した。反応容器を氷浴に浸し、diethylene-1,4,7-triamine tritosylate (36.1 g、 63.8 mmol)、 DMF (150 mL)、NaH (約60% in oil、 5.08 g、 0.212 mol)を加え、脱気及び窒素置換した後、H2ガスの発生が収まるまで攪拌した。この後、反応容器を油浴に浸し、70°Cまでゆっくり温度を上げた後、30分程度攪拌し、続いて90°Cまでゆっくり温度を上げ、30分程度攪拌した。N,O,O-tritosyl diethanolamine (36.1 g、 63.6 mmol)をDMF (150 mL)に溶解させた溶液を等圧滴下漏斗に加え、反応溶液にゆっくり滴下した。滴下終了後、そのまま一晩攪拌を続けた。DMFを減圧留去した後、大量のH2O、 Et2O、 EtOHで洗浄しながらヌッチェで濾過し、真空乾燥すると白色固体が得られた(48.2 g、Yield 96%)。
【0055】
【0056】
(1-9) 1,4,7,10-tetraazacyclododecane tetrahydrochloride
1Lナスフラスコに回転子を入れ、還流管、三方コック、バルーンを取り付けて真空乾燥した。反応容器に1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetratosylate (48.1 g、 61.0 mmol)、 conc. H2SO4 (35 mL)を加え、150°Cで1時間攪拌した。室温に戻した後、EtOH (260 mL)、 Et2O (420 mL)の順にゆっくり滴下した。得られた灰色の沈殿をヌッチェで濾過した後、得られた固体を500 mLマイヤーに移し、最少量のH2Oに溶解させた。これをセライト濾過して少量のH2Oで洗い込み、濾液を集めて濃縮すると黒色の油状物質が得られた。これに、12 M HCl (50 mL)、 EtOH (300 mL)を加えて攪拌すると灰色の固体が得られた(9.41 g、 Yield 48%)。
【0057】
【0058】
(1-10) 1,4,7-tetraazacyclododecane
300 mLビーカーにダウエックスTM 1 × 8 200-400メッシュ強塩基性I型陰イオン交換樹脂(Cl型)を入れ、1 M HClに溶解させた。これをヌッチェで濾過した後、得られた濾過物を蒸留水に溶解させ、綿、海砂を詰めたクロマト管に流し入れた。1 M HClを滴下物のpHが1になるまで加えた後、蒸留水を用いてpHを5にした。続いて、1 M NaOHをpHが12になるまで加えた後、蒸留水を用いてpHを7にした。そこに1,4,7,10-tetraazacyclododecane tetrahydrochloride (1.50 g、 4.72 mmol)を最少量の蒸留水に溶解させた溶液を入れ、pHが塩基性の滴下物を集めた。この溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると黄色の固体が得られた。これをCHCl3に溶解させ、Na2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCHCl3で洗い込み、濾液を集めて、ロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥し、冷蔵庫内で放置すると黄色の固体が得られた(0.772 g、Yield 95%)。
【0059】
【0060】
(1-11) N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane
300 mLナスフラスコに回転子を入れ、三方コック、バルーンを取り付けて真空乾燥した。反応容器を氷浴に浸し、1,4,7,10-tetraazacyclododecane (3.22 g、 18.7 mmol)、CHCl3(90 mL)、Et3N (7 mL、 50.2 mmol)を加えた。これに100 mL等圧滴下漏斗を取り付け、di-tert-butyl dicarbonate (Boc2O、 11.0 g、 50.4 mmol)をCHCl3(70 mL)に溶解させた溶液を加え、6時間かけて滴下した。H2O (3 × 50 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCHCl3で洗い込み、濾液を集めて、ロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると白色固体が得られた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3/MeOH 100:1)で精製し、目的物が入っているフラクションを集めてロータリーエバポレーターで濃縮すると、白色固体が得られた(3.62 g、Yield 41%)。
【0061】
【0062】
(1-12) 5-(8-azido-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)-1-carbamoyl)-2-hydroxybenzene
300 mLナスフラスコに回転子を入れ、三方コック、バルーンを取り付けて真空乾燥した。反応容器に5-(8-azido-3,6-dioxoaoctyl)carbamoyl)-2-hydroxyisophthalic acid (2.36 g、 6.17 mmol)、 SOCl2 (90 mL)を加え、60°Cで4時間反応させた。SOCl2を減圧留去した後、CH2Cl2(120 mL)に溶解させ、N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane (6.77 g、 14.3 mmol)、 K2CO3 (7.67 g、 55.5 mmol)、 CH2Cl2(240 mL)の入った500 mL三口反応容器にN2雰囲気下で加え、脱気及び窒素置換した後、室温で一晩攪拌した。反応混合物を桐山漏斗で濾過して少量のCH2Cl2で洗い込み、濾液を集めて、H2O (3 × 200 mL)で分液洗浄し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCH2Cl2で洗い込み、濾液を集めて濃縮し、真空乾燥すると茶色の固体が得られたので、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒:gradient CHCl3/MeOH from 150/1 to 100/1)で精製した。目的物が入っている溶離液を集め、ロータリーエバポレーターで濃縮すると、白色固体が得られた(2.59 g、Yield 32%)。
【0063】
【0064】
(1-13) 5-(8-amino-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene
200 mLナスフラスコに窒素置換したバルーン付きの三方コックを取り付け、回転子、原料で5-(8-azido-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene(414.1 mg、 0.32 mmol)、10% Pd-C (350.9 mg)を入れ、dry MeOH (25 mL)を加えた。反応容器全体をよく脱気窒素置換した後、脱気水素置換し、 水素雰囲気下で一晩攪拌した。反応の進行をTLC (シリカゲル、 展開溶媒:CHCl3/MeOH = 100 : 1)及びESI-MSスペクトルで追跡して原料がないことを確認した後、 セライト濾過を行い、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。これを真空乾燥して褐色固体が得られた (341.4 mg、Yield 84%)。
【0065】
【0066】
(1-14) phenanthrene-9-carboxylic acid
500 mL三口フラスコに窒素置換したバルーン付きの三方コックを取り付け、回転子、原料である9-bromophenanthrene (5.18 g、 20.1 mmol)を入れ、一つの口にセプタムを取り付け、もう一つの口には玉栓を取り付け、脱気置換して窒素雰囲気下にした。シリンジを用いて窒素下でdry Et
2O (200 mL)を加え、EtOH浴を用いて-30°Cまで冷却した。-30°Cに温度を保ち、シリンジを用いてn-BuLi (15 mL)を加えた。1時間攪拌して反応させた後、窒素バルーンをCO
2ガスバルーンと付け替えて、1時間30分程度激しく攪拌して反応させた。その後、反応容器を氷浴に移し、H
2O (90 mL)を加え、一晩攪拌させた。攪拌を止め、反応混合物に1 M NaOHを加えてpH 11に調整した後、EtOAc (2 × 200 mL)とhexane (2 × 200 mL)で分液洗浄した後、水層を取り、これに1 M HClを加えてpH 1に調整すると、 白色固体が析出した。これを吸引ろ過で集め、真空乾燥すると白色固体(1.23 g)が得られた。生成量が少ないと考え、分液時の有機層をロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると白色固体(2.64 g)が得られた。それぞれの
1HNMRスペクトルを測定して確認すると、いずれもが目的物であることが分かった(
図1)。これらを集め、白色固体(3.87 g、 Yield 86%)を得た。
【0067】
【0068】
(1-15) phenanthrene-9-carbonyl chloride
30 mLナスフラスコに回転子、 phenanthrene-9-carboxylic acid (199.8 mg、 89.9 mmol)、 SOCl2(3.5 mL)、 そしてDMFをパスツールを用いて2滴加えた後、 ジムロート、 塩化カルシウム管を取り付け、 60°Cのオイルバスで攪拌した。3時間攪拌した後、 室温に戻し、 アスピレーターを用いて、 SOCl2を留去すると黄色固体が生成した。その固体に少量のベンゼンを加えると、 不溶塩が生成するので、 桐山ロートと吸引瓶を用いて、 吸引濾過し、 濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると卵白色の固体 (205.8 mg、Yield 95%)が得られた。
【0069】
【0070】
(1-16)5-(9-phenanthrene-8-carbamoyl-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene
100 mL二口ナスフラスコに回転子、 5-(8-amino-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene (341.4 mg、 0.27 mmol)を入れ、 dry THF (25 mL)に溶かした後、 Et3N (0.1 mL)加えると溶液が橙色に変化した。 それを、 氷浴中で、 激しく攪拌しながら、phenanthrene-9-carbonyl chloride (62.6 mg、 0.26 mmol)をTHF (5 mL)に溶かしたものをパスツールでゆっくりと加えた。加えた後、 窒素置換したバルーン付きの三方コックを取り付け、 脱気窒素置換後、 氷浴に浸しながら攪拌した。1時間攪拌後、 室温に戻し、 一晩攪拌した。 ロータリーエバポレーターでTHFを留去すると、 橙色の油状物質が生成した。 その物質をCHCl3 (30 mL)とH2O (15 mL)に溶解させ、 CHCl3(2 × 30 mL)で分液し、 CHCl3層 (90 mL)を更にH2O (2 × 30 mL)で洗浄し、 有機層にNa2SO4を加えて脱水した。 ヌッチェを用いて吸引濾過し、 真空乾燥すると褐色固体が得られた。
【0071】
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH = 100:1) で精製し、 ロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると白色固体が得られた (257.7 mg、Yield 63%)。
【0072】
【0073】
(1-17) [3,5-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide)-4-hydroxybenzenecarboxy]-(phenanthrene-9-carboxy)-3,6-dioxaoctane-1,8-N,N’-diamide・6HCl
100 mLナスフラスコに回転子、 5-(9-phenanthrene-8-carbamoyl-3,6-dioxaoctyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclo-dodecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene (248.6 mg、 0.17 mmol)を入れ、 EtOH (10 mL)に溶かした。 氷浴に浸しながら、 12 M HCl (3.5 mL)をゆっくりと加えた後、 二日間攪拌した。 ESI-MSで原料が残っていないことを確認した後、 ロータリーエバポレーターで濃縮すると白色固体が得られた (180.6 mg、Yield 98%)。
【0074】
【0075】
(1-18) 1,13-ditosyl-1,4,7,10,13-pentaoxadecane
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、反応容器にtetraethylene glycol (19.6 g、 0.10 mol)、 p-toluenesulfonyl chloride (40.5 g、 0.21 mol)、 CH2Cl2(300 mL)を加えた。これを氷浴に浸しながら攪拌させ、そこに粉状にしたKOH (43.1 g、 0.77 mol)を少しずつ加え、窒素置換したバルーン付きの三方コックを取り付け、脱気窒素置換後、0°Cに保ったまま3時間攪拌した。反応容器にH2O (160 mL)を加え、これをCH2Cl2(3 × 100 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCH2Cl2で洗い込み、濾液を集めて、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮すると無色の油状物質(56.6 g、Yield quant.)を得た。
【0076】
【0077】
(1-19) 1,11-diazido-3,6,9-trioxaundecane
500 mLナスフラスコに回転子、1,13-ditosyl-1,4,7,10,13-pentaoxaundecane (56.6 g、113 mmol)、tetrabutylammonium iodide (TBAI、 2.04 g、 5.52 mmol)、 sodium azide (22.8 g、 351 mmol)、 DMF (180 mL)を入れて遮光し、窒素置換したバルーン付きの三方コックを取り付け、脱気窒素置換後、80°Cで24時間攪拌した。 反応容器を室温に戻した後、 DMFをロータリーエバポレーターで留去した。Et2O (350 mL)を加えて不溶塩をヌッチェで濾過し、濾液をH2O (3 × 120 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェを用いて吸引濾過して少量のEt2Oで洗い込み、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると黄色の油状物質が得られた(22.4 g、Yield 81%)。
【0078】
【0079】
(1-20) 1-amino-11-azido-3,6,9-trioxaundecane
500 mLナスフラスコに回転子、1,11-diazido-3,6,9-trioxaundecane (22.4 g、 91.8 mmol)、EtOAc (130 mL)、 1 M HCl (160 mL)を加えた。これに200 mL等圧滴下漏斗を取り付け、そこにtriphenylphosphine (PPh3、 24.0 g、 91.5 mmol)をEtOAc (130 mL)に溶解させた溶液を入れ、激しく攪拌させながらゆっくり滴下した。15時間後、EtOAc層を取り除き、残った水層をEtOAc (2 × 100 mL)で分液した。EtOAc層を取り除き、この水層のpHを1 M NaOH水溶液で11にした後、CHCl3(3 × 120 mL)で分液し、有機層にNa2SO4を入れて脱水した後、ヌッチェを用いて吸引濾過し、ロータリーエバポレーターで濾液を濃縮し、真空乾燥すると黄色の油状物質を得た(16.5 g、Yield 82%)。
【0080】
【0081】
(1-21) N-(11-azido-3,6,9-trioxaundecanyl)-3,5-diformyl-4-hydroxybenzamide
1Lナスフラスコを氷浴に浸し、回転子、3,5-diformyl-4-hydroxybenzoic acid (2.64 g、 13.6 mmol)、 CHCl3 (370 mL)を加え溶かした。1-amino-11-azido-3,6,9-trioxaundecane (16.5 g、 75.4 mmol)をCHCl3 (150 mL)に溶かして加え、EDC・HCl (8.15 g、 42.5 mmol)、 Et3N (6.0 mL、 43.1 mmol)を加えた。窒素置換したバルーン付きの三方コックを取り付け、加えて脱気窒素置換後、24時間攪拌した。その後、1 M HCl (270 mL)を加え室温で激しく攪拌した。TLC (シリカゲル、 展開溶媒:EtOAc/MeOH = 10 : 1)で反応追跡して原料がほとんどないことを確認した後、2 L分液漏斗に移して有機層を取り出し、Na2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過して少量のCHCl3で洗いこみ濾液を集めてロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥した。これをCHCl3 (90 mL)に溶解させ、H2O (3 × 30 mL)で分液洗浄した。有機層にNa2SO4を加えて脱水した後、ヌッチェで濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥すると茶褐色の固体が得られた (3.57 g、Yield 67%)。
【0082】
【0083】
(1-22) N-(11-azido-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-2-hydroxyisophthalic acid
300 mLナスフラスコに回転子、N-(11-azido-3,6,9-trioxaundecanyl)-3,5-diformyl-4-hydroxybenzamide (3.57 g、 9.05 mmol)、 Ag2O (6.51 g、 28.1 mmol)を入れ、ここにH2O (65 mL)に溶解させたNaOH (3.39 g、 84.8 mmol)を加えて60°Cで一晩攪拌した。これを最小量のhot H2O (13 mL)で洗浄しながら桐山漏斗を用いて吸引濾過し、濾液を氷浴に浸しながら12 M HClを用いてpHを1にすると、白色の沈殿が得られた。これを桐山漏斗を用いて吸引濾過し、真空乾燥すると白色固体が得られた(1.94 g、Yield 50%)。
【0084】
【0085】
(1-23)5-((11-azido-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene
100 mL二口フラスコに回転子を入れ、三方コック、バルーンを取り付けて真空乾燥した。反応容器にN-(11-azido-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-2-hydroxyisophthalic acid (280.3 mg、 0.66 mmol)、 1-[bis(dimethylamino)methylene]-1H-benzotriazolium 3-oxide tetrafluoroborate (TBTU、 666.1 mg、 2.07 mmol)、 dry DMF (20 mL)を加え、溶かした。Boc3cyclen (1.04 g、 2.20 mmol)をdry DMF (10 mL)に溶かし反応容器に加えN,N-diisopropylethylamine (DIPEA、 0.8 mL、 4.46 mmol)を加えた。脱気及びN2置換した後、室温で遮光して一晩攪拌させた。1HNMRで原料がないことを確認し、ロータリーエバポレーターで濃縮すると褐色液体が得られた。これにH2O (60 mL)、 CHCl3(60 mL)を加え、CHCl3 (3 × 60 mL)で分液後、H2O (3 × 60 mL)で分液洗浄し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した。ヌッチェで濾過し、真空乾燥すると茶色の泡状固体が得られた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH = 150:1 → 100:1) で精製し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると褐色固体が得られた (383.6 mg、Yield 44%)。
【0086】
【0087】
(1-24)5-(11-amino-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene
200 mLナスフラスコに回転子、5-(11-azido-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene (363.4 mg、 0.27 mmol)、 Pd-C (308.3 mg)を入れ、dry MeOH (20 mL)を加えた後、三方コック、バルーンを取り付け、反応容器全体をよく脱気窒素置換した後、脱気水素置換し、水素雰囲気下で一晩攪拌した。反応の進行をTLC (シリカゲル、展開溶媒:CHCl3/MeOH = 100 : 1)及びESI-MSスペクトルで追跡して原料がないことを確認した後、セライト濾過を行い、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると褐色固体が得られた (331.8 mg、Yield 93%)。
【0088】
【0089】
(1-25) 5-(9-phenanthrene-11-carbamoyl-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene
100 mL二口ナスフラスコに回転子、5-(11-amino-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene (331.8 mg、 0.25 mmol)を入れ、dry THF (20 mL)に溶かした後、Et3N (0.15 mL)加えた。それを、氷浴中で激しく攪拌しながら、phenanthrene-9-carbonyl chloride (53.8 mg、 0.22 mmol)をTHF (5 mL)に溶かしたものをパスツールでゆっくりと加えた。加えた後、三方コックとバルーンを取り付け、脱気窒素置換後、氷浴に浸しながら攪拌した。1時間攪拌後、室温に戻し、一晩攪拌した。ロータリーエバポレーターでTHFを留去すると、橙色の油状物質が生成した。その物質をCHCl3 (30 mL)とH2O (15 mL)に溶解させ、CHCl3(2 × 30 mL)で分液し、CHCl3層 (90 mL)を更にH2O (2 × 30 mL)で洗浄し、有機層にNa2SO4を加えて脱水した。ヌッチェで濾過し、真空乾燥すると褐色固体が得られた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH = 100:1 → 80:1) で精製し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると白色固体が得られた(309.2 mg、Yield 81%)。
【0090】
【0091】
(1-26) [3,5-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide)-4-hydroxybenzenecarboxy]-(phenanthrene-9-carboxy)-3,6,9-trioxaundecane-1,11-N,N’-diamide・6HCl
100 mLナスフラスコに回転子、5-(9-phenanthrene-11-carbamoyl-3,6,9-trioxaundecanyl)carbamoyl)-1,3-di((N,N’,N”-4,7,10-tris(tert-butoxycarbonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecanyl)carbamoyl)-2-hydroxybenzene (302.1 mg、 0.20 mmol)を入れ、EtOH (10 mL)に溶かした。氷浴に浸しながら、12 M HCl (4.5 mL)をゆっくりと加えた後、二日間攪拌した。ESI-MSで原料が残っていないことを確認した後、ロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥すると白色固体が得られた (192.5 mg、Yield 85%)。
【0092】
【0093】
(2-1)二核金属錯体[Cu2(μ-OH)(bcamide-PEG3-phen)](ClO4)2(2)の合成
100 mLナスフラスコに [3,5-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide)-4-hydroxybenzenecarboxy]-(phenanthrene-9-carboxy)-3,6-dioxaoctane-1,8-N,N’-diamide・6HCl (90.4 mg、 0.0831mmol)入れた。NaOH (193.4 mg)を秤量し、Mill-Qに溶かし、1 M NaOHaqに調整した溶液を100 mLナスフラスコに507 μL加え、pHが中性になったことを確認した後、真空乾燥すると、卵白色の固体が生成した。この固体をCH2Cl2に溶解させ、無機塩をセライト濾過で取り除いた。その濾液をエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると、白色固体が生成した。
【0094】
Cu(ClO
4)
2(72.4 mg、 0.195 mmol)を秤量し、これをMeOH (2 mL)に溶解させた溶液を100 mLナスフラスコに入れ、そこに回転子を入れた。この溶液を攪拌しながら、乾燥しておいた白色固体をMeOH (3 mL)に溶かしものをパスツールでゆっくりと加えていくと、溶液は青色から薄緑色に変化した。それと同時に緑色沈殿が生成した。そこに1 M NaOHaqを少しずつ入れていくと、薄緑色から濃緑色へと溶液が変化した。この沈殿を吸わないように、パスツールで濃緑色溶液を吸い、別の100 mLナスフラスコに移した。このナスフラスコに回転子を入れ、攪拌しながらEt
2Oを加えていくと、青緑色の不溶物が生成した。ESI-MSで原料が残っていないことを確認した後(
図2)、この不溶物を吸引濾過で集め、真空乾燥すると青緑色固体を得られた (82.1 mg、Yield 82%)。
【0095】
【0096】
(2-2)二核金属錯体[Cu2(μ-OH)(bcamide-PEG4-phen)](ClO4)2(3)の合成
100 mLナスフラスコに[3,5-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide)-4-hydroxybenzenecarboxy]-(phenanthrene-9-carboxy)-3,6,9-trioxaundecane-1,11-N,N’-diamide・6HCl (29.0 mg、 0.0256mmol)入れた。NaOH (380.4 mg)を秤量し、Mill-Qに溶かし、1 M NaOHaqに調整した溶液を100 mLナスフラスコに162 μL加え、pHが中性になったことを確認した後、真空乾燥すると、卵白色の固体が生成した。この固体をCH2Cl2に溶解させ、無機塩をセライト濾過で取り除いた。その濾液をエバポレーターで濃縮し、真空乾燥すると、白色固体が生成した。
【0097】
Cu(ClO4)2 (21.6 mg、 0.582 mmol)を秤量し、これをMeOH (1 mL)に溶解させた溶液を100 mLナスフラスコに入れ、そこに回転子を入れた。この溶液を攪拌しながら、乾燥しておいた白色固体をMeOH (2 mL)に溶かしものをパスツールでゆっくりと加えていくと、溶液は青色から薄緑色に変化した。それと同時に緑色沈殿が生成した。そこに1M NaOHaqを少しずつ入れていくと、薄緑色から濃緑色へと溶液が変化した。この沈殿を吸わないように、パスツールで濃緑色溶液を吸い、別の100 mLナスフラスコに移した。このナスフラスコに回転子を入れ、攪拌しながらEt2Oを加えていくと、青緑色の不溶物が生成した。この不溶物を吸引濾過で集め、真空乾燥すると青緑色固体を得られた(14.2 mg、Yield 44%)。
【0098】
【0099】
(3)二核銅錯体[Cu2(μ-OH2)bcamide](ClO4)2(1)、[Cu2(μ-OH)(bcamide-PEG3-phen)](ClO4)2(2)、[Cu2(μ-OH)(bcamide-PEG4-phen)](ClO4)2(3)の酸化的切断反応のH2O2濃度依存性
錯体1、 2、 3については、以下に示す様にH2O2によるDNAの酸化切断を行った。本測定のために[NaCl] = 10 mM、 [buffer] = 10 mM (pH 6.0 (MES))、 [complex] = 10 μM、 [pUC19 DNA] = 10 μM bp、 [H2O2] = 0-500 μMとなるように37℃にて溶液を調製して測定を行った。過酸化水素濃度が0-500 μMの条件での反応において0, 10, 20, 40, 60分ごとに、それぞれ反応溶液を一部とり、各時間におけるpUC19 DNA の切断状況をアガロースゲル電気泳動によって測定した。
【0100】
各錯体の酸化切断反応のH
2O
2濃度依存性の結果を
図3、
図4に示す。
図3において(a)はblankであり、(b)は錯体1であり、(c)は錯体2であり、(d)は錯体3であり、pH 6.0における時間(分)経過によるForm Iの減少を示す。
図4において(a)は錯体1であり、(b)は錯体2であり、(c)は錯体3であり、pH 6.0における時間(分)経過によるForm IIの増加を示す。
図4において(d)は錯体1であり、(e)は錯体2であり、(f)は錯体3であり、pH 6.0における時間(分)経過によるForm IIIの増加を示す。H
2O
2のみのblank実験において、DNAは全く切断されないことがわかった。各錯体においては、H
2O
2の濃度に依存して切断活性が大きく向上することが見出された。錯体1は二核構造を持つため、2つの銅イオンがH
2O
2の2つの酸素原子と結合し、低濃度のH
2O
2でも容易に二核銅架橋ハイドロパーオキソ錯体を生成してDNAを酸化的に切断することが当研究室で見出されている。これと同様の理由で錯体2及び3も容易にH
2O
2を活性化してDNAを酸化的に切断していると考えられる。
【0101】
また、H2O2濃度が500 μMにおいてForm IIIの生成割合は錯体1で14.2%、錯体2で26.8%、錯体3で23.7%となることがわかった。このことから、DNAインターカレーターであるフェナントレンを導入した二核銅錯体2、 3は、錯体1と比較してDNAと強く結合し、またその位置が固定され、最初に切断した位置付近のDANを再度切断できる構造が形成されたため、高いDNA酸化的切断活性を示したと考えられる。さらに、錯体2と3のForm IIIの生成割合を比較すると、錯体2の方が高い割合を示すことがわかった。これは、フェナントレンを結合するために導入したスペーサーの長さによるものだと考えられる。錯体2のスペーサーは錯体3のそれよりも短く、このため、DNA切断に関わる架橋ハイドロパーオキソ錯体がより近位に存在することが可能になり、二本鎖DNAの切断活性が向上したため、高いDNA酸化的切断活性を示したと考えられる。
【0102】
ブレオマイシンはDNAの酸化切断を触媒する。ブレオマイシンは高い抗がん活性を示す抗生物質(抗がん性抗生物質)である。これはブレオマイシンががん細胞のDNAを酸化切断して、がん細胞を細胞死させるためである。ここで、ブレオマイシンは鉄錯体であり、鉄(III)状態ではH2O2と反応して速やかにactive bleomycinと呼ばれる活性型のブレオマイシンを生じる。これは鉄(III)のハイドロパーオキソ錯体と考えられている。さらに、ハイドロパーオキソのO-O結合の開裂により酸化活性種が生じると推定されている。また、ブレオマイシンにはDNA minor groove バインダーが存在しており、それを結合するためにスペーサー部位も存在する。この様にH2O2を酸化剤として働くブレオマイシンに代わる新たな抗がん剤として構造が類似している錯体2及び3が有用であると考えられる。
【0103】
(4) 二核金属錯体1、2、3の細胞毒性
各錯体による細胞毒性をMTT assayによって評価した。即ち細細胞内に取り込まれたMTT〔3-(4, 5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2, 5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド〕は、ミトコンドリアにある脱水素酵素により還元され、ホルマザン色素が生じる。色素量は代謝活性のある細胞数と相関するため、これを比色法(吸光度570 nm)で定量することにより、生細胞数を測定した。MTT/培養液(0.25 mg/0.5 mL)を加えて37℃で180分間処理したHeLa細胞をマイクロチューブに入れ、生成したホルマリン色素の抽出を行った。抽出終了後、分光光度計を用いて570nmの吸光度を測定してデータを得た。この結果を
図5に示す。HeLa細胞を各錯体に暴露後24時間後の細胞毒性は、錯体2 > 3 >> 1の順であった(表1)。
【0104】
【0105】
上述してきたように、錯体1と2、 3の違いはフェナントレンの有無である。この様に、フェナントレンを導入したことで錯体2、3の細胞毒性が大きく向上したのは化合物の疎水性が向上し、細胞膜透過性が高くなったことが考えられる。また、2が3よりも高い細胞毒性を示したのは、スペーサーの長さによるものだと考えられる。この結果はDNAの酸化切断実験とも一致している。すなわち、細胞内の低濃度のH2O2で2本鎖DNAを切断可能な錯体2が最も高い細胞独資絵を示したと考えられる。さらに、これらの結果から、錯体2、 3はHeLa細胞の細胞膜を透過して細胞内に入り、さらに核に入ることによってDNA切断を行い、これを通して細胞毒性を発現したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
抗がん剤として利用可能である。