(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】磁化プラズモイド射出装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/26 20060101AFI20230816BHJP
H05H 1/16 20060101ALI20230816BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20230816BHJP
G21B 1/05 20060101ALN20230816BHJP
G21B 1/11 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
H05H1/26
H05H1/16
C23C14/22 Z
G21B1/05
G21B1/11 Z
(21)【出願番号】P 2020553979
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042585
(87)【国際公開番号】W WO2020090890
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018207684
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】浅井 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 大地
(72)【発明者】
【氏名】関 太一
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-57454(JP,A)
【文献】特開2014-051699(JP,A)
【文献】特開2006-310101(JP,A)
【文献】国際公開第2015/002131(WO,A1)
【文献】石川 有宰 他,同軸イオン加速法による炭素薄膜生成における膜硬度の電界強度依存性,平成28年度 日本大学理工学部 学術講演会予稿集,O-36,日本,日本大学理工学部,2016年12月03日,1186-1187頁
【文献】高津 幹夫 他,磁化同軸プラズマガンによる新奇成膜法の開発,平成25年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集,O-11,日本,日本大学理工学部,2013年12月07日,1187-1188頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
C23C 14/22
G21B 1/00-3/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化プラズモイド射出装置であって、
円筒状の外部電極と、
前記外部電極の内部に同軸状に配置される円筒状の内部電極と、
前記外部電極と前記内部電極との間にプラズマ生成ガスをパルス状に供給するプラズマ生成ガス供給部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に磁化プラズモイドを生成する磁界を印加する磁界発生部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加するプラズマ電源と、
前記磁化プラズモイドに不純物を含有させる不純物生成部と、
を具備し、
前記不純物生成部が、前記外部電極に開口するカバー電極と、前記カバー電極内に位置し不純物からなる針状電極と、前記カバー電極と前記針状電極とに電圧を印加する不純物生成電源と、を有することを特徴とする磁化プラズモイド射出装置。
【請求項2】
前記不純物生成部が、複数設けられることを特徴とする請求項1記載の磁化プラズモイド射出装置。
【請求項3】
前記不純物生成部の前記針状電極が、前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向外側に配置されることを特徴とする請求項1記載の磁化プラズモイド射出装置。
【請求項4】
前記不純物生成部への電圧印加と同時か、または、前記電圧印加後に、前記外部電極と前記内部電極との間に電圧印加をおこなうことを特徴とする請求項1記載の磁化プラズモイド射出装置。
【請求項5】
前記不純物生成部の前記カバー電極が、前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の径方向間隔よりも小さな内径寸法を有する円筒状とされることを特徴とする請求項1記載の磁化プラズモイド射出装置。
【請求項6】
前記プラズマ生成ガス供給部が、前記外部電極に開口するノズルを有し、前記ノズルが前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向に沿って配置されることを特徴とする請求項1記載の磁化プラズモイド射出装置。
【請求項7】
前記プラズマ生成ガス供給部の前記ノズルと、前記不純物生成部の前記針状電極とが、前記外部電極と前記内部電極との軸線に交差する同一平面に沿って配置されることを特徴とする請求項6記載の磁化プラズモイド射出装置。
【請求項8】
磁化プラズモイド射出装置であって、
円筒状の外部電極と、
前記外部電極の内部に同軸状に配置される円筒状の内部電極と、
前記外部電極と前記内部電極との間にプラズマ生成ガスをパルス状に供給するプラズマ生成ガス供給部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に磁化プラズモイドを生成する磁界を印加する磁界発生部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加するプラズマ電源と、
を具備し、
前記プラズマ生成ガス供給部が、前記外部電極に開口するノズルを有し、前記ノズルが前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向に沿って配置されることを特徴とする磁化プラズモイド射出装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか記載の磁化プラズモイド射出装置を備え、前記磁化プラズモイド射出装置から前記磁化プラズモイドを射出することを特徴とする磁気閉じ込めプラズマ装置。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか記載の磁化プラズモイド射出装置と、被処理基板保持部とを備え、前記磁化プラズモイド射出装置から前記被処理基板保持部で保持した被処理基板に前記磁化プラズモイドを射出することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項10記載のプラズマ処理装置が、プラズマ成膜、プラズマエッチング、をおこなうことを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁化プラズモイド射出装置に関し、特に不純物を含有する磁化プラズモイドを高速で射出する際に用いて好適な技術に関する。本願は、2018年11月02日に出願された日本国特許出願第2018-207684号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
スフェロマックプラズマを生成する装置として、磁化同軸プラズマ生成装置が知られている。磁化同軸プラズマ生成装置とは、同軸状に配置された外部電極と内部電極との間に電圧を印加し、両電極間に放電を起こさせることでプラズマを生成させるものである。この際、このプラズマにバイアス磁場を印加すると、放電電流による磁場と共に、バイアス磁場を含んだ状態で放出され、スフェロマックプラズマとなる。ここで、スフェロマックプラズマとは、自分自身に流れる電流によってポロイダルとトロイダルの両閉じ込め磁場が発生し、その磁場構造の持つ磁気ヘリシティを保存するように配位を自己組織化するものである。
【0003】
このような装置は、磁化プラズモイドを容易に秒速数十から数百km程度で射出できることから、磁化プラズモイド高速射出装置として磁場閉じ込めプラズマヘの燃料粒子供給などに利用されている。
このような装置の例として、本発明者らは特許文献1に示すような出願をおこなっている。
【0004】
また、磁化プラズモイド高速射出装置は、プラズマ生成時の電流によって電極がスパッタリングされる効果を有する。磁化プラズモイド高速射出装置は、このスパッタリング効果を強調して、金属元素などの不純物をプラズモイドヘ混入および射出することで成膜をおこなうこともできる。
このような装置の例として、本発明者らは、高融点金属を含む合金薄膜であっても安価に生成可能な合金薄膜生成装置に関して、特許文献2および特許文献3に示すような出願をおこなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第6278414号公報
【文献】日本国特開2014-51699号公報
【文献】日本国特開2017-057454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載された装置では、磁化プラズモイド中に不純物を含有させる際、プラズマを発生させるための内部電極を不純物源としている。したがって、特許文献1および特許文献2に記載された装置では、混入させる元素の変更や電極損耗に応じて、内部電極の換装が必要となる。このため、これを改善したいという要求があった。
【0007】
特に、磁化プラズモイドを磁場閉じ込めプラズマヘ入射する場合には、精密に管理された超高真空容器に取り付けられた大型の磁化プラズモイド高速射出装置を使用することになる。このため、電極の換装はコストや作業面でも現実的ではないという問題があった。
【0008】
さらに、これらの特許文献の装置では、プラズマを発生させるための内部電極を不純物源として、トレーサーとなる不純物を磁場閉じ込めプラズマヘ注入する場合がある。さらに、これらの特許文献の装置では、プラズマを発生させるための内部電極を不純物源として、より精密な不純物量制御の必要がある成膜をおこなう場合がある。これらのような場合には、プラズマに混入させる不純物量を、上記の特許文献に記載された装置で実現できる程度に比べて、より精密に制御したいという要求がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.磁化プラズモイドに含有させる不純物濃度の正確性を向上すること。
2.トレーサー元素含有コンパクトトロイド(Tracer contained Conpact Toroid : TCCT)を射出する手法を提供可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、磁化プラズモイド射出装置であって、
円筒状の外部電極と、
前記外部電極の内部に同軸状に配置される円筒状の内部電極と、
前記外部電極と前記内部電極との間にプラズマ生成ガスをパルス状に供給するプラズマ生成ガス供給部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に磁化プラズモイドを生成する磁界を印加する磁界発生部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加するプラズマ電源と、
前記磁化プラズモイドに不純物を含有させる不純物生成部と、
を具備し、
前記不純物生成部が、前記外部電極に開口するカバー電極と、前記カバー電極内に位置し不純物からなる針状電極と、前記カバー電極と前記針状電極とに電圧を印加する不純物生成電源と、を有することにより上記課題を解決した。
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記不純物生成部が、複数設けられることができる。
本発明において、前記不純物生成部の前記針状電極が、前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向外側に配置されることが好ましい。
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記不純物生成部への電圧印加後に、前記外部電極と前記内部電極との間に電圧印加をおこなうことが可能である。
また、本発明において、前記不純物生成部の前記カバー電極が、前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の径方向間隔よりも小さな内径寸法を有する円筒状とされる手段を採用することもできる。
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記プラズマ生成ガス供給部が、前記外部電極に開口するノズルを有し、前記ノズルが前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向に沿って配置されることができる。
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記プラズマ生成ガス供給部の前記ノズルと、前記不純物生成部の前記針状電極とが、前記外部電極と前記内部電極との軸線に交差する同一平面に沿って配置されることができる。
本発明は、磁化プラズモイド射出装置であって、
円筒状の外部電極と、
前記外部電極の内部に同軸状に配置される円筒状の内部電極と、
前記外部電極と前記内部電極との間にプラズマ生成ガスをパルス状に供給するプラズマ生成ガス供給部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に磁化プラズモイドを生成する磁界を印加する磁界発生部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加するプラズマ電源と、
を具備し、
前記プラズマ生成ガス供給部が、前記外部電極に開口するノズルを有し、前記ノズルが前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向に沿って配置されることができる。
本発明の磁気閉じ込めプラズマ装置は、上記のいずれか記載の磁化プラズモイド射出装置を備え、前記磁化プラズモイド射出装置から磁化プラズモイドを射出することができる。
本発明のプラズマ処理装置は、上記のいずれか記載の磁化プラズモイド射出装置と、被処理基板保持部とを備え、前記磁化プラズモイド射出装置から前記被処理基板保持部で保持した被処理基板に磁化プラズモイドを射出することができる。
また、本発明のプラズマ処理装置は、プラズマ成膜、プラズマエッチング、をおこなうことができる。
【0011】
本発明は、磁化プラズモイド射出装置であって、
円筒状の外部電極と、
前記外部電極の内部に同軸状に配置される円筒状の内部電極と、
前記外部電極と前記内部電極との間にプラズマ生成ガスをパルス状に供給するプラズマ生成ガス供給部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に磁化プラズモイドを生成する磁界を印加する磁界発生部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加するプラズマ電源と、
前記磁化プラズモイドに不純物を含有させる不純物生成部と、
を具備し、
前記不純物生成部が、前記外部電極に開口するカバー電極と、前記カバー電極内に位置し不純物からなる針状電極と、前記カバー電極と前記針状電極とに電圧を印加する不純物生成電源と、を有する。
れにより、本発明の磁化プラズモイド射出装置では、不純物生成電源がカバー電極と針状電極とに電圧を印加する。この装置は、針状電極を構成している不純物をイオン化あるいは粒子状態として、針状電極から飛散させる。そして、この装置は、不純物を外部電極と内部電極との間に形成される磁化プラズモイド生成空間に拡散させる。その後、この装置は、プラズマ生成ガス供給部からプラズマ生成ガスを磁化プラズモイド生成空間に供給する。この装置は、磁界発生部が外部電極と前記内部電極との間に磁界を印加する。この装置は、プラズマ電源が、外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加する。これにより、この装置は、不純物を含有する磁化プラズモイドを生成して射出する。
これにより、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、従来とは異なり、生成・射出する磁化プラズモイドが含有する不純物の種類を、内部電極を構成している不純物の種類に依存することなく、針状電極を構成している不純物の種類を設定することによって、異なる種類とすることができる。さらに、この装置は、生成・射出する磁化プラズモイドが含有する不純物の量を精密に制御することが可能となる。
【0012】
ここで、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、針状電極の径寸法、および、外部電極と内部電極との間に形成される磁化プラズモイド生成空間に対する配置、および、不純物生成電源によって印加する電圧、磁化プラズモイド生成空間における不純物拡散状態、不純物拡散と磁化プラズモイド生成との時間(タイミング)を設定することによって、生成・射出する磁化プラズモイドが含有する不純物の量を精密に制御することが可能となる。
【0013】
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記不純物生成部が、複数設けられることができる。これにより、複数の不純物生成部における針状電極を形成する不純物を、それぞれ異なる種類(元素)とすることで、この装置は、複数種類の不純物を含有する磁化プラズモイドを生成して射出することが可能となる。しかも、この装置は、それぞれの不純物生成部において、含有する不純物量を精密に制御することができる。このため、例えば、スパッタリングなどではターゲットを製造できないような組成、特に複数組成の不純物であっても、この装置は、これらの複数組成の不純物を正確な含有量として含有した磁化プラズモイドを生成・射出することが可能となる。
【0014】
本発明の磁化プラズモイド射出装置において、前記不純物生成部の前記針状電極が、前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向外側に配置されることが好ましい。
これにより、この装置は、外部電極と内部電極との間に形成される磁化プラズモイド生成空間を直接外部空間に対して開放することなく、針状電極のみを容易に交換し、針状電極のみを容易に装着することができる。したがって、この装置は、生成・射出する磁化プラズモイドに含有する不純物を交換する際の作業時間を短縮できる。これにより、磁化プラズモイド射出装置のハンドリング性を向上し、磁化プラズモイド射出装置のメンテナンス時間を短縮することができる。
さらに、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、外部電極と内部電極との間に形成される磁化プラズモイド生成空間において、生成される磁化プラズモイドに対して、効率的に不純物を含有させることができる。したがって、この装置は、従来の装置において磁化プラズモイドに対して含有させることができなかった不純物を、容易に含有させることが可能となる。
【0015】
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記不純物生成部への電圧印加と同時か、または、前記電圧印加後に、前記外部電極と前記内部電極との間に電圧印加をおこなうことが可能である。つまり、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記不純物生成部の前記不純物生成電源による電圧印加前後に、前記プラズマ電源からの電圧印加をおこなうことが可能である。
これにより、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、従来の装置において、磁化プラズモイドに対して含有できなかった不純物を、容易に含有させることが可能となる。同時に、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、磁化プラズモイドに対して含有させる不純物濃度を正確に制御することが可能となる。なお、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記プラズマ生成ガス供給部から前記プラズマ生成ガスの供給をおこない、その後、前記不純物生成部の前記不純物生成電源による電圧印加し、その後に、前記プラズマ電源からの電圧印加をおこなうことが可能である。
【0016】
また、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記不純物生成部の前記カバー電極が、前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の径方向間隔よりも小さな内径寸法を有する円筒状とされる手段を採用することもできる。
これにより、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、外部電極と内部電極との間に形成される磁化プラズモイド生成空間を直接外部空間に対して開放することなく、針状電極のみを容易に交換装着することが可能となる。さらに、本発明は、不純物生成部を、既存の磁化プラズモイド射出装置に装着することが容易に可能となる。
【0017】
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記プラズマ生成ガス供給部が、前記外部電極に開口するノズルを有し、前記ノズルが前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向に沿って配置されることができる。これにより、この装置は、ドーナツ状に形成される磁化プラズモイドに対して、効率的にプラズマ生成ガスを供給することが可能となる。
【0018】
本発明の磁化プラズモイド射出装置は、前記プラズマ生成ガス供給部の前記ノズルと、前記不純物生成部の前記針状電極とが、前記外部電極と前記内部電極との軸線に交差する同一平面に沿って配置されることができる。これにより、この装置は、プラズマ生成ガスを供給して、ドーナツ状に形成される磁化プラズモイドに対して、効率的に不純物を含有させることが可能となる。
【0019】
本発明は、磁化プラズモイド射出装置であって、
円筒状の外部電極と、
前記外部電極の内部に同軸状に配置される円筒状の内部電極と、
前記外部電極と前記内部電極との間にプラズマ生成ガスをパルス状に供給するプラズマ生成ガス供給部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に磁化プラズモイドを生成する磁界を印加する磁界発生部と、
前記外部電極と前記内部電極との間に放電電圧を印加するプラズマ電源と、
を具備し、
前記プラズマ生成ガス供給部が、前記外部電極に開口するノズルを有し、前記ノズルが前記外部電極と前記内部電極とで形成される円環状の接線方向に沿って配置されることができる。これにより、本発明の磁化プラズモイド射出装置は、ドーナツ状に形成される磁化プラズモイドに対して、効率的にプラズマ生成ガスを供給することが可能となる。
【0020】
本発明の磁気閉じ込めプラズマ装置は、上記のいずれか記載の磁化プラズモイド射出装置を備え、前記磁化プラズモイド射出装置から磁化プラズモイドを射出することができる。これにより、本発明の磁気閉じ込めプラズマ装置は、内部電極に依存しない不純物を含有した磁化プラズモイドを生成・射出して、磁気閉じ込めプラズマ装置において有用なトレーサー元素を含有した磁化プラズモイドを供給することが可能となる。
【0021】
本発明のプラズマ処理装置は、上記のいずれか記載の磁化プラズモイド射出装置と、被処理基板保持部とを備え、前記磁化プラズモイド射出装置から前記被処理基板保持部で保持した被処理基板に磁化プラズモイドを射出することができる。これにより、本発明のプラズマ処理装置によって薄膜などを形成することで、従来成膜できなかった合金薄膜の生成を容易におこないながら、被処理基板に対する成膜等のプラズマ処理をおこなうことが可能となる。また、本発明のプラズマ処理装置によって薄膜などを形成することで、実現が難しかった不純物組成比の制御を容易におこないながら、被処理基板に対する成膜等のプラズマ処理をおこなうことが可能となる。
【0022】
また、本発明のプラズマ処理装置は、プラズマ成膜、プラズマエッチング、をおこなうことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来は含有させることが困難であった種類の不純物を磁化プラズモイドに含有させることができるとともに、この不純物量を正確に制御した磁化プラズモイドの生成・射出を容易に可能とすることができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態を示す横断面図である。
【
図3】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態における不純物生成部を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態におけるプラズマ電源(電源回路)の一例を示す回路図である。
【
図5】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態における不純物拡散状態を示す横断面図である。
【
図6】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態における磁化プラズモイド生成状態を示す縦断面図である。
【
図7】本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態における磁化プラズモイド生成状態を示す横断面図である。
【
図8】本発明に係る磁気閉じ込めプラズマ装置の第2実施形態を示す模式図である。
【
図9】本発明に係るプラズマ処理装置の第3実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る磁化プラズモイド射出装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置を示す縦断面図である。
図2は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置を示す横断面図である。これらの図において、符号10は、磁化プラズモイド射出装置である。
【0026】
本実施形態に係る磁化プラズモイド射出装置10は、
図1に示すように、外部電極11と、内部電極12と、プラズマ生成ガス供給部13と、電源制御部14と、バイアスコイル(磁界発生部)15と、不純物生成部100と、図示しない磁束保持部と、を有する。
【0027】
外部電極11は、例えば円筒形状の導体からなるものである。また、内部電極12は、外部電極11と同軸状に配置されている。外部電極11と内部電極12との間には、円環状の磁化プラズモイド生成空間が形成される。
【0028】
円筒状の外部電極11の径方向内側で、かつ、円筒状の内部電極12の径方向外側となる空間が、円環状の磁化プラズモイド生成空間とされている。外部電極11の円筒面と、内部電極12の円筒面とは、周方向の全周で互いに同じ径方向離間距離を有するように円環状の磁化プラズモイド生成空間を形成している。
【0029】
磁化プラズモイド射出装置10では、外部電極11の一端がフランジ11aと接続される。内部電極12の一端は、外部電極11の一端よりも外側まで延在する。内部電極12の一端は、内部電極12の一端がフランジ12aと接続されている。フランジ11aおよびフランジ12aは、同軸状に配置される。かつ、フランジ11aおよびフランジ12aは、軸方向に離間して配置される。
【0030】
外部電極11と内部電極12とは、フランジ11aおよびフランジ12aによって位置が固定されている。
フランジ11aは、円筒状の外部電極11の一端とその内径が一致する。フランジ11aは、外部電極11の外側に延在する円環状の板体とされる。
フランジ12aは、円筒状の内部電極12の一端とその内径が一致する。フランジ12aは、内部電極12の外側に延在する円環状の板体とされる。
【0031】
フランジ11aおよびフランジ12aは、互いの対向面が平行状態に離間している。これらフランジ11aおよびフランジ12aは、互いの間が円筒部材17によって接続されている。
円筒部材17は、フランジ11aとフランジ12aとの間の中間位置に円環状の絶縁部材18が配置される。絶縁部材18は、円筒部材17の両端を絶縁状態としている。フランジ11aおよびフランジ12aは、この絶縁部材18により絶縁される。
【0032】
フランジ11aおよびフランジ12aの間の空間は、円周面である円筒部材17、絶縁部材18によって囲まれている。フランジ11aおよびフランジ12aの間の空間は、円筒部材17、絶縁部材18を介して真空状に密閉可能とされる。
円筒部材17および絶縁部材18の径方向内側、かつ、内部電極12の径方向外側である空間は、外部電極11と内部電極12との間に形成された円環状の磁化プラズモイド生成空間と連通している。
【0033】
外部電極11は、他端からプラズマが放出されるように開放端となっている。外部電極11および内部電極12は、磁化せず融点が高く、加工が容易な材質で形成されることが好ましい。例えば、ステンレス等で構成されればよい。
内部電極12の他端は、密閉状態に閉塞されている。内部電極12の内側には、バイアスコイル15が配置される。
【0034】
外部電極11の外周位置には、プラズマ生成ガス供給部13のノズル13aが接続されている。
プラズマ生成ガス供給部13は、外部電極11と内部電極12との間に形成された円環状の磁化プラズモイド生成空間にプラズマ生成ガスを供給するようにノズル13aに接続されている。
【0035】
プラズマ生成ガス供給部13は、プラズマ生成ガス、例えば、水素ガス、ヘリウムガスやアルゴンガス等をノズル13aに供給可能とされる。
【0036】
ノズル13aは、
図2に示すように、外部電極11および内部電極12の軸と直交する面において、これら外部電極11および内部電極12で形成される円環状の磁化プラズモイド生成空間に対して、その接線方向がガス噴出方向となるように配置されている。つまり、ノズル13aは、外部電極11を外部から貫通するように円環状の磁化プラズモイド生成空間に開口し、この円環状の磁化プラズモイド生成空間において、内部電極12の周囲外側を内部電極12の周方向に流れるようにプラズマ生成ガスを噴出する。
【0037】
ノズル13aは、外部電極11を外部から貫通するように外部電極11の内部に向けて開口する。ノズル13aは、外部電極11の内部にプラズマ生成ガスを噴出する。外部電極11および内部電極12は、外部電極11および内部電極12の軸と直交する軸直交面において、外部電極11および内部電極12の間に円環状の磁化プラズモイド生成空間を形成する。磁化プラズモイド生成空間は、外部電極11および内部電極12の軸方向に、ほぼ同じ断面形状を有する。ノズル13aは、軸直交面において、円環状の磁化プラズモイド生成空間に対して、その接線方向にプラズマ生成ガスを噴出する。ノズル13aは、軸直交面において、内部電極12の周囲外側にプラズマ生成ガスを噴出する。ノズル13aは、軸直交面において、内部電極12の接線方向にプラズマ生成ガスを噴出する。ノズル13aは、軸直交面に沿って、プラズマ生成ガスを噴出する。
【0038】
ノズル13aは、
図2に示すように、外部電極11および内部電極12の軸と直交する面において、外部電極11および内部電極12で形成される円環状の磁化プラズモイド生成空間に対して、外部電極11の径方向の両端位置となるように2箇所設置される。2本のノズル13aは、互いに平行状態、かつ、プラズマ生成ガスの噴出方向が互いに逆向きとなるように設定されている。
【0039】
2本のノズル13aは、軸直交面における互いの離間距離が、円環状の磁化プラズモイド生成空間の径寸法とほぼ等しく設定される。2本のノズル13aは、軸直交面における互いの離間距離が、外部電極11の径寸法より小さく設定される。2本のノズル13aは、軸直交面における互いの離間距離が、内部電極12の径寸法より大きく設定される。ここで、軸直交面における2本のノズル13aの互いの離間距離とは、軸直交面に沿うとともに、2本のノズル13aの軸線と直交する方向における距離として定義される。
2本のノズル13aは、互いに等しい開口寸法を有することができる。
ノズル13aにおける開口寸法は、外部電極11の円筒面と内部電極12の円筒面との径方向距離とほぼ同等か、これより小さく設定してもよい。
【0040】
外部電極11の外側には、不純物生成部100が接続されている。
図3は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置における不純物生成部を示す断面図である。
【0041】
不純物生成部100は、
図1,
図3に示すように、磁化プラズモイドに含有させる不純物からなる針状電極101を有する。針状電極101は、円筒状のカバー電極102内に位置している。カバー電極102は、その一端が外部電極11に開口するように接続される。
針状電極101は、不純物として磁化プラズモイドに含有させる導体材料、例えば、タングステン、モリブデン、金などの重金属、あるいは、成膜材料として磁化プラズモイドに含有させる、炭素、クロム、ニオブ、フッ素などの単体もしくはこれらの化合物からなるものとすることができる。
【0042】
さらに、針状電極101に含有させる不純物種類(不純物元素)と、針状電極101としての形成状態(針状電極状態)と、その用途との例を表1に示す。
【0043】
【0044】
カバー電極102の他端側には、カバー電極基部104が接続される。カバー電極基部104には、針状電極101の基端が接続固定されている。カバー電極102は、一端と他端との間に円筒状の絶縁部材103を有する。ている。絶縁部材103は、外部電極11に開口するカバー電極102の一端と、カバー電極基部104と、を絶縁状態に接続する。
針状電極101は、カバー電極102、絶縁部材103、カバー電極基部104に対して、これらの軸線と一致するように中心に配置されている。
カバー電極102、絶縁部材103、カバー電極基部104は、いずれも針状電極101と離間するように、かつ、これらの内部が真空減圧可能に密閉されている。
【0045】
カバー電極基部104は、針状電極101の基端が接続固定された分離部分105が、カバー電極102に対して分離可能とされる。針状電極101の基端は、圧着端子を用いて分離部分105に接続されていてもよい。
具体的には、針状電極101の基端は、圧着端子や止めネジを用いた圧着などを採用して分離部分105に接続することができる。
【0046】
不純物生成部100は、分離部分105をカバー電極基部104側から分離することで、分離部分105および針状電極101を、カバー電極102、絶縁部材103、カバー電極基部104に対して、分離することが可能となっている。なお、カバー電極基部104と分離部分105とは、互いに接続した状態では密閉可能とされる。
カバー電極102が外部電極11に開口する内径寸法は、外部電極11と内部電極12との径方向距離(間隔)とほぼ同等か、これより小さく設定される。つまり、カバー電極102における開口寸法は、外部電極11の円筒面と内部電極12の円筒面との径方向距離とほぼ同等か、これより小さく設定してもよい。
【0047】
不純物生成部100は、
図3に示すように、外部電極11および内部電極12の軸と直交する面において、外部電極11および内部電極12で形成される円環状の磁化プラズモイド生成空間に対して、外部電極11の径方向の両端位置となるように2箇所設置される。2本の不純物生成部100は、互いに平行状態、かつ、針状電極101の先端が互いに逆向きとなるように設定されている。
【0048】
不純物生成部100は、外部電極11および内部電極12の軸と直交(交差)する面において、ノズル13aと直交するように複数配置される。
カバー電極102の配置とノズル13aの配置とは、軸直交面において点対称とすることができる。つまり、カバー電極102とノズル13aとは、外部電極11および内部電極12の軸に対して対称に配置することができる。
【0049】
カバー電極102は、外部電極11を外部から貫通するように外部電極11の内部に向けて開口する。カバー電極102および針状電極101の軸線方向は、軸直交面において、円環状の磁化プラズモイド生成空間に対して、その接線方向に沿って配置される。カバー電極102は、軸直交面において、内部電極12の周囲で径方向外側に針状電極101を位置する。カバー電極102は、軸直交面において、内部電極12の接線方向に針状電極101を位置する。
【0050】
針状電極101の先端の配置としては、磁化プラズモイド生成空間の外側、つまり、円筒状となる外部電極11の表面をカバー電極102の開口部分で延長した円筒面よりも内部電極12側に突出しない位置とすることができる。
【0051】
さらに、針状電極101の先端の配置として、外部電極11よりも磁化プラズモイド生成空間の内部に突出した状態、あるいは、外部電極11よりも磁化プラズモイド生成空間の外側位置、つまり、カバー電極基部104側となる位置である状態とすることもできる。
【0052】
不純物生成部100には不純物生成電源が接続される。
不純物生成電源は、カバー電極102とカバー電極基部104とに接続され、針状電極101のみをスパッタするため、ダイオードを用いたクローバ回路とすることができる。不純物生成電源は、その機能が電源制御部14に含有される。
【0053】
具体的には、クローバ回路は、
図3に示すように、電源V1を有する回路と、コンデンサC02を有する回路とを並列に接続し、それらの回路は、イグナイトロンIT(スイッチ素子)を介して、バイパス用ダイオードD03の回路と負荷であるカバー電極102とカバー電極基部104とに並列に接続してある。コンデンサC02の回路は、クローバ回路であり、コンデンサC02は、クローバ用コンデンサである。コンデンサC02は、充電用コンデンサである。
図3に示すクローバ回路は一例であり、後述するバイアスコイル15のパルス駆動に対して、針状電極101から不純物を拡散可能なスパッタ電圧を印加できるものであれば、この構成に限ることはない。
【0054】
電源制御部14は、プラズマ電源(電源回路)と、バイアスコイル用パルス電源と、不純物生成電源と、これらを制御する制御部と、を有する。
【0055】
電源制御部14におけるプラズマ電源(電源回路)は、外部電極11と内部電極12との間に負荷信号を印加するものである。プラズマ電源(電源回路)は、例えば直流的に負荷信号を印加するものであってもよいし、連続パルス信号を印加するものであってもよい。なお、負荷信号とは、外部電極11と内部電極12間に印加した負荷電圧、またはそのとき流れた負荷電流を意味する。
【0056】
図4は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置におけるプラズマ電源(電源回路)の一例を示す回路図である。
プラズマ電源(電源回路)は、コンデンサC1、インダクタンスL1、抵抗R1の回路と、バイパス用ダイオードD2を並列に接続したコンデンサC2、インダクタンスL2、抵抗R2、ダイオードD1の回路とを並列に接続し、それらの回路は、イグナイトロンIT(スイッチ素子)を介して負荷Fに接続してある。前記ダイオードD1、コンデンサC2等の回路は、パワークローバ回路であり、ダイオードD1は、クローバスイッチ、コンデンサC2は、パワークローバ用コンデンサである。コンデンサC1,C2は、充電用コンデンサである。
【0057】
コンデンサC1,C2は、それらの容量がC1<C2となるように、即ちコンデンサC2は、コンデンサC1よりも容量の大きいものを用いる。コンデンサC1,C2の電圧Vc1,Vc2は、同じ極性で、Vc1>Vc2となるように、即ちコンデンサC1の電圧Vc1がコンデンサC2の電圧Vc2よりも高くなるように充電する。
【0058】
この状態で制御部(図示せず)の制御によりイグナイトロンITを導通すると、コンデンサC1は、放電を開始して放電電流Ic1が流れ、負荷Fに負荷電流IL(=Ic1)が流れる。この際、ダイオードD1は、コンデンサC1の電圧Vc1に対して非導通になるから、コンデンサC2は放電しない。コンデンサC1の放電が進み、コンデンサC1の電圧Vc1がコンデンサC2の電圧Vc2よりも低くなると、ダイオードD1が導通してコンデンサC2が放電を開始し、コンデンサC2の放電電流Ic2が負荷Fに流れる。
以後、負荷Fには、放電電流Ic1,Ic2(IL=Ic1+Ic2)が流れる。負荷電流ILは、ダイオードD2を流れて還流する。したがって負荷電流ILは、非振動の単極減衰電流となる。
【0059】
コンデンサC1のみの場合には、負荷電流は、短時間で減衰してしまうが、容量の大きいコンデンサC2の放電が加わることにより、負荷電流ILは緩やかに減衰する。そして負荷電流ILの立ち上がりは、コンデンサC1によって決まるから急峻になる。即ち、
図4に示すパワークローバ回路は、立ち上りが急峻で減衰の緩やかな負荷電流を供給することができ、1回の充電で連続的にプラズマ塊を生成することができる。
【0060】
図4に示すパワークローバ回路は、容量が小さいコンデンサC1と容量が大きいパワークローバ用のコンデンサC2を用い、コンデンサC1の充電電圧をコンデンサC2の充電電圧よりも高くする。これにより、負荷電流の立ち上り時は、コンデンサC1の放電電流が寄与し、その後は主としてコンデンサC2の放電電流が寄与するから、負荷電流は、立ち上りが急峻になり、減衰は緩やかになる。またクローバスイッチには、ダイオードD1を用い、コンデンサC1の放電電圧がコンデンサC2の充電電圧よりも低くなると、ダイオードD1が自動的に導通してコンデンサC2の放電を開始する。
【0061】
イグナイトロンITは、イグナイトロンに代えて制御部の制御により導通、非導通の切換えが可能な他の半導体スイッチを用いることもできる。またイグナイトロンITは、抵抗R1と直列に、ダイオードD1の接続点よりも抵抗R1側に接続してもよい。また抵抗R1,R2は、小さいほどロスが小さくなり、インダクタンスL1,L2は、小さいほど負荷電流ILの脈動が小さくなる。そしてインダクタンスL1をインダクタンスL2よりも大きくすると、負荷電流ILのコンデンサC1への戻りが小さくなり、負荷電流ILの大部分は、前記パワークローバ回路を経由して流れる。
【0062】
電源制御部14におけるバイアスコイル用パルス電源は、バイアスコイル15をパルス駆動するものである。バイアスコイル用パルス電源は、例えば所定の周波数のサイン波電流をバイアスコイル15に印加可能に構成されている。また、例えばトランジスタを用いて電源(コンデンサ)をインバータ制御して、矩形波の連続パルス信号をバイアスコイル15に印加するようにしてもよい。
【0063】
また、電源制御部14における制御部は、バイアスコイル15をパルス駆動するようにバイアスコイル用パルス電源を制御するとともに、プラズマ電源(電源回路)から外部電極11と内部電極12との間に出力する付加信号を制御するとともに、不純物生成電源を制御するものである。
【0064】
バイアスコイル15は、内部電極12の内部に配置される。これにより、超高真空を得るために必須である真空容器のベーキングが、バイアスコイルの影響を受けることなく可能となる。このため、吸着ガスの除去が可能となる。バイアスコイル15は、外部電極11と内部電極12間に発生したプラズマに対して、バイアス磁場を印加するものである。これにより、プラズマが放電電流による磁場とバイアス磁場を含んだ状態で放出されるので、スフェロマックプラズマが生成されることになる。
【0065】
電源制御部14における制御部は、スフェロマックプラズマが生成されるのに必要なバイアス磁場が外部電極11と内部電極12との間に与えられるのに十分な時間、かつ、磁束保持部へのバイアス磁場の磁束の染み込み時間よりも短い時間でバイアスコイル15をパルス駆動するように、バイアスコイル用パルス電源を制御する。即ち、磁束保持部に磁束が染み込まないような時間間隔でバイアス磁場の磁束の空間分布を制御し、外部電極11と内部電極12の間に効率よく、必要なバイアス磁場を発生させるように制御する。
【0066】
磁束保持部は、バイアスコイル15により印加されるバイアス磁場の磁束を外部に漏らさないようにするために用いられる。
例えば、
図1に示す例では、磁束保持部は外部電極11と一体として形成されている。即ち、外部電極11を銅等、高導電率かつ低透磁率の材料で構成するとともに、その外部電極11の厚みを、バイアス磁場に必要な時間よりも長く、かつ磁束が磁束保持部に染み込む時間よりも短い時間となるのに足りる厚みとなるように設計する。
【0067】
あるいは、磁束保持部は、外部電極11に対して着脱可能に構成されてもよい。これにより、プラズマ生成条件等に応じて磁束保持部の厚みを変えることも可能である。
この場合、磁束保持部は、外部電極11の外形状に合わせ形成される。例えば外部電極11が円筒形状であれば、それに合わせて磁束保持部も円筒形状となる。そして、磁束保持部は、ジャケット状、またはシェル状に、おおむね外部電極11を覆うように構成される。
【0068】
同時に、着脱可能な磁束保持部は、外部電極11の外側に配置される。磁束保持部は、高導電率かつ低透磁率の材料からなるものである。例えば、銅や銅合金等であればよい。磁束保持部の長さについては、バイアスコイル15の長さと同等以上の長さを有していれば、バイアスコイル15から発生するバイアス磁場の磁束を効率よく閉じ込めることが可能となる。
【0069】
磁束保持部の厚みについては、スフェロマックプラズマが生成されるのに必要なバイアス磁場が外部電極11と内部電極12との間に与えられるのに十分な時間だけバイアスコイル15を駆動しても、磁束保持部に磁束が染み込んで通り抜けないような厚みを有する。磁束保持部に磁束が長い時間加わると、磁束保持部に染み込んで通り抜けてしまうため、バイアス磁場に必要な時間よりも長く、かつ磁束が染み込む時間と磁束保持部の厚みとを考慮して、パルス駆動時間を設定する。
【0070】
電源制御部14における制御部は、不純物生成電源を制御して、不純物生成部100の針状電極101に電圧を印加し、磁化プラズモイド生成空間に不純物を拡散するとともに、バイアスコイル用パルス電源を制御して、スフェロマックプラズマが生成されるのに必要なバイアス磁場を外部電極11と内部電極12との間に印加した状態で、プラズマ電源(電源回路)を制御して、外部電極11と内部電極12との間に放電電圧を印加する。
【0071】
このとき、電源制御部14における制御部が、針状電極101に電圧を印加すると同時もしくはその前後に、バイアス磁場を印加し、その後に外部電極11と内部電極12との間に放電電圧を印加することで、生成されるプラズマ中に不純物が含有される。
この際、例えば、針状電極101に電圧を印加した後、数マイクロ秒から、数100マイクロ秒後に、バイアス磁場を形成し、プラズマ生成用に放電させる制御をおこなうことが好ましい。
あるいは、各パルス放電および不純物元素の拡散の時間スケールに応じて針状電極101への電圧印加やバイアス磁場の印加のタイミングを設定することで、生成されるプラズマ中に不純物を含有させる。
【0072】
次に、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置10における不純物を含有する磁化プラズモイド生成について説明する。
【0073】
図5は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置における不純物拡散状態を示す横断面図であり、
図6は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置におけるプラズマ生成状態を示す縦断面図であり、
図7は、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置におけるプラズマ生成状態を示す横断面図である。
本実施形態における磁化プラズモイド射出装置10では、まず、プラズマ生成ガス供給部13からプラズマ生成ガスを供給する。
【0074】
プラズマ生成ガスは、ノズル13aから円環状となる外部電極11と内部電極12との間の磁化プラズモイド生成空間の接線方向に噴出される。これにより磁化プラズモイド生成空間におけるプラズマ生成ガスの流れを安定させ、また、導入されたガス密度を空間的に一様にする。
【0075】
次いで、電源制御部14における制御部は、不純物生成電源を制御して、不純物生成部100の針状電極101に電圧を印加し、
図5に示すように、磁化プラズモイド生成空間に不純物を拡散する。
【0076】
この際、不純物が磁化プラズモイド生成空間において拡散する範囲は、例えば、外部電極11と内部電極12との軸方向において、ノズル13aを中心とした領域でプラズマの生成される範囲よりと同等かそれより小さくなるように設定されることが好ましい。不純物の拡散範囲の制御は、例えば、ガス導入時刻と、不純物生成部100での放電、および、磁化プラズモイド生成部の放電のタイミングなどとを設定することによっておこなうことができる。磁化プラズモイド生成部の放電は、バイアスコイル用パルス電源、プラズマ電源(電源回路)によりタイミングを設定する。
【0077】
次いで、電源制御部14における制御部は、
図6に示すように、バイアスコイル用パルス電源を制御して、スフェロマックプラズマが生成されるのに必要なバイアス磁場を外部電極11と内部電極12との間に印加した状態で、プラズマ電源(電源回路)を制御して、外部電極11と内部電極12との間に放電電圧を印加する。
【0078】
具体的には、外部電極11と内部電極12との間の空間に電源制御部14におけるプラズマ電源(電源回路)により負荷信号を印加すると、外部電極11と内部電極12との間に放電が発生し、
図7に示すように、放電電流が流れてプラズマPが生成される。そして、バイアスコイル15によるバイアス磁場が、バイアスコイル用パルス電源、磁束保持部、制御部により空間分布制御され、磁束がプラズマ生成領域に分散する。
【0079】
生成されたプラズマPは、放電電流による磁場とともに、バイアスコイル15によるバイアス磁場により、ポロイダル方向とトロイダル方向の磁場が生じ、スフェロマックプラズマとして外部電極11と内部電極12の開放端から放出される。放出されたスフェロマックプラズマは、すぐには拡散することなく、プラズマ塊の状態のまま高速で放出される。
【0080】
このとき、プラズマが生成される前に、磁化プラズモイド生成空間においては、不純物が拡散されているため、生成されたプラズマPには、拡散された不純物を所定の濃度及び濃度分布で含有させることができる。
このように、生成されたプラズマPに拡散された不純物を含有するためには、例えば、針状電極101がガス導入箇所となるノズル13aの近傍に設置され、またバイアス磁場形成と同時に不純物を拡散することで、イオン化された不純物元素をプラズマP内に捕捉できるように設定されることが好ましい。
【0081】
本実施形態における磁化プラズモイド射出装置10においては、磁化プラズモイド生成空間の接線方向にノズル13aからプラズマ生成ガスを供給する。これにより、磁化プラズモイド射出装置10は、ニュートラルな状態として、安定したプラズマを発生させることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置10では、ノズル13aと同一平面として磁化プラズモイド生成空間の接線方向に不純物生成部100を設けた。これにより、従来の装置においてはイオン化した不純物をバイアス磁界により弾かれてしまうためプラズマに含有させることが難しかったのに対して、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、イオン化した不純物を容易にプラズマに含有させることが可能となる。同時に、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、生成したプラズマの安定度を向上することができる。
【0083】
さらに、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、針状電極101をスパッタすることで不純物を磁化プラズモイド生成空間に供給する。このため、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、スパッタにより発生する不純物の量を精密に制御することが容易となる。したがって、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、磁化プラズモイドに含有させる不純物濃度を極めて正確に設定することが可能となる。
【0084】
同時に、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、針状電極101を交換する、あるいは、予め所定の針状電極101を取り付けることで、不純物を所望の種類とすることができる。これにより、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、プラズマに含有させる不純物の量および組成比を、極めて短い時間、すなわち、パルス状に発生する磁化プラズモイド単位ごとに、制御することが可能となる。これによって、本実施形態の磁化プラズモイド生成装置10は、発射するプラズマにおいて、含有される不純物量および組成比の時間的変化を容易に設定することが可能となる。
【0085】
さらに、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、不純物生成部100から不純物を供給し、生成された磁化プラズモイドが外部電極11と内部電極12とで形成された磁化プラズモイド生成空間を進行して発射される間に、不純物を磁化プラズモイドに均一化して含有させる。これにより、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、磁化プラズモイド生成空間の軸方向長さに応じて、不純物濃度が均一化した磁化プラズモイドを生成・射出することができる。
【0086】
また、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、針状電極101をスパッタしない状態と、針状電極101をスパッタする状態とを切り替えることができる。これにより本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、不純物を含まないプラズマと不純物を含むプラズマとを切り替えて、それぞれ所定の時間だけ生成することも可能となる。
【0087】
本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、不純物生成部100が磁化プラズモイド生成空間の接線方向に設けられていることにより、内部電極12表面に針状電極101から発生した不純物が付着することを極めて低減することが可能となる。
同時に、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、ノズル13aから供給されたプラズマ生成ガスにより、内部電極12表面に付着物等の不具合が発生することを低減可能である。
【0088】
また、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、不純物生成部100における針状電極101の交換のみで、不純物の種類を変更することができるため、磁化プラズモイド生成空間の全域を開放して交換する必要がなく、装置内部に対する外部からの汚染等悪影響を低減することができる。
これらにより、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、装置のメンテナンスにおける作業工程を削減し、メンテナンス時間を低減することが可能となる。
【0089】
さらに、本実施形態における磁化プラズモイド射出装置10においては、不純物生成部100から不純物を磁化プラズモイド生成空間に生成した直後に、バイアス磁場を形成するとともに外部電極11と内部電極12との間にプラズマ放電をおこなうことで、従来は、バイアス磁場に弾かれてしまったイオン化された不純物をプラズマ中に含有することが可能となる。
【0090】
なお、本実施形態では、プラズマ生成ガス供給部13のノズル13aが外部電極11の径方向外側に設けられる例を示したが、本発明はこれに限定されない。外部電極11と内部電極12の間にプラズマ生成ガスが供給可能であれば、例えば内部電極12の径方向内側にプラズマ生成ガス供給部が設けられてもよい。
【0091】
なお、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10では、プラズマ生成ガス供給部13のノズル13aと不純物生成部100とを、それぞれ異なる位置として外部電極11に開口させたが、これに対して、不純物生成部100の基部側からプラズマ生成ガスを供給することで、不純物生成部100とノズルとを兼用させることもできる。この場合、磁化プラズモイド生成空間に供給する不純物量を増大させて、不純物濃度を増加した磁化プラズモイドを生成することが可能となる。
【0092】
また、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10は、バイアスコイル15の中央付近にプラズマ生成ガスを供給したが、この場合に、磁化プラズモイドに含まれる磁束を増やすための効率が最もよくなる。これは、本実施形態のようにプラズマ生成ガス供給部13のノズル13aが、外部電極11の外側を覆う磁束保持部の一部を貫通するように設けられることで可能になる。
【0093】
さらに、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10では、プラズマ生成ガス供給部13のノズル13aと不純物生成部100とをそれぞれ、2本ずつ外部電極11に開口させたが、本発明はこれに限定されない。3本以上の複数本を設けることもできる。この場合、ノズル13aと不純物生成部100とが円筒状の磁化プラズモイド生成空間の接線方向に設けられることができる。
【0094】
また、本実施形態の磁化プラズモイド射出装置10では、複数のプラズマ生成ガス供給部13のノズル13aと不純物生成部100とが磁化プラズモイド生成空間の軸と交差する同一面内に配置されたが、これらを磁化プラズモイド生成空間の軸方向の位置が異なる平行面内にそれぞれ位置するように配置することもできる。あるいは、複数のプラズマ生成ガス供給部13のノズル13aと不純物生成部100とが軸直交面に沿った方向とは異なる方向に配置されてもよい。この場合でも、不純物生成部100とノズル13aとは、円筒状の磁化プラズモイド生成空間の接線方向に設けられることができる。
【0095】
さらに、それぞれ複数本設けられる不純物生成部100とノズル13aとのうち、いずれか一本、または、適宜選択された複数本が、外部電極11および内部電極12の軸と直交する面以外の方向に沿った状態として、傾斜して交差する面内に配置されることができる。この場合でも、不純物生成部100とノズル13aとは、円筒状の磁化プラズモイド生成空間の接線方向に設けられることができる。
なお、不純物生成部100を設けないこともできる。
【0096】
以下、本発明に係る磁気閉じ込めプラズマ装置の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図8は、本実施形態における磁気閉じ込めプラズマ装置を示す模式図である。本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、磁化プラズモイドを射出する部分に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0097】
本実施形態における磁気閉じ込めプラズマ装置20は、
図8に示すように、磁化プラズモイド射出装置10と、磁化プラズモイド射出装置10がプラズマを射出する部分として磁気閉じ込めプラズマ部21を有する。
【0098】
磁気閉じ込めプラズマ部21は、例えば、核融合炉の炉心とされ、磁化プラズモイド射出装置10によって、トレーサーとなる元素を含む磁化プラズモイドが入射される。
磁気閉じ込めプラズマ部21は、例えば、射出された元素を含む磁化プラズモイドにより、炉内におけるプラズマの挙動を分光器等によって分析可能なものとされる。
磁気閉じ込めプラズマ部21は、プラズモイド入射に必要なポート、閉じ込め磁界を形成するコイル、その他対象となるプラズマの生成に必要な電源、真空ポンプなどから構成される。
本実施形態における磁化プラズモイド射出装置10において、一箇所の針状電極101は導電性の材料で構成されればよく、化合物や合金を用いてもよい。例えば、針状電極101は、W,Sn,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Er,Yb,Au,Pb,Bi,Ti,Cu,C,Al,Moから選択される1以上の元素からなるものとすることができる。また、これらの針状電極101を有する不純物生成部100を複数設けることができる。
【0099】
本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20によれば、従来は含有することの難しかった不純物を炉内である磁気閉じ込めプラズマ部21に供給して、分光器等によってその挙動を観察・測定することが可能となる。
【0100】
ここで、従来の磁気閉じ込めプラズマ装置では、パフと呼ばれる微小な固体状のトレーサー元素、あるいは、不純物を含有したペレットをイオン化あるいは蒸発させて、磁気閉じ込めプラズマ部21に供給していた。これに対して、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、トレーサーとなる元素を含む磁化プラズモイドを供給可能とすることで、固体を供給することで生じていた磁気閉じ込めプラズマ部21におけるプラズマエネルギーの減少(プラズマの局所的な冷却)を防止しつつ、トレーサー元素を供給することが可能となる。これにより、磁気閉じ込めプラズマ部21におけるプラズマの挙動に与える変化を最小にして、かつ、トレーサー元素を供給することが可能となる。
【0101】
また、本実施形態によれば、従来は難しかった、トレーサーとなる元素を含む磁化プラズモイドを供給できるため、あらかじめイオン化した不純物を容易に磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給することが可能となる。同時に、生成したプラズマの安定度を向上することができる。
また、従来の固体ペレットを使った手法では、入射速度が遅いためコアプラズマへ到達する前に電離してしまうため、閉じ込め磁場に遮られてトレーサーを中心部へ運搬できないといった不具合を生じていたが、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、この不具合を生じることなく、トレーサーとなる元素を含む磁化プラズモイドを供給できる。
【0102】
さらに、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、不純物生成部100を備えているため、射出する磁化プラズモイドが含むトレーサーとなる元素の量を精密に制御することが容易となる。これにより、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給するトレーサーとなる元素の量を極めて正確に設定することが可能となる。
【0103】
同時に、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、不純物生成部100の針状電極101を交換する、あるいは、予め所定の針状電極101を取り付けることで、磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給するトレーサーとなる元素を所望の種類とする、あるいは、複数種類のトレーサー元素を同時に供給することができる。これにより、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給するトレーサーとなる元素の量および組成比を、極めて短い時間、すなわち、パルス状に発生して射出する磁化プラズモイド単位ごとに制御することが可能となる。これによって、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給するトレーサーとなる元素量および組成比の時間的変化をも設定することが可能となる。
【0104】
さらに、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁化プラズモイド射出装置10によって、あらかじめ均一化されたトレーサーとなる元素を含有する磁化プラズモイドを磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給することができる。これにより、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁気閉じ込めプラズマ部21におけるトレーサー元素の均一化を向上することができる。
【0105】
また、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、不純物生成部100の針状電極101をスパッタしない状態と、針状電極101をスパッタする状態とを切り替えて、トレーサー元素の有無を選択して磁化プラズモイドを磁気閉じ込めプラズマ部21のプラズマに供給することも可能となる。
【0106】
本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、不純物生成部100が磁化プラズモイド生成空間の接線方向に設けられていることにより、内部電極12表面に針状電極101から発生した不純物が付着することを極めて低減することが可能となる。
同時に、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、ノズル13aから供給されたプラズマ生成ガスにより内部電極12表面に付着物等の不具合が発生することを低減可能である。
また、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、不純物生成部100における針状電極101の交換のみで、トレーサー元素の種類を変更することができる。このため、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁化プラズモイド射出装置10の磁化プラズモイド生成空間およびこれに連通する磁気閉じ込めプラズマ部21の全域を開放して交換する必要がなく、装置内部に対する外部からの汚染等悪影響を低減することができる。
これらにより、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、装置のメンテナンスにおける作業工程を削減し、メンテナンス時間を低減することが可能となる。
【0107】
なお、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20では、磁化プラズモイド射出装置10におけるプラズマ生成ガス供給部13のノズル13aと不純物生成部100とをそれぞれ、外部電極11に開口させたが、不純物生成部100の基部側からプラズマ生成ガスを供給させて、ノズルと兼用させることもできる。この場合、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、磁気閉じ込めプラズマ部21に供給する磁化プラズモイドが含有するトレーサー元素量を増大させることが可能となる。
これにより、本実施形態の磁気閉じ込めプラズマ装置20は、タングステン等とされるトレーサー元素を混入させる場合に、トレーサー導入電極部となる不純物生成部100からもガス供給をおこない、針状電極101を負高圧で放電することでイオンボンビングによりスパッタ効率を上げて、トレーサー元素量を増加することができる。
【0108】
以下、本発明に係るプラズマ処理装置の第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
図9は、本実施形態におけるプラズマ処理装置を示す模式図である。
本実施形態において上述した第1および第2実施形態と異なるのは射出した磁化プラズモイドによって成膜をおこなう部分に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0109】
本実施形態のプラズマ処理装置30は、磁化プラズモイド射出装置10から射出されるプラズマを用いて被処理基板Wにプラズマ処理、例えば、成膜処理をおこなうものとされる。
本実施形態のプラズマ処理装置30は、
図9に示すように、成膜材料からなる内部電極32と、外部電極11の外側に位置するバイアスコイル35と、磁化プラズモイド射出装置10に接続されて磁化プラズモイドが射出される処理室31と、処理室31に配置されて被処理基板を保持するステージ(被処理基板保持部)39と、を有する。
【0110】
内部電極32は、上述した実施形態における内部電極12に対応し、成膜材料からなる円柱状に形成される。内部電極32とされる成膜材料としては、金属、カーボンまたはそれらを含む導電性の化合物または混合物を挙げることができる。
【0111】
成膜対象である被処理基板Wとしては、例えばシリコン基板やアルミニウム基板、PET(ポリエチレンテレフタラート)等、種々のものが含まれる。本実施形態のプラズマ処理装置30では、放電電流によるローレンツ力によって炭素イオンを加速し被処理基板Wに入射させるため、被処理基板Wの電位制御は必ずしも必要がない。したがって、電位制御の困難な誘電体材料等にも成膜可能である。
また、本実施形態のプラズマ処理装置30は、被処理基板Wに対する電位制御が不要であるため、例えばライン生産において個々に被処理基板Wに電位印加が困難な場合にも有利である。また、本実施形態のプラズマ処理装置30は、放出されるスフェロマックプラズマは低熱負荷であるため、被処理基板Wが熱に弱いものであってもDLC(Diamond-Like Carbon)薄膜等を成膜可能である。さらに、生成されるDLC薄膜は、衝突エネルギを上げることでより硬度が高くなる。このため、本実施形態のプラズマ処理装置30は、電位印加が可能であれば積極的に被処理基板Wに電位を印加し、衝突エネルギを大きくして硬度を高めることも可能である。
【0112】
処理室31は、所定の成膜条件を満たして密閉される。処理室31の構造は、内部でプラズマ処理が可能であれば、特に限定はされない。処理室31は真空チャンバとされる。処理室31は、磁化プラズモイド射出装置10に接続される。処理室31は、外部電極11と内部電極32の開放端から放出されたプラズマを受ける構成である。具体的には、処理室31は、絶縁体を介して外部電極11の開放端に接続されており、放出されたプラズマが内部に導入される。
【0113】
バイアスコイル35は、外部電極11の外周を囲むように巻回されることができる。バイアスコイル35は、外部電極11と内部電極32との間に、絶縁破壊を促進するために実効的な電極間距離を伸ばすための垂直磁界を与える。同時に、バイアスコイル35は、外部電極11と内部電極32の間に発生したプラズマに対してバイアス磁場を印加する。これらのバイアスコイル35の機能により、プラズマが放電電流による磁場とバイアス磁場を含んだ状態で放出される。したがって、バイアスコイル35の機能により、スフェロマック様の磁場構造を持った、孤立した磁化プラズモイドが生成され、磁界によりフィルタされる。
【0114】
ステージ39は、処理室31内に固定される。ステージ39は、内部電極32の軸方向に対して垂直に被処理基板Wの成膜する被処理面を対向させるように保持する。ステージ39は、磁化プラズモイド射出装置10から被処理基板Wまでの間の距離を連続的に変化可能なように構成されていてもよい。また、ステージ39は、プラズマイオンをステージ39側に引き込むように、接地または負電圧とされてもよい。この場合、処理室31とステージ39は絶縁されればよい。
ステージ39は、磁化プラズモイド射出装置10の中心と被処理基板Wの中心とが一致するように配置されることができる。
【0115】
本実施形態のプラズマ処理装置30における成膜時には、まず、磁化プラズモイド射出装置10において、プラズマ生成ガス供給部13からプラズマ生成ガスである、例えばアルゴンガスを磁化プラズモイド生成空間に供給する。プラズマ処理装置30における成膜時には、また、不純物生成部100によって磁化プラズモイド生成空間に不純物を供給する。
【0116】
また、プラズマ処理装置30における成膜時には、バイアスコイル35により外部電極11と内部電極32との間に垂直磁界を与える。これにより磁化プラズモイド生成空間で、電子が内部電極32の外周を回りながら外部電極11に到達することになる。したがって、実効的な電極間距離が伸びて絶縁破壊が促進され、プラズマが放電される。そして、外部電極11と内部電極32との間に放電電圧を印加することで、外部電極11と内部電極32との間で放電させてプラズマを生成する。この放電に伴い、プラズマ中には径方向の電流が流れる。また、プラズマには、内部電極32の電流によりトロイダル磁場が生ずる。この放電の際に、成膜材料からなる内部電極32の表面が削り取られ、プラズマに混入する。
【0117】
そして、プラズマ処理装置30における成膜時には、プラズマ中の径方向の電流とトロイダル方向の磁場によるローレンツ力により、バイアス磁場を引きずりながら内部電極32の軸方向に加速される。さらに、プラズマ処理装置30における成膜時には、磁気再結合により、磁化プラズモイド射出装置10の先端側でのバイアス磁場がポロイダル磁場となり、スフェロマックプラズマが外部電極11と内部電極32の開放端から放出される。
【0118】
スフェロマックプラズマは、すぐには拡散することなく、プラズマ塊の状態のまま高速で放出される。スフェロマックプラズマには、内部電極32の表面が削り取られた成膜材料の粒子(イオン)が含まれているため、スフェロマックプラズマを被処理基板Wに衝突させることで、被処理基板W上に成膜材料粒子が堆積する。
【0119】
なお、内部電極32から溶発したマクロ粒子は、電荷をもたないため電磁加速を受けず、そのままでは成膜には寄与しない。このプラズマ放電を複数回繰り返し行うことで、プラズマ処理装置30は、所望の膜厚になるまで被処理基板W上に不純物の含有した成膜材料粒子を堆積させていき、所望の被処理膜を得ることが可能となる。
【0120】
本実施形態のプラズマ処理装置30は、被処理基板Wへの成膜時に、形成される膜の膜厚方向に不純物濃度を所定の状態に制御することが可能である。特に、プラズマ処理装置30は、不純物生成部100によって、生成される磁化プラズモイドに含有される不純物濃度を所定の状態に制御することで、被処理基板Wへ成膜される被処理膜において、膜厚方向に不純物濃度を変化させるができる。あるいは、プラズマ処理装置30は、2箇所の不純物生成部100の針状電極101をそれぞれ異なる種類からなるものとして、2箇所の不純物生成部100からの不純物供給量を個別に制御することで、膜厚方向に異なる濃度傾斜を有する被処理膜を成膜することができる。
【0121】
さらに、プラズマ処理装置30は、成膜処理時間中に、2箇所の不純物生成部100からの不純物供給をおこなわない状態とすることで、膜厚方向の処置の場所で、不純物を含まない領域を形成することもできる。また、プラズマ処理装置30は、針状電極101を形成する不純物を適切に選択することで、従来はできなかった種類の不純物を含む成膜をおこなうことも可能である。
【0122】
特に、グロー放電によるプラズマを用いるプラズマ成膜においては、スパッタリングターゲットを所定の組成比として製造することが極めて難しい場合でも、ターゲット製造の困難性とは関係なく、プラズマ処理装置30は、所定組成の成膜をおこなうことが可能となる。さらに、ターゲットを用いる成膜では、膜厚方向に傾斜した組成比を形成することが難しい場合でも、プラズマ処理装置30は、これを容易に実現することが可能となる。
【0123】
また、プラズマ処理装置30は、ターゲットのエロージョン領域で発生する不具合、特にターゲットのひび割れ、あるいは、ターゲット合金中における組成比の不均一性や、イオン化・プラズマ化の不均一性などに影響されずに所定組成の成膜をおこなうことが可能となる。
【0124】
本実施形態のプラズマ処理装置30は、成膜材料からなる内部電極32に加えて、不純物生成部100を備えているため、射出する磁化プラズモイドが含む不純物の量を精密に制御することが容易となる。これにより、プラズマ処理装置30は、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有する不純物量を極めて正確に設定することが可能となる。
【0125】
同時に、プラズマ処理装置30は、不純物生成部100の針状電極101を交換する、あるいは、予め所定の針状電極101を取り付けることで、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有する不純物を所望の種類とすることができる。あるいは、プラズマ処理装置30は、不純物生成部100の針状電極101を交換する、あるいは、予め所定の針状電極101を取り付けることで、複数種類の不純物を同時に供給することができる。これにより、プラズマ処理装置30は、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有する不純物の量および組成比を、極めて短い時間、すなわち、パルス状に発生して射出する磁化プラズモイド単位ごとに制御することが可能となる。したがって、プラズマ処理装置30は、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜における膜厚方向で含有する不純物量および組成比の変化を容易に設定することが可能となる。
【0126】
さらに、本実施形態のプラズマ処理装置30は、磁化プラズモイド射出装置10によって、あらかじめ均一化された不純物を含有する磁化プラズモイドを処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有させることができる。これにより、プラズマ処理装置30は、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有される不純物の均一性を向上することができる。
【0127】
また、プラズマ処理装置30は、不純物生成部100の針状電極101をスパッタしない状態と、針状電極101をスパッタする状態とを切り替える。これにより、プラズマ処理装置30は、膜厚方向における不純物の有無を選択して、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有させることが可能となる。
【0128】
プラズマ処理装置30は、不純物生成部100が磁化プラズモイド生成空間の接線方向に設けられていることにより、内部電極12表面に針状電極101から発生した不純物が付着することを極めて低減することが可能となる。
同時に、プラズマ処理装置30は、ノズル13aから供給されたプラズマ生成ガスにより内部電極12表面に付着物等の不具合が発生することを低減可能である。
【0129】
また、プラズマ処理装置30は、不純物生成部100における針状電極101の交換のみで、トレーサー元素の種類を変更することができる。このため、プラズマ処理装置30は、磁化プラズモイド射出装置10の磁化プラズモイド生成空間およびこれに連通する処理室31の全域を開放して交換する必要がない。したがって、プラズマ処理装置30は、装置内部に対する外部からの汚染等悪影響を低減することができる。
これらにより、プラズマ処理装置30は、装置のメンテナンスにおける作業工程を削減し、メンテナンス時間を低減することが可能となる。
【0130】
なお、本実施形態のプラズマ処理装置30では、磁化プラズモイド射出装置10におけるプラズマ生成ガス供給部13のノズル13aと不純物生成部100とをそれぞれ、外部電極11に開口させたが、不純物生成部100の基部側からプラズマ生成ガスを供給させて、ノズルと兼用させることもできる。この場合、プラズマ処理装置30は、処理室31の被処理基板に成膜する被処理膜に含有する不純物量を増大させることが可能となる。
【0131】
さらに、本実施形態のプラズマ処理装置30では、被処理基板Wを磁化プラズモイド射出装置10に正対するように配置したが、磁化プラズモイド射出装置10の軸方向に対して被処理基板Wを傾斜した配置とすることもできる。また、本実施形態のプラズマ処理装置30では、磁化プラズモイド射出装置10の中心と被処理基板Wの中心を一致させたが、これらが一致していない配置とすることもできる。
【0132】
なお、本実施形態のプラズマ処理装置30では、プラズマ処理装置30におけるプラズマ処理として、成膜処理をおこなうものとしたが、プラズマ処理装置30では、プラズマを用いる他の処理をおこなうこともできる。例えば、プラズマ処理装置30は、プラズマエッチング、プラズマ洗浄、表面改質、イオン注入をおこなうこと、あるいは、これらを切り替えておこなうことが可能な装置とすることもできる。
【0133】
なお、本発明の装置は、上述した各実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。特に、各実施形態の構成を部分的に、あるいは、複数組み合わせて構成することもできる。
【0134】
また、上述した各実施形態において、印加電流のパルス長および電圧により、スパッタリング(イオンによる叩き出し)が支配的な運転領域から、エバポレーション(熱による蒸発)が有意にはたらく領域まで制御できる可能性があり、特にスパッタ効率が悪い炭素などでは、エバポレーションを強調することで成膜効率の向上が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の活用例として、機能性ダイアモンドライクカーボン生成、合金薄膜生成、傾斜機能性薄膜生成、核融合装置へのトレーサー元素注入を挙げることができる。
【符号の説明】
【0136】
10…磁化プラズモイド射出装置
11…外部電極
11a…フランジ
12…内部電極
12a…フランジ
13…プラズマ生成ガス供給部
13a…ノズル
14…電源制御部
15…バイアスコイル(磁界発生部)
17…円筒部材
18…絶縁部材
20…磁気閉じ込めプラズマ装置
21…プラズマ部
30…プラズマ処理装置
31…処理室
32…内部電極
35…バイアスコイル(磁界発生部)
39…ステージ(被処理基板保持部)
100…不純物生成部
101…針状電極
102…カバー電極
103…絶縁部材
104…カバー電極基部
105…分離部分
P…プラズマ
W…被処理基板