IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラレノリタケデンタル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20230816BHJP
   A61K 6/20 20200101ALI20230816BHJP
   A61K 6/30 20200101ALI20230816BHJP
   A61K 6/40 20200101ALI20230816BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20230816BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/20
A61K6/30
A61K6/40
A61K6/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018123736
(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公開番号】P2020002076
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-12-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】洪 玲
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-155729(JP,A)
【文献】特開昭61-275365(JP,A)
【文献】特開2005-035940(JP,A)
【文献】特表2010-514782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体(A)及びレベリング剤(B)を含み、さらに重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)を含み、
レベリング剤(B)が、パーフルオロアルキル基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-1)、及び/又は、シロキシ基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-2)を含み、
単量体(A)100質量部に対するレベリング剤(B)の量が0.001~10質量部であり、
レベリング剤(B-1)が、下記一般式(2)
CH2=C(X1)-CO-O-X2-XF (2)
(式(2)中、X1は水素原子又はメチル基、X2は-(CH2q-で示され、qを0~4とする基、XFは炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状、又は脂環状のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーの10~80質量部と、窒素含有不飽和モノマーの20~90質量部とがランダムに共重合してなるランダム共重合体(シロキシ基又はポリシロキサン鎖を有する単量体を構成単位として含むものを除く)を含有し、
レベリング剤(B-2)が、下記一般式(3)
【化1】
(式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数1~10のアルキレン基を表し、R3は炭素数1~12のアルキル基を表し、mは2~150の整数である。)
で表される片末端(メタ)アクリル変性のモノ(メタ)アクリレート、下記一般式(4)
【化2】
(式(4)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、R5は炭素数1~10のアルキレン基を表す。)
で表される片末端(メタ)アクリル変性のモノ(メタ)アクリレート、及び、下記一般式(5)
【化3】
(式(5)中、R6及びR9はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R7及びR8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキレン基を表し、nは2~150の整数である。)
で表される両末端(メタ)アクリル変性のジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のシロキシ基含有アクリレートモノマー1~40質量部と、N-ビニルラクタムモノマー2~80質量部と、炭素数1~12のアルキル基を持つアルキル(メタ)アクリレートモノマー10~97質量部とを共重合してなる共重合体(パーフルオロアルキル基を有する単量体を構成単位として含むものを除く)を含有する、歯科用組成物。
【請求項2】
単量体(A)100質量部に対するレベリング剤(B)の量が0.01~10質量部である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記窒素含有不飽和モノマーが、N-ビニルアミドモノマー、N-ビニルカルバメートモノマー、N-ビニルイミドモノマー、N-ビニルイミドモノマー、及び(メタ)アクリルアミドモノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
単量体(A)が酸性基を有する単量体(A-1)、及び/又は、酸性基を有さない単量体(A-2)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科用組成物からなるボンディング材。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科用組成物からなるコーティング材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科用組成物からなるプライマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用組成物、並びに、それからなるボンディング材、コーティング材、及びプライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯質と歯科用修復材料との接着には、様々な接着システムが用いられている。歯質の表面に酸性モノマーと親水性モノマーと水とを含有するセルフエッチングプライマーを塗布した後、水洗することなく、架橋性モノマーと重合開始剤とを含有するボンディング材を塗布する2ステップの接着システムが主流であったが、最近では、セルフエッチングプライマーとボンディング材の機能を併せ持つ1液型の歯科用接着材(1液型のボンディング材)を用いた1ステップの接着システムが汎用されている。
【0003】
また、水や有機溶媒を除去するためのエアブローなどの工程を省略することを目的として、水及び有機溶媒を実質的に含まない非溶媒系歯科用組成物に対する要望が高まり、実用化されつつある。
【0004】
これら歯科用組成物の評価としては、エナメル質、象牙質に対する引張り接着試験や剪断接着試験など、歯質との接着性能が中心となって行われているが、それら試験は歯質を平坦になるように研磨したもので実施されている。実際にそれら歯科用組成物を使用する際には、該組成物を塗布する面が粗く平坦ではないことから、組成物をならすため、もしくは溶媒を揮発させるためにエアブローをする際に、組成物の塗布ムラが大きくなり、場合によっては組成物が一部被着体の表面に弾かれてしまうことがあり、接着性を低下させるという問題があった。
【0005】
これら事象は歯質、及び歯科用修復材料に滑沢性を付与するコーティング材においても同様であり、被着体の粗さや形状によって均一な塗布面が形成できず、コーティング面の審美性や耐久性を低下させるという問題があった。
【0006】
均一な塗布面を形成するには、被着体との濡れ性を向上させることが一般的であるが、口腔内の場合、エナメル質、象牙質、コンポジットレジン、金属、セラミックスなど表面の粗さや性質が異なるものが混在していることから、組成物の表面自由エネルギーを下げることが必要となる。表面自由エネルギーを下げる物質として一般的にシリコン、フッ素を含む化合物が知られている。
【0007】
シリコン、フッ素を含む化合物が含有された歯科用組成物として、特許文献1にはフッ化アルキル基含有モノマーからなる重合単位と、ビニル系モノマーからなる重合単位とを含むブロック共重合体又はグラフト共重合体を、必須成分として含むことを歯科用コーティング剤が記載されている。また、特許文献2には親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する鎖状重合体からなるフッ素化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-155729号公報
【文献】国際公開第2006/016649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
口腔内で歯科用組成物を塗布する場合、被着体の塗布面の表面の粗さや形状、性質が患者毎に或いは対象となる歯の種類毎に異なることから、均一な塗布面を形成することが困難となる。これに対して、無機フィラーを大量配合することなどによって粘度を大幅に上げることにより、均一な塗布面は形成可能となるが、粘度が高くなることによって、組成物の操作性が著しく悪化してしまう。表面自由エネルギーを下げるフッ素を含む材料を配合することは均一な塗布面の形成には効果的であるが、特許文献1はブロック共重合体、又はグラフト共重合体であることから、歯科用組成物における他の成分との相溶性が著しく悪化し、分離してしまう。そのため、塗布性に改善の余地がある。特許文献2の鎖状重合体はフルオロアルキル基が両末端にのみ存在していることに起因して、表面自由エネルギーの低下能が低くなるという問題を見出した。
【0010】
そこで、本発明は被着体に均一な塗布面を形成し、かつ優れた塗布性を有した歯科用組成物並びに、それからなるボンディング材、コーティング材及びプライマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、レベリング剤を歯科用組成物に配合することにより、被着体に均一な塗布面を形成し、かつ優れた塗布性を有した歯科用組成物となることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1]単量体(A)及びレベリング剤(B)を含み、さらに重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)を含む歯科用組成物。
[2]単量体(A)100質量部に対するレベリング剤(B)の量が0.001~10質量部である、[1]に記載の歯科用組成物。
[3]レベリング剤(B)が、パーフルオロアルキル基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-1)、及び/又は、シロキシ基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-2)を含む、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物。
[4]単量体(A)が酸性基を有する単量体(A-1)、及び/又は、酸性基を有さない単量体(A-2)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の歯科用組成物からなるボンディング材。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の歯科用組成物からなるコーティング材。
[7][1]~[4]のいずれかに記載の歯科用組成物からなるプライマー。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗布ムラがなく被着体に均一な塗布面を形成でき、かつ優れた塗布性を有した歯科用組成物、並びに、それからなるボンディング材、コーティング材及びプライマーが提供される。また、本発明によれば、被着体に対して、弱圧のブロー後だけではなく、強圧のブロー後においても優れた接着性を有する歯科用組成物、並びに、それからなるボンディング材、コーティング材及びプライマーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の歯科用組成物は、単量体(A)及びレベリング剤(B)を含み、さらに重合開始剤(C)及び/又は重合促進剤(D)を含む。これにより、被着体に均一な塗布面を形成し、かつ優れた塗布性を有した歯科用組成物となる。
【0015】
本発明の構成とすることで上記のような優れた効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、該歯科用組成物を被着体に塗布した際に配合されたレベリング剤(B)が表面で配向することで、組成物全体の表面自由エネルギーを下げて、被着体との濡れ性を向上させることが一因と考えられる。
【0016】
・単量体(A)
本発明の歯科用組成物は、単量体(A)を含むことで硬化物とした際の強度及び組成物の被着体への密着性、操作性などを向上させることができる。単量体(A)としては公知の単量体を使用することができる。また、歯質への接着を意図した用途の場合、歯質への接着性を向上させるため、酸性基を有する単量体(A-1)を含むことが好ましい。単量体(A)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、酸性基を有する単量体(A-1)を含む場合、硬化物の強度及び組成物の被着体への密着性、操作性などの観点から、酸性基を有さない単量体(A-2)を併用することが好ましい。
【0017】
(i)酸性基を有する単量体(A-1)
本発明の歯科用組成物が酸性基を有する単量体(A-1)を含むことで、歯質を脱灰しながら浸透して歯質と結合し、歯質に対する接着性を向上させることができる。酸性基を有する単量体(A-1)は、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つ(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基等の重合性基を少なくとも1個有する単量体であればよい。エナメル質に対する接着性の観点から、酸性基を有する単量体(A-1)は、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリルアミド基のうちのいずれかを1つ有する単官能性の単量体であることが好ましい。具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0018】
リン酸基を有する単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等のリン酸基含有単官能性(メタ)アクリレート化合物、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート等のリン酸基含有二官能性(メタ)アクリレート化合物、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0019】
ホスホン酸基を有する単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0020】
ピロリン酸基を有する単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0021】
カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、及びこれらの酸無水物、酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0023】
酸性基を有する単量体(A-1)としては、歯質に対してより優れた接着性を発現できるなどの観点から、リン酸基を有する単量体、ピロリン酸基を有する単量体が好ましく、リン酸基を有する単量体がより好ましく、リン酸基を有する単官能性の単量体がさらに好ましい。その中でも、分子内に主鎖として炭素数6~20のアルキル基又はアルキレン基を有するリン酸基を有する(メタ)アクリレート系単官能性単量体が好ましく、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖として炭素数8~12のアルキレン基を有するリン酸基を有する(メタ)アクリレート系単官能性単量体がより好ましい。なお、酸性基を有する単量体(A-1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有する単量体(A-1)の含有量は、歯科用修復材料と歯質との両方に対する接着性がより向上することなどから、歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部において、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、また、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0025】
(ii)酸性基を有さない単量体(A-2)
本発明の歯科用組成物は、硬化物の強度及び組成物の被着体への密着性、操作性などの観点から酸性基を有さない単量体(A-2)を含むことが好ましい。当該酸性基を有さない単量体(A-2)としては公知の酸性基を有さない単量体を使用することができ、例えば、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)、酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)などが挙げられる。酸性基を有さない単量体(A-2)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、例えば、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)と酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)とを併用してもよい。なお、本明細書において「疎水性単量体」とは25℃における水に対する溶解度が10g/L未満のものを指し、「親水性単量体」とは25℃における水に対する溶解度が10g/L以上のものを指す。
【0026】
(ii-1)酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)
本発明の歯科用組成物が酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)を含むことにより、硬化物の強度、耐水性などを向上させることができる。酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)としては、重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。当該重合性基としては、ラジカル重合が容易であることなどから、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基が好ましい。酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)としては、例えば、重合性基を複数有する多官能性単量体として、芳香族系の二官能性単量体、脂肪族系の二官能性単量体、三官能性以上の単量体といった架橋性単量体などが挙げられる。
【0027】
芳香族系の二官能性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましく、Bis-GMA、D-2.6Eがより好ましい。
【0028】
脂肪族系の二官能性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドなどが挙げられる。
これらの中でも、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、MAEA、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0029】
三官能性以上の単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタンなどが挙げられる。
これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0030】
上記の酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)の中でも、硬化物の機械的強度や取り扱い性の観点から、芳香族系の二官能性単量体、脂肪族系の二官能性単量体が好ましく、接着力、硬化物の機械的強度の観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、MAEAがより好ましく、Bis-GMA、3G、UDMA、MAEAがさらに好ましい。なお、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)の含有量は、歯質への浸透性が向上して接着力が向上するなどの観点から、歯科用組成物に含まれる全単量体の100質量部において、9質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、30質量部以上であることが特に好ましく、また、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、75質量部以下であることがさらに好ましく、70質量部以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の歯科用組成物をコーティング材用途に用いる場合は、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)として、表面硬化性の点で、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のオレフィン性二重結合を3つ以上有する単量体が好ましく、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のオレフィン性二重結合を5つ以上有する単量体が特に好ましい。オレフィン性二重結合を3つ以上有する単量体を、全単量体の100質量部において、70質量部以上含有するものが好ましく、80質量部以上含有するものがより好ましい。コーティング材用途に用いる場合の酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)の含有量は、全単量体の100質量部において、40質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、98質量部以下が好ましく、95質量部以下がより好ましい。同含有量が、40質量部未満の場合には、コーティング材の塗布性や操作性が低下する場合がある。
【0033】
(ii-2)酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)
本発明の歯科用組成物が酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)を含むことにより、歯科用組成物中の成分が歯質へ浸透するのを促進することができるとともに、それ自体も歯質に浸透して硬化することができる。酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)としては、酸性基を有さず、重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。当該重合性基としては、ラジカル重合が容易であることなどから、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基が好ましい。酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)としては、前記溶解度が30g/L以上のものが好ましく、25℃において水に任意の割合で溶解可能なものがより好ましい。
【0034】
酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましく、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロリド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)等の(メタ)アクリレート;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、下記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミド等の単官能性(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0035】
【化1】
【0036】
上記一般式(1)中、R10及びR11はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~3のアルキル基であり、R12は水素原子又はメチル基である。
【0037】
10及びR11によってそれぞれ示される炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、それらが有していてもよい置換基としては、例えば、水酸基などが挙げられる。
【0038】
上記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、貯蔵安定性などの観点から、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドが好ましく、N,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。
【0039】
上記の酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、単官能性(メタ)アクリルアミドが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、上記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミドがより好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、上記一般式(1)で示される二置換(メタ)アクリルアミドがさらに好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミドが特に好ましい。なお、酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)の含有量は、接着力が向上するなどの観点から、歯科用組成物に含まれる全単量体の100質量部において、9質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、30質量部であることが特に好ましく、また、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、75質量部以下であることがさらに好ましく、70質量部以下であることが特に好ましい。
【0041】
・レベリング剤(B)
本発明の歯科用組成物は、レベリング剤(B)を含むことで、被着体の表面との濡れ性を向上させて、均一な塗布面を形成させることができる。当該レベリング剤(B)は塗布面を平坦にするものであれば公知のものでよいが、塗布面の平滑性能と歯科用組成物における他の成分との相溶性の観点から、レベリング剤(B)が、パーフルオロアルキル基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-1)(以下、単にレベリング剤(B-1)と称することがある)、及び/又は、シロキシ基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-2)(以下、単にレベリング剤(B-2)と称することがある)を含むものが好ましい。レベリング剤(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(i)パーフルオロアルキル基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-1)
本発明の歯科用組成物がレベリング剤(B-1)を含むことにより、塗布ムラがなく均一な塗布面を形成できるとともに、歯科用組成物の他の成分との相溶性を改善し、優れた塗布性が得られる。レベリング剤(B-1)としては、下記一般式(2)
CH2=C(X1)-CO-O-X2-XF (2)
(式(2)中、X1は水素原子又はメチル基、X2は-(CH2q-で示され、qを0~4とする基、XFは炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状、又は脂環状のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーの10~80質量部と、N-ビニルアミドモノマー、N-ビニルイミドモノマー、N-ビニルカルバメートモノマー及び(メタ)アクリルアミドモノマーから選ばれる少なくとも1種類の窒素含有不飽和モノマーの20~90質量部とが共重合した共重合体を含有することが好ましい。また、前記共重合体は、重量平均分子量が3000~100000であることが好ましい。XFのパーフルオロアルキル基が有するアルキル基としては、後記するR3のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0043】
レベリング剤(B-1)に含有される共重合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマー10~80質量部と、窒素含有不飽和モノマー20~90質量部とを含む混合物を用いて、ラジカル重合開始剤の存在下で、該混合物を溶媒中に滴下し、加熱してランダム重合させることによって得られる。ラジカル重合開始剤は、一般にラジカル重合に用いられる開始剤であれば、特に限定されないが、例えば、過酸化物、アゾ化合物等を使用することができ、より具体的には、パーブチルD(日油株式会社の商品名)、パーブチルO(日油株式会社の商品名)、パーオクタO(日油株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0044】
該フッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、前記一般式(2)で表されるフッ素含有(メタ)アクリレートであり、より具体的には、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、n-、iso-、sec-、又はtert-パーフルオロブチル(メタ)アクリレート、n-、tert-又はsec-パーフルオロアミル(メタ)アクリレート、パーフルオロネオペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチルヘキシル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、パーフルオロドデシル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロプロピルメチル(メタ)アクリレート、n-、iso-、sec-、又はtert-パーフルオロブチルメチル(メタ)アクリレート、n-、tert-又はsec-パーフルオロアミルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロネオペンチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチルヘキシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニルメチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロデシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロウンデシルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロドデシルメチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロプロピルエチル(メタ)アクリレート、n-、iso-、sec-、又はtert-パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、n-、tert-又はsec-パーフルオロアミルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロネオペンチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチルヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロウンデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロドデシルエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルプロピル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、n-、iso-、sec-、又はtert-パーフルオロブチルプロピル(メタ)アクリレート、n-、tert-又はsec-パーフルオロアミルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロネオペンチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルプロピル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチルヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニルプロピル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロデシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロウンデシルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロドデシルプロピル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルブチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロプロピルブチル(メタ)アクリレート、n-、iso-、sec-、又はtert-パーフルオロブチルブチル(メタ)アクリレート、n-、tert-又はsec-パーフルオロアミルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロネオペンチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘプチルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルブチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチルヘキシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロノニルブチル(メタ)アクリレート、n-又はiso-パーフルオロデシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロウンデシルブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロドデシルブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。フッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。-XFは炭素数1~12のパーフルオロアルキル基であり、炭素数4~8であると好ましく、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、脂環状であってもよい。
【0045】
Fの炭素数が12を超えるパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有(メタ)アクリレートを用いた共重合体を含むレベリング剤(B-1)を、歯科用組成物に添加した際、表面自由エネルギー低下能は高い。しかし、歯科用組成物における他の成分との相溶性が悪いため、レベリング剤(B-1)が凝集を起こす結果、塗布面の表面が乱れ、また濁りを生じ外観が損なわれたものとなってしまうおそれがある。さらに、XFの炭素数が12を超えるパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有(メタ)アクリレートでは、その凝集力が強いために、不活性溶媒に溶解せず、生成が困難となる場合がある。
【0046】
フッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、一般式(2)で表されるフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーと窒素含有不飽和モノマーの合計100質量部において、10~80質量部用いられると好ましく、30~60質量部用いられるとより好ましい。前記合計100質量部において、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーの量が10質量部未満である共重合体によって形成された塗布面では、レベリング剤(B-1)の表面自由エネルギーの低下能が低くなるために、均一な塗布面を形成できないおそれがある。80質量部を超えると、溶媒への溶解性が悪くなるために、共重合体の生成が困難となってしまうおそれがある。
【0047】
窒素含有不飽和モノマーとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクトンのようなN-ビニルアミドモノマー;N-ビニルオキサゾリドン、5-メチル-N-ビニルオキサゾリドンのようなN-ビニルカルバメートモノマー;N-ビニルサクシンイミド、N-ビニルフタルイミドのようなN-ビニルイミドモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリンのような(メタ)アクリルアミドモノマーが挙げられる。窒素含有不飽和モノマーは、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でもアクリロイルモルホリンであると、なお一層好ましい。
【0048】
また、窒素含有不飽和モノマーは、一般式(2)で表されるフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートモノマーと窒素含有不飽和モノマーの合計100質量部において、20~90質量部用いられると好ましい。前記合計100質量部において、このモノマー(B)の量が20質量部未満であると、溶媒への溶解性が悪くなるために、共重合体の生成が困難となってしまうおそれがある。一方、90質量部を超える共重合体を用いて形成された塗装面は、レベリング剤(B-1)の表面自由エネルギーの低下能が低くなるために、均一な塗布面を形成できなくなってしまうおそれがある。
【0049】
レベリング剤(B-1)に含有される共重合体の重量平均分子量は、3000~100000であると好ましい。重量平均分子量が3000未満の場合、塗布面の物性を低下させてしまうおそれがある。一方、重量平均分子量が100000を超える場合、歯科用組成物として用いた場合の粘度が高くなりすぎるために、取り扱いが難しくなってしまう。重量平均分子量は、3000~50000であることがより好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定することができる。
【0050】
レベリング剤(B-1)は、この共重合体のみからなっていてもよく、必要に応じて添加剤を含有していてもよく、共重合体を不活性溶媒で溶解又は懸濁させたものであってもよい。
【0051】
不活性溶媒は、共重合物を溶解又は懸濁させることができるのもので、コーティング剤に混和できるものであると好ましい。具体的にはキシレン、トルエン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤;酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-アミル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル系溶剤;n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、2-エチルヘキサノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のアルコール系溶剤が挙げられる。これらの溶剤を、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
レベリング剤(B-1)としては、市販品を使用してもよい。レベリング剤(B-1)に相当する市販品としては、例えば、LEシリーズのLE-604(共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0053】
(ii)シロキシ基を有する単量体単位を少なくとも末端でない位置に有する共重合体を含有するレベリング剤(B-2)
本発明の歯科用組成物がレベリング剤(B-2)を含むことにより、塗布ムラがなく均一な塗布面を形成できるとともに、歯科用組成物における他の成分との相溶性を改善し、優れた塗布性が得られる。レベリング剤(B-2)に含有される共重合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、各モノマーの合計100質量部において、シロキシ基含有アクリレートモノマー1~40質量部と、N-ビニルラクタムモノマー2~80質量部と、炭素数1~12のアルキル基を持つアルキル(メタ)アクリレートモノマー10~97質量部とを共重合することにより得られる。前記シロキシ基含有アクリレートモノマーとしては、下記一般式(3)
【0054】
【化2】
(式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数1~10のアルキレン基を表し、R3は炭素数1~12のアルキル基を表し、mは2~150の整数である。)
で表される片末端(メタ)アクリル変性のモノ(メタ)アクリレート、下記一般式(4)
【0055】
【化3】
(式(4)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、R5は炭素数1~10のアルキレン基を表す。)
で表される片末端(メタ)アクリル変性のモノ(メタ)アクリレート、及び/又は、下記一般式(5)
【0056】
【化4】
(式(5)中、R6及びR9はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R7及びR8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキレン基を表し、nは2~150の整数である。)
で表される両末端(メタ)アクリル変性のジ(メタ)アクリレートであることが好ましい。前記N-ビニルラクタムモノマーは、N-ビニル-2-ピロリドン、及び/又はN-ビニル-ε-カプロラクタムであることが好ましい。R2、R5、R7、及びR8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。R3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
【0057】
該シロキシ基含有アクリレートモノマーがモノマーの合計100質量部において、1質量部未満であると、表面自由エネルギーの低下能が十部に得られないおそれがある。一方、シロキシ基含有アクリレートモノマーが40質量部を超えると、歯科用組成物における他の成分との相溶性が極端に悪くなり、十分に均一な塗布面を形成できなくなるだけでなく、それを塗布する際にハジキが生じたり、塗装面に凹みが生じたりするおそれがある。
【0058】
該N-ビニルラクタムモノマーがモノマーの合計100質量部において、2質量部未満であると、均一な塗布面を形成できないおそれがある。N-ビニルラクタムモノマーが80質量部を超えても、均一な塗布面を形成できないおそれがある。
【0059】
該アルキル(メタ)アクリレートモノマーがモノマーの合計100質量部において、10質量部未満であると、表面自由エネルギーの低下能が低くなるおそれがある。一方、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが97質量部を超えると、均一な塗布面を形成できないおそれがある。アルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基としては、R3のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0060】
本発明におけるレベリング剤(B-2)となる共重合体は、モノマーの合計100質量部において、シロキシ基含有アクリレートモノマーが2~20質量部、N-ビニルラクタムモノマーが4~40質量部、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが20~80質量部の範囲内で共重合されているとより好ましい。
【0061】
レベリング剤(B-2)に含有される共重合体の重量平均分子量は、1000~120000の範囲内のものであることが好ましい。重量平均分子量が1000未満の場合は、歯科用組成物に泡立ちが起こるおそれがある。一方、重量平均分子量が120000を超える場合は、歯科用組成物における他の成分との相溶性が悪くなり過ぎてしまい、歯科用組成物が濁ったり、塗布後の塗装面に、凹みが生じたりするおそれがある。重量平均分子量は、2000~60000であることがより好ましい。
【0062】
前記一般式(3)又は(4)で表されるシロキシ基含有アクリレートモノマーとしては、例えば、サイラプレーン(登録商標)FM-0711、サイラプレーン(登録商標)FM-0721、サイラプレーン(登録商標)FM-0725、サイラプレーン(登録商標)TM-0701、サイラプレーン(登録商標)TM-0701T(以上、チッソ株式会社の製品名)、X-22-174DX、X-22-2426、X-22-2475(以上、信越化学工業株式会社の製品名)が挙げられる。
【0063】
レベリング剤(B-2)に含有される共重合体を構成するシロキシ基含有アクリレートモノマーは、前記一般式(3)及び(4)で表される少なくともいずれかを最大で40質量部用いることが好ましいが、化学式(3)及び(4)で表される少なくともいずれかと、前記化学式(5)で表される両末端(メタ)アクリル変性のジ(メタ)アクリレートとを併用してもよい。
【0064】
前記一般式(5)で表される該ジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、サイラプレーン(登録商標)FM-7711、サイラプレーン(登録商標)FM-7721、サイラプレーン(登録商標)FM-7725(以上、チッソ株式会社の製品名)、X-22-164、X-22-164AS、X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、X-22-164E(以上、信越化学工業株式会社の製品名)が挙げられる。
【0065】
該ジ(メタ)アクリレートは、1~10質量部の範囲内で用いて、前記一般式(3)又は(4)で表されるシロキシ基含有アクリレートモノマーと共重合されることが好ましい。該ジ(メタ)アクリレートが10質量部を超えると、得られるレベリング剤(B-2)となる共重合体のゲル化を生じるおそれがある。
【0066】
前記N-ビニルラクタムモノマーとしては、N-ビニル基置換した5~7員環ラクタムが好ましく、具体的には、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタムが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、アルキルアクリレート、又はアルキルメタクリレートであって、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルプロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ノルマルオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0068】
レベリング剤(B-2)は、この共重合体のみからなっていてもよく、必要に応じて添加剤を含有していてもよく、共重合体を不活性溶媒で溶解又は懸濁させたものであってもよい。不活性溶媒は、レベリング剤(B-1)で挙げたものと同じものが使用できる。
【0069】
レベリング剤(B-2)としては、市販品を使用してもよい。レベリング剤(B-2)に相当する市販品としては、例えば、ポリフロー KL-400X、ポリフロー KL-401、ポリフロー KL-403、ポリフロー KL-700(共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0070】
本発明の歯科用組成物におけるレベリング剤(B)の含有量は、得られる歯科用組成物の塗布面の平滑性と歯科用組成物における他の成分との相溶性などの観点から、全単量体100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、被着体に対して、弱圧のブロー後だけではなく、強圧のブロー後においても優れた接着性を有する点から、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0071】
・重合開始剤(C)
本発明の歯科用組成物は、重合開始剤(C)をさらに含むことができる。重合開始剤(C)を含むことで硬化物の密着性、強度などを向上させることができる。また、後述する重合促進剤(D)とともに用いてもよい。当該重合開始剤(C)としては公知の重合開始剤を使用することができ、例えば、光重合開始剤(C-1)、化学重合開始剤(C-2)などを使用することができる。重合開始剤(C)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、例えば、光重合開始剤(C-1)と化学重合開始剤(C-2)とを併用してもよい。
【0072】
(i)光重合開始剤(C-1)
光重合開始剤(C-1)としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキシド類(塩を含む)、チオキサントン類(第4級アンモニウム塩等の塩を含む)、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0073】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。
【0074】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,3,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0075】
前記アシルホスフィンオキシド類は、水溶性アシルホスフィンオキシド類であってもよい。当該水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、アシルホスフィンオキシド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン等のイオンを有するものが挙げられる。水溶性アシルホスフィンオキシド類は、例えば、欧州特許第0009348号明細書、特開昭57-197289号公報などに開示されている方法により合成することができる。
【0076】
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類の具体例としては、例えば、モノメチルアセチルホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチル(1-オキソプロピル)ホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチルベンゾイルホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチル(1-オキソブチル)ホスフォネート・ナトリウム塩、モノメチル(2-メチル-1-オキソプロピル)ホスフォネート・ナトリウム塩、アセチルホスフォネート・ナトリウム塩、メチル4-(ヒドロキシメトキシホスフィニル)-4-オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル4-オキソ-4-ホスフォノブタノエート・モノナトリウム塩、アセチルフェニルホスフィネート・ナトリウム塩、(1-オキソプロピル)ペンチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル4-(ヒドロキシペンチルホスフィニル)-4-オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルエチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-4-オキソブタノエート・リチウム塩、4-(ヒドロキシメチルホスフィニル)-4-オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、アセチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートオキシム・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネート-O-ベンジルオキシム・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、ホルミルメチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1-オキソプロピル)ホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0077】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩が特に好ましい。
【0078】
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オン、2-ヒドロキシ-3-(9-オキシ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチルプロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリドなどが挙げられる。
【0079】
これらのチオキサントン類の中でも、2-クロロチオキサンテン-9-オン、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリドが好ましい。
【0080】
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
【0081】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。これらの中でも、可視光域に極大吸収波長を有する観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
【0082】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエニルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾイル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどが挙げられる。
【0083】
これらのクマリン類の中でも、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好ましい。
【0084】
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0085】
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物類としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0086】
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0087】
これらの光重合開始剤(C-1)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類及びクマリン類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これにより、可視光領域及び近紫外光領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用組成物となる。
【0088】
(ii)化学重合開始剤(C-2)
化学重合開始剤(C-2)としては従来公知のものを用いることができ、特に有機過酸化物が好ましい。当該有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0089】
前記ケトンペルオキシドとしては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドなどが挙げられる。
【0090】
前記ヒドロペルオキシドとしては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。
【0091】
前記ジアシルペルオキシドとしては、例えば、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどが挙げられる。
【0092】
前記ジアルキルペルオキシドとしては、例えば、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシンなどが挙げられる。
【0093】
前記ペルオキシケタールとしては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン、4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリン酸n-ブチルエステルなどが挙げられる。
【0094】
前記ペルオキシエステルとしては、例えば、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシバレリン酸などが挙げられる。
【0095】
前記ペルオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ-3-メトキシブチルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジアリルペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0096】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく、ベンゾイルペルオキシドが特に好ましい。
【0097】
本発明の歯科用組成物における重合開始剤(C)の含有量は、得られる歯科用組成物の接着性等の観点から、全単量体100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、また、10質量部以下であることが好ましい。
【0098】
・重合促進剤(D)
本発明の歯科用組成物は、重合促進剤(D)をさらに含むことができる。当該重合促進剤(D)は単独で用いることもできるが、上記重合開始剤(C)とともに用いることが好ましい。当該重合促進剤(D)としては公知の重合促進剤を使用することができ、例えば、アミン類、スルフィン酸類(塩を含む)、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。重合促進剤(D)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0099】
前記アミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。当該脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用組成物の接着性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0100】
前記芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4-(ジメチルアミノ)ベンゾニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用組成物に優れた接着性を付与できる観点から、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが好ましい。
【0101】
前記スルフィン酸類としては、例えば、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0102】
前記ボレート化合物としては、アリールボレート化合物が好ましい。当該アリールボレート化合物としては、例えば、1分子中に1~4個のアリール基を有するボレート化合物などが挙げられる。
【0103】
1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0104】
1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p-クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0105】
1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0106】
1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p-フルオロフェニル)トリフェニルホウ素、[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]トリフェニルホウ素、(p-ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0107】
これらのアリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物が好ましい。なお、アリールボレート化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0108】
前記バルビツール酸誘導体としては、例えば、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジフェニルバルビツール酸、1,5-ジメチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、5-エチルバルビツール酸、5-イソプロピルバルビツール酸、5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-n-ブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロペンチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-1-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、5-メチルバルビツール酸、5-プロピルバルビツール酸、1,5-ジエチルバルビツール酸、1-エチル-5-メチルバルビツール酸、1-エチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジエチル-5-ブチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-メチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-オクチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-ヘキシルバルビツール酸、5-ブチル-1-シクロヘキシルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸類、これらの塩などが挙げられる。これらのバルビツール酸誘導体の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられ、より具体的には、5-ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5-トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0109】
特に好適なバルビツール酸誘導体は、5-ブチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、これらのナトリウム塩である。
【0110】
前記トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メチルチオフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2,4-ジクロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-ブロモフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-n-プロピル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(α,α,β-トリクロロエチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-スチリル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(o-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-ブトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(1-ナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-エチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ジアリルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンなどが挙げられる。
【0111】
これらのトリアジン化合物の中でも、重合活性の点では、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましく、また保存安定性の点では、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましい。なお、トリアジン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0112】
前記銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅(II)、オレイン酸銅、塩化銅(II)、臭化銅(II)などが挙げられる。
【0113】
前記スズ化合物としては、例えば、ジ-n-ブチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。これらの中でも、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートが好ましい。
【0114】
前記バナジウム化合物としては、IV価及びV価のバナジウム化合物が好ましい。IV価及びV価のバナジウム化合物としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)などが挙げられる。
【0115】
前記ハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。
【0116】
前記アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒド、ベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。当該ベンズアルデヒド誘導体としては、例えば、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-メチルオキシベンズアルデヒド、p-エチルオキシベンズアルデヒド、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、接着性の観点から、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましい。
【0117】
前記チオール化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸などが挙げられる。
【0118】
前記亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0119】
前記亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどが挙げられる。
【0120】
前記チオ尿素化合物としては、例えば、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジ-n-プロピルチオ尿素、N,N’-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ-n-プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ-n-プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素などが挙げられる。
【0121】
本発明の歯科用組成物における重合促進剤(D)の含有量は、得られる歯科用組成物の接着性等の観点から、全単量体100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0122】
・フィラー(E)
本発明の歯科用組成物は、フィラー(E)を含んでもよい。このようなフィラー(E)は、有機フィラー、無機フィラー及び有機-無機複合フィラーに大別することができる。フィラー(E)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合としては、例えば、素材、粒度分布、形態などが異なるフィラーを併用する場合などが挙げられる。フィラー(E)としては、市販品を使用することができる。
【0123】
有機フィラーの素材としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられる。有機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。有機フィラーの形状は特に限定されない。
【0124】
無機フィラーの素材としては、例えば、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスなどが挙げられる。無機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0125】
無機フィラーの形状に特に制限はなく、無機フィラーとしては、例えば、不定形フィラー、球状フィラーなどが挙げられる。硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。ここで球状フィラーとは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーとすることができる。無機フィラーとして球状フィラーを用いる場合、その平均粒子径は、歯科用組成物における球状フィラーの充填率が低下せず、硬化物の機械的強度を維持することができる点から、0.1μm以上であることが好ましく、また、硬化物の機械的強度を維持するのに十分な表面積となることから5μm以下であることが好ましい。
【0126】
無機フィラーは、歯科用組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0127】
有機-無機複合フィラーとしては、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものを用いることができる。前記有機-無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。有機-無機複合フィラーの形状は特に限定されない。
【0128】
フィラー(E)の粒子径は特に限定されず、その平均粒子径を適宜選択することができる。得られる歯科用組成物のハンドリング性及び硬化物の機械的強度などの観点から、フィラー(E)の平均粒子径は、0.001μm以上であることが好ましく、また、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。なお、本明細書においてフィラー(E)の平均粒子径とは、フィラー(E)の一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。
【0129】
フィラー(E)の平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が簡便であり、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μm以上であるか否かの判別にはレーザー回折散乱法を採用すればよい。
【0130】
レーザー回折散乱法では、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「SALD-2100」等)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することで平均粒子径を求めることができる。
【0131】
電子顕微鏡観察では、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社日立製作所製「S-4000型」等)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」等)を用いて測定することにより平均粒子径を求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均粒子径が算出される。
【0132】
本発明の歯科用組成物におけるフィラー(E)の含有量は、全単量体100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることがさらに好ましく、また、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0133】
・溶媒(F)
本発明の歯科用組成物はその具体的な実施形態(例えば、プライマー等)によっては溶媒(F)を含むことが好ましい。溶媒(F)としては水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0134】
本発明の歯科用組成物が一定量の水を含むことにより、酸性基を有する単量体(A-1)の脱灰作用を促進することができる。本発明の歯科用組成物の調製に使用される水としては、接着性に悪影響を及ぼす不純物を持ち込まないようにする観点から、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
【0135】
本発明の歯科用組成物における水の含有量は、組成物の脱灰性能の観点から、全単量体100質量部に対して、1.0質量部以上であることが必要であり、5.0質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、組成物の硬化性の観点などから、全単量体100質量部に対して、50質量部以下であることが必要であり、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。なお、実施形態によってはこの限りではない。
【0136】
本発明の歯科用組成物は、接着性、塗布性、歯質への浸透性をより向上させることができ、歯科用組成物中の各成分の相分離をより防止することができることなどから、有機溶媒をさらに含むことが好ましい。
【0137】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、水溶性の有機溶媒が好ましく、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフランが好ましく、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0138】
本発明の歯科用組成物における有機溶媒の含有量は、全単量体100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、また、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。なお、実施形態によっては有機溶媒を含有しなくてもよい。
【0139】
・他の成分
本発明の歯科用組成物は、pH調整剤、重合禁止剤、フッ素イオン放出性成分、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、蛍光剤、香料、抗菌性物質等、上記した成分以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。当該抗菌性物質としては、例えば、セチルピリジニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロミド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロリド、トリクロサンなどが挙げられる。
【0140】
本発明の歯科用組成物の好適な実施形態としては、ボンディング材、プライマー、コーティング材などに用いることができる。また、各用途において、本発明の歯科用組成物の成分を2つに分けた2剤型として用いてもよい。以下、歯科用組成物を適用する場合の具体的な態様を示す。
【0141】
<歯科用ボンディング材>
本発明において、歯科用組成物をボンディング材として用いることが好適な実施態様の一つである。ボンディング材は、脱灰工程、浸透工程、及び硬化工程を併せて一段階で行うことのできる、ボンディング材である。ボンディング材としては、A液及びB液に分けられた2剤を使用直前に混和して用いる2剤型、1剤をそのまま使用することのできる1剤型が挙げられる。中でも、1剤型の方がより工程が簡素化されるため、使用上のメリットは大きい。さらに1剤型の中でも水、有機溶媒を実質的に含まない1剤型非溶媒系も挙げられる。1剤型ボンディング材に用いる歯科用組成物としては、酸性基を有する単量体(A-1)、酸性基を有さない単量体(A-2)、レベリング剤(B)、光重合開始剤(C-1)、重合促進剤(D)、フィラー(E)、及び溶媒(F)を含む組成物であることが好ましい。前記歯科用組成物をボンディング材として用いることによって、被着体に対して、弱圧のブロー後だけではなく、強圧のブロー後においても優れた接着性が得られる。
【0142】
1剤型ボンディング材における各成分の含有量は歯科用組成物における単量体の全量100質量部において、酸性基を有する単量体(A-1)1~50質量部、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)9~90質量部、酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)9~90質量部を含むことが好ましく、酸性基を有する単量体(A-1)3~30質量部、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)15~80質量部、酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)15~80質量部を含むことがより好ましい。また、該単量体の全量100質量部に対して、レベリング剤(B)0.001~10質量部、光重合開始剤(C-1)0.01~10質量部、重合促進剤(D)0.01~20質量部、フィラー(E)0.1~30質量部、及び溶媒(F)1~70質量部を含むことが好ましく、レベリング剤(B)0.01~10質量部、光重合開始剤(C-1)0.05~10質量部、重合促進剤(D)0.05~20質量部、フィラー(E)0.5~20質量部、及び溶媒(F)5~50質量部を含むことがより好ましい。
【0143】
1剤型非溶媒系ボンディング材における各成分の含有量は歯科用組成物における単量体の全量100質量部において、酸性基を有する単量体(A-1)1~50質量部、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)9~90質量部、酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)9~90質量部を含むことが好ましく、酸性基を有する単量体(A-1)3~30質量部、酸性基を有さない疎水性単量体(A-2-1)15~80質量部、酸性基を有さない親水性単量体(A-2-2)15~80質量部を含むことがより好ましい。また、該単量体の全量100質量部に対して、レベリング剤(B)0.001~10質量部、光重合開始剤(C-1)0.01~10質量部、重合促進剤(D)0.01~20質量部、及びフィラー(E)0.1~30質量部を含むことが好ましく、レベリング剤(B)0.01~10質量部、光重合開始剤(C-1)0.05~10質量部、重合促進剤(D)0.05~20質量部、及びフィラー(E)0.5~20質量部を含むことがより好ましい。
【0144】
<プライマー>
本発明において、歯科用組成物をプライマーとして用いることが好適な実施態様の一つである。該プライマーは、被着体の表面改質を行うことのできるプライマーである。プライマーとしては、A液及びB液に分けられた2剤を使用直前に混和して用いる2剤型、1剤をそのまま使用することのできる1剤型が挙げられる。中でも、1剤型の方がより工程が簡素化されるため、使用上のメリットは大きい。プライマーに用いる歯科用組成物としては、単量体(A)、レベリング剤(B)、重合促進剤(D)、及び溶媒(F)を含む組成物であることが好ましい。
【0145】
プライマーにおける各成分の含有量は歯科用組成物の全量100質量部において、単量体(A)1~90質量部を含むことが好ましく、単量体(A)3~80質量部を含むことがより好ましい。また、歯科用組成物の全量100質量部において、レベリング剤(B)0.001~10質量部、重合促進剤(D)0.01~20質量部、及び溶媒(F)1~98質量部を含むことが好ましく、レベリング剤(B)0.01~10質量部、重合促進剤(D)0.05~20質量部、及び溶媒(F)5~95質量部を含むことがより好ましい。
【0146】
<コーティング材>
本発明において、歯科用組成物をコーティング材として用いることが好適な実施態様の一つである。該コーティング材は、被着体の保護、及び表面滑沢性を付与することのできる、コーティング材である。コーティング材としては、A液及びB液に分けられた2剤を使用直前に混和して用いる2剤型、1剤をそのまま使用することのできる1剤型が挙げられる。中でも、1剤型の方がより工程が簡素化されるため、使用上のメリットは大きい。コーティング材に用いる歯科用組成物としては、単量体(A)、レベリング剤(B)、及び重合開始剤(C)を含む組成物であることが好ましい。
【0147】
コーティング材における各成分の含有量は歯科用組成物の全量100質量部において、単量体(A)1~98質量部を含むことが好ましく、単量体(A)3~95質量部を含むことがより好ましい。また、歯科用組成物の全量100質量部において、レベリング剤(B)0.001~10質量部、及び光重合開始剤(C-1)0.01~10質量部を含むことが好ましく、レベリング剤(B)0.01~10質量部、及び光重合開始剤(C-1)0.05~10質量部を含むことがより好ましい。
【0148】
本発明の歯科用組成物の調製方法に特に制限はなく、各成分を配合することにより得ることができる。得られた歯科用組成物は容器に充填することができる。
【0149】
本発明の歯科用組成物は、本発明によれば、塗布ムラがなく被着体に均一な塗布面を形成し、かつ優れた塗布性を有する。従って、本発明の歯科用組成物は、ボンディング材やコーティング材、プライマーとして好適に使用することができる。本発明の歯科用組成物の具体的な使用方法に特に制限はなく、常法に従い使用することができる。
【0150】
本発明の歯科用組成物を歯科用修復材料の接着に用いる場合は、市販のプライマー、歯面清掃剤、エッチング剤などと組み合わせて用いてもよい。
【実施例
【0151】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下で用いる略記号は次の通りである。
【0152】
〔単量体(A)〕
〔酸性基を有する単量体(A-1)〕
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0153】
〔酸性基を有さない単量体(A-2)〕
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
#801:1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
【0154】
〔レベリング剤(B)〕
レベリング剤(B-1):レベリング剤1:以下の方法により合成した。還流冷却器、温度計、攪拌機及び滴下槽を備えた容器にキシレン150質量部を入れて、液温を110℃に保温した。窒素雰囲気下で、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートであるライトエステルFM-108(共栄社化学株式会社製)30質量部、アクリロイルモルホリン50質量部、2-エチルヘキシルアクリレート20質量部、パーオクタO(日油株式会社製)5質量部の混合溶液を約1時間かけてキシレンに滴下した。110℃で2時間反応させ、フッ素含有(メタ)アクリル系共重合体を含む溶液(レベリング剤1)を得た。該共重合体のMwをゲルパーミエーションクロマトグラフ法によりポリスチレン換算した値で求めたところ、14000であった。
レベリング剤(B-2):KL-700:ポリフロー KL-700(シリコーン含有ポリマー、共栄社化学株式会社製)
【0155】
〔レベリング剤でない他の重合体〕
重合体1:Rf-(CH2-CHRxn-Rfで表される重合体(Mn=8700、Mw/Mn=2.0、Rf:-CF(CF2)―OCF2CF(CF3)-OC37、Rx:-CON(CH32
なお、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定することができる。重合体1は、特許文献2の実施例2のフッ素化合物に相当する。
【0156】
〔重合開始剤(C)〕
CQ:dl-カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
TMDPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
【0157】
〔重合促進剤(D)〕
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
VOAA:酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、
DMAEMA:2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート
【0158】
〔フィラー(E)〕
無機フィラー1:日本アエロジル株式会社製微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)R-972」、平均粒子径:16nm
【0159】
〔他の成分〕
BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(安定剤(重合禁止剤))
【0160】
〔実施例1-1~1-8、及び比較例1-1~1-2;非溶媒系の1液型歯科用ボンディング材〕
表1に示した含有量となるように各成分を配合して、歯科用組成物(非溶媒系の1液型歯科用ボンディング材)を調製した。得られた各歯科用組成物を用い、後述の方法に従って、組成物の塗布面へのレベリング性、塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ、組成物の相分離、及び象牙質に対する引張り接着強さを測定した。結果を表1に示した。なお、歯科用組成物のエアブローによる接着性能への影響を検討するため、引張り接着強さの測定にあたっては、歯科用組成物を調製し、象牙質に塗布した後、弱圧のエアで5秒間ブローした場合と強圧のエアで2秒間ブローした場合で試験を実施した。前述したエアによるブローは歯科用組成物の塗布面をならす目的であり、溶媒を含む場合は溶媒の揮発の目的で行われる。エアによるブローは、歯科用エアーシリンジを用いてエアブローすることが好ましい。エアによるブローの圧力は、0.001~1MPaであることが好ましい。なお、本明細書において、弱圧のエアとは、エアの圧力が0.001以上、0.5MPa未満であることを指し、強圧のエアとは0.5MPa以上、1MPa以下のであることを指す。
【0161】
・組成物の塗布面へのレベリング性
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物をスライドガラス(水縁磨t1.3、76mm×26mm、松浪硝子工業株式会社製)の端から5mmの位置に0.5g滴下した。滴下後スライドガラスを垂直に立てて、30秒間静置する。静置後すぐさまスライドガラスを平行状態に戻し、垂れた面の様子を目視にて観察する。塗布面が切れたり、弾いたりするところがなければ、良好(○)とし、縁が弾かれていれば、一部不良(△)、塗布面が切れていれば不良(×)と評価し、良好のみを合格とした。
【0162】
・塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ
スライドガラス上に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着した。各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、強圧のエアで2秒間ブローした。ブロー後の丸穴内を3Dレーザー顕微鏡(VK-9710、キーエンス株式会社)にて観察を行った。ガラス面が露出していない場合を良好(○)とし、ガラス面が一部露出している場合を不良(×)と評価した。
【0163】
・組成物の相分離
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物3gをスクリュー瓶(6cc容量)に添加し、室温で一晩静置した。静置後、スクリュー瓶を振盪させた。浸透させた際に白濁した場合を×、白濁しなかった場合を○として評価した。
【0164】
・象牙質に対する引張り接着強さ
ウシ下顎前歯の唇面を流水下に#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質及び象牙質の平坦面を露出させたサンプルをそれぞれ得た。得られたサンプルを流水下に#1000のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着して接着面積を規定した。
【0165】
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、10秒間放置した後、半分のサンプルは弱圧のエアで5秒間ブローし、残りの半分のサンプルは強圧のエアで2秒間ブローした。サンプルは各10本ずつ作製した。続いて、歯科用可視光線照射器(株式会社モリタ製、商品名「ペンキュアー2000」)にて10秒間光照射することにより、塗布した歯科用組成物を硬化させた。
【0166】
得られた歯科用組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「クリアフィル(登録商標) AP-X」)を充填し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記歯科充填用コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記歯科充填用コンポジットレジンに対して前記歯科用可視光線照射器を用いて20秒間光照射を行い、前記歯科充填用コンポジットレジンを硬化させた。
【0167】
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標) 21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬して、接着試験供試サンプルを得た。37℃に保持した恒温機内に24時間静置した。
【0168】
前記接着試験供試サンプルを用いた引張り接着強さを、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ「AG-I 100kN」)にて、クロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、その平均値として求めた。
【0169】
【表1】
【0170】
〔実施例2-1~2-8、及び比較例2-1~2-2;1液型歯科用ボンディング材〕
表2に示した含有量となるように各成分を配合して、歯科用組成物(溶媒を含む1液型歯科用ボンディング材)を調製した。得られた各歯科用組成物を用い、後述の方法に従って、塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ、組成物の相分離、及び象牙質に対する引張り接着強さを測定した。結果を表2に示した。なお、歯科用組成物のエアブローによる接着性能への影響を検討するため、引張り接着強さの測定にあたっては、歯科用組成物を調製し、象牙質に塗布した後、弱圧のエアで5秒間ブローした場合と組成物が飛び散るような強圧のエアで2秒間ブローした場合で試験を実施した。
【0171】
・塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ
スライドガラス上に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着した。各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、組成物が飛び散るような強圧のエアで2秒間ブローした。ブロー後の丸穴内を3Dレーザー顕微鏡(VK-9710、キーエンス株式会社)にて観察を行った。ガラス面が露出していない場合を良好(○)とし、ガラス面が一部露出している場合を不良(×)と評価した。
【0172】
・組成物の相分離
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物3gをスクリュー瓶(6cc容量)に添加し、室温で一晩静置した。静置後、スクリュー瓶を振盪させた。浸透させた際に白濁した場合を×、白濁しなかった場合を○として評価した。
【0173】
・象牙質に対する引張り接着強さ
ウシ下顎前歯の唇面を流水下に#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質及び象牙質の平坦面を露出させたサンプルをそれぞれ得た。得られたサンプルを流水下に#1000のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨後、表面の水をエアでブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着して接着面積を規定した。
【0174】
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、10秒間放置した後、半分のサンプルは弱圧のエアで5秒間ブローし、残りの半分のサンプルは組成物が飛び散るような強圧のエアで2秒間ブローした。サンプルは各10本ずつ作製した。続いて、歯科用可視光線照射器(株式会社モリタ製、商品名「ペンキュアー2000」)にて10秒間光照射することにより、塗布した歯科用組成物を硬化させた。
【0175】
得られた歯科用組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「クリアフィル(登録商標) AP-X」)を充填し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記歯科充填用コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記歯科充填用コンポジットレジンに対して前記歯科用可視光線照射器を用いて20秒間光照射を行い、前記歯科充填用コンポジットレジンを硬化させた。
【0176】
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標) 21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬して、接着試験供試サンプルを得た。37℃に保持した恒温機内に24時間静置した。
【0177】
前記接着試験供試サンプルを用いた引張り接着強さを、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ「AG-I 100kN」)にて、クロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、その平均値として求めた。
【0178】
【表2】
【0179】
〔実施例3-1~3-8、及び比較例3-1~3-2;前処理材併用型の歯科用セメントのプライマー〕
表3に示した含有量となるように各成分を配合して、歯科用組成物(前処理材併用型の歯科用セメントのプライマー)を調製した。得られた各歯科用組成物を用い、後述の方法に従って、塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ、及び組成物の相分離を測定した。結果を表3に示した。
【0180】
・塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ
スライドガラス上に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着した。各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、組成物が飛び散るような強圧のエアで2秒間ブローした。ブロー後の丸穴内を3Dレーザー顕微鏡(VK-9710、キーエンス株式会社)にて観察を行った。ガラス面が露出していない場合を良好(○)とし、ガラス面が一部露出している場合を不良(×)と評価した。
【0181】
・組成物の相分離
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物3gをスクリュー瓶(6cc容量)に添加し、室温で一晩静置した。静置後、スクリュー瓶を振盪させた。浸透させた際に白濁した場合を×、白濁しなかった場合を○として評価した。
【0182】
【表3】
【0183】
〔実施例4-1~4-8、及び比較例4-1~4-2;コーティング材〕
表4に示した含有量となるように各成分を配合して、歯科用組成物(コーティング材)を調製した。得られた各歯科用組成物を用い、後述の方法に従って、組成物の塗布面へのレベリング性、塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ、及び組成物の相分離を測定した。結果を表4に示した。
【0184】
・組成物の塗布面へのレベリング性の測定
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物をスライドガラス(水縁磨t1.3、76mm×26mm、松浪硝子工業株式会社製)の端から5mmの位置に0.5g滴下した。滴下後スライドガラスを垂直に立てて、30秒間静置する。静置後すぐさまスライドガラスを平行状態に戻し、垂れた面の様子を目視にて観察する。塗布面が切れたり、弾いたりするところがなければ、良好(○)とし、縁が弾かれていれば、一部不良(△)、塗布面が切れていれば不良(×)と評価し、良好のみを合格とした。
【0185】
・塗布面の強圧のブロー後の塗布ムラ
スライドガラス上に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着した。各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、組成物が飛び散るような強圧のエアで2秒間ブローした。ブロー後の丸穴内を3Dレーザー顕微鏡(VK-9710、キーエンス株式会社)にて観察を行った。ガラス面が露出していない場合を良好(○)とし、ガラス面が一部露出している場合を不良(×)と評価した。
【0186】
・組成物の相分離
各実施例又は比較例で作製した歯科用組成物3gをスクリュー瓶(6cc容量)に添加し、室温で一晩静置した。静置後、スクリュー瓶を振盪させた。浸透させた際に白濁した場合を×、白濁しなかった場合を○として評価した。
【0187】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明の歯科用組成物は、塗布ムラがなく被着体に均一な塗布面を形成でき、かつ優れた塗布性を有するため、ボンディング材、コーティング材及びプライマーとして有用である。特に、被着体に対して、弱圧のブロー後だけではなく、強圧のブロー後においても優れた接着性を有するボンディング材として有用である。