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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】繊維製品の処理方法
(51)【国際特許分類】
   D06L 4/12 20170101AFI20230816BHJP
   D06L 4/15 20170101ALI20230816BHJP
【FI】
D06L4/12
D06L4/15
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018242550
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105640
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直文
(72)【発明者】
【氏名】大谷 博卓
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-034696(JP,A)
【文献】特開平09-183998(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0082832(US,A1)
【文献】特公昭48-003356(JP,B1)
【文献】特開昭48-054280(JP,A)
【文献】特表2002-509558(JP,A)
【文献】特開2010-229405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06L 1/00- 4/75
C11D 1/00-19/00
D06B 1/00-23/30
D06C 3/00-29/00
D06G 1/00- 5/00
D06H 1/00- 7/24
D06J 1/00- 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素、有機ラジカル形成化剤及び水を含有する水性組成物を繊維製品に適用すること、
前記水性組成物を適用した繊維製品を80℃以上250℃以下で熱処理すること、
を行う、繊維製品の処理方法であって、
前記有機ラジカル形成化剤が、炭素数が4以上10以下である乳酸エステル、炭素数が3以上10以下であるギ酸エステル及び炭素数が3以上10以下である酢酸エステルから選ばれる1種以上の、酸化還元電位が0.9eV以上2.3eV以下の化合物であり、
前記水性組成物が、過酸化水素を0.01質量%以上2質量%以下含有し、
前記水性組成物が、有機ラジカル形成剤を0.05質量%以上2質量%以下含有する、
繊維製品の処理方法。
【請求項2】
前記有機ラジカル形成化剤が、乳酸プロピル、乳酸ブチル、酢酸ブチル及びギ酸ブチルから選ばれる1種以上の化合物である、請求項1に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項3】
前記水性組成物が、実質、金属触媒を含まない、請求項1又は2に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項4】
熱処理を、前記繊維製品に80℃以上250℃以下の高熱体を接触させて行う、請求項1~3の何れか1項に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項5】
前記水性組成物を、噴霧、塗布、浸漬及びこれらの組み合わせにより、繊維製品に適用する、請求項1~4の何れか1項に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項6】
前記水性組成物が、過酸化水素を0.01質量%以上1質量%以下含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項7】
前記水性組成物が、有機ラジカル形成剤を0.05質量%以上1質量%以下含有する、請求項1~6の何れか1項に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項8】
前記水性組成物が、更に下記一般式(1)で示されるアミド化合物を0.1質量%以上5質量%以下含有する請求項1~7の何れか1項に記載の繊維製品の処理方法。
X-C(=O)-N(R)(R) (1)
〔式中、R及びRは独立して、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、Xは-R、-N(R)(R)、フェニル基又はベンジル基であり、ここでR及びRは独立して、水素原子、炭素数1以上3以下のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であって、R及びRが同時にフェニル基又はベンジル基ではない。〕
【請求項9】
前記アミド化合物が尿素である、請求項8に記載の繊維製品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品の処理方法及び加熱処理用繊維製品処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料等の繊維製品の漂白に使用される漂白剤は、塩素系漂白剤と酸素系漂白剤に大別される。塩素系漂白剤は、使用できる繊維に制限があり色柄物には使用しにくいが、高い漂白性能を有する。酸素系漂白剤は、匂いが弱く、汚れに直接塗布できるなどの利点がある。酸素系漂白剤として、液体では、過酸化水素を含むものが、また固体では、水中で過酸化水素を放出する過炭酸塩を含むものが知られている。
【0003】
家庭での繊維製品の漂白処理は、一般に、洗濯の工程に取り込んで行われることが多い。しかし、洗濯後に、汚れが十分に落ちていなかったのを見つけた場合、再度洗濯を繰り返すか、そうでなければそのまま汚れを許容して繊維製品を使用することが多い。この観点で、繊維製品全体を再度洗濯するのではなく、繊維製品自体の色を落とさずに、汚れた部分のみ簡易に処理できれば、利用者にとっては望ましい方法になると考えられる。
【0004】
特許文献1には、第一の側と第二の側をもつ、点々と染みの付いている部分のある布地を処理する為の方法であって、(a)(i)所定の界面活性剤、(ii)グリコールエーテル溶剤、(iii)漂白剤、(iv)水を、それぞれ、所定範囲で含有する染み落とし用組成物を、該布地の点々と染みの付いている部分に塗布する工程、(b)該布地の第一の側の、染みの付いている部分の辺りを吸収性染み受容物と接触させる工程、(c)該布地の第二の側の、染みの付いている部分の辺りを熱源に当てる工程、(d)必要に応じて、工程(a)と同時に、もしくは工程(a)に引き続いて、該布地の染みの付いている部分の辺りを処理部材と接触させる工程、及び(e)必要に応じて、水性のリンス溶液を、該布地の染みの付いている部分の辺りに塗布する工程、からなる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-527646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、色柄物に影響を与えずに繊維製品の処理、例えば有機質汚れの漂白、消臭、殺菌などを行うことができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、過酸化水素、有機ラジカル形成化剤及び水を含有する水性組成物を繊維製品に適用すること、
前記水性組成物を適用した繊維製品を80℃以上250℃以下で熱処理すること、
を行う、繊維製品の処理方法に関する。
【0008】
また、本発明は、過酸化水素、有機ラジカル形成化剤及び水を含有する、加熱処理用繊維製品処理剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色柄物に影響を与えずに繊維製品の処理、例えば有機質汚れの漂白、消臭、殺菌などを行うことができる方法が提供される。また、本発明によれば、このような方法に用いられる加熱処理用繊維製品処理剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、過酸化水素〔以下(A)成分又は過酸化水素(A)という場合もある〕、有機ラジカル形成化剤〔以下(B)成分又は有機ラジカル形成化剤(B)という場合もある〕及び水を含有する水性組成物(以下、本発明の水性組成物ともいう)を繊維製品に適用する。以下、本発明の水性組成物について説明する。
【0011】
本発明の水性組成物は、過酸化水素(A)を、汚れの漂白と染料脱色抑制の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%以下含有する。
【0012】
本発明では、過酸化水素と有機ラジカル形成化剤とが共存した状態で、所定温度で熱処理を行うことで高い漂白、殺菌、脱臭などの効果が得られる。その理由は必ずしも明らかではないが、次のように推察される。過酸化水素と有機ラジカル形成化剤とが共存した状態で、所定温度で熱処理を行うと、過酸化水素は相対的に親水性の高いヒドロキシラジカルを生成する。このヒドロキシラジカルは、有機ラジカル形成化剤(B)に作用して、有機ラジカルを生成させると考えられる。そして、生成した有機ラジカルは、有機基を含むことからヒドロキシラジカルと比較して相対的に疎水性が高く、繊維製品の着色に用いられている親水性の高い染料よりも、汚れに含まれるメラニンなどの疎水性の高い色素に作用しやすいため、汚れの色素を効率よく分解させるものと推察される。
【0013】
有機ラジカル形成化剤(B)は、有機ラジカル、好ましくは疎水性有機ラジカルの発生源であってよい。
【0014】
有機ラジカル形成化剤(B)としては、例えば、過酸化水素と共存した状態で加熱した時に過酸化水素から生成したヒドロキシラジカルと反応してラジカルとなる化合物が挙げられる。
【0015】
有機ラジカル形成化剤(B)としては、炭素数が3以上14以下である脂肪酸、炭素数が4以上10以下である乳酸エステル、炭素数が3以上10以下であるギ酸エステル、炭素数が3以上10以下である酢酸エステル、炭素数が3以上5以下であるケトン及び炭素数が3以上5以下であるアルデヒド、から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0016】
有機ラジカル形成化剤(B)は、好ましくは、酸化還元電位が0.9eV以上、好ましくは1.0eV以上、そして、好ましくは2.3eV以下、より好ましくは2.0eV以下の化合物である。ここで、有機ラジカル形成化剤(B)の酸化還元電位は、後述する実施例の測定法によるものである。以下、酸化還元電位という場合、特記しない限り、実施例の測定法によるものをいう。
【0017】
有機ラジカル形成化剤(B)は、過酸化水素から生成するヒドロキシラジカルの酸化還元電位に近い有機ラジカルを生成するものが好ましい。後述する実施例の測定法によれば、ヒドロキシラジカルの酸化還元電位は2.4eVである。この値に対して、有機ラジカル形成化剤(B)の酸化還元電位が-1.5eV以上-0.1eV以下の酸化還元電位差を有することが好ましい。ヒドロキシラジカルの酸化還元電位に対する有機ラジカル形成化剤(B)の酸化還元電位の差が前記範囲にあることで、有機ラジカルを生成し易くなる。
【0018】
更に本発明の有機ラジカル形成化剤(B)は、生成する有機ラジカルが、より疎水性であることが、皮脂由来のシミ汚れなどの疎水性の汚れに対して有効に作用する一方で、繊維基剤や染料に影響を与えないことから好ましい。本発明では疎水性の指標として一般的に知られているClogPを用いることができる。詳しくは有機ラジカル形成化剤(B)のClogPが好ましくは正数である化合物であり、より好ましくは0.01以上、更により好ましくは0.1以上である化合物であり、水性組成物への溶解性ないし分散安定性の観点から好ましくは8.0以下、より好ましくは7.0以下である化合物である。
【0019】
ClogP値については、例えば、Daylight Chemical Information Systems, Inc.(DaylightCIS)等から入手し得るデータベースに多くの化合物のlogP値が掲載されていて参照することができる。また、実測のlogP値がない場合には、プログラム“CLOGP”(DaylightCIS)等で計算することができ、中でも、プログラム“CLOGP”により計算することが、信頼性も高く好適である。
プログラム“CLOGP”においては、Hansch, Leoのフラグメントアプローチにより算出される「計算logP(ClogP)」の値が、logPの実測値がある場合にはそれと共に出力される。フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している(A.Leo,Comprehensive Medicinal Chemistry, Vol.4, C.Hansch, P.G.Sammens, J.B.Taylor andC.A.Ramsden,Eds., p.295, Pergamon Press, 1990)。このClogP値は現在最も一般的で信頼できる推定値であるため、化合物の選択に際してlogPの実測値がない場合に、ClogP値を代わりに用いることが好適である。本発明においては、logPの実測値、又はプログラム“CLOGP”により計算したClogP値のいずれを用いてもよい。
【0020】
有機ラジカル形成化剤(B)としては、前記したように酸化還元電位が化合物の炭素数の影響を受けないことから、官能基の有無などの構造が決まれば大体一定の数値として表現できる。従って当該化合物としては、飽和脂肪酸(1.6eV)、乳酸エステルと脂肪族アルコールとのエステル化合物である、乳酸エステル(1.7eV)、ギ酸又は酢酸と脂肪族アルコールとのエステルであるギ酸エステル又は酢酸エステル(1.3eV)、R-C(=O)-R’〔式中、R、R’はアルキル基〕で示されるケトン(0.9eV)及びR-CHO〔式中、Rはアルキル基〕で示されるアルデヒド(1.1eV)から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0021】
更に本発明の有機ラジカル形成化剤(B)は、前記したように疎水性の条件や基剤臭の問題から、好ましくは炭素数が6以上14以下である飽和脂肪酸(酸化還元電位:1.6eV、ClogP:1.9~6.2)、炭素数が4以上10以下である乳酸エステル(酸化還元電位:1.7eV、ClogP:-0.2~3.0)、炭素数が3以上10以下であるギ酸、炭素数が3以上10以下である酢酸エステル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:0.3~4.0)、炭素数が3以上5以下である前記構造のケトン(酸化還元電位:0.9eV、ClogP:-0.2~0.9)、及び炭素数が3以上5以下である前記構造のアルデヒド(酸化還元電位:1.1eV、ClogP:-0.2~1.9)から選ばれる1種以上の化合物である。
【0022】
有機ラジカル形成化剤(B)は、より好ましくは、炭素数8以上14以下の飽和脂肪酸、炭素数が4以上6以下である乳酸エステル、炭素数が3以上10以下であるギ酸エステル、及び炭素数が3以上10以下である酢酸エステルから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。炭素数8以上14以下の飽和脂肪酸としては、オクタン酸(酸化還元電位:1.6eV、ClogP:3.0)、ペラルゴン酸(酸化還元電位:1.6eV、ClogP:3.5)、カプリン酸(酸化還元電位:1.6eV、ClogP:4.0)、ラウリン酸(酸化還元電位:1.6eV、ClogP:5.1)、ミリスチン酸(酸化還元電位:1.6eV、ClogP:6.2)が挙げられる。炭素数が4以上6以下である乳酸エステルとしては、乳酸メチル(酸化還元電位:1.7eV、ClogP:-0.2)、乳酸エチル(酸化還元電位:1.7eV、ClogP:0.3)、乳酸プロピル(酸化還元電位:1.7eV、ClogP:0.9)、乳酸ブチル(酸化還元電位:1.7eV、ClogP:1.4)が挙げられる。炭素数が3以上10以下であるギ酸エステル又は酢酸エステルとしては、ギ酸エチル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:0.3)、ギ酸ブチル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:0.8)、酢酸エチル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:0.7)、酢酸プロピル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:1.2)、酢酸ブチル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:1.8)、酢酸ペンチル(酸化還元電位:1.3eV、ClogP:2.3)が挙げられる。
【0023】
有機ラジカル形成化剤(B)は、更により好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、乳酸メチル、乳酸エチル、及び乳酸ブチルから選ばれる1種以上の化合物である。
【0024】
本発明の水性組成物は、有機ラジカル形成化剤(B)を、有機ラジカルの生成効率の観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0025】
本発明の水性組成物は、過酸化水素(A)の含有量と有機ラジカル形成化剤(B)の含有量の質量比が、過酸化水素(A)の含有量/有機ラジカル形成化剤(B)の含有量で、有機ラジカルの生成効率の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.5以上、そして、好ましくは40以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは5以下である。
【0026】
本発明の水性組成物には、下記一般式(1)で示されるアミド化合物〔以下(C)成分又はアミド化合物(C)という場合がある〕を配合することで、メラニン分解率が更に向上することから好ましい。低分子量のアミド化合物は、その構造から、過酸化水素(A)と非共有結合の複合体を形成して、ヒドロキシラジカルの発生を促すことができ、その結果、有機ラジカルの生成率が向上する。
X-C(=O)-N(R)(R) (1)
〔式中、R及びRは独立して、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、Xは-R、-N(R)(R)、フェニル基又はベンジル基であり、ここでR及びRは独立して、水素原子、炭素数1以上3以下のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であって、R及びRが同時にフェニル基又はベンジル基ではない。〕
【0027】
前記アミド化合物(C)は、過酸化水素の-OHと水素結合することで開裂を促しラジカルを生成し易くすると考えられることから、式中、R、R、R及びRの少なくとも何れか1つは水素原子である化合物が好ましい。更には式中、Xが水素原子、メチル基、-N(R)(R)又はフェニル基であって、R、R、R及びRの少なくとも何れか1つは水素原子であり、残りが水素原子、メチル基又はフェニル基である化合物がより好ましい。
【0028】
一般式(1)の化合物としては、好ましくは尿素、ホルムアミド、ベンズアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアニリドであり、より好ましい化合物は家庭での使用やコスト等の観点から尿素である。
【0029】
本発明の水性組成物は、一般式(1)で示されるアミド化合物(C)を、有機ラジカルの生成効率の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下含有する。
【0030】
更に本発明の水性組成物は、過酸化水素(A)の含有量と一般式(1)で示されるアミド化合物(C)の含有量の質量比が、過酸化水素(A)の含有量/アミド化合物(C)の含有量の質量比として、有機ラジカルの高率的な生産性の向上から、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.1以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは4以下である。
【0031】
本発明の水性組成物は、過酸化水素(A)、有機ラジカル形成化剤(B)、任意の前記一般式(1)で示されるアミド化合物(C)、以外の成分を含有することができる。例えば、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、ハイドロトロープ剤、賦形剤、防腐剤、抗菌剤、香料、消臭基材などを、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0032】
界面活性剤〔以下(D)成分又は界面活性剤(D)という場合がある〕としては、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を配合することができるが、本発明では疎水性ラジカル形成剤を水に可溶化するために、非イオン界面活性剤を配合することが好ましい。
【0033】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグリコシド等が挙げられる。保存安定性の観点から、下記一般式(2)で表される非イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
21-Y-〔(EO)(PO)〕-R22 (2)
(式中、R21は炭化水素基であり、-Y-は-O-又は-COO-であり、R21-Y-は総炭素数8~22である。EOはエチレンオキシ基、POはプロピレンオキシ基を表し、n及びmは平均付加モル数を表し、nは5~30の数であり、mは0~5の数である。R22は水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。EO及びPOはランダム又はブロックのいずれに結合したものであってもよい。)
【0034】
一般式(2)において、R21である炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、1級、2級等の何れでもよいが、好ましくは、直鎖1級である。洗浄性能の観点から、R21-Y-は炭素数10~20が好ましく、炭素数12~18がより好ましく、炭素数12~16が更に好ましく、炭素数12~14が特に好ましい。R22は水素原子が好ましい。nは8~20が好ましい。mは0が好ましい。
【0035】
本発明の水性組成物中、界面活性剤(D)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0036】
本発明の水性組成物は、保存時の組成物中の過酸化水素の安定性を維持し、漂白効果を向上させる目的から、金属イオン封鎖剤〔以下(E)成分又は金属イオン封鎖剤(E)という場合がある〕を含有することが好ましい。金属イオン封鎖剤(E)は、工業的に販売されている過酸化水素水に既に配合されている場合もある。金属イオン封鎖剤(E)としては、例えば、(1)フィチン酸等のリン酸系化合物又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、(2)エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸)およびその誘導体、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸等のホスホン酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、(3)2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸等のホスホノカルボン酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、(4)アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン等のアミノ酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、(5)ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジエンコル酸等のアミノポリ酢酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、(6)ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、オキシジコハク酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキシメチル酒石酸などの有機酸又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、(7)ゼオライトAに代表されるアルミノケイ酸のアルカリ金属塩又はアルカノールアミン塩、(8)アミノポリ(メチレンホスホン酸)もしくはそのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩、又はポリエチレンポリアミンポリ(メチレンホスホン酸)もしくはそのアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩を挙げることができる。
これらの中で上記(2)、(5)、(6)および(7)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、上記(2)からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0037】
本発明の水性組成物中、金属イオン封鎖剤(E)の含有量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0038】
本発明の水性組成物には、低温での溶液安定化及び凍結回復性を改善したり、高温での液分離を防止したりする目的で、ハイドロトロープ剤〔以下(F)成分又はハイドロトロープ剤(F)という場合がある〕を配合することが好ましい。ハイドロトロープ剤(F)としては、トルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩などに代表される短鎖アルキル(好ましくは炭素数1~3)ベンゼンスルホン酸塩、エタノール、プロパノールなどの炭素数1~4のアルカノール化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等の炭素数2~4のアルキレングリコール化合物、グリセリンが挙げられる。ハイドロトロープ剤は、短鎖アルキル(好ましくは炭素数1~3)ベンゼンスルホン酸塩、炭素数2~4のアルキレングリコール化合物が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコールがより好ましい。ハイドロトロープ剤は、組成物中に0.1~10質量%配合することが出来る。アルカノール化合物の配合量は、過酸化水素(A)の安定性の点から、組成物中に、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。
【0039】
賦形剤としては、糊剤として知られているポリマーを含有することができる。例えばポリ(メタ)アクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアルコール等を挙げることができるが、過酸化水素やラジカル生成に与える影響が少ないものが好ましい。
【0040】
防腐剤としては、プロキセル名で市販されている5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系化合物、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン等のベンゾイソチアゾリン系化合物、安息香酸を挙げることができる。
【0041】
香料としては、従来より過酸化水素等の漂白作用のある酸化剤を含有する水性組成物に配合することができる香料を用いることが好ましい。香料としては例えば、特開2015-17236号公報、特開2014-58755号公報、特開2005-239770号公報、特開2009-144028号公報、特開昭50-74581号公報及び特開昭62-205200号公報を参照することができる。これらの香料成分は過酸化水素やその他配合成分の影響を考慮して香料組成物を構成することのみならず、有機ラジカルへの影響も確認した上で選択されたものを使用することが好ましい。アルデヒド、ケトン及びエステル系香料はその配合量を増やすことで有機ラジカル形成化剤としての作用も期待できるが、(B)成分として前記した、具体的な有機ラジカル形成化剤を用いることが好ましい。
【0042】
本発明は、公知の金属触媒を用いてラジカルを生成する漂白方法とは異なり、むしろ本発明に使用する水性組成物には、金属触媒で使用されるような金属類、特には遷移金属類を実質、配合しないことが好ましい。すなわち、本発明の水性組成物は、実質、金属触媒を含まないことが好ましい。金属触媒は強い漂白力を示す一方で、本発明の水性組成物の過酸化水素の安定性を損なうおそれがあるだけでなく、繊維製品の損傷や染料の脱色の原因になるおそれがある。なお原料の水に由来して、水性組成物が極微量の金属類を含む場合は、ポリカルボン酸や有機ホスホン酸等のキレート剤を配合することで影響を抑えることができる。
【0043】
本発明の水性組成物は、残部として水を含有する。水は、水性組成物の全体が100質量%となるような量で用いられる。水は脱イオン水を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の水性組成物は、20℃でのpHが、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、そして、好ましくは7以下、より好ましくは4以下である。
pHは、「JIS K 3362;2008の項目8.3に従って、30℃において測定する。
pHは、アルカリ剤や酸剤等のpH調整剤により調整することができる。アルカリ剤としては、アンモニウム塩、アルカリ金属水酸化物の水溶液を挙げることができる。酸剤としては、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等の有機酸や塩酸、硫酸等の無機酸の水溶液を用いることができる。
【0045】
本発明の水性組成物の25℃における粘度は、噴霧処理する場合は、スプレー容器での噴霧適性の観点から、好ましくは15mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以下、更に好ましくは5mPa・s以下であり、そして、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは1.5mPa・s以上、更に好ましくは2mPa・s以上である。本発明の水性組成物において、25℃における粘度が15mPa・s以下であると噴霧パターンが適正となる。水性組成物を塗布ないし浸漬する場合は、好ましくは200mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下である。
粘度は、東京計器株式会社製、B型粘度計(モデル形式BM)に、No.1~3の測定粘度に応じたローターを取り付け、水性組成物を200mL容量のガラス製トールビーカーに充填し、ウォーターバスにて25±0.3℃に調製し、ローターの回転数を60r/minに設定し、測定を始めてから60秒後の指示値である。
【0046】
本発明の水性組成物は、本発明の加熱処理用繊維製品処理剤組成物でもある。本発明の水性組成物について述べた事項は、本発明の加熱処理用繊維製品処理剤組成物に適宜適用することができる。
【0047】
本発明の繊維製品の処理方法では、本発明の水性組成物を繊維製品に適用する。本発明の水性組成物を繊維製品に接触させることが好ましい。本発明の水性組成物を、噴霧、塗布、浸漬及びこれらの組み合わせにより、繊維製品に適用、更に接触させることがより好ましい。噴霧、塗布、浸漬は、それぞれ、液体組成物を繊維製品に適用する公知の方法、手段を採用して行うことができる。
【0048】
本発明の繊維製品の処理方法では、本発明の水性組成物を、繊維製品に対して、衣類の質量に対して1質量%以上100質量%以下となるように噴霧し適用することが好ましい。
【0049】
本発明の水性組成物は、繊維製品に適用する前の時点では、例えば、室温近傍で保存されている。その温度のまま繊維製品に適用してもよい。本発明の繊維製品の処理方法では、繊維製品に適用する本発明の水性組成物の温度は、具体的には、組成物の保存安定性の観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、そして、過酸化水素の安定性の観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。本発明の処理方法では、繊維製品に適用する前に、前記保存時の温度以上に水性組成物を、その安定性を損なわない程度で予め加熱してもよいが、安全性の観点から、保存時の温度範囲の水性組成物と繊維製品とを接触させて、その後に当該繊維製品を後述する温度で熱処理することが好ましい。
【0050】
本発明の繊維製品の処理方法では、本発明の水性組成物を適用した繊維製品を80℃以上250℃以下で熱処理する。
該熱処理は、少なくとも、前記繊維製品の本発明の水性組成物が適用されている部位に行われる。
該熱処理は、本発明の水性組成物を保持する繊維製品に対して行うことができる。
【0051】
本発明の繊維製品の処理方法では、前記熱処理は、前記繊維製品に80℃以上250℃以下の高熱体を接触させて行うことが好ましい。
前記高熱体は、液体、固体又は気体であってよい。
液体の高熱体としては、油、シリコーン油、グリセリン、エチレングリコール等の高沸点の水溶性の有機溶剤、ワックスのような加熱することで液化するものも用いることができる。高温の液体で処理したものを水、有機溶剤、界面活性剤入り溶液で洗い流してもよく、汚れに直接、溶融させたワックスを付着させ、冷却することで固化させた後にワックスを剥離してもよい。
固体の高熱体としては、加熱した、金属、セラミックス、石ないし砂及び粘土、並びに可撓性ないし硬質のプラスチック及び高分子重合体、などが挙げられる。固体の高熱体の形や大きさは問わないが、例えば、一般家庭での処理を踏まえて適切に設定することができる。固体の高熱体、例えば加熱した金属は、アイロンなどの器具であってよい。
気体の高熱体としては、水蒸気ないし加熱水蒸気、加熱した空気などが挙げられる。加熱水蒸気は、100℃を越える高温を設定することができることから好ましい。一方で、温度が、例えば100℃以下であり、処理時間が長くなるが、加熱式乾燥機も用いることができる。
【0052】
前記熱処理の温度は有機ラジカルの生成効率の観点から、80℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは160℃以上であり、そして、繊維損傷抑制の観点から、250℃以下、好ましくは200℃以下である。
【0053】
前記熱処理の時間は、処理対象の温度による影響を考えながら設定される。また処理温度や高熱体の媒体によって異なる。家庭やクリーニング店で用いられるアイロン等の固体の高熱体を対象物に接触させる場合は、該高熱体の温度を好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上に設定し、接触時間を好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上、そして、好ましくは30秒以下、より好ましくは20秒以下に設定する。加熱水蒸気や加熱液体を用いる場合も、これらの処理温度と処理時間を参考に設定することができる。
【0054】
なお、熱処理の温度が100℃以上140℃以下の場合は、上記の範囲よりも処理時間を長く設定することで対応することができ、対象物に影響のない環境とエネルギー消費状況を考慮しながら設定してもよい。例えば、この熱処理温度において、熱処理時間を、好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上であり、好ましくは80分以下、より好ましくは60分以下とすることができる。
【0055】
一方で、乾燥機やスチーム等を用いた低温処理の場合、熱処理温度は、80℃以上、好ましくは90℃以上、100℃未満に設定することが好ましい。熱処理温度が100(低温)℃未満の場合は、熱処理時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上であり、好ましくは120分以下、より好ましくは80分以下である。また接触媒体が気体の場合は、熱処理温度は、好ましくは15秒以上、より好ましくは1分以上であり、熱処理時間は、好ましくは120分以下、より好ましくは80分以下である。
【0056】
なお過酸化水素が残留することがないように、高温で処理する以外にも、加熱した気体を送風により接触させることで過酸化水素の気化を促進する、処理後、湯ないし水により過酸化水素を洗い流す、などの方法で除去してもよい。
【0057】
なお、前記熱処理を行う前に、本発明の水性組成物を繊維内の汚れや臭いに十分に馴染ませるために、本発明の水性組成物を適用した繊維製品を放置してもよい。例えば25℃以上40℃以下で、例えば30分以上120分以下、放置することもできる。
【0058】
前記熱処理を終えた繊維製品は、処理方法によっては、そのまま使用してもよいし、乾燥、アイロン掛けなどの更なる処理を行ってもよく、高熱体が残留するような処理の場合は水洗いないし洗濯処理をしてもよい。
【0059】
本発明の繊維製品の処理方法の一例として、過酸化水素、有機ラジカル形成化剤及び水を含有する水性組成物を繊維製品に接触させた後、該繊維製品を80℃以上250℃以下で熱処理する、繊維製品の処理方法が挙げられる。
【0060】
本発明の繊維製品の処理方法の他の例として、過酸化水素、有機ラジカル形成化剤及び水を含有する水性組成物を繊維製品に噴霧した後、該繊維製品を80℃以上250℃以下で熱処理する、繊維製品の処理方法が挙げられる。噴霧は、本発明の水性組成物を収容したスプレー容器で行うことが好ましい。
【0061】
本発明の繊維製品の処理方法は、限定されるものではないが、例えば、襟、袖などの繊維製品の部分的な処理に適している。
【0062】
本発明の繊維製品の処理方法は、限定されるものではないが、例えば、繊維製品のクリーニング方法であってよい。この場合、クリーニングは、汚れの除去だけでなく、異臭の除去、殺菌などの他の効果を伴うものであってよい。
【実施例
【0063】
<酸化還元電位の測定法>
本発明の(B)成分の酸化還元電位の計算は、量子化学計算ソフトTURBOMOLEver7.2、およびTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイスTmoleX ver4.3を使用して行った。下記(5)式、(6)式の各成分の自由エネルギーは、量子エネルギーとゼロ点振動エネルギーの和で近似した。
例えば脂肪酸等のカルボン酸とそのカルボン酸ラジカルの量子エネルギー、ゼロ点振動エネルギーは、水の比誘電率を57.01(95℃)として連続体モデルを用いて計算した。構造最適化を行ったのち基準振動解析を行ってそれぞれ95℃の水中の値を計算した。DFT計算の条件はDFTsurasshubp86/def2-TZVPであり、またRI近似を用いた。計算に必要となる原子半径等のパラメータはTmoleXのデフォルト値をそのまま使用した。
【0064】
(計算例)カルボン酸の酸化還元電位の推算
カルボン酸の反応として(1)式に示す半反応を想定し、酸化還元電位を推算する。
【0065】
【化1】
【0066】
基準電極として標準水素電極を用いると、電極では(2)式の反応が起こる。この電極電位は水素イオンの活量が1のとき(pH=0に相当する)、0Vと定義されている。
+ e → (1/2)H (gas) (2)
このため、pH=0のときの(1)式の標準酸化還元電位Eは(3)式に示す反応の標準自由エネルギー変化ΔGと(4)式の関係にある。
【0067】
【化2】
【0068】
= -ΔG/F (4)
また、
ΔG = GCOOH - GCOO・ - 1/2GH2 (5)
と書くことができる。ここでGCOOH、GCOO・、GH2はそれぞれカルボン酸、カルボン酸ラジカル、水素の自由エネルギーである。
また、pH=7における酸化還元電位は(6)式になる。
= -1/F(GCOOH - GCOO・ - 1/2GH2- RTln10-7) (6)
なお乳酸エステルの半反応は、ヒドロキシ基の水素原子を、またケトン及びエステル化合物はアリル位の水素原子を想定する。
【0069】
<評価方法>
(I)メラニン分解率測定
有機酸添加による漂白効果の確認方法として合成メラニンの分解性を、以下の方法で確認した。結果を表1に示した。
(試薬)
合成メラニン:Sigma-Aldrich社製、
(実験方法)
(1)メラニン水溶液の作製:合成メラニンをpH11(NaOHで調整)にて最終濃度2.5%になるよう水に溶かした。その後、pH7(HClで調整)に調整して合成メラニン水溶液を調製した。
(2)95℃に温調後、作製した合成メラニン水溶液の吸光度(650nm)を、紫外可視分光光度計(SHIMADZU UV-2700、株式会社島津製作所)を用いて測定した。
(3)表1記載の各成分を混合して加熱処理用繊維製品処理剤組成物(以下、水性組成物という場合がある)を調製した。pH(20℃)はHCl水溶液を用いて3.5に調整した。
(4)前記合成メラニン水溶液3mlをスクリュー管に入れ、表1で示した水性組成物3mlを添加した。
(5)ウォーターバスを用いて95℃、10分間反応させた。
(6)反応後の吸光度(650nm)を、(2)と同じ紫外可視分光光度計を用いて測定した。
(7)メラニン分解率を(2)で測定した反応前の吸光度を100%とした時の相対値として算出した。値が大きいほど漂白効果が高いと判断できる。
【0070】
(II)染料の脱色抑制評価
各有機ラジカル形成化剤(B)から生成される有機ラジカルが繊維製品の染料に与える影響を以下のようにして調べた。
(試験布)
色柄物衣料として、ヨーロッパの漂白剤堅牢度試験に使用されている試験布である欧州石鹸洗剤工業連合会(AISE)試験布のうち、漂白の影響を受けやすい試験布として、No.7(Orange Azoic dye)を選択し、10cm×10cmに裁断して使用した。
【0071】
(実験方法)
表1で示された水性組成物を市販のスプレーキーピング(花王株式会社製)の容器を十分洗浄したものに充填した。前記した試験布に50%o.w.f.(試験布100質量部に対して50質量部を噴霧)なるように前記水性組成物を噴霧した。噴霧後、アイロンを用いて熱処理を160℃(アイロン中温)で15秒押し付けることで行った。熱処理後の脱色性を調べた。
脱色性評価は処理前後での色差(ΔE)を定点にてハンディー測色計(日本電色工業株式会社製)を用いて測定し、下記で評価した。結果を表1に示した。
○:脱色が見られない。
△:少し脱色する。
×:脱色する。
【0072】
表1の加熱処理用繊維製品処理剤組成物の調製に使用した各種成分を以下に示す。
(A)成分
(a1)過酸化水素(45%水溶液を使用、ADEKA株式会社製)(表1は有効分濃度として記載した。)
【0073】
(B)成分
(b1)乳酸プロピル(東京化成工業株式会社製)
(b2)乳酸ブチル(東京化成工業株式会社製)
(b3)オクタン酸(和光純薬工業株式会社製)
(b4)ラウリン酸(和光純薬工業株式会社製)
(b5)ミリスチン酸(和光純薬工業株式会社製)
(b6)酢酸ブチル(東京化成工業株式会社製)
(b7)ギ酸ブチル(東京化成工業株式会社製)
【0074】
(C)成分
(c1)尿素(和光純薬工業株式会社製)
(D)成分
(d1)非イオン界面活性剤:ポリオキシエチレン(エチレンオキシド平均付加モル数10)ラウリルエーテル
水:脱イオン水
【0075】
【表1】
【0076】
以上より、本発明の処理法及び加熱処理用繊維製品処理剤組成物は、繊維製品への影響がなく、優れた皮脂汚れ漂白効果を有することは明らかである。
更に、本件実施例に開示された加熱処理用繊維製品処理剤組成物は、衣類や寝具等の繊維製品に対して、本発明の処理法を施すことで、繊維製品に消臭効果及び殺菌効果を与えるものである。