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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】留置装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/12 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
A61B17/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019049570
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2019172662
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】62/649,755
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514030023
【氏名又は名称】山之内 大
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山之内 大
(72)【発明者】
【氏名】吉森 崇志
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0292206(US,A1)
【文献】特表2012-513294(JP,A)
【文献】特表2012-521838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔に生じた瘤内に閉塞剤を留置する留置装置であって、
拡縮自在に形成された骨格部材と、
前記閉塞剤を前記瘤内に注入するためのカテーテルを挿通可能な管状部材と、を備え、
前記管状部材の先端は、前記骨格部材の内面に接合され、
前記管状部材は、
前記骨格部材が拡張状態にあるときに前記管状部材の開口端が前記生体管腔の延在方向と交わる方向に向くように配設され、
前記カテーテルの先端は、前記開口端から突出可能であるとともに、前記開口端を介して前記管状部材の内側へと引き込み可能である留置装置。
【請求項2】
請求項1に記載の留置装置において、
前記骨格部材は、
拡張状態にあるとき、前記生体管腔の内面又は前記生体管腔内に留置された管状留置具の内面に押圧接触することにより、前記生体管腔内における当該骨格部材の位置を保持可能に構成される留置装置。
【請求項3】
請求項1に記載の留置装置において、
前記骨格部材は、複数本の主線材と、前記複数本の主線材を繋ぐ複数本の補助線材と、を有し、
前記管状部材の先端が前記複数本の主線材のうちの一の主線材の内面に接合される留置装置。
【請求項4】
請求項1に記載留置装置であって
生体管腔に生じた瘤内に注入される前記閉塞剤を、更に備え
前記閉塞剤は、
前記カテーテル内を流動可能な流動性及び前記カテーテルから前記瘤内への注入後に前記瘤内に留まることが可能な保形性を有するベースゲルと、
前記瘤内に存在する血液の固形化を促進する固形化促進物質と、を含む留置装置
【請求項5】
請求項に記載の留置装置において、
前記ベースゲルは、シュードプラスチック性、シェアシニング性及びチキソトロピー性のうち、少なくともいずれか一の性質を有するように構成される留置装置
【請求項6】
請求項に記載の留置装置において、
前記ベースゲルは、温度上昇によって硬化するように構成される留置装置
【請求項7】
請求項に記載の留置装置において、
前記ベースゲルは、水との接触によって硬化するように構成される留置装置
【請求項8】
請求項に記載の留置装置において、
前記固形化促進物質は、カルシウム及び負電荷表面を有する物質の少なくとも一方を含む留置装置
【請求項9】
請求項に記載の留置装置において、
前記固形化促進物質は、血液凝固因子及び線維芽細胞増殖因子の少なくとも一方を含む留置装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔に生じた瘤内閉塞物質留置する留置装置関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管壁に生じた瘤内への血液の流入を妨げることで瘤の拡大を抑制する治療法が知られている。この種の治療法に用いられる治療具の一例として、瘤の内部空間を埋めて瘤を閉塞させるように留置される金属製の細線が挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。なお、このような金属製の細線は、金属コイルとも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-106829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属コイルを瘤の治療具として用いる場合、瘤の大きさによっては、複数本の所定長さの金属コイルを瘤内に繰り返し詰める処置が必要となる。このような処置は、患者の身体への負担の観点からも、医療経済の観点からも、好ましくない。また、金属コイルの留置後にCT及びMRI等による撮影を行うと、金属コイル周辺に撮影ノイズ(いわゆるアーティファクト)が生じる場合がある。
【0005】
瘤を閉塞するための他の治療具として、例えば、ゼラチンスポンジ、シアノアクリレート、及び、エチレン・ビニルアルコール共重合体のジメチルスルホキシド溶液(EVOHのDMSO溶液)が用いられる場合がある。しかし、ゼラチンスポンジを用いる場合、金属コイルと同様、処置が煩雑となることがある。また、シアノアクリレートを用いる場合、その強固な接着性に起因して処置が難しくなることがあり、EVOHのDMSO溶液を用いる場合、DMSOに対応したカテーテル以外を使用した際に留置装置の劣化が生じることがある上、DMSOの安全性上の問題から使用可能な容量も限定的となる。
【0006】
このように、瘤を閉塞するための従来の治療具は、例えば取り扱いの容易さの点などにおいて、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体管腔に生じた瘤の拡大を抑制する処置を従来に比べて容易化し得留置装置提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る留置装置は、
生体管腔に生じた瘤内に閉塞剤を留置する留置装置であって、
拡縮自在に形成された骨格部材と、
前記閉塞剤を前記瘤内に注入するためのカテーテルを挿通可能な管状部材と、を備え、
前記管状部材の先端は、前記骨格部材の内面に接合され、
前記管状部材は、
前記骨格部材が拡張状態にあるときに前記管状部材の開口端が前記生体管腔の延在方向と交わる方向に向くように配設され、
前記カテーテルの先端は、前記開口端から突出可能であるとともに、前記開口端を介して前記管状部材の内側へと引き込み可能である
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体管腔に生じた瘤の拡大を抑制する処置を従来に比べて容易化し得る。
【0012】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、血管に生じた瘤を覆うようにステントグラフトが配置された状態で、本発明の実施形態に係る留置装置を用いながら、カテーテルを介して本発明の実施形態に係る閉塞物質を瘤内に注入している様子を示す概略図である。
図2図2(a)は、骨格部材が収縮状態にある留置装置の側面図であり、図2(b)は、骨格部材が拡張状態にある留置装置の側面図であり、図2(c)は、図2(b)のA部の拡大図であり、図2(d)は、図2(b)のB部の拡大図である。
図3図3(a)~(f)は、ステントグラフト及び閉塞物質を留置する際の手順を説明するための一連の図である。
図4図4は、留置装置の変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、人体の血管60における瘤61(大動脈瘤など)が生じている箇所にステントグラフト2が留置された状態で、留置装置1を用いてカテーテル40により閉塞剤5を瘤61内に注入して留置している様子を示している。瘤61の内部空間を閉塞剤5によって閉塞させることにより、瘤61内への血液の流入を妨げ、瘤61の拡大を抑制することができる。
以下の説明では、説明の便宜上、図1図4における紙面下側を基端側と呼び、紙面上側を先端側と呼ぶ。
【0015】
<閉塞剤>
先ず、閉塞剤5について説明する。
閉塞剤(閉塞物質)5は、流動性及び保形性を有するベースゲルと、血液の固形化を促進する固形化促進物質と、X線透過率が低い視認化物質とを含んで構成されている。
【0016】
ベースゲルは、例えば、ポリマーからなり、ゾル-ゲル転移を示す閉塞剤5の基剤を構成している。具体的には、ベースゲルは、閉塞剤5がカテーテル40内を流動可能な流動性、及び、閉塞剤5がカテーテル40から瘤61内への注入された後、当該瘤61内に留まることが可能な保形性を有する。
【0017】
「流動性」及び「保形性」は、例えば、ベースゲルの構成成分や製造方法に応じて物理的性質や化学的性質が変化することを利用して制御可能である。
すなわち、閉塞剤5におけるカテーテル40内を流動可能な流動性や瘤61内に留まることが可能な保形性を制御する上で、ベースゲルは、シュードプラスチック性(擬塑性)、シェアシニング性(ずり流動性)及びチキソトロピー性のうち、少なくともいずれか一の性質を有するように構成されることが好適である。例えば、シリンジで加圧されるなどの外力が加えられた被圧状態で液体の粘度が低下(軟化)したり、経時的に粘度が変化したりするような性質をベースゲルが有することで、瘤61内への閉塞剤5の注入及び瘤61内の血液の固形化促進物質による固形化を好適に行うことができる。
更に、閉塞剤5におけるカテーテル40内を流動可能な流動性や瘤61内に留まることが可能な保形性を制御する上で、ベースゲルは、温度上昇によって硬化する温度応答性を有するように構成されることが好適である。例えば、瘤61内に注入される前の閉塞剤5の保管場所(例えば、手術室内)のような比較的低温の環境下では液体状態であり、瘤61内に注入された閉塞剤5が体温(例えば、36~37℃程度)への温度上昇によりゲル化することで、瘤61内への閉塞剤5の注入及び瘤61内の血液の固形化促進物質による固形化を好適に行うことができる。
更に、閉塞剤5におけるカテーテル40内を流動可能な流動性や瘤61内に留まることが可能な保形性を制御する上で、ベースゲルは、水との接触によって硬化するように構成されることが好適である。例えば、ベースゲルは血液の水分と接触することで溶出する軟化剤を含有するように構成してもよく、この場合には、閉塞剤5が瘤61内に注入されるためにカテーテル40内を流動する際には液体状態であり、閉塞剤5が瘤61内に注入された後、ベースゲルの軟化剤が血液との接触により溶出してベースゲルがゲル化する。
【0018】
なお、瘤61内に注入された閉塞剤5がゲル化するまでの時間は、血管(生体管腔)60内に留置された管状留置具の種類(例えば、ステントグラフトやステント等)によっても異ならせるようにするのが好ましい。例えば、血管60の瘤61の治療にステントグラフトが用いられる場合には、瘤61がステントグラフトの外壁により仕切られた閉鎖状態となり、閉塞剤5がゲル化するまでの時間が長期間となってもよいと考えられるが、ステントが用いられる場合には、瘤61が開放状態に配置されているため、閉塞剤5がゲル化するまでの時間がより短期間となるようにするのが好ましいと考えられる。
【0019】
固形化促進物質は、瘤61内に存在する血液の固形化を促進するものである。
ここで、「固形化」とは、例えば、血液の粘度の増大、凝固、硬化、器質化、血栓化、線維化、及び、塞栓化などを包含する概念である。
【0020】
具体的には、固形化促進物質は、カルシウム及び負電荷表面を有する物質の少なくとも一方を含むことが好適である。さらに、固形化促進物質は、カルシウムに代えて又はカルシウムに加えて、ゼラチン、コラーゲン及びシリカのような血液凝固を促進する物質を含んでもよい。また、負電荷表面を有する物質の作用機序として、セリンプロテアーゼ前駆体であるXII因子が負電荷表面との接触によって活性型プロテアーゼに変換され、内因系血液凝固カスケード反応が開始されることが挙げられる。
【0021】
更に、固形化促進物質は、血液凝固因子及び線維芽細胞増殖因子の少なくとも一方を含むことが好適である。閉塞剤5が固形化促進物質を含むことにより、例えば、患者のヘパリン化を中和することで、瘤61内の血液の固形化(血栓化や器質化)を速やかに進行させることができる。特に、線維芽細胞増殖因子を塞栓物質に含ませることで、血栓化した血液の線維化を促進し、瘤61内での器質化を促進できる。
【0022】
視認化物質としては、例えば、硫酸バリウム粉末、タングステン粉末、金粉末、プラチナ粉末、イリジウム粉末、及び、ビスマス粉末などが挙げられるが、一例であってこれらに限られるものではなく、適宜任意に変更可能である。視認化物質の材料および含有量を調整することで、金属コイルを用いる場合に比べ、CT等での撮影時の撮影ノイズを抑制できる。
【0023】
<ステントグラフト>
次に、ステントグラフト2の構成、及び、閉塞剤5を留置するための留置装置1の構成について順に説明する。
図1に示すように、ステントグラフト2は、血液流が通過可能な流路を画成する管状形状を有する。ステントグラフト2は、骨格部3及び皮膜部4から構成される。ステントグラフト2は、直線状の管形状であっても、必要に応じて(例えば、患者の血管の形状に対応した形状に)湾曲した管形状を有してもよい。更に、ステントグラフト2は、留置の前から予め留置箇所を想定した湾曲形状を有していてもよく、留置の後に血管形状に沿った湾曲形状を有することになってもよい。
【0024】
骨格部3は、金属細線がジグザグ状に折り返されると共に管形状に成形された自己拡張型の金網状に構成され、径方向内側に収縮した収縮状態から、径方向外側に拡張して管状流路が画成された拡張状態へ、変形可能となっている。骨格部3を構成する材料として、例えば、ステンレス鋼、Ni-Ti合金およびチタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。
【0025】
皮膜部4は、骨格部3に沿って骨格部3を覆うように骨格部3に固定されており、上述した管状流路を画成している。皮膜部4の材料として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、及び、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0026】
なお、後述するように、ステントグラフト2は、ステントグラフト2を血管内の所定位置に留置するための留置具70を用いて、図1に示すような血管60における瘤61が生じている箇所に留置されるようになっている。
【0027】
<留置装置>
図1図2(a)~図2(d)に示すように、留置装置1は、管状のシース10と、シース10の中空空間内に挿通された管状部材20と、シース10の軸方向(長手方向)の一部の外周に配置された骨格部材30と、を備える。
【0028】
シース10は、可撓性を有する材料で形成されている。可撓性を有する材料として、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及び、ポリ塩化ビニル系樹脂等から選択された生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、これらの合成樹脂による多層構造体、並びに、これら合成樹脂と金属線との複合体などが挙げられる。シース10の肉厚部の一部には、ガイドワイヤ50(図3参照)を挿通するためのルーメン(細孔)が、シース10の軸方向に亘って貫通形成されている。
【0029】
管状部材20の中空空間には、カテーテル40が進退自在に挿通可能となっている。管状部材20の外径は、シース10の内径より小さい。そのため、管状部材20は、シース10に対して、シース10の軸方向に相対移動可能となっている。管状部材20も、シース10と同様、可撓性を有する材料で形成されている。管状部材20を構成する材料として、シース10を構成する材料と同じ材料が使用され得る。管状部材20の先端側の開口端21は、図2(c)に示すようにシース10の側面に設けられた側面開口11を通してシース10の外部に延出され、図2(d)に示すように骨格部材30の後述する主線材31の1つと接合されている。管状部材20の端部21周辺の構造については、より詳細に後述される。
【0030】
骨格部材30は、図2(a)に示すように径方向内側に収縮した収縮状態と、図2(b)に示すように径方向外側に拡張した拡張状態と、の間で拡縮自在に構成されている。これにより、図1に示すように、ステントグラフト2が血管60内に留置されている箇所において骨格部材30を収縮状態から拡張状態に移行させることで、骨格部材30がステントグラフト2の内面に押圧接触し、血管60における骨格部材30の位置が保持されることになる。
【0031】
骨格部材30は、シース10の外周の周方向に等間隔に配置された複数本の主線材31と、シース10の周方向に隣り合う主線材31同士をそれぞれ繋ぐ複数本の補助線材32と、シース10の外周に設けられて複数本の主線材31それぞれの延在方向の両端部に結合された一対の円筒状のパイプ状部材33と、を有している。
【0032】
主線材31及び補助線材32の断面形状は、例えば略矩形状である。主線材31の断面積は、補助線材32の断面積より大きい。そのため、主線材31の剛性が、補助線材32の剛性よりも高い。主線材31及び補助線材32を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni-Ti合金、及び、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。また、主線材31及び補助線材32は、超弾性(変形しても力を取り除くとすぐに元の形に戻る性質)を有する材料から構成されている。超弾性を有する材料として、例えばNi-Ti合金が挙げられる。
【0033】
一対のパイプ状部材33は、シース10の軸方向において、シース10の側面開口11(図2(c)参照)を挟むように設けられている。一対のパイプ状部材33の何れか一方又は両方は、シース10に対して、シース10の軸方向に相対移動可能となっている。そのため、一対のパイプ状部材33の間隔が、第1の間隔(図2(a)参照)と、第1の間隔より小さい第2の間隔(図2(b)参照)との間で調整可能となっている。一対のパイプ状部材33の間隔は、図示しない所定の操作具を用いて調整可能となっている。操作具としては、公知の構成を有するものが使用され得るので、操作具の構成についての詳細な説明は省略する。
【0034】
一対のパイプ状部材33の間隔が第1の間隔に調整されたとき(図2(a)参照)、主線材31及び補助線材32が、シース10の軸線方向に直線状に延びるように配置される。この状態が、骨格部材30の収縮状態に対応する。一方、一対のパイプ状部材33の間隔が第2の間隔に調整されたとき(図2(b)参照)、主線材31及び補助線材32が、それらの延在方向の中央部分がシース10の径方向外側に突出するように湾曲する。この状態が、骨格部材30の拡張状態に対応する。
【0035】
なお、骨格部材30を上述したように拡縮する具体的機構の一例として、シース10が、管状の大径部と、この大径部に内挿されて大径部に対して軸方向に相対移動可能に大径部から先端側に延びる管状の小径部と、で構成され、先端側のパイプ状部材33が小径部の外周面に接合され、基端側のパイプ状部材33が大径部の先端側端部の内周面に接合された構成が採用されてもよい。この場合、操作具を利用して、大径部に対する小径部の軸方向の相対位置を調整することで、一対のパイプ状部材33の間隔が調整されて、骨格部材30が拡縮される。
【0036】
パイプ状部材33を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、チタン合金、Ni-Ti合金、Ni―Ti―Co合金、Ni―Ti―Cu合金、Au―Cd合金、及び、Cu―Al-Ni合金などに代表される公知の金属又は金属合金を好ましく用いることができる。また、X線造影性を有する合金を用いることにより、X線不透過マーカーとしての機能を持たせてもよい。この場合、パイプ状部材33(換言すると骨格部材30)の位置を体外から確認することができる。パイプ状部材33の外面には、管軸に直交する方向に伸びるスリットが無数に設けられている。これにより、パイプ状部材33の柔軟性を向上させることができる。パイプ状部材33の外面に切れ込みを形成する方法として、例えば、レーザー加工が挙げられる。
【0037】
なお、パイプ状部材33と、主線材31及び補助線材32とは、1本のパイプ状材料をレーザー加工することによって形成することができる。これにより、パイプ状部材33と、主線材31及び補助線材32とを一体形成することができる。
【0038】
図2(b)~図2(d)に示すように、シース10の側面開口11を通してシース10の外部に延出された管状部材20の先端側の端部21は、骨格部材30の複数本の主線材31のうちの1つの主線材31の接合箇所に接合されている。この1つの主線材31の接合箇所には、管状部材20の中空空間と連通する開口31aが形成されている。そのため、図2(d)の矢印に示すように、管状部材20に挿通されたカテーテル40の先端41は、主線材31の開口31aから出入り可能となっている。
【0039】
図2(a)及び図2(b)の比較から理解されるように、骨格部材30が収縮状態にあるときには、管状部材20の端部21は、シース10の側面開口11の近傍に位置しており、骨格部材30が収縮状態から拡張状態に移行すると、主線材31の接合箇所がシース10の径方向外側へ移動するに伴い、管状部材20の端部21がシース10の側面開口11から引き出されてシース10の径方向外側へ向けて移動し、端部21の開口(換言すると、主線材31の開口31a)がシース10の径方向外側を向くように配置される。別の言い方をすると、管状部材20は、骨格部材30が拡張状態にあるとき、血管60の延在方向と交わる向きに一の開口端21を向けるように配設されている。
【0040】
そのため、骨格部材30の拡張状態において、管状部材20に挿通されたカテーテル40を開口端21へ向けて進行させていくことで、図2(b)及び図2(d)に示すように、カテーテル40の先端41を、シース10の径方向外側を向いた状態で、主線材31の開口31aから突出させることができる。
【0041】
図2(d)に示すように、カテーテル40の先端41は、カテーテル40の軸線方向に対して先端端面が傾斜するようにカットされている。そのため、カテーテル40の先端41を利用して、血管60に予め留置されているステントグラフト2の皮膜部4を貫通するように突き破ることができる(図1及び図3(e)参照)。
【0042】
<ステントグラフト及び閉塞剤を留置する手順>
次いで、図3を参照しながら、血管60における瘤61が生じている箇所にステントグラフト2及び閉塞剤5を留置する際の手順について説明する。
【0043】
先ず、事前の準備として、患部である瘤61が生じている血管60を通過するように配置したガイドワイヤ50を、ステントグラフト2の留置具70のガイドワイヤ用ルーメンに挿通させる。そして、図3(a)に示すように、瘤61が生じている箇所に向けて留置具70を進行させる。この時点では、ステントグラフト2は収縮状態に維持されている。なお、留置具70としては公知の構成を有するものが使用され得るので、留置具70の構成についての詳細な説明は省略する。
【0044】
次いで、図3(b)に示すように、留置具70を操作し、ステントグラフト2を径方向外側に自己拡張させながら血管60における瘤61が生じている箇所を含む内壁面に密着させる。これにより、ステントグラフト2がその内壁面に固定される。ステントグラフト2が拡張して固定された後、ガイドワイヤ50を残したまま、留置具70を抜き取る。これにより、瘤61の内部空間と血管60の内部空間とを繋ぐ箇所(換言すると、瘤61の開口部)を塞ぐように、ステントグラフト2の留置が完了する。その結果、瘤61への血液流入を少なくとも一時的に遮断することができる。
【0045】
次いで、ガイドワイヤ50を、骨格部材30が収縮状態にある留置装置1におけるシース10のガイドワイヤ用のルーメンに挿通させる。この状態では、留置装置1の管状部材20には、カテーテル40が挿通されていない。そして、図3(c)に示すように、ガイドワイヤ50を利用して、血管60の瘤61が生じている箇所まで留置装置1全体を進行させる。
【0046】
次いで、骨格部材30を収縮および拡張させるための操作具(図示省略)を操作して、図3(d)に示すように、骨格部材30を収縮状態から拡張状態へと移行させる。これにより、骨格部材30がステントグラフト2の内面を押圧接触し、拡張状態にある骨格部材30が、血管60における瘤61が生じている箇所に保持される。その結果、管状部材20の端部21の開口(換言すると、主線材31の開口31a)が、シース10の径方向外側に位置する瘤61の内部空間を向くように配置される。このように、留置装置1によれば、瘤61が生じている箇所に的確に骨格部材30を配置できる。
【0047】
次いで、管状部材20の基端側から管状部材20にカテーテル40を挿通し、カテーテル40を管状部材20の端部21へ向けて進行させ、図3(e)に示すように、カテーテル40の先端41を、シース10の径方向外側を向いた状態で、主線材31の開口31aから突出させる。
【0048】
その結果、カテーテル40の先端41は、血管60に留置されているステントグラフト2の皮膜部4を突き破り、瘤61の内部空間に露出する。この状態にて、カテーテル40の基端側から閉塞剤5をカテーテル40内に供給する。閉塞剤5は、カテーテル40内を被圧状態で先端41側へ向けて流動し、先端41から瘤61の内部空間に注入される。閉塞剤5は、瘤61の内部空間を埋めて閉塞するために十分な量、この内部空間に注入される。
【0049】
次いで、骨格部材30を拡張状態から収縮状態へ戻し、ガイドワイヤ50と共に留置装置1全体を抜き取る。これにより、図3(f)に示すように、閉塞剤5の留置が完了する。このように、瘤61の内部空間を閉塞剤5によって閉塞させることにより、瘤61内への血液の流入をより確実に妨げることができ、瘤61の拡大がより一層抑制され得る。更に、瘤61の内部空間と血管60の内部空間とを繋ぐ箇所を塞ぐようにステントグラフト2が留置されているので、瘤61の内部空間に留置された閉塞剤5が血管60の内部空間へ流出していくことが極力抑制され得る。
【0050】
以上のように、閉塞剤5は、カテーテル40内を流動可能な流動性及びカテーテル40から瘤61内への注入後に瘤61内に留まることが可能な保形性を有し、瘤61内に存在する血液の固形化を促進するので、当該閉塞剤5を瘤61内に注入すれば、瘤61内の血液を固形化し、固形化された血液によって瘤61の内部空間を閉塞させることができる。これにより、例えば、従来のように金属コイルを用いて瘤61の内部空間を閉塞させる場合に比べ、瘤61の大小によらず閉塞剤5を必要量注入するだけでよいため、処置が容易となる。また、CT等を用いた撮影時の撮影ノイズも生じ難い。また、シアノアクリレートやDMSO溶液に比べ、上述したベースゲルや固形化促進物質は留置装置1への影響を及ぼし難い。よって、血管60に生じた瘤61の拡大を抑制する処置を従来に比べて容易化し得ることになる。
【0051】
更に、瘤61を閉塞剤5によって閉塞することで、ステントグラフト2のみによって瘤61を塞ぐ場合に比べ、ステントグラフト2と血管60の内面との間の隙間を通じた血液の瘤61への流入(いわゆるエンドリーク)をより確実に抑制し、術後の遠隔期成績を更に向上できる。また、シーリングゾーンが短い場合など解剖学的にステントグラフトのみでの治療が困難な場合であっても、治療対象とすることができる。加えて、瘤61内を血栓化や線維化することで、瘤61の内部空間を実質的に無くすことができ、エンドリークの有無を確認するための術後のCT撮影検査の頻度を低減できる。
【0052】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0053】
例えば、上記実施形態では、血管60における瘤61が生じている箇所にステントグラフト2が予め留置された状態で、留置装置1を用いながら、カテーテル40を用いて閉塞剤5が瘤61内に留置されている。しかし、ステントグラフト2を予め留置することは必須ではない。即ち、ステントグラフト2を用いることなく、留置装置1を用いて閉塞剤5を瘤61内に直接留置してもよい。この場合、骨格部材30を収縮状態から拡張状態に移行させることで、骨格部材30が血管60の内面に直接接触し、血管60における骨格部材30の位置が保持可能となる。
【0054】
また、上記実施形態にて、骨格部材30は、血管60に留置されたステントグラフト2をその内側から径方向外側に押圧して当該ステントグラフト2を拡張させてもよい。すなわち、図4に示すように、留置装置1Aは、瘤61内に閉塞剤5を注入する際に、骨格部材30をステントグラフト2の内面に押圧接触させて、血管60における骨格部材30の位置を保持するだけでなく、例えば、骨格部材30の拡張力をより大きくすることで、血管60内での拡張が不十分なステントグラフト2を更に拡張させる機能を具備してもよい。
【0055】
ここで、ステントグラフト2の内面にて、骨格部3が皮膜部4により覆われずに露出されていると、骨格部3と骨格部材30の主線材31とが接触してそれらに傷が付いたり、それらが絡まったりしてしまう虞がある。そこで、例えば、骨格部材30の主線材31の最大外径を構成する部分の外側に、環状のシート34を配設してもよい。シート34は、例えば、PTFE等のフッ素樹脂、PET等のポリエステル樹脂、ナイロン、シリコン樹脂等の生体適合性を有する材料からなる弾性変形可能な部材である。また、シート34の形状は、必ずしも環状である必要はなく、主線材31における少なくとも骨格部3と接触する部分にのみ配設可能な形状であればよい。
これにより、ステントグラフト2の構造にかかわらず、留置装置1Aを用いて当該ステントグラフト2の拡張を適正に行うことができる。
なお、シート34における主線材31の開口31aに対応する部分は、例えば、カテーテル40を挿通可能な開口(図示略)を有していてもよいし、瘤61内に閉塞剤5を注入する際にカテーテル40の先端41を利用して突き破られるようになっていてもよい。
【0056】
更に、上記実施形態では、血管60に対して留置装置1及び閉塞剤5が使用されている。血管60として、上記実施形態に例示した大動脈の他に、脳動脈なども挙げられる。また、人体の消化管、尿管などの血管以外の生体管腔に留置装置1及び閉塞剤5が使用されてもよい。
更に、上記実施形態では、閉塞剤5として、X線透過率が低い視認化物質を含むものを例示したが、一例であってこれに限られるものではなく、視認化物質を含むか否かは適宜任意に変更可能である。
【0057】
また、上記実施形態では、留置装置1の骨格部材30として主線材31及び補助線材32を具備するものを例示したが、一例であってこれに限られるものではなく、骨格部材30の構成は適宜任意に変更可能である。すなわち、骨格部材30は拡縮自在に形成されていれば如何なる構成であってもよく、必ずしも主線材31及び補助線材32を具備する必要はない。
さらに、管状部材20がシース10の中空空間内に挿通され、当該管状部材20の先端側の端部21が骨格部材30の主線材31に接合されているものを例示したが、一例であってこれに限られるものではなく、管状部材20の構成は適宜任意に変更可能である。すなわち、管状部材20は、骨格部材30が拡張状態にあるとき、生体管腔(血管)の延在方向と交わる向きに一の開口端を向けるように配設可能であれば如何なる構成であってもよく、必ずしもシース10の中空空間内に挿通されていたり、管状部材20の先端側の端部21が骨格部材30の主線材31に接合されていたりする必要はない。
【符号の説明】
【0058】
1,1A 留置装置
2 管状留置具(ステントグラフト)
5 閉塞剤(閉塞物質)
20 管状部材
21 先端側の端部(一の開口端)
30 骨格部材
34 シート
40 カテーテル
41 先端(先端部)
60 血管(生体管腔)
61 瘤
図1
図2
図3
図4