(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/658 20140101AFI20230816BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20230816BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20230816BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20230816BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/651
H01M50/204 401H
(21)【出願番号】P 2019090159
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 将行
(72)【発明者】
【氏名】宋 馳
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-211013(JP,A)
【文献】特開2017-215014(JP,A)
【文献】特開平06-283216(JP,A)
【文献】特開昭56-104039(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058937(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/088195(WO,A1)
【文献】特開昭56-017250(JP,A)
【文献】特開2019-127961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L59/00-59/22
H01M10/52-10/667
H01M50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維系又は無機粒子系の材料からなる第1の断熱材と、マイカシートからなる第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高く、
前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、複数の箇所に分散して配置されている、
電池セル間に配置される熱伝達抑制シート。
【請求項2】
無機繊維系又は無機粒子系の材料からなる第1の断熱材と、マイカシートからなる第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高く、
前記第1の断熱材と前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、ストライプ状に配置されている、
電池セル間に配置される熱伝達抑制シート。
【請求項3】
無機繊維系又は無機粒子系の材料からなる第1の断熱材と、マイカシートからなる第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高く、
シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、
前記第2の断熱材が格子状に形成され、
前記第1の断熱材が前記格子状の枠内に配置されている、
電池セル間に配置される熱伝達抑制シート。
【請求項4】
無機繊維系又は無機粒子系の材料からなる第1の断熱材と、マイカシートからなる第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高く、
シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、
前記第2の断熱材が、前記第1の断熱材の外周辺を覆う枠状に配置されている、
電池セル間に配置される熱伝達抑制シート。
【請求項5】
無機繊維系又は無機粒子系の材料からなる第1の断熱材と、マイカシートからなる第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高く、
シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、
前記第2の断熱材が、前記第1の断熱材の外周辺を覆う枠状、及び前記枠内を複数に分割する格子状に配置されている、
電池セル間に配置される熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な一方の面から他方の面に貫通して配置されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な一方の面から他方の面に貫通して配置されていない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記熱伝達抑制シートが、包装材で覆われている、請求項1~
7のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
シート厚み方向に垂直な一対の面のうち、前記シート厚み方向における前記第2の断熱材の投影面積が大きい側の面において、
前記シート厚み方向における前記第1の断熱材の投影面積をS
1とし、前記シート厚み方向における前記第2の断熱材の投影面積をS
2としたとき、
S
2/(S
1+S
2)が50%以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
無機繊維系又は無機粒子系の材料からなる第1の断熱材と、マイカシートからなる第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高く、
シート厚み方向に垂直な一対の面のうち、前記シート厚み方向における前記第2の断熱材の投影面積が大きい側の面において、
前記シート厚み方向における前記第1の断熱材の投影面積をS
1とし、前記シート厚み方向における前記第2の断熱材の投影面積をS
2としたとき、
S
2/(S
1+S
2)が50%以下である、
電池セル間に配置される熱伝達抑制シート。
【請求項11】
前記S
2/(S
1+S
2)が20%以下である、請求項
10に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項12】
前記S
2/(S
1+S
2)が5%以下である、請求項
11に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項13】
複数の電池セルを直列又は並列に接続した組電池であって、
請求項1~
12のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを、前記電池セル間に介在させた、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セル間に配置される熱伝達抑制シート、及び該熱伝達抑制シートを電池セル間に介在させた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そして、高容量かつ高出力な電池においては、電池の内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの熱の伝播を抑制するための技術として、電池セル間に熱伝達抑制シートを介在させることが行われている。例えば、特許文献1には、1以上の蓄電素子を備える蓄電装置であって、該1以上の蓄電素子のうちの1つである第一蓄電素子の側方に配置された第一板材及び第二板材であって、互いの面が対向するように配置された第一板材及び第二板材を備え、第一板材と第二板材との間には、第一板材及び第二板材よりも熱伝導率の低い物質の層である低熱伝導層(例えば、空気層)が形成されていることにより、第一蓄電素子からの輻射熱、又は、第一蓄電素子に向かう輻射熱は2枚の板材によって遮断され、かつ、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は低熱伝導層によって抑制されるため、蓄電素子と他の物体との間の効果的な断熱を実現できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、鉱物系粉体及び難燃剤の少なくとも一方と、熱硬化性樹脂や熱可塑性エラストマー、ゴムから選択されるマトリックス樹脂とを含む熱伝達抑制シートを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-211013号公報
【文献】特開2018-206605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、電池セルは、充電や劣化により体積が膨張し、セル間材料(熱伝達抑制シート)を圧縮する負荷が発生することがある。特許文献1の熱伝達抑制シートは、第一板材と、第二板材と、第一板材及び第二板材との間に配置された空気層などの低熱伝導層と、から構成されているため、電池セルが膨張して熱伝達抑制シートが圧縮されると、低熱伝導層の厚みが減少して、断熱性が著しく損なわれるおそれがある。また、特許文献2の熱伝達抑制シートも同様に、電池セルの膨張により鉱物系粉体、難燃剤、マトリックス樹脂からなる吸熱性材料層に圧縮力が作用すると、吸熱性材料層の厚みが減少して、断熱性が著しく損なわれるおそれがある。このため、電池セル間に配置する熱伝達抑制シートには、高断熱性能と高圧縮強度の両立が望まれる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱伝達抑制効果に優れるとともに、電池セルが膨張した際にも、断熱材の厚さの減少を抑制可能な強度を備え、これにより高い断熱性能を維持可能な熱伝達抑制シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、熱伝達抑制シートに係る下記(1)の構成により達成される。
(1) 第1の断熱材と、第2の断熱材とを含み、
前記第1の断熱材の熱伝導率が、前記第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、
かつ、
前記第2の断熱材の圧縮強度が、前記第1の断熱材の圧縮強度よりも高い、
熱伝達抑制シート。
【0010】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)~(13)に関する。
【0011】
(2) 前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、中央部に配置されている、(1)に記載の熱伝達抑制シート。
(3) 前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、複数の箇所に分散して配置されている、(1)に記載の熱伝達抑制シート。
(4) 前記第1の断熱材と前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、ストライプ状に配置されている、(1)に記載の熱伝達抑制シート。
(5) シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、
前記第2の断熱材が格子状に形成され、
前記第1の断熱材が前記格子状の枠内に配置されている、(1)に記載の熱伝達抑制シート。
(6) シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、
前記第2の断熱材が、前記第1の断熱材の外周辺を覆う枠状に配置されている、(1)に記載の熱伝達抑制シート。
(7) シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、
前記第2の断熱材が、前記第1の断熱材の外周辺を覆う枠状、及び前記枠内を複数に分割する格子状に配置されている、(1)に記載の熱伝達抑制シート。
【0012】
(8) 前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な一方の面から他方の面に貫通して配置されている、(1)~(7)のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
(9) 前記第2の断熱材が、シート厚み方向に垂直な一方の面から他方の面に貫通して配置されていない、(1)~(7)のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
(10) 前記熱伝達抑制シートが、包装材で覆われている、(1)~(9)のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
(11) シート厚み方向に垂直な一対の面のうち、前記シート厚み方向における前記第2の断熱材の投影面積が大きい側の面において、
前記シート厚み方向における前記第1の断熱材の投影面積をS1とし、前記シート厚み方向における前記第2の断熱材の投影面積をS2としたとき、
S2/(S1+S2)が50%以下である、(1)~(10)のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
(12) 前記S2/(S1+S2)が20%以下である、(11)に記載の熱伝達抑制シート。
(13) 前記S2/(S1+S2)が5%以下である、(12)に記載の熱伝達抑制シート。
【0013】
また、本発明の目的は、組電池に係る下記(14)の構成により達成される。
(14) 複数の電池セルを直列又は並列に接続した組電池であって、
(1)~(13)のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを、前記電池セル間に介在させた、組電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱伝達抑制シートは、第1の断熱材と、第2の断熱材とを含み、第1の断熱材の熱伝導率が、第2の断熱材の熱伝導率よりも低く、かつ、第2の断熱材の圧縮強度が、第1の断熱材の圧縮強度よりも高い。よって、第2の断熱材よりも熱伝導率が低い第1の断熱材により、熱伝達抑制シートの一方側から他方側への熱伝達を抑制するとともに、第1の断熱材よりも圧縮強度が高い第2の断熱材により、外部からの衝撃や押圧力に抵抗して第1の断熱材の厚さ減少を抑制し、断熱性能の低下を抑制することができる。したがって、熱伝達抑制シートとしての課題である高断熱性能と高圧縮強度の特性を両立させることができる。
【0015】
例えば、第2の断熱材の一例であるマイカシートは、高絶縁かつ高圧縮強度であるが、断熱性としては第1の断熱材の一例である無機繊維系・無機粒子系の材料に劣る。一方、無機繊維系・無機粒子系のシートは、マイカシートのような高い圧縮強度を持たせることが難しい。よって、これらの材料を組み合わせ、それぞれの単一材料では得ることが困難な、高断熱性能と高圧縮強度の特性を両立させることが可能となる。本技術は、電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池の熱暴走を効果的に抑制するための熱伝達抑制シートとして好適に使用可能である。
【0016】
また、本発明の組電池は、上記の熱伝達抑制シートが電池セル間に介在されている。よって、電池セルの熱膨張などにより電池セルが膨らんで隣接する熱伝達抑制シートに押圧力が作用しても、この押圧力を第2の断熱材で受けて、熱伝達抑制シート、特に第1の断熱材の厚さ減少を抑制して断熱機能を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図1B】
図1Bは、第1実施形態の変形例に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図1C】
図1Cは、第1実施形態の他の変形例に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第3実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図3B】
図3Bは、第3実施形態の変形例に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第4実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第5実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第6実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第7実施形態に係る熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図8】
図8は、組電池の一例を模式的に示す断面図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例1の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例2の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図9C】
図9Cは、実施例3の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図10A】
図10Aは、比較例1の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図10B】
図10Bは、比較例2の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図11】
図11は、実施例1~3並びに比較例1及び比較例2の熱伝達抑制シートの性能を比較して示すグラフである。
【
図12A】
図12Aは、実施例4の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図12B】
図12Bは、実施例5の試験で使用した熱伝達抑制シートの正面図及び側面図である。
【
図13】
図13は、実施例4、実施例5、比較例1及び比較例2の熱伝達抑制シートの性能を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る熱伝達抑制シートの各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明者らは、電池セル間に配置されて、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する電池セルに伝播するのを効果的に抑えることができる熱伝達抑制シートについて鋭意検討を行ってきた。熱伝達抑制シートを、無機粒子や無機繊維などの断熱効果の高い断熱材料のみで構成した場合、得られた断熱効果が理論値よりも低い結果となった。その理由は、無機粒子や無機繊維などの断熱材料は、断熱性能が高い(すなわち、熱伝導率が低い)ものの、圧縮強度が低いため、電池セルが膨張することで断熱材料が圧縮されて厚さが薄くなったことによる断熱性の低下によるものと考えられる。
【0020】
そこで、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、第2の断熱材よりも、断熱性能が高く(すなわち、熱伝導率が低い)、かつ、圧縮強度が低い、第1の断熱材の要所に、第1の断熱材よりも、断熱性能は低い(すなわち、熱伝導率が高い)ものの、圧縮強度が高い、第2の断熱材を配置して、圧縮強度が低い第1の断熱材の厚さ低減を抑制することにより、熱伝達抑制シート全体としての断熱性能を高めることが可能であることを見出した。すなわち、上記のように、断熱材料の持つ断熱性能と、断熱材料の厚さ低減とをバランスさせることで、それぞれの単一材料では得ることが困難な、高断熱性能と高圧縮強度を両立させることが可能となる。
【0021】
本発明はこのような知見に基づくものであるが、以下に本発明の各実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
[熱伝達抑制シート]
(第1実施形態)
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図1Aに示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、高い断熱性能を有するが圧縮強度が低い第1の断熱材20と、第1の断熱材20と比較して高い圧縮強度を有するが断熱性能が低い第2の断熱材30と、を備える。すなわち、熱伝達抑制シート10は、圧縮強度及び断熱性能が互いに異なる第1及び第2の断熱材20,30を、シート面方向にそれぞれ配置して構成される。
【0023】
具体的には、熱伝達抑制シート10は、
図1Aに示すように、第1の断熱材20が、例えば、長さL、幅W、厚さt1のシート状に形成され、シート厚み方向(図中、上下方向)に垂直な面の少なくとも一方から見て、その中心部に形成された貫通孔21に、厚さt2の第2の断熱材30が一体に埋め込まれ、又は固定された構成を有する。すなわち、第2の断熱材30は、第1の断熱材20におけるシート厚み方向に垂直な一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されている。
ここで、第2の断熱材30が、第1の断熱材20における一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されており、電池セル40の膨張による圧縮力は、電池セル40が膨張する初期段階より第2の断熱材30で確実に受けられるため、第1の断熱材20がほとんど圧縮されることがない。よって、熱伝達抑制シート10、特に、第1の断熱材20の厚さ減少を極力抑制して、断熱機能を良好に維持することができる。
【0024】
ただし、第2の断熱材30の厚さt2は、第1の断熱材20の厚さt1と同じである必要はなく、第1の断熱材20の厚さt1より厚くても、薄くても、また同じ厚さであってもよい(t2≧t1又はt2≦t1)。
【0025】
第2の断熱材30の厚さt2が、第1の断熱材20の厚さt1より厚い場合には(すなわち、t2>t1)、後述する膨張する電池セル40と第1の断熱材20の間に空気層ができるが、空気層は断熱機能を有するため、問題になることはない。また、第2の断熱材30の厚さt2が、第1の断熱材20の厚さt1より薄い場合には(すなわち、t2<t1)、第1の断熱材20が第2の断熱材30の厚さt2となるまで圧縮され得る。
第2の断熱材30の厚さt2は、第1の断熱材20の厚さt1と同じ厚さであること(すなわち、t1=t2)が、シート厚み方向に垂直な一対の面において凹凸がないために異物堆積が起きにくい点、シートを輸送する際の積層梱包がしやすい点、マテリアル・ハンドリング又は加工ハンドリング時のミスや、シート破損が生じにくい点から好ましい。なお、ここで言うt1=t2とは、厚さt1と厚さt2が完全に同じである必要はなく、寸法誤差などにより、厚さt1と厚さt2が略同じと見なされる場合も含まれる。
【0026】
なお、第1の断熱材20の厚さt1と、第2の断熱材30の厚さt2の厚さに関する上記の関係は、以下の各実施形態においても同様である。また、
図1Aに示す貫通孔21及び第2の断熱材30の形状は円形であるが、形状は特に限定されない。
【0027】
第1の断熱材20は、断熱が主目的であり、断熱性能が高い材料から選択され、第2の断熱材30は、圧縮強度向上が主目的であり、圧縮強度が高い材料から選択される。
【0028】
断熱を主目的とする第1の断熱材20としては、繊維状、あるいはブランケット状(以下、まとめて「繊維状」と言う)に形成された無機材料や有機材料、又は粒子状、バルク状、緻密体、シート状、プレート状、粉体(以下、まとめて「粒子状」と言う)に形成された無機材料や有機材料から構成される。
【0029】
繊維状の無機材料としては、アルミナ、RCF、AES、ロックウール、バサルトファイバー、シリカファイバー、ジルコニアファイバー、グラスウールからなる群から少なくとも1つが選択可能である。繊維状の有機材料としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が選択可能である。また、粒子状の無機材料としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニア、コージェライト、合成シリカ、エアロゲルからなる群から少なくとも1つが選択可能である。粒子状の有機材料としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂がある。また、エアロゲルブランケットなどの複合体とすることもできる。
【0030】
圧縮強度向上を主目的とする第2の断熱材30としては、バルク状、緻密体、シート状、プレート状(以下、まとめて「バルク状」と言う)に形成された無機材料や有機材料から構成される。バルク状の無機材料としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、コージェライト、マイカ、珪酸カルシウム、パーライト、ゼオライト、水酸化アルミニウム、バーミキュライト、炭酸カルシウムからなる群から少なくとも1つが選択可能である。バルク状の有機材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴムからなる群から少なくとも1つが選択可能である。さらに、第2の断熱材30は、SUS、鉄、銅、アルミニウムからなる群から少なくとも1つが選択されてもよい。
【0031】
後述するように(
図8を参照)、本実施形態の組電池100では、熱伝達抑制シート10が電池セル40間に配置され、複数の電池セル40同士が直列又は並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略)で、電池ケース50に格納されている。
【0032】
なお、電池セル40は、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0033】
そして、熱暴走を起こした電池セル40は、自身が膨張して大きな押圧力を熱伝達抑制シート10に作用させる。しかし、この押圧力の大部分は、圧縮強度が高く、かつ、第1の断熱材20における一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置された、第2の断熱材30で受け止められ、第1の断熱材20への押圧力の影響が大幅に減少する。すなわち、第1の断熱材20の厚さ減少を最小限に抑制する。これにより、熱伝達抑制シート10全体としての断熱性能の低下を抑制することができ、熱暴走を起こした電池セル40からの熱が、隣接する他の電池セル40に伝播することで、他の電池セル40が熱暴走するのを効果的に防止する。
【0034】
また、熱暴走を起こして膨張する電池セル40は、その中央部が最も膨らむ傾向があるが、圧縮強度の高い第2の断熱材30を、第1の断熱材20の中央部、すなわち、電池セル40の中央付近に対向して配置することで電池セル40の膨張を抑え、第1の断熱材20の厚さの減少を効果的に抑制することができる。
【0035】
(第1実施形態の変形例)
図1Bは、本発明の第1実施形態の変形例に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図1Bに示すように、本変形例の熱伝達抑制シート10は、第1の断熱材20が、例えば、長さL、幅W、厚さt1のシート状に形成され、シート厚み方向(図中、上下方向)に垂直な面のうち他方の面20bから見て、その中心部に形成された深さt2の凹部21aに、厚さt2の第2の断熱材30が一体に埋め込まれ、又は固定された構成を有する。すなわち、第2の断熱材30は、第1の断熱材20をシート厚み方向に貫通して配置されていない。
この場合にあっては、電池セル40の膨張により、第1の断熱材20が第2の断熱材30の厚さt2となるまで圧縮され得るが、その後、電池セル40の膨張による圧縮力を、第2の断熱材30で確実に受けられる。よって、熱伝達抑制シート10、特に第1の断熱材20の厚さ減少を抑制して、断熱機能を良好に維持することができる。
【0036】
(第1実施形態の他の変形例)
図1Cは、本発明の第1実施形態の他の変形例に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図1Cに示すように、本変形例の熱伝達抑制シート10は、第1の断熱材20が、例えば、長さL、幅W、厚さt1のシート状に形成され、シート厚み方向(図中、上下方向)に垂直な面から見て、その中心部に形成された深さt2の凹部21aに、厚さt2の第2の断熱材30が一体に埋め込まれ、又は固定された構成を有する。本変形例にあっては、第2の断熱材30が、第1の断熱材20をシート厚み方向に貫通して配置されていない点で、上記変形例と共通であるものの、上記変形例とは異なり、一方の面20aのみならず、他方の面20bにおいても第2の断熱材30が表面に露出していない。
この場合にあっても上記変形例と同様、電池セル40の膨張により、第1の断熱材20が第2の断熱材30の厚さt2となるまで圧縮され得るが、その後、電池セル40の膨張による圧縮力を、第2の断熱材30で確実に受けられる。よって、熱伝達抑制シート10、特に第1の断熱材20の厚さ減少を抑制して、断熱機能を良好に維持することができる。
【0037】
なお、本変形例に係る熱伝達抑制シートを作製する方法としては、例えば、
図1Cに示すように、2枚の第1の断熱材20(24,26)の各々に、第2の断熱材30を収納するための凹部を設けておき、該凹部に第2の断熱材30を収納した状態で、2枚の第1の断熱材20(24,26)を重ね合わせることが考えられる。
【0038】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図2に示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、第1の断熱材20が、例えば、長さL、幅W、厚さt1のシート状に形成され、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、厚さt2の複数の第2の断熱材30が、複数の箇所に分散して配置されている。また、第2の断熱材30は、第1の断熱材20におけるシート厚み方向に垂直な一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されている。第2の断熱材30の大きさ、形状、位置、及び個数は、任意に設定可能であるが、第1の断熱材20の中心から均一に配置されるのが好ましい。このように、複数の第2の断熱材30を分散して配置することで、電池セル40の膨張を効果的に抑制でき、第1の断熱材20の厚さ減少による断熱性能低下を抑制することができる。
その他の構成及び作用は、上記第1実施形態の熱伝達抑制シートと同様であるため、説明を省略する。なお、以下の各実施形態でも同様に説明を省略する。
【0039】
(第3実施形態)
図3Aは、本発明の第3実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図3Aに示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、それぞれ矩形状に形成された厚さt1の複数の第1の断熱材20及び厚さt2の第2の断熱材30が、
シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、ストライプ状に配置されて、長さL、幅W、厚さt1のシート状に形成されている。この構成によれば、圧縮強度が低い第1の断熱材20と圧縮強度が高い第2の断熱材30を、ストライプ状に交互に分散して配置させることで、電池セル40の膨張を効果的に抑制でき、第1の断熱材20の厚さ減少による断熱性能低下を抑制することができる。
【0040】
(第3実施形態の変形例)
図3Bは、本発明の第3実施形態の変形例に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図3Bに示すように、本変形例の熱伝達抑制シート10は、3角柱状に形成された厚さt2の複数の第2の断熱材30が、厚さt1の複数の第1の断熱材20で交互に挟持されて、ストライプ状に配置されている。第2の断熱材30の3角柱の稜線31は、
図3Bに示すように、互いに逆向きであっても、また同じ向きであってもよい。なお、稜線31が尖っていると、電池セル40を損傷させるおそれがあるため、稜線31の先端部に丸みを形成するなどの配慮することが好ましい。また、第2の断熱材30の断面形状は、3角形に限定されず、任意の断面形状とすることができる。
【0041】
(第4実施形態)
図4は、本発明の第4実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図4に示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、厚さt2の第2の断熱材30が格子状に形成され、各格子枠の中にそれぞれ厚さt1の第1の断熱材20が配置されている。この構成によれば、圧縮強度が高い第2の断熱材30を格子状に配置することで、熱伝達抑制シート10の圧縮強度を高めることができ、セル膨張を効果的に抑制できる。
【0042】
(第5実施形態)
図5は、本発明の第5実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図5に示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、厚さt2の第2の断熱材30が枠状に形成され、略矩形シート状の第1の断熱材20の外周辺22(外周の4辺)が、第2の断熱材30によって縁取られている。この構成によれば、圧縮強度が高い第2の断熱材30が、第1の断熱材20の外周辺22を覆う枠状に配置されているため、熱伝達抑制シート10の機械的強度が向上し、熱伝達抑制シート10の取り扱い性が向上する。
【0043】
(第6実施形態)
図6は、本発明の第6実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図6に示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、厚さt2の第2の断熱材30が、いわゆる田の字形に形成され、各枠の中にそれぞれ厚さt1の第1の断熱材20が配置されている。この構成によれば、第2の断熱材30が枠状、かつ該枠内を複数に分割する格子状に配置されるため、熱伝達抑制シート10の機械的強度がより一層向上し、熱伝達抑制シート10の中央付近だけでなく、周辺部でもセル膨張を効果的に抑えることができる。また、熱伝達抑制シート10の取り扱い性が向上する。
【0044】
(第7実施形態)
図7は、本発明の第7実施形態に係る熱伝達抑制シートを模式的に示す正面図及び側面図である。
図7に示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、シート厚み方向に垂直な面の少なくとも一方から見て、ストライプ状に配置(
図3Aを参照)された複数の第1の断熱材20及び第2の断熱材30が、更にフィルムや不織布などの包装材32で覆われている。この構成によれば、熱伝達抑制シート10の取り扱い性が向上し、組電池100の組立作業が容易になる。
【0045】
[組電池]
図8は、組電池の一例を模式的に示す断面図である。
図8に示すように、本実施形態に係る組電池100は、電池セル40間に、上述の熱伝達抑制シート10を介在させたものである。具体的には、
図8に示すように、組電池100は、複数個の電池セル40を並設し、直列又は並列に接続して電池ケース50に収容したものであるが、各電池セル40間に、熱伝達抑制シート10が介在されている。
【0046】
電池セル40には、隣接する電池セル40からの押圧力が常時作用しているが、この押圧力の大部分を熱伝達抑制シート10、特に、圧縮強度が高い第2の断熱材30が受ける。また、熱暴走を起こした場合、膨張する電池セル40による押圧力の大部分も圧縮強度が高い第2の断熱材30が受けるため、第1の断熱材20の厚さの低減が抑制される。これにより、熱伝達抑制シート10の断熱性能の低下が抑制されて、電池セル40の熱暴走の連鎖が効果的に防止される。すなわち、電池セル40間で使用される熱伝達抑制シート10としての課題である、高断熱性能と高圧縮強度の特性を両立させることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図9Aは、実施例1の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図9Aに示すように、第1の断熱材20の一例であるアルミナファイバーブランケットを長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成し、その中央部に直径D=25.4mmの貫通孔21を設けた。そして、該貫通孔21の半円形状の領域に、第2の断熱材30の一例である厚さ2mmのマイカシートをはめ込むとともに、残りの半円形状の領域に、第1の断熱材20の一例である厚さ2mmの上記アルミナファイバーブランケットをはめ込み、実施例1で用いる試料1を作製した。すなわち、アルミナファイバーブランケットの厚さと、マイカシートの厚さは、同じであり、マイカシートは、アルミナファイバーブランケットにおける一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されている。
【0049】
ここで、熱伝達抑制シート10におけるシート厚み方向に垂直な一対の面のうち、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積が大きい側の面において、シート厚み方向における第1の断熱材20の投影面積をS
1とし、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積をS
2と定義する。
図9Aに示すように、熱伝達抑制シート10において、一方の面20aから見た場合における、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積と、他方の面20bから見た場合における、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積とが同じである場合は、いずれの面を採用しても問題にならないが、例えば、
図3Bに示すような、断面が3角柱状の第2の断熱材30を用いた場合には、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積が、一方の面20aと他方の面20bとで異なる場合がある。その場合は、上記のように、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積が大きい側の面を採用し、その面における、シート厚み方向における第1の断熱材20の投影面積をS
1とし、シート厚み方向における第2の断熱材30の投影面積をS
2と定義するというものである。
【0050】
また、上記S
1及びS
2を、シート厚み方向における各断熱材の投影面積で定義するのは、
図9Aに示すような、第1の断熱材20の厚さt1と第2の断熱材30の厚さt2が同じである場合には、シート表面における各断熱材の面積とすることで問題にならないが、例えば、第2の断熱材30の厚さt2が、第1の断熱材20の厚さt1より薄く、すなわち、第2の断熱材30がシート表面から埋没している場合には、シート厚み方向から見て露出している第2の断熱材30の面積とするためである。
【0051】
そして、上記で説明した定義に基づくと、実施例1におけるS1+S2の合計に対するS2の割合、すなわち、(S2/(S1+S2))は、約4%であった。
【0052】
(実施例2)
図9Bは、実施例2の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図9Bに示すように、第1の断熱材20の一例であるアルミナファイバーブランケットを長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成し、その中央部に直径D=25.4mmの貫通孔21を設けた。そして、該貫通孔21に、第2の断熱材30の一例である厚さ2mmのマイカシートをはめ込み、実施例2で用いる試料2を作製した。すなわち、アルミナファイバーブランケットの厚さと、マイカシートの厚さは、同じであり、マイカシートは、アルミナファイバーブランケットを一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されている。
そして、上記で説明した定義に基づくと、実施例2におけるS
1+S
2の合計に対するS
2の割合、すなわち、(S
2/(S
1+S
2))は、約8%であった。
【0053】
(実施例3)
図9Cは、実施例3の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図9Cに示すように、第1の断熱材20の一例であるアルミナファイバーブランケットを長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成し、その中央部に一辺が50mmの正方形からなる貫通孔21を設けた。そして、該貫通孔21に、第2の断熱材30の一例である厚さ2mmのマイカシートをはめ込み、実施例3で用いる試料3を作製した。すなわち、アルミナファイバーブランケットの厚さと、マイカシートの厚さは、同じであり、マイカシートは、アルミナファイバーブランケットを一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されている。
そして、上記で説明した定義に基づくと、実施例2におけるS
1+S
2の合計に対するS
2の割合、すなわち、(S
2/(S
1+S
2))は、約39%であった。
【0054】
(比較例1)
図10Aは、比較例1の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図10Aに示すように、第1の断熱材20の一例であるアルミナファイバーブランケットを、長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成して、比較例1で用いる試料4を作製した。すなわち、試料4は、アルミナファイバーブランケットのみで形成されている。
そして、上記で説明した定義に基づくと、比較例1におけるS
1+S
2の合計に対するS
2の割合、すなわち、(S
2/(S
1+S
2))は、0%であった。
【0055】
(比較例2)
図10Bは、比較例2の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図10Bに示すように、第2の断熱材30の一例であるマイカシートを、長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成して、比較例2で用いる試料5を作製した。すなわち、試料5は、マイカシートのみで形成されている。
そして、上記で説明した定義に基づくと、比較例2におけるS
1+S
2の合計に対するS
2の割合、すなわち、(S
2/(S
1+S
2))は、100%であった。
【0056】
続いて、上記で作製した各試料1~5(熱伝達抑制シート10)の熱伝達抑制効果を確認するため、以下の試験を行った。まず、実施例1~3並びに比較例1及び比較例2の各試料1~5(熱伝達抑制シート10)の一方の面側において、熱暴走を起こした電池セルを模擬したヒーターを熱伝達抑制シート10から40mm離間させて配置し、他方の面側において、隣接する電池セルを模擬した金属板(加熱せず)を、熱伝達抑制シート10に接触させて配置した。続いて、ヒーターを加熱して温度が800℃に到達した後、ヒーターと金属板で、各試料1~5を、16kPa又は469kPaの力で押圧して、ヒーター加熱後の経過時間に対する金属板表面の温度変化を測定した。なお、所定の荷重で押圧した後、ヒーターの電源をOFFにした。
【0057】
実施例1~3並びに比較例1及び比較例2における、金属板表面の最大温度(℃)をプロットしたグラフを
図11に示す。
【0058】
図11に示すように、第1の断熱材20の中央部に圧縮強度の高い第2の断熱材30を配置した実施例1~3における、金属板表面の最大温度は、第1の断熱材20のみで形成された比較例1、及び第2の断熱材30のみで形成された比較例2の温度よりも低くなっていることが分かる。
また、熱伝導率が低い、すなわち断熱性能が高い第1の断熱材20のみからなる比較例1で、実施例1~3よりも温度が高くなっていることが分かる。すなわち、断熱効果が小さいのは、電池セル40の膨張による圧縮力が第1の断熱材20に作用することで、第1の断熱材20の持つ、高い断熱性能を打ち消してしまうほど、第1の断熱材20の厚さが薄くなったことによると考えられる。
一方、実施例1~3では、圧縮強度の高い第2の断熱材30を、第1の断熱材20の中央部に配置したことで、第1の断熱材20の厚さの低減が抑制されて有効に断熱されていることが分かる。
【0059】
また、
図11から分かるように、上記S
2/(S
1+S
2)は、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは5%以下である。
【0060】
さらに、S2/(S1+S2)の値が同じであっても、熱伝達抑制シート10の圧縮力が高いほど温度が高くなっているのは、熱伝達抑制シート10に作用する圧縮力によって熱伝達抑制シート10の厚さが薄くなり、これによって断熱性能が低下したことによる。
以上より、本発明の技術によって熱伝達抑制シート10の高断熱性能と高圧縮強度を両立させることが可能となることが理解される。
【0061】
なお、上記実施例1~3は、第1の断熱材20の厚さと第2の断熱材30の厚さが同じであり、すなわち、第2の断熱材30が、第1の断熱材20における一方の面20aから他方の面20bに貫通して配置されている場合である。続いて、第2の断熱材30の厚さが第1の断熱材20の厚さよりも薄く、第2の断熱材30が、第1の断熱材20を一方の面20aから他方の面20bに貫通していない場合についても、同様の試験を行った。
【0062】
(実施例4)
図12Aは、実施例4の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図12Aに示すように、第1の断熱材20の一例であるアルミナファイバーブランケットを長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成し、その中央部に直径D=25.4mmで、深さ1mmの凹部21aを設けた。そして、該凹部21aの半円形状の領域に、第2の断熱材30の一例である厚さ1mmのマイカシートをはめ込むとともに、残りの半円形状の領域に、第1の断熱材20の一例である厚さ1mmの上記アルミナファイバーブランケットをはめ込み、実施例4で用いる試料4を作製した。
そして、上記で説明した定義に基づくと、実施例4におけるS
1+S
2の合計に対するS
2の割合、すなわち、(S
2/(S
1+S
2))は、約4%であった。
【0063】
(実施例5)
図12Bは、実施例5の試験で使用した熱伝達抑制シート10の正面図及び側面図である。
図12Bに示すように、第1の断熱材20の一例であるアルミナファイバーブランケットを長さ80mm、幅80mm、厚さ2mmのシート状に形成し、その中央部に直径D=25.4mmで、深さ1mmの凹部21aを設けた。そして、該凹部21aに、第2の断熱材30の一例である厚さ1mmのマイカシートをはめ込み、実施例5で用いる試料5を作製した。
そして、上記で説明した定義に基づくと、実施例5におけるS
1+S
2の合計に対するS
2の割合、すなわち、(S
2/(S
1+S
2))は、約8%であった。
【0064】
続いて、試料4及び試料5についても、上記と同様の試験方法によって熱伝達抑制効果の確認を行った。実施例4、実施例5、比較例1及び比較例2における、金属板表面の最大温度(℃)をプロットしたグラフを
図13に示す。
【0065】
図13に示すように、実施例1~3の場合と同様、第1の断熱材20の中央部に圧縮強度の高い第2の断熱材30を配置した実施例4及び実施例5における、金属板表面の最大温度は、第1の断熱材20のみで形成された比較例1、及び第2の断熱材30のみで形成された比較例2の温度よりも低くなっていることが分かる。すなわち、第2の断熱材30が、第1の断熱材20における一方の面20aから他方の面20bに貫通していない場合についても、貫通している場合と同様の傾向が得られることが示された。
【0066】
なお、本発明は、前述した各実施形態、変形例、及び各実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。本発明の熱伝達抑制シートは、電池セル間に介在させて、電池セルが熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱により、他の電池セルが熱暴走することを防止する用途について説明したが、この用途に限定されない。例えば、自動車排気管用の熱伝達抑制シートとしても利用可能である。また、取扱い性が非常に困難であるが、物性が優れていることが明らかな材料(エアロゲル、合成シリカ等)を、剛性のある材料でフレームを作製し、その内部に配置することにより、取扱い性、及び装着時の機械的強度が優れた断熱材とすることもできる。
【符号の説明】
【0067】
10 熱伝達抑制シート
20 第1の断熱材
20a 一方の面
20b 他方の面
21 貫通孔
22 外周辺
30 第2の断熱材
32 包装材
40 電池セル
50 電池ケース
100 組電池
S1 第1の断熱材の表面積
S2 第2の断熱材の表面積