(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】画像診断支援装置、画像診断支援プログラム、および、医用画像取得装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230816BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230816BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G06T7/00 350C
G06T7/00 614
(21)【出願番号】P 2019099173
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 知樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】越智 久晃
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/156778(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0129129(US,A1)
【文献】特開2003-000575(JP,A)
【文献】特表2020-508143(JP,A)
【文献】特表2007-502676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0043614(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G06T 7/00-7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の複数
部位における複数種類の計測値を受け付ける計測値受付部と、
前記計測値を複数のグループにグループ分けするグループ生成部と、
前記グループ毎に、グループに含まれる計測値を用いて中間指標を算出する中間指標算出部と、
前記グループ毎に算出された中間指標から総合指標を算出する総合指標算出部と
、を備え、
前記グループ生成部は、前記計測値を前記部位ごと且つ前記種類ごとに複数のグループに分ける第一グループ生成部と、前記第一グループ生成部が生成した複数のグループを、部位ごとまたは種類ごとの複数のグループに分ける第二グループ生成部とを備え、
前記中間指標算出部は、第一中間指標算出部と第二中間指標算出部とを備え、
前記第一中間指標算出部は、前記第一グループ生成部が生成した複数のグループについて、グループ毎に、グループに含まれる計測値を用いて第一中間指標を算出し、前記第二中間指標算出部は、前記第二グループ生成部が生成した複数のグループについて、前記第一中間指標算出部が算出した第一中間指標を用いて第二の中間指標を算出し、
前記総合指標算出部は、前記第二の中間指標を用いて総合指標を算出することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像診断支援装置であって、
前記計測値は、1ないし複数の医用画像取得装置で取得した原画像、前記原画像から算出した定量値、前記定量値を画素値とする定量画像、前記原画像または前記定量画像から算出した統計量のいずれかであることを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標及び前記総合指標は、所定の疾患か否か又はその確率、所定の疾患の進行度、異常か否か又はその確率、のいずれかを含むことを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標と前記総合指標が、同一指標であることを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項5】
請求項3に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標と前記総合指標が、異なる指標であることを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項6】
請求項1に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標算出部は、前記計測値受付部が受け付けた前記生体とは異なる生体から計測された学習用データに基づき、前記中間指標を算出することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項7】
請求項5に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標算出部は、機械学習によって係数及び定数が定められた関数、または、機械学習によって係数及び定数が定められた複数の関数の組み合わせから成るニューラルネットワークを用いて、前記中間指標を算出することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項8】
請求項1に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標算出部は、前記中間指標として、複数の指標を算出することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項9】
請求項1に記載の画像診断支援装置であって、
前記第一グループ生成部は、位置及び計測値の種類が同一である計測値を一つのグループとするように複数のグループを生成し、前記第二グループ生成部は、前記第一グループ生成部が生成した複数のグループを、位置又は計測値の種類が同じであるグループを一つのグループとするように第二のグループを生成することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項10】
請求項1に記載の画像診断支援装置であって、
前記中間指標算出部は、算出した
前記第一中間指標及び第二中間指標の一部または全部を、数字または画像として表示すること、を特徴とする、画像診断支援装置。
【請求項11】
被検体の画像を再構成するための信号を計測する計測部と、
前記計測部が計測した信号を用いて、前記被検体の画像を再構成するとともに前記画像を用いた演算を行う計算機と、を備え、
前記計算機は、前記被検体内の複数部位における複数種類の画像又は前記画像の統計量を算出する画像演算部と、
前記画像演算部から複数の前記画像または統計量を計測値として受付け、前記複数の計測値を用いて前記被検体の疾患に関する指標を提示する画像診断支援部とを備え、
前記画像診断支援部は
、前記計測値を複数のグループにグループ分けするグループ生成部と、前記グループ毎に、グループに含まれる計測値を用いて中間指標を算出する中間指標算出部と、前記グループ毎に算出された中間指標から総合指標を算出する総合指標算出部と
、を備え、
前記グループ生成部は、前記計測値を前記部位ごと且つ前記種類ごとに複数のグループに分ける第一グループ生成部と、前記第一グループ生成部が生成した複数のグループを、部位ごとまたは種類ごとの複数のグループに分ける第二グループ生成部とを備え、
前記中間指標算出部は、第一中間指標算出部と第二中間指標算出部とを備え、
前記第一中間指標算出部は、前記第一グループ生成部が生成した複数のグループについて、グループ毎に、グループに含まれる計測値を用いて第一中間指標を算出し、前記第二中間指標算出部は、前記第二グループ生成部が生成した複数のグループについて、前記第一中間指標算出部が算出した第一中間指標を用いて第二の中間指標を算出し、
前記総合指標算出部は、前記第二の中間指標を用いて総合指標を算出することを特徴とする医用画像取得装置。
【請求項12】
請求項11に記載の医用画像取得装置であって、
前記医用画像取得装置は、前記計測部が所定のパルスシーケンスに従って核磁気共鳴信号を計測する磁気共鳴イメージング装置であり、前記計測値は、前記核磁気共鳴信号に演算を施して得られた強調画像または定量画像、または、所定の領域内の画素値から算出された前記強調画像または前記定量画像の統計量を含むこと、を特徴とする医用画像取得装置。
【請求項13】
請求項11に記載の医用画像取得装置であって、
前記計測値が、プロトン密度、縦緩和時間、縦緩和度、横緩和時間、横緩和度、拡散係数、流速、血流量、磁化率、弾性率、造影剤濃度、灰白質割合、白質割合、脳脊髄液割合、のいずれか、またはこれらから計算される統計量を含むこと、を特徴とする医用画像取得装置。
【請求項14】
コンピュータに、
生体内の複数部位における複数種類の計測値を受け付けるステップと、
前記計測値を
前記部位ごと且つ前記種類ごとに複数の第一グループに分ける第一のグループ分けステップと、複数の第一グループを部位ごとまたは種類ごとの複数の第二グループに分ける第二のグループ分けステップと、
前記第一グループ毎に、第一グループに含まれる計測値を用いて第一中間指標を算出するステップと、
前記第二グループ毎に、前記第一グループ毎に算出された前記第一中間指標を用いて第二中間指標を算出するステップと、
前記第二グループ毎に算出された第二中間指標から総合指標を算出するステップと、
を実行させる画像診断支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像取得装置によって得られる計測データを用いて、画像診断を支援する画像診断支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の解剖学的な断面像等を非侵襲で得る医用画像取得装置として、磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging、以下、MRI)装置、CT(Computed Tomography)装置、および、超音波診断装置等の撮像装置が広く使用されている。これらの装置では、取得した計測データに演算を施して得られた画像を、診断画像として装置に付属の表示装置、または、装置から独立した表示装置に表示する。
【0003】
例えば、MRI装置は、主にプロトンの核磁気共鳴現象を利用し、被検体の任意の断面を撮像することが可能であり、形態情報の他、血流や代謝機能などの生体機能に関する情報を得ることができる。MRI装置では、一般に、生体組織の核磁気共鳴に関わる物性値、例えば縦緩和時間(T1)、横緩和時間(T2)、プロトン密度(PD)などの相対的な違いを強調させた強調画像を取得する。さらに画像間の演算により拡散係数などの値を画像化した計算値画像なども取得される。
【0004】
また、CT装置では、CT値、超音波診断装置では、反射率や流速を可視化した定量画像などが得られる。超音波診断装置では、形態画像であるBモード画像のほかに、血流情報を含むドプラ画像なども得られる。
【0005】
これらの強調画像や定量画像は、それぞれ生体組織の強調度合いや画素値が示す物理量が異なるため、診断においては複数種類の画像を撮像し、総合的に診断することが一般的である。
【0006】
従来の診断では、これらの画像をユーザーである医師が目視で確認し、異常かどうか、あるいは疾患の種類を判別していた。これを自動化し、診断を支援する方法として、画像の中の着目領域の特徴量を計算し、ニューラルネットワークを用いて悪性度などの診断用の指標を表示する方法(特許文献1)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のとおり、医用画像取得装置で計測可能な画像の種類は多数ある。そして、例えば海馬・側頭葉の萎縮や後頭葉の脳血流量減少などを用いた認知症の診断などのように、複数の画像種の、複数の領域の計測値を見て総合的な判断が必要になることがある。このように複数種類の画像の、複数の領域を用いて疾患を判別し、診断を行う場合、その支援技術として、特許文献1に記載の方法のように、多数の画像それぞれの着目領域の特徴量を計算し、ニューラルネットワークなどの機械学習を用いて悪性度などの診断用の指標を表示する方法を利用することが考えられる。しかし、この方法では、画像の種類が多くなると特徴量がその数に応じて増えるため、学習に用いるデータ数が少ない場合に機械学習の精度が下がるという課題がある。また、特許文献1には、入力した特徴量の一部または全部について診断結果に対する寄与率を表示することが開示されているが、入力する特徴量が多数あった場合には、ユーザーが全特徴量を把握することが困難であり確信を持って判断できないという課題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、医用画像取得装置で取得した複数種類の計測値(画像など)を用いて疾患判別する際に、高精度に判別でき、かつ判断根拠を容易に把握できるように診断を支援する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、医用画像取得装置で取得した複数の計測値を、当該計測値の属性に応じて複数のグループに分け、グループ毎に計測値を用いて診断指標となる中間指標を算出し、各グループの中間指標を統合し総合指標を算出する。
【0011】
即ち、本発明の画像診断支援装置は、生体内の複数位置における複数種類の計測値を受け付ける計測値受付部と、前記位置または前記種類に応じて前記複数の計測値のグループを生成するグループ生成部と、前記グループごとにグループに含まれる計測値から中間指標を計算する中間指標算出部と、前記グループごとに算出された中間指標から総合指標を算出する総合指標算出部と、を備える。
【0012】
また本発明の医用画像取得装置は、被検体の複数位置における複数種類の計測値を取得する計測部と、計測部が取得した複数の計測値を用いて演算を行う演算部と、を備え、演算部は、前記複数の計測値を複数のグループに分けるグループ生成部と、前記グループ毎にグループに含まれる計測値から中間指標を計算する中間指標算出部と、前記グループ毎に算出された中間指標から総合指標を算出する総合指標算出部と、を備える。中間指標や総合指標は、所定の形態で表示装置等に表示される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、医用画像取得装置で取得した複数種類の画像を用いた疾患判別において、判別の精度を向上するとともに、判別の根拠を把握しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】画像診断支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】
図1の画像診断支援装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】第一実施形態の医用画像取得装置(MRI装置)の典型的な構成を示すブロック図である。
【
図4】第一実施形態における計算機の構成を示すブロック図である。
【
図5】第一実施形態のユーザーインターフェース画面の一例を示す図である。
【
図6】第一実施形態のグループ生成部が生成するグループの一例を示す図である。
【
図7】第一実施形態のグループ生成部が生成するグループの別の例(変形例4)を示す図である。
【
図8】第一実施形態の変形例4のユーザーインターフェース画面の一例を示す図である。
【
図9】第二実施形態の計算機(画像診断支援部)の機能ブロック図である。
【
図10】第二実施形態の画像診断支援部の動作を示すフローチャートである。
【
図11】第二実施形態におけるユーザーインターフェースの一例を示す図である。
【
図12】第二実施形態のグループ生成部が生成するグループの一例を示す図である。
【
図13】第二の実施形態のユーザーインターフェースの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の医用画像取得装置及び画像診断支援装置の実施形態について図面を用いて説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。本発明の実施形態を説明するための全図において、特に断らない限り、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
以下、画像診断支援装置の実施形態を説明する。画像診断支援装置は、MRI装置、CT装置、超音波撮像装置等の医用画像取得装置とは独立した装置であってもよいし、医用画像取得装置に付属する装置であってもよい。後者の場合、画像診断支援装置の機能は、主として医用画像取得装置に備えられた計算機により実現される。
【0017】
本実施形態の画像診断支援装置200は、
図1に示すように、医用画像取得装置100からの計測データを受付けて、画像診断支援のための処理を行う計算機(画像診断支援部)20と、医用画像取得装置100が取得した画像や計算機20の演算結果を表示したり、ユーザーからの指令を受付けるためのユーザーインターフェース画面を表示したりするユーザーインターフェース(UI)部30と、を備えている。また、計算機20に付属するものとして、計測データや演算結果、及び演算に必要なデータなどを格納する記憶装置40を備えていてもよい。
【0018】
画像診断支援装置200が受付ける計測値は、一つの医用画像取得装置100からの計測値であってもよいし、複数の医用画像取得装置100A、100B・・・であってもよい。医用画像取得装置100は、例えば、MRI装置、CT装置、超音波撮像装置などである。
【0019】
計算機20は、CPUとメモリとを有し、医用画像取得装置100からの複数位置における複数種類の計測値を受付ける計測値受付部210と、複数の計測値を、その属性、例えば、部位や計測値の種類(再構成像の画素値であるか物性値であるか、どのような物性値か)などに応じて、グループ分けするグループ生成部220と、グループ毎に、グループに含まれる計測値を用いて診断指標となる中間指標を算出する中間指標算出部230と、中間指標算出部230が算出した指標を用いて総合的な診断指標である総合指標を算出する総合指標算出部240と、を備える。
【0020】
これら各部の機能は、メモリに予め格納されたプログラムをCPUが読み込んで実行することにより、ソフトウエアにより実現される。ただし、本実施形態の計算機20は、ソフトウエアによりその機能を実現されるものに限られず、機能のすべてまたは一部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICやFPGA(Field Programmable Gate Array)のようなプログラマブルIC等のハードウエアにより実現する構成にすることも可能である。記憶装置40には、計算機20における処理に必要な各種のデータが保持される。
【0021】
中間指標算出部230及び総合指標算出部240が算出する指標は、例えば、正常であるか否かを示す指標、所定の疾患について、罹患しているか否かを示す指標やその程度を示す指標、あるいは複数の疾患のうちどの疾患であるか(どの疾患の確率が最も高いか)などであり、中間指標と総合指標とは同一の指標でもよいし、異なっていてもよい。指標の具体的な算出手法については、後述の実施形態において詳述する。
【0022】
UI部30は、計測値受付部210が受付けた計測値や、計算機20が算出した指標(中間指標や総合指標)を表示する。また撮像のための条件や画像作成や指標算出のためのユーザー指示などの入力を受付ける。
【0023】
本実施形態の画像診断支援装置200の動作(計算機の処理フロー)を、
図2を参照して説明する。
【0024】
計測値受付部210が、UI部30を介して指定された判定すべき疾患など必要とする診断内容に応じて、医用画像取得装置100から直接あるいは記憶装置40から複数の計測値を取り込む(S201)。計測値は、医用画像取得装置100が取得した画像(原画像)そのものでもよいし、原画像から算出された所定の定量値、定量値を画素値とする定量画像、原画像または定量画像から算出した所定の統計量でもよい。
【0025】
次にグループ生成部220は、取り込んだ複数の計測値をグループに分ける(S202)。グループ分けは、例えば、部位毎に複数の計測値を1グループとする、或いは計測値の種類毎に複数部位の計測値を1グループとするなど、計測値の属性に基づきグループ化する。その際、グループを構成する計測値の数は、全てのグループで同じでもよいし異ならせてもよい。また、全ての計測値がいずれかのグループに属するようにしてもよいし、一部の計測値はその後の指標算出に用いなくてもよい。
【0026】
グループ化のルールは、部位毎とするか計測値の種類毎とするかを予め決めておいてもよいし、診断対象に応じて決めておいてもよい。また画像診断支援のユーザーインターフェース画面上でユーザーが設定するようにしてもよい。
【0027】
ついで中間指標算出部230が、各グループの計測値を用いて、指標を算出する(S203)。指標の算出は、公知の機械学習アルゴリズムやニューラルネットワークを用いることができる。即ち、被検体とは異なる対象について得られた計測値と評価結果(指標)との関係を用いて係数が決定された関数や学習済みニューラルネットワークを用いて、当該グループの計測値の指標を算出する。算出のための機械学習アルゴリズムは、算出すべき指標によって適宜選択する。
【0028】
最後に、総合指標算出部240が、各グループの中間指標を統合し、総合指標を算出する(S204)。統合指標の算出は、例えば、中間指標の重み付け加算でもよいし、中間指標と統合指標との関係を用いた機械学習アルゴリズムやニューラルネットワークでもよい。指標は、前述したように、異常の有無、所定疾患である確率、所定疾患の進行度、などである。
【0029】
画像診断支援装置200は、算出した中間指標や総合指標をUI部30に表示させる(S205)。表示は種々の態様をとることができ、中間指標や総合指標を数値や符号で表示してもよいし、画素毎に求めた数値を画素値とする画像として表示してもよい。
【0030】
本実施形態の画像診断支援装置によれば、複数の計測値に基づいて疾患を判別、診断する際に、計測値をその属性に応じてグループ分けし、グループ毎に診断指標を算出し、それを統合して最終的な診断指標を提示するので、中間指標算出の際に必要となる学習用データとして膨大な量のデータを必要とせずに精度よい結果を得ることができる。またグループ毎の中間指標が提示されることで、どういう部位についてどのような計測値を用いて指標を算出したのか等、総合指標算出の根拠を容易に把握することができ、その検証も可能となる。また部位毎にグループ化した場合には、どの部位が異常であるかを把握しやすくなる。
【0031】
次に、医用画像取得装置がMRI装置である場合を例に、具体的な画像診断支援装置の処理の実施形態を説明する。
【0032】
<第一実施形態>
まずMRI装置の構成とMRI装置によって取得される計測値について説明する。
【0033】
[装置構成]
MRI装置100の主な構成は、公知のMRI装置と同様であり、
図3に示すように、静磁場を発生するマグネット101と、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル102と、被検体(例えば、生体)103に高周波磁場パルスを照射するRFコイル107と、被検体103から発生するエコー信号を検出するRFプローブ108と、マグネット101の発生する静磁場空間内で被検体103を載置する寝台(テーブル)115と、を備える。
【0034】
さらに、MRI装置100は、傾斜磁場コイル102を駆動する傾斜磁場電源105と、RFコイル107を駆動する高周波磁場発生器106と、RFプローブ108で検出したエコー信号を検波する受信器109と、シーケンサ104とを有する。シーケンサ104は、傾斜磁場電源105と高周波磁場発生器106とに命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させるとともに、検波の基準とする核磁気共鳴周波数を受信器109にセットする。上述したMRI装置100の各部を総括して計測部110という。
【0035】
MRI装置100は、これらに加えて、受信器109により検波された信号に対して信号処理を施す計算機120と、計算機120での処理結果を表示する表示装置111と、同処理結果を保持する記憶装置112と、ユーザーからの指示を受け付ける入力装置116と、を備える。表示装置111と入力装置116とは近接して配置され、ユーザーインターフェース部として機能する。
【0036】
計算機120は、CPUとメモリとを有し、画像再構成等の演算機能(演算部)と、計測部110の動作を構成する各要素を制御する制御機能(制御部)とを実行する。またMRI装置が画像診断支援機能を備えることも可能である。画像診断支援機能を備えたMRI装置の計算機120の構成例を
図4に示す。計算機120の演算部は、
図4に示すように、画像演算部10と画像診断支援部20を備え、画像演算部10は、画像再構成部121のほか、必要に応じて、物性値算出部122、標準化部123や統計量算出部124を備える。画像診断支援部20の構成は、
図1に示す画像診断支援装置200の計算機20の構成と同様であり、計測値受付部210、グループ生成部220、中間指標算出部230、総合指標算出部240を備える。
【0037】
計算機120のこれら機能は、メモリに予め格納されたプログラムをCPUが読み込んで実行することにより、ソフトウエアにより実現される。ただし、本実施形態の計算機20は、ソフトウエアによりその機能を実現されるものに限られず、機能のすべてまたは一部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICやFPGA(Field Programmable Gate Array)のようなプログラマブルIC等のハードウエアにより実現する構成にすることも可能である。
【0038】
また、MRI装置100は、静磁場均一度を調節する必要があるときには、シムコイル113と、シムコイル113を駆動するシム電源114をさらに備えてもよい。シムコイル113は、複数のチャネルからなり、シム電源114から供給される電流により静磁場不均一を補正する付加的な磁場を発生する。静磁場均一度調整時にシムコイル113を構成する各チャネルに流す電流は、シーケンサ104により制御される。
【0039】
[撮像]
以上の構成を有するMRI装置100における撮像及び画像再構成までの動作は、従来のMRI装置と同様である。すなわち、被検体の所望の撮像領域(撮像断面)について撮像を行う場合、計算機120は、予め設定されたプログラムに従って計測部の各部が動作するようシーケンサ104に指示を出力し、MRI装置100を構成する各部の動作を制御する。シーケンサ104が、傾斜磁場電源105と高周波磁場発生器106とに命令を送ることにより、計算機120から指示されたタイミング及び強度で、RFパルスがRFコイル107を通じて被検体103に印加されるとともに、傾斜磁場パルスが傾斜磁場コイル102によって印加される。傾斜磁場は、スライス選択や位相エンコード方向やリードアウト方向の位置情報をエコー信号に与えるために印加されるものであり、直交する3軸方向の傾斜磁場パルスが適宜組み合わせて用いられる。
【0040】
被検体の組織中の核磁化が発生する核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、以下NMR)信号(エコー信号)は、RFプローブ108によって受波され、受信器109によって検波(計測)される。NMR信号は、所定のサンプリング時間サンプリングすることでディジタルデータとして計測され、k空間と呼ばれる計測空間に配置される。NMR信号の計測は、k空間が充填されるまで繰り返し行われる。計測された信号は、計算機120に送られる。計算機120(画像演算部10)は、k空間に充填された信号を逆フーリエ変換処理することにより画像再構成を行う。なお、記憶装置112には、生成された画像や、必要に応じて、検波された信号自体、撮像条件等が記憶される。
【0041】
計算機120が実行する上記プログラムのうち、特に、高周波磁場、傾斜磁場印加のタイミングや強度、および信号受信のタイミングを記述したものはパルスシーケンスと呼ばれる。撮像は、パルスシーケンスと、これを制御するために必要な撮像パラメータとに従って行われる。パルスシーケンスに設定する高周波磁場、傾斜磁場のタイミングや強度を制御することにより、被検体の任意の撮像断面を撮像できる。パルスシーケンスは、予め作成され、記憶装置112に保持され、撮像パラメータは、ユーザーから入力装置116を介して入力される。
【0042】
パルスシーケンスは、目的に応じて種々のものが知られている。例えば、グラジエントエコー(GrE)タイプの高速撮像法は、そのパルスシーケンスの繰り返し時間(以下、TR)ごとに位相エンコード傾斜磁場を順次変化させ、1枚の断層像、または複数枚の断層像の三次元画像を得るために必要な数のNMR信号を計測していく方法である。撮像パラメータは、繰り返し時間TR、エコー時間TE、RFパルスの強度を決定するフリップ角FA、RFパルスの照射位相増分値θなどがあり、撮像したい画像に応じて設定可能である。
【0043】
ユーザーが、パルスシーケンスあるいは撮像パラメータを、強調して撮像したい物性値に応じて設定することにより、設定された撮像条件で得られるNMR信号はその物性値の影響を強く反映した信号となり、これを再構成することで、物性値の強調度合いが異なる各種の強調画像、例えば、T1強調画像、T2強調画像、磁化率強調画像、拡散強調画像等を撮像することができる(画像再構成部121の処理)。また撮像パラメータを変更しながら複数回強調画像の撮像を繰り返し、得られた信号を処理することにより、画像の各画素の位置における被検体組織の複数の物性値を算出することができる(物性値算出部122の処理)。
【0044】
物性値は、例えば、T1(縦緩和時間)、T2(横緩和時間)、T2*(静磁場不均一の影響を受けた見かけの横緩和時間)、PD(プロトン密度)、磁化率、拡散係数等であり、これにより、物性値を画素値とした定量画像、即ちT1を画素値としたT1画像やT2を画素値としたT2画像等を生成することも可能である。また、強調画像や定量画像の画素値から、灰白質や白質などの生体組織の一般的な画素値の範囲をもとに、灰白質や白質、脳脊髄液などの存在割合を画素値とする新たな定量画像(セグメンテーション画像)も得ることができる。物性値の算出方法やそのための撮像条件について、公知でありここでは説明を省略する。
【0045】
画像演算部10は、さらに上述した画像や物性値を画像診断支援やそれ以外の目的に用いるために、標準化や統計量算出などの処理を施してもよい。
【0046】
具体的には、標準化部123は、計測部110で得られた強調画像や定量画像を、被験者間で共通の座標系で比較するために、解剖学的標準化を行う。解剖学的標準化は、公知の手法を用いることができ、例えば、被験体の脳のセグメンテーション画像と、標準的な脳のセグメンテーション画像を用いて、被験体のセグメンテーション画像の各点における変位ベクトルを算出し、算出された変位ベクトルを用いて非剛体変換を行う方法を用いる。
【0047】
解剖学的標準化により、例えば、被検体の灰白質セグメンテーション画像から、標準脳座標系における灰白質セグメンテーション画像が得られる。このとき、変換前後で画素値の総和が保たれるように変換することで、画素値が1画素あたりの灰白質容積を表す灰白質密度画像となる。同様に、白質密度画像や、脳脊髄液密度画像を得ることも可能である。
【0048】
また、算出された変位ベクトルを用いて、同一位置で撮像された他の強調画像や定量画像を標準脳座標系の画像に変換することができる。これにより、標準脳座標系に変換された各種強調画像や定量画像を得ることができる。
【0049】
統計量算出部124は、撮像された画像や、解剖学的標準化された画像を用いて、被検体の一部領域における輝度値や定量値の統計量を算出する。例えば、標準脳座標系上にあらかじめ定義された被殻や海馬などの各脳領域の座標と、解剖学的標準化された画像とを用いて、各脳領域内の平均の輝度値や定量値を算出する。画素ごとの値は解剖学的標準化の誤差や計測ノイズによりばらつきがあるが、脳領域内の平均を取ることでばらつきの少ない計測値となる。平均値だけでなく、合計、中央値、最大値、最小値、四分位範囲などの統計量を同様に算出してもよい。算出された統計量は、例えば記憶装置112に記憶し、画像診断支援以外の目的で使用することもできる。
【0050】
[画像診断支援機能]
MRI装置の画像診断支援部20あるいはMRI装置からの計測データを受けて動作する画像診断支援装置200は、上述した撮像により得られた強調画像、定量値、定量画像或いは統計量など(これらを総称して計測値という)を用いて、診断の指標となる情報を算出する。以下、画像診断支援部20の具体的な処理について、説明する。処理の概略は
図2のフローと同様であり、再度、
図2を参照して説明する。
【0051】
本実施形態では、一例として、脳内の複数の部位、例えば海馬、被殻、眼窩前頭皮質など、における、部位毎の物性値の統計量を用いて、脳疾患の診断支援情報を提示する場合を説明する。但し、部位や用いる計測値はこれらに限定されるものではない。
【0052】
まず画像診断支援に際し、計測値受付部210が、入力装置116を介してユーザーから、必要とする診断に関する情報の指定を受付け、記憶装置112(
図1:記憶装置40)に格納された計測値から必要な計測値を読み出す(S201)。
【0053】
生体内の所定の複数位置における所定の複数種類の計測値を受け付けると、グループ生成部220が、受け付けた計測値の位置または種類に応じたグループを生成する(S202)。次に、中間指標算出部230が、グループに含まれる計測値を用いてグループごとに中間指標を算出する(S203)。最後に、総合指標算出部240が、グループごとに算出された中間指標から総合指標を算出し出力する(S204、S205)。
【0054】
以下、各ステップの詳細を説明する。
[ステップS201:計測値受付]
まず、計測値受付部210は、
図5に示すように、表示装置111上に、画像診断支援部20の各部が入出力するための画面(GUI)500の表示を行うとともに、マウスやタッチパネル等の入力装置116を用いてユーザーからの指示を受け付ける表示領域510を表示する。
【0055】
次に、計測値受付部210は、生体内の所定の複数位置における所定の複数種類の計測値を受け付ける。例えば、脳内の複数の部位(例えば海馬、被殻、眼窩前頭皮質、など)における、部位ごとの灰白質容積、および、部位ごとの平均の磁化率(QSM)、T1、T2*、脳血流量(CBF)などの統計量を計測値として受け付ける。具体的には、計測値受付領域510に表示されたデータ指定入力領域511により、被験者名の入力や計測値などのユーザーの操作を受け付ける。そして、受け付けた入力に応じて記憶装置112に保存された計測値を読み出すことで、計測値を受け付ける。受け付けた計測値は、ユーザーが把握しやすいように、入力計測値表示領域512に表示しても良い。なおここでは、部位と結びついた計測値(被殻や海馬などの各脳領域の統計量)を受け付ける場合を例に説明したが、受け付ける部位と計測値とを別々に受付けてもよい。例えば画像内の腫瘍の中心部と境界領域を手動または公知のセグメンテーション手法などを用いて自動で設定し、その領域内の画素値や、その領域内の画素値の統計量を計測値として受け付けることも可能である。
【0056】
[ステップS202:グループ生成]
グループ生成部220は、計測値受付部210が受け付けた複数の計測値の受け付けた計測値を部位または種類に応じてグループ化する。例えば、
図6に示すように、計測値受付部210が受け付けた計測値の種類(例えば灰白質容積(GM)、磁化率、T1、T2、脳血流量など)に応じてグループ分けするように構成しておくことができる。この場合、計測値の種類をM種類とすると、M個のグループが生成され、各グループには、それぞれ計測値を計測した部位の数と同数の計測値が含まれる。このグループ化された計測値は、例えば、計測値を所定の順序(例えば部位の名称など)で並べたベクトルとして計算機120の記憶装置に保存される。また、ユーザーが処理を把握しやすいように、M個のグループの計測値ベクトルを計測値ベクトル表示領域520-1~520―Mに数字で表示することも可能である。
【0057】
[S203:中間指標算出]
次に、中間指標算出部230は、グループ生成部220が生成したグループ毎に、グループに含まれる計測値から中間指標を算出する。ここでは中間指標として所定の疾患である確率を算出する。例えば、m番目のグループに含まれる計測値のベクトルxmを式(1)を用いて指標(確率)pmに変換する。
【0058】
【数1】
式(1)において、wmはxmを変換するための係数ベクトルであり、bmは変換するための定数である。また、fは式(2)で表されるロジスティックシグモイド関数である。
【0059】
【0060】
式(2)中、amは定数である。式(1)の係数ベクトルwm、定数bm、式(2)の定数amは、あらかじめ、検査を受ける被検体とは異なる健常者および所定の疾患の患者を被検体として同様に計測された計測値を同様にグループ分けした学習データを用いて、ロジスティック回帰、サポートベクターマシン、など公知の機械学習の手法を用いて決定することができる。
【0061】
決定したwm、bm、amは、記憶装置112などに保存しておき、中間指標算出部220が式(1)及び(2)を用いて指標pmを算出する際に読み出す。あるいは、計測値受付部210が計測値を受け付けた後に、記憶装置40に保存された学習データを読み出し、機械学習を用いてこれら係数等を算出するようにしてもよい。
こうして求められた指標pmは、m番目のグループの計測値xmから推定された、所定の疾患(例えば、神経変性疾患や、脳梗塞など)である確率を表す。グループ生成部220が作成した各グループについて上記変換を行うことにより、各グループから一つの中間指標(ここでは、疾患である確率pm)が算出される。
【0062】
算出された中間指標は、例えば、
図5の表示画面の中間指標表示領域530に、各グループを示す名称(例えば、灰白質GM)、磁化率(QSM)、T1、T2、脳血流量(CBF))とともに表示してもよい。
【0063】
[S204:総合指標算出]
総合指標算出部240は、中間指標算出部230が算出した中間指標を入力として、総合指標を算出する。例えば、中間指標算出部が算出した中間指標の数値を並べたベクトルを入力として、以下の式(3)で総合指標として所定の疾患である確率を算出する。
【0064】
【0065】
これにより、診断に用いるための総合指標が算出される。総合指標は、例えば、総合指標表示領域540(
図5)に数字として表示される(S205)。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、画像診断支援となる情報をまずグループ化して、グループごとに判別のための機械学習を行って中間指標を算出するので、全ての計測値を使って一度に判別する場合に比べ、ベクトルの次元数が小さく、少ない学習データ数で学習した場合でも精度良く判別することができる。また、本実施形態によれば、最終的に診断に用いる総合指標だけでなく、グループごとの中間指標を表示することができる。これにより、ユーザーが最終的な総合指標の算出根拠を把握しやすくなり、診断を容易にすることができる。
【0067】
さらに本実施形態によれば、医用画像取得装置自体が画像診断支援機能を有することで、ユーザーである医師に診断に有用な情報が提供でき、また診断の目的である撮像を効率よく行うよう促すことも可能となる。
【0068】
<第一実施形態の変形例1>
第一実施形態では、中間指標算出部230が算出する中間指標、および、総合指標算出部240が算出する総合指標が所定疾患の確率であったが、指標としては確率に限らず様々なものが考えられる。例えば、認知症などの神経変性疾患の進行度に応じて、健常であれば0、軽度であれば1付近、重度であれば2付近、の値をとるなどといったように、所定の疾患の進行度を表す値にすることができる。
【0069】
進行度については、例えば、中間指標算出部230は以下の式(4)で表される1次関数gmを用いてグループごとの計測値xmから中間指標smを算出することができる。
【数4】
ここで、w’mおよびb’mはそれぞれ係数ベクトルと定数である。
【0070】
また、総合指標算出部240は、以下の式(5)で表される1次関数gを用いてグループごとの中間指標smから総合指標Sを算出する。
【0071】
【数5】
ここで、sはs1からsmまでを並べたベクトルであり、w’およびb’はそれぞれ係数ベクトルと定数である。
【0072】
式(4)、(5)のw’m、b’m、w’およびb’は、それぞれ、過去の計測で正解の中間指標smおよび総合指標Sが定義(例えば医師により手動で設定)された学習用データを利用して、例えば最小二乗法を用いて決定することができる。また、例えばサポートベクターマシンにより疾患群と正常群を分離する平面を決定し、平面からの距離やに応じて進行度を算出することもできる。また、関数gmおよびgとして一次関数のほかに様々な形の関数を用いることができる。例えば多項式、ロジスティックシグモイド関数、指数関数、三角関数、ステップ関数、ソフトマックス関数、Rectified Linear(ReLU)関数、およびこれらを組み合わせたニューラルネットワークなど、を用いることができる。これらの関数のパラメータも、最小二乗法や様々な公知の機械学習の方法を用いて決定することができる。
【0073】
出力する中間指標と総合指標の種類(確率か、進行度か、等)、教師データの数、および計測値の種類や値の範囲などによって適切な関数を用いることで精度がより向上する。これにより、疾患の進行度をユーザーである診断医が容易に把握することができる。また部位(所定領域とそれ以外の領域)を指定して計測値を設定した場合には、局所的に生じる疾患の種類や進行度を判別することができる。
【0074】
また、中間指標および総合指標は、疾患の種類を示す値にすることも可能である。例えば、健常であれば0、脳梗塞であれば1、脳出血であれば2といったように、疾患の種類に応じた値を出力することも可能である。このような複数の種類のうちいずれであるかを出力する関数は、例えばニューラルネットワークやサポートベクターマシンなどの公知の機械学習の手法を用いて決定することができる。
【0075】
さらに、中間指標および総合指標は、健常者の標準的な値の範囲からの外れ具合、すなわち異常度を表すように構成することもできる。例えば、式(4)の関数gmの代わりに、健常者におけるxmの平均μmと分散共分散行列Σmを用いて、次式(6)によりマハラノビス距離を中間指標smとして算出することができる。
【0076】
【0077】
マハラノビス距離は、計測値が平均値と一致するときに0であり、平均から離れるほど大きい数値となるため、異常度を示す。また、式(5)の関数gの代わりに、中間指標smのマハラノビス距離を算出することも同様に可能である。特定の疾患に限らず異常かどうかを判断することで診断医が見るべき画像や部位を減らし、負担を減らすことができる。
【0078】
また、所定の疾患や異常度を表す値の代わりに、所定の疾患や異常である確率を表す0から1の間の値を算出するように構成することもできる。確率に応じた診断や治療の判断ができるようになる利点がある。
【0079】
中間指標と総合指標はおなじ性質の値(たとえば両方とも所定の疾患を表す確率)であるのがユーザーにわかりやすいが、異なっても良い。また、中間指標算出部230は、中間指標の代わりに、中間指標から算出された別の値を表示しても良い。
【0080】
<第一実施形態の変形例2>
第一実施形態では、中間指標算出部230が、グループ毎に一つの中間指標を算出する場合を例に説明したが、グループ毎に複数の算出方法を用いて複数の値を算出するように構成することも可能である。例えば、異常度と、所定の疾患である確率をそれぞれグループごとに算出するように構成することができる。ユーザーが疾患かどうかを見るだけでなく、他の異常があるかを同時に把握することができる利点がある。また、例えば、脳梗塞である確率と、神経変性疾患である確率などのように、複数種類の疾患である確率をそれぞれ中間指標として算出することも可能である。複数の疾患を同時に診断することができる利点がある。
総合指標についても、同様に、複数の値を算出するように構成することも可能である。
【0081】
<第一実施形態の変形例3>
第一実施形態では、計測値受付部210が、被検体内の複数の部位の統計量を計測値として受け付ける場合を例に説明したが、計測値受付部210の受け付ける計測値は、様々な医用画像の輝度値、定量値、あるいはそれらから計算された統計量など様々なものを用いることができる。
【0082】
特に、MRI装置では、撮像方法により同一位置の様々な種類の画像が得られるため、種々の強調画像の輝度値や定量画像の定量値を用いることで、疾患判別精度が高くなる利点がある。具体的には、MRI装置で計測された、プロトン密度、縦緩和時間、縦緩和度、横緩和時間、横緩和度、拡散係数、流速、血流量、磁化率、弾性率、造影剤濃度、灰白質割合、白質割合、脳脊髄液割合、などの定量値、またはこれらから計算される統計量を用いるのがよい。これら定量値あるいは統計量は、強調画像の輝度値と異なり、撮像方法に依存しない値であるため、ばらつきが小さく、より判別精度を高くすることが期待できる。
【0083】
<第一実施形態の変形例4>
第一実施形態では、計測値の種類毎にグループを生成したが(
図6)、
図7に示すように、計測値を得た位置(領域)毎にグループを生成しても良い。この場合、中間指標の表示は、
図8に示すように、領域毎の中間指標の値を輝度値や色分けで画像として表示することも可能である。領域の設定は、任意であり、第一実施形態と同様に、脳内の複数の部位であってもよいし、画像を数十ないし百数十程度の領域に分けたものでもよいし、特定の1ないし複数の領域とそれ以外の領域という設定でもよい。画像診断支援用のユーザーインターフェース画面(
図8)において、データ指定入力領域511に領域の位置や分割数を入力するための領域511-2を設け、ユーザー指定を受付けてもよい。
【0084】
本変形例によれば、計測値の種類ごとの指標でなく、領域ごとの中間指標が計算されることで、中間指標を表示した際に、どの部分が異常であるかや局所的に生じる疾患の種類や進行度を医師が把握しやすくなる利点がある。
【0085】
また第一実施形態では、すべての計測値をグループに分けて、グループ内の計測値すべてを用いて指標を算出したが、グループ生成には計測値のすべてを用いなくても良い。例えば、辺縁系に含まれる海馬、海馬傍回などいくつかの部位の灰白質容積からなるグループと、後頭葉に含まれる後帯状皮質や楔前部などいくつかの部位の脳血流量からなるグループ、など所定の疾患に関連したいくつかの部位のみの計測値からなるグループを生成することも可能である。既知の医学的所見をふまえた部位を用いることで精度が向上する利点がある。
【0086】
以上、第一実施形態とその変形例を説明したが、上述した変形例は技術的に矛盾しない限り、組み合わせることも可能である。
【0087】
<第二実施形態>
本実施形態は、第一実施形態のMRI装置(
図4:画像診断支援部20)と基本的に同様の構成を有するが、第一実施形態とは異なり、中間指標の算出を多段的に行う。これにより、さらに疾患等判別の精度を向上する。以下、中間指標を二段階に分けて算出する場合を例に説明する。
【0088】
本実施形態の画像診断支援部20Bは、
図9に示すように、第一実施形態のグループ生成部220と同機能を持つ第一グループ生成部220に加えて第二グループ生成部920を備え、第一実施形態の中間指標算出部と同機能を持つ第一中間指標算出部230に加えて第二中間指標算出部930を備える。
【0089】
本実施形態の処理を、
図10の処理フローを参照して説明する。
【0090】
処理の概略は、まず計測値受付部210が、所定の被検体について部位と計測値の指定を受付け、受付けた計測値を記憶装置112から読み出す(S1001)。ついで第一グループ生成部220が、計測値を複数のグループ(第一のグループ)に分け(S1002)、第一中間指標算出部230が、第一のグループのそれぞれについて中間指標(第一中間指標)を算出する(S1003)。また、第二グループ生成部920は、第一中間指標を算出後に、各グループの中間指標を、さらに、位置または計測値の種類に基づいてグループ分けし、第二のグループを生成する(S1004)。次に、第二中間指標算出部822は、第二グループ生成部920が生成した第二のグループに含まれる第一中間指標を用いて、第二の中間指標を算出する。(ステップS1005)。最後に、総合指標算出部240が、第二の中間指標を用いて総合指標を算出し出力する(S1006)。
【0091】
以下、各ステップを具体例に基づき詳細に説明する。
【0092】
[S1001:計測値の読み出し]
計測値受付部210が、第一実施形態と同様に、
図11に示すような受付画面500を表示装置111に表示し、そのデータ指定入力領域511により、被験者名の入力や計測値などのユーザーの操作を受け付ける。
【0093】
第一実施形態では、計測値として画像の演算によって算出された定量値の統計量を入力したが、本実施形態では、計測値受付部210が定量画像自体を受付ける場合を例とする。例えば、計測値受付部210は、定量画像として、標準脳座標系に変換された灰白質確率画像、磁化率画像、T1画像、T2*画像、脳血流量画像、を受け付ける。
【0094】
[S1002:第一のグループ生成]
計測値受付部210が、受付けた一つの部位の一つの定量画像には、画素数に相当する定量値が計測値として含まれる。第一グループ生成部220は、
図12に示すように、定量値ごと、かつ、部位ごとの計測値グループを生成する。すなわち、脳の部位(例えば前頭葉、辺縁系、基底核、など)の各計測値(灰白質確率、磁化率、T1、T2*、脳血流量、など)毎に、それぞれに含まれる画素の計測値をまとめてグループとする。計測値の種類をM種類、部位の数をN部位とすると、M×N個のグループが生成される(
図12に示す例では、20(=5×4)グループが生成される)。それぞれ画素値を所定の順序で並べたベクトルとして記憶装置112に保存する。
【0095】
[S1003:第一の指標算出]
第一中間指標算出部230は、第一の実施形態の中間指標算出部と同様に、第一グループ生成部220が生成したグループごとに、それぞれ、グループに含まれる計測値から中間指標(第一の中間指標)を算出する。中間指標の算出方法は、第一実施形態と同様であり、所定の疾患である確率、異常があるか否か、特定の疾患の進行度などの指標を、その種類に応じた算出方法で算出する。本実施形態では、グループがM×N個あるため、中間指標もM×N個算出される。算出された中間指標は、
図11に示すように、中間指標算出領域530に表示される。表示形式は、数字の羅列など様々な形式を用いることができるが、指標の値に色相や輝度を割り当てて、
図11のように、脳の各部位ごとに算出された中間指標で色付けした画像を表示してもよい。本実施形態では、[計測値の種類数]×[部位或いは領域の数]個の中間指標が算出されるので、数字の羅列とするよりも、画像として表示することで、視覚的に理解しやすくなる利点がある。
【0096】
[S1004:第二のグループ生成]
次に、本実施形態の第二グループ生成部920は、計測値毎且つ部位毎のグループをさらに計測値毎或いは部位毎のグループとする。ここでは、一例として、計測値の種類によって中間指標の第二のグループを生成することとする。入力した画像(計測値)の種類がM種類とすると、第二のグループはM個になり、各グループには、画像の種類毎に計算された中間指標が含まれる。
【0097】
[S1005:第二の中間指標算出]
次に、第二中間指標算出部930は、第二グループ生成部920が生成したグループごとに、グループに含まれる第一の中間指標を用いて第二の中間指標を算出する。第二の中間指標は、第一実施形態で中間指標を算出する際に用いた式(1)において、ベクトルxmに第一の中間指標のベクトルを代入して求めることができる。式中の係数や定数の決定方法は第一実施形態と同様であり、画像診断の対象である被検体とは異なる被検体について得られた計測値に対し同様の処理を経て得たデータを学習用データとして、機械学習することで決定することができる。算出した第二の中間指標は、第二中間指標表示領域550に表示される。
【0098】
[S1006:総合指標算出]
総合指標算出部240は、第二の中間指標を式(3)に代入して総合指標を算出する。総合指標は、総合指標表示領域540に表示される。
本実施形態によれば、計測値受付部が受付ける計測値(入力)が、画像の画素毎の定量値のように、ベクトル化したときの次元数が大きいデータの場合でも、多段階に分けてグループ化し、各段階で中間指標を算出することにより、機械学習に用いる学習用データ数が少なくても学習精度を高めることができ、これにより判別の精度を向上することができる。
【0099】
<第二実施形態の変形例>
第二実施形態では、第一の中間指標を画像の種類毎かつ部位毎に算出し、第二の中間指標を画像の種類毎に算出したが、第一グループ生成部及び第二グループ生成部のそれぞれにおけるグループ分けの仕方は、画像の種類から判別するか、部位から判別するかに応じて、あるいは病変部位の推定しやすさを考慮して、種々に変更することが可能である。
【0100】
例えば、画像の種類毎かつ部位毎に算出した第一の指標を用いて、部位毎の第二の中間指標を算出してもよい。或いは、第一の中間指標を多数の細かい部位毎に算出し、第二の中間指標を少数の大きな部位ごとに算出するように構成することも可能である。この場合、例えば、第一グループ生成部220は、計測値を海馬、眼窩前頭皮質、後帯状皮質、など、多数の細かい部位(例えば120領域)に分割したグループを生成する。各領域のグループには、複数種類の計測値が含まれ、各計測値は例えばその部位の計測値の統計量である。第一中間指標算出部230はそれぞれのグループに含まれる計測値を用いて第一中間指標を算出し、中間指標表示領域530に表示する。この場合の表示は、数値の羅列やテーブルでもよいが、好適には、
図13に示すように、各領域の指標を色分けや輝度で表現した画像で表示する。
【0101】
第二グループ生成部920は、第一グループ生成部220がグループ分けした多数の細かい部位をいくつかのグループ(例えば前頭葉、後頭葉、など)に分けた少数の大まかな部位(例えば4部位)に分割する。第二中間指標算出部930は、第二グループ生成部920が生成した少数の大まかな部位のグループごとに、グループに含まれる第一の中間指標から第二の中間指標を算出する。算出された各部位の第二の中間指標は、
図13に示すように、第二中間指標表示領域550に表示される。最後に、総合指標算出部240は、第二の中間指標を式(3)に代入して総合指標を算出し、総合指標表示領域540に表示する。
【0102】
本変形例によれば、どの部位で異常が生じているかがひと目で階層的に理解できる利点がある。
【0103】
以上、グループ生成の手法を異ならせた第二実施形態の変形例を説明したが、第一実施形態で説明した変形例、例えば計測値を異ならせた変形例、中間指標と総合指標とを異ならせる、或いは複数とする変形例、指標の種類の変形例、などは、第二実施形態においても同様に採用することができる。指標の算出手法や機械学習アルゴリズム(用いる学習用データ)を適宜変更することにより、計測値と指標との組み合わせや指標の種類などを変更することができる。
【0104】
また以上、画像診断支援機能を搭載したMRI装置を例に実施形態を説明したが、医用画像取得装置としては、MRI装置に限らず、公知の種々の医用画像取得装置に適用することができる。また上述の実施形態では、一つの医用画像取得装置がその装置内で取得した計測値を画像診断支援に用いる場合を説明したが、別のモダリティで取得した計測値、例えばCT装置が取得したCT画像や超音波診断装置が取得した血流画像や血流量などの定量値を取り込み、複合的に診断支援に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0105】
10:画像演算部、20:計算機(画像診断支援部)、30:UI部、40:記憶装置、100:医用画像取得装置(MRI装置)、101:マグネット、102:傾斜磁場コイル、103:被検体、 104:シーケンサ、 105:傾斜磁場電源、106:高周波磁場発生器、107:RFコイル、 108:RFプローブ、109:受信器、110:計測部、111:表示装置、 112:記憶装置、113:シムコイル、114:シム電源、115:寝台、116:入力装置、120:計算機、210:計測値受付部、220:グループ生成部、230:中間指標算出部、240:総合指標算出部、500:表示画面、510:計測値受付領域、520:計測値ベクトル表示領域、530:中間指標表示領域、540:総合指標表示領域、550:第二中間指標表示領域、920:第二グループ生成部、930:第二中間指標算出部。