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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】アンカープレート
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/00 20060101AFI20230816BHJP
   E04B 9/18 20060101ALI20230816BHJP
   F16B 37/04 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
F16B37/00 Z
E04B9/18 B
F16B37/04 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019113071
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204378
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】393016837
【氏名又は名称】株式会社桐井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100213746
【弁理士】
【氏名又は名称】川成 渉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】法身 祐治
(72)【発明者】
【氏名】荻原 健二
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3080829(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0061321(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/00
E04B 9/18
F16B 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦状の底部と、
前記底部の中央から立ち上がって内周にねじ切りされた円筒部と、
前記底部の周縁から立ち上がった外壁部と、
前記円筒部から前記外壁部に渡って前記底部から立ち上がった補強壁部と、
を備えたアンカープレートを下地材に固定する方法であって、

前記底部の裏面と下地材とを接着剤で貼り合わせ、
23℃、50%RH環境下で1週間養生した後の前記アンカープレートに加わった3mm/minの外力に対して1.0N/mm以上で接着させる
ことを特徴とするアンカープレートの固定方法。
【請求項2】
前記アンカープレートは、
前記外壁部が、平面部及び角部を有するように平面視で略正方形状に形成され、
前記補強壁部が、前記円筒部から前記平面部及び/又は前記角部に向かって放射状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンカープレートの固定方法。
【請求項3】
前記アンカープレートは、
前記外壁部が、平面視で略円形状に形成され、
前記補強壁部が、前記円筒部から前記外壁部の内壁面に向かって放射状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンカープレートの固定方法。
【請求項4】
前記接着剤が、変成シリコーン樹脂製である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアンカープレートの固定方法。
【請求項5】
前記外力が、前記下地材に対して略垂直な前記円筒部にネジ止めしたボルトを垂直方向に引っ張る力又は前記下地材に対して略水平な前記円筒部にネジ止めしたボルトの根本を垂直方向から押す力である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアンカープレートの固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプレキャストコンクリート(以下、「PC」ともいう。)に設置する天井を吊るためのアンカーボルトを固定するアンカープレート及びアンカープレートの固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集合住宅等の建築物では、PC等のコンクリートに柱・スラブ等の構造体や天井等の非構造部材を設置するために、所定の長さで突出するようにアンカーボルトをコンクリートに固定していた。一般的に、アンカーボルトは、仮設した金属製のアンカープレートにボルトを締め付けて固定したり、コンクリートに直接突き刺したりしていた。
【0003】
また、アンカープレートを仮設する場合、それぞれの高さが異なると、アンカーボルトの突出している部分の長さがばらつくおそれもあった。そこで、レーザーによりアンカープレートの高さをアンカーボルト毎に調整し、一連の高さ調整及び固定を行う技術に関して開示されている(特許文献1参照。)。また、天井に伴う配線及び配管の支持具を天井に接着する工法も開示されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-106228号公報
【文献】特許第4780731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した公知の技術は、アンカープレートの設置そのものの作業性を改善するものではない。換言すれば、従来のアンカープレートに伴う型枠等への仮設が不要になれば、高さ調整等の作業も不要となるため、作業性のさらなる向上が期待できる。また、コンクリートに直接刺さなくてもアンカーボルトを固定できれば、コンクリートのみならず、コンクリートに埋設された鋼線や配管等の破損を回避することもできる。
【0006】
特に、コンクリートに対して天井を宙吊りするためにアンカーボルトをコンクリートに固定する場合、コンクリートにアンカープレートを手間なく固定できれば、作業性の向上は明らかである。また、コンクリートの打設前の設置が必要な打ち込み式のアンカーボルトは、内装の天井やハンガードア等に利用されているものの、打ち忘れ・打ち間違い・倒れ・埋没等の事象が生じたり、間取り変更により使えなくなったりすることがあり、アンカーボルトの打ち直しが生じることもあった。打ち込み式のアンカーボルトの利用例としては、天井材(16.14kg)、ウォールドア(25kg)、3連ハンガードア(75kg)、3連アルミフレームドア(120kg)、及びキッチン吊戸棚(150kg/m×積載面積)である。
【0007】
そのような観点から、発明者は、素材、形状、及びコンクリートに対する固定方法を見直し、従来のアンカープレートに伴う課題を解決する新たなアンカープレートの着想に辿り着いた。すなわち、天井用のアンカープレートにより、後施工するアンカーボルトを削除し、上記事象のみならず、工程管理の円滑化を目指すものである。さらに、設計変更に伴う工事や、居室の引渡し後のアフター補修工事、及び管理規約など制約の多いリフォーム工事での対応力の向上を狙うものである。また、上記工事にて生じがちな騒音の回避も期待できる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、コンクリートに対して取り付けやすく、全体的な施工の作業性の向上を期待できるアンカープレート及びアンカープレートの固定方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂製や金属製のアンカープレートであって、平坦状の底部と、上記底部の中央から立ち上がって内周にねじ切りされた円筒部と、上記底部の周縁から立ち上がった外壁部と、上記円筒部から上記外壁部に渡って上記底部から立ち上がった補強壁部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
上記外壁部が、平面部及び角部を有するように平面視で略正方形状に形成され、上記補強壁部が、上記円筒部から上記平面部及び/又は上記角部に向かって放射状に形成されていることが望ましい。
また、上記外壁部が、平面視で略円形状に形成され、前記補強壁部が、前記円筒部から前記外壁部の内壁面に向かって放射状に形成されていることが望ましい。
【0011】
接着剤を介して貼り付いた下地材に対して1.0N/mm以上の接着強度を有することが望ましい。
【0012】
上記接着剤が、変成シリコーン樹脂製であることが望ましい。
【0013】
上記接着剤が、変成シリコーンを30~40重量%、無機質充填材を60~70重量%、シリカを0.1~1重量%、すず及びすず化合物を0.1~5重量%、含有していることが望ましい。
【0014】
また、本発明は、アンカープレートを下地材に固定する方法であって、上記底部の裏面と上記下地材とを上記接着剤で貼り合わせ、23℃、50%RH環境下で1週間養生した後の上記アンカープレートに加わった3mm/minの外力に対して1.0N/mm以上で接着させることを特徴とする。
【0015】
上記外力が、上記下地材に対して略垂直な上記円筒部にネジ止めしたボルトを垂直方向に引っ張る力又は上記下地材に対して略水平な上記円筒部にネジ止めしたボルトの根本を垂直方向から押す力であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明におけるアンカープレートによれば、コンクリートに対して取り付けやすく、全体的な施工の作業性の向上を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態におけるアンカープレートの(a)平面図、(b)正面図である。
図2】上記アンカープレートの底面図である。
図3】上記アンカープレートの右側面図である。
図4】上記アンカープレートの(a)平面図におけるA-A端面図である。
図5】上記アンカープレートの(a)平面図におけるC-C部分におけるB-B端面図である。
図6】本発明の一実施形態における別のアンカープレートの(a)平面図、(b)底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1を参照しつつ、本発明の一実施形態におけるアンカープレートの構造及び固定方法について説明する。
これらの図において、複数個存在する同一の部位については、一つの部位のみに符番した部分もある。説明の便宜上、所定の部位やこの引き出し線をかくれ線(破線)や想像線(二点鎖線)で示し、断面部分をハッチングで示した部分もある。図2図5は、アンカープレートの形状をより明確にするために図1を補足するものである。
【0019】
図1に示すアンカープレートPは熱可塑性樹脂製で、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)・PC(ポリカーボネート)・PMMA(アクリル)・PE(ポリエチレン)・PP(ポリプロピレン)・PS(ポリスチレン)・ABS(アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン)・AS(アクリロニトリル・スチレン)・PBT(ポリブチレンテレフタレート)・PET(ポリエチレンテレフタラート)・CF(カーボンファイバー)で形成されている。これによれば、金属製に比べて軽量化が期待できる。また、PC(ポリカーボネート)等の透明素材の場合、貼り付け時に接着剤の充填状況を目視できるため、所望の接着度合いを得られる。
なお、アンカープレートPは、アクリル板を上述の形状に切削して肉抜きしたものや上述の形状にインジェクション等で成型したものが該当し、所望の剛性を有する限り成形方法に限定はない。
【0020】
図1に示すとおり、アンカープレートPは、平坦状の底部1と、底部1の中央から立ち上がって内周にねじ切りされた円筒部2と、底部1の周縁から立ち上がった外壁部3と、円筒部2から外壁部3に渡って底部2から立ち上がった補強壁部4とを備えている。底部1の裏面は、アンカープレートPの成型時に熱可塑性樹脂を注入するインジェクションの当接にて形成された凹部11を有する。外壁部3が、平面部31及び角部32を有するように平面視で正方形状に形成され、補強壁部4が、円筒部2から平面部31及び角部32に向かって放射状に形成されている。これによれば、さらなる軽量化のみならず、所望の剛性を得ることができる。円筒部2は、接着強度を保つと共に、接着剤が円筒部2に侵入してボルトの可動障害を回避するため、底部1を貫通していない。
なお、底部1及び外壁部3は、平面視で長方形や円形に形成されていてもよい。凹部11の深さ及び径は、底部1と下地材との所望の接着強度を発現できれば、いずれでもよい。
【0021】
アンカープレートPは、接着剤を介して貼り付いた下地材に対して1.0N/mm以上の接着強度を有する。
接着剤としては、例えば、変成シリコーン樹脂製が該当し、詳細には、変成シリコーンを30~40重量%、無機質充填材を60~70重量%、シリカを0.1~1重量%、すず及びすず化合物を0.1~5重量%、含有しているものが該当する。
下地材としては、例えば、コンクリートやデッキスラブが該当し、コンクリートの場合、標準的なもの、目違いが生じているもの、ジャンカ補修済みのもの、表面に所定の塗膜材が施されたものも含む。
接着強度が1.0N/mmより低いと、接着力が弱すぎてコンクリートから剥がれるおそれがある。
【0022】
アンカープレートPを下地材に固定する方法としては、底部1の裏面と下地材とを接着剤で貼り合わせ、23℃、50%RH環境下で1週間養生した後のアンカープレートPに加わった3mm/minの外力に対して1.0N/mm以上で接着させる。
外力とは、下地材に対して略垂直な円筒部2にネジ止めしたボルトを垂直方向に引っ張る力又は下地材に対して略水平な円筒部2にネジ止めしたボルトの根本を垂直方向から押す力が該当する。
【実施例
【0023】
次に、下地材に対するアンカープレートの接着強度試験に関して説明する。
【0024】
≪試験の前提≫
下地材に塗布した接着剤に対してアンカープレートを貼り合せ、23℃50%RH環境下で1週間養生したものを試験体とする。接着剤としては、変成シリコーンを30~40重量%、無機質充填材を60~70重量%、シリカを0.1~1重量%、すず及びすず化合物を0.1~5重量%、含有しているものを用いる。アンカープレートは、40mm×40mm×10mmで、中央に3/8タップ(半貫通)中央にボルト接合用のタップ部を有する。
【0025】
≪平面引張試験≫
○内容
養生後、試験体であるアンカープレートの円筒部のネジ穴に六角ナットを2つ取り付けたボルトを締め付けた後に半周分緩め、六角ナットを試験機で固定して垂直方向から引張速度3mm/minで引っ張った。
○下地材
コンクリート:標準、目違い(3mm)、ジャンカ補修済み(日本化成社製ポリマーミックス#30)、塗膜付き(日本スタッコ社製Newベランコート)
デッキスラブ:モルタルにて裏打ち
【0026】
≪せん断引張試験≫
○内容
養生後、試験体であるアンカープレートの円筒部のネジ穴に根本まで六角ナットを取り付けたボルトを締め付けた状態で、ボルトが略水平になるように試験体の向きを変え、上記ボルトの根本に垂直方向からせん断速度3mm/minで押した。
○下地材
コンクリート:標準、ジャンカ補修済み(日本化成社製ポリマーミックス#30)
【0027】
≪試験結果≫
【表1】
【表2】
【0028】
表1は、平面引張試験の結果を示す。標準のコンクリートでは、最も高い1.54N/mmの接着強度を得られた。一方、目違いのコンクリートでは、最も低い1.01N/mmの接着強度を得られた。一般的に、平面引張試験では接着剤の厚みが増加するほど接着強度が低下する傾向があることに鑑みれば、標準のコンクリートより目違いのコンクリートのほうが接着剤の厚みが増したため、接着強度が低下した可能性がある。また、ジャンカ補修済みのコンクリートでは、標準のコンクリートより低い1.35N/mmの接着強度を得られ、下地材の界面破壊も見られた。これは、補修に使用されているポリマーセメントモルタルに含まれる成分が界面へ移行し、接着性に影響を与えた可能性がある。塗膜付きのコンクリート及びデッキスラブでは、標準のコンクリートよりやや劣る1.44N/mm及び1.30N/mmの接着強度を得られた。
【0029】
表2は、せん断試験の結果を示す。標準のコンクリートでは1.54N/mm、ジャンカ補修済みのコンクリートでは1.37N/mmの接着強度を得られ、これらの要因は平面引張試験の結果の要因と同様と考えられる。
【0030】
なお、アンカープレートの四隅と下地材との間に所定の厚みのスペーサーを挿入して上記平面引張試験を行ったところ、スペーサーが厚いほど接着強度が低下したが、最大2.0mmのスペーサーでも1.32N/mmの接着強度を得られた。
【0031】
このようなアンカープレート及びアンカープレートの固定方法によれば、無駄なインサートの削除や後施工アンカーによる対応等の施工性に関する改善、インサートによるコンクリート欠損の低減、新築及び既築における間取り変更の対応負荷の軽減、穿孔作業による騒音や躯体の負荷等のリフォームに関する課題であるアンカー設置対応における効果を期待できる。
【0032】
なお、図6に示すアンカープレートは、図1図5に示すアンカープレートと比べて、平面視の形状が異なる以外、同等又は近似の作用及び効果を奏することにつき、詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0033】
P アンカープレート
1 底部
11 凹部
2 円筒部
3 外壁
31 平面部
32 角部
4 補強壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6