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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】刺しゅう枠
(51)【国際特許分類】
   D05C 9/04 20060101AFI20230816BHJP
   D05B 39/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
D05C9/04
D05B39/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019119938
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004433
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100186358
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100191145
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 整博
(72)【発明者】
【氏名】松原 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 潮
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-279184(JP,A)
【文献】米国特許第03818620(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0040186(US,A1)
【文献】特開平08-065866(JP,A)
【文献】実開昭61-077972(JP,U)
【文献】独国実用新案第000029508369(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05C 9/04
D05B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状の内枠と、対向する第1端部と第2端部とに切り離された切離部を有し、前記内枠の外側から被縫製物を挟持する外枠と、前記切離部の離間距離を調節する拡縮機構と、を備える刺しゅう枠であって、
前記拡縮機構は、
前記第1端部と前記第2端部とを締結する締結軸と、
前記締結軸の第1端部側を回転中心として回転可能に取着され、前記第1端部を前記第2端部側へ押圧する操作部材と、
を備え、
前記操作部材は、前記回転中心からの距離が異なる3段階以上の平面状のカム面を有し、
前記3段階以上のカム面は、外枠を解放状態に維持する解放カム面と、仮締め状態に維持する仮締めカム面と、本締め状態に維持する本締めカム面とを含むものであることを特徴とする刺しゅう枠。
【請求項2】
前記締結軸は、前記第1端部側に形成された前記操作部材の回転中心となる回転軸穴を有し、
前記第1端部は、前記操作部材の回転に応じて3段階以上のいずれかのカム面と接触するカム受け面と、前記締結軸の第1端部側が挿通する第1挿通穴と、を有することを特徴とする請求項1に記載の刺しゅう枠。
【請求項3】
前記拡縮機構は、前記締結軸の第2端部側に位置調節部材をさらに備え、
前記位置調節部材を操作することにより前記締結軸を軸方向に移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の刺しゅう枠。
【請求項4】
前記締結軸は、前記第2端部側にねじ部を有し、
前記位置調節部材は、前記ねじ部と螺合する調節ナットを有し、
前記調節ナットは、前記締結軸に対して回転することにより前記締結軸を軸方向に移動させることを特徴とする請求項3に記載の刺しゅう枠。
【請求項5】
前記第2端部は、前記締結軸の第2端部側が挿通する第2挿通穴と、前記調節ナットが露出する開口部とを有することを特徴とする請求項4に記載の刺しゅう枠。
【請求項6】
前記拡縮機構は、
前記第1端部と前記第2端部とに渡って配置され、前記切離部の離間距離が変化する方向に伸縮する弾性体を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の刺しゅう枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺しゅう機能を有するミシンに装着する刺しゅう枠に関し、特に、刺しゅう枠の内枠と外枠との間に被縫製物を挟持する際に、仮締め状態を維持できる刺しゅう枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
刺しゅう枠に被縫製物(布)を保持する方式として、大別すると、上枠と下枠とで被縫製物を挟み込む上下枠方式と、内枠と外枠とで被縫製物を挟み込む内外枠方式とがある。
上下枠方式は、被縫製物を平面上で保持するため、被縫製物への負荷が少なく、皺になりにくい利点はあるが、被縫製物のずれを防ぐために、上下枠を強固に押し合わせる必要があり、このために機構が大掛かりになることから、家庭用としては、内外枠方式が一般に利用されている。
【0003】
内外枠方式では、略円環状または略矩形状に形成された内枠の外周、または外枠の内周に、もう一方の枠の内周または外周を押し合わせるように構成され、内枠と外枠の間に被縫製物を挟むことで保持される。
例えば、一体形成された内枠に、少なくとも1箇所の切離部を有する外枠を嵌め合わせる構造となし、切離部には、その隙間を拡縮させるための拡縮機構として、具体的には、切離部の一方を押す締め付けネジを備え、締め付けネジを締め込むことで外枠の内寸法が縮小し、内枠外周との間に押圧力が発生するようにした刺しゅう枠が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
同様に、外枠の内寸法を縮小させて被縫製物を保持する刺しゅう枠の別の従来例として、切離部を拡縮する拡縮機構として、カム面を有する操作レバーを採用し、締めねじのねじ込みよりも容易に切離部を拡縮可能とするとともに、操作レバーを備える側と反対側の切離部に調節ナットを設けることで内寸法の縮小量を調節できるようにしたミシンの刺しゅう枠も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平7-15793号公報
【文献】特開2008-279184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1記載の刺しゅう枠では、切離部の拡縮を無段階に調節でき、布ずれがないように完全に布を保持した「本締め状態」と、布が取り外せるまで緩んだ「解放状態」との間で、布の張り具合や位置を微調整可能な「仮締め状態」を作り出せるという利点はあるが、一方で布張りの都度、「解放状態」から「本締め状態」まで、締め付けネジを何回転も回転する必要があり、作業性に劣るという問題があった。
また、前記特許文献2記載の刺しゅう枠では、切離部の拡縮が操作レバーでワンタッチに行えるので、「本締め状態」と「解放状態」との切替作業性は良好であるが、「仮締め状態」を作り出すためには、調節ナットを緩めるか、操作レバーを閉じる途中で押さえておかなければならないという問題があった。
このため、調節ナットを緩めてしまうと、布の位置調整後に「本締め状態」とするため、再び調節ナットを締めることになり、折角の作業性向上が機能しなくなり、また、操作レバーを途中で押さえておくと、そのために片手が塞がってしまい、布張り作業ができないことになる。
【0007】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、本締め状態と解放状態との間で、被縫製物の位置等を微調整可能な仮締め状態を維持できる刺しゅう枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、刺しゅう枠として、枠状の内枠と、対向する第1端部と第2端部とに切り離された切離部を有し、前記内枠の外側から被縫製物を挟持する外枠と、前記切離部の離間距離を調節する拡縮機構と、を備える刺しゅう枠であって、前記拡縮機構は、前記第1端部と前記第2端部とを締結する締結軸と、前記締結軸の第1端部側を回転中心として回転可能に取着され、前記第1端部を前記第2端部側へ押圧する操作部材と、を備え、前記操作部材は、前記回転中心からの距離が異なる3段階以上の平面状のカム面を有し、前記3段階以上のカム面は、外枠を解放状態に維持する解放カム面と、仮締め状態に維持する仮締めカム面と、本締め状態に維持する本締めカム面とを含むものであることを特徴とする構成を採用する。
【0009】
本発明の刺しゅう枠の実施形態として、前記締結軸は、前記第1端部側に形成された前記操作部材の回転中心となる回転軸穴を有し、前記第1端部は、前記操作部材の回転に応じて3段階以上のいずれかのカム面と接触するカム受け面と、前記締結軸の第1端部側が挿通する第1挿通穴と、を有することを特徴とする構成を採用し、また、前記拡縮機構は、前記締結軸の第2端部側に位置調節部材をさらに備え、前記位置調節部材を操作することにより前記締結軸を軸方向に移動させることを特徴とする構成を採用する。
【0010】
本発明の刺しゅう枠の具体的実施形態として、前記締結軸は、前記第2端部側にねじ部を有し、前記位置調節部材は、前記ねじ部と螺合する調節ナットを有し、前記調節ナットは、前記締結軸に対して回転することにより前記締結軸を軸方向に移動させることを特徴とする構成を採用し、また、前記第2端部は、前記締結軸の第2端部側が挿通する第2挿通穴と、前記調節ナットが露出する開口部とを有することを特徴とする構成を採用し、また、前記拡縮機構は、前記第1端部と前記第2端部とに渡って配置され、前記切離部の離間距離が変化する方向に伸縮する弾性体を備えることを特徴とする構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の刺しゅう枠は、第1端部と第2端部とに切り離された外枠の切離部の離間距離を調節するために、前記第1端部を前記第2端部側へ押圧する操作部材を備え、前記操作部材は、前記回転中心からの距離が異なる3段階以上の平面状のカム面を有し、前記3段階以上のカム面は、外枠を解放状態に維持する解放カム面と、仮締め状態に維持する仮締めカム面と、本締め状態に維持する本締めカム面とを含むものであることにより、本締め状態と、解放状態との間で、被縫製物の位置等を微調整可能な仮締め状態を維持することができる。
また、本発明の刺しゅう枠は、拡縮機構として、前記締結軸の第2端部側に位置調節部材をさらに備え、前記位置調節部材を操作することにより前記締結軸を軸方向に移動させることにより、被縫製物の厚さに応じて外枠の切離部の離間距離を微調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の外観を示す全体斜視図である。
図2図1の刺しゅう枠の要部を示す拡大斜視図である。
図3】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の要部を示し、締めねじの中心軸を通る水平面で切断した断面図である。
図4】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の切離部を示す図であり、(a)は平面図、(b)はX-X方向矢視側面図である。
図5】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の締めねじを示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図6】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の解放レバーを示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は斜視図である。
図7】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の解放状態を示す平面部である。
図8】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の仮締め状態を示す平面部である。
図9】本発明の実施例に係る刺しゅう枠の本締め状態を示す平面部である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態に係る刺しゅう枠について、実施例に示した図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、図1の斜視図でみて、縦方向を「上下」、左下から右上方向を「前後」、左上から右下方向を「左右」とする。
【実施例
【0014】
図1において、1は刺しゅう機能付きミシンや自動刺しゅう機などの刺しゅうミシンによって刺しゅう模様を縫う際に使用される刺しゅう枠であり、刺しゅう枠1は、枠状の内枠2と、対向する第1端部5と第2端部6とに切り離された切離部4を有し、前記内枠2の外側から被縫製物(図示せず)を挟持する外枠3と、前記切離部4の離間距離Sを調節する拡縮機構10とを備える。
【0015】
内枠2は、平面視で略長方形状や略正方形状等の矩形状をなし、外周形状は、被縫製物を保持可能な形状に形成されている。
なお、本実施例では、平面視での内枠2の形状は、矩形状をなしているが、内枠2は、平面視で矩形状に限らず、円形や楕円形の形状であっても構わない。
【0016】
外枠3は、内枠2の外周形状に対応し、内枠2との間で被縫製物を保持可能な内周形状に形成された前辺3a、左辺3b、後辺3cおよび右辺3dの4辺を備えている。
さらに、一部しか図示しないが、外枠3の前辺3a、左辺3b、後辺3cおよび右辺3dの各内側下端には、内枠2の下方位置を設定するためのリブ7(図4参照)が内方に向けてそれぞれ形成されている。
【0017】
また、外枠3は、右辺3dの上面に装着部8が設けられ、装着部8は、ミシン本体の上下動する針と同期してX-Y方向に移動する刺しゅうミシンの刺しゅう枠駆動機構(図示せず)に着脱自在に装着して使用される。
なお、装着部8を設ける位置は、右辺3dの上面に限らず、必要に応じて外枠3のどこに設けても構わない。
【0018】
図1~4に示すように、外枠3は、前辺3aと右辺3dとの接続部で対向する第1端部5と第2端部6とに切り離された1箇所の切離部4を備えている。
なお、外枠3に設けられる切離部4の位置は、本実施例では、前辺3aと右辺3dとの接続部としているが、これに限らず、必要に応じて外枠3の何れかの位置に、少なくとも1箇所設ければよく、複数箇所設けても構わない。
【0019】
前辺3a側に形成された第1端部5は、第2端部6と対向する第1対向面5aと、第1対向面5aと平行し、後述する解放レバー13のカム面13a、13bおよび13cが接触するカム受け面5bと、第1対向面5aおよびカム受け面5bと直交する方向に形成された第1挿通穴5cと、第1挿通穴5cの切離部4側(第1対向面5a側)に形成され、後述する圧縮コイルばね(解放ばね)11の一端を収容する第1座グリ5dと、第1対向面5aの最外周側に形成された第1当接部5eとを備えている。
さらに、図4に示すように、第1挿通穴5cは、断面形状が円形ではなく、第1挿通穴5cの中心に対して上下に対称な2つの水平面5fを有しており、後述する締めねじ12の回転制限部12aが挿通できる断面形状となっている。
【0020】
右辺3d側に形成された第2端部6は、第1端部5と対向する第2対向面6aと、第2対向面6aと直交する方向に形成された断面形状が円形の第2挿通穴6bと、第2挿通穴6bを横切るように形成され、後述する調節ナット14を収容し、露出する開口部6cと、第2挿通穴6bの切離部4側(第2対向面6a側)に形成され、圧縮コイルばね11の他端を収容する第2座グリ6dと、第2対向面6aの最外周側に形成された第2当接部6eとを備えている。
【0021】
図2および3に示すように、拡縮機構10は、第1端部5の第1座グリ5dと第2端部6の第2座グリ6dとに渡って配置され、切離部4の離間距離Sを拡げるように付勢する弾性体としての圧縮コイルばね11と、第1端部5に形成された第1挿通穴5cと第2端部6に形成された第2挿通穴6bとに挿通され、第1端部5と第2端部6とを締結する締結軸としての締めねじ12と、締めねじ12の第1端部5側を回転中心として回転可能に枢着され、第1端部5のカム受け面5bを押圧することにより、刺しゅう枠1の外枠3を解放状態、仮締め状態、または本締め状態に切り換える操作部材としての解放レバー13とを備える。
【0022】
図5に示すように、締めねじ12は、左側に形成され、軸芯に対して上下に対称な2つの水平面12dを有する回転制限部12aと、左端側の回転制限部12aの水平面12dに対して垂直に形成され、解放レバー13をスプリングピン15を介して取り付ける回転軸穴12bと、右側に、ねじ山が螺設されたねじ部12cとを備える。
図3に示すように、締めねじ12は、回転制限部12aが切離部4の第1挿通穴5cに挿通されるとともに、ねじ部12cが第2挿通穴6bに挿通され、第2挿通穴6bに形成された開口部6cを貫通するねじ部12cには、位置調節部材としての調節ナット14が螺合されている。
【0023】
図6に示すように、解放レバー13は、一端側(右側)に、正面視で略Cの字状に形成された締めねじ受け部13eと、締めねじ受け部13eを跨ぐ貫通穴として形成された回転中心13dと、他端側(左側)に、指の腹で押しやすい形状に形成されたレバー部13fとを備える。
【0024】
さらに、解放レバー13は、一端側の周囲に回転中心13dから3段階の異なる距離A~Cのカム面13a、13b、13cが平面状に形成され、各カム面の回転中心13dからの距離は、解放カム面13aの距離Aが最も小さく、本締めカム面13cの距離Cが最も大きく、仮締めカム面13bの距離Bがその中間の距離になるように設定されている。
なお、本実施例では、解放レバー13には、3段階のカム面13a、13b、13cが形成されているが、解放カム面13aと本締めカム面13cの間に2段階以上の仮締めカム面を形成して、切離部4の離間距離Sが異なる複数の仮締め状態を維持できるように、解放レバー13には、4段階以上のカム面を形成しても構わない。
【0025】
つぎに、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
まず、本実施例の刺しゅう枠1に被縫製物を装着するには、解放レバー13のレバー部13fに指をかけて、図7に示すように、第1端部5のカム受け面5bに解放レバー13の解放カム面13aが接触するまで回転すると、解放カム面13aは、解放レバー13の回転中心13dから最も小さい距離Aに設定されているので、切離部4の離間距離Sは、最も大きくなる。
【0026】
このとき、第1端部5と第2端部6とに渡って圧縮コイルばね11を挟持しているため、圧縮コイルばね11の作用により、切離部4の離間距離Sが拡がる方向に付勢され、第1端部5のカム受け面5bが解放レバー13の解放カム面13aに押圧されることで、解放レバー13を当該姿勢に保持するとともに、外枠3を切離部4の離間距離Sが最も拡げられた状態にし、内枠2との隙間を生じさせることで、内枠2と被縫製物を容易に着脱可能な解放状態にできる。
この状態で、被縫製物の上から内枠2を重ね、外枠3の上方から内枠2を外枠3の内側に挿入し、内枠2の下面に張った被縫製物が外枠3のリブ7に当接するまで下方に押し込むことができる。
【0027】
つぎに、図7に示す状態から、解放レバー13のレバー部13fに指をかけ、外枠3の前辺3aに向けて回転すると、図8に示すように、第1端部5のカム受け面5bに解放レバー13に形成された仮締めカム面13bが接触する。仮締めカム面13bは、解放レバー13の回転中心13dに対して、解放カム面13aと本締めカム面13cとの間の任意の距離Bに設定されているので、切離部4の離間距離Sは、解放状態と本締め状態の中間の距離となる。
【0028】
このとき、圧縮コイルばね11の作用により、切離部4の離間距離Sが拡がる方向に付勢され、第1端部5のカム受け面5bが解放レバー13の仮締めカム面13bに押圧されることで、解放レバー13を当該姿勢に保持する点で解放状態と同様であるが、異なるのは、外枠3の切離部4の離間距離Sが解放状態よりも小さくなることで、内枠2と外枠3との間に生じた隙間が減少する。
このため、被縫製物は、内枠2と外枠3との間で弱く挟持されることになり、被縫製物の張り具合や、被縫製物を挟持する位置などを補正するのに最適な状態を得ることができる。
【0029】
つぎに、図8に示す状態から、解放レバー13のレバー部13fに指をかけ、外枠3の前辺3aに向けて、さらに回転すると、図9に示すように、第1端部5のカム受け面5bに解放レバー13に形成された本締めカム面13cが接触する。本締めカム面13cは、解放レバー13の回転中心13dから最も大きい距離Cに設定されているので、切離部4の離間距離Sは、解放状態と仮締め状態と比べて最も小さくなる。
【0030】
このとき、圧縮コイルばね11の作用により、切離部4の離間距離Sが拡がる方向に付勢され、第1端部5のカム受け面5bが解放レバー13の本締めカム面13cに押圧されることで、解放レバー13を当該姿勢に保持する点で解放状態および仮締め状態と同様であるが、異なるのは、外枠3の切離部4の離間距離Sが仮締め状態よりも、さらに小さくなることで、内枠2と外枠3との間に生じていた隙間が完全に消失する。
このため、被縫製物は、内枠2と外枠3との間で強力に挟持されることになり、被縫製物は、張り具合や挟持された位置が変わらず、縫製に最適な状態を得ることができる。
【0031】
本実施例では、外枠3の切離部4の最外周側に第1当接部5eと第2当接部6eとを設けているので、その効果を説明する。
第1当接部5eと第2当接部6eは、図9に示す本締め状態において互いに当接するように寸法が設定されており、解放レバー13の回転により本締め状態に至る過程では、内枠2の外周と外枠3の内周が当接し始めると、外枠3の切離部4は、第1端部5と第2端部6の最内側に離間距離Sを小さくしようとする推進力が掛かりにくくなり、切離部4の最外側が先行して閉じようとする現象が起こるが、このときに、最外周側の第1当接部5eと第2当接部6eとが互いに当接することにより、テコの原理で、切離部4の最内側にも推進力が分散して掛かるように変換される。
【0032】
また、位置調節部材としての調節ナット14について効果を説明する。
図7~9に示すように、本実施例では、解放レバー13を回転中心13dを中心に回転することにより、解放状態から本締め状態まで刺しゅう枠1に対する被縫製物の挟持具合を変化させているが、刺しゅう枠1に挟持する被縫製物の厚さにより切離部4の離間距離Sを微調節する必要が生じる。
このとき、調節ナット14は、締めねじ12のねじ部12cと回転自在に螺合されているので、解放レバー13を操作しなくても、調節ナット14を回転させることにより、解放レバー13の回転中心13dと調節ナット14との距離を調節し、切離部4の離間距離Sを微調節することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の刺しゅう枠は、操作部材に回転中心からの距離が異なる3段階以上の平面状のカム面を備え、前記3段階以上のカム面は、外枠を解放状態に維持する解放カム面と、仮締め状態に維持する仮締めカム面と、本締め状態に維持する本締めカム面とを含むものであることにより、操作部材の操作で解放状態と本締め状態だけでなく、被縫製物の張り具合や位置を補正し易い仮締め状態を作り出したことにより、操作部材の操作のみで被縫製物を刺しゅう枠に位置等を調整しながら装着することができ、刺しゅう機能付きミシンや自動刺しゅう機などの刺しゅうミシンに広く適用して有利なものである。
【符号の説明】
【0034】
S 離間距離
1 刺しゅう枠
2 内枠
3 外枠
3a 前辺
3b 左辺
3c 後辺
3d 右辺
4 切離部
5 第1端部
5a 第1対向面
5b カム受け面
5c 第1挿通穴
5d 第1座グリ
5e 第1当接部
5f 水平面
6 第2端部
6a 第2対向面
6b 第2挿通穴
6c 開口部
6d 第2座グリ
6e 第2当接部
7 リブ
8 装着部
10 拡縮機構
11 圧縮コイルばね(弾性体)
12 締めねじ(締結軸)
12a 回転制限部
12b 回転軸穴
12c ねじ部
12d 水平面
13 解放レバー(操作部材)
13a 解放カム面
13b 仮締めカム面
13c 本締めカム面
13d 回転中心
13e 締めねじ受け部
13f レバー部
14 調節ナット(位置調節部材)
15 スプリングピン(回転軸)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9