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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230816BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230816BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/62 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019132429
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021018860
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打田 眞人
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓
(72)【発明者】
【氏名】大森 恒嗣
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 英昭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彩子
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋
(72)【発明者】
【氏名】水谷 秀俊
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-300173(JP,A)
【文献】特開2016-048650(JP,A)
【文献】特開2019-071244(JP,A)
【文献】特開2018-195372(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074174(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103094611(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、正極と、負極と、を備える蓄電デバイスにおいて、
前記正極は、イミダゾリウムカチオンを含む正極用イオン液体を含有し、
前記固体電解質層は、酸化側の分解電位が4.5V以上であり、かつ、還元側の分解電位が前記正極用イオン液体の還元側の分解電位より低い固体電解質層用イオン液体を含有し、
前記負極は、還元側の分解電位が前記正極用イオン液体の還元側の分解電位より低い負極用イオン液体を含有し、
前記正極と負極とは、バインダを含有し、
前記固体電解質層と前記正極と前記負極とは、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含有する
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記固体電解質層用イオン液体と、前記負極用イオン液体とは、同一種類のイオン液体である、
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記正極用イオン液体と、前記固体電解質層用イオン液体と、前記負極用イオン液体とは、含まれるアニオン種が互いに同一である、
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器の普及、電気自動車の普及、太陽光や風力等の自然エネルギーの利用拡大等に伴い、高性能な電池の需要が高まっている。なかでも、電池要素がすべて固体で構成された全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)の活用が期待されている。全固体電池は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液を用いる従来型のリチウムイオン二次電池と比べて、有機電解液の漏洩や発火等のおそれがないため安全であり、また、外装を簡略化することができるため単位質量または単位体積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0003】
全固体電池の固体電解質層や電極を構成するリチウムイオン伝導体として、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)とを少なくとも含有するガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導体が知られている。このようなリチウムイオン伝導体に含まれるリチウムイオン伝導性粉末としては、例えば、LiLaZr12(以下、「LLZ」という。)や、LLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)およびBa(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも一種の元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったもの(例えば、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-MgSr」という。))が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下、これらのリチウムイオン伝導性粉末を、「LLZ系リチウムイオン伝導性粉末」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-40767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、該粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態においては、粒子間の接触が点接触であるために粒子間の抵抗が高く、リチウムイオン伝導性が比較的低い。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴う反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、全固体電池に限らず、固体電解質層と正極と負極とを備える蓄電デバイス一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される蓄電デバイスは、固体電解質層と、正極と、負極と、を備える蓄電デバイスにおいて、前記正極は、イミダゾリウムカチオンを含む正極用イオン液体を含有し、前記固体電解質層は、酸化側の分解電位が4.5V以上であり、かつ、還元側の分解電位が前記正極用イオン液体の還元側の分解電位より低い固体電解質層用イオン液体を含有し、前記負極は、還元側の分解電位が前記正極用イオン液体の還元側の分解電位より低い負極用イオン液体を含有する。本蓄電デバイスによれば、各層(固体電解質層、正極、負極)がイオン液体を含むため、各層のリチウムイオン伝導性を向上させることができ、ひいては蓄電デバイスの性能を向上させることができる。また、本蓄電デバイスでは、固体電解質層が含有するイオン液体(固体電解質層用イオン液体)の酸化側の分解電位が、一般的な正極活物質の反応電位より高い4.5V以上であるため、正極との界面における固体電解質層用イオン液体の分解反応の発生を抑制することができる。また、本蓄電デバイスでは、固体電解質層用イオン液体および負極が含有するイオン液体(負極用イオン液体)の還元側の分解電位が、正極が含有するイオン液体(正極用イオン液体)の還元側の分解電位より低いため、固体電解質層用イオン液体および負極用イオン液体の分解反応の発生を抑制しつつ、より反応電位の低い負極活物質を選択することが可能となり、正極活物質と負極活物質との間の反応電位差を大きくして蓄電デバイスの起電力を大きくすることができる。
【0010】
(2)上記蓄電デバイスにおいて、前記固体電解質層用イオン液体と、前記負極用イオン液体とは、同一種類のイオン液体である構成としてもよい。このような構成とすれば、蓄電バイスに使用されるイオン液体の種類を少なくすることができ、例えば蓄電デバイスの製造の効率化・低コスト化を実現することができる。
【0011】
(3)上記蓄電デバイスにおいて、前記正極用イオン液体と、前記固体電解質層用イオン液体と、前記負極用イオン液体とは、含まれるアニオン種が互いに同一である構成としてもよい。このような構成とすれば、正極用イオン液体と固体電解質層用イオン液体と負極用イオン液体とは、含まれるアニオン種が互いに同一であるため、各イオン液体のアニオンのリチウムイオンへの配位方法を統一することができ、その結果、リチウムイオンの移動速度が一定となって濃度勾配を小さくすることができ、濃度勾配に起因する蓄電デバイスの容量低下を抑制することができる。
【0012】
(4)上記蓄電デバイスにおいて、前記正極と前記固体電解質層と前記負極との少なくとも1つは、酸化物系固体電解質の粉末を含む構成としてもよい。酸化物系固体電解質は、耐腐食性が高いため、このような構成とすれば、蓄電デバイスの各層の耐腐食性を向上させることができる。
【0013】
(5)上記蓄電デバイスにおいて、前記酸化物系固体電解質の粉末は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含む構成としてもよい。LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性粉末は、比較的硬い。しかしながら、本蓄電デバイスによれば、各層がイオン液体を含むため、各層が比較的硬いリチウムイオン伝導性粉末を含んでいても、高温焼成を行うことなく成形体の状態において、高いリチウムイオン伝導性を発揮することができ、蓄電デバイスの性能を向上させることができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、蓄電デバイスおよびその製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池102の断面構成を概略的に示す説明図
図2】本実施形態における各イオン液体の電位窓PWと各電極活物質の反応電位RPとの関係を概念的に示す説明図
図3】比較例における各イオン液体の電位窓PWと各電極活物質の反応電位RPとの関係を概念的に示す説明図
図4】性能評価の結果を示す説明図
図5】性能評価の結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A-1.全固体電池102の構成:
(全体構成)
図1は、本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)102の断面構成を概略的に示す説明図である。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向という。
【0017】
全固体電池102は、電池本体110と、電池本体110の一方側(上側)に配置された正極側集電部材154と、電池本体110の他方側(下側)に配置された負極側集電部材156とを備える。正極側集電部材154および負極側集電部材156は、導電性を有する略平板形状部材であり、例えば、ステンレス鋼、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、これらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって形成されている。以下の説明では、正極側集電部材154と負極側集電部材156とを、まとめて集電部材ともいう。
【0018】
(電池本体110の構成)
電池本体110は、電池要素がすべて固体で構成されたリチウムイオン二次電池本体である。なお、本明細書において、電池要素がすべて固体で構成されているとは、すべての電池要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。電池本体110は、正極114と、負極116と、正極114と負極116との間に配置された固体電解質層112とを備える。以下の説明では、正極114と負極116とを、まとめて電極ともいう。電池本体110は、特許請求の範囲における蓄電デバイスに相当する。
【0019】
(固体電解質層112の構成)
固体電解質層112は、略平板形状の部材であり、固体電解質であるリチウムイオン伝導体202を含んでいる。
【0020】
(正極114の構成)
正極114は、略平板形状の部材であり、正極活物質214を含んでいる。正極活物質214としては、例えば、S(硫黄)、TiS、LiCoO(以下、「LCO」という。)、LiMn、LiFePO、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O(以下、「NCM」という。)、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が用いられる。また、正極114は、リチウムイオン伝導助剤としての固体電解質であるリチウムイオン伝導体204を含んでいる。正極114は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Ag(銀))を含んでいてもよい。
【0021】
(負極116の構成)
負極116は、略平板形状の部材であり、負極活物質216を含んでいる。負極活物質216としては、例えば、Li金属、Li-Al合金、LiTi12(以下、「LTO」という。)、カーボン(グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、表面に低結晶性炭素がコーティングされたコアシェル型黒鉛)、Si(ケイ素)、SiO等が用いられる。また、負極116は、リチウムイオン伝導助剤としての固体電解質であるリチウムイオン伝導体206を含んでいる。負極116は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni、Pt、Ag)を含んでいてもよい。
【0022】
A-2.リチウムイオン伝導体の構成:
次に、電池本体110を構成する各層(固体電解質層112、正極114、負極116)に含まれるリチウムイオン伝導体202,204,206の構成について説明する。
【0023】
本実施形態において、リチウムイオン伝導体202,204,206は、リチウムイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性粉末を含んでいる。より詳細には、リチウムイオン伝導体202,204,206は、上述したLLZ系リチウムイオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性粉末であり、例えば、LLZやLLZ-MgSr)を含んでいる。なお、リチウムイオン伝導性粉末がLiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するものであることは、X線回折装置(XRD)で分析することにより確認することができる。具体的には、リチウムイオン伝導性粉末をX線回折装置により分析することにより、X線回折パターンを得る。得られたX線回折パターンと、LLZに対応するICDD(International Center for Diffraction Data)カード(01-080-4947)(LiLaZr12)とを対比し、両者における回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致していれば、該リチウムイオン伝導性粉末はLiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するものであると判定することができる。例えば、後述の「A-6.LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の好ましい態様」に記載された各リチウムイオン伝導性粉末(LLZ系リチウムイオン伝導性粉末)は、該粉末から得られたX線回折パターンとLLZに対応するICDDカードとの両者における回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致するため、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するものであると判定される。
【0024】
また、本実施形態において、リチウムイオン伝導体202,204,206は、さらに、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでいる。リチウムイオン伝導性を有するイオン液体は、例えば、リチウム塩を溶解させたイオン液体である。なお、イオン液体は、カチオンおよびアニオンのみからなり、常温で液体の物質である。
【0025】
上記リチウム塩としては、例えば、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)(以下、「Li-TFSI」という。)、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))(以下、「Li-FSI」という。)、リチウム ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO)等が用いられる。
【0026】
また、上記イオン液体としては、カチオンとして、
ブチルトリメチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム等のアンモニウム系、
1-エチル-3メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム系、
1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム等のピペリジニウム系、
1-ブチル-4-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム等のピリジニウム系、
1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム等のピロリジニウム系、
トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等のスルホニウム系、
ホスホニウム系、
モルホリニウム系、
等を有するものが用いられる。
【0027】
また、上記イオン液体としては、アニオンとして、
Cl、Br等のハロゲン化物系、
BF 等のホウ素化物系、
(NC)
(CFSO、(FSO等のアミン系、
CHSO
CFSO 等のスルファート、スルホナート系、
PF 等のリン酸系、
等を有するものが用いられる。
【0028】
より具体的には、上記イオン液体として、ブチルトリメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルプロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「EMI-FSI」という。)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「P13-FSI」という。)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「PP13-FSI」という。)等が用いられる。
【0029】
なお、本実施形態のリチウムイオン伝導体202,204,206は、高温焼成を行うことにより形成された焼結体ではない。そのため、本実施形態のリチウムイオン伝導体202,204,206は、炭化水素を含んでいる。より具体的には、本実施形態のリチウムイオン伝導体202,204,206を構成するイオン液体は、炭化水素を含んでいる。なお、リチウムイオン伝導体202,204,206(イオン液体)が炭化水素を含んでいることは、NMR(核磁気共鳴)、ラマン分光法、LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)等の方法の内の1つまたは複数の組合せにより特定することができる。
【0030】
このように、本実施形態の電池本体110を構成する各層(固体電解質層112、正極114、負極116)に含まれるリチウムイオン伝導体202,204,206は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでおり、加圧成形された成形体(圧粉体)の状態において高いリチウムイオン伝導性(25℃におけるリチウムイオン伝導率が1.0×10-5S/cm以上)を発揮する。そのため、電池本体110を構成する各層におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができ、ひいては電池本体110の性能を向上させることができる。なお、本実施形態のリチウムイオン伝導体202,204,206がこのような高いリチウムイオン伝導性を有する理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
【0031】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、他の酸化物系リチウムイオン伝導体や酸化物系以外のリチウムイオン伝導体(例えば、硫化物系リチウムイオン伝導体)と比較して硬いため、該粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態においては、粒子間の接触が点接触となって粒子間の抵抗が高くなり、リチウムイオン伝導性が比較的低い。また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴い反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。しかしながら、本実施形態のリチウムイオン伝導体202,204,206は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでいる。そのため、加圧成形された成形体の状態において、該成形体の全体にわたってLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の粒界にリチウムイオン伝導パスとして機能するイオン液体が介在し、該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上し、その結果、リチウムイオン伝導体202,204,206のリチウムイオン伝導性が向上したものと考えられる。
【0032】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導体202,204,206は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末およびイオン液体に加えて、さらにバインダを含んでおり、シート状に形成されていてもよい。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(以下、「PVDF-HFP」という。)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミド、シリコーン(ポリシロキサン)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が用いられる。このような構成とすれば、リチウムイオン伝導体202,204,206のリチウムイオン伝導性を向上させつつ、リチウムイオン伝導体202,204,206の成形性やハンドリングを向上させることができる。
【0033】
ここで、本実施形態では、正極114に含まれるリチウムイオン伝導体204が含むイオン液体(以下、「正極用イオン液体ILc」という。)として、イミダゾリウムカチオンを含むイオン液体が用いられる。このようなイオン液体としては、例えば、上述したEMI-FSIや、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0034】
また、本実施形態では、固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導体202が含むイオン液体(以下、「固体電解質層用イオン液体ILe」という。)、および、負極116に含まれるリチウムイオン伝導体206が含むイオン液体(以下、「負極用イオン液体ILa」という。)として、正極用イオン液体ILcとは異なる種類のイオン液体が用いられる。より詳細には、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaとして、分解電位DP(酸化側の分解電位DPoおよび還元側の分解電位DPr)により規定される電位窓PWを参照して選択されたイオン液体が用いられる。なお、本明細書において、「電位」は、Li/Li平衡電位を基準とした電位(V vs. Li/Li)を意味する。
【0035】
図2は、本実施形態における各イオン液体の電位窓PWと各電極活物質の反応電位RPとの関係を概念的に示す説明図である。図2の左側および右側には、本実施形態における各イオン液体(正極用イオン液体ILc、固体電解質層用イオン液体ILe、負極用イオン液体ILa)について、酸化側の分解電位DPoおよび還元側の分解電位DPrにより規定される電位窓PW(それぞれ、PWc、PWe、PWaと表す。)が概念的に示されている。なお、図2に示す例では、固体電解質層用イオン液体ILeの電位窓PWeと負極用イオン液体ILaの電位窓PWaとが、互いに同一となっている。また、図2には、正極用イオン液体ILcがEMI-FSIである場合の酸化側の分解電位DPoおよび還元側の分解電位DPr、および、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaがP13-FSIまたはPP13-FSIである場合の酸化側の分解電位DPoおよび還元側の分解電位DPrの値が、括弧書きで例示されている。
【0036】
また、図2の左右方向中央には、本実施形態における正極114を構成する正極活物質214および負極116を構成する負極活物質216の反応電位RP(それぞれ、RPcおよびRPaと表す。)が概念的に示されている。正極活物質214の反応電位RPcと負極活物質216の反応電位RPaとの差分が、電池の起電力EMFとなる。
【0037】
本実施形態では、固体電解質層用イオン液体ILeとして、酸化側の分解電位DPoが4.5V以上であり、かつ、還元側の分解電位DPrが正極用イオン液体ILcの還元側の分解電位DPrより低いイオン液体が用いられる。このような条件を満たす固体電解質層用イオン液体ILeとしては、例えば、正極用イオン液体ILcがEMI-FSIである場合に、P13-FSIやPP13-FSIが挙げられる。なお、一般的な正極活物質214の反応電位は4.5V未満であるため、固体電解質層用イオン液体ILeにおける酸化側の分解電位DPoは、正極活物質214の反応電位RPcより高いと言える。また、負極活物質216は、負極活物質216の反応電位RPaが固体電解質層用イオン液体ILeの還元側の分解電位DPrより高いという条件を満たすように、適宜選択される。
【0038】
また、本実施形態では、負極用イオン液体ILaとして、還元側の分解電位DPrが正極用イオン液体ILcの還元側の分解電位DPrより低いイオン液体が用いられる。このような条件を満たす負極用イオン液体ILaとしては、例えば、正極用イオン液体ILcがEMI-FSIである場合に、P13-FSIやPP13-FSIが挙げられる。なお、負極活物質216は、負極活物質216の反応電位RPaが負極用イオン液体ILaの還元側の分解電位DPrより高いという条件を満たすように、適宜選択される。
【0039】
なお、固体電解質層用イオン液体ILeと負極用イオン液体ILaとは、互いに同一種類のイオン液体であることが好ましい。また、正極用イオン液体ILcと固体電解質層用イオン液体ILeと負極用イオン液体ILaとは、含まれるアニオン種が互いに同一であることが好ましい。
【0040】
A-3.全固体電池102の製造方法:
次に、本実施形態の全固体電池102の製造方法の一例を説明する。はじめに、固体電解質層112を作製する。具体的には、リチウムイオン伝導性粉末を準備し、該リチウムイオン伝導性粉末とイオン液体とを混合してリチウムイオン伝導体202を作製し、該リチウムイオン伝導体202を所定の圧力で加圧成形したり、バインダを添加してシート状に成形したりすることにより、リチウムイオン伝導体202の成形体である固体電解質層112を作製する。
【0041】
また、別途、正極114および負極116を作製する。具体的には、正極活物質214の粉末と、イオン液体を含むリチウムイオン伝導体204と、必要により電子伝導助剤の粉末とを所定の割合で混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダを添加してシート状に成形したりすることにより正極114を作製する。また、負極活物質216の粉末と、イオン液体を含むリチウムイオン伝導体206と、必要により電子伝導助剤の粉末とを混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダを添加してシート状に成形したりすることにより負極116を作製する。
【0042】
次に、正極側集電部材154と、正極114と、固体電解質層112と、負極116と、負極側集電部材156とをこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成の全固体電池102が製造される。
【0043】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の電池本体110は、固体電解質層112と、正極114と、負極116とを備える。正極114(より詳細には、正極114に含まれるリチウムイオン伝導体204)は、正極用イオン液体ILcを含有し、固体電解質層112(より詳細には、固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導体202)は、固体電解質層用イオン液体ILeを含有し、負極116(より詳細には、負極116に含まれるリチウムイオン伝導体206)は、負極用イオン液体ILaを含有する。このように、本実施形態では、電池本体110を構成する各層(固体電解質層112、正極114、負極116)がイオン液体を含むため、各層のリチウムイオン伝導性を向上させることができ、ひいては電池本体110の性能を向上させることができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、正極用イオン液体ILcは、イミダゾリウムカチオンを含むイオン液体である。また、固体電解質層用イオン液体ILeは、酸化側の分解電位DPoが4.5V以上であり、かつ、還元側の分解電位DPrが正極用イオン液体ILcの還元側の分解電位DPrより低いイオン液体である。また、負極用イオン液体ILaは、還元側の分解電位DPrが正極用イオン液体ILcの還元側の分解電位DPrより低いイオン液体である。本実施形態の電池本体110は、このような構成であるため、以下に説明するように、各層に含まれるイオン液体の分解反応の発生を抑制しつつ、正極114を構成する正極活物質214と負極116を構成する負極活物質216との間の反応電位差を大きくして電池本体110の起電力EMFを大きくすることができる。
【0045】
図3は、比較例における各イオン液体の電位窓PWと各電極活物質の反応電位RPとの関係を概念的に示す説明図である。図3に示す比較例では、例えば固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaが、正極用イオン液体ILcと同一種類のイオン液体である結果、固体電解質層用イオン液体ILeの電位窓PWeおよび負極用イオン液体ILaの電位窓PWaが、正極用イオン液体ILcの電位窓PWcと同一となっている。そのため、正極114の性能向上を考慮して正極用イオン液体ILcを選択すると、各イオン液体の還元側の分解電位DPrが比較的高い値(図3の例では1.0V)となる。このとき、負極116を構成する負極活物質216として、反応電位RPaが、該イオン液体の還元側の分解電位DPrより低いものを使用すると、負極116に含まれる負極用イオン液体ILaや、負極116と接する固体電解質層112に含まれる固体電解質層用イオン液体ILeの分解反応が発生し、電池本体110の性能が低下するおそれがある。また、これを避けるために、負極116を構成する負極活物質216として、反応電位RPaが、該イオン液体の還元側の分解電位DPrより高いものを使用すると(図3参照)、正極114を構成する正極活物質214と負極116を構成する負極活物質216との間の反応電位差が小さくなって電池本体110の起電力EMFが低下するため、好ましくない。
【0046】
これに対し本実施形態の電池本体110では、図2に示すように、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaの還元側の分解電位DPrが、正極用イオン液体ILcの還元側の分解電位DPrより低い。そのため、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaの分解反応の発生を抑制しつつ、より反応電位RPaの低い負極活物質216を選択することが可能となる。従って、本実施形態の電池本体110によれば、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaの分解反応の発生を抑制しつつ、正極114を構成する正極活物質214と負極116を構成する負極活物質216との間の反応電位差を大きくして電池本体110の起電力EMFを大きくすることができる。また、本実施形態の電池本体110では、固体電解質層112に含まれる固体電解質層用イオン液体ILeの酸化側の分解電位DPoが、一般的な正極活物質214の反応電位RPcより高い4.5V以上であるため、正極114との界面付近での固体電解質層用イオン液体ILeの分解反応の発生を抑制することもできる。
【0047】
なお、本実施形態の電池本体110において、固体電解質層用イオン液体ILeと負極用イオン液体ILaとは、互いに同一種類のイオン液体であることが好ましい。このような構成を採用すれば、電池本体110に使用されるイオン液体の種類を少なくすることができ、例えば電池本体110の製造の効率化・低コスト化を実現することができる。
【0048】
また、本実施形態の電池本体110において、正極用イオン液体ILcと固体電解質層用イオン液体ILeと負極用イオン液体ILaとは、含まれるアニオン種が互いに同一であることが好ましい。このような構成を採用すれば、各イオン液体のアニオンのリチウムイオンへの配位方法を統一することができ、その結果、リチウムイオンの移動速度が一定となって濃度勾配を小さくすることができ、濃度勾配に起因する電池本体110の容量低下を抑制することができる。
【0049】
A-5.イオン液体の分析方法:
A-5-1.イオン液体の種類の特定方法:
電池本体110を構成する各層(固体電解質層112、正極114、負極116)に含まれるイオン液体の種類の特定方法は、以下の通りである。まず、各電極合材部を溶媒中に溶解させて、有機分(イオン液体、バインダー)と無機分(活物質、LLZ、導電材)とに分離する。その後、有機分についてLC-MS(液体クロマトグラフィー分析法)等でイオン液体成分を抽出し、NMR(核磁気共鳴)、ラマン分光法、MS(質量分析法)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)等の方法の内の1つまたは複数の組合せにより特定することができる。
【0050】
A-5-2.イオン液体の分解電位(電位窓PW)の特定方法:
イオン液体の分解電位(電位窓PW)の特定方法は、以下の通りである。測定電位範囲:OCVから-0.3V、および、OCVから6.0V、電位掃引速度:0.2mV/secの条件で、LSV(Linear Sweep Voltammetry)測定を行い、得られた電流-電位曲線における電流値一定の電位範囲を、電位窓PWとして特定する。
【0051】
A-6.LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の好ましい態様:
上述したように、本実施形態におけるリチウムイオン伝導体は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性粉末)を含んでいる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末としては、Mg、Al、Si、Ca(カルシウム)、Ti、V(バナジウム)、Ga(ガリウム)、Sr、Y(イットリウム)、Nb(ニオブ)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Ba(バリウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)およびランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも1種類の元素を含むものを採用することが好ましい。このような構成とすれば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が良好なリチウムイオン伝導率を示す。
【0052】
なお、ガーネット型構造を有するLLZ系リチウムイオン伝導体としては、例えば以下のものが挙げられる。
LiLaZr1.50.512
Li6.15LaZr1.75Ta0.25Al0.212
Li6.15LaZr1.75Ta0.25Ga0.212
Li6.25LaZrGa0.2512
Li6.4LaZr1.4Ta0.612
Li6.5LaZr1.75Te0.2512
Li6.75LaZr1.75Nb0.2512
Li6.9LaZr1.675Ta0.289Bi0.03612
Li6.46Ga0.23LaZr1.850.1512
Li6.8La2.95Ca0.05Zr1.75Nb0.2512
Li7.05La3.00Zr1.95Gd0.0512
【0053】
また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末として、Mgと元素A(Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素)との少なくとも一方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1)~(3)を満たすものを採用することが好ましい。なお、Mgおよび元素Aは、比較的埋蔵量が多く安価であるため、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の置換元素としてMgおよび/または元素Aを用いれば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の安定的な供給が期待できると共にコストを低減することができる。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
【0054】
また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末としては、Mgと元素Aとの両方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1´)~(3´)を満たすものを採用することがより好ましい。
(1´)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(2´)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(3´)0.04≦A/(La+A)≦0.17
【0055】
上述の事項を換言すると、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、次の(a)~(c)のいずれかを満たすことが好ましく、これらの中でも(c)を満たすことがより好ましく、(d)を満たすことがさらに好ましいと言える。
(a)Mgを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/La≦3、かつ、0≦Mg/La≦0.5 を満たす。
(b)元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、かつ、0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(c)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、0≦Mg/(La+A)≦0.5、かつ0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(d)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、2.0≦Li/(La+A)≦2.5、0.01≦Mg/(La+A)≦0.14、かつ0.04≦A/(La+A)≦0.17 を満たす。
【0056】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、上記(a)を満たすとき、すなわち、Li、La、ZrおよびMgを、モル比で上記式(1)および(2)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末がMgを含有すると、Liのイオン半径とMgのイオン半径とは近いので、LLZ結晶相においてLiが配置されているLiサイトにMgが配置されやすく、LiがMgに置換されることで、LiとMgとの電荷の違いにより結晶構造内のLiサイトに空孔が生じてLiイオンが動きやすくなり、その結果、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末におけるMgの含有量が多くなるほどLiサイトにMgが配置され、Liサイトに空孔が生じ、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、Mgを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。このMgを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなる。Mgを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0057】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、上記(b)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zrおよび元素Aを、モル比で上記式(1)および(3)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が元素Aを含有すると、Laのイオン半径と元素Aのイオン半径とが近いので、LLZ結晶相においてLaが配置されているLaサイトに元素Aが配置されやすく、Laが元素Aに置換されることで、格子ひずみが生じ、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末における元素Aの含有量が多くなるほどLaサイトに元素Aが配置され、格子ひずみが大きくなり、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対する元素Aのモル比が0.67を超えると、元素Aを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。この元素Aを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また元素Aを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0058】
上記元素Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素である。Ca、SrおよびBaは、周期律表における第2族元素であり、2価の陽イオンになりやすく、いずれもイオン半径が近いという共通の性質を有する。Ca、SrおよびBaは、いずれもLaとイオン半径が近いので、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末におけるLaサイトに配置されているLaと置換されやすい。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が、これらの元素Aの中でもSrを含有することが、焼結により容易に形成されることができ、高いリチウムイオン伝導率が得られる点で好ましい。
【0059】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、上記(c)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1)~(3)を満たすように含むとき、焼結により容易に形成されることができ、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が、上記(d)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1´)~(3´)を満たすように含むとき、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末におけるLiサイトのLiがMgに置換され、また、LaサイトのLaが元素Aに置換されることで、Liサイトに空孔が生じ、かつ自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率がより一層良好になると考えられる。さらに、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が、Li、La、Zr、MgおよびSrを上記式(1)~(3)を満たすように、特に上記式(1´)~(3´)を満たすように含むことが、高いリチウムイオン伝導率が得られ、また、高い相対密度を有するリチウムイオン伝導体が得られる点から好ましい。
【0060】
なお、上記(a)~(d)のいずれの場合においても、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、Zrを、モル比で以下の式(4)を満たすように含むことが好ましい。Zrを該範囲で含有することにより、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末が得られやすくなる。
(4)0.33≦Zr/(La+A)≦1
【0061】
A-7.性能評価:
電池本体110を構成する各層(固体電解質層112、正極114、負極116)に含まれるイオン液体について、性能評価を行った。図4および図5は、性能評価の結果を示す説明図である。
【0062】
図4に示すように、性能評価には、4個の電池のサンプル(S1~S4)が用いられた。各サンプルは、電池を構成する各層(固体電解質層112、正極114、負極116)の形成材料と、各層に含まれるイオン液体の種類とが、互いに異なっている。
【0063】
各層の形成材料は、具体的には次の通りである。固体電解質層112を構成する固体電解質(より詳細には、リチウムイオン伝導体202に含まれるリチウムイオン伝導性粉末)としては、いずれのサンプルでも、上述したLLZ-MgSrが用いられた。また、正極114を構成する正極活物質214としては、サンプルS1,S2では、上述したLCOが用いられ、サンプルS3では、上述したNCMが用いられた。また、負極116を構成する負極活物質216としては、サンプルS1では、上述したLTOが用いられ、サンプルS2,S3では、グラファイトが用いられた。なお、サンプルS1において、負極活物質216としてグラファイトではなくLTOが用いられた理由は、次の通りである。すなわち、サンプルS1では、後述する通り、負極用イオン液体ILaとして、還元側の分解電位DPrが比較的高いEMI-FSIが用いられたため、負極活物質216として反応電位RPaが比較的低いグラファイトを用いると、負極用イオン液体ILaの分解反応が発生するおそれがあり、負極活物質216として反応電位RPaが比較的高い(より具体的には、負極用イオン液体ILaの還元側の分解電位DPrより高い)LTOが用いられたということである。
【0064】
また、各層に含まれるイオン液体の種類は、具体的には次の通りである。正極114に含まれる正極用イオン液体ILcとしては、いずれのサンプルでも、リチウム塩Li-FSIを溶解させたイオン液体EMI-FSI(リチウム塩濃度:1.0mol/L)が用いられた。また、固体電解質層112に含まれる固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極116に含まれる負極用イオン液体ILaとしては、サンプルS1では、正極用イオン液体ILcと同様に、リチウム塩Li-FSIを溶解させたイオン液体EMI-FSI(リチウム塩濃度:1.0mol/L)が用いられ、サンプルS2,S3では、正極用イオン液体ILcと異なり、リチウム塩Li-FSIを溶解させたイオン液体P13-FSI(リチウム塩濃度:1.0mol/L)が用いられた。
【0065】
各サンプルに用いられた各イオン液体について、酸化側の分解電位DPoおよび還元側の分解電位DPrにより規定される電位窓PWを測定した。その結果、図5に示すように、Li-FSIを溶解させたEMI-FSIの電位窓PWは、1.0~5.0Vであり、Li-FSIを溶解させたP13-FSIの電位窓PWは、0~5.2Vであった。このように、サンプルS1において負極用イオン液体ILaとして用いられたEMI-FSIは、サンプルS2,S3において負極用イオン液体ILaとして用いられたP13-FSIと比べて、還元側の分解電位DPrが比較的高い。なお、今回のサンプルに用いられたイオン液体ではないが、参考のためにLi-FSIを溶解させたPP13-FSIの電位窓PWを測定したところ、0~5.2Vであった。
【0066】
なお、イオン液体の電位窓PWは、以下のように測定した。まず、固体電解質としてのLLZ-MgSr粉末を、以下のように作製した。すなわち、組成:Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012(LLZ-MgSr)となるように、LiCO、MgO、La(OH)、SrCO、ZrOを秤量した。その際、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰になるように、LiCOをさらに加えた。この原料をジルコニアボールとともにナイロンポットに投入し、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、1100℃で10時間、MgO板上にて仮焼成を行った。仮焼成後の粉末にバインダを加え、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧を印加することにより、成形体を得た。この成形体を成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、還元雰囲気において1100℃で4時間焼成することにより焼結体を得た。なお、焼結体のリチウムイオン伝導率は、1.0×10-3S/cmであった。この焼結体をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で粉砕し、LLZ-MgSrの粉末を得た。得られたLLZ-MgSrの粒径は、0.3~0.8μm程度であった。
【0067】
次に、LLZ-MgSrの粉末に、測定対象のイオン液体を加えて乳鉢混合し、LLZ-MgSrとイオン液体との合材を得た。加圧治具の短軸にポリカーボネート製筒をセットし、LLZ-MgSrとイオン液体との合材(固体電解質層の材料)を150mg秤量して投入した。その後、長軸をポリカーボネート製筒にセットし、500MPaで加圧した。加圧後、短軸を抜き、直径10mmに打ち抜いたSUS箔(集電部材の材料)を投入した。その後、加圧治具を反転させて長軸を抜き、直径10mmに打ち抜いたLi箔(対極の材料)とSUS箔(集電部材の材料)とを順次投入した。その後、再び長軸をポリカーボネート製筒にセットし、80MPaで加圧した。これにより、固体電解質層と対極とから構成されたハーフセルと、ハーフセルの両側に配置された集電部材とから構成された積層体が作製される。その後、固定用治具(カラー)を取り付け、ボルトにより締結固定した。
【0068】
この状態で、測定電位範囲:OCVから-0.3V、および、OCVから6.0V、電位掃引速度:0.2mV/secの条件で、LSV(Linear Sweep Voltammetry)測定を行い、得られた電流-電位曲線における電流値一定の電位範囲を、電位窓PWとして特定した。
【0069】
また、各サンプル(電池)の作製方法は、以下の通りである。まず、上述したイオン液体の電位窓PWの測定時と同様に、固体電解質としてのLLZ-MgSrの粉末を得た。このLLZ-MgSrの粉末に、サンプル毎および部材(固体電解質層112、正極114、負極116)毎に定められたイオン液体を加えて乳鉢混合し、LLZ-MgSrとイオン液体との合材を得た。固体電解質層112用の材料は、このようにして得られたLLZ-MgSrとイオン液体との合材である。
【0070】
また、電極用の材料(電極シート)を以下のように作製した。まず、電極材料(正極114については、サンプル毎に定められた正極活物質214と電子伝導助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを乳鉢混合したもの、負極116については、サンプル毎に定められた負極活物質216)と、LLZ-MgSrとイオン液体との合材とを乳鉢混合した。得られた混合物に対して、10wt%のPVDF-DMC(炭酸ジメチル)溶液を少量ずつ滴下しながらメノウ乳鉢にて混合し、さらにDMC溶媒を少量ずつ加えて粘度を調整することにより、複合体スラリーを得た。ガラス上にDMCとローラーを用いて均一に貼った金属箔上に、アプリケーターを用いて複合体スラリーを塗工し、80℃で1時間、減圧乾燥させることにより、電極シートを得た。
【0071】
加圧治具の短軸にポリカーボネート製筒をセットし、LLZ-MgSrとイオン液体との合材(固体電解質層の材料)を150mg秤量して投入した。その後、長軸をポリカーボネート製筒にセットし、100MPaで加圧した。加圧後、短軸を抜き、直径10mmに打ち抜いた負極箔を投入した。その後、加圧治具を反転させて長軸を抜き、直径10mmに打ち抜いた正極箔を投入した。その後、再び長軸をポリカーボネート製筒にセットし、500MPaで加圧した。これにより、固体電解質層と正極と負極とから構成された電池が作製される。その後、固定用治具(カラー)を取り付け、ボルトにより締結固定した。
【0072】
この状態で、電流密度:25μA/cm、測定温度:25℃、カットオフ電圧:3.0~4.2V(正極活物質214としてLCOを用いた場合)、または、3.0~3.7V(正極活物質214としてNCMを用いた場合)、という条件で電池の放電を行い、電位平坦部における平均電位を電池の起電力EMFとして特定した。
【0073】
図4に示すように、サンプルS1では、電池の起電力EMFが2.2Vと比較的低い値であった。サンプルS1では、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaが、正極用イオン液体ILcと同一種類のイオン液体(EMI-FSI)であり、各イオン液体の還元側の分解電位DPr(=1.0V(図5参照))が比較的高い値となっている。そのため、負極用イオン液体ILaおよび固体電解質層用イオン液体ILeの分解反応の発生を避けるために、負極116を構成する負極活物質216として、反応電位RPaが、該イオン液体の還元側の分解電位DPrより高いもの(LTO)を使用している結果、正極活物質214と負極活物質216との間の反応電位差が小さくなって電池の起電力EMFが低下したものと考えられる。
【0074】
これに対し、サンプルS2,S3では、電池の起電力EMFが3.4V以上と比較的高い値であった。サンプルS2,S3では、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaとしてP13-FSIが用いられており、このイオン液体の還元側の分解電位DPr(=0V(図5参照))が、正極用イオン液体ILc(EMI-FSI)の還元側の分解電位DPr(=1.0V(図5参照))より低くなっている。そのため、固体電解質層用イオン液体ILeおよび負極用イオン液体ILaの分解反応の発生を抑制しつつ、より反応電位RPaの低い負極活物質216であるグラファイトを選択することが可能となり、正極活物質214と負極活物質216との間の反応電位差を大きくして電池の起電力EMFを大きくすることができたと言える。
【0075】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0076】
上記実施形態における全固体電池102の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態における各イオン液体ILc,ILe,ILaの具体例は、あくまで一例であり、他のイオン液体を用いることも可能である。
【0077】
また、上記実施形態では、リチウムイオン伝導体202,204,206が、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を含んでいるが、リチウムイオン伝導体202,204,206が、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末に代えて、あるいは、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と共に、他のリチウムイオン伝導性粉末を含んでいてもよい。該他のリチウムイオン伝導性粉末としては、例えば、以下の酸化物系固体電解質が挙げられる。
(1)少なくともLiとM(MはTi、Zr、Ge(ゲルマニウム)の内の少なくとも1つ)とP(リン)とOとを含有するNASICON型構造を有する固体電解質材料(例えば、(Li,Ti,Al)(PO、LiZr(PO、(Li,Ge,Al)(PO
(2)少なくともLiとTiとLaとOとを含有するペロブスカイト型構造を有する固体電解質材料(例えば、(La,Li)TiO
(3)少なくともLiとClとOとを含有するアンチペロブスカイト型構造を有する固体電解質材料(例えば、Li(OH)Cl)
(4)錯体水素化物
【0078】
また、本明細書に開示される技術は、全固体電池102に限られず、他のリチウム電池(例えば、リチウム空気電池やリチウムフロー電池等)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
102:全固体リチウムイオン二次電池 110:電池本体 112:固体電解質層 114:正極 116:負極 154:正極側集電部材 156:負極側集電部材 202:リチウムイオン伝導体 204:リチウムイオン伝導体 206:リチウムイオン伝導体 214:正極活物質 216:負極活物質 DP:分解電位 EMF:起電力 ILa:負極用イオン液体 ILc:正極用イオン液体 ILe:固体電解質層用イオン液体 PW:電位窓 RP:反応電位
図1
図2
図3
図4
図5