IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特許7332379状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法
<>
  • 特許-状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法 図1
  • 特許-状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法 図2
  • 特許-状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法 図3
  • 特許-状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法 図4
  • 特許-状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法 図5
  • 特許-状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】状態監視装置、該状態監視装置を搭載する輸送車両および状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20230816BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20230816BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B60L3/00 N
G01M17/007 K
G01M17/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019136743
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021022971
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 威人
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓行
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲司
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033179(JP,A)
【文献】特開2010-263727(JP,A)
【文献】特開2008-271674(JP,A)
【文献】特開平10-336805(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
G01M 17/007
G01M 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送車両が搭載する電力変換装置と当該電力変換装置が駆動する回転機との間の通電電流を測定する電流計測器と、
前記電流計測器が測定した電流データを入力とするアンプ回路と、
前記アンプ回路の増幅率を設定する増幅率設定回路と、
前記アンプ回路が前記増幅率で増幅した前記電流データを収集し変換処理する演算器と
を備え、
前記増幅率設定回路は、前記回転機の速度が第1の所定値以下の場合にのみ非ゼロの第1の信号を生成し、ノッチ指令又はトルク指令が第2の所定値以下の場合にのみ非ゼロの第2の信号を生成することで、前記第1の信号と前記第2の信号とが共に非ゼロの場合に第1の増幅率設定し、前記回転機の速度がゼロより大きい第3の所定値を下限とし前記第1の所定値より大きい第4の所定値を上限として、当該速度が前記第3の所定値から前記第4の所定値の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの第3の信号を生成し、前記ノッチ指令又は前記トルク指令がゼロより大きい第5の所定値を下限とし前記第2の所定値より大きい第6の所定値を上限として、当該ノッチ指令又は当該トルク指令が前記第5の所定値から前記第6の所定値の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの第4の信号を生成することで、前記第3の信号と前記第4の信号とが共に非ゼロの場合に前記第1の増幅率より小さい第2の増幅率設定し、前記第1の増幅率または前記第2の増幅率から前記アンプ回路の増幅率を設定し、
前記回転機の速度および前記ノッチ指令又は前記トルク指令の少なくともいずれかは、前記輸送車両の運転席から発信される信号又は前記電力変換装置で使用される信号を用いる
ことを特徴とする状態監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態監視装置であって、
前記演算器が変換処理した前記電流データを格納保存するメモリを更に備える
ことを特徴とする状態監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の状態監視装置であって、
前記演算器は、変換処理した前記電流データから前記回転機の異常発熱を診断処理する
ことを特徴とする状態監視装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の状態監視装置であって、
前記演算器は、変換処理した前記電流データから前記輸送車両の軸受の異常を診断処理する
ことを特徴とする状態監視装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の状態監視装置であって、
当該状態監視装置が前記電力変換装置の筐体内に設置される
ことを特徴とする状態監視装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の状態監視装置を搭載する輸送車両。
【請求項7】
電力変換装置と当該電力変換装置が駆動する回転機との間の通電電流を測定する第1のステップと、
前記回転機の速度とノッチ指令又はトルク指令とに基づいて増幅率を設定する第2のステップと、
測定した前記通電電流の電流データを前記増幅率で増幅する第3のステップと、
増幅した前記電流データを収集し異常診断に必要な変換処理を実行する第4のステップと
を有し、
前記第2のステップは、
前記回転機の速度が第1の所定値以下の場合にのみ非ゼロの第1の信号を生成し、ノッチ指令又はトルク指令が第2の所定値以下の場合にのみ非ゼロの第2の信号を生成することで、前記第1の信号と前記第2の信号とが共に非ゼロの場合に第1の増幅率設定、前記回転機の速度がゼロより大きい第3の所定値を下限とし前記第1の所定値より大きい第4の所定値を上限として、当該速度が前記第3の所定値から前記第4の所定値の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの第3の信号を生成し、前記ノッチ指令又は前記トルク指令がゼロより大きい第5の所定値を下限とし前記第2の所定値より大きい第6の所定値を上限として、当該ノッチ指令又は当該トルク指令が前記第5の所定値から前記第6の所定値の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの第4の信号を生成することで、前記第3の信号と前記第4の信号とが共に非ゼロの場合に前記第1の増幅率より小さい第2の増幅率設定し、前記第1の増幅率または前記第2の増幅率から前記増幅率を設定するステップである
ことを特徴とする状態監視方法。
【請求項8】
請求項7に記載の状態監視方法であって、
前記回転機の速度および前記ノッチ指令又は前記トルク指令の少なくともいずれかは、前記電力変換装置および前記回転機を搭載する輸送車両の運転席から発信される信号又は前記輸送車両が搭載する前記電力変換装置で使用される信号を用いる
ことを特徴とする状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送車両に搭載する状態監視装置および状態監視方法に関するもので、特に、鉄道車両や電気自動車に好適である。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等の移動体に搭載される電気駆動システムに係る部品および車両に係る部品のメンテナンスは、走行距離又は使用期間に基づくTBM(Time-based maintenance)が主流であり、過去の実績ベースで部品の交換周期が定められている。
【0003】
車両製品としての電気的又は機械的な信頼性を恒常的に保証する必要があるため、これらの部品の部分的な取り外しや頻繁な解体には困難な面が多い。このため、実際の劣化状況を継続して把握すること、および、劣化状況に基づき交換周期を適正化することにも、困難な面を伴う。また、特に鉄道車両では、重故障防止を目的に日々の目視点検を実施しているが、車両床下に搭載された電気駆動システムに係る部品の異常を目視で確認することにも困難な点が少なくない。
【0004】
そこで、電気駆動システムに係る部品および車両に係る部品に対する振動、温度又は音を計測するセンサを搭載して、部品の状態を監視するCBM(Condition-based maintenance)技術が開発されている。
【0005】
また、このCBM技術による状態監視にあって電気駆動システムで使用される電流計測器は、故障リスクが低いことに加え、取付け状態によるバラつきの影響が小さい。このため、得られる電流情報を用いて、電気駆動システムに係る部品および車両に係る部品の異常に関する特徴量を抽出する技術が開発されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「電気自動車に関する様々な異常を検知可能とする」ことを目的として、「異常判定用ECU10は、正常とみなしたときの高調波成分の波形をメモリに格納しておく。そして、異常判定用ECU10は、走行中に計測した高調波成分の波形と、メモリに格納した波形とを比較することで高調波成分の変化を検出する。」とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-53767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したCBM技術で部品の状態を監視する各種センサについては、これらのセンサ自体が故障するリスクを抱えているほか、取付け状態によって取得データに大きなバラつきが発生するため、信頼性の高い状態監視装置を提供することは難しい。
【0009】
また、これらセンサの中で、比較的故障リスクが低く取付け状態によるバラつきの影響が小さい電流計測器を用いる場合であっても、一般に異常状態を検知するためには、電流計測条件を常に同一回転数、同一負荷に揃えてデータを収集し、日々の状態変化を監視する必要がある。
【0010】
しかしながら、鉄道車両の場合は、乗客数(換言すれば、負荷状態)によって、回転機(モータ)の駆動条件が大きく異なる点に加えて、加速と減速とを繰り返すため、同一条件の設定が困難である。
【0011】
また、気象条件や運転士の操作バラつき等の影響によっても計測条件が異なる。さらに、列車の運行状況に伴い、車両が搭載する回転機(モータ)の温度上昇が変化するなどの複合現象が電流計測結果に重畳されるため、それらの分離も困難である。
【0012】
そこで、本発明は、計測条件が常時変化する状況においても、異常検知が可能な状態監視装置およびそれを搭載した輸送車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る状態監視装置は、輸送車両が搭載する電力変換装置と当該電力変換装置が駆動する回転機との間の通電電流を測定する電流計測器と、電流計測器が測定した電流データを入力とするアンプ回路と、アンプ回路の増幅率を設定する増幅率設定回路と、アンプ回路が増幅率で増幅した電流データを収集し変換処理する演算器とを備え、増幅率設定回路は、回転機の速度が第1の所定値以下の場合にのみ非ゼロの第1の信号を生成し、ノッチ指令又はトルク指令が第2の所定値以下の場合にのみ非ゼロの第2の信号を生成することで、第1の信号と第2の信号とが共に非ゼロの場合に第1増幅率設定し、回転機の速度がゼロより大きい第3の所定値を下限とし第1の所定値より大きい第4の所定値を上限として、当該速度が第3の所定値から第4の所定値の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの第3の信号を生成し、ノッチ指令又はトルク指令がゼロより大きい第5の所定値を下限とし第2の所定値より大きい第6の所定値を上限として、当該ノッチ指令又は当該トルク指令が第5の所定値から第6の所定値の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの第4の信号を生成することで、第3の信号と第4の信号とが共に非ゼロの場合に第1増幅率より小さい2増幅率に設定し、第1増幅率または第2増幅率からアンプ回路の増幅率を設定し、回転機の速度およびノッチ指令又はトルク指令の少なくともいずれかは、輸送車両の運転席から発信される信号又は電力変換装置で使用される信号を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、計測条件が常時変化する状況においても、異常検知が可能な状態監視装置およびそれを搭載した輸送車両を提供できる。上記した以外の課題、構成及び効果については、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例に係る状態監視装置の設置状態の一例を示す図である。
図2】実施例として別の形態による設置状態の一例を示す図である。
図3】信号処理部の構成の一例と信号処理フローを示す図である。
図4】信号処理部の増幅率設定回路とアンプ回路との関係を示す図である。
図5】増幅率設定回路が実行する信号処理(速度が低速でノッチ指令又はトルク指令が小さい場合)のフローチャートを示す図である。
図6】増幅率設定回路が実行する信号処理(速度が所定以上の速度時でノッチ指令又はトルク指令が所定以上大きい場合)のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例について図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の構成要素には同一の記号を付し、それらの名称および機能は同じであるので、重複説明は避ける。
【0017】
また、以下の説明では鉄道車両を対象としているが、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、電気駆動システムを有するハイブリッド自動車、電気自動車および建機向けの輸送車両にも適用可能である。
【0018】
鉄道車両で用いる電気駆動システムの形態としては、一般的な1台のインバータから4台の回転機に電力供給する1C4Mの電気駆動システムでも、1C2Mや1C1Mの電気駆動システムでも、また、それ以外の組み合わせでもよい。さらに、回転機としては、誘導機、永久磁石同期機、巻線型同期機およびシンクロナスリラクタンス回転機のいずれでもよい。
【実施例
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る状態監視装置の設置状態の一例を示す図である。また、図2は、実施例として別の形態による設置状態の一例を示す図である。
図1および図2共に、車両1の側面から見た床下のレイアウトを示すものである。方向軸としては、車両の進行方向をx軸、進行方向に垂直な方向(紙面に垂直な方向)をy軸、車両の鉛直上向きをz軸、で示している。
【0020】
図1および図2に示すように、鉄道車両の電気駆動システムは、主に、電力変換装置であるインバータ装置101および駆動力源である回転機(図示していない)で構成されている。
【0021】
インバータ装置101は、出力する交流電力を回転機に供給することにより、回転機を駆動する。回転機は、台車2に取付けられ、同じく台車2に取付けられるギアボックス(図示していない)を介して車輪4に連結されている。インバータ装置101によって駆動される回転機の回転数によって、車両1の走行が制御される。
また、インバータ装置101は、車両1の床下に固定して搭載され、回転機とは主配線22によって電気的に接続されている。
【0022】
状態監視装置300は、電流センサ201によってインバータ装置101と回転機との間を流れる電流を測定し、予め定められた演算を実行する。ここにおいて、電流センサ201は、例えばCTのような変成器を用いるなどして、一定の周期間隔でサンプリングした電流波形を測定するものである。
また、状態監視装置300の設置箇所としては、図1のようにインバータ装置101の筐体外部でもよいし、図2のようにインバータ装置101の筐体内部に格納する形態でもよい。
【0023】
さらに、電流センサ201をインバータ装置101の筐体内部に格納し、信号処理部301を筐体外部に設置する態様でも、あるいは逆に、電流センサ201をインバータ装置101の筐体外部に設置し、信号処理部301を筐体内部に格納する態様でもよい。
【0024】
本実施例に係る状態監視装置300は、上記の構成を有することにより、インバータ装置101から回転機に通電する電流を計測する。すなわち、電流センサ201からの測定信号が信号処理部301へ出力される。
【0025】
図3は、信号処理部301の構成の一例と信号処理フローを示す図である。
信号処理部301は、演算器311、メモリ312、アンプ回路313および増幅率設定回路314を備える。電流センサ201からの測定信号は、アンプ回路313を介して演算器311に取り込まれ、状態監視に必要な演算が実行される。
【0026】
演算器311が実行する演算内容は、例えば、状態の異常又はその兆候を解析する際に必要なデータ変換処理である。この処理に要するアルゴリズムについては、状態監視装置300が車両1の床下に取り付けられる前に、メモリ312へ記録される。
【0027】
演算器311を例えばMPUで構成する場合、このMPUは、起動時にメモリ312から上記アルゴリズムを読み出して実行する。または、演算器311を例えばFPGAによって構成する場合、メモリ312についてはFPGAによる演算結果を保存することに特化させてもよい。さらに、演算器311が実行する演算については、上記のデータ変換処理に加えて簡易的な診断処理を含めてもよい。例えば、この診断処理により車輪4の車軸などに使われる軸受(図示していない)の異常や回転機の異常発熱などを監視することができる。
【0028】
演算器311による演算結果データは、メモリ312に保存されることになる。保存された演算結果データは、駅構内、車両基地又は所定の車両停止場に車両1が停車した際に、それらの地点に設けられた診断装置501へ出力される。
【0029】
また、演算結果データを診断装置501へ出力する際に、データの取得日時、データを取得した車両1を特定する情報およびデータ取得を実行した状態監視装置300を特定する情報などを付加して送信してもよい。これらの付属データを演算結果データと共に診断装置501へ出力することによって、保守すべき車両1の特定が迅速化される。また、保守期間が短い車両と長い車両との比較分析等に活用することも可能となる。
【0030】
診断装置501に対するデータの出力態様としては、物理的な信号ケーブルを用いてもよいし、無線方式であっても、赤外線通信などの他の通信方式であってもよい。
【0031】
ただし、演算器311およびメモリ312の各構成は従来から知られているが、鉄道車両に適用する場合には次のような課題がある。一般に、異常状態を検知するためには、電流計測条件を常に同一回転数で同一負荷に揃えてデータを収集し、日々の状態変化を監視する必要がある。
【0032】
しかしながら、鉄道車両の場合は、乗客数(換言すれば、負荷状態)によって、回転機(モータ)の駆動条件が大きく異なる上、加速と減速とを繰り返すため、同一条件の設定が困難である。さらに、気象条件や運転士の操作バラつき等の影響によっても計測条件が異なる。またさらに、車両の運行状況に伴い変化する回転機(モータ)温度の上昇等の複合現象が、電流計測結果に重畳されるため、それらの分離が困難となる。
【0033】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明は、信号処理部301にアンプ回路313および増幅率設定回路314を設けることで対応を図る。図3に示すように、増幅率設定回路314は、速度情報とノッチ指令又はトルク指令とを入力とし、適切な増幅率を設定してアンプ回路313に出力する。アンプ回路313は、電流センサ201からの測定信号に対して、この増幅率を掛け合わせて演算器311に出力する。
【0034】
また、増幅率設定回路314による増幅率の設定に関与する入力情報については、速度情報とノッチ指令又はトルク指令とを、車両1の運転席から発信される信号情報を用いるか、又は、インバータ装置101で使用される信号情報を取り込んで用いることができる。その際に、速度情報とノッチ指令又はトルク指令との少なくともいずれかを、上記の信号情報から用いるようにしてもよい。
【0035】
図4は、信号処理部301の増幅率設定回路314とアンプ回路313との関係を示す図である。
図4の(a)に示すように、増幅率設定回路314は、速度がゼロを含む所定値A以下の場合にのみ非ゼロの信号1を生成する。また、増幅率設定回路314は、ノッチ指令又はトルク指令がゼロを含む所定値B以下の場合にのみ非ゼロの信号2を生成する。
【0036】
これにより、速度に係る信号1とノッチ指令又はトルク指令に係る信号2が共に非ゼロである場合、すなわち、信号1×信号2が非ゼロの場合に、電流センサ201からの測定信号を入力とするアンプ回路313の増幅率をN1とした状態で、電流データを収集することになる。
【0037】
上記した(a)の処理の狙いは、鉄道車両が低速、すなわち、走行抵抗が小さく回転機(モータ)にとって負荷が小さい状態で、かつ、ノッチが低い、すなわち、トルク指令が小さくやはり回転機(モータ)にとって負荷が小さい状態に限定して、電流データを収集することにある。
【0038】
このような状態では、回転機(モータ)の発熱損失が小さいため、回転機(モータ)の温度が安定する。ただし、電流値は小さいため、電流センサ201から出力される信号は、発生するノイズ信号(例えば、ホワイトノイズ信号)に埋もれやすい。
【0039】
そこで、アンプ回路313の増幅率N1を大きな値に設定し、電流測定の分解能を高める。これにより、一定の計測条件を確保することができ、高精度な異常検知が可能となる。
【0040】
一方で、図4の(b)に示すように、増幅率設定回路314は、速度ゼロより大きい所定値C1を下限とし、上記の所定値Aより大きい値である所定値C2を上限として、速度が所定値C1から所定値C2の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの信号3を生成する。
【0041】
また、増幅率設定回路314は、ゼロノッチ又はゼロトルクより大きいノッチ指令又はトルク指令の所定値D1を下限とし、上記の所定値Bより大きい値である所定値D2を上限として、ノッチ指令又はトルク指令が所定値D1から所定値D2の範囲に含まれる場合にのみ非ゼロの信号4を生成する。
【0042】
これにより、速度に係る信号3とノッチ指令又はトルク指令に係る信号4が共に非ゼロである場合、すなわち、信号3×信号4が非ゼロの場合に、電流センサ201からの測定信号を入力とするアンプ回路313の増幅率をN2とした状態で、電流データを収集することになる。また、増幅率は、N1>N2の関係を満たすように設定する。
【0043】
上記した(b)の処理の狙いは、鉄道車両が高速、すなわち、走行抵抗が大きく回転機(モータ)にとって負荷が大きい状態で、かつ、ノッチが高い、すなわち、トルク指令が大きくやはり回転機(モータ)にとって負荷が大きい状態に限定して、電流データを収集することにある。
【0044】
このような状態では、回転機(モータ)の発熱損失が大きいため、回転機(モータ)の温度が上昇する。また、電流値が大きいため、仮にアンプ回路313の増幅率が大きいと、電流センサ201から出力される信号はスケールオーバーする。
【0045】
そこで、アンプ回路313の増幅率N2を小さな値に設定し、演算器311に取り込む電流データのスケールオーバーを回避する。このような計測条件を確保することにより、回転機(モータ)の異常発熱などを高精度に監視できることになる。
【0046】
次に、増幅率設定回路314が、入力される速度情報およびノッチ指令又はトルク指令から増幅率N1およびN2を設定する処理について説明する。
【0047】
図5および図6は、増幅率設定回路314が実行する信号処理のフローチャートを示す図である。図5および図6は、それぞれ図4の(a)および(b)に対応している。
【0048】
先ず、図5に示すフローチャートは、速度が低速でノッチ指令又はトルク指令が小さい場合である。
ステップ401(S401)で、増幅率設定回路314は、検出した速度情報が低速時の所定値Aより小さいか否かを判定する。所定値A以上である場合(YES)、ステップ403(S403)で、増幅率設定回路314は、信号1を非ゼロに設定し、所定値A未満である場合(NO)、ステップ404(S404)で、増幅率設定回路314は、信号1をゼロに設定する。
【0049】
ステップ402(S402)で、増幅率設定回路314は、受け取ったノッチ指令又はトルク指令が軽負荷時の所定値Bより小さいか否かを判定する。所定値B以上である場合(YES)、ステップ405(S405)で、増幅率設定回路314は、信号2を非ゼロに設定し、所定値B未満である場合(NO)、ステップ406(S406)で、増幅率設定回路314は、信号2をゼロに設定する。
【0050】
ステップ407(S407)で、増幅率設定回路314は、信号1と信号2との積(信号1×信号2)がゼロでないか否かを判定する。ゼロでない(すなわち、信号1および信号2共に非ゼロである)場合、ステップ408(S408)で、増幅率設定回路314は、アンプ回路313における増幅率をN1に設定する。
【0051】
ステップ409(S409)で、アンプ回路313は、その増幅率N1を用いて電流データ(電流センサ201からの測定信号)を収集する。
【0052】
一方で、信号1×信号2=0である(すなわち、信号1および信号2の内少なくともいずれかがゼロである)場合、増幅率を設定することなく処理を終了する(よって、電流データは収集されない)。
【0053】
次に、図6に示すフローチャートは、速度が所定以上の速度時でノッチ指令又はトルク指令が所定以上大きい場合である。
ステップ501(S501)で、増幅率設定回路314は、検出した速度情報が所定以上の速度時において所定値C1より大きく所定値C2より小さい(すなわち、C1<速度<C2)か否かを判定する。
【0054】
C1<速度<C2を満足する場合(YES)、ステップ503(S503)で、増幅率設定回路314は、信号3を非ゼロに設定し、C1<速度<C2を満足しない場合(NO)、ステップ504(S504)で、増幅率設定回路314は、信号3をゼロに設定する。
【0055】
ここにおいて、低速時の所定値Aと所定以上の速度時の所定値C1およびC2との関係については、先にも記したとおり、C1はゼロより大きい速度で、C2は所定値Aより大きい速度である。
【0056】
ステップ502(S502)で、増幅率設定回路314は、受け取ったノッチ指令又はトルク指令が所定以上のノッチ指令又はトルク指令において所定値D1より大きく所定値D2より小さい(すなわち、D1<ノッチ指令又はトルク指令<D2)か否かを判定する。
【0057】
D1<ノッチ指令又はトルク指令<D2を満足する場合(YES)、ステップ505(S505)で、増幅率設定回路314は、信号4を非ゼロに設定し、D1<ノッチ指令又はトルク指令<D2を満足しない場合(NO)、ステップ506(S506)で、増幅率設定回路314は、信号4をゼロに設定する。
【0058】
ここにおいて、低ノッチ又は低トルク時の所定値Bと所定以上のノッチ指令又はトルク指令時の所定値D1およびD2との関係については、先にも記したとおり、D1はゼロより大きいノッチ指令又はトルク指令で、D2は所定値Bより大きいノッチ指令又はトルク指令である。
【0059】
ステップ507(S507)で、増幅率設定回路314は、信号3と信号4との積(信号3×信号4)がゼロでないか否かを判定する。ゼロでない(すなわち、信号3および信号4共に非ゼロである)場合、ステップ508(S508)で、増幅率設定回路314は、アンプ回路313における増幅率をN2に設定する。
【0060】
ステップ509(S509)で、アンプ回路313は、その増幅率N2を用いて電流データ(電流センサ201からの測定信号)を収集する。
【0061】
一方で、信号3×信号4=0である(すなわち、信号3および信号4の内少なくともいずれかがゼロである)場合、増幅率を設定することなく処理を終了する(よって、電流データは収集されない)。
【0062】
演算器311による演算結果データは、メモリ312に保存される。
車両1が動作している間に、演算器311による演算結果として取得されメモリ312に格納保存されたデータは、車両1が停車した駅構内、車両基地又は所定の車両停止場に設けられた診断装置501に渡される(送信される)。
【0063】
診断装置501は、受け取った演算結果データから車両1の動作状態の分析および評価を実施する。その結果、異常又は異常の予兆が検知されると、診断装置501は、車両1の管理者等に対して検知結果を通報する。
【0064】
通報を受けた管理者等は、インバータ装置101および回転機のメンテナンス時期や更新の緊急性を検討し、適切なタイミングで車両1に搭載された電気駆動システムの保守を実行することができる。
【0065】
これにより、車両1の電気駆動システムについて、従来の時間ベース保守(TBM方式)と比較して、CBM方式により効率的な運用が可能となると共に、信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0066】
1:車両、2:台車、3:車輪、22:主配線、101:インバータ装置、
201:センサ、300:状態監視装置、301:信号処理部、311:演算器、
312:メモリ、313:アンプ回路、314:増幅率設定回路、501:診断装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6