(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の製造方法及びリチウムイオン二次電池の容量回復方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20230816BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230816BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230816BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20230816BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230816BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230816BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230816BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/42 Z
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2019183945
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】今野 真
(72)【発明者】
【氏名】東條 暁典
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-120746(JP,A)
【文献】特開2016-001566(JP,A)
【文献】特開2016-195044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 10/42
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
黒鉛とシリコン系の活物質とを含む負極と、
前記正極又は前記負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極と、
前記正極、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を浸漬する電解液と、
を備え
、
前記リチウムイオン供給極は、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つである、合金系の活物質を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウムイオン供給極は、更に炭素を含有する、請求項
1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
正極、黒鉛とシリコン系の活物質とを含む負極、及び前記正極又は前記負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極を、それぞれ蓄電パッケージに収容する工程と、
前記蓄電パッケージに電解液を注入して、前記正極、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を浸漬させる工程と、
前記正極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続、又は、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続することで、前記正極又は前記負極にリチウムイオンをドープする工程と、を備え
、
前記リチウムイオン供給極は、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つである、合金系の活物質を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記リチウムイオン供給極は、更に炭素を含有する、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
正極と、黒鉛とシリコン系の活物質とを含む負極と、前記正極又は前記負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極と、前記正極、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を浸漬する電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池の容量回復方法であって、
前記正極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続、又は、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続することで、前記正極又は前記負極にリチウムイオンをドープする工程と、を備え
、
前記リチウムイオン供給極は、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つである、合金系の活物質を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン供給極は、更に炭素を含有する、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の製造方法及びリチウムイオン二次電池の容量回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、自動車産業では、電気自動車やハイブリッド電気自動車の導入による二酸化炭素の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモーター駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
このような自動車用の電源としては、エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池が用いられている。リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダーを用いて正極活物質等を正極集電板に塗布した正極と、バインダーを用いて負極活物質等を負極集電板に塗布した負極とが、電解質を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素、特に黒鉛系材料が用いられてきた。また、最近では、高容量の負極活物質として、リチウムと合金化しうる材料等が研究されている。例えば、シリコン(Si)材料は、充放電において1molあたり4.4molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li22Si5においては4200mAh/g程度もの理論容量を有する。このようにリチウムと合金化しうる材料は電極のエネルギー密度を増加させることができるため、車両用途における負極材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、このような高容量を有するリチウムと合金化する材料を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の多くは、初期充放電時の不可逆容量が大きい。このため、充填された正極の容量利用率が低下し、電池のエネルギー密度が低下するという問題がある。リチウムイオン二次電池においては、初期充電で負極中に吸蔵されたリチウムの全てを放電によって放出することはできず、放電後も負極中に残留し、その後の充放電反応に関与できないリチウム容量があり、これを「不可逆容量」という。この不可逆容量の問題は、高容量が要求される車両用途への実用化において大きな開発課題となっており、不可逆容量を抑制する試みが盛んに行われている。
【0006】
例えば特許文献1には、不可逆容量を抑制するリチウムイオン二次電池として、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、正極と、正極と負極との間に介在する電解質層とを有し、負極の容量Aと正極の容量Cとの比(A/C)を特定するとともに、充電状態が0%であるときのリチウムイオンのドープ容量が、リチウムイオン非ドープ時における負極活物質の不可逆容量を超えることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたリチウムイオン二次電池は、初回の充電で発生する不可逆容量を補償することは可能であるが、繰り返しの使用で生じる電極の劣化には対応することができない。
【0009】
本発明では、上記課題に鑑み、リチウムイオン二次電池全体の容量を大きくしつつも、初回の充電で発生する不可逆容量を補償するだけでなく、繰り返しの使用で生じる電極の劣化にも対応できるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係るリチウムイオン二次電池は、下記(1)に示す構成を有する。
【0011】
(1)正極と、
黒鉛とシリコン系の活物質とを含む負極と、
前記正極又は前記負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極と、
前記正極、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を浸漬する電解液と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【0012】
負極は、黒鉛に加え、更にシリコン系の活物質を含有しているため、リチウムイオン二次電池全体の容量を大きくすることができる。また、シリコン系の活物質は、不可逆容量及び繰り返しの使用、すなわち充放電によるリチウムの消費が大きいものの、正極又は負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極を備えているので、初回充放電等で不可逆容量に相当するリチウムイオンを補償し、更に繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償し、リチウムイオン二次電池全体の容量を確保することができる。
【0013】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、下記(2)~(4)の態様であることが好ましい。
【0014】
(2)前記リチウムイオン供給極は、合金系の活物質を含有する、上記(1)に記載のリチウムイオン二次電池。
【0015】
リチウムイオン供給極は、初回充放電等で不可逆容量に相当するリチウムイオンを補償し、更に繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償するためのものである。そして、リチウムイオン供給極は、リチウムイオンを放出するのみで吸蔵する必要はない。このため、充放電を繰り返す負極のように活物質が脱落しにくく、充放電による体積変化の大きな合金系活物質であっても問題なく使用することができる。また、合金系活物質は、金属リチウムを使用したリチウム極と比べ、大気中での安定性が高く、製造過程や、電池の損傷時の発火リスクを小さくすることができる。
【0016】
(3)前記合金系の活物質は、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つである、上記(2)に記載のリチウムイオン二次電池。
【0017】
リチウムイオン供給極に用いられる合金系活物質として、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つを使用すると、多くのリチウムと合金化して安定化させることで容量を大きくすることができつつも、金属リチウムを使用したリチウム極と比べ、大気中での安定性が高く、製造過程や、電池の損傷時の発火リスクを小さくすることができる。
【0018】
(4)前記リチウムイオン供給極は、更に炭素を含有する、上記(2)又は(3)に記載のリチウムイオン二次電池。
【0019】
リチウムイオン供給極は、更に炭素を含有することにより、弾力性が付与され剥がれにくくなる。
【0020】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、下記(5)に示す構成を有する。
【0021】
(5)正極、黒鉛とシリコン系の活物質とを含む負極、及び前記正極又は前記負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極を、それぞれ蓄電パッケージに収容する工程と、
前記蓄電パッケージに電解液を注入して、前記正極、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を浸漬させる工程と、
前記正極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続、又は、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続することで、前記正極又は前記負極にリチウムイオンをドープする工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【0022】
負極は、黒鉛に加え、更にシリコン系の活物質を含有しているため、リチウムイオン二次電池全体の容量を大きくすることができる。また、シリコン系の活物質は、不可逆容量が大きいものの、リチウムイオン二次電池の製造時において、リチウムイオン供給極によりリチウムイオンを正極又は負極にドープすることで、初回充放電等で不可逆容量に相当するリチウムイオンを補償することができる。
【0023】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池の容量回復方法は、下記(6)に示す構成を有する。
【0024】
(6)正極と、黒鉛とシリコン系の活物質とを含む負極と、前記正極又は前記負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極と、前記正極、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を浸漬する電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池の容量回復方法であって、
前記正極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続、又は、前記負極及び前記リチウムイオン供給極を電気化学的に接続することで、前記正極又は前記負極にリチウムイオンをドープする工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【0025】
負極は、黒鉛に加え、更にシリコン系の活物質を含有しているため、リチウムイオン二次電池全体の容量を大きくすることができる。また、シリコン系の活物質は、繰り返しの使用、すなわち充放電によるリチウムの消費が大きいものの、リチウムイオン二次電池の使用中において、リチウムイオン供給極によりリチウムイオンを正極又は負極にドープすることで、繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るリチウムイオン二次電池によれば、負極は、黒鉛に加え、更にシリコン系の活物質を含有しているため、リチウムイオン二次電池全体の容量を大きくすることができる。また、シリコン系の活物質は、不可逆容量及び繰り返しの使用、すなわち充放電によるリチウムの消費が大きいものの、正極又は負極にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極を備えているので、初回充放電等で不可逆容量に相当するリチウムイオンを補償し、更に繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償し、リチウムイオン二次電池全体の容量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す模式図である。
【0028】
[発明の詳細な説明]
以下、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の製造方法及びリチウムイオン二次電池の容量回復方法について詳細に説明する。
【0029】
<リチウムイオン二次電池>
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す模式図である。図示されるように、本発明に係るリチウムイオン二次電池100は、正極10と、負極20と、正極10又は負極20にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極30と、正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30を浸漬する電解液40により構成される。また、正極10と負極20との間、及び負極20とリチウムイオン供給極30との間には、それぞれセパレータ50が配設されている。
【0030】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池100においては、負極20が黒鉛とシリコン系の活物質とを有している。負極20は、黒鉛に加え、更にシリコン系の活物質を含有しているため、リチウムイオン二次電池100全体の容量を大きくすることができる。また、シリコン系の活物質は、不可逆容量、及び繰り返しの使用、すなわち充放電によるリチウムの消費が大きいものの、正極10又は負極20にリチウムイオンを供給するリチウムイオン供給極30を備えているので、初回充放電等で不可逆容量に相当するリチウムイオンを補償し、更に繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償し、リチウムイオン二次電池100全体の容量を確保することができる。
【0031】
正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30は、図示を省略するが、それぞれ、金属製の集電板と、その集電板の少なくとも一方の面に備えられた電極層を備える。また、電極層は、リチウムイオンを吸蔵放出するため(ただし、リチウムイオン供給極30の場合は放出のみ)の活物質と、多数の活物質を結合するバインダーと、必要により導電助剤とを有する。
【0032】
集電板には、必要に応じて貫通孔を形成してもよい。貫通孔を形成する方法は、特に限定されず、エッチング法、パンチング法、レーザー加工法等を挙げることができる。これらの中ではエッチング法が好ましく、エッチング法で貫通孔を形成することにより多くの貫通孔を同時に形成しテーパ状の貫通孔を形成することができる。
【0033】
集電板の材料は特に制限されず、負極20用又はリチウムイオン供給極30用の集電板の場合には、例として銅、ステンレス鋼、貴金属等が挙げられる。これらの中では、銅又はステンレス鋼であることが好ましい。
【0034】
銅は、入手しやすい上に充分な導電性を有する。そのため、集電板が銅からなると、充分な導電性を確保することができる。
【0035】
ステンレス鋼は、入手しやすい上に腐食耐性が高く、高い弾性率を有する。そのため、集電板がステンレス鋼からなると、集電板は腐食に強く、反りやシワが発生しにくい。また、ステンレス鋼は、電気抵抗率が高い。そのため、集電板の電気抵抗率も高くなる。しかし、正極10及び/又は負極20にリチウムイオンを供給する際に集電板に大電流を流す必要はないため、集電板の電気抵抗率が少し高くても、充分にドープすることができる。
【0036】
また、ステンレス鋼の中でもマルテンサイト相を内部に含有するオーステナイト系ステンレス鋼を用いることが好ましい。マルテンサイト系ステンレス鋼は硬度が高く、集電板がマルテンサイト系ステンレス鋼を含有していると、集電板を固く高強度にすることができる。そのため、集電板に、反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
【0037】
また、正極10用の集電板の場合には、例としてアルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金であることが好ましい。
【0038】
なお、集電板の一般的な厚さは、5~30μmである。
【0039】
電極層中のバインダーの材料も特に制限されず、例としてポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を挙げることができる。これらの中では、ポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂は、耐熱性があり、強度がある化合物である。そのため、活物質がポリイミド樹脂からなるバインダーで結合されていると、充放電により活物質の体積が変化したとしても、集電板から剥離しにくくすることができる。
【0040】
なお、バインダーは、活物質とバインダーとの重量割合で、活物質:バインダー=70:30~90:10であることが好ましい。
【0041】
また、電極層には、導電性を向上させるために導電助剤が配合されてもよい。導電助剤の材料も特に制限されず、例としてカーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等を挙げることができる。これらの中では、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは、少量で十分な導電性を確保することができる。また、カーボンブラックの平均粒子径は、3~500nmが好ましい。
【0042】
なお、バインダーに対する導電助剤の重量割合は、20~50質量%であることが好ましい。
【0043】
正極用の活物質としては特に制限されず、LiMnO2、LixMn2O4(0<x<2)、Li2MnO3、LixMn1.5Ni0.5O4(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO2、LiNiO2又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;LiFePO4等のオリビン構造を有するもの等が挙げられる。また、これらの金属酸化物に、アルミニウム、鉄、リン、チタン、ケイ素、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、ジルコニウム、亜鉛、ランタン等により一部置換した材料も使用することができる。特に、LiαNiβCoγAlδO2(1≦α≦2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLiαNiβCoγMnδO2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
負極20は、黒鉛とシリコン系の活物質とを含む。シリコン系の活物質しては、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金を挙げることができる。シリコンは、リチウムと合金化して安全性を確保しつつ、負極20の容量を大きくすることができる。なお、シリコン合金としては、Ge、Sn、Pb等との合金が挙げられる。
【0045】
黒鉛やシリコン系の活物質の平均粒子径は、特に限定されないが1~10μmであることが好ましい。活物質の平均粒子径が1μm以上であれば、活物質の平均粒子径を容易に調整することができる。活物質の平均粒子径が10μm以下であれば、比表面積が充分に大きいので、後述するドープに要する時間を短くすることができる。
【0046】
続いて、リチウムイオン供給極30は、合金系の活物質を含有することが好ましい。リチウムイオン供給極30は、初回充放電等で不可逆容量に相当するリチウムイオンを補償し、更に繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償するためのものである。そして、リチウムイオン供給極30は、リチウムイオンを放出するのみで吸蔵する必要はない。このため、充放電を繰り返す負極20のように活物質が脱落しにくく、充放電による体積変化の大きな合金系活物質であっても問題なく使用することができる。また、合金系活物質は、金属リチウムを使用したリチウム極と比べ、大気中での安定性が高く、製造過程や、電池の損傷時の発火リスクを小さくすることができる。
【0047】
また、上記合金系の活物質は、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つであることが好ましい。リチウムイオン供給極30に用いられる合金系活物質として、シリコン、シリコン酸化物及びシリコン合金のうち少なくとも1つを使用すると、多くのリチウムと合金化して安定化させることで容量を大きくすることができつつも、金属リチウムを使用したリチウム極と比べ、大気中での安定性が高く、製造過程や、電池の損傷時の発火リスクを小さくすることができる。
【0048】
さらに、リチウムイオン供給極30は、更に炭素を含有することが好ましい。リチウムイオン供給極30が更に炭素を含有することにより、弾力性が付与され剥がれにくくなる。なお、リチウムイオン供給極30に含有される炭素としては、黒鉛であることが好ましい。
【0049】
電解液40の材料は特に制限されず、溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
【0050】
溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ‐ブチロラクトン等のγ‐ラクトン類、1,2‐ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3‐ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3‐ジメチル‐2‐イミダゾリジノン、3‐メチル‐2‐オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3‐プロパンスルトン、アニソール、N‐メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
金属塩としては、特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることができる。なお、金属塩としてリチウム塩を用いる場合、リチウム塩としては、LiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9CO3、LiC(CF3SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
電解液40の電解質濃度は、特に限定されないが、0.5~1.5mol/Lであることが好ましい。電解質濃度が0.5mol/L未満であれば、電解液40の電気伝導率を充分にしにくくなる。電解質濃度が1.5mol/Lを超えると、電解液の密度及び粘度が増加しやすくなる。
【0053】
セパレータ50の材料は特に制限されず、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、耐熱性の高い、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、ガラス繊維を用いることもできる。また、これらの積層体であってもよい。更には、これらの繊維を束ねて糸状にし、織物とした織物セパレータを用いることもできる。
【0054】
リチウムイオンを正極10又は負極20への供給するためには、リチウムイオン供給極30と、正極10又は負極20とを電気化学的に接続可能なように結線すればよい。そのために、リチウムイオン二次電池100において、正極10と負極20との結線切り換えのためのスイッチを更に付設してもよい(図示は省略)。
【0055】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法については、例えば下記の方法を挙げることができる。まず、正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30のそれぞれの作製について説明する。
【0056】
正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30用の各活物質と、バインダーとを有機系溶媒などの溶媒中で混合し、活物質スラリーを作製する。この活物質スラリーは、塗工性の観点から、粘度が1~10Pa・sであることが好ましい。なお、スラリーの粘度はB型粘度計を用い、1~10rpmとなる条件で測定する。また、必要に応じて増粘剤等により粘度を調整してもよい。
【0057】
次いで、活物質スラリーを集電板の少なくとも一方の面に塗工する。塗工する活物質スラリーの量は、特に限定されないが、加熱乾燥後に0.1~10mg/cm2であることが好ましい。
【0058】
次いで、活物質スラリーが塗工された集電板をプレス加工する。プレス加工の圧力は、特に限定されないが、活物質が平坦になるように押さえることができれば充分である。
【0059】
さらに、活物質スラリーが途工された集電板を加熱し、活物質スラリーに含まれるバインダーを硬化させる。加熱条件は、使用するバインダーの種類に応じて決定することができるが、例えばバインダーがポリイミド樹脂の場合には、加熱温度は250~350℃であることが好ましい。また、加熱時の雰囲気は、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0060】
以上の工程を経て、正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30をそれぞれ製造することができる。
【0061】
なお、正極10又は負極20へリチウムイオンをドープ可能となるよう、リチウムイオン供給極30にリチウムイオンを事前にドープしておく方法については、例えば、特開2018-22608号に記載の方法を採用することができる。
【0062】
続いて、作製された正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30を用いてリチウムイオン二次電池100を製造する。まず、
図1に示すように、正極10、負極20、リチウムイオン供給極30及びセパレータ50を蓄電パッケージ60に収容する。この際、正極10、負極20及びリチウムイオン供給極30がそれぞれ分離されるようにセパレータ50を配置することが望ましい。その後、蓄電パッケージ60に電解液40を注入する。
【0063】
さらに続いて、正極10及びリチウムイオン供給極30を電気化学的に接続、又は、負極20及びリチウムイオン供給極30を電気化学的に接続し、リチウムイオン供給極30に吸蔵されたリチウムイオンを正極10又は負極20に移動させる。この場合、正極10又は負極20が、ドープ工程における正極として機能し、リチウムイオン供給極30がドープ工程における負極として機能する。本工程を行うことにより正極10の正極活物質又は負極20の負極活物質にリチウムイオンがドープされる。なお、リチウムイオン二次電池100が、正極10又は負極20に最初からリチウムイオンを含有している場合には、ドープ工程は必須ではないが、電解質としてのリチウムイオンの不足分を補うようにドープ工程を行ってもよい。
【0064】
上記正極活物質又は負極活物質へのリチウムイオンのドープ工程を行った後、正極10及びリチウムイオン供給極30、又は負極20及びリチウムイオン供給極30との電気化学的な接続を切断し、更に正極10及び負極20を電気化学的に接続することにより、リチウムイオン二次電池100を完成させることができる。
【0065】
<リチウムイオン二次電池の容量回復方法>
正極10又は負極20にリチウムイオンをドープするにあたっては、上記したように、リチウムイオン二次電池100が完成する前だけでなく、リチウムイオン二次電池100の使用中においてリチウムイオンが不足した段階でドープしてもよい。このように、リチウムイオン二次電池100の使用中において、リチウムイオン供給極30によりリチウムイオンを正極10又は負極20にドープすることで、繰り返しの使用によるSEI膜の形成によって減少したリチウムイオンを補償することができる。
【0066】
以上、本発明に関して説明したが、本発明はこれに制限されるものではなく、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、初回の充電で発生する不可逆容量を補償するだけでなく、繰り返しの使用で生じる劣化にも対応できるリチウムイオン二次電池を提供することができ、特に車両用として有用である。
【符号の説明】
【0068】
10 正極
20 負極
30 リチウムイオン供給極
40 電解液
50 セパレータ
60 蓄電パッケージ
100 リチウムイオン二次電池