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  • 特許-固定子、固定子の製造方法、及び治具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】固定子、固定子の製造方法、及び治具
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20230816BHJP
   H02K 15/10 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H02K3/34 D
H02K15/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019196402
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072669
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】高橋 瞬
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-011869(JP,A)
【文献】特公昭44-009785(JP,B1)
【文献】特開2008-271714(JP,A)
【文献】特開2017-028821(JP,A)
【文献】特開平04-172937(JP,A)
【文献】特開昭61-066555(JP,A)
【文献】特開平06-022513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線が巻回されるスロットを備える固定子鉄心と、
前記スロットに巻回される前記巻線が前記固定子鉄心の端部で折り返される立ち上り部と、を備え、
前記立ち上り部に樹脂部が設けられており、
円筒形状を備える内側治具と、断面矩形の半円リング形状を備え、内部に設けられた樹脂経路と、前記樹脂経路に連通する樹脂注入孔及び側面孔を備えると共に、全体でリング形状を構成するように突き合わせて配置される一対の外側治具と、の間に貯留された樹脂を硬化させることにより前記樹脂部が形成されており、
前記樹脂部は、前記スロットよりも外側まで延びている固定子。
【請求項2】
前記巻線は複数の導電線により構成されており、
前記樹脂部は、前記導電線の間にも形成されている、請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
前記樹脂部は、前記スロットの一部にも形成されている請求項1または2に記載の固定子。
【請求項4】
断面矩形の半円リング形状を備え、内部に設けられた樹脂経路と、前記樹脂経路に連通する樹脂注入孔及び側面孔を備えると共に、全体でリング形状を構成するように突き合わせて配置される一対の治具。
【請求項5】
巻線がスロットに巻回され、前記巻線がその端部で折り返される立ち上り部を備え、中空で円筒形状の固定子鉄心を準備する工程と、
円筒形状を備える内側治具を、前記固定子鉄心の内面に当接し、少なくともその一部が前記固定子鉄心の前記端部からはみ出るように配置する工程と、
前記立ち上り部であって前記巻線よりも外周側に、断面矩形で半円リング形状を備え、内部に樹脂経路と、前記樹脂経路に連通する樹脂注入孔及び側面孔を備える二つの外側治具を、全体でリング形状を構成するように突き合わせて配置する工程と、
前記樹脂注入孔に樹脂を注入することにより、前記立ち上り部であって前記内側治具と前記外側治具との間に、樹脂を貯留させる工程と、
前記樹脂を硬化させて樹脂部を形成する工程と、
を備える固定子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動機の固定子、固定子の製造方法、及び治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動機の固定子において、コイルエンドにおける異相コイルの絶縁は、例えば相間紙による絶縁構造を採用することにより行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-207820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、コイルエンドのコイル巻線の立ち上がり位置にサージ電圧が印加されると、異相コイル間で部分放電が発生する場合がある。また、この部分は機械的に強度が不足する場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インバータ駆動用の電動機において、コイル巻線の立ち上がり部における部分放電を抑制し、コイル巻線の立ち上がり部の機械的強度が向上された電動機の固定子、固定子の製造方法、及び当該固定子を製造するための治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の一態様によれば、固定子は、巻線が巻回されるスロットを備える固定子鉄心と、前記スロットに巻回される前記巻線が前記固定子鉄心の端部で折り返される立ち上り部と、を備え、前記立ち上り部に樹脂部が設けられており、円筒形状を備える内側治具と、断面矩形の半円リング形状を備え、内部に設けられた樹脂経路と、前記樹脂経路に連通する樹脂注入孔及び側面孔を備えると共に、全体でリング形状を構成するように突き合わせて配置される一対の外側治具と、の間に貯留された樹脂を硬化させることにより前記樹脂部が形成されており、前記樹脂部は、前記スロットよりも外側まで延びている
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る固定子の概略構成を示す縦断面図
図2】実施形態に係る固定子に樹脂部を設ける工程の概略を示す横断面図
図3】実施形態に係る固定子に樹脂部を設ける工程の概略を示す縦断面図
図4】実施形態に係る内側治具の概略構成を示す正面図
図5】実施形態に係る内側治具の概略構成を示す上面図
図6】実施形態に係る内側治具の概略構成を示す底面図
図7】実施形態に係る外側治具の概略構成を示す透視上面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明において、同様の部位には同様の符号を付し、説明は省略する。
【0009】
以下、実施形態に係る固定子鉄心1及び外側治具5、8、内側治具12,13ついて、図1から図7を参照して説明する。図2及び図3は、電動機の固定子100に外側治具5、8、及び、内側治具12、13が配置された状態で、巻線3の立ち上り部4に樹脂部14を設ける工程を示す図である。図2図3のB-B線における横断面図、図3図2のA-A戦における縦断面図である。図2において、巻線3は省略して描いてある。
図1は、図2及び図3に示す工程を経て、固定子鉄心1の巻線3の立ち上り部4に樹脂部14が設けられた固定子100の概略構成を示している。
【0010】
実施形態に係る固定子100は、図1に示すように、内部中空の円筒形状をなし、内側に図示しない回転子が配置される空間が形成されている固定子鉄心1を備えている。固定子鉄心1は、電磁鋼板により形成された鉄心材を多数枚積層して構成されている。個々の鉄心材は、平板円環形状を呈しており、これを積層することで固定子鉄心1を構成している。
【0011】
固定子鉄心1の内側内周部には、巻線3を収容するためのスロット2が回転軸方向に延伸して設けられ、複数個が周方向に等間隔に隣接して形成されている。固定子鉄心1は、図示しない電動機を収容するフレーム内に固定されて用いられる。スロット2には巻線3が幾重にも巻回されている。巻線3は、固定子鉄心1の上下端部に位置する立ち上り部4で折り返されることにより巻回されている。巻線3は、導電線の周囲が樹脂などの絶縁物でコーティングされたものである。
【0012】
立ち上り部4において、巻線3の固定子鉄心1側には樹脂部14が設けられている。樹脂部14は例えばエポキシ樹脂のような接着性樹脂により構成されている。樹脂部14は、巻線3を構成する複数の導電線の隙間にも入り込み、固定子鉄心1側で巻線3を構成する導電線を相互に固定している。樹脂部14は接着性を備えており、固定子鉄心1表面と巻線3を一体的に固着して立ち上り部4に固定している。
【0013】
上記構成を備える固定子鉄心1によれば、コイル巻線の立ち上がり部における巻線3の部分放電が抑制され、巻線3の立ち上がり部の機械的強度が強化された電動機の固定子100を提供することができる。これにより、サージ電圧にも耐えうる構成を実現できるとともに、巻線3の立ち上がり部を保護することができる。
【0014】
図4図5及び図6に示すように、内側治具12と内側治具13は全体として中空円筒形状を備えており、同一形状を備えている。内側治具12は、中空円筒形状の頭部12aと、中空円筒形状の胴部12bを備えている。頭部12aは外径が大きく、胴部12bは、頭部12aに比べて外径が小さい。内側治具13は、中空円筒形状の頭部13aと、中空円筒形状の胴部13bを備えている。頭部13aは外径が大きく、胴部13bは、頭部13aに比べて外径が小さい。
【0015】
胴部12b、13bの外径寸法は、固定子鉄心1の内径に合致するように構成されており、内側治具12及び13を固定子鉄心1に挿入した場合に、固定子鉄心1の内径に密着して配置される。
【0016】
頭部12a、13aの外径は固定子鉄心1の内径よりも大きいため、内側治具12、13を固定子鉄心1の内部空間に挿入した場合に、頭部12a、13aの角部12c、13cが、固定子鉄心1の端面に当接して、それ以上の挿入がストップして内側治具12、13の位置を規定する。角部12c、13cはストッパの機能を備えている。
【0017】
内側治具12の頭部12aは、固定子鉄心1の上部から下方向に向けて固定子鉄心1の内部空間に挿入される。内側治具13の頭部13aは、固定子鉄心1の下方から上方向に向けて固定子鉄心1の内部空間に挿入される。この場合、それぞれの角部12c、角部13cが樹脂部14に当接する位置において、内側治具12下部の端面12dと、内側治具13下部の端面13dとが、突き合わされるようにして当接している。これにより、内側治具12及び13により構成された円筒形状構造物が、固定子鉄心1の内壁に接した状態で一体的に配置される。
【0018】
図7に示すように、外側治具5、8は断面矩形で、全体としてはリング形状を半分にした形状をなす部材であり、外側治具5と外側治具8は同一形状を備えている。外側治具5、8は、樹脂を注入するための樹脂注入孔6、樹脂を通過させるための樹脂経路7、及び樹脂を外側治具5、8外に流出させるための側面孔9を備えている。
【0019】
樹脂経路7は、固定子鉄心1の内部に設けられており、樹脂注入孔6及び側面孔9に連通する中空構造である。また、側面孔9は、樹脂経路7に連通し、固定子鉄心1の側面に開口している。樹脂注入孔6に注入された樹脂は、樹脂経路7を通過して側面孔9から流出する。
【0020】
樹脂部14の作成時には、図1及び図2に示すように、内側治具12、13が固定子鉄心1の内側に挿入される。この時、頭部12aが固定子鉄心1からはみ出している。また、外側治具5及び8は、固定子鉄心1の巻線3の立ち上り部4であって、巻線3の外周側にその端部5aと端部8aを突き合わせ、全体として一つのリングを形成するように配置される。
【0021】
このようにして、固定子鉄心1の巻線3の立ち上り部4であって巻線3の内周側と外周側に、内側治具12と外側治具5、8によって形成された壁が配置される。この場合、外側治具5と外側治具8は、樹脂注入孔6、9が上側に位置するように配置され、側面孔9が内向きすなわち巻線3側に開口するように配置されている。内側治具12と外側治具5、8によって形成された壁により形成された領域は、後述するように、樹脂が貯留する貯留領域15となる。
【0022】
次に、実施形態に係る固定子100の製造方法について説明する。実施形態に係る固定子100の製造方法には、以下の工程が含まれる。
(1)巻線3がスロット2に巻回され、巻線3がその端部で折り返される立ち上り部4を備え、中空で円筒形状の固定子鉄心1を準備する工程
(2)円筒形状を備える内側治具12、13を、固定子鉄心1の内面に当接し、少なくともその一部が固定子鉄心1の端部からはみ出るように配置する工程
(3)立ち上り部4であって巻線3よりも外周側に、断面矩形で半円リング形状を備え、内部に樹脂経路7と、樹脂経路7に連通する樹脂注入孔6及び側面孔9を備える二つの外側治具5、8を、全体でリング形状を構成するように突き合わせて配置する工程
(4)樹脂注入孔6に樹脂を注入することにより、立ち上り部4であって内側治具12,13と外側治具5,8との間に、樹脂を貯留させる工程
(5)樹脂を硬化させて樹脂部14を形成する工程
【0023】
上記工程について以下に詳細に説明する。まず、固定子鉄心1を準備し、固定子鉄心1のスロット2に巻線3を巻回する。次に、固定子鉄心1の内側に、内側治具12、13を配置する。図2及び図3においては図面における上側に内側治具12が配置され、下側に内側治具13が配置されている。立ち上り部4であって巻線3の外周側に外側治具5、8が配置される。内側治具12と外側治具5、8によって形成された壁により、樹脂を貯留する貯留領域15が形成される。
【0024】
次に、樹脂注入孔6から樹脂を注入する。樹脂注入孔6に注入された樹脂は樹脂経路7を通過して側面孔9から流出する。樹脂は、立ち上り部4であって、内側治具12と外側治具5、8によって形成された貯留領域15に貯留される。この時、貯留領域15内には巻線3が配置されており、樹脂は巻線3を構成する導電線の間の隙間にも入り込む。なお、樹脂はある程度の粘性を備えているので、スロット2内に入り込んだ樹脂は下まで流れ落ちることはない。
【0025】
適量の樹脂を注入した後、貯留領域15に貯留された樹脂を硬化させる。樹脂が熱可塑性樹脂であれば樹脂を冷却し、熱硬化性樹脂であれば樹脂に熱を加え、紫外線硬化樹脂であれば紫外線を照射する。こうして硬化された樹脂は、樹脂部14となる。樹脂部14は立ち上り部4、巻線3を構成する導電線の間、及び、立ち上り部4付近のスロット2内に形成される。
【0026】
次に、固定子鉄心1の上下を反転させ、新たな上部となった立ち上り部4に上記と同様に、巻線3の外側に外側治具5、8を配置し、内側治具13と外側治具5、8によって形成された壁により、樹脂を貯留する貯留領域15を形成する。次いで、樹脂注入孔6から樹脂を注入し、貯留領域15に樹脂を貯留させて硬化させ、樹脂部14を得る。
以上の工程により、図1に示すように、固定子鉄心1の上下の巻線3の立ち上り部4に樹脂部14が形成された固定子100が完成する。
【0027】
実施形態に係る固定子100によれば以下の効果を得る。
樹脂部14は、固定子鉄心1の巻線3の立ち上り部4に形成されるため、巻線3の絶縁性能が向上し、部分放電を抑制することができる。さらに、樹脂部14は、巻線3を構成する個々の導電線の間にも形成されるため、巻線3の絶縁性能がさらに向上し、部分放電を抑制する効果も向上する。また、樹脂部14は、巻線3、スロット2の一部、及び立ち上り部4を一体的に固定するため、巻線3を保持する強度が向上されることにより機械的強度が向上する。
【0028】
実施形態に係る固定子100は、電動機に用いられる固定子でもよいし、発電機に用いられる固定子でもよい。
実施形態に係る外側治具5、8はリング形状を半分に分割した半円リング形状を呈したものを例示したが、例えば3分割したリング形状の外側治具であってもよい。
【0029】
上述の固定子100の製造方法では、固定子鉄心1の内部空間に内側治具12と内側治具13を突き合わせるように配置してから樹脂部14の形成を行った。しかし、樹脂の粘性が十分に大きく、上側に配置した内側治具12のみが配置される範囲でしか樹脂がスロット2内に流れ落ちることがなければ、上側のみに内側治具12、及び、外側治具8、9を配置して樹脂部14の形成を行ってもよい。
【0030】
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1…固定子鉄心、2…スロット、3…巻線、4…立ち上り部、5、8…外側治具、6…樹脂注入孔、7…樹脂経路、9…側面孔、12、13…内側治具、12a、13a…頭部、12b、13b…胴部、14…樹脂部、100…固定子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7