(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】イオン注入装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20230816BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01J37/317 C
H01L21/265 603C
(21)【出願番号】P 2019200052
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド エドワード ポトキンス
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ トーマス ジャックル
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-012040(JP,A)
【文献】特開平10-090424(JP,A)
【文献】特表2005-527961(JP,A)
【文献】特表2007-531239(JP,A)
【文献】特表2008-519414(JP,A)
【文献】特開2013-206833(JP,A)
【文献】米国特許第07005656(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0097195(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0223991(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0256566(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え
、
前記複数のマグネットは、前記走査方向に前記第1カップ電極および前記第2カップ電極と並んで配置され、前記走査方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記複数のマグネットは、前記走査方向に沿って各マグネットの相反する磁極が交互に並ぶように配置されることを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項3】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記複数のマグネットは、前記走査方向に前記第1カップ電極および前記第2カップ電極と交互に配置されることを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項4】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記複数のマグネットは、各マグネットが、前記第1カップ電極と、または前記第2カップ電極と、またはそれら両方と、前記走査方向に隣接して配置されることを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項5】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記ビームプロファイラは、前記複数のマグネットのうち走査方向両端のマグネットを磁気的に結合するヨークを備えることを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項6】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記ビームプロファイラは、第1のカップ電極アレイと、第2のカップ電極アレイと、第1の複数のマグネットと、第2の複数のマグネットと、を備え、
前記第1のカップ電極アレイと前記第2のカップ電極アレイは、前記走査方向に並んで配置され、
前記第1の複数のマグネットは、前記第1のカップ電極アレイにおいて前記走査方向に沿って第1の向きで前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加し、
前記第2の複数のマグネットは、前記第2のカップ電極アレイにおいて前記走査方向に沿って前記第1の向きと反対の第2の向きで前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加することを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項7】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記第1アパチャーは、前記走査方向に細長く、
前記第2アパチャーは、前記走査方向及び前記進行方向に直交する前記イオンビームのビーム幅方向に細長いことを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項8】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記第1アパチャーおよび前記第2アパチャーは、前記ビームスキャナによって走査されていない前記イオンビームが照射される前記アパチャーアレイ上の場所を避けて配置されることを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項9】
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記ビームプロファイラは、前記イオンビームが照射される前記ビームプロファイラの前面に配置されるフロントプレートを備え、前記第1アパチャーおよび前記第2アパチャーは、前記フロントプレートに形成され、
前記第1カップ電極、前記第2カップ電極、前記複数のマグネットが前記走査方向に並んだカップ電極/マグネット列は、前記フロントプレートよりも下流に配置されることを特徴とす
るイオン注入装置。
【請求項10】
前記ビームプロファイラは、前記フロントプレートと前記カップ電極/マグネット列との間に配置される冷却プレートを備えることを特徴とする請求項
9に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記ビームプロファイラは、前記カップ電極/マグネット列を包囲する冷却ブロックを備え、
前記カップ電極/マグネット列および前記冷却ブロックは、前記複数のマグネットのうち走査方向両端のマグネットを磁気的に結合するヨークの内側に配置されることを特徴とする請求項
9または
10に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
イオン注入装置であって、
イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備え、
前記ビームプロファイラは、前記イオン注入装置のビームラインの最下流に配置されることを特徴とす
るイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびビームプロファイラに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。イオンビームのビーム電流分布を測定するために、複数のファラデーカップを並べて配置したビーム電流計測器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオンビームがファラデーカップの電極に入射するとき、電極表面から二次電子や二次イオンなどの荷電粒子が放出されうる。もし、放出された荷電粒子が再び電極に捕捉されずにファラデーカップの外部へと失われると、このファラデーカップの測定結果は、入射するイオンビームのビーム電流量を正確に表さない。そのうえ、ファラデーカップから脱出した荷電粒子が、近くにある別のファラデーカップへと流れ込むかもしれない。そうすると、この別のファラデーカップで測定されるビーム電流量も不正確となる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、イオンビームのビーム電流分布を精度よく測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、イオン注入装置は、イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、ビームスキャナよりも下流に配置され、ビームスキャナによって走査されるイオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備える。ビームプロファイラは、アパチャーアレイと、アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイと、複数のマグネットと、を備える。アパチャーアレイは、イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て第1アパチャーとは異なる形状をもち、イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備える。カップ電極アレイは、第1空洞を定めるとともに、第1ビーム部分が第1アパチャーから第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、第2空洞を定めるとともに、第2ビーム部分が第2アパチャーから第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備える。複数のマグネットは、前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って第1空洞と第2空洞に磁場を印加する。
【0007】
本発明のある態様によると、ビームプロファイラは、アパチャーアレイと、アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイと、複数のマグネットと、を備える。アパチャーアレイは、第1アパチャーと、イオンビームの進行方向から見て第1アパチャーとは異なる形状をもつ第2アパチャーと、を備える。第1アパチャーがイオンビームの第1ビーム部分を規定し、第2アパチャーがイオンビームの第2ビーム部分を規定する。カップ電極アレイは、第1空洞を定めるとともに、第1ビーム部分が第1アパチャーから第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、第2空洞を定めるとともに、第2ビーム部分が第2アパチャーから第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備える。複数のマグネットは、前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って第1空洞と第2空洞に磁場を印加する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオンビームのビーム電流分布を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るイオン注入装置を概略的に示す上面図である。
【
図2】実施の形態に係る基板搬送処理ユニットの構成を詳細に示す側面図である。
【
図3】実施の形態に係るビームプロファイラの外観を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図3に示されるビームプロファイラのA-A断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図3に示されるビームプロファイラのB-B断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図3に示されるビームプロファイラのC-C断面を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図3に示されるビームプロファイラに形成される磁気回路を模式的に示す図である。
【
図8】
図3に示されるビームプロファイラに適用されうる第1アパチャーの配列の規則を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明のある実施の形態に係るイオン注入装置1を概略的に示す上面図である。イオン注入装置1は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置である。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオン源10で発生したイオンを加速し、そうして得られたイオンビームIBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハW)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0013】
高エネルギーイオン注入装置1は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段線形加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハWまで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームをウェハWに注入する基板搬送処理ユニット20とを備える。
【0014】
イオンビーム生成ユニット12は、イオン源10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオン源10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有する。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段線形加速ユニット14の入り口部内に配置される。質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段線形加速ユニット14に導かれる。
【0015】
高エネルギー多段線形加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器を挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器を備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器を備える第2線形加速器15bを追加的に備えてもよい。
【0016】
イオンビームを高エネルギーまで加速する高周波方式の高エネルギー多段線形加速ユニット14を出た高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、高エネルギー多段線形加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームをビーム走査およびビーム平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0017】
ビーム偏向ユニット16は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、軌道補正、エネルギー分散の制御を行う。ビーム偏向ユニット16は、少なくとも二つの高精度偏向電磁石と、少なくとも一つのエネルギー幅制限スリットと、少なくとも一つのエネルギー分析スリットと、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析と、イオン注入角度の精密な補正と、エネルギー分散の抑制とを行うよう構成されている。
【0018】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギー多段線形加速ユニット14によって加速された高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハWの方向へ向かう。
【0019】
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームIBを輸送するビームライン装置であり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビームスキャナ34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段線形加速ユニット14とを合計した長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0020】
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20には、イオン注入中のウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向と直角方向に動かすプラテン駆動装置40が設けられる。また、基板搬送処理ユニット20には、ビームプロファイラ50が設けられる。ビームプロファイラ50の構成は、別途詳述する。
【0021】
イオン注入装置1のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオンビーム生成ユニット12で生成されたイオンビームIBを加速する複数のユニットで構成される。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームIBを調整してウェハWに注入する複数のユニットで構成される。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間には、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
【0022】
図2は、基板搬送処理ユニット20の構成を詳細に示す側面図であり、最終エネルギーフィルタ38から下流側の構成を示す。イオンビームIBは、最終エネルギーフィルタ38の角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)電極64にて下方に偏向されて基板搬送処理ユニット20に入射する。基板搬送処理ユニット20は、ウェハWへのイオン注入工程が実行される注入処理室60と、ウェハWを搬送するための搬送機構が設けられる基板搬送部62とを含む。注入処理室60および基板搬送部62は、基板搬送口61を介してつながる。
【0023】
注入処理室60は、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置40を備える。プラテン駆動装置40は、ウェハ保持装置42と、往復運動機構44と、ツイスト角調整機構46と、チルト角調整機構48とを含む。ウェハ保持装置42は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構44は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置42を往復運動させることにより、ウェハ保持装置42に保持されるウェハWをy方向に往復運動させる。
図2において、矢印Y1によりウェハWの往復運動を例示する。
【0024】
この実施の形態では、ビーム走査方向(x方向)は水平方向にあたる。注入処理室60でのイオンビームIBの進行方向(z方向)は、AEF電極64による偏向により、図示されるように、水平面に対して若干斜め下向きとなる。そのため、ウェハWのメカニカルスキャンの方向(y方向)は、鉛直線に対してビームラインの下流側に向けて若干斜めに傾いている。本書では、y方向をビーム幅方向と称することもある。x方向およびy方向は、z方向に直交する。
【0025】
ツイスト角調整機構46は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構46は、ウェハ保持装置42と往復運動機構44の間に設けられ、ウェハ保持装置42とともに往復運動される。
【0026】
チルト角調整機構48は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームIBの進行方向(z方向)とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構48は、往復運動機構44と注入処理室60の壁面の間に設けられており、往復運動機構44を含むプラテン駆動装置40全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0027】
注入処理室60には、イオンビームIBの軌道に沿って上流側から下流側に向けて、マスクプレート56、エネルギースリット66、プラズマシャワー装置68が設けられている。これらはプラテン駆動装置40よりも上流側に配置されている。また、注入処理室60には、イオン注入中のウェハWが配置される「注入位置」に挿入可能となるよう構成されるビーム電流測定部70が設けられる。
【0028】
マスクプレート56は、複数のアパチャーを有するビーム遮蔽体であり、アパチャーを通過するビームの一部が下流側のビームプロファイラ50やビーム電流測定部70にて測定される。マスクプレート56上のアパチャーは、例えばy方向に細長い縦スリットとx方向に細長い横スリットのように、互いに異なる方向に延びる少なくとも二種のスリットを含みうる。マスクプレート56は、マスク駆動機構58に取り付けられ移動可能とされ、測定のためにビーム軌道上に配置され、注入時にはビーム軌道から退避される。マスク駆動機構58は、マスクプレート56を例えばy方向に移動させるよう構成される。マスクプレート56は、測定時にy方向に移動することで、マスクプレート56に設けられるスリットが切り出すビーム部分のビーム断面内における位置を変化させてもよい。
【0029】
エネルギースリット66は、AEF電極64の下流側に設けられ、AEF電極64とともにウェハWに入射するイオンビームIBのエネルギー分析をする。エネルギースリット66は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット66は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームIBをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0030】
プラズマシャワー装置68は、エネルギースリット66の下流側に位置する。プラズマシャワー装置68は、イオンビームIBのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハ処理面に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置68は、例えば、イオンビームIBが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0031】
ビームプロファイラ50は、ビーム軌道の最下流に設けられ、例えば、基板搬送口61の下方に固定される。ビーム軌道上にウェハWやビーム電流測定部70が存在しないとき、イオンビームIBはビームプロファイラ50に入射する。ビームプロファイラ50は、ビームスキャナ34によって走査されるイオンビームIBのビーム電流分布を計測するよう構成される。ビームプロファイラ50による測定中、マスクプレート56はビーム軌道から退避されてもよい。ビームプロファイラ50は、マスクプレート56とともにイオンビームIBのy方向の角度分布を測定可能であってもよい。ビームプロファイラ50をマスクプレート56から離れた最下流に設けることで、角度分解能を高めることができる。
【0032】
ビーム電流測定部70は、ウェハWの表面(ウェハ処理面)におけるビーム電流を測定するためのものである。ビーム電流測定部70は、可動式となっており、注入時にはウェハ位置から退避され、ウェハWが注入位置にないときにウェハ位置に挿入される。ビーム電流測定部70は、例えば、x方向に移動しながらビーム電流量を測定し、ビーム走査方向(x方向)のビーム電流分布を測定する。ビーム電流測定部70は、マスクプレート56とともにイオンビームIBのx方向およびy方向の少なくとも一方の角度分布を測定可能となるよう構成されてもよい。
【0033】
図3は、実施の形態に係るビームプロファイラ50の外観を模式的に示す斜視図である。
図4は、
図3に示されるビームプロファイラ50のA-A断面を模式的に示す断面図である。
図5は、
図3に示されるビームプロファイラ50のB-B断面を模式的に示す断面図である。
図6は、
図3に示されるビームプロファイラ50のC-C断面を模式的に示す断面図である。
図7は、
図3に示されるビームプロファイラ50に形成される磁気回路を模式的に示す図である。
【0034】
図3に示されるように、ビームプロファイラ50は、大まかには、2つのサブユニット、すなわち第1サブユニット50aと第2サブユニット50bから構成される。ビームプロファイラ50の中央部52に対して向かって左に第1サブユニット50a、向かって右に第2サブユニット50bが配置される。2つのサブユニットはx方向に並んで配置されている。第1サブユニット50aと第2サブユニット50bは基本的に左右対称であり、類似の構成をもつ。以下、説明を簡潔にするため、両者の共通点については第1サブユニット50aを例に挙げて説明する。
【0035】
ビームプロファイラ50は、フロントプレート100、冷却プレート102、冷却ブロック104、ヨーク106を備え、これらはイオンビームIBの進行方向に上流側から順に配置され、組み立てられている。フロントプレート100と冷却プレート102はそれぞれ単一部品として設けられ、これら2つのプレートの左側の部分が第1サブユニット50aの一部を形成し、右側の部分が第2サブユニット50bの一部を形成する。冷却ブロック104、ヨーク106、および、ビームプロファイラ50の内部に収容される種々の構成部品は、サブユニットごとに設けられる。たとえば、2つのヨーク106がビームプロファイラ50には設けられ、第1サブユニット50aが一方のヨーク106を備え、第2サブユニット50bが他方のヨーク106を備える。
【0036】
フロントプレート100は、イオンビームIBが照射されるビームプロファイラ50の前面に配置され、アパチャーアレイ110を形成する。上述のように、ビームプロファイラ50に入射するイオンビームIBはx方向に走査されているため、xy平面でイオンビームIBが照射されうる領域はx方向に沿って細長い。この横長のイオンビーム領域108がフロントプレート100の前面に収まるようにフロントプレート100のx方向とy方向の寸法が定められている。よって、イオンビームIBはビームプロファイラ50に入射するときフロントプレート100の外側には照射されない。フロントプレート100は、例えばグラファイトで形成される。あるいは、フロントプレート100は、高融点金属などの金属またはその他の適する導体で形成されてもよい。
【0037】
アパチャーアレイ110は、複数の第1アパチャー111と複数の第2アパチャー112を含む。イオンビームIBの進行方向(すなわちz方向)から見て、第1アパチャー111は同じ形状を有し、また第2アパチャー112も同じ形状を有するが、第1アパチャー111と第2アパチャー112は互いに異なる形状をもつ。
【0038】
この実施の形態では、第1アパチャー111は、x方向に細長く、第2アパチャー112は、y方向に細長い。第1アパチャー111は、x方向に延びる横長スリットとしてフロントプレート100に形成され、第2アパチャー112は、y方向延びる縦長スリットとしてフロントプレート100に形成されている。
【0039】
第2アパチャー112のスリット長さ(y方向長さ)は、イオンビームIBのy方向長さに相当し、またはこれよりいくらか長いことが好ましい。第2アパチャー112は、イオンビームIBのy方向の幅全体を受け入れることができる。第1アパチャー111のスリット長さ(x方向長さ)は、比較的短い(例えば第2アパチャー112のスリット長さより短い)。そのため、ビームプロファイラ50において第1アパチャー111をx方向に複数並べても、残りのスペースに余裕が生まれやすく、複数の第2アパチャー112をx方向に配置することが容易である。スリット幅(スリット長さに直交する方向の寸法)は、第1アパチャー111と第2アパチャー112で等しくてもよいし、あるいは異なってもよい。
【0040】
第1アパチャー111は、y方向に並び、第2アパチャー112は、x方向に並んでいる。この実施の形態では、サブユニットごとに複数の第1アパチャー111と複数の第2アパチャー112が設けられている。
図3に示されるように、第1サブユニット50aには、2個の第2アパチャー112が設けられ、x方向においてこれら第2アパチャー112の間に一群の第1アパチャー111が配置される。第1アパチャー111は、y方向に二列に千鳥状に配置される。一方の列には6個の第1アパチャー111が並び、他方の列には5個の第1アパチャー111が並ぶ。合計すると、ビームプロファイラ50には、22個の第1アパチャー111と4個の第2アパチャー112が形成されている。
【0041】
フロントプレート100の前面には複数の第1凹部が形成され、第1アパチャー111は、第1凹部のそれぞれに1つずつ形成され、フロントプレート100をz方向に貫通している。同様に、フロントプレート100の前面には複数の第2凹部が形成され、第2アパチャー112は、第2凹部のそれぞれに1つずつ形成され、フロントプレート100をz方向に貫通している。z方向から見るとき、第1アパチャー111、第2アパチャー112はそれぞれ、第1凹部、第2凹部の中心に位置する。
【0042】
図4に示されるように、複数の第1アパチャー111は、それぞれが、イオンビームIBの第1ビーム部分IB
1を規定する。複数の第2アパチャー112は、それぞれが、イオンビームIBの第2ビーム部分IB
2を規定する。言い換えれば、イオンビームIBのうち、第1アパチャー111によってイオンビームIBから切り出され第1アパチャー111を通過する部分が第1ビーム部分IB
1であり、第2アパチャー112によってイオンビームIBから切り出され第2アパチャー112を通過する部分が第2ビーム部分IB
2である。第1ビーム部分IB
1と第2ビーム部分IB
2を除くイオンビームIBの他の部分は、フロントプレート100に照射され遮蔽される。
【0043】
第1アパチャー111と第2アパチャー112は、z方向に下流側に向けて(
図4では上方に向けて)テーパ状に広がっていてもよい。このようにすれば、アパチャーのテーパ状の側面へのイオン入射とその結果生じうる二次イオン、二次電子の放出を抑制することができる。
【0044】
ビームプロファイラ50は、アパチャーアレイ110に対し固定的に配置されるカップ電極アレイ120をさらに備える。アパチャーアレイ110とカップ電極アレイ120により、ビームプロファイラ50には多数のファラデーカップがxy平面に二次元的に並ぶファラデーカップのアレイが構成される。
【0045】
カップ電極アレイ120は、複数の第1カップ電極121と複数の第2カップ電極122を含む。複数の第1カップ電極121は、複数の第1アパチャー111に対応してy方向に並び、複数の第2カップ電極122は、複数の第2アパチャー112に対応してx方向に並んでいる。ビームプロファイラ50には、第1アパチャー111と同じ数の第1カップ電極121が設けられ、第2アパチャー112と同じ数の第2カップ電極122が設けられる。1つのアパチャーとこれに対応する1つのカップ電極の組み合わせによって1つのファラデーカップが構成される。カップ電極は、フロントプレート100と同様に、例えばグラファイトで形成されるが、金属またはその他の適する導体で形成されてもよい。
【0046】
この実施の形態では、第1サブユニット50aには一群の第1アパチャー111がy方向に二列に千鳥状に配置されるから、これら第1アパチャー111の下流側に一群の第1カップ電極121が配置され、第1アパチャー111の配列と同様に、y方向に二列に千鳥状に配置される。加えて、x方向においてこの一群の第1カップ電極121の両側には第2カップ電極122が配置され、これら第2カップ電極122は第1サブユニット50aの2個の第2アパチャー112の下流側に配置される。
【0047】
第1カップ電極121は、第1空洞131を定め、第2カップ電極122は、第2空洞132を定める。複数の第1カップ電極121は、それぞれが、第1ビーム部分IB1が第1アパチャー111から第1空洞131を通じて入射するように配置される。複数の第2カップ電極122は、それぞれが、第2ビーム部分IB2が第2アパチャー112から第2空洞132を通じて入射するように配置される。第1カップ電極121および第1空洞131は、第1アパチャー111に対応して、x方向に細長い形状をもつ。第2カップ電極122および第2空洞132は、第2アパチャー112に対応して、y方向に細長い形状をもつ。
【0048】
第1空洞131の形状は、第1ビーム部分IB
1が第1アパチャー111と対向する第1カップ電極121の底面123のみに入射するように定められている。よって、第1ビーム部分IB
1は、第1カップ電極121の側面に入射しない。これをより確実にするために、第1空洞131は、第1アパチャー111からz方向に離れるにつれてz方向と直交する方向に広がっていてもよい。
図4に示されるように、第1空洞131は、第1アパチャー111からz方向に離れるにつれてx方向に広がっている。
図5に示されるように、第1空洞131は、第1アパチャー111からz方向に離れるにつれてy方向にも広がっている。第1カップ電極121の底面123に対する側面の角度α
1,α
2は、例えば、80度より大きく、90度より小さくてもよい。角度α
1,α
2は、85度より大きくてもよい。言い換えれば、第1ビーム部分IB
1が第1カップ電極121の入口で第1カップ電極121の側面となす角度は、例えば、10度未満、または5度未満であってもよい。
【0049】
同様に、第2空洞132の形状は、第2ビーム部分IB
2が第2アパチャー112と対向する第2カップ電極122の底面124のみに入射するように定められている。第2ビーム部分IB
2は、第2カップ電極122の側面に入射しない。第2空洞132は、第2アパチャー112からz方向に離れるにつれてz方向と直交する方向に広がっていてもよい。
図4に示されるように、第2空洞132は、第2アパチャー112からz方向に離れるにつれてx方向に広がっている。
図6に示されるように、第2空洞132は、第2アパチャー112からz方向に離れるにつれてy方向にも広がっている。第2カップ電極122の底面124に対する側面の角度も、例えば、80度(または85度)より大きく、90度より小さくてもよい。第2ビーム部分IB
2が第2カップ電極122の入口で第2カップ電極122の側面となす角度は、例えば、10度未満、または5度未満であってもよい。
【0050】
このように、ビームプロファイラ50に入射するイオンをカップ電極の側面に入射させずに底面のみに入射させることは、カップ電極から発生しうる二次イオン、二次電子の外部への放出を防止するサプレッション磁場Bs(後述)を低減するうえで、有利である。
【0051】
また、第1アパチャー111のスリット幅(y方向の幅)は、第1空洞131のy方向の幅より小さい。第2アパチャー112のスリット幅(x方向の幅)は、第2空洞132のx方向の幅より小さい。アパチャーをカップ電極の空洞よりも狭くすることにより、入射するイオンが空洞内で電極に反射して空洞外に逃げたり、二次電子や二次イオンが空洞外に逃げるリスクが低減される。
【0052】
さらに、ビームプロファイラ50は、xy平面の面内方向に沿って第1空洞131と第2空洞132に磁場を印加する複数のマグネット140を備える。この磁場は、カップ電極から発生しうる二次イオン、二次電子の外部への放出を抑制する効果をもつ。
【0053】
この実施の形態では、複数のマグネット140は、x方向に第1カップ電極121および第2カップ電極122と並んで配置される。マグネット140をx方向に配列することは、ビームプロファイラ50のサイズをコンパクトにすることに役立つ。第1カップ電極121と第2カップ電極122がx方向に間隔を空けて並んでいるので、これをマグネット140の収納スペースとして利用できるからである。
【0054】
複数のマグネット140は、x方向に第1カップ電極121および第2カップ電極122と交互に配置される。このようにすれば、必要な磁場を比較的小型のマグネット140で生成することができる。例えば、第1カップ電極121と第2カップ電極122が並ぶカップ電極の列の両端にのみマグネット140が配置される場合に比べて、このカップ電極の列の中央部でより強い磁場を発生させることが容易になる。
【0055】
また、複数のマグネット140は、各マグネット140が、第1カップ電極121と、または第2カップ電極122と、またはそれら両方と、x方向に隣接して配置される。このようにすれば、マグネット140を第1カップ電極121と第2カップ電極122の近くに配置することでき、必要な磁場を比較的小型のマグネット140で生成することができる。とくに、カップ電極の両側にマグネットが配置される場合には、カップ電極の空洞に強い磁場を発生させることが容易になる。
【0056】
この実施の形態では、
図4に示されるように、x方向に、第2カップ電極122、第1カップ電極121、第1カップ電極121、第2カップ電極122の順に並んでいる。そこで、こうしたカップ電極の配列と交互に5個のマグネット140が配置される。また、どのカップ電極についても、その両側にマグネット140が配置される。なお、必要とされる磁場が生成される限り、これら5個のマグネット140のうち1つ又は複数のマグネットが省略されてもよい。
【0057】
第1カップ電極121、第2カップ電極122、および複数のマグネット140がx方向に並んだカップ電極/マグネット列は、フロントプレート100よりも下流に配置され、冷却プレート102が、このカップ電極/マグネット列とフロントプレート100との間に配置される。冷却プレート102は、xy寸法がフロントプレート100よりいくらか大きく、冷却プレート102の前面にフロントプレート100が固定される。冷却ブロック104は、カップ電極/マグネット列を包囲する。冷却ブロック104は、冷却プレート102の下流に配置され、冷却プレート102とともにカップ電極/マグネット列を取り囲み、熱接触している。第1カップ電極121、第2カップ電極122、およびマグネット140は、冷却プレート102及び/または冷却ブロック104に固定される。カップ電極/マグネット列および冷却ブロック104は、ヨーク106の内側に配置される。ヨーク106は、冷却ブロック104の外表面に沿ってコの字状(C字状)に延びている。
【0058】
冷却プレート102は、冷却ブロック104とともに、ビームプロファイラ50を冷却する冷却系を構成する。冷却系は、イオンビームIBの照射に伴うビームプロファイラ50への入熱による過剰な温度上昇を抑制し、ビームプロファイラ50を適切な温度に制御するように構成されている。フロントプレート100は、冷却プレート102によって冷却される。また、冷却ブロック104は主に、カップ電極へのイオン入射に伴いカップ電極で発生する熱を効率的に取り除くことができる。
【0059】
冷却プレート102と冷却ブロック104は、例えばアルミ材で形成されるが、その他の適する金属または高熱伝導材料で形成されてもよい。
図4から
図6に示されるように、冷却プレート102と冷却ブロック104には、冷媒(例えば冷却水)を流すための冷媒流路150が各所に形成されている。例示的な構成においては、冷却プレート102の側面に冷媒流入口が設けられ、そこから冷却プレート102の冷媒流路150に冷媒が供給される。冷媒は、第1サブユニット50aの冷却ブロック104の冷媒流路150へと流れ、冷却プレート102を経由して第2サブユニット50bの冷却ブロック104の冷媒流路150へと流れ、冷却プレート102へと再び戻される。冷媒は、冷却プレート102の別の側面に設けられた冷媒流出口から排出される。
【0060】
冷却プレート102はフロントプレート100とカップ電極/マグネット列の間に配置されているから、冷却プレート102には、
図4に示されるように、第1アパチャー111を第1カップ電極121の第1空洞131につなぐように冷却プレート102をz方向に貫通する第1貫通孔151が形成されている。第1ビーム部分IB
1は、第1アパチャー111から第1貫通孔151を通って第1空洞131に入る。同様に、冷却プレート102には第2貫通孔152が形成され、第2ビーム部分IB
2は、第2アパチャー112から第2貫通孔152を通って第2空洞132に入る。
【0061】
また、第1カップ電極121と第2カップ電極122を周囲の導体から電気的に絶縁するためのインシュレータ部材が設けられている。例えば、第1フロントインシュレータ161は、第1カップ電極121の第1空洞131への入口を囲むように配置され、冷却プレート102と第1カップ電極121の前面との間に挟み込まれている。第2フロントインシュレータ162は、第2カップ電極122の第2空洞132への入口を囲むように配置され、冷却プレート102と第2カップ電極122の前面との間に挟み込まれている。第1バックインシュレータ163、第2バックインシュレータ164はそれぞれ、第1カップ電極121、第2カップ電極122の背面と冷却ブロック104の間に挟み込まれている。こうしたインシュレータ部材は、例えば窒化アルミニウムなどのセラミックス、またはその他適宜の絶縁材料で形成される。
【0062】
第1バックインシュレータ163の近傍に、例えば第1バックインシュレータ163の背面に隣接して、第1カップ電極121に入射する第1ビーム部分IB1のビーム電流量を測定する計測回路基板が配置されてもよい。同様に、第2バックインシュレータ164の近傍に、例えば第2バックインシュレータ164の背面に隣接して、第2カップ電極122に入射する第2ビーム部分IB2のビーム電流量を測定する計測回路基板が配置されてもよい。
【0063】
第1アパチャー111および第2アパチャー112は、ビームスキャナ34によって走査されていないイオンビームIB(静止イオンビームともいう)が照射されるアパチャーアレイ110上の場所を避けて配置されてもよい。この実施の形態においては、静止イオンビームは、ビームプロファイラ50の中央部52に照射される。
【0064】
したがって、
図3に示されるように、第1アパチャー111と第2アパチャー112は、ビームプロファイラ50の中央部52を避けて配置される。静止イオンビームは、第1アパチャー111と第2アパチャー112に照射されない。このようにして、静止イオンビームの照射位置としてビームプロファイラ50の中央部52が利用され、フロントプレート100は、ビームダンパの役割を果たすことができる。
【0065】
仮に、静止イオンビームの照射位置にアパチャーがあったとすると、ビームの待機中、照射を受けるアパチャーから対応するカップ電極にビームが継続的に入射し、カップ電極が過剰に加熱されるかもしれない。しかし、上述のように、静止イオンビームの照射位置を避けてアパチャーが配置されるので、そのような問題は避けられる。
【0066】
また、
図3を参照すると、フロントプレート100上で両端(すなわち左右の外側)に位置する2個の第2アパチャー112はそれぞれ、フロントプレート100上でイオンビームIBが入射する領域の走査方向端部に位置する。ビームプロファイラ50は、これら両端の第2アパチャー112のうち少なくとも一方が注入処理室60内で注入位置に位置するウェハWの外周よりも外側に位置するように構成されてもよい。そのようにすれば、イオン注入中にウェハWの外側をイオンビームIBが通過し、これをビームプロファイラ50が第2アパチャー112で受け、ビーム電流を測定することができる。この測定結果は、例えばイオン注入中に、または次回のイオン注入で、イオンビームIBを制御するために使用されてもよい。
【0067】
次に、
図7を参照して、ビームプロファイラ50に形成される磁気回路を説明する。ビームプロファイラ50の第1サブユニット50aは、上述のように、第1カップ電極121と第2カップ電極122を含む第1のカップ電極アレイ120と、第1の複数のマグネット140とを備える。同様に、第2サブユニット50bは、第1カップ電極121と第2カップ電極122を含む第2のカップ電極アレイ120と、第2の複数のマグネット140とを備える。第1および第2のカップ電極アレイ120は、x方向に並んで配置される。
【0068】
複数のマグネット140は、x方向に沿って各マグネット140の相反する磁極(すなわち、N極とS極)が交互に並ぶように配置される。マグネット140は、永久磁石である。ヨーク106は、複数のマグネット140のうちx方向両端のマグネット140を磁気的に結合するリターンヨークである。ヨーク106は、例えば純鉄またはその他の軟磁性材料で形成される。このような磁気回路により、マグネット140は、
図7に示されるように、x方向に沿って第1空洞131と第2空洞132にサプレッション磁場Bsを印加する。サプレッション磁場Bsは、主に、フロントプレート100よりも下流側に印加される。
【0069】
この実施の形態では、第1の複数のマグネット140は、第1のカップ電極アレイ120においてx方向に沿って第1の向きで第1空洞131と第2空洞132に磁場を印加する。第2の複数のマグネット140は、第2のカップ電極アレイ120においてx方向に沿って第1の向きと反対の第2の向きで第1空洞131と第2空洞132に磁場を印加する。
図7に示されるように、第1サブユニット50aにおいては、すべてのマグネット140が左側にN極、右側にS極を向けて配置される。逆に、第2サブユニット50bにおいては、すべてのマグネット140が左側にS極、右側にN極を向けて配置される。
【0070】
このように、左右のサブユニットで磁性を逆方向とすると、左右のサブユニットのマグネット140が発生させる磁場を面対称とすることができ、その結果、ビームプロファイラ50の中央部52での漏れ磁場を抑制することができる。ビームプロファイラ50の中央部52でイオンビームIBのビーム電流を検出しようとするとき(とくに、走査されていないイオンビームIBがビームプロファイラ50の中央部52に照射される場合において)、漏れ磁場はイオンビームIBに影響しうる。漏れ磁場を抑制することにより、イオンビームIBのビーム電流をより正確に検出することができる。
【0071】
サプレッション磁場Bsの大きさを設計するための例示的な方法を述べる。この実施の形態では、入射するイオンはすべてカップ電極の底面に照射される。二次イオンが生じるとしたら、それはカップ電極の底面から発生することになる。カップ電極の側面にイオンは当たらないので、そこから二次イオンは生じない。
【0072】
二次イオンとして、設計上想定される最も重い一価イオン(例えば、イオン注入装置1における注入イオン種としてホウ素、リン、アルゴン、ヒ素を使用可能とする場合には、ヒ素の一価イオン)が考慮される。このイオンがカップ電極の底面から発して空洞から脱出しうる軌跡のうち、最小の曲げ半径をもつ軌跡は、幾何学的に求められる。
【0073】
この最小曲げ半径の軌跡は、サプレッション磁場Bsがx方向の場合、
図5に破線の矢印171で示されるように、第1カップ電極121の底面123の下端から発して第1カップ電極121の入口下端に達する円弧となる。この円弧は、第1カップ電極121の上側の側面に接する。第2カップ電極122については、
図6に破線の矢印172で示されるように、第2カップ電極122の底面124から発して第2カップ電極122の入口に達する半円となる。
【0074】
想定される二次イオンに矢印171、172で示される円運動を行わせる最小の磁場を求めることができる。したがって、カップ電極の空洞にこの最小の磁場を上回るサプレッション磁場Bsを印加するようにマグネット140が設計される。そうすれば、当該二次イオンは、より小さい半径の円運動をするので、空洞からの脱出は防止される。最も重いイオンを考慮しているので、より軽い二次イオン、二次電子の脱出も防止される。
【0075】
よって、マグネット140が生成するサプレッション磁場Bsにより、カップ電極内で生じうる二次イオン、二次電子を空洞内に封じ込めることができる。なお、イオンビームIBとして入射するイオンは、二次イオンに比べて顕著に高いエネルギー(例えば数百から数千倍以上)をもつので、イオンビームIBはサプレッション磁場Bsから実質的に影響を受けない。
【0076】
図8は、
図3に示されるビームプロファイラ50に適用されうる第1アパチャー111の配列の規則を示す模式図である。複数の第1アパチャー111は、ある列の第1アパチャー111が他の列の第1アパチャー111からy方向に位置をずらすようにして、少なくとも二列で配置される。x方向から見るとき、少なくとも二列の第1アパチャー111が、y方向に隙間無く並んでいる。
【0077】
上述のように、第1サブユニット50aの第1アパチャー111は、y方向に二列に千鳥状に配置される。左側の列181には6個の第1アパチャー111が並び、右側の列182には5個の第1アパチャー111が並ぶ。同様に、第2サブユニット50bの第1アパチャー111は、y方向に二列に千鳥状に配置される。左側の列183には5個の第1アパチャー111が並び、右側の列184には6個の第1アパチャー111が並ぶ。第2サブユニット50bの第1アパチャー111は、第1サブユニット50aの第1アパチャー111に対してy方向に位置をずらすようにして配置される。このようにして、四列(181~184)の第1アパチャー111は、互いにy方向の位置が異なっている。
【0078】
x方向から見るとき、これら四列の第1アパチャー111は、y方向に隙間無く並んでいる。第1アパチャー111は、上から下へと、列181、列184、列182、列183の順に並んでいる。
【0079】
このようにして、y方向に密集して配列された第1アパチャー111の一次元アレイ185を仮想的に作ることができる。こうしたアレイを現実にy方向に一列で製作しようとすると、隣り合う第1アパチャー111が一体化され、また、第1アパチャー111の背後で隣り合う第1カップ電極121が物理的に干渉することになるので、困難である。しかしながら、この実施の形態によれば、それぞれの第1アパチャー111を通じて第1カップ電極121で検出されるビーム電流をy方向の位置に対応させて統合することにより、y方向に密集して配列されたファラデーカップのアレイを仮想的に構築でき、高解像度のビーム電流分布を得ることができる。
【0080】
なお、各列の第1アパチャー111は、y方向に互いに部分的に重なって並んでもよい。あるいは、各列の第1アパチャー111は、y方向に互いにいくらかの隙間をあけて並んでもよい。いずれにしても、単一の列(例えば列181)のみによって得られるファラデーカップのアレイよりも密集したファラデーカップのアレイを仮想的に構築でき、高解像度のビーム電流分布を得ることができる。
【0081】
以上に説明したように、実施の形態に係るビームプロファイラ50は、z方向から見て第1アパチャー111と第2アパチャー112が異なる形状をもつ。そのため、イオンビームIBのビーム電流分布に関して、異なる開口形状に依存して異なる情報を取得することができる。
【0082】
第1アパチャー111は、それぞれがx方向に細長い形状をもつので、対応する第1カップ電極121との組み合わせにより横長ファラデーカップが形成され、それにより、第1アパチャー111のy方向位置でのビーム電流を測定することができる。複数の第1アパチャー111と第1カップ電極121の組、すなわち複数の横長ファラデーカップがy方向に配列されているので、ビームプロファイラ50は、イオンビームIBのy方向ビーム電流分布を測定することができる。とくに、上述のように、複数の第1アパチャー111の列(181~184)は、高度に密集した横長ファラデーカップの一次元アレイ185を仮想的に構築するので、ビームプロファイラ50は、高解像度のビーム電流分布を得ることができる。
【0083】
第2アパチャー112は、それぞれがy方向に細長い形状をもつので、対応する第2カップ電極122との組み合わせにより縦長ファラデーカップが形成され、それにより、第2アパチャー112のx方向位置でのビーム電流を測定することができる。複数の第2アパチャー112と第2カップ電極122の組、すなわち複数の縦長ファラデーカップがx方向に配列されているので、ビームプロファイラ50は、イオンビームIBのx方向ビーム電流分布を測定することができる。
【0084】
ビームプロファイラ50は、z方向に直交する方向(例えばx方向)に沿って第1空洞131と第2空洞132にサプレッション磁場Bsを印加するように構成される。サプレッション磁場Bsは、カップ電極の空洞に入射するイオンによって生じうる二次イオン、二次電子の空洞からの放出を抑制し、それにより他のカップ電極の空洞への二次イオン、二次電子の流入を抑制することができる。したがって、こうした二次的な荷電粒子に起因する個々のファラデーカップでのビーム電流の測定誤差を防止または低減することができる。ビームプロファイラ50は、イオンビームIBのビーム電流分布を精度よく測定することができる。
【0085】
こうした測定誤差が低減される結果、複数のファラデーカップ(アパチャー/カップ電極の組)を近くに配置でき、これはビームプロファイラ50をコンパクトに設計することに役立つ。また、複数のファラデーカップの近接配置は、ビーム電流分布をより高解像度で測定することにも役立つ。
【0086】
個々のカップ電極を2つのマグネット140で挟むサンドイッチ構造も、ビームプロファイラ50をコンパクトに設計することに役立つ。
【0087】
以上、本発明を実施形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0088】
ビームプロファイラ50は、3以上のサブユニットを有してもよい。複数のサブユニットで構成することに代えて、ビームプロファイラ50は、単一のユニットで構成されてもよい。
【0089】
アパチャーの形状、方向、配列、数は、種々ありうる。例えば、アパチャーの形状が細長いことは必須ではない。第1アパチャー111(及び/または第2アパチャー112)は、円形、矩形、またはその他の形状を有してもよい。また、第1アパチャー111(及び/または第2アパチャー112)は、斜め方向に延びていてもよい。アパチャーアレイ110は、第1アパチャー111を1つだけ備えてもよく、及び/または、第2アパチャー112を1つだけ備えててもよい。アパチャーアレイ110は、第1アパチャー111および第2アパチャー112と相違する第3アパチャーを備えてもよい。
【0090】
上述の実施の形態では、サプレッション磁場Bsは第1空洞131と第2空洞132でx方向を向いている。しかし、ビームプロファイラ50は、xy平面における他の面内方向(例えばy方向)に沿って第1空洞131と第2空洞132にサプレッション磁場Bsを印加する複数のマグネットを備えてもよい。この場合、複数のマグネットは、第1カップ電極121(及び/または第2カップ電極122)をy方向に挟むように配置されてもよい。
【0091】
上述の実施の形態では、ビームプロファイラ50は、イオン注入装置1のビームラインの最下流に配置されるが、ビームプロファイラ50の配置場所はこれに限定されない。ビームプロファイラ50は、注入処理室60内の他の場所、またはイオン注入装置1内の他の場所に配置されてもよい。マスクプレート56やビーム電流測定部70のように、ビームプロファイラ50は、測定時にビーム軌道上に配置され、イオン注入時にビーム軌道から退避するように移動可能に構成されてもよい。
【0092】
上述の実施の形態では、イオン注入装置1は、いわゆるハイブリッドスキャン方式(イオンビームIBのx方向走査とウェハWのy方向往復移動によりウェハWの被照射域全体にイオン注入をする方式)で構成されている。ビームプロファイラ50は、こうした方式のイオン注入装置1への適用には限定されない。ビームプロファイラ50は、他の形式のイオン注入装置にも適用可能である。
【0093】
本発明の実施の形態は以下のように表現することもできる。
【0094】
1.イオンビームをその進行方向に直交する走査方向に走査するビームスキャナと、
前記ビームスキャナよりも下流に配置され、前記ビームスキャナによって走査される前記イオンビームのビーム電流分布を計測するビームプロファイラと、を備え、
前記ビームプロファイラは、
前記イオンビームの第1ビーム部分を規定する第1アパチャーと、前記進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもち、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定する第2アパチャーと、を備えるアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【0095】
2.前記複数のマグネットは、前記走査方向に前記第1カップ電極および前記第2カップ電極と並んで配置され、前記走査方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加することを特徴とする実施形態1に記載のイオン注入装置。
【0096】
3.前記複数のマグネットは、前記走査方向に沿って各マグネットの相反する磁極が交互に並ぶように配置されることを特徴とする実施形態1または2に記載のイオン注入装置。
【0097】
4.前記複数のマグネットは、前記走査方向に前記第1カップ電極および前記第2カップ電極と交互に配置されることを特徴とする実施形態1から3のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0098】
5.前記複数のマグネットは、各マグネットが、前記第1カップ電極と、または前記第2カップ電極と、またはそれら両方と、前記走査方向に隣接して配置されることを特徴とする実施形態1から4のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0099】
6.前記ビームプロファイラは、前記複数のマグネットのうち走査方向両端のマグネットを磁気的に結合するヨークを備えることを特徴とする実施形態1から5のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0100】
7.前記ビームプロファイラは、第1のカップ電極アレイと、第2のカップ電極アレイと、第1の複数のマグネットと、第2の複数のマグネットと、を備え、
前記第1のカップ電極アレイと前記第2のカップ電極アレイは、前記走査方向に並んで配置され、
前記第1の複数のマグネットは、前記第1のカップ電極アレイにおいて前記走査方向に沿って第1の向きで前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加し、
前記第2の複数のマグネットは、前記第2のカップ電極アレイにおいて前記走査方向に沿って前記第1の向きと反対の第2の向きで前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加することを特徴とする実施形態1から6のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0101】
8.前記アパチャーアレイは、前記走査方向及び前記進行方向に直交する前記イオンビームのビーム幅方向に並ぶ複数の第1アパチャーを備え、
前記カップ電極アレイは、前記複数の第1アパチャーに対応して前記ビーム幅方向に並ぶ複数の第1カップ電極を備え、
前記複数の第1アパチャーは、それぞれが、前記イオンビームの第1ビーム部分を規定し、
前記複数の第1カップ電極は、それぞれが、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置されることを特徴とする実施形態1から7のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0102】
9.前記複数の第1アパチャーは、ある列の第1アパチャーが他の列の第1アパチャーから前記ビーム幅方向に位置をずらすようにして少なくとも二列で配置され、
前記走査方向から見るとき、前記少なくとも二列の第1アパチャーが、前記ビーム幅方向に隙間無くまたは互いに部分的に重なって並んでいることを特徴とする実施形態8に記載のイオン注入装置。
【0103】
10.前記第1アパチャーは、前記走査方向に細長く、
前記第2アパチャーは、前記走査方向及び前記進行方向に直交する前記イオンビームのビーム幅方向に細長いことを特徴とする実施形態1から9のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0104】
11.前記アパチャーアレイは、前記走査方向に並ぶ複数の第2アパチャーを備え、
前記カップ電極アレイは、前記複数の第2アパチャーに対応して前記走査方向に並ぶ複数の第2カップ電極を備え、
前記複数の第2アパチャーは、それぞれが、前記イオンビームの第2ビーム部分を規定し、
前記複数の第2カップ電極は、それぞれが、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置されることを特徴とする実施形態1から10のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0105】
12.前記第1アパチャーおよび前記第2アパチャーは、前記ビームスキャナによって走査されていない前記イオンビームが照射される前記アパチャーアレイ上の場所を避けて配置されることを特徴とする実施形態1から11のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0106】
13.前記第1空洞は、前記第1アパチャーから前記進行方向に離れるにつれて前記進行方向と直交する方向に広がり、及び/または、前記第2空洞は、前記第2アパチャーから前記進行方向に離れるにつれて前記進行方向と直交する方向に広がっていることを特徴とする実施形態1から12のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0107】
14.前記ビームプロファイラは、前記イオンビームが照射される前記ビームプロファイラの前面に配置されるフロントプレートを備え、前記第1アパチャーおよび前記第2アパチャーは、前記フロントプレートに形成され、
前記第1カップ電極、前記第2カップ電極、前記複数のマグネットが前記走査方向に並んだカップ電極/マグネット列は、前記フロントプレートよりも下流に配置されることを特徴とする実施形態1から13のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0108】
15.前記ビームプロファイラは、前記フロントプレートと前記カップ電極/マグネット列との間に配置される冷却プレートを備えることを特徴とする実施形態14に記載のイオン注入装置。
【0109】
16.前記ビームプロファイラは、前記カップ電極/マグネット列を包囲する冷却ブロックを備え、
前記カップ電極/マグネット列および前記冷却ブロックは、前記複数のマグネットのうち走査方向両端のマグネットを磁気的に結合するヨークの内側に配置されることを特徴とする実施形態14または15に記載のイオン注入装置。
【0110】
17.前記ビームプロファイラは、前記イオン注入装置のビームラインの最下流に配置されることを特徴とする実施形態1から16のいずれかに記載のイオン注入装置。
【0111】
18.第1アパチャーと、イオンビームの進行方向から見て前記第1アパチャーとは異なる形状をもつ第2アパチャーと、を備え、前記第1アパチャーが前記イオンビームの第1ビーム部分を規定し、前記第2アパチャーが前記イオンビームの第2ビーム部分を規定するアパチャーアレイと、
前記アパチャーアレイに対し固定的に配置されるカップ電極アレイであって、
第1空洞を定めるとともに、前記第1ビーム部分が前記第1アパチャーから前記第1空洞を通じて入射するように配置される第1カップ電極と、
第2空洞を定めるとともに、前記第2ビーム部分が前記第2アパチャーから前記第2空洞を通じて入射するように配置される第2カップ電極と、を備えるカップ電極アレイと、
前記進行方向に直交する平面における面内方向に沿って前記第1空洞と前記第2空洞に磁場を印加する複数のマグネットと、を備えることを特徴とするビームプロファイラ。
【符号の説明】
【0112】
1 イオン注入装置、 34 ビームスキャナ、 50 ビームプロファイラ、 100 フロントプレート、 102 冷却プレート、 104 冷却ブロック、 106 ヨーク、 110 アパチャーアレイ、 111 第1アパチャー、 112 第2アパチャー、 120 カップ電極アレイ、 121 第1カップ電極、 122 第2カップ電極、 131 第1空洞、 132 第2空洞、 140 マグネット、 IB イオンビーム。