(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】液体試料の燃焼方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230816BHJP
G01N 31/12 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
G01N31/00 Q
G01N31/12 A
(21)【出願番号】P 2020124266
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591061208
【氏名又は名称】日東精工アナリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 昌人
(72)【発明者】
【氏名】林 則夫
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 朋和
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-275327(JP,A)
【文献】特開2003-65958(JP,A)
【文献】特開2004-125404(JP,A)
【文献】特開2011-237316(JP,A)
【文献】特開2021-196332(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108572232(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 31/12
G01N 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを含む液体試料を定量分析するに当たり、外管および内管からなる二重管構造の反応管を備えた試料燃焼装置により、液体試料を燃焼させて試料ガスを生成する液体試料の燃焼方法であって、前記反応管を所定温度に加熱した状態において、前記外管に酸素を導入し且つ前記内管にキャリアガスを導入すると共に、前記内管に所定量の液体試料を注入して液体試料を分解した後、前記内管に酸素を導入し且つ前記外管にキャリアガスを導入すると共に、前記内管に純水を供給して水蒸気を発生させることを特徴とする液体試料の燃焼方法。
【請求項2】
試料燃焼装置として、反応管の外管には、外周部に気体導入口が設けられ、前記反応管の内管には、一端の試料注入口に気体導入口が付設され且つ一端部に水導入口が設けられており、前記外管と前記内管の各気体導入口には、酸素を供給する流路とキャリアガスを供給する流路がそれぞれ接続され、かつ、これらの流路には、前記各気体導入口に対する酸素とキャリアガスの供給を切り替える流路切替手段が設けられている試料燃焼装置を使用する請求項1に記載の液体試料の燃焼方法。
【請求項3】
試料燃焼装置として、縦型の反応管を備え、前記反応管の内管には、当該内管の胴部に内周側に膨出する系止部が形成され、かつ、上端が開口した試料容器が装入され、当該試料容器は、前記内管の内部において前記系止部で支持されている試料燃焼装置を使用する請求項1又は2に記載の液体試料の燃焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料の燃焼方法に関するものであり、詳しくは、液体試料中のハロゲンなどの微量成分の定量分析に適用される液体試料の燃焼方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ディーゼル燃料、オイル、ガソリン等の石油類などの品質を評価する場合には、これら液体試料を燃焼分解して生成される試料ガスを吸収液に吸収させ、イオンクロマトグラフ、容量滴定法、電量滴定法、吸光光度法などを利用し、微量のハロゲンを定量分析し、また、硫黄や窒素の定量分析を行う。
【0003】
上記のような液体試料の定量分析においては、前処理として試料を燃焼させるため、電気炉内に配置される反応管および試料供給用のボートを備えた試料燃焼装置が使用される。反応管は、酸素を供給可能に構成され且つ加熱手段によって外周側から加熱可能になされた外管と、キャリアガスを供給可能に構成され且つ外管の基端から当該外管内部に挿入された内管とからなる二重管であり、内管は、試料供給用のボートにより試料が装入され且つ水蒸気を供給可能に構成されている。
【0004】
ハロゲンを含む石油類などの有機試料の燃焼においては、反応管を加熱しながら、外管に酸素を導入し、同時に、内管にキャリアガスを導入しながら試料を装入し且つ水蒸気を導入することにより、水蒸気の存在下で試料を燃焼させ、試料中のハロゲンを目的成分であるハロゲン化水素に変換して試料ガスとして回収する。(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-125404号公報
【文献】特開2008-275327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハロゲンを含む液体試料の分析においては、分析精度を高める観点から、十分な量の純水を反応管に供給し、かつ、試料をより完全に燃焼させ、試料中のハロゲンを出来る限りハロゲン化水素に変換し、吸収液でのハロゲン化水素の回収率を高める必要がある。
【0007】
しかしながら、従来の燃焼方法においては、内管に試料を装入する際、キャリアガスと共に水蒸気を導入し、更に外管に酸素を導入するため、換言すれば、加湿しながら燃焼させるため、反応管内における気体の流量が増加し且つ流速も大きくなり、不完全燃焼を惹起し易くなる。そのため、試料の燃焼状態を勘案し、ボートの移動速度をコントロールしながら、十分に時間を掛けて試料を導入する必要がある。例えば100μlの試料を燃焼させるには10~20分という時間を要している。その結果、分析時間の短縮が難しいという実情がある。
【0008】
更に、ボート方式の試料燃焼装置では、上記のように試料の不完全燃焼を低減する観点から、試料の種類や処理量に応じて、予め設定されたプログラムを選択し、ボートの移動速度や反応管の加熱温度を設定しているが、プログラムが多数になるため、その選択を誤る虞がある。
【0009】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくともハロゲンを含む液体試料の定量分析に適用される燃焼方法であって、分析時間を一層短縮でき、分析精度をさらに高めることができ、しかも、操作が一層容易な液体試料の燃焼方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明者等は、ハロゲンを含む液体試料の燃焼処理において、反応管内のガスの流量変動に着目し、試料を完全燃焼させるべく種々検討の結果、予め、水蒸気を発生させることなく十分な熱量で試料を分解するならば、反応管内におけるガスの発生量を安定させて短時間で試料を分解できることを見出した。更に、目的成分であるハロゲン化水素の生成効率を高めるべく検討した結果、試料の分解後に酸素を導入し且つ水蒸気を発生させるならば、水蒸気の存在下で分解ガスを更に燃焼させることができ、しかも、意外にも、ハロゲン化水素の回収率を一層高め得ることを知徳し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、ハロゲンを含む液体試料を定量分析するに当たり、外管および内管からなる二重管構造の反応管を備えた試料燃焼装置により、液体試料を燃焼させて試料ガスを生成する液体試料の燃焼方法であって、前記反応管を所定温度に加熱した状態において、前記外管に酸素を導入し且つ前記内管にキャリアガスを導入すると共に、前記内管に所定量の液体試料を注入して液体試料を分解した後、前記内管に酸素を導入し且つ前記外管にキャリアガスを導入すると共に、前記内管に純水を供給して水蒸気を発生させることを特徴とする液体試料の燃焼方法に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内管において十分に試料を加熱分解した後、内管において十分な量の水蒸気を発生させながら、残存する気化ガスを含めて完全に燃焼させるため、極めて短時間で液体試料を燃焼処理することができ、分析に要する時間を一層短縮することができる。しかも、不完全燃焼を低減できるため、目的成分であるハロゲン化水素の回収率を高めることができ、分析精度を一層高めることができる。更に、ボート制御用の複数のプログラムを必要とせず、試料の注入量を調節する簡単な操作で試料を燃焼処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る液体試料の燃焼方法を示す工程図である。
【
図2】本発明に係る液体試料の燃焼方法において使用される試料燃焼装置の構成例を示すフロー図である。
【
図3】
図2の試料燃焼装置における主要部の構成を示す展開図である。
【
図4】
図2の試料燃焼装置に使用される反応管の構成例を一部破断して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る液体試料の燃焼方法(以下、「燃焼方法」と略記する。)の実施形態について図面に基づいて説明する。本発明の燃焼方法は、ハロゲンを含む液体試料を定量分析する際に適用される。液体試料としては、典型的には石油類などの有機試料が挙げられ、分析対象成分としては、ハロゲンの他、硫黄や窒素が含まれていてもよい。本発明の燃焼方法においては、外管および内管からなる二重管構造の反応管を備えた試料燃焼装置により、液体試料を燃焼させて試料ガスを生成する。
【0015】
先ず、本発明で使用される試料燃焼装置について説明する。試料燃焼装置としては、試料供給用のボートにより試料が導入される横型の反応管を備えた試料燃焼装置、あるいは、マイクロシリンジによって試料が注入される縦型の反応管を備えた試料燃焼装置の何れも使用可能であり、より多量の液体試料を注入できる点においては、縦型の反応管を備えた試料燃焼装置が好ましい。
図2~
図4には、好ましい態様として、縦型の反応管を備えた試料燃焼装置を例示するが、その構成は、マイクロシリンジにより試料を注入する機構を除き、横型の反応管を備えた試料燃焼装置においても実施可能である。なお、図示した試料燃焼装置については、反応管の一端を上端、他端を下端として説明する。
【0016】
図2に示す試料燃焼装置は、加熱手段6により外周側から加熱される二重管構造の縦型の反応管1を備えている。反応管1は、
図3及び
図4に示すように、外周部に気体導入口21が設けられた外管2と、当該外管の上端から内部に挿入された内管3とから構成される。内管3には、上端の試料注入口31に気体導入口41(
図3参照)が付設され且つ上端部に水導入口32が設けられている。そして、
図2及び
図3に示すように、反応管1は、円筒型ヒーター等の電気炉からなる加熱手段6に装入されている。上記の電気炉としては、試料を短時間で加熱するため、通常、出力0.7~1.5kw程度のものが使用される。なお、加熱手段6は、内部に挿入されたセンサーにより反応管1の温度を検出し、所定温度を維持するように構成される。
【0017】
図3に示すように、反応管1の上端は、試料燃焼装置の本体に当該反応管を固定しするための固定ブロック4に取り付けられる。斯かる固定ブロック4には、キャリアガス(又は酸素)を反応管1の内管3に導入するための流路が設けられており、また、試料注入ノズルを貫通可能なシリコン等からなる円盤状のセプタム(隔壁)が内蔵されている。そして、インジェクターとしてのマイクロシリンジ8は、固定ブロック4のセプタムに試料注入ノズルを貫通させて内管3の上端から液体試料を注入するようになされている。
【0018】
図4に示すように、外管2、内管3とも、通常は石英ガラスを成形加工して作製される。外管2は、外径が25~35mm程度、高さが350~400mm程度に設計される。外管2の上端部には、上方に向かうに従い漸次拡径されたテーパー部2aが形成され且つその内周面が摺り継手として構成されている。また、外管2の上部には、酸素(又はキャリアガス)を導入するための気体導入口21が設けられている。そして、外管2の下端部は、燃焼分解して得られた試料ガスを取り出すための試料ガス取出口22とされている。なお、
図2に示すように、外管2の下端部には、燃焼を安定化させるための石英綿50、充填材51及び石英綿52が充填される。
【0019】
一方、
図4に示すように、内管3は、外径が20~25mm程度、高さが200~250mm程度に設計される。内管3の上部には、外管2の外径と同程度まで拡径された膨出部3aが形成され、その外周面が摺り継手として構成されている。内管3の上端部は、上記の固定ブロック4(
図3)を介してマイクロシリンジ8によって液体試料を注入し且つキャリアガス(又は酸素)を導入するための試料注入口31として開口されている。また、内管3の上部の膨出部3aには、純水を導入するための水導入口32が設けられている。そして、内管3の下端部には、試料を加熱分解および燃焼させて得られた気化ガスを外管2へ導くためのスリット33が設けられている。斯かるスリット33は、底面側から見て例えば十字状切り込まれた形状を備えている。
【0020】
更に、好ましい態様においては、液体試料の注入速度を高め且つ注入量を増大させるため、
図4に示すように、反応管1は、従来の石英綿に代えて、試料容器7が内管3に装入される構造を備えている。具体的には、反応管1において、内管3の胴部3cには、内周側に膨出する系止部3pが形成されており、内管3には、上端が開口した試料容器7が装入され、当該試料容器は、内管3の内部において系止部3pで支持されている。
【0021】
内管3の系止部3pは、その製作の際のガラス加工により、
図4に例示するような複数の略円錐台状の突起、または、胴部3cを絞った構造の円環状の突起で構成される。そして、斯かる系止部3pは、内管3の底部から当該内管の長さの30~60%に相当する高さLの位置に設けられる。突起として賦形された系止部3pを内管3に設けることにより、試料容器7を簡単に出し入れすることができ、また、内管3を容易に洗浄することができる。
【0022】
試料容器7は、内管3に注入された液体試料を貯留する容器であり、繰り返し使用する場合の耐久性の観点から、セラミックで形成されているのが好ましい。試料容器7は、内管3の上端から滴下される液体試料を受け止めることができ且つ内管3に対して出し入れできる形状であれば特に制限されるものではないが、例えば
図2に示すような有底円筒状あるいは椀状などの適宜の形状に形成される。試料容器7の外径は10~15mm程度、高さは7~15mm程度、内容積は0.2~1.0ml程度に設計される。
【0023】
図2に示すように、試料燃焼装置において、反応管1の外管2と内管3の上記の各気体導入口には、酸素を供給する流路92,93とキャリアガスを供給する流路90,91とがそれぞれ接続されている。すなわち、
図4に示す外管2の気体導入口21には、流路92,93が接続され、
図4に示す内管3の試料注入口31に配置された固定ブロック4の気体導入口41(
図3参照)には、流路90,91が接続されている。そして、これらの流路90~93には、各気体導入口21,41に対する酸素とキャリアガスの供給を切り替える流路切替手段が設けられている。
【0024】
上記の流路切替手段としては、例えば
図2に示すように、制御弁である切替弁と、当該切替弁から分岐して設けられた流路とで構成された流路切替手段が挙げられる。具体的には、流路切替手段は、流路90と流路91に介装された切替弁82及び当該切替弁から分岐して設けられた分岐路94、ならびに、流路92と流路93に介装された切替弁84及び当該切替弁から分岐して設けられた分岐路95から構成される。これにより、流路切替手段は、切替弁82、84の制御により、外管2の気体導入口21に対し、流路92,流路93を通じて酸素を供給しているところ、流路90,分岐路94,流路93を通じてキャリアガスを供給するように切り替え、同時に、内管3の気体導入口41に対し、流路90,流路91を通じてキャリアガスを供給しているところ、流路92,分岐路95,流路91を通じて酸素を供給するように切り替える機能する。
【0025】
また、流路切替手段としては、例えば、上流側の一組の入口ポートと下流側の一組の出口ポートとを備え且つ本体を回転させて流路の組み合わせを変更する回転継手などを利用することもできる。なお、流路90には、キャリアガスの流量を調節するためのマスフローコントローラー81が設けられ、また、流路92には、酸素の流量を調節するためのマスフローコントローラー83が設けられている。
【0026】
更に、
図3及び
図4に示すように、反応管1の内管3の上部には、上記の水導入口32が設けられており、水導入口32には、
図2に示すように、純水容器85に貯留された純水が流路96,97を通じてポンプ86により供給されるように構成される。
【0027】
また、
図2に示すように、反応管1の下端の試料ガス取出口22(
図4参照)には、ガラスジョイント87を介し、流路98が接続されており、水蒸気を含む試料ガスが流路98からU字管88を介し、流路99を通じて吸収管89に導入されるように構成される。U字管88は、冷却ファン88bで冷却される構造を備えており、試料ガス中の水分を目的成分であるハロゲン化水素と共に凝縮させ、ハロゲン化水素の回収率を一層高めるために配置されている。更に、ガラスジョイント87には、U字管88の水分を吸収管89に集約するため、例えば前述の純水容器85から流路98側へ洗浄用の純水を供給する水導入路87aが設けられている。なお、吸収管89に予め収容される吸収液としては、過酸化水素30ppm、リン酸1.0ppmをイオンクロマトグラフの溶離液に添加した溶液などが使用される。
【0028】
試料燃焼装置は、上記のような装置構成をコンピュータで制御することにより、試料処理機能として、反応管1において液体試料を燃焼させる機能と、反応管1において液体試料の燃焼後に水蒸気を発生させて試料ガスを生成する機能とを発揮するように構成される。以下、試料燃焼装置における処理機能と共に、当該試料燃焼装置を使用し、ハロゲンを含む液体試料の燃焼方法について、
図1を併用して説明する。
【0029】
本発明の燃焼方法においては、先ず、加熱手段6により反応管1を所定温度、例えば900~1000℃の範囲内の一定温度に加熱し、この状態において以下の第1~3の工程を順次に実施し、液体試料を燃焼させて試料ガスを生成する。
【0030】
先ず、第1の工程として、外管2に酸素を導入し且つ内管3にキャリアガスとしてアルゴンを導入すると共に、内管3に所定量の液体試料を注入して液体試料を分解する。具体的には、流路92,93を通じて外管2の気体導入口21から当該外管に酸素を導入し、かつ、流路90,91を通じて内管3の気体導入口41から当該内管にアルゴンを導入する。酸素は、マスフローコントローラー83の設定により、例えば500ml/分で供給し、また、アルゴンは、マスフローコントローラー81の設定により、例えば100ml/分で供給する。そして、反応管1に酸素およびアルゴンを導入する間、所定量の液体試料を例えば1μl/秒で内管3に注入する。液体試料の注入は、マイクロシリンジ8から固定ブロック4を介して内管3に一定速度で滴下する。
【0031】
上記の第1の工程においては、アルゴンを導入しながら内管3で液体試料を加熱分解し、その気化ガスをアルゴンに混合した状態で外管2に送出し、外管2において、これを酸素と反応させる。そして、液体試料の注入が終了した後は、酸素とアルゴンの供給を所定時間維持することにより、内管3の試料の分解ガスを外管2に十分に送出する。
【0032】
液体試料を分解した後は、第2の工程として、流路切替手段を使用することにより酸素とアルゴンの供給経路を切り替え、内管3に酸素を導入し且つ外管2にアルゴンを導入する。具体的には、流路90に付設された切替弁82と、流路92に付設された切替弁84とを操作することにより、酸素を供給する流路92,分岐路95,流路91を通じて外管2の気体導入口41から当該内管に酸素を導入し、かつ、アルゴンを供給する流路90,分岐路94,流路93を通じて外管2の気体導入口21から当該外管にアルゴンを導入する。そして、上記の切替操作と同時に、ポンプ86を作動させ、純水容器85から流路96,流路97を通じて内管3の水導入口32から当該内管に純水を例えば0.25ml/分で供給する。
【0033】
上記の第2の工程においては、内管3に注入された純水に十分な熱量を与え、内管3において多量の水蒸気を発生させながら、内管3に酸素を導入することにより、外管2に存在する分解ガス及び内管3に残存する分解ガスを更に燃焼させてハロゲンをハロゲン化水素に変換する。そして、外管に導入されたアルゴンにより、得られた試料ガスを吸収管89側へ送出する。なお、外管2においては、その下端部に充填された充填材51により、試料ガス中の水蒸気を捕捉する。
【0034】
その後、第3の工程として、内管3への純水の供給を停止した後、流路切替手段により酸素とアルゴンの供給経路を切り替える。すなわち、切替弁82,84の操作により、酸素を供給する流路92,93を通じて外管2の気体導入口21から当該外管に酸素を導入し、かつ、アルゴンを供給する流路90,91を通じて内管3の気体導入口41から当該内管にアルゴンを導入し、反応管1を初期状態に戻す。第3の工程においては、内管3にアルゴンを導入して試料ガスを完全に送出し、更に外管2に酸素を供給することにより、僅かに気化ガスが残存している場合もこれを完全に燃焼させることができる。
【0035】
上記の第1~3の工程を実行して得られた試料ガスは、ガラスジョイント87、流路98を通じてU字管88に送出し、水蒸気を更に結露させた後、流路99を通じて吸収管89に導入し、目的成分であるハロゲン化水素を吸収液に回収する。そして、これをイオンクロマトグラフで定量することができる。なお、同様にして得られた試料ガスを利用し、これを更に酸化させることにより、窒素、硫黄を定量することもできる。
【0036】
上記のように、本発明においては、液体試料を分解する工程と、水蒸気を発生させ且つ燃焼させて目的成分を生成する工程とを順次に別工程として実施するため、一層短時間で試料を分解でき、試料中のハロゲンを目的成分であるハロゲン化水素に高い効率で変換できる。換言すれば、内管3において水蒸気を発生させることなく十分に試料を加熱分解した後、内管3において十分な量の水蒸気を発生させながら、残存する分解ガスを含めて完全に燃焼させるため、極めて短時間で液体試料を燃焼処理することができ、例えば500μlの試料を8分程度で処理することができる。その結果、分析に要する時間を一層短縮することができる。しかも、反応管1において不完全燃焼を低減できるため、目的成分であるハロゲン化水素の回収率を高めることができ、分析精度を一層高めることができる。更に、内管3において最初の工程において短時間で試料を分解するため、ボート制御用のプログラム等を必要とせず、試料の注入量を調節する簡単な操作だけで試料を処理することができる。
【0037】
また、縦型の反応管1が備えられた試料燃焼装置を使用した場合は、マイクロシリンジ8により、一層多量の試料を注入でき、しかも、回分の処理時間が極めて短いため、同一試料を複数回に渡って燃焼処理することも可能となり、分析対象成分が極めて低濃度の試料を分析する場合でも高い分析精度を得ることができる。更に、試料容器7が反応管1の内管3に装入された試料燃焼装置を使用した場合は、更に多量の試料を注入でき、しかも、試料容器7が加熱、加湿によって劣化を生じることがなく、繰り返して使用することができるため、保守管理が極めて容易であり、かつ、分析に要する労力および分析コストを低減することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る液体試料の燃焼方法は、有機液体試料中のハロゲンの定量分析において利用される。本発明は、短時間で一層多量の液体試料を燃焼させることができ、目的成分であるハロゲン化水素の回収率を高めて分析精度を更に高めることができるため、ディーゼル燃料、オイル、ガソリン等の石油類などの品質を評価する場合に好適である。
【符号の説明】
【0039】
1 :反応管
2 :外管
21:気体導入口
22:試料ガス取出口
2a:テーパー部
3 :内管
3a:膨出部
3c:胴部
31:試料注入口
32:水導入口
33:スリット
3p:系止部
4 :固定ブロック
41:気体導入口
50:石英綿
51:充填材
52:石英綿
6 :加熱手段(電気炉)
7 :試料容器
8 :マイクロシリンジ(インジェクター)
81:マスフローコントローラー
82:切替弁(流路切替手段)
83:マスフローコントローラー
84:切替弁(流路切替手段)
85:純水容器
86:ポンプ
87:ガラスジョイント
88:U字管
89:吸収管吸
94:分岐路(流路切替手段)
95:分岐路(流路切替手段)
L :内管の底部からの高さ