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特許7332555後席用エアバッグモジュール及び車両用シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】後席用エアバッグモジュール及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20230816BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B60R21/207
B60N2/427
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020151657
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045834
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 光由
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩之
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129059(JP,A)
【文献】特開2012-136055(JP,A)
【文献】特開2019-031151(JP,A)
【文献】特開2019-031156(JP,A)
【文献】特開2010-155575(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0061673(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグと、前記エアバッグ内に膨張展開用のガスを供給するインフレータとを備え、車両用シートのシートバックのフレームの上部に取り付けられ、車両の前面衝突時に前記シートバックのシート後方側へ前記エアバッグを膨張展開させる後席用エアバッグモジュールであって、
前記車両用シートに着座した乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によって前記シートバックに入り込む背中入り込み領域に一部が配置され、前記背中が前記背中入り込み領域に入り込むことにより、前記背中に押されてシート後方側へ変位又は易変形構成により変形可能とされた後席用エアバッグモジュール。
【請求項2】
前記エアバッグを収納し、前記フレームに取り付けられるモジュールケースを備え、当該モジュールケースが前記背中に押されて変形するように易変形構成が施されている請求項1に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項3】
前記モジュールケースは、布製であり、シート後方側の部分がシート上下方向の両側で前記フレームに固定される請求項2に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項4】
前記モジュールケースの後端部には、シート上下方向の両側へ延びる上下一対のフランジ部が形成され、
前記一対のフランジ部が前後一対のリテーナによってシート前後方向の両側から挟持され、
前記一対のリテーナを用いて前記モジュールケースが前記フレームに固定される請求項3に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項5】
前記モジュールケースは、各々が布製である複数の帯状部材を備え、
前記複数の帯状部材は、互いにシート左右方向に並んで配置され、各々のシート上下方向両端部が前記フレームに固定され、各々のシート上下方向中間部がシート前方側へ弛んだ状態とされ、
前記エアバッグは、前記複数本の帯状部材のシート上下方向中間部に対してシート後方側に収納される請求項2に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項6】
前記モジュールケースは、前記背中に押されることで塑性変形する脆弱部を有している請求項2に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項7】
前記脆弱部は、前記モジュールケースの周壁に複数の孔が形成されることで構成されている請求項6に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項8】
前記エアバッグを収納するモジュールケースを備え、当該モジュールケースは、前記背中に押されることでシート後方側へ変位可能に前記フレームに取り付けられる請求項1に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項9】
前記フレームに対してシート後方側へ変位した前記モジュールケースをシート前方側へ付勢する付勢部材を有する請求項8に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項10】
前記モジュールケースは、前記フレームに対してシート後方側へスライド可能に取り付けられる請求項8又は請求項9に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項11】
前記モジュールケースは、前記フレームに対してシート後方側へ回動可能に取り付けられる請求項8又は請求項9に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項12】
前記エアバッグが前記後面衝突時に前記背中に押される位置に配置される一方、前記インフレータが前記後面衝突時に前記背中に押されない位置に配置されて前記フレームに固定される請求項1に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項13】
前記フレームは、前記シートバック内の上端部でシート左右方向に延在するアッパフレーム部を有しており、
前記インフレータは、前記アッパフレーム部のシート後方に配置され、
前記エアバッグは、前記インフレータからシート下方側へ延びるように配置される請求項12に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項14】
前記アッパフレーム部におけるシート後方側の面には、前記シート前方側へ凹んだ凹部が形成され、前記インフレータの少なくとも一部が前記凹部内に配置される請求項13に記載の後席用エアバッグモジュール。
【請求項15】
シートクッション及びシートバックと、
前記シートバックのフレームに取り付けられた請求項1~請求項14の何れか1項に記載の後席用エアバッグモジュールと、
を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後席用エアバッグモジュール、及び後席用エアバッグモジュールがシートバックのフレームに取り付けられた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載された乗物用シートでは、シートバックのフレームの上半部に搭載された後席用エアバッグモジュールが、車両の前面衝突時にエアバッグを後方へ膨張展開させる。このエアバッグにより後席の乗員が保護される。この乗物用シートでは、乗員の背中が通常の着座時に後席用エアバッグモジュールから異物感を受けることを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-031151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の後面衝突時における乗員頚部の鞭打ち防止性能を向上させるためには、後面衝突の衝撃によって乗員の背中をシートバックに入り込ませ、乗員の頭部をヘッドレストにより適切に支持することが必要となる。この点、上記の先行技術のように、シートバック内に後席用エアバッグモジュールが搭載された構成では、後面衝突時における乗員の背中のシートバックへの入り込みが、後席用エアバッグモジュールとの干渉によって阻害されないことが求められる。このため、後席用エアバッグモジュールを上記乗員に対してシート後方側に遠ざけて配設しようとすると、シートバックがシート前後方向に厚くなる。その結果、例えば後席乗員の居住スペースが狭くなる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、乗員頚部の鞭打ち防止性能の確保と、シートバックの薄型化とを両立し易い後席用エアバッグモジュール及び該後席用エアバッグモジュールを備えた車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の後席用エアバッグモジュールは、エアバッグと、前記エアバッグ内に膨張展開用のガスを供給するインフレータとを備え、車両用シートのシートバックのフレームに取り付けられ、前記シートバックのシート後方側へ前記エアバッグを膨張展開させる後席用エアバッグモジュールであって、前記車両用シートに着座した乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によって前記シートバックに入り込むことにより、前記背中に押されてシート後方側へ変位又は易変形構成により変形可能とされている。
【0007】
なお、第1の態様に記載の「入り込む」は「減り込む」と同義である。また、第1の態様において、「シート後方側へ変位」は、後席用エアバッグモジュールの全体がシート後方側へ変位する場合に限らず、後席用エアバッグモジュールの一部のみ(例えばエアバッグケースの一部のみ)がシート後方側へ変位する場合も含まれる。
【0008】
第1の態様では、車両用シートのシートバックのフレームに取り付けられる後席用エアバッグモジュールが、エアバッグと、該エアバッグ内に膨張展開用のガスを供給するインフレータとを備えている。この後席用エアバッグモジュールは、例えば車両の前面衝突時に上記シートバックのシート後方側へエアバッグを膨張展開させる。これにより、上記車両用シートの後席の乗員をエアバッグによって保護することができる。また、この後席用エアバッグモジュールは、上記車両用シートに着座した乗員(以下、「前席乗員」と称する場合がある)の背中が車両の後面衝突の衝撃によって上記シートバックに入り込むことにより、上記背中に押されてシート後方側へ変位又は易変形構成により変形する。これにより、上記の入り込みが本後席用エアバッグモジュールとの干渉によって阻害されないようにすることができるので、前席乗員の頚部の鞭打ち防止性能を確保することができる。しかも、上記の入り込みを許容するために、本後席用エアバッグモジュールを前席乗員に対してシート後方側に遠ざけて配設する必要がなくなる。その結果、上記の鞭打ち防止性能を確保しつつ、シートバックを前後方向に薄型化することが可能となる。
【0009】
本発明の第2の態様の後席用エアバッグモジュールは、第1の態様において、前記エアバッグを収納し、前記フレームに取り付けられるモジュールケースを備え、当該モジュールケースが前記背中に押されて変形するように前記易変形構成が施されている。
【0010】
第2の態様では、前席乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によってシートバックに入り込むと、エアバッグを収納し且つ易変形構成を施されたモジュールケースが上記の背中に押されてシート後方側へ変形する。これにより、上記背中のシートバックへの入り込みを許容することができる。しかも、エアバッグがモジュールケースに収納されるので、例えばエアバッグの展開反力をモジュールケースによって良好に受け止めることができる。
【0011】
本発明の第3の態様の後席用エアバッグモジュールは、第2の態様において、前記モジュールケースは、布製であり、シート後方側の部分がシート上下方向の両側で前記フレームに固定される。
【0012】
第3の態様では、布製のモジュールケースが易変形構成とされている。この布製のモジュールケースは、シート後方側の部分がシート上下方向の両側でフレームに固定される。これにより、車両の後面衝突時には、布製のモジュールケースが前席乗員の背中に押されてシート後方側へ変形する。一方、エアバッグが膨張展開する際には、布製のモジュールケースが引っ張り力を受けつつ、エアバッグの展開反力を受け止める。このように、モジュールケースを布製とすることにより、例えばモジュールケースが金属製の場合と比較して、モジュールケースの軽量化を図ることができる。
【0013】
本発明の第4の態様の後席用エアバッグモジュールは、第3の態様において、前記モジュールケースの後端部には、シート上下方向の両側へ延びる上下一対のフランジ部が形成され、前記一対のフランジ部が前後一対のリテーナによってシート前後方向の両側から挟持され、前記一対のリテーナを用いて前記モジュールケースが前記フレームに固定される。
【0014】
第4の態様では、布製のモジュールケースの後端部に形成された上下一対のフランジ部が前後一対のリテーナによってシート前後方向の両側から挟持される。そして、これら一対のリテーナを用いて、布製のモジュールケースがシートバックのフレームに固定される。これにより、布製のモジュールケースをシートバックのフレームに対して容易かつ強固に固定することができる。
【0015】
本発明の第5の態様の後席用エアバッグモジュールは、第2の態様において、前記モジュールケースは、各々が布製である複数の帯状部材を備え、前記複数の帯状部材は、互いにシート左右方向に並んで配置され、各々のシート上下方向両端部が前記フレームに固定され、各々のシート上下方向中間部がシート前方側へ弛んだ状態とされ、前記エアバッグは、前記複数本の帯状部材のシート上下方向中間部に対してシート後方側に収納される。
【0016】
第5の態様では、各々が布製である複数本の帯状部材が易変形構成とされている。これらの帯状部材は、互いにシート左右方向に並んで配置され、各帯状部材のシート上下方向両端部がフレームに固定される。各帯状部材のシート上下方向中間部は、シート前方側へ弛んだ状態とされる。そして、これら複数本の帯状部材のシート上下方向中間部(すなわちシート前方側へ弛んだ部分)に対するシート後方側にエアバッグが収納される。この態様では、車両の後面衝突時には、複数本の帯状部材が前席乗員の背中に押されてシート後方側へ変形する。一方、エアバッグが膨張展開する際には、複数本の帯状部材が引っ張り力を受けつつ、エアバッグの展開反力を受け止める。このように、複数本の帯状部材を用いることにより、モジュールケースの構成を簡素化し、更なる軽量化を図ることができる。
【0017】
本発明の第6の態様の後席用エアバッグモジュールは、第2の態様において、前記モジュールケースは、前記背中に押されることで塑性変形する脆弱部を有している。
【0018】
第6の態様では、モジュールケースに設けられた脆弱部が易変形構成とされている。この態様では、前席乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によってシートバックに入り込むと、モジュールケースが上記の背中に押されることで、モジュールケースに設けられた脆弱部が塑性変形する。これにより、モジュールケースがシート後方側へ変形する。このように、モジュールケースに脆弱部を設ける構成であるため、例えば従来の金属製のモジュールケースを大幅に構造変更することなく流用することができる。
【0019】
本発明の第7の態様の後席用エアバッグモジュールは、第6の態様において、前記脆弱部は、前記モジュールケースの周壁に複数の孔が形成されることで構成されている。
【0020】
第7の態様では、モジュールケースの周壁に複数の孔が形成されることで、モジュールケースに脆弱部が設けられるので、脆弱部を簡素な構成にすることができる。
【0021】
本発明の第8の態様の後席用エアバッグモジュールは、第1の態様において、前記エアバッグを収納するモジュールケースを備え、当該モジュールケースは、前記背中に押されることでシート後方側へ変位可能に前記フレームに取り付けられる。
【0022】
第8の態様では、前席乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によってシートバックに入り込むと、シートバックのフレームに取り付けられたモジュールケースが上記の背中に押されてシート後方側へ変位する。このように、モジュールケースがシートバックのフレームに対して相対変位可能に取り付けられる構成であるため、例えば従来の金属製のモジュールケースを用いて構成することができる。
【0023】
本発明の第9の態様の後席用エアバッグモジュールは、第8の態様において、前記フレームに対してシート後方側へ変位した前記モジュールケースをシート前方側へ付勢する付勢部材を有する。
【0024】
第9の態様では、乗員の背中に押されることでシートバックのフレームに対してシート後方側へ変位したモジュールケースが、付勢部材によりシート前方側へ付勢される。これにより、モジュールケースを元の位置に復帰させることができるので、モジュールケースを元の位置に復帰させるための修理が不要となる。
【0025】
本発明の第10の態様の後席用エアバッグモジュールは、第8の態様又は第9の態様において、前記モジュールケースは、前記フレームに対してシート後方側へスライド可能に取り付けられる。
【0026】
第10の態様では、前席乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によってシートバックに入り込むと、シートバックのフレームに取り付けられたモジュールケースが上記の背中に押されてシート後方側へスライドする。これにより、上記のフレームに対するモジュールケースの姿勢を保持したままで、上記の入り込みを許容することができる。
【0027】
本発明の第11の態様の後席用エアバッグモジュールは、第8の態様又は第9の態様において、前記モジュールケースは、前記フレームに対してシート後方側へ回動可能に取り付けられる。
【0028】
第11の態様では、前席乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によってシートバックに入り込むと、シートバックのフレームに取り付けられたモジュールケースが上記の背中に押されてシート後方側へ回動する。このような回動式の場合、前述したスライド式と比較して、上記のフレームに対するモジュールケースの取付構造を簡素化することができる。
【0029】
本発明の第12の態様の後席用エアバッグモジュールは、第1の態様において、前記エアバッグが前記後面衝突時に前記背中に押される位置に配置される一方、前記インフレータが前記後面衝突時に前記背中に押されない位置に配置されて前記フレームに固定される。
【0030】
第12の態様では、前席乗員の背中が車両の後面衝突の衝撃によってシートバックに入り込むと、エアバッグ及びインフレータのうち、エアバッグのみが上記の背中に押されてシート後方側へ変位する。インフレータは、上記の背中に押されない位置、すなわちシートバックへの背中の入り込みを阻害しない位置に配置されてシートバックのフレームに固定される。これにより、上記の入り込みを極めて簡素な構成で許容することができる。
【0031】
本発明の第13の態様の後席用エアバッグモジュールは、第12の態様において、前記フレームは、前記シートバック内の上端部でシート左右方向に延在するアッパフレーム部を有しており、前記インフレータは、前記アッパフレーム部のシート後方に配置され、前記エアバッグは、前記インフレータからシート下方側へ延びるように配置される。
【0032】
第13の態様では、シートバックのフレームは、シートバック内の上端部でシート左右方向に延在するアッパフレーム部を有している。このアッパフレーム部のシート後方には、インフレータが配置される。そして、このインフレータからシート下方側へ延びるエアバッグが、車両の後面衝突時に前席乗員の背中に押されてシート後方側へ変位する。上記のように、シートバックフレームのアッパフレーム部のシート後方にインフレータが配置されるため、インフレータの配置スペースを確保し易い。
【0033】
本発明の第14の態様の後席用エアバッグモジュールは、第13の態様において、前記アッパフレーム部におけるシート後方側の面には、前記シート前方側へ凹んだ凹部が形成され、前記インフレータの少なくとも一部が前記凹部内に配置される。
【0034】
第14の態様では、シートバックのフレームのアッパフレーム部におけるシート後方側の面に形成された凹部内に、インフレータの少なくとも一部が配置される。これにより、アッパフレーム部のシート後方側へのインフレータの突出量を少なくすることができるので、シートバックのシート前後方向の薄型化に一層寄与する。
【0035】
本発明の第15の態様の車両用シートは、シートクッション及びシートバックと、前記シートバックのフレームに取り付けられた第1の態様~第14の態様の何れか1つの態様の後席用エアバッグモジュールと、を備えている。
【0036】
第15の態様では、車両用シートがシートクッション及びシートバックを有している。シートバックのフレームには、後席用エアバッグモジュールが取り付けられている。この後席用エアバッグモジュールは、第1の態様~第14の態様の何れか1つの態様に記載されたものであるため、前述した作用及び効果が得られる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明に係る後席用エアバッグモジュール及び車両用シートでは、乗員頚部の鞭打ち防止性能の確保と、シートバックの薄型化とを両立し易い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】第1実施形態に係る車両用シートが搭載された車両の車室内を車両左方側から見た状態で示す側面図である。
図2】第1実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
図3】車両の後面衝突の衝撃によってモジュールケースがシート後方側へ変形した状態を示す図2に対応した断面図である。
図4】比較例に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す図2に対応した断面図である。
図5】第2実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を示す斜視図である。
図6】第3実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
図7】第3実施形態の変形例に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
図8】第4実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
図9】車両の後面衝突の衝撃によってモジュールケースがシート後方側へ変位した状態を示す図8に対応した断面図である。
図10】第5実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
図11】車両の後面衝突の衝撃によってモジュールケースがシート後方側へ変位した状態を示す図10に対応した断面図である。
図12】第6実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
図13】第6実施形態に係る後席用エアバッグモジュールのモジュールケースを含む周辺の構成を示す断面図である。
図14】車両の後面衝突の衝撃によってモジュールケースがシート後方側へ変形した状態を示す図12に対応した断面図である。
図15】第6実施形態の変形例に係る後席用エアバッグモジュールのモジュールケース周辺の構成を車両左方側から見た断面図である。
図16】第7実施形態に係る後席用エアバッグモジュール周辺の構成を車両左方側から見た状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
<第1の実施形態>
以下、図1図3を用いて、本発明の第1実施形態に係る車両用シートとしてのフロントシート10について説明する。なお、各図においては図面を見易くする関係から一部の符号や一部の部材の図示を省略している場合がある。また、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印RHは、フロントシート10が搭載された車両の前方、上方、右方を示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0040】
(構成)
図1には、本実施形態に係るフロントシート10が搭載された車両の車室C内が側面図にて示されている。この車両は、例えばセダンタイプの自動車であり、フロントシート10の後方にはリヤシート12が配置されている。フロントシート10及びリヤシート12における前後左右上下の方向は、車両の前後左右上下の方向と一致している。フロントシート10及びリヤシート12は、それぞれシートクッション10A、12Aと、シートバック10B、12Bと、ヘッドレスト10C、12Cとを有している。また、フロントシート10及びリヤシート12には、それぞれ乗員拘束用のシートベルト装置(図示省略)が設けられている。各シートベルト装置は、例えば所謂3点式シートベルト装置とされている。
【0041】
なお、本実施形態では、車両のフロントシート10に対して本発明が適用されているが、これに限るものではない。本発明に係る車両用シートが車両の2列目以降のシートとされた構成にしてもよい。但しその場合でも、本発明に係る車両用シートの後方には、別の車両用シートが配設される構成となる。また図1において、フロントシート10及びリヤシート12に着座した乗員P1、P2は、例えばAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)のダミー人形とされている。以下、フロントシート10に着座した乗員P1を「前席乗員P1」と称し、リヤシート12に着座した乗員P2を「後席乗員P2」と称する。
【0042】
フロントシート10のシートバック10Bの上部には、後席用エアバッグモジュール32が搭載されている。この後席用エアバッグモジュール32は、車両の前面衝突時に後席乗員P2を保護(拘束)する後席用エアバッグ装置30の主要部を構成している。この後席用エアバッグモジュール32は、図2に示されるように、シートバック10Bのフレーム14の上部に取り付けられている。
【0043】
上記のフレーム14は、図示しない左右一対のサイドフレーム部と、アッパフレーム部16と、中間フレーム部18とを有している。左右のサイドフレーム部は、シートバック10Bの左右の側部内でシートバック10Bの上下方向に延在しており、各下端部がシートクッション10Aのフレームに連結されている。アッパフレーム部16は、左右のサイドフレーム部の上端部間に架け渡されており、左右方向に延在している。中間フレーム部18は、アッパフレーム部16よりもシートバック10Bの下方側に配置され、左右のサイドフレーム部の上部間に架け渡されており、左右方向に延在している。
【0044】
左右のサイドフレーム部、アッパフレーム部16及び中間フレーム部18は、例えば板金によって構成されている。左右のサイドフレーム部は、一例として、上下方向視で左右方向の内側が開放された開断面形状をなしている。アッパフレーム部16は、一例として左右方向視で矩形の閉断面形状をなしている。中間フレーム部18は、一例として左右方向視で前方側が開放された開断面形状をなしている。上記構成のフレーム14には、シートバック10Bのクッション材を構成する図示しないバックパッドが被せられている。このバックパッドは、シートバック10Bの表皮20によって覆われている。
【0045】
上記フレーム14の上部に取り付けられた後席用エアバッグモジュール32は、モジュールケース34と、モジュールケース34内に収納されたエアバッグ40及びインフレータ42とを備えている。モジュールケース34は、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間に配置されており、後方側が開放された箱状をなしている。エアバッグ40は、例えば複数枚の基布が縫製されて袋状に形成されており、所定の折り畳み方で折り畳まれた状態でモジュールケース34内に収納されている。インフレータ42は、例えば円柱状のシリンダータイプとされており、軸線方向が左右方向に沿う姿勢でエアバッグ40内に収容されている。なお、インフレータ42は、円盤状のディスクタイプであってもよい。
【0046】
上記のインフレータ42は、一例として、モジュールケース34内においてエアバッグ40の上側で且つモジュールケース34の開口側(後端側)に配置されている。インフレータ42の外周部には、例えばシート上方側へ突出した図示しない一対のスタッドボルトが左右方向に並んで設けられている。これらのスタッドボルトは、例えばモジュールケース34の上壁及び当該上壁の上面に設けられた金属製の補強板を貫通して図示しないナットに螺合している。これにより、インフレータ42がモジュールケース34に固定されている。
【0047】
上記のインフレータ42には、図1に示されるように、車両に搭載されたエアバッグECU46が電気的に接続されている。エアバッグECU46は、インフレータ42の作動を制御する制御装置であり、例えば車両の図示しないセンターコンソールの下方に配置されている。このエアバッグECU46には、車両に搭載された衝突センサ48が電気的に接続されている。衝突センサ48は、例えば加速度センサであり、車両の前端部に搭載されている。この衝突センサ48は、車両に生じる加速度に基づいて前面衝突を検知する構成とされている。なお、上記の衝突センサ48の代わりに、車両の前面衝突を予知する衝突予知センサ(例えば車外カメラ、レーダー等)がエアバッグECU46に電気的に接続された構成にしてもよい。
【0048】
上記のエアバッグECU46は、衝突センサ48から出力される電気信号に基づいて車両の前面衝突を検知すると、インフレータ42に作動信号を出力する。これにより、インフレータ42が作動すると、インフレータ42から発生する膨張展開用のガスの圧力でエアバッグ40が膨張展開し始める。この際、エアバッグ40は、モジュールケース34によって前方側から反力を受けつつ、後方側へ膨張する。これにより、モジュールケース34の後方側でシートバック10Bの表皮20に設けられた破断予定部がエアバッグ40の膨張圧を受けて破断する。この破断によって表皮20の背面に開口が形成され、当該開口からエアバッグ40が後方側へ膨張展開する。なお、図1では、膨張展開したエアバッグ40が二点鎖線で示されている。膨張展開したエアバッグ40は、後席乗員P2の上半身の前方に配置される。これにより、前面衝突の衝撃によって前方に慣性移動する後席乗員P2の上半身が、エアバッグ40によって保護(拘束)される構成になっている。
【0049】
(本実施形態の要部)
次に、本実施形態の要部について説明する。上記構成の後席用エアバッグモジュール32では、モジュールケース34が変形容易な布製とされている。このモジュールケース32は、本発明における「易変形構成」に相当する。このモジュールケース34を構成する布材は、例えば化学繊維の織物であり、可撓性及び柔軟性を有し且つ引張強度が高く設定されている。このモジュールケース34では、上記の布材が箱状に縫製されている。このモジュールケース34は、後方側が開放された箱状をなすケース本体部34Aと、ケース本体部34Aの後端部の上縁部からシート上方側へ延びる上フランジ部34Bと、ケース本体部34Aの後端部の下縁部からシート下方側へ延びる下フランジ部34Cとを備えている。このモジュールケース34は、左右方向から見た断面形状が、後方側が開放されたハット形状とされている。なお、本実施形態における「布」は織物に限らず、樹脂製のシートであってもよい。
【0050】
ケース本体部34Aは、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間に配置されている。上フランジ部34Bは、アッパフレーム部16の後方に配置されており、下フランジ部34Cは、中間フレーム部18の後方に配置されている。これらのフランジ部34B、34Cは、それぞれ前後一対のリテーナ36、38によって前後方向の両側から挟持されている。これらのリテーナ36、38は、例えば金属板によって構成されており、前後方向から見て枠形状をなしている。そして、前後のリテーナ36、38と共に各フランジ部34B、34Cを貫通した図示しない複数のボルトが、アッパフレーム部16及び中間フレーム部18に固定された図示しない複数のウェルドナットに螺合している。これにより、上下のフランジ部34B、34Cがアッパフレーム部16及び中間フレーム部18に固定されている。つまり、モジュールケース34は、後方側の部分が上下方向の両側でフレーム14に固定されている。
【0051】
アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間に配置されたケース本体部34Aの前部34Fは、アッパフレーム部16及び中間フレーム部18よりも前方側に突出して配置されている。このケース本体部34Aの前部34Fが配置された領域は、車両の後面衝突時に前席乗員P1の背中PBが入り込む(減り込む)背中入り込み領域とされている。この背中入り込み領域は、例えばJNCAP(Japan New Car Assessment Program)で規定されている後面衝突頚部保護性能試験において、ダミー人形の背中がシートバックに入り込む領域とされている。この後面衝突頚部保護性能試験では、停車中の車両と同一質量の車両が前記停車中の車両に対して時速約36.4Kmで衝突した際の衝撃(速度変化時速20.0kmの衝撃)が再現される。また、この後面衝突頚部保護性能試験では、「BioRID II」と呼ばれるダミー人形が使用される。
【0052】
上記の背中入り込み領域にケース本体部34Aの前部34Fが配置されたモジュールケース34は、図3に示されるように、後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込む前席乗員P1の背中PBによって後方側へ変形される(潰される)構成になっている。この場合、布製のモジュールケース34が柔軟に変形することにより、シートバック10Bへの背中PBの入り込みが阻害されないように構成されている。また、上記のようにモジュールケース34が変形すると、モジュールケース34内のエアバッグ40がシートバック10Bに対して後方側へ変位する。この際には、例えばシートバック10Bの表皮20がエアバッグ40の変位によって後方側へ弾性的に変形されるようになっている。そして、後面衝突の衝撃が和らぐと、表皮20の弾性復帰力によってエアバッグ40が元の位置に復帰し、モジュールケース34が元の形状に戻るように構成されている。
【0053】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
本実施形態では、フロントシート10のシートバック10Bのフレーム14に取り付けられる後席用エアバッグモジュール32が、エアバッグ40と、該エアバッグ40内に膨張展開用のガスを供給するインフレータ42とを備えている。この後席用エアバッグモジュール32は、車両の前面衝突時にシートバック10Bの後方側へエアバッグ40を膨張展開させる。これにより、リヤシート12に着座した後席乗員P2をエアバッグ40によって保護することができる。
【0055】
また、この後席用エアバッグモジュール32は、フロントシート10に着座した前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むことにより、背中PBに押されて後方側へ変形する。これにより、上記の入り込みが後席用エアバッグモジュール32との干渉によって阻害されないようにすることができるので、前席乗員P1の頚部の鞭打ち防止性能を確保することができる。しかも、上記の入り込みを許容するために、後席用エアバッグモジュール32を前席乗員P1に対して後方側に遠ざけて配設する必要がなくなる。その結果、上記の鞭打ち防止性能を確保しつつ、シートバック10Bを前後方向に薄型化することが可能となる。
【0056】
つまり、例えば図4に示される比較例のように、後席用エアバッグモジュール200をアッパフレーム部16の後方側に配置すれば、後面衝突時にシートバック10Bに入り込む背中PBが後席用エアバッグモジュール32と干渉しなくなる。しかしながら、アッパフレーム部16の後方側に配置された後席用エアバッグモジュール200を表皮20によって覆うために、シートバック10Bの上部の背面(意匠面)を、より後方側に設定しなければならなくなる。その結果、シートバック10Bが前後方向に厚くなり、後席乗員P2の居住スペースが狭くなる。この点、本実施形態では、通常時における後席用エアバッグモジュール32の配置領域と、後面衝突時における前席乗員P1の背中入り込み領域とを一部重複して設定することができるので、上記比較例の問題点を解消することができる。
【0057】
しかも、この後席用エアバッグモジュール32では、エアバッグ40がモジュールケース34に収納されるので、エアバッグ40が膨張展開する際の展開反力をモジュールケース34によって良好に受け止めることができる。その結果、エアバッグ40の展開性能を良好に確保することができる。
【0058】
また、本実施形態では、エアバッグモジュール32が布製とされている。このモジュールケース34は、後方側の部分である上下のフランジ部34B、34Cが上下方向の両側でフレーム14に固定されている。このモジュールケース34のケース本体部34Aは、車両の後面衝突時に前席乗員P1の背中PBに押されて後方側へ変形する。一方、エアバッグ40が膨張展開する際には、布製のモジュールケース34が引っ張り力を受けつつ、エアバッグ40の展開反力を受け止める。このように、モジュールケース34を布製とすることにより、モジュールケース34が金属製の場合と比較して、モジュールケース34の軽量化を図ることができる。しかも、モジュールケース34の材料として伸び難い布材を用いることにより、エアバッグ40の展開反力を良好に受け止めることが可能となる。
【0059】
また、本実施形態では、布製のモジュールケース34の後端部に形成された上下一対のフランジ部34B、34Cが前後一対のリテーナ36、38によって前後方向の両側から挟持されている。そして、これら一対のリテーナ36、38を用いて、布製のモジュールケース34がシートバック10Bのフレーム14に固定されている。これにより、布製のモジュールケース34をシートバック10Bのフレーム14に対して容易かつ強固に固定することができる。
【0060】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、第1実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、第1実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0061】
<第2の実施形態>
図5には、本発明の第2実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール50周辺の構成が斜視図にて示されている。この後席用エアバッグモジュール50では、複数本のストラップ54によってモジュールケース52が構成されている。これらのストラップ54は、本発明における「帯状部材」に相当するものであり、各々が布製とされている。各ストラップ54を構成する布材は、例えば第1実施形態に係るモジュールケース52の布材と同様とされている。これらのストラップ54は、本発明における「易変形構成」に相当する。
【0062】
各ストラップ54は、互いに左右方向に並んで配置されており、各々の長手方向両端部である上下方向両端部54A、54Bがフレーム14に固定されている。具体的には、各ストラップ54の上端部54Aは、前後のリテーナ36、38に挟まれた状態でアッパフレーム部16の背面に固定されており、各ストラップ54の下端部54Bは、前後のリテーナ36、38に挟まれた状態で中間フレーム部18の背面に固定されている。各ストラップ54の上下方向中間部54Cは、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間の高さで前方側へ弛んだ(曲がった)状態とされており、アッパフレーム部16及び中間フレーム部18よりも前方側へ突出している。そして、各ストラップ54の上下方向中間部54Cに対する後方側で且つアッパフレーム部16と中間フレーム部18との間に、図示しないエアバッグ40及びインフレータ42が収納されている。インフレータ42は、例えば複数のストラップ54のうちの二つに対して第1実施形態と同様の方法で固定されている。
【0063】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態では、車両の後面衝突時には、前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むことにより、複数本のストラップ54が前席乗員P1の背中PBに押されて後方側へ変形する。これにより、上記の入り込みが後席用エアバッグモジュール32との干渉によって阻害されないようにすることができるので、第1実施形態と基本的に同様の効果が得られる。また、エアバッグ40が膨張展開する際には、複数本のストラップ54が引っ張り力を受けつつ、エアバッグ40の展開反力を受け止める。このように、複数本のストラップ54を用いることにより、モジュールケース52の構成を簡素化し、更なる軽量化を図ることができる。
【0064】
<第3の実施形態>
図6には、本発明の第3実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール60周辺の構成が車両左方側から見た状態の断面図にて示されている。この後席用エアバッグモジュール60は、モジュールケースを備えておらず、エアバッグ40の下端部40Uが後面衝突時に背中PBに押される位置に配置される一方、インフレータ42が背中PBに押されない位置に配置されている。具体的には、インフレータ42は、アッパフレーム部16の後方に配置されており、図示しないスタッドボルトを用いてアッパフレーム部16に固定されている。エアバッグ40は、一例として折り畳まれておらず、インフレータ42からシート下方側へ延びるように配置されている。エアバッグ40の下端部40Uは、車両の後面衝突時に前席乗員P1の背中PBがシートバック10Bに入り込む背中入り込み領域、すなわち図6において背中PBを示す二点鎖線よりも前方側の領域に配置されている。
【0065】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態では、前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むと、エアバッグ40及びインフレータ42のうち、エアバッグ40の下端部40Uのみが上記の背中に押されて後方側へ変位する。インフレータは、上記の背中に押されない位置、すなわちシートバック10Bへの背中PBの入り込みを阻害しない位置に配置されてシートバック10Bのフレーム14に固定されている。これにより、上記の入り込みを極めて簡素な構成で許容することができる。しかも、この実施形態では、アッパフレーム部16の後方にインフレータ42が配置されているため、インフレータ42の配置スペースを確保し易い。また、エアバッグ40の展開反力をアッパフレーム部16で受けることができる。
【0066】
なお、上記第3実施形態において、図7に示される変形例のように構成してもよい。この変形例では、アッパフレーム部16における後方側の面には、前方側へ凹んだ凹部62が形成されており、インフレータの少なくとも一部(ここでは一部)が凹部62内に配置されている。これにより、アッパフレーム部16の後方側へのインフレータの突出量を少なくすることができるので、シートバック10Bの前後方向の薄型化に一層寄与する。なお、上記の凹部62を形成する箇所は、アッパフレーム部16における下方側の面であってもよい。
【0067】
<第4の実施形態>
図8には、本発明の第4実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール70周辺の構成が車両左方側から見た状態の断面図にて示されている。この後席用エアバッグモジュール70では、モジュールケース72が例えば金属製とされている。このモジュールケース72は、後方側が開放された箱状をなしており、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間の高さに配置されている。アッパフレーム部16の下端には、上スライドレール74が固定されており、中間フレーム部18の上端には、下スライドレール75が固定されている。これら上下のスライドレール74、75は、例えば左右方向に間隔をあけて平行に並んだ左右一対のレールをそれぞれが備えており、各レールは、前後方向を長手とする長尺状をなしている。
【0068】
モジュールケース72の上端には、上スライドレール74の各レールに対して前後方向にスライド可能に支持された左右一対の上スライダ76が取り付けられている。モジュールケース72の下端には、下スライドレール75の各レールに対して前後方向にスライド可能に支持された左右一対の下スライダ77が取り付けられている。これにより、モジュールケース72は、フレーム14に対して前後方向にスライド可能(変位可能)に支持されている。このモジュールケース72は、通常時には図8に示されるフロントモスト位置に配置されている。この状態では、モジュールケース72の前部72Fが、前席乗員P1の背中入り込み領域(図8において背中PBを示す二点鎖線よりも前方側の領域に配置されている。そして、例えば上下のスライドレール74、75のうちの少なくとも一方に設けられた図示しないシェアピンが、上下のスライダ76、77のうちの少なくとも一方に係合することで、モジュールケース72がフロントモスト位置に保持されている。このモジュールケース72が前方側から所定値以上の押圧力で押されると、上記のシェアピンが破断し、上記の保持が解除されるように構成されている。このように保持が解除されると、モジュールケース72は、図9に示されるリヤモスト位置へとスライドされる。このリヤモスト位置は、前席乗員P1の背中入り込み領域よりも後方側に設定されている。
【0069】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態では、前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むと、モジュールケース72に対して前方側から上記所定値以上の押圧力が作用する。これによりシェアピンが破断し、モジュールケース72がリヤモスト位置へとスライドする。これにより、上記の入り込みが後席用エアバッグモジュール70との干渉によって阻害されないようにすることができるので、第1実施形態と基本的に同様の効果が得られる。しかも、この実施形態では、モジュールケース72がシートバック10Bのフレーム14に対してスライド可能(変位可能)に取り付けられる構成であるため、例えば従来の金属製のモジュールケースを用いて構成することができる。また、従来同様にエアバッグ40の展開反力を金属製のモジュールケース72で受けることができるので、エアバッグ40の展開方向の制御が容易になる。また、本実施形態では、モジュールケース72がフレーム14に対してスライドされる構成であるため、フレーム14に対するモジュールケース72の姿勢を保持したままで、上記の入り込みを許容することができる。
【0070】
なお、上記の第4実施形態において、モジュールケース72をフロントモスト位置(すなわち前方側)へと付勢する付勢部材(例えば、引張コイルスプリング、圧縮コイルスプリング等)を、モジュールケース72とフレーム14との間等に架け渡す構成にしてもよい。それにより、車両の後面衝突後に、モジュールケース72をフロントモスト位置(すなわち元の位置)に自動で復帰させることができるので、モジュールケース72を元の位置に戻すための修理が不要となる。また、上記の付勢部材を設けることにより、前述したシェアピンを省略することが可能となる。また、上記の第4実施形態において、モジュールケース72は、金属製に限らず、樹脂製であってもよい。この点は、後述する第5実施形態~第7実施形態においても同様である。
【0071】
<第5の実施形態>
図10には、本発明の第5実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール80周辺の構成が車両左方側から見た状態の断面図にて示されている。この後席用エアバッグモジュール80では、モジュールケース82が例えば金属製とされている。このモジュールケース82は、後方側が開放された箱状をなしており、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間の高さに配置されている。モジュールケース82の下端部は、支軸84を介して中間フレーム部18の上端に連結されている。この支軸84は、左右方向を軸線方向として配置されており、モジュールケース82は、支軸84回りに回転可能に中間フレーム部18に支持されている。
【0072】
モジュールケース82の上端部の後端部には、シート上方側へ突出したストッパ部82Aが形成されている。このストッパ部82Aは、アッパフレーム部16の背面に対して後方側から接触している。また、上記の支軸84には、モジュールケース82を支軸84回りの一方(図10において反時計回りの方向)へ付勢する付勢部材である捩りコイルスプリング86が取り付けられている。これにより、モジュールケース82は、前方側へ付勢されており、通常時には、ストッパ部82Aがアッパフレーム部16の背面に接触した状態(図10図示状態)に保持されている。この状態では、モジュールケース82の前部82Fが、前席乗員P1の背中入り込み領域(すなわち図8において背中PBを示す二点鎖線よりも前方側の領域)に配置されている。このモジュールケース82が捩りコイルスプリング86の付勢力に抗して後方側へ押圧されると、モジュールケース82が支軸84回りに後方側へ回動(変位)する。この回動により、モジュールケース82が、前席乗員P1の背中入り込み領域よりも後方側に配置されるように構成されている(図11参照)。
【0073】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態では、前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むと、モジュールケース82に対して後方側への押圧力が作用する。これにより、モジュールケース82が支軸84回りに後方側へ回動(変位)する。その結果、上記の入り込みが後席用エアバッグモジュール80との干渉によって阻害されないようにすることができるので、第1実施形態と基本的に同様の効果が得られる。しかも、この実施形態では、モジュールケース82がシートバック10Bのフレーム14に対して回動可能(変位可能)に取り付けられる構成であるため、例えば従来の金属製のモジュールケースを用いて構成することができる。また、従来同様にエアバッグ40の展開反力を金属製のモジュールケース82で受けることができるので、エアバッグ40の展開方向の制御が容易になる。また、本実施形態では、モジュールケース82がフレーム14に対して回動される構成であるため、第4実施形態のようにモジュールケース72がスライドされる構成と比較して、フレーム14に対するモジュールケース82の取付構造が簡素になる。さらに、この実施形態では、上記のように後方側へ変位したモジュールケース82が、捩りコイルスプリング86の付勢力によって元の位置に復帰する。これにより、モジュールケース82を元の位置に復帰させるための修理が不要となる。
【0074】
なお、この実施形態では、モジュールケース82が中間フレーム部18に対して回動可能に支持された構成にしたが、これに限らず、モジュールケース82がアッパフレーム部16に対して回動可能に支持された構成にしてもよい。また、付勢部材は上記の捩りコイルスプリング86に限らず、他の種類のスプリング等であってもよい。
【0075】
<第6の実施形態>
図12には、本発明の第6実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール90周辺の構成が車両左方側から見た状態の断面図にて示されている。この後席用エアバッグモジュール90では、モジュールケース92が例えば金属製とされている。このモジュールケース92は、後方側が開放された箱状をなしており、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間の高さに配置されている。このモジュールケース92は、アッパフレーム部16と中間フレーム部18に対してボルト締結等の手段で固定されている。このモジュールケース92の前部92Fは、前席乗員P1の背中入り込み領域(すなわち図12において背中PBを示す二点鎖線よりも前方側の領域)に配置されている。
【0076】
図13に示されるように、モジュールケース92の周壁92Aには、複数の孔94が形成されている。これにより、モジュールケース92の周壁92Aの一部が脆弱部96とされている。この脆弱部96は、本発明における「易変形構成」に相当する。この脆弱部96は、モジュールケース92が前方側から所定値以上の押圧力で押されることで変形する。この脆弱部96の変形により、モジュールケース92が、前席乗員P1の背中入り込み領域よりも後方側に配置されるように構成されている(図14参照)。なお、この脆弱部96は、エアバッグ40の展開反力では変形しない構成とされている。
【0077】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態では、前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むと、モジュールケース92に対して前方側から所定値以上の押圧力が作用する。これにより、モジュールケース92の脆弱部96が後方側へ変形する。その結果、上記の入り込みが後席用エアバッグモジュール90との干渉によって阻害されないようにすることができるので、第1実施形態と基本的に同様の効果が得られる。しかも、モジュールケース92に脆弱部96が設けられる構成であるため、例えば従来の金属製のモジュールケースを大幅に構造変更することなく流用することができる。また、従来同様にエアバッグ40の展開反力を金属製のモジュールケース92で受けることができるので、エアバッグ40の展開方向の制御が容易になる。さらに、本実施形態では、モジュールケース92の壁の一部である周壁92Aに複数の孔94が形成されることで、モジュールケース92に脆弱部96が設けられているので、脆弱部96を簡素な構成にすることができる。
【0078】
なお、図13では、一例として、モジュールケース92の周壁92Aに複数の円形の孔94が形成されているが、各孔の形状は円形に限らず、適宜変更可能である。また、モジュールケースに設けられる脆弱部は、上記の脆弱部96に限らず、適宜変更可能である。例えば図15に示される変形例のように、モジュールケース92の周壁92Aの一部が蛇腹状に形成されて脆弱部98(易変形構成)とされる構成にしてもよい。この脆弱部98は、モジュールケース92の周壁92Aの上記一部が断面波形状に形成されたものであり、後方側へ圧縮変形容易に構成されている。
【0079】
<第7の実施形態>
図16には、本発明の第7実施形態に係る車両用シートにおける後席用エアバッグモジュール100周辺の構成が車両左方側から見た状態の断面図にて示されている。この後席用エアバッグモジュール100では、モジュールケース102が例えば金属製とされている。このモジュールケース102は、後方側が開放された箱状をなしており、アッパフレーム部16と中間フレーム部18との間の高さに配置されている。このモジュールケース102は、一例として、アッパフレーム部16と中間フレーム部18とによって上下方向に挟まれることでフレーム14に保持されている。このモジュールケース102の前部102Fは、前席乗員P1の背中入り込み領域に配置されている。このモジュールケース102の下端部の後端部には、下方側へ突出したフランジ部102Aが形成されている。このフランジ部102Aは、中間フレーム部18の背面に対して後方側から重ね合わされており、クリップ104を用いて中間フレーム部18に固定されている。このクリップ104は、モジュールケース92が前方側から所定値以上の押圧力で押されることで変形又は破断し、上記の固定を解除する。これにより、モジュールケース102がフレーム14に対して後方側に変位可能となるように構成されている。なお、このクリップ104は、エアバッグ40の展開反力では破断しない構成とされている。
【0080】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態では、前席乗員P1の背中PBが車両の後面衝突の衝撃によってシートバック10Bに入り込むと、モジュールケース102に対して前方側から所定値以上の押圧力が作用する。これにより、クリップ104が変形又は破断し、中間フレーム部18に対するモジュールケース102の固定が解除され、モジュールケース102がフレーム14に対して後方側に変位する。その結果、上記の入り込みが後席用エアバッグモジュール90との干渉によって阻害されないようにすることができるので、第1実施形態と基本的に同様の効果が得られる。しかも、この実施形態では、モジュールケース102がシートバックのフレームに対して変位可能に取り付けられる構成であるため、例えば従来の金属製のモジュールケースを用いて構成することができる。これにより、エアバッグ40の展開反力を金属製のモジュールケース92で良好に受け止めることが可能となる。
【0081】
なお、前記各実施形態では、車両用シートであるフロントシート10の前後の方向が、車両の前後の方向と一致した構成にしたが、これに限るものではない。すなわち、本発明に係る車両用シートは、例えば自動運転が可能な車両に搭載され、当該車両に対する前後の向きを反転可能とされるものでもよい。但しその場合、本発明に係る車両用シートが車両に対して後向きの状態で車両が前面衝突した場合に乗員の背中がシートバックに入り込むこととなるため、上記の「前面衝突」が本発明における「後面衝突」に相当するものとなる。
【0082】
以上、幾つかの実施形態を挙げて本発明について説明したが、本発明はその要旨を変更しない範囲で種々変更して実施することができる。また、本発明の技術的範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0083】
10 フロントシート(車両用シート)
10A シートクッション
10B シートバック
14 フレーム
16 アッパフレーム部
32 後席用エアバッグモジュール
34 モジュールケース
34B、34C フランジ部
36、38 リテーナ
40 エアバッグ
42 インフレータ
50 後席用エアバッグモジュール
52 モジュールケース
54 ストラップ(帯状部材)
54A、54B シート上下方向両端部
54C シート上下方向中間部
60 後席用エアバッグモジュール
62 凹部
70 後席用エアバッグモジュール
72 モジュールケース
80 後席用エアバッグモジュール
82 モジュールケース
86 コイルスプリング(付勢部材)
90 後席用エアバッグモジュール
92 モジュールケース
92A 周壁
94 孔
96 脆弱部
98 脆弱部
100 後席用エアバッグモジュール
102 モジュールケース
P1 前席乗員(乗員)
PB 前席乗員の背中(乗員の背中)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16