(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】カーボンブラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
C09C1/48
(21)【出願番号】P 2020169507
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 研吾
(72)【発明者】
【氏名】栩木 啓佑
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-080302(JP,A)
【文献】特表2010-540734(JP,A)
【文献】特開平04-178470(JP,A)
【文献】特開2015-000919(JP,A)
【文献】特開2016-108495(JP,A)
【文献】特開平01-240572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素/水素の質量比が10.0~20.0である原料油と、酸素含有ガスおよび燃料を混合し燃焼させた燃焼ガスとを、前記原料油供給量1kgあたり前記酸素含有ガス中の酸素量が1.26Nm
3を超え1.80Nm
3以下となるように接触させる一次反応を行って一次反応物を生成した後、
得られた一次反応物に対し、炭素/水素の質量比が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.30~1.00倍の量反応させて二次反応を行うことを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ原料油を導入し一次反応を行って一次反応物を生成した後、添加油導入帯域で添加油を導入して二次反応を行う
請求項1に記載のカーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
得られるカーボンブラックが、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm
-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が8.20×10
4(cm
-1・m
2/g)を超え11.50×10
4(cm
-1・m
2/g)以下であり、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が25.0~125.0(/g)である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカーボンブラックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム補強用のカーボンブラックとしては、具備特性に応じた多様な品種があり、これらの具備特性がゴムの諸性能を決定付けるための主要な因子となるため、ゴム組成物への配合にあたっては、部材用途に適合する特性を有するカーボンブラックが選定されている。
【0003】
例えば、タイヤトレッド部のような高度の補強性が要求されるゴム部材には、従来よりSAF(N110)、ISAF(N220)などの、一次粒子径が小さく、比表面積が大きい、高ストラクチャーなハード系カーボンブラックが使用されている。
【0004】
また、このようなタイヤトレッド部用ゴム部材のうち、操縦安定性や耐摩耗性を向上させたタイヤトレッド用ゴム部材として、CTAB比表面積および24M4DBP吸収量が特定範囲内にあり、24M4DBP吸収量とカーボンブラックの凝集体密度とが特定の関係にあるものが提案されるようになっている(特許文献1(特開2005-8877号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、より操縦安定性に優れた(高グリップ性能を有する)ゴム部材が求められるようになっているが、操縦安定性(グリップ性能)を高めるために比表面積の大きなカーボンブラックをゴム成分として使用した場合、カーボンブラックの凝集が生じ易くなり、分散性が低下する結果、補強性(耐摩耗性)が低下し易くなるという技術課題が存在していた。
【0007】
このような状況下、本発明は、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、グリップ性能に優れるとともにより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術課題を解決するために本発明者が鋭意検討した結果、炭素/水素の質量比が10.0~20.0である原料油と酸素含有ガスおよび燃料を混合し燃焼させた燃焼ガスとを、前記原料油供給量1kgあたり前記酸素含有ガス中の酸素量が1.26Nm3を超え1.80Nm3以下となるように接触させる一次反応を行って一次反応物を生成した後、得られた一次反応物に対し、炭素/水素の質量比が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.30~1.00倍の量反応させて二次反応を行うことにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)炭素/水素の質量比が10.0~20.0である原料油と、酸素含有ガスおよび燃料を混合し燃焼させた燃焼ガスとを、前記原料油供給量1kgあたり前記酸素含有ガス中の酸素量が1.26Nm3を超え1.80Nm3以下となるように接触させる一次反応を行って一次反応物を生成した後、
得られた一次反応物に対し、炭素/水素の質量比が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.30~1.00倍の量反応させて二次反応を行うことを特徴とするカーボンブラックの製造方法、
(2)ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ原料油を導入し一次反応を行って一次反応物を生成した後、添加油導入帯域で添加油を導入して二次反応を行う
上記(1)に記載のカーボンブラックの製造方法、
(3)得られるカーボンブラックが、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が8.20×104(cm-1・m2/g)を超え11.50×104(cm-1・m2/g)以下であり、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が25.0~125.0(/g)である
ことを特徴とする上記(1)または(2)に記載のカーボンブラックの製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、グリップ性能に優れるとともにより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るカーボンブラックの製造方法に使用される反応炉の形態例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおける、ΔDの半値全幅の算出方法を示す説明図である。
【
図3】本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、ラマンスペクトルの測定方法を説明するための図である。
【
図4】本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、パルス核磁気共鳴装置を用いスピン-スピン緩和時間T
2を測定したときに得られるT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の例を示す図である。
【
図5】
図4に示すT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)のフィッティング曲線を示す図である。
【
図6】本発明の実施例および比較例で得られたカーボンブラックを用いた場合における、損失係数(tanδ)に対する摩耗量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法は、炭素/水素の質量比が10.0~20.0である原料油と、酸素含有ガスおよび燃料を混合し燃焼させた燃焼ガスとを、前記原料油供給量1kgあたり前記酸素含有ガス中の酸素量が1.26Nm3を超え1.80Nm3以下となるように接触させる一次反応を行って一次反応物を生成した後、
得られた一次反応物に対し、炭素/水素の質量比が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.30~1.00倍の量反応させて二次反応を行うことを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油を構成する炭素/水素の質量比は、10.0~20.0であり、安定した反応性を確保する上では10.0~18.0であることが好ましく、安定した反応性と高い収率を確保する上では10.3~17.0であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油を構成する水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が上記範囲内にあることにより、安定した反応を維持しつつ高い収率でカーボンブラックを製造することができる。
【0015】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、炭素/水素の質量比は、JIS M 8813に従って測定した炭素および水素の質量に基づいて算出される値(質量比)を意味する。
【0016】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、クレオソート油、カルボン酸油等の石炭系炭化水素、エチレンボトム油(エチレンヘビーエンドオイル)、FCC残渣油等の石油系重質油、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素などから選ばれる一種以上を挙げることができる。
本発明において、原料油は、上記炭化水素等を二種以上混合したものであってもよい。
【0017】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、炭素/水素の質量比が
10.0~20.0である原料油と酸素含有ガスおよび燃料を混合し燃焼させた燃焼ガスとを接触させる一次反応を行って一次反応物を生成する。
【0018】
上記燃焼ガスは、酸素含有ガスおよび燃料を混合し燃焼させたものである。
上記酸素含有ガスとしては酸素、空気またはこれらの混合物からなるガスを挙げることができ、燃料としては、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス、FCC残渣油等、重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料を挙げることができる。
【0019】
原料油の供給量は、特に制限されないが、100kg/時間~2000kg/時間であることが好ましく、150kg/時間~1500kg/時間であることがより好ましく、200kg/時間~1400kg/時間であることがさらに好ましい。
【0020】
原料油に対する燃焼ガスの供給量は、2000Nm3/h~5500Nm3/hで あることが好ましく、2500Nm3/h~5000Nm3/hであることがより好ましく、3000Nm3/h~4500Nm3/hであることがさらに好ましい。
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、酸素含有ガスとして空気を用いる場合、原料油供給量と空気供給量とは、原料油供給量1kgに対して空気供給量が6.1~8.3Nm3であることが好ましく、原料油供給量1kgに対して空気供給量が6.2~7.8Nm3であることがより好ましく、原料油供給量1kgに対して空気供給量が6.2~7.6Nm3であることがことがさらに好ましい。
【0021】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、一次反応に供給する原料油と酸素含有ガスとは、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が1.26Nm3を超え1.80Nm3以下となるように接触させる。
一次反応に供給する原料油と酸素含有ガスとは、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときにゴム成分と強い親和力を発揮し高いグリップ性能を発揮する上では、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が1.28~1.74Nm3となるように接触させることが好ましく、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときにゴム成分と安定した強い親和力を発揮し高いグリップ性能を発揮する上では、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が1.30~1.64Nm3となるように接触させることがより好ましく、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときにゴム成分と安定した強い親和力を発揮し安定した高いグリップ性能を発揮する上では、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が1.30~1.60Nm3となるように接触させることがさらに好ましい。
【0022】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、原料油と酸素含有ガスとを、上記範囲を満たすように一次反応に供することにより、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときにゴム成分と強固な結合力(親和性)を発揮する表面性状を有するカーボンブラックを得ることができるとともに、損失係数の高い(グリップ性能に優れた)ゴム組成物を容易に得ることができる。
【0023】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、原料油と燃焼ガスとを接触させる一次反応を行って一次反応物を生成した後、得られた一次反応物に対し、添加油を反応させて二次反応を行う。
【0024】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油を構成する炭素/水素の質量比は、5.0以上10.0未満であり、安定した反応性を確保する上では5.5~9.5であることが好ましく、安定した反応性と高い収率を確保する上では5.7~9.3であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油を構成する水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が上記範囲内にあることにより、表面に水素官能基を有するカーボンブラックを容易に調製することができる。
【0026】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、炭素/水素の質量比は、JIS M 8813に従って測定した炭素および水素の質量に基づいて算出される値(質量比)を意味する。
【0027】
上記添加油としては、水素原子を含む油状物質であれば特に制限されないが、炭化水素油が好ましく、炭化水素油としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0028】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、一次反応物に対する添加油の添加量が、原料油の0.30~1.00質量倍となる量反応させて二次反応を行い、安定した反応性を確保する上では原料油の0.31~0.95質量倍となる量反応させて二次反応を行うことが好ましく、安定した反応性と高い収率を確保する上では原料油の0.32~0.93質量倍となる量反応させて二次反応を行うことがより好ましい。
【0029】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油の添加量が上記範囲内にあることにより、安定した反応を維持しつつ表面に水素官能基を有するカーボンブラックを高い収率で製造することができる。
【0030】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、一次反応物に添加油を導入、反応させることにより、表面に活性点となるエッジを所定数形成しつつ、所望量の水素原子が結合したカーボンブラックを容易に調製することができる。
【0031】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法の実施形態としては、ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ原料油を導入し一次反応を行って一次反応物を生成した後、添加油導入帯域で添加油を導入して二次反応を行う形態を挙げることができる。
【0032】
この場合、反応炉として、ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられたものを使用する。このような反応炉としては、例えば、
図1に模式的に示すような広径円筒反応炉を挙げることができる。
以下、本発明のカーボンブラックの製造方法を、
図1に示す反応炉を適宜例にとって説明する。
【0033】
図1に示す反応炉には、炉内に形成されたガス流路の上流から下流方向に向かって連通する、燃料燃焼帯域3、原料導入および一次反応帯域5、添加油導入帯域8および二次反応帯域9が順次設けられている。
【0034】
すなわち、
図1に示す反応炉において、燃料燃焼帯域3は、炉軸方向に垂直な方向から空気等の酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入口1と、炉軸方向に燃料を供給する燃焼用バーナー2とを備えている。また、原料導入および一次反応帯域5は、炉軸方向に垂直な方向から原料油を供給する原料油導入ノズル4を備え、燃料燃焼帯域3と同軸的に連通して設けられている。さらに、添加油導入帯域8は、炉軸方向に垂直な方向から添加油を供給する添加油導入ノズル6を備え、原料導入および一次反応帯域5に同軸的に連通して設けられている。二次反応帯域9は、添加油導入帯域8に同軸的に連通して設けられている。
図1に示す反応炉においては、二次反応帯域9に同軸的に連通して反応停止帯域も設けられており、同反応停止帯域には、炉軸方向に垂直な方向から冷却液を噴霧する冷却液導入ノズル7が設けられている。
【0035】
図1に示す反応炉は、燃料燃焼帯域3から原料導入および一次反応帯域5に向かって縮管するとともに、原料導入および一次反応帯域5から添加油導入帯域8に向かって拡管する鼓状形状を有しているが、反応炉形状はこのような形状に限定されず、種々の形状を採ることができる。
【0036】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、燃料燃焼帯域3に酸素含有ガスと燃料を導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させる。
酸素含有ガスとしては、酸素、空気またはこれらの混合物からなるガスを挙げることができ、燃料としては、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス、FCC残渣油等、重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料を挙げることができる。
燃焼ガスの生成源となる燃料としては、上述した燃焼ガスを生成し得るものと同様のものを挙げることができる。
【0037】
燃料燃焼帯域3における酸素含有ガスの供給量は、2000Nm3/時間~5500Nm3/時間であることが好ましく、2500Nm3/時間~5000Nm3/時間であることがより好ましく、3000Nm3/時間~4500Nm3/時間であることがさらに好ましい。また、燃料燃焼帯域3における燃料の供給量は、50kg/時間~400kg/時間であることが好ましく、100kg/時間~350kg/時間であることがより好ましく、150kg/時間~300kg/時間であることがさらに好ましい。
燃料燃焼帯域3においては、例えば、400℃~600℃に予熱した酸素含有ガスを供給しつつ燃料を供給することにより、両者を混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させることができる。
【0038】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、上記高温燃焼ガス流を原料導入および一次反応帯域5に導入しつつ、当該原料導入および一次反応帯域5に原料油導入ノズル4から原料油を導入する。
【0039】
原料導入および一次反応帯域5で供給する原料油としては、上述したものを挙げることができる。
また、上記原料油導入ノズルとしては一流体ノズルを挙げることができる。
【0040】
原料油の導入量は、特に制限されないが、100kg/時間~2000kg/時間であることが好ましく、150kg/時間~1500kg/時間であることがより好ましく、200kg/時間~1400kg/時間であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、上記原料導入および一次反応帯域5に原料油を導入して一次反応を行った後、添加油導入帯域8に添加油を導入して二次反応を行う。
【0042】
添加油としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0043】
添加油導入帯域における添加油の導入量は、50~1500kg/時間であることが好ましく、100~1200kg/時間であることがより好ましく、150~1000kg/時間であることがさらに好ましい。
添加油導入帯域における添加油の導入量が上記範囲内にあることにより、得られるカーボンブラック表面における水素量を所望範囲に制御することができる。
【0044】
本発明のカーボンブラックの製造方法において、
図1に示す反応炉を用いた場合、原料導入および一次反応帯域5で一次反応を行った後、添加油導入帯域8で添加油を導入し、添加油導入帯域8や二次反応帯域9に導入において二次反応させることにより、目的とするカーボンブラックを容易に調製することができる。
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、二次反応帯域9を有さない反応炉を用いてもよい。
【0045】
図1に示す反応炉においては、上記カーボンブラック含有ガスが反応停止帯域に導入され、冷却液が噴霧される。
冷却液としては水等を挙げることができ、冷却液を噴霧することにより、高温燃焼ガス中に浮遊懸濁したカーボンブラック粒子が冷却される。冷却液の噴霧は、例えば
図1に示す冷却液導入ノズル7から冷却液を噴霧することにより行うことができる。
【0046】
次いで、冷却されたカーボンブラック粒子は、煙道等を経て、サイクロンやバッグフィルター等の捕集系(分離捕集装置)により分離捕集することにより、目的とするカーボンブラックを回収することができる。
【0047】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、一次反応物と反応させる添加油の種類や量を変えることにより、得られるカーボンブラックの総活性点数や水素量を所望範囲に容易に調整することができる。
【0048】
本発明の製造方法により得られるカーボンブラックとしては、本発明のカーボンブラックの説明で詳述したものと同様のものを挙げることができる。
【0049】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、グリップ性能に優れるとともにより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを製造する方法を提供することができる。
【0050】
次に、本発明の製造方法で得られるカーボンブラックについて説明する。
本発明の製造方法で得られるカーボンブラックは、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が8.20×104(cm-1・m2/g)を超え11.50×104(cm-1・m2/g)以下であり、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が25.0~125.0(/g)である
ことを特徴とするものである。
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックは、より詳細には、下記式(I)
ΔD×N2SA (I)
(ただし、ΔDは、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)であり、N2SAは、窒素吸着法により測定される窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
で表される総活性点が8.20×104(cm-1・m2/g)を超え11.50×104(cm-1・m2/g)以下であり、
パルス核磁気共鳴装置を用い、ソリッドエコー法により観測核を1Hとしてスピン-スピン緩和時間T2を測定したときに得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
により表したときに、
下記式(II)
A(1)/w (II)
(ただし、wは測定試料の質量(g)である。)
で表される水素量が25.0~125.0(/g)である
ことを特徴とするものである。
【0051】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、半値全幅(半値全幅ΔD)は、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)である。
【0052】
半値全幅(半値全幅ΔD)は、180~280cm-1であることが好ましく、185~270cm-1であることがより好ましく、188~265cm-1であることがさらに好ましい。
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、半値全幅(半値全幅ΔD)が上記範囲内にあることにより、カーボンブラック表面の活性点数を所望範囲に制御して、後述するΔD×N2SAを所望範囲内に容易に制御し得るとともに、ゴム成分に配合したときにカーボンブラックの凝集を抑制して分散性を容易に向上させることができる。
【0053】
図2は、本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおける、半値全幅(半値全幅ΔD)の算出方法を示す図である。
図2に示すように、本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm
-1の範囲にピークトップを有するピークが検出される。
そして、上記ピークトップ位置における測定波長をDmax(cm
-1)とし、得られたスペクトルにおいて、上記Dmaxにおけるピーク強度の半分の検出強度を有する低波長(低ラマンシフト)側の検出位置をD50(cm
-1)としたときに、下記式により算出される値を、本出願における半値全幅ΔD(cm
-1)とする。
ΔD=(Dmax-D50)×2
【0054】
上記ラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークはラマンスペクトルのDバンドにおけるピークに相当する。
本発明者等の検討によれば、上記Dバンドのピークの半値全幅ΔDはカーボンブラック表面における結晶構造の乱雑さの程度を表し、この為に本発明においてΔDが所望範囲内にあることはカーボンブラック表面におけるエッジ、すなわちゴム成分に対して親和性を示す官能基の形成箇所(活性点)が多数存在することを意味する。
【0055】
本発明において、半値全幅ΔD(cm
-1)は、以下の(1)の測定条件で測定した後、(2)のデータ処理を施して得られるラマンスペクトルから算出される値を意味する。
(1)レーザーラマン分光装置として(株)堀場製作所製 HR-800を用い、測定対象となるカーボンブラック試料を数粒スライドグラス上に載置し、スパチュラで数回こすり表面を平らにした状態のものを、以下の測定条件で測定する。
YAGレーザー(励起波長):532nm
刻線数 :600gr/mm
フィルター :D0.6
対物レンズ倍率 :100倍
露光時間 :150秒
積算回数 :2回
このとき得られるスペクトル例を
図3に示す。
(2)得られたスペクトルの測定波長(Raman Shift)2100cm
-1における信号強度を0とし、スペクトルを構成するデータ点のうち、隣接する39点毎に平均値を求め、次いでスムージング処理して上記各平均値を結ぶスペクトル曲線を得る。次いで、各サンプル毎の比較を容易にするために、測定波長1350±10cm
-1の範囲に観察されるピークトップ強度を100とする。
このとき得られるラマンスぺクトル例が、
図2に例示するようなラマンスペクトルである。
【0056】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、N2SAは、窒素吸着法により測定されるカーボンブラックの窒素吸着比表面積(m2/g)である。
【0057】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、N2SAは、345~565m2/gであることが好ましく、355~555m2/gであることがより好ましく、360~550m2/gであることがさらに好ましい。
【0058】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、N2SAが上記範囲内にあることにより、カーボンブラック表面の活性点数を所望範囲に制御して、後述する半値全幅と窒素吸着比表面積との積(ΔD×N2SA)を所望範囲内に容易に制御することができるとともに、ゴム成分に配合したときにカーボンブラックの分散性を向上させて耐摩耗性を容易に向上させることができる。
【0059】
なお、本出願書類において、N2SAは、JIS K6217-2 2001「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に規定される方法に準拠して、窒素吸着量により測定される値を意味する。
【0060】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、下記式(I)
ΔD×N2SA (I)
(ただし、ΔDは、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)であり、N2SAは、窒素吸着法により測定される窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
で表される総活性点が8.20×104(cm-1・m2/g)を超え11.500×104(cm-1・m2/g)以下である。
【0061】
上記式(I)で表される総活性点は、8.20×104(cm-1・m2/g)を超え11.50×104(cm-1・m2/g)以下であり、8.25×104~11.45×104(cm-1・m2/g)が好ましく、8.30×104~11.40×104(cm-1・m2/g)がより好ましい。
加工性に優れたカーボンブラックを得ようとする場合、上記式(I)で表されるカーボンブラックの総活性点は、9.50×104(cm-1・m2/g)を超え11.50×104(cm-1・m2/g)以下が好ましく、9.55×104~11.45×104(cm-1・m2/g)がより好ましく、9.60×104~11.40×104(cm-1・m2/g)がさらに好ましい。
【0062】
上記式(I)で表される総活性点(上記式(I)で表される総活性点)が上記範囲内にあることにより、加工性に優れるとともにゴム成分との適度な結合力(親和性)を発揮するカーボンブラックを得ることができる。
【0063】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックは、パルス核磁気共鳴装置を用い、ソリッドエコー法により観測核を1Hとしてスピン-スピン緩和時間T2を測定したときに得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
により表したときに、
下記式(II)
A(1)/w (II)
(ただし、wは測定試料の質量(g)である。)
で表される水素量が25.0~125.0(/g)であるものである。
【0064】
上記式(II)で表される水素量は、25.0~125.0(/g)であり、
40.0~110.0(/g)であることが好ましく、50.0~100.0(/g)であることがより好ましい。
【0065】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックにおいて、A(1)/w(II)で表される水素量が上記範囲内にあることにより、ゴムへの練りこみ時に良好な分散性を発揮しつつ損失係数の高い(グリップ性能に優れた)ゴム組成物を容易に調製することができる。
【0066】
一方、上述したように、本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックは、上記総活性点(上記式(I)で表される総活性点)が所定範囲内にあることにより、カーボンブラックとゴム成分との適度な結合力(親和性)を得ることができる。
このため、上記総活性点(上記式(I)で表される総活性点)および上記水素量(上記式(II)で表される水素量)が各々所定範囲内にある本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックは、ゴム組成物の構成成分として使用したときに、損失係数が高く(グリップ性能が高く)操縦安定性を優れるとともに、ゴム成分と適度な結合力(親和性)を有し優れた耐摩耗性を容易に発揮することができる。
【0067】
本発明において、水素量(上記式(II)で表される水素量)は、以下の方法により求められる。
(1)パルス核磁気共鳴装置としてブルカー・バイオスピン(株)Minispec mq20を用い、測定対象となるカーボンブラックを110℃で30分間乾燥した後、ガラス製サンプル管に0.2g充填したものを測定試料とし、以下の測定条件によりスピン-スピン緩和時間(横緩和時間)T2を測定して、T2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を得る。
<測定条件>
測定核種 :1H
パルスモード :ソリッドエコー法(90°×-τ-90°y)
90°パルス幅:2.7μs
測定時間:2ms
待ち時間:500ms
積算回数:52回
測定温度:40℃
Gain:90
カーボンブラックの質量は0.2gで一定であり、装置関数も一定(Gainn=90)であるため、得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の信号強度は測定対象の1H濃度に比例して増減することになる。
(2)得られた自由誘導減衰曲線を、上記パルス核磁気共鳴装置(ブルカー・バイオスピン(株)Minispec mq20)付属のフィッティングソフト(TD-NMR-A for Windows7)を用いた線形最小二乗法によるフィッティングにより、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
で表される近似曲線を得る。
(3)上記信号強度A(1)を測定試料の質量w(g)で割る。
【0068】
図4に、上記方法で得られるT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の例を示す。
図4に示すように、90°パルスにより励起した時間をt=0とすると、y軸方向の磁化(信号強度)が時間とともに減衰するシグナルが得られることが分かる。
図5は、
図4に示すT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を線形最小二乗法によりフィッティングした場合のフィッティング曲線を実線で示すものであり、
図5に示すように、得られたT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)は、フィッティングにより2つの指数関数の和として表することができる。
ここで、時定数の違いにより液体と固体とを区別できるので、緩和時間の短い成分に係る指数関数においてt=0(90°パルスによる励起時)における信号強度A(1)はカーボンブラック表面の水素原子(-COOH、-OH、表面の-H、炭素骨格中の-H等)と特定できる。同様に、緩和時間の短い成分に係る指数関数においてt=0(90°パルスによる励起時)における信号強度A(2)はカーボンブラック表面に吸着した水分や液状の多環芳香族炭化水素化合物等と特定できる。
上記信号強度A(1)(a.u.)を測定に供したカーボンブラックの質量w(0.2g)で割ることにより、カーボンブラック単位質量当たりの水素量「A(1)/w」を求めることができる。
本発明者等の検討によれば、上記式(II)(A(1)/w)で表される水素量は、従来カーボンブラック表面の水素量を測定する方法として知られていた熱分解法により得られる水素量と高い相関性を示すことが見出されており、このためにカーボンブラック表面の水素量を表す指標として好適に使用することができる。
【0069】
本発明に係る製造方法で得られるカーボンブラックは、DBP(Dibutylphthalate)吸収量が、80~140cm3/100gであるものが好ましく、85~130cm3/100gであるものがより好ましく、90~125cm3/100gであるものがさらに好ましい。
【0070】
上記DBP吸収量は、ストラクチャーの発達度合い、すなわちアグリゲート構造の複雑さの程度を表す指標となる。
DBP吸収量が80ml/100g未満であると、ゴム組成物に配合した際にカーボンブラックの分散性が悪化して得られるゴムの補強性が低下し易くなり、140ml/100gを超えるとゴム組成物に配合した際にゴム組成物が硬くなり加工性が悪化する場合がある。
【0071】
なお、本出願書類において、DBP吸収量は、JISK6217-4「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部、DBP吸収量の求め方」に規定された方法により測定される値を意味する。
【0072】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、グリップ性能に優れるとともにより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを製造する方法を提供することができる。
【0073】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0074】
(実施例1~実施例6、比較例1~比較例5)
(実施例1)
図1に示すような概略円筒形状を有する反応炉を用いてカーボンブラックを作製した。
図1に示す反応炉には、炉内に形成されたガス流路の上流から下流方向に向かって連通する、燃料燃焼帯域3、原料導入および一次反応帯域5、添加油導入帯域8、二次反応帯域9および反応停止帯域が順次設けられている。
【0075】
図1に示す反応炉において、燃料燃焼帯域3は、炉軸方向に垂直な方向から空気等の酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入口1と、炉軸方向に燃料を供給する燃焼用バーナー2とを備えている。また、原料導入および一次反応帯域5は、炉軸方向に垂直な方向から原料油を供給する原料油導入ノズル4である一流体ノズルを備え、燃料燃焼帯域3と同軸的に連通して設けられている。
添加油導入帯域8は、炉軸方向に垂直な方向から添加油を供給する添加油導入ノズル6である一流体ノズルを備え、原料導入および一次反応帯域5と同軸的に連通して設けられており、さらに、二次反応帯域9は、添加油導入帯域8に同軸的に連通して設けられている。また、反応停止帯域は、炉軸方向に垂直な方向から冷却水を供給する図の上下方向に位置変更可能な冷却液導入ノズル7(水冷クエンチ)を備え、二次反応帯域9に同軸的に連通して設けられている。
【0076】
図1に示すように、上記反応炉は、原料導入および一次反応帯域5の前後において、燃料燃焼帯域3から原料導入および一次反応帯域5に向かって緩やかに縮管するとともに、原料導入および一次反応帯域5から添加油導入帯域8に向かってテーパー状に拡管する鼓状絞り形状を成している。
【0077】
燃料燃焼帯域3においては、酸素含有ガス導入口1から、500℃に予熱した空気(酸素含有割合21体積%)を4100Nm3/hを供給するとともに、燃焼用バーナー2から燃料油としてFCC残渣油(石油系残渣油)250kg/h噴射供給し、混合燃焼させて、炉軸方向に流通する高温燃焼ガス流を形成した。
【0078】
原料導入および一次反応帯域5に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ、原料油導入ノズル4である一流体ノズルから、原料油として炭素/水素の質量比が12.0であるエチレンボトム油を675kg/hで供給し、次いで、添加油導入帯域において、添加油導入ノズル6から炭素/水素の質量比が6.0であるシクロヘキサンを225kg/h供給し、順次反応させることにより、カーボンブラック含有ガスを生成した。
このとき、上記原料油供給量1kgあたりの上記空気中の酸素量(4100(Nm3/h)×0.21/675(kg/h))は1.28であった。
【0079】
次いで、原料導入および一次反応帯域5を経て添加油導入帯域8で生成したカーボンブラック含有ガスを二次反応帯域9に導入してさらに十分に反応させた後、反応停止帯域に導入して、冷却液導入ノズル7から冷却水を噴霧した。冷却されたカーボンブラック粒子は、煙道等を経て、図示しない分離捕集装置により捕集され、目的とするカーボンブラックを回収した。
【0080】
上記反応において、使用した原料油と添加油の種類および炭素/水素の質量比、原料油に対する添加油の使用量を表1に示すとともに、空気供給量、燃料供給量、原料油供給量、添加油供給量を表2に示す。
また、得られたカーボンブラックにおける、ΔD、窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)、総活性点(ΔD×N2SA)、水素量(A(1)/w)およびDBP吸収量(ml/100g)を表3に示す。
【0081】
(実施例2~実施例6、比較例1~比較例5)
実施例1において、反応条件を表1および表2に記載するとおり各々変更した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラックを調製した。
得られたカーボンブラックにおける、ΔD、窒素吸着比表面積N2SA(m2
/g)、総活性点(ΔD×N2SA)、水素量(A(1)/w)およびDBP吸収量(ml/100g)を表3に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
(実施例7~実施例12、比較例6~比較例9)
実施例1において、反応条件を表4および表5に記載するとおり各々変更した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラックを調製した。
得られたカーボンブラックにおける、ΔD、窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)、総活性点(ΔD×N2SA)、水素量(A(1)/w)およびDBP吸
収量(ml/100g)を表6に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
(ゴム組成物の製造例)
表7に示すように、ゴム成分である天然ゴム(RSS#1)100質量部、上記実施例および比較例で得られた何れかのカーボンブラック45質量部、ステアリン酸3質量部、老化防止剤(川口化学(株)製 アンテージ6C)1質量部、亜鉛華4質量部とを、密閉型ミキサー(神戸製鋼(株)製MIXTRON BB-2)で混練した後、得られた混練物に対し、加硫促進剤(川口化学工業(株)製アクセルNS)0.5質量部と、硫黄1.5質量部とをオープンロールで混練することにより、各々表7に示す組成を有するゴム組成物を得た。
【0090】
【0091】
次いで、得られた各ゴム組成物を145℃の温度条件下、45分間加硫して加硫ゴムを形成した。
得られた加硫ゴムを用い、以下に示す方法により、摩耗量、損失係数(tanδ)およびムーニー粘度Mv(M)を測定した。結果を表8に示す。
なお、表8においては、使用した各カーボンブラックが得られた実施例および比較例毎に摩耗量および損失係数(tanδ)の結果を示している。
【0092】
<摩耗量>
ランボーン摩耗試験機(機械スリップ機構、(株)上島製作所製AB-1152)を用い、JIS K6264「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐摩耗性の求め方-」に規定される方法に準拠し、以下の測定条件で測定した。
試験片 :厚さ10mm、外径48mm
研磨紙 :粒度A80
スリップ率 :10%
試験片表面速度:72m/min
試験荷重 :3kg
なお、摩耗量は、値が小さい程耐摩耗性に優れることを示している。
【0093】
<損失係数(tanδ)>
得られた各加硫ゴムから切り出した、厚さ2mm、長さ40mm、幅4mmの試験片を用い、粘弾性スペクトロメータ((株)上島製作所製VR-7110)を用い、周波数50Hz、動的歪率1.26%、測定温度60℃の測定条件で、損失係数(tanδ)を測定した。
なお、損失係数(tanδ)は、値が大きいほどグリップ性能が高いことを示している。
【0094】
<ムーニー粘度>
ムーニー粘度計((株)東洋精機製作所製AM-3)を用い、JIS K6300に準拠し、未加硫ゴム組成物を130℃で1分間予熱した後、ローターの回転開始4分経過時のムーニー粘度Mv(M)を測定した。
なお、ムーニー粘度Mv(M)は値が小さいほど加工性が良いことを示している。
【0095】
また、実施例1~実施例12および比較例1~比較例9で得られたカーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムの損失係数(tanδ)に対する摩耗量を
図6に示す。
【0096】
【0097】
表3、表6、表8および
図6の結果から、本発明に係る製造方法により、実施例1~実施例12で得られたカーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムは、ΔD×N
2SAで表される総活性点およびA(1)/wで表される水素量が各々所定範囲内にあるカーボンブラックを用いていることから、損失係数tanδが大きくグリップ性能に優れるとともに摩耗量が少なく耐摩耗性に優れる(高グリップ性能および耐摩耗性を両立し得る)ものであることが分かる。
また、実施例7~実施例12で得られたカーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムは、ムーニー粘度Mvの値が低く加工性に優れるものであることが分かる。
【0098】
一方、表3、表6、表8および
図6の結果から、比較例1~比較例9で得られた比較カーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムは、カーボンブラックとして、ΔD×N
2SAで表される総活性点またはA(1)/wで表される水素量が所定範囲外にあることから、ゴム組成物に配合したときに、損失係数tanδが小さくグリップ性能が低かったり摩耗量が多く耐摩耗性に劣る(高グリップ性能および耐摩耗性を両立し得ない)ものであったり、ムーニー粘度Mvの値が高く加工性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、グリップ性能に優れるとともにより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを提供することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 酸素含有ガス導入口
2 燃焼用バーナー
3 燃料燃焼帯域
4 原料油導入ノズル
5 原料導入および一次反応帯域
6 添加油導入ノズル
7 冷却液導入ノズル
8 添加油導入帯域
9 二次反応帯域