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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ラクトン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/58 20060101AFI20230816BHJP
   C07D 309/32 20060101ALI20230816BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20230816BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230816BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20230816BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C07D307/58 CSP
C07D309/32
A23L27/20 G
A61K8/49
A61Q13/00 101
C11B9/00 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020175714
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067156
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和
(72)【発明者】
【氏名】川口 賢二
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-065877(JP,A)
【文献】特開2017-025182(JP,A)
【文献】特開2020-029424(JP,A)
【文献】特開昭53-084975(JP,A)
【文献】特開昭58-013572(JP,A)
【文献】特開平04-091087(JP,A)
【文献】特開昭56-113775(JP,A)
【文献】GEDGE, David R.,Tetrahedron Letters,1977年,50,4443-4446
【文献】FUJITA, Tsutomu,J. Chem. Tech. Biotechnol.,1982年,32,421-426
【文献】CAS Registry No. 2492342-84-2,DATABASE REGISTRY [online], Retrived from STN,Entered STN:,2020年10月20日
【文献】MIYAZAWA, Yamato,Flavour and Fragrance Journal,2020年02月18日,Vol.35(3),p.341-349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、A61K、A61Q、A23L、C11B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-1)~(1-4)のいずれかで表されるラクトン化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のラクトン化合物からなる香味付与剤。
【請求項3】
請求項2に記載の香味付与剤を含有する、香料組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の香味付与剤または請求項3に記載の香料組成物を配合してなる、消費財。
【請求項5】
請求項2に記載の香味付与剤または請求項3に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味改善方法。
【請求項6】
請求項2に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香気改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン化合物、ラクトン化合物からなる香味付与剤、および当該香味付与剤を含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、飲食品や香粧品における消費者の要求は高度化および多様化しているが、特に、香りに注目が集まっており、香りの特性が製品の訴求力に重要な要素となっている。例えば、配合によって、香り味を改善することや、香りや味に持続性、天然感、ボリューム感などを付与または増強できる香料化合物への要求が高まっている。
【0003】
例えば、本発明に係る化合物が属するフラノン類では、4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノンを有効成分とする香料組成物をシトラスやフローラル調の香味の改善に使用すること(特許文献1)、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、2-エチル-4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノン、5-エチル-3-ヒドロキシ-4-メチル-2(5H)-フラノンなどによって酸味や酸臭をマスキングすること(特許文献2)、3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノンなどによって甘味を増強する方法(特許文献3)が提案され、また、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、5-エチル-3-ヒドロキシ-4-メチル-2(5H)-フラノン、2-エチル-4-ヒドロキシ-5-メチル-3(2H)-フラノンなどが、硬化油風味に極めて類似した、醸成されたねっとりとした上品な甘さの付与に寄与するとされている(特許文献4)。
【0004】
しかし、消費者製品によりよい香味を付与して既存製品の香味との差別化を可能とする、新たな化合物の開発が期待されて続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-025182号公報
【文献】特開2012-34603号公報
【文献】特開平4-8264号公報
【文献】国際公開第2008/032852号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、飲食品、香粧品など各種物品への香味の付与に使用可能な新たな化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、飲食品、香粧品など各種物品への香味の付与に有用な化合物を鋭意探索したところ、これまで香料用途が全く知られていなかった各種新規ラクトン化合物が香味付与に有用であることを見出した。
【0008】
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1] 下記式(1)で表されるラクトン化合物。
【0009】
【化1】
[式中、複素環の破線はいずれか1箇所が炭素-炭素間二重結合であることを表し、側鎖の破線はいずれか1または2箇所が炭素-炭素間二重結合であることを表し、nは1または2を表し、nは1~4の整数を表し、RおよびRは、n=1の場合はそれぞれ独立してメチル基またはエチル基を表し、n=2の場合はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基を表す。]
[2] [1]に記載のラクトン化合物からなる香味付与剤。
[3] [2]に記載の香味付与剤を含有する、香料組成物。
[4] [2]に記載の香味付与剤または[3]に記載の香料組成物を配合してなる、消費財。
[5] [2]に記載の香味付与剤または[3]に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味改善方法。
[6] [2]に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香気改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、飲食品、香粧品など各種物品への香味の付与に新規に使用可能な化合物を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表すものとする。
【0012】
(式(1)で表されるラクトン化合物)
式(1)で表されるラクトン化合物(式(1)のラクトン化合物ともいう)は、これまで香気を呈することも香味付与に使用可能なことも全く知られていなかった化合物群であり、本発明者らによって香味付与剤としての有用性が初めて確認されたものである。化合物の中には構造がわずかに異なる類縁体では香りを呈さないものや不快な香りを呈するものもある中で、本発明は、この化合物群においては各類縁体が好ましい香気を呈し、有効量物品に配合することで物品に香味を付与することができる、という驚くべき発見に基づく。
【0013】
【化2】
[式中、複素環の破線はいずれか1箇所が炭素-炭素間二重結合であることを表し、側鎖の破線はいずれか1または2箇所が炭素-炭素間二重結合であることを表し、nは1または2を表し、nは1~4の整数を表し、RおよびRは、n=1の場合はそれぞれ独立してメチル基またはエチル基を表し、n=2の場合はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基を表す。]
好ましくは、RおよびRは、n=1の場合はそれぞれメチル基であり、n=2の場合はそれぞれ独立して水素またはメチル基である。nは、好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは1または2であり、さらに好ましくは1である。側鎖の炭素-炭素間二重結合は、好ましくはいずれか1箇所である。
【0014】
(式(1)のラクトン化合物の製造例)
式(1)のラクトン化合物を得る手段は特に限定されないが、例えば、下記の方法によって得ることができる。
【0015】
(1)反応経路1(ラクトン化)
【0016】
【化3】
【0017】
式中、n、RおよびRの定義は、一般式(1)におけるこれらの定義と同じである。すなわち、nは1または2を表し、nは1~4の整数を表し、RおよびRは、n=1の場合はそれぞれ独立してメチル基またはエチル基を表し、n=2の場合はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基を表す。
【0018】
上記反応の工程は、ヒドロキシル基が保護されたプロパルギルアルコール1-1を原料として、任意の塩基とクロロギ酸エチルを用いてエトキシカルボニル化し三重結合を有する不飽和エステル1-2とする。得られた不飽和エステル1-2に対し銅試薬存在下、グリニャール試薬を加えることでZ選択的に共役付加反応させ二重結合を有する不飽和エステル1-3とする。得られた不飽和エステル1-3の脱保護を行うと環化まで進行し式(1)のラクトン化合物を得ることが出来る。以下、各工程について一般的な製法を述べるが、本発明を限定するものではない。上記反応の出発物質として用いられるヒドロキシル基が保護されたプロパルギルアルコール1-1は、一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでも良い。保護基としてはエトキシエチル基(EE)やテトラヒドロピラニル基(THP)のようなアセタール系保護基やt-ブチルジメチルシリル基(TBS)のようなシリル系保護基などを挙げることが出来るが、EE基が好ましい。エトキシカルボニル化反応に用いる塩基は特に限定はされないが、n-ブチルリチウムが好ましい。共役付加反応に用いるグリニャール試薬は対応するハロゲン化アルキルとマグネシウムから調製することが出来る。ハロゲン化アルキルは一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでも良い。用いる銅試薬は臭化銅ジメチルスルフィド錯体、臭化銅、ヨウ化銅などを挙げることが出来るが、臭化銅ジメチルスルフィド錯体が好ましい。脱保護の条件は用いた保護基の種類によって選択する必要がある。EE基のようなアセタール系保護基は一般的には酸加水分解で脱保護されるが特に限定はされない。酸加水分解に用いる酸は塩酸、硫酸などを挙げることが出来るが、塩酸が好ましい。脱保護が進行すると環化まで進行し目的物へと変換される。
【0019】
(2)反応経路2(アルキル化)
反応経路1で得られたラクトン化合物にメチル基またはエチル基を付加する場合、公知のアルキル化方法を採用できる。代表的には、ハロゲン化アルキル(例えば、ヨウ化メチル)を用いて、塩基性条件にてラクトン化合物のアルキル化を行えばよい。ハロゲン化アルキルは一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでも良い。塩基性条件のために、有機リチウム試薬(例えば、リチウム ビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDSまたはLHMDSともいう))などの塩基を用いることができる。反応は公知の試薬(例えば飽和塩化アンモニウム水)を用いてクエンチしてよい。
【0020】
以上の反応経路1、2で得られたラクトン化合物は、さらに必要に応じて公知の方法でカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
【0021】
(本発明の香味付与剤)
式(1)の各ラクトン化合物は、それ自体、ウッディ、ペッパー様、テルペン様(炭化水素系香料化合物が呈し得る少し石油を思わせる感覚や、シトラス果皮から感じられるワキシーさを含む感覚を含む)、シトラス果皮様、ワキシー(ワックス様)、ファッティ(脂肪様)、オイリー(油様)、パウダリーといった香気を含む特徴的な香気を呈し、香味付与剤として各種物品に配合することで配合対象に香味を付与できる。配合対象としては特に限定されないが、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財を例示できる。さらに、本発明の化合物は、各種香料組成物に配合して、当該組成物に香気を付与することもできる。
【0022】
本明細書において、香味とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚と味覚などを含む感覚を意味する。本明細書において、用語「香味を付与」とは、前記香味を新たに加える、または増強することを含み、例えば、付与の結果香味が改善されるものであってよい。さらには、香味の付与の結果、嗅覚および味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、本明細書において、飲食品の香味を風味と呼ぶこともある。
【0023】
(本発明の香料組成物)
本発明の香料組成物は、式(1)のラクトン化合物の1種以上からなる香味付与剤を、所定量含むものである。本発明の香料組成物は、各種物品に配合することができる。物品の例としては、上述のように、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財が挙げられる。本発明の香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物、粉末香料組成物が例示できる。
【0024】
本発明の香料組成物中の式(1)のラクトン化合物の濃度は、香料組成物の配合対象や香気特性に応じて任意に決定できる。
【0025】
当該濃度の例として、香料組成物の全体質量に対して、0.01ppm~10%、好ましくは0.1ppm~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.01ppm、0.1ppm、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、0.1ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香料組成物の処方や香調にも依存するが、香料組成物中の式(1)の化合物の濃度が0.01ppm未満の場合は配合効果が低いと感じられる場合があり、10%を超える場合は式(1)の化合物由来の香りが強く配合対象の香料組成物の香気および/または風味特性に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、配合対象の香料組成物の香調などによっては、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。なお、本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度は特に断りのない限り質量濃度を表すものとする。
【0026】
また、本発明の香料化合物は、式(1)のラクトン化合物に加えて、さらに他の任意の化合物または組成物を含有し得る。
【0027】
そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0028】
合成香料化合物のその他の例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0029】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0030】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0031】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトインなどの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0032】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0033】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、3-メチル酪酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプロン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルペニルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0034】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0035】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、イソバレル酸、カプロン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0036】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0037】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、およびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0038】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0039】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0040】
本発明の香料組成物は、式(1)のラクトン化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0041】
本発明の香料組成物の形態としては、式(1)のラクトン化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0042】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0043】
また、乳化製剤とするためには、式(1)のラクトン化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。式(1)のラクトン化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、化工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、式(1)のラクトン化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0044】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0045】
本発明の香料組成物はさらに、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0046】
(各種物品への使用)
式(1)のラクトン化合物からなる本発明の香味付与剤、およびそれを含む本発明の香料組成物は、各種物品またはそれに用いる香料組成物に配合して使用することができる。
【0047】
例えば、式(1)のラクトン化合物からなる香味付与剤、およびそれを含有する香料組成物は、それ自体を飲食品に配合してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上と併せて各種物品に配合してもよい。
【0048】
式(1)のラクトン化合物からなる本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、抹茶、ほうじ茶、紅茶、烏龍茶、プーアル茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ワサビ、山椒などの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウィスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類(アルコール)風味;ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられるが、式(1)のラクトン化合物またはそれを含有する香料組成物によって香味を付与可能な任意の風味であってよい。好適に使用できる風味の例として、柑橘を代表とする各種果実風味、ビール風味、紅茶、緑茶、抹茶、ほうじ茶、烏龍茶、プーアル茶などに代表される各種茶風味、乳風味、油脂風味、畜肉風味、コーヒー風味、ショウガやシソなどを含む各種スパイスまたはハーブ風味を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0049】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;ミルク、クリーム、チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、抹茶、ほうじ茶、プーアル茶などの各種茶飲料、清涼飲料、コーラ飲料、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料(ビール風味飲料ともいう)、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、まあはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0050】
式(1)のラクトン化合物からなる本発明の香味付与剤、およびそれを含有する本発明の香料組成物を配合可能な香粧品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。使用可能な香調も特に限定されず、式(1)のラクトン化合物またはそれを含有する香料組成物によって香味を改善可能な任意の好調であってよいが、例えば、シトラス調、フローラル調、フルーティ調、ウッディ調、グリーン調などに好適に使用することができる。
【0051】
本発明において、飲食品や香粧品などの各種物品中の式(1)のラクトン化合物の濃度は、物品の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0052】
当該濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、式(1)のラクトン化合物の濃度として10ppt~10ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppmのいずれか、上限値を10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、本発明の式(1)の化合物の濃度として100ppt~100ppb、100ppt~1ppm、1ppb~100ppb、1ppb~1ppm、10ppb~1ppm、10ppb~100ppbから、飲食品の風味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や風味にも依存するが、飲食品中の式(1)のラクトン化合物の濃度が10ppt未満の場合は、風味改善効果が低いと感じられる場合があり、10ppmを超える場合は、化合物そのものの香気が突出して配合対象の飲食品の風味に好ましくない変質を与えると感じられる場合がある。
【0053】
香粧品であれば、香粧品の全体質量に対して、本発明の式(1)のラクトン化合物の濃度として10ppt~10%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%のいずれか、上限値を10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、本発明の式(1)のラクトン化合物の濃度として、1ppm~1000ppm、10ppm~1000ppm、10ppm~1%、100ppm~1%の各範囲から、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の式(1)のラクトン化合物の濃度が10ppt未満の場合は、香気改善効果が低いまたは変化がないと感じられる場合があり、10%を超える場合は、配合対象の香粧品の香気に好ましくない変質を与えると感じられる場合がある。
【0054】
式(1)のラクトン化合物によって、各種物品に良好な香気または風味を付与することができ、例えば、ミドルからラストのボリューム感や余韻を増強することができる。例えば、本発明の化合物を飲食品や香粧品などの物品に微量配合することで、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、ボディ感、華やかさ、コク、脂肪または油脂感などが増強され、芯のある香味となり、それが良好なバランスのまま持続可能となるという効果を奏する。具体例としては、果実風味であれば、果汁感、果皮感(苦さ、渋さ、ワキシーさなど)、ボディ感、コクなどを付与することができ、ビール風味ではボディ感、コク、香味の余韻や伸びなどを付与することができ、乳風味であれば乳脂感、コクなどを付与することができ、ショウガやシソなどのハーブ風味であれば爽やかさ、コク、ボディ感などを付与することができ、フローラル調であれば、天然感や香りの余韻を付与することができる。式(1)のラクトン化合物の具体例においては、例えば、式(1-1)の化合物は各種柑橘類、ショウガ、紅茶の香味のコク、ボディ感、余韻などの付与に優れ、式(1-2)の化合物は各種柑橘類(特にライム)、各種ハーブ類の香味のコク、ボディ感、余韻などの付与に優れ、式(1-3)の化合物は各種柑橘類、各種茶類(特に紅茶、抹茶)、各種乳製品(ミルク、クリームなど)の香味のコク、ボディ感、余韻などの付与に優れ、式(1-4)は各種柑橘類(特にグレープフルーツ)、各種スパイスまたはハーブ類(特にコショウ、サンショウ)、ビール、コーヒー、紅茶の香味のコク、ボディ感、余韻などの付与に優れるが、これらに限定されない。
【0055】
さらに、本発明の香味付与剤は、香味付与の結果、苦み、渋み、えぐみ(これらを総称して収斂味ともいう)、タンパク臭などの異味異臭もマスキングする効果も奏する。すなわち、本発明の香味付与剤は、収斂味やタンパク臭などが突出し異味異臭として感じられることが問題となり得る飲食品に配合して、その飲食品の香味にコク、ボリューム感、ボディ感の1種以上などを付与することにより、突出した異味異臭をマスキングすることができる。このような飲食品としては、例えばタンパク質を高含有する飲食品が例示でき、より具体的には、プロテイン飲料、濃厚流動食、高栄養飲料などの各種高栄養食品、植物性タンパク質を用いた代替肉(植物肉などとも称する)などが挙げられるが、これらに限定されない。当該マスキング効果を得るために飲食品に対する濃度を調整することができる。例えば、前述の濃度範囲10ppt~10ppmにおいて、通常は若干高い濃度で飲食品に配合することで、マスキング効果を十分に得ることができる。マスキング効果が得られやすい濃度範囲の例として、下限値を1ppb、10ppb、100ppb、500ppb、1ppm、5ppmのいずれか、上限値を10ppm、5ppm、1ppm、500ppb、100ppb、10ppbのいずれかとして、これらの任意の組合せによる濃度範囲でよく、具体的には、10ppb~1ppmまたは100ppb~500ppbが例示できるが、これらに限定されず、所望のマスキング効果の程度や配合対象の飲食品の香味に応じて決定してよい。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
式(1)のラクトン化合物の例として、以下式(1-1)~(1-4)の化合物を合成した。
【0058】
(1)式(1-1)の化合物および式(1-2)の化合物の合成
まず、Biosci.Biotechnol.Biochem.2020,84,1560-1569.頁に記載の方法に従って下記式Aの化合物を合成し、次いで下記の反応経路の通りに合成を行った。
【0059】
【化4】
【0060】
(i) 100mL二つ口フラスコに化合物A(330mg,1.83mmol)、テトラヒドロフラン(4.5mL)を入れ、アルゴン雰囲気下-78℃で撹拌した。ここにリチウム ビス(トリメチルシリル)アミド(LHMDS)(1.0M THF溶液,2.00mL,2.00mmol)を入れ同温下で1時間撹拌後、ヨウ化メチル(0.57mL,9.16mmol)を入れ、0℃で2時間撹拌した。
【0061】
(ii) (i)で得られた反応液に飽和塩化アンモニウム水(30mL)を入れ、クエンチした。ここに1M塩酸(10mL)を入れ、酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層を飽和重曹水(50mL)、飽和食塩水(50mL)で順次洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(357mg)を得た。このものをフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:15g,ヘキサン:酢酸エチル=30:1→15:1)にて精製し、式(1-1)の化合物を139mg、式(1-2)の化合物を160mg得た。この式(1-1)の化合物を本発明品1とした。
【0062】
さらに、式(1-1)の化合物をさらにクーゲルロール(オーブン設定:~210℃/0.27kPa)で精製し無色油状物として132mgを得た。式(1-2)の化合物もクーゲルロール(オーブン設定:~240℃/0.27kPa)で精製し無色油状物として154mgを得た。この式(1-2)の化合物を本発明品2とした。
【0063】
得られた式(1-1)の化合物および式(1-2)の化合物の物性値は以下の通りであった。
式(1-1)の化合物の物性値
H-NMR(400MHz,CDCl):δ1.27(s,6H),1.63(s,3H),1.71(s,3H),2.04(m,2H),2.19(m,2H),5.11(m,1H),6.47(t,J=2.0Hz,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ17.8,23.0(2C),23.6,25.3,25.6,44.6,123.2,129.2,132.7,134.5,183.3.
IR(全反射測定法):2971,2929,2913,2872,1792,1462,1443,1382,1280,1267,1093,1039,952,839,817,755,575cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1219 [M+H] 195.1380,found 195.1388.
式(1-2)の化合物の物性値
H-NMR(400MHz,CDCl):δ1.40(d,J=7.2Hz,3H),1.60(s,3H),1.69(s,3H),1.82(s,3H),2.10-2.32(m,3H),2.50(m,1H),4.88(m,1H),5.07(m,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ8.6,17.7,18.2,25.6,26.1,26.6,78.6,122.2,123.1,133.7,164.0,174.6.
IR(全反射測定法):2977,2927,2860,1746,1675,1444,1375,1323,1099,1056,1037,1002,983,971,920,766cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1219 [M+H] 195.1380,found 195.1391.
【0064】
(2)式(1-3)の化合物の合成
まず、J.Am.Chem.Soc.2008,130,12598-12599頁に記載の方法に従って下記式Bの化合物を合成し、次いで下記の反応経路の通りに合成を行った。
【0065】
【化5】
【0066】
(i)30mLの二口フラスコにマグネシウム(234mg,9.63mmol)、触媒量のヨウ素、テトラヒドロフラン(3mL)を入れアルゴン雰囲気下とした。ここに式Cの化合物のテトラヒドロフラン溶液の少量をよく撹拌しつつ徐々に加え、ヨウ素の色が消えたところで反応液を30℃以下に維持しつつ化合物C溶液を徐々に加えていき(化合物Cの全量1.43g,8.77mmol)、その後室温にて2時間撹拌した。
【0067】
(ii) 100mLの三口フラスコに臭化銅(I)-ジメチルスルフィド錯体(1.80g,8.76mmol)、テトラヒドロフラン(4mL)を入れアルゴン雰囲気下-78℃の極低温下で撹拌しつつ、(i)で得られた反応液を徐々に加えた後、-78℃で50分撹拌し、そこに化合物B(500mg,2.19mmol)のテトラヒドロフラン(2mL)溶液を徐々に加え、-78℃で1.5時間撹拌した。
【0068】
(iii) (ii)で得られた反応液に-60℃以下でエタノール(1mL)を入れ、室温迄昇温後、20%塩化アンモニウム水(20mL)を入れた。反応液を酢酸エチル(30mL)で抽出後、20%塩化アンモニウム水(20mL)、飽和ソーダ灰水(20mL)で洗浄後、飽和食塩水(20mL)でも洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て上記式Dの化合物の粗精製物(861mg)を得た。この粗精製物はこのまま次工程に付した。
【0069】
(iv) 100mLのナス型フラスコに上記化合物Dの粗精製物(861mg)、テトラヒドロフラン(7.0mL)、1M塩酸(7.00mL,7.00mmol)を入れ、室温で30分間撹拌した。得られた反応液に飽和ソーダ灰水(30mL)を入れ、ジエチルエーテル(30mL)で抽出を行った。得られた有機層を飽和食塩水(30mL)で洗浄後、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(599mg)を得た。この粗精製物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:30g,ヘキサン:酢酸エチル=30:1→25:1)にて精製し、さらにクーゲルロール(オーブン設定:~230℃/ 0.27kPa)で精製し、無色油状の式(1-3)の化合物を307mg得た。この式(1-3)の化合物を本発明品3とした。
【0070】
得られた式(1-3)の化合物の物性値は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ1.45(s,6H),1.64(s,3H),1.71(d,J=0.8Hz,3H),2.24-2.35(m,4H),5.09(m,1H),5.71(m,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ17.8,24.8(2C),25.2,25.6,27.0,87.3,113.9,122.1,133.5,172.3,177.3.
IR(全反射測定法):2980,2930,2913,1745,1637,1461,1453,1443,1383,1366,1264,1240,1198,1156,1079,976,938,888,852cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1219 [M+H] 195.1380,found 195.1384.
【0071】
(3)式(1-4)の化合物の合成
【0072】
【化6】
【0073】
(i) 500mL四口フラスコにエチルビニルエーテル(93.90g,1.30mol)を入れ、窒素雰囲気下4℃で撹拌した。ここにp-トルエンスルホン酸(150mg,1.0wt%)を入れ、再び窒素雰囲気下とした。ここに式Eの化合物(15.00g,214mmol)を入れ、6℃で40分間撹拌した。反応液に飽和ソーダ灰水(150mL)を加え、ジエチルエーテル(20mL)で抽出した。得られた有機層を飽和食塩水(150mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(42.41g)を得た。この粗精製物を減圧蒸留(沸点72~88℃/6.7kPa)で精製し、無色油状の式Fの化合物を26.60g得た。
【0074】
(ii) 1L四口フラスコに化合物F(20.62g,145mmol)、テトラヒドロフラン(375mL)を入れ、窒素雰囲気下-78℃で撹拌した。ここにn-ブチルリチウム(1.59Mヘキサン溶液,100mL,159mmol)を30分かけて滴下し、その後同温下1時間撹拌した。ついでクロロギ酸エチル(17.25g,159mmol)を20分かけて滴下し、その後同温下で30分撹拌後に徐々に室温まで昇温し、計1.5時間撹拌した。反応液にエタノール(4mL)を加え、ついで飽和塩化アンモニウム水(200mL)を加え、有機層を分離した。得られた有機層を飽和ソーダ灰水(200mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(40.17g)を得た。この粗精製物を減圧蒸留(沸点110~115℃/0.27kPa)で精製し、淡黄色油状の式Gの化合物を26.74g得た。
【0075】
(iii) 500mL四口フラスコに触媒量のヨウ素、マグネシウム(3.74g,154mmol)、テトラヒドロフラン(70mL)を入れ窒素雰囲気下とした。ここに式Hの化合物の少量を良く撹拌しつつ徐々に加え、ヨウ素の色が消えたところで反応液を30℃以下に維持しつつ化合物Hを徐々に加えていき(化合物Hの全量22.83g,140mmol)、その後室温にて2時間撹拌した。
【0076】
(iv) 500mL四口フラスコに臭化銅(I)-ジメチルスルフィド錯体(28.78g,140mmol)、テトラヒドロフラン(105mL)を入れ窒素雰囲気下-78℃の極低温下で撹拌しつつ(iii)で得られた反応液を徐々に加えた後、-78℃で50分撹拌し、そこに化合物G(15.00g,70.0mmol)のテトラヒドロフラン(85mL)溶液を徐々に加え、-78℃で1時間撹拌した。
【0077】
(v) (iv)で得られた反応液に-55℃以下でエタノール(20g)を入れ、室温迄昇温後、20%塩化アンモニウム水(200mL)を入れた。反応液をヘキサン(100mL)で抽出後、飽和ソーダ灰水(200mL)、飽和食塩水(200mL)で順次洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(24.41g)を得た。このものを減圧蒸留(沸点:141~161℃/0.40kPa)で精製し、無色油状の式Iの化合物を17.63g得た。
【0078】
(vi) 300mL二口フラスコに化合物I(10.00g,33.5mmol)、テトラヒドロフラン(60mL)、2M塩酸(40.00mL,80.0mmol)を入れ室温で22時間撹拌した。得られた反応液に飽和ソーダ灰水(100mL)を入れ、ジエチルエーテル(100mL)で抽出した。得られた有機層を飽和ソーダ灰水(100mL)、飽和食塩水(100mL)で順次洗浄後、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(7.04g)を得た。この粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:80g,ヘキサン:酢酸エチル=10:1→7:1)にて精製し、さらに減圧蒸留(沸点:150~151℃/0.40kPa)で精製し、無色油状の式(1-4)の化合物を3.48g得た。この式(1-4)の化合物を本発明品4とした。
【0079】
得られた式(1-4)の化合物の物性値は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ1.62(s,3H),1.70(s,3H),2.23(t,J=7.2Hz,2H),2.29(t,J=7.2Hz,2H),2.38(t,J=6.4Hz,2H),4.37(t,J=6.4Hz,2H),5.06(m,1H),5.81(br,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ17.7,24.9,25.6,27.9,36.6,65.9,115.8,122.1,133.3,161.3,164.8.
IR(液膜法):2968,2915,2856,1724,1398,1377,1268,1222,1083,1052cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1117 [M+H] 181.1223,found 181.1228.
【0080】
[実施例2]合成した式(1)のラクトン化合物の香気特性
実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物(すなわち、式(1-1)、式(1-2)、式(1-3)、式(1-4)の各化合物)の香気評価を行った。また、対照品として、ラクトン化合物である特開2017-25182号に記載の4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノンの香気評価も行った。これらの香気評価では、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名に嗅がせ、感じられる香気についてコメントさせた。代表的なコメントを下記表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示すように、本発明の式(1)の各ラクトン化合物(本発明品1~4)はそれぞれ特徴的な香気を呈していた。式(1-4)については、4名のパネリストはウッディには穀物のニュアンス、シトラスはフローラルのニュアンスも含まれるともコメントした。
【0083】
本発明の式(1)の各ラクトン化合物の香気は、同じラクトン化合物である4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノンにはない特性も有しており、本発明の式(1)の各ラクトン化合物は類縁体の4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノンとは異なる香味も付与可能であるといえる。
【0084】
[実施例3] 果実調香料化合物への配合効果
下記表2の一般的な処方に従って、グレープフルーツ様基本調合香料組成物を調整した。
【0085】
【表2】
【0086】
得られた基本調合香料組成物に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物が基本調合香料組成物全質量に対して0.1%となるように配合し、本発明品の香料組成物(本発明品5~8)を得た。そして、上記基本調合香料組成物を対照品として、本発明の香料組成物の香気について、経験年数10年以上のパネリスト8人に評価させた。その結果、パネリスト8人全員が、本発明の香料組成物はいずれも、シトラス果皮様のワキシー感やオイル感と香気の余韻が顕著に増強されたと回答した。
【0087】
[実施例4] 果実風味飲食品への配合効果
市販の果汁50%のグレープフルーツジュースを用意し、このジュースに、式(1)の各ラクトン化合物濃度が下記表3に示す通り1ppb、0.1ppmまたは10ppmとなるように配合して、本発明の果実風味飲料を調製した。本発明の果実風味飲料の天然感について、市販の果汁50%のグレープフルーツジュースを対照品として官能評価を行った。具体的には、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト12名に、対照品と比較した天然感について「大きく向上した」=4点、「向上した」=3点、「わずかに向上した」=2点、「変化なし」=1点として点数付けさせた。ここで、天然感とは、素材であるグレープフルーツ果実を想起させる何らかの香味が増強されており、グレープフルーツ果実をより多く使用したような自然な香味を意味するものとした。パネリスト12名の平均点および代表的なコメントを下記表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示すように、式(1)の各ラクトン化合物は、果皮感、コク、ボディ感を代表とした特徴的な香味付与効果を奏することが確認された。また、少なくとも飲食品中1ppb~10ppmの濃度範囲内で香味付与効果が得られ、その結果天然感を増強できることが確認された。
【0090】
[実施例5] 乳風味飲食品への配合効果
市販の低脂肪牛乳に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、200ppbとなるように配合して、本発明の乳風味飲料を得た。そして、市販の低脂肪牛乳を対照品として、対照品と比べた本発明品の乳風味飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト10名による官能評価を行った。具体的には、前記パネリスト10名に、対照品と比較したコクについて「大きく向上した」=4点、「向上した」=3点、「わずかに向上した」=2点、「変化なし」=1点として点数付けさせるとともに、香味についてコメントさせた。パネリスト10名の平均点および代表的なコメントを下記表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4に示すように、式(1)の各ラクトン化合物は、乳脂感、コクを代表とした特徴的な香味付与効果を奏することが確認された。また、少なくとも飲食品中1ppb~10ppmの濃度範囲内で香味付与効果が得られ、その結果コクを増強できることが確認された。
【0093】
[実施例6] ビール風味飲料への配合効果
市販のノンアルコールビールに、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、100ppbとなるように配合して、本発明のノンアルコールビール飲料(本発明品33~36)を得た。そして、市販のノンアルコールビールを対照品として、対照品と比べた本発明品の飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト12名による官能評価を行った。その結果、パネリスト12名全員が、対照品と比べてビール様のボディ感とコクが増強され、香味の余韻がより持続するようになり、飲用後の満足感と飲みごたえが増したと回答し、中でも、式(1-4)の化合物を配合した本発明品36が、これらの効果が顕著であったと回答した。
【0094】
[実施例7]紅茶飲料への配合効果
市販の無糖紅茶飲料に、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、50ppbとなるように配合して、本発明の紅茶飲料(本発明品37~40)を得た。そして、市販の紅茶飲料を対照品として、対照品と比べた本発明の紅茶飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明品の紅茶飲料はいずれも、対照品の市販の紅茶飲料に比べて、紅茶の茶葉をふんだんに使用したような渋味のある香味が増強され、ボディ感が増したと回答した。なかでも、式(1-1)の化合物を配合した本発明品37、式(1-3)の化合物を配合した本発明品39、および式(1-4)の化合物を配合した本発明品40が、これらの効果が顕著であったと回答した。
【0095】
[実施例8]コーヒーへの配合効果
市販の缶入りブラックコーヒーに、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、コーヒー全量に対し100ppbの濃度となるように配合して、本発明のコーヒー飲料(本発明品41~44)を得た。そして、市販の缶入りブラックコーヒーを対照品として、対照品と比べた本発明のコーヒー飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明のコーヒー飲料はいずれも、対照品の市販のコーヒー飲料に比べて、コーヒーオイル様のコク感、コーヒー豆様の渋さ、良好な酸味が増量されていると回答した。中でも、式(1-4)の化合物を配合した本発明品44が、これらの効果が顕著であったと回答した。
【0096】
[実施例9]各種香辛料風味への配合効果
市販のショウガ風味ドレッシングおよびシソ風味ドレッシングに、実施例1(1)~(4)で得られた式(1)の各ラクトン化合物をドレッシング全量に対し1ppmの濃度となるように配合して、本発明の香辛料風味ドレッシング(ショウガ風味ドレッシング…本発明品45~48、シソ風味ドレッシング…本発明品49~52)を得た。そして、市販の各ドレッシングを対照品として、対照品と比べた本発明のドレッシングの香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト7名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。
【0097】
その結果、ショウガ風味ドレッシングについては、パネリスト7名全員が、本発明品45~48はいずれもショウガ独特の爽やかな刺激感、オイルのコク、香味の持続性が増強されていると回答し、中でも、式(1-1)の化合物を配合した本発明品45、式(1-2)の化合物を配合した本発明品46、および式(1-4)の化合物を配合した本発明品48が、これらの効果が顕著であったと回答した。
【0098】
シソ風味ドレッシングについては、パネリスト7名全員が、本発明品49~52はいずれもシソオイルのような独特の爽やかさ、オイルのコク、香味の持続性が増強されていると回答し、中でも、式(1-2)を配合した本発明品50および式(1-3)の化合物を配合した本発明品51が、これらの増強効果が高かったと回答した。
【0099】
[実施例10]
市販のプロテイン飲料に、式(1)の各ラクトン化合物を500ppbの濃度となるように配合して、本発明のプロテイン飲料(本発明品53~56)を得た。そして、市販のプロテイン飲料を対照品として、対照品と比べた本発明のプロテイン飲料の香味の変化について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト4名に回答させた。その結果、パネリスト6名全員が、本発明のプロテイン飲料はいずれも、対照品の市販のプロテイン飲料に比べてコクとボリューム感が増して、高濃度のタンパク質に感じられる独特の苦みと渋みが軽減され、いわゆるタンパク臭が弱くなり全体として満足感が増したと回答し、中でも、式(1-4)の化合物を配合した本発明品56がこれらの効果が顕著であったと回答した。
【0100】
[実施例11]ミュゲ調香料組成物への配合効果
下記表5の一般的な処方に従って、ミュゲ様基本調合香料組成物を調製した。
【0101】
【表5】
【0102】
得られたミュゲ様基本調合香料組成物に、実施例1(1)~(4)で得られた本発明の式(1)の各ラクトン化合物を2ppmの濃度となるように配合して、本発明の香料組成物(本発明品57~60)を調製した。そして、ミュゲ様基本調合香料組成物を対照品として、本発明の香料組成物の香気について経験年数8年以上のよく訓練されたパネリスト7名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。その結果、パネリスト7名全員が、本発明品の香料組成物はいずれも、対照品の基本調合香料組成物に比べて、やや石鹸を思わせるようなミュゲ独特のさわやかな香りなどが増強され、よりミュゲ生花を思わせるものであったと回答し、また、特に式(1-1)の化合物を配合した本発明品57および式(1-4)の化合物を配合した本発明品60ではグリーンを帯びたフローラル調の香気が、式(1-3)の化合物を配合した本発明品59ではややパウダリーなフローラルな香気も増強されたと回答した。さらには、前記パネリストの6名が、本発明品57~60はいずれもフローラルな香りの余韻がより長く続くようになったと回答した。
【0103】
以上に示すように、式(1)の各ラクトン化合物は、各種香味において優れた香味付与効果を奏し、香料素材として有用であることが確認された。