(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】香味付与剤としての3-メチル-3-ブテン-1-チオール
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20230816BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A61K47/20
(21)【出願番号】P 2020202201
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川口 賢二
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚子
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-173963(JP,A)
【文献】特開2010-173963(JP,A)
【文献】Grob, C. A. et al.,Tetrahedron Letters,1975年,pp.3551-3554,doi: 10.1016/s0040-4039(00)91365-0
【文献】Yoshiro KUROIWA et al.,Agricultural and Biologycal Chemistry,1961年,25(3),pp.257-258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
CAplus/REGISTRY/AGRICOLA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される3-メチル-3-ブテン-1-チオールを有効成分とする、香味付与剤。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の香味付与剤を含有する香料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の香味付与剤または請求項2に記載の香料組成物を配合してなる消費財。
【請求項4】
請求項1に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法。
【請求項5】
請求項1に記載の香味付与剤または請求項2に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-メチル-3-ブテン-1-チオールおよび香味付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品、香粧品、医薬品、保健衛生品など様々な製品に対する消費者の要求は、製品の香味の質にも及んでおり、消費者の嗜好に合わせて、さまざまな香味を有する製品に対するニーズが高まっている。
【0003】
例えば、食品中には微量香気成分として硫黄原子を含む化合物(含硫化合物)が数多く見出され、その食品の自然な香味を再現する上で重要な化合物であると考えられている。
含硫化合物として、天然から見出された代表的なチオール類を例示すると、2-フリルメタンチオール(フルフリルメルカプタン)や3-メチル-2-ブテン-1-チオールなどのチオール類がコーヒーの揮発成分として、1-p-メンテン-8-チオール(チオターピネオール)がグレープフルーツの重要な揮発成分として、2-メチルフラン-3-チオールが牛肉スープ中の揮発成分として見出されており、これらは香料化合物として広く利用されている。また、分子内にメルカプト基(チオール基やスルファニル基とも呼ばれる)およびカルボン酸エステル基を有する化合物もいくつか知られており、その具体例としては、特許文献1に、3-メルカプト-4-メチルペンチルアセテートがルバーブ様の香りを呈し、開花から51日以上経過したホップにおいて増加するものとして記載されている。特許文献2には、3-メルカプト-3-メチルブチルホルメートがゴマの煎りたて感などの特定の風味増強に使用できると記載されている。特許文献3には、3-メルカプト-3-メチルブチルアセテートが、2-フルフリルメチルスルフィド、2-フルフリルメチルジスルフィドなどのその他の含硫化合物と併せてコーヒーの淹れたて感を付与できると記載されている。
【0004】
含硫化合物は、それぞれ独特の香味の質および強度を有しているが、従来の含硫化合物だけでは香味が限られてしまう。そこで更なる天然らしい自然な香味を得たいという理由、消費者の、製品香味に対する多様な要望に対応する理由から、香味付与剤として有用な新たな化合物の探索が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/139153号
【文献】特開2010-148412号公報
【文献】特開2008-259472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、香味付与剤として有用な化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究したところ、従来、香味付与用途の知られていない化合物である、式(1)で表される3-メチル-3-ブテン-1-チオールが、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種物品に配合した際に、広範な香味に対して優れた賦香効果を奏し、香料化合物として極めて有用であることを見出した。
3-メチル-3-ブテン-1-チオールは、従来、合成原料(中国特許出願公開109306221および日本特許出願公開1998-109972)および化学反応機構に関する素材の一つとして(Tetrahedron Letters(1975),(41), 3551-4)知られているが、その香味特性や、香味付与剤または香料用途については全く未知の化合物であった。
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1] 下記式(1)で表される3-メチル-3-ブテン-1-チオールを有効成分とする、香味付与剤。
【0008】
【0009】
[2] [1]に記載の香味付与剤を含有する香料組成物。
[3] [1]に記載の香味付与剤または[2]に記載の香料組成物を配合してなる消費財。
[4] [1]に記載の香味付与剤を香料組成物に配合することを含む、香料組成物の香味付与方法。
[5] [1]に記載の香味付与剤または[2]に記載の香料組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、新たに香味付与剤として使用可能な化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度、ppm、ppb、ppt、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度を表すものとする。
【0012】
(3-メチル-3-ブテン-1-チオールの入手方法)
3-メチル-3-ブテン-1-チオールは公知の入手可能原料から既知の各種合成反応を組み合わせることにより得ることができるが、例えば、市販で入手可能な原料である3-メチル-3-ブテン-1-オールを出発原料に、ハロゲン化反応を行い、得られたハロゲン化物にチオ酢酸カリウムを作用させた後に還元剤でアセチル基を切り出すことで得ることができる。得られた3-メチル-3-ブテン-1-チオールは、さらに必要に応じて公知の方法でカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
【0013】
3-メチル-3-ブテン-1-チオールは、それ自体香味付与剤として各種物品に配合することで配合対象に香味を付与できる。本発明者らは、この化合物自体はコーヒー、焼肉、焼立てのパン様の焙煎香を呈するが、後述のように、コーヒー、焼肉、焼立てのパン様の焙煎香気のみならず非常に多様な香味付与に有効であるという高い有用性を発見し、本発明に至った。
【0014】
配合対象の物品としては特に限定されないが、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財を例示できる。さらに、本発明の化合物は、各種香料組成物に配合して、当該組成物に香気を付与することもできる。
【0015】
本明細書において、香味とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚と味覚を含む感覚の1以上を意味する。本明細書において、用語「香味を付与」とは、前記香味を新たに加える、または増強することを含み、例えば、付与の結果香味が改善されるものであってよい。さらには、香味の付与の結果、嗅覚および味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、飲食品の文脈においては、香味を風味と言い換えることができる。
【0016】
(本発明の香料組成物)
本発明の香料組成物は、香味の付与を目的として使用でき、3-メチル-3-ブテン-1-チオールからなる香味付与剤を有効量含み、各種物品に配合することができるものである。具体例としては、飲食品用香料組成物(フレーバー組成物ともいう)、香粧品用香料組成物(フレグランス組成物ともいう)が挙げられる。配合対象となる物品の例としては、上述のように、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財が挙げられる。本発明の香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物、粉末香料組成物が例示できる。香料組成物の香味は特に限定されないが、具体例や特に好ましい香味の例については、後述の(各種物品への使用)の項で詳述する。
【0017】
本発明の香料組成物中の3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度は、香料組成物の所望の香気や、配合対象の香気や用途などの特徴に応じて任意に決定できる。当該濃度の例として、香料組成物の全体質量に対して、0.1ppt~10%、好ましくは10ppt~5%、より好ましくは0.1ppb~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、5%のいずれかとし、上限値を10%、5%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香料組成物の処方や香調にも依存するが、香料組成物中の式3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度が0.1ppt未満の場合は3-メチル-3-ブテン-1-チオールの配合効果が低いと感じられる場合があり、10%を超える場合は3-メチル-3-ブテン-1-チオール由来の香りが強く配合対象の香料組成物の香味特性に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、配合対象の香料組成物の香調などによっては、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0018】
また、本発明の香料組成物は、3-メチル-3-ブテン-1-チオールに加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0019】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0020】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-ターピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、ヒドロキシシトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0021】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0022】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0023】
エステル化合物としては、エチルアセテート、イソアミルアセテート、オクチルアセテート、エチルブチレート、エチルイソブチレート、イソアミルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルイソバレレート、2-メチルブチルイソバレレート、エチルヘキサノエート、アリルヘキサノエート、エチルヘプタノエート、エチルカプリレート、イソアミルイソバレレート、エチルノナノエートなどの脂肪族エステル、リナリルアセテート、ゲラニルアセテート、ラバンジュリルアセテート、テルピニルアセテート、ネリルアセテートなどのテルペンアルコールエステル、ベンジルアセテート、メチルサリシレート、メチルシンナメート、シンナミルプロピオネート、エチルベンゾエート、シンナミルイソバレレート、エチル3-メチル-3-フェニルグリシデートなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0024】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0025】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0026】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0027】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、3-メルカプトヘキシルアセテート、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0028】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、グレープフルーツ、ライム、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0029】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳もしくは乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
本発明の香料組成物は、3-メチル-3-ブテン-1-チオールを公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
本発明の香料組成物の形態としては、3-メチル-3-ブテン-1-チオールやその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0030】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
また、乳化製剤とするためには、3-メチル-3-ブテン-1-チオールを水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。3-メチル-3-ブテン-1-チオールの乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、3-メチル-3-ブテン-1-チオールの1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0031】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0032】
本発明の香料組成物はさらに、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0033】
(各種物品への使用)
本発明の香味付与剤、およびそれを含有する本発明の香料組成物は、各種物品またはそれに用いる香料組成物に配合して使用することができる。
【0034】
例えば、本発明の香味付与剤、およびそれを含有する香料組成物は、それ自体を飲食品に配合してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上と併せて各種物品に配合してもよい。
【0035】
本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、コーヒー風味;焼き立てのパン風味;ローストバター風味;ビール風味;オニオン風味;焼肉風味;ほうじ茶風味;焙煎穀物茶風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味(前述の柑橘を除く);ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティーなどの各種茶風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ガーリック、ワサビなどの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎などの各種酒類風味;セロリ、ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの各種畜肉風味;マグロなどの赤身魚、サバ、タイ、サケ、アジなどの白身魚、アユ、マス、コイなどの淡水魚、サザエ、ハマグリ、アサリ、シジミなどの貝類、エビ、カニなどの各種甲殻類、ワカメ、昆布などの各種海藻類、などの各種魚介や海藻風味;米、大麦、小麦、麦芽などの麦類、などの各種穀物風味;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂風味などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられる。
【0036】
特に、本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物は、コーヒー風味、焼き立てパン風味、ローストバター風味、ビール風味、オニオン風味および焼肉風味などの各種飲食品に対し、優れた賦香効果を発揮することができる。
【0037】
例えば、コーヒー風味に、コーヒー豆の表面から漂う焙煎香やカラッとしたロースト感などのトップノートの香り立ちを増強し、鮮度感を上げ、さらにはコーヒーの好ましい酸味感をエンハンスすることができる。また、焼き立てパン風味に、ローストしたてのパンの甘さを伴った香ばしさ、ローストバター風味に、バターを焦がしたときのような甘香ばしいトップの香味、ビール風味に麦芽のカラッとしたモルティーなトップの香り立ち、オニオン風味に、玉ねぎをあめ色に炒めたときの甘香ばしいトップの香味、焼肉風味に焼き立ての肉の甘香ばしい香味を付与でき、これらの風味を有する飲食品の嗜好性を高めることができる。
【0038】
さらに、例えば、各種柑橘またはフルーツ風味に果汁感、果肉感(果肉の繊維質や食感を想起させる感覚)、果皮感(果皮を食した時に感じられる感覚、例えば苦さ、オイリー、繊維質などの1以上の感覚)、熟成感(例えば、完熟した果実や熟成したワインやウイスキーなど、熟成が進んだと感じさせる感覚)、ビター感、ボディ感、フレッシュ感の1以上の香味を付与でき、各種畜肉風味または魚介風味にジューシー感(例えば、しっとりした肉質または肉汁を想起させる感覚)、畜肉または魚介由来の脂肪感、調理感(加熱調理された食品の喫食時に感じられる香ばしさやコクなどを思わせる感覚)、ボディ感、フレッシュ感、肉厚感(例えば、肉を想起させる弾力や繊維感を想起させる感覚)の1以上の香味を付与でき、各種ナッツ風味に対して、ナッツ由来のボディ感、油脂感、本物のナッツを感じさせる素材感または天然感の1以上の香味を付与することができる。特に、果汁感や肉汁感などのジューシー感、ボディ感、脂肪感の1つ以上を効果的に飲食品に付与でき、飲食品の食べごたえ、満足感、天然感、厚みなどを総合的に向上して飲食品の嗜好性を上げることができる。
【0039】
ここで、本明細書において、ボディ感とは、香味がしっかりしていて、かつ、まろやかでふくらみがあり、呈味全体にボリュームと強さをもたらすような感覚を含む。フレッシュ感とは、各種香味に寄与可能な香味を有する天然原料の果実、野菜、葉などそのものを想起させる、またはそれらの加工直後(摘みたて、切りたて、挽きたて、削りたて、摺りたてなど)に感じられる香味を想起させる感覚を含む。厚みとは、香味が単調でなく、多様な香味がバランスよく感じられる感覚を含む。
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストその他のペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;ビール酵母、パン酵母などの各種酵母、乳酸菌など各種微生物発酵品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、炭酸飲料(柑橘香味など各種香味のサイダーなど)、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0040】
本発明の香味付与剤、およびそれを含有する本発明の香料組成物を配合可能な香粧品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。
【0041】
本発明の香味付与剤、またはそれを含有する本発明の香料組成物を使用可能な香調も特に限定されず、本発明の香味付与剤またはそれを含有する香料組成物によって香味を改善可能な任意の香調であってよいが、例えば、シトラス調、フローラル調、フルーティ調、グリーン調、ウッディ調、モス調、トロピカルフラワー調などに好適に使用することができる。より具体的には、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ユズ、カボス、ストロベリー、ラズベリー、アップル、パイナップル、マンゴー、ピーチ、バナナ、メロン、グレープ、パパイヤ、キウイ、ブドウ類、ローズ、ジャスミン、スズラン、ヒヤシンス、ライラック、プルメリア、などが例示できるが、これらに限定されない。例えば、各種フローラル調の香調の物品に配合した際、花の生き生きとしたフレッシュ感や華やかさを増大させることができる。
【0042】
本発明において、飲食品や香粧品などの各種物品中の3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度は、物品の香味や所望の賦香効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0043】
当該濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度として0.001ppt~1000ppm、好ましくは0.01ppt~100ppm、より好ましくは0.1ppt~10ppmの範囲内が挙げられる。
【0044】
より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppmのいずれか、上限値を1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度として0.1ppt~10ppm、1ppt~1ppm、10ppt~100ppb、100ppt~10ppbから、飲食品の香味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や香味にも依存するが、飲食品中の3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度が0.001ppt未満の場合は、配合効果が低いと感じられる場合があり、1000ppmを超える場合は、3-メチル-3-ブテン-1-チオールそのものの香気が突出して配合対象の飲食品の香味に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、飲食品の香味などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0045】
香粧品であれば、香粧品の全体質量に対して、3-メチル-3-ブテン-1-チオール濃度として0.001ppt~1%、好ましくは0.01ppt~1000ppm、より好ましくは0.1ppt~100ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppmのいずれか、上限値を1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度として、100ppt~1000ppm、10ppb~100ppm、100ppb~10ppmの各範囲から、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の3-メチル-3-ブテン-1-チオールの濃度が0.001ppt未満の場合は、3-メチル-3-ブテン-1-チオールの配合効果が低いまたは変化がないと感じられる場合があり、1%を超える場合は、3-メチル-3-ブテン-1-チオールそのものの香気が突出して配合対象の香粧品の香気に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、香粧品の香気などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0046】
例えば、3-メチル-3-ブテン-1-チオールを飲食品や香粧品などの物品に有効量配合することで、軽いロースト感の他、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、果汁感、果皮感、肉汁感、肉感(肉の繊維感や肉厚さを含む感覚)、みずみずしさ、熟成感(完熟または適度に熟した感覚を含む)、華やかさ、フレッシュ感、コク、ボディ感、厚みなどが増強され、それが良好なバランスのまま持続可能となるという効果を奏する。トップ、ミドル、ラストのいずれか1以上の香味を増強することができ、例えば、トップの香味立ち、ミドルおよびラストの香味の厚み、ボディ感、持続性(余韻ともいう)の1以上を増強することができる。特に、トップおよびミドルの香味の厚みを増強することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]3-メチル-3-ブテン-1-チオールの合成
以下の工程により3-メチル-3-ブテン-1-チオールを合成した。
(第1工程)
【0049】
【0050】
2Lナスフラスコに3-メチル-3-ブテン-1-オール(a)(20g、232mmol) とアセトニトリル(MeCN)(1000ml)を入れ10 ℃で冷却撹拌した。系内にトリフェニルホスフィン(PPh3)(72.9g、278mmol)と四臭化炭素(CBr4)(92.2g、278mmol) を順次投入した。室温で3.0時間攪拌して3-メチル-3-ブテン-1-オール(a)の消失をガスクロマトグラフィーにより確認後、反応溶液を水(3000ml)に加えて30分間撹拌した。水層をヘキサン抽出後、得られた有機層を飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウム乾燥した。有機層を吸引濾過後、濾液を常圧濃縮することで得られた濃縮物を、精製することなく、そのまま次工程に用いた。得られた濃縮物には1-ブロモ-3-メチル-3-ブテン(b)が含まれていることをガスクロマトグラフィーにより確認した。
(第2工程)
【0051】
【0052】
1Lナスフラスコにチオ酢酸カリウム(AcSK)(34.44g、300mmol)とN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(150ml)を入れ、0~10℃で撹拌した。系内に第1工程の常圧濃縮物として得られた1-ブロモ-3-メチル-3-ブテン(b)(232mmol相当)のN,N-ジメチルホルムアミド(50ml)溶液を滴下し、16時間攪拌しガスクロマトグラフィーにより原料の消失を確認した。系内に水(600ml)を加えて30分間撹拌した後、水層をヘキサン抽出した。得られた有機層を水および飽和食塩水にて順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウム乾燥した。吸引濾過後、濾液を常圧濃縮して得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィー(300g,ヘキサン:ジエチルエーテル= 30:1)にて精製した。1-アセチルチオ-3-メチル-3-ブテン(c)を高純度で含むフラクション(ガスクロマトグラフィーにより確認)を常圧濃縮して、1-アセチルチオ-3-メチル-3-ブテン(c)の溶液(50g)を得た。このものをこれ以上の精製を行うことなく次工程に用いた。
(第3工程)
【0053】
【0054】
500mlナスフラスコに水素化アルミニウムリチウム(LAH)(2.2g、58mmol)とジエチルエーテル(Et2O)(50 ml)を入れ0~10℃にて撹拌した。系内に工程2で得られた常圧濃縮物の1/4量の1-アセチルチオ-3-メチル-3-ブテン(c)(12.5g, 58 mmol相当)を滴下した。同温度にて2.0時間撹拌した後に、ガスクロマトグラフィーにて1-アセチルチオ-3-メチル-3-ブテン(c)の消失を確認し、系内に50%ロッシェル塩水溶液(100 ml)を0~10℃を保ちながら滴下した。次いで室温まで昇温させながら終夜撹拌して、水層をジエチルエーテルにて抽出した。得られた有機層に対して水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム16gおよび水100ml)を2回作用させて、目的化合物をカリウム塩として水層に移行させた。得られた水層にクエン酸一水和物(50g)を加えて液性を酸性とした。遊離した有機層を分液して得られた粗精製物を減圧蒸留し、3-メチル-3-ブテン-1-チオール[式(1)](0.76g)を得た。第1~第3工程を合わせた収率は13%であった。得られた式(1)の3-メチル-3-ブテン-1-チオールを本発明品1とした。
得られた3-メチル-3-ブテン-1-チオールは軽いロースト様香気、パン様の香気を呈し、その物性値は以下の通りであった。
【0055】
1H-NMR(CDCl3,400MHz):1.43(1H、t、J=7.8Hz)、1.72(3H、s)、2.34(2H、t、J=7.2Hz)、2.64(2H、dt、J=7.2、7.8Hz)、4.75(1H、s)、4.83(1H、s).
13C-NMR(CDCl3,100MHz):21.926、22.612、41.874、112.057、143.090.
【0056】
[実施例2] 式(1)の化合物の使用例(1):コーヒー様香料組成物への配合
下記表1に記載の一般的な処方により、コーヒー様の香気を呈する基本調合香料組成物を調製した。
【0057】
【0058】
得られたコーヒー様の基本調合香料組成物に、実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)を、下記表2に記載の濃度となるように配合し、本発明の香料組成物(本発明品2~5)を調製した。得られた香料組成物について、14名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、基本調合香料組成物を対照品として、対照品と比較した香気について下記の観点から点数付けを行わせた。点数の平均値を下記表2に記載する。
(評価基準)ロースト感について
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0059】
【0060】
表2に示すように、本発明品2~5はいずれも、式(1)の化合物を配合したことでロースト感が増強され、香気がより優れた好ましいものになることが確認された。
【0061】
[実施例3] 式(1)の化合物と3-メチル-2-ブテン-1-チオールとの比較
実施例2のコーヒー様の基本調合香料組成物(表1の処方)に3-メチル-2-ブテン-1-チオール(式(1)の化合物と構造的に近い既知の香料化合物)を1ppm添加したものを調製した(比較品1)。本発明品4と比較品1について、7名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行い、それぞれの香料の香味について自由にコメントさせた。代表的なコメントを下記表3に記載する。
【0062】
【0063】
表3に示した通り、既知の香料化合物である3-メチル-2-ブテン-1-チオールと式(1)の化合物は、香気特性が大きく異なっていることが確認された。
【0064】
[実施例4]式(1)の化合物の使用例(2):バター様香料組成物への配合
下記表4に記載の一般的な処方により、バター様の香気を呈する基本調合香料組成物を調製した。
【0065】
【0066】
得られたバター様の基本調合香料組成物に、実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)を、バター様の基本調合香料組成物の全体質量に対し0.01ppm添加し、本発明の香料組成物(本発明品6)を調製した。得られた香料組成物について、バター様の基本調合香料組成物を対照品とした香味の変化について7名の経験年数10年以上のパネリストにコメントさせた。その結果、7名のパネリストの全員が、本発明品6について、対照品と比較して、ローストバターにある甘香ばしいトップを想起させる香りが増強され、嗜好性の高いバター風味になったと評価した。
【0067】
[実施例5] 式(1)の化合物の使用例(3):コーヒー飲料への配合
焙煎コーヒー豆粉砕物(ブラジル4/5 L値24)500gを5Lの熱水(95~100℃、イオン交換水)にてドリップ抽出した。次いで、このコーヒー抽出液に重曹6gを加えた後、無添加または、実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)、または3-メチル-2-ブテン-1-チオールが下記表5の濃度となるように配合して調整し、イオン交換水にて全量を10Lとした後、缶容器に充填し、レトルトにて殺菌( F 0 = 4 0 以上) して、本発明の無糖ブラックコーヒー飲料(本発明品7~13)を得た。
得られた本発明のコーヒー飲料について、14名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、無添加を対照品として、対照品と比較した本発明の飲料の香味について下記の観点から点数付けを行わせるとともに、各飲料の香味について自由にコメントさせた。点数の平均値と得られた代表的なコメントを下記表5に記載する。
(評価基準)挽きたてのコーヒー豆を想起させるカラッとしたロースト感および好ましいい酸味感について
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0068】
【0069】
表5に示すように、本発明品7~13はいずれも、式(1)の化合物の配合によりロースト感について優れた香味が付与されたことが確認された。特に0.1ppbから10ppbの範囲内においてその効果が顕著であった。また、3-メチル-2-ブテン-1-チオールと式(1)の化合物は、香気特性が大きく異なっていることが確認された。
【0070】
[実施例6] 式(1)の化合物の使用例(4):食パンへの配合
小麦粉(強力粉)140g、イースト5g、イーストフード 0.2g、乳化剤(脂肪酸モノグリセライドおよび酒石酸モノグリセライド)1g、砂糖2gおよび水80gを混合し、混捏機を用いて低速3分、高速3分混捏した。混捏後常温(25℃)で3時間発酵させ、中種を得た。
次いで、中種にさらに小麦粉(強力粉)60g、砂糖12g、食塩4g、脱脂粉乳4g、無塩バター8g、水48g、および実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)を全体量に対し表5に記載の濃度となる量加え(対照品は本発明品1無添加)、混捏機を用いて低速3分、高速3分混捏し、種を得た。その後、種をボウルにとり、ラップをして20分間置き、生地を押さえてガス抜きをしたのち3等分し、丸め、15分間置いた。再びガスを抜き、丸めなおし、焼型に詰め、38℃、湿度85%で70分間発酵を行った。その後、オーブンにて200℃、35分間焼き上げ、冷まして型から取り出し、食パン(対照品および本発明品14~18)を調製した。
得られた対照品および本発明の食パンについて、14名の経験年数10年以上のパネリストによる官能評価を行った。官能評価では、対照品と比較した本発明の各食パンの香味について下記の観点から点数付けを行わせるとともに、各食パンの香味について自由にコメントさせた。点数の平均値と得られた代表的なコメントを下記表6に記載する。
(評価基準)ローストバター的甘香ばしいトップノートおよび焼き立てパンの香ばしさについて
4点:対照品と比べて顕著に増加した
3点:対照品と比べて増加した
2点:対照品と比べてわずかに増加した
1点:対照品と変わらない
【0071】
【0072】
表6に示すように、本発明品14~18のいずれにおいても、式(1)の化合物の配合により食パンに優れた香味が付与されたことが確認された。特に0.1ppbから10ppbの範囲内においてその効果が顕著であった。
【0073】
[実施例7] 式(1)の化合物の使用例(5):ビール風味飲料への配合
市販のビール風味のノンアルコール飲料に実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)を、市販のビール飲料の全体質量に対し0.1ppb添加し、本発明のビール風味飲料(本発明品19)を調製した。
得られた本発明のビール風味飲料の香味について、市販のビール風味ノンアルコール飲料を対照品とした香味の変化について7名の経験年数10年以上のパネリストにコメントさせた。その結果、7名のパネリストの全員が、本発明品19について、対照品と比較して、麦芽由来のカラっとしたモルティーなトップを想起させる香りが増強され、より嗜好性の高い飲料になったと評価した。
【0074】
[実施例8]式(1)の化合物の使用例(6):オニオンドレッシンングへの配合
市販のオニオンドレッシンングに、実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)を、オニオンドレッシンングの全体質量に対し1ppb添加し、本発明のオニオンドレッシンング(本発明品20)を調製した。得られた本発明のオニオンドレッシンングの香味について、市販のオニオンドレッシンングを対照品とした香味の変化について7名の経験年数10年以上のパネリストにコメントさせた。その結果、7名のパネリストの全員が、本発明品20について、対照品と比較して、ローストオニオン様の、玉ねぎをあめ色に炒めたときの甘香ばしいトップを想起させる香りが増強され、より嗜好性の高いドレッシングになったと評価した。
【0075】
[実施例9]式(1)の化合物の使用例(7):焼き肉のたれへの配合
市販の焼き肉のたれに、実施例1で得られた本発明品1(式(1)の化合物)を、焼き肉のたれの全体質量に対し10ppb添加し、本発明の焼き肉のたれ(本発明品21)を調製した。得られた本発明の焼き肉のたれの香味について、市販の焼き肉のたれを対照品とした香味の変化について7名の経験年数10年以上のパネリストにコメントさせた。その結果、7名のパネリストの全員が、本発明品21について、対照品と比較して、焼き立ての焼肉様の香ばしいロースト感を想起させる香りが増強され、より嗜好性の高い焼肉のたれになったと評価した。