(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ガス燃料船
(51)【国際特許分類】
B63J 2/08 20060101AFI20230816BHJP
B63B 11/04 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B63J2/08 A
B63B11/04 B
(21)【出願番号】P 2021209169
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋一
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090023(JP,A)
【文献】中国実用新案第211543847(CN,U)
【文献】特開2010-242880(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107575741(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63J 2/08
B63B 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暴露甲板上に設けられた居住区と船体に設けられた燃料ガスタンクを有するガス燃料船において、
前記燃料ガスタンクに接続され船体に配設されているガス放出用配管ラインと、該ガス放出用配管ラインに接続され前記暴露甲板上に立設されているガスベント管とを備えており、
前記ガスベント管は、先端に排出口を備えており、
該ガスベント管は
、前記排出口が前記暴露甲板上で前記居住区から遠ざかるように船幅方向外側に
向け、かつ上向きに傾斜している
ことを特徴とするガス燃料船。
【請求項2】
前記ガスベント管が、前記暴露甲板から垂直に立ち上った垂直管と、該垂直管の先端から船幅方向外側に向け
、かつ上向きに傾斜した傾斜管とからなる
ことを特徴とする請求項1記載のガス燃料船。
【請求項3】
前記ガスベント管が、前記暴露甲板上から船幅方向外側に向け
、かつ上向きに傾斜して伸びる傾斜管からなる
ことを特徴とする請求項1記載のガス燃料船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス燃料船に関する。さらに詳しくは、本発明は、船の推進機関の燃料に液化ガスを用いており船体に燃料ガスタンクを備えるガス燃料船に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG、LPG、AMMONIAなどの液化燃料ガスを推進機関の燃料とする船では、液化燃料ガスを貯蔵する燃料ガスタンクを船体に備えている。この燃料ガスタンクには、温度上昇等によってタンク内の圧力が規定値より高くなったときは、高圧ガスを大気中に放出するためのガスベント管が設けられている。このガスベント管の途中には圧力逃し弁が介装されており、先端には気相ガスを大気に放出する排気口が設けられている。
【0003】
従来技術におけるガスベント管は船舶の暴露甲板上に垂直に立てて設けられており、このガスベント管と燃料ガスタンクとはガス放出用配管ラインで接続されている。
ところが、ガスを放出するガスベント管は暴露甲板上で垂直に立設されているため、非常時に放出されるガスの吹きだし方向は垂直上方となっている。このため、放出時に上方へ排出された気相ガスは、風の流れによって居住区にまで届くと乗組員の健康被害を招くという問題がある。
【0004】
一方、特許文献1に記載の従来技術がある。この従来技術は、ガスベント管は液化ガス燃料を貯留する燃料ガスタンクに接続されて上方に延び、曝露甲板に形成されたベント管設置部から上方に突出している。ベント管設置部は周囲の曝露甲板よりも凹陥している。ガスベント管の上端には排出口が設けられ、排出口は、燃料ガスタンク内の気相ガスを大気中に放出する。この排出口は上部構造物または艤装品の最も高い部位より低い位置に定められている。
【0005】
しかるに、この従来技術では、部分的な凹陥部を設けることで暴露甲板を部分的に下げることでエアドラフト制限を回避することができるものの、凹陥部によって貨物積載区画が小さくなり、貨物積載量が減少されるという欠点がある。
また、
図5(B)に示すように、凹陥部120にガスベント管114を設置した場合、ガスベント出口の高さhを規則(NK鋼船規則GF編第6章6.7.2-7(3))で定められた高さ(船幅B/3以上)を守ったとしても、曝露甲板115上からガスベント出口までの高さ方向の間隔Dが小さくなる。そのため、甲板上を歩く乗組員pが排出された気相ガスbと触れやすくなる危険がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、船舶の貨物積載区画を狭くすることなく、燃料ガスタンク内の気相ガスを放出しても乗組員の安全を確保できるガス燃料船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のガス燃料船は、暴露甲板上に設けられた居住区と船体に設けられた燃料ガスタンクを有するガス燃料船において、前記燃料ガスタンクに接続され船体に配設されているガス放出用配管ラインと、該ガス放出用配管ラインに接続され前記暴露甲板上に立設されているガスベント管とを備えており、前記ガスベント管は、先端に排出口を備えており、該ガスベント管は、前記排出口が前記暴露甲板上で前記居住区から遠ざかるように船幅方向外側に向け、かつ上向きに傾斜していることを特徴とする。
第2発明のガス燃料船は、第1発明において、前記ガスベント管が、前記暴露甲板から垂直に立ち上った垂直管と、該垂直管の先端から船幅方向外側に向け、かつ上向きに傾斜した傾斜管とからなることを特徴とする。
第3発明のガス燃料船は、第1発明において、前記ガスベント管が、前記暴露甲板上から船幅方向外側に向け、かつ上向きに傾斜して伸びる傾斜管からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、ガスベント管が外側かつ上向きに傾斜していることで、排出口から放出される気相ガスを常時人がいるであろう居住区から離れた方向へ放出させる。このため、ガスが居住区まで流れたり暴露甲板上の乗組員に触れるリスクを低減させ乗組員の安全を確保することができる。
第2発明によれば、傾斜部によって居住区に対する離間距離を充分に確保できるほか、垂直部があることで暴露甲板上の高さ位置の確保が容易となる。
第3発明によれば、傾斜部を長くすることで居住区に対する離間距離を大きくとれるので、乗組員の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るガス燃料船における燃料ガスタンク10とガスベント管20の説明図である。
【
図2】第1実施形態に係るガス燃料船におけるガスベント管20の拡大図である。
【
図3】第2実施形態に係るガス燃料船におけるガスベント管20の拡大図である。
【
図4】本発明に係るガス燃料船における概略説明図であって、(A)は側面、(B)は平面図である。
【
図5】(A)は本発明の効果の説明図、(B)は特許文献1の従来技術における問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のガス燃料船は推進機関に液化天然ガスを用い、船体内にガス燃料タンクを備える船舶であれば、貨物船や客船の区別を問わずどのような種類の船舶にも適用できる。
以下の実施形態では、自動車運搬船に適用した例を説明する。
【0012】
図4は本発明の一適用例であるガス燃料船Sを示している。なお、同図におけるI-I線矢視図は
図1に示されている。
図示のガス燃料船Sは、自動車運搬船に適用したものであり、1は船首、2は船尾、3は船底、4は暴露甲板、5は機関室である。
【0013】
船体内は甲板6で上下に仕切られており、上部は上部車両積載倉6、下部は下部車両積載倉7と燃料ガスタンク設置区画8とが設けられている。なお、上部車両積載倉6および下部車両積載倉7に係る構成は任意であって、様々な積載甲板を組合わせた任意の構成をとることができる。
燃料ガスタンク設置区画8は船体内に設けられる場合と暴露部に設けられる場合とがある。暴露甲板4上であって船首側には居住区9が設けられている。居住区とは船舶の乗組員の生活用区域である。なお、船舶の操船に係る船橋もこの居住区9と同じ構造物内に設けられることが多い。
居住区9は図示の例では船首側に設けられているが、船尾に設けられるものもあり、本発明はいずれの形式の船舶にも適用される。
【0014】
燃料ガスタンク設置区画8には、燃料ガスタンク10が設置されている。図示の例ではタンクは2基であるが、1基であるものや3基以上設けたものも、本発明に含まれる。
2基の燃料ガスタンク10には、ガス放出用配管ライン11が接続され、船体内に配設されている。ガス放出用配管ライン11は、下端が各燃料ガスタンク10に接続され、上端の接続口は暴露甲板4まで届いている。ガス放出用配管ライン11は図示の例では、横配管12と縦配管13がつなげられて構成されたものを例示しているが、これに限られず、任意の配管構成をとることができる。
燃料ガスタンクが暴露部に配置されている場合のガス放出用配管ラインは、主に暴露甲板4上に配置されることになるが、その場合の配管構成と配管ルートも任意である。
【0015】
船体内でのガス放出用配管ライン11の配管ルートは船体設備に依存して適宜選択され、上端の接続口の位置は暴露甲板4上でガスベント管20に接続できればよく、とくに制限はない。したがって、接続口は船体の中央部でもよく、舷側であってもよく、中央部と舷側の中間部であってもよい。さらに、接続口の上下方向の位置は、暴露甲板4の直下面でもよく直上面でもよい。
【0016】
図1および
図2に基づき、第1実施形態に係るガス燃料船Sのガスベント管20を説明する。
図示のガスベント管20は、ガス放出用配管ライン11の縦配管13の先端にある接続口に接続され暴露甲板4上に立設されている。
ガスベント管20は、暴露甲板4から垂直に立ち上った垂直管21と、この垂直管21の先端から船幅方向外側に向けて上向きに傾斜した傾斜管22とからなる。
ガスベント管20の垂直管21の高さは、規則(鋼船規則など)上の要請に合うよう定めれば、とくに制限はない。
傾斜管22の長さは、居住区9からより可能な限り大きく離れる寸法を選択すればよい。また、傾斜管22の垂直線に対する傾斜角度θは、規則上のベント出口高さに合うよう定めれば、とくに制限はない。
【0017】
ガスベント管20の途中には圧力逃し弁(図示せず)が介装され、上端には排出口23が設けられる。燃料ガスタンク10内の圧力が規定値以上になると、圧力逃し弁が開き、タンク内の気相ガスが、符号bで示すように排出口23から吹き出す。
【0018】
第1実施形態に係るガスベント管20によれば、傾斜管22によって居住区9に対する離間距離を充分に大きく確保できるほか、垂直管21があることで暴露甲板4上の高さ位置の確保が容易となる。したがって、ガスベント管20の排出口23を常時人がいるであろう居住区9から離れた位置へ設けることができる。このため、排出口23から放出される気相ガスbが居住区9まで流れるリスクを低減することができる。
【0019】
第2実施形態に係るガスベント管20を
図3に基づき説明する。
本実施形態のガスベント管20は、暴露甲板4上から船幅方向外側に向けて上向きに傾斜して伸びる傾斜管22からなる。傾斜管22の先端には排出口23が取付けられている。
本実施形態に係るガスベント管20では、傾斜管22を長くすることで居住区9に対する離間距離を大きくとれるので、居住区9から大きく離れた方向へ気相ガスbを放出できる。このため、第1実施形態のガスベント管20と同じように、気相ガス放出時の乗組員の安全性を高めることができる。
【0020】
上記第1または第2実施形態に係るガスベント管20を用いると、つぎのような効果が得られる。
(1)ガス拡散解析を実施するにあたり、解析作業中の安全性を確保しやすくなるため詳細な解析結果が得られることになる。この詳細な解析結果を評価すれば、ガスベント管20の高さを下げられる可能性も生じる。このため、ガスベント管20の設計自由度が向上し、安全性もより向上させることができる。
また、本発明では、特許文献1の従来技術のような、凹陥部を用いないので、貨物積載区画が小さくなることもない。
【0021】
(2)
図5(A)に示すように、本発明のガスベント管20は暴露甲板4から立ち上っているので、ガスベント出口の高さhを規則どおりに設定した場合、暴露甲板4上を歩く乗組員と排出された気相ガスbとの間の間隔Dが大きくとれ、同図(B)に示す従来技術のように乗組員が気相ガスbと触れる可能性が大きく減少する。このため、乗組員pにとって安全である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、船の推進機関の燃料に液化ガスを用いており船体に燃料ガスタンクを備えるガス燃料船であるなら、実施形態で示した自動車運搬船に限らず、ばら積み運搬船、油タンカー、ケミカルタンカー、コンテナ船、RORO船、一般貨物船、冷凍船、フェリーなど様々な種類の船舶に利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 船首
2 船尾
4 暴露甲板
8 燃料ガスタンク設置区画
9 居住区
10 燃料ガスタンク
11 ガス放出用配管ライン
20 ガスベント管
21 垂直管
22 傾斜管