(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】塗装装置および塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20230816BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230816BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20230816BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20230816BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230816BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230816BHJP
B05C 9/12 20060101ALI20230816BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20230816BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230816BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230816BHJP
B25J 9/16 20060101ALI20230816BHJP
B05B 12/14 20060101ALN20230816BHJP
B05B 13/04 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B05B12/00 A
B05D1/26 Z
B05D1/36 Z
B05D3/00 D
B05C9/12
B05D3/06 102Z
B05D7/24 301T
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 109
B25J9/16
B05B12/14
B05B13/04
B41J2/01 123
B41J2/01 303
(21)【出願番号】P 2022152763
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2022503558の分割
【原出願日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】林 慶一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 力
(72)【発明者】
【氏名】中山 玄二
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520011(JP,A)
【文献】特表2020-501892(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141483(WO,A1)
【文献】実開昭60-161459(JP,U)
【文献】特開平2-232186(JP,A)
【文献】特開2018-167253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00- 5/04
7/00-21/00
B05B12/00-12/14
13/00-13/06
B05D 1/00- 7/26
B41J 2/01
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装対象面に対して塗料を吐出するプリントヘッドと、
前記プリントヘッドを搭載して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる多軸ロボットと、
前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第一のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第一の塗料を吐出させる第一の塗装動作を行った後に、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを前記塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第二のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第二の塗料を吐出させる第二の塗装動作を行わせる制御手段と、を備える塗装装置において、
前記第一の塗装動作の際に前記多軸ロボットの特性に関する情報を取得する取得手段を備え、
前記制御手段は、前記第二の塗装動作において、前記取得手段が取得した前記多軸ロボットの特性に関する情報に基づいて前記第二のプリント制御信号を補正して前記プリントヘッドに与えることを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
前記第一の塗料は、プライマー塗料であることを特徴とする請求項1に記載の塗装装置。
【請求項3】
前記第一の塗料は、白色塗料であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗装装置。
【請求項4】
前記第二の塗料は、カラー塗料であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の塗装装置。
【請求項5】
塗装対象面に対して塗料を吐出するプリントヘッドと、
前記プリントヘッドを搭載して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる多軸ロボットと、
前記プリントヘッドから塗料を吐出させることなく前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる空運転動作を行った後に、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを前記塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定されたプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから塗料を吐出させる塗装動作を行わせる制御手段と、を備える塗装装置において、
前記空運転動作の際に前記多軸ロボットの特性に関する情報を取得する取得手段を備え、
前記制御手段は、前記塗装動作において、前記取得手段が取得した前記多軸ロボットの特性に関する情報に基づいて前記プリント制御信号を補正して前記プリントヘッドに与えることを特徴とする塗装装置。
【請求項6】
前記塗料は、カラー塗料であることを特徴とする請求項5に記載の塗装装置。
【請求項7】
前記塗装対象面に塗装された塗料に紫外線を照射する紫外線照射装置をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の塗装装置。
【請求項8】
塗装対象面に対して塗料を吐出するプリントヘッドと、前記プリントヘッドを搭載して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる多軸ロボットと、を備える塗装装置における塗装方法において、
前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第一のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第一の塗料を吐出させる第一の塗装工程と、
前記第一の塗装工程の後に、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを前記塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第二のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第二の塗料を吐出させる第二の塗装工程と、
前記第一の塗装工程の際に前記多軸ロボットの特性に関する情報を取得する取得工程と、を備え、
前記第二の塗装工程において、前記取得工程において取得された前記多軸ロボットの特性に関する情報に基づいて前記第二のプリント制御信号を補正して前記プリントヘッドに与えることを特徴とする塗装方法。
【請求項9】
塗装対象面に対して塗料を吐出するプリントヘッドと、前記プリントヘッドを搭載して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる多軸ロボットと、を備える塗装装置における塗装方法において、
前記プリントヘッドから塗料を吐出させることなく前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる空運転工程と、
前記空運転工程の後に、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを前記塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定されたプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから塗料を吐出させる塗装工程と、
前記空運転工程の際に前記多軸ロボットの特性に関する情報を取得する取得工程と、を備え、
前記塗装工程において、前記取得工程において取得された前記多軸ロボットの特性に関する情報に基づいて前記プリント制御信号を補正して前記プリントヘッドに与えることを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリントヘッドを備える多軸ロボットを制御して塗装対象面を塗装する塗装装置および塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装工程において、オーバースプレーを削減し、かつ精密な描写を可能にする塗装装置として、多軸ロボットの先端にプリントヘッドを設けた塗装装置が使用されている。たとえば、特許文献1には、多軸ロボットを制御することによってその先端に設けられたプリントヘッドを所定の塗装剤の経路に沿ってガイドし、所望の塗装を施すことが開示されている。また、特許文献2には、ロボットのアームによって、プリントヘッドを塗装対象の表面に沿って走査して、所望の塗装を施すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2012-506305号公報
【文献】特開2016-221958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリントヘッドを用いる塗装では、塗装対象面に所望の図形を描写しようとする場合に、プリントヘッドから塗料が吐出される挙動とプリントヘッド自体が移動する挙動(すなわち多軸ロボットの動作)とを同期させて制御する必要がある。しかし、特許文献1および2の塗装装置においては、多軸ロボットの動作とプリントヘッドの動作とを同期させることについて十分に考慮されていなかった。特に、多軸ロボットの動作とプリントヘッドの動作とを同期させるためには、プリントヘッドの三次元的な位置を演算して当該位置をプリントヘッドの動作にリアルタイムで反映する必要があるが、そのような高度な演算処理は困難だった。
【0005】
そこで、多軸ロボットの動作とプリントヘッドの動作とを同期させうる塗装装置および塗装方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塗装装置は、塗装対象面に対して塗料を吐出するプリントヘッドと、前記プリントヘッドを搭載して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる多軸ロボットと、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第一のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第一の塗料を吐出させる第一の塗装動作を行った後に、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを前記塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第二のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第二の塗料を吐出させる第二の塗装動作を行わせる制御手段と、を備える塗装装置において、前記第一の塗装動作の際に前記多軸ロボットの特性に関する情報を取得する取得手段を備え、前記制御手段は、前記第二の塗装動作において、前記取得手段が取得した前記多軸ロボットの特性に関する情報に基づいて前記第二のプリント制御信号を補正して前記プリントヘッドに与えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る塗装方法は、塗装対象面に対して塗料を吐出するプリントヘッドと、前記プリントヘッドを搭載して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させる多軸ロボットと、を備える塗装装置における塗装方法において、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第一のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第一の塗料を吐出させる第一の塗装工程と、前記第一の塗装工程の後に、前記多軸ロボットを制御して前記プリントヘッドを前記塗装対象面に沿って移動させ、かつ、前記プリントヘッドに予め決定された第二のプリント制御信号を与えて前記プリントヘッドから第二の塗料を吐出させる第二の塗装工程と、前記第一の塗装工程の際に前記多軸ロボットの特性に関する情報を取得する取得工程と、を備え、前記第二の塗装工程において、前記取得工程において取得された前記多軸ロボットの特性に関する情報に基づいて前記第二のプリント制御信号を補正して前記プリントヘッドに与えることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、第一の塗装動作(または第一の塗装工程)において多軸ロボットの特性に関する情報を取得し、第二の塗装動作(または第二の塗装工程)において当該情報に基づいてプリント制御信号を補正して塗装を行うので、演算処理の負荷を低減しながら多軸ロボットの動作とプリントヘッドの動作とを同期させうる。
【0009】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態に係るプリントヘッドの斜視透視図である。
【
図3】実施形態に係る塗装装置の構成ブロック図である。
【
図6】変形例に係る塗装装置の構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る塗装装置および塗装方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る塗装装置および塗装方法を、自動車の車体の表面の一部分(以下、塗装対象面という。)に対して加飾を施す塗装方法に適用した例について説明する。
【0012】
〔塗装装置の構成〕
本実施形態において使用される塗装装置1(塗装装置の一例である。)は、プリントヘッド3を備える多軸ロボット2、ならびに、多軸ロボット2およびプリントヘッド3を制御可能なコンピュータ4(制御手段の一例である。)を有する(
図1)。
【0013】
多軸ロボット2は、六軸垂直多関節型の産業用ロボットとして実装されている。当該産業用ロボットとしては、公知のロボットを使用できる。多軸ロボット2の先端に、プリントヘッド3が装着されている。多軸ロボット2の制御方式は、公知の制御方式のうち任意のものを採用することができ、たとえば、各軸パルス方式、ワールド座標系空間座標方式、ユーザー座標系空間座標形式、などでありうる。以下では各軸パルス方式を念頭に置いて説明する。
【0014】
多軸ロボット2の各軸X1~X6の動作は、コンピュータ4から多軸ロボット2に対して出力される制御信号であるロボット制御信号に従って制御される。かかるロボット制御信号は、各軸X1~X6の姿勢変更に係る始点の座標(回転角)、終点の座標(回転角)、および必要に応じて設定される中間点の座標(回転角)、当該姿勢変更の速度、ならびに、当該姿勢変更の軌跡の形状(直線状、円弧状、など)、といったパラメータを含みうる。本実施形態では、多軸ロボット2の各軸X1~X6を直接に制御するとともに各軸X1~X6のパルスカウントを取得するロボットコントローラ21と、ロボットコントローラ21およびコンピュータ4と通信可能に構成されたPLC22と、によって、多軸ロボット2の各軸X1~X6の制御が実現されている。
【0015】
プリントヘッド3は、公知のインクジェットヘッドとして実装されており、本実施形態では、白色塗料、プライマー塗料、およびクリア塗料、ならびにCMYK表色系に対応する四色のカラー塗料(シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、および黒(K))からなる計七色の塗料を、それぞれ個別に吐出可能に構成されている。なお、塗料に替えてインクを用いてもよい。より具体的には、プリントヘッド3には、上記の七色に対応した七つの吐出口31(31a~31g)と、七つのタンク32(32a~32g)が設けられている。各吐出口31には、その開閉を電気的に制御可能な弁が設けられている。
【0016】
また、吐出口31に隣接して紫外線照射装置33が設けられている。紫外線照射装置33は、各塗料を紫外線硬化させうる波長の紫外線を照射できるように構成されている。
【0017】
プリントヘッド3の動作は、コンピュータ4からプリントヘッド3に対して出力される制御信号であるプリント制御信号に従って制御される。かかるプリント制御信号は、各吐出口31(31a~31g)の吐出に関わる因子(たとえば、ピエゾインクジェット方式における電圧パターン)、各吐出口31から塗料が吐出される状態および吐出されない状態の継続時間、などのパラメータを含みうる。本実施形態では、各吐出口31を直接に制御可能なプリントヘッドドライバ34が設けられており、プリントヘッドドライバ34は、コンピュータ4から入力されるプリント制御信号に基づいて各吐出口31を制御して、プリントヘッド3から塗料が吐出されるタイミングを制御する。
【0018】
〔コンピュータおよび制御プログラムの構成〕
コンピュータ4は、公知の構成を有するコンピュータとして構成されており、したがって、CPU、記憶デバイス、入出力デバイスなどの公知のコンピュータとしての構成要素および機能を有する。コンピュータ4には、塗装対象面に形成したい加飾の態様(たとえば、文字、図柄、模様などである。)が入力される。
【0019】
コンピュータ4は、多軸ロボット2(PLC22)およびプリントヘッド3(プリントヘッドドライバ34)と電気的に接続されている。コンピュータ4には本実施形態に係る制御プログラムがインストールされており、コンピュータ4が、多軸ロボット2の各軸X1~X6を制御するロボット制御機能と、プリントヘッド3を制御するプリント制御機能と、を実現できるように構成されている。
【0020】
ロボット制御機能では、多軸ロボット2の各軸X1~X6の動作を決定づけるロボット制御信号が、コンピュータ4から多軸ロボット2(PLC22)に対して出力される。このとき、コンピュータ4は、ロボット制御機能の実行中におけるロボット制御信号を記録できる。
【0021】
プリント制御機能では、プリントヘッド3の各吐出口31(31a~31g)の動作を決定づけるプリント制御信号が、コンピュータ4からプリントヘッド3(プリントヘッドドライバ34)に対して出力される。プリント制御信号は、プリントヘッド3の動作によって形成したい加飾の態様によって決定づけられる元データに基づいて決定されるが、当該元データに対して補正が加えられる場合がある。かかる補正は、ロボット制御信号に基づいて決定される補正値に従って実行される。補正値の決定は、プリント制御機能の一部として実行され、たとえばロボット制御機能の実行中におけるロボット制御信号の記録と平行して行われうる。
【0022】
また、プリント制御機能では、プリントヘッド3の紫外線照射装置33の動作を決定づける紫外線制御信号が、コンピュータ4からプリントヘッド3(プリントヘッドドライバ34)に対して出力されてもよい。
【0023】
〔塗装方法〕
次に、本実施形態に係る塗装方法の実施形態について説明する。本実施形態に係る塗装方法は、プライマー塗装工程、白色塗装工程、カラー塗装工程、およびクリア塗装工程を含み、プライマー塗料、白色塗料、カラー塗料、クリア塗料、の順で塗装対象面に対して順次塗装を施す。
【0024】
(1)プライマー塗装工程(第一の塗装動作および第一の塗装工程の一例である。)
プライマー塗料を塗装する際は、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行しながら、プリントヘッド3からプライマー塗料を吐出させるように、プリント制御機能が実行される。具体的には、プライマー塗料を貯留しているタンク32bに連通する吐出口31bの動作が制御される。プライマー塗料は下塗りであり、塗装対象面の全域がプライマー塗料(所定の塗料の一例である。)で塗りつぶされればよく(すなわち、塗装対象面の全域がプライマー塗料で被覆されればよい。)、塗装対象面の各部におけるプライマー塗料の膜厚に多少のばらつきがあってもよい。そのため、プライマー塗装工程においては、プリントヘッド3からプライマー塗料を連続的に吐出させればよく、多軸ロボット2の動作とプリントヘッド3の動作とを同期させる必要がない。そこで本実施形態では、プリントヘッド3からプライマー塗料を連続的に吐出させるように、プリント制御機能が実行されている。
【0025】
このとき同時に、多軸ロボット2に係るロボット制御信号が記録される。プライマー塗装工程では、塗装対象面の全域にプライマー塗料による塗装が施されることから、プリントヘッド3が塗装対象面の全域を掃引するように、多軸ロボット2の動作が行われる。したがって、プライマー塗装工程の開始から終了までにわたってロボット制御信号が記録されれば、塗装対象面の全域に塗装を施すために必要な多軸ロボット2の動作を実現するロボット制御信号が記録されることになる。このときに記録される一連のロボット制御信号によって、多軸ロボット2の各軸X1~X6の動作の瞬時値のみならず、経時変化も特定される。したがって、多軸ロボット2の動作が、位置、速度、および加速度を含む形で特定されることになる。
【0026】
さらに、このとき並行して、後述するカラー塗装工程において用いられる補正値の決定が行われる。具体的には、プライマー塗装工程中に記録されるロボット制御信号に基づいて、塗装対象面の全域に塗装を施す間のプリントヘッド3の位置、速度、および加速度が特定され、プリント制御信号の補正値の決定に使用される。補正値を決定するための考え方については、カラー塗装工程の項で説明する。
【0027】
上記のように、コンピュータ4が、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行するとともに、ロボット制御信号を記録する動作は、本実施形態に係る制御プログラムの第一モードの一例である。
【0028】
また同時に、紫外線照射装置33が運転され、塗装対象面に塗布されたプライマー塗料に紫外線が照射される。プライマー塗料が塗装対象面に着液して間もなく紫外線が照射され、プライマー塗料の紫外線硬化が行われる。なお、上記のようにプライマー塗料の塗布と硬化とが同時に行われてもよいが、別々に行われてもよい。いずれの場合においても、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行しながら、紫外線照射装置33を運転して塗装対象面に紫外線が照射されるようにプリント制御機能が実行される。この動作は、本実施形態に係る制御プログラムの第三モードの一例である。
【0029】
(2)白色塗装工程
白色塗料を塗装する際は、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行しながら、プリントヘッド3から白色塗料を吐出させるようにプリント制御機能が実行される。具体的には、白色塗料を貯留しているタンク32aに連通する吐出口31aの動作が制御される。プライマー塗装工程と同様に、白色塗装工程においても、塗装対象面の全域が白色塗料で塗りつぶされればよく、塗装対象面の各部における白色塗料の膜厚に多少のばらつきがあってもよいので、多軸ロボット2の動作とプリントヘッド3の動作とを同期させる必要がない。したがって、白色塗料工程においては、プリントヘッド3から白色塗料を連続的に吐出させるように、プリント制御機能が実行される。
【0030】
また、プライマー塗装工程において、塗装対象面の全域に塗装を施す間のロボット制御信号が記録されているので、白色塗装工程におけるロボット制御機能では、記録されたロボット制御信号が援用される。すなわち、白色塗装工程のロボット制御機能は、プライマー塗装工程において記録されたロボット制御信号に基づいて実行される。これによって、白色塗装工程における多軸ロボット2の動作(位置、速度、および加速度)を、プライマー塗装工程における多軸ロボット2の動作と実質的に同一にできる。
【0031】
なお、ロボット制御信号の記録について、プライマー塗装工程に加えて、または替えて、白色塗装工程において行われてもよい。この場合、白色塗装工程は、プライマー塗装工程と同様に第一工程の一例である。プライマー塗装工程および白色塗装工程の双方においてロボット制御信号が記録される場合は、両工程で記録されたロボット制御信号に基づいて、プリント制御信号の補正値が決定されうる。たとえば、両工程で記録されたロボット制御信号の平均値が、補正値の決定において参酌されうる。
【0032】
また、白色塗料を塗装するのと同時に(または別々に)紫外線照射装置33が運転される点について、プライマー塗装工程と同様である。
【0033】
(3)カラー塗装工程(第二の塗装動作および第二の塗装工程の一例である。)
カラー塗料を塗装する際は、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行しながら、プリントヘッド3からカラー塗料を吐出させるようにプリント制御機能が実行される。このとき、四色のカラー塗料(シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、および黒(K))の吐出は、それぞれ独立に制御され、各色の配合によって任意の色調の塗装が実現される。
【0034】
カラー塗装工程においても、プライマー塗装工程において記録されたロボット制御信号が援用される。すなわち、カラー塗装工程のロボット制御機能は、プライマー塗装工程において記録されたロボット制御信号に基づいて実行される。したがって、カラー塗装工程における多軸ロボット2の動作(位置、速度、および加速度)は、プライマー塗装工程における多軸ロボット2の動作と実質的に同一である。このことはすなわち、カラー塗装工程において塗装対象面の全域に塗装を施す間のプリントヘッド3の位置、速度、および加速度について、プライマー塗装工程におけるプリントヘッド3の動作が再現されることを意味する。
【0035】
カラー塗装工程におけるプリント制御機能は、塗装対象面に所望の加飾(たとえば、文字、図柄、模様などである。)を施すように実施される。具体的には、所望の加飾の態様に基づいて決定される元データとして、所望の加飾を四色別のドット単位で表現したビットマップデータが使用され、当該ビットマップに基づいて各カラー塗料に対応した各吐出口31(31d~31g)の動作が制御される。
【0036】
ただし、塗装対象面に所望の加飾を施す際に、多軸ロボット2の動作によってプリントヘッド3が移動することに留意する必要がある。たとえば、プリントヘッド3が停止状態から定常速度に到達するまでの間(区間Pとする。)と、プリントヘッド3が定常速度で移動している間(区間Qとする。)とでは、単位時間あたりにプリントヘッド3が移動する距離が異なる。そのため、プリントヘッド3から塗料が吐出される周期(一般的にdpi単位で表される。)が一定である場合、塗装対象面における塗料の着液点どうしの間隔が、区間Pにおいて区間Qより狭くなる。この場合、元データのビットマップを塗装対象面上において正確に再現できず、加飾に歪みが生じることになる。たとえば、所望の加飾が
図4に示した図形Mであり、区間Pと区間Qとの着液点どうしの間隔の違いが考慮されない場合、塗装対象面に現れる加飾は
図5に示した図形M’のようになり、区間Pに対応する端部に歪みが生じる。
【0037】
また、正確な色再現のためには、各カラー塗料の着液点を元データの各ドットに対応する着液点と一致させる必要があるが、各カラー塗料に対応した各吐出口31(31d~31g)がそれぞれ別個に設けられているため、各吐出口31(31d~31g)から着液点までの軌跡は色ごとに異なることになる。そのため、カラー塗料ごとに、塗料の吐出方向を微調整する必要がある。
【0038】
そこで本実施形態では、プライマー塗装工程中に記録されるロボット制御信号に基づいて、塗装対象面の全域に塗装を施す間のプリントヘッド3の位置、速度、および加速度が特定され、これらの位置、速度、および加速度のうちの少なくとも一つに基づいてプリントヘッド3から塗料が吐出される周期が補正される。たとえば、プリントヘッド3の速度に基づいて塗料が吐出される周期を増減させれば、塗装対象面における塗料の着液点を等間隔にでき、塗装対象面に元データ通りの加飾が再現されうる。また、プリントヘッド3の位置と、プリントヘッド3における各吐出口31(31d~31g)の配置と、に基づいて、各吐出口31から吐出される塗料の着液点が一致するように、各吐出口31からの塗料の吐出方向が補正されうる。なお、前述したように、補正値の決定は、プライマー塗装工程と並行して行われる。
【0039】
上記のように、コンピュータ4が、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行しながら、プリント制御機能を実行して塗装対象面に対して所望の加飾を施す動作は、本実施形態に係る制御プログラムの第二モードの一例である。また、第二モードのロボット制御機能が、第一モードにおいて記録されたロボット制御信号に基づいて実行されること、および、第二モードのプリント制御機能において、プリント制御信号が、所望の加飾に基づいて決定される元データと、第一モードにおいて記録されたロボット制御信号に基づいて決定される補正値と、に従って決定されること、も上記の通りである。
【0040】
なお、各カラー塗料を塗装するのと同時に(または別々に)紫外線照射装置33が運転される点について、プライマー塗装工程および白色塗装工程と同様である。
【0041】
(4)クリア塗装工程
クリア塗料を塗装する際は、塗装対象面に沿ってプリントヘッド3を移動させるようにロボット制御機能を実行しながら、プリントヘッド3からクリア塗料を吐出させるようにプリント制御機能が実行される。具体的には、クリア塗料を貯留しているタンク32cに連通する吐出口31cの動作が制御される。プライマー塗装工程および白色塗装工程と同様に、クリア塗装工程においても、塗装対象面の全域がクリア塗料で塗りつぶされればよく、塗装対象面の各部におけるクリア塗料の膜厚に多少のばらつきがあってもよいので、多軸ロボット2の動作とプリントヘッド3の動作とを同期させる必要がない。したがって、クリア塗料工程においては、プリントヘッド3からクリア塗料が連続的に吐出されるように、プリント制御機能が実行される。
【0042】
クリア塗装工程においても、プライマー塗装工程において記録されたロボット制御信号が援用される。すなわち、クリア塗装工程のロボット制御機能は、プライマー塗装工程において記録されたロボット制御信号に基づいて実行される。したがって、クリア塗装工程における多軸ロボット2の動作(位置、速度、および加速度)は、プライマー塗装工程における多軸ロボット2の動作と実質的に同一である。
【0043】
なお、クリア塗料を塗装するのと同時に(または別々に)紫外線照射装置33が運転される点について、プライマー塗装工程、白色塗装工程、およびカラー塗装工程と同様である。クリア塗料の紫外線硬化が行われることによって、加飾を保護するクリア層が形成される。
【0044】
〔小括〕
上記の(1)~(4)の各工程における、ロボット制御機能およびプリント制御機能の動作を下表に一覧する。
【表1】
【0045】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る塗装装置および塗装方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
上記の実施形態では、プライマー塗装工程において、プライマー塗料の塗装と同時にロボット制御信号が記録され、当該ロボット制御信号に基づいてカラー塗装工程において用いられる補正値が決定される構成を例として説明した。しかし、塗装対象面に沿ってプリントヘッドを移動させるようにロボット制御機能を実行するとともにロボット制御信号を記録すれば十分であり、塗料の吐出の有無は限定されない。たとえば、プリントヘッドから塗料を吐出させることなく、塗装対象面に沿ってプリントヘッドを移動させ、その間にロボット制御信号を記録するように制御を行う運転(いわゆる空運転)をおこなってもよい(空運転動作および空運転工程の一例である。)。なお、上記の実施形態において、プライマー塗装工程の前に空運転を行ってもよい。
【0047】
上記の実施形態では、プライマー塗装工程と並行して補正値の決定が行われる構成を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装装置および塗装方法において、補正値の決定は、第二工程の開始前の任意のタイミングで行われればよい。
【0048】
上記の実施形態では、プライマー塗装工程、白色塗装工程、カラー塗装工程、およびクリア塗装工程を含む塗装方法を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装装置の動作および塗装方法の工程の数および順番は、上記の構成に限定されず、所望の加飾に応じて適宜選択される塗料の種類および塗布順にしたがって適宜決定される。たとえば、プライマー塗装工程および白色塗装工程の一方または双方が存在しない構成や、クリア塗装工程が存在しない構成などが例示される。なお、塗装対象面に対してプライマー塗装および白色塗装のいずれも施さず、直接に加飾を施す(カラー塗装を施す)場合は、第一工程として前述の空運転を行って補正値を決定するとよい。
【0049】
上記の実施形態では、塗装装置1(多軸ロボット2)および塗装対象面の移動について特に言及していないが、塗装装置1および塗装対象面のいずれも、定置されていてもよいし、移動可能であってもよい。塗装装置1および塗装対象面の少なくとも一方が移動可能に構成されている場合は、当該移動を加味して補正値が決定されることが好ましい。かかる移動方向は、水平方向、垂直方向、およびこれらの組合せでありうる。
【0050】
上記の実施形態では、自動車の車体の表面を塗装対象面とする構成を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装装置および塗装方法における塗装対象面は、自動車の車体の表面のほか、船体、建築外装板、タービンプレート、樹脂ガラス、およびホイールなどの構造物の表面や、壁面、天井面、床面、および路面などの屋内外に存在する面などであってよい。
【0051】
上記の実施形態では、CMYK表色系に対応する四色のカラー塗料を使用して加飾が施される構成を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装装置および塗装方法において、加飾を施すために使用する塗料の種類は特に限定されない。たとえば、上記のカラー塗料の例のように、色彩を伴う加飾を施す場合は、元データの表色系(RGB表色系、CMY表色系、CMYK表色系、Lab表色系、L*a*b*表色系、グレースケールなど)に対応した塗料の組が使用されうる。また、耐熱塗料、導電性塗料、防汚塗料などの機能性塗料による加飾を施してもよい。
【0052】
上記の実施形態では、コンピュータ4に制御プログラムがインストールされており、コンピュータ4がロボット制御機能およびプリント制御機能を実現する構成を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装装置の構成は、上記の構成に限定されない。たとえば、上記の実施形態のコンピュータ4を省略し、替わりに、PLC22において制御プログラムが実行される構成が採用されうる(
図6)。この場合、PLC22から、紫外線照射装置33およびプリントヘッドドライバ34のそれぞれに対して、制御信号が送信される。すなわち、PLC22を制御プログラムの実行主体として塗装装置の制御を行うことも、本発明における「コンピュータを用いて制御」に該当する。
【0053】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 :塗装装置
2 :多軸ロボット
3 :プリントヘッド
4 :コンピュータ