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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】疼痛を治療するための薬用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/52 20060101AFI20230817BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230817BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
A61K31/52
A61P25/04
A61K31/485
【請求項の数】 2
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017100431
(22)【出願日】2017-05-20
(65)【公開番号】P2019052094
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-05-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522206892
【氏名又は名称】永展控股有限公司
【氏名又は名称原語表記】FOREVER CHEER HOLDING LIMITED
【住所又は居所原語表記】3/F, WORKINGTON TOWER, 78 BONHAM STRAND, SHEUNG WAN, HONG KONG
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】卓 敏
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0098295(US,A1)
【文献】MOLECULAR PHARMACOLOGY,2006年,Vol. 70, No. 5,pp. 1742-1749
【文献】Drug Discovery Today,2012年,Vol. 17, No. 11/12,pp. 573-582
【文献】MOLECULAR PAIN,2016年,Vol. 12,pp. 1-9
【文献】SCIENCE SIGNALING,2017年02月21日,Vol. 10,eaah5381, pp. 1-10,SUPPLEMENTARY MATERIALS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AC1阻害剤である5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オール(NB001)、又はNB001の製薬上許容される塩若しくは溶媒和物、オピオイド系薬物耐性を低下させるための薬剤の製造における使用。
【請求項2】
前記オピオイド系薬物はモルヒネである、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬用組成物に関し、さらに詳しくは、オピオイド系製剤の長期使用による鎮痛耐性、身体依存性、及び嗜癖性などの問題を減少させる又は改善することが可能な薬用組成物に関する。
さらに、オピオイドと、AC1阻害剤NB001である5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オール、AC1&8混合阻害剤NB010である6-アミノ-9-(2-パラトリルオキシ-エチル)-9H-プリン-8-チオール及びNB011である4-(9H-プリン-6-イル)モルホリンの少なくとも1種を組み合わせた使用に関する。
【背景技術】
【0002】
「阿片製剤(opiate)」は、例えば、モルヒネ(Morphine)、コデイン、及びモルヒネの多くの半合成類似物などの阿片(opium)由来の薬理学的に活性なアルカロイド類を指す用語として使用されている。モルヒネ様作用を有するペプチド化合物の単離後、オピオイド(opioid)という用語が導入され、一般にモルヒネ様作用を有する全ての薬物を指すようになった。オピオイドには、エンドルフィン、エンケファリン、及びダイノルフィンのようなモルヒネ様活性を表す様々なペプチドが含まれる。しかしながら、初期の資料には、一般的な意味を有する「阿片製剤」という用語が使用されていることもある。この場合、阿片製剤とオピオイドとは同義である。さらに、オピオイドという用語は、モルヒネ様薬物の拮抗剤を指し、このような薬物と組み合わされた受容体又は結合部位を同定するために使用されている。
【0003】
オピオイドは通常鎮痛薬として使用され、モルヒネは通常絶痛を軽減するために使用されているが、モルヒネの臨床応用は、鎮痛耐性、身体依存性、及び嗜癖の発達によって制限される。モルヒネの長期投与によりヒト及び動物の耐性が誘発されるが、μ-受容体が減感できないことは知られている。逆に、モルヒネの長時間使用は、オピオイド耐性及び依存性を助長するアデニル酸シクラーゼ(AC)の過敏化を引き起こす(Nestler, 1997; 2001a,b; 2002)。例えば、中脳腹側被蓋野(VTA)及び側坐核(NAc)領域(両方の領域が阿片薬物増強に重要である)、並びに青斑核及び背核(阿片の禁断には重要である)のようないくつかの脳領域におけるアデニル酸シクラーゼ活性の長期変化が報告されている。(Nestler及びAghajanian、1997; Jolasら、2000; Williamsら、2001; Chao及びNestler、2004)。
【0004】
ACsはオピオイド系物質の作用を調節することができることが示唆されているが、異なるACアイソザイムの作用を定義するための特異的阻害剤の欠如は、研究の遅れにつながった。今まで、10種類のACsの遺伝子がクローン化されており、それぞれが中枢神経系及び末梢感覚神経系において異なる発現パターンを有する(Xia及びStorm、1997)。そのうち、AC1及びAC8は、脳内においてCa2+/カルモジュリンによって特異的に刺激される。AC1及びAC8は、VTA、NAc、青斑核、及び背側縫線核を含む異なる脳領域に広く分布している(Zhuo、2012)。
【0005】
さらに、多くの研究が薬物嗜癖におけるCREBに関連している(Guitartら、1992; Hyman、1996; Maldonadoら、1996; Waltersら、2001)。ウエスタンブロット解析は、モルヒネ耐性動物におけるCREB又はリン酸化CREB(pCREB)の発現の増加を示した(Liら、1999; Gaoら、2004)。CREB突然変異マウスは、モルヒネ治療を停止した後、禁断症状は軽減された( Maldonadoら、1996)。さらに、主にモルヒネ生理作用を媒介するGタンパク質共役受容体Muオピオイド系物質受容体(MOR)は、CRE要素を含み、CREBにより媒介された経路は活性化されることが示されている。
(Minら、1994; Nestler 、1997; Leeら、2003)。中枢神経系において、AC1及びAC8は、ニューロンにおけるCREBを調節するために、上流の重要なシグナルタンパク質に作用することが知られている(Weiら、2002; Zhuo、2012)。AC1及びAC8シングルノックアウト(KO)マウス及びDKOマウスを使用することにより、AC1又はAC8遺伝子シングルノックアウトマウス、又はDKOマウス及び野生型マウスに対して、短時間ではモルヒネの鎮痛効果には差が生じないことが報告されている(Liら、2006)。AC1&8DKOマウス及びAC8シングルノックアウトマウスは、モルヒネ(10mg/kg体重)注射を毎日行うことにより、耐性の低下が継続的に誘発された。モルヒネで継続的に治療されたDKOマウスは、禁断挙動が顕著に減少した(Li ら、2006)。AC1阻害剤ST034037を用いた最近の研究により、AC1活性がMOR慢性的な活性化によって誘発されたAC感作を必要とすることが発見された。それは、AC1阻害が慢性的なモルヒネの使用により誘発された耐性及び他の反応を克服するのに有益であることを示唆している(Brustら、2017)。
【0006】
オピオイド系薬物による疼痛の治療において、治療効果の低下は、薬理学的耐性メカニズム(又は元の状態の悪化)によってしばしば解釈され、元の効果を維持するためには用量を増加させる必要がある。最近の研究では、鎮痛作用の発生に加えて、オピオイド系薬物では身体の傷害促進のメカニズムを活性化する可能性があり、それにより、身体の疼痛に対する感受性が増加すること(即ち、オピオイド誘発性痛覚過敏(opioid-induced hyperalgesia ,OIH))が確認されている。痛覚過敏症状の出現は、オピオイド禁断反応初期に観察されている。最新の証拠によれば、痛覚過敏はオピオイド治療中にも起こることが示唆されている。つまり、オピオイドの使用の停止及びオピオイドの持続投与は共に、疼痛感受性を増加させており、これは明らかに矛盾した結果である。それ故、オピオイド鎮痛効果の低下は、薬理学的耐性メカニズムだけでなく、OIH(傷害促進のメカニズム)の作用によるものである可能性が高い。それらメカニズムの間で、感作プロセスと脱感作プロセスの両方が起こる。OIHは、内因性ダイノルフィン、グルタミン酸作動性系及び下行性促進のメカニズムに関与する独特な細胞メカニズムを有する。興味深いことに、OIHのメカニズムは、神経障害性疼痛及びオピオイド耐性のメカニズムと広く重複する。例えば、末梢神経損傷及び反復オピオイド投与は、同じグルタミン酸作動性細胞経路を活性化することができる。
【0007】
オピオイド治療中の薬物の鎮痛効力の低下は、薬理学的耐性現象又は既存の疼痛状態の悪化であると考えられる。したがって、薬物用量を増加させることが、薬物効力を維持するための唯一の選択肢と考えられる。しかしながら、オピオイド誘発性疼痛に関する臨床的及び実験的研究によって示された証拠の矛盾から、本発明者はこの現象の解釈を見直さなければならないと考えた。オピオイドの治療効果の低下が薬物耐性のメカニズムに関連する場合には、明らかに薬物の用量を増加させることが妥当である。一方、OIHが原因となる場合、用量を盲目的に増加させると、単に体内の傷害促進プロセスを強化し、疼痛及び耐性を悪化させることになる。
【0008】
したがって、オピオイド系薬物の鎮痛時間を延長し、臨床応用における鎮痛耐性、身体依存性、及び嗜癖性を克服するための、新たな薬物又は組み合わせ製剤の開発は非常に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
Brust et al (2017) Identification of a selective small-molecule inhibitor of type 1 adenylyl cyclase activity with analgesic properties. Science signaling 10.
【特許文献】
【0010】
米国特許公報第US2011/0098295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のオピオイド系薬物の鎮痛耐性、身体依存性、及び嗜癖性などの問題に鑑みて、本発明の目的は、オピオイド系薬物の長期使用による鎮痛耐性、身体依存性、及び嗜癖性などの問題を減少又は改善し、モルヒネ及び他のオピオイド系薬物の長期使用による付加的反応を減少することのできる、新たな薬用組成物を提供することである。
【0012】
オピオイドは細胞内でcAMP産生を活性化し、その長期使用はアデニリル酵素の過敏症を引き起こすことが知られている。また、cAMP依存性シグナル伝達経路は、耐性、依存性及び他の因子を含む長期のオピオイドの効果に重大な影響を及ぼす(Liら、2006; Brustら、2017を参照)。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、研究の過程において、本発明で開示するNB001、NB010及びNB011の3つの化合物が、オピオイド系薬物の長期使用による付加的反応を減少するために使用できるという驚くべき発見をして、本発明を完成させた。
【0014】
本発明のNB001、即ち、5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オールは、以下の構造を有する。
【0015】
本発明のNB010、即ち、6-アミノ-9-(2-パラトリルオキシ-エチル)-9H-プリン-8-チオールは、以下の化学構造を有する。
【0016】
本発明のNB011、即ち、4-(9H-プリン-6-イル)モルホリン(6-モルホリン-4-イル-7H-プリンとも称する)は、以下の化学構造を有する。
【0017】
本発明では、以下の薬用組成物を提供する。すなわち、
(1)オピオイド系薬物と、
NB001、NB010、及びNB011からなる群から選択される少なくとも1種と、を含む疼痛を治療するための薬用組成物であって、
上記NB001は、5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オールであり、
上記NB010は、6-アミノ-9-(2-パラトリルオキシ-エチル)-9H-プリン-8-チオールであり、
上記NB011は、4-(9H-プリン-6-イル)モルホリン(6-モルホリン-4-イル-7H-プリンとも称する)である、ことを特徴とする薬用組成物である。
【0018】
(2)上記オピオイド系薬物はモルヒネである、ことが好ましい。
【0019】
(3)上記NB001、上記NB010、及び上記NB011は、製薬上許容される塩又は溶媒和物をさらに含む、ことができる。
【0020】
また、本発明では、疼痛を治療する薬物の調製のため以下の薬用組成物を使用する。すなわち、
(4)疼痛を治療する薬物の調製のための薬用組成物の使用であって、上記薬用組成物は、
オピオイド系薬物と、
NB001、NB010、及びNB011からなる群から選択される少なくとも1種と、を含み、
上記NB001は、5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オールであり、以下の構造を有し、
上記NB010は、6-アミノ-9-(2-パラトリルオキシ-エチル)-9H-プリン-8-チオールであり、
上記NB011は、4-(9H-プリン-6-イル)モルホリン(6-モルホリン-4-イル-7H-プリンとも称する)であることを特徴とする使用である。
【0021】
(5)上記オピオイド系薬物はモルヒネである、ことが好ましい。
【0022】
(6)上記NB001、上記NB010、及び上記NB011は、製薬上許容される塩又は溶媒和物をさらに含んでもよい。
【0023】
さらに、本発明では、以下の方法を提供する。すなわち、
(7)オピオイド系薬物の使用に基づいて疼痛を治療する方法であって、NB001、NB010、及びNB011のうちの少なくとの1種と、それら化合物に製薬上許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1種を併用し、
上記NB001は、5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オールであり、上記NB010は、6-アミノ-9-(2-パラトリルオキシ-エチル)-9H-プリン-8-チオールであり、
上記NB011は、4-(9H-プリン-6-イル)モルホリン(6-モルホリン-4-イル-7H-プリンとも称する)である、ことを特徴とする。
【0024】
(8)上記オピオイド系薬物はモルヒネである、ことが好ましい。
【0025】
本発明では、以下の薬用組成物をさらに提供する。すなわち、
(9)神経因性疼痛による不安及び他の疾患に関連する不安や憂鬱を治療する薬用組成物であって、上記薬用組成物は、NB001、NB010、及びNB011ののうちの少なくとも1種を含む薬用組成物である。
【0026】
(10)上記NB001、上記NB010、及び上記NB011は、その化合物が製薬上許容される塩又は溶媒和物をさらに含むことができる。
【0027】
さらに、本発明では、以下の薬用組成物を提供する。
(11)慢性内臓痛及びそれに関連する不安や憂鬱を治療する薬用組成物であって、上記薬用組成物は、NB001、NB010、及びNB011のうちの少なくとも1種を含む、ことを特徴とする薬用組成物。
【0028】
(12)モルヒネの慢性的な使用による掻痒反応を治療するための薬用組成物であって、上記薬物組成物は、NB001、NB010、及びNB011のうちの少なくとも1種を含む、ことを特徴とする薬用組成物。
【0029】
本発明によれば、NB001は、モルヒネ又は他のオピオイド剤化合物を慢性的に用いた時の鎮痛効果を増強し、耐性を減少させることができる。モルヒネと併用することにより、同レベルの鎮痛効果を得るのに必要なモルヒネの用量を低減することができる。
【0030】
本発明の治療法は、モルヒネで治療される患者におけるモルヒネの鎮痛効果を増強し、及び/又はモルヒネ耐性を低下させるために使用することもできる。患者が長時間モルヒネを使用すると、モルヒネ耐性(モルヒネ鎮痛作用の喪失)が起こることがある。数日間又は数週間、ヒト及び動物におけるモルヒネの反復使用は、鎮痛効果を低下させる可能性がある。
【0031】
本発明の他の態様は、AC1&8阻害剤としての新規化合物NB010及びNB011に関する。AC1及びAC8の双方の活性がオピオイド誘発性感作のキーポイントとなる点において、極めて重要な発明といえる。すなわち、AC1及びAC8の活性阻害効果は、阿片により誘発された耐性、嗜癖及び他の作用を低減するために理想的な効果である。本発明において、NB001、NB010及びNB011の作用原理は、AC1及びAC8の活性が効果的に阻害されることであるが、AC1及びAC8の活性を阻害する全ての化合物が本発明の効果を有するわけではない。
【0032】
NB010及びNB011は、モルヒネ又は他のオピオイド剤化合物を慢性的に用いた場合の鎮痛作用を増強させて、耐性を減少させるために使用することができる。モルヒネとの併用によって、同レベルの鎮痛効果を生じるために必要なモルヒネの用量を低減することができる。
【0033】
本発明はまた、AC1又はAC1&8活性を抑制するのに有効な量の化合物をヒトに投与することにより、ヒトにおけるモルヒネ耐性を治療することにも使用できる。モルヒネによる慢性疼痛の治療において、通常、モルヒネの慢性使用者は、モルヒネ耐性が形成されている。NB010/NB011は、モルヒネ及び他の阿片剤の長期使用による付加的な反応を抑制するために使用することができる。
【0034】
神経因性疼痛や癌性疼痛などの慢性疼痛の治療において、疼痛治療薬物は多くの副作用をもたらす可能性がある。モルヒネ治療による副作用として掻痒が起こる可能性もある。NB010/NB011は、モルヒネの慢性的な使用による掻痒反応を軽減するために使用することができる。
【0035】
NB010/NB011は、傷害による不安/憂鬱を軽減するために使用することができる。NB010及びNB011は、オピオイド剤(例えばモルヒネ)の慢性的な使用又は損傷による掻痒を軽減するために使用することができる。本発明は、掻痒防止のためのNB010及びNB011の一般的な使用を網羅することができる。
【0036】
AC1及びAC8ともエタノール誘発性感受性に関与することが知られている(Maasら、2005)。このため、NB010とNB011は、エタノール関連嗜癖、感受性などの症状を治療するために使用することができる。
【0037】
AC1及びAC8はコカイン感作に関与することが報告されている(DiRoccoら、2009)。このため、本発明者は、NB010及びNB011を用いてコカインの慢性的な使用に関連する嗜癖などの行動を治療することを提案した。
【0038】
本発明の化合物は、薬学的に許容される塩の形態で存在してもよい。薬物として使用する場合、本発明の化合物の塩は、非毒性の「薬学的に許容される塩」を指す(Ref International J.Pharm.1986、33、201-217;J.Pharm.Sci.、1997(Jan)、66、1、1)。しかしながら、当該分野で周知の他の塩を用いて、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を調製することもできる。代表的な有機又は無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、イセチオン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸及びトリフルオロ酢酸が挙げられる。しかし、それらに限定されるものではない。代表的な有機又は無機塩基は、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン、プロカイン、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛などの塩基性塩又はカチオン塩を含むが、それらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の技術的範囲には、本発明の化合物のプロドラッグも含まれる。一般に、そのようなプロドラッグは、インビボで容易に所望の化合物に変換される上記化合物の機能的誘導体である。したがって、本発明の治療方法において、「投与」という用語は、具体的に開示された化合物又は具体的に開示されていないが、患者への投与後にインビボで特定の化合物に変換されて様々な疾患を治療する化合物の投与を含む。
【0040】
本発明に係る薬用組成物は、非経口、経口、直腸、置換又は経皮投与の形態で使用することができる。
【0041】
そのため、それらは、通常の若しくはコーティングされた錠剤、糖衣錠、ウエハーカプセル、ゲルカプセル、丸薬、カシェ剤、粉剤、坐薬又は直腸カプセルの形態や、注射可能な溶液又は懸濁液又は複数回投与バイアルとしても提供される。溶液又は懸濁液は、極性溶媒中で経皮使用するために、又は固定使用するために使用される。
【0042】
上記投与に適した賦形剤としては、セルロース又は微結晶セルロース誘導体、アルカリ土類金属炭酸塩、リン酸マグネシウム、澱粉、改質澱粉及び固体形態の乳糖が挙げられる。
【0043】
直腸使用のための賦形剤としては、ココアバター又はポリエチレングリコールステアレートが好ましい。
【0044】
非経口的使用のための担体としては、水、水溶液、生理食塩水及び等張溶液が好ましい。
本発明の活性化合物又はその医薬用組成物の治療上有効な用量が、所望する効果により変化することは、当業者には明白である。そして、投与される最適な用量が容易に決定される。その用量は、使用される特定の化合物、投与形態、製剤の強さ、及び疾患の進行により変化する。さらに、患者の年齢、体重、飲食物、及び投与時間等、治療される特定の患者に関連する因子に応じて、適切な治療レベルの用量への調節が必要となる。したがって、本明細書に記載される用量は一般的な例である。当然のことながら、個々の状況に応じ、より多い又は少ない用量としてもよく、それは、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
本発明の化合物を必要とする患者に鎮痛薬として使用されるたびに、上記の組成物及び用量計画、又は当技術分野で確立された組成物及び用量計画に基づいて投与することができる。
【0046】
また、本発明では、1つ又は複数の本発明の医薬用組成物及び獣医学的組成物である成分を含有する1つ又は複数の容器を含む、医薬用又は獣医学的パッケージ又はキットを提供する。人用の薬剤の製造、使用又は販売を管理する部門によって承認された、薬物又は生物学的製剤の製造、使用又は販売を管理する政府機関によって発行された通知が、任意で上記容器に添付されてもよい。
【0047】
本発明の化合物は、鎮痛有効量を投与することにより、ヒトなどの恒温動物における軽度から重度の疼痛を治療するために使用することができる。通常のヒト(70kg)で、1日当たり1~4回の投与する場合、用量範囲は活性成分が、約0.1mg~約15,000mgとなることが好ましく、約50mg~約3500mgとなることがより好ましく、約100mg~約1000mgとなることが特に好ましい。しかしながら、本発明の活性化合物の治療有効量が、治療する疼痛のタイプによって変化することは、当業者には明白である。
【0048】
経口投与の場合、0.01、10.0、50.0、100、150、200、250及び500mgの活性成分を含む錠剤の形態で医薬用組成物を提供することが好ましく、症状により治療する患者への用量が調節される。
【0049】
本発明における疼痛の例としては、炎症性疼痛、中枢性疼痛、末梢性疼痛、内臓痛、構造的又は軟部組織損傷関連疼痛、進行性疾患関連疼痛、神経因性疼痛、急性疼痛(急性損傷、外傷、又は手術によるもの)及び慢性疼痛(頭痛及び神経性疾患、脳卒中後の疾患、癌、片頭痛に起因する頭痛など)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0050】
本発明の化合物は、また、免疫抑制剤、抗炎症剤、神経及び精神疾患(例えば、鬱病やパーキンソン病)の治療及び予防のための薬物、泌尿生殖器疾患(尿失禁及び早漏など)の治療ための薬物、薬物乱用及びアルコール依存症の治療のための薬物、胃炎及び下痢の治療のための薬物、心血管薬物及び心臓保護剤、並びに呼吸器系疾患の治療のための薬物として使用することができる。
【0051】
本発明の化合物は、以下の疾患による疼痛を治療するために使用することもできる。上記疾患は、骨関節炎、リウマトイド関節炎、線維筋痛、片頭痛、頭痛、歯痛、火傷、日焼け、蛇咬傷(特に、毒蛇咬傷)、クモ咬傷、昆虫刺傷、神経因性膀胱、良性前立腺肥大、間質性膀胱炎、鼻炎、接触性皮膚炎/過敏症、掻痒、湿疹、咽頭炎、粘膜炎、腸炎、蜂巣炎、灼熱痛、坐骨神経痛、下顎関節神経痛、末梢神経炎、多発性神経炎、残肢痛、幻肢痛、術後腸閉塞、胆嚢炎、乳房切除後疼痛症候群、口腔神経因性疼痛、シャルコー(Charcot)痛、反射性交感神経性ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、知覚異常性大腿神経痛、口腔灼熱症候群、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、群発頭痛、片頭痛、末梢神経障害、両側末梢神経障害、糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、視神経炎、発熱後神経炎、遊走性神経炎、分節性神経炎、ゴンバウルト(Gombault)神経炎、ニューロン炎、頸腕神経痛、脳神経痛、膝状節神経痛、舌咽神経痛、片頭痛様神経痛、特発性神経痛、肋間神経痛、乳房神経痛、モートン(Morton)神経痛、鼻毛様体神経痛、後頭部神経痛、肢端紅痛症、スルーダー神経痛、翼口蓋(splenopalatine)神経痛、眼窩上神経痛、ヴィディアン神経痛、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、副鼻腔炎性頭痛、緊張性頭痛、出産痛、分娩痛、月経痛、及び癌を含む。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】AC1&8阻害剤NB010を使用したときのACCにおけるプレLTP及びポストLTPの阻害効果を示す図である。
図2】各種薬剤を用いたときのACCにおけるプレLTPに対するAC1&8の阻害効果を示す図である。
図3】AC1阻害剤NB001(5mg/kg)を使用したモルヒネ(10mg/kg)の反復注射により誘発されたモルヒネ耐性の低下を示す図である。
図4】各種試料のモルヒネ耐性を示す図である。
図5】モルヒネの条件づけ場所嗜好性試験結果を示す図である。
図6】神経損傷による不安に対する各種薬剤の効果を示す図である。
図7】掻痒反応試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
NB001は、5-((2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エチル)アミノ)ペンタン-1-オール(英語名は5-((2-(6-amino)-9H-purin-9-yl)ethyl)amino)pentan-1-ol)であり、分子式はC1220Oであり、分子量は264.33(単位)である。市販品としては、シグマ社の686301-48-4号が挙げられる。
【0054】
NB010、即ち、6-アミノ-9-(2-パラトリルオキシ-エチル)-9H-プリン-8-チオールは、以下の化学構造を有する。
市販品としては、アシネックス(Asinex LTD)社のBAS03384号が挙げられる。
【0055】
NB011、即ち、4-(9H-プリン-6-イル)モルホリン(6-モルホリン-4-イル-7H-プリンとも称する)は、以下の化学構造を有する。
市販品としては、メイブリッジ(Maybridge)社のJFD02793号が挙げられる。
【0056】
本発明において、示された化学式を有する化合物の薬学的に許容される塩は、化合物A及び化合物Bの定義に含まれる。
〈実施例1〉AC1&8混合阻害剤のスクリーニング
【0057】
潜在的なAC1及びAC8共阻害剤(又は、AC1及び8阻害剤)を選別するために、一連の生化学的スクリーニング試験を行った。AC1及びAC8に作用する潜在的化合物A及びBをスクリーングするために、AC1又はAC8が発現する細胞系において、cAMPアッセイ、遺伝子活性化(pCREB)アッセイ、及び包括的な生理的試験を行った。その結果、NB010及びNB011とも、100μMでAC1及びAC8の活性を顕著に阻害することが発見された(表1参照)。試験方法については、Wang, H.S., et al., Identification of an Adenylyl Cyclase Inhibitor for Treating Neuropathic and Inflammatory Pain. Science Translational Medicine, 2011. 3(65)を参照した。
〈実施例2〉不安関連皮質LTPに対するNB010及びNB011の影響評価
【0058】
既存の研究では、反復刺激によって誘発されたシナプスLTPがAC1及びAC8の活性を必要とすることが示されている(Zhuo、2016)。ニューロンAC1及びAC8の活性に対するNB010及びNB011の影響を評価するために、本発明者は、成体マウスのACC皮質切片に2つの形態のLTPを記録した。
【0059】
θ刺激は、少なくとも40分間持続したシナプス反応の増強を刺激し誘発した(図1A、n=8個の切片)。NB010(25μM)を用いて前処理を行うことによって、ACC LTPの誘発を遮断することができる(図1A、n=5片)ことがわかった。また、NB011を用いた前処理によっても、同様の結果が得られた(図2を参照、n=6個の切片)。同じ用量(25μM)の非選択性AC阻害剤SQ22356では、プレLTPの顕著な減少は認められなかった(図2、n=5)。また、GABApention(25 uM)を使用してもプレLTP(n=5)を遮断しないことがわかった。最近のACC報告(Chenら、2014)では、GABApentionがACC LTPに影響を与えないことが記載されている。興味深いことに、ホルスコリン(10uM)では、プレLTPにわずかな増加が生じた(図2)。このことはACの活性化がプレLTPにとって重要であることを示している。上記結果より、NB010及びNB011とも、成体マウスのニューロンにおけるAC1及びAC8の活性を阻害できることを示している。このことから、NB010及びNB011が損傷による不安の治療に使用できることが立証された。
【0060】
最近の研究では、損傷による不安はプレLTPに関連する可能性があることが示されている(Kogaら、2015; Zhuo、2016)。そのため、発明者は、プレLTPに対するNB010及びNB011の影響を測定することとした。その結果、2種の化合物はプレLTPを阻害できることが判明した(図1)。具体的な試験プロセスについては、Koga, K., et al., Coexistence of Two Forms of LTP in ACC Provides a Synaptic Mechanism for the Interactions between Anxiety and Chronic Pain. Neuron, 2015. 85(2): p. 377-389を参照した。
【0061】
図1は、AC1&8阻害剤NB010を使用したときのACCにおけるプレLTP及びポストLTPの阻害効果を示す。(A)より、対照切片においてポストLTPが誘発され(黒丸;n=8)、NB010(25μM)溶液の使用によりポストLTPの誘発が遮断されたことが確認された(n=5)。(B)より、対照切片においてプレLTPが誘発され(黒丸;n=8)、NB010(25μM)溶液の使用によりプレLTPの誘発が遮断されたことが確認された(n=5)。
【0062】
図2は、各種試薬を用いたときのACCにおけるプレLTPに対する、AC1&8の阻害効果を示す。データにより、プレLTPが45分間誘発されたとき、最後の5分間で増強されたことが認められた。*は、対照群と比較して顕著な差があることを示す(NB010及びNB011では減少が生じ、ホルスコリンでは増加が生じた)。
〈実施例3〉モルヒネ耐性に対するAC1及びAC1&8阻害剤の行動影響
【0063】
AC1ノックアウトマウスがモルヒネの反復注射によりモルヒネ耐性に影響を生じるか否かを検査した。本発明者の以前の報告では、モルヒネ(10mg/kg、s.c.)を7日間毎日注射して、モルヒネによる耐性を測定した。AC1ノックアウトマウスでは、食塩水で処理された野生型マウス(n=5~8匹のマウス:7日目:対照マウス、MPE18±6%、AC1KO、40±8%)と比較して、モルヒネにより明らかに大きな鎮痛作用を生じる(P <0.05)ことを見出した。これらの結果から、AC1活性の阻害がモルヒネ耐性の低下に有益であり得ることを示している。次に、選択的AC1阻害剤NB001(5mg/kg、i.p.)を用いて、野生型マウスをモルヒネで処理した。侵害受容器及び尾部反応遅延を記録した。NB001との併用により、慢性的なモルヒネ治療の後の反応潜時に顕著な影響が生じる(p <0.005)(図3)ことが認められた。
【0064】
AC1及びAC8ダブルノックアウトマウスに対する以前の研究では、モルヒネ耐性の顕著な低下が発見された(Liら、2006)。AC1&8阻害剤がモルヒネ耐性を低下させる有益な効果を有すると考えられる。モルヒネ注射の7日後、NB010又はNB011(5mg/kg、i.p.)を用いた前処理(n=5~8匹のマウス、それぞれの対照処理と比較してp<0.05)を行うことにより、いずれにおいても明らかに大きな鎮痛作用を生じた。具体的な試験方法については、Li, S., Lee, M. L., Bruchas, M. R., Chan, G. C., Storm, D. R., and Chavkin, C. (2006). Calmodulin-stimulated adenylyl cyclase gene deletion affects morphine responses. Mol Pharmacol 70, 1742-1749を参照した。
【0065】
図3は、AC1阻害剤NB001(5mg/kg)を使用したモルヒネ(10mg/kg)の反復注射により誘発されたモルヒネ耐性の低下を示す図である。図3より、AC1阻害剤NB001(5mg/kg)の使用によりモルヒネ耐性を低下できることがわかった。
【0066】
以上の結果から、AC1阻害剤NB001、AC1&8阻害剤NB010及びNB011はいずれもモルヒネ鎮痛効果の増強のために使用され、モルヒネの反復使用を可能にすると考えられる。
【0067】
図4より、モルヒネ(10mg/kg)注射後、NB010及びNB011は、7日間(n=5~7匹のマウス)モルヒネ耐性を逆転させる顕著な効果を有することが確認された。対照的に、100mg/kgのガバペンチン(GABApentin)は、顕著な効果を有しなかった(n=6匹のマウス)。さらに、非選択的AC阻害剤SQ22356でも試験を行ったが、同じ用量では大きな効果は認められないことがわかった。以上の結果、AC1/AC8の選択的阻害が重要であることが確認された。
【0068】
モルヒネ耐性におけるAC1/AC8の作用をさらに試験するために、AC活性化剤ホルスコリンを使用した。その結果、モルヒネの反復使用の3日後に、マウス(n=3匹のマウス)がより迅速に耐性を有することが認められた。
【0069】
AC1阻害剤NB001(5mg/kg)、AC1/AC8阻害剤NB010及びNB011(5mg/kg)では、モルヒネの反復注射の7日後に、モルヒネ(10mg/kg)の反復注射によって誘発されたモルヒネ耐性が低下することわかった。ガバペンチン(100mg/kg)及びSQ22356(5mg/kg)では、顕著な効果が得られなかった。
【0070】
効果を実現可能な用量を確認するために、NB化合物を1mg/kgより少ない用量で使用した。その結果、NB001、NB010及びNB011とも顕著な効果が得られないことがわかった。これにより、用量に応じて効果が得られることが確認された。
〈実施例4〉モルヒネの条件付け場所嗜好性試験(Conditioned Place Preference,CPP)
【0071】
条件付け場所嗜好性試験(Conditioned Place Preference, CPP)により、CREB突然変異マウスでモルヒネの有益効果に対する反応が低下することが確認されている(Walters及びBlendy、2001)。食塩水で処理したマウス及び阻害剤で治療したマウスにおいて、モルヒネCPPを誘発した。食塩水で処理したマウスと比較して、NB001(5mg/kg、ip)で処理したマウスでは、チャンバーのモルヒネに適合した側を探索する時間が著しく短く、AC1がモルヒネの増強された特性に影響を及ぼすことが示唆された(p<0.05)。上記マウスでは、部屋の両側の初期の嗜好に大きな違いはなかった。具体的な試験方法については、Walters CL, Blendy JA (2001) Different requirements for cAMP response element binding protein in positive and negative reinforcing properties of drugs of abuse. J Neurosci 21:9438-9444を参照した。
【0072】
モルヒネの条件付け場所嗜好性試験に関連して、本発明者は、NB001がモルヒネにより誘発された嗜好性を顕著に減少させることを発見した。NB010及びNB011(5mg/kg)も、NB001と同様の効果を有する(図5を参照)。一方、同じ用量の非選択的AC阻害剤SQ22356は阻害作用を生じなかった(図5を参照)。これにより、AC1/AC8の阻害は選択的であることが示される。また、100mg/kgのGABApentionの作用についても評価した。図5に示されるように、9日後にモルヒネ(10mg/kg)を反復使用して場所嗜好行動を誘発し、AC1阻害剤NB001、AC1/8阻害剤NB010及びNB011(5mg/kg)の使用による効果が顕著に認められた。ガバペンチン(100mg/kg)又はSQ22356(5mg/kg)では、顕著な効果は認められなかった。
【0073】
さらに、図示しない試験結果により、NB001、NB010及びNB011の用量を1mg/kgに低減すると、期待される効果が得られないことがわかった。この結果、NB001、NB010及びNB011の作用は用量依存性があることが確認された(n=3~5匹のマウス)。
【0074】
ホルスコリン(5mg/kg)では阻害効果は生じず、選択時間がわずかに増加した(n=3匹のマウス)。
〈実施例5〉不安行動試験
【0075】
上述したように、本発明者は、神経損傷がEPM試験において不安行動を引き起こすことを発見した(Kogaら、2015;図6を参照)。NB010及びNB011のいずれの阻害剤も不安に関連するプレLTPを阻害するため、NB010又はNB011が不安などの行動を減少できるか否かを確認した。予想通り、NB010及びNB011(5mg/kg)は、神経損傷による不安反応を顕著に軽減することがわかった(いずれの場合もP<0.05、いずれも試薬n=6匹のマウス)(図6を参照)。
【0076】
より低い用量(1mg/kg)においては、NB010(図6を参照)による顕著な軽減は認められなかった。1mg/kgのNB011でも同様の結果が得られた。ガバペンチン(100mg/kg、i.p.)及びSQ22356(5mg/kg)では、行動的不安に顕著な軽減は認められなかった(図6)。ホルスコリン(5mg/kg)を使用しても、不安がさらに増強されることはなかった。これは、飽和効果の生成に起因する可能性が考えられる(図6)。
実験方法については、Koga, K., et al., Coexistence of Two Forms of LTP in ACC Provides a Synaptic Mechanism for the Interactions between Anxiety and Chronic Pain. Neuron, 2015. 85(2): p. 377-389を参照した。
【0077】
図6は、神経損傷による不安に対する各種薬剤の影響を示す。AC1&8阻害剤NB010及びNB011(5mg/kg、i.p.)を使用することにより、神経損傷による不安状態が減少した(損傷の7日後)。1mg/kgの少ない用量では、NB010及びNB011のいずれも不安に対する効果が認められなかった。ガバペンチン(100mg/kg)及びSQ22356(5mg/kg)の使用では、顕著な治療効果は認められなかった。本実施例では、EPM試験により不安状態を評価した。
掻痒の反応
【0078】
掻痒は、オピオイド系物質の慢性的な使用を含む様々な疾患により引き起こされることがよく知られている。AC1及びAC8の阻害が掻痒反応を減少することを確認するために、化合物Aの注射による行動的掻痒反応に対するNB010及びNB011の効果を評価した。具体的な試験方法は、米国特許出願公開第US20110098295 A1を参照されたい。化合物48/80(100μg/50μl)の皮内注射によって誘発された全体的なスクラッチ反応の結果を示す。野生型マウス(n=7)と比較して、NB010及びNB011で前処理した(n=6匹のマウス)注射をしたマウスでは、全体的にスクラッチ反応が顕著に減少することが認められた(図7)。GABApention(100mg/kg)の使用では、掻痒反応に顕著な減少は認められなかった(図7)。この用量(5mg/kg、腹腔内)では、SQ22356による顕著な減少も認められなかった。対照的に、ホルスコリン(5mg/kg)の使用により、行動的掻痒反応は顕著に増強した(図7)。
【0079】
図7は、cAMP経路に影響を及ぼす各種試薬のマウスの行動的掻痒反応に及ぼす影響を示す図である。NB010及びNB011の使用により、成体マウスにおいてヒスタミン放出化合物40/80により引き起こされる掻痒反応が顕著に減少した。対照的に、ガバペンチン及びSQ22356では顕著な効果は得られなかった。ホルスコリンはAC活性化剤であり、掻痒反応を著しく増強した。対照と比較して、P<0.05である結果に*を付した。
試験動物
【0080】
AC1及びAC8 KOマウスについては、Wei F, Qui CS, Kim SJ, et al. Genetic elimination of behavioral sensitization in mice lacking calmodulin-stimulated adenylyl cyclases. Neuron. 2002; 36(4): 713-726を参照した。C57B1/6バックグラウンドで数世代(F8~F12)が繁殖された。対照野生型(WT)マウスは、Charles Riverの成体雄性(8~12週齢)C57B1/6マウスであった。実験の最後に、動物を過量の吸入麻酔薬(ハロタン)で処置した。動物を12時間:12時間の明暗サイクルで飼育し、食物及び水を日常的に提供した。
AC8及びAC1の新規阻害剤の生化学的スクリーニング試験
【0081】
AC8発現ベクターpcDNA3-AC1のトランスフェクションのために、HEK293細胞を、60mm直径の培養皿上に1プレートあたり1×10 6の密度でプレートし、一晩増殖させ、リポフェクタミン2000(Lipofectamine 2000)(Invitrogen)によってpcDNA3-AC1をトランスフェクトした(1錠あたり0.8μgのDNA)。安定なトランスフェクトクローンを、0.8mg/mlのG418(Invitrogen、CA)を含有する培地中で選択し、培地中に保持した。HEK293細胞における他のACアイソフォームの一過性発現のために、HEK293細胞を96ウェル組織培養皿に播種し、AC5プラスミドでトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後に試験を行った。
【0082】
ACsを発現するHEK293細胞を採取し、異なる処理の後に0.1MのHCl水溶液中に溶解した。ダイレクトcAMP酵素イムノアッセイキット(アッセイデザイン、MI)を用いてダイレクトcAMPアッセイを行い、マイクロプレートリーダーによって405nmで光学濃度値を測定した。1mMの3-イソブチル-1-メチルキサンチン(Sigma、MO)を培養物に添加することによって、ホスホジエステラーゼを阻害した。
CREルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
【0083】
HEK293細胞を抗生物質の非存在下で96ウェルプレートに継代培養し、一晩増殖し、pGL3-CREホタルルシフェラーゼ及びpGL3-CMV-アドレナリンルシフェラーゼ構築物(1ウェルあたり0.25μgのDNA)を用いてリポフェクタミン2000試薬でトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を一晩インキュベートし、培地を10%ウシ胎児血清を含むDMEMに交換した。48時間後、各化学物質の濃度で、10μMのホルスコリン、10μMのA23187及び2mMの CaCl2又は10μMのホルスコリン、10μMのA23187及び2mMのCaCl2の組み合わせで細胞を処理した。6時間後に、培養細胞を採取し、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)によりルシフェラーゼ活性を測定した。SIRIUSルミノメーターを用いて相対的光ユニットを測定した。
全細胞パッチクランプ記録
【0084】
標準的な方法を用いてACCレベルの冠状断脳切片(300μm)を調製した(Wuら、2005)。切片を、酸素(95%のO及び5%のCO)を含む人工脳脊髄液(ACSF)(人工脳脊髄液は、mMで、124 NaCl、2.5 KCl,2 CaCl、1 MgSO、25 NaHCO、1 NaHPO、10 グルコースを含む)に浸漬後、回収チャンバーに移し、室温で少なくとも1時間放置した。視覚化するための赤外線DIC光学系を備えたBX51W1顕微鏡のステージ上の記録チャンバー内で実験を行った。Axon 200B増幅器(Axon Instruments、CA)を用いてII / IIIニューロンから興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録し、ACC層Vに配置された双極タングステン刺激電極を介して刺激を送達した。α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)受容体により媒介されるEPSCを0.05Hzで繰り返し刺激することにより誘発し、AP5(50μM)の存在下でニューロン電圧を-70mVでクランプした。記録用ピペット(3~5MΩ)に充填した内部溶液は、(mMで)145 K-グルコン酸塩、5 NaCl、1 MgCl、0.2 EGTA、10 HEPES、2 Mg-ATP、0.1 Na3-GTP、10 クレアチンリン酸二ナトリウムの溶液であり、KOHでpHを7に調節した。内溶液(mM:140 セシウムメタンスルホン酸ナトリウム、5 NaCl、0.5 EGTA、10 HEPES、2 MgATP、0.1 Na3-GTP、0.1 ノイリジン、2 QX-314臭化物及び10 クレアチンリン酸二ナトリウム(CsOHでpHを7.2に調節した))を使用してAMPA受容体媒介の送達試験を整流した。マイクロEPSC(mEPSC)記録のために、0.5μMのTTXを灌流溶液に添加した。すべての実験において、GABAA受容体媒介の抑制性シナプス電流を遮断するように、微量の毒素(100μM)を常に存在させた。経路の抵抗は15~30MΩであり、実験を通してそれを監視した。実験中、経路の抵抗が15%以上変化した場合には、データを破棄した。データを1kHzでフィルタリングし、10kHzでデジタル化した。
条件付け場所嗜好性試験
【0085】
2つの異なる環境(異なる壁、床及び匂い)を有する部屋(MED-associates、St. Albans、VT)を使用した。試験の最初の日に、動物は、自由に30分間チャンバーの両側を探索させ、データを用いてほぼ等しい偏りのグループに分けた。次の8日間、チャンバーの異なる側の動物それぞれに、1日おきに、10mg/kgのモルヒネ又は等体積の食塩水を与えた。動物を30分間チャンバーの特定の側に閉じ込めた。調節後、全ての動物に生理食塩水を注射して、30分間チャンバーの両側を自由に探索させた。場所嗜好性は、試験前と比較したときの、調節後のモルヒネのペアリング側での時間の増加量で評価した。
神経因性疼痛モデル
【0086】
上記のように、総腓骨神経(CPN)を接続することによって神経因性疼痛モデルを誘導した(Liら、2010)。ケタミン(0.16mg/kg;Bimeda-MTC)とキシラジン(0.01mg/kg;Bayer)の混合食塩水の腹腔内注射によりマウスに麻酔した。CPNは、ほぼ横方向に走る筋肉の前群と後群との間で観察される。慢性CPNを、足の背屈筋の収縮がデジタルとして見える痙攣になるまで、クロム腸線縫合糸5-0(Ethicon)にゆっくりと接続した。手術後3日目、7日目、14日目に機械的異痛の検査を行った。盲検試験を行い、異なる人が手術及びマウスの機械的感受性の測定を担当した。
機械的異痛の試験
【0087】
マウスを円形の容器に入れ、試験前に30分間順応させた。Von Freyフィラメント(Stoelting)の屈曲点への適用に対する後肢の応答性に基づいて、機械的異痛を評価した。ポジティブな反応は、舐めること、噛むこと、後肢を突然引くことを含む。閾値刺激を特徴付けるために実験を行った。ナイーブマウスにおいて、1.65フィラメントからの機械的圧力(力、0.008g)は無害であることが判明した。その後、このフィラメントを用いて機械的異痛を試験した。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7