特許 7332844 原子炉の炉心溶融物のローカライズ装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2023-08-16

(45)【発行日】2023-08-24

(54)【発明の名称】原子炉の炉心溶融物のローカライズ装置

(51)【国際特許分類】

   G21C 9/016 20060101AFI20230817BHJP

   G21C 13/02 20060101ALI20230817BHJP

【ＦＩ】

G21C9/016

G21C13/02 200

【請求項の数】 1

(21)【出願番号】P 2019572489

(86)(22)【出願日】2018-12-28

(65)【公表番号】

(43)【公表日】2022-01-31

(86)【国際出願番号】 RU2018000898

(87)【国際公開番号】W WO2020067919

(87)【国際公開日】2020-04-02

【審査請求日】2021-12-24

(31)【優先権主張番号】2018133761

(32)【優先日】2018-09-25

(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU

(73)【特許権者】

【識別番号】516233088

【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト

【氏名又は名称原語表記】ＪＯＩＮＴ ＳＴＯＣＫ ＣＯＭＰＡＮＹ ＡＴＯＭＥＮＥＲＧＯＰＲＯＥＫＴ

【住所又は居所原語表記】ｕｌ． Ｂａｋｕｎｉｎｓｋａｙａ，７，ｓｔｒ．１ Ｍｏｓｃｏｗ，１０５００５ Ｒｕｓｓｉａ

(74)【代理人】

【識別番号】100079108

【弁理士】

【氏名又は名称】稲葉 良幸

(74)【代理人】

【識別番号】100109346

【弁理士】

【氏名又は名称】大貫 敏史

(74)【代理人】

【識別番号】100117189

【弁理士】

【氏名又は名称】江口 昭彦

(74)【代理人】

【識別番号】100134120

【弁理士】

【氏名又は名称】内藤 和彦

(74)【代理人】

【識別番号】110001900

【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所

(72)【発明者】

【氏名】シドロフ アレクサンドル スタレヴィッチ

(72)【発明者】

【氏名】ズバノフスカヤ タチアナ ヤロポルコフナ

(72)【発明者】

【氏名】ロシチン ミハイル アレクサンドロヴィチ

【審査官】松平 佳巳

(56)【参考文献】

【文献】英国特許出願公開第０２２３６２１０（ＧＢ，Ａ）

【文献】英国特許出願公告第００８８１７９０（ＧＢ，Ａ）

【文献】特開２００８－１２１７７４（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００８－２３２０９８（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１４－０８０８８６（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１６－０１７６０９（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１３－１３３２１５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開平０５－２２１３１１（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｇ２１Ｃ ９／０１６

Ｇ２１Ｃ １３／０２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

原子炉ハウジングの底部より下方に設置されており、多層容器の形態の冷却シェルを含むメルトトラップと、
前記多層容器内に配された、溶融物を希釈するための充填剤と、
前記多層容器の下方で、原子炉キャビティのコンクリートに設置され、水平部分が連続または分割されたプレートからなる下部支持体と、
を備える原子炉の炉心溶融物のローカライズ装置であって、
前記プレートが、半径方向支持部材を含み、
前記メルトトラップも、前記プレートの半径方向支持部材に保持される半径方向支持部材を含み、
前記プレートの半径方向支持部材と、前記メルトトラップの半径方向支持部材とは、クランプ部材を介して接続されて、前記プレートの前記半径方向支持部材、前記メルトトラップの前記半径方向支持部材及び前記クランプ部材には、楕円形状の穴があり、前記プレートの前記半径方向支持部材と前記クランプ部材と、及び、前記メルトトラップの前記半径方向支持部材と前記クランプ部材とは、楕円形状の前記穴を貫通する締結部材により、固定され、
前記メルトトラップの前記半径方向支持部材は、弾性を有し、前記メルトトラップの底部と接続されている上側接続部と、前記クランプ部材を介して前記プレートの前記半径方向支持部材と接続されている下側接続部とを含み、
前記上側接続部は、前記メルトトラップの底部の半径方向中央部付近から半径方向周縁部に向かって延伸されており、
前記上側接続部の半径方向幅よりも前記下側接続部の半径方向幅の方が小さい
ことを特徴とする原子炉の炉心溶融物のローカライズ装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、原子力の分野に関し、特に、原子力発電所（NPP）の安全性を確保するシステムに関し、炉心融解、原子炉ハウジングの破壊、および原子力発電所の格納容器から溶融物が排出されるような過酷な事故に対処する技術に関する。

【背景技術】

【0002】

放射能の最大の危険性は、炉心融解の事故であり、この事故は能動的および受動的な安全システムと通常運転システムの故障（機器コンポーネントの破損）の様々な組み合わせの時、または原子力発電所の完全な非通電状態、および原子力発電所の設計によって設定された期間内に緊急炉心冷却ために電力を供給できない状態で発生する可能性がある。

【0003】

そのような事故では、内部の炉構造と原子炉ハウジングを溶融する炉心溶融物（いわゆるコリウム）が炉心を超えて流れ、そこから放出される残留熱のために、環境への放射性物質の放出に対する最後の障壁、つまり、原子力発電所の格納設備の完全性を損ねるおそれがある。

【0004】

このような事態を避けるため、原子炉ハウジングから漏れたコリウムを特定箇所にローカライズ（localize：局在化）させて、全部のコリウム成分が完全に結晶化するまで冷却し続ける必要がある。この機能は、原子炉の炉心溶融物のローカライズと冷却のためのシステムによって実行される。これにより、原子力発電所の密閉カバーの損傷が防止され、したがって、原子炉の重大事故における放射線被曝から住民および環境を保護される。

【0005】

原子炉の炉心溶融物のローカライズ装置（特許文献１：IPC G21C 9 / 00、優先日2009年4月15日）は、原子炉ハウジングの底部の下に設置され、多層容器の形態の冷却シェル（cooled shell）を備えたメルトトラップ（溶融物捕獲装置）を含み、上記の多層容器内に配置された、溶融物を希釈するための充填剤を含み、多層容器の下において、原子炉キャビティのコンクリートに設置された、水平部分が連続または分割されたプレートからなる下部支持体を含み、クランプ部材によってメルトトラップをプレートに接続する垂直円筒パイプを含める。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0006】

【文献】ロシア特許2398294号明細書

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0007】

この装置の欠点は、溶融物がメルトトラップ内を移動する時、その底部の拘束されない温度により半径方向の膨張量が保証されず、メルトトラップの底部の軸方向の熱膨張中および構造的特徴（垂直円筒パイプによりメルトトラップを下部支持部に固定すること）による衝撃中に、メルトトラップの底および原子炉キャビティの底のプレートの完全性が確保されないことにある。

【0008】

すなわち、溶融物がメルトトラップの底部に入ると、溶融物トラップの内面は、鋼の溶融温度に近い温度、約１５００℃に加熱される。メルトトラップの底部の厚さはその側壁よりも３０％以上厚くなるが、これにより、半径方向に拡張するメルトトラップの底部と、半径方向に拡張する比較的低温の垂直円筒パイプとの間に、メルトトラップの底からの機械的加重下のみでパイプ拡張が発生するので、重大な熱応力が発生する。

【0009】

垂直の円筒パイプは、方位角方向と半径方向の両方で不均一に変形し始め、その結果、その後の破壊を伴う亀裂が出現する。垂直円筒パイプの破壊により、メルトトラップの機能が果たせずに終了する。

【0010】

本発明の課題は、上記の欠点を解消して、原子炉の炉心の溶融物のローカライズ装置の信頼性を高めることにある。

【課題を解決するための手段】

【0011】

上記課題を達成するため、本発明は、原子炉ハウジングの底部より下方に設置されており、多層容器の形態の冷却シェルを含むメルトトラップと、前記多層容器内に配された、溶融物を希釈するための充填剤と、前記多層容器の下方で、原子炉キャビティのコンクリートに設置され、水平部分が連続または分割されたプレートからなる下部支持体と、を備える原子炉の炉心溶融物のローカライズ装置であって、前記プレートが、半径方向支持部材を含み、前記メルトトラップも、前記プレートの半径方向支持部材に保持される半径方向支持部材を含み、前記プレートの半径方向支持部材と、前記メルトトラップの半径方向支持部材とは、クランプ部材を介して接続されており、前記半径方向支持部材と前記クランプ部材には、楕円形状の穴があることを特徴とする。

【図面の簡単な説明】

【0012】

【図1】本発明の実施の形態に係る原子炉の炉心の溶融物のローカライズ装置を示す図である。

【発明を実施するための形態】

【0013】

本発明の特徴としては、下部支持部の水平部分が、連続または分割されたプレートと、半径方向支持部材とを含み、当該プレートの半径方向支持部材と、メルトトラップの底部に設けられた半径方向支持部材が、クランプ部材により接続されており、前メルトトラップの底部側の半径方向支持部材および、下部支持部のプレート側の半径方向支持部材には、クランプ部材と同様に楕円の穴が開口されている。当該穴を貫通する例えばボルトなどの締結部材によりクランプ部材と半径方向支持部材が固定される。

【0014】

これにより、メルトトラップの底部とその半径方向支持部材が加熱されたとき、プレートの半径方向支持部材の方向に沿って、メルトトラップの半径方向支持部材が滑ることでき、半径方向支持部材と共にメルトトラップ底部の自由な半径方向の熱膨張を許容する。

【0015】

プレートとメルトトラップのそれぞれの半径方向支持部材の楕円形穴のクランプ位置を変更し、楕円形状の穴で半径方向の遊びが生じるようにすることにより、下部プレートとメルトトラップの半径方向支持部材間の、方位方向や軸方向における強い機械的結合を損なうことなく維持できる。

【0016】

これにより、作業能力を損なうメルトトラップとプレートの形状の危険と、メルトトラップの底部およびメルトトラップが破壊される可能性のある原子炉キャビティの底に亀裂が入る危険を少なくできる。

【0017】

メルトトラップの軸方向の熱的および機械的変形の下で、また衝撃が発生した場合、原子炉キャビティの底と底にあるプレートの完全性は、メルトトラップの全部の半径方向支持部材と下部のプレートの間で負荷を再分配することによって達成される。

【0018】

この場合、半径方向支持部材の一部には、滑りと張力に、他の一部には圧縮とせん断ひずみとして作用する。

【0019】

メルトトラップへの負荷の衝撃の場合、その底部の振動が発生し、振動プロセスの減衰まで、全部の半径方向支持部材とクランプが、弾性変形の領域で引張と圧縮を交互に行う。

【0020】

図１は、本発明に従って作られた、原子炉の炉心の溶融物のローカライズ装置を示す。

【0021】

本発明は次のように機能する。

【0022】

図1には原子炉ハウジングの底部の下に設置され、多層容器の形態の冷却シェルを備えたメルトトラップ(2)が含まれ、上記の多層容器内に配置された、溶融物(1)を希釈するための充填剤(3)が含まれ、半径方向支持部材(7)がある原子炉キャビティ(6)のコンクリートで多層容器の下に設置された水平部分が連続または分割されたプレート(5)からなる下部支持体(4)が含まれた原子炉の炉心溶融物(1)のローカライズ装置が示されている。

【0023】

メルトトラップ(2)の下部の外側に、水平プレート(5)の半径方向支持部材(7)によって支持されている半径方向支持部材(8)が作られる。

【0024】

水平プレート（5）の半径方向支持部材（7）とメルトトラップ(2)の半径方向支持部材(8)は、クランプ（9）によって接続され、各半径方向支持部材（8）はメルト(1)メルトトラップ(2)の水平プレート（5）、およびクランプ（9）には楕円形の穴（10）がある。

【0025】

原子炉ハウジングの破壊時、静水圧および過剰圧力の影響下にある炉心の溶融物（1）がメルトトラップ(2)に入り始め、充填材（3）と接触する。

【0026】

溶融物（1）は、主にメルトトラップ(2)の底部の中央部に蓄積する。溶融温度は２５００℃程度であり、メルトトラップ(2)と半径方向支持部材（7）、（8）の両方が膨張する。但し、取り付け穴として楕円形の穴（10）を備えたクランプ（9）によって互いに接続された、メルトトラップ(2)の下部にある半径方向支持部材（8）と、水平プレート（5）にある半径方向支持部材（7）は、メルトトラップの不均一に軸方向に熱膨張しても、原子炉キャビティ（6）の底にある水平プレート（5）、メルトトラップの底部の完全性を維持できるようにする。

【0027】

なぜならば、垂直平面で半径方向支持部材の楕円形の穴（10）でクランプ（9）を確実に滑りさせることは楕円形の穴（10）にあるクランプ（9）の小さな機械的な軸方向の遊びによって保証されるからである。

【0028】

溶融物（1）の非軸対称流入の場合、例えば、３０秒以内に６０トンの過熱鋼では、衝撃荷重と熱負荷がメルトトラップ(2)の内壁にかかる。この場合、最初、メルトトラップの底部の弾性変形により、負荷は下部プレートの半径方向支持部材（7）とメルトトラップの半径方向支持部材（8）の間で再分配される。

【0029】

機械的衝撃の一部は、メルトトラップの底部の弾性振動によって吸収され、一部は、半径方向支持部材（7）、（8）の弾性振動によって吸収され、一部は、半径方向支持部材（7）、（8）の楕円形の穴（10）内のクランプ位置と、この半径方向支持部材内の構造的なクランプの方向の遊びを有する下部支持体へのメルトトラップの固定によって吸収される。

【0030】

次に、メルトトラップ(2)の底部のその後の加熱には、その半径方向および軸方向の拡張が伴う。この場合、メルトトラップの半径方向支持部材（8）は、半径方向の拡張および方位角サイズの増加に対して機械的な抵抗を与えない。

【0031】

メルトトラップ(2)の半径方向支持部材（8）の位置の変更は、原子炉キャビティの底に設置された水平プレート（6）の半径方向支持部材（7）に沿って滑ることによって保証される。これにより、メルトトラップに対する原子炉メルトの機械的および熱的効果によって引き起こされる追加の熱的および機械的負荷から、メルトトラップを取り外すことができる。

【0032】

下部支持体の使用は、メルトトラップの底部の半径方向の自由な熱膨張を保証することにより、原子炉の炉心内でメルトローカライズ装置の信頼性を高めることができる。

【図1】