(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】鋳片の引抜方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20230817BHJP
B22D 11/20 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B22D11/10 D
B22D11/20 Z
(21)【出願番号】P 2019151318
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】西田 恵詞
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-288696(JP,A)
【文献】特開平10-244347(JP,A)
【文献】特開2009-136908(JP,A)
【文献】特開平11-156508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10
B22D 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造における鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を定常鋳造時のロール間隔から拡大する鋳片の引抜方法であって、
鋳込終了前に前記連続鋳造機内に複数のロール間隔拡大領域を設定するロール間隔拡大領域設定工程と、
鋳込終了後に前記ロール間隔拡大領域のロール間隔を鋳造方向の上流側から下流側に向かって順次拡大するロール間隔拡大工程と、を有し、
前記ロール間隔拡大工程において、前記ロール間隔拡大領域のロール間隔を拡大する時点を表す1以上の自然数をnとし、n=1をロール間隔拡大開始時と
して、
前記ロール間隔拡大開始時(n=1)に鋳造方向の最も上流側のロール間隔拡大領域のロール間隔を拡大し、nが大きくなるにつれて、ロール間隔が拡大されていないロール間隔拡大領域のうち、最も上流側のロール間隔拡大領域のロール間隔を順次拡大し、
前記ロール間隔拡大領域設定工程において、
前記ロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lをそれぞれ1.0m≦L≦6.0mの関係を満たすように設定し、かつ、
前記ロール間隔拡大開始時にロール間隔を拡大する前記ロール間隔拡大領域を、固相率Sが30%≦S≦60%の関係を満たす溶鋼を圧下する位置に設定し、
前記ロール間隔拡大工程において、
鋳込終了時から前記ロール間隔拡大領域のロール間隔が拡大する時点までの鋳片引抜長T
nはT
n<T
n+1の関係を満たし、
前記定常鋳造時のメニスカスの位置からロール間隔が拡大する前記ロール間隔拡大領域までの鋳造方向距離A
nはA
n<A
n+1の関係を満たし、かつ、
前記定常鋳造時のロール間隔から拡大する前記ロール間隔拡大領域のロール間隔の拡大量Wは1.0mm≦W≦4.0mmの関係を満たす、
鋳片の引抜方法。
【請求項2】
T
n+1-T
nは200mm≦T
n+1-T
n≦2000mmの関係を満たす、請求項1に記載の鋳片の引抜方法。
【請求項3】
A
1は1.0m≦A
1≦6.0mの関係を満たす、請求項1又は2に記載の鋳片の引抜方法。
【請求項4】
T
1は200mm≦T
1≦2000mmの関係を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳片の引抜方法。
【請求項5】
A
n+1-A
nは1.0m≦A
n+1-A
n≦6.0mの関係を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋳片の引抜方法。
【請求項6】
前記ロール間隔拡大領域設定工程において、前記ロール間隔拡大領域は前記連続鋳造機のセグメント単位で設定される、請求項1~5のいずれか1項に記載の鋳片の引抜方法。
【請求項7】
前記ロール間隔拡大工程において、前記鋳片の引抜の停止及び前記鋳片の鋳造方向の下流側の端部であるボトム部の処理作業を実施しない、請求項1~6のいずれか1項に記載の鋳片の引抜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳片の引抜方法に関し、詳しくは連続鋳造における鋳込終了後の鋳片の引抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造は、溶鋼容器であるタンディッシュから鋳型内へ浸漬ノズルを経て溶鋼を供給し、外部から冷却することにより鋳型内で凝固シェルを形成させ、さらに鋳型から引抜かれた鋳片を冷却することにより凝固シェル内部の未凝固溶鋼を凝固させて、鋳片(鋼片、スラブ、などとも称する)を製造する。
【0003】
ここで、溶鋼が浸漬ノズルから供給されている定常鋳造時とは異なり、鋳込終了時においては、鋳片の最後端となる部分で溶鋼の供給が終了するので、内部の未凝固溶鋼がトップブリードする虞がある。そこで鋳込終了時およびそれ以降は、定常鋳造時とは別の制御方法を用いて、トップブリードを防止しながら鋳片の引抜を行っている。
【0004】
例えば、特許文献1では、鋳型内への溶鋼の注入を完了後、減速しながら0.2m/min以下の引抜速度まで減速して、ロール間ピッチ相当の長さの鋳片を引抜、これにより、鋳片内部の未凝固溶鋼を鋳型内に溢れさせ、溢れさせた未凝固溶鋼により鋳型内で凝固シェルを再度形成させ、この凝固シェルによって未凝固溶鋼の入れ物容器を形成する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、タンディッシュから鋳型内への溶鋼の注入を完了する際に、先ず鋳片引抜速度を下げ、次いで、鋳型直下または下方に配設した圧下セグメントで厚み方向に鋳片を強制的に圧潰して最トップ鋳片から上方へ向けて未凝固溶鋼を溢れ出させ、溢れさせた溶鋼を鋳型壁に接触させることによって、鋳片が鋳型内にある間に、内部に未凝固の溶鋼を有する凝固シェルを再度生成させ、そして、この凝固シェルを生成した鋳片が鋳型から抜けないうちに、鋳片を圧潰した前記圧下セグメントを復帰させることにより、該圧下セグメントに接した鋳片を元の形状に戻すことによって、凝固シェルの内部の溶鋼のレベルを低下させ、かくして、再度生成させた凝固シェルの内側に未凝固溶鋼を溜める空間を形成する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1及び特許文献2によれば、鋳型内に冷却材を浸漬・投入しなくとも、最トップ鋳片からの漏鋼を防止できるとしている。
【0007】
特許文献3には、通常の鋳片の引抜速度を保持したまま鋳型への溶鋼の注入を完了し、この鋳片の未凝固部分のロール間隔を拡大して鋳片を意図的にバルジングさせ、次いで、バルジングした部分を後段のロールによって圧下して完全凝固部分では所定の鋳片厚みとする方法が提案されている。特許文献3においても、鋳片引抜速度を減速せず且つ鋳型内に冷却材を浸漬・投入しなくとも、最トップ鋳片からの漏鋼を防止できるとしている。
【0008】
また、特許文献4においては、引抜速度0.7×Vc~1.1×Vcの範囲でメニスカスから1.0~20.0mの距離にあるロール間隔を拡大することで、トップブリードだけではなく、ロール間隔拡大時の鋳片バルジングによって発生する内部割れも防止可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-226414号公報
【文献】特開平9-122845号公報
【文献】特開平10-244347号公報
【文献】特開2009-136908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3、4に開示された方法では、ロール間隔を拡大することによりトップブリード、内部割れを防止しているが、メニスカス上に残存したパウダーやスラグなどの巻込防止については不十分であり、品質欠陥につながる可能性が残存する。
【0011】
そこで、本発明では、鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を拡大した場合に、トップブリード防止及びパウダーやスラグの巻込防止が可能な鋳片の引抜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、特許文献3、4に開示された方法では、鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を一斉に拡大しているところ、ロール間隔を鋳造方向の上流側から下流側に向かって順次拡大することで、トップブリードの防止及びパウダーやスラグの巻込防止が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
より詳述すれば、本発明は以下の知見からなる。
1.トップブリード防止を目的とするために、鋳造終了後のロール間隔を拡大する技術を採用する先行技術(特許文献3、4)においては、未凝固溶鋼のトップブリードを十分に防止できるのであるが、同時に成品欠陥の原因となるパウダーやスラグの巻込みが生ずることがある。
2.本発明者は上記した2つの現象が異なったメカニズムで発生するのではなく、鋳込終了後にロール間隔を拡大することにより、未凝固溶鋼が鋳造方向の下流部へ吸い込まれる効果によって生じていることを知見し、さらにロール間隔の拡大量を調整すれば、未凝固溶鋼のトップブリードを防止できるとともに、成品欠陥の原因となるパウダーやスラグの巻込みを生じない程度の吸引効果を得る可能性があることを想到した。
3.しかしながら、上記可能性を求めるために、トップブリードを防止できる条件として先行技術に記載される範囲を単純に狭めることは、操業変動に対応できない可能性があるため、安定な技術とはいえないと考えた。
4.そこで、本発明者は、ロール間隔を拡大すべき範囲におけるすべてのロール間隔を一斉に拡大するのではなく、鋳込終了後に鋳片を引抜く過程で、鋳片引抜に応じてロール間隔を段階的に拡大することでも、トップブリードの防止効果を奏するであろう事を想到した。また、これにより吸込効果を制御できるため、パウダーやスラグの巻込防止も可能であることにも想到した。
5.吸引効果制御のためのロール間隔拡大量の調整は、ロール間隔拡大領域の数及びロール間隔拡大量の少なくとも一方のみでも効果があり、併用するとさらに効果を有することにも想到した。
【0014】
以上の知見に基づく、上記課題を解決するための本発明の1つの態様は、連続鋳造における鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を定常鋳造時のロール間隔から拡大する鋳片の引抜方法であって、鋳込終了前に連続鋳造機内に複数のロール間隔拡大領域を設定するロール間隔拡大領域設定工程と、鋳込終了後にロール間隔拡大領域のロール間隔を鋳造方向の上流側から下流側に向かって順次拡大するロール間隔拡大工程と、を有し、ロール間隔拡大工程において、ロール間隔拡大領域のロール間隔を拡大する時点を表す1以上の自然数をnとし、n=1をロール間隔拡大開始時とするとき、ロール間隔拡大領域設定工程において、ロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lをそれぞれ1.0m≦L≦6.0mの関係を満たすように設定し、かつ、ロール間隔拡大開始時にロール間隔を拡大するロール間隔拡大領域を、固相率Sが30%≦S≦60%の関係を満たす溶鋼を圧下する位置に設定し、ロール間隔拡大工程において、鋳込終了時からロール間隔拡大領域のロール間隔が拡大する時点までの鋳片引抜長TnはTn<Tn+1の関係を満たし、定常鋳造時のメニスカスの位置からロール間隔が拡大するロール間隔拡大領域までの鋳造方向距離AnはAn<An+1の関係を満たし、かつ、定常鋳造時のロール間隔から拡大するロール間隔拡大領域のロール間隔の拡大量Wは1.0mm≦W≦4.0mmの関係を満たす、鋳片の引抜方法である。
【0015】
上記鋳片の引抜方法において、Tn+1-Tnは200mm≦Tn+1-Tn≦2000mmの関係を満たすことがよい。A1は1.0m≦A1≦6.0mの関係を満たすことがよい。T1は200mm≦T1≦2000mmの関係を満たすことがよい。An+1-Anは1.0m≦An+1-An≦6.0mの関係を満たすことがよい。
【0016】
また、上記ロール間隔拡大領域設定工程において、ロール間隔拡大領域は連続鋳造機のセグメント単位で設定されることがよい。
【0017】
さらに、上記ロール間隔拡大工程において、鋳片の引抜の停止及び鋳片の鋳造方向の下流側の端部であるボトム部の処理作業を実施しなくてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を拡大した場合に、トップブリードの防止及びパウダーやスラグの巻込防止が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】実施例、比較例における溶鋼の吸込効果の検証結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は鋳片の引抜方法であり、詳しくはタンディシュ内の溶融金属を連続的に鋳込んで鋳片とする連続鋳造において、鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を定常鋳造時のロール間隔から拡大する鋳片の引抜方法である。
【0021】
以下に、本発明の鋳片の引抜方法について、一実施形態である鋳片の引抜方法1(以下において、単に「引抜方法1」ということがある。)を用いて、詳しく説明する。
【0022】
まず、引抜方法1を行うための連続鋳造機10を用いて、レードルから供給された溶鋼20が鋳片30になって引き抜かれる過程を説明する。
図1に連続鋳造機10の断面概略図を示した。ただし、本発明の鋳片の引抜方法を行うための連続鋳造機は連続鋳造機10に限定されない。
【0023】
連続鋳造機10は、レードル(不図示)と、タンディッシュ11と、浸漬ノズル12と、鋳型13と、ロール14と、二次冷却スプレー(不図示)と、ピンチロール15を備えており、レードルから供給される溶鋼20を連続鋳造し、鋳片30を製造する。
具体的には、まず、レードル(不図示)から供給された溶鋼20は、タンディッシュ11を介して浸漬ノズル12から鋳型13内に注入される。この際、注入された溶鋼20の外周は水冷されている鋳型13に接触しているため、溶鋼20の外周部には凝固シェル21が形成する。次いで、外側に凝固シェル21が形成された溶鋼20(未凝固鋳片22)は、上下1対に配置された複数のロール14によって支持され、鋳造方向の下流側へ移動しつつ、ロール14の間に設置された二次冷却スプレー(不図示)から噴射されるスプレー水により冷却される。そして、溶鋼20は完全に凝固して鋳片30となり、ピンチロール15により連続鋳造機10から引き抜かれる。
【0024】
このようにして、連続鋳造機10は溶鋼20について連続鋳造を行い、鋳片30を製造するが、上述したように溶鋼20が供給されている定常鋳造時とは異なり、鋳込終了後においては、鋳片30の最後端(鋳造方向の上流側)となる部分で溶鋼20の供給が終了するので、未凝固鋳片22内部の未凝固溶鋼がトップブリードする虞がある。また、鋳込終了後において、従来の条件を適用すると、パウダーやスラグが溶鋼20に巻き込まれる虞がある。このため、鋳込終了後においては、定常鋳造時とは別の制御が必要となる。
【0025】
ここで、「鋳造方向」とは連続鋳造機10内の溶鋼20が鋳型に供給されてから、ピンチロール15で引き抜かれるまでの移動方向である。「鋳造方向の上流側」とは鋳型13側を意味し、「鋳造方向の下流側」とはピンチロール15側を意味する。
「トップブリード」とは、凝固収縮による溶鋼の絞り出しやバルジング部の圧下によって鋳片最後端から溶鋼が漏れることである。ボトム漏鋼とも称する。
「パウダー」とは、鋳型13内へ注入された溶鋼表面上へ添加され、主として、(1)鋳型と凝固シェル間の潤滑、(2)浮上してきた鋼中介在物の吸収除去、(3)溶鋼の保温、及び、(4)溶鋼の酸化防止の役割を果たす。
「スラグ」とは、脱酸材投入時に生成する脱酸生成物、タンディッシュ内で再酸化することで発生する再酸化生成物およびタンディッシュ内に持ち込まれた取鍋スラグの総称である。
【0026】
[鋳片の引抜方法1]
鋳片の引抜方法1は、鋳込終了後におけるトップブリードの防止及びパウダーやスラグの巻込防止を目的とし、連続鋳造における鋳込終了後に連続鋳造機10内のロール間隔を定常鋳造時のロール間隔から拡大する鋳片の引抜方法であって、鋳込終了前に連続鋳造機10内に複数のロール間隔拡大領域を設定するロール間隔拡大領域設定工程S1(以下において、単に「ロール間隔拡大領域設定工程S1」ということがある。)と、鋳込終了後にロール間隔拡大領域のロール間隔を鋳造方向の上流側から下流側に向かって順次拡大するロール間隔拡大工程S2(以下において、単に「ロール間隔拡大工程S2」ということがある。)と、を有することを特徴とする。
【0027】
「鋳込終了時」とはタンディッシュから鋳型13内へ供給する溶鋼が無くなった時を言い、「鋳込終了前」とは鋳込終了時よりも前のことを言い、「鋳込終了後」とは鋳込終了時よりも後のことを言う。なお、「鋳込終了時」は溶鋼の有無で定義されるので、鋳込終了時にタンディッシュ11内にはスラグが残っている。残る量は、操業条件によるが、1.0~5.0ton程度である。
「ロール間隔」とは、上下1対のロール14の間の間隔を言い、定常鋳造時においては、鋳片の厚さに相当する。換言すれば、上ロールと下ロールとの軸中心間の距離から各ロールの半径を差し引いたものである。
【0028】
また、引抜方法1では、ロール間隔拡大時点を表す1以上の自然数をnとし、n=1をロール間隔拡大開始時とする。よって、ロール間隔拡大工程S2においては、ロール間隔拡大開始時(n=1)に鋳造方向の最も上流側のロール間隔拡大領域のロール間隔を拡大し、nが大きくなるにつれて、ロール間隔が拡大されていないロール間隔拡大領域のうち、最も上流側のロール間隔拡大領域のロール間隔を順次拡大する。
nの上限はロール間隔拡大領域の数に対応する。
【0029】
[ロール間隔拡大領域設定工程S1]
ロール間隔拡大領域設定工程S1では、鋳込終了前に連続鋳造機10内に複数のロール間隔拡大領域を設定する。
【0030】
「ロール間隔拡大領域」とは上下1対のロール14が鋳造方向に沿って所定の長さに連続した領域のことを言う。
【0031】
連続鋳造機10は、
図1に示した通り、鋳造方向に直交する方向(
図1の紙面奥手前方向)に軸を有し、凝固シェル21対して当接して、未凝固鋳片22を鋳造方向の下流側に案内する複数のロール14を有しており、これらのロール14は上下1対のフレーム(不図示)に支持されている。一般的に、これら上下1対のフレームの領域をセグメントと呼ぶ。なお、連続鋳造機10内において、上側とは鋳片の上面側を言い、鋳片の上面とは鋳片の湾曲する凹面である。連続鋳造機10内において、下側とは鋳片の下面側を言い、鋳片の下面とは湾曲する凸面である。
【0032】
ロール間隔拡大領域設定工程S1においては、ロール間隔拡大領域は連続鋳造機10のセグメント単位で設定されることがよい。これは、例えばセグメント1つを1つのロール間隔拡大領域として設定してもよく、複数の連続するセグメントを1つのロール間隔拡大領域として設定してもよい。また、ロール間隔拡大領域は、ロール間隔の拡大が困難な領域(ベンディングユニット等)を除いて、下流側に向かって連続している形態としてもよい。「ベンディングユニット」とは、垂直曲げ型連続鋳造機において、垂直部から曲げ部への境界を含むセグメントである。
【0033】
また、ロール間隔拡大領域設定工程S1においては、ロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lをそれぞれ1.0m≦L≦6.0mの範囲を満たすように設定する。
「鋳造方向距離」とは、ロール14の軸中心間の距離の中点を通る線に沿った長さである。
【0034】
ロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lが1.0m未満であると、ロール間隔の拡大による未凝固溶鋼の吸引効果が小さい。ロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lが6.0mを超えると、未凝固溶鋼の吸引効果が大きすぎる場合があり、順次拡大の効果が十分に得られない。
なお、鋳込終了後の初期においてはトップブリードが発生しやすいので、ロール間隔拡大開始時(n=1)にロール間隔の拡大を行うロール間隔拡大領域の鋳造方向長さLは、上記範囲内で大きい値がよい。具体的には5.0m≦L≦6.0mである。これにより、引け巣を十分に確保できるため、トップブリードがさらに抑制される。
【0035】
「引け巣」とは、一般的には溶鋼の凝固に伴う収縮により生成する空孔である。本明細書では、これに加えて、鋳込終了後のロール間隔の拡大により未凝固溶鋼が吸引されることによる空孔も加わる。後者の引け巣がまず生成して、鋳片の最後端部に残るので、これを「一次引け巣」と称する。一次引け巣の凹面表面部は薄殻状になり、その内部に凝固収縮により生ずる空孔を「二次引け巣」と称する。後述の実施例の効果指標として「一次引け巣深さ」を採用するのは、上記経緯による。
【0036】
さらに、ロール間隔拡大領域設定工程S1においては、ロール間隔拡大開始時(n=1)にロール間隔を拡大するロール間隔拡大領域を、固相率Sが30%≦S≦60%を満たす範囲の溶鋼20を圧下する位置に設定する。
【0037】
「固相率」とは、固液相共存領域において、固相の占める分率をいう。詳しくは、固相率を算出する部位の温度をT、当該鋼種の液相線温度をTL、固相線温度をTSとすると、固相率=f(T,TL,TS)として、T、TL、TSをパラメータとする関数fで定義される。簡単な形は、f(T,TL,TS)=(TL-T)/(TL-TS)のように一次関数(直線近似)で表される。本明細書においては、鋳片の鋳造方向に垂直な断面(長方形)の中心における固相率(中心固相率)を意味する。
【0038】
ロール間隔拡大開始時(n=1)にロール間隔を拡大するロール間隔拡大領域を、固相率Sが30%未満である溶鋼20を圧下する位置に設定した場合、凝固シェルの形成が不安定であり操業の外乱となる可能性がある。一方で、ロール間隔拡大開始時(n=1)にロール間隔を拡大するロール間隔拡大領域を、固相率Sが60%を超える溶鋼20を圧下する位置に設定した場合、溶融部分が少ないので吸引効果が小さく、未凝固溶鋼のトップブリードを十分に防止できない場合がある。
【0039】
[ロール間隔拡大工程S2]
ロール間隔拡大工程S2では、鋳込終了後にロール間隔拡大領域のロール間隔を鋳造方向の上流側から下流側に向かって順次拡大する。この際、ロール間隔拡大工程S2は次の条件を満たす。
【0040】
鋳込終了時からロール間隔拡大領域のロール間隔が拡大する時点までの鋳片引抜長TnがTn<Tn+1の関係を満たす。定常鋳造時のメニスカスの位置からロール間隔が拡大するロール間隔拡大領域までの鋳造方向距離AnがAn<An+1の関係を満たす。定常鋳造時のロール間隔から拡大するロール間隔拡大領域のロール間隔の拡大量Wが1.0mm≦W≦4.0mmの関係を満たす。
【0041】
「定常鋳造時」とは、定常鋳込開始時から鋳込終了時までのことをいう。
「メニスカス」とは、鋳型13内の溶鋼湯面のことである。一般的に、単位時間に供給される溶鋼の量は、浸漬ノズル12によって一定になるように制御される。そのため、メニスカスの位置は、定常鋳込開始時から鋳込終了時までは同じであり、鋳込終了時から下がっていく。
【0042】
鋳片の引抜は、鋳造方向の下流方向に向かって行われ、上流方向に遡ることはないので、Tn<Tn+1となる。また、ロール間隔拡大工程S2においては、すでに拡大したロール間隔拡大領域のロール間隔を定常鋳造時の状態に戻すことはないので、An<An+1となる。
【0043】
ロール間隔拡大工程S2は、Tn<Tn+1かつAn<An+1の関係を満たしながら鋳片の引抜に応じてロール間隔拡大領域のロール間隔を段階的に拡大することを特徴とし、これを「順次拡大」と称している。
【0044】
ロール間隔拡大工程S2において、ロール間隔拡大領域のロール間隔の拡大量Wが1.0mm未満であると、吸引効果が小さく未凝固溶鋼のトップブリードを十分に防止できない場合がある。一方で、ロール間隔拡大領域のロール間隔の拡大量Wが4.0mmを超えると、吸引効果が過剰となりパウダーやスラグの巻込みが生じる場合がある。
【0045】
また、ロール間隔拡大工程S2では、次の条件を満たすことがよい。
T1が200mm≦T1≦2000mmの範囲を満たすことがよい。Tn+1-Tnが200mm≦Tn+1-Tn≦2000mmの範囲を満たすことがよい。A1が1.0m≦A1≦6.0mの範囲を満たすことがよい。An+1-Anが1.0m≦An+1-An≦6.0mの範囲を満たすことがよい。これらの条件のうち少なくとも1つを満たすことにより、トップブリード防止効果及びパウダー等の巻込み防止効果が向上する。
【0046】
上記のうち、Tn+1-Tnの範囲を定めた理由について説明する。
「Tn+1-Tn」とは、ある時点nにおけるロール間隔を拡大したときの鋳片後端部の位置から次の時点n+1におけるロール間隔を拡大したときの鋳片後端部の位置まで長さを表しており、言い換えると、ロール間隔を拡大する鋳片引抜長の間隔(ピッチ)である。
「鋳片引抜長」とは、鋳込終了時以降に引き抜かれた鋳片の長さである。連続鋳造機10では、連続鋳造鋳片の切断に際して、切断装置の上流側近傍にメジャーリングロールを設置して、鋳片とメジャーリングロールを接触させ、鋳片の通過した長さをメジャーリングロールの回転数で検知して計測している。この計測により、鋳片引抜長だけでなく連続鋳造操業全般にわたって、鋳片の長さが管理されている。
【0047】
Tn+1-Tnが200mm未満であると、一斉拡大の場合に近くなり、ロール間隔を段階的に拡大する効果が小さくなる。Tn+1-Tnが2000mmを超えると、1回当たりのロール間隔を拡大する鋳造方向長さやロール拡大幅が大きくなる等、一斉拡大の場合に近くなるため、ロール間隔を段階的に拡大する効果が小さくなる。
【0048】
なお、ロール間隔拡大工程S2は、上記の条件を満たすことにより、従来行われていた鋳片30の引抜の停止及び鋳片30の鋳造方向の下流側の端部であるボトム部の処理作業を実施する必要がなくなる。
【0049】
以上のとおり、本発明の鋳片の引抜方法によれば、鋳込終了後に連続鋳造機内のロール間隔を拡大した場合に、トップブリードの防止及びパウダーやスラグの巻込防止が可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の鋳片の引抜方法について、実施例を用いてさらに説明する。
【0051】
[溶鋼]
鋳造に用いた溶鋼は、質量%でC:0.06~0.54%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.22~2.48%、P:0.028%以下、S:0.0077%以下を含有し、残部をFe、その他添加元素Nb、B、Crおよび不可避的不純物からなる組成の溶鋼である。
【0052】
[鋳造条件]
鋳造条件は、鋳片厚250mm、鋳片幅520~2300mm、溶鋼過熱度16~53℃、鋳造速度0.80~1.20m/min、引抜速度0.90~1.10m/minとした。
【0053】
「溶鋼加熱度」とは、実際に測定される溶鋼温度から平衡状態図等により求められる液相線温度を減じた温度差を意味する。「液相線温度」とは、材料が固液共存域から液相に変態する時の温度である。各成分組成により液相線温度は異なる。鋼の液相線温度は、周知の平衡状態図や熱力学データから知見することができる。材料の温度を上げてゆくと、純物質では固体から液体に変態する点が融点である。鋼は純物質ではないので、固体と液体の間に、固液共存域を有する。
【0054】
本実施例では、低炭から高炭鋼までの様々な材質、鋳片サイズに対して実施した。なお上記以外の鋳造条件(鋳造速度、溶鋼加熱度など)および製造条件(鋳片厚、鋳片幅)については、極力同等とした。
また、ロール間隔拡大領域の数は本実施例および比較例ともに同等とし、トップセグメント(鋳型に最も近いセグメント)およびベンディングユニット(垂直部から曲げ部への境界を含むセグメント)を除いたセグメントをロール間隔拡大領域に使用した。
【0055】
定常鋳造時のメニスカスの位置から、ロール間隔拡大開始時にロール間隔が拡大するロール間隔拡大領域までの鋳造方向距離A1を5.5mとした。An+1-Anは1.8m~2.0mの範囲とした。鋳込終了時から、ロール間隔拡大開始時にロール間隔拡大領域のロール間隔が拡大する時点までの鋳片引抜長T1は500mmとした。Tn+1-Tnは500mmとした。
また、ロール間隔拡大開始時にロール間隔を拡大するロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lを5.5mとし、それ以外のロール間隔拡大領域の鋳造方向距離Lを1.8~2.0mの範囲とした。
さらに、全てのロール間隔拡大領域のロール間隔の拡大量は4mmとした。
【0056】
以上の条件に基づいて、本実施例では鋳込終了後の鋳片の引抜を行った。
一方で、比較例では、従来方法に準じて鋳片引抜長が500mmとなった時点で全てのロール間隔拡大領域のロール間隔を4mm拡大させたこと以外は、本実施例と同様の条件を用いて鋳片の引抜を行った。
なお、本実施例及び比較例において、それぞれ10サンプルずつの鋳片を製造した。
【0057】
[評価方法]
製造された全ての鋳片について、トップブリードの有無を評価した。
また、材質等を同条件として、本実施例、比較例により製造された鋳片について、鋳込終了後のロール間隔拡大による未凝固溶鋼の吸込効果を検証した。吸込効果の検証は、鋳片のボトムクロップ(鋳片の最後端部であって、引け巣などの存在により製品に使用できずに切り捨てられる部分)を長手方向に切断し、一次引け巣の深さ(mm)を測定して、これらを比較した。結果を
図3に示した。
図3の縦軸は一次引け巣の深さであり、横軸は鋳片の幅方向の位置である。鋳片の幅をWとしたとき、鋳片の幅方向の一方端Sから他方端Nまでの1/4Wずつの点を評価している。
さらに、本実施例、比較例により製造された厚板品種における成品について、超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)を実施し、内部品質を評価した。超音波探傷試験により不良と判定された比率(不良判定数/検査数)をUT不良率とした。
【0058】
トップブリードの有無については、本実施例、比較例ともに、鋳込終了後にトップブリードの発生は無かった。すなわち、本実施例、比較例のいずれの方法を採用したとしても、トップブリードの発生を防止することができることが分かった。
【0059】
吸込効果については、
図3に示したように、本実施例(2st(試験))の引け巣深さは比較例(1st(現行))に比べて約10%低減していることが分かった。このことから、ロール間隔拡大領域を順次拡大することにより、吸込効果の駆動力は低減することが分かった。なお、鋳片引抜長を変化させた場合でも、上記と同様の結果になることを確認している。
【0060】
UT不良率については、パウダー及びスラグの巻込みを起因とするUT不良率を比較した。比較例では、パウダーおよびスラグ起因でのUT不良率は0.6%であった。一方で本実施例では、UT不良率は0.0%であった。これは、順次拡大による溶鋼の吸込効果が低減したためであると考えられる。
【0061】
これらの結果から、鋳込終了後において、ロール間隔を一斉に開放せずに、所定の条件下でロール間隔を鋳造方向の上流側から下流側に向かって順次拡大することによって、トップブリードの防止及びパウダーやスラグの巻込防止が可能であることが分かった。
【符号の説明】
【0062】
10 連続鋳造機
11 タンディシュ
12 浸漬ノズル
13 鋳型
14 ロール
15 ピンチロール
20 溶鋼
21 凝固シェル
22 未凝固鋳片
30 鋳片